染色眼用レンズの製造方法及びそれにより得られる染色眼用レンズ
【課題】乾燥状態の眼用レンズに対し、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく、染料をレンズ基材内部に容易かつ確実に浸透させることができる染色眼用レンズの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有することを特徴とする。上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有するとよい。
【解決手段】[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有することを特徴とする。上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有するとよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は染色眼用レンズの製造方法及びそれにより得られる染色眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズの分野、とりわけコンタクトレンズにおいて、その製造、流通、販売等の際にコンタクトレンズの度数などの規格を識別し、管理するために、レンズの一部に規格を表す数字などを印刷することが行われている。また、使用者がレンズの表裏を判別し易いように、同様に数字、文字、図形などを印刷表示することも行われている。さらに、疾病や傷害などによって眼の虹彩を欠損した患者に対し、整容性の観点から、コンタクトレンズに人の眼の虹彩の色や形状を模した印刷を施すことによって自然な外見が得られるコンタクトレンズが用いられることもある。またファッション性の観点から、虹彩の色を変えたコンタクトレンズも需要が多い。このように眼用レンズにマークや染色を施すことは、レンズの製造における重要な要素となっている。
【0003】
このような眼用レンズの染色は、顔料や染料を溶剤などに分散あるいは溶解させた染色液を、レンズ表面に塗布等することによって行われている。このうち顔料の場合は、一般的に溶剤には溶解しないので、これを微粉末化した粒子を溶剤に分散させた染色液が用いられる。しかし、このような顔料粒子は眼用レンズ基材を構成する高分子の網目の大きさよりかなり大きいので、レンズ基材の内部に浸透できず、レンズ表面に脆弱に付着するだけに留まり、レンズ表面に凸部が形成される。かかる凸部の存在はたとえ微小なものであっても、目に直接接触するコンタクトレンズなどにおいては、眼に物理的ないし生理学的な悪影響を及ぼし、あるいは障害を与えるおそれがあり、またそのような凸部は摩擦等により容易に剥離することが多く、剥離した粒子がさらに眼を傷つける等の二次的な障害を招来するおそれがある。
【0004】
一方、染料の場合は通常、溶剤に溶解させた染色液を用いて染色が行われる。染料は顔料の場合と異なり、分子サイズで溶剤中に存在しているので、極度に大きな分子でない限り、レンズ基材の高分子網目の中へ浸透させることは可能である。しかし、染料分子をレンズ基材に完全に浸透させることは難しく、実際には、染料がレンズ表面に析出したり残渣として残ることが多い。特に、鮮鋭で高コントラストの染色印刷物を得る目的で、高濃度の染色液を用いる場合には、この現象は顕著に発生する。このような染料の析出物や残渣の発生は、顔料の場合と同様、眼用レンズ表面の凸部となり、またその剥離のおそれがある。
【0005】
このように染色の際に発生したレンズ表面の凸部を除去する方法としては、例えば、レンズ染色後にレンズ面を研磨加工する方法(特開平5−257096号公報参照)などが開発されている。しかし、このように凸部を平滑化したり、あるいは染料の析出物や残渣を洗浄により除去するためには新たな工程が必要となり、製造方法が煩雑になる上コストの増大等を招くことになる。
【0006】
従って、染色の際に染料の析出物等が発生することのない方法が求められている。これを達成する具体案としては、予め眼用レンズ基材を溶媒で膨潤させておき、その後染色液を浸透させる方法が知られている(例えば、特公昭64−10045号公報、特開昭63−264719号公報、特開平4−270312号公報等参照)。また、乾燥状態の含水性コンタクトレンズにインクジェット式塗布装置によって染色液を塗布する際に、微小ノズルから少量の水を前もってあるいは同時に噴霧してレンズ基材を膨潤させる方法も知られている(特開平8−112566号公報参照)。これらの方法を採用することにより、レンズ基材の高分子網目がすでに溶媒によって膨潤している状態で染色液が塗布されるため、乾燥状態のレンズ基材に塗布する場合と比較して、染料分子はより速く浸透する傾向にある。その結果、染料の浸透を完結、あるいはそれに近い状態まで進めることができ、レンズ表面での染料の析出等を効果的に防止することができる。
【0007】
しかし、当該方法は一方で以下の不都合を有する。すなわち、(1)膨潤したレンズ基材は機械的強度が低下しているため、染色等の諸工程において破損等が増加し、生産性の低下を招く。またその対策のために、非常に慎重な操作が要求され、特殊な取扱い装置や器具が必要となり、製造コストの増大を招く。(2)予め膨潤させることで、レンズ基材中での染料の拡散が過度に促進されるため、所望の部位以外の場所に染料の拡散が起こり易くなる。その結果、得られる染色印刷物において滲みが発生し易くなり、そのため、鮮鋭な文字や記号の印刷が困難になるおそれがある。
【0008】
このように予めレンズ基材を膨潤させる方法は種々の不都合を有するため、眼用レンズを乾燥状態のままで染色する方法が検討されており、例えば、昇華性染料を用い、染料を昇華させてレンズ基材内部へ浸透させ染色を行う方法(特開2004−38107号公報参照)などが知られている。しかし、当該方法では、使用可能な染料が昇華性を有する特殊なものに限定される上、昇華した染料が所望の部位以外にも付着してしまうという問題点を有する。そのため、所望部位以外の場所をマスキングしたり、あるいは水溶性ポリマー等の助剤を塗布して染色部位を限定するなど、余分な工程や特殊な方法が必要であり、製造工程が煩雑化するという不都合を有している。
【0009】
このように眼用レンズを染色液で染色する方法において、乾燥状態の眼用レンズに対しレンズ表面に染料の析出物や残渣を発生させることなく染料をレンズ基材内部へ浸透させることができる方法は、今のところ存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−257096号公報
【特許文献2】特公昭64−10045号公報
【特許文献3】特開昭63−264719号公報
【特許文献4】特開平4−270312号公報
【特許文献5】特開平8−112566号公報
【特許文献6】特開2004−38107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上のような不都合を解消するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、乾燥状態の眼用レンズに対し、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく、染料をレンズ基材内部に容易かつ確実に浸透させることができ、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去やレンズ表面凸部の平滑化を行う工程などを必要としない染色眼用レンズの製造方法及びそれにより得られる染色眼用レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、染色液を乾燥状態の眼用レンズ表面に接触させる際に眼用レンズに熱を付与することによって、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく染料を浸透させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題を解決させるためになされた発明は、
[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、
上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、
上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有することを特徴とする。
【0014】
当該染色眼用レンズの製造方法によれば、染色液を乾燥状態の眼用レンズ表面に接触させるより前及び/又は同時の段階において、眼用レンズに熱を付与することによって、染料の浸透の初期段階から、染料のレンズ基材内部への浸透速度が向上し、また、染色液中における染料の溶解性が確保されるので、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく、染料をレンズ基材内部に確実に浸透させることができる。従って、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、レンズ表面に染料の析出物や残渣からなる凸部をほとんど有さない、安全で信頼性の高い染色眼用レンズを得ることができる。また、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、染料の析出物や残渣の発生を抑制できるため、これらを染色後に除去するための洗浄工程や、凸部を平滑化するための工程が不要となる。従って、簡便かつ安価に染色眼用レンズを提供することができる。さらに当該染色眼用レンズの製造方法によれば、乾燥状態の眼用レンズを染色することができるので、予め眼用レンズを膨潤させておく工程等も不要になり、染色眼用レンズの製造工程を大幅に簡略化することができる。また、染料の浸透の初期段階から、染料分子のレンズ基材内部における拡散速度がより高くなることで、より鮮鋭で滲みのない染色印刷物を得ることができる。
【0015】
なお上記染料の析出や残渣発生の抑制は、染色液をレンズ表面に接触させる際の上記段階において、眼用レンズに熱を付与することで、眼用レンズ自体及びレンズ表面に付着した染色液の温度が、染料の浸透初期の段階から一定値以上になることにより達成されると考えられる。すなわち、レンズ基材自体の温度が染料の浸透初期の段階から一定値以上であることにより、染料のレンズ基材中における拡散係数が増大し、基材内部への浸透速度が向上するため、レンズ表面における染料の残渣の発生が効果的に抑制される。またレンズ表面に付着した染色液の温度がその浸透初期の段階から一定値以上であることにより、媒体分子の方が染料分子よりもレンズ基材内部により速く浸透するために起こる染色液中の染料濃度の増大に対しても、染料の飽和溶解度が上昇することによって、染料の溶解性が確保されるので、染料の析出が効果的に抑制される。これら両方の相乗効果によって、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生することなく、染料のレンズ基材内部への確実な浸透が達成されると考えられる。
【0016】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有するとよい。眼用レンズへの熱付与を、接触工程より前及び/又は接触工程と同時に有すると共に、さらに接触工程より後に有することで、レンズ基材の温度を染料の浸透初期の段階から浸透が進行した段階まで一定値以上にしておくことができる。その結果、染料のレンズ基材内部への浸透が継続的に促進されると共に、レンズ表面の染色液における染料の溶解性が継続して向上するので染料の析出や残渣の発生がさらに低減される。
【0017】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記接触工程終了時の眼用レンズの温度が、30℃以上90℃以下であることが好ましい。接触工程終了時の眼用レンズの温度を上記範囲に設定することにより、染料分子のレンズ基材内部への浸透の促進、及びレンズ表面に付着した染色液中における染料の溶解性の確保をさらに効果的に、かつ眼用レンズに影響を与えることなく達成することができ、染料の析出や残渣の発生がさらに抑制される。また、染料分子の眼用レンズ基材内部における浸透が特に効果的に行われることにより、非常に鮮鋭でかつ滲みの少ない染色印刷物を得ることができる。
【0018】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記眼用レンズの[B]媒体による平衡膨潤度が、40%以上600%以下であることが好ましい。染色液中の[B]媒体による眼用レンズを構成する材料の平衡膨潤度が上記範囲であることにより、乾燥状態の眼用レンズに対する染料分子の浸透速度が向上するため、レンズ表面における染料の析出や残渣の発生をさらに抑制することができる。
【0019】
当該染色眼用レンズの製造方法において、インクジェット式塗布装置により上記接触工程を行うとよい。インクジェット式塗布装置を用いて染色液を眼用レンズ表面に接触させることにより、微細な染色印刷物を、正確にかつ非常に簡便に、眼用レンズ表面に形成させることができる。
【0020】
当該染色眼用レンズの製造方法において、
上記染色液が、[C]ラジカル重合開始剤をさらに含み、
[A]成分の染料が、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料であり、
[B]成分の媒体が、上記[A]成分及び[C]成分のそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる[B1]溶媒及び/又は[B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体であり、
上記接触工程後かつ上記熱付与工程後に、眼用レンズに浸透した染色液を重合させるため、この浸透した染色液に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する定着工程をさらに有するとよい。
【0021】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染色液が、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料と、ラジカル重合開始剤と、これらのそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる溶媒及び/又はラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体とを含んでおり、上記接触工程後かつ上記熱付与工程後の染色液が浸透した段階において、この浸透した染色液に活性エネルギー線及び/又は熱を付与することで、眼用レンズに対して極めて優れた耐溶出性を付与することができ、半恒久的に安定で溶出がほとんどない染色印刷物を形成することができる。このような染色液から形成された染色印刷物は、水による膨潤や、煮沸、洗浄の際においても染料が溶出することがなく、耐久性が極めて高い。このような優れた耐溶出性は、染料分子の炭素−炭素二重結合が、電磁波や熱によってラジカル反応し、眼用レンズを構成する高分子の網目構造の中で重合するか、あるいは眼用レンズの高分子とグラフト反応することによって、この染料分子が眼用レンズに強固に定着することによって達成されると考えられる。この定着効果は、反応性染料と反応し得る基を有していない眼用レンズについても同様に得られる。従って、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、このような耐溶出性に優れる染色眼用レンズを、レンズ表面に染料の析出や残渣をほとんど発生させることなく得ることができる。また、当該染色液を用い単に電磁波や熱によって染色液を重合・硬化させることで、非常に簡便に耐溶出性に優れる染色眼用レンズを得ることができる。
【0022】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染料において、炭素−炭素二重結合を有する基が、α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基からなる群より選択される少なくとも1つの基であることが好ましい。炭素−炭素二重結合を有する基としてこれらの基を選択することによって、眼用レンズへの印刷特性及び得られる染色眼用レンズの耐溶出性を向上させることができる。
【0023】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染料において、炭素−炭素二重結合を有する基がα、β−不飽和カルボニル基である場合、この基は、(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましい。炭素−炭素二重結合を有する基としてこれらの基を選択することによって、眼用レンズへの印刷特性、及び得られる染色眼用レンズの耐溶出性をより一層向上させることができる。
【0024】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染色液が、[D]界面活性剤をさらに含むとよい。当該染色液が界面活性剤をさらに含むことによって、この染色液の眼用レンズ基材への浸透の速度及び均一性を向上させることができるので、眼用レンズ表面への染料の析出や残渣の発生をさらに抑制させることができると共に、滲みが少なく鮮鋭な染色印刷物を得ることができる。
【0025】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記眼用レンズとしてはコンタクトレンズを用いることができる。生活用として広く普及しているコンタクトレンズを用い、当該染色眼用レンズの製造方法によって得られた染色コンタクトレンズの表面には、染料の析出物や残渣がほとんど発生していない。その結果、レンズ表面に凸部をほとんど有さず、またその剥がれのおそれがほとんどないため、安全で高い商品価値と信頼性を有する染色コンタクトレンズを提供することが可能となる。また、染色後に染料の析出物等の洗浄除去や凸部の平滑化等の余分な工程が不要になるため、製造工程が非常に簡略化され、安価に製品を提供することが可能になる。このような効果は、コンタクトレンズとして含水性コンタクトレンズを使用する場合においても、同様に得られる。
【0026】
当該染色眼用レンズの製造方法においては、含水性コンタクトレンズとしては、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されているものを用いることが好ましい。このように含水性コンタクトレンズが、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されていることによって、コンタクトレンズに高い柔軟性及び酸素透過性を付与することができる。
【0027】
当該染色眼用レンズの製造方法においては、基材である眼用レンズとしては、酸素透過性硬質コンタクトレンズを用いることができる。このように眼用レンズとして、酸素透過性硬質コンタクトレンズを用いる場合においても、上記同様、この製造方法により、安全かつ安価で高い商品価値と信頼性を有する酸素透過性硬質コンタクトレンズを提供することができる。
【0028】
上記染色眼用レンズの製造方法により得られる染色眼用レンズは、その表面に染料に起因する凸部を有さず、眼への物理的、あるいは生理学的な影響が低減されており、眼用レンズとして非常に安全性及び信頼性が高い。また、そのような染色眼用レンズの製造工程において、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去や凸部の平滑化を行う工程などの余分な工程を必要としない。従って、当該染色眼用レンズは、非常に簡便に、かつ安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の染色眼用レンズの製造方法によれば、乾燥状態の眼用レンズに対し、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく、染料をレンズ基材内部に容易かつ確実に浸透させることができ、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去や凸部の平滑化を行う工程など余分な工程を必要とせず、染色眼用レンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図2】実施例2において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図3】実施例3において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図4】実施例4において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図5】実施例5において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図6】実施例6において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図7】実施例7において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図8】実施例8において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図9】比較例1において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図10】比較例2において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図11】比較例3において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図12】比較例4において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図13】比較例5において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0032】
本発明の染色眼用レンズの製造方法は、
[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、
上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、
上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有するものである。以下、眼用レンズ、染色液、染色方法の各工程、及び染色眼用レンズに関し、この順に説明する。
【0033】
[眼用レンズ]
当該染色眼用レンズの製造方法において用いられる眼用レンズは、人の眼に装着することにより視力の矯正、整容性向上等を可能とするレンズであり、コンタクトレンズに限らず、眼内レンズ、人工角膜、角膜オンレイ、角膜インレイ等を含む概念である。このような眼用レンズは、一般に架橋構造を有する高分子材料からなり、レンズ内部に高分子網目構造を有する。コンタクトレンズとしては、水を含んで柔軟化する含水性コンタクトレンズ、非含水性コンタクトレンズ、硬質酸素透過性コンタクトレンズ、あるいはこれらの組み合わせからなるハイブリッドコンタクトレンズを挙げることができる。これらの眼用レンズの材質としては、公知のいずれのものを用いることもできる。例えば、含水性コンタクトレンズの材質としては、ポリヒドロキシエチルメタクリレート等を用いることができる。
【0034】
当該染色眼用レンズの製造方法において、眼用レンズとして含水性コンタクトレンズを用いる場合、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されているものが好ましく用いられる。シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている含水性コンタクトレンズはコンタクトレンズに高い柔軟性及び酸素透過性を付与することができる。このような共重合体としては、特に限定されないが、例えばシリコーン化合物単量体(もしくはマクロマー)と親水性モノマーとの共重合体などを用いることができる。用いられるシリコーン化合物単量体の例としては、ウレタン結合を介してエチレン性不飽和基及びポリジメチルシロキサン構造を有する化合物、分子内に親水性構造部分を有するシリコーン化合物、シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有スチレン誘導体およびシリコーン含有フマル酸ジエステル等を挙げることができる。
【0035】
当該染色眼用レンズの製造方法において用いられる眼用レンズは、乾燥状態のものである。従来多用されていた膨潤法のように、機械的強度が小さく破損し易い膨潤状態の眼用レンズの場合には、特殊な取扱い装置や治具等を用いる必要があるのに対し、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、乾燥状態の眼用レンズに直接染色を行うことができるので工程の簡略化及び生産性の向上を達成することができる。ここで、乾燥状態の眼用レンズとは、膨潤して柔軟な状態となっていない状態の眼用レンズのことをいい、膨潤させ得る媒体を含有しない、あるいは僅かしか含まない状態のものを含み、通常キセロゲルなどと言われる状態のものをいう。
【0036】
[染色液]
当該染色眼用レンズの製造方法において用いられる染色液は、[A]染料及び[B]媒体を含有する。また、その他の成分として、[C]ラジカル重合開始剤や[D]界面活性剤などを含んでいてもよい。以下、当該染色液の各成分について順に説明する。
【0037】
〈[A]成分:染料〉
[A]成分の染料としては、可視光の一部を吸収又は反射することによって特定の色を発色する化学構造を有する化合物であり、[B]成分の媒体に溶解することができるものもしくは[B]成分の媒体に溶解せず分散するものであっても分散質が眼用レンズを構成する高分子の網目の大きさよりも小さいものであれば、特に限定されず用いることができる。
【0038】
[A]成分の染料としては、眼用レンズ基材を構成する高分子と反応して共有結合を形成できる官能基を有する染料が好ましい。そのような官能基を有することで、染料分子を眼用レンズ基材の高分子と結合させ、染料をレンズ内部に半恒久的に安定して定着させることができるので、耐溶出性に極めて優れる染色印刷物を形成させることができる。また[A]成分の染料としては、分子内に重合性基を有する染料も好ましい。[A]成分の染料が重合性基を有することで、眼用レンズ基材を構成する高分子が染料分子と反応し得る官能基を有していない場合でも、染料分子が付加重合等して重合体を生成する際に当該高分子の網目との間で相互侵入網目構造が形成され、染料が物理的に溶出し得ないような高次構造が形成されるので、上記同様、耐溶出性に極めて優れる染色印刷物を形成させることができる。このような重合性基を有する染料としては、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料が特に好ましい。このような基を有する染料を用いることにより、ラジカル重合開始剤等の存在下で、染料分子の重合あるいは眼用レンズ基材高分子へのグラフト反応による結合生成を簡便に行うことができ、耐溶出性が極めて高い染色印刷物を形成させることができる。
【0039】
上記炭素−炭素二重結合を有する基としては、α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基又はアリル基が好ましい。このような官能基を有する染料を用いることにより、眼用レンズへの印刷特性及び得られる染色眼用レンズの耐溶出性を向上させることができる。
【0040】
上記α、β−不飽和カルボニル基は、(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましい。炭素−炭素二重結合を有する基がこれらの特定の基であることによって、眼用レンズへの印刷特性をさらに高めることができると共に、得られる染色印刷物の耐溶出性をさらに向上させることができる。なお、上記スチリル基は、置換基を有しないスチリル基であっても、α−メチル基等の置換基を有するスチリル基であってもよい。ビニルベンジル基は、o−、m−及びp−ビニルベンジル基のいずれであってもよい。
【0041】
(メタ)アクリレート基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば1−フェニルアゾ−4−アクリロイルオキシナフタレン、1−フェニルアゾ−2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシナフタレン、1−ナフチルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(α−アントリルアゾ)−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−((4−フェニルアゾ)フェニル)アゾ−2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシナフタレン、1−(2’,4’−キシリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(o−トリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0042】
(メタ)アクリレート基を分子内に少なくとも1つ有する染料の他の例としては、下記式(1)で表される1−((4−(フェニルアゾ)フェニル)アゾ)−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール、下記式(2)で表される1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール、下記式(3)で表される1−フェニルアゾ−4−メタクリロイルオキシ−ナフタレン、下記式(4)で表される2,4−ジヒドロキシ−5−(4−(2−(N−(2−メタクリロイルオキシ)エチル)カルバモイルオキシエチル)フェニルアゾ)ベンゾフェノンが挙げられる。
【0043】
【化1】
【0044】
【化2】
【0045】
【化3】
【0046】
【化4】
【0047】
(メタ)アクリルアミド基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば下記式(5)で表されるテトラ−(4−メタクリルアミド)銅フタロシアニン、テトラ−(メタクリルアミド)ドデカノイル銅フタロシアニン等を挙げることができる。
【0048】
【化5】
【0049】
スチリル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば1−(エテニルフェニル)アミノ−アントラキノン、下記式(6)で表される1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン、下記式(7)で表される1,8−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン、1−(エテニルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、1−(エテニルフェニル)アミノ−4−(4−メチルフェニル)アミノ−アントラキノン等を挙げることができる。
【0050】
【化6】
【0051】
【化7】
【0052】
ビニルベンジル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては特に限定されないが、例えば1,4−ビス((ビニルベンジル)アミノ)−アントラキノンを挙げることができる。
【0053】
アリル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば下記式(8)で示される1−(4−アリルオキシメチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、下記式(9)で示される1−(4−アリルオキシエチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、下記式(10)で示される1,4−ビス((4−アリルオキシエチルフェニル)アミノ)−アントラキノン等を挙げることができる。
【0054】
【化8】
【0055】
【化9】
【0056】
【化10】
【0057】
なお、これらの炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料を用いる場合、上記効果を阻害しない程度の量の非反応性染料(例えば、「D&C Green No.6」や「D&C Red No.17」)を併用しても構わない。
【0058】
[A]成分の染料は、可視光の一部を吸収又は反射することによって特定の色を発色する染料の化学構造の観点からは、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ニトロ系染料、フタロシアニン系染料、キノンイミン系染料、キノリン系染料、カルボニル系染料、トリアリールメタン系染料、メチン系染料等に分類することができる。
【0059】
染色液における[A]成分の染料の使用割合は、特に限定されないが、[B]成分の媒体の合計100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。[A]成分の使用割合を0.1質量部以上とすることによって、得られる染色印刷物の十分な視認性を得ることができる。[A]成分の使用割合を10質量部以下とすることによって、染色液中の溶解しない部分の発生を低減することが可能であると共に、染料の過剰による眼用レンズへの浸透ムラ及びそれに誘発される染色ムラの発生(レンズ装着時における外見の悪化)を防止することができる。[A]成分の染料は1種類単独であっても、複数種を混合して用いてもよい。
【0060】
〈[B]成分:媒体〉
[B]成分の媒体としては、[A]成分の染料を溶解及び/又は分散させることができる液体である限り特に限定されず用いることができる。[B]成分の媒体としては、このような性質を有する化合物であれば、通常、溶媒として用いられる液体(以下、「溶媒」([B1]成分)ともいう。)の他、ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体(以下、「ラジカル重合性単量体」([B2]成分)ともいう。)を用いることもできる。
【0061】
([B1]成分:溶媒)
[B1]成分の溶媒の代表的なものとしては、
水;
メタノール、エタノール、プロパノール、グリセロール、トリフルオロエチルアルコール、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなどのアルコール類;
メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類;
トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;
ヘキサン、オクタンなどの鎖状脂肪族炭化水素系溶剤;
シクロヘキサン、デカリンなどの環状脂肪族炭化水素系溶剤;
酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル系溶剤;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;
クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、フロンなどのハロゲン化炭素系溶剤;
ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;
その他、ジメチルスルフォキシド、塩化ナトリウムなどの電解質塩を含む水等を挙げることができる。
[B1]成分の溶媒としては1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0062】
([B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体)
[B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体において、「ラジカル重合性基」とは、ラジカル重合可能な不飽和基を意味する。[B2]成分のラジカル重合性単量体を[B]成分の媒体として用いることで、[A]成分の染料とともに眼用レンズ基材内部に浸透した[B2]成分のラジカル重合性単量体の重合により生成したポリマーが染料を包接すると共に、レンズ基材高分子の網目とかかるポリマーとの間で相互侵入網目構造が形成される。その結果、染料分子をレンズ基材内部に物理的に定着させ、眼用レンズの外部へ溶出しないようにすることができる。また、[A]成分の染料が炭素−炭素二重結合等のラジカル重合性基を有するものである場合、染料分子とラジカル重合性単量体とが共重合することができ、形成される相互侵入網目構造、あるいは眼用レンズ基材高分子とのグラフト反応による固定化において、染料分子がさらに強固に定着されることとなるため、得られる染色印刷物の洗浄等に対する耐剥離性・耐溶出性がより一層高くなる。
【0063】
[B2]成分のラジカル重合性単量体の例としては、
メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和基含有カルボン酸類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、t−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;
メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基含有(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート類;
スチレン、ペンタフルオロスチレン、o、m、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、トリメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、(ペンタメチル−3,3−ビス(トリメチルシロキシ)トリシロキサニル)スチレン、(ヘキサメチル−3−トリメチルシロキシトリシロキサニル)スチレン、ジメチルアミノスチレン等のスチレン誘導体類;
N−ビニル−2−ピロリドン、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルピロリドンなどの炭素−炭素不飽和基含有ラクタム類;
(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−アミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート、α−メチレン−N−ビニルピロリドンなどの不飽和基を2つ以上有する多官能性単量体類;
ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどのシリコン含有(メタ)アクリレート類;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、テトラフルオロ−t−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロ−t−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシオクタフルオロ−6−トリフルオロメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシドデカフルオロ−8−トリフルオロメチルノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキサデカフルオロ−10−トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリレート類;
アミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキル(メタ)アクリレート類;
ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;
イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などの、アルキル基、フッ素含有アルキル基、シロキサニルアルキル基で置換されていてもよいアルキルエステル類;
ビニルイミダゾール、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピペリジン、N−ビニルサクシンイミドなどのヘテロ環式N−ビニル単量体等が挙げられる。
【0064】
[B2]成分のラジカル重合性単量体の中でも、ラジカル重合反応性及び入手容易性の観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン、メチル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。
[B2]成分のラジカル重合性単量体としては、1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0065】
[B2]成分のラジカル重合性単量体として、液体状の単量体を用いる場合において、[A]成分の染料及び後述する[C]成分のラジカル重合開始剤がこの液体状単量体に溶解しうるときには、[B]成分の媒体として、[B1]成分の溶媒を用いることなく、[B2]成分のラジカル重合性単量体を用いて染色液を形成することができる。当該染色液においては、[B]成分の媒体として、[B1]成分の溶媒及び[B2]成分のラジカル重合性単量体を併用することもできる。
【0066】
[B]成分の媒体としては、眼用レンズ基材を構成する高分子の網目を膨潤させ得るものが好適に用いられる。かかる媒体は、媒体による高分子網目の膨潤挙動が、眼用レンズ基材高分子の種類や高分子の凝集構造の形態に依存するため、一概に規定することはできないが、例えば当該基材高分子の架橋構造を構成する線状高分子鎖を溶解させ得る媒体、当該基材高分子の繰り返し単位と類似する化学構造を有する媒体、当該基材高分子に溶媒和し得る媒体、極性基を有する媒体、又は環状構造を有する媒体などを挙げることができる。眼用レンズ基材を構成する高分子が、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている場合は、そのような高分子は一般的には非晶構造を有していることが多いので、当該高分子と化学構造が類似していない媒体でも好適に用いることができる。
【0067】
このようなレンズ基材高分子を膨潤させ得る媒体の具体例としては、例えば、眼用レンズ基材がポリメチルメタクリレートである場合、基材高分子の繰り返し単位と化学構造が類似するメチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類、あるいは、N−メチル−2−ピロリドンなどの環状アミド類;テトラヒドロフランなどの環状エーテル類などが挙げられる。
【0068】
このような膨潤挙動を表すのに、平衡膨潤度が用いられる。[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度の下限としては、40%が好ましく、70%がより好ましく、100%がさらに好ましい。一方、この[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度の上限としては600%が好ましく、500%がより好ましく、400%がさらに好ましい。当該[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度が上記下限より小さいと、染色液の眼用レンズ内部への浸透速度が低下し、染色に長時間を要するおそれがある。逆に、当該平衡膨潤度が上記上限を超えると、媒体の浸透が速くなり過ぎて、滲み等が発生し易くなり、鮮鋭かつ良好な染色印刷物が得られないおそれがある。ここで、[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度とは、乾燥状態の眼用レンズを媒体に25℃で24時間浸漬させて膨潤させ、眼用レンズの乾燥状態の質量(W1)と、膨潤状態の質量(W2)の値から、下記式(1)により算出される値である。
平衡膨潤度(%)=(W2−W1)×100/W1 ・・・(1)
【0069】
[B]成分の媒体としては、後述の熱付与工程により温度が上昇した眼用レンズ表面に付着しても、容易に揮発しないものが好ましい。そのような媒体としては、熱付与工程における設定温度の値に依存するため一概に規定することはできないが、通常、標準状態における沸点として50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。
【0070】
当該染色液が、[A]成分として炭素−炭素二重結合等のラジカル重合性基を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、及び/又は[B2]成分のラジカル重合性単量体を含有し(これらを以下「ラジカル重合性化合物」ともいう。)、さらに後述の[C]成分のラジカル重合開始剤を含有する場合、[B]成分の媒体としては、[A]成分及び[C]成分のそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる液体であることが好ましい。また、その場合において、[B]成分の媒体は、[A]成分及び[C]成分の実質的に全てを溶解させることができる液体であることがさらに好ましい。
【0071】
当該染色液における[B1]成分の溶媒及び[B2]成分のラジカル重合性単量体は、それぞれの使用割合及び両者の比率は特に限定されない。例えば、当該染色液における[B1]成分を用いる場合の使用割合は0.1質量%以上99.8質量%以下、[B2]成分を用いる場合の使用割合は1質量%以上99.8質量%以下とすることができる。
【0072】
〈[C]成分:ラジカル重合開始剤〉
当該染色液が、上記ラジカル重合性化合物を含む場合においては、染色液のレンズ表面への接触、浸透後にこれらを重合、硬化させるため、染色液にラジカル重合開始剤を含有させることができる。[C]成分のラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線(紫外光や可視光等の光線(電磁波))又は熱を付加することによってラジカル(遊離基)を発生する化合物であって、上記染料自体のラジカル重合、あるいは、上記染料とラジカル重合性単量体とのラジカル重合を開始させ得るものであると定義される。ラジカル重合開始剤はこのように定義される性質を有するものである限り、特に限定されるものではない。
【0073】
活性エネルギー線により開裂するラジカル重合開始剤の具体例としては、
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド(TMDPO)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド系光重合開始剤;メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンなどのケトン系光重合開始剤;2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系光重合開始剤;ベンジルメチルケタール、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタールなどのケタール系光重合開始剤;その他、ジベンゾスパロン、ベンゾフェノン、ベンジル等が挙げられる。
【0074】
熱により開裂するラジカル重合発生剤の具体例としては、
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0075】
上記染色液における[C]成分のラジカル重合開始剤の使用割合は、特に限定されないが、[B]成分の媒体100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。[C]成分の使用割合を0.1質量部以上とすることによって、ラジカル重合性化合物のラジカル重合反応性を高度なレベルに保ち、眼用レンズに定着していない染料の溶出やそれによって起こる薄色化を抑制することができる。[C]成分の使用割合を20質量部以下とすることによって、眼用レンズ基材中のラジカル重合開始剤の残留量を低減し、安全性を高めると共に、眼用レンズへのラジカル重合開始剤の浸透ムラ及びそれに誘発される染色ムラを防止することができる。[C]成分のラジカル重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、複数種の化合物を併用してもよい。
【0076】
〈D成分:界面活性剤〉
[D]成分の界面活性剤は、染色液をよりスムーズに眼用レンズ基材内部に浸透させるために、また染色液から形成される染色印刷物の滲みを防止するために用いることができる。さらに、界面活性剤は、後述する染色液中のミセルを安定化する作用を有する。このような界面活性剤は、染色液中に溶解あるいは乳化させた状態で用いられる。
【0077】
[D]成分の界面活性剤の具体例としては、
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びその誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸及びその塩等の非イオン系界面活性剤;
脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン系界面活性剤;
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等の陽イオン系界面活性剤;
アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤などが挙げられる。
これらの界面活性剤の中でも、染色液の眼用レンズ基材内部への浸透性の点において、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が最も好ましい。
【0078】
当該染色液における[D]成分の界面活性剤の使用割合は、特に限定されないが、0.001質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。[D]成分の使用割合を0.001質量%以上とすることによって、染色液の浸透性を効果的に高め、染色印刷物の滲みの発生を抑制することができる。[D]成分の使用割合は、0.01質量%以上とすることがより好ましい。一方、[D]成分の使用割合を5質量%以下とすることによって、[D]成分の析出を防止して得られる染色印刷物の均一性を保つことができると共に、[D]成分の過剰使用による不経済を防止することができる。[D]成分の使用割合は2質量%以下とすることがより好ましい。[D]成分の界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0079】
当該染色液は、上記[A]成分の染料及び[B]成分の媒体、必要に応じて、[C]ラジカル重合開始剤、[D]界面活性剤等のその他の成分を適当量混合することによって調製される。これらの成分を混合する順序は、特に限定されない。
【0080】
当該染色液の形態としては、均一な溶液であることが望ましい。当該染色液が、このように均一な溶液であることによって、眼用レンズの内部にまで容易かつ均一に浸透することが可能であるため、より良好な染色印刷物を得ることができる。また、後述するインクジェット式塗布装置を用いた眼用レンズへの印刷時に、吐出ノズル中における詰りを効果的に防止することができる。ここでいう「均一な溶液」とは、染色液中に染料が分子状に分散溶解した状態であることが好ましいが、染料の少なくとも一部がミセルなどの凝集体を成している状態のものを含まれる。ただし、ここでのミセルなどの凝集体は、眼用レンズの内部まで浸透可能であるように、眼用レンズの基材中に形成されている高分子網目構造を通過できる程度の大きさであることが好ましい。ミセルなどの凝集体のサイズは、眼用レンズ材料を構成する高分子網目構造の種類や大きさに依存するため、一概に規定することはできないが、平均的な上限が500〜600nmであることが好ましい。
【0081】
次に、本発明の染色眼用レンズの製造方法の各工程について説明する。当該染色眼用レンズの製造方法は、熱付与工程及び接触工程を有する。
【0082】
[熱付与工程]
上記熱付与工程において、眼用レンズに熱を付与する。眼用レンズ全体に熱を付与してもよく、眼用レンズの染色を行う部分付近のみに熱を付与してもよい。熱付与工程の段階とは、後述する加熱等の方法により眼用レンズに対して熱を付与している間をいう。
【0083】
熱を付与する方法としては、眼用レンズの温度を上昇させることができる方法である限り特に限定されるものではない。例えば恒温槽などを用いて温度の高い場所に眼用レンズを静置する方法、ヒーターや白熱電球などの発熱体を用いて眼用レンズを加熱する方法、遠赤外線などの電磁線を発生させる照射装置を用いて眼用レンズを照射する方法、ドライヤーなどを用いて眼用レンズに温風を供給する方法などが挙げられる。いずれの場合においても、眼用レンズの温度を所望値に設定して維持したり、又は必要に応じて温度制御をプログラム化して変化させたりすることが好ましい。このように構成することによって染色の品質を一定に保つことができ、また眼用レンズの温度を精密に制御することで、レンズ表面における染料の析出物や残渣の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【0084】
熱付与工程によって到達する眼用レンズの温度としては、特に限定されないが、熱付与工程終了時における眼用レンズ温度の下限としては、50℃が好ましく、60℃がより好ましく、70℃がさらに好ましい。一方、この熱付与工程終了時における眼用レンズ温度の上限としては、150℃が好ましく、135℃がより好ましく、120℃がさらに好ましい。熱付与工程終了時における眼用レンズ温度が上記下限より低いと、染色液の眼用レンズ基材内への浸透速度が低下し、染色に長時間を要するおそれがある。逆に、熱付与工程終了時における眼用レンズの温度が上記上限を超えると、眼用レンズ基材の変形などが起こるおそれがある。
【0085】
また、後述の接触工程終了時における眼用レンズの温度の下限としては、30℃が好ましく、40℃がより好ましく、50℃がさらに好ましい。一方この接触工程終了時におけるに眼用レンズの温度の上限としては、90℃が好ましく、75℃がより好ましく、60℃がさらに好ましい。接触工程終了時における眼用レンズの温度が上記下限より低いと、染料のレンズ基材内部における拡散速度が低下するため、鮮鋭でかつ滲みの少ない染色印刷物が得られないおそれがある。逆に、接触工程終了時における眼用レンズの温度が上記上限を超えると、染料のレンズ基材内部への浸透が不均一となり、均質な染色印刷物が得られなくなるおそれがある。なお、これらの場合において、眼用レンズの温度とは、染色液が付着した場所付近のレンズ表面の温度をいう。
【0086】
熱を付与する時間は、特に限定されず、熱付与方法や所望する眼用レンズの到達温度に応じて適宜設定することができるが、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましく、3分以下がさらに好ましい。熱を付与する時間が10分を超えると、工程上の作業時間が長くなり、生産性の低下及びそれによるコストの増大を招くおそれがある。
【0087】
[接触工程]
上記接触工程において、染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる。接触工程とは、染色の対象となる眼用レンズに対して、塗布等の染色液接触操作を開始してから終了するまでをいう。
【0088】
染色液と眼用レンズ表面とを接触させる方法としては、染色液を眼用レンズ表面に塗布する方法や、染色液に眼用レンズを浸漬させる方法など公知の様々な方法を用いることができる。染色液を眼用レンズ表面に塗布する方法としては、例えば、パッド印刷方法、スクリーン印刷方法、インクジェット式塗布装置を用いる方法などを用いることができる。この中で、所望の文字、数字、図形のパターンを簡便に印刷できる観点から、インクジェット式塗布装置を用いる方法が特に好ましい。インクジェット塗布装置は、染色液を非常に微小な液滴としてレンズ表面に噴霧するものであり、表面に着床した液滴は一つのドットを形成し、このドットの集まりによって所望の文字や数字や図形のパターンを形成することが可能となる。一般に小さなドットが高密度で集合した場合の文字や数字や図形は鮮鋭なコントラストを与え、優れた視認性のマークとなる。インクジェット式塗布装置にて印字、描画する際、液滴の大きさ、液滴が着床する地点などは、コンピューターなどによって正確に制御することが可能で、コンピューターのプログラムの変更などによって、容易にマークの形や大きさを変更することが可能である。このようにインクジェット式塗布装置を用いた塗布方法は非常に生産性が高く、また一定した高品質の印刷ができるという優れた利点を有する。さらにインクジェット式塗布装置によれば塗布される液滴が微小であり、レンズ基材へ着床した際の界面面積に比して液滴量が少ないので、より迅速に浸透しやすくなる。従って、インクジェット式塗布装置は上記利点以外に、レンズ表面への染料の析出や残渣の発生をより低減させて染料をレンズ基材内部へ浸透させる上でさらに有利な方法であるともいえる。
【0089】
当該インクジェット式塗布装置としては、公知のインクジェット式塗布装置をいずれも用いることができる。代表的なインクジェット式塗布装置は、染色液供給系とピエゾ素子などの圧電素子を備えたノズルから構成された吐出装置とからなり、圧電素子に電圧を負荷することによって生じる振動で、染色液を微小な液滴としてノズルから吐出する機構を有する。所望の液滴を吐出できるものである限り、いずれのインクジェット式塗布装置でも好適に用いることができる。ノズルは、単一であっても複数であっても構わない。複数のノズルを配した吐出装置においては、異なる染料を含む染色液を同時に吐出することが可能であり、色の諧調性にも優れるといった優れた特徴を有し、高速で良質な多色印刷を行うことができる。このような複数のノズルを備えたインクジェット式塗布装置もまた、好適に用いることができる。かかる多色印刷を行う場合は、異なる色調の染料を含む2種類以上の染色液をそれぞれ貯留タンクに充填し、コンピューターなどによってプログラム化された走査方式で、所望の位置に種々の染色液を吐出することによって染色印刷物を得ることができる。
【0090】
接触工程に要する時間は、染色液を接触させる方法や、形成させる染色印刷物の面積や形状、眼用レンズのサイズ等によっても異なるが、例えば、インクジェット式塗布装置を用いる場合、通常数秒から10分程度である。
【0091】
[接触工程と熱付与工程との関係]
本発明の染色眼用レンズの製造方法においては、上記熱付与工程を、上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に行う。すなわち熱付与工程を接触工程に対して、1)前、2)同時、3)前及び同時のいずれかに行う。この中で、1)前、又は3)前及び同時が好ましく、3)前及び同時がより好ましい。いずれの段階でもよいものの、接触工程以前に熱付与工程を設けることで、レンズ基材の温度を染料の浸透初期の段階から一定値以上にすることができ、また、レンズ表面に付着した染色液の温度を効果的に上昇させることができる。その結果、染料の浸透初期の段階から染料のレンズ基材内部への浸透が促進されると共に、レンズ表面の染色液における染料の溶解性が向上するので、レンズ表面における染料の析出や残渣の発生がより低減される。それとともに、レンズ基材の温度が浸透初期の段階から一定値以上になることで、染料分子のレンズ基材内部における拡散速度がより高くなり、より鮮鋭で滲みの少ない染色印刷物を得ることができる。
【0092】
当該染色眼用レンズの製造方法において、熱付与工程を接触工程に対して上記段階に設けることによって、眼用レンズ表面に染料の析出や残渣をほとんど発生させることなく、レンズ基材内部へ染色液を容易かつ確実に浸透させることができる。この理由としては以下のように考えることができる。すなわち、接触工程以前に眼用レンズに熱を付与することによって、染料の浸透の初期段階から、眼用レンズ自体の温度と共にレンズ表面に付着した染色液の温度も一定値以上にすることができる。その結果レンズ基材を構成する高分子の網目の分子運動が活発になり、染料分子のレンズ基材中における拡散係数が増大し、染料分子のレンズ基材内部への浸透速度が増大するので、レンズ表面の染料の残存が抑制され、残渣の発生が抑制される。一方、一般に染料分子に比べて媒体分子の方がレンズ基材内部への浸透速度が速いため、レンズ表面に付着した染色液の液滴中においては、その染料濃度は経時的に上昇するため、染料の析出のおそれが生じる。しかし、当該液滴の温度がその浸透の初期段階から一定値以上であることにより、染料分子が媒体中に溶解、凝集又は会合できる飽和濃度が上昇するので、染料の溶解状態を継続させることができ、染料の析出が抑制される。このように接触工程以前の段階から熱を付与することによって、染料分子の拡散促進と、染料の溶解性の向上との相乗効果によって、レンズ表面に染料の析出や残渣をほとんど発生させることなく、染料の確実な浸透を達成することができると考えられる。
【0093】
上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有することが好ましい。すなわち、熱付与工程を接触工程に対して、a)前及び後、b)同時及び後、c)前、同時及び後のいずれかに行うことが好ましい。眼用レンズへの熱付与を上記接触工程より後の段階においても行うことで、レンズ基材の温度を染料の浸透初期の段階から浸透が進行した段階におけるまで一定値以上にしておくことができる。その結果、染料のレンズ基材内部への浸透が継続的に促進させると共に、レンズ表面の染色液における染料の溶解性が継続して向上し、染料の析出や残渣の発生がさらに低減される。この中で、より鮮鋭で滲みの少ない染色印刷物が得られる観点から、a)前及び後、又はc)前、同時及び後が好ましく、c)前、同時及び後が特に好ましい。
【0094】
[定着工程]
染色液が、上記ラジカル重合性化合物を有し、かつ[C]成分のラジカル重合開始剤を含有する場合は、上記接触工程後かつ上記熱付与工程後に、眼用レンズに浸透した染色液を重合させるため、眼用レンズに活性エネルギー線及び/又は熱を付与する定着工程を有することが好ましい。このような定着工程を有することで、上記染色液が眼用レンズに浸透してから、重合、硬化させることによって、耐溶出性に非常に優れる染色印刷物を形成させることができる。染色液が浸透に要する時間は、染色液の成分及びその割合、熱付与工程による温度等の多数のファクターに依存するが、例えば、10秒以上20分以下である。
【0095】
上記定着工程においては、眼用レンズに浸透した上記ラジカル重合性化合物を含有する染色液にエネルギーを付与することによってラジカル重合・硬化させ、硬化物を眼用レンズに定着させる。このような重合、硬化は、エネルギーを付与することで、ラジカル重合開始剤からラジカル(遊離基)が発生することによって開始される。このようなエネルギーの付加方法の形態としては、活性エネルギー線(紫外光や可視光などの光線(電磁波))及び熱のいずれか1種あるいはこの中の複数種の組み合わせを採用することができる。活性エネルギー線を発生させるための装置としては、公知のものを用いることができるが例えば、高圧水銀灯を用いた発生装置、ブラックライト、LED装置などを適用することができる。例えば紫外光の照射において、365nm付近にピーク波長を有する紫外線照射装置を用いて、30〜60秒間紫外線を付与し、染色印刷物を形成することができる。一方、熱を発生させるための装置としても、公知のものを用いることができるが、適度な温度に設定可能な恒温槽などを適用することができる。
【0096】
染色液が眼用レンズの内部へ十分に浸透した状態で、ラジカル重合を行うことによって硬化物の高分子網目構造が形成され、染料分子が眼用レンズ内に定着する。従って、得られた染色印刷物では、染料分子が高分子網目構造として眼用レンズ内部に包含され、レンズ基材の高分子材料の網目構造との間で相互侵入網目構造を形成すると考えられる。このような相互侵入網目構造によって、その硬化物は、眼用レンズ内部に強固に定着し、極めて耐久性の高い安定した染色印刷物が得られる。また、このように耐久性に優れる染色印刷物を、単に電磁波や熱を用いて染色液を硬化して形成させることができる。
【0097】
[染色眼用レンズ]
本発明の染色眼用レンズの製造方法を用いることにより、コンタクトレンズ等の眼用レンズの表面の少なくとも一部に染色印刷物を有する染色眼用レンズを得ることができる。
【0098】
このような染色眼用レンズは、上述したように、その表面に染料に起因する凸部をほとんど有さず、眼への物理的、あるいは生理学的な影響が低減されている。また、そのような染色眼用レンズを製造する工程として、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去や凸部の平滑化を行う工程などの余分な工程を必要としない。従って、当該染色眼用レンズは、非常に簡便に、かつ安価に製造することができる。よって、この染色眼用レンズは、安全性及びコストの点で非常に優れており、商品価値及び信頼性の高い眼用レンズを消費者に提供することができる。
【0099】
生活用として広く普及しているコンタクトレンズに対し、当該染色眼用レンズの製造方法を用いることで、コンタクトレンズ表面に染料の析出物や残渣からなる凸部をほとんど有さない、安全で高い商品価値と信頼性を有する染色コンタクトレンズを提供することができる。また、この場合においても、染色後に染料の析出物等の洗浄除去や凸部の平滑化等の余分な工程が不要になるため、製造工程が非常に簡略化され、安価に製品を提供することが可能になる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[染色液調製例]
本実施例で用いた各染色液は、それぞれ以下のように調製した(表1参照)。
【0102】
(染色液(a))
[A]成分の染料として、1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン0.25質量部、[B1]成分の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン10質量部、及び[C]成分のラジカル重合開始剤として、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(a)を調製した。
【0103】
(染色液(b))
[A]成分の染料として、1−((4−(フェニルアゾ)フェニル)アゾ)−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール0.25質量部、[B1]成分の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン10質量部、及び[C]成分のラジカル重合開始剤として、ベンゾインエチルエーテル0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(b)を調製した。
【0104】
(染色液(c))
[A]成分の染料として、1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール0.25質量部、[B1]成分の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン10質量部、及び[C]成分のラジカル重合開始剤として、ベンゾインエチルエーテル0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(c)を調製した。
【0105】
(染色液(d))
[A]成分の染料として、1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン0.2質量部及び1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール0.2質量部、[B2]成分のラジカル重合性単量体として、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン10質量部、並びに、[C]成分のラジカル重合開始剤として、ベンゾインエチルエーテル0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(d)を調製した。
【0106】
【表1】
【0107】
[実施例1]
眼用レンズとして、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている含水性コンタクトレンズ((株)メニコン製「メニコン 2WEEK プレミオ」)を用いた。白熱電球((株)オーム電機製100V、40W)を用いて、乾燥状態のコンタクトレンズに30秒間熱を付与した。熱付与工程終了時のコンタクトレンズ表面の温度を熱電対型温度計((株)テストー製 635―2、プローブK熱電対)で測定したところ、65℃であった。その後、直ちに染色液(a)を、ピエゾ式インクジェット式塗布装置を用いてライン状に塗布し、染色液をレンズ表面に接触させた。接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を非接触式温度計(安立計器(株)製デュアルサーモAR―1500)で測定したところ、35℃であった。このようにして実施例1に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0108】
[実施例2〜4]
表2に示した染色液を用いた以外は、実施例1と同様にして、これらの実施例に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0109】
[実施例5]
熱を付与する時間を10分間とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る染色コンタクトレンズを得た。熱付与工程終了時のコンタクトレンズ表面の温度を上記同様の方法で測定したところ、95℃であった。また、接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、45℃であった。
【0110】
[実施例6]
白熱電球とコンタクトレンズとの離間距離をより小さくしてから、コンタクトレンズ表面が、上記同様の方法で測定して130℃になるまで熱を付与した以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る染色コンタクトレンズを得た。熱を付与した時間は5分間であった。また、接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、55℃であった。
【0111】
[実施例7]
白熱電球((株)オーム電機製100V、40W)を用いて、乾燥状態のコンタクトレンズに対し熱を付与しながら、上記インクジェット式塗布装置を用いて、染色液(d)を円環状に塗布することにより、実施例7に係る染色コンタクトレンズを得た。接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、40℃であった。
【0112】
[実施例8]
白熱電球((株)オーム電機製100V、40W)を用いて、乾燥状態のコンタクトレンズに対し熱を付与しながら、上記インクジェット式塗布装置を用いて、染色液(a)をライン状に塗布し、接触工程終了後もさらに10秒間熱付与を行うことにより、実施例8に係る染色コンタクトレンズを得た。接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、40℃であった。
【0113】
[比較例1]
室温(22℃)下で乾燥状態のコンタクトレンズに染色液(a)を、上記インクジェット塗布装置を用いてライン状に塗布することによって、比較例1に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0114】
[比較例2〜5]
染色液及び塗布形状を表2に示した通りにした以外は比較例1と同様にして、それぞれの比較例に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0115】
[染料の析出及び残渣の有無]
各実施例及び比較例において得られた染色コンタクトレンズ表面に形成された染色印刷物を、実体顕微鏡(オリンパス(株)製SZX16)を用いて10倍に拡大して観察し、以下のように評価した。
○:コンタクトレンズ表面に、染料の析出物や残渣が認められなかった。
×:コンタクトレンズ表面に、染料の析出物や残渣が認められた。
【0116】
得られた評価結果を、熱付与時間、白熱電球からの離間距離、用いた染色液の種類、塗布形状の条件、及び眼用レンズの温度の測定値とともに表2に示す。また、各染色印刷物の実体顕微鏡画像を、表2に記載する各図面に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
表2の実施例1〜8の結果から明らかなように、染色液をレンズ表面に塗布するより前又は塗布と同時に眼用レンズに熱を付与することによって、いずれも眼用レンズ表面に染料の析出物や残渣の発生は認められず、染料が完全に浸透させることができることが示された。一方、比較例1〜5では、染色の際に眼用レンズに熱を付与しないため、眼用レンズ表面に染料の析出物や残渣の発生がいずれも認められた。また実施例1、実施例5及び実施例6を比較することにより、接触工程終了時の眼用レンズの塗布部温度がより高い方が、より鮮鋭でかつ滲みのない染色印刷物が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明の染色眼用レンズの製造方法は、簡便かつ安価に、安全で信頼性の高い染色眼用レンズを製造することができるので、コンタクトレンズを始めとする眼用レンズに対して幅広く用いられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は染色眼用レンズの製造方法及びそれにより得られる染色眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズの分野、とりわけコンタクトレンズにおいて、その製造、流通、販売等の際にコンタクトレンズの度数などの規格を識別し、管理するために、レンズの一部に規格を表す数字などを印刷することが行われている。また、使用者がレンズの表裏を判別し易いように、同様に数字、文字、図形などを印刷表示することも行われている。さらに、疾病や傷害などによって眼の虹彩を欠損した患者に対し、整容性の観点から、コンタクトレンズに人の眼の虹彩の色や形状を模した印刷を施すことによって自然な外見が得られるコンタクトレンズが用いられることもある。またファッション性の観点から、虹彩の色を変えたコンタクトレンズも需要が多い。このように眼用レンズにマークや染色を施すことは、レンズの製造における重要な要素となっている。
【0003】
このような眼用レンズの染色は、顔料や染料を溶剤などに分散あるいは溶解させた染色液を、レンズ表面に塗布等することによって行われている。このうち顔料の場合は、一般的に溶剤には溶解しないので、これを微粉末化した粒子を溶剤に分散させた染色液が用いられる。しかし、このような顔料粒子は眼用レンズ基材を構成する高分子の網目の大きさよりかなり大きいので、レンズ基材の内部に浸透できず、レンズ表面に脆弱に付着するだけに留まり、レンズ表面に凸部が形成される。かかる凸部の存在はたとえ微小なものであっても、目に直接接触するコンタクトレンズなどにおいては、眼に物理的ないし生理学的な悪影響を及ぼし、あるいは障害を与えるおそれがあり、またそのような凸部は摩擦等により容易に剥離することが多く、剥離した粒子がさらに眼を傷つける等の二次的な障害を招来するおそれがある。
【0004】
一方、染料の場合は通常、溶剤に溶解させた染色液を用いて染色が行われる。染料は顔料の場合と異なり、分子サイズで溶剤中に存在しているので、極度に大きな分子でない限り、レンズ基材の高分子網目の中へ浸透させることは可能である。しかし、染料分子をレンズ基材に完全に浸透させることは難しく、実際には、染料がレンズ表面に析出したり残渣として残ることが多い。特に、鮮鋭で高コントラストの染色印刷物を得る目的で、高濃度の染色液を用いる場合には、この現象は顕著に発生する。このような染料の析出物や残渣の発生は、顔料の場合と同様、眼用レンズ表面の凸部となり、またその剥離のおそれがある。
【0005】
このように染色の際に発生したレンズ表面の凸部を除去する方法としては、例えば、レンズ染色後にレンズ面を研磨加工する方法(特開平5−257096号公報参照)などが開発されている。しかし、このように凸部を平滑化したり、あるいは染料の析出物や残渣を洗浄により除去するためには新たな工程が必要となり、製造方法が煩雑になる上コストの増大等を招くことになる。
【0006】
従って、染色の際に染料の析出物等が発生することのない方法が求められている。これを達成する具体案としては、予め眼用レンズ基材を溶媒で膨潤させておき、その後染色液を浸透させる方法が知られている(例えば、特公昭64−10045号公報、特開昭63−264719号公報、特開平4−270312号公報等参照)。また、乾燥状態の含水性コンタクトレンズにインクジェット式塗布装置によって染色液を塗布する際に、微小ノズルから少量の水を前もってあるいは同時に噴霧してレンズ基材を膨潤させる方法も知られている(特開平8−112566号公報参照)。これらの方法を採用することにより、レンズ基材の高分子網目がすでに溶媒によって膨潤している状態で染色液が塗布されるため、乾燥状態のレンズ基材に塗布する場合と比較して、染料分子はより速く浸透する傾向にある。その結果、染料の浸透を完結、あるいはそれに近い状態まで進めることができ、レンズ表面での染料の析出等を効果的に防止することができる。
【0007】
しかし、当該方法は一方で以下の不都合を有する。すなわち、(1)膨潤したレンズ基材は機械的強度が低下しているため、染色等の諸工程において破損等が増加し、生産性の低下を招く。またその対策のために、非常に慎重な操作が要求され、特殊な取扱い装置や器具が必要となり、製造コストの増大を招く。(2)予め膨潤させることで、レンズ基材中での染料の拡散が過度に促進されるため、所望の部位以外の場所に染料の拡散が起こり易くなる。その結果、得られる染色印刷物において滲みが発生し易くなり、そのため、鮮鋭な文字や記号の印刷が困難になるおそれがある。
【0008】
このように予めレンズ基材を膨潤させる方法は種々の不都合を有するため、眼用レンズを乾燥状態のままで染色する方法が検討されており、例えば、昇華性染料を用い、染料を昇華させてレンズ基材内部へ浸透させ染色を行う方法(特開2004−38107号公報参照)などが知られている。しかし、当該方法では、使用可能な染料が昇華性を有する特殊なものに限定される上、昇華した染料が所望の部位以外にも付着してしまうという問題点を有する。そのため、所望部位以外の場所をマスキングしたり、あるいは水溶性ポリマー等の助剤を塗布して染色部位を限定するなど、余分な工程や特殊な方法が必要であり、製造工程が煩雑化するという不都合を有している。
【0009】
このように眼用レンズを染色液で染色する方法において、乾燥状態の眼用レンズに対しレンズ表面に染料の析出物や残渣を発生させることなく染料をレンズ基材内部へ浸透させることができる方法は、今のところ存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−257096号公報
【特許文献2】特公昭64−10045号公報
【特許文献3】特開昭63−264719号公報
【特許文献4】特開平4−270312号公報
【特許文献5】特開平8−112566号公報
【特許文献6】特開2004−38107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上のような不都合を解消するためになされたものである。すなわち、本発明の目的は、乾燥状態の眼用レンズに対し、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく、染料をレンズ基材内部に容易かつ確実に浸透させることができ、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去やレンズ表面凸部の平滑化を行う工程などを必要としない染色眼用レンズの製造方法及びそれにより得られる染色眼用レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、染色液を乾燥状態の眼用レンズ表面に接触させる際に眼用レンズに熱を付与することによって、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく染料を浸透させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題を解決させるためになされた発明は、
[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、
上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、
上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有することを特徴とする。
【0014】
当該染色眼用レンズの製造方法によれば、染色液を乾燥状態の眼用レンズ表面に接触させるより前及び/又は同時の段階において、眼用レンズに熱を付与することによって、染料の浸透の初期段階から、染料のレンズ基材内部への浸透速度が向上し、また、染色液中における染料の溶解性が確保されるので、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく、染料をレンズ基材内部に確実に浸透させることができる。従って、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、レンズ表面に染料の析出物や残渣からなる凸部をほとんど有さない、安全で信頼性の高い染色眼用レンズを得ることができる。また、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、染料の析出物や残渣の発生を抑制できるため、これらを染色後に除去するための洗浄工程や、凸部を平滑化するための工程が不要となる。従って、簡便かつ安価に染色眼用レンズを提供することができる。さらに当該染色眼用レンズの製造方法によれば、乾燥状態の眼用レンズを染色することができるので、予め眼用レンズを膨潤させておく工程等も不要になり、染色眼用レンズの製造工程を大幅に簡略化することができる。また、染料の浸透の初期段階から、染料分子のレンズ基材内部における拡散速度がより高くなることで、より鮮鋭で滲みのない染色印刷物を得ることができる。
【0015】
なお上記染料の析出や残渣発生の抑制は、染色液をレンズ表面に接触させる際の上記段階において、眼用レンズに熱を付与することで、眼用レンズ自体及びレンズ表面に付着した染色液の温度が、染料の浸透初期の段階から一定値以上になることにより達成されると考えられる。すなわち、レンズ基材自体の温度が染料の浸透初期の段階から一定値以上であることにより、染料のレンズ基材中における拡散係数が増大し、基材内部への浸透速度が向上するため、レンズ表面における染料の残渣の発生が効果的に抑制される。またレンズ表面に付着した染色液の温度がその浸透初期の段階から一定値以上であることにより、媒体分子の方が染料分子よりもレンズ基材内部により速く浸透するために起こる染色液中の染料濃度の増大に対しても、染料の飽和溶解度が上昇することによって、染料の溶解性が確保されるので、染料の析出が効果的に抑制される。これら両方の相乗効果によって、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生することなく、染料のレンズ基材内部への確実な浸透が達成されると考えられる。
【0016】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有するとよい。眼用レンズへの熱付与を、接触工程より前及び/又は接触工程と同時に有すると共に、さらに接触工程より後に有することで、レンズ基材の温度を染料の浸透初期の段階から浸透が進行した段階まで一定値以上にしておくことができる。その結果、染料のレンズ基材内部への浸透が継続的に促進されると共に、レンズ表面の染色液における染料の溶解性が継続して向上するので染料の析出や残渣の発生がさらに低減される。
【0017】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記接触工程終了時の眼用レンズの温度が、30℃以上90℃以下であることが好ましい。接触工程終了時の眼用レンズの温度を上記範囲に設定することにより、染料分子のレンズ基材内部への浸透の促進、及びレンズ表面に付着した染色液中における染料の溶解性の確保をさらに効果的に、かつ眼用レンズに影響を与えることなく達成することができ、染料の析出や残渣の発生がさらに抑制される。また、染料分子の眼用レンズ基材内部における浸透が特に効果的に行われることにより、非常に鮮鋭でかつ滲みの少ない染色印刷物を得ることができる。
【0018】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記眼用レンズの[B]媒体による平衡膨潤度が、40%以上600%以下であることが好ましい。染色液中の[B]媒体による眼用レンズを構成する材料の平衡膨潤度が上記範囲であることにより、乾燥状態の眼用レンズに対する染料分子の浸透速度が向上するため、レンズ表面における染料の析出や残渣の発生をさらに抑制することができる。
【0019】
当該染色眼用レンズの製造方法において、インクジェット式塗布装置により上記接触工程を行うとよい。インクジェット式塗布装置を用いて染色液を眼用レンズ表面に接触させることにより、微細な染色印刷物を、正確にかつ非常に簡便に、眼用レンズ表面に形成させることができる。
【0020】
当該染色眼用レンズの製造方法において、
上記染色液が、[C]ラジカル重合開始剤をさらに含み、
[A]成分の染料が、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料であり、
[B]成分の媒体が、上記[A]成分及び[C]成分のそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる[B1]溶媒及び/又は[B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体であり、
上記接触工程後かつ上記熱付与工程後に、眼用レンズに浸透した染色液を重合させるため、この浸透した染色液に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する定着工程をさらに有するとよい。
【0021】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染色液が、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料と、ラジカル重合開始剤と、これらのそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる溶媒及び/又はラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体とを含んでおり、上記接触工程後かつ上記熱付与工程後の染色液が浸透した段階において、この浸透した染色液に活性エネルギー線及び/又は熱を付与することで、眼用レンズに対して極めて優れた耐溶出性を付与することができ、半恒久的に安定で溶出がほとんどない染色印刷物を形成することができる。このような染色液から形成された染色印刷物は、水による膨潤や、煮沸、洗浄の際においても染料が溶出することがなく、耐久性が極めて高い。このような優れた耐溶出性は、染料分子の炭素−炭素二重結合が、電磁波や熱によってラジカル反応し、眼用レンズを構成する高分子の網目構造の中で重合するか、あるいは眼用レンズの高分子とグラフト反応することによって、この染料分子が眼用レンズに強固に定着することによって達成されると考えられる。この定着効果は、反応性染料と反応し得る基を有していない眼用レンズについても同様に得られる。従って、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、このような耐溶出性に優れる染色眼用レンズを、レンズ表面に染料の析出や残渣をほとんど発生させることなく得ることができる。また、当該染色液を用い単に電磁波や熱によって染色液を重合・硬化させることで、非常に簡便に耐溶出性に優れる染色眼用レンズを得ることができる。
【0022】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染料において、炭素−炭素二重結合を有する基が、α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基からなる群より選択される少なくとも1つの基であることが好ましい。炭素−炭素二重結合を有する基としてこれらの基を選択することによって、眼用レンズへの印刷特性及び得られる染色眼用レンズの耐溶出性を向上させることができる。
【0023】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染料において、炭素−炭素二重結合を有する基がα、β−不飽和カルボニル基である場合、この基は、(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましい。炭素−炭素二重結合を有する基としてこれらの基を選択することによって、眼用レンズへの印刷特性、及び得られる染色眼用レンズの耐溶出性をより一層向上させることができる。
【0024】
当該染色眼用レンズの製造方法で用いられる染色液が、[D]界面活性剤をさらに含むとよい。当該染色液が界面活性剤をさらに含むことによって、この染色液の眼用レンズ基材への浸透の速度及び均一性を向上させることができるので、眼用レンズ表面への染料の析出や残渣の発生をさらに抑制させることができると共に、滲みが少なく鮮鋭な染色印刷物を得ることができる。
【0025】
当該染色眼用レンズの製造方法において、上記眼用レンズとしてはコンタクトレンズを用いることができる。生活用として広く普及しているコンタクトレンズを用い、当該染色眼用レンズの製造方法によって得られた染色コンタクトレンズの表面には、染料の析出物や残渣がほとんど発生していない。その結果、レンズ表面に凸部をほとんど有さず、またその剥がれのおそれがほとんどないため、安全で高い商品価値と信頼性を有する染色コンタクトレンズを提供することが可能となる。また、染色後に染料の析出物等の洗浄除去や凸部の平滑化等の余分な工程が不要になるため、製造工程が非常に簡略化され、安価に製品を提供することが可能になる。このような効果は、コンタクトレンズとして含水性コンタクトレンズを使用する場合においても、同様に得られる。
【0026】
当該染色眼用レンズの製造方法においては、含水性コンタクトレンズとしては、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されているものを用いることが好ましい。このように含水性コンタクトレンズが、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されていることによって、コンタクトレンズに高い柔軟性及び酸素透過性を付与することができる。
【0027】
当該染色眼用レンズの製造方法においては、基材である眼用レンズとしては、酸素透過性硬質コンタクトレンズを用いることができる。このように眼用レンズとして、酸素透過性硬質コンタクトレンズを用いる場合においても、上記同様、この製造方法により、安全かつ安価で高い商品価値と信頼性を有する酸素透過性硬質コンタクトレンズを提供することができる。
【0028】
上記染色眼用レンズの製造方法により得られる染色眼用レンズは、その表面に染料に起因する凸部を有さず、眼への物理的、あるいは生理学的な影響が低減されており、眼用レンズとして非常に安全性及び信頼性が高い。また、そのような染色眼用レンズの製造工程において、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去や凸部の平滑化を行う工程などの余分な工程を必要としない。従って、当該染色眼用レンズは、非常に簡便に、かつ安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の染色眼用レンズの製造方法によれば、乾燥状態の眼用レンズに対し、レンズ表面に染料の析出物や残渣をほとんど発生させることなく、染料をレンズ基材内部に容易かつ確実に浸透させることができ、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去や凸部の平滑化を行う工程など余分な工程を必要とせず、染色眼用レンズを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図2】実施例2において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図3】実施例3において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図4】実施例4において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図5】実施例5において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図6】実施例6において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図7】実施例7において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図8】実施例8において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図9】比較例1において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図10】比較例2において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図11】比較例3において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図12】比較例4において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【図13】比較例5において形成された染色印刷物の実体顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0032】
本発明の染色眼用レンズの製造方法は、
[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、
上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、
上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有するものである。以下、眼用レンズ、染色液、染色方法の各工程、及び染色眼用レンズに関し、この順に説明する。
【0033】
[眼用レンズ]
当該染色眼用レンズの製造方法において用いられる眼用レンズは、人の眼に装着することにより視力の矯正、整容性向上等を可能とするレンズであり、コンタクトレンズに限らず、眼内レンズ、人工角膜、角膜オンレイ、角膜インレイ等を含む概念である。このような眼用レンズは、一般に架橋構造を有する高分子材料からなり、レンズ内部に高分子網目構造を有する。コンタクトレンズとしては、水を含んで柔軟化する含水性コンタクトレンズ、非含水性コンタクトレンズ、硬質酸素透過性コンタクトレンズ、あるいはこれらの組み合わせからなるハイブリッドコンタクトレンズを挙げることができる。これらの眼用レンズの材質としては、公知のいずれのものを用いることもできる。例えば、含水性コンタクトレンズの材質としては、ポリヒドロキシエチルメタクリレート等を用いることができる。
【0034】
当該染色眼用レンズの製造方法において、眼用レンズとして含水性コンタクトレンズを用いる場合、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されているものが好ましく用いられる。シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている含水性コンタクトレンズはコンタクトレンズに高い柔軟性及び酸素透過性を付与することができる。このような共重合体としては、特に限定されないが、例えばシリコーン化合物単量体(もしくはマクロマー)と親水性モノマーとの共重合体などを用いることができる。用いられるシリコーン化合物単量体の例としては、ウレタン結合を介してエチレン性不飽和基及びポリジメチルシロキサン構造を有する化合物、分子内に親水性構造部分を有するシリコーン化合物、シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート、シリコーン含有スチレン誘導体およびシリコーン含有フマル酸ジエステル等を挙げることができる。
【0035】
当該染色眼用レンズの製造方法において用いられる眼用レンズは、乾燥状態のものである。従来多用されていた膨潤法のように、機械的強度が小さく破損し易い膨潤状態の眼用レンズの場合には、特殊な取扱い装置や治具等を用いる必要があるのに対し、当該染色眼用レンズの製造方法によれば、乾燥状態の眼用レンズに直接染色を行うことができるので工程の簡略化及び生産性の向上を達成することができる。ここで、乾燥状態の眼用レンズとは、膨潤して柔軟な状態となっていない状態の眼用レンズのことをいい、膨潤させ得る媒体を含有しない、あるいは僅かしか含まない状態のものを含み、通常キセロゲルなどと言われる状態のものをいう。
【0036】
[染色液]
当該染色眼用レンズの製造方法において用いられる染色液は、[A]染料及び[B]媒体を含有する。また、その他の成分として、[C]ラジカル重合開始剤や[D]界面活性剤などを含んでいてもよい。以下、当該染色液の各成分について順に説明する。
【0037】
〈[A]成分:染料〉
[A]成分の染料としては、可視光の一部を吸収又は反射することによって特定の色を発色する化学構造を有する化合物であり、[B]成分の媒体に溶解することができるものもしくは[B]成分の媒体に溶解せず分散するものであっても分散質が眼用レンズを構成する高分子の網目の大きさよりも小さいものであれば、特に限定されず用いることができる。
【0038】
[A]成分の染料としては、眼用レンズ基材を構成する高分子と反応して共有結合を形成できる官能基を有する染料が好ましい。そのような官能基を有することで、染料分子を眼用レンズ基材の高分子と結合させ、染料をレンズ内部に半恒久的に安定して定着させることができるので、耐溶出性に極めて優れる染色印刷物を形成させることができる。また[A]成分の染料としては、分子内に重合性基を有する染料も好ましい。[A]成分の染料が重合性基を有することで、眼用レンズ基材を構成する高分子が染料分子と反応し得る官能基を有していない場合でも、染料分子が付加重合等して重合体を生成する際に当該高分子の網目との間で相互侵入網目構造が形成され、染料が物理的に溶出し得ないような高次構造が形成されるので、上記同様、耐溶出性に極めて優れる染色印刷物を形成させることができる。このような重合性基を有する染料としては、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料が特に好ましい。このような基を有する染料を用いることにより、ラジカル重合開始剤等の存在下で、染料分子の重合あるいは眼用レンズ基材高分子へのグラフト反応による結合生成を簡便に行うことができ、耐溶出性が極めて高い染色印刷物を形成させることができる。
【0039】
上記炭素−炭素二重結合を有する基としては、α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基又はアリル基が好ましい。このような官能基を有する染料を用いることにより、眼用レンズへの印刷特性及び得られる染色眼用レンズの耐溶出性を向上させることができる。
【0040】
上記α、β−不飽和カルボニル基は、(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましい。炭素−炭素二重結合を有する基がこれらの特定の基であることによって、眼用レンズへの印刷特性をさらに高めることができると共に、得られる染色印刷物の耐溶出性をさらに向上させることができる。なお、上記スチリル基は、置換基を有しないスチリル基であっても、α−メチル基等の置換基を有するスチリル基であってもよい。ビニルベンジル基は、o−、m−及びp−ビニルベンジル基のいずれであってもよい。
【0041】
(メタ)アクリレート基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば1−フェニルアゾ−4−アクリロイルオキシナフタレン、1−フェニルアゾ−2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシナフタレン、1−ナフチルアゾ−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(α−アントリルアゾ)−2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−((4−フェニルアゾ)フェニル)アゾ−2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシナフタレン、1−(2’,4’−キシリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、1−(o−トリルアゾ)−2−(メタ)アクリロイルオキシナフタレン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシメチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N,N−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(p−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−3−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−5−(o−(N−エチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチルアミノ)フェニルアゾ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0042】
(メタ)アクリレート基を分子内に少なくとも1つ有する染料の他の例としては、下記式(1)で表される1−((4−(フェニルアゾ)フェニル)アゾ)−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール、下記式(2)で表される1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール、下記式(3)で表される1−フェニルアゾ−4−メタクリロイルオキシ−ナフタレン、下記式(4)で表される2,4−ジヒドロキシ−5−(4−(2−(N−(2−メタクリロイルオキシ)エチル)カルバモイルオキシエチル)フェニルアゾ)ベンゾフェノンが挙げられる。
【0043】
【化1】
【0044】
【化2】
【0045】
【化3】
【0046】
【化4】
【0047】
(メタ)アクリルアミド基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば下記式(5)で表されるテトラ−(4−メタクリルアミド)銅フタロシアニン、テトラ−(メタクリルアミド)ドデカノイル銅フタロシアニン等を挙げることができる。
【0048】
【化5】
【0049】
スチリル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば1−(エテニルフェニル)アミノ−アントラキノン、下記式(6)で表される1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン、下記式(7)で表される1,8−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン、1−(エテニルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、1−(エテニルフェニル)アミノ−4−(4−メチルフェニル)アミノ−アントラキノン等を挙げることができる。
【0050】
【化6】
【0051】
【化7】
【0052】
ビニルベンジル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては特に限定されないが、例えば1,4−ビス((ビニルベンジル)アミノ)−アントラキノンを挙げることができる。
【0053】
アリル基を分子内に少なくとも1つ有する染料としては、特に限定されないが、例えば下記式(8)で示される1−(4−アリルオキシメチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、下記式(9)で示される1−(4−アリルオキシエチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン、下記式(10)で示される1,4−ビス((4−アリルオキシエチルフェニル)アミノ)−アントラキノン等を挙げることができる。
【0054】
【化8】
【0055】
【化9】
【0056】
【化10】
【0057】
なお、これらの炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料を用いる場合、上記効果を阻害しない程度の量の非反応性染料(例えば、「D&C Green No.6」や「D&C Red No.17」)を併用しても構わない。
【0058】
[A]成分の染料は、可視光の一部を吸収又は反射することによって特定の色を発色する染料の化学構造の観点からは、アゾ系染料、アントラキノン系染料、ニトロ系染料、フタロシアニン系染料、キノンイミン系染料、キノリン系染料、カルボニル系染料、トリアリールメタン系染料、メチン系染料等に分類することができる。
【0059】
染色液における[A]成分の染料の使用割合は、特に限定されないが、[B]成分の媒体の合計100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。[A]成分の使用割合を0.1質量部以上とすることによって、得られる染色印刷物の十分な視認性を得ることができる。[A]成分の使用割合を10質量部以下とすることによって、染色液中の溶解しない部分の発生を低減することが可能であると共に、染料の過剰による眼用レンズへの浸透ムラ及びそれに誘発される染色ムラの発生(レンズ装着時における外見の悪化)を防止することができる。[A]成分の染料は1種類単独であっても、複数種を混合して用いてもよい。
【0060】
〈[B]成分:媒体〉
[B]成分の媒体としては、[A]成分の染料を溶解及び/又は分散させることができる液体である限り特に限定されず用いることができる。[B]成分の媒体としては、このような性質を有する化合物であれば、通常、溶媒として用いられる液体(以下、「溶媒」([B1]成分)ともいう。)の他、ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体(以下、「ラジカル重合性単量体」([B2]成分)ともいう。)を用いることもできる。
【0061】
([B1]成分:溶媒)
[B1]成分の溶媒の代表的なものとしては、
水;
メタノール、エタノール、プロパノール、グリセロール、トリフルオロエチルアルコール、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなどのアルコール類;
メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類;
トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;
ヘキサン、オクタンなどの鎖状脂肪族炭化水素系溶剤;
シクロヘキサン、デカリンなどの環状脂肪族炭化水素系溶剤;
酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル系溶剤;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;
クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、フロンなどのハロゲン化炭素系溶剤;
ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;
その他、ジメチルスルフォキシド、塩化ナトリウムなどの電解質塩を含む水等を挙げることができる。
[B1]成分の溶媒としては1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0062】
([B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体)
[B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体において、「ラジカル重合性基」とは、ラジカル重合可能な不飽和基を意味する。[B2]成分のラジカル重合性単量体を[B]成分の媒体として用いることで、[A]成分の染料とともに眼用レンズ基材内部に浸透した[B2]成分のラジカル重合性単量体の重合により生成したポリマーが染料を包接すると共に、レンズ基材高分子の網目とかかるポリマーとの間で相互侵入網目構造が形成される。その結果、染料分子をレンズ基材内部に物理的に定着させ、眼用レンズの外部へ溶出しないようにすることができる。また、[A]成分の染料が炭素−炭素二重結合等のラジカル重合性基を有するものである場合、染料分子とラジカル重合性単量体とが共重合することができ、形成される相互侵入網目構造、あるいは眼用レンズ基材高分子とのグラフト反応による固定化において、染料分子がさらに強固に定着されることとなるため、得られる染色印刷物の洗浄等に対する耐剥離性・耐溶出性がより一層高くなる。
【0063】
[B2]成分のラジカル重合性単量体の例としては、
メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和基含有カルボン酸類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、t−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;
メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシ基含有(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート類;
スチレン、ペンタフルオロスチレン、o、m、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、トリメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン、(ペンタメチル−3,3−ビス(トリメチルシロキシ)トリシロキサニル)スチレン、(ヘキサメチル−3−トリメチルシロキシトリシロキサニル)スチレン、ジメチルアミノスチレン等のスチレン誘導体類;
N−ビニル−2−ピロリドン、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルピロリドンなどの炭素−炭素不飽和基含有ラクタム類;
(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−アミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルアクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アジピン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート、α−メチレン−N−ビニルピロリドンなどの不飽和基を2つ以上有する多官能性単量体類;
ペンタメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ(メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ)ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキサニルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、ペンタメチルジシロキサニルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキサニルメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどのシリコン含有(メタ)アクリレート類;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロイソプロピル(メタ)アクリレート、テトラフルオロ−t−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロ−t−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,3,4,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ビス(トリフルオロメチル)ペンチル(メタ)アクリレート、ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシオクタフルオロ−6−トリフルオロメチルヘプチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシドデカフルオロ−8−トリフルオロメチルノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキサデカフルオロ−10−トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレート等のフッ素含有(メタ)アクリレート類;
アミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキル(メタ)アクリレート類;
ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;
イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などの、アルキル基、フッ素含有アルキル基、シロキサニルアルキル基で置換されていてもよいアルキルエステル類;
ビニルイミダゾール、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピペリジン、N−ビニルサクシンイミドなどのヘテロ環式N−ビニル単量体等が挙げられる。
【0064】
[B2]成分のラジカル重合性単量体の中でも、ラジカル重合反応性及び入手容易性の観点から、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、4−ビニルベンジル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン、メチル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、スチレン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、N−ビニル−2−ピロリドンが好ましい。
[B2]成分のラジカル重合性単量体としては、1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0065】
[B2]成分のラジカル重合性単量体として、液体状の単量体を用いる場合において、[A]成分の染料及び後述する[C]成分のラジカル重合開始剤がこの液体状単量体に溶解しうるときには、[B]成分の媒体として、[B1]成分の溶媒を用いることなく、[B2]成分のラジカル重合性単量体を用いて染色液を形成することができる。当該染色液においては、[B]成分の媒体として、[B1]成分の溶媒及び[B2]成分のラジカル重合性単量体を併用することもできる。
【0066】
[B]成分の媒体としては、眼用レンズ基材を構成する高分子の網目を膨潤させ得るものが好適に用いられる。かかる媒体は、媒体による高分子網目の膨潤挙動が、眼用レンズ基材高分子の種類や高分子の凝集構造の形態に依存するため、一概に規定することはできないが、例えば当該基材高分子の架橋構造を構成する線状高分子鎖を溶解させ得る媒体、当該基材高分子の繰り返し単位と類似する化学構造を有する媒体、当該基材高分子に溶媒和し得る媒体、極性基を有する媒体、又は環状構造を有する媒体などを挙げることができる。眼用レンズ基材を構成する高分子が、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている場合は、そのような高分子は一般的には非晶構造を有していることが多いので、当該高分子と化学構造が類似していない媒体でも好適に用いることができる。
【0067】
このようなレンズ基材高分子を膨潤させ得る媒体の具体例としては、例えば、眼用レンズ基材がポリメチルメタクリレートである場合、基材高分子の繰り返し単位と化学構造が類似するメチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類、あるいは、N−メチル−2−ピロリドンなどの環状アミド類;テトラヒドロフランなどの環状エーテル類などが挙げられる。
【0068】
このような膨潤挙動を表すのに、平衡膨潤度が用いられる。[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度の下限としては、40%が好ましく、70%がより好ましく、100%がさらに好ましい。一方、この[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度の上限としては600%が好ましく、500%がより好ましく、400%がさらに好ましい。当該[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度が上記下限より小さいと、染色液の眼用レンズ内部への浸透速度が低下し、染色に長時間を要するおそれがある。逆に、当該平衡膨潤度が上記上限を超えると、媒体の浸透が速くなり過ぎて、滲み等が発生し易くなり、鮮鋭かつ良好な染色印刷物が得られないおそれがある。ここで、[B]成分の媒体による眼用レンズの平衡膨潤度とは、乾燥状態の眼用レンズを媒体に25℃で24時間浸漬させて膨潤させ、眼用レンズの乾燥状態の質量(W1)と、膨潤状態の質量(W2)の値から、下記式(1)により算出される値である。
平衡膨潤度(%)=(W2−W1)×100/W1 ・・・(1)
【0069】
[B]成分の媒体としては、後述の熱付与工程により温度が上昇した眼用レンズ表面に付着しても、容易に揮発しないものが好ましい。そのような媒体としては、熱付与工程における設定温度の値に依存するため一概に規定することはできないが、通常、標準状態における沸点として50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。
【0070】
当該染色液が、[A]成分として炭素−炭素二重結合等のラジカル重合性基を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料、及び/又は[B2]成分のラジカル重合性単量体を含有し(これらを以下「ラジカル重合性化合物」ともいう。)、さらに後述の[C]成分のラジカル重合開始剤を含有する場合、[B]成分の媒体としては、[A]成分及び[C]成分のそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる液体であることが好ましい。また、その場合において、[B]成分の媒体は、[A]成分及び[C]成分の実質的に全てを溶解させることができる液体であることがさらに好ましい。
【0071】
当該染色液における[B1]成分の溶媒及び[B2]成分のラジカル重合性単量体は、それぞれの使用割合及び両者の比率は特に限定されない。例えば、当該染色液における[B1]成分を用いる場合の使用割合は0.1質量%以上99.8質量%以下、[B2]成分を用いる場合の使用割合は1質量%以上99.8質量%以下とすることができる。
【0072】
〈[C]成分:ラジカル重合開始剤〉
当該染色液が、上記ラジカル重合性化合物を含む場合においては、染色液のレンズ表面への接触、浸透後にこれらを重合、硬化させるため、染色液にラジカル重合開始剤を含有させることができる。[C]成分のラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線(紫外光や可視光等の光線(電磁波))又は熱を付加することによってラジカル(遊離基)を発生する化合物であって、上記染料自体のラジカル重合、あるいは、上記染料とラジカル重合性単量体とのラジカル重合を開始させ得るものであると定義される。ラジカル重合開始剤はこのように定義される性質を有するものである限り、特に限定されるものではない。
【0073】
活性エネルギー線により開裂するラジカル重合開始剤の具体例としては、
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド(TMDPO)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド系光重合開始剤;メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オンなどのケトン系光重合開始剤;2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系光重合開始剤;ベンジルメチルケタール、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタールなどのケタール系光重合開始剤;その他、ジベンゾスパロン、ベンゾフェノン、ベンジル等が挙げられる。
【0074】
熱により開裂するラジカル重合発生剤の具体例としては、
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0075】
上記染色液における[C]成分のラジカル重合開始剤の使用割合は、特に限定されないが、[B]成分の媒体100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。[C]成分の使用割合を0.1質量部以上とすることによって、ラジカル重合性化合物のラジカル重合反応性を高度なレベルに保ち、眼用レンズに定着していない染料の溶出やそれによって起こる薄色化を抑制することができる。[C]成分の使用割合を20質量部以下とすることによって、眼用レンズ基材中のラジカル重合開始剤の残留量を低減し、安全性を高めると共に、眼用レンズへのラジカル重合開始剤の浸透ムラ及びそれに誘発される染色ムラを防止することができる。[C]成分のラジカル重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、複数種の化合物を併用してもよい。
【0076】
〈D成分:界面活性剤〉
[D]成分の界面活性剤は、染色液をよりスムーズに眼用レンズ基材内部に浸透させるために、また染色液から形成される染色印刷物の滲みを防止するために用いることができる。さらに、界面活性剤は、後述する染色液中のミセルを安定化する作用を有する。このような界面活性剤は、染色液中に溶解あるいは乳化させた状態で用いられる。
【0077】
[D]成分の界面活性剤の具体例としては、
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー及びその誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸及びその塩等の非イオン系界面活性剤;
脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン系界面活性剤;
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等の陽イオン系界面活性剤;
アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤などが挙げられる。
これらの界面活性剤の中でも、染色液の眼用レンズ基材内部への浸透性の点において、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が最も好ましい。
【0078】
当該染色液における[D]成分の界面活性剤の使用割合は、特に限定されないが、0.001質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。[D]成分の使用割合を0.001質量%以上とすることによって、染色液の浸透性を効果的に高め、染色印刷物の滲みの発生を抑制することができる。[D]成分の使用割合は、0.01質量%以上とすることがより好ましい。一方、[D]成分の使用割合を5質量%以下とすることによって、[D]成分の析出を防止して得られる染色印刷物の均一性を保つことができると共に、[D]成分の過剰使用による不経済を防止することができる。[D]成分の使用割合は2質量%以下とすることがより好ましい。[D]成分の界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0079】
当該染色液は、上記[A]成分の染料及び[B]成分の媒体、必要に応じて、[C]ラジカル重合開始剤、[D]界面活性剤等のその他の成分を適当量混合することによって調製される。これらの成分を混合する順序は、特に限定されない。
【0080】
当該染色液の形態としては、均一な溶液であることが望ましい。当該染色液が、このように均一な溶液であることによって、眼用レンズの内部にまで容易かつ均一に浸透することが可能であるため、より良好な染色印刷物を得ることができる。また、後述するインクジェット式塗布装置を用いた眼用レンズへの印刷時に、吐出ノズル中における詰りを効果的に防止することができる。ここでいう「均一な溶液」とは、染色液中に染料が分子状に分散溶解した状態であることが好ましいが、染料の少なくとも一部がミセルなどの凝集体を成している状態のものを含まれる。ただし、ここでのミセルなどの凝集体は、眼用レンズの内部まで浸透可能であるように、眼用レンズの基材中に形成されている高分子網目構造を通過できる程度の大きさであることが好ましい。ミセルなどの凝集体のサイズは、眼用レンズ材料を構成する高分子網目構造の種類や大きさに依存するため、一概に規定することはできないが、平均的な上限が500〜600nmであることが好ましい。
【0081】
次に、本発明の染色眼用レンズの製造方法の各工程について説明する。当該染色眼用レンズの製造方法は、熱付与工程及び接触工程を有する。
【0082】
[熱付与工程]
上記熱付与工程において、眼用レンズに熱を付与する。眼用レンズ全体に熱を付与してもよく、眼用レンズの染色を行う部分付近のみに熱を付与してもよい。熱付与工程の段階とは、後述する加熱等の方法により眼用レンズに対して熱を付与している間をいう。
【0083】
熱を付与する方法としては、眼用レンズの温度を上昇させることができる方法である限り特に限定されるものではない。例えば恒温槽などを用いて温度の高い場所に眼用レンズを静置する方法、ヒーターや白熱電球などの発熱体を用いて眼用レンズを加熱する方法、遠赤外線などの電磁線を発生させる照射装置を用いて眼用レンズを照射する方法、ドライヤーなどを用いて眼用レンズに温風を供給する方法などが挙げられる。いずれの場合においても、眼用レンズの温度を所望値に設定して維持したり、又は必要に応じて温度制御をプログラム化して変化させたりすることが好ましい。このように構成することによって染色の品質を一定に保つことができ、また眼用レンズの温度を精密に制御することで、レンズ表面における染料の析出物や残渣の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【0084】
熱付与工程によって到達する眼用レンズの温度としては、特に限定されないが、熱付与工程終了時における眼用レンズ温度の下限としては、50℃が好ましく、60℃がより好ましく、70℃がさらに好ましい。一方、この熱付与工程終了時における眼用レンズ温度の上限としては、150℃が好ましく、135℃がより好ましく、120℃がさらに好ましい。熱付与工程終了時における眼用レンズ温度が上記下限より低いと、染色液の眼用レンズ基材内への浸透速度が低下し、染色に長時間を要するおそれがある。逆に、熱付与工程終了時における眼用レンズの温度が上記上限を超えると、眼用レンズ基材の変形などが起こるおそれがある。
【0085】
また、後述の接触工程終了時における眼用レンズの温度の下限としては、30℃が好ましく、40℃がより好ましく、50℃がさらに好ましい。一方この接触工程終了時におけるに眼用レンズの温度の上限としては、90℃が好ましく、75℃がより好ましく、60℃がさらに好ましい。接触工程終了時における眼用レンズの温度が上記下限より低いと、染料のレンズ基材内部における拡散速度が低下するため、鮮鋭でかつ滲みの少ない染色印刷物が得られないおそれがある。逆に、接触工程終了時における眼用レンズの温度が上記上限を超えると、染料のレンズ基材内部への浸透が不均一となり、均質な染色印刷物が得られなくなるおそれがある。なお、これらの場合において、眼用レンズの温度とは、染色液が付着した場所付近のレンズ表面の温度をいう。
【0086】
熱を付与する時間は、特に限定されず、熱付与方法や所望する眼用レンズの到達温度に応じて適宜設定することができるが、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましく、3分以下がさらに好ましい。熱を付与する時間が10分を超えると、工程上の作業時間が長くなり、生産性の低下及びそれによるコストの増大を招くおそれがある。
【0087】
[接触工程]
上記接触工程において、染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる。接触工程とは、染色の対象となる眼用レンズに対して、塗布等の染色液接触操作を開始してから終了するまでをいう。
【0088】
染色液と眼用レンズ表面とを接触させる方法としては、染色液を眼用レンズ表面に塗布する方法や、染色液に眼用レンズを浸漬させる方法など公知の様々な方法を用いることができる。染色液を眼用レンズ表面に塗布する方法としては、例えば、パッド印刷方法、スクリーン印刷方法、インクジェット式塗布装置を用いる方法などを用いることができる。この中で、所望の文字、数字、図形のパターンを簡便に印刷できる観点から、インクジェット式塗布装置を用いる方法が特に好ましい。インクジェット塗布装置は、染色液を非常に微小な液滴としてレンズ表面に噴霧するものであり、表面に着床した液滴は一つのドットを形成し、このドットの集まりによって所望の文字や数字や図形のパターンを形成することが可能となる。一般に小さなドットが高密度で集合した場合の文字や数字や図形は鮮鋭なコントラストを与え、優れた視認性のマークとなる。インクジェット式塗布装置にて印字、描画する際、液滴の大きさ、液滴が着床する地点などは、コンピューターなどによって正確に制御することが可能で、コンピューターのプログラムの変更などによって、容易にマークの形や大きさを変更することが可能である。このようにインクジェット式塗布装置を用いた塗布方法は非常に生産性が高く、また一定した高品質の印刷ができるという優れた利点を有する。さらにインクジェット式塗布装置によれば塗布される液滴が微小であり、レンズ基材へ着床した際の界面面積に比して液滴量が少ないので、より迅速に浸透しやすくなる。従って、インクジェット式塗布装置は上記利点以外に、レンズ表面への染料の析出や残渣の発生をより低減させて染料をレンズ基材内部へ浸透させる上でさらに有利な方法であるともいえる。
【0089】
当該インクジェット式塗布装置としては、公知のインクジェット式塗布装置をいずれも用いることができる。代表的なインクジェット式塗布装置は、染色液供給系とピエゾ素子などの圧電素子を備えたノズルから構成された吐出装置とからなり、圧電素子に電圧を負荷することによって生じる振動で、染色液を微小な液滴としてノズルから吐出する機構を有する。所望の液滴を吐出できるものである限り、いずれのインクジェット式塗布装置でも好適に用いることができる。ノズルは、単一であっても複数であっても構わない。複数のノズルを配した吐出装置においては、異なる染料を含む染色液を同時に吐出することが可能であり、色の諧調性にも優れるといった優れた特徴を有し、高速で良質な多色印刷を行うことができる。このような複数のノズルを備えたインクジェット式塗布装置もまた、好適に用いることができる。かかる多色印刷を行う場合は、異なる色調の染料を含む2種類以上の染色液をそれぞれ貯留タンクに充填し、コンピューターなどによってプログラム化された走査方式で、所望の位置に種々の染色液を吐出することによって染色印刷物を得ることができる。
【0090】
接触工程に要する時間は、染色液を接触させる方法や、形成させる染色印刷物の面積や形状、眼用レンズのサイズ等によっても異なるが、例えば、インクジェット式塗布装置を用いる場合、通常数秒から10分程度である。
【0091】
[接触工程と熱付与工程との関係]
本発明の染色眼用レンズの製造方法においては、上記熱付与工程を、上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に行う。すなわち熱付与工程を接触工程に対して、1)前、2)同時、3)前及び同時のいずれかに行う。この中で、1)前、又は3)前及び同時が好ましく、3)前及び同時がより好ましい。いずれの段階でもよいものの、接触工程以前に熱付与工程を設けることで、レンズ基材の温度を染料の浸透初期の段階から一定値以上にすることができ、また、レンズ表面に付着した染色液の温度を効果的に上昇させることができる。その結果、染料の浸透初期の段階から染料のレンズ基材内部への浸透が促進されると共に、レンズ表面の染色液における染料の溶解性が向上するので、レンズ表面における染料の析出や残渣の発生がより低減される。それとともに、レンズ基材の温度が浸透初期の段階から一定値以上になることで、染料分子のレンズ基材内部における拡散速度がより高くなり、より鮮鋭で滲みの少ない染色印刷物を得ることができる。
【0092】
当該染色眼用レンズの製造方法において、熱付与工程を接触工程に対して上記段階に設けることによって、眼用レンズ表面に染料の析出や残渣をほとんど発生させることなく、レンズ基材内部へ染色液を容易かつ確実に浸透させることができる。この理由としては以下のように考えることができる。すなわち、接触工程以前に眼用レンズに熱を付与することによって、染料の浸透の初期段階から、眼用レンズ自体の温度と共にレンズ表面に付着した染色液の温度も一定値以上にすることができる。その結果レンズ基材を構成する高分子の網目の分子運動が活発になり、染料分子のレンズ基材中における拡散係数が増大し、染料分子のレンズ基材内部への浸透速度が増大するので、レンズ表面の染料の残存が抑制され、残渣の発生が抑制される。一方、一般に染料分子に比べて媒体分子の方がレンズ基材内部への浸透速度が速いため、レンズ表面に付着した染色液の液滴中においては、その染料濃度は経時的に上昇するため、染料の析出のおそれが生じる。しかし、当該液滴の温度がその浸透の初期段階から一定値以上であることにより、染料分子が媒体中に溶解、凝集又は会合できる飽和濃度が上昇するので、染料の溶解状態を継続させることができ、染料の析出が抑制される。このように接触工程以前の段階から熱を付与することによって、染料分子の拡散促進と、染料の溶解性の向上との相乗効果によって、レンズ表面に染料の析出や残渣をほとんど発生させることなく、染料の確実な浸透を達成することができると考えられる。
【0093】
上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有することが好ましい。すなわち、熱付与工程を接触工程に対して、a)前及び後、b)同時及び後、c)前、同時及び後のいずれかに行うことが好ましい。眼用レンズへの熱付与を上記接触工程より後の段階においても行うことで、レンズ基材の温度を染料の浸透初期の段階から浸透が進行した段階におけるまで一定値以上にしておくことができる。その結果、染料のレンズ基材内部への浸透が継続的に促進させると共に、レンズ表面の染色液における染料の溶解性が継続して向上し、染料の析出や残渣の発生がさらに低減される。この中で、より鮮鋭で滲みの少ない染色印刷物が得られる観点から、a)前及び後、又はc)前、同時及び後が好ましく、c)前、同時及び後が特に好ましい。
【0094】
[定着工程]
染色液が、上記ラジカル重合性化合物を有し、かつ[C]成分のラジカル重合開始剤を含有する場合は、上記接触工程後かつ上記熱付与工程後に、眼用レンズに浸透した染色液を重合させるため、眼用レンズに活性エネルギー線及び/又は熱を付与する定着工程を有することが好ましい。このような定着工程を有することで、上記染色液が眼用レンズに浸透してから、重合、硬化させることによって、耐溶出性に非常に優れる染色印刷物を形成させることができる。染色液が浸透に要する時間は、染色液の成分及びその割合、熱付与工程による温度等の多数のファクターに依存するが、例えば、10秒以上20分以下である。
【0095】
上記定着工程においては、眼用レンズに浸透した上記ラジカル重合性化合物を含有する染色液にエネルギーを付与することによってラジカル重合・硬化させ、硬化物を眼用レンズに定着させる。このような重合、硬化は、エネルギーを付与することで、ラジカル重合開始剤からラジカル(遊離基)が発生することによって開始される。このようなエネルギーの付加方法の形態としては、活性エネルギー線(紫外光や可視光などの光線(電磁波))及び熱のいずれか1種あるいはこの中の複数種の組み合わせを採用することができる。活性エネルギー線を発生させるための装置としては、公知のものを用いることができるが例えば、高圧水銀灯を用いた発生装置、ブラックライト、LED装置などを適用することができる。例えば紫外光の照射において、365nm付近にピーク波長を有する紫外線照射装置を用いて、30〜60秒間紫外線を付与し、染色印刷物を形成することができる。一方、熱を発生させるための装置としても、公知のものを用いることができるが、適度な温度に設定可能な恒温槽などを適用することができる。
【0096】
染色液が眼用レンズの内部へ十分に浸透した状態で、ラジカル重合を行うことによって硬化物の高分子網目構造が形成され、染料分子が眼用レンズ内に定着する。従って、得られた染色印刷物では、染料分子が高分子網目構造として眼用レンズ内部に包含され、レンズ基材の高分子材料の網目構造との間で相互侵入網目構造を形成すると考えられる。このような相互侵入網目構造によって、その硬化物は、眼用レンズ内部に強固に定着し、極めて耐久性の高い安定した染色印刷物が得られる。また、このように耐久性に優れる染色印刷物を、単に電磁波や熱を用いて染色液を硬化して形成させることができる。
【0097】
[染色眼用レンズ]
本発明の染色眼用レンズの製造方法を用いることにより、コンタクトレンズ等の眼用レンズの表面の少なくとも一部に染色印刷物を有する染色眼用レンズを得ることができる。
【0098】
このような染色眼用レンズは、上述したように、その表面に染料に起因する凸部をほとんど有さず、眼への物理的、あるいは生理学的な影響が低減されている。また、そのような染色眼用レンズを製造する工程として、染色前に予め眼用レンズを膨潤させておく工程や、染色後に洗浄除去や凸部の平滑化を行う工程などの余分な工程を必要としない。従って、当該染色眼用レンズは、非常に簡便に、かつ安価に製造することができる。よって、この染色眼用レンズは、安全性及びコストの点で非常に優れており、商品価値及び信頼性の高い眼用レンズを消費者に提供することができる。
【0099】
生活用として広く普及しているコンタクトレンズに対し、当該染色眼用レンズの製造方法を用いることで、コンタクトレンズ表面に染料の析出物や残渣からなる凸部をほとんど有さない、安全で高い商品価値と信頼性を有する染色コンタクトレンズを提供することができる。また、この場合においても、染色後に染料の析出物等の洗浄除去や凸部の平滑化等の余分な工程が不要になるため、製造工程が非常に簡略化され、安価に製品を提供することが可能になる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
[染色液調製例]
本実施例で用いた各染色液は、それぞれ以下のように調製した(表1参照)。
【0102】
(染色液(a))
[A]成分の染料として、1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン0.25質量部、[B1]成分の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン10質量部、及び[C]成分のラジカル重合開始剤として、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(a)を調製した。
【0103】
(染色液(b))
[A]成分の染料として、1−((4−(フェニルアゾ)フェニル)アゾ)−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール0.25質量部、[B1]成分の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン10質量部、及び[C]成分のラジカル重合開始剤として、ベンゾインエチルエーテル0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(b)を調製した。
【0104】
(染色液(c))
[A]成分の染料として、1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール0.25質量部、[B1]成分の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン10質量部、及び[C]成分のラジカル重合開始剤として、ベンゾインエチルエーテル0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(c)を調製した。
【0105】
(染色液(d))
[A]成分の染料として、1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン0.2質量部及び1−フェニルアゾ−3−メタクリロイルオキシ−2−ナフトール0.2質量部、[B2]成分のラジカル重合性単量体として、1−メチル−3−メチレン−2−ピロリジノン10質量部、並びに、[C]成分のラジカル重合開始剤として、ベンゾインエチルエーテル0.5質量部をそれぞれ配合し、均一に混合、溶解させて染色液(d)を調製した。
【0106】
【表1】
【0107】
[実施例1]
眼用レンズとして、シリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている含水性コンタクトレンズ((株)メニコン製「メニコン 2WEEK プレミオ」)を用いた。白熱電球((株)オーム電機製100V、40W)を用いて、乾燥状態のコンタクトレンズに30秒間熱を付与した。熱付与工程終了時のコンタクトレンズ表面の温度を熱電対型温度計((株)テストー製 635―2、プローブK熱電対)で測定したところ、65℃であった。その後、直ちに染色液(a)を、ピエゾ式インクジェット式塗布装置を用いてライン状に塗布し、染色液をレンズ表面に接触させた。接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を非接触式温度計(安立計器(株)製デュアルサーモAR―1500)で測定したところ、35℃であった。このようにして実施例1に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0108】
[実施例2〜4]
表2に示した染色液を用いた以外は、実施例1と同様にして、これらの実施例に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0109】
[実施例5]
熱を付与する時間を10分間とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る染色コンタクトレンズを得た。熱付与工程終了時のコンタクトレンズ表面の温度を上記同様の方法で測定したところ、95℃であった。また、接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、45℃であった。
【0110】
[実施例6]
白熱電球とコンタクトレンズとの離間距離をより小さくしてから、コンタクトレンズ表面が、上記同様の方法で測定して130℃になるまで熱を付与した以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る染色コンタクトレンズを得た。熱を付与した時間は5分間であった。また、接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、55℃であった。
【0111】
[実施例7]
白熱電球((株)オーム電機製100V、40W)を用いて、乾燥状態のコンタクトレンズに対し熱を付与しながら、上記インクジェット式塗布装置を用いて、染色液(d)を円環状に塗布することにより、実施例7に係る染色コンタクトレンズを得た。接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、40℃であった。
【0112】
[実施例8]
白熱電球((株)オーム電機製100V、40W)を用いて、乾燥状態のコンタクトレンズに対し熱を付与しながら、上記インクジェット式塗布装置を用いて、染色液(a)をライン状に塗布し、接触工程終了後もさらに10秒間熱付与を行うことにより、実施例8に係る染色コンタクトレンズを得た。接触工程終了時のコンタクトレンズ表面の塗布部付近の温度を上記同様の方法で測定したところ、40℃であった。
【0113】
[比較例1]
室温(22℃)下で乾燥状態のコンタクトレンズに染色液(a)を、上記インクジェット塗布装置を用いてライン状に塗布することによって、比較例1に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0114】
[比較例2〜5]
染色液及び塗布形状を表2に示した通りにした以外は比較例1と同様にして、それぞれの比較例に係る染色コンタクトレンズを得た。
【0115】
[染料の析出及び残渣の有無]
各実施例及び比較例において得られた染色コンタクトレンズ表面に形成された染色印刷物を、実体顕微鏡(オリンパス(株)製SZX16)を用いて10倍に拡大して観察し、以下のように評価した。
○:コンタクトレンズ表面に、染料の析出物や残渣が認められなかった。
×:コンタクトレンズ表面に、染料の析出物や残渣が認められた。
【0116】
得られた評価結果を、熱付与時間、白熱電球からの離間距離、用いた染色液の種類、塗布形状の条件、及び眼用レンズの温度の測定値とともに表2に示す。また、各染色印刷物の実体顕微鏡画像を、表2に記載する各図面に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
表2の実施例1〜8の結果から明らかなように、染色液をレンズ表面に塗布するより前又は塗布と同時に眼用レンズに熱を付与することによって、いずれも眼用レンズ表面に染料の析出物や残渣の発生は認められず、染料が完全に浸透させることができることが示された。一方、比較例1〜5では、染色の際に眼用レンズに熱を付与しないため、眼用レンズ表面に染料の析出物や残渣の発生がいずれも認められた。また実施例1、実施例5及び実施例6を比較することにより、接触工程終了時の眼用レンズの塗布部温度がより高い方が、より鮮鋭でかつ滲みのない染色印刷物が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明の染色眼用レンズの製造方法は、簡便かつ安価に、安全で信頼性の高い染色眼用レンズを製造することができるので、コンタクトレンズを始めとする眼用レンズに対して幅広く用いられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、
上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、
上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有することを特徴とする染色眼用レンズの製造方法。
【請求項2】
上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有する請求項1に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項3】
上記接触工程終了時の眼用レンズの温度が、30℃以上90℃以下である請求項1又は請求項2に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項4】
上記眼用レンズの[B]媒体による平衡膨潤度が、40%以上600%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項5】
インクジェット式塗布装置により上記接触工程を行う請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項6】
上記染色液が、[C]ラジカル重合開始剤をさらに含み、
[A]成分の染料が、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料であり、
[B]成分の媒体が、上記[A]成分及び[C]成分のそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる[B1]溶媒及び/又は[B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体であり、
上記接触工程後かつ上記熱付与工程後に、眼用レンズに浸透した染色液を重合させるため、この浸透した染色液に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する定着工程をさらに有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項7】
上記炭素−炭素二重結合を有する基が、α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基からなる群より選択される少なくとも1つの基である請求項6に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項8】
上記α、β−不飽和カルボニル基が、(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基である請求項7に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項9】
上記染色液が、[D]界面活性剤をさらに含む請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項10】
上記眼用レンズがコンタクトレンズである請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項11】
上記コンタクトレンズが含水性コンタクトレンズである請求項10に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項12】
上記含水性コンタクトレンズがシリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている請求項11に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項13】
上記コンタクトレンズが酸素透過性硬質コンタクトレンズである請求項10に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる染色眼用レンズ。
【請求項1】
[A]染料及び[B]媒体を含有する染色液を用いる染色眼用レンズの製造方法であって、
上記染色液と乾燥状態の眼用レンズ表面とを接触させる接触工程を有し、
上記接触工程より前及び/又は接触工程と同時に、上記眼用レンズに熱を付与する熱付与工程を有することを特徴とする染色眼用レンズの製造方法。
【請求項2】
上記熱付与工程を、さらに上記接触工程より後にも有する請求項1に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項3】
上記接触工程終了時の眼用レンズの温度が、30℃以上90℃以下である請求項1又は請求項2に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項4】
上記眼用レンズの[B]媒体による平衡膨潤度が、40%以上600%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項5】
インクジェット式塗布装置により上記接触工程を行う請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項6】
上記染色液が、[C]ラジカル重合開始剤をさらに含み、
[A]成分の染料が、炭素−炭素二重結合を有する基を分子内に少なくとも1つ有する染料であり、
[B]成分の媒体が、上記[A]成分及び[C]成分のそれぞれの少なくとも一部を溶解させることができる[B1]溶媒及び/又は[B2]ラジカル重合性基を分子内に少なくとも1つ有する単量体であり、
上記接触工程後かつ上記熱付与工程後に、眼用レンズに浸透した染色液を重合させるため、この浸透した染色液に活性エネルギー線及び/又は熱を付与する定着工程をさらに有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項7】
上記炭素−炭素二重結合を有する基が、α、β−不飽和カルボニル基、スチリル基、ビニルベンジル基及びアリル基からなる群より選択される少なくとも1つの基である請求項6に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項8】
上記α、β−不飽和カルボニル基が、(メタ)アクリレート基又は(メタ)アクリルアミド基である請求項7に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項9】
上記染色液が、[D]界面活性剤をさらに含む請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項10】
上記眼用レンズがコンタクトレンズである請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項11】
上記コンタクトレンズが含水性コンタクトレンズである請求項10に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項12】
上記含水性コンタクトレンズがシリコーン化合物を構成単量体単位とする共重合体から形成されている請求項11に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項13】
上記コンタクトレンズが酸素透過性硬質コンタクトレンズである請求項10に記載の染色眼用レンズの製造方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の製造方法によって得られる染色眼用レンズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−164431(P2011−164431A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28222(P2010−28222)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】
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