説明

架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物およびそれを用いた架橋絶縁電線・ケーブル

【課題】 耐熱性(加熱変形率)および引裂き特性(引裂強度)に優れた、有機過酸化物によって架橋される架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物を提供することにある。
【解決手段】 ムーニー粘度が40以下(100℃)のエチレン・プロピレン・ジエン共重合体100質量部に対して、架橋助剤として、下記化学構造式(1)のジメタクリレートが0.5〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋される架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物とすることによって、解決される。
CH=C(CH)−COO−(CHCHO)−OCC(CH)=CH(ただし、n=1〜30)・・・・・化学構造式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と引裂き特性に優れた架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物、それを用いた架橋絶縁電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば屋内外や電子機器類に使用される絶縁電線の被覆材料やゴムモールド品等として、耐熱性や柔軟性の点からエチレン・プロピレン・ジエン共重合体が使用されているが、この種の材料は押出し成型時の柔軟性を付与するために、パラフィン油等のプロセスオイルを添加することが行なわれる。例えば特許文献1に見られるように、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体に老化防止剤、オイル、イオウ、DCPおよび充填剤を添加したゴムモールドが記載されている。そして、オイルを添加する理由として、オイルを配合しないと粘度が高くなりトランスファー成型や射出成型、特にモールド時の成型が困難になるとしている。このため前記成型品を長期間使用していると、オイルの移行や染み出しの問題が生じる。また、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物は、用途によって耐熱性がより要求される場合があり、従来のエチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物では十分とは言えなかった。さらに引裂き特性が十分でないために、特に絶縁体が薄肉化された電線・ケーブル等の場合には問題があった。また電気絶縁性樹脂組成物として、引張強さが大きく且つ加熱による変形率の少ないEPDM樹脂組成物が、特許文献2に記載されている。すなわち、ヨウ素価が20以上のEPDMに含金属モノマーを添加し、有機過酸化物によって架橋してなる前記絶縁性樹脂組成物である。このような樹脂組成物は耐熱性等の点からは問題はないが、電線・ケーブルの絶縁体として用いた場合には、引裂き特性が十分でないことが判った。
【特許文献1】特開2004−256715号公報
【特許文献2】特公平7−81050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明が解決しようとする課題は、耐熱性(加熱変形率)および引裂き特性(引裂強度)に優れた、有機過酸化物によって架橋される架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物を提供すること。また前記架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物が導体上に被覆された、特に耐熱性および引裂き特性に優れた架橋絶縁電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載されるように、ムーニー粘度が40以下(100℃)のエチレン・プロピレン・ジエン共重合体100質量部に対して、架橋助剤として、下記化学構造式(1)のジメタクリレートが0.5〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋される架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物とすることによって、解決される。
CH=C(CH)−COO−(CHCHO)−OCC(CH)=CH(ただし、n=1〜30)・・・・・化学構造式(1)
【0005】
また請求項2に記載されるように、前記有機過酸化物が、1分半減期温度が160℃以上である請求項1に記載の架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物とすることによって、解決される。
【0006】
そして請求項3に記載されるように、請求項1または2に記載される架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物が導体上に被覆された架橋絶縁電線・ケーブルとすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0007】
以上の本発明は、ムーニー粘度が40以下(100℃)のエチレン・プロピレン・ジエン共重合体(以下EPDM)100質量部に対して、架橋助剤として化学構造式(1)のジメタクリレートが0.5〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋される架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物(以下架橋EPDM組成物)であるから、耐熱性(加熱変形率)、引裂き特性(引裂強度)、さらに硬度等の機械的特性にも優れた架橋EPDM組成物とすることができる。また、前記有機過酸化物が、1分半減期温度が160℃以上である架橋EPDM組成物であるから、スコーチを生じることなく耐熱性や引裂き特性に優れた架橋EPDM組成物とすることができる。
【0008】
そして、前記架橋EPDM組成物が導体上に被覆された架橋絶縁電線・ケーブルは、耐熱性、引裂き特性、さらに硬度等の機械的特性にも優れた架橋絶縁電線・ケーブルとすることができる。特に薄肉に被覆しても、これ等の効果を有する架橋絶縁電線・ケーブルとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1に記載される発明は、ムーニー粘度が40以下(100℃)のEPDM100質量部に対して、架橋助剤として、化学構造式(1)のジメタクリレートが0.5〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋される架橋EPDM組成物であるから、耐熱性(加熱変形率)、引裂き特性(引裂強度)、さらに硬度等の機械的特性にも優れた架橋EPDM組成物とすることができる。このような架橋EPDM組成物は、特に薄肉の絶縁体を有する架橋絶縁電線・ケーブル用として好ましいものである。
【0010】
本発明で用いる前記EPDMは、ムーニー粘度が40以下(100℃)のものが好ましい。これは、比較的ムーニー粘度が低いものを用いることによって、プロセスオイルを添加しなくても、得られたEPDM組成物の押出し成型性を良好にできるためである。なお、ムーニー粘度が50(100℃)より高くなると、押出しが困難になると共に架橋する場合にはスコーチが生じることがあり、よって、EPDMはムーニー粘度が40以下(100℃)のものを使用するのが良い。ムーニー粘度が40以下(100℃)のEPDMとしては、エチレン・プロピレンと1,4ヘキサジエン、ヘキサシクロジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等の非共役ジエン成分との三元共重合であって、比較的高ジエンのEPDMが好ましい。すなわち、ジエン成分の含有量が20質量%以上のEPDMが好ましい。これは、ジエン成分の含有量を20質量%以上のEPDMを用いることによって、EPDM組成物の硬度や引張強度を向上させることができるためである。具体的には、三井化学社のEPT4021、DSM社のKELTAN2470B、デュポン・ダウエラストマー社のNordel1145、エクソンモービル社のVistalon2727等が挙げられる。また前記EPDMには、各種ポリエチレンやポリプロピレンを混合することができる。混合量は、ムーニー粘度が40以下(100℃)のEPDM100質量部に対して50質量部まで、好ましくは20質量部までである。このような混合物とすることによって、耐熱性が向上され好ましい。
【0011】
そして、前記EPDM100質量部に対して架橋助剤として、下記の化学構造式(1)のジメタクリレートが0.5〜20質量部添加される。これは、後述する有機過酸化物による架橋をよりスムースに確実に行なえるようにするためであり、また、得られた架橋EPDM組成物の耐熱性をより向上させるためである。添加量を前述の範囲とするのは、添加量が0.5質量部未満では、引裂き強度が向上せず、また20質量部を超えて添加すると、耐熱性が低下して好ましくないためである。このようなジメタクリレートとしては、新中村化学社のNKエステル1G、NKエステル2G、NKエステル3Gや三新化学社のサンエステルEG等を挙げることができる。
CH=C(CH)−COO−(CHCHO)−OCC(CH)=CH(ただし、n=1〜30)・・・・・化学構造式(1)
【0012】
さらに前記EPDMは、有機過酸化物からなる架橋剤によって架橋される。その際の架橋剤の添加量は、通常EPDM100質量部に対して0.5〜5.0質量部程度とされる。架橋剤の添加量を、5.0質量部を超えて添加して架橋すると引裂き特性が悪くなると共に、ブリードを起こす可能性が高くなり好ましくない。有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド(以下DCP)が最も使用されるが、請求項2に記載されるように、1分半減期温度が160℃以上の有機過酸化物が好ましい。このような有機過酸化物を用いることによって、架橋に際しての早期架橋と称されるスコーチを防止でき、また架橋を十分に行なうことができる。得られた架橋EPDM組成物は、特に引裂き特性に優れまた耐熱性が十分な架橋EPDM組成物となる。なお、1分半減期温度が160℃以上の有機過酸化物としては、例えば、1,3−ビス(ターシャリイブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ターシャリーブチル)ヘキシン−3等が挙げられる。
【0013】
以上のような組成の架橋EPDM組成物は、前述した各成分をバンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機、ブスコニーダー、ヘンシェルミキサー、ロールニーダー等を用いて溶融混練して得ることができる。特に二軸押出機は、大きなせん断力が得られるので好ましい。なお、有機過酸化物は前記各成分が溶融混練された状態の中に、液状の有機過酸化物を添加しても良い。このようにして得られた架橋EPDM組成物は、射出成型、押出し成型、回転成型、圧縮成型等によって各種の成型品とすることができる。また、前述のEPDM組成物中には、曲げ弾性率や硬度等の機械的特性を調整する目的で、無機系の充填剤が添加される。例えば、タルク、焼成クレイ、二酸化ケイ素、亜鉛華、炭酸カルシウム等である。具体的には、タルクとしては日本ミストロン社のミストロンペーパータルク、焼成クレイとしてはバーゲス・ピグメント社のバーゲスKE、二酸化ケイ素として日本エアロジル社のR972等が挙げられる。また、その添加量はEPDM100質量部に対して、50〜150質量部程度が良い。さらに、架橋EPDM組成物中には、必要に応じて難燃剤、着色剤、紫外線吸収剤、安定剤、イオウ系やフェノール系の老化防止剤等が添加される。
【0014】
そして前述した架橋EPDM組成物は、請求項3に記載されるように、導体上に押出し被覆されて絶縁体を形成し架橋絶縁電線・ケーブルとなる。好ましくは薄肉絶縁体として押出し被覆されて絶縁体を形成される。このような架橋絶縁電線・ケーブルは、引裂き特性(引裂強度)並びに耐熱性に優れると共に硬度等の機械的特性にも優れているので、耐磨耗性や耐熱性を要求される特に、自動車用の絶縁電線、電子機器類等の絶縁電線・ケーブルとして有用である。具体的には前記絶縁体の厚さが、0.5〜2mm程度の架橋絶縁電線・ケーブルである。すなわち、外径が4〜6mm程度の導体上に、押出し被覆によって厚さ0.5〜2mm程度の絶縁体層として施され、有機過酸化物によって架橋することによって得られる。具体的な特性としては、100%モジュラスが4.5MPa以下、引裂強度が40N/mm以上、加熱変形率が10%以下、さらに硬度がショアAで70以上、引張強度が6.5MPa以上で、引張伸びが200%以上の架橋絶縁電線・ケーブルである。
【実施例】
【0015】
表1に記載する実施例並びに比較例によって、本発明の効果を示す。表1に示すEPDMの組成物をシート状に成型した後、架橋することによって厚さ2.0mmの試料とした。すなわち、EPDMとして三井化学社のEPT4021(JIS規格K6300−1における100℃のムーニー粘度として24)100質量部に対して、架橋助剤(新中村化学社のジメタクリレートであるNKエステル2G)、タルク(日本ミストロン社のミストロンベーパータルク)、亜鉛華(堺化学社製)、老化防止剤(大内新興社のノクラックMB)、並びに架橋剤としてジクミルパーオキサイド(DCP)を各質量部配合した。
【0016】
前記試料を用いて、100%モジュラス、引裂強度、耐熱性の目安として加熱変形率、さらに引張強度(MPa)、引張伸び(%)、硬度を測定した。すなわち、引裂強度をJIS規格K6252に準拠して測定し、強度が40N/mm以上を合格として○印で、また40N/mm未満の場合を不合格として×印で記載した。また加熱変形率は、JIS規格C3005に準拠して測定を行ない、160℃、1kgfの荷重において加熱変形率が10%以下を合格として○印で、また、10%を超える場合を不合格として×印で記載した。さらに100%モジュラス、引張強度(MPa)および引張伸び(%)を、JIS規格K6251に準拠して測定した。100%モジュラスが4.5MPa以下を合格として○印で、それ以外を不合格として×印で示した。また引張強度については、6.5MPa以上を合格として○印で、それ以外を不合格として×印で示した。さらに引張伸びは、200%以上のものを合格として○印で、それ以外を不合格として×印で示した。さらに硬度(ショアA)について、JIS規格K6253に準拠して測定を行ない65以上を合格として○印で、不合格の場合を×印で記載した。結果を表1に示した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から明らかなとおり、実施例1〜5に記載される本発明の架橋性EPDM組成物は、100%モジュラス、引裂強度(引裂き特性)、加熱変形率(耐熱性)、さらに引張強度、引張伸び、硬度、に優れたものであることが判る。詳細に説明すると、ムーニー粘度が40以下(100℃)のEPDM100質量部に、化学構造式(1)のジメタクリレート0.5〜20質量部を添加したEPDMの組成物を、有機過酸化物によって架橋した架橋EPDM組成物は、引裂強度が40N/mm以上であり、また耐熱性として加熱変形率が10%以下であり、さらに100%モジュラスが4.5MPa以下である。さらに引張強度が6.5MPa以上、引張伸びが200%以上、硬度が70以上と十分な機械的特性を有するものである。
【0019】
これに対して、比較例1〜3に記載される本発明の組成範囲から外れる架橋性EPDM組成物は、100%モジュラス、引裂強度、加熱変形率、さらに引張強度、引張伸び、硬度のいずれかが不合格となった。すなわち、比較例1のように、架橋助剤としてのジメタクリレートを添加しない場合は、DCPが本発明の範囲内であっても引裂強度および耐熱性に合格しない。また比較例2のように、ジメタクリレートの添加量が本発明の範囲を超えると、硬度並びに加熱変形率が不合格となる。さらに比較例3のように、ジメタクリレートの添加量が本発明の範囲内であっても、架橋剤である有機過酸化物が6質量部となると、引裂強度が不合格となった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上の本発明によれば、耐熱性や引裂き特性に優れた架橋絶縁電線・ケーブルが得られるので、特に自動車用の絶縁電線や電子機器等の絶縁電線・ケーブルとして有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムーニー粘度(100℃)が40以下のエチレン・プロピレン・ジエン共重合体100質量部に対して、架橋助剤として、下記化学構造式(1)のジメタクリレートが0.5〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋されることを特徴とする架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物。
CH=C(CH)−COO−(CHCHO)−OCC(CH)=CH(ただし、n=1〜30)・・・・・化学構造式(1)
【請求項2】
前記有機過酸化物が、1分半減期温度が160℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載される架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物が導体上に被覆されたことを特徴とする架橋絶縁電線・ケーブル。

【公開番号】特開2006−273947(P2006−273947A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92609(P2005−92609)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】