説明

核内受容体および/または転写因子の活性化促進剤

【課題】大豆サポニンの作用点を解明し、作用機序から演繹される大豆サポニンの適切な予防、治療の対象となる疾患を特定し、大豆サポニンあるいは大豆サポニンを含有する食品を特定された疾患の予防、治療を目的として利用すること。
【解決手段】サポニンを含有することを特徴とする核内受容体および/または転写因子活性化促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核内受容体および/または転写因子の活性化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆はアジア原産の植物であり、古来より種々の機能性が報告されているが、その機能性成分については、ダイゼイン(daidzein)、ダイズイン(daidzin)などのイソフラボンおよびイソフラボン配糖体とともに大豆サポニンが主要な成分として知られている。大豆サポニンはオレアナン型トリテルペンサポニンであるソーヤサポニン(soyasaponin)I〜V、とアセチルソーヤサポニン(acetylsoyasaponin)A1〜A6などから構成されている。
大豆サポニンの薬理作用に関しては、血清脂質改善作用、肥満抑制作用、脂質酸化抑制などの抗酸化作用、肝保護作用、免疫増強活性、殺虫作用などが従来報告されている(例えば、特許文献1参照。)。また、近年、抗癌作用[アポトーシス誘導、シアリルトランスフェラーゼ阻害による癌転移抑制、Akt(セリン/スレオニンキナーゼ)阻害によるシグナル伝達阻止などの機序に基づく]、抗ウイルス活性(HIV、ヘルペス)、抗アレルギー作用、皮膚機能改善作用[コラーゲン、ラミニン産生促進、HSP(熱ストレス蛋白質)32合成刺激による皮膚抗酸化増強等]などが報告されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。また、肥満抑制作用の機序としてアディポネクチン分泌促進作用の報告もされている(特許文献5参照。)。大豆サポニンは、此処に示すように、高脂血症、肥満などの生活習慣病を始めとして、広範な疾患に対する予防、治療効果が報告されているが、その薬理作用の作用点は必ずしも全面的に解明されているわけでは無い。
【0003】
疾患の予防、治療剤はその作用機序が解明されることにより、その薬理作用の明解な理解が得られ、薬剤の適切な予防、治療への応用が図られると考えられる。この点において、大豆サポニンの作用機序の解明は現状、極めて不十分なところで留まっている。
【特許文献1】特開平06−311867号公報
【特許文献2】特開2006−169186号公報
【特許文献3】特開2007−197398号公報
【特許文献4】特開2006−213649号公報
【特許文献5】特開2006−143609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大豆サポニンの作用点を解明し、作用機序から演繹される大豆サポニンの適切な予防、治療の対象となる疾患を特定し、大豆サポニンあるいは大豆サポニンを含有する食品を特定された疾患の予防、治療を目的として利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
大豆サポニンについて既に散発的に知られている薬理作用の多くが、近年解明されてきている核内受容体の薬理作用と共通する。しかしながら、現在まで、大豆サポニンの核内受容体のペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(以下、PPARと略記する。)に対する作用の検討については、既に報告されているが、まだ十分とはいえない。我々は生活習慣病に関連する他の核内受容体並びに転写因子を主にして、大豆サポニンの核内受容体に対する活性化作用を検討した。その結果、大豆サポニンは複数の核内受容体並びに転写因子に対して活性化を促進することを明らかにすることが出来た。さらに、本発明者らは、研究を重ね、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]サポニンを含有することを特徴とする核内受容体および/または転写因子活性化促進剤、
[2]核内受容体が、ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)、肝臓X受容体(LXR)およびエストロゲン受容体(ER)から選択される少なくとも1の受容体である前記[1]に記載の活性化促進剤、
[3]転写因子が、Nrf−2である、前記[1]に記載の活性化促進剤、
[4]PPARが、PPARα、PPARδおよびPPARγから選択される少なくとも1である前記[2]に記載の活性化促進剤、
[5]LXRが、LXRαまたはLXRβである前記[2]に記載の活性化促進剤、
[6]ERが、ERαである前記[2]に記載の活性化促進剤、
[7]サポニンが、大豆サポニンである前記[1]〜[6]のいずれかに記載の活性化促進剤。
[8]メタボリックシンドロームの予防、治療用である前記[1]、[2]、[4]、[7]のいずれかに記載の剤、
[9]アルツハイマー症候群の予防、治療用である前記[1]、[2]、[4]、[7]のいずれかに記載の剤、
[10]炎症の予防、治療用である前記[1]、[2]、[5]、[7]のいずれかに記載の剤、
[11]骨粗鬆症の予防、治療用である前記[1]、[2]、[6]、[7]のいずれかに記載の剤、
[12]酸化ストレスまたは生体異物の解毒用である前記[1]、[3]、[7]のいずれかに記載の剤、および
[13]食品の形態である前記[1]〜[12]のいずれかに記載の剤、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明において、大豆サポニンが示した作用は、既知の薬理作用を説明することが出来るものであると共に、従来知られていない薬理作用も推定させるものであり、本知見は、既知の薬理作用についても、本作用点を介しての作用であることを踏まえて、より適切な大豆サポニンの使用法を促すものであり、また同時に、新たな疾患への利用を可能にするものである。
【0008】
大豆サポニンの作用は、脂質代謝、糖代謝を制御するPPARのすべてのサブタイプα、δ、γに対する活性化、コレステロール代謝の制御に関与するLXRα、βに対する活性化、ホルモン作用を示すERαに対する活性化、更に抗酸化ストレスや解毒誘導作用を有するNrf−2に対する活性化を含む。特に、Nrf−2の活性化は、第二相解毒酵素群の発現およびメタロチオネインなどの解毒蛋白の産生を誘導できるので、生体内に取り込まれた生体異物(例えば、外来異物、発がん物質、重金属、環境ホルモンなどの化学物質など)を解毒し得る。また、Nrf−2の活性化は、酸化ストレスや生体異物に対する防御能を増大させ、細胞の損傷や中毒を抑制することができる。
【0009】
大豆サポニンのPPARに対する活性化作用は、脂肪細胞の分化誘導、脂肪細胞由来分泌因子であるアディポネクチンの産生増強、TNF(Tumor Necrosis Factor)αの産生抑制、アディポステロイド合成酵素11βHSD(hydroxysteroid
dehydrogenase)1の産生抑制、脂肪代謝関連酵素LPL(リポタンパク質リパーゼ)、FATP(fatty-acid
transport protein)の産生増強、糖代謝関連酵素グリセロールキナーゼ、PEPCK(phosphoenolpyruvate
carboxykinase)−Cの産生増強などを介して、高脂血症、糖尿病、肥満あるいはこれらを複合したメタボリックシンドロームあるいはアルツハイマー症候群の予防、治療に有用である。大豆サポニンのLXRα、 βに対する活性化作用は、コレステロールの細胞外排出を担うABCA1などのトランスポーターの産生増強、コレステロール逆輸送を担うApoEなどのアポリポ蛋白の産生増強、コレステロール逆輸送を担うpre−β−HDL形成に関与するリポ蛋白再構成蛋白群LPL、CETP(cholesteryl ester transfer protein)、PLTP(Plasma Phospholipid Transfer Protein)の産生増強などを介して、動脈硬化の予防、治療に有用である。また、大豆サポニンのLXRα、 βに対する活性化作用は、一連の炎症に関わる因子NOS(Nitric oxide synthase)、COX(シクロオキシゲナーゼ)−2、IL(インターロイキン)−6などの産生抑制を介して炎症の予防、治療に有用である。
【0010】
大豆サポニンのERαに対する活性化作用は、単球からの破骨細胞前駆細胞への分化抑制並びに骨芽細胞のODF(破骨細胞分化因子)の産生抑制を介して骨粗鬆症の予防、治療に有用である。
【0011】
更に、上述の核内受容体および/または転写因子に対する大豆サポニンの活性化作用は以下の作用を介して、皮膚機能の改善に有用である。PPARδの活性化作用は架橋酵素トランスグルタミナーゼ(transglutaminase)−1、架橋蛋白インボルクリン(involucrin)・CD36の産生を増強し、またPPARαの活性化作用は表皮セラミドを産生増強し、表皮透過障壁機能の増強による皮膚保湿に有用である。大豆サポニンのLXRα、 βに対する活性化作用はインボルクリン(involucrin)の産生増強を介して皮膚保湿に有用であり、またIL−1α・TNFαの産生抑制を介して、アレルギー性皮膚炎、刺激性皮膚炎の予防、治療に有用である。ERαに対する活性化作用は表皮の脂質、グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)の産生増強を介して皮膚保湿に有用であり、また、真皮におけるコラーゲン(collagen)やグリコサミノグリカンの産生増強を介して、皮膚の皺の改善に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明における大豆サポニンは、大豆などに含まれる配糖体の一種で、例えば、下記に示されるソーヤサポニンA(例えば、アセチルソーヤサポニンA1、A2、A3、A4、A5、A6など)およびソーヤサポニンB(例えば、ソーヤサポニンI、II、III、IV、V等)などが含まれる。
【0013】
【化1】

【0014】
大豆サポニンは、ソーヤサポニンAまたはBを単独で使用してもよく、また2以上を混合して使用してもよい。大豆サポニンは、大豆(好ましくは大豆種子)を公知の方法で抽出することで得ることもできる。抽出方法としては、例えば、まず、大豆を粉砕する工程、溶媒で抽出する工程を含む。粉砕は、公知の方法、例えば粉砕機などで実施できる。溶媒としては、例えば、油脂、ヘキサン、酢酸エチル、アセトンまたはアルコールなどが挙げられる。アルコールは限定されないが、メタノール、エタノールおよびプロパノールを含む。溶媒は、1種でもよく、または2種以上を混合して用いることもできる。溶媒は水を含んでもよい。この場合、含水量は、溶媒に対して約20容量%未満が好ましい。溶媒抽出に先立ち、公知の方法で脱脂処理をしてもよい。さらに、溶媒抽出に先立ち、粉砕した大豆を水に溶解または懸濁させた後、水溶出画分を例えば吸着剤などを用いて吸着させて水溶出画分を除去してもよい。あるいは、溶媒抽出後、溶媒抽出物を濃縮し、水に溶解または懸濁させた後、水溶出画分を吸着剤に吸着させて水溶出画分を除去してもよい。
【0015】
溶媒抽出後の抽出液は、溶媒除去することが好ましい。溶媒除去は公知の方法、例えば、加熱濃縮、減圧濃縮、凍結乾燥などにより実施できる。また、これらの抽出物は、核内受容体活性化促進作用を失わない範囲内で脱臭、精製などの操作を加えることが出来る。溶媒除去した抽出物は、そのまま、または適切な溶媒や担体で希釈などして用いることができる。
【0016】
核内受容体としては、PPARα、
δ、 γ、LXRα、 β 、FXR(ファーネソイドX受容体)、RAR(レチノイン酸受容体)γ、RXR(レチノイドX受容体)α、ERα、 VDR(ビタミンD受容体)、TR(甲状腺ホルモン受容体)α、TまたはPXR(Pregnane X Receptor)などが挙げられる。
転写因子としては、例えばNrf−2などが好ましく挙げられる。Nrf−2は、CNCファミリーに属する核内転写因子である。Nrf−2の活性化は、第二相酵素群の発現増加やグルタチオン量増加をもたらし、酸化ストレスや生体異物に対する防御能を増大させることができる。このため、本発明に係る活性化促進剤は、生体内の酸化ストレスによる細胞の損傷を抑制することができ、生体内に取り込まれた生体異物(例えば、外来異物、発がん物質、環境ホルモンなど)を解毒し得る。
【0017】
また、Nrf−2の活性化は、例えば、高血圧、抗炎症、脳神経変性疾患、眼疾患、皮膚疾患、喘息、発がんなどを治療、予防、改善、状態の緩和、またはその進行を遅延することができることが報告されている(Proc Natl Acad Sci USA.,101,7094−7099(2004);J Biol Chem.,277,388−94(2002);J.Neurochem.,71,69−77 (1998);Neurosci Lett.,273,109−12(1999);Invest Ophthalmol Vis Sci.,43,1162−7(2002);J Clin Invest.,113,65−73,(2004);J.Immunol.,173,3467−3481(2004);Pharmacology,80(4),269−278(2007)など)。本発明に係る活性化促進剤は、これら疾患または病態の治療、予防、改善、状態の緩和、またはその進行の遅延に有用である。本発明における「予防」または「改善」には、完全な予防効果または改善効果を有する場合に限定されず、部分的な効果を有する場合であってもよい。
【0018】
核内受容体の活性化作用は、核内受容体リガンド結合領域に対する結合に基づく活性化作用を、リガンド結合領域と、例えば、GAL4などのDNA結合領域との融合タンパクを利用して、GAL4結合、DNA配列下流に配置したルシフェラーゼ遺伝子の発現で評価するレポーター・アッセイ(Cell,1995年,83巻,803〜812頁)や、核内受容体結合領域を含むタンパクを用いたコンペティション・バインディング・アッセイ(Cell,1995年,83巻,813〜819頁)などにより測定することができる。
【0019】
本発明に係る活性化促進剤は、生理学的に許容される添加物、例えば、担体、賦形剤、あるいは希釈剤などと混合し、組成物として経口、あるいは非経口的に投与することができる。経口用組成物としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤あるいは懸濁剤などの剤型とすることができる。非経口用組成物としては、外用薬剤などの剤型を選択することができる。外用薬剤としては、経鼻投与剤、軟膏剤、液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤またはパップ剤などを挙げることができる。上記剤型は、公知の製剤技術などを使用して製造できる。
【0020】
例えば、経口投与用の錠剤は、賦形剤、崩壊剤、結合剤および滑沢剤などを加えて混合し、圧縮整形することにより製造することができる。賦形剤としては、例えば、乳糖、デンプンあるいはマンニトールなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、炭酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウムなどが挙げられる。結合剤としては、例えば、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースあるいはポリビニルピロリドンなどが挙げられる。滑沢剤としては、タルクやステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0021】
錠剤は、マスキングや腸溶性製剤とするために、白糖などによる糖衣や公知のコーティングを施すことができる。コーティング剤には、例えば、エチルセルロースやポリオキシエチレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートなどを用いることができる。
【0022】
上記組成物の形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)や健康食品などの飲食品、医薬品、医薬部外品などとして用いることが出来る。組成物は、例えば、飲食用もしくは動物用が含まれる。
該組成物は、「予防剤」、「改善剤」、「飲食用組成物」、「飲料」、「食品」または「飼料」などと表記することもできる。
【0023】
本発明に係る活性化促進剤の投与量は、投与方法、病状、患者の年齢などによって変化し得るが、大人では、通常、固形分換算して1日当たり約0.1〜2000mg、好ましくは約1〜200mg程度である。
【0024】
また、本発明に係る活性化促進剤は、種々の形態の飲料、スナック類、乳製品、調味料、でんぷん加工製品、加工肉製品などあらゆる食品に適宜配合することができる。
【0025】
本発明の飲食品としては、例えば、飲料が好ましく挙げられる。飲料としては、茶系飲料、清涼飲料、果実飲料、野菜飲料、発泡性飲料、乳飲料、乳酸菌飲料またはアルコール性飲料などを挙げることができる。また、本発明の飲食品としては、液状、固形状、粉末状の嗜好飲料類、調味料および香辛料類、もしくは調理加工食品、および、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品などを挙げることができる。本発明に係る活性化剤を含む飲食品は、上述の各種疾患、症状または病態を予防または改善し得る。
【0026】
飲食品には、その種類に応じて種々の添加物を配合することができる。添加物としては、食品衛生上許容される成分であれば特に制限されず、例えば、ブドウ糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤、還元型アスコルビン酸(ビタミンC)、ビタミンE、還元型グルタチン、トコトリエノール、カロチン、カロチノイド、リコピン、カテキン、イソフラボン、フラボノイド類、ポリフェノール、コウジ酸、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンD、ナイアシン、パントテン酸、葉酸カルシウム、アルブミン、エイコサペンタエン酸(EPA)、イヌリン、オリゴ糖、オルニチン、果糖、L−カルニチン、還元麦芽糖、乳酸オリゴマー、γ−アミノ酪酸、絹タンパク、グルコマンナン、クレアチン、ゲルマニウム、コエンザイムQ10、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、植物繊維、食物繊維、ゼラチン、チオクト酸、デキストリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)、乳清、乳糖、ホスファチジルセリン、リノール酸またはリノレン酸などの食品添加物、マグネシウム、亜鉛、クロム、セレン、カリウムなどが挙げられる。
【0027】
本発明に係る活性化促進剤を飲食品に適用する場合の添加量としては、飲食品に対して、固形分換算して約0.1〜100質量%であるのが好ましい。
【0028】
また本発明は、本発明に係る活性化促進剤もしくは上記組成物を個体(例えば、患者など)へ投与する工程を含む、上述の各種疾患の予防または改善方法を提供する。
【0029】
本発明の予防または改善方法の対象となる個体は、上述の各種疾患を発症し得る生物であれば特に制限されないが、好ましくはヒトである。
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例において、略語は以下を意味する。
PPAR:ペルオキシソーム増殖剤受容体(peroxisome proliferator-activated receptor)
RXR:レチノイドX受容体(retinoid X receptor)
VDR:ビタミンD受容体(Vitamin D Receptor)
ER:エストロゲン受容体(Estrogen Receptor)
TR:甲状腺ホルモン受容体(thyroid hormone receptor)
FXR:ファーネソイドX受容体(Farnesoid X receptor)
DMEM:ダルベッコ改変イーグル培地(Doulbecco’s modified Eagle’s Medium)
FBS:ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum)
CS:仔牛血清(Calf Serum)
tBHQ:tert−ブチルヒドロキノン(tertiary-butyl hydroquinone)
IBMX:3-イソブチル-1-メチルキサンチン(isobutylmethylxanthine)
DMSO:ジメチルスルホキシド
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
CMV:サイトメガロウイルス(cytomegarovirus)
T3:3,3’,5−トリヨード-L-チロニン(3,3’,5-triiodo-L-thyronine)
VitD3:1α,25−ジヒドロキシビタミンD3(1α,25-dihydroxy-vitamin D3)
DNA:デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid)
cDNA:相補的デオキシリボ核酸
RNA:リボ核酸(ribonucleic acid)
mRNA:メッセンジャーRNA
DNase:デオキシリボヌクレアーゼ(deoxyribonuclease)
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)
GAPDH:グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)
Tm:融解温度(melting temperature)
ATRA:全トランス型レチノイン酸(all trans-retinoic acid)
%は、特に明記しない場合は質量%を示す。
【実施例1】
【0031】
PPARα、δ、 およびγ活性化試験
PPAR α、 δおよびγ活性はPPAR α、 δ
またはγ依存的遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)を指標に検討した。すなわち、サル由来CV−1細胞を2×105細胞/wellとなるよう、6穴プレートに播種し、DMEM(10%FBSを含む。)中で1日培養した。Gal4のDNA結合ドメイン(Gal4−DBD)およびPPARα、δまたはγのリガンド結合ドメイン(PPARγ−LBD)が結合したキメラタンパクの発現プラスミド(pGal4DBD/PPARγLBD)、Gal4応答配列(配列番号1:CGGAGGACAGTACTCCG)およびホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミド(pG5−Luc)、およびウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子の上流にCMVプロモーターを連結したコントロールプラスミド(pGL4.75hRluc−CMV;Promega社製)を同時に各々1μg、0.9μg、0.1μg/wellとなるようトランスフェクション試薬(FuGENE HD;Roche社製)と共に加え、前記培養した細胞にプラスミドを導入した。その後形質転換された細胞をトリプシンによりはがし、細胞をPBSにて洗浄後、96穴プレートに、1.6×104細胞/wellとなるよう再度播種した。この際、培養液を、被験物質を含むDMEM培地に交換し、さらに48時間培養した。PBSにて細胞を洗浄後、デュアルルシフェラーゼアッセイシステム(Promega社製)を用いてホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼ活性を各々測定した。すなわち細胞溶解液で細胞を溶解し、ルシフェリンを含む基質溶液を加え、ルミノメーターにてホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼの発光量を各々測定した。なお、PPARα、 γ およびγ依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)は以下のように定義した。
【0032】
ルシフェラーゼ活性=(pG5−Lucによるホタルルシフェラーゼ活性)/(hRluc−CMVによるウミシイタケルシフェラーゼ活性)
【0033】
上記に示すPPARα、 δ
およびγ活性化試験を用い、大豆サポニン(株式会社常磐植物化学研究所製)添加時のPPARα、 δ およびγ依存的なルシフェラーゼ活性を測定した。大豆サポニンはDMSOに100mMの濃度で溶解したものを10、20、50、100μMの濃度となるよう培地に添加した。コントロール(ネガティブコントロール)として0.33%DMSOを添加した。また陽性対照(ポジティブコントロール)としてPPARα、 δ およびγ夫々に対してWY14643(Tocris Bioscience社製)、GW501516(Alexis Biochemicals社製)およびピオグリタゾン(Pioglitazone;Alexis Biochemical製)を夫々100μM、1μM、および10μMとなるよう添加した。
結果を図1に示す。大豆サポニンはPPARα、 δ およびγに対して濃度依存的な活性化作用を示し、大豆サポニン0.5%存在下では、夫々、コントロールに比して2.7、6.5、9.9倍の活性化作用を示した。なお、各ルシフェラーゼ活性値は、コントロール(DMSO)におけるルシフェラーゼ活性を1とし、それに対する相対値で示す。
【実施例2】
【0034】
LXRα, β およびFXR活性化試験
LXRα、 βおよびFXR活性化は実施例1に記載したPPAR 活性化試験の測定法と同様にして、LXRα、 β
およびFXR依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)を指標に検討した。
上述のLXRα、β およびFXR活性化試験を用い、大豆サポニン(株式会社常磐植物化学研究所製)添加時のLXRα、 βおよびFXR依存的なルシフェラーゼ活性を測定した。大豆サポニンはDMSOに100mMの濃度で溶解したものを10、20、50、100μMの濃度となるよう培地に添加した。コントロール(ネガティブコントロール)として0.33%DMSOを添加した。また陽性対照(ポジティブコントロール)として、LXRα、 βに対しては、T0901317(Cayman Chemical製)を1μMとなるように、FXRに対してはGW4064(Tocris Bioscience製)を0.1μMとなるように添加した。
探索の結果、図2に示すように、大豆サポニンはコレステロール代謝に関与する核内受容体の中、FXRに対しては無作用であるが、LXRαおよびδに対して濃度依存的な活性化作用を示し、大豆サポニン0.5%存在下では、夫々、コントロールに比して5.2および2.9倍の活性化作用を示した。
【実施例3】
【0035】
RARγおよびRXRα活性化試験
RARγおよびRXRα活性化は実施例1に記載したPPAR 活性化試験の測定と同様にして、RARγおよびRXRα依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)を指標に検討した。
上述のRARγおよびRXRα活性化試験を用い、大豆サポニン(株式会社常磐植物化学研究所製)添加時のRARγおよびRXRα依存的なルシフェラーゼ活性を測定した。大豆サポニンはDMSOに100mMの濃度で溶解したものを10、20、50、100μMの濃度となるよう培地に添加した。コントロール(ネガティブコントロール)として0.33%DMSOを添加した。また陽性対照(ポジティブコントロール)として、RARγおよびRXRαに対して、ATRA(和光純薬工業株式会社製)および9シスレチノイン酸(9cis−retinoic acid;フナコシ薬品株式会社製)を夫々0.1μMとなるよう添加した。
図3に示すように、大豆サポニンはレチノイド系核内受容体RARγおよびRXRαに対して活性化作用を示さなかった。
【実施例4】
【0036】
ERα、 VDR、TRαおよびTRβ活性化試験
ERα、 VDR(ビタミンD受容体)、TRαおよびTRβ活性化は実施例1に記載したPPAR 活性化試験の測定と同様にして、ERα、 VDR、TRαおよびTRβ依存的な遺伝子の転写活性(ルシフェラーゼ活性)を指標に検討した。
上述のERα、 VDR、TRαおよびTRβ活性化試験を用い、大豆サポニン(株式会社常磐植物化学研究所製)添加時のERα、
VDR、TRαおよびTRβ依存的なルシフェラーゼ活性を測定した。大豆サポニンはDMSOに100mMの濃度で溶解したものを10、20、50、100μMの濃度となるよう培地に添加した。コントロール(ネガティブコントロール)として0.33%DMSOを添加した。また陽性対照(ポジティブコントロール)として、ERα、 VDRおよびTRα、 TRβに対して、β−エストラジオール(β−estradiol;和光純薬工業株式会社製)、VitD3(フナコシ薬品株式会社製)、T3(Sigma社製)を夫々1μM、0.1μMおよび1μMとなるよう添加した。
図4に示すように、大豆サポニンはホルモン関連核内受容体の中、VDR、TRαおよびTRβに対しては作用を示さなかったが、ERα に対しては濃度依存的な活性化作用を示し、大豆サポニン0.5%存在下では、コントロールに比して20.1倍の活性化作用を示した。
【実施例5】
【0037】
PXRおよびNrf−2活性化試験
ヒト肝癌由来HepG2細胞を8×10/wellとなるよう6穴プレートに播種し、DMEM(10%FBSを含む。)中で1日培養した。PXRの標的遺伝子の1つであるCYP3A4のプロモーター領域とホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミド(CYP3A4−Luc)、またNrf−2の標的遺伝子の1つであるGSTA2のプロモーター領域とホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むレポータープラスミドを構築し(GSTA2−Luc)、内部標準プラスミドpGL4.73hRluc−SV40と同時に各々1.9μg、0.1μg/wellとなるようトランスフェクション試薬(FuGENE HD;Roche社製)と共に加え、HepG2細胞内に上記プラスミドを導入した。その後形質転換された細胞をトリプシンによりはがし、96穴プレートに2×10/wellとなるよう再度播種した。以後の操作はPPAR活性化試験と同様に行った。
【0038】
上述の活性化試験を用い、大豆サポニン(株式会社常磐植物化学研究所製)添加時のPXRおよびNrf−2依存的なルシフェラーゼ活性を測定した。大豆サポニンはDMSOに100mMの濃度で溶解したものを10、20、50、100μMの濃度となるよう培地に添加した。コントロール(ネガティブコントロール)として0.33%DMSOを添加した。また陽性対照(ポジティブコントロール)として、PXRおよびNrf−2に対して、リファンピシン(Rifampicin;和光純薬工業株式会社製)、tBHQ(和光純薬工業株式会社製)を用い、夫々25μM、20μMとなるよう培地に添加した。
【0039】
図5に示すように、大豆サポニンは解毒系の核内受容体および転写因子に対して、PXRには無作用であったが、Nrf−2に対して濃度依存的な活性化作用を示し、大豆サポニン0.5%存在下では、コントロールに比して9.2倍の活性化作用を示した。
【実施例6】
【0040】
アセチルCoAシンテターゼmRNA合成増強作用評価試験
アセチルCoAシンテターゼmRNA合成増強作用評価試験には、マウス肝臓由来AML12細胞を用いた。AML12細胞を2×105/wellとなるよう6穴プレートに播種し、DMEM/F12 HAM(10%FBSを含む。)中で1日培養した。培養液を、被験物質を含むDMEM/F12培地(フェノールレッド無添加、活性炭処理10%FBSを含む。)に交換した。被験物質(大豆サポニン(株式会社常磐植物化学研究所製))は各々終濃度0.02%、0.05%、0.2%となるように培地に添加した。またPPAR−α活性化剤の陽性対照としてフェノフィブリン酸(Fenofibric acid;200μM、Toronto Research Chemicals製)をDMSOに終濃度0.2%となるように添加した。48時間培養後、PBSにて細胞を洗浄し、回収した。
【0041】
回収した細胞からのトータルRNAの抽出はRNAqueous−4PCR(Ambion社製)のプロトコルに従って行った。調製後、DNase処理により混入したゲノムDNAを分解した。DNaseはDNase Inactivation Reagentにより不活化した。
トータルRNAは0.2μg/μL濃度に調製し、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(ABI社製)のプロトコルにしたがって逆転写反応を行った。プライマーはoligo dTを使用した。この操作により、100ng/μL濃度のcDNAを得た。
大豆サポニンのPPARα標的遺伝子であるマウスアシルCoAシンテターゼ(ACS)のmRNA合成増強作用は、リアルタイムPCR法により評価した。100ngのcDNAにプライマー(5μM)およびSYBR Green PCR master mix(Qiagen社製)を加え、リアルタイムPCR(Applied Biosystems社製)にて反応を行った。アニール温度はプライマーのTm値に設定した。内部標準としてマウスGAPDHの発現も同時に測定し、補正値をグラフ化した。
図6に示すように、大豆サポニンは濃度依存的にマウスACSのmRNA合成を増強し、0.2%において対照の10.4倍の増強作用を示した。
【実施例7】
【0042】
前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化誘導作用
マウス前駆脂肪細胞由来3T3−L1細胞株を60mm培養皿に播種し、DMEM(10%CSを含む。)中で3日培養した。培養液をDMEM(10%FBSを含む。)に交換し、さらに2日培養した。その後分化誘導培地[DMEM−10%FBS、50μM IBMX、2μMインスリン(insulin)、1μMデキサメタゾン(dexamethazone)を含む。]に交換し、2日間培養した。さらに培養液を大豆サポニン(株式会社常磐植物化学研究所製)0.01%および0.05%を含んだDMEM−10%FBSに交換し、2日間培養した。培養後、この日を0日目とし、2、4、6日目に各被験物質を新たに培地に添加した。8日目に分化誘導した細胞を回収し、AdipoRed(Cambrex社製)を用いて脂肪滴の量を蛍光強度としてプレートリーダー(ARVO MX社製)にて測定した。陽性対照として、ピオグリタゾン(10μM)を用いた。また本試験は各被験物質につき2点行い、その平均値をグラフ化した。
図7に示すように、大豆サポニンは濃度依存的に、脂肪細胞の分化誘導能を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、大豆サポニンのPPARα、PPARδ、PPARγの活性化作用を示す図である。
【図2】図2は、大豆サポニンのLXRα、 β およびFXR活性化作用を示す図である。
【図3】図3は、大豆サポニンのRARγおよびRXRα活性化作用を示す図である。
【図4】図4は、大豆サポニンのERα、 VDR、TRαおよびTRβ活性化作用を示す図である。
【図5】図5は、大豆サポニンのPXRおよびNrf−2活性化作用を示す図である。
【図6】図6は、大豆サポニンのアセチルCoAシンテターゼmRNA合成増強作用を示す図である。
【図7】図7は、大豆サポニンの前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化作用を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポニンを含有することを特徴とする核内受容体および/または転写因子活性化促進剤。
【請求項2】
核内受容体が、ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)、肝臓X受容体(LXR)およびエストロゲン受容体(ER)から選択される少なくとも1の受容体である請求項1に記載の活性化促進剤。
【請求項3】
転写因子が、Nrf−2である、請求項1に記載の活性化促進剤。
【請求項4】
PPARが、PPARα、PPARδおよびPPARγから選択される少なくとも1である請求項2に記載の活性化促進剤。
【請求項5】
LXRが、LXRαまたはLXRβである請求項2に記載の活性化促進剤。
【請求項6】
ERが、ERαである請求項2に記載の活性化促進剤。
【請求項7】
サポニンが、大豆サポニンである請求項1〜6のいずれかに記載の活性化促進剤。
【請求項8】
メタボリックシンドロームの予防、治療用である請求項1、2、4、7のいずれかに記載の剤。
【請求項9】
アルツハイマー症候群の予防、治療用である請求項1、2、4、7のいずれかに記載の剤。
【請求項10】
炎症の予防、治療用である請求項1、2、5、7のいずれかに記載の剤。
【請求項11】
骨粗鬆症の予防、治療用である請求項1、2、6、7のいずれかに記載の剤。
【請求項12】
酸化ストレスまたは生体異物の解毒用である請求項1、3、7のいずれかに記載の剤。
【請求項13】
食品の形態である請求項1〜12のいずれかに記載の剤。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−100545(P2010−100545A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271771(P2008−271771)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(507186687)株式会社セラバリューズ (13)
【Fターム(参考)】