説明

板金表面加工方法及びパテ材並びに塗布剤

【課題】 車両ボディ等の板金補修その他パテを使用する板金表面処理において、作業の効率化・非熟練化を実現する。
【解決手段】 板金表面の塗装工程前となる、塗装対象箇所に対して樹脂パテを塗布し研磨する仕上げパテ作業において、第一に、黒色又は濃色パテ材5を使用すると共に、研磨途中に高沸点弱溶剤(艶出し材)6を吹き付け塗布して当該研磨面を一時的に濡れ面として、ツヤによる微妙な凹凸の視認を可能とし、前記の凹凸を確認して当該研磨面の平滑化作業を実施し、またパテ材5の研磨終了後に、パテ乾燥後にパテ面から剥離可能である着色ストリップペイント(確認剤)を塗布し、当該塗布面のツヤによる微妙な凹凸の視認による最終確認を行って、前記乾燥後の着色ストリップペイント膜を剥離して次の塗装工程を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の塗装表面の凹みや傷等の補修作業や、その他板金の表面をパテで平滑にする塗装前処理作業等の板金表面加工方法並びに同方法に使用するパテ材及び塗布剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽微な事故や接触によるボディの凹み、塗装面の傷について、従前よりその補修がなされている。補修は、損傷部塗装面を適宜範囲で剥離し(損傷部剥離工程)、凹みの補修を行い(板金工程)、板金パテによる表面平滑化を行い(板金パテ工程)、更に仕上げ用パテによる表面平滑化を実施して(仕上げパテ工程)、次に下地塗りや仕上げ塗装の塗装工程を実施するものである。
【0003】
更に詳細に説明すると、損傷部剥離工程は、補修対象箇所の旧塗膜を剥離するもので、剥離範囲は、損傷箇所の周囲部分も含むものである。
【0004】
板金工程は、凹み箇所にワッシャを溶接(スタット溶着)し、ワッシャを引っ張りながらハンマリング(打撃による表面の平坦化)を行い、加工後にワッシャを分離する(特許文献1:特開平8−257639号公報:図3、図5)。
【0005】
また板金パテ工程は、板金パテを塗膜剥離箇所に塗布し、乾燥後に80〜100♯の研磨ペーパーで研磨する。仕上げパテ工程は、樹脂パテを周辺の旧塗膜の範囲まで塗布し、120〜180♯の研磨ペーパーで研磨する(特許文献2:特開平9−192590号公報:0002欄)。
【0006】
尚特許文献2や特許文献3(特開平10−192777)には、パテの塗布後にパテ上組成物の硬化前に冶具(ローラー等)を使用して表面の平滑化を行ったり、損傷前面に対応したヘラで塗布した樹脂パテを均し、その上に噴霧用パテでコートする手段などのパテ工程の簡素化が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−257639号公報の図3、図5。
【特許文献2】特開平9−192590号公報の0002欄。
【特許文献3】特開平10−192777公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した従来の補修工法においては、特にパテ工程における板金パテの塗布後の研磨や樹脂パテ塗布後の減摩に際して、表面平滑化作業が目視や手触りによる確認を行いながらの実施となり非常に熟練を要するものである。特に手触りによる確認には熟練を要する。
【0009】
勿論前記したパテ塗布後の冶具等による平滑手段は、微妙な仕上がりを必要とする乗用車等の車両補修に際しては、そのままパテ仕上げとし採用することができず、結局のところパテ工程の仕上げ(研磨)は熟練作業者に頼らざるを得ない。
【0010】
そこで本発明は、前記の補修工法にも、また一般的な板金表面の塗装前処理適用できる新規な板金パテ作業工程を実施する板金表面の加工方法並びに前記加工方法に使用する新規なパテ材並びに確認用塗布剤を提案したものである。更に特に板金補修において前記加工方法に適する損傷部の凹み補修手段について提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る板金表面の加工方法は、板金表面の塗装工程前となる、塗装対象箇所に対して樹脂パテを塗布し研磨する仕上げパテ作業において、第一に、黒色又は濃色パテ材を使用すると共に、研磨途中に高沸点弱溶剤を吹き付け塗布して当該研磨面を一時的に濡れ面として、ツヤによる微妙な凹凸の視認を可能とし、前記の凹凸を確認して当該研磨面の平滑化作業を実施することを特徴とするものである(請求項1)。
【0012】
従って研磨仕上げの程度を目視によって容易に確認でき、研磨の必要箇所を作業者が直ぐに且つ容易に認識できるので、熟練を要することなく速やかに研磨仕上げ作業を実施できる。
【0013】
また本発明に係る板金表面の加工方法は、仕上げパテ作業において、第二に、樹脂パテ材の研磨終了後に、パテ乾燥後にパテ面から剥離可能である確認用着色剤を塗布し、当該塗布面のツヤによる微妙な凹凸の目視による最終確認を行い、乾燥した確認用着色剤被膜を剥離して次の塗装工程を実施することを特徴とするものである(請求項2)。
【0014】
従って仕上げパテの仕上がり状態(表面の凹凸状態)を確認することができるし、確認後に剥離するので、次の塗装工程に何らの支障も生じない。
【0015】
また本発明に係るパテ材は、板金表面に使用する仕上げ用樹脂パテであって、黒色又は濃色となる顔料を混合してなることを特徴とするものであり(請求項5)、仕上げ確認用着色塗布剤は、板金表面加工作業に使用する仕上げ用樹脂パテの乾燥面に対して、塗布乾燥後に剥離可能で且つ速乾性を備えたことを特徴とするものである(請求項6)。
【0016】
更に本発明の板金表面の加工方法は、前記の仕上げパテ作業(請求項1乃至3記載の加工方法)の前の従前の損傷部剥離工程、板金工程、及び板金パテ工程に対応する工程が、補修対象箇所の旧塗膜を剥離する前に接着方式のプラーによる荒引き並びにハンマリングを行った後、スタット溶着箇所部分のみの旧塗膜を剥離し、ワッシャのスタット溶着を施して板金加工を行い、板金作業終了後に塗膜剥離箇所をエポキシ樹脂パテで充填することを特徴とするものである(請求項4)。
【0017】
従って損傷部剥離の前に接着方式のプラーによる荒引き並びにハンマリングを行うことと、剥離範囲の限定とによって塗装補修すべき範囲を狭くすることができ、塗膜剥離箇所をエポキシ樹脂パテで充填することで、板金パテ工程が簡素化される。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以上の構成であるから、塗膜剥離を含む板金工程(請求項4)においては、塗装補修面積の減少化並びに作業の簡素化が実現する。仕上げパテ作業(請求項1)においては、研磨仕上がり程度を目視によって容易に確認ができ、確実な研磨作業がなされる。また仕上げの最終確認(請求項2)も同様に目視によって容易になされるものであるから、作業に熟練を要すること無く且つ効率的に実施できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を、車両等の塗装面に傷が付き凹んでいる箇所に対する補修について実施した例について説明する。全体の補修手段は、従前の損傷部剥離工程と板金工程に対応する旧塗膜の剥離作業を含む板金工程と、従前の板金パテ工程と仕上げパテ工程に対応する塗装工程前のパテ工程の順序でなされる。
【0020】
板金工程は、先板金作業、剥離作業、後板金作業の順で行うもので、先板金作業は、傷や凹みの補修対象箇所Aに対して、補修中心(主に筋状の傷の箇所が多い)に、接着方式のプラー1を装着し(図1)、荒引きを行いながらハンマリングを施し、補修箇所周囲を引き出して凹みの無い元の状態とする。これによって補修範囲を狭くできる。
【0021】
剥離作業は、補修作業に必要とする箇所の旧塗膜2を剥離するもので、剥離箇所は次の後板金作業でワッシャをスタッド溶着する箇所3のみを剥離する(図2)。
【0022】
後板金作業は、旧塗膜剥離箇所3のパネル地金部分(一般鋼板、高張力鋼板、アルミ板等)にワッシャをスタッド溶着し、ハンマリングによる歪みの矯正を行う。この際には、地金の材質に対応して加熱や冷却、ハンマリングの強弱などを考慮する。特に本発明においては、旧塗膜2の剥離箇所が少ないので、旧塗膜2に光を照射して、旧塗膜2の反射光(ツヤ)を視認しながら正確な且つ適切な歪み取り作業が実施できる。歪み取りが終了すると、ワッシャを分離する。
【0023】
前記の板金工程を終了すると次にパテ工程を実施する。パテ工程は、剥離箇所3の埋め戻しのための充填作業と、仕上げパテ作業と、確認作業で構成される。
【0024】
埋め戻しのための充填作業は、剥離箇所3にエポキシ系樹脂からなる充填剤4を充填する。この埋め戻し作業は、従前の板金パテ工程と対応するものであるが、特に剥離箇所が3の面積が狭いので、歪み調整のための従前工程のようなパテに対する研磨作業を必要としない。
【0025】
仕上げパテ作業は、最初に前記埋め戻し箇所の表面及び埋め戻し箇所周囲の旧塗膜2が存在する範囲まで、パテ材5を塗布する。このパテ材5は、従前の仕上げ用樹脂パテであって、黒色又は濃色となる顔料を混合してなる黒色又は濃色パテ材である。
【0026】
パテ材5の塗布後に、表面の平滑化のために180♯程度の研磨ペーパーで研磨するものであり、概ね研磨を終了すると、艶出し材6を吹き付ける。この艶出し材6は、高沸点弱溶剤(乾燥し難く、且つパテ材と一体化し易く溶出し難い)であり、前記吹き付けによって研磨面を一時的に濡れ面とし、ツヤ(反射光)による微妙な凹凸を視認する(図3)。この結果修正必要箇所の再研磨を行い、パテ作業の仕上げとするものである。
【0027】
パテ研磨仕上げが終了すると、確認作業を行うもので、確認作業は、パテ研磨仕上げを終了して乾燥した研磨面への着色ストリップペイント(確認用着色塗布剤)7の塗布である(図4イ)。
【0028】
着色ストリップペイント7は、塗布乾燥後に剥離可能で且つ速乾性を備えたもので、塗布直後の研磨面を濡らすことで、ツヤ(反射光)による微妙な凹凸を視認できる。この目視によって表面仕上がり状態を確実に且つ容易に確認でき、乾燥後は前記ペイント7の乾燥膜7aを剥離し(図4ロ)、次に、従前と同様の塗装工程を実施するものである。
【0029】
尚本発明は前記した板金工程を必要とする車両補修に関するものに限定されるものではなく、板金工程を必要としない場合には、傷に対してそのままパテ材5を塗布したり、或いは適宜な表面処理(旧塗膜の捲れの除去等)を施した後にパテ材5を塗布するパテ工程を実施するだけでも良いし、また車両ボディの板金に関らず他の物品においても板金表面をパテで成形する加工全てに対して本発明を適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態のプラー装着状態の説明図。
【図2】同剥離箇所の説明図。
【図3】同充填作業の説明図(断面図)。
【図4】同仕上げパテ作業の説明図(断面図)。
【図5】同確認作業の説明図(断面図)。
【符号の説明】
【0031】
1 プラー
2 旧塗膜
3 剥離箇所
4 充填剤
5 パテ材
6 艶出し材
7 着色ストリップペイント(確認用着色塗布剤)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金表面の塗装工程前となる、塗装対象箇所に対して樹脂パテを塗布し研磨する仕上げパテ作業において、濃色パテ材を使用すると共に、研磨途中に高沸点弱溶剤からなる艶出し材を吹き付け塗布して当該研磨面を一時的に濡れ面として、ツヤによる微妙な凹凸の視認を可能とし、前記の凹凸を確認して当該研磨面の平滑化作業を実施することを特徴とする板金表面の加工方法。
【請求項2】
板金表面の塗装工程前となる、塗装対象箇所に対して樹脂パテを塗布し研磨する仕上げパテ作業において、樹脂パテ材の研磨終了後に、パテ乾燥後にパテ面から剥離可能である確認用着色剤を塗布し、当該塗布面のツヤによる微妙な凹凸の目視による最終確認を行い、乾燥した確認用着色剤被膜を剥離して次の塗装工程を実施することを特徴とする板金表面の加工方法。
【請求項3】
板金表面の塗装工程前となる、塗装対象箇所に対して樹脂パテを塗布し研磨する仕上げパテ作業において、黒色又は濃色パテ材を使用すると共に、研磨途中に高沸点弱溶剤からなる艶出し材を吹き付け塗布して当該研磨面を一時的に濡れ面として、ツヤによる微妙な凹凸を視認して当該研磨面の平滑化作業を実施し、樹脂パテ材の研磨終了後に、パテ乾燥後にパテ面から剥離可能である確認用着色剤を塗布し、当該塗布面のツヤによる微妙な凹凸の目視による最終確認を行い、乾燥した確認用着色剤被膜を剥離して次の塗装工程を実施することを特徴とする板金表面の加工方法。
【請求項4】
補修対象箇所の旧塗膜を剥離する前に接着方式のプラーによる荒引き並びにハンマリングを行った後、スタット溶着箇所部分のみの旧塗膜を剥離し、ワッシャのスタット溶着を施して板金加工を行い、板金作業終了後に塗膜剥離箇所をエポキシ樹脂パテで充填し、請求項1乃至3記載の仕上げパテ作業を実施してなることを特徴とする板金表面の加工方法。
【請求項5】
板金表面に使用する仕上げ用樹脂パテであって、黒色又は濃色となる顔料を混合してなることを特徴とするパテ材。
【請求項6】
板金表面に使用する仕上げ用樹脂パテの乾燥面に対して、塗布乾燥後に剥離可能で且つ速乾性を備えたことを特徴とする仕上げ確認用着色塗布剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−122821(P2006−122821A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315032(P2004−315032)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(300061879)有限会社田辺塗工所 (3)
【出願人】(504404696)愛車館タナベ有限会社 (1)
【Fターム(参考)】