説明

架橋樹脂パイプのコイルの製造方法

【課題】コイル径の小さい樹脂パイプ製コイルを容易に成形することができる架橋樹脂パイプのコイルの製造方法を提供する。
【解決手段】架橋ポリエチレン等の架橋樹脂よりなるパイプを加温してからコイル状に巻回し、冷却することによりコイル状に成形することを特徴とする架橋樹脂パイプのコイルの製造方法。冷却後のコイルを再度140℃以上に1時間以内保持して形を整えてもよい。温度を上げても変形しないように樹脂パイプをあらかじめ架橋させておく。架橋樹脂はパイプ形状を記憶すると共に、溶融しても液状とならないので、曲げ半径(コイル径)の小さいコイルを容易に成形することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリエチレン等の架橋樹脂パイプよりなるコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性合成樹脂パイプを曲げ加工する方法として、合成樹脂パイプを加熱軟化させてからベンダーや型を用いて湾曲させることが知られている(特許文献1,2)。
【0003】
ところで、安価な省エネルギー商品として熱交換用のポリエチレンパイプよりなるコイルが用いられている。従来、ポリエチレンパイプをコイルに成形するには、ポリエチレンパイプを型に巻き付けるようにしている。しかしながら、熱交換器を小型化するために、パイプを曲げ半径の小さいコイルに成形しようとすると様々な問題が発生する。例えば、常温でパイプを最小曲げ半径にしようとすると、大きな反力が発生する。そのため、巻きつけるのに頑丈な架台が必要となり、パイプよりも架台の値段が高くなってしまう。パイプを加温して柔らかくして成形すると、座屈しやすくなってしまったり、円形断面であったパイプが変形して肉厚が変化してしまったりする。肉厚が薄くなるということは強度の低下を招くので問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−85149号公報
【特許文献2】特開2004−262111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コイル径の小さい樹脂パイプ製コイルを容易に成形することができる架橋樹脂パイプのコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の架橋樹脂パイプのコイルの製造方法は、架橋樹脂よりなるパイプを加温してからコイル状に巻回し、冷却することによりコイル状に成形することを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の架橋樹脂パイプのコイルの製造方法は、請求項1において、架橋樹脂が架橋ポリエチレンであることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の架橋樹脂パイプのコイルの製造方法は、請求項1又は2において、架橋樹脂よりなるパイプを140〜150℃に加温してゼリー状とし、型に沿って巻回することを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の架橋樹脂パイプのコイルの製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記冷却を行った後、再度140〜150℃に5〜60分保持することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の架橋樹脂パイプのコイルの製造方法では、温度を上げても変形しないように樹脂パイプをあらかじめ架橋させておく。架橋樹脂はパイプ形状を記憶すると共に、溶融しても液状とならないので、曲げ半径(コイル径)の小さいコイルを容易に成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コイルの斜視図である。
【図2】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明では、架橋ポリエチレン等の架橋樹脂パイプを加温してからコイル状に巻回し、次いで冷却して架橋樹脂コイルを製造する。本発明において、パイプを構成する架橋樹脂としては特に制限はないが、汎用性、工業的有用性、コスト等の面から、架橋ポリエチレンが好ましい。架橋樹脂のうち、架橋ポリエチレンの好適な材料については後述する。
【0014】
加温は架橋樹脂パイプが140℃以上、例えば140〜150℃、特に140〜145℃程度となるようにオーブンやヒーターを用いて行うのが好ましい。架橋樹脂パイプを140℃以上に加温すると、透明なゼリー状となる。なお、加温に先立ち、樹脂を架橋していないと、140℃以上に加温すると樹脂が液化し、パイプ形状を維持しないようになる。
【0015】
このように加温した架橋樹脂パイプを円筒形、円柱形などの形状の型の外周に巻回するか、又は円筒形又はバケツ形状(切頭円錐台形状)の型の内周に沿って巻回し、次いで90℃以下、好ましくは室温(20〜30℃)にまで冷却する。この巻回に際して架橋樹脂パイプの温度が下がると反力が発生し、座屈しやすくなるので、架橋樹脂パイプの温度が低下しないうちに、即ち、架橋樹脂パイプが不透明となる前に巻回を終了することが好ましい。更に、コイルの形状を整えるためには、型に装着したまま、再度140〜150℃程度に加温し、5〜60分、特に10〜30分程度この温度に保った後、室温まで冷却する。なお、この再加温時の時間が長すぎると、架橋樹脂が劣化するので、再加温処理時の140℃以上の保持時間は60分以内、特に30分以内とすることが望ましい。
【0016】
第1図は製造したコイルの一例を示す斜視図である。コイル1のパイプの直径(外径)dは5〜30mm、パイプ肉厚は1〜5mm、コイル直径Dは10〜80cm、コイルピッチpは5〜150mm程度が好適であるが、これに限定されない。
【0017】
上記の架橋樹脂パイプは、エチレン系樹脂組成物等の樹脂組成物をパイプ状に成形し、次いで架橋処理して架橋度を65%以上、特に65〜70%程度としたものが好適である。
【0018】
[エチレン系樹脂組成物の好適例]
上記のエチレン系樹脂組成物としては特開2004−98635に記載されたものが好適である。
【0019】
即ち、エチレン系樹脂組成物としては、エチレン重合体又はエチレンと炭素数4以上のα−オレフィン類との共重合体(a)と、後述の一般式(I)で表されるエチレン性不飽和シラン化合物(b)とをラジカル発生剤(c)の存在下でグラフト反応させ、次いでこの反応物に、シラノール縮合触媒(d)と安定剤(e)とを含有させたものが好適である。このエチレン系樹脂組成物をパイプ形状に成形した後、水の存在下に上記結合シランの加水分解反応により架橋することにより、架橋ポリエチレンパイプが得られる。
【0020】
このエチレン重合体及びエチレンと炭素数4以上のα−オレフィン類との共重合体(成分(a))は、チーグラー系触媒、クロム系触媒等の各種触媒を用い、中低圧下又は高圧下において、気相法、溶液法、懸濁重合法等の各種重合法により得られた重合体が好適である。炭素数4以上のα−オレフィン類としては、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、2,2−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘキセン、2,2−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、2,2,3−トリメチル−1−ブテン、1−オクテン、2,2,4−トリメチル−1−オクテン等が挙げられる。
【0021】
エチレン性不飽和シラン化合物(成分(b))としては、次の一般式(I)で表される化合物が使用される。
SiR3−n ・・・(I)
【0022】
一般式(I)において、Rはエチレン性不飽和炭化水素基(酸素原子を有していてもよい)であり、ラジカル反応性を有するものである。このような基としては、炭素数2〜12のアルケニル基、アリル基やオキシアルケニル基が好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、γ−(メタ)アクリルオキシプロピル基等が挙げられる。Rは炭素数1〜12のアルキル基であり例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、デシル基等が挙げられる。Yは加水分解可能な有機基を表し、例としては、メトキシ基、エトキシ基、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アリールアミノ基などが挙げられる。
【0023】
グラフト変性させる反応系に存在させるエチレン性不飽和シラン化合物の量は、目的とする架橋ポリエチレンパイプの架橋度、反応条件(温度、時間)などにより決定されるが、経済性、反応前・反応中の取り扱いの容易性から成分(a)100重量部に対し、0.1〜10重量部の範囲から選ばれる。好ましくは、0.2〜5重量部である。
【0024】
ラジカル発生剤(成分(c))は、ポリオレフィンのグラフト化反応に一般的に用いられる化合物であればよく、特に限定されるものではないが、グラフト反応温度において6分未満の半減期を有する化合物の中から選ぶのが好ましい。より好ましくは、グラフト反応温度において1分間未満の半減期を有する化合物である。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、メチルアゾビスイソブチレートなどのアゾ化合物が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上が好適に用いられる。これらの添加量は特に限定されるものではないが、前述の成分(a)100重量部に対し、通常0.001〜5重量部であり、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0025】
シラノール縮合触媒(成分(d))としては、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属カルボン酸塩、チタン酸エステルおよびキレート化合物の有機金属化合物、有機塩基、無機酸および有機酸などが挙げられる。具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などが挙げられる。これらの添加量は特に限定されるものではないが、前述の成分(a)100重量部に対し、通常0.001〜5重量部であり、好ましくは0.005〜2重量部である。
【0026】
安定剤(成分(e))としては、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、金属害防止剤等が使用できる。
【0027】
金属害防止剤は、ヒドラジド誘導体、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体などを挙げることができる。
【0028】
これらの添加量は特に限定されるものではないが、前述の成分(a)100重量部に対し、通常0.001〜5重量部であり、好ましくは0.001〜3重量部である。
【0029】
成分(b)、成分(c)は成分(a)に前もって含浸させた後、グラフト反応を行なうことが好ましい。
【0030】
上記のグラフト反応は押出機中で行うのが好ましい。
【0031】
上記プロセスにて得られたポリエチレンパイプは水雰囲気中に曝すことにより、架橋が進行する。進行速度は水雰囲気中に曝す条件によって決まるが、室温〜200℃の温度範囲で、10分〜1週間の範囲で曝せばよい。特に好ましい条件は、常温〜130℃の温度範囲で、30分〜100時間の範囲である。長期間に亘って優れた特性を発揮させるためには、ISO
10147−1994に準拠して測定したゲル分率(架橋度)が65%以上であることが好ましい。ゲル分率は、エチレン性不飽和シラン化合物のグラフト率、シラノール縮合触媒の種類、量、架橋させる際の条件(温度、時間)などを変えることにより、調整することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び実験例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0033】
[実施例1]
市販の13A(三菱樹脂株式会社製、品番HC−13、内径12.8mm、外径17.0mm)の水道管用架橋ポリエチレンパイプ(架橋度65〜70%)をオーブン又はヒーターで140℃に加熱した。架橋ポリエチレンパイプは透明となり、ゼリー状となった。この透明となった状態の架橋ポリエチレンパイプを、バケツ形状の型の内周面にコイル状に巻いた。バケツ形状の型の直径は30cmであり、これは13A水道管の最小曲げ半径となっている。パイプ温度が低下してパイプが不透明になくなってくると反力が発生し、座屈しやすくなるので、パイプ温度が低下する前に巻回を終了した。パイプを巻き終わった後、そのまま放置して室温まで冷却した。形をよりよく整えるために、型にいれたまま再度オーブンに入れて140℃で30分保持した後、室温まで冷却した。パイプは架橋により形状を記憶しているため、このような加温→冷却→再加温→冷却の熱サイクルにより、パイプ形状を維持して、コイル径30cmでピッチ17mmの良好な形状のコイルを形成することができた。
【0034】
[実験例1]
実施例1において、再加温時の保持時間を種々変更してコイルの成形を行い、得られたコイルについて95℃でバースト圧を測定する耐久試験を行い、保持時間とバースト圧との関係を調べ、結果を第2図に示した。その結果、第2図の通り、140℃以上の再加温保持時間が長すぎると高温領域での寿命に問題があることが判明した。これは架橋ポリエチレンの劣化によるものと考えられるので、140℃以上の保持時間は1時間以内、望ましくは30分以内になるように再加温するか、使用環境に合わせて耐久性を設計して加温条件を設定することが望ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1 コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋樹脂よりなるパイプを加温してからコイル状に巻回し、冷却することによりコイル状に成形することを特徴とする架橋樹脂パイプのコイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、架橋樹脂が架橋ポリエチレンであることを特徴とする架橋樹脂パイプのコイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、架橋樹脂よりなるパイプを140〜150℃に加温してゼリー状とし、型に沿って巻回することを特徴とする架橋樹脂パイプのコイルの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記冷却を行った後、再度140〜150℃に5〜60分保持することを特徴とする架橋樹脂パイプのコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−228821(P2012−228821A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98396(P2011−98396)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】