説明

架空送電線のX線撮影用治具

【課題】架空送電線をX線撮影で検査する際に、架空送電線上で撮影装置を撮影箇所に移動させ、取付けるための治具を提供する。
【解決手段】全体として不等辺直角三角柱状の治具であり、2つの三角形の各辺に相当する梁と、3組の相対向する頂点部を結合する梁と、補助の梁を有する骨組み構造であり、直角を挟む短辺となる2本の梁は治具の使用時には上方にあり、その下方位置に治具を架空送電線上で移動させる部材と架空送電線に固定する部材とフイルム装着部が取付けられており、直角を挟む長辺となる2本の梁の下部はX線発生装置を取付ける構造とされ、斜辺となる2本の梁は、各々上部側梁と下部側梁とからなり、上部側梁は下部で下部側梁に回転可能に取付けられ、上部で短辺となる2本の梁に着脱自在とされ、下部側梁は上部側で直角を挟む長辺となる2本の梁に各々補助の梁を介して固定支持されていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架空送電線のX線撮影用治具に関し、特に架空送電線の内部腐食の状況を検査するためにX線発生装置とフイルムを電線に対して固定する治具に関する。
【背景技術】
【0002】
架空送電線は数十〜数百メートル離れた鉄塔間に架設されるため、通常中心に亜鉛(Zn)めっき鋼線あるいは表面にアルミニウム層を固着したアルミ覆鋼線の細線を撚った芯線部を設け、その外周に導電性が良好かつ密度が小さいアルミニウム製の細線を複数本巻付けて外周線部を設けた構造(鋼芯アルミニウム撚線、ACSR)とされている。これにより、主として芯線部が外力や自重を受持ち、その外周の外周線部が導電を受持つこととなる。
【0003】
なお、外周線部には、アルミニウム線が複数層巻付けられていることが多い。
架空送電線は、一旦架設されると長年厳しい日照や風雨に晒され続けることとなる。特に、海岸線近くでは塩害があり、工場地帯では硫黄分や酸化窒素を含む産業廃棄ガスに晒され易く、また近年では酸性雨にも晒される。このような結果、架空送電線には腐食が発生し易い。特に、芯線部や複数層巻付けられた外周線部の内、内側の外周線には腐食発生を促す物質が滞留し易く、腐食が発生し易い。また、ACSRの場合、アルミニウムは比較的化学的活性に富むだけでなく、鋼線あるいはZnめっき鋼線という異種の金属に相互に接触しているため、なおさら腐食し易い(特許文献1、同2、非特許文献1)。
【0004】
さらに、腐食の進行を放置しておくと、電気抵抗の増加による発熱を原因とする火災、強風や自重に基づく荷重による断線等の事故が生じかねない。このため、架空送電線から試験試料を切り取る必要がなく、さらに外径の変化の測定や過流探傷法等に比較して精度が高く、小さな異常でも検出可能である検査手段として、X線撮影を行い、さらにその画像をクラスター処理する発明がなされている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−79018号公報
【特許文献2】特開2000−275165号公報
【特許文献3】特願2005−210840号明細書、図面
【非特許文献1】架空送電線の電線劣化(腐食)現象調査専門委員会編「架空送電線の電線腐食現象」電気学会技術報告、電気学会、2004年6月、第968号(B部門)P.54−65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄塔に架設された状態の架空送電線をX線で検査するためには、X線発生装置、X線フイルム(含む、IPプレート)、それらを架空送電線に取付けるための治具(以下、「取付け用治具」とも記す)等の撮影用の機材を架空送電線が架設された場所まで運び込み、鉄塔を利用して架空送電線に移動可能な状態で取付け、さらに架空送電線の検査対象の箇所まで当該架空送電線上を移動させ、次にその場所でX線発生装置とX線フイルムを架空送電線に対して所定の位置関係を保持して固定する必要がある。
しかし、架空送電線は、鉄塔間で空中にぶら下がっているため本来的に極めて不安定であり、また山間等の僻地にあることが多いこともあり風等のため絶えず動揺(周期が長い振動や周期は短いが振幅が小さい振動)している。
また、作業中に風雨に晒されることも少なからずある。
【0006】
このため、X線発生装置とX線フイルムのみならずそれらを架空送電線に取付けるための治具そのものの架空送電線への取付けやX線撮影は、単なる高所作業と異なり、危険性が高く、高度の熟練が必要である。
また、レンズを使用出来ないX線撮影で鮮明な映像を得るためには、フイルムは架空送電線に密接して固定され、X線発生装置は架空送電線から一定の範囲内で距離を調節可能にして取付けられる様にする必要があるが、架空送電線が動揺している上に高所作業であるため、取付け用治具にはハードとソフトの両面から作業の容易性の確保と落下事故の防止に充分な配慮と注意が求められる。
また、架空送電線は動揺していることが多いため、撮影装置、特に取付け用治具は吸振性を有していることが好ましい。
【0007】
また、X線の被曝は人体に大きな悪影響を与えるため、X線撮影装置の取付け用治具はハードとソフトの両面から撮影に従事する者の被曝を完全、確実に防止する様になされている必要がある。
また、検査対象の架空送電線は一般的に山間等の交通が不便な場所にあることが多く、特に最終段階では人力で行わねばならないことが多いため、撮影用の機材の搬送も重労働となる。また、高所に架設されている架空送電線への撮影用の機材の取付けも重労働となる。このため、X線撮影に必要な装置は、特に一番重い取付け用治具は、可能な限り軽量とする必要がある。
【0008】
これらのため、架空送電線の損傷の状態をX線撮影と画像処理を使用して検査する際に、空中で動揺する架空送電線にX線発生装置やフイルムを今以上に安全、確実に固定して取付け、さらに撮影することが出来る様にすることはもちろんのこと、高所での作業や取扱いが一段と容易となり、強度や対振動性に優れ、しかも軽量な取付け用治具の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以上の課題を解決することを目的としてなされたものであり、取付け用治具を全体として不等辺直角三角柱状とし、2つの不等辺直角三角形の各辺に相当する梁、3組の相対向する頂点を相互に結合する梁等を有する骨組み構造とし、さらに直角を挟む長辺の下部かつ治具の内部側にX線発生装置をその高さの位置を調節して取付け可能とし、短辺の下方となる位置に治具全体を架空送電線上で移動するためのローラと固定するための把持クランプを取付け、斜辺に架空送電線を内部に通すための開放機構を設けたものである。
また、一層の安全性を確保し、良好な取扱い性を得るために様々な工夫を凝らしたものである。以下、各請求項の発明を説明する。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
全体として不等辺直角三角柱状の治具であり、
2つの不等辺直角三角形の各辺に相当する梁と、3組の相対向する頂点若しくはその近傍を相互に結合する梁と、前記各梁をさらに結合する補助の梁を複数本有する骨組み構造であり、
直角を挟む短辺となる2本の梁は治具の使用時には上方に位置し、これら2本の梁には、あるいはこれら2本の梁の間に平行して2本の補助の梁が取付けられている場合には前記2本の梁かこれら2本の補助の梁のいずれかには、各々の下方に架空送電線に乗せて治具を移動させるための移動用部と架空送電線に治具を固定するための固定用部が取付けられており、
直角の頂点を相互に結合する部分の梁には、その下方に、前記固定用部にて固定された架空送電線に対して所定の高さとなる位置にフイルム装着部が、前記直角を挟む短辺に平行に取付けられており、
直角を挟む長辺となる2本の梁の下部は、前記フイルム装着部から所定の距離にX線発生装置を取付け可能とする構造となされており、
前記斜辺となる2本の梁は、各々上部側梁と下部側梁とからなり、上部側梁はその下部で下部側梁に回転可能に取付けられ、その上部は各々前記短辺となる2本の梁に着脱自在とされており、下部側梁はその上部側で前記直角を挟む長辺となる2本の梁に各々補助の梁を介して固定支持されていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0011】
本請求項の発明においては、全体として不等辺直角三角柱状の治具であり、主な部分は梁からなる骨組み構造であるため、治具は軽量となる。
梁は、特に主な梁は、金属製であることが好ましい。
また、不等辺直角三角柱内に架空送電線を取入れた状態で架空送電線上を移動し、架空送電線に固定されるため、落下の恐れがなく、安全である。
なお、不等辺直角三角柱状となるのは、X線撮影はレンズを使用し得ないため、鮮明な映像を得るためにはフイルムとX線発生装置にある程度の距離が必要であり、取付ける梁に長さが必要であることによる。またこのため、X線写真撮影においては、治具全体がカメラのフレームの役を果たすだけでなく、画像解析の面から適切な露光量と焦点距離を担保することとなり、丁度絞りの役目を果たすこととなる。
またこの場合、重量のあるX線発生装置は治具の下方に取付けられるため、装置全体の安定性も充分となる。
【0012】
なお、本発明における「架空送電線」とは、電圧が2万ボルト未満の架空配電線、2万ボルト以上の架空送電線、地線およびこれらの接続部品、たとえば直線スリーブ、引留クランプ、ジャンパースリーブ等を含む概念であり、このため例えば地線や接続部品の検査に使用される治具である場合にも、本発明の権利範囲に含まれる。
また、「3組の相対向する頂点若しくはその近傍を相互に結合する部分」は、三角形の各辺に直交するかつ撮影時には水平に設置された状態となる部分を指す。
また、「その近傍」とは、治具の寸法や他の構成との配置の調整の如何にもよるが、15cm以内が好ましく、10cm以内がさらに好ましい。
前記「各梁をさらに結合する補助の梁」とは、例えば下部側梁の上部側と直角を挟む長辺とを結合する梁であり、それ以外の梁を何本か有していてもよい。
また、「梁」とは、棒材、コの字型材、L字型材、I字型材等を指す。
また、「骨組み構造」とは、自動車の車体等と異なり、主要な強度部材は板材でなく、梁であることを指す。
【0013】
ここに、「直角を挟む短辺となる2本の梁は治具の使用時には上方に位置し」とあるが、これは通常の使用時のことであり、架空送電線の芯線の直下部や直上部のアルミ線の損傷の状態等を検査するため、同じ鉄塔間に架設されている他の架空送電線や特別な治具固定用具を使用して本発明の治具を90度傾けて保持し、その状態で架空送電線をX線撮影することを排除するものではない(その場合にも、本発明の権利範囲に含まれる)。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記2つの不等辺直角三角形の各辺に相当する梁と前記3組の相対向する頂点若しくはその近傍を相互に結合する梁は、金属製管であることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0015】
本請求項の発明においては、梁が金属製管であるため、軽量でありさらに入手や加工が容易となる。
また、管は断面が円形であることが好ましい。重量あたりの強度が高く、人力で搬送する際や操作する際に、手で保持し易くなるためである。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記直角を挟む短辺となる2本の梁およびこれら2本の梁と同じ高さに位置する梁は、それら相互の結合は全て溶接によりなされており、
前記直角を挟む短辺となる2本の梁と前記直角を挟む長辺となる2本の梁との結合は、ボルト締めであることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0017】
本請求項の発明においては、全体として不等変三角柱状の治具の、使用時に上部にある短辺の部分は、梁相互の結合が溶接であるため強固となり、短辺の両端部における下方の梁との接続はボルト締めと鉤止めとなるため、架空送電線の好ましくない動揺の下方の梁への伝達が阻止される。
ここに、「これら2本の梁と同じ高さに位置する梁」とは、直角の頂点相互を結ぶ梁、短辺の非直角の頂点相互を結ぶ梁等の、不等変三角柱状の治具を使用状態で三角形に直面する方向から見たときに、短辺と重なる梁を指す。
なお、ボルト締めや鉤止めによる遊びがあると振動が減衰される効果は、前者はビルの鉄筋の接続に、後者は車両の連結器に採用されているが如く周知の技術である。
さらに、ボルト締めや鉤止めであるため、山間部で搬送する際に、分解、開放することと再組立てが容易となる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記直角を挟む短辺となる2本の梁と前記直角を挟む長辺となる2本の梁とを結合するボルト締めは、着脱自在であり、かつボルトの回り止めを有していることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0019】
本請求項の発明においては、ボルトの回り止めを有しているため、安全性が向上する。
なお、「ボルトの回り止め」とは、ボルトとナットに回り止めの針金を通すこと、座金を嵌めること、2重ボルトとすること等、山間の検査場所で容易に施行可能な方法で行えれば手段を問わない。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記直角を挟む長辺となる2本の梁と、前記直角を挟む短辺となる2本の梁以外の梁との結合は溶接でなされていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0021】
本請求項の発明においては、重量のあるX線撮影装置やそのバッテリーを固定する長辺となる梁が強固となり、固定も安定する。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記下部側梁は、その上部側で前記直角を挟む長辺となる2本の梁と各々補助の梁を介して固定支持され、前記の固定支持する箇所および当該箇所より下方となる位置での他の梁との結合は、溶接でなされていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0023】
本請求項の発明においては、重量のあるX線撮影装置やそのバッテリーを固定する箇所が強固となり、固定も安定する。
【0024】
請求項7に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
直角を挟む短辺となる2本の梁の間に平行して取付けられた2本の補助の梁を有し、これら2本の補助の梁に、前記移動用部と固定用部が、ともにボルトで取付けられていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0025】
本請求項の発明においては、ボルトで取付けられているため、検査対象の架空送電線に合せての換装、人力で搬送する際に骨組み構造の治具本体から取外してその軽量化を図ることが可能となる。
また、直角を挟む短辺となる2本の梁の間に平行して取付けられた2本の梁により、治具の上部は一層強固となる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記移動用部は、中央部に架空送電線を嵌め込む凹部が形成されたローラを有し、かつ治具の下部にX線発生装置を装着して架空送電線にローラを乗せた状態で、前記ローラが鉛直方向を向く様に取付けられていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0027】
本請求項の発明においては、ローラがあるため搬送が容易となるだけでなく、搬送状態でローラが鉛直方向となるため、ローラを転がすことが容易となる。
また、ローラは架空送電線を嵌め込む凹部が形成されている(含む、両端につばがある円筒形)ため、動揺する架空送電線から脱線し難くなる。
【0028】
請求項9に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記移動用部は、脱線防止用紐を有し、前記脱線防止用紐は、前記ローラを架空送電線に乗せた状態で、中央の部分は架空送電線の下方に位置し、両端の部分はローラを支持する部材の両端近傍かつ前記脱線防止用紐がローラの反対面側に位置する様に取付けられることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0029】
本請求項の発明においては、脱線防止用紐を有しているため、一層脱線し難くなる。
なお、「取付け」は、鉤機構による係止等を含み、結び付けに限定されない。
また、「紐」の材質は問わない。
【0030】
請求項10に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記固定用部の架空送電線を把持する部分と、前記移動用部のローラの下方の凹部とは、前記直角を挟む短辺となる2本の梁からの上下方向の高さが同じ位置にあることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0031】
本請求項の発明においては、直角を挟む短辺となる梁から、ひいては架空送電線から、使用状態で上下方向の高さが(長辺方向の距離が)同じ(ただし、1、2cm程度の誤差がある場合を含む)位置にあるため、架空送電線へのローラとクランプ間の乗せ変え、付け替えが便利となる。
【0032】
請求項11に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記移動用部は、前記不等辺直角三角形の2箇所の直角の頂点となる箇所かつ治具の外側に溶接された水平のリングを有していることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0033】
本請求項の発明においては、リングを有しているため、架空送電線上での治具のロープによる牽引が容易となる。この際、治具は直角の頂点となる箇所(含む、その近く5cm以内)、ひいては重量のあるX線発生装置の上部にあるため、牽引時に治具は傾いたりせず、安定する。
また、リングは水平かつ治具の外側であるため、結びつけた牽引用のロープの端部も治具の外側で垂れ下がることとなるため、ロープが架空送電線と干渉することがない。また、リングの治具の短辺となる梁への溶接による取付けが容易であり、その梁から上方に突出していないため、保守等の都合で治具を逆さまにする際にもリングが設置の障害とならない。
【0034】
請求項12に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
平面形は口字状であり、
天井枠と底枠と架空送電線に直行する方向の側端壁を有し、
天井枠は、前記直角を挟む短辺となる2本の梁、またはこれら2本の梁およびこれら2本の梁と同じ高さに位置する補助の梁から垂下した梁により水平に保持され、
底枠には中央に架空送電線が位置するための切欠きが形成され、さらに4箇所の隅角部には下方からボルトがねじ込まれており、
架空送電線に平行な側面からフイルムの装着および取出しが可能であり、
前記固定用部により治具を架空送電線に固定した状態で、前記装着したフイルムの下面が架空送電線の上端に接する様に調節することが可能であるフイルム装着部を有していることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0035】
本請求項の発明においては、上下の枠の間にフイルム(含む、IPプレート等)を挟み込むため、フイルムの装着が容易となり、固定も安定する。この際、下方にあるボルトを調節することによりフイルムのみならずその上下に樹脂板やナンバープレート類をも併せて固定することが可能となる。さらに、フイルムを架空送電線の上部に密着させて配置することも容易となり、映像も鮮明になる。
なお、「直角を挟む短辺となる梁と同じ高さに位置する梁」とは、直角の頂点相互を結ぶ梁等を指し、直角を挟む短辺となる梁も含む。
また、フイルム装着部は、上部にある梁から垂下した梁(含む、棒)により4角を支持されていることが好ましいが、重量等の都合で2箇所の支持であってもよい。
また、平面形はロ字状であるため、X線撮影時に反射が少なく、反射によるX線で下方に(地上に)いる作業者が被曝することもない。
【0036】
請求項13に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記直角を挟む長辺となる2本の梁の下部かつ前記フイルム装着部から所定の距離の位置に、孔が所定の間隔で上下方向に形成された上下に細長い立板が各1個、前記孔が形成された面が治具の内部側に面する様に配置され、溶接で取付けられている構造のX線発生装置取付け部を有していることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0037】
本請求項の発明においては、長辺となる梁に溶接で固定された立板に形成された孔を使用してX線発生装置を取付けるが、立板には上下方向に多数の孔が50mm等の所定の間隔で(間隔が全て同じとは限らない)あけられているため、状況に応じてX線発生装置とフイルム間の距離の調節が可能となる。
また、治具からX線発生装置を取外したり、逆に取付けたりすることが容易となるため、山中での人力による搬送等も便利となる。
【0038】
請求項14に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
X線発生装置は、両端を前記2個の上下に細長い立板にボルトで固定された上下2個の横板と、上下を前記上下2個の横板の中央にて固定された垂直板とを使用して治具に固定されていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0039】
本請求項の発明においては、太い円柱状のX線発生装置が上下方向に立てられた状態でゴム材等を使用して垂直板に固定され、垂直板は上下2箇所で横板に固定され、2個の横板は各々左右2箇所で立板にボルトで固定されるため、X線発生装置は強固に、また容易に治具に固定される。
【0040】
請求項15に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記2本の下部側梁は、その上部で補助の梁にて相互に補強結合され、前記補助の梁の中央部には治具に取付けられたX線発生装置の落下防止用のロープを固定する鉤が設けられていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0041】
本請求項の発明においては、X線発生装置の正面に鉤があるため、作業者は直ぐ鉤に気がつき、落下防止ロープを取付けることを忘れ難くなる。このため、安全性が増す。
なお、ここに「鉤」とは、ロープをしっかり固定あるいは縛り付けることができればよいため、純粋な鉤に限定されず、例えばリング状でもよい。
【0042】
請求項16に記載の発明は、前記の架空送電線のX線撮影用治具であって、
前記架空送電線に治具を固定するための固定用部は、
架空送電線の外周を把持して固定するためのクランプと、
前記クランプの架空送電線の外周を把持するための孔よりも小さい外径の架空送電線の外周を把持して固定することが可能である様に、カラーを有していることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具である。
【0043】
本請求項の発明においては、固定用部の電線把持クランプの孔の内径よりも外径が小さい架空送電線を検査する場合に、毎回当該架空送電線の外径に適合したクランプに取り換えなくても済む様に、付属品としてカラーを有している。このため、外径がクランプの電線を嵌め込んで固定するための(把持用)の孔よりも少し小さい架空送電線にX線撮影用治具を固定する場合には、クランプの孔部に予め用意してある軽量なカラーを嵌め込み、カラーを介して架空送電線を嵌め込んで固定することとなる。これにより、複数の種類の、そして比較的重量のあるクランプを、測定現場まで搬入する必要がなくなる。
【0044】
なお、カラーは2つ割れの金属製リングであり、外径はクランプの電線を嵌め込む孔と同じであり、内径は検査対象の架空送電線の外径と同じである。ただし、検査対象が前記の接続部品等であれば、内側の形状、寸法はそれらの外部の形状、寸法に適合したもの、例えば同じ寸法の六角形となる。さらに2つ割れであるため、リングの断面を凹型とし、リングの内部に架空送電線を通して固定し、さらにクランプでリングの凹型の断面の中央の凹部を把持し、リング両側の縁の凸部によりクランプの両側の面を挟み込んだ状態とし、これによりリングが架空送電線を固定しつつ、クランプから外れない様にしていてもよい。
【0045】
また、クランプは原則としてボルトによりX線撮影用治具本体に取付けられているため、サイズが大きく相違した架空送電線を検査する場合には、その架空送電線用のクランプに取替えることが出来る。そして、新たな検査場所で、以前の場所で検査した架空送電線と外径が大きく相違し、しかも複数の種類の架空送電線を検査する場合には、X線撮影用治具を管理している場所(検査用治具の管理センター等)で、新規な測定場所で検査対象となる架空送電線のうち外径が一番大きい寸法のもの用のクランプに取り換えて、必要なカラーと共に測定現場へ運び込み、現場ではカラーのみを取り換える様にすることが可能となる。
従って、この場合には、クランプも複数種類あり、さらにカラーも各クランプの寸法毎に用意しておくこととなる。
【発明の効果】
【0046】
本発明においては、全体として不等辺直角三角柱状の骨組み構造の治具であるため、軽量かつ強固となり、架空送電線上でX線撮影装置一式を撮影箇所に運んだり、取付けたりすることが容易かつ一層安全となる。
また、架空送電線をX線撮影することが容易かつ安全となる。
【0047】
このため、架空送電線から試験試料を切り取る必要がなく、架空送電線の内部の腐食状況等の損傷の状態を適切に検査することができる。
また、X線撮影は外径の変化の測定や過流探傷法等に比較して精度が高いため、小さな異常でも検出可能となり、この様なX線撮影を本発明の治具により容易に架空送電線に適用可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明をその最良の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
本発明の実施の形態の架空送電線のX線撮影用治具を、図面を参照しつつ説明する。図1は架空送電線上での治具を架空送電線が架設されている方向(搬送方向)から見た様子を概念的に示す図であり、図2は図1をそのAに示す方向から見た図であり、図3は図1のBB矢視(下から見た)図である。図4は、フイルムの装着部を概念的に示す図である。
【0049】
これらの図において、10は直角を挟む短辺となる(以下、「短辺の」とも記す)梁のうちの外側の梁(骨、骨組み)であり、11はその引掛け部であり、13は牽きロープ用リングであり、15は短辺となる梁のうちの内側の梁である。20は、直角を挟む長辺となる(以下、「長辺の」とも記す)梁であり、21は2つの長辺の梁の下方にペアで取付けられたX線発生装置取付け用の立板であり、22と23はX線発生装置取付け用の上下の横板であり、24は同じく固定用の垂直板であり、28は吊り下げ結合用ボルトである。31は、直角の斜辺となる梁のうちの下部側の梁であり、32は同じく上部側の梁であり、33は回転部であり、34は鉤部である。
【0050】
40は、2つの斜辺の上部側を繋ぐ梁である、41は2つの不等辺直角三角形(以下、ケースにより「三角形」とも記す)の直角の頂点部分を結合する(繋いで結合する)梁であり、42は内側の梁の補助梁である。50、55、56および57も補助の梁である。59は、ロープ用リング(鉤)である。
60はフイルム装着部であり、61と62は各々その天井枠と底枠であり、63はフイルム調節用ボルトであり、64は上部の梁からフイルム装着部を吊り下げるため垂下した梁(棒材)であり、65はフイルムである。80はつば付きのローラであり、81はローラ保持部であり、82はローラの軸であり、83はローラ取付け用ボルトであり、84は脱線防止用紐である。85は架空送電線を把持するクランプであり、88はクランプ取付け用ボルトであり、98はゴム材である。
【0051】
90は、X線発生装置であり、91はそのバッテリーであり、95は架空送電線である。なお、これらは治具の構成部分ではないため、点線で示している。
【0052】
以下、全体および各部の構造、機能の詳細を説明する。
図1から図3に示す様に、治具は全体として不等辺直角三角柱状(以下、これもケースにより「三角形」とも記す)であり、2つの不等辺直角三角形の各辺は主に鋼管、具体的には軽量安価なガス管からなり、また2つの三角形の各頂点あるいはその近傍同士を結ぶ梁(骨)や補強用の梁も原則として鋼管からなる骨組み構造である。また、X線撮影においては、治具はX線発生装置とフイルム(含む、IPプレート)を架空送電線上で撮影場所まで運びさらに固定する道具であるだけでなく、通常の光学写真機におけるボディあるいはケースおよび露光量と焦点を調節する絞り機構の役を担う部分でもある。
【0053】
前記の如く、架空送電線上での搬送時や撮影時においては、全体として不等辺直角三角柱状の治具の直角を挟む短辺の部分が上方に位置し、長辺と斜辺の交差、結合部が最下方に位置し、さらに架空送電線は三角形の内部にあり、X線発生装置90はその下方に固定されている。
三角形の内部に、架空送電線を取込むため、図1に示す様に、2つの斜辺は大きく下部側の梁31と上部側の梁32に分割され、上部側の梁32はその下部にある回転部33を中心として回転可能であり、その上部には鉤部34が設けられており、この鉤部34により短辺の外側の梁10の引掛け部11に引掛けて固定することと外すことが可能になっている。なお、安全のため、固定用のボルト締め機構や針金等をも装備しているが、周知技術であるため図示していない。
【0054】
また、2本の下部側の梁31は、その上部で補強用の補助の梁57にて相互に固定され、同じく補強用の補助の梁50にて長辺の梁20にも固定されている。
さらに、2つの長辺の梁20もほぼ同じ高さ位置で補助の梁55にて相互に固定されており、三角形の治具の下部はX線発生装置を固定するために充分な強度を有する構造となっている。
【0055】
2つの長辺の梁20は長さが1m程度であり、その下方には、図2に示す様に、相対向する側にペアでX線発生装置取付け用の立板21が溶接で取付けられている。ただし、図2では、長辺の梁は斜辺31、32の背後にあるため見えない(図示していない)。この2つの立板21には、X線撮影装置90とフイルムとの距離を250mmから500mmまで50mmピッチで調節可能とするために、即ち絞りの役を果たすことが可能な様に、同じ高さで上下方向に等間隔でボルトが貫通する孔があけられている。
また、ボルト用の孔を利用してボルト(図示せず)により上下の横板22、23が取付けられ、これら2つの横板22、23の中央にはX線発生装置をゴム材98により固定するための垂直板24が固定されている。
【0056】
次に、短辺の外側の梁10は長さが50cm程度であり、その直角の頂点側に長辺の梁20が吊り下げ結合用ボルト28で取付けられており、同じく対向する端部側に斜辺の上部側の梁32が鉤部34で取付けられており、これにより下方にあるX線発生装置90への架空送電線95からの好ましくない動揺が吸収される構造となっている。
また、約5.5kgと比較的重量があるX線撮影装置90をしっかり固定して取付けるため、三角形の治具の長辺の梁20と斜辺の下部側の梁31は、溶接で結合されており、さらに2箇所の溶接箇所相互も補助の梁56にて強固に固定された構造としている。
これらにより、丁度ビルの隅角部の鉄骨は溶接で強固に固定され、隅角部間の接続はボルトでなされているのと同様に、全体が強固となりしかも動揺し難くなる。
さらに、治具全体を短辺の梁の部分と長辺と斜辺からなる部分に分解することも可能であり、山間での人力による搬送が一層楽となる様にしている。
【0057】
短辺に相当する梁は、外側の梁10と内側の梁15が各2本あるが、外側の梁10は、長辺の梁20の上部と斜辺の上部側の梁32の鉤部34に取付けられて冶具の外枠を形成している。図3に示す様に、2本の内側の梁15には、ローラ80とクランプ85がボルト(含む、ナット)83、88を使用して取付けられている。これにより、検査対象の架空送電線の種類や寸法に応じて最適な寸法のものに換装したり、険しい山中で人力により搬送するのを容易とするために分解したりすることを可能としている。
【0058】
短辺に相当する梁は合計4本あるが、これにより治具の上部は一層しっかりした構造となる。また、後で説明するが、2本の内側の梁15には、フイルム装着部60の支持をも兼ねて補助の梁42が設置されており、これも構造の強化につながる。
ローラ80は、架空送電線の測定箇所へX線発生装置90、フイルム等を装備した治具全体を運ぶ時に、架空送電線95上に乗せて転がすものである。このため、凹型そして両側につばがあり、ローラの軸82を介してローラの保持部81に回転自在に取付けられている。
また、アルミ製として、軽量化を図っている。
【0059】
なお、治具全体を架空送電線95上に乗せたときには、比較的重量があるX線発生装置90とそのバッテリー91の取付け位置の都合で治具全体が傾くため、ローラの保持部81は図1に示す様に垂直面に35度程度傾斜して内側の梁15に取付けている。
また、ローラ80が架空送電線95から外れるのを防止するため、架空送電線95にローラ80を乗せた状態で、ローラの軸82の両側に中央部が架空送電線95とローラ80の下方を通過する高強度樹脂製の脱線防止用紐84の両端を結びつける様にしている。
【0060】
架空送電線95上で撮影場所まで治具全体を移動させるときおよび撮影終了後に治具全体を鉄塔まで移動させるときには、牽きロープ(図示せず)で牽くため、図3に明瞭に示す様に、短辺の外側の梁10の直角の頂点近くの治具の外部側に牽きロープを結び付けるための牽きロープ用リング13が水平に取付けられている。
撮影時には、治具全体を人力でローラ80からクランプ85に移し変える。この際、架空送電線は、三角形の骨組み内にあるため、誤って地上に落下する恐れはない。
また、移し変えを極力容易とするために、ローラ80とクランプ85は、ほぼ同じ高さになる様にしている。
【0061】
クランプ85で架空送電線を固定したときには、図3と図4に示す様に、架空送電線95はフイルムの中央部直下に位置し、さらにその上端は図4のA−A断面図に示す様に、フイルム65の下端に近接している。
なお、X線撮影ではレンズを使用し得ないため、鮮明なX線写真を得るためには、X線源が小さいことの他に、被写体とX線源の距離をある程度大きくとり、フイルムと被写体を近接させることが不可欠である。
【0062】
フイルム装着部60の要部は、図4に示す様に、平面形は全体として口字型であり、上部はロ字型の天井枠61からなり、4つの隅角部を短辺の内側の梁15を補強支持する補助梁42と直角の頂点を繋ぐ梁41から垂下した合計4本の金属製の吊下げ用の垂下した梁64により支持されている。
下部は2個のコの字型底枠62からなり、下部の2個の底枠62は相互に2本の足の先端部を架空送電線95が通るスペースを空けて向き合う形に配置され、さらに架空送電線95に直交する側壁で天井枠61に溶接で固定されている。
【0063】
図4のA―A断面図にて点線で示すフイルム65は、天井枠61と底枠62の間のスペースに架空送電線95に直行する方向の開口から挿入される。
さらに、天井枠61と底枠62の各隅角部には、ねじ溝を切ったボルト63が取付けられており、これにより上下両方からボルトを差し込んで、ボルトの先端で検査対象の架空送電線の外径に合わせてフイルム65の高さの微調整を行い、架空送電線の上部にフイルム65が密着した状態で、フイルム装着部60にフイルム65をしっかりと固定することが可能となっている。
また、図では示していないが、フイルム65の上下にアクリル板を取付けたり、さらに下方のアクリル板とフイルム65間にフイルムを特定するナンバープレートを挟み込んだり、さらには板バネで固定したりすることも可能である。
なお、天井枠61が口字型であり、フイルムの上部に金属の覆いがない様にしているのは、X線の反射による画像の不鮮明化を防止するためと、下方にいる人の被曝を少しでも少なくするためである。風によりフイルムが振動することを防止し、またボルト等と併せてフイルムを固定することとなるため、天井枠61の上部や天井枠とフイルムの間にアクリル板を設置することが好ましい。
【0064】
X線発生装置90は、重量がある。このため、図2に示す様に、2本の斜辺の下部側の梁の上部を固定支持する補助の梁57の中央、そしてX線発生装置90にほぼ対向する場所に、落下防止用ロープを結びつけるためのロープ用リング59を設置している。なお、このロープ用リング59は目立つ位置に設置されているため、作業者はX線発生装置90にロープを結びつけることと、結びつけたロープをロープ用リング59にしっかりと固定することを忘れることがない。
また、X線発生装置90の治具への取付けはゴムバンド等を使用するが、そのための固定用フック(図示せず)等も装備している。
なお、架空送電線上で使用するだけでなく、僻地で使用するため、X線発生装置の下部にはバッテリーをファスナー式のバンドにて固定する様にしている。
【0065】
最後に、振動特性について説明する。
架空送電線自体は、10〜100Hz程度の間でほぼ連続的に振動している。このためX線撮影用治具やX線装置が共振すると、綺麗なX線写真が撮れず、精度のよい検査が困難となるだけでなく、安全性の問題も生じかねない。そこで、治具の各部に発生する歪と治具の固有振動数を測定し、併せて架空送電線との共振性について調べた。
【0066】
図5に、測定を行っている振動系の様子を示す。図5において、12はX線撮影用治具であり、96は加振機であり、97は重量50Kgの錘であり、99は変位計である。測定対象の架空送電線95は、全長が約20mで、15%UTS(抗張力)の引張力(16,400N)を与えた状態のIACSR120sq(鋼芯イ号アルミ合金撚り線、断面積120mm)である。測定対象の架空送電線をIACSR120sqとしたのは、微風振動の発生の可能性が高いことによる。
また、錘97は、人に見立てたものである。またこのため、錘97を付加したときと、付加していないときの両方で加振試験を行った。なお、錘97は、図5では1つしか描かれていないが、X線撮影用治具12の両側の等距離の位置に各1固取付けている。
【0067】
図6に、歪ゲージの貼付け位置を示す。図6の1から6が貼付け箇所であり、各々垂直板24、斜辺の上部側の梁32、斜辺の下部側の梁31、長辺の梁20の中央部、上側の横板22、下側の横板23である。
錘を付加していないときの測定結果を、図7と図8に示す。図7は図6の1から3の位置の測定結果を示すものであり、図8は同じく図6の4から6の位置の測定結果と架空送電線の振幅を示すものである。
【0068】
測定結果であるが、X線発生装置を吊下げる不等辺直角三角柱状の治具の長辺と斜辺の部分に発生する歪は最大で約±8μであり、長辺および斜辺の長さ1mあたりの上下方向の伸縮は約8μmと、電線振幅の±2.6mmに比較して極めて小さい。前記のボルト締めや鉤部の遊びによる減衰効果も寄与しているためと思われる。
また、X線発生装置を取付ける箇所に発生する歪は最大で±26μと小さく、横方向の当該箇所の固有振動数は28.3Hzであることが判る。
【0069】
データは省略するが、錘97を付加した場合、歪はさらに小さく、また他の条件の実験からも、X線発生装置の各部に発生する歪、ひいては応力や伸縮は極めて小さく、また架空送電線の振動に共振を起こさないことが確認できた。
【0070】
次に、治具本体とは直接の関係はないが、X線の取扱いには細心の注意を払っている。具体的には、X線発射ボタンにはカバーを付加し、X線発生装置の電源を入れるキーの脱落防止コードを取付けている。
また、作業者はサーベイメータを身に着けている。
また、未使用のフイルムには白テープを巻付けておき、使用毎に外すことにより誤って再使用することを防ぐ様にしている。
また、フイルムのケースには鉛板を貼り付け、露光を防止している。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態の架空送電線のX線撮影用治具を、架空送電線が架設されている方向から見た側面を概念的に示す図である。
【図2】図1のA方向矢視図である。
【図3】図1のBB方向矢視図である。
【図4】フイルムの装着部を概念的に示す図である。
【図5】X線撮影用治具の振動試験における測定系の構成を示す図である。
【図6】X線撮影用治具の測定箇所を示す図である。
【図7】X線撮影用治具の測定結果の一部を示す図である。
【図8】X線撮影用治具の測定結果の一部と架空送電線の振動の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
10 短辺の外側の梁
11 引掛け部
12 X線撮影用治具
13 牽きロープ用リング
15 短辺の内側の梁
20 長辺の梁
21 立板
22 横板(上側)
23 横板(下側)
24 垂直板
28 吊り下げ結合用ボルト
31 斜辺の下部側の梁
32 斜辺の上部側の梁
33 回転部
34 鉤部
40 斜辺の上部側を繋ぐ梁
41 直角の頂点を繋ぐ梁
42 内側の梁の補助梁
50、55、56、57 補助の梁
59 ロープ用リング
60 フイルム装着部
61 天井枠
62 底枠
63 フイルム調節用ボルト
64 垂下した梁
65 フイルム
80 つば付きのローラ
81 ローラ保持部
82 ローラの軸
83 ローラ取付け用ボルト
84 脱線防止用紐
85 クランプ
88 クランプ取付け用ボルト
90 X線発生装置
91 バッテリー
95 架空送電線
96 加振機
97 錘
98 ゴム材
99 変位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体として不等辺直角三角柱状の治具であり、
2つの不等辺直角三角形の各辺に相当する梁と、3組の相対向する頂点若しくはその近傍を相互に結合する梁と、前記各梁をさらに結合する補助の梁を複数本有する骨組み構造であり、
直角を挟む短辺となる2本の梁は治具の使用時には上方に位置し、これら2本の梁には、あるいはこれら2本の梁の間に平行して2本の補助の梁が取付けられている場合には前記2本の梁かこれら2本の補助の梁のいずれかには、各々の下方に架空送電線に乗せて治具を移動させるための移動用部と架空送電線に治具を固定するための固定用部が取付けられており、
直角の頂点を相互に結合する部分の梁には、その下方に、前記固定用部にて固定された架空送電線に対して所定の高さとなる位置にフイルム装着部が、前記直角を挟む短辺に平行に取付けられており、
直角を挟む長辺となる2本の梁の下部は、前記フイルム装着部から所定の距離にX線発生装置を取付け可能とする構造となされており、
前記斜辺となる2本の梁は、各々上部側梁と下部側梁とからなり、上部側梁はその下部で下部側梁に回転可能に取付けられ、その上部は各々前記短辺となる2本の梁に着脱自在とされており、下部側梁はその上部側で前記直角を挟む長辺となる2本の梁に各々補助の梁を介して固定支持されていることを特徴とする架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項2】
前記2つの不等辺直角三角形の各辺に相当する梁と前記3組の相対向する頂点若しくはその近傍を相互に結合する梁は、金属製管であることを特徴とする請求項1に記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項3】
前記直角を挟む短辺となる2本の梁およびこれら2本の梁と同じ高さに位置する梁は、それら相互の結合は全て溶接によりなされており、
前記直角を挟む短辺となる2本の梁と前記直角を挟む長辺となる2本の梁との結合は、ボルト締めであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項4】
前記直角を挟む短辺となる2本の梁と前記直角を挟む長辺となる2本の梁とを結合するボルト締めは、着脱自在であり、かつボルトの回り止めを有していることを特徴とする請求項3に記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項5】
前記直角を挟む長辺となる2本の梁と、前記直角を挟む短辺となる2本の梁以外の梁との結合は溶接でなされていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項6】
前記下部側梁は、その上部側で前記直角を挟む長辺となる2本の梁と各々補助の梁を介して固定支持され、前記の固定支持する箇所および当該箇所より下方となる位置での他の梁との結合は、溶接でなされていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項7】
直角を挟む短辺となる2本の梁の間に平行して取付けられた2本の補助の梁を有し、これら2本の補助の梁に、前記移動用部と固定用部が、ともにボルトで取付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項8】
前記移動用部は、中央部に架空送電線を嵌め込む凹部が形成されたローラを有し、かつ治具の下部にX線発生装置を装着して架空送電線にローラを乗せた状態で、前記ローラが鉛直方向を向く様に取付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項9】
前記移動用部は、脱線防止用紐を有し、前記脱線防止用紐は、前記ローラを架空送電線に乗せた状態で、中央の部分は架空送電線の下方に位置し、両端の部分はローラを支持する部材の両端近傍かつ前記脱線防止用紐がローラの反対面側に位置する様に取付けられることを特徴とする請求項8に記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項10】
前記固定用部の架空送電線を把持する部分と、前記移動用部のローラの下方の凹部とは、前記直角を挟む短辺となる2本の梁からの上下方向の高さが同じ位置にあることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項11】
前記移動用部は、前記不等辺直角三角形の2箇所の直角の頂点となる箇所かつ治具の外側に溶接された水平のリングを有していることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項12】
平面形は口字状であり、
天井枠と底枠と架空送電線に直行する方向の側端壁を有し、
天井枠は、前記直角を挟む短辺となる2本の梁、またはこれら2本の梁およびこれら2本の梁と同じ高さに位置する補助の梁から垂下した梁により水平に保持され、
底枠には中央に架空送電線が位置するための切欠きが形成され、さらに4箇所の隅角部には下方からボルトがねじ込まれており、
架空送電線に平行な側面からフイルムの装着および取出しが可能であり、
前記固定用部により治具を架空送電線に固定した状態で、前記装着したフイルムの下面が架空送電線の上端に接する様に調節することが可能であるフイルム装着部を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項13】
前記直角を挟む長辺となる2本の梁の下部かつ前記フイルム装着部から所定の距離の位置に、孔が所定の間隔で上下方向に形成された上下に細長い立板が各1個、前記孔が形成された面が治具の内部側に面する様に配置され、溶接で取付けられている構造のX線発生装置取付け部を有していることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項14】
X線発生装置は、両端を前記2個の上下に細長い立板にボルトで固定された上下2個の横板と、上下を前記上下2個の横板の中央にて固定された垂直板とを使用して治具に固定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項15】
前記2本の下部側梁は、その上部で補助の梁にて相互に補強結合され、前記補助の梁の中央部には治具に取付けられたX線発生装置の落下防止用のロープを固定する鉤が設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。
【請求項16】
前記架空送電線に治具を固定するための固定用部は、
架空送電線の外周を把持して固定するためのクランプと、
前記クランプの架空送電線の外周を把持するための孔よりも小さい外径の架空送電線の外周を把持して固定することが可能である様に、カラーを有していることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれかに記載の架空送電線のX線撮影用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−292508(P2007−292508A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118340(P2006−118340)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【出願人】(501410779)九州電技開発株式会社 (8)
【Fターム(参考)】