説明

染色された布帛の製造方法および染色された布帛

【課題】極細繊維を含みかつ染色された布帛であって、良好な耐光堅牢性を有するだけでなく意匠性にも優れた、染色された布帛の製造方法、および該製造方法により製造された、染色された布帛を提供する。
【解決手段】単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aを含み、かつ織物組織または編物組織を有する布帛を、アントラキノン系染料と紫外線吸収剤とを含む染料レサイプで染色加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維を含みかつ染色された布帛であって、良好な耐光堅牢性を有するだけでなく意匠性にも優れた、染色された布帛の製造方法、および該製造方法により製造された、染色された布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノファイバーと称される単繊維径が1000nm以下の極細繊維を用いた布帛が提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる布帛は、極細繊維特有のソフトな表面タッチを有しているが、かかる布帛を染色した後、カーシート用布帛などとして使用すると、極細繊維に染料が入りにくいため布帛の発色性と耐光堅牢性が十分でないという問題があった。
【0003】
その対策として、例えば特許文献2では、アントラキノン系染料と紫外線吸収剤とを含む染料レサイプで布帛を染色することが提案されている。
しかしながら、かかる方法によれば、布帛の耐光堅牢性が向上するものの、特許文献2に記載された布帛は不織布であるため、意匠性の点で十分なものではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2007−291567号公報
【特許文献2】特開2007−262627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、極細繊維を含みかつ染色された布帛であって、良好な耐光堅牢性を有するだけでなく意匠性にも優れた、染色された布帛の製造方法および染色された布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、極細繊維を含む布帛を、アントラキノン系染料と紫外線吸収剤とを含む染料レサイプで染色加工する際に、布帛として織物組織または編物組織を有する布帛を採用することにより、良好な耐光堅牢性を有するだけでなく意匠性にも優れた染色された布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aを含み、かつ織物組織または編物組織を有する布帛を、アントラキノン系染料と紫外線吸収剤とを含む染料レサイプで染色加工することを特徴とする染色された布帛の製造方法。」が提供される。
【0008】
その際、前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aに撚糸が施されていることが好ましい。また、布帛重量に対して、前記ポリエステルフィラメント糸Aが20〜80重量%含まれることが好ましい。また、前記アントラキノン系染料と非アントラキノン系染料との配合比率が重量比で(前記アントラキノン系染料:非アントラキノン系染料)50:50〜100:0の範囲内であることが好ましい。また、前記アントラキノン系染料と非アントラキノン系染料との合計重量が布帛重量に対して0.25〜6.0重量%の範囲内であることが好ましい。また、前記紫外線吸収剤の重量が布帛重量に対して0.5〜5.0重量%の範囲内であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記の製造方法により製造された染色された布帛が提供される。その際、布帛がカーシート用または椅子張り用またはソファー用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、極細繊維を含みかつ染色された布帛であって、良好な耐光堅牢性を有するだけでなく意匠性にも優れた、染色された布帛の製造方法および染色された布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、まず、単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aを含み、かつ織物組織または編物組織を有する布帛を用意する。
ここで、前記ポリエステルフィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm、特に好ましくは550〜800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、布帛が超極細繊維特有のソフトな風合いを呈さないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0012】
前記ポリエステルフィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、極細繊維特有の風合いを得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ポリエステルフィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0013】
前記ポリエステルフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、優れた意匠性を得る上で長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。特にポリエステルフィラメント糸Aに撚糸が施されていると、布帛の剛性が向上し、また耐摩耗性が向上するため好ましい。その際、撚数としては100T/m以上(特に好ましくは100〜600T/m)であることが好ましい。
【0014】
前記ポリエステルフィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としてはポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。なお、ポリエステル以外のポリアミドなどのポリマーでは、布帛の耐光性や耐摩耗性が損われるため好ましくない。
【0015】
前記ポリエステルフィラメント糸Aは、特開2007−2364号公報に開示されたような、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸であることが好ましい。
【0016】
すなわち、海成分ポリマーとして、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどを用意する。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0017】
一方、島成分ポリマーとして、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルを用意する。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとにおいて、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。
【0018】
次いで、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。その際、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。なお、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。また、海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0019】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。そして、必要に応じて撚糸を施す。
【0020】
かくして得られた海島型複合繊維において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊30〜170dtexの範囲内であることが好ましい。
【0021】
本発明で用いる布帛は前記ポリエステルフィラメント糸Aだけで構成されていてもよいが、前記ポリエステルフィラメント糸Aと他の繊維とで布帛を構成し、布帛重量に対して、前記ポリエステルフィラメント糸Aが20〜80重量%含まれるように設定すると、布帛の剛性が大きくなりカーシート用布帛などとして好適に使用することができ好ましい。
【0022】
ここで、前記他の繊維において、単繊維径が1μmよりも大(好ましくは2〜25μm)の範囲内であることが好ましい。該単繊維径が1μm以下であると布帛の剛性がなくなるおそれがある。また、また加工性や取扱性も低下するおそれがある。逆に該単繊維径が25μmよりも大きいと、極細繊維が有するソフトな風合いが損われるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0023】
前記他の繊維において、フィラメント数は特に限定されないが、1〜300本(好ましくは40〜200本)の範囲内であることが好ましい。また、前記他の繊維の繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0024】
前記他の繊維を形成するポリマーの種類としては、ポリエステル系ポリマーであることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが特に好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0025】
前記のポリエステルフィラメント糸Aと他の繊維とが空気混繊糸などの複合糸として含まれていてもよいし、両者が引き揃えられて含まれていてもよいし、両者が交織または交編されていてもよい。特に、両者が交織または交編されていることが好ましい。両者が交織または交編されていると、染色加工により、単繊維径の小さいポリエステルフィラメント糸Aは淡色に、単繊維径の大きい他の繊維は濃色に染色されるため、優れた意匠性が得られる。
前記布帛は織物組織または編物組織を有することが肝要である。不織布組織の場合、意匠性の点で劣るため好ましくない。
【0026】
ここで、織物と編物の組織は特に限定されず、織物組織であれば、平織、斜文織、サテン織物等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。また、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。特に、ジャガード織物またはジャガード編物が、意匠性の点で特に好ましい。
【0027】
次いで、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、前記海島型複合繊維を単繊維径が10〜1000nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0028】
本発明において、前記布帛に、アントラキノン系染料と紫外線吸収剤を含む染料レサイプで染色加工を施す。その際、他の染料として非アントラキノン系染料も併用すると布帛の発色性が向上し好ましい。
【0029】
ここで、アントラキノン系染料は耐光堅牢性に優れる。一方、非アントラキノン系染料(例えば、アゾ系、メチン系、ナフトプリノン系、キノフタノン系、ソルベント系など)は発色性に優れる。これらの配合比率を最適化することにより、良好な発色性と耐光堅牢性を兼備する染色された布帛が得られる。その際、前記アントラキノン系染料と非アントラキノン系染料との配合比率が重量比で(前記アントラキノン系染料:非アントラキノン系染料)50:50〜100:0(より好ましくは50:50〜95:5)の範囲内であることが好ましい。また、前記アントラキノン系染料と非アントラキノン系染料との合計重量が布帛重量に対して0.25〜6.0重量%の範囲内であることが好ましい。
【0030】
また、前記紫外線吸収剤は布帛の耐光堅牢性を高めるために必要なものであり、その種類としては、ヒンダート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾトリアジン系、ベンゾフェニン系などが好適に例示される。また、染料レサイプに含まれる前記紫外線吸収剤の重量が布帛重量に対して0.5〜5.0重量%の範囲内であることが好ましい。
【0031】
本発明において、前記の布帛を前記染料レサイプで染色加工を施す。その際、前記染料レサイプを用いること以外は、温度条件や使用する助剤など常法でよい。
次いで、必要に応じて、常法のバフ加工、起毛加工、裏面バックコーテイング、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0032】
また、かかる布帛において、目付けが100〜700gr/m(より好ましくは150〜650gr/m)の範囲内であることが好ましい。該目付けが100gr/mよりも小さいと剛性が小さくなりカーシート用布帛などとして使用できないおそれがある。逆に、該目付けが700gr/mよりも大きいと、目付けが大きすぎるためカーシートなどを作製する際の取扱い性が損われるおそれがある。
【0033】
かくして得られた染色された布帛は、単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aを含んでいるので極細繊維特有のソフトな風合いを呈する。また、織物組織または編物組織を有するので意匠性にも優れる。さらには、アントラキノン系染料と紫外線吸収剤とを含む染料レサイプで染色加工されているので、良好な耐光堅牢性を有する。また、染料レサイプに非アントラキノン系染料が含まれる場合には、布帛が良好な発色性を呈する。
【0034】
かかる布帛は、極細繊維を含みかつ染色された布帛であって、良好な耐光堅牢性を有するだけでなく意匠性にも優れているので、カーシート用布帛または椅子張り用布帛またはソファー用布帛などとして好適に使用される。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<溶解速度>
海・島ポリマーの各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
<風合い>
布帛表面の風合いを試験者3人が官能評価し、3級:超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する、2級:普通、1級:超極細繊維特有の風合いを呈さない、の3段階に評価した。
<意匠性>
意匠性を試験者3人が目視判定し、3級:経糸と緯糸の色差が異なり意匠性に優れる、2級:普通、1級:意匠性に劣る、の3段階に評価した。
<耐光堅牢性>
JIS L0843 B法(キセノンアーク法準用、38サイクル)で測定し、判定はJIS L0804の変退色用グレースケールにて行った。3級以上が合格である。
ここで言う1サイクルは、明サイクル(ブラックパネル温度89±3℃、相対湿度50±5%、サイクル時間3.8時間)と暗サイクル(ブラックパネル温度38±3℃、相対湿度95±5%、サイクル時間1.0時間)を繰り返し行うことである。
<単繊維径>
布帛を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0036】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットしてポリエステルフィラメント糸A用海島型複合延伸糸として巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
次いで、該延伸糸を4本引きそろえて撚糸糸条(Z方向、250T/m)とし、スナール対策として温度70℃、時間30分の熱セットを行い経糸とした。
一方、他の繊維としてポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(総繊度167dtex/48fil、帝人ファイバー社製、単繊維径18μm)を用意し、緯糸とした。
【0037】
次いで、前記経糸と緯糸を使用して、常法により経密度162本/2.54cm、緯密度90本/2.54cmで平組織織物を製織した。
次いで、織り上がった生機を、50g/リットルの NaOH水溶液で80℃×20分で30%の減量加工を行うことにより、前記海島型複合延伸糸を単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aとした後、下記の染料レサイプで染色加工を行った。
アゾ系・キノン系配合(50:50) Harmony Light Yellow HAL 1.05%
アントラキノン系 Harmony Light Red MS-4 0.63%
アントラキノン系 Harmony Light Blue HAL 1.36%
紫外線吸収剤 サンライフ LPX50 1.00%
アゾ系:キノン系=17.3:82.7
ここで、アゾ系とは非アントラキノン系染料のことであり、キノン系とはアントラキノン系染料のことである。
【0038】
染色後、乾燥し、150℃で熱セットを行い、その後、表面加工としてバフ加工を行った。そして最後にほつれ防止のための、裏面にアクリル樹脂を使用してバックコーテイングをおこない、カーシート用布帛を得た。その際、バックコーテイング時のアクリル樹脂量は100g/mであった。
得られた布帛において、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する(3級)ものであった。また、経糸と緯糸の単繊維径が異なるため色差が異なり、意匠性に優れていた(3級)。また、耐光堅牢性は3級と耐光堅牢性性に優れるものであった。目付けは300g/mであった。また、得られた布帛において、全繊維重量200g/m中、単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aが63重量%含まれ、他の繊維は37重量%含まれていた。また、他の繊維の単繊維径は18μmであった。
次いで、前記布帛を用いてカーシートを作製したところ、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する(3級)ものであり、また、意匠性に優れていた(3級)。また、加工性も良好であった。
【0039】
[実施例2]
実施例1において、染料レサイプを下記のように変更すること以外は実施例1と同様にした。
アゾ系・キノン系配合(50:50) Harmony Light Yellow HAL 2.13%
アントラキノン系 Harmony Light Red MS-4 0.59%
アントラキノン系 Harmony Light Blue HAL 0.29%
紫外線吸収剤 サンライフ LPX50 1.00%
アゾ系:キノン系=35.4:64.6
得られた布帛において、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する(3級)ものであった。また、経糸と緯糸の単繊維径が異なるため色差が異なり、意匠性に優れていた(3級)。また、耐光堅牢性は3級と耐光堅牢性性に優れるものであった。目付けは300g/mであった。また、得られた布帛において、全繊維重量200g/m中、単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸Aが63重量%含まれ、他の繊維は37重量%含まれていた。また、他の繊維の単繊維径は18μmであった。
次いで、前記布帛を用いてカーシートを作製したところ、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する(3級)ものであり、また、意匠性に優れていた(3級)。また、加工性も良好であった。
【0040】
[比較例1]
実施例1において緯糸に用いた、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(総繊度167dtex/48fil、帝人ファイバー社製、単繊維径18μm)を経糸および緯糸に配すること以外は実施例1と同様にした。
得られた布帛において、意匠性は普通(2級)であり、超極細繊維特有の風合いを呈さないもの(1級)であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、極細繊維を含みかつ染色された布帛であって、良好な耐光堅牢性を有するだけでなく意匠性にも優れた、染色された布帛の製造方法、および該製造方法により製造された、染色された布帛が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aを含み、かつ織物組織または編物組織を有する布帛を、アントラキノン系染料と紫外線吸収剤とを含む染料レサイプで染色加工することを特徴とする染色された布帛の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1に記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸である、請求項1または請求項2に記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステルフィラメント糸Aに撚糸が施されている、請求項1〜3のいずれかに記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項5】
布帛重量に対して、前記ポリエステルフィラメント糸Aが20〜80重量%含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項6】
前記染料レサイプに、他の染料として非アントラキノン系染料も含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項7】
前記アントラキノン系染料と非アントラキノン系染料との配合比率が重量比で(前記アントラキノン系染料:非アントラキノン系染料)50:50〜100:0の範囲内である、請求項1〜6のいずれかに記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項8】
前記アントラキノン系染料と非アントラキノン系染料との合計重量が布帛重量に対して0.25〜6.0重量%の範囲内である、請求項1〜7のいずれかに記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤の重量が布帛重量に対して0.5〜5.0重量%の範囲内である、請求項1〜8のいずれかに記載の染色された布帛の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載された製造方法により製造された染色された布帛。
【請求項11】
布帛がカーシート用または椅子張り用またはソファー用である、請求項10に記載の染色された布帛。

【公開番号】特開2010−126853(P2010−126853A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304347(P2008−304347)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】