柿ポリフェノールオリゴマー
【課題】経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高める柿ポリフェノールオリゴマーを提供することを目的にする。
【解決手段】柿タンニンから得られ、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%であってエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を含有する。
【解決手段】柿タンニンから得られ、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%であってエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を含有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柿タンニンから得られる柿ポリフェノールオリゴマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、少子高齢化社会の進展に伴って国民の健康指向が高まり、加齢によって加速する疾病や生活習慣病への予防を図るべく、お茶から得られたお茶カテキンのカテキン類や、リンゴ果実から得られたポリフェノール類が抗酸化食品として利用されている(例えば、特許文献1参照)
【0003】
ここで、お茶カテキンのカテキン類は、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECg)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)等であり、抗酸化活性、抗アレルギー作用や抗菌作用を有することから、お茶の原料粉より抽出してカテキン類を取得し、更に他の材料に加えて錠剤、顆粒剤や液剤等の状態の食品としてお茶のカテキン類を摂取可能にしている。
【0004】
又、ブドウ種子やリンゴ未熟果実から得られたポリフェノール類は、主としてエピカテキン(EC)が重合したプロアントシアニジンであり、お茶カテキンと同様に抗酸化活性を有すると共に、抗動脈硬化作用や発癌予防作用等の薬理活性を有するので、原料粉より抽出して、プロアントシアニジン等を含む種々のポリフェノール類を取得し、更に他の材料を加えて錠剤、顆粒剤や液剤等の状態の食品として当該ポリフェノールを摂取可能にしている。
【0005】
一方、他の例としては、柿タンニンから得られた縮合型ポリフェノール化合物を利用して動脈硬化の予防改善を為し得るものが考えられている(例えば、特許文献2参照)。又、植物中のプロアントシアニジンポリマーを生体の腸管から容易に吸収できる程度までに低分子化したプロシアニジンオリゴマーの製造方法が示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平10−75740号公報
【特許文献2】特開2003−231684号公報
【特許文献3】国際公開第2006/090830号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、お茶カテキンのカテキン類は大部分がモノマーであるため、カテキンが2〜数個重合したオリゴマーに比べて薬理活性が低く、経口摂取した場合に薬理活性を充分に得ることができないという問題があった。又、ブドウ種子のポリフェノール類は、平均重合度が7〜9とやや高いため、吸収性に劣り、経口摂取した場合に薬理活性を充分に得ることができないという問題があった。又、柿タンニンから得られた縮合型ポリフェノール化合物は、高分子のポリマーであるため、ブドウ種子等のポリフェノール類と同様に吸収性に劣り、経口摂取した場合に薬理活性を充分に利用することができないという問題があった。更に、生体吸収し易いプロアントシアニジンオリゴマーであっても、それを構成するカテキン組成によって薬理活性が大幅に変動するので、そのカテキン組成によっては期待される程度までオリゴマーの薬理活性を高めることができないという問題があった。
【0007】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高める柿ポリフェノールオリゴマーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、B環のピロガロール率が70%以上、ガロイル化率が40%以上となるように低分子化した柿ポリフェノールオリゴマーは吸収性を高めると共に薬理活性を向上させることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、柿タンニンから得られ、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%であってエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を含有することを特徴とする柿ポリフェノールオリゴマーに係るものである。
【0010】
本発明のエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体の構造は、式
【化1】
により表される新規プロデルフィニジントリガレート(1)である。
【0011】
又、本発明において、柿ポリフェノールオリゴマーは、二量体から五量体までのオリゴマーを主要成分としている。
【0012】
このように、本発明によれば、柿ポリフェノールオリゴマーは、エピガロカテキン、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートのカテキン類を主要構成成分とし、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%となるような割合でカテキンが重合した構造であり、且つ二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるので、高分子のポリマーと異なり、経口摂取した場合に吸収性の低下をきたすことなく、又、ピロガロール率やガロイル化率の低いオリゴマーや、モノマーよりも高い薬理活性を示し、結果的に疾患を改善する機能を増強することができる。
【0013】
又、本発明者らは、柿由来の柿ポリフェノールオリゴマーが転写因子NF−κBに対する強力な活性化阻害作用を有することを初めて明らかにした。すなわち、遺伝子発現制御に関与する転写因子の一つのであるNF−κBは、活性化されることによって、がん細胞が増殖したり、エイズウイルスが複製したり、リウマチが発症したり、或いは糖尿病や動脈硬化症へ関与したりすることが明らかになっているので、柿由来のポリフェノールオリゴマーが有するNF-κB活性化阻害機能により、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗糖尿病作用を付与できる。更にプロアントシアニジンを単に断片化し、オリゴマー化するだけでなく、そのカテキン組成につきエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)の比率を高めることによって、すなわちB環のピロガロール率が70%以上、ガロイル化率40%以上とすることによって、α―グルコシダーゼ及び/又はα―アミラーゼの消化酵素に対する阻害活性の高い柿ポリフェノールオリゴマーが得られることを初めて明らかにした。この消化酵素阻害活性により、優れた抗肥満作用や抗糖尿病作用を付与できる。
【0014】
又、お茶カテキンによる研究から、ピロガロール型のエピガロカテキン(EGC)やエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)は、エピカテキン(EC)に比べて水酸基の数が多く、抗酸化活性やラジカル消去活性が高いため、前者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーは、後者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーよりもより強力な抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用及び血圧上昇抑制作用を示すと考えられ、ガン、関節炎、動脈硬化症、高血圧症、慢性腎不全等の疾患の予防や症状の改善により有用である。
【0015】
一方、ガロイルエステル型のエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)は、エピカテキン(EC)に比べて糖分解酵素阻害活性、抗菌活性、抗ウイルス活性が高いため、前者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーは、後者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーよりもより強力な抗糖尿病作用、抗肥満作用、抗う蝕作用、抗歯周病作用を示すと考えられ、糖尿病、虫歯、歯周病等の疾患の予防や症状の改善により有用である。
【0016】
柿ポリフェノールオリゴマーは、カテキン類のうちエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を多く含むように調整される。エピガロカテキン−3−O−ガレートは、ブドウ種子やリンゴ果実由来のポリフェノールの構成成分であるエピカテキン(EC)に比べて高い薬理活性、すなわち強力な抗酸化活性、抗アレルギー活性、抗菌活性や糖分解酵素阻害活性を有しており、夫々の活性機能を介して、すなわち抗肥満作用、血圧上昇抑制作用、抗歯周病作用、抗う蝕作用等を介して疾患の予防や症状の改善に寄与することができる。
【0017】
又、柿ポリフェノールオリゴマーは、適度に重合した二量体から五量体までのオリゴマーを主要成分としており、且つカテキン組成中のエピガロカテキン−3−O−ガレートの比率を高めることによって、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ高い薬理活性を発揮し、結果的に疾患の予防や改善作用が飛躍的に向上する。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明の柿ポリフェノールオリゴマーによれば、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高めることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の実施の形態の柿ポリフェノールオリゴマーは、渋柿の未熟果実や生皮中に含まれる柿タンニンを、低分子化反応剤としてのエピガロカテキン−3−O−ガレート含量40%以上のお茶カテキン又はエピガロカテキン−3−O−ガレートの存在下で酸性下で断片化した後、吸着樹脂に吸着させ、充分水洗してからエタノール水溶液で溶出し、ついで減圧濃縮した濃縮液を凍結乾燥又は噴霧乾燥することにより粉末として得られる。得られた柿ポリフェノールオリゴマーは、二量体から五量体までのオリゴマーを主要成分としており、組成的には、ピロガロール率が70%以上90%以下、ガロイル化率が40%以上70%以下となるようにエピガロカテキン−3−O−ガレート、エピガロカテキン、エピカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートのカテキン類が重合したものである。
【実施例1】
【0021】
ここで、本発明の柿ポリフェノールオリゴマーの優れた機能性を説明するため、ポリフェノールオリゴマーの原料であるプロアントシアニジンとして渋柿未熟果由来のポリフェノールとブドウ種子由来ポリフェノール末を用い、それらのポリフェノールのそれぞれに低分子化反応剤としてエピガロカテキン−3−O−ガレート(サンフェノンEGCg、太陽化学(株)製、EGCg含量 92.8%)、お茶カテキン(サンフェノンBG-3、太陽化学(株)製、ポリフェノール含量 89.8%、総カテキン含量 78.9%、EGCg含量 44.2%)又はアセンヤクの3種をそれぞれ反応させることによってカテキン組成の異なる、すなわちB環のピロガロール率とガロイル化率の異なるオリゴマーを調製した。
【0022】
渋柿未熟果を用いて、低分子化反応と精製は以下のように行った。渋柿未熟果500gを水1000mlとともにワーリングブレンダーで粉砕し、サンフェノンBG-3 20gとクエン酸40gを加え、全量2000mlとし、90〜95℃で3時間煮沸した。水冷後、セライト層を用いて反応液を濾過し、その濾液をスチレンージビニルベンゼン樹脂(三菱化学社製セパビーズSP825)のカラム(内径10×13cm、約1000ml)に負荷し、500mlの水で洗浄した。ついで10%エタノール500ml、20%エタノール500ml、60%エタノール600mlで溶出し、ポリフェノール画分を減圧濃縮、凍結乾燥してポリフェノールオリゴマー粗製粉末(P−1と略す)27.2gを得た。この粉末(P−1)8.0gを30mlの95%エタノールに溶解し、この溶液をセファデックスLH20ゲルを180ml充填したカラム(内径3.8×16cm)に負荷し、ついで1000mlのエタノールを流し、ポリフェノール単量体画分を除いた。さらに同カラムに含水アセトン(アセトン:水=3:2)600mlを通液して得たポリフェノールオリゴマーの溶出画分を減圧濃縮、凍結乾燥して精製粉末(P−1Fと略す)5.8gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにサンフェノンEGCg20gを用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(P−2と略す)26.6g、精製粉末(P−2Fと略す)5.7gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにアセンヤク30g用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(P−3と略す)25.4g、精製粉末(P−3Fと略す)5.3gを得た。
【0023】
ブドウ種子由来ポリフェノール末(グラヴィノール、キッコーマン(株)製、プロントシアニジン含量46%)を用いた例を以下に記す。低分子化反応と精製は次のように行った。グラヴィノール40g、サンフェノンBG-3 20gを水1Lに加え、次いでクエン酸20gを加えて90〜95℃で3時間煮沸した。以下先の渋柿未熟果由来ポリフェノールの場合と同様に操作して粗製粉末(G−1と略す)32.0g、精製粉末(G−1Fと略す)4.5gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにサンフェノンEGCg20gを用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(G−2と略す)31.2g、精製粉末(G−2Fと略す)4.3gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにアセンヤク30g用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(G−3と略す)30.4g、精製粉末(G−3Fと略す)5.0gを得た。
【0024】
以上のようにして得たPとPFシリーズの6品目、GとGFシリーズの6品目、合計12品目のポリフェノールオリゴマーにつき、総ポリフェノール含量、ピロガロール率、ガロイル化率、平均重合度を[表1]に一覧した。
【0025】
総ポリフェノール含量は、フォリン−シオカルト法により求めた。
【0026】
フラバン−3−オールB環ピロガロール率、ガロイル化率、平均重合度は、ポリフェノールオリゴマーをメルカプトエタノール共存下で酸分解し、高速液体クロマトグラフィにより構成カテキンを分析し求めた。
【0027】
(1)各試料の平均重合度の算出
試料濃度25mg/mlに調製した検体300μlをチオール試薬(2−メルカプトエタノール(5%)と塩酸(0.1%)を含む60%エタノール)1.2mlと混合し,70℃で7時間加熱後、室温5時間放置した。反応液をそのまま高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。条件は以下の通りである。カラム:Cosmosil 5C18-AR II (ナカライテスク(株)) (250 × 4.6 mm i.d.)、 溶媒:4→30%(39分)−30→75%(15分) アセトニトリル−50mMリン酸、 流速:0.8ml/min、検出:JASCOフォトダイオードアレイMD−910検出器。試料中のカテキン構成ユニットの量はカテキン単量体(C、EC、EGC、ECg、EGCg)及びカテキン−メルカプトエタノール(ME)誘導体(C−ME、EC−ME、EGC−ME、ECg−ME、EGCg−ME)の274nmにおけるピーク面積から定量した。検量線は茶カテキン標準品を用いて作成した。平均重合度は下記の計算式より算出した。
【0028】
[数1]
平均重合度=(全カテキン-ME誘導体量/全カテキン単量体量)+1
上記式において、全カテキン-ME誘導体量及び全カテキン単量体量はnmol/gを表す。
【0029】
(2)各試料のフラバン−3−オールB環ピロガロール率(B環ピロガロール率)の算出
ピロガロール率は、(1)で得られたカテキン単量体(C、EC、EGC、ECg、EGCg)及びカテキン−ME誘導体(C−ME、EC−ME、EGC−ME、ECg−ME、EGCg−ME)量を用いて下記の計算式より算出した。
【0030】
[数2]
B環ピロガロール率=100×{(EGC)+(EGCg)+(EGC−ME)+(EGCg−ME)}/{(全カテキン単量体量)+(全カテキン-ME誘導体量)}
上記式において、全カテキン-ME誘導体量及び全カテキン単量体量はnmol/gを表す。
【0031】
(3)各試料のガロイル化率の算出
ガロイル化率は、(1)で得られたカテキン単量体(C、EC、EGC、ECg、EGCg)及びカテキン−ME誘導体(C−ME、EC−ME、EGC−ME、ECg−ME、EGCg−ME)量を用いて下記の計算式より算出した。
【0032】
[数3]
ガロイル化率=100×{(ECg)+(EGCg)+(ECg−ME)+(EGCg−ME)}/{(全カテキン単量体量)+(全カテキン-ME誘導体量)}
上記式において、全カテキン-ME誘導体量及び全カテキン単量体量はnmol/gを表す。
【0033】
【表1】
【0034】
ブドウ種子由来ポリフェノールとアセンヤクより調製したオリゴマーのG−3Fのピロガロール率が0%であることは、ブドウ種子由来ポリフェノール中には、エピガロカテキンやエピガロカテキン−3−O−ガレートが殆ど含まれていないこと示している。一方渋柿由来ポリフェノールとアセンヤクより調製したP−3Fのピロガロール率が36.1%
であることは、渋柿由来ポリフェノールが主としてエピガロカテキンやエピガロカテキン−3−O−ガレートから構成されていることを示している。
【実施例2】
【0035】
本実施例では、実施例1で得た柿ポリフェノールオリゴマーとそれをタンナーゼ処理したものをMALDI-TOF質量分析した。
【0036】
柿ポリフェノールオリゴマー20mgを水2mlに溶かし,Aspergilus由来タンナーゼ2mgを加えて25℃で12時間攪拌し、反応液はそのままセファデックスLH−20(内径1cm×10cm)に付して水で洗浄し、ポリフェノールは40%及び60%MeOH,50%アセトンを順次流してgallic acid(4mg)とプロアントシアニジン混合物(16mg)を得た。柿ポリフェノールオリゴマーとそれをタンナーゼ処理したものをMALDI-TOF質量分析した。測定はアプライドバイオシステム社製Voyager-DE Pro spectrometerで,試料濃度4mg/ml 50%アセトン,マトリックス2,5−ジヒドロキシ安息香酸で行った。その結果柿ポリフェノールオリゴマーには二量体〜七量体の存在が確認された。
【実施例3】
【0037】
これまでその存在が同定、確認されていないエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を本発明の柿ポリフェノールオリゴマー中に確認した。すなわち、柿ポリフェノールオリゴマー5.0gを、Sephadex LH-20カラム(3cm×22cm)にエタノールを溶出溶媒として付し、ついで溶出溶媒をエタノール−水−アセトン(8:1:1→70:15:15→60:20:20)に順次変更して三量体フラクションを得た。三量体フラクションはさらに、MCI-gel CHP20Pカラムクロマト(20−50%メタノール),Chromatorex ODSカラムクロマト(10−40%メタノール),Toyopearl HW40F(50−80%メタノール)で順次分離精製して三量体T1を10mg得た。柿ポリフェノールオリゴマーの逆相HPLC分析において三量体T1は24.1分に検出された。HPLCの条件はカラム:Cosmosil 5C18 ARII (4.6×250mm)、カラム温度:35℃、移動相:A; 50mM リン酸、B; CH3CN、B 4%から30%(39分間)、30%から75%(15分間)、流速:0.8ml / min、検出:フォトダイオードアレイ検出(Max absorbance)である。
【0038】
三量体T1は褐色無晶形粉末で、塩化鉄(III)試薬で暗紫色,バニリン−塩酸試薬で橙赤色を呈し、プロアントシアニジンであることが確認された。1H-NMRスペクトルには7ppm付近に3つのガロイル基に由来するシグナル、6.4〜6.7ppmに3個のピロガロール型B環水素のシグナル、6.0ppmにはA環6,8位の水素シグナル、4.85〜5.55ppmにはガロイル基が結合したカテキンC環2,3,4位のシグナル、3.0ppm付近には末端カテキン4位のメチレンシグナルが観察された。
【0039】
13C-NMRスペクトルではC環のシグナルとして26ppmに下端ユニットのC-4"メチレン炭素,34ppmにC-4及びC-4'炭素,69及び73ppmにC-3,3',3"炭素,76,76.5,78ppmにC-2, 2',2"炭素が認められた。A環は、96〜98ppmにC-6,8,6',6",99〜120ppmにC-4a,4a',4a",102ppmにC-8',8",154−158ppmにC-5,7,8a,2',7',8a',5",7",8a"由来のシグナルが観察された。
【0040】
3個のピロガロール型B環由来のシグナルは、107ppmにC-2, 6が、130.5ppmにC-1が、132.5ppmにC-4が認められ、3個のガロイル基のシグナルは、110ppmにC-2,6,121.5ppmにC-1,139ppmにC-4,168ppmにエステルカルボニル炭素が認められた。B環の3,5位とガロイル基の3,5位のシグナルは重なって145.5ppmに観察された。これらの水素及び炭素シグナルは非常にブロードであり、これはプロアントシアニジンの各カテキンユニット間の結合に回転障害がある場合に一般的に観察される特徴であった。
【0041】
MALDI-TOF-質量分析ではm/z 1393にM+Na擬似分子イオンピークが観察され、このことはT1がEGCgの三量体であることを示していた。T1をタンナーゼで加水分解するとgallic acidとT1-tanが得られた。T1-tanの1H-NMRスペクトルはエピカテキン三量体で既知プロシアニジンであるプロシアニジンC-1のものと非常によく類似しており、B環のシグナルがすべてシングレットでピロガロール型であることを示す点が異なる他は、C環のシグナルのケミカルシフトとカップリングパターンは良く類似していた。このことはT1が、EGCg3分子がC-4とC-8の間で結合したプロデルフィニジントリガレートであることを示していた。
【実施例4】
【0042】
本実施例では、実施例1で得たPとPFシリーズの6品目、GとGFシリーズの6品目、合計12品目のポリフェノールオリゴマー及びEGCg、5種のポリフェノールにつきα―グルコシダーゼ、及びα―アミラーゼの消化酵素に対する阻害活性を測定した。
【0043】
(1)α−グルコシダーゼ阻害活性の測定法
上記物質のα−グルコシダーゼ阻害活性を以下の方法で測定した。
【0044】
1)試料溶液
乾燥した各試料50mgに水20mlを加え、超音波処理と振盪を行い、一定量を分取し、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈し、180μg/mlの試料溶液とした。
2)α−グルコシダーゼ阻害活性の測定法
50mMスクロース溶液(pH7.0の0.1Mリン酸緩衝液)400μl、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した試料溶液100μlを混合し、3分間37℃でプレインキュベートを行った。これに緩衝液で希釈したα−グルコシダーゼ溶液(東洋紡製α−グルコシダーゼ(II)100μl を加え、37℃で30分間反応後、氷冷下1Mトリス緩衝液600μlを添加し、反応を停止した。反応液40μlを分取し、生成したグルコース量はグルコースCII-テストワコー(和光純薬製)を用いて505nmの吸光度を測定した(検体)。対照として、試料溶液に換えて、0.1Mリン酸緩衝液を同量加えた場合の吸光度(対照A)、及び酵素溶液に換えて、0.1Mリン酸緩衝液を同量加えた場合の吸光度(対照B)を同時に測定し、酵素阻害率を下記の計算式から算出した。
【0045】
[数4]
酵素阻害率(%)=100−100×(検体−対照2)/(対照1−対照2)
【0046】
(2)α−アミラーゼ活性の測定
(1)と同様各試料物質のα−アミラーゼ阻害活性を以下の方法で測定した。
【0047】
1)試料溶液
乾燥した各試料50mgに水20mlを加え、超音波処理と振盪を行い、一定量を分取し、50mM酢酸緩衝液(pH6.5)で希釈し、50μg/ml及び15μg/mlの試料溶液とした。
2)α−アミラーゼ阻害活性の測定法
0.5重量%可溶性デンプン200μl、20mMCaCl2、100mMNaClを含む50mM酢酸緩衝液(pH6.5)で希釈した試料溶液100μl及び緩衝液100μlを混合し、3分間37℃でプレインキュベートを行った。これに緩衝液で希釈したα−アミラーゼ溶液(ブタ膵臓由来のα−アミラーゼ(Sigma社製のSigma A6255))100μl(約0.6U/ml)を加え、37℃で15分間反応後、氷冷下0.1M塩酸500μlを添加し、反応を停止した。反応液250μlを分取し、0.2mMヨウ素液3mlを加え、660nm波長での吸光度を測定した。対照として、酵素を入れないもの(対照1)、及び酵素を入れたもの(対照2)を同時に測定し、酵素阻害率は下記の計算式から算出した。
【0048】
[数5]
酵素阻害率(%)=(検体−対照2)÷(対照1−対照2)×100
【0049】
市販のポリフェノール類やエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)との比較も含め、各消化酵素に対するポリフェノールオリゴマーの阻害活性を測定した結果を図1〜図4に示す。
【0050】
図1において、それぞれの低分子化反応剤ごとに柿とブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−グルコシダーゼ阻害活性を比較対比すると、明らかに柿由来ポリフェノールオリゴマーの阻害活性が高かった。
【0051】
図2において、市販のポリフェノール類、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、ライチ果実由来ポリフェノールオリゴマー及びブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−グルコシダーゼ阻害活性を比較した結果、柿ポリフェノールオリゴマーの阻害活性が最も高かった。
【0052】
図3において、それぞれの低分子化反応剤ごとに、柿とブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−アミラーゼ阻害活性を比較対比すると、柿由来ポリフェノールオリゴマーの阻害活性がやや高かった。
【0053】
図4において、市販のポリフェノール類、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、ライチ果実由来ポリフェノールオリゴマー及びブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−アミラーゼ阻害活性を比較した結果、柿ポリフェノールオリゴマーの阻害活性が最も高かった。
【0054】
柿及びブドウ種子由来のモノマーフリーのポリフェノールオリゴマー(P−1F、P−2F、P−3F、G−1F、G−2F、G−3F)につき、それらのB環ピロガロール率、ガロイル化率及び重合度と各消化酵素に対する阻害活性との間に相関性があるかどうか
調べた。その結果、図5から明らかなように、α−アミラーゼ活性は柿ポリフェノールオリゴマーの重合度が大きいほど強く抑制され、阻害率と平均重合度との相関係数は0.86であった。α−グルコシダーゼ活性は図6及び図7のように柿ポリフェノールオリゴマーのガロイル化率、ピロガロール率が高い程強く抑制され、阻害率とピロガロール率との相関係数は0.85、ガロイル化率との相関係数は0.94であり、非常に高い相関性を有していた。
【0055】
以下に、柿ポリフェノールオリゴマーの作用を説明しえるよう、柿ポリフェノールオリゴマーの実施例について抗酸化活性と転写因子NF−κB活性化阻害活性を中心に説明する。
【実施例5】
【0056】
実施例1で得た本発明の柿ポリフェノールオリゴマー(P−2)の抗酸化活性を細胞生存率で調べた。以下の実施例においても特に指定しない限りP−2の柿ポリフェノールオリゴマーを使用した。本発明の柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))の抗酸化力と、低分子化処理前の高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))の抗酸化力とを細胞生存率で比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液(DMEM/F‐12培養液)200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールを添加して24時間培養し、細胞生存率をMTT法で測定した。
【0057】
その結果、図8に示す如く、高濃度の30mMグルコース処理では、5mMグルコース処理群に比べて細胞生存率が17%減少するという細胞毒性を示したが、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群では夫々細胞生存率が回復した。又、10μg/mlの柿ポリフェノール(L)では、5mMグルコース処理群に近いレベルまで細胞生存率が回復した。
【実施例6】
【0058】
実施例6では、ブタ腎上皮細胞(LLC-PK1)の形態学的検討を行ったもので、具体的には2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液を6穴プレートに2ml播種し、以下実施例5と同様の方法で培養し、顕微鏡下で撮影した。
【0059】
その結果、高濃度の30mMグルコース処理によって細胞は形態学的変化をきたすが、10μg/mlの柿ポリフェノール(L)では、高濃度グルコースによる細胞の形態学的変化を抑制した。
【実施例7】
【0060】
実施例7は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))、及び比較試料について、活性酸素種の一種である一酸化窒素(NO)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、LLC‐PK1細胞の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料を添加して24時間培養後、グリース試薬(0.1% N(-1-naphtyl)ethylendiamine, 1% sulfanilamide,2.5% H3PO4)を加え、室温で5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定し、一酸化窒素(NO)濃度に換算した。なお、比較試料1は、カロチノイドの中でもっとも抗酸化が強いといわれるアスタキサンチン、比較試料2は、プロアントシアニジンを高濃度含むブドウ種子の抽出物(Gravinol(登録商標))、比較試料3は、フランス沿海地域で取れる松の樹皮から得られるポリフェノール類(Pycnogenol(登録商標))である。
【0061】
その結果、図9に示す如く、一酸化窒素(NO)の濃度は30mMグルコース処理によって、5mMグルコース処理群よりも2.6倍上昇し、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群は一酸化窒素(NO)の濃度を低下させた。ここで、柿ポリフェノール(L)は、柿ポリフェノール(H)、比較試料1、比較試料2、比較試料3に比べて一酸化窒素(NO)の濃度を一層低下させた。
【実施例8】
【0062】
実施例8は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))及び比較試料について、活性酸素種のスーパーオキシド(O2−)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料とを添加して24時間培養し、反応液(0.125mM EDTA,62μM NBT,98μM NADH含有50mMリン酸緩衝液)と33μMのPMSを加えて5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定し、スーパーオキシド(O2−)濃度に換算した。なお、比較試料1、比較試料2、比較試料3は、実施例7と同様である。
【0063】
その結果、図10に示す如く、30mMグルコース処理によるスーパーオキシド(O2−)の濃度は、5mMグルコース処理群に比べて1.4倍上昇し、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群はスーパーオキシド(O2−)の濃度を低下させた。ここで、10μg/mlの低分子化柿ポリフェノール(L)は、柿ポリフェノール(H)、比較試料1、比較試料2、比較試料3に比べてスーパーオキシド(O2−)の濃度を一層低下させ、その濃度は5mMグルコース処理のレベルまで戻った。
【実施例9】
【0064】
実施例9は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))と、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))について、活性酸素種のペルオキシナイトライト(ONOO−)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度で懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールとを添加して24時間培養し、ジヒドロローダミン123(dihydrorhodamine 123)を含む緩衝液を加えて37℃で5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで500nmにおける吸光度で測定し、ペルオキシナイトライト(ONOO−)濃度に換算した。
【0065】
その結果、図11に示す如く、30mMグルコース処理によるペルオキシナイトライト(ONOO−)の濃度は、5mMグルコース処理群よりも約75%上昇した。これに対し、高分子の柿ポリフェノール(H)処理群では顕著な変化を認めなかったが、柿ポリフェノール(L)処理群では、高濃度グルコースによって上昇したペルオキシナイトライト(ONOO−)を濃度依存的に低下させた。
【実施例10】
【0066】
実施例10は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))と、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))及び比較試料について、WangとJosephの方法に従い、細胞内の活性酸素量を定量して酸化ストレス状態を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度で懸濁した液200μLを96穴プレートに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料とを添加して24時間培養後、リン酸緩衝液で洗浄し、100μMの非蛍光物質DCFH−DA(2',7'-dichlorofluorescein diacetate)を100μL加えて15分間培養した。その後、96穴プレートから培養液を取り除いてDMEM/F-12培養液を加え、1時間培養した。この96穴プレートをマイクロプレートリーダ−(励起波長:485nm、蛍光波長:535nm)で蛍光物質DCF(2',7'-dichlorofluorescein)の蛍光強度を測定した。なお、この測定は、非蛍光物質DCFH−DAが活性酸素存在下で強い蛍光を示す蛍光物質DCFに変換されるという原理を応用している。ここで、なお、比較試料1は、カロチノイドの中でもっとも抗酸化が強いといわれるアスタキサンチン、比較試料2は、プロアントシアニジンを高濃度含むブドウ種子の抽出物(Gravinol(登録商標))、比較試料3は、フランス沿海地域で取れる松の樹皮から得られるポリフェノール類(Pycnogenol(登録商標))である。
【0067】
その結果、図12に示す如く、30mMグルコース処理細胞における細胞内活性酸素量は、5mMグルコース処理細胞と比較して約1.6倍に増加していたが、柿ポリフェノール処理細胞では濃度依存的に低下していた。特に柿ポリフェノール(L)を10μg/ml添加した群において、細胞内活性酸素量の低下が顕著であった。
【実施例11】
【0068】
本実施例は、高濃度グルコースにより高血糖状態に曝されたブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)におけるiNOSとCOX-2の発現に及ぼす柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))及び高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))の影響をウェスタンブロッティング解析した。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を懸濁した細胞懸濁液を10mlカルチャーディッシュに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールを添加して24時間培養した。次に、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を10mlカルチャーディッシュの底面から剥離して回収後、抽出緩衝液[25mM Tris-HCl (pH7.5)、250mM NaCl、5mM EDTA、1% nonidet P-40、1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、1mM DTT、50μLプロテアーゼインヒビターカクテル]を加え、細胞内の蛋白質を抽出した。抽出した蛋白質量はBio-Rad protein assay kitで測定した。次いで30μgの蛋白質を電気泳動用緩衝液に溶解させ、常法にてSDS−PAGEを行った後、ニトロセルロース膜にトランスファーし、当該ニトロセルロース膜について免疫ブロット解析(immunoblot analysis)を行った。免疫ブロット解析では、anti−NOS2(iNOS)モノクローナ抗体、anti−COX-2モノクローナル抗体、蛋白質発現量の標準マーカーとしてのanti−COX-1モノクローナル抗体、及びペルオキシダーゼ標準化2次抗体(peroxidase-labeled secondary antibody)を用いた。なお、上記免疫ブロット解析は、ニトロセルロース膜をECL(enhanced chemiluminescence)法にて撮影することにより実施した。
【0069】
iNOSによるNO産生はマクロファージ、肝細胞、好中球、上皮細胞等の種々の細胞で見られるが、腎上皮細胞においても図13に示す如く、高濃度グルコース処理によってiNOSとCOX-2が多量に発現していた。iNOSは30mMグルコース処理群で過剰発現していたが、柿ポリフェノール(L)で処理した群では、発現量が著しく低下した。一方高分子の柿ポリフェノール(H)で処理した群では柿ポリフェノール(L)処理群よりもその作用は弱かった。NOとプロスタグランジンは、いずれも多くの慢性疾患の病因であることが知られているが、プロスタグランジンの合成過程を触媒するCOXはアラキドン酸をプロスタグランジンに変換する酵素である。COX-2は炎症に関わるプロスタグランジンの生成に関与しており、COX-1はほとんど全ての臓器に恒常的に発現している蛋白質であって、本実験では蛋白質発現量の標準マーカーとして用いた。図13では、COX-2がiNOSと同様に、高濃度グルコース処理によって過剰発現していたが、低分子と高分子の柿ポリフェノール処理群では、いずれもCOX−2の発現量を著しく低下させていた。
【実施例12】
【0070】
本実施例は、1型糖尿病モデルとしてSTZ(ストレプトゾトシン)誘発糖尿病ラットによる柿ポリフェノールオリゴマーの効果を測定したものである。供試材料として、柿ポリフェノールオリゴマー、柿ポリフェノールポリマーを用いて比較した。
Wistar系ラット(雄)に対し、ストレプトゾトシン(STZ)を体重kg当たり50mgとなるように腹腔内投与して作製された。実験開始時に血糖値をもとに群分けし、糖尿病ラットの各群には、以下に示す試料物質を投与した。
【0071】
1.正常群(以下、Normal群)(n=5):通常飼料、水を与えた。
2.糖尿病対照群(以下、Control群)(n=7):通常飼料、水を与えた。
3.柿ポリフェノールポリマー群(以下、Polymer群)(n=7):柿ポリフェノールポリマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
4.柿ポリフェノールオリゴマー群(以下、Oligomer群)(n=7):柿ポリフェノールオリゴマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
【0072】
実験期間中、体重、摂餌量、摂水量、尿量、尿タンパク量を測定し、試料物質投与20日後に屠殺し、血液採取及び臓器摘出を行い、血清中のグルコース(血糖値)、糖化タンパク、TBA反応物質、総タンパク、アルブミン、及び尿素窒素(UN)量を測定した。又、腎重量、腎臓中のROS生成、AGEs、TBA反応物質量及び腎臓における各種タンパク質(NF−κB、IκB−α、iNOS、COX−2、Bcl−2,Bax)の発現量を測定した。結果を図14〜図16に示した。
【0073】
その結果、糖尿病で上昇した血糖値と血清糖化タンパク、脂質過酸化レベル(TBA反応物質)はOligomer、Polymer両群で低下していた。血清総蛋白、アルブミン、尿素窒素レベルも改善していたが、このような作用は、Oligomer群の方が強かった。一方、糖尿病で認められた腎組織中のROS、AGEs及び脂質過酸化の増加は、Oligomer群、Polymer群で低下し、特に、脂質過酸化はOligomer群で正常群レベルにまで低下していた。次に、腎組織中のタンパク発現量を解析した結果、糖尿病モデル(Control群)で著しく発現したNF-κBは、両投与群で有意に低下し、Polymer群よりもOligomer群で顕著に抑制していた。炎症反応に関与するタンパク質のiNOS、COX−2は糖尿病で発現が上昇していたが、Polymer群よりもOligomer群で顕著に低下していた。以上の結果から、柿ポリフェノールは1型糖尿病を改善することが明らかとなり、Oligomer群がPolymer群より強い作用を示すことが示された。
【実施例13】
【0074】
本実施例は、レプチン受容体を欠損した2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウス (C57BL/Ksj-db/db)を使用し、評価したものである。糖尿病マウスの各群には、以下に示す試料物質を投与した。
【0075】
1.非糖尿病マウス群(以下、+/+群)(n=8):通常飼料、水を与えた。
2.糖尿病対照群(以下、Control群)(n=13):通常飼料、水を与えた。
3.柿ポリフェノールポリマー群(以下、Polymer群)(n=13):柿ポリフェノールポリマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
4.柿ポリフェノールオリゴマー群(以下、Polymer群)(n=13):柿ポリフェノールオリゴマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
【0076】
実験期間中、体重、摂餌量、摂水量の推移を測定し、8週齡、10週齡及び12週齡の時点で採血を行い、血清中のグルコース、総コレステロール量を測定した。試料物質を6週間投与後、14週齡の時点に屠殺し、血液採取及び臓器摘出を行い、血清中のグルコース、糖化タンパク、TBA反応物質、尿素窒素(UN)、トリグリセリド、総コレステロール、及び遊離脂肪酸量を測定した。又、肝臓中のトリグリセリド、総コレステロール量、TBA反応物質量の測定及び、肝臓核内転写因子(SREBP-1、SREBP-2、PPARα、NF-κB)の発現量の測定結果を図17〜図20に示した。
【0077】
その結果、db/dbマウスの6週目の血糖値(Control群)は正常群より著しく上昇していたが、Oligomer群、Polymer群で低下傾向を示した。糖化タンパクもdb/dbマウスで正常マウスより著しく上昇していたが、Oligomer群、Polymer群では低下傾向にあった。又、血清トリグリセリド、総コレステロール、遊離脂肪酸はOligomer群、Polymer群では有意に低下していた 。
肝組織中のトリグリセリド、総コレステロール、脂質過酸化はdb/dbマウスで著しく上昇していたが、Oligomer群でいずれの脂質も有意に低下し、脂質過酸化はほぼ正常群レベルにまで低下した。肝臓核内転写因子の発現量を解析した結果、糖尿病状態で発現量が増加したSREBP-1、SREBP-2、NF-κBはPolymer群で低下傾向にあるが、Oligomer群では有意に低下し、特にNF-κBについては正常群レベルにまで低下した。糖尿病状態で発現量が減少したPPARαはOligomer群で増加傾向を示した。
【0078】
従って実施例5から実施例13までの結果により次のことが云える。すなわち、腎上皮細胞に高濃度グルコースによる酸化ストレスを与えたところ、一酸化窒素(NO)、スーパーオキシド(O2−)、ペルオキシナイトライト(ONOO−)等の活性酸素種(ROS)が増加して、転写因子NF−κBの核への移行を引き起こし、iNOS、COX-2の発現量が著しく増加していた。又、細胞生存率の低下や形態学的変化を引き起こし、細胞毒性を呈していた。これに対し、柿ポリフェノールは、活性酸素の生成を抑制し、転写因子NF−κBの核内への移行(活性化)を抑えてiNOS、COX-2の発現を抑制することによって、結果的に高血糖状態から派生する酸化ストレスシグナルを抑制していた。更に、柿ポリフェノールオリゴマーは、高分子の柿ポリフェノールよりその作用が強いことを明らかにした。
【0079】
又、1型糖尿病モデルに対して柿ポリフェノールオリゴマーは、高分子柿ポリフェノールよりも血糖値、血清糖化蛋白、脂質過酸化レベルを強く低下させ、腎組織中のタンパクの発現量(NF-κB、iNOS、COX−2)を顕著に抑制した。インスリン抵抗性を示す2型糖尿病モデルに対しても肝組織中のトリグリセリド、総コレステロール及び脂質過酸化を低下させ、糖尿病に起因する疾患を改善することが示された。
【0080】
以上のことから、本発明の実施例によれば、柿タンニンから得られた柿ポリフェノールオリゴマーは、エピガロカテキン、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートのカテキン類を主要構成成分とし、B環のピロガロール率が70%以上90%以下、ガロイル化率が40%以上70%以下となるような割合でカテキンが重合した構造であり、且つ二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるので、高分子のポリマーと異なり、経口摂取した場合に吸収性の低下をきたすことなく、又、ピロガロール率やガロイル化率の低いオリゴマーや、モノマーよりも高い薬理活性を示し、結果的に疾患の改善作用が飛躍的に向上する。当然のことながらモノマーであるお茶カテキンと比較して、オリゴマーである本発明の柿ポリフェノールオリゴマーの薬理活性は飛躍的に向上する。
【0081】
ここで、B環のピロガロール率が70%より低い場合には、図6に示す如くα―グルコシダーゼ活性阻害率が約60%未満になって活性がやや低くなるので好ましくなく、一方B環のピロガロール率が90%以上にするには、高価なエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を大過剰に使用しなければならないためコストが上昇すると共に、オリゴマーの重合度がやや低下することにより薬理活性が低下するという問題がある。又、ガロイル化率が40%より低い場合には、図7に示す如くα―グルコシダーゼ活性阻害率が約50%未満になり、B環ピロガロール率と同様に活性が低下する。一方、ガロイル化率が70%に高める場合には、先と同様高価なエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を大過剰に使用しなければならないためコストが上昇すると共に、オリゴマーの重合度がやや低下することにより薬理活性が低下するという問題がある。
【0082】
又、柿ポリフェノールオリゴマーは、プロアントシアニジンを単に断片化し、オリゴマー化するだけでなく、そのカテキン組成につきエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)の比率を高めることにより、α―グルコシダーゼ及び/又はα―アミラーゼに対してエピガロカテキン−3−O−ガレートのみの場合よりも強い阻害活性を有することができる。
【0083】
更に、柿ポリフェノールとリンゴ未熟果実ポリフェノールの夫々のオリゴマーを比較した場合にも、柿ポリフェノールが、エピカテキンに比較してエピガロカテキン−3−O−ガレートやエピガロカテキンを多く含む重合体であるのに対し、リンゴ未熟果実ポリフェノールのオリゴマーは、薬理活性の低いエピカテキンを主体とする重合体であるため、必然的にリンゴ未熟果実ポリフェノールのオリゴマーに比べると柿ポリフェノールオリゴマーの薬理活性は高く、各種の疾患の症状改善作用も高い。
【0084】
なお、お茶カテキンのカテキン類を化学的に重合させた場合、プロアントシアニジン以外の複雑な構造の重合体が同時に生成するので、望ましい薬理活性をもったオリゴマーを得ることは極めて困難であり、又、製造コストも極めて高いものとなるので、実用的でない。
【0085】
又、渋柿の摘果した未熟果実や生皮等の廃棄物から柿タンニンは得られるので、廃棄物の利用によって環境への影響を改善することができる。
【0086】
柿ポリフェノールオリゴマーは、カテキン類のうちエピガロカテキン−3−O−ガレートやエピガロカテキンを多く含むが、これらのカテキンは、ブドウ種子やリンゴ未熟果実由来のポリフェノールの主成分であるエピカテキンに比べて高い薬理活性、すなわち強力な抗酸化活性と転写因子NF−κBの活性化阻害活性、及び高い糖分解酵素阻害作用を有しており、それらの機能を介して各種の疾患を改善することができる。
【0087】
柿ポリフェノールオリゴマーは、モノマーでなく且つ高分子のポリマーでもなく、適度に重合した二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるため、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ高い薬理活性を発揮し、各種の疾患の改善作用が飛躍的に向上する。ここで、七量体以上の構造にすると、高分子のポリマーと同様に吸収性が悪化する。又、モノマーの場合は、薬理活性が低下する。
【0088】
又、柿ポリフェノールオリゴマーによる疾患を改善し得る作用は、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用、血圧上昇抑制作用、抗う蝕作用及び抗歯周病作用であるので、各種の疾患に対して良好な改善作用を示すことができる。
【0089】
尚、本発明の柿ポリフェノールオリゴマーは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、どのような食品、飲料、錠剤、顆粒形状で摂取しても良いこと、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例4において、柿及びブドウ種子由来ポリフェノールオリゴマーのα―グルコシダーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図2】実施例4において、各種ポリフェノール類のα―グルコシダーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図3】実施例4において、柿及びブドウ種子由来ポリフェノールオリゴマーのα―アミラーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図4】実施例4において、各種ポリフェノール類のα―アミラーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図5】実施例4において、ポリフェノールオリゴマーの重合度とα―アミラーゼ阻害活性との相関性を示したグラフである。
【図6】実施例4において、ポリフェノールオリゴマーのB環ピロガロール率とα―グルコシダーゼ阻害活性との相関性を示したグラフである。
【図7】実施例4において、ポリフェノールオリゴマーのガロイル化率とα―グルコシダーゼ阻害活性との相関性を示したグラフである。
【図8】実施例5において柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールの抗酸化力を細胞生存率で比較したグラフである。
【図9】実施例7において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、一酸化窒素(NO)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図10】実施例8において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、スーパーオキシド(O2−)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図11】実施例9において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、ペルオキシナイトライト(ONOO−)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図12】実施例10において、柿ポリフェノールオリゴマー、高分子の柿ポリフェノール及び比較試料について、細胞内の活性酸素量を定量して酸化ストレス状態を比較したグラフである。
【図13】実施例11において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、細胞内のiNOS、COX−2発現量に対する抑制効果を比較した図である。
【図14】実施例12において、STZで誘導された糖尿病モデルラットの血清パラメーターに対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図15】実施例12において、STZで誘導された糖尿病モデルラットの腎臓に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図16】実施例12において、STZで誘導された糖尿病モデルラットの腎臓中のタンパク発現量に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図17】実施例13において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスに対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与期間中の血糖値とコレステロール値の試験結果を示す。
【図18】実施例14において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスの血清パラメーターに対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図19】実施例14において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスの肝臓に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図20】実施例15において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスの肝臓核内転写因子に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、柿タンニンから得られる柿ポリフェノールオリゴマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、少子高齢化社会の進展に伴って国民の健康指向が高まり、加齢によって加速する疾病や生活習慣病への予防を図るべく、お茶から得られたお茶カテキンのカテキン類や、リンゴ果実から得られたポリフェノール類が抗酸化食品として利用されている(例えば、特許文献1参照)
【0003】
ここで、お茶カテキンのカテキン類は、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECg)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)等であり、抗酸化活性、抗アレルギー作用や抗菌作用を有することから、お茶の原料粉より抽出してカテキン類を取得し、更に他の材料に加えて錠剤、顆粒剤や液剤等の状態の食品としてお茶のカテキン類を摂取可能にしている。
【0004】
又、ブドウ種子やリンゴ未熟果実から得られたポリフェノール類は、主としてエピカテキン(EC)が重合したプロアントシアニジンであり、お茶カテキンと同様に抗酸化活性を有すると共に、抗動脈硬化作用や発癌予防作用等の薬理活性を有するので、原料粉より抽出して、プロアントシアニジン等を含む種々のポリフェノール類を取得し、更に他の材料を加えて錠剤、顆粒剤や液剤等の状態の食品として当該ポリフェノールを摂取可能にしている。
【0005】
一方、他の例としては、柿タンニンから得られた縮合型ポリフェノール化合物を利用して動脈硬化の予防改善を為し得るものが考えられている(例えば、特許文献2参照)。又、植物中のプロアントシアニジンポリマーを生体の腸管から容易に吸収できる程度までに低分子化したプロシアニジンオリゴマーの製造方法が示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平10−75740号公報
【特許文献2】特開2003−231684号公報
【特許文献3】国際公開第2006/090830号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、お茶カテキンのカテキン類は大部分がモノマーであるため、カテキンが2〜数個重合したオリゴマーに比べて薬理活性が低く、経口摂取した場合に薬理活性を充分に得ることができないという問題があった。又、ブドウ種子のポリフェノール類は、平均重合度が7〜9とやや高いため、吸収性に劣り、経口摂取した場合に薬理活性を充分に得ることができないという問題があった。又、柿タンニンから得られた縮合型ポリフェノール化合物は、高分子のポリマーであるため、ブドウ種子等のポリフェノール類と同様に吸収性に劣り、経口摂取した場合に薬理活性を充分に利用することができないという問題があった。更に、生体吸収し易いプロアントシアニジンオリゴマーであっても、それを構成するカテキン組成によって薬理活性が大幅に変動するので、そのカテキン組成によっては期待される程度までオリゴマーの薬理活性を高めることができないという問題があった。
【0007】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高める柿ポリフェノールオリゴマーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、B環のピロガロール率が70%以上、ガロイル化率が40%以上となるように低分子化した柿ポリフェノールオリゴマーは吸収性を高めると共に薬理活性を向上させることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、柿タンニンから得られ、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%であってエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を含有することを特徴とする柿ポリフェノールオリゴマーに係るものである。
【0010】
本発明のエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体の構造は、式
【化1】
により表される新規プロデルフィニジントリガレート(1)である。
【0011】
又、本発明において、柿ポリフェノールオリゴマーは、二量体から五量体までのオリゴマーを主要成分としている。
【0012】
このように、本発明によれば、柿ポリフェノールオリゴマーは、エピガロカテキン、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートのカテキン類を主要構成成分とし、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%となるような割合でカテキンが重合した構造であり、且つ二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるので、高分子のポリマーと異なり、経口摂取した場合に吸収性の低下をきたすことなく、又、ピロガロール率やガロイル化率の低いオリゴマーや、モノマーよりも高い薬理活性を示し、結果的に疾患を改善する機能を増強することができる。
【0013】
又、本発明者らは、柿由来の柿ポリフェノールオリゴマーが転写因子NF−κBに対する強力な活性化阻害作用を有することを初めて明らかにした。すなわち、遺伝子発現制御に関与する転写因子の一つのであるNF−κBは、活性化されることによって、がん細胞が増殖したり、エイズウイルスが複製したり、リウマチが発症したり、或いは糖尿病や動脈硬化症へ関与したりすることが明らかになっているので、柿由来のポリフェノールオリゴマーが有するNF-κB活性化阻害機能により、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗糖尿病作用を付与できる。更にプロアントシアニジンを単に断片化し、オリゴマー化するだけでなく、そのカテキン組成につきエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)の比率を高めることによって、すなわちB環のピロガロール率が70%以上、ガロイル化率40%以上とすることによって、α―グルコシダーゼ及び/又はα―アミラーゼの消化酵素に対する阻害活性の高い柿ポリフェノールオリゴマーが得られることを初めて明らかにした。この消化酵素阻害活性により、優れた抗肥満作用や抗糖尿病作用を付与できる。
【0014】
又、お茶カテキンによる研究から、ピロガロール型のエピガロカテキン(EGC)やエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)は、エピカテキン(EC)に比べて水酸基の数が多く、抗酸化活性やラジカル消去活性が高いため、前者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーは、後者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーよりもより強力な抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用及び血圧上昇抑制作用を示すと考えられ、ガン、関節炎、動脈硬化症、高血圧症、慢性腎不全等の疾患の予防や症状の改善により有用である。
【0015】
一方、ガロイルエステル型のエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)は、エピカテキン(EC)に比べて糖分解酵素阻害活性、抗菌活性、抗ウイルス活性が高いため、前者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーは、後者を構成カテキンとするポリフェノールオリゴマーよりもより強力な抗糖尿病作用、抗肥満作用、抗う蝕作用、抗歯周病作用を示すと考えられ、糖尿病、虫歯、歯周病等の疾患の予防や症状の改善により有用である。
【0016】
柿ポリフェノールオリゴマーは、カテキン類のうちエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を多く含むように調整される。エピガロカテキン−3−O−ガレートは、ブドウ種子やリンゴ果実由来のポリフェノールの構成成分であるエピカテキン(EC)に比べて高い薬理活性、すなわち強力な抗酸化活性、抗アレルギー活性、抗菌活性や糖分解酵素阻害活性を有しており、夫々の活性機能を介して、すなわち抗肥満作用、血圧上昇抑制作用、抗歯周病作用、抗う蝕作用等を介して疾患の予防や症状の改善に寄与することができる。
【0017】
又、柿ポリフェノールオリゴマーは、適度に重合した二量体から五量体までのオリゴマーを主要成分としており、且つカテキン組成中のエピガロカテキン−3−O−ガレートの比率を高めることによって、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ高い薬理活性を発揮し、結果的に疾患の予防や改善作用が飛躍的に向上する。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明の柿ポリフェノールオリゴマーによれば、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ薬理活性を飛躍的に高めることができるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の実施の形態の柿ポリフェノールオリゴマーは、渋柿の未熟果実や生皮中に含まれる柿タンニンを、低分子化反応剤としてのエピガロカテキン−3−O−ガレート含量40%以上のお茶カテキン又はエピガロカテキン−3−O−ガレートの存在下で酸性下で断片化した後、吸着樹脂に吸着させ、充分水洗してからエタノール水溶液で溶出し、ついで減圧濃縮した濃縮液を凍結乾燥又は噴霧乾燥することにより粉末として得られる。得られた柿ポリフェノールオリゴマーは、二量体から五量体までのオリゴマーを主要成分としており、組成的には、ピロガロール率が70%以上90%以下、ガロイル化率が40%以上70%以下となるようにエピガロカテキン−3−O−ガレート、エピガロカテキン、エピカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートのカテキン類が重合したものである。
【実施例1】
【0021】
ここで、本発明の柿ポリフェノールオリゴマーの優れた機能性を説明するため、ポリフェノールオリゴマーの原料であるプロアントシアニジンとして渋柿未熟果由来のポリフェノールとブドウ種子由来ポリフェノール末を用い、それらのポリフェノールのそれぞれに低分子化反応剤としてエピガロカテキン−3−O−ガレート(サンフェノンEGCg、太陽化学(株)製、EGCg含量 92.8%)、お茶カテキン(サンフェノンBG-3、太陽化学(株)製、ポリフェノール含量 89.8%、総カテキン含量 78.9%、EGCg含量 44.2%)又はアセンヤクの3種をそれぞれ反応させることによってカテキン組成の異なる、すなわちB環のピロガロール率とガロイル化率の異なるオリゴマーを調製した。
【0022】
渋柿未熟果を用いて、低分子化反応と精製は以下のように行った。渋柿未熟果500gを水1000mlとともにワーリングブレンダーで粉砕し、サンフェノンBG-3 20gとクエン酸40gを加え、全量2000mlとし、90〜95℃で3時間煮沸した。水冷後、セライト層を用いて反応液を濾過し、その濾液をスチレンージビニルベンゼン樹脂(三菱化学社製セパビーズSP825)のカラム(内径10×13cm、約1000ml)に負荷し、500mlの水で洗浄した。ついで10%エタノール500ml、20%エタノール500ml、60%エタノール600mlで溶出し、ポリフェノール画分を減圧濃縮、凍結乾燥してポリフェノールオリゴマー粗製粉末(P−1と略す)27.2gを得た。この粉末(P−1)8.0gを30mlの95%エタノールに溶解し、この溶液をセファデックスLH20ゲルを180ml充填したカラム(内径3.8×16cm)に負荷し、ついで1000mlのエタノールを流し、ポリフェノール単量体画分を除いた。さらに同カラムに含水アセトン(アセトン:水=3:2)600mlを通液して得たポリフェノールオリゴマーの溶出画分を減圧濃縮、凍結乾燥して精製粉末(P−1Fと略す)5.8gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにサンフェノンEGCg20gを用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(P−2と略す)26.6g、精製粉末(P−2Fと略す)5.7gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにアセンヤク30g用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(P−3と略す)25.4g、精製粉末(P−3Fと略す)5.3gを得た。
【0023】
ブドウ種子由来ポリフェノール末(グラヴィノール、キッコーマン(株)製、プロントシアニジン含量46%)を用いた例を以下に記す。低分子化反応と精製は次のように行った。グラヴィノール40g、サンフェノンBG-3 20gを水1Lに加え、次いでクエン酸20gを加えて90〜95℃で3時間煮沸した。以下先の渋柿未熟果由来ポリフェノールの場合と同様に操作して粗製粉末(G−1と略す)32.0g、精製粉末(G−1Fと略す)4.5gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにサンフェノンEGCg20gを用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(G−2と略す)31.2g、精製粉末(G−2Fと略す)4.3gを得た。
サンフェノンBG-3の代わりにアセンヤク30g用いて同様に低分子化反応、吸着樹脂精製、セファデックス精製を行って、粗製粉末(G−3と略す)30.4g、精製粉末(G−3Fと略す)5.0gを得た。
【0024】
以上のようにして得たPとPFシリーズの6品目、GとGFシリーズの6品目、合計12品目のポリフェノールオリゴマーにつき、総ポリフェノール含量、ピロガロール率、ガロイル化率、平均重合度を[表1]に一覧した。
【0025】
総ポリフェノール含量は、フォリン−シオカルト法により求めた。
【0026】
フラバン−3−オールB環ピロガロール率、ガロイル化率、平均重合度は、ポリフェノールオリゴマーをメルカプトエタノール共存下で酸分解し、高速液体クロマトグラフィにより構成カテキンを分析し求めた。
【0027】
(1)各試料の平均重合度の算出
試料濃度25mg/mlに調製した検体300μlをチオール試薬(2−メルカプトエタノール(5%)と塩酸(0.1%)を含む60%エタノール)1.2mlと混合し,70℃で7時間加熱後、室温5時間放置した。反応液をそのまま高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。条件は以下の通りである。カラム:Cosmosil 5C18-AR II (ナカライテスク(株)) (250 × 4.6 mm i.d.)、 溶媒:4→30%(39分)−30→75%(15分) アセトニトリル−50mMリン酸、 流速:0.8ml/min、検出:JASCOフォトダイオードアレイMD−910検出器。試料中のカテキン構成ユニットの量はカテキン単量体(C、EC、EGC、ECg、EGCg)及びカテキン−メルカプトエタノール(ME)誘導体(C−ME、EC−ME、EGC−ME、ECg−ME、EGCg−ME)の274nmにおけるピーク面積から定量した。検量線は茶カテキン標準品を用いて作成した。平均重合度は下記の計算式より算出した。
【0028】
[数1]
平均重合度=(全カテキン-ME誘導体量/全カテキン単量体量)+1
上記式において、全カテキン-ME誘導体量及び全カテキン単量体量はnmol/gを表す。
【0029】
(2)各試料のフラバン−3−オールB環ピロガロール率(B環ピロガロール率)の算出
ピロガロール率は、(1)で得られたカテキン単量体(C、EC、EGC、ECg、EGCg)及びカテキン−ME誘導体(C−ME、EC−ME、EGC−ME、ECg−ME、EGCg−ME)量を用いて下記の計算式より算出した。
【0030】
[数2]
B環ピロガロール率=100×{(EGC)+(EGCg)+(EGC−ME)+(EGCg−ME)}/{(全カテキン単量体量)+(全カテキン-ME誘導体量)}
上記式において、全カテキン-ME誘導体量及び全カテキン単量体量はnmol/gを表す。
【0031】
(3)各試料のガロイル化率の算出
ガロイル化率は、(1)で得られたカテキン単量体(C、EC、EGC、ECg、EGCg)及びカテキン−ME誘導体(C−ME、EC−ME、EGC−ME、ECg−ME、EGCg−ME)量を用いて下記の計算式より算出した。
【0032】
[数3]
ガロイル化率=100×{(ECg)+(EGCg)+(ECg−ME)+(EGCg−ME)}/{(全カテキン単量体量)+(全カテキン-ME誘導体量)}
上記式において、全カテキン-ME誘導体量及び全カテキン単量体量はnmol/gを表す。
【0033】
【表1】
【0034】
ブドウ種子由来ポリフェノールとアセンヤクより調製したオリゴマーのG−3Fのピロガロール率が0%であることは、ブドウ種子由来ポリフェノール中には、エピガロカテキンやエピガロカテキン−3−O−ガレートが殆ど含まれていないこと示している。一方渋柿由来ポリフェノールとアセンヤクより調製したP−3Fのピロガロール率が36.1%
であることは、渋柿由来ポリフェノールが主としてエピガロカテキンやエピガロカテキン−3−O−ガレートから構成されていることを示している。
【実施例2】
【0035】
本実施例では、実施例1で得た柿ポリフェノールオリゴマーとそれをタンナーゼ処理したものをMALDI-TOF質量分析した。
【0036】
柿ポリフェノールオリゴマー20mgを水2mlに溶かし,Aspergilus由来タンナーゼ2mgを加えて25℃で12時間攪拌し、反応液はそのままセファデックスLH−20(内径1cm×10cm)に付して水で洗浄し、ポリフェノールは40%及び60%MeOH,50%アセトンを順次流してgallic acid(4mg)とプロアントシアニジン混合物(16mg)を得た。柿ポリフェノールオリゴマーとそれをタンナーゼ処理したものをMALDI-TOF質量分析した。測定はアプライドバイオシステム社製Voyager-DE Pro spectrometerで,試料濃度4mg/ml 50%アセトン,マトリックス2,5−ジヒドロキシ安息香酸で行った。その結果柿ポリフェノールオリゴマーには二量体〜七量体の存在が確認された。
【実施例3】
【0037】
これまでその存在が同定、確認されていないエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を本発明の柿ポリフェノールオリゴマー中に確認した。すなわち、柿ポリフェノールオリゴマー5.0gを、Sephadex LH-20カラム(3cm×22cm)にエタノールを溶出溶媒として付し、ついで溶出溶媒をエタノール−水−アセトン(8:1:1→70:15:15→60:20:20)に順次変更して三量体フラクションを得た。三量体フラクションはさらに、MCI-gel CHP20Pカラムクロマト(20−50%メタノール),Chromatorex ODSカラムクロマト(10−40%メタノール),Toyopearl HW40F(50−80%メタノール)で順次分離精製して三量体T1を10mg得た。柿ポリフェノールオリゴマーの逆相HPLC分析において三量体T1は24.1分に検出された。HPLCの条件はカラム:Cosmosil 5C18 ARII (4.6×250mm)、カラム温度:35℃、移動相:A; 50mM リン酸、B; CH3CN、B 4%から30%(39分間)、30%から75%(15分間)、流速:0.8ml / min、検出:フォトダイオードアレイ検出(Max absorbance)である。
【0038】
三量体T1は褐色無晶形粉末で、塩化鉄(III)試薬で暗紫色,バニリン−塩酸試薬で橙赤色を呈し、プロアントシアニジンであることが確認された。1H-NMRスペクトルには7ppm付近に3つのガロイル基に由来するシグナル、6.4〜6.7ppmに3個のピロガロール型B環水素のシグナル、6.0ppmにはA環6,8位の水素シグナル、4.85〜5.55ppmにはガロイル基が結合したカテキンC環2,3,4位のシグナル、3.0ppm付近には末端カテキン4位のメチレンシグナルが観察された。
【0039】
13C-NMRスペクトルではC環のシグナルとして26ppmに下端ユニットのC-4"メチレン炭素,34ppmにC-4及びC-4'炭素,69及び73ppmにC-3,3',3"炭素,76,76.5,78ppmにC-2, 2',2"炭素が認められた。A環は、96〜98ppmにC-6,8,6',6",99〜120ppmにC-4a,4a',4a",102ppmにC-8',8",154−158ppmにC-5,7,8a,2',7',8a',5",7",8a"由来のシグナルが観察された。
【0040】
3個のピロガロール型B環由来のシグナルは、107ppmにC-2, 6が、130.5ppmにC-1が、132.5ppmにC-4が認められ、3個のガロイル基のシグナルは、110ppmにC-2,6,121.5ppmにC-1,139ppmにC-4,168ppmにエステルカルボニル炭素が認められた。B環の3,5位とガロイル基の3,5位のシグナルは重なって145.5ppmに観察された。これらの水素及び炭素シグナルは非常にブロードであり、これはプロアントシアニジンの各カテキンユニット間の結合に回転障害がある場合に一般的に観察される特徴であった。
【0041】
MALDI-TOF-質量分析ではm/z 1393にM+Na擬似分子イオンピークが観察され、このことはT1がEGCgの三量体であることを示していた。T1をタンナーゼで加水分解するとgallic acidとT1-tanが得られた。T1-tanの1H-NMRスペクトルはエピカテキン三量体で既知プロシアニジンであるプロシアニジンC-1のものと非常によく類似しており、B環のシグナルがすべてシングレットでピロガロール型であることを示す点が異なる他は、C環のシグナルのケミカルシフトとカップリングパターンは良く類似していた。このことはT1が、EGCg3分子がC-4とC-8の間で結合したプロデルフィニジントリガレートであることを示していた。
【実施例4】
【0042】
本実施例では、実施例1で得たPとPFシリーズの6品目、GとGFシリーズの6品目、合計12品目のポリフェノールオリゴマー及びEGCg、5種のポリフェノールにつきα―グルコシダーゼ、及びα―アミラーゼの消化酵素に対する阻害活性を測定した。
【0043】
(1)α−グルコシダーゼ阻害活性の測定法
上記物質のα−グルコシダーゼ阻害活性を以下の方法で測定した。
【0044】
1)試料溶液
乾燥した各試料50mgに水20mlを加え、超音波処理と振盪を行い、一定量を分取し、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈し、180μg/mlの試料溶液とした。
2)α−グルコシダーゼ阻害活性の測定法
50mMスクロース溶液(pH7.0の0.1Mリン酸緩衝液)400μl、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した試料溶液100μlを混合し、3分間37℃でプレインキュベートを行った。これに緩衝液で希釈したα−グルコシダーゼ溶液(東洋紡製α−グルコシダーゼ(II)100μl を加え、37℃で30分間反応後、氷冷下1Mトリス緩衝液600μlを添加し、反応を停止した。反応液40μlを分取し、生成したグルコース量はグルコースCII-テストワコー(和光純薬製)を用いて505nmの吸光度を測定した(検体)。対照として、試料溶液に換えて、0.1Mリン酸緩衝液を同量加えた場合の吸光度(対照A)、及び酵素溶液に換えて、0.1Mリン酸緩衝液を同量加えた場合の吸光度(対照B)を同時に測定し、酵素阻害率を下記の計算式から算出した。
【0045】
[数4]
酵素阻害率(%)=100−100×(検体−対照2)/(対照1−対照2)
【0046】
(2)α−アミラーゼ活性の測定
(1)と同様各試料物質のα−アミラーゼ阻害活性を以下の方法で測定した。
【0047】
1)試料溶液
乾燥した各試料50mgに水20mlを加え、超音波処理と振盪を行い、一定量を分取し、50mM酢酸緩衝液(pH6.5)で希釈し、50μg/ml及び15μg/mlの試料溶液とした。
2)α−アミラーゼ阻害活性の測定法
0.5重量%可溶性デンプン200μl、20mMCaCl2、100mMNaClを含む50mM酢酸緩衝液(pH6.5)で希釈した試料溶液100μl及び緩衝液100μlを混合し、3分間37℃でプレインキュベートを行った。これに緩衝液で希釈したα−アミラーゼ溶液(ブタ膵臓由来のα−アミラーゼ(Sigma社製のSigma A6255))100μl(約0.6U/ml)を加え、37℃で15分間反応後、氷冷下0.1M塩酸500μlを添加し、反応を停止した。反応液250μlを分取し、0.2mMヨウ素液3mlを加え、660nm波長での吸光度を測定した。対照として、酵素を入れないもの(対照1)、及び酵素を入れたもの(対照2)を同時に測定し、酵素阻害率は下記の計算式から算出した。
【0048】
[数5]
酵素阻害率(%)=(検体−対照2)÷(対照1−対照2)×100
【0049】
市販のポリフェノール類やエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)との比較も含め、各消化酵素に対するポリフェノールオリゴマーの阻害活性を測定した結果を図1〜図4に示す。
【0050】
図1において、それぞれの低分子化反応剤ごとに柿とブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−グルコシダーゼ阻害活性を比較対比すると、明らかに柿由来ポリフェノールオリゴマーの阻害活性が高かった。
【0051】
図2において、市販のポリフェノール類、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、ライチ果実由来ポリフェノールオリゴマー及びブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−グルコシダーゼ阻害活性を比較した結果、柿ポリフェノールオリゴマーの阻害活性が最も高かった。
【0052】
図3において、それぞれの低分子化反応剤ごとに、柿とブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−アミラーゼ阻害活性を比較対比すると、柿由来ポリフェノールオリゴマーの阻害活性がやや高かった。
【0053】
図4において、市販のポリフェノール類、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、ライチ果実由来ポリフェノールオリゴマー及びブドウ種子由来のポリフェノールオリゴマーのα−アミラーゼ阻害活性を比較した結果、柿ポリフェノールオリゴマーの阻害活性が最も高かった。
【0054】
柿及びブドウ種子由来のモノマーフリーのポリフェノールオリゴマー(P−1F、P−2F、P−3F、G−1F、G−2F、G−3F)につき、それらのB環ピロガロール率、ガロイル化率及び重合度と各消化酵素に対する阻害活性との間に相関性があるかどうか
調べた。その結果、図5から明らかなように、α−アミラーゼ活性は柿ポリフェノールオリゴマーの重合度が大きいほど強く抑制され、阻害率と平均重合度との相関係数は0.86であった。α−グルコシダーゼ活性は図6及び図7のように柿ポリフェノールオリゴマーのガロイル化率、ピロガロール率が高い程強く抑制され、阻害率とピロガロール率との相関係数は0.85、ガロイル化率との相関係数は0.94であり、非常に高い相関性を有していた。
【0055】
以下に、柿ポリフェノールオリゴマーの作用を説明しえるよう、柿ポリフェノールオリゴマーの実施例について抗酸化活性と転写因子NF−κB活性化阻害活性を中心に説明する。
【実施例5】
【0056】
実施例1で得た本発明の柿ポリフェノールオリゴマー(P−2)の抗酸化活性を細胞生存率で調べた。以下の実施例においても特に指定しない限りP−2の柿ポリフェノールオリゴマーを使用した。本発明の柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))の抗酸化力と、低分子化処理前の高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))の抗酸化力とを細胞生存率で比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液(DMEM/F‐12培養液)200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールを添加して24時間培養し、細胞生存率をMTT法で測定した。
【0057】
その結果、図8に示す如く、高濃度の30mMグルコース処理では、5mMグルコース処理群に比べて細胞生存率が17%減少するという細胞毒性を示したが、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群では夫々細胞生存率が回復した。又、10μg/mlの柿ポリフェノール(L)では、5mMグルコース処理群に近いレベルまで細胞生存率が回復した。
【実施例6】
【0058】
実施例6では、ブタ腎上皮細胞(LLC-PK1)の形態学的検討を行ったもので、具体的には2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液を6穴プレートに2ml播種し、以下実施例5と同様の方法で培養し、顕微鏡下で撮影した。
【0059】
その結果、高濃度の30mMグルコース処理によって細胞は形態学的変化をきたすが、10μg/mlの柿ポリフェノール(L)では、高濃度グルコースによる細胞の形態学的変化を抑制した。
【実施例7】
【0060】
実施例7は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))、及び比較試料について、活性酸素種の一種である一酸化窒素(NO)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、LLC‐PK1細胞の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料を添加して24時間培養後、グリース試薬(0.1% N(-1-naphtyl)ethylendiamine, 1% sulfanilamide,2.5% H3PO4)を加え、室温で5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定し、一酸化窒素(NO)濃度に換算した。なお、比較試料1は、カロチノイドの中でもっとも抗酸化が強いといわれるアスタキサンチン、比較試料2は、プロアントシアニジンを高濃度含むブドウ種子の抽出物(Gravinol(登録商標))、比較試料3は、フランス沿海地域で取れる松の樹皮から得られるポリフェノール類(Pycnogenol(登録商標))である。
【0061】
その結果、図9に示す如く、一酸化窒素(NO)の濃度は30mMグルコース処理によって、5mMグルコース処理群よりも2.6倍上昇し、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群は一酸化窒素(NO)の濃度を低下させた。ここで、柿ポリフェノール(L)は、柿ポリフェノール(H)、比較試料1、比較試料2、比較試料3に比べて一酸化窒素(NO)の濃度を一層低下させた。
【実施例8】
【0062】
実施例8は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))及び比較試料について、活性酸素種のスーパーオキシド(O2−)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度に懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料とを添加して24時間培養し、反応液(0.125mM EDTA,62μM NBT,98μM NADH含有50mMリン酸緩衝液)と33μMのPMSを加えて5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで540nmにおける吸光度を測定し、スーパーオキシド(O2−)濃度に換算した。なお、比較試料1、比較試料2、比較試料3は、実施例7と同様である。
【0063】
その結果、図10に示す如く、30mMグルコース処理によるスーパーオキシド(O2−)の濃度は、5mMグルコース処理群に比べて1.4倍上昇し、低分子及び高分子の柿ポリフェノール処理群はスーパーオキシド(O2−)の濃度を低下させた。ここで、10μg/mlの低分子化柿ポリフェノール(L)は、柿ポリフェノール(H)、比較試料1、比較試料2、比較試料3に比べてスーパーオキシド(O2−)の濃度を一層低下させ、その濃度は5mMグルコース処理のレベルまで戻った。
【実施例9】
【0064】
実施例9は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))と、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))について、活性酸素種のペルオキシナイトライト(ONOO−)の生成に対する抑制効果を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度で懸濁した細胞懸濁液200μLを96穴プレートに播種し、24時間予備培養した。その後、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)の培養液に5mMグルコースを添加し、更に24時間培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールとを添加して24時間培養し、ジヒドロローダミン123(dihydrorhodamine 123)を含む緩衝液を加えて37℃で5分間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで500nmにおける吸光度で測定し、ペルオキシナイトライト(ONOO−)濃度に換算した。
【0065】
その結果、図11に示す如く、30mMグルコース処理によるペルオキシナイトライト(ONOO−)の濃度は、5mMグルコース処理群よりも約75%上昇した。これに対し、高分子の柿ポリフェノール(H)処理群では顕著な変化を認めなかったが、柿ポリフェノール(L)処理群では、高濃度グルコースによって上昇したペルオキシナイトライト(ONOO−)を濃度依存的に低下させた。
【実施例10】
【0066】
実施例10は、柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))と、高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))及び比較試料について、WangとJosephの方法に従い、細胞内の活性酸素量を定量して酸化ストレス状態を比較したものである。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を2×104細胞/mlの濃度で懸濁した液200μLを96穴プレートに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノール並びに比較試料とを添加して24時間培養後、リン酸緩衝液で洗浄し、100μMの非蛍光物質DCFH−DA(2',7'-dichlorofluorescein diacetate)を100μL加えて15分間培養した。その後、96穴プレートから培養液を取り除いてDMEM/F-12培養液を加え、1時間培養した。この96穴プレートをマイクロプレートリーダ−(励起波長:485nm、蛍光波長:535nm)で蛍光物質DCF(2',7'-dichlorofluorescein)の蛍光強度を測定した。なお、この測定は、非蛍光物質DCFH−DAが活性酸素存在下で強い蛍光を示す蛍光物質DCFに変換されるという原理を応用している。ここで、なお、比較試料1は、カロチノイドの中でもっとも抗酸化が強いといわれるアスタキサンチン、比較試料2は、プロアントシアニジンを高濃度含むブドウ種子の抽出物(Gravinol(登録商標))、比較試料3は、フランス沿海地域で取れる松の樹皮から得られるポリフェノール類(Pycnogenol(登録商標))である。
【0067】
その結果、図12に示す如く、30mMグルコース処理細胞における細胞内活性酸素量は、5mMグルコース処理細胞と比較して約1.6倍に増加していたが、柿ポリフェノール処理細胞では濃度依存的に低下していた。特に柿ポリフェノール(L)を10μg/ml添加した群において、細胞内活性酸素量の低下が顕著であった。
【実施例11】
【0068】
本実施例は、高濃度グルコースにより高血糖状態に曝されたブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)におけるiNOSとCOX-2の発現に及ぼす柿ポリフェノールオリゴマー(柿ポリフェノール(L))及び高分子の柿ポリフェノール(柿ポリフェノール(H))の影響をウェスタンブロッティング解析した。具体的には、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を懸濁した細胞懸濁液を10mlカルチャーディッシュに播種し、5mMグルコース含有培養液で24時間予備培養した。次いで、5mMグルコース又は30mMグルコースと、5μg/ml又は10μg/mlの高分子あるいは低分子の柿ポリフェノールを添加して24時間培養した。次に、ブタ腎上皮細胞(LLC‐PK1)を10mlカルチャーディッシュの底面から剥離して回収後、抽出緩衝液[25mM Tris-HCl (pH7.5)、250mM NaCl、5mM EDTA、1% nonidet P-40、1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)、1mM DTT、50μLプロテアーゼインヒビターカクテル]を加え、細胞内の蛋白質を抽出した。抽出した蛋白質量はBio-Rad protein assay kitで測定した。次いで30μgの蛋白質を電気泳動用緩衝液に溶解させ、常法にてSDS−PAGEを行った後、ニトロセルロース膜にトランスファーし、当該ニトロセルロース膜について免疫ブロット解析(immunoblot analysis)を行った。免疫ブロット解析では、anti−NOS2(iNOS)モノクローナ抗体、anti−COX-2モノクローナル抗体、蛋白質発現量の標準マーカーとしてのanti−COX-1モノクローナル抗体、及びペルオキシダーゼ標準化2次抗体(peroxidase-labeled secondary antibody)を用いた。なお、上記免疫ブロット解析は、ニトロセルロース膜をECL(enhanced chemiluminescence)法にて撮影することにより実施した。
【0069】
iNOSによるNO産生はマクロファージ、肝細胞、好中球、上皮細胞等の種々の細胞で見られるが、腎上皮細胞においても図13に示す如く、高濃度グルコース処理によってiNOSとCOX-2が多量に発現していた。iNOSは30mMグルコース処理群で過剰発現していたが、柿ポリフェノール(L)で処理した群では、発現量が著しく低下した。一方高分子の柿ポリフェノール(H)で処理した群では柿ポリフェノール(L)処理群よりもその作用は弱かった。NOとプロスタグランジンは、いずれも多くの慢性疾患の病因であることが知られているが、プロスタグランジンの合成過程を触媒するCOXはアラキドン酸をプロスタグランジンに変換する酵素である。COX-2は炎症に関わるプロスタグランジンの生成に関与しており、COX-1はほとんど全ての臓器に恒常的に発現している蛋白質であって、本実験では蛋白質発現量の標準マーカーとして用いた。図13では、COX-2がiNOSと同様に、高濃度グルコース処理によって過剰発現していたが、低分子と高分子の柿ポリフェノール処理群では、いずれもCOX−2の発現量を著しく低下させていた。
【実施例12】
【0070】
本実施例は、1型糖尿病モデルとしてSTZ(ストレプトゾトシン)誘発糖尿病ラットによる柿ポリフェノールオリゴマーの効果を測定したものである。供試材料として、柿ポリフェノールオリゴマー、柿ポリフェノールポリマーを用いて比較した。
Wistar系ラット(雄)に対し、ストレプトゾトシン(STZ)を体重kg当たり50mgとなるように腹腔内投与して作製された。実験開始時に血糖値をもとに群分けし、糖尿病ラットの各群には、以下に示す試料物質を投与した。
【0071】
1.正常群(以下、Normal群)(n=5):通常飼料、水を与えた。
2.糖尿病対照群(以下、Control群)(n=7):通常飼料、水を与えた。
3.柿ポリフェノールポリマー群(以下、Polymer群)(n=7):柿ポリフェノールポリマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
4.柿ポリフェノールオリゴマー群(以下、Oligomer群)(n=7):柿ポリフェノールオリゴマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
【0072】
実験期間中、体重、摂餌量、摂水量、尿量、尿タンパク量を測定し、試料物質投与20日後に屠殺し、血液採取及び臓器摘出を行い、血清中のグルコース(血糖値)、糖化タンパク、TBA反応物質、総タンパク、アルブミン、及び尿素窒素(UN)量を測定した。又、腎重量、腎臓中のROS生成、AGEs、TBA反応物質量及び腎臓における各種タンパク質(NF−κB、IκB−α、iNOS、COX−2、Bcl−2,Bax)の発現量を測定した。結果を図14〜図16に示した。
【0073】
その結果、糖尿病で上昇した血糖値と血清糖化タンパク、脂質過酸化レベル(TBA反応物質)はOligomer、Polymer両群で低下していた。血清総蛋白、アルブミン、尿素窒素レベルも改善していたが、このような作用は、Oligomer群の方が強かった。一方、糖尿病で認められた腎組織中のROS、AGEs及び脂質過酸化の増加は、Oligomer群、Polymer群で低下し、特に、脂質過酸化はOligomer群で正常群レベルにまで低下していた。次に、腎組織中のタンパク発現量を解析した結果、糖尿病モデル(Control群)で著しく発現したNF-κBは、両投与群で有意に低下し、Polymer群よりもOligomer群で顕著に抑制していた。炎症反応に関与するタンパク質のiNOS、COX−2は糖尿病で発現が上昇していたが、Polymer群よりもOligomer群で顕著に低下していた。以上の結果から、柿ポリフェノールは1型糖尿病を改善することが明らかとなり、Oligomer群がPolymer群より強い作用を示すことが示された。
【実施例13】
【0074】
本実施例は、レプチン受容体を欠損した2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウス (C57BL/Ksj-db/db)を使用し、評価したものである。糖尿病マウスの各群には、以下に示す試料物質を投与した。
【0075】
1.非糖尿病マウス群(以下、+/+群)(n=8):通常飼料、水を与えた。
2.糖尿病対照群(以下、Control群)(n=13):通常飼料、水を与えた。
3.柿ポリフェノールポリマー群(以下、Polymer群)(n=13):柿ポリフェノールポリマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
4.柿ポリフェノールオリゴマー群(以下、Polymer群)(n=13):柿ポリフェノールオリゴマーを10mg/kg/dayで連日経口投与
【0076】
実験期間中、体重、摂餌量、摂水量の推移を測定し、8週齡、10週齡及び12週齡の時点で採血を行い、血清中のグルコース、総コレステロール量を測定した。試料物質を6週間投与後、14週齡の時点に屠殺し、血液採取及び臓器摘出を行い、血清中のグルコース、糖化タンパク、TBA反応物質、尿素窒素(UN)、トリグリセリド、総コレステロール、及び遊離脂肪酸量を測定した。又、肝臓中のトリグリセリド、総コレステロール量、TBA反応物質量の測定及び、肝臓核内転写因子(SREBP-1、SREBP-2、PPARα、NF-κB)の発現量の測定結果を図17〜図20に示した。
【0077】
その結果、db/dbマウスの6週目の血糖値(Control群)は正常群より著しく上昇していたが、Oligomer群、Polymer群で低下傾向を示した。糖化タンパクもdb/dbマウスで正常マウスより著しく上昇していたが、Oligomer群、Polymer群では低下傾向にあった。又、血清トリグリセリド、総コレステロール、遊離脂肪酸はOligomer群、Polymer群では有意に低下していた 。
肝組織中のトリグリセリド、総コレステロール、脂質過酸化はdb/dbマウスで著しく上昇していたが、Oligomer群でいずれの脂質も有意に低下し、脂質過酸化はほぼ正常群レベルにまで低下した。肝臓核内転写因子の発現量を解析した結果、糖尿病状態で発現量が増加したSREBP-1、SREBP-2、NF-κBはPolymer群で低下傾向にあるが、Oligomer群では有意に低下し、特にNF-κBについては正常群レベルにまで低下した。糖尿病状態で発現量が減少したPPARαはOligomer群で増加傾向を示した。
【0078】
従って実施例5から実施例13までの結果により次のことが云える。すなわち、腎上皮細胞に高濃度グルコースによる酸化ストレスを与えたところ、一酸化窒素(NO)、スーパーオキシド(O2−)、ペルオキシナイトライト(ONOO−)等の活性酸素種(ROS)が増加して、転写因子NF−κBの核への移行を引き起こし、iNOS、COX-2の発現量が著しく増加していた。又、細胞生存率の低下や形態学的変化を引き起こし、細胞毒性を呈していた。これに対し、柿ポリフェノールは、活性酸素の生成を抑制し、転写因子NF−κBの核内への移行(活性化)を抑えてiNOS、COX-2の発現を抑制することによって、結果的に高血糖状態から派生する酸化ストレスシグナルを抑制していた。更に、柿ポリフェノールオリゴマーは、高分子の柿ポリフェノールよりその作用が強いことを明らかにした。
【0079】
又、1型糖尿病モデルに対して柿ポリフェノールオリゴマーは、高分子柿ポリフェノールよりも血糖値、血清糖化蛋白、脂質過酸化レベルを強く低下させ、腎組織中のタンパクの発現量(NF-κB、iNOS、COX−2)を顕著に抑制した。インスリン抵抗性を示す2型糖尿病モデルに対しても肝組織中のトリグリセリド、総コレステロール及び脂質過酸化を低下させ、糖尿病に起因する疾患を改善することが示された。
【0080】
以上のことから、本発明の実施例によれば、柿タンニンから得られた柿ポリフェノールオリゴマーは、エピガロカテキン、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン、エピカテキン−3−O−ガレートのカテキン類を主要構成成分とし、B環のピロガロール率が70%以上90%以下、ガロイル化率が40%以上70%以下となるような割合でカテキンが重合した構造であり、且つ二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるので、高分子のポリマーと異なり、経口摂取した場合に吸収性の低下をきたすことなく、又、ピロガロール率やガロイル化率の低いオリゴマーや、モノマーよりも高い薬理活性を示し、結果的に疾患の改善作用が飛躍的に向上する。当然のことながらモノマーであるお茶カテキンと比較して、オリゴマーである本発明の柿ポリフェノールオリゴマーの薬理活性は飛躍的に向上する。
【0081】
ここで、B環のピロガロール率が70%より低い場合には、図6に示す如くα―グルコシダーゼ活性阻害率が約60%未満になって活性がやや低くなるので好ましくなく、一方B環のピロガロール率が90%以上にするには、高価なエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を大過剰に使用しなければならないためコストが上昇すると共に、オリゴマーの重合度がやや低下することにより薬理活性が低下するという問題がある。又、ガロイル化率が40%より低い場合には、図7に示す如くα―グルコシダーゼ活性阻害率が約50%未満になり、B環ピロガロール率と同様に活性が低下する。一方、ガロイル化率が70%に高める場合には、先と同様高価なエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)を大過剰に使用しなければならないためコストが上昇すると共に、オリゴマーの重合度がやや低下することにより薬理活性が低下するという問題がある。
【0082】
又、柿ポリフェノールオリゴマーは、プロアントシアニジンを単に断片化し、オリゴマー化するだけでなく、そのカテキン組成につきエピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)の比率を高めることにより、α―グルコシダーゼ及び/又はα―アミラーゼに対してエピガロカテキン−3−O−ガレートのみの場合よりも強い阻害活性を有することができる。
【0083】
更に、柿ポリフェノールとリンゴ未熟果実ポリフェノールの夫々のオリゴマーを比較した場合にも、柿ポリフェノールが、エピカテキンに比較してエピガロカテキン−3−O−ガレートやエピガロカテキンを多く含む重合体であるのに対し、リンゴ未熟果実ポリフェノールのオリゴマーは、薬理活性の低いエピカテキンを主体とする重合体であるため、必然的にリンゴ未熟果実ポリフェノールのオリゴマーに比べると柿ポリフェノールオリゴマーの薬理活性は高く、各種の疾患の症状改善作用も高い。
【0084】
なお、お茶カテキンのカテキン類を化学的に重合させた場合、プロアントシアニジン以外の複雑な構造の重合体が同時に生成するので、望ましい薬理活性をもったオリゴマーを得ることは極めて困難であり、又、製造コストも極めて高いものとなるので、実用的でない。
【0085】
又、渋柿の摘果した未熟果実や生皮等の廃棄物から柿タンニンは得られるので、廃棄物の利用によって環境への影響を改善することができる。
【0086】
柿ポリフェノールオリゴマーは、カテキン類のうちエピガロカテキン−3−O−ガレートやエピガロカテキンを多く含むが、これらのカテキンは、ブドウ種子やリンゴ未熟果実由来のポリフェノールの主成分であるエピカテキンに比べて高い薬理活性、すなわち強力な抗酸化活性と転写因子NF−κBの活性化阻害活性、及び高い糖分解酵素阻害作用を有しており、それらの機能を介して各種の疾患を改善することができる。
【0087】
柿ポリフェノールオリゴマーは、モノマーでなく且つ高分子のポリマーでもなく、適度に重合した二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であるため、経口摂取した場合に良好な吸収性を維持しつつ高い薬理活性を発揮し、各種の疾患の改善作用が飛躍的に向上する。ここで、七量体以上の構造にすると、高分子のポリマーと同様に吸収性が悪化する。又、モノマーの場合は、薬理活性が低下する。
【0088】
又、柿ポリフェノールオリゴマーによる疾患を改善し得る作用は、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用、血圧上昇抑制作用、抗う蝕作用及び抗歯周病作用であるので、各種の疾患に対して良好な改善作用を示すことができる。
【0089】
尚、本発明の柿ポリフェノールオリゴマーは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、どのような食品、飲料、錠剤、顆粒形状で摂取しても良いこと、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例4において、柿及びブドウ種子由来ポリフェノールオリゴマーのα―グルコシダーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図2】実施例4において、各種ポリフェノール類のα―グルコシダーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図3】実施例4において、柿及びブドウ種子由来ポリフェノールオリゴマーのα―アミラーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図4】実施例4において、各種ポリフェノール類のα―アミラーゼ阻害活性を比較したグラフである。
【図5】実施例4において、ポリフェノールオリゴマーの重合度とα―アミラーゼ阻害活性との相関性を示したグラフである。
【図6】実施例4において、ポリフェノールオリゴマーのB環ピロガロール率とα―グルコシダーゼ阻害活性との相関性を示したグラフである。
【図7】実施例4において、ポリフェノールオリゴマーのガロイル化率とα―グルコシダーゼ阻害活性との相関性を示したグラフである。
【図8】実施例5において柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールの抗酸化力を細胞生存率で比較したグラフである。
【図9】実施例7において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、一酸化窒素(NO)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図10】実施例8において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、スーパーオキシド(O2−)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図11】実施例9において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、ペルオキシナイトライト(ONOO−)の生成に対する抑制効果で比較したグラフである。
【図12】実施例10において、柿ポリフェノールオリゴマー、高分子の柿ポリフェノール及び比較試料について、細胞内の活性酸素量を定量して酸化ストレス状態を比較したグラフである。
【図13】実施例11において、柿ポリフェノールオリゴマーと高分子の柿ポリフェノールについて、細胞内のiNOS、COX−2発現量に対する抑制効果を比較した図である。
【図14】実施例12において、STZで誘導された糖尿病モデルラットの血清パラメーターに対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図15】実施例12において、STZで誘導された糖尿病モデルラットの腎臓に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図16】実施例12において、STZで誘導された糖尿病モデルラットの腎臓中のタンパク発現量に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図17】実施例13において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスに対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与期間中の血糖値とコレステロール値の試験結果を示す。
【図18】実施例14において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスの血清パラメーターに対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図19】実施例14において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスの肝臓に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【図20】実施例15において、2型糖尿病モデル動物である雄性db/dbマウスの肝臓核内転写因子に対する柿ポリフェノールオリゴマーの投与試験結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿タンニンから得られ、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%であってエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を含有することを特徴とする柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項2】
抗酸化活性と、転写因子NF−κBの活性化阻害活性とが高められることを特徴とする請求項1記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項3】
α―グルコシダーゼ及び/又はα―アミラーゼに対してエピガロカテキン−3−O−ガレートよりも強い阻害活性を有することを特徴とする請求項1記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項4】
二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項5】
疾患を改善し得る作用は、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗歯周病作用、抗う蝕作用であることを特徴とする請求項1、2、4のいずれかに記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項6】
疾患を改善し得る作用は、抗糖尿病作用、抗肥満作用であることを特徴とする請求項1、3、4のいずれかに記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項1】
柿タンニンから得られ、B環のピロガロール率が70〜90%、ガロイル化率が40〜70%であってエピガロカテキン−3−O−ガレート三量体を含有することを特徴とする柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項2】
抗酸化活性と、転写因子NF−κBの活性化阻害活性とが高められることを特徴とする請求項1記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項3】
α―グルコシダーゼ及び/又はα―アミラーゼに対してエピガロカテキン−3−O−ガレートよりも強い阻害活性を有することを特徴とする請求項1記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項4】
二量体から五量体までのオリゴマーが主要成分であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項5】
疾患を改善し得る作用は、抗がん作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用、抗歯周病作用、抗う蝕作用であることを特徴とする請求項1、2、4のいずれかに記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【請求項6】
疾患を改善し得る作用は、抗糖尿病作用、抗肥満作用であることを特徴とする請求項1、3、4のいずれかに記載の柿ポリフェノールオリゴマー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
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【図14】
【図15】
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【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−1531(P2009−1531A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165247(P2007−165247)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(591018648)明治薬品株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(591018648)明治薬品株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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