説明

柱と杭の半剛接合構造および該構造の建設工法

【課題】 上部架構の種類が限定されない柱と杭の半剛接合構造であって、設計の自由度が高く、施工容易な構造の提供
【解決方法】 杭頭部に凹部を有する杭と、下端部が前記杭頭凹部に挿入された柱と、前記柱下端部の周囲に設けられた緩衝材とを有する柱と杭の半剛接合構造。さらに、杭頭部に凹部を有する杭を構築する工程と、杭頭部を、少なくとも前記凹部の底部を残して所定深さまで掘削する工程と、柱下端部を前記杭頭凹部内に位置づけて柱を建てこむ工程と、柱下端部の周囲に緩衝材を設置する工程と、緩衝材と杭頭凹部との間に充填材を充填する工程とを有する柱と杭の半剛接合構造の建設工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭頭部または基礎と柱下端部を半剛接合した構造および当該構造の建設工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物下層階を構成する柱、梁および杭上部が地震時に受ける曲げモーメントは、杭頭部と柱の下端部を半剛接合にすることによって緩和できることが、例えば特開2006−45854号公報(特許文献1)によって知られている。
【0003】
特許文献1は、杭と構造物が、杭本体よりも小さい断面積で接合又は接触している杭頭支持構造において、当該接合部又は接触部の周囲に形成された杭頭と構造物との間の空隙に、面積が異なる同心状の開口を有する複数の緩衝層が挟持されている杭頭支持構造に関するものである。同文献に開示された杭頭半剛接合公報の製造工程によれば、特別な治具を必要とせずに施工が可能で、施工時に不用意に物を載せたり作業者が歩いたりすることに対して格別な注意を払う必要が無い点が特徴である。
【0004】
図6に示す特許文献1の添付図面(特許文献1の図8)によれば、杭の断面積は、杭頭頂部において上方に向かって階段状に漸減して、杭本体よりも小さい断面積で平坦な底面を有する基礎底面と接合または接触している。また、芯鉄筋が杭頭部と基礎とを貫くように鉛直方向に伸びている。
特許文献1に記載された構造の場合、杭に作用する鉛直荷重および杭頭と基礎底面の間に作用するせん断力は、杭本体の断面積よりも小さい杭頭部の断面積によって支持することになるために、接合部のモーメントに対する剛性(つまり杭頂部と基礎の接触断面積)の低減は、鉛直荷重とせん断力に対する断面積の確保の点から制約を受けることになる。また、頂部の水平断面積が上方に向かって漸減する杭頭部を構築するためには、特許文献1の添付図15〜図18に記載されているように、杭頭部を2段階に分けて施工するなど減衰複雑な工程が必要になる。
【0005】
特開2006−183337号公報(特許文献2)は、杭頭と基礎を、杭頂部と基礎底部を貫通する接合部材によって接合し、同時に基礎底面と杭頂部面との間に縁切材を介在させて引張力の伝達を排除した杭−基礎の半剛接合構造を開示したものである(図7)。
特許文献2に記載された構造の場合、杭−基礎の接合部に作用する曲げモーメントと杭頭と基礎底面間に作用するせん断力は全て接合部材が負担することになるので、基礎底部と杭頭部の接合部材周辺の配筋を増加させるなどして補強する必要が生じる。また、柱を杭に搭載した後に、接合部材と杭に形成した凹部との間の空隙を充填することが困難なので、必然的にある程度の空隙が残り、地震時にはガタつきを生じることも考えられる。
【0006】
特開2004−211496号公報(特許文献3)は、杭頭キャップを有する杭と、杭頭キャップを埋設する凹部を有する基礎水平部材とからなる杭・基礎梁半剛接合を開示したものである。杭頭キャップは、ベースプレート、ベースプレートの表面に配される複数のスタッドジベル、裏面に配されるリング形状のストッパー3を備え、ストッパーは、内径が杭6の頭部を補強する鋼管7の外径より大きく形成される(図8)。
特許文献3に記載の発明によれば、杭頭に杭頭キャップを被せ、基礎梁に杭頭キャップを収容するように凹部を形成することになるために、現実的な観点からは、基礎および柱は建物の建設場所で打設される鉄筋コンクリート構造物であるとの制約がある。すなわち、杭頭キャップを収容する凹部を有するプレキャスト基礎梁を他所で打設した後に建物建設場所に運搬すること、あるいは、鉄骨造の基礎梁に杭頭キャップを収容する凹部を形成すべく加工を行うことはいずれもコストの点から非現実的だからである。
【特許文献1】特開2006−45854号公報
【特許文献2】特開2006−183337号公報
【特許文献3】特開2004−211496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術が有する上記の課題を解決することを目的としたものである。より具体的には、本発明は、上部架構の種類(鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、PCコンクリート、コンクリート充填鋼管柱、場所打コンクリート部材等の種別)が限定されない柱と杭の半剛接合構造であって、接合部のモーメントに対する剛性(つまり杭頂部と基礎の接触断面積)の低減は、鉛直荷重とせん断力に対する断面積の確保の点等から制約を受けないために設計の自由度が高く、施工容易な構造を提供することを課題とする。
本発明の他の課題および効果は、以下に記載する本発明および実施例の説明から明らかになるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、頭部に凹部を有する杭または凹部を有する基礎と、下端部が前記凹部に挿入された柱と、前記柱下端部の周囲に設けられた緩衝材とを有する柱と杭または基礎の半剛接合構造を提案する。
杭頭部または基礎の凹部は、上方に向かって開放され、軸方向に沿って実質的に同一の水平断面形状および寸法を有する形状である。凹部の底面は、平面であっても良いし、上または下に凸の曲面であっても良い。あるいは、凹部は杭頭部よりも深く、杭頭部には底面が存在しない形状であってもよい。柱の下端部の水平断面形状には制限はなく、円形、角型、H型、I型等であってよいが、杭頭部の凹部の断面形状および寸法に適合する必要が有ることはいうまでも無い。
緩衝材としては、コンクリートよりも変形が容易な材料、例えば、ゴム系の弾性材料、減衰性能を有する粘弾性材料、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタンまたはポリ塩化ビニル等の高分子化合物、スタイロフォーム、石膏ボード、発泡コンクリート等の無機材料等を用いることができる。緩衝材と杭頭部または基礎との間には、空隙があっても良いが、空隙は無くても(つまり、柱下端部と杭頭部または基礎の間を緩衝材が満たした構造でも)良い。
【0009】
本発明の柱と杭または基礎の半剛接合構造は、さらに、緩衝材と前記凹部との間または柱下端部と緩衝材の間に充填された充填材を有していてもよい。
充填材としては、例えば、セメント、コンクリート、モルタル、エポキシ系樹脂などのグラウト材を用いることができるが、上記の充填が可能で、セメントミルク程度以上の強度を有する材料であればこれらに限定されない。
【0010】
本発明の柱と杭または基礎の半剛接合構造は、さらに、柱下端部と杭頭部または基礎の水平断面中心部近傍を貫通する軸方向部材を有していてもよい。軸方向部材は、芯鉄筋あるいは鉄骨部材で有るのが好ましい。この場合、軸方向部材は、柱脚または基礎梁と杭頭間に作用する引張力を負担することができるので、地震時に基礎の浮き上がりが想定される場合などに好適に用いることができる。
【0011】
また、本発明は、杭頭部に凹部を有する杭を構築する工程と、
柱下端部を前記杭頭凹部内に位置づけて柱を建てこむ工程と、
柱下端部の周囲に緩衝材を設置する工程と、
緩衝材と杭頭凹部との間または柱下端部と緩衝材の間に充填材を充填する工程とを有する柱と杭の半剛接合構造の建設工法を提案する。
【0012】
杭頭部に凹部は、建物の建築場所で打設する杭の場合はいわゆる箱抜き型枠あるいは型枠の埋設によって形成することができる。SC杭、PHC杭等のプレファブ杭の場合にはプレファブの時点で杭頭部に所定形状の凹部を形成しても良い。あるいは、SC杭、PHC杭のように、ほぼ全長にわたって形成された貫通孔をそのまま利用することもできる。
柱下端部の周囲に緩衝材を設置する工程は、杭頭凹部に柱を建てこむ工程の前に行っても良いし、後に行われても良い。例えば、柱下端部の周囲に緩衝材を貼り付けてから杭頭凹部に立て込む、杭の箱抜き壁面に緩衝材を貼り付けてから杭頭を凹部に立て込む、杭頭凹部の一部に緩衝材を充填した後に柱下端部を圧入する、柱下端部を杭頭凹部に立て込んだ後に空隙に緩衝材を注入する等の工法を採用することができる。充填材の充填についても同様である。
【0013】
前記杭を構築する工程は、前記凹部の中心部近傍から上方に突出する軸方向部材を設ける過程を含み、
前記柱を立て込む工程は、中心部近傍を高さ方向に貫通する貫通孔を有する柱下端部を、軸方向部材を該貫通孔に収容するように立て込む過程と、該貫通孔と軸方向部材の間の空隙に充填材を充填する過程を含むものであってもよい。
当該工法によれば、柱に形成された貫通孔を利用して貫通孔と軸方向部材の間の空隙に充填材を充填することができるので手順に遅滞が無く合理的である。
【0014】
また、前記杭を構築する工程は、杭下部を構築する過程と、該杭下部の上に抗下部と一体化するように杭頭部を構築する過程によって杭を継ぐ過程を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に基づく柱と杭の半剛接合構造によれば、上部架構の種類(鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、PCコンクリート、コンクリート充填鋼管柱、場所打ちコンクリート部材等の種別)が限定されない柱と杭の半剛接合構造であって、接合部のモーメントに対する剛性(つまり杭頂部と基礎の接触断面積)の低減は、鉛直荷重とせん断力に対する断面積の確保の点等から制約を受けないために設計の自由度が高く、施工容易な構造が得られる。また、杭に関しても、場所打ち杭、PHC杭、SC杭、ST杭、PRC杭等のプリファブリケーテッド杭にも適用可能である。
本発明に基づく柱と杭の半剛接合構造の建設工法によれば、半剛接合構造を工数の増加無く、したがって迅速かつ経済的に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、実施例に基づいて本発明の具体的な態様を説明するが、本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではなく、実施例は発明の理解を助けるために記載するに過ぎないことはいうまでも無い。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明に基づく柱と杭の半剛接合構造の建設工法の一例を図示したものである。まず、場所打ち杭100を構築する(A)。杭頭部110には、所定の水平断面形状を有し、上方に開放された凹部120が形成されている。当該凹部120は、例えば箱抜き型枠によって形成することができるが、所定の凹部が形成できれば、その方法は特に限定されない。
次に、地表面を基礎梁底面の位置近傍まで掘削するが、その際、コンクリートカッター、ウォータージェットによるはつり出し等によって杭頭部上端部が基礎梁底面の位置と実質的に一致するように基礎の上部を除去する(B)。
次に、上部構造400を建設するが、その際、柱下端部200を杭頭部の凹部120に収容し、柱下端部200と杭頭部の凹部120の間の空隙に緩衝材300を設置する(C)。
【0018】
柱下端部と杭頭部の凹部の間の空隙に緩衝材を設置するには種々の工法を採用することができるが、上部構造が、図1に示すように鉄骨柱と鉄骨梁を躯体とするものであれば、柱下端部に予め緩衝材を貼付するなどして取り付け、次に杭頭の凹部に挿入することもできる。反対に、杭頭の凹部を規定する側壁に緩衝材を取り付けた後に柱を立て込むようにしても良い。
緩衝材と杭頭の凹部側壁の間、あるいは、柱下端部と緩衝剤との間に空隙が生じた場合は、当該空隙に充填材を充填しても良い。充填材の充填は、柱の建て込み後に行うこともできるし、杭頭の凹部に予め必要量の充填材を充填した後に柱の建て込みを行ってもよい。
【0019】
図2は、杭頭部の凹部に柱の建て込みを終わり、凹部側壁122と柱下端部200との間に緩衝材300と充填材350を有する構造の水平断面(図1において矢印aで示した基礎梁直下の位置における水平断面)を表す図面である。
図2Aは、杭が場所打ち杭で柱が鉄骨柱の例である。柱下端部200は正方形の水平断面を有する角型鋼管柱である。柱下端部200の周囲には、緩衝材300と充填材350がこの順で設けられている。柱下端部200の底面は、杭頭に対して固定されていない。鉄骨柱200は角型鋼管柱に限定されるわけではなく、丸型、H型、I型その他の形状であっても良い。杭頭部110の凹部120周囲には、軸方向鉄筋とフープ筋が設けられている。
【0020】
図2Bは、柱下端部200が、中空部にコンクリートを充填した鋼管柱(CFT柱)である例である。同図は、角型鋼管を用いたCFT柱の例であるが、丸型鋼管を用いたCFT柱であっても良い。柱下端部200と杭頭凹部を規定する壁面122との間は、内側に緩衝材、外側に充填材が充填されているが、内側に充填材、外側に緩衝材が充填されていても良く、あるいは、緩衝材のみが隙間無く充填されていても良い。
【0021】
図2Cは、柱下端部200が、プレキャスト鉄筋コンクリート柱(PCa柱)の例である。同図は、角型断面のPCa柱を示すが、丸型断面、あるいはそれ以外の断面形状を有するものであっても良い。さらに、場所打ちの鉄筋コンクリート柱であってもよい。
【0022】
図3は、鋼管の外殻を有するコンクリート杭(SC杭)を用いた場合の、本発明に基づく柱と杭の半剛接合構造の建設工法を例示する図面である。SC杭102は、基礎梁底面の位置まで鋼管の外殻104を有し、内部にコンクリートが充填された構造である。あるいは杭の中心部は中空であっても良い。杭内部のコンクリートは、鋼管の外殻104の上端部からさらに上方に延長されており、地表面に達するその上端部には、上方に開放された凹部120を有する。当該凹部120の底面は、前記外殻104の上端部より下に位置する(図3A参照)。
【0023】
次に、杭頭部の鋼管の外殻104より上部に突出する部分を削除する。その結果、杭の上端部は基礎梁下端部の位置にそろい、杭頭部には、凹部が残る(図3B)。
【0024】
次に、杭頭部のバキューム清掃など必要な前処理を施した後で、柱下端部が杭頭部の凹部120に収容されるように上部構造400を建設する。その際、材300を設置する点については図1を参照して既に述べた工法と同様である(図3C)。
【0025】
図4は、図3において矢印bで示した基礎梁直下の位置における水平断面図である。SC杭の杭頭に形成された凹部122内に収容される柱下端部は、鋼管柱、CFT柱、PCa柱、場所打ち鉄筋コンクリート柱であっても良いことは図2を参照して記載したとおりである。
【0026】
また、図4Dは、杭と柱下端部の水平断面中心部近傍を貫通する軸方向部材230を有する構造の例である。上記の構造を構築するには、杭頭凹部120の中心部近傍から上方に突出する軸方向部材230を設け、柱を立て込む際に、中心部近傍を高さ方向に貫通する貫通孔を有する柱下端部を、軸方向部材を該貫通孔に収容するように立て込み、該貫通孔と軸方向部材の間の空隙に充填材を充填する工程によることができる。
【0027】
あるいは、杭頭凹部120の中心部近傍に軸方向部材230を収容するための孔を形成し、中心部近傍を軸方向に突出する軸方向部材230を有する柱下端部を、軸方向部材を該貫通孔に挿入するように建て込み、該貫通孔と軸方向部材の間の空隙に充填材を充填してもよい。その際、杭頭部に形成された軸方向部材230を収容するための孔には、柱下端部の建て込みに先立って充填材を充填していても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に基づく柱と杭の半剛接合構造の建設工法の一例を示す概念図
【図2】本発明に基づく柱と梁の半剛接合部分の水平断面図
【図3】本発明に基づく柱と杭の半剛接合構造の建設工法の一例を示す概念図
【図4】本発明に基づく柱と梁の半剛接合部分の水平断面図
【図5】本発明に基づく柱と杭の半剛接合構造の建設工法の一例を示す概念図
【符号の説明】
【0029】
100、102 杭
104 鋼管製外殻
110 杭頭部
120 杭頭部に形成された凹部
122 凹部を規定する杭頭壁面
200、202 柱脚部
300 緩衝材
350 充填材
400 上部構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部に凹部を有する杭または凹部を有する基礎と、
下端部が前記凹部に挿入された柱と、
前記柱下端部の周囲に設けられた緩衝材とを有する柱と杭または基礎の半剛接合構造。
【請求項2】
前記緩衝材と前記凹部との間または前記柱下端部と前記緩衝材の間に充填された充填材を有する請求項1に記載の柱と杭または基礎の半剛接合構造。
【請求項3】
柱下端部と杭または基礎の水平断面中心部近傍を貫通する軸方向部材を有する請求項1または2に記載の柱と杭または基礎の半剛接合構造。
【請求項4】
頭部に凹部を有する杭を構築する工程と、
柱下端部を前記杭頭凹部内に位置づけて柱を建てこむ工程と、
柱下端部の周囲に緩衝材を設置する工程と、
緩衝材と杭頭凹部との間に充填材を充填する工程とを有する柱と杭または基礎の半剛接合構造の建設工法。
【請求項5】
前記杭を構築する工程は、前記凹部の中心部近傍から上方に突出する軸方向部材を設ける過程を含み、
前記柱を立て込む工程は、中心部近傍を高さ方向に貫通する貫通孔を有する柱下端部を、軸方向部材を該貫通孔に収容するように立て込む過程と、該貫通孔と軸方向部材の間の空隙に充填材を充填する過程を含む請求項4に記載の建設工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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