説明

柱と梁の接合構造

【課題】 従来の複合化構法に比べて施工性に優れ、短工期且つ低コスト で物販・物流施設等 を建設することができる柱と梁の接合構造を提供する。
【解決手段】 梁1は、中間部がH形鋼からなる鉄骨梁4、両端部が当該鉄骨梁4をハーフプレキャストコンクリート5で被覆した鉄骨鉄筋コンクリート造であり、柱2は、場所打ちコンクリート柱あるいはプレキャストコンクリート柱である。そして、鉄骨梁4の材軸方向の端面に取り付けられたエンドプレート7上に、端部に定着板6aを有するアンカー筋6が溶接され、柱2と梁1の仕口部3に充填されるコンクリート内に当該アンカー筋6が埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁の接合構造に関し、特に、鉄筋コンクリート造の柱と鉄骨造の梁との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
物販・物流施設等の建設においては、非常に厳しい工期とコストダウンが要求される。そのため、短工期且つ低コストで物販・物流施設を建設することのできる、鉄筋コンクリート造の柱と鉄骨造の梁からなる複合化構法が開発されている(特許文献1の[従来の技術]参照)。この構法は、鉄筋コンクリート造の低コスト性と鉄骨造の短工期性というそれぞれの長所を組み合わせた構法であり、構造的にも、柱には圧縮に強い鉄筋コンクリートを、梁には曲げに強い鉄骨を使うことにより、柱間を広くとることができる 。
他方、特許文献2には、従来の鉄筋コンクリート梁の自重を軽減して、小さな梁成で長スパンの梁を構成するために、中央鉄骨部と端部鉄筋コンクリート部よりなり、中央鉄骨部の鉄骨を端部鉄筋コンクリート部の一部に埋設して両者を一体化してなる梁の構造に関する発明が開示されている。
【特許文献1】特開平11−166267号公報 (第2頁、第4図)
【特許文献2】特公平4−38854号公報 (第2−3頁、第1−5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、近年、鋼材が急激に高騰するとともにロール発注時期が早期化し、従来の複合化構法では、短工期且つ低コスト で物販・物流施設を建設するという要求に対応できなくなりつつある。そのため、 物販・物流施設等を主たる対象用途として従来の複合化構法を一層簡略化した構法が求められている。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、従来の複合化構法に比べて施工性に優れ、短工期且つ低コスト で物販・物流施設等 を建設することができる柱と梁の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る柱と梁の接合構造は、鉄筋コンクリート造の柱と鉄骨造の梁との接合構造であって、拡径部を有するアンカー筋が前記梁の材軸方向の端面から突出し、前記柱と前記梁の仕口部に充填されるコンクリート内に埋設されてなることを特徴とする。
本発明では、拡径部を有するアンカー筋を、鉄骨梁の端面に取り付けたエンドプレートに植設し、柱と梁の仕口部に充填されるコンクリート内に当該アンカー筋を埋設させることにより、梁端部の曲げモーメントを柱に伝達させる。
これにより、従来の複合化構法で行われている、柱主筋を挿通させるための孔を鉄骨梁のフランジに穿設する作業が不要となるため、鉄骨梁の加工作業が極めて容易となり、製造コストおよび工期の縮減を図ることができる。
【0006】
また、本発明に係る柱と梁の接合構造では、前記梁の端部は、プレキャストコンクリート内に鉄骨梁が埋設されてなる鉄骨鉄筋コンクリート造であって、前記仕口部に当接する前記プレキャストコンクリートの端面には凹凸部が形成されていてもよい。
本発明では、梁端部において、鉄骨梁の抵抗モーメントの一部を鉄筋コンクリート梁に振り替えて柱に伝達するものである。梁の端部がプレキャストコンクリート内に鉄骨梁が埋設された鉄骨鉄筋コンクリート造とされているため、梁の剛性が高く、長期の撓みや地震時の層間変形を小さくすることができる。しかも、仕口部に当接するプレキャストコンクリートの端面に凹凸部を形成しているので、その部分がシアコッターとして機能し、柱・梁接合部のせん断耐力を増大させることができる。
【0007】
また、本発明に係る柱と梁の接合構造では、前記梁の端部は、スラブと一体化されたT形梁であって、前記T形梁の協力幅内に梁主筋が配され、前記仕口部に定着されていてもよい。
曲げ変形に対するT形梁の有効幅は、梁の両側または片側に一体的に形成されたスラブの一部を協力幅として加えたものとされている。本発明では、曲げモーメントが大きくなる梁端上端部について、T形梁の協力幅内にも梁主筋を配することにより、梁端上端部の配筋を合理化して施工性の向上を図るものである。
【0008】
また、本発明に係る柱と梁の接合構造では、前記柱がプレキャストコンクリート柱でもよい。
本発明では、プレキャストコンクリート柱を採用することにより、システマチックな構法となり、高品質な構造物を短工期で実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、拡径部を有するアンカー筋を鉄骨梁の端面に突設し、柱と梁の仕口部に充填されるコンクリート内に当該アンカー筋を埋設させるので、従来の複合化構法に比べて施工性に優れ、短工期且つ低コスト で物販・物流施設等 を建設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る柱と梁の接合構造の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態を示す柱・梁接合部の立断面図であり、図2は、図1におけるA−A矢視断面図である。また、図3は梁端部の斜視図である。なお、図1では、図が煩雑になるため、柱の帯筋は省略している。
本発明に係る柱と梁の接合構造では、鉄筋コンクリート造の柱2と鉄骨造の梁1とからなる構造物を対象としている。
【0011】
梁1は、中間部がH形鋼からなる鉄骨梁4、両端部が当該鉄骨梁4を鉄筋コンクリートで被覆した鉄骨鉄筋コンクリート造になっている。
鉄骨梁4の材軸方向の端面には鋼製のエンドプレート7が溶接されており、エンドプレート7上には、端部に定着板6aを有し、柱2断面のほぼ中心部まで達するアンカー筋6が複数溶接されている。
鉄骨梁4の端部を覆っている鉄筋コンクリートは、矩形断面を有するハーフプレキャストコンクリート5であり、その上端部分に打設される現場打ちコンクリートと一体化されて梁1端部を形成する。
ハーフプレキャストコンクリート5の下端部には、梁主筋8が梁1の材軸方向に沿って配設されており、当該梁主筋8および鉄骨梁4を取り囲むように、あばら筋9が配設されている。ハーフプレキャストコンクリート5の上面からは、あばら筋9の上部および鉄骨梁4の上フランジ上面が露出しており、柱2と梁1の仕口部3に当接するハーフプレキャストコンクリート5の端面からは梁主筋8が延出している。
また、仕口部3に当接するハーフプレキャストコンクリート5の端面には、凹凸部5aが複数形成されている。凹凸部5aはシアコッターとして機能し、柱2・梁1接合部のせん断耐力の向上に寄与する。
【0012】
一方、柱2は、その上端が梁1の底面の位置に止められた場所打ちコンクリート柱あるいはプレキャストコンクリート柱からなるが、プレキャストコンクリート柱とすれば、システマチックな構法となり、高品質な構造物を短工期で実現することができる。
柱2断面の周縁部には、柱2の材軸方向に沿って柱主筋10が配設されており、当該柱主筋10には帯筋(図示省略)が巻かれている。
【0013】
柱2と梁1の仕口部3内にはコンクリートが充填され、鉄骨梁4の材軸方向の端面から突出するアンカー筋6が当該コンクリート内に埋設される。
また、柱2から延出する仕口部3内の柱主筋10には帯筋11が巻かれ、左右の梁1、1から突出する梁主筋8、8は、仕口部3内で機械式継手8aによって接合されている。
一方、当該階の柱主筋10と上階の柱主筋10とは、仕口部3の上方で機械式継手10aによって接合される。
【0014】
また、ハーフプレキャストコンクリート5の側面には、図2に示すように、円筒部材の内周部に雌ねじ部が形成された袋ナット13が、梁1の材軸方向に所定の離間間隔をおいて埋め込まれている。この袋ナット13を利用することにより、トラス筋付きデッキプレート15を支持するための山形鋼からなる受け材12を、梁1にボルト14で固定することができる。
【0015】
図4はアンカー筋6端部の側面図である。
アンカー筋6は、拡径部としての定着板6aを、棒状の異形鉄筋6bの一端に摩擦圧接したものであり、定着板6aの支圧作用と異形鉄筋6bの付着作用により、異形鉄筋6bをコンクリートに定着させることができる。
ここで、摩擦圧接は、異形鉄筋6bの端部に定着板6aを所定の圧力で押し付けて高速回転させ、その摩擦熱により加熱した後、定着板6aの回転を急停止させ、アプセット圧力を付与して接合する方法であり、継手の機械的強度が非常に高いうえ、圧接時間も短く作業能率が高いという特長を有している。
定着板6aには、SD490と同等以上の引張強度を有する非調質高強度鋼を使用し、所定厚さに加工した円形板としている。
なお、定着板6aの中心部には連通孔6cが設けられており、この連通孔6cから摩擦圧接時のバリが出てくるので、摩擦圧接が確実に行われているか確認することができる。
なお、上記アンカー筋6に代えて、 鉄筋端部を高周波誘導加熱して 鉄筋端部に拡径部を形成した鉄筋を使用してもよい。
【0016】
図5はトラス筋付きデッキプレート15の斜視図である。
トラス筋付きデッキプレート15は、デッキプレート15a上に、鉄筋をトラス状に組んだトラス筋15bを配設して一体化したものである。
現場では、トラス筋15bの上にスラブ筋16を配筋すればよいので、サポートが原則不要となり、工期が大幅に短縮されるうえ、配筋精度が極めて高いという特長を有している。
プレキャストコンクリート柱と併せてトラス筋付きデッキプレート15を用いれば、極めてシステマチックな構法となり、より高品質な構造物を短工期で実現することができる。
【0017】
本実施形態による柱と梁の接合構造では、鉄骨梁4の材軸方向の端面に取り付けられたエンドプレート7上に、端部に定着板6aを有するアンカー筋6を溶接し、柱2と梁1の仕口部3に充填されるコンクリート内に当該アンカー筋6を埋設させるので、従来の複合化構法で行われている、柱主筋10を挿通させるための孔を鉄骨梁4のフランジに穿設する作業が不要となり、鉄骨梁4の加工作業が極めて容易となる。その結果、製造コストおよび工期の縮減を図ることができる。
また、本実施形態による柱と梁の接合構造では、梁1の端部がハーフプレキャストコンクリート5によって鉄骨梁4が覆われた鉄骨鉄筋コンクリート造なので、梁1の剛性が高くなり、長期の撓みや地震時の層間変形を小さくすることができる。
さらに、本実施形態による柱と梁の接合構造では、鉄骨梁4とハーフプレキャストコンクリート5の降伏順序をコントロールすることにより、鉄骨造の構造特性係数Ds値を用いて必要保有水平耐力を小さくすることができる。
【0018】
次に、本発明に係る柱と梁の接合構造の他の実施形態について説明する。
図6は、本発明の第二の実施形態を示す柱・梁接合部の立断面図であり、図7は、梁端部の詳細を示した詳細断面図である。なお、図6および図7では、柱主筋や梁主筋等、第一の実施形態と同じ部分については記載を省略している。
【0019】
本実施形態では、アンカー筋18を鉄骨梁4に固定する際、鉄骨梁4の材軸方向の端面に鋼製のエンドプレート7を溶接せず、鉄骨梁4の材軸方向端部(フランジ4fの内側)に、円筒状の袋ナット17を、その中心軸が鉄骨梁4の材軸と平行となるように溶接し、一端に拡径部18aを有するねじ鉄筋からなるアンカー筋18を袋ナット17に螺合するものである。この際、水平面内で直交するもう一方の鉄骨梁4については、フランジ4fと袋ナット17の間にレベル調整プレート(図示省略)を介在させ、アンカー筋18同士が仕口部3内で干渉しないようにする。
【0020】
本実施形態によれば、アンカー筋18を鉄骨梁4に固定する際、エンドプレート7を鉄骨梁4に溶接し、さらにエンドプレート7にアンカー筋6を溶接する必要がないため、第一の実施形態に比べて施工が容易であり、コストの低減も併せて図ることができる。
なお、本例では、袋ナット17を各フランジ4fに2列溶接しているが、フランジ4fの幅に応じて4列以上とすることもできる。また、鉄骨梁4のウェブ4wの側面にも袋ナット17を溶接してアンカー筋18を螺合し、接合部の強度を確保してもよい。
【0021】
図8は、本発明の第三の実施形態を示す梁端部の断面図である。
本実施形態では、梁端部がT形梁とされ、梁1と一体化されたスラブ20の協力幅ba、ba内にも梁主筋8を配し、梁主筋8…同士を直交するタイバー19によって緊結するものである。これにより、曲げモーメントが大きくなる梁端上端部について、梁端上端部の配筋を合理化して施工性の向上を図ることができる。
【0022】
なお、T形梁の有効幅Bは、梁幅bの両側または片側に協力幅baを加えたものであり、ラーメンまたは連続梁の場合、協力幅baは次式で算定される(日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説 −許容応力度設計法−」、1999年 参照)。
s/l<0.5の場合、ba=(0.5−0.6s/l)s
s/l≧0.5の場合、ba=0.1l
ここに、s:並設する梁の側面間の距離、l:スパン長
【0023】
以上、本発明に係る柱と梁の接合構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、トラス筋付きデッキプレートを使用しているが、通常のデッキプレートまたはハーフPC床版等を使用してその上に配筋してもよい。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す柱・梁接合部の立断面図である。
【図2】図1におけるA−A矢視断面図である。
【図3】梁端部の斜視図である。
【図4】アンカー筋端部の側面図である。
【図5】トラス筋付きデッキプレートの斜視図である。
【図6】本発明の第二の実施形態を示す柱・梁接合部の立断面図である。
【図7】第二の実施形態における梁端部の詳細を示したものであり、(a)は側断面図、(b)はB−B矢視断面図である。
【図8】本発明の第三の実施形態を示す梁端部の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 梁
2 柱
3 仕口部
4 鉄骨梁
5 ハーフプレキャストコンクリート(プレキャストコンクリート)
5a 凹凸部
6、18 アンカー筋
6a、18a 定着板(拡径部)
6b 異形鉄筋
6c 連通孔
7 エンドプレート
8 梁主筋
9 あばら筋
10 柱主筋
11 帯筋
12 受け材
13、17 袋ナット
14 ボルト
15 トラス筋付きデッキプレート
15a デッキプレート
15b トラス筋
16 スラブ筋
19 タイバー
20 スラブ
B 有効幅
b 梁幅
ba 協力幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の柱と鉄骨造の梁との接合構造であって、
拡径部を有するアンカー筋が前記梁の材軸方向の端面から突出し、前記柱と前記梁の仕口部に充填されるコンクリート内に埋設されてなることを特徴とする柱と梁の接合構造。
【請求項2】
前記梁の端部は、プレキャストコンクリート内に鉄骨梁が埋設されてなる鉄骨鉄筋コンクリート造であって、
前記仕口部に当接する前記プレキャストコンクリートの端面には凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の柱と梁の接合構造。
【請求項3】
前記梁の端部は、スラブと一体化されたT形梁であって、
前記T形梁の協力幅内に梁主筋が配され、前記仕口部に定着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の柱と梁の接合構造。
【請求項4】
前記柱がプレキャストコンクリート柱であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の柱と梁の接合構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−144535(P2006−144535A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62860(P2005−62860)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】