説明

柿の抗酸化活性機能増強法および健康食品素材

【課題】柿が有する高機能性を増強させて、柿の有効利用の拡大を図るとともに、嗜好の高級化あるいは美観に劣るということで廃棄される規格外品、完熟品、さらには加工副産物などや、食されず多くは廃棄される柿の果皮の有効利用することを目的とする。
【解決手段】柿をペースト状にして乳酸発酵させ、柿の抗酸化活性機能を増強させるのであって、乳酸菌としては、植物由来、例えば、イチジク、ブドウ、イチゴ、オギ、イソトマ(花)およびカラー(花)など由来の乳酸菌が好ましく、特には植物組織崩壊酵素を併用した複発酵により抗酸化活性機能を増強させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、柿の果実あるいは皮果が有する、抗酸化活性機能の増強法に関するものである。
特に、この増強法で抗酸化活性機能が増強された柿を、素材ないし成分とする健康食品に関するもので、発酵技術および健康食品製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柿は、古くから、日本人にはなじみの深い果樹であって、生の果実として、あるいは、干し柿として、その甘みの故に、大量に消費されてきているものである。
さらに、柿は、ビタミンCおよびカロテンを含み、多くの生理機能、例えば、皮膚内側の細胞組織の健全化、毛細血管の再生、細菌に対する抵抗力の強化、赤血球の再生、血圧の調節等、に有効で、血管関連疾病(動脈硬化、高血圧、心臓病)の予防と治療に有効とされ、さらには、抗酸化能力を有し、発癌物質から細胞を守る効果を有しているとされているもの。
【0003】
一方、乳酸発酵は、主として乳酸菌によって生起される、乳酸が生成する発酵現象であって、古くから、清酒、しょうゆ、みその醸造、種々の漬物、乳酸飲料やチーズの製造などに深く関与し、食生活に関連する発酵として広く利用されてきたものである。
したがって、各種の食材、例えば、穀類、乳類、果実あるいは野菜などを乳酸発酵させることは、よく知られている。
また、乳酸発酵についても種々の提案がなされ、食材としての柿についても、乳酸発酵させることについて多くの提案がなされている。
【0004】
柿を含む食材の乳酸発酵の例を挙げると、例えば、特開2001−190251号公報(特許文献1)においては、柿を含む、免疫賦活作用があるとされている果実や野菜の汁液から、酵母による発酵と乳酸菌による発酵を併用することによって、風味が良くて飲みやすい発酵飲料が得られる、醗酵飲料の製造方法が報告されている。
【0005】
また、特開2004−313032号公報(特許文献2)には、柿を含む各種食品素材、特に未利用食品素材などに、特定の乳酸菌を作用させることによって、抗高血圧作用等を有する機能性物質であるγ−アミノ酪酸を、高濃度に製造することができる機能性素材の製法が提案されている。
【0006】
さらに、特開2004−357509号公報(特許文献3)おいては、それ自体免疫賦活能の高い野菜および/または果実を、球菌の中でもTNF活性の最も強いエンテロコッカス・フェカーリスを所定の比率以上を含む乳酸菌で醗酵させることによって、生体の免疫機能を活性化する効果も高く、かつ風味も良好な乳酸発酵食品を得ることが可能になったことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−190251号公報(特許請求の範囲、段落0017)
【特許文献2】特開2004−313032号公報(特許請求の範囲、段落0026)
【特許文献3】特開2004−357509号公報(特許請求の範囲、段落0056)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したように、乳酸醗酵手段によって柿を有効利用することが提案されているが、有効利用される柿の比率はきわめて少なく、その多くは、嗜好の高級化あるいは美観に劣るということで規格外品とされ廃棄されている。
なかでも、加工副産物の生成に際して生じる柿の皮に至っては、大部分が単に廃棄されるのみで、その処理にも困っているのが現状である。
【0009】
この発明はかかる現状に鑑み、前記機能を有する柿のさらなる有効利用を推し進めるに際し、乳酸醗酵技術を利用することによって、柿から機能性に優れた素材、特に健康食品の原料としてより効率的に用いられる素材を得るべく鋭意検討を行った。
【0010】
その結果、発明者等は、柿をペースト状にして乳酸発酵させることによって、柿が本来有している抗酸化活性機能が増強され、乳酸発酵により得られた素材が、健康食品の材料として、さらには医薬の原料としての可能性を有するものであることを見出し、この発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
柿をペースト状にして乳酸発酵させること
を特徴とする柿の抗酸化活性機能増強法である。
【0012】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の柿の抗酸化活性機能増強法において、
前記乳酸発酵が、
植物由来の乳酸菌を用いて行われるものであること
を特徴とするものである。
【0013】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項2に記載の柿の抗酸化活性機能増強法において、
前記植物が、
イチジク、ブドウ、イチゴ、オギ、イソトマ(花)およびカラー(花)のいずれかであること
を特徴とするものである。
【0014】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の柿の抗酸化活性機能増強法において、
前記乳酸発酵が、
植物組織崩壊酵素を併用して行われるものであること
を特徴とするものである。
【0015】
また、この発明の請求項5に記載の発明は、
柿を素材とし、請求項1〜4のいずれかに記載の増強法によって、増強された抗酸化活性機能が付与されていること
を特徴とする健康食品素材である。
【発明の効果】
【0016】
この発明の柿の抗酸化活性機能増強法は、柿をペースト状にして乳酸発酵させることによって、柿が有する抗酸化活性機能を増強させることができ、一方では、酸化ストレスによる、赤血球変形能の低下を抑制する能力を、劣化させることがないという優れた効果を発揮することができる。
【0017】
また、前記柿の抗酸化活性機能増強法によって得られた健康食品素材、すなわち、乳酸発酵品は、優れた抗酸化活性機能を有し、健康食品の原料として、さらには医薬にも用いられる可能性のあるものである。
したがって、この発明によれば、多量に廃棄される柿をさらに有効利用することができるとともに、産廃物を大幅に削減し、環境維持を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の健康食品素材による赤血球変形能の低下抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明において使用する柿は、その果実および/又は果皮であって、甘柿であっても渋柿であっても使用することができる。
【0020】
また、ペースト状の柿の乳酸発酵は、公知の乳酸菌を用いた発酵条件、例えば、常温〜40℃の温度下に1〜7日間、密閉容器での静置培養が採用される。
【0021】
使用する乳酸菌は、種々のものが利用できるが、植物性乳酸菌が好ましい。
この植物性乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・プランタルム、ロイコノストック・メセンテロイデス、エンテロコッカス・マロドラタス、ラクドバチルス・ファーメンタム、ラクトコッカス・ラクチス及びバイセラ・コンフューサなどを挙げることができる。
【0022】
なお、この発明にかかる柿の抗酸化活性機能増強法においては、乳酸発酵と食品用酵素製剤を用いて、平行複発酵させることが好ましい。
食品用酵素製剤としては、植物組織崩壊酵素を挙げることができる。
市販品としては、エイチビィアイ株式会社製のセルラーゼ製剤(セルロシンAC40)やペクチナーゼ製剤(セルロシンPE60)などを挙げることができる。
【実施例1】
【0023】
<乳酸菌の取得>
各種の果実、花などの分離源の小片をMRS培地に投入し、温度30℃で1週間程度、アネロパックケンキを用い、静置嫌気培養した。
なお、培養の工程において、必要に応じて酵母等の真菌類の生育を抑えるため、10ppmのシクロヘキシミドのMRS培地へ添加した。
上記集積培養完了後、培養液を0.5%炭酸カルシウム含有MRS平板培地に塗布し、さらに、温度30℃で数日間、嫌気培養を行った。
MRS平板培地に出現したコロニーのうち、酸の生成により、周辺で炭酸カルシウムの溶解が見られるものを、試験管のMRS培地に釣菌し、温度30℃で1日から数日間、静置培養し、生育が見られたものを分離株とした。
分離株のうち、カタラーゼテスト陰性のものを、乳酸菌分離株として取得した。
【0024】
<乳酸菌の同定>
上記において取得した乳酸菌分離株を、以下の手順で同定し、下記表1に示される乳酸菌を得た。
乳酸菌様分離株の糖類資化性を、API 50 CHLキット(ビオメリュー)により得られた24時間後と、48時間後の糖類資化性パターンから、APIWEB(ビオメリュー)によって解析し、必要に応じて、文献の糖類資化性パターンとの比較も行った。
また、乳酸菌分離株の16S rRNA遺伝子の塩基配列は、乳酸菌分離株からのゲノムDNAの抽出、16S rRNA遺伝子のPCR、クローニング、シーケンス解析を定法どおり行い、得られた塩基配列は、ウェブ上のデータベースで相同性検索を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
<柿ペーストの乳酸発酵>
上記の乳酸菌を用いて、柿ペーストの乳酸発酵を行い、抗酸化活性を含む特性を測定した。
柿ペーストの乳酸発酵は、ジューサーでペースト状にした柿ペースト18mlに、MRS培地で前培養した乳酸菌培養液2mlを接種し、温度30℃で6日間、静置培養によって行った。
前記乳酸菌培養液の代わりに、滅菌水あるいはMRS培地を添加したものも、同様に培養した。
培養終了後、遠心分離とフィルターろ過によって、柿ペーストの乳酸発酵上清を得た。
得られた上清の抗酸化活性を以下の記載の方法で、DPPHラジカル消去能として測定した。
また、各上清試料のpHと糖や乳酸等の含有量を測定し、表2に示した。
【0027】
<抗酸化活性測定法>
試料溶液に、等量のDPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)溶液、MES緩衝液、20%エタノールを加え、室温で20分間反応させた後、520nmでの吸光度を測定し、その活性は、同様にして行った。
TroloxでDPPHラジカル捕捉活性の検量線を作成し、試料g当たりのラジカル捕捉活性を、Trolox当量(nmol/g)で表した。
【0028】
【表2】

なお、表中、NDは乳酸、酢酸が検出されず、もしくは夾雑物のために測定できなかったことを、エタノールの欄の「+」は有り、「−」は無しを示す。
【0029】
<酵素製剤との並行複発酵>
柿(甘柿:芙蓉)のペースト32g、4%酵素製剤溶液(セルラーゼ製剤:セルロシンAC40)4ml、乳酸菌aの培養液4mlを混合し、温度30℃で3日間嫌気培養を行った。
得られた培養液を遠心分離(10,000×g、60分)にかけ、不溶性成分の湿重量(T)を測定した。
同様にして、4%酵素製剤溶液の代わりに、脱イオン水4mlを用いたもの、および乳酸発酵を行わなかったものについて、比較を行った。
遠心分離後の上清については、還元糖量、全糖量、総フェノール量、抗酸化活性(β−カロテン退色法,DPPHラジカル消去能)を測定し、上記同様、4%酵素製剤溶液の代わりに脱イオン水4mlを用いたもの、および乳酸発酵を行わなかったものについての、比較を行った。
それらの結果を表3に示した。
【0030】
<抗酸化活性(β−カロテン退色法)測定方法>
抗酸化活性は、リノ−ル酸の酸化物がβ−カロテンを退色させる作用を利用したMillerらの方法に準じ、以下の方法で測定した。
試料を分注した分光光度計用試験管セルに、リノ−ル酸−β−カロテン溶液を加えて攪拌し、温度50℃の恒温槽で、20分間反応させた場合のβ−カロテンの退色度を470nmの吸光度によって求め、合成抗酸化剤ブチルヒドロキシアニソール(BHA)による吸光度の減少量を測定し、試料と同じ減少量を与えるBHAの濃度によって、試料の抗酸化活性を表した。
【0031】
【表3】

【0032】
<血液循環改善効果>
上記乳酸菌(a〜f)を用いた乳酸発酵物、および無菌培養物(W)、未発酵物(N)について、血液循環改善効果について、以下の方法で測定し、その結果を図1に示した。
【0033】
<血液循環改善効果測定方法>
3.8%クエン酸ソーダ溶液を含む採血管に採血した血液を、2500rpm×10分遠心分離して赤血球を沈殿させた後、洗浄し、HEPESを加え、6.0%赤血球浮遊液を調製した。
この6.0%赤血球浮遊液にHEPESを加え、温度37.0℃で予備インキュベートしたのち、AAPH溶液、AAPH溶液と試料を添加し、温度37.0℃で45分インキュベートした。
その後、測定するまで氷冷し、測定は、温度25.0℃で7分、再度インキュベートしてから行った。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明の柿の抗酸化活性増強法によれば、柿が本来有している抗酸化活性を、これまで未知であった、柿が有する血液循環改善効果を低下させることなく、その効果を非常に大きくすることができるため、健康食品産業はもちろん、さらには医薬業界でも広く利用される可能性の高いものである。
【符号の説明】
【0035】
なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿をペースト状にして乳酸発酵させること
を特徴とする柿の抗酸化活性機能増強法。
【請求項2】
前記乳酸発酵が、
植物由来の乳酸菌を用いて行われるものであること
を特徴とする請求項1に記載の柿の抗酸化活性機能増強法。
【請求項3】
前記植物が、
イチジク、ブドウ、イチゴ、オギ、イソトマ(花)およびカラー(花)のいずれかであること
を特徴とする請求項2に記載の柿の抗酸化活性機能増強法。
【請求項4】
前記乳酸発酵が、
植物組織崩壊酵素を併用して行われるものであること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の柿の抗酸化活性機能増強法。
【請求項5】
柿を素材とし、請求項1〜4の何れかに記載の増強法によって、増強された抗酸化活性機能が付与されていること
を特徴とする健康食品素材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−252726(P2010−252726A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108276(P2009−108276)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(591027927)福岡県醤油醸造協同組合 (11)
【出願人】(599035339)株式会社 レオロジー機能食品研究所 (16)
【Fターム(参考)】