説明

柱体補強構造

【課題】基部に損傷を生じた既設の柱体を補強し、長期にわたり耐用することを可能とするにある。
【解決手段】既設柱体1の損傷した基部に外嵌して当該柱体を補強する補強カバー2を有し、この補強カバーは少くとも一対のカバー体2A,2Bで構成し、これらカバー体を柱体基部に外嵌してカバー体同士をネジ8,8…により綴じ合わせるとともに、カバー体の下端所要長さにわたり地中に埋入し、基礎コンクリート9を打設して固化することにより柱体と補強カバーとを一体化させて補強するようにしたことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基部に損傷をきたした柱体の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路に設立される信号器用柱体をはじめ、その他各種目的に対応する柱体が道路に存在している。
【0003】
この種の柱体は、交通事故や除雪作業等により損傷を受けやすく、目的に対応すべき柱体としての機能を危くすることになる。
【0004】
上記のような柱体にあっては、その基部に損傷を受けると柱体の上部の信号器や変圧器、その他の載荷に伴う荷重により損傷部分が次第に拡大し、コンクリート柱の場合などではひび割れが生じ、この痕が限界を超えると柱体に内蔵されているPC鋼線が切断して柱体としての強度を失うことになる。
【0005】
またひび割れが生じると、寒冷地ではひび割れから浸透した水分が凍結して膨張し、これによりひび割れがさらに増大するという問題をもたらす。
【0006】
さらに海岸に近い場所では塩害によるPC鋼線の腐蝕も懸念される。
【0007】
上記のような不具合いが生じた柱体は速やかに新規の柱体と交換することが最も望ましいが、使用中の柱体の場合、仮設の柱体を設立して対応し、その間に損傷した柱体を撤去し、新規な柱体を植立させることが必要であり、したがって市街地や道幅の狭い道路などではその交換作業は容易でないという難問がある。
【0008】
そこで従来から損傷した箇所の柱体にカバーを巻き付け、このカバーと柱体との間に樹脂、アラミド繊維等を充填して強化させる補強手段が提供されている(特許文献1)。
【0009】
しかるに上記従来のものは、軸方向に2分割して蝶番により開閉自在に連結したカバーを柱体の損傷箇所に外嵌して両カバーを綴じ合わせる構造であるため、その補強箇所が柱体の上方位置であればよいが、柱体の下方の基部であると蝶番や綴じ合わせのためのネジの頭部が外周面から突出した状態になり、そのためこれらに通行人や車両が接触して怪我をするおそれがある。
【0010】
カバーに突出物がないようにするためカバーの綴じ合わせ部を溶接する手段によることも考えられるが、これによると特別な技術や機器、設備を必要とし、勢い高価になるという問題がある。
【特許文献1】特開2002−152995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、基部に損傷を受けた既設の柱体を強固に補強し、新規の柱体と交換することなく長期にわたり耐用することを可能とする柱体の補強構造を提供することを課題とする。
【0012】
また施工後外部に突出する部分がなく、安全な補強構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する手段として本発明は、既設柱体の損傷した基部に外嵌して柱体を補強する補強カバーを有し、この補強カバーは少くとも一対のカバー体で構成し、これらカバー体を柱体基部に外嵌してカバー体同士をネジにより綴じ合わせるとともにカバー体の下端所要長さにわたり地中に装入して基礎コンクリートを打設し、この基礎コンクリートにより柱体と補強カバーとを一体的に固定するようにしたことにある。
【0014】
前記カバー体の下端外周に鍔を突設し、この鍔を基礎コンクリート内に埋設するようにすることが好ましい。
【0015】
また前記カバー体の上下端の内周面にフランジを突設し、このフランジを柱体の外周面に密接するようにしてカバー体の内面と柱体との間に一定の間隙の空間が形成されるようにし、この間隙による空間内にセメントモルタル等の充填材を充填して固化させるようにすることが望ましい。
【0016】
この場合、カバー体の上端のフランジに充填材注入孔を形成しておき、この注入孔からセメントモルタル等の充填材を注入するようにすることができる。
【0017】
前記カバー体の綴じ合わせ部の少くとも内側に位置する綴じ合わせ重合縁のネジ止め部を凹陥させ、この凹陥部内にネジを位置させてその頭部がカバー体の外周面から突出しないようにしている。
【0018】
上記凹陥部は、カバー体の綴じ合わせ重合縁の長手方向に連続して形成する構成、またはネジの頭部が位置する部位に形成する構成のいずれかを任意に選択することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基部に損傷を受けた既設柱体の損傷箇所にカバー体を外嵌し、その綴じ合わせ部の綴じ合わせ重合縁をネジにより綴じたうえその下端を柱体基部の地中に挿入し、その周囲にセメントモルタルを骨材と共に充填して固化させることにより柱体とカバー体とを一体化させるので、柱体の基部が強固に補強され、新たな柱体と交換することなく安全に使用を続けることができ、道路の信号器柱のようにひと時も休止させることが難しい柱体の場合や、新規は柱体を立て替えることが困難な場所に存在する柱体の場合など特に有効に機能させることができる。
【0020】
一方、カバー体の綴じ合わせ部を綴じるためのネジの頭部が位置する部位を凹陥させることによりカバー体の外周面からネジの頭部が突出することがなく、通行人や車両等が接触してもこれらを傷付けることがない。
【0021】
前記カバー体の下端外周に鍔を突設し、この鍔を基礎コンクリート内に埋設することによりカバー体が強固に固定され、柱体の支持力を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明による柱体補強構造の一実施形態の断面図を示し、同図中符号1は信号器用柱等の既設柱体、2は補強カバーを示しており、中空コンクリート製の既設柱体1の基部を補強した状態を示している。
【0023】
上記補強カバー2は、図示の実施形態では円筒を2つ剃りした形態の一対のカバー体2A,2Bで構成され、このカバー体2A,2Bは鋼板等により形成されている。
【0024】
上記カバー体2A,2Bは下端外周に所要幅の鍔3が水平方向に突設されている。
【0025】
またカバー体2A,2Bの上端および下端の内周面にはフランジ4,5が突設されていて、その内周縁は前記柱体1の外周面に可及的密に当接するよう半円形状に形成されており、これらフランジ4,5が柱体1の外周面に当接したときカバー体2A,2Bと柱体1との間に一定間隔の空間6が形成されるようになっている。
【0026】
一方のカバー体2Aの上端のフランジ4には充填材注入孔4Aが形成されている。
【0027】
なお前記鍔3は全周均等に張り出した形態とするほか、断続的な舌状の突片として突設したものであってもよく、要すればアンカーとして十分に機能し得るものであればよい。
【0028】
前記カバー体2A,2Bの綴じ合わせ部7A,7Bはネジ8,8…によって締着されるもので、図5に例示するように少くとも一方のカバー体2A,2Bの綴じ合わせ部がカバー体2A,2Bの長手方向に連続(図6(A)示)またはネジ締め部分のみ(図6(B)示)を凹陥させ、補強カバー2の外周面にネジ8が大きく突出しないようになっている。図5、図6(A),(B)のように双方のカバー体2A,2Bの綴じ合わせ部7A,7Bに凹陥部7C,7Dを形成すれば、ネジ8の頭部8Aが完全に退没した形態とすることができ、一層安全性を高めることができる。
【0029】
前記補強カバー2を既設柱体1の基部に施工して補強構造とするには、図1、図4に示すように既設柱体1の基部の周囲を開削して既設柱体1に補強カバー2のカバー体2A,2Bを外嵌し、そのカバー体2A,2Bの綴じ合わせ部7A,7Bをネジ止めしたのち補強カバー2を下降させてその下端の鍔3を地中に位置させ、次いでセメント,骨材などを投入して固化させることで前記鍔3を内包する基礎コンクリート9が形成され、実質的にカバー体2A,2Bからなる補強カバー2は既設の柱体1と一体化される。
【0030】
一方、カバー体2Aの上端のフランジ4に形成された充填材注入孔4Aからセメントモルタル等の充填材を注入・固化させることによりカバー体2A,2Bと柱体1との一体性が一層強化される。
【0031】
これらにより補強を要する状態に至った既設柱体1の基部を的確に補強することができ、かつ補強に要する時間および資材は最小限ですみ、極めて経済的な補強策とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による柱体補強構造の一実施形態を示す縦断面図。
【図2】図1における補強カバーの正面図。
【図3】図1における補強カバーの一部の拡大断面図。
【図4】図1における要部の拡大正面図。
【図5】図4のA−A断面図。
【図6】(A),(B)は図5のB−B相当の2例を示す拡大断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 既設柱体
2 補強カバー
2A,2B カバー体
3 鍔
4、5 フランジ
6 空間
7A,7B 綴じ合わせ部
8 ネジ
9 基礎コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設柱体の損傷した基部に外嵌して当該柱体を補強する補強カバーを有し、この補強カバーは少くとも一対のカバー体で構成され、これらカバー体を柱体基部に外嵌してカバー体同士をネジにより綴じ合わせるとともにカバー体の下端所要長さにわたり地中に装入して基礎コンクリートを打設し、この基礎コンクリートにより柱体と補強カバーとが一体的に固定されていることを特徴とする柱体補強構造。
【請求項2】
前記カバー体の下端外周に鍔が突設され、この鍔が基礎コンクリート内に埋設するようになされている請求項1記載の柱体補強構造。
【請求項3】
前記カバー体の上下端の内周面にフランジが突設され、このフランジが柱体の外周面に密接するようにしてカバー体の内面と柱体との間に空間が形成されるようにし、この空間内にセメントモルタル等の充填材を充填して固化させるようになされている請求項1または2記載の柱体補強構造。
【請求項4】
前記カバー体の上端のフランジに充填材注入孔が形成されている請求項3記載の柱体補強構造。
【請求項5】
前記カバー体の綴じ合わせ部は、少くとも内側に位置する綴じ合わせ重合縁のネジ止め部が凹陥されており、この凹陥部内にネジを位置させてその頭部が、カバー体の外周面から突出しないようになされている請求項1〜4のいずれか1項記載の柱体補強構造。
【請求項6】
前記凹陥部は、カバー体の綴じ合わせ重合縁の長手方向に連続して形成されている請求項5記載の柱体補強構造。
【請求項7】
前記凹陥部は、ネジの頭部が位置する部位に各別に形成されている請求項5記載の柱体補強構造。
【請求項8】
前記補強カバーは一対のカバー体で構成されている請求項1〜7のいずれか1項記載の柱体補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−31549(P2010−31549A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194842(P2008−194842)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000230526)日本ヴィクトリック株式会社 (39)
【Fターム(参考)】