説明

柱梁接合構造、及び柱梁接合構造を有する建物

【課題】断面減少部の加工性を向上することを目的とする。
【解決手段】柱梁接合構造13は、ブラケット18のフランジプレート18Aと、梁部材14のフランジプレート14Aとを接合する接合プレート20、21を備えている。これらの接合プレート20、21には、切欠き部26、28がそれぞれ形成されている。この切欠き部26、28によって、接合プレート20、21の他の部位よりも断面積が小さくされた断面減少部20A、21Aがそれぞれ設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁接合構造、及び柱梁接合構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
兵庫県南部地震等では、鉄骨造の柱と梁の柱梁接合部に破断を伴う損傷が多数発見されており、柱梁接合構造の更なる改善が求められていた。この改善策として、梁の曲げ耐力を部分的に小さくし、柱梁接合部から離れた位置で塑性ヒンジを発生させるRBS(Reduced Beam Section)工法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、ボックスコラム(柱)とH型ビーム(梁)との柱梁接合構造において、H型ビームのフランジプレートに切欠きが形成されている。この切欠きは、ボックスコラムから離れた位置に形成されている。この切欠きによってH型ビームの曲げ耐力が小さくされており、柱梁接合部よりも先に、切欠きが形成された部位に塑性ヒンジ(塑性化)が発生するように構成されている。これにより、柱梁接合部の破断、損傷が抑制されている。
【0004】
また、特許文献2では、H型鋼からなる梁のフランジプレートに切欠きが設けられている。この切欠きは柱から離れた位置に形成されている。また、切欠きには、フランジプレートと同じ板厚の低降伏点鋼からなる鋼板が嵌め込まれ、溶接接合されている。この低降伏点鋼からなる鋼板によって梁のフランジプレートが補強されている。
【0005】
ここで、特許文献1、2では、梁のフランジプレートに切欠きを形成している。しかしながら、梁は一般的にスパンが長く、その取扱いが不便であるため、フランジプレートに切欠きを形成するのに手間を要する。また、切欠き形成時の摩擦熱によって、梁に寸法誤差が生じたり、鋼材の物性が変化して梁の強度に問題を生じたりする恐れがある。
【0006】
一方、特許文献3では、柱に溶接されたブラケットと鉄骨梁部材とをスプライスプレートで接合している。このスプライスプレートは低降伏点鋼で形成されている。これにより、スプライスプレートの降伏荷重を相対的に小さくし、柱とブラケットと溶接部よりも先に、スプライスプレートに塑性ヒンジが発生するように構成されている。
【0007】
しかしながら、スプライスプレートの降伏荷重は、低降伏点鋼の機械的性質に依存するため、その調整幅が小さく、設計の柔軟性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−4112号公報
【特許文献2】特開2001−49740号公報
【特許文献3】特開平10−317490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の事実を考慮し、断面減少部の加工性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の柱梁接合構造は、柱から突出する鉄骨ブラケットと、前記鉄骨ブラケットに接合される鉄骨梁部材と、前記鉄骨ブラケットの第1フランジプレートと、前記鉄骨梁部材の第2フランジプレートとに重ねられる鋼製の接合プレートと、前記接合プレートに設けられ、該接合プレートの他の部位よりも断面積が小さくされた断面減少部と、前記第1フランジプレート及び前記第2フランジプレートに前記接合プレートを接合する接合手段と、を備えている。
【0011】
上記の構成によれば、接合プレートを介して鉄骨ブラケットと鉄骨梁部材とを接合することにより梁が構成される。接合プレートは、鉄骨ブラケットの第1フランジプレートと、鉄骨梁部材の第2フランジプレートとに重ねられ、接合手段によって第1フランジプレート及び第2フランジプレートのそれぞれに接合される。また、接合プレートには、当該接合プレートの他の部位よりも断面積が小さい断面減少部が設けられており、この断面減少部によって、梁の曲げ耐力が部分的に小さくされている。
【0012】
ここで、接合プレートに断面減少部を設け、梁の曲げ耐力を部分的に小さくしたことにより、地震時に柱と鉄骨ブラケットとの接合部よりも先に、接合プレートの断面減少部が位置する梁部位に塑性ヒンジを発生させることができる(以下、接合プレートの断面減少部が位置する梁部位であって、塑性ヒンジが生じる部位を塑性ヒンジ部と称す)。従って、柱と鉄骨ブラケットとの接合部には、塑性ヒンジ部の曲げ耐力以上の曲げモーメントが作用しない。よって、塑性ヒンジ部を設けない場合と比較して、柱と鉄骨ブラケットとの接合部に作用する曲げモーメントが低減され、当該接合部の破断、損傷等を抑制することができる。
【0013】
また、接合プレートに断面減少部を設けたことにより、断面減少部の加工が容易となるため、製造コストを削減することができる。また、断面減少部に塑性変形を集中させることにより、地震時における梁の破損、損傷を接合プレートに集中させることができる。このため、破損、損傷した接合プレートを交換することにより、梁を補修することができる。
【0014】
更に、接合プレートは、一般的なブラケットタイプの柱梁接合部に適用可能であるため、汎用性が高く、また、断面減少部の断面積を増減することにより、梁の塑性ヒンジ部の曲げ耐力を調整することができる。
【0015】
請求項2に記載の柱梁接合構造は、請求項1に記載の柱梁接合構造において、前記接合手段が、前記接合プレートと前記第1フランジプレート又は前記第2フランジプレートとに貫通される複数の高力ボルトと、該高力ボルトに取り付けられるナットと、を備え、前記高力ボルト又は前記ナットと、前記接合プレートの間に弾性体が挟まれている。
【0016】
上記の構成によれば、接合手段が、接合プレートと第1フランジプレート又は第2フランジプレートに貫通される複数の高力ボルトと、この高力ボルトに取り付けられるナットと、を備えており、これらの高力ボルト及びナットによって、接合プレートと第1フランジプレート又は第2フランジプレートが摩擦接合される。また、高力ボルト又はナットと、接合プレートの間には、弾性体が挟まれている。
【0017】
ここで、接合プレートの断面減少部が塑性化すると、接合プレートの伸び変形によって断面減少部及びその周辺部の板厚が減少し、接合プレートと第1フランジプレート、第2フランジプレートとの間に隙間が生じる恐れがある。この隙間が生じると、接合プレートと第1フランジプレート又は第2フランジプレートとの間に作用する高力ボルトの導入軸力が減少する。従って、高力ボルト及びナットによる摩擦接合強度が低下し、曲げモーメントの伝達効率が低下してしまう。
【0018】
この対策として本発明では、高力ボルト又はナットと接合プレートとの間に弾性体を設けている。これにより、断面減少部及びその周辺部の板厚が減少しても、弾性体の復元力によって接合プレートと第1フランジプレート、第2フランジプレートとの隙間が抑制される。従って、高力ボルトによる導入軸力の減少が抑制され、摩擦接合強度を確保することができ、曲げモーメントの伝達効率の低下を低減することができる。
【0019】
また、塑性化による接合プレートの板厚の減少率は、断面減少部に近づくに従って大きくなる。従って、断面減少部に最も近い列の高力ボルト又はナットと接合プレートとの間に弾性体を設けることにより、接合プレートと第1フランジプレート、第2フランジプレートの隙間を効率良く抑制することができる。
【0020】
請求項3に記載の柱梁接合構造は、請求項2に記載の柱梁接合構造において、前記弾性体が、皿バネである。
【0021】
上記の構成によれば、弾性体が皿バネとされている。皿バネは、一般的なバネ座金等と比較して、小さいたわみ量で大きな復元力を得ることができる。従って、第1フランジプレート又は第2フランジプレートと接合プレートとの隙間をより確実に抑制することができ、高力ボルトによる導入軸力の減少を抑制することができる。よって、摩擦接合強度を維持することができ、曲げモーメントの伝達効率の低下をより確実に抑制することができる。
【0022】
請求項4に記載の柱梁接合構造は、請求項1〜3の何れか1項に記載の柱梁接合構造において、前記断面減少部が、前記第1フランジプレートと前記第2フランジプレートとの間に設けられている。
【0023】
上記の構成によれば、接合プレートに形成された断面減少部が、第1フランジプレートと第2フランジプレートとの間(隙間)に設けられている(位置している)。即ち、第1フランジプレートと第2フランジプレートとの間(隙間)に梁の塑性ヒンジ部が位置している。
【0024】
ここで、梁に作用する曲げモーメントは、第1フランジプレートから接合手段を介し、軸力として接合プレートに伝達される。この場合、第1フランジプレートと接合プレートが重なる部位では、第1フランジプレート及び接合プレートが軸力を負担するが、第1フランジプレートと第2フランジプレートとの間では接合プレートのみが軸力を負担することになる。従って、第1フランジプレートと第2フランジプレートとの間に断面減少部を設けることにより、梁の曲げモーメントに起因する軸力の全てを断面減少部に作用させることができる。これにより、断面減少部に塑性化を集中させ、当該断面減少部が位置する梁の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジをより確実に発生させることができる。
【0025】
請求項5に記載の建物は、請求項1〜4の何れか1項に記載の柱梁接合構造によって接合された前記鉄骨ブラケットと前記鉄骨梁部材とを有している。
【0026】
上記の構成によれば、建物は、請求項1〜4の何れか1項に記載の柱梁接合構造によって接合された鉄骨ブラケットと鉄骨梁部材とを有している。従って、柱と鉄骨ブラケットとの接合部よりも先に、接合プレートの断面減少部が位置する梁の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジを発生させることができる。従って、柱と鉄骨ブラケットとの接合部の破損、損傷を抑制することができ、建物の長寿命化を図ることができる。
【0027】
また、地震によって接合プレートが破損、損傷した場合は、接合プレートを交換することにより、梁を補修することができる。
【0028】
更に、接合プレートに断面減少部を設けたことにより、第1フランジプレート又は第2フランジプレートに断面減少部を設ける場合と比較して、断面減少部の加工性が向上し、コスト削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、上記の構成としたので、断面減少部の加工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る柱梁接合構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る柱梁接合構造の要部拡大図であり、(A)平面図、(B)は側面図である。
【図3】(A)は、図2(B)の1−1線断面図であり、(B)は図2(B)の2−2線断面図である。
【図4】(A)は、本発明の実施形態に係る柱梁接合構造の概略側面図であり、(B)は、鉄骨梁の曲げモーメント図である。
【図5】本発明の実施形態に係る断面減少部の拡大側面図であり、塑性ヒンジ発生後の変形状態を模式的に示している。
【図6】(A)〜(C)は、本発明の実施形態に係る柱梁接合構造の変形例を示す平面図である。
【図7】一般的な皿バネのバネ特性(荷重変形関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る柱梁接合構造13について説明する。図1、図2(A)、及び図2(B)には、建物を構成する架構の一部が示されており、柱梁接合構造13によって接合された梁10及び柱12が示されている。
【0032】
梁10は、ブラケット(鉄骨ブラケット)18と、このブラケット18に接合される梁部材(鉄骨梁部材)14と、を備えている。なお、図示を省略するが、梁部材14は、柱12から突出するブラケット18と、図示せぬ柱から突出するブラケットとの間に配置されており、各ブラケットに接合されている。
【0033】
ブラケット18はH型鋼からなり、上下方向に対向する一対のフランジプレート18A(第1フランジプレート)と、これらのフランジプレート18Aを繋ぐウェブ18Bと、を備えている。このブラケット18は、柱12の側面に突出して設けられている。
【0034】
柱12は角形鋼管からなり、その内部に一対のダイアフラム16が設けられている。このダイアフラム16は、柱12の内周壁に沿って溶接等によって接合されており、柱12とブラケット18との接合部を補強している。なお、ブラケット18及びダイアフラム16は、工場等において柱12に溶接等で予め接合されている。
【0035】
ブラケット18の端部と対向する位置には、梁部材14が配置されている。梁部材14はH型鋼からなり、上下方向に対向する一対のフランジプレート14A(第2フランジプレート)と、これらのフランジプレート14Aを繋ぐウェブ14Bと、を備えている。梁部材14のフランジプレート14Aとブラケット18のフランジプレート18Aとの間には、施工誤差を吸収するための隙間が設けられている。また、フランジプレート14Aとフランジプレート18Aとは、接合プレート20、21を介して接合されている。
【0036】
接合プレート20は鋼板からなり、ブラケット18及び梁部材14の上下方向外側からフランジプレート18A及びフランジプレート14Aのそれぞれに重ねられている。接合プレート20の側面(梁部材14の材軸方向に沿った側面)には、凹状の切欠き部26が形成されている。この切欠き部26によって、均一又は略均一とされた接合プレート20に断面減少部20Aが形成されている。この断面減少部20Aは、図3(B)に示されるように、接合プレート20の他の部位(図3(A)参照)よりも断面積が小さくされている。即ち、梁10に作用する曲げモーメントに起因する軸力に、抵抗可能な有効断面積が小さなっている。
【0037】
接合プレート21は鋼板からなり、ブラケット18及び梁部材14の上下方向内側からフランジプレート18A及びフランジプレート14Aのそれぞれに重ねられている。なお、接合プレート21は、ウェブ18B、14Bの両側に配置されている。接合プレート21の側面(梁部材14の材軸方向に沿った側面)には、凹状の切欠き部28が形成されている。この切欠き部28によって、均一又は略均一とされた接合プレート21に断面減少部21Aが形成されている。この断面減少部20Aは、接合プレート21の他の部位よりも断面積が小さくされている。即ち、梁10に作用する曲げモーメントに起因する軸力に、抵抗可能な有効断面積が小さなっている。このように接合プレート20、21に形成された断面減少部20A、21Aによって、梁10の曲げ耐力が部分的に小さくなっている。
【0038】
接合プレート20、21は、各々の断面減少部20A、21Aが、フランジプレート18Aとフランジプレート14Aとの間(隙間)に位置するように配置されている。これらのフランジプレート18Aと接合プレート20、21、及びフランジプレート14Aと接合プレート20、21は、複数の高力ボルト22(接合手段)、及びこの高力ボルト22に取り付けられるナット24(接合手段)によって、摩擦接合されている。これにより、ブラケット18と梁部材14との間で、曲げモーメントが伝達可能になっている。
【0039】
各高力ボルト22は、皿バネ(弾性体)32を介して取り付けられている。この皿バネ32は、高力ボルト22の頭と接合プレート20との間で挟まれ、圧縮した状態で保持されている。なお、皿バネ32に替えて、一般的なバネ座金、波形座金等を用いても良い。
【0040】
また、接合手段としての高力ボルト22に替えて、通常のボルト、せん断ピン、リベット、溶接等によって接合しても良いが、接合強度の観点から高力ボルト22による摩擦接合が好ましい。
【0041】
ブラケット18のウェブ18B及び梁部材14のウェブ14Bには、鋼製の補強プレート30がそれぞれ重ねられており、高力ボルト34及びナット(不図示)によって摩擦接合されている。この補強プレート30は、梁10に作用するせん断力を主に伝達する。
【0042】
ここで、断面減少部20A、21Aの断面積は、柱12とブラケット18との接合部よりも先に、当該断面減少部20A、21Aが位置する梁10の部位(以下、「塑性ヒンジ部」という)に塑性ヒンジが発生するように設計される。
【0043】
即ち、図4(A)及び図4(B)に示されるように、地震時に梁10に発生する曲げモーメントは、一般的に柱12とブラケット18との接合部Lで最大となり、柱12から離れるに従って小さくなる。従って、梁10の曲げ耐力が全断面で等しい場合、先ず接合部Lに塑性ヒンジが発生する。接合部Lに塑性ヒンジが発生すると、繰り返し回転運動が生じ、柱12とブラケット18との接合部に溶接不良等に起因する亀裂が入り、脆性的な破断につながる可能性がある。
【0044】
この対策として、柱梁接合構造13では、接合部Lよりも先に、梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジが発生するように、断面減少部20A、21Aの軸耐力が設計される。この軸耐力は、切欠き26、28の形状、大きさ、断面減少部20A、21の材質、接合部Lから断面減少部20A、21Aまでの距離L等を考慮して設計される。
【0045】
次に、実施形態に係る柱梁接合構造13の作用について説明する。
【0046】
接合プレート20には断面減少部20Aが設けられている。この断面減少部20Aは、接合プレート20の他の部位よりも断面積が小さくされており、即ち、接合プレート20の他の部位よりも軸耐力が小さくされている。この断面減少部20A、21Aが位置する梁10の部位は塑性ヒンジ部とされ、梁10の曲げ耐力が部分的に小さくされている。断面減少部20Aの軸耐力は、切欠き部26の形状、大きさ等によって増減され、地震時に、断面減少部20Aが塑性化し、柱12とブラケット18のフランジプレート18Aとの接合部よりも先に、当該断面減少部20Aが位置する梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジが発生するように設計されている。なお、説明を省略するが、接合プレート21には、断面減少部20Aと同様の断面減少部21Aが形成されている。
【0047】
従って、地震時に架構に外力が作用した場合、先ず、接合プレート20、21の断面減少部20A、21Aが塑性化し、当該断面減少部20A、21Aが位置する梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジが発生する。従って、柱12とブラケット18との接合部には、塑性ヒンジ部の曲げ耐力以上の曲げモーメントが作用しない。よって、塑性ヒンジ部を設けない場合と比較して、柱12とブラケット18との接合部に作用する曲げモーメントが低減され、当該接合部の破断、損傷等を抑制することができる。
【0048】
また、これらの断面減少部20A、21Aは、接合プレート20、21に設けられている。そのため、断面減少部20A、21Aの製作が容易となり、即ち、切欠き部26、28の加工が容易となる。従って、従来のように梁(例えば、H形鋼のフランジ)に切欠き部を形成する場合と比較して、製造コストを削減することができる。
【0049】
また、断面減少部20A、21Aが位置する梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジを発生させることにより、地震時における梁10の破損、損傷を接合プレートに集中させることができる。従って、破損、損傷した接合プレート20、21を交換することにより、梁10を補修することができる。更に、接合プレート20、21は、一般的なブラケットタイプの柱梁接合部に適用可能であるため汎用性が高く、また、断面減少部20A、21Aの断面積を増減することにより、梁10の曲げ耐力を調整することができる。
【0050】
ところで、接合プレート20、21には、充分な接合強度を確保すべく、ブラケット18のフランジプレート18A、及び梁部材14のフランジプレート14Aと同様の強度を備える鋼材が使用され、その板厚はフランジプレート18A、14Aと同等、若しくは同等以上の厚さとされることが通常である。このように強度(軸耐力)が重要視される接合プレート20、21に、本実施形態では、敢えて断面減少部20A、21Aを設けることにより、架構全体の靭性、変形性能を向上させて耐震性能を向上させると共に、断面減少部20A、21Aの加工性の向上を図っている。
【0051】
次に、梁10に作用する曲げモーメントの伝達機構について説明する。
【0052】
地震等によって架構に外力が作用すると、梁10に曲げモーメントが作用する。この曲げモーメントは、梁部材14のフランジプレート14A、接合プレート20、21、及びブラケット18のフランジプレート18Aに軸力として伝達される。フランジプレート14Aと接合プレート20、21との間では、フランジプレート14Aと接合プレート20、21の接触面に発生する摩擦力(高力ボルト22の軸力に応じた摩擦力)によって軸力が伝達される。この場合、フランジプレート14Aと接合プレート20、21が重なる部位では、フランジプレート14A及び接合プレート20、21が軸力を負担するが、フランジプレート14Aとフランジプレート18Aとの間では、接合プレート20、21のみが軸力を負担する。即ち、フランジプレート14Aとフランジプレート18Aとの間では、接合プレート20、21に作用する応力度が大きくなる。本実施形態では、このように応力度が大きくなる接合プレート20、21の部位に、断面減少部20A、21Aを設けている。これにより、断面減少部20A、21Aに塑性変形を集中させ、断面減少部が位置する梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジをより確実に発生させることができる。
【0053】
また、各高力ボルト22は、皿バネ32を介して取り付けられている。これにより、ブラケット18と梁部材14との曲げモーメントの伝達効率の低下を効率的に抑制することできる。ここで、図5に示されるように、梁部材14が矢印A方向へ変形し、断面減少部20A、21Aが位置する梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジが発生すると、塑性ヒンジ部の伸び変形によって断面減少部20A、21A及びその周辺の板厚が減少し(例えば、板厚t→板厚t)、接合プレート20、21とフランジプレート18Aとの間や、接合プレート20、21とフランジプレート14Aとの間に隙間が生じる恐れがある。この隙間が生じると、接合プレート20、21とフランジプレート14A又はフランジプレート18Aとの間に作用する高力ボルト22の導入軸力が減少する。従って、高力ボルト22及びナット24による摩擦接合強度が低下し、曲げモーメントの伝達効率が低下してしまう。
【0054】
この対策として、本実施形態では、高力ボルト22と接合プレート20との間に皿バネ32を設けている。これにより、断面減少部20A、21A及びその周辺部の板厚が減少しても、皿バネ32の復元力によって接合プレート20、21とフランジプレート18A、14Aとの隙間が抑制されるため、高力ボルト22による導入軸力の減少を抑制することができる。よって、摩擦接合強度が確保され、ブラケット18と梁部材14との間の曲げモーメントの伝達効率の低下が低減される。
【0055】
なお、塑性化による接合プレート20、21の板厚の減少率は、断面減少部20A、21Aに近づくに従って大きくなる。従って、断面減少部20A、21Aに最も近い列(図2(A)において、点線Cで囲まれた列)の高力ボルト22と接合プレート20との間に皿バネ32を設けることが望ましい。これにより、接合プレート20、21とフランジプレート18A、14Aとの隙間を効率良く抑制することができる。なお、接合プレート20、21の板厚減少が懸念される部位に、皿バネ32を適宜設けても良いことは、勿論である。
【0056】
更に、弾性体として皿バネ32を用いることにより、曲げモーメントの伝達効率の低下をより確実に抑制することができ、高力ボルト22による導入軸力の減少を抑制することができる。即ち、摩擦接合強度を維持することができ、曲げモーメントの伝達効率の低下をより確実に抑制することができる。皿バネ32は、一般的なバネ座金等と比較して、小さいたわみ量で大きな復元力を得ることができるためである。
【0057】
また、図7に示される一般的な皿バネのバネ特性92(荷重変形関係)から分かるように、皿バネは、変形量に対して復元力の変動が小さい領域Rを有している。従って、皿バネ32が領域Rで変形するように、当該皿バネ32に圧力(初期圧力)を付与することにより、高力ボルト22による導入軸力の減少を効率的に抑制することができる。そのため、皿バネ32は、領域Rで使用することが望ましい。なお、領域Rから外れた領域で、皿バネ32を使用しても良いことは勿論である。
【0058】
なお、本実施形態では、全ての高力ボルト22に皿バネ32を設けたがこれに限らず、断面減少部20A、21Aに最も近い列の高力ボルト22にのみ皿バネ32を設けても良いし、断面減少部20A、21Aから2番目に近い列の高力ボルト22にのみ皿バネ32を設けても良い。更に、本実施形態では、高力ボルト22と接合プレート20との間に皿バネ32を設けたが、ナット24と接合プレート21との間に皿バネ32を設けても良い。即ち、高力ボルト22と接合プレート20との間、及びナット24と接合プレート21との間の少なくとも一方に、皿バネ32が挟まれていれば良い。
【0059】
また、切欠き部26、28の形状、大きさは適宜変更可能である。例えば、図6(A)に示されるように、切欠き部26(図2(A)参照)よりも曲率半径が大きい切欠き部36を形成しても良い。また、切欠き部26を形成するのではなく、図6(B)に示されるように、一又は複数の貫通孔40(図6(B)は、5つ)を形成して接合プレート20の断面積を小さくしても良い。この場合、貫通孔40の形状は円形に限らず、三角形、四角形等の多角形でも良い。また、ボルトを通すための貫通孔(ボルト孔)を、断面減少部用の貫通孔として使用することも可能である。更には、接合プレート20、21に切欠き部26、28や貫通孔40を形成するのではなく、接合プレート20、21の板厚を部分的に薄くして断面減少部を設けることも可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、フランジプレート18A、14Aの上下方向両側に2枚の接合プレート20、21を配置したが、接合プレートは少なくとも1枚あれば良い。また、接合プレート20、21は、種々の鋼材で形成することができる。特に、接合プレート20、21を、普通鋼(例えば、SM490、SS400等)よりも降伏点が小さい低降伏点鋼(例えば、LY225)で形成することにより、断面減少部20A、21Aの降伏荷重が小さくなるため、断面減少部20A、21Aが位置する梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジが発生し易くなる。従って、切欠き部26、28等による断面欠損を小さくすることが可能となり、切欠き部26、28等の加工の手間を更に低減することができる。更に、低降伏点鋼を塑性化させることにより、安定した履歴ループによって振動エネルギーを吸収することも可能である。
【0061】
また、本実施形態では、ブラケット18のフランジプレート18Aと、梁部材14のフランジプレート14Aとの間(隙間)に断面減少部20A、21Aを設けたがこれに限らない。柱12とブラケット18との接合部よりも先に、梁10の塑性ヒンジ部に塑性ヒンジが発生すれば良く、接合プレート20、21の何れの位置に断面減少部20A、21Aを設けてよい。例えば、図6(C)に示されるように、フランジプレート18Aとフランジプレート14Aとの間(隙間)から外れた位置に貫通孔40を形成し、断面減少部20Aとしても良い。なお、前述した通り、梁10の曲げモーメントに起因する接合プレート20、21の負担軸力は、フランジプレート18Aとフランジプレート14Aとの間で最大となるため、フランジプレート18Aとフランジプレート14Aとの間に断面減少部20Aを設けることが合理的である。
【0062】
また、本実施形態の柱梁接合構造13は、梁部材14の両端部に適用する必要はなく、梁部材14の少なくとも一方の端部に適用されていれば良い。また、柱梁接合構造13は、種々の構造(例えば、H型鋼、T型鋼、I型、丸型鋼等)の柱12、ブラケット18、梁部材14に適用可能である。更に、上記実施形態では、ダイアフラム16(いわゆる内ダイヤ形式)によって柱12を補強したがこれに限らず、いわゆる通しダイア形式、外ダイア形式等の種々の補強形式を用いることができる。
【0063】
また、上記実施形態に係る柱梁接合構造は、建物の一部に用いても良いし、建物の全てに用いても良い。更に、新築建物や改修建物に適用することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態の例について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
12 柱
13 柱梁接合構造
14A フランジプレート(第2フランジプレート)
14 梁部材(鉄骨梁部材)
18A フランジプレート(第1フランジプレート)
18 ブラケット(鉄骨ブラケット)
20 接合プレート
20A 断面減少部
21 接合プレート
21A 断面減少部
22 高力ボルト(接合手段)
24 ナット(接合手段)
32 皿バネ(弾性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱から突出する鉄骨ブラケットと、
前記鉄骨ブラケットに接合される鉄骨梁部材と、
前記鉄骨ブラケットの第1フランジプレートと、前記鉄骨梁部材の第2フランジプレートとに重ねられる鋼製の接合プレートと、
前記接合プレートに設けられ、該接合プレートの他の部位よりも断面積が小さくされた断面減少部と、
前記第1フランジプレート及び前記第2フランジプレートに前記接合プレートを接合する接合手段と、
を備える柱梁接合構造。
【請求項2】
前記接合手段が、前記接合プレートと前記第1フランジプレート又は前記第2フランジプレートとに貫通される複数の高力ボルトと、該高力ボルトに取り付けられるナットと、を備え、
前記高力ボルト又は前記ナットと前記接合プレートとの間に弾性体が挟まれている請求項1に記載の柱梁接合構造。
【請求項3】
前記弾性体が、皿バネである請求項2に記載の柱梁接合構造。
【請求項4】
前記断面減少部が、前記第1フランジプレートと前記第2フランジプレートとの間に設けられている請求項1〜3の何れか1項に記載の柱梁接合構造。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の柱梁接合構造によって接合された前記柱と前記鉄骨梁部材とを有する建物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−285780(P2010−285780A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139317(P2009−139317)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】