説明

染色プラスチックレンズの製造方法

【課題】色ムラが低減ないしは抑制された高品質な染色レンズを得ることができる染色プラスチックレンズの製造方法の提供。
【解決手段】所定の間隔をもって対向する2つのモールド11,12と、上記間隔を閉塞することにより形成されるキャビティ14を有する成形型の上記キャビティへ熱硬化性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入すること、上記キャビティ内でプラスチックレンズ原料液を加熱し前記熱硬化性成分の硬化反応を行いプラスチックレンズを得ること、上記プラスチックレンズを成形型から離型すること、および、離型されたプラスチックレンズを染色すること、を含む染色プラスチックレンズの製造方法。重合収縮率が65%以上に硬化反応が進行した後かつ前記染色前に、前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃以上の温度に、プラスチックレンズを加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色プラスチックレンズの製造方法に関するものであり、より詳しくは、染色ムラが低減された高品質な染色プラスチックレンズを得ることができる染色プラスチックレンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックはガラスと比べて軽量で割れにくいという利点を有するため、眼鏡レンズ等のレンズ素材として広く用いられている。近年、市場に流通するプラスチックレンズの多くは、ファッション性、遮光性付与等を目的として染色が施されている。
【0003】
プラスチックをレンズ形状に成形してプラスチックレンズを得る方法としては、成形型内でプラスチックレンズ原料液の重合を行う注型重合法が挙げられる。しかし、注型重合法により成形されたプラスチックレンズに染色を施すと、染色ムラが起こり得られるレンズの品質が低下するという問題があった。
【0004】
染色ムラ低減手段として、例えば特許文献1には、注型重合後にプラスチックレンズを成形型から取り出す離型工程において、プラスチックレンズを40℃以上ガラス転移点以下に加熱することが提案されている。一方、特許文献2には、染色プラスチックレンズの色抜けや変色防止、耐光性向上を目的として、染色したプラスチックレンズをアニールすることが提案されている。
【特許文献1】特開2002−113726号公報
【特許文献2】特開2000−273773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし離型工程で加熱処理を施す特許文献1に記載の方法は、加熱状態で離型するための特別な加熱装置が必要である、ワークが高温になるため手作業での離型が困難である、といった問題がある。一方、特許文献2に記載の方法は染色工程後に加熱処理を施すため、変色や染料の色持ち低下が起こるおそれがある。
【0006】
そこで本発明の目的は、色ムラが低減ないしは抑制された高品質な染色レンズを得ることができる染色プラスチックレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、注型重合において所定の段階まで重合反応が進行した後かつ染色前に、プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃以上の温度での加熱処理を行うことにより、色ムラの低減された高品質な染色プラスチックレンズが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されるキャビティを有する成形型の、上記キャビティへ熱硬化性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入すること、
上記キャビティ内でプラスチックレンズ原料液を加熱し前記熱硬化性成分の硬化反応を行いプラスチックレンズを得ること、
上記プラスチックレンズを成形型から離型すること、および、
離型されたプラスチックレンズを染色すること、
を含む染色プラスチックレンズの製造方法であって、
前記加熱を、前記硬化反応における重合収縮率が65%未満までは前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃未満の温度で行い、
重合収縮率が65%以上に硬化反応が進行した後かつ前記染色前に、前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃以上の温度に、プラスチックレンズを加熱することを更に含むことを特徴とする染色プラスチックレンズの製造方法。
[2]Tg+20℃以上の温度での加熱は、0.08〜2時間の範囲の加熱時間で行われる[1]に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
[3]前記加熱時間は、0.5〜2時間の範囲である[2]に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
[4]Tg+20℃以上の温度での加熱は、前記キャビティ内のプラスチックレンズに施される[1]〜[3]のいずれかに記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
[5]Tg+20℃以上の温度での加熱は、上記2つのモールドと密着した状態のプラスチックレンズに施される[1]〜[3]のいずれかに記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、色ムラの低減された染色プラスチックレンズを得ることができる。更に本発明によれば、黄変がなく耐候性も良好な、高品質な染色プラスチックレンズを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、以下の工程を含む染色プラスチックレンズの製造方法に関する。
(1)所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されるキャビティを有する成形型の、上記キャビティへ熱硬化性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入すること(以下、「注入工程」ともいう)、
(2)上記キャビティ内でプラスチックレンズ原料液を加熱しプラスチックレンズを得ること(以下、「重合工程」ともいう)、
(3)上記プラスチックレンズを成形型から離型すること(以下、「離型工程」ともいう)、および、
(4)離型されたプラスチックレンズを染色すること(以下、「染色工程」ともいう)。
本発明の染色プラスチックレンズの製造方法では、前記重合工程における加熱を、硬化反応における重合収縮率が65%未満までは前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃未満の温度で行い、更に、重合収縮率が65%以上に硬化反応が進行した後かつ前記染色前に、前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃以上の温度に、プラスチックレンズを加熱する。
【0011】
重合工程における加熱温度を高温にするほど重合反応が迅速に進行するが、過度に高温にするとプラスチックレンズ原料液の対流により、成形されるレンズ内に脈理が生じるおそれがある。また、過度に高温に加熱することは、プラスチックレンズの黄変の原因にもなり得る。このため、従来、注型重合時の加熱温度は、プラスチックレンズのガラス転移温度Tg以下、またはTgをわずかに超える温度に設定されていた。
しかし本発明者らの検討の結果、上記温度で注型重合したプラスチックレンズは、染色後に色ムラが発生する確率が高いことが判明した。この理由について本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、上記温度で注型重合したプラスチックレンズの色ムラは、プラスチックレンズの表面に不均一な部分が存在することに起因して発生するとの新たな知見を得た。そこで本発明者らは上記知見に基づき更に検討を重ね、原料液の対流による脈理が発生しないほど硬化反応が進行した後、高温での加熱処理を行うことにより染色ムラのない染色プラスチックレンズが得られることを見出した。本発明者らは、この理由は、高温加熱によりレンズ表面の均一性が高まったことにあると推察している。更に上記加熱を行うことは、レンズの耐候性向上にも有効であることも判明した。
以下、本発明の染色プラスチックレンズの製造方法の各工程について、更に詳細に説明する。
【0012】
(1)注入工程
本工程は、注型重合によりレンズ形状の成形体を得るため、成形型内へプラスチックレンズ原料液を注入する工程である。本発明において使用される成形型は、所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されるキャビティを有する成形型であればよく、通常の注型重合で使用される成形型を何ら制限なく使用することができる。上記間隔は、円筒状のガスケットによって閉塞してもよく、ガスケットの代わりに粘着テープを2つのモールドの側面に巻きつけることによって閉塞してもよい。以下、図1に基づいて本発明において使用可能な成形型について説明するが、本発明において使用される成形型は図1に示す態様に限定されるものではない。
【0013】
図1中、レンズ鋳型10は、レンズの前面(凸面)を形成すべく凹面側に成形面を有する凹面型である第一モールド11、レンズの後面(凹面)を形成すべく凸面側に成形面を有する凸面側に成形面を有する第二モールド12、および円筒状のガスケット13が両モールドの端面を取り囲むことによって内部にキャビティ14が形成されている。ガスケット13は、ガスケットの外周ホルダーとして機能し、レンズの厚さを決める役割を果たす。
【0014】
第一モールドおよび第二モールドは、製造治具にて取り扱い可能な非転写面(非使用面17)とレンズの光学表面を転写させるための転写面(使用面16)を有する。使用面16はレンズの光学面形状および表面状態を転写する面である。
【0015】
前記成形型のキャビティへ注入されるプラスチックレンズ原料液は、熱硬化性成分を含むものであり、通常プラスチックレンズ基材を構成する各種ポリマーの原料モノマー、オリゴマーおよび/またはプレポリマーを含むことができ、共重合体を形成するために2種以上のモノマーの混合物を含むことができる。レンズ原料液には、必要があればモノマーの種類に応じて選択した触媒を添加することもできる。また、レンズ原料液には、通常使用される各種添加剤を含むこともできる。
【0016】
前記プラスチックレンズ原料液の具体例としては、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリウレタンとポリウレアの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド樹脂、硫黄を含むビニル重合体等を重合可能な原料液が挙げられる。上記中、ウレタン系が好適であるが、これらに限定されるものではない。キャビティへのプラスチックレンズ原料液の注入は、通常の注型重合と同様に行うことができる。
【0017】
(2)重合工程
本工程は、前述の注入工程でキャビティ内へ注入されたプラスチックレンズ原料液を加熱することにより、熱硬化性成分の重合反応(硬化反応)を進行させてレンズ形状の成形体を得る工程である。本発明の製造方法では、重合工程における加熱を、硬化反応における重合収縮率が65%未満まではプラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃未満の温度で行う(以下、「第1加熱処理工程」ともいう)。これは、重合収縮率が65%未満と硬化度が十分ではなく流動性を有するプラスチックレンズ原料液をTg+20℃以上に加熱すると、プラスチックレンズ原料液の対流が起こり、成形されるプラスチックレンズ内に脈理が生じるおそれがあるからである。Tg+20℃未満の加熱温度は、好ましくはTg+12℃の範囲である。上記加熱時間は、適宜設定すればよい。
【0018】
前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tgは、プラスチックレンズ原料液の重合反応が完全に進行するに十分な条件で加熱処理を施し得られた重合体について測定されるガラス転移温度をいうものとする。ガラス転移温度は、TMA法により、またはJIS K7196もしくはJISC6481に規定の方法により測定することができる。本発明では、TMA法により測定されるガラス転移温度を用いることが好ましい。以下、TMA法によるガラス転移温度の測定方法を説明する。
(TMA法)
針入プローブ(先端径0.5〜1.0mm)に、98mNの荷重を加えて試料の変位を測定することでガラス転移点を測定する。測定はφ5mm×3mmの試料を室温から10℃/分の割合で昇温させて、熱機械分析装置で試料の変位を測定することで行う。通常試料は昇温に伴う熱膨張により大きくなる。ところがガラス転移点付近では測定値は試料が膨張から収縮に転じることを示すことがある。これは試料が荷重に耐え切れなくなり前記針入プローブが試料にめり込んだ時に起こる現象であり、このピークトップ温度をガラス転移温度Tgとする。ピークトップが明確でない場合はピークトップ付近の測定値前後の接線が交差する点の温度をガラス転移温度とする。
【0019】
Tg+20℃以上の加熱処理
本発明の製造方法では、重合工程において重合収縮率が65%以上になるまで硬化反応が進行した後であって染色工程前に、Tg+20℃以上の加熱処理(以下、「第2加熱処理工程」ともいう)を行う。第2加熱処理工程は、重合工程終了前に行うことが好ましい。または、重合が完了し、離型工程前の冷却後または保温後のレンズに、Tg+20℃以上の加熱を加えることも好適である。レンズTg+20℃以上の加熱処理を施すことにより、後工程である染色工程における色ムラを低減ないしは防止できることが、本発明者らの検討の結果、新たに見出された。但し、重合反応初期に上記温度で加熱するとプラスチックレンズ原料液の対流による脈理発生のおそれがある。そこで本発明では、本加熱工程を、重合工程において重合収縮率が65%以上になるまで硬化反応が進行した後に開始する。重合収縮率が65%以上になるほど硬化が進行した状態であれば、Tg+20℃以上の加熱処理を施しても脈理の原因となる対流が生じないため、脈理防止と色ムラ低減を両立することができる。また、本加熱工程における加熱温度が過度に高いと、プラスチックレンズが黄変するおそれがあるため、本加熱処理における加熱温度の上限は、例えばTg+50℃とすることができる。但し、染料に補色となる青色染料を多く調合すること(いわゆるブルーイング)により色調整を行い黄変を補正することが可能であるため、Tg+50℃超の温度で加熱する際には黄変補正のための色調整を行うことが好ましい。なお、高濃度染色レンズ(好ましくは視感透過率50%以上の染色レンズ)の場合は高濃度染色により黄変自体が目立たなくなるためその限りではない。前記加熱温度は、好ましくはTg+22℃〜Tg+28℃の範囲である。また、前記加熱を開始するタイミングは、重合収縮率が65%以上になった後であればよく、重合収縮率が70%以上になった後であることが好ましい。前記加熱は、重合収縮率が例えば85%以下、好ましくは80%以下の状態で開始することが効果的である。
【0020】
前記重合収縮率は、実生産おいて使用する成形型を使用し、キャビティ内の重合体の中心肉厚について、キャビティ中心部の幅を0%、キャビティ中心部の幅から、重合反応を完全に進行させて得られた重合体の中心肉厚を引いた値を100%として求められる値をいうものとする。Tg+20℃以上の加熱処理を開始するタイミングを決定するために、予備成形を行い重合反応進行中のキャビティ内の重合体肉厚を段階的に測定し、使用する重合条件における加熱温度または経過時間と重合収縮率との関係を予めデータベース化してもよい。または、実生産において重合工程中のキャビティ内の重合体の肉厚を、ダイヤルシックネスゲージ等によりモニタリングして前記加熱処理を開始するタイミングを決定してもよい。
【0021】
上記加熱処理は、Tg+20℃未満の温度での加熱処理後、該加熱処理に引き続きキャビティ内のプラスチックレンズに施してもよく、離型工程において成形型の一部または全部を除去したプラスチックレンズに施してもよい。例えば、重合工程後、成形型からガスケットまたは粘着シールを除去し2つのモールドと密着したプラスチックレンズに対して前記加熱処理を行うこともできる。例えば、生産性を低下することなく色ムラを低減するためには、重合のための加熱に引き続き処理を行うことができる前者が好ましい。一方、染色品の受注が比較的少ない場合は、前述のTg+20℃未満の温度での加熱により硬化反応を施したプラスチックレンズを量産・保管し、受注に応じて保管レンズの中から染色用のプラスチックレンズをピックアップして染色前処理としてTg+20℃以上の加熱を加えることが好適である。
【0022】
上記のTg+20℃以上での加熱の加熱時間は、使用するプラスチックレンズ原料液の種類にもよるが、一般に、0.08〜2.0時間の範囲とすることが好ましく、0.5〜2.0時間の範囲とすることがより好ましく、1.0〜1.5時間の範囲とすることが更に好ましい。上記範囲内であれば、生産性を低下することなく色ムラを低減することができる。
【0023】
(3)離型工程
本工程では、重合工程により得られたレンズ形状の重合体(プラスチックレンズ)を成形型から離型する。離型は、注型重合によってプラスチックレンズを製造する際、通常行われる方法で行うことができる。なお、成形型を構成するガスケットの耐熱温度が、上記のTg+20℃以上の加熱温度より低い場合には、ガスケットを取り除いた後に上記温度での加熱を行うことが好ましい。ここで、上下モールドの一方または両方がプラスチックレンズ上にある状態で上記加熱を行ってもよく、上下モールドを除去した後に上記加熱を行ってもよい。
【0024】
(4)染色工程
本工程では、上記工程で得られたプラスチックレンズを染色し、染色プラスチックレンズを得る。染色方法としては、染色剤を含む染料液(染浴)中にプラスチックレンズを浸漬する方法が好適である。上記染料液は、好ましくは染料を含有する水溶液である。使用する染料は、得られる染色プラスチックレンズの用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば分散染料を挙げることができる。分散染料としては、分散染料としては、アンスラキノン系やアゾ系等の分散染料、具体的にはC.Iディスパーズイエロー3、4、5、7、33、42等、C.Iディスパーズオレンジ1、3、11等、C.Iディスパーズレッド1、4、5、11、17、58等、C.Iディスパーズブルー1、3、7、43等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの染料は、所望の色にプラスチックレンズを染色できるように、単独又は2種以上配合して使用される。染浴中の染料濃度は、所望の色調に応じて設定すればよいが、通常約1〜20g/リットルの範囲である。一般に、染料濃度が高くなるほど色ムラが顕在する傾向があるが、本発明によれば色ムラを効果的に低減できるため、本発明の方法は、特に染色濃度として視感透過率が50〜80%以上の染色レンズを得る方法として好適である。
【0025】
染浴へは、染料のほかに界面活性剤、染色促進剤などの添加剤を必要に応じて添加することもできる。上記添加剤については、例えば特開2003−177204号公報を参照できる。
【0026】
前記染浴中にプラスチックレンズを所定時間浸漬して染色を行うことができる。染色の温度および時間は、必要とする染色濃度に応じて適宜変更することができるが、通常は70〜95℃で1分〜1時間程度である。
【0027】
上記染色工程後、得られたレンズはそのまま製品レンズとして出荷することもできるが、公知の方法で、ハードコート層、反射防止層等の機能性層を積層することももちろん可能である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0029】
1.重合収縮率の測定
上型、下型および筒状のガスケットを図1に示すように組み合わせ、内部にキャビティを有する成形型を組み立てた。
上記キャビティ内に熱硬化性ウレタン系モノマーを含むプラスチックレンズ原料液を注入し、完全重合品が得られる条件で加熱重合し、得られたプラスチックレンズの中心肉厚(以下、t0という)を測定した。
その後、後述の実施例で使用する昇温プログラム(室温から昇温開始)の途中段階で加熱を終了して得られた重合体の中心肉厚を測定する操作(t1、t2、t3、…)を繰り返した。成形型のキャビティ中心部の幅(以下、tという)からt0を引いた値(t−t0)を重合収縮率100%とし、測定した各中心肉厚(t1、t2、t3、…)から、加熱重合プログラムの途中における重合収縮率を求めたところ、加熱温度70℃において重合収縮率が65%、80℃で重合収縮率が72%になった。
【0030】
2.ガラス転移温度の測定
上記1.で作製した完全重合品について、TMA法によりガラス転移温度を測定したところ、Tg=88℃であった。
【0031】
[実施例1]
上記と同様の成形型のキャビティへ、上記と同様のプラスチックレンズ原料液を注入し、所定の昇温プログラムでキャビティ内の原料液を加熱し、重合反応を進行させた。加熱温度が80℃に達した後、キャビティ内の温度を110℃(Tg+22℃)に昇温し、110℃に2時間保持した。その後、成形型から成形体を取り出しプラスチックレンズを得た。
次いで、分散染料と界面活性剤とを所定量含有する染浴を調製し、染色温度に保ち、ついで染色促進剤として予め染色温度と同じ温度の水に溶かしたベンゾフェノン系化合物を所定量添加して染浴を調製した。前記染浴中に、得られたプラスチックレンズを所定時間浸漬して染色を行った。染色の温度および時間は、必要とする染色濃度によって適宜変更することができ、通常は70〜95℃で1分〜1時間程度である。なお染浴中に加圧を行い圧力を加えた状態での染色も好適である。尚、ベンゾフェノン系化合物は、水に対する溶解性が非常に低い。そのため、使用に際し予めベンゾフェノン系化合物を染浴温度と同じ温度の水に溶かした液を一定量染浴に添加した。または、少量の有機溶媒にベンゾフェノン系化合物を溶かしたものを一定量染浴に添加することもできる。なお、ベンゾフェノン系化合物の使用量は、使用するベンゾフェノン系化合物等により適宜決定することができ、例えば染浴1リットル当たりベンゾフェノン系化合物の染色温度での飽和水溶液10〜300mlとすることが好ましい。ベンゾフェノン系化合物の使用量が染浴1リットル当たり10ml以上であれば、染色促進剤としての効果を効果的に得ることができる。ただしベンゾフェノン系化合物の使用量を染浴1リットル当たり300ml以上としても染色促進剤としての効果は頭打ちとなる。
以上の工程により、染色プラスチックレンズを得た。
【0032】
[実施例2]
110℃での保持時間を1時間に変更した点以外は実施例1と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0033】
[実施例3]
加熱温度を120℃(Tg+32℃)にした点以外は実施例1と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0034】
[実施例4]
加熱温度を120℃(Tg+32℃)にした点以外は実施例2と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0035】
[実施例5]
加熱温度を120℃(Tg+32℃)にて3時間保持した点以外は実施例1と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0036】
[実施例6]
加熱温度を110℃(Tg+32℃)にて3時間保持した点以外は実施例1と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0037】
[実施例7]
加熱温度を100℃(Tg+32℃)にて3時間保持した点以外は実施例1と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0038】
[実施例8]
加熱温度を140℃(Tg+52℃)にて5分間保持した点以外は実施例1と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0039】
[比較例1]
加熱温度110℃を100℃(Tg+12℃)にした点以外は実施例1と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0040】
[比較例2]
加熱温度110℃を100℃(Tg+12℃)にした点以外は実施例2と同様の方法により染色プラスチックレンズを得た。
【0041】
評価方法
(1)色ムラの評価
以下の評価基準により、色ムラの有無および程度を評価した。結果を表1に示す。
◎:目視で色ムラ識別不可
○:短時間呈示(0.5秒以内での目視による識別)では色ムラ識別不可
×:目視で色ムラ識別可能
【0042】
(2)黄変の評価
黄変の測定は、JIS K7103−1977に規定されているプラスチック黄色度および黄変度試験方法に準じて測定した。測定装置としては、日立製分光光度計U−4100を使用した。結果を表1に示す。例えばYI値が1.7以下であれば、色調整なしに眼鏡レンズとして使用可能なプラスチックレンズと判断することができる。実施例3〜8は、YI値が1.7を超えたが、これらの場合は色調整により黄変を補正可能である。または高濃度染色を施すことにより黄変自体を目立たなくすることもできる。
【0043】
(3)脈理の有無
実施例1〜8で得られたレンズについて脈理の有無を目視により確認したところ、いずれも脈理は観察されず光学的に均質であった。
【0044】
【表1】

【0045】
[実施例9]
実施例1と同様の方法で72枚の染色レンズを量産し、上記方法により各染色レンズの色ムラを評価したところ、すべての染色レンズについて、評価結果「◎」であり良品率は100%であった。
【0046】
[比較例3]
比較例1と同様の方法で72枚の染色レンズを量産し、上記方法により各染色レンズの色ムラを評価したところ、評価結果「◎」となった染色レンズは15枚であり良品率は15%と実施例3と比べて大幅に低下した。
【0047】
耐候性の評価
実施例9、比較例3で作製した染色レンズから、それぞれ1枚の染色レンズを抽出し、Xenonウェザーメーターにて200時間の暴露試験を実施した。暴露試験後に上記の方法でYI値を測定した。
【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の染色レンズは、色ムラが低減ないしは抑制されているため、眼鏡レンズとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明において使用可能な成形型の一例を示す概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されるキャビティを有する成形型の、上記キャビティへ熱硬化性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入すること、
上記キャビティ内でプラスチックレンズ原料液を加熱し前記熱硬化性成分の硬化反応を行いプラスチックレンズを得ること、
上記プラスチックレンズを成形型から離型すること、および、
離型されたプラスチックレンズを染色すること、
を含む染色プラスチックレンズの製造方法であって、
前記加熱を、前記硬化反応における重合収縮率が65%未満までは前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃未満の温度で行い、
重合収縮率が65%以上に硬化反応が進行した後かつ前記染色前に、前記プラスチックレンズのガラス転移温度Tg+20℃以上の温度に、プラスチックレンズを加熱することを更に含むことを特徴とする染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
Tg+20℃以上の温度での加熱は、0.08〜2時間の範囲の加熱時間で行われる請求項1に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
前記加熱時間は、0.5〜2時間の範囲である請求項2に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
Tg+20℃以上の温度での加熱は、前記キャビティ内のプラスチックレンズに施される請求項1〜3のいずれか1項に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
Tg+20℃以上の温度での加熱は、上記2つのモールドと密着した状態のプラスチックレンズに施される請求項1〜3のいずれか1項に記載の染色プラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−262480(P2009−262480A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116996(P2008−116996)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】