説明

核反応の誘起方法および核反応誘起装置

【課題】原子炉や加速器など大型装置を利用することなく簡便に核反応を誘起する装置を提供する。
【解決手段】照射部材の電離が可能なエネルギーのレーザ光線を照射部材に瞬間的に照射(ステップS1)して高エネルギー粒子を発生させ(ステップS2)、この高エネルギー粒子をターゲット材に照射(ステップS3)して核反応を誘起する(ステップS4)ので、原子炉や加速器と異なり取り扱いが容易で、低コストで核反応を誘起することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核反応の誘起方法および核反応誘起装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、レーザ光線を用いた核反応の誘起方法および核反応誘起装置に関するものであって、医療、材料検査、設備診断、核種消滅、核反応シミュレータへの利用に適した簡便な核反応の誘起方法および核反応の誘起装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核反応を起こさせるためには、中性子、水素原子核等の荷電粒子、電磁波(光子)等の粒子に大きな運動エネルギーを与えてターゲットとなる原子核に衝突等させる必要がある。従来、大きな運動エネルギーを有する粒子を得るために、原子炉や加速器等の特別の設備機器類を利用したり、あるいは放射性同位体の核崩壊現象を利用していた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−209457号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法では、核管理上の問題が有ったり、高価かつ大型の装置が必要となり、簡便な方法とは言い難い。
【0005】
本発明は、簡便に核反応を誘起できる核反応の誘起方法および核反応誘起装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために請求項1記載の核反応の誘起方法は、レーザ光線照射手段から照射された照射部材の電離が可能なエネルギーのレーザ光線を直接前記照射部材に瞬間的に照射して前記レーザ光線の電界及び光圧力とレーザパルスとにより誘起されたプラズマ波により生じた進行電界によって照射領域から電子を追い出し加速させ、前記電子が追い出されて電離された正イオンは前記電子と比べて質量が大きいことを利用して前記照射領域を前記正イオンの高密度領域として静電気力によって前記正イオンを加速して高エネルギー粒子を発生させ、この高エネルギー粒子をターゲット材に照射して核反応を誘起するものである。
【0007】
高エネルギーのパルスレーザ光線を照射部材に照射すると、高エネルギー粒子が発生する。この高エネルギー粒子はターゲット材に衝突し、ターゲット材中の原子核に核反応を生じさせる。
【0008】
また、請求項2記載の核反応の誘起方法は、レーザ光線が、パルス幅が10ピコ秒以下のパルスレーザ光線である。したがって、レーザ光線のピークパワーを増加させることができる。また、レーザ光線の照射領域の原子核が拡散し始める前に照射が終了するので、原子核を加速して高エネルギー化させる電界の形成に有利になる。
【0009】
また、請求項3記載の核反応の誘起方法のように、ターゲット材と照射部材は同一部材であっても良く、請求項4記載の核反応の誘起方法のように、ターゲット材は、照射部材と異なる部材であっても良い。
【0010】
また、請求項5記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子を100キロ電子ボルト以上の運動エネルギーに加速できる大きさのエネルギーを有するレーザ光線を照射部材に照射するものである。したがって、高エネルギー粒子によって核反応を誘起することができる。
【0011】
また、請求項6記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子を、電子、電磁波、正イオンのうち少なくともいずれか一つとしている。なお、これらの高エネルギー粒子のうち主に発生する粒子の選択は、ターゲット材の選択によって可能である。例えば、ターゲット材として、ガスなどを用いれば電子が、薄膜を用いれば正イオンが、厚い金属ターゲットを用いれば電磁波(γ線レベルの電磁波)を選択的に発生させることができる。
【0012】
また、請求項7記載の核反応の誘起方法のように、高エネルギー粒子を照射部材のレーザ照射面に対して垂直かつレーザの照射源から離れる方向に加速するようにしても良い。
【0013】
また、請求項8記載の核反応の誘起方法のように、高エネルギー粒子は、水素原子核、重水素原子核、三重水素原子核のうち少なくともいずれか一つであり、当該高エネルギー粒子をターゲット材に照射して核融合反応を誘起するようにしても良い。
【0014】
また、請求項9記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として水素原子核を、ボロン−11を含むターゲット材に照射し、11B(p,n)11Cで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体である炭素−11が製造される。
【0015】
また、請求項10記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として重水素原子を、ボロン−10を含むターゲット材に照射し、10B(d,n)11Cで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体である炭素−11が製造される。
【0016】
また、請求項11記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として水素原子核を、ボロン−10を含むターゲット材に照射し、10B(p,α)Beで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体であるベリリウム−7が製造される。
【0017】
また、請求項12記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として重水素原子を、炭素−12を含むターゲット材に照射し、12C(d,n)13Nで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体である窒素−13が製造される。
【0018】
また、請求項13記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として水素原子核を、窒素−14を含むターゲット材に照射し、14N(p,α)11Cで表される核融合反応を誘起するものであるしたがって、短寿命放射性同位体である炭素−11が製造される。
【0019】
また、請求項14記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として水素原子核を、酸素−16を含むターゲット材に照射し、16O(p,α)13Nで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体である窒素−13が製造される。
【0020】
また、請求項15記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として重水素原子核を、窒素−14を含むターゲット材に照射し、14N(d,n)15Oで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体である酸素−15が製造される。
【0021】
また、請求項16記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として水素原子核を、窒素−15を含むターゲット材に照射し、15N(p,n)15Oで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体である酸素−15が製造される。
【0022】
また、請求項17記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として重水素原子核を、ネオン−20を含むターゲット材に照射し、20Ne(d,α)18Fで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、短寿命放射性同位体であるフッ素−18が製造される。
【0023】
また、請求項18記載の核反応の誘起方法は、高エネルギー粒子として水素原子核を、酸素−18を含むターゲット材に照射し、18O(p,n)18Fで表される核融合反応を誘起するものである。したがって、放射性同位体であるフッ素−18が製造される。
【0024】
また、請求項19記載の核反応の誘起方法は、核反応による生成物の半減期よりも短い間隔で前記レーザ光線の照射を繰り返し行うものである。したがって、半減期の短い生成物が蓄積される。
【0025】
また、請求項20記載の核反応の誘起方法のように、照射部材を、薄膜またはガスジェットとしても良い。
【0026】
また、請求項21記載の核反応の誘起方法のように、高エネルギー粒子をターゲット材に照射してターゲット材中の原子核を励起させるようにしても良い。
【0027】
さらに、請求項22記載の核反応誘起装置は、照射部材と、該照射部材の電離が可能なエネルギーのレーザ光線を直接前記照射部材に照射して前記レーザ光線の電界及び光圧力とレーザパルスとにより誘起されたプラズマ波により生じた進行電界によって照射領域から電子を追い出し加速させ、前記電子が追い出されて電離された正イオンは前記電子と比べて質量が大きいことを利用して前記照射領域を前記正イオンの高密度領域として静電気力によって前記正イオンを加速して高エネルギー粒子を発生させるレーザ光線照射手段と、前記高エネルギー粒子によって核反応を誘起される原子核を含むターゲット材を備えるものである。
【0028】
したがって、レーザ照射手段からレーザ光線が照射部材に照射されると、高エネルギー粒子が発生する。この高エネルギー粒子はターゲット材に衝突し、ターゲット材中の原子核に核反応を引き起こさせる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の核反応の誘起方法では、照射部材の電離が可能なエネルギーのレーザ光線を照射部材に瞬間的に照射して高エネルギー粒子を発生させ、この高エネルギー粒子をターゲット材に照射して核反応を誘起するので、簡便に核反応を誘起することができる。すなわち、原子炉や加速器を使用して核反応を誘起する場合に比べて、取り扱いが容易で、しかも低コストで核反応を誘起することができる。このため、大型構造物の設備診断、医療応用などに使用される種々のX線、電子ビーム、イオンビーム、放射性同位体等を低コストで簡便に供給することができる。また、線源として放射性同位体を使用する必要がないので、放射線管理面でも有利である。
【0030】
また、本発明の核反応誘起装置では、照射部材と、該照射部材の電離が可能なエネルギーのレーザ光線を照射部材に照射して高エネルギー粒子を発生させるレーザ光線照射手段と、高エネルギー粒子によって核反応を誘起される原子核を含むターゲット材を備えているので、簡便な装置で核反応を誘起することができる。このため、低コストで放射性同位体や線源を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る核反応の誘起方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る核反応誘起装置を示す概念図である。
【図3】レーザ光線の強さと発生するイオンの最大エネルギーとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0033】
図1に本発明を適用した核反応の誘起方法を、図2に本発明を適用した核反応誘起装置をそれぞれ示す。核反応誘起装置は、照射部材11と、該照射部材11の電離が可能なエネルギーのレーザ光線18を照射部材11に照射して高エネルギー粒子19を発生させるレーザ光線照射手段12と、高エネルギー粒子19によって核反応を誘起される原子核を含むターゲット材13を備えている。
【0034】
照射部材11は、例えば薄膜、より具体的には例えばマイラのフィルム14に重水素置換プラスチックを塗布して重水素置換プラスチック層15を形成したものである。フィルム14の厚さは、例えば約10μmである。
【0035】
レーザ光線照射手段12は、例えば10TWの出力のハイブリッドチタン:サファイヤ/Nd:燐酸塩ガラスCPAレーザ装置である。このレーザ装置は、例えばパルス幅400フェムト秒で3ジュール程度のエネルギーを有するレーザ光線18を、例えば直径10ミクロン程度の大きさに集光して照射部材11の重水素置換プラスチック層15に照射することができる。即ち、このレーザ装置では、発振器で発生させたレーザ光線をパルス幅拡張器でパルス幅の拡張を行った後、増幅器で増幅し、さらにパルス幅圧縮機でパルス幅を圧縮することでピークパワーを増加させている。そして、この様にして発生させた超短パルスでピークパワーの大きなレーザ光線を集光レンズによって集光し、照射部材11の重水素置換プラスチック層15に照射する。例えば、発振器で発生させたパルス時間幅が0.1ピコ秒、レーザエネルギーが1マイクロJのレーザ光線をパルス幅拡張器によってパルス時間幅が1ナノ秒、レーザエネルギーが10マイクロJのレーザ光線にした後、増幅器でパルス時間幅が1ナノ秒、レーザエネルギーが1J以下のレーザ光線にし、さらにパルス幅圧縮器によってパルス時間幅が0.1ピコ秒、レーザエネルギーが1J以下のレーザ光線に変換する。このようにパルス時間幅を圧縮することで、レーザ光線18のピーク出力を約10テラWにすることができる。
【0036】
ターゲット材13は、例えばボロン−10を約90パーセントまで濃縮したボロン片である。ターゲット材13は、照射部材11のレーザ光線18が照射される部分の真後ろに、例えば8mm離して配置される。
【0037】
なお、ターゲット材13の後方には、ポリエチレンテレフタレートフィルムで構成されたフィルタ16とモニタ17が配置されている。これらは、ターゲット材13に照射される高エネルギー粒子19のエネルギーを推定するためのものである。即ち、フィルタ16の厚さとこれを透過できる粒子の運動エネルギーとの間には一定の関係があるので、モニタ17によってフィルタ16を透過した粒子を検出することで、当該粒子が一定値以上の運動エネルギーを有していたことがわかる。例えば、水素イオンの場合、厚さ10μmのフィルタ16を透過するためには1MeV程度の運動エネルギーが必要であることから、モニタ17によって水素イオン(水素原子核)が検出されると、その水素イオンは1MeV程度以上の運動エネルギーを有していることがわかる。ただし、フィルム16及びモニタ17は必ず必要なものではなく、省略可能である。
【0038】
核反応誘起装置の周囲は、図示しない遮蔽壁によって遮蔽されており、高エネルギーのレーザ光線18を照射部材11に照射することで発生した高エネルギー粒子19や、核反応生成物から放出される放射線の漏れを防止している。
【0039】
次に、核反応の誘起方法について説明する。この核反応の誘起方法は、照射部材11の電離が可能なエネルギーのレーザ光線18を照射部材11に瞬間的に照射(ステップS1)して高エネルギー粒子19を発生させ(ステップS2)、この高エネルギー粒子19をターゲット材13に照射して(ステップS3)核反応を誘起する(ステップS4)ものである。
【0040】
なお、照射するレーザ光線18としてはパルス幅が10ピコ秒以下のパルスレーザ光線の使用が好ましい。パルス幅が10ピコ秒よりも長くなると、レーザ光線18の照射時間が長くなることからレーザ光線18によって電離された原子核の拡散が照射終了前に始まり、電荷分離領域の形成が不十分になって原子核を十分に加速するのが困難になるからである。また、同じエネルギーでもパルス幅を短くすることでピークパワーを高くすることができてレーザ光線18の電界を大きくすることができ、より電荷分離領域の正負の差を大きくすることができるからである。
【0041】
レーザ光線照射手段12から、例えばパルス幅400フェムト秒で3ジュール程度のエネルギーを有するレーザ光線18を直径10ミクロン程度の大きさに集光して照射部材11の重水素置換プラスチック層15に照射する(ステップS1)と、レーザ光線18の非常に高い電界や光圧力、レーザパルスにより誘起されたプラズマ波により生じた進行電界により、極微少な照射領域から電子が追い出され加速される。
【0042】
一方、電子が追い出されて電離された原子核(正イオン)は電子に比べて質量が大きいため、レーザ光線18の照射後しばらくの間はほとんど動かない。このため、極微少な照射領域が正イオンの高密度領域となり、その静電気力で正イオンは爆発的に加速され、例えば図3に示すような10メガ電子ボルトに近い高エネルギーの正イオンが発生する(ステップS2)。つまり、レーザ光線18を照射部材11に照射することで、高エネルギー粒子19としての正イオンを発生させることができる。ただし、必ずしも高エネルギー粒子19のエネルギーを10メガ電子ボルト近くまで高める必要はなく、例えば、100キロ電子ボルト以上のエネルギーに高めることができれば良く、より好ましくは、核反応を誘起できる程度の大きさのエネルギーに高めることができれば良い。
【0043】
ここで、レーザ光線18の照射領域は一定の面積を有しているので、正イオンの高密度領域は直径数十μm、厚み10μm以下程度のシート状のものとなり、平面的な電位分布が形成される。したがって、この電界によって加速される正イオンはレーザ光線18の照射面に対して垂直で、かつレーザの照射源であるレーザ光線照射手段12から離れる方向、即ち、照射部材11の後方のターゲット材13に向けて進む。なお、実験では、正イオンの流れであるイオンビームの方向は全角40度程度の広がりがあった。
【0044】
本実施形態では、レーザ光線18を照射部材11の重水素置換プラスチック層15に照射しているので、高エネルギーの正イオンとして主に重水素イオンが発生する。つまり、レーザ光線18を照射部材11に照射することで、高エネルギー粒子19としての重水素原子核を発生させることができる。この高エネルギーの重水素イオン(重水素原子核)はボロン片であるターゲット材13に照射される(ステップS3)。したがって、ターゲット材13では10B(d,n)11Cで表される核反応が生じる(ステップS4)。このため、炭素−11(11C)と中性子(n)を生産することができる。なお、核反応はターゲット材13の表面から例えば1mmの深さまでの領域13aで発生する。したがって、生成物である炭素−11がターゲット材13のどこに存在するかが明らかである。
【0045】
なお、照射部材11に重水素置換プラスチック層15の形成を省略しても良く、また、ターゲット材13としてはボロン−10を濃縮していないものを使用しても良い。この場合には、高エネルギーの正イオンとして主に水素イオンが発生する。つまり、レーザ光線18を照射部材11に照射することで、高エネルギー粒子19としての水素原子核を発生させることができる。この高エネルギーの水素イオン(水素原子核)がターゲット材13に照射されると11B(p,n)11Cで表される核反応が生じる。このため、炭素−11と中性子を生産することができる。
【0046】
炭素−11は半減期20分のほぼ純粋なポジトロン源であり、医療や材料の欠陥検査などに使用することができる。また、半減期が20分と短いために一晩経過すると放射能が大きく減衰し、ナトリウム−22などと比較すると放射性物質管理上大きなメリットがある。前述のレーザ出力では、レーザ光線18の1パルスあたり2ナノキューリの炭素−11を生成することが可能である。これを10Hzのパルス繰り返しのレーザ装置を用いて1時間程度照射を繰り返すことにより、10マイクロキューリ以上の炭素−11を得ることができる。この値は校正用線源などとして既に市販されているナトリウム−22と同じレベルに相当する。
【0047】
なお、レーザ光線18の照射領域から追い出されて加速された電子は高エネルギーの電子であり、照射部材11やその他の物質等を透過する際に主として制動輻射により高エネルギーのX線を発生させる。このX線は、高エネルギー電子が進んでいた方向に発生するので、レーザ光線18の照射面に対して垂直で、かつレーザ光線照射手段12から離れる方向に向けて発生する。
【0048】
また、発生したX線のうち1.02(=0.51×2)MeVよりも大きなエネルギーを有しているものは、他の物質との相互作用により電子対を生成させることもある。即ち、高エネルギーのポジトロン(陽電子)と電子の発生が可能である。つまり、レーザ光線18を照射部材11に照射することで、高エネルギー粒子19としての電子、X線(電磁波)、陽電子を発生させることができる。
【0049】
一方、レーザ光線18の照射によって発生する高エネルギーの正イオンは照射部材11中の他の物質との間で核融合反応や核分裂反応を起こさせることが可能である。そして、これらの反応で生じたγ線によって(γ,n)反応などが引き起こされ、反応前元素の同位体と中性子が生成される。
【0050】
照射部材11とターゲット材13の材料の組み合わせを変えることで、上述の10B(d,n)11C反応、11B(p,n)11C反応の他にも種々の核反応を誘起することができる。例えば、照射部材11として水素原子を含むものを使用することで、高エネルギーの正イオンとして主に水素原子核(p)が発生するので、この高エネルギーの水素原子核を、窒素−14を含むターゲット材13に照射することで、14N(p,α)11Cで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体である炭素−11とα粒子を生成することができる。また、高エネルギー粒子19として水素原子核を、酸素−16を含むターゲット材13に照射することで、16O(p,α)13Nで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体である窒素−13とα粒子を生成することができる。さらに、高エネルギー粒子19として水素原子核を、酸素−18を含むターゲット材13に照射することで、18O(p,n)18Fで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体であるフッ素−18と中性子を生成することができる。また、高エネルギー粒子19として水素原子核を、ボロン−10を含むターゲット材13に照射することで、10B(p,α)Beで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体であるベリリウム−7とα粒子を生成することができる。また、高エネルギー粒子19として水素原子核を、窒素−15を含むターゲット材13に照射することで、15N(p,n)15Oで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体である酸素−15と中性子を生成することができる。
【0051】
また、照射部材11として重水素原子を含むものを使用することで、高エネルギーの正イオンとして主に重水素原子核(d)が発生するので、この高エネルギーの重水素原子核を、炭素−12を含むターゲット材13に照射することで、12C(d,n)13Nで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体である窒素−13と中性子を生成することができる。また、高エネルギー粒子19として重水素原子核を、窒素−14を含むターゲット材13に照射することで、14N(d,n)15Oで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体である酸素−15と中性子を生成することができる。さらに、高エネルギー粒子19として重水素原子核を、ネオン−20を含むターゲット材13に照射することで、20Ne(d,α)18Fで表される核融合反応を誘起することができ、短寿命放射性同位体であるフッ素−18とα粒子を生成することができる。
【0052】
さらに、上述の出力のレーザ光線18の照射によって発生するX線、正イオン等の粒子のエネルギーは核分裂反応の閾値以上になるため、容易に核反応を誘起することができる。例えば、照射部材11として水素原子を含むものを、ターゲット材13としてウラン等を含むものを使用し、高エネルギー、例えば10MeV程度のエネルギーを持つ水素イオンをターゲット材13に照射することでウラン等に核分裂反応を起こさせることが可能である。
【0053】
また、原子核を励起することも可能である。即ち、レーザ光線18を照射部材11に照射することで発生する高エネルギー粒子19によってターゲット材13中の原子核を励起して核異性体を生成することができる。核異性体がより安定した核異性体に変化する核異性体転移現象では一定エネルギーのγ線が放出されるので、ラインスペクトルのγ線源を得ることができるとともに、γ線レーザへの展開が可能である。
【0054】
本発明では、核反応を誘起する高エネルギー粒子19を発生させるために超短パルスのレーザ光線18を使用しているので、原子炉や加速器等を使用して核反応を誘起する場合に比べて、装置を大幅に小型化することができるとともに、遮蔽設備を簡単なものにすることができる。このため、核反応を利用して製造される放射性同位体等を低コストで提供することができる。また、放射線の管理が容易になる。さらに、放射線医療施設等の放射性同位体の消費場所により近い場所で放射性同位体の製造が可能になり、特に半減期の短い放射性同位体の製造に適している。
【0055】
また、本発明はレーザ光線18を照射することで核反応を誘起するので、核反応の制御が簡単である。つまり、レーザ光線18のオン・オフによって核反応を誘起したり停止させたりすることができる。また、レーザ光線18の照射密度や出力等によって発生させる高エネルギー粒子19のエネルギーを調整することができ、核反応の量を制御することができる。
【0056】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の説明では、照射部材11とターゲット材13を異なる部材としていたが、これらを同一部材としてレーザ光線18を照射した部材に含まれる原子核に核反応を誘起するようにしても良い。この場合には、核反応の起きる範囲をレーザ光線18の照射領域の近傍に限定することができる。
【0057】
また、上述の説明では、高エネルギー粒子19が主に水素原子核又は重水素原子核である場合について説明したが、例えば主に三重水素原子核であっても良く、さらには、これらが混じったものであっても良い。
【0058】
また、核反応による生成物の半減期よりも短い間隔でレーザ光線18の照射を繰り返し行うようにしても良い。この様にすることで、半減期の短い生成物を蓄積することができる。
【0059】
さらに、上述の説明では、照射部材11を薄膜としていたが、ガスジェットでも良い。即ち、例えばガスの高速流にレーザ光線18を照射するようにしても良い。
【符号の説明】
【0060】
11 照射部材
12 レーザ光線照射手段
13 ターゲット材
18 レーザ光線
19 高エネルギー粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光線照射手段から照射された照射部材の電離が可能なエネルギーのレーザ光線を直接前記照射部材に瞬間的に照射して前記レーザ光線の電界及び光圧力とレーザパルスとにより誘起されたプラズマ波により生じた進行電界によって照射領域から電子を追い出し加速させ、前記電子が追い出されて電離された正イオンは前記電子と比べて質量が大きいことを利用して前記照射領域を前記正イオンの高密度領域として静電気力によって前記正イオンを加速して高エネルギー粒子を発生させ、この高エネルギー粒子をターゲット材に照射して核反応を誘起することを特徴とする核反応の誘起方法。
【請求項2】
前記レーザ光線は、パルス幅が10ピコ秒以下のパルスレーザ光線であることを特徴とする請求項1記載の核反応の誘起方法。
【請求項3】
前記ターゲット材と前記照射部材は同一部材であることを特徴とする請求項1または2記載の核反応の誘起方法。
【請求項4】
前記ターゲット材は、前記照射部材と異なる部材であることを特徴とする請求項1または2記載の核反応の誘起方法。
【請求項5】
前記高エネルギー粒子を100キロ電子ボルト以上の運動エネルギーに加速できる大きさのエネルギーを有するレーザ光線を前記照射部材に照射することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の核反応の誘起方法。
【請求項6】
前記高エネルギー粒子は、電子、電磁波、正イオンのうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の核反応の誘起方法。
【請求項7】
前記高エネルギー粒子を前記照射部材のレーザ照射面に対して垂直かつレーザの照射源から離れる方向に加速することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の核反応の誘起方法。
【請求項8】
前記高エネルギー粒子は水素原子核、重水素原子核、三重水素原子核のうち少なくともいずれか一つであり、当該高エネルギー粒子を前記ターゲット材に照射して核融合反応を誘起することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の核反応の誘起方法。
【請求項9】
高エネルギー粒子として水素原子核を、ボロン−11を含むターゲット材に照射し、11B(p,n)11Cで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項10】
高エネルギー粒子として重水素原子を、ボロン−10を含むターゲット材に照射し、10B(d,n)11Cで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項11】
高エネルギー粒子として水素原子核を、ボロン−10を含むターゲット材に照射し、10B(p,α)Beで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項12】
高エネルギー粒子として重水素原子を、炭素−12を含むターゲット材に照射し、12C(d,n)13Nで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項13】
高エネルギー粒子として水素原子核を、窒素−14を含むターゲット材に照射し、14N(p,α)11Cで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項14】
高エネルギー粒子として水素原子核を、酸素−16を含むターゲット材に照射し、16O(p,α)13Nで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項15】
高エネルギー粒子として重水素原子核を、窒素−14を含むターゲット材に照射し、14N(d,n)15Oで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項16】
高エネルギー粒子として水素原子核を、窒素−15を含むターゲット材に照射し、15N(p,n)15Oで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項17】
高エネルギー粒子として重水素原子核を、ネオン−20を含むターゲット材に照射し、20Ne(d,α)18Fで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項18】
高エネルギー粒子として水素原子核を、酸素−18を含むターゲット材に照射し、18O(p,n)18Fで表される核融合反応を誘起することを特徴とする請求項8記載の核反応の誘起方法。
【請求項19】
核反応による生成物の半減期よりも短い間隔で前記レーザ光線の照射を繰り返し行うことを特徴とする請求項1から18のいずれかに記載の核反応の誘起方法。
【請求項20】
前記照射部材は、薄膜またはガスジェットであることを特徴とする請求項1から19のいずれかに記載の核反応の誘起方法。
【請求項21】
前記高エネルギー粒子を前記ターゲット材に照射して前記ターゲット材中の原子核を励起させることを特徴とする請求項1から7、19、20のいずれかに記載の核反応の誘起方法。
【請求項22】
照射部材と、該照射部材の電離が可能なエネルギーのレーザ光線を直接前記照射部材に照射して前記レーザ光線の電界及び光圧力とレーザパルスとにより誘起されたプラズマ波により生じた進行電界によって照射領域から電子を追い出し加速させ、前記電子が追い出されて電離された正イオンは前記電子と比べて質量が大きいことを利用して前記照射領域を前記正イオンの高密度領域として静電気力によって前記正イオンを加速して高エネルギー粒子を発生させるレーザ光線照射手段と、前記高エネルギー粒子によって核反応を誘起される原子核を含むターゲット材を備えることを特徴とする核反応誘起装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−103260(P2012−103260A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−275774(P2011−275774)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【分割の表示】特願2000−295208(P2000−295208)の分割
【原出願日】平成12年9月27日(2000.9.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2000年3月28日〜31日 社団法人応用物理学会主催の「2000年(平成12年)春季第47回応用物理学関係連合講演会」において文書をもって発表
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(510041142)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (20)
【Fターム(参考)】