説明

柱脚金物

【課題】
施工後の露出部分が少なく結露の発生を抑制可能で、しかも製造コストも低減できる柱脚金物を提供すること。
【解決手段】
上下に延在する中心体12と、この中心体12の側周面から外側に突出する差込板16と、で柱脚金物11を構成して、中心体12には、アンカーボルト21などを挿通するための挿通孔13を設けて、また差込板16には、ドリフトピン28を通過させるためのピン孔17を設ける。そして柱31には、これらを収容するための底穴33や溝34を加工することで、柱脚金物11全体が柱31の中に埋め込まれるため、気温の変化による結露の発生を防止でき、周辺の部材の腐食を防止できる。さらに本発明の柱脚金物11は、筒状の中心体12と板状の差込板16で構成され、形状が単純であり、中心体12の側周面に差込板16を溶接するだけで製品化が可能で、製造コストを低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱を基礎などに固定するために使用する柱脚金物に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物の骨格を構成する柱は、建物の荷重を支える重要な部材であり、古くは突き固めた地盤の上に束石を置き、この束石で柱を支持していた。しかしこの構造は、柱が単に束石に載置されているだけであり、地震や強風で動的な荷重が作用した場合、柱が束石から離脱して、建物が倒壊する恐れがあった。したがって現在では、コンクリート製の基礎を設けた上、ホールダウン金物などを用いて柱を基礎と一体化しており、地震に遭遇した場合でも柱が基礎から離脱することはない。
【0003】
柱を基礎と一体化する手段については、前記のようなホールダウン金物のほか、柱脚金物も使用されている。柱脚金物の形状や構造は様々だが、その一例を図5に示す。図5(A)の柱脚金物は、基礎の上面に接触している水平板と、柱の溝に差し込まれる垂直板で構成され、側面から見てT字を上下反転させた形状である。この水平板の中心にアンカーボルトを挿通して、その先端にナットを螺合して基礎と一体化した後、柱の側面から垂直板を貫くドリフトピンを打ち込んで柱を一体化する構造である。また図5(B)の柱脚金物は、下側の筒状部と、その上のシャフトで構成され、筒状部の中心にアンカーボルトを挿通した後、その先端にナットを螺合して基礎と一体化した後、柱の側面からシャフトを貫くドリフトピンを打ち込んで柱を一体化する構造である。
【0004】
その他にも、木造建築物において大きな開口部を確保するため、図6のような門形フレームを使用する場合があるが、この柱と基礎との間にも金属製の柱脚金物を介在させている。ここで使用される柱脚金物は、内部にボルトなどを差し込む必要があり、図のようなH形あるいは箱形が一般的である。なお柱脚金物に関しては、以下のような特許文献が公開されている。文献1は、アンカーボルトを施工する際の寸法誤差を吸収して精度良く柱の据え付けができることを目的としており、文献2は、ホールダウン金物を使用することなく十分な接合強度を確保することなどを目的としており、文献3は、据え付け精度の向上や作業性の改善などを目的としている。
【特許文献1】特開平11−256684号公報
【特許文献2】特開2002−242315号公報
【特許文献3】特開2005−127064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5(A)に示す柱脚金物は、水平板の上に柱を載置するため、設計や施工の際は、常に水平板の厚さを考慮する必要がある。しかし突発的な設計変更などがあった場合、水平板の存在を失念して、思わぬ不具合を呼び起こすことがある。しかも水平板は、施工後も側面が外部に露見するため、温度変化などによって結露が発生して、周辺の柱や土台を腐食させる恐れがある。また図5(B)に示す柱脚金物は、全体が柱の中に埋め込まれるため、結露が発生することはないものの、形状が複雑で溶接箇所も多いため製造コストの低減が困難で、大量に使用するにはやや不向きである。
【0006】
次に図6の柱脚金物は、必然的に二本以上のアンカーボルトで基礎に固定されており、強度は万全であるが、基礎を打設する際、狭い領域に複数のアンカーボルトを精度良く埋め込む必要があり、費用や手間が増加しやすい。また各特許文献に開示されている技術は、いずれも柱脚金物が外部に露見しており、使用条件によっては結露の発生によるトラブルが予想される。
【0007】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、施工後の露出部分が少なく結露の発生を抑制可能で、しかも製造コストも低減できる柱脚金物の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、基礎などの各種支持体と、柱の下部と、の間に介在し、柱の下面に形成された底穴に収容される中心体と、該中心体の側周面から突出して柱の下部に形成された溝に差し込まれる差込板と、からなり、前記中心体には、支持体から突出するアンカーボルトまたは支持体に埋め込まれた雌ネジに螺合する締結ボルトを挿通可能な挿通孔を備え、且つ前記差込板には、柱の側面から打ち込まれるドリフトピンを挿通するためのピン孔を備えていることを特徴とする柱脚金物である。
【0009】
本発明による柱脚金物は、基礎などの各種支持体に柱の下部を締結するために使用され、大別して中心体と差込板で構成される。なお支持体の上面と柱の下面は、原則として面接触してものとするが、基礎パッキンなど硬質の板材が介在する場合もある。また支持体の具体例としては、コンクリート製の基礎のほか、土台や鉄骨なども挙げられる。そして柱脚金物を構成する中心体は、上下方向に延びる棒状の部位であり、その断面形状は自在だが円断面が最適である。また差込板は、中心体の側周面から外部に突出するように延びる単純な平面状の板で、溶接などで中心体と一体化している。なお差込板は、中心体を基準として対称形に配置され、少なくとも二枚以上使用される。
【0010】
中心体は、柱脚金物を基礎などの支持体と一体化するための部位であり、内部にアンカーボルトなどを挿通するための挿通孔が形成されている。したがって挿通孔にアンカーボルトを差し込んだ後、その先部にナットを螺合して締め上げると、柱脚金物が支持体に固定される。なおアンカーボルトの代用として支持体の上面付近にナットを埋め込んで、これに締結ボルトを螺合して柱脚金物を固定する場合もある。その際は、挿通孔とナットの雌ネジを同心に揃えた後、挿通孔からナットに向けて締結ボルトを差し込むことになる。
【0011】
柱脚金物を柱に埋め込むため、柱の下部には底穴および溝をあらかじめ加工しておく必要がある。底穴は、中心体のほか、アンカーボルトおよびナットなどを問題なく収容できる大きさとする。したがって底穴については、中心体よりも延長や直径を大きめに加工しても構わない。また差込板を収容するため、柱の下面から長手方向に延びる溝も加工するが、これについては、差込板の厚さと同等として隙間が生じないようにする。なお差込板には、ドリフトピンを挿通するためのピン孔が形成されており、柱の側面にもピン孔と同心となる位置に横孔をあらかじめ加工しておく。そして施工の際は、横孔からピン孔に向けてドリフトピンを打ち込んで、柱を差込板に固定する。
【0012】
このように構成することで、柱脚金物を構成する中心体と差込板の全体が柱の内部に埋め込まれるため、外部に露見する面積が少なく気温の変化による結露の発生を抑制できる。しかも本発明は、円筒状の中心体に差込板を取り付けただけの簡単な構造で、製造コストを低減可能で、各部分の形状や大きさを最適に設計することで十分な強度を確保できる。なお差込板の形状については、剛性向上などを目的として対向する差込板の上部同士をつなぐなど、機能に影響を与えない範囲で自在に選択できる。また、中心体の下面と差込板の下面は、支持体に対して安定的に載置できるよう、ほぼ同一の水準に揃える必要があるが、対する上面については、差込板が中心体よりも突出していることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明のように、柱脚金物を中心体と差込板で構成することで、全体が柱の下部に埋め込まれるため、外部に露見する面積が極めて小さく、気温の変化による結露の発生を防止でき、周辺の部材の腐食を防止できる。しかも本発明の柱脚金物は、柱の底面が基礎などの上面と一致するため、図5(A)に示すような水平板の厚さを考慮する必要がなく、設計時や施工時に思わぬ不具合を招く恐れがない。さらに柱脚金物は、筒状の中心体と板状の差込板で構成され、形状が単純であり、中心体の側周面に差込板を溶接するだけで製品化が可能で、製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明による柱脚金物11を用いて柱31を支持体に固定する場合の構成例を示している。本図において柱31を支える支持体は、コンクリートを直線状に打設した基礎38であり、この内部にアンカーボルト21が埋め込まれており、その先端部が外部に突出している。また柱脚金物11は、円筒状の中心体12と、その側周面から半径方向に突出する二枚の差込板16で構成されている。中心体12には、アンカーボルト21を差し込むための挿通孔13が形成されており、対する差込板16には、ドリフトピン28を差し込むためのピン孔17が形成されている。
【0015】
アンカーボルト21を中心体12の挿通孔13に差し込んで、柱脚金物11を基礎38の上に載置した後、アンカーボルト21の先端にナット23を螺合して締め上げると、柱脚金物11は基礎38と一体化する。なお挿通孔13は、施工誤差などの吸収を目的として、アンカーボルト21が余裕で挿通できる直径となっている。そのため、ナット23が中心体12の上面に確実に載置できるよう、ナット23の下にワッシャ22を挟み込んでいる。ナット23を締め上げることで、中心体12および差込板16の下面は基礎38に押圧され、柱31の浮き上がりやねじれを防止する。
【0016】
柱31の内部に柱脚金物11を埋め込むため、柱31の下面の中央には、中心体12やアンカーボルト21などを収容するための底穴33を事前に加工しておく。また差込板16を差し込むための溝34、ドリフトピン28を打ち込むための横孔32も事前に加工しておく。横孔32は、施工時にピン孔17と同心になるよう位置が決められているほか、その直径はドリフトピン28と等しく、打ち込み後は双方の間の摩擦によって固定される。なお柱31に隣接して土台39も配置されているが、本図では柱31が土台39の上面に載置されておらず、柱31および土台39のいずれの下面とも、基礎38の上面に接触している。
【0017】
図2は、図1の各要素を組み合わせて柱31を据え付けた状態を示しており、図2(A)は全体で、図2(B)は図2(A)のB−B断面で、図2(C)は図2(A)のC−C断面である。図2(A)に示すように、柱31の据付後は、差込板16やドリフトピン28の端面だけが外部に露見しているため、温度変化に伴う結露の発生は極めて限定的になり、柱31などの木材の腐食を防止できる。また両断面図のように、柱脚金物11の中心体12のほか、アンカーボルト21の先端部分やナット23は、柱31の下面の底穴33の中に収容され、外気とは隔離されている。さらに差込板16にドリフトピン28が打ち込まれているため、柱31は基礎38と強固に一体化している。
【0018】
図3は、雌ネジ25を有するソケット24が埋め込まれている基礎38に、本発明による柱脚金物11を使用した場合を示しており、図3(A)は全体の構成で、図3(B)は、図3(A)の各要素を組み上げた状態のB−B断面である。本図の形態は、雌ネジ25を有するソケット24の全体が基礎38に埋め込まれており、ソケット24の上面が基礎38の上面と同一水準に揃っている。そして、中心体12の上方から締結ボルト26を差し込んで雌ネジ25に螺合させることで、柱脚金物11を基礎38に固定している。なお、柱31と柱脚金物11との締結方法などは、図1と全く同じである。本図のように、アンカーボルト21の代替として長ナット状のソケット24を用いることで、基礎38上面からの突出物が一切なくなるため、コンクリートを流し込んだ後、その上面を水平に仕上げる作業を効率よく実施できるなどの利点がある。
【0019】
図4は、本発明による柱脚金物11の形状例であり、図4(A)は差込板16の上部に段差部18を設けており、図4(B)は二枚の差込板16を上部で一体化しており、図4(C)は差込板16を四枚配置しており、図4(D)は中心体12と差込板16を一体成形したものである。図4(A)の形態は、二枚の差込板16の上部に、中心に向けて水平に突出する段差部18を設けている。これによって上側のピン孔17と下側のピン孔17が同一垂直線上に並ばないように配置でき、図1などに示すドリフトピン28に作用する荷重を広範囲に分散できるようになる。また二枚の差込板16が分離しているため、中心体12の上方から図3に示す締結ボルト26を差し込む際の作業性にも優れている。次の図4(B)の形態は、中心体12を基準として対向する差込板16の間に接続部19を設けて、双方を一体化して差込板16の強度を向上させており、しかも上側のピン孔17と下側のピン孔17が同一垂直線上に並ばないように配置することもできる。
【0020】
次の図4(C)は、差込板16を四枚使用しており、ドリフトピン28を二方向から打ち込むことができ、柱31と柱脚金物11との結合強度を向上できる。なお打ち込む方向の異なるドリフトピン28同士の干渉を防止するため、ピン孔17の高さを方向に応じて変えている。最後の図4(D)は、柱脚金物11の製造方法の例を示しており、半円形の中心体12と、その両側面から突出する差込板16を鋼板のプレス加工によって一体成形して、これを二枚接合した構造で、製造費用の更なる低減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による柱脚金物を用いて柱を支持体に固定する場合の構成例を示す斜視図である。
【図2(A)(B)(C)】図1の各要素を組み合わせて柱を据え付けた状態を示しており、(A)は全体の斜視図で、(B)は図2(A)のB−B断面図で、(C)は図2(A)のC−C断面図である。
【図3(A)(B)】ソケットが埋め込まれている基礎に、本発明による柱脚金物を使用した場合を示しており、(A)は全体の斜視図で、(B)は図3(A)の各要素を組み上げた状態のB−B断面図である。
【図4(A)(B)(C)(D)】本発明による柱脚金物の形状例を示す斜視図で、(A)は差込板の上部に段差部を設けており、(B)は二枚の差込板を上部で一体化しており、(C)は差込板を四枚配置しており、(D)は中心体と差込板を一体成形したものである。
【図5(A)(B)】現状の柱脚金物の形状例を示す斜視図で、(A)はT字を反転させたもので、(B)は筒状部とシャフトを組み合わせたものである。
【図6】現状の柱脚金物の形状例を示す斜視図で、門形フレームを構成する柱を土台に締結するため、基礎と柱の間にH形および箱形の柱脚金物を使用している。
【符号の説明】
【0022】
11 柱脚金物
12 中心体
13 挿通孔
16 差込板
17 ピン孔
18 段差部
19 接続部
21 アンカーボルト
22 ワッシャ
23 ナット
24 ソケット
25 雌ネジ
26 締結ボルト
28 ドリフトピン
31 柱
32 横孔
33 底穴
34 溝
38 基礎(支持体)
39 土台


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎(38)などの各種支持体と、柱(31)の下部と、の間に介在し、
柱(31)の下面に形成された底穴(33)に収容される中心体(12)と、該中心体(12)の側周面から突出して柱(31)の下部に形成された溝(34)に差し込まれる差込板(16)と、からなり、
前記中心体(12)には、支持体から突出するアンカーボルト(21)または支持体に埋め込まれた雌ネジ(25)に螺合する締結ボルト(26)を挿通可能な挿通孔(13)を備え、且つ前記差込板(16)には、柱(31)の側面から打ち込まれるドリフトピン(28)を挿通するためのピン孔(17)を備えていることを特徴とする柱脚金物。

【図1】
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【図2(A)(B)(C)】
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【図3(A)(B)】
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【図4(A)(B)(C)(D)】
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【図5(A)(B)】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−101099(P2010−101099A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274597(P2008−274597)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(501138161)
【Fターム(参考)】