説明

核酸の定量方法

【課題】核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ高精度に定量するための核酸の定量方法、及び、該定量方法に用いられる核酸の定量装置の提供
【解決手段】核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する方法であって、(a)複数種類の標的核酸を、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する工程と、(b)複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する2種類の受容体を用いて、検出して定量する工程と、(c)工程(b)において検出に用いた受容体の、工程(a)において用いられた各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を用いて、工程(b)により得られた値を補正する工程と、を有することを特徴とする核酸の定量方法、及び、該定量方法に用いられる核酸の定量装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ高精度に定量するための核酸の定量方法、及び該定量方法に用いられる核酸の定量装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中に存在する標的核酸を検出して定量する方法は、生体内で発現・機能しているタンパク質の核酸分子レベルでの解析、特にタンパク質の発現制御の研究等において重要であるのみならず、遺伝的疾患の変異遺伝子の検出、癌の診断、ウィルス関連遺伝子の検出等の遺伝子診断においても極めて重要である。特に、遺伝子診断等における核酸の検出及び定量では、多検体を処理するため、迅速性が要求される一方、確定診断として用いられるため、高い精度が要求される。しかしながら、従来の核酸の検出方法は、多くの工程を含み煩雑であり、また、検出や定量の精度も充分ではない。このため、迅速性を保ちながら高い精度を有する核酸の検出・定量方法の改良が望まれている。
【0003】
試料中に存在する標的核酸を検出する代表的な方法としては、ハイブリダイゼーション法がある。核酸のハイブリダイゼーション法は、検出すべき標的核酸の塩基配列と相補的な配列を有するプローブを用いて、多種類の核酸の中から非常に少数の標的核酸を検出する方法であり、該方法を応用した核酸検出法として、種々の方法が開示されている。例えば、(1)写真平板技術を用いてマトリックス上にオリゴヌクレオチドを合成する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照。)。該方法によって固相上に多種類のDNAプローブが合成されたDNAチップは、従来のハイブリダイゼーション法に比べて操作が非常に簡便であるうえに、一度に多検体を処理することが可能であり、又、B/F分離性も良好であるため、核酸検出の迅速性を極めて向上させ得る方法である。
【0004】
しかしながら、ハイブリダイゼーション法には、ハイブリダイゼーション条件によっては、標的核酸以外の核酸であって、標的核酸の塩基配列と類似した塩基配列を有する核酸も検出されるという、偽陽性ハイブリダイゼーションの問題がある。特に、塩基配列は基本的に4種類の塩基からなる配列にすぎないため、タンパク質等を検出する場合よりも偽陽性ハイブリダイゼーションが起こりやすい。このような偽陽性ハイブリダイゼーションを避けるためには、各プローブの至適条件でハイブリダイゼーションを行えばよいが、プローブが極めて密に固相化されているDNAチップを用いる場合には、プローブ毎に最適な条件を与えることは不可能である。
加えて、従来のDNAチップでは、検出すべき標的核酸の種類が変われば、新たにそれらと相補的な塩基配列を有するプローブを固相化し直さなければならないため、極めて多種類の核酸が検出対象とされる臨床検査に適用するには汎用性が十分ではないという欠点をも有している。
このようなDNAチップによるハイブリダイゼーション法の問題を解決しようと、DNAチップ法によらない蛍光beads法、qPCR(Polymerase Chain Reaction)法、TaqMan法、スニプレックス法といった方法が考案されているが、ハイブリダイゼーション法を基本としているため、偽陽性ハイブリダイゼーションの問題は解決されていない。さらに、高価なチップ、蛍光試薬ならびに蛍光リーダーを必要とするため、経済的にも好ましくはない。
【0005】
そこで、近年、ハイブリダイゼーション法に代わる方法として、従来はタンパク質の検出・定量方法として用いられてきた方法が、核酸の検出・定量方法に応用されてきている。該方法として、例えば、免疫凝集法がある(例えば、非特許文献2参照。)。
免疫凝集法は、抗体を感作したラテックスビーズを抗原と混合すると凝集し、結果として凝集塊がスライド上に目視できることを原理とする。近年、粒径が小さくなりコロイド状のサブナノオーダーのラテックスビーズ(以下、ラテックス粒子という)が開発されたことに伴い、ラテックス粒子による近赤外線光の散乱を測定することによって、タンパク質の定量を行うことを原理とする、ラテックス免疫比濁法が開発された。具体的には、標的タンパク質と結合する抗体を結合したラテックス粒子に、標的タンパク質を混合させると、連鎖反応的にラテックス粒子の連結が起こり、凝集塊が生じる。該凝集塊は、見かけ上、粒径が大きいため、より粒径が小さい単体のラテックス粒子に比べて、高い波長の近赤外光領域において光の散乱を生じさせることができる。現在ラテックス粒子は主にポリスチレンからなり、粒径が数十nm程度の小さい粒子も存在している。
【0006】
免疫凝集法を応用した核酸の検出方法として、例えば、(1)抗原または抗体を結合した遺伝子断片を使用して増幅した2重鎖遺伝子を、前記抗原または抗体を認識する抗体または抗原を結合した粒子、あるいは前記抗原または抗体と特異的に結合する物質を結合した粒子と反応させ、粒子の凝集程度を測定することにより目的遺伝子を検出することを特徴とする遺伝子検出法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
その他、免疫凝集法と双璧をなす公知のタンパク質の検出・定量法として、ELISA法がある。該方法は、スチレン樹脂等のマイクロウェルプレートの内壁に、標的タンパク質を認識する第一の抗体を固相し、次にこの第一の抗体により標的タンパク質を補足し洗浄する。次いで、酵素や蛍光物質等で標識された第二の抗体により標的タンパク質を認識させ、最終的に第二の抗体に標識した酵素活性や蛍光物質の蛍光を測定することにより、標的タンパク質を検出して定量する。該方法は、B/F分離のための工程が必要であり、免疫凝集法と比較して工程が複雑であるが、感度が高いため、臨床検査の微量生体物質の検出・定量に役立ち、簡易検査から全自動分析に至るまで幅広く応用されている。
【0008】
上記の免疫比濁法やELISA法を、核酸の検出・定量に応用する場合には、標的核酸をリガンドで標識し、該リガンドと特異的に結合する受容体を用いて標的核酸を検出して定量することになる。つまり、抗原抗体反応のようなリガンドと受容体の結合反応を基礎としているため、使用する受容体のリガンドに対する親和性及び特異性が高い場合には、非常に精度の高い標的物質の検出・定量が可能である。また、標的核酸の配列情報をリガンドの組み合わせにマルチプレックスに変換することができるため、上記のDNAチップを用いた方法と異なり、検出又は定量すべき標的核酸の種類が変わっても、個々の標的核酸毎にそれぞれ特異的な検出用プローブを必要としない。さらに、免疫比濁法やELISA法は、既に広く普及しており、操作も簡便であるため、免疫比濁法やELISA法を応用した核酸の検出・定量方法は、極めて多種類の核酸が検出対象とされる臨床検査等にも適用することが可能である。
【0009】
但し、免疫比濁法やELISA法には、受容体のリガンドに対する親和性及び特異性が低い場合には、リガンド以外の物質と受容体が交差するため、正確な核酸の検出や定量が不可能となる、という問題がある。したがって、標的核酸の検出・定量には、リガンドに対する親和性及び特異性の高い受容体を用いることが好ましい。
【非特許文献1】Fodor et al.(1991)Science 251(4995):p767〜773
【非特許文献2】Singer et al.(1956)The American journal of medicine 21(6):p888〜892
【特許文献1】特開平9−304383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、標的物質を高精度に定量することが可能であるほど、リガンドに対する親和性及び特異性が充分に高い受容体を得ることは、通常は困難である。特に、核酸の標識に用いられるような低分子のリガンドの場合には、立体構造上非常に良く似た物質が多く存在していることが多いため、他の物質と交差しない特異性の高い受容体を得ることは難しい。受容体として抗体を用いる場合には、抗体の種類によっては、抗原による免疫誘導が起こりにくい等の理由により、抗原に対する親和性の低い抗体しか得られない場合も多い。
このため、試料中に含まれる標的核酸が1種類である場合には、上記(1)の方法により、非常に精度よく標的核酸を検出・定量することができるが、複数種類の標的核酸が含まれている場合には、それぞれの標的核酸の検出・定量において、充分な精度を得ることは期待できない。核酸に結合し得るリガンドの種類は、現在では未だ充分ではないため、複数種類の標的核酸を検出・定量する場合には、例えばローダミンとTAMRAといった非常に構造が類似したリガンド同士の組み合わせを用いなければならないことも多く、通常、リガンドに対する親和性及び特異性が充分に高い受容体のみを用いることはできないためである。
【0011】
本発明は、免疫凝集法やELISA法を応用して、複数種類の標的核酸を検出して定量する場合において、リガンドに対する親和性及び特異性が充分ではない受容体を用いる場合であっても、標的核酸を高精度に検出して定量することを可能とする方法、及び該方法に用いられる核酸の定量装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、異なる種類のリガンドで標識した複数種類の標的核酸を、それぞれのリガンドに対する受容体を用いて検出して定量する場合に、実際の測定値を、核酸試料中に存在する各リガンドに対する各受容体の親和性を用いて補正することにより、リガンドに対する親和性及び特異性が充分ではない受容体を用いる場合であっても、標的核酸を高精度に検出して定量することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、吸光度、酵素活性、蛍光強度等を測定することにより得られた標的核酸の概ねの存在量に、該標的核酸を認識し結合する受容体の、該標的核酸に対する親和性を、該標的核酸を認識し結合する受容体の、核酸試料中に同時に存在する全ての標識された標的核酸に対する親和性の総和で除した値を掛けることによって補正することができる。
【0013】
すなわち、本発明は、核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する方法であって、(a) 複数種類の標的核酸を、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する工程と、(b) 複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する2種類の受容体を用いて、検出して定量する工程と、(c) 工程(b)において検出に用いた受容体の、工程(a)において用いられた各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を用いて、工程(b)により得られた値を補正する工程と、を有することを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する方法であって、(a) 複数種類の標的核酸を、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する工程と、(b) 複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する2種類の受容体を用いて、検出して定量する工程と、(d) 工程(b)において検出に用いた受容体の、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドに対する親和性と、前記受容体の、工程(a)において用いられた各種類のリガンドそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、工程(b)により得られた値を補正する工程と、を有することを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する方法であって、(a’) 複数種類の標的核酸を、全ての種類の標的核酸に共通する第一のリガンドと、全ての種類の標的核酸において異なる第二のリガンドからなる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する工程と、(b) 複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられた前記第一のリガンド及び前記第二のリガンドのそれぞれと特異的に結合する2種類の受容体を用いて、検出して定量する工程と、(d’) 工程(b)において検出に用いた2種類の受容体のうち、前記第二のリガンドと特異的に結合する受容体の、前記第二のリガンドに対する親和性と、前記第二のリガンドと特異的に結合する受容体の、前記核酸試料中に存在する、前記第一のリガンド以外の全ての種類のリガンドそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、工程(b)により得られた値を補正する工程と、を有することを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(b)の後、前記工程(c)、前記工程(d)若しくは前記工程(d’)の前に、(e) 前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を測定する工程と、を有することを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記親和性が、Kd値(平衡解離定数)の逆数であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記親和性を測定する工程が、蛍光シグナルを解析する方法を用いて行われることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記蛍光シグナルを解析する方法が、FCS(蛍光自己相関関数、Fluorescence Correlation Spectroscopy)解析法であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記蛍光シグナルを解析する方法が、FIDA(蛍光強度分布、Fluorescence Intensity Distribution Analysis)解析法であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記リガンドが、蛍光物質、親水性有機化合物、ビオチン(biotin)、グルタチオン(Glutathione)、DNP(dinitorophenol)、ジゴキシゲニン(digoxigenin)、ジゴキシン(digoxin)、2以上の糖からなる糖鎖、6以上のアミノ酸からなるポリペプチド、オーキシン、ジベレリン、ステロイド、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、MBP(マルトース結合タンパク質)、アビジン、ストレプトアビジン、タンパク質、及び、それらの類縁体からなる群より選ばれる化合物であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記リガンドが、蛍光物質、親水性有機化合物、ビオチン(biotin)、グルタチオン(Glutathione)、DNP(dinitorophenol)、ジゴキシゲニン(digoxigenin)、ジゴキシン(digoxin)、2以上の糖からなる糖鎖、6以上のアミノ酸からなるポリペプチド、オーキシン、ジベレリン、ステロイド、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、MBP(マルトース結合タンパク質)、アビジン、ストレプトアビジン、タンパク質、及び、それらの類縁体からなる群より選ばれ、かつ、核酸に対するリンカーを結合した化合物であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記蛍光物質が、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン(Rhodamin)、TAMRA、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)、Alexa dyeシリーズ(Molecular Probes社製)、Cy dyeシリーズ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)からなる群より選ばれる蛍光物質であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記6以上のアミノ酸からなるポリペプチドが、Hisタグ、HAタグ、Mycタグ、及びFlagタグからなる群より選ばれるポリペプチドであることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(a)において、リガンドを用いて標識する方法が、1種類の標的核酸に対して、それぞれ異なるリガンドで標識された2種類のプライマーを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)増幅する方法であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、前記工程(b)において、検出し、定量する方法が、免疫比濁法又はELISA法であることを特徴とする核酸の定量方法を提供するものである。
また、本発明は、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて標識されている、核酸試料中の複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する装置であって、前記複数種類の標的核酸の中の1種類の標的核酸を、前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する受容体を用いて、検出して定量するための定量手段と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を入力するための入力手段と、前記受容体の、前記1種類の標的核酸に対する親和性と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、前記定量手段により得られた値を補正するための補正手段と、を有することを特徴とする核酸の定量装置を提供するものである。
また、本発明は、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて標識されている、核酸試料中の複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する装置であって、前記複数種類の標的核酸の中の1種類の標的核酸を、前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する受容体を用いて、検出して定量するための定量手段と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を測定するための測定手段と、前記測定手段により得られた親和性を入力するための入力手段と、前記受容体の、前記1種類の標的核酸に対する親和性と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、前記定量手段により得られた値を補正するための補正手段と、を有することを特徴とする核酸の定量装置を提供するものである。
また、本発明は、前記測定手段が、FCS解析法又はFIDA解析法を用いて行う手段であることを特徴とする核酸の定量装置を提供するものである。
また、本発明は、前記定量手段が、免疫比濁法又はELISA法を用いて行う手段であることを特徴とする核酸の定量装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の核酸の定量方法を用いることにより、リガンドに対する親和性及び特異性が充分ではない受容体や、核酸試料中の複数種類のリガンドに交差する受容体を用いる場合であっても、免疫比濁法やELISA法によって、核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を高精度に検出して定量することが可能となる。
また、本発明の核酸の定量装置を用いることにより、ハイスループットでありかつ高精度な、複数種類の標的核酸の定量が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における標的核酸とは、検出及び定量の標的である特定の塩基配列を有する核酸を意味する。該標的核酸は、天然由来のものであってもよく、合成されたものであってもよい。また、DNAとRNAのいずれであってもよく、核酸類似体であってもよい。該標的核酸として、例えば、ゲノムDNA、mRNA、hnRNA、PCR増幅等による合成DNA、RNAから逆転写酵素を用いて合成されたcDNA等がある。
【0016】
本発明における核酸試料とは、該標的核酸を含有する試料であれば、特に限定されるものではない。該核酸試料は、動物等から採取した生体試料や培養細胞溶液等から調製することができる。生体試料等そのままでもよく、生体試料等から抽出・精製した核酸溶液でもよい。また、生体試料等をPCR等により増幅処理したものでもよい。
【0017】
本発明におけるリガンドは、標的核酸の標識に用いられるものを意味し、核酸の標識に用いることができるものであれば、特に限定されるものではない。該リガンドは、通常タンパク質等の標識に用いられるものであってもよい。該リガンドとして、例えば、蛍光物質、親水性有機化合物、ビオチン(biotin)、グルタチオン(Glutathione)、DNP(dinitorophenol)、ジゴキシゲニン(digoxigenin)、ジゴキシン(digoxin)、2以上の糖からなる糖鎖、6以上のアミノ酸からなるポリペプチド、オーキシン、ジベレリン、ステロイド、タンパク質、及び、それらの類縁体等がある。また、該リガンドは、核酸への標識を簡便にするために、核酸に対するリンカーを結合した化合物であってもよい。
【0018】
標的核酸の検出感度が高いため、該リガンドは蛍光物質であることが好ましい。該蛍光物質として、例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン(Rhodamin)、TAMRA、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)、Alexa dyeシリーズ(Molecular Probes社製)、Cy dyeシリーズ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等がある。
【0019】
化学構造のデザインに自由度が高く、複数種類を揃えることが容易であるため、該リガンドは、2以上の糖からなる糖鎖や6以上のアミノ酸からなるポリペプチドであることが好ましい。また、既に汎用されており、入手及び使用が簡便であることから、Hisタグ、HA(hem agglutinin)タグ、Mycタグ、及びFlagタグであることが好ましい。これらの汎用タグには、それぞれ多くの種類が存在しているが、最も汎用されているもののアミノ酸配列を表1に示す。また、核酸の標識として、これらの汎用タグを1種類のみで用いてもよく、複数種類を組み合わせたものを用いてもよい。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明における受容体は、リガンドと特異的に結合するものを意味し、該リガンドと特異的に結合するものであれば、特に限定されるものではない。但し、本発明において、特異的に結合するとは、該リガンドの検出や精製等に通常用いることができる程度に特異的に結合し得ることを意味し、他の物質等と交差するものであってもよい。該受容体として、例えば、該リガンドの抗体や該リガンドの検出等に通常用いられている化合物等がある。
【0022】
該リガンドの抗体は、血清等の未精製の抗体や、ポリクローナル抗体であってもよいが、検出及び定量の精度の点から、精製したモノクローナル抗体であることが好ましい。また、本発明の核酸定量方法においては、標的核酸に結合したリガンドと受容体を結合させるため、抗原単体よりも、タンパク質等と結合した抗原に対して親和性の強い抗体であってもよい。
該リガンドの検出等に通常用いられている化合物とは、例えば、該リガンドがビオチンの場合にはアビジンやストレプトアビジン、該リガンドがグルタチオンの場合にはGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、該リガンドがマルトース等のアミロースの場合にはMBP(マルトース結合タンパク質)等がある。
【0023】
上記で例示した受容体をリガンドとして、上記で例示したリガンドを受容体として、それぞれ用いることにより、標的核酸を検出して定量することもできる。例えば、リガンドとしてアビジンを、受容体としてビオチンをそれぞれ用いることもできる。但し、核酸への標識の簡便性から、リガンドが低分子化合物であることが好ましい。
【0024】
本発明の核酸の定量方法では、まず、工程(a)として、核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する。該工程により、標的核酸の配列情報をリガンドの組み合わせ情報に変換する。現在、核酸を標識し得るリガンドの種類は極めて限られているが、2種類のリガンドを組み合わせることにより、種類の少ないリガンドを有効に利用することができ、より多数の種類の標的核酸の検出及び定量が可能となる。
【0025】
核酸試料中に含有されている標的核酸の種類があまり多くない場合には、全ての種類の標的核酸に共通する第一のリガンドと、全ての種類の標的核酸において異なる第二のリガンドからなる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識することが好ましい。後述する補正や必要な試薬等の調製が簡便となるためである。
【0026】
リガンドを用いて標的核酸を標識する方法は、特に限定されるものではない。例えば、(i)光やプラチナを用いて、標的核酸の塩基にリガンドを共有結合させる方法、(ii)1種類の標的核酸に対して、それぞれ異なるリガンドで標識された2種類のプライマーを用いてPCR増幅する方法、(iii)リガンドを結合させたヌクレオチドを用いて、PCR増幅等により標的核酸を合成する方法、(iv)ターミナルデオキシジルトランスフェラーゼを用いて、リガンドを結合させたヌクレオチドを標的核酸の3’末端にテーリングする方法等がある。(i)、(iii)、及び(iv)の方法では、1種類のリガンドが、標的核酸の複数箇所に標識されるため、検出感度の点から好ましい。(ii)及び(iii)の方法では、PCR増幅により標的核酸の検出感度が上がるため、好ましい。リガンドを結合させたプライマーを用いることにより、標的核酸の両端にそれぞれのリガンドが標識されるため、それぞれのリガンドと受容体の結合が互いに阻害されるおそれが小さいため、特に(ii)の方法が好ましい。
【0027】
次に、工程(b)として、複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において該1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する受容体を用いて、検出して定量する。すなわち、核酸試料中に存在する複数種類の標的核酸を、1種類ずつ、それぞれ検出して定量する。該検出して定量する方法は、通常リガンドで標識されたものを、受容体を用いて検出して定量する場合に用いられる方法であれば、特に限定されるものではないが、免疫比濁法又はELISA法を用いた方法であることが好ましい。既に広く普及しており、操作も簡便であるためである。
【0028】
免疫比濁法を用いる場合には、具体的には以下のようにして、核酸試料中に存在する複数種類の中の1種類の標的核酸(以下、標的核酸1という。)を、検出して定量することができる。
まず、工程(a)において該標的核酸1の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する受容体を結合させた分散性微粒子を作製する。1の分散性微粒子には1種類の受容体のみを結合させる。したがって、該標的核酸1の標識に用いられた2種類のリガンド(以下、リガンドaとリガンドbという。)の受容体(以下、受容体Aと受容体Bという。)をそれぞれ結合させた、2種類の受容体結合分散性微粒子(以下、受容体A結合分散性微粒子と受容体B結合分散性微粒子という。)を作製する。
本発明に用いる分散性微粒子は、溶液中で分散する微粒子であれば、特に限定されるものではないが、親水性と分散性を高めるためメタクリル酸を共重合させたポリスチレンからなるラテックス粒子が好ましい。また、全自動免疫比濁法装置にて比濁を測定するには分散性微粒子の粒径は300nm以下であることが好ましい。
【0029】
分散性微粒子に受容体を結合させる方法は広く普及しており、分散性微粒子の種類毎に適した方法を用いることができる。例えば、表面に官能基がないプレーンタイプのラテックス粒子の場合には、受容体とラテックス粒子を単に混合することにより、受容体がラテックス粒子に吸着して結合する。プレーンタイプのラテックス粒子の表面の荷電は、メタクリル酸のためマイナスにチャージされており、受容体のプラスチャージを持つ領域とイオン結合することができるためである。但し、結合した受容体が遊離する危険もあり、また、一般的に感度は低いとされている。
一方、表面にカルボキル基やアミノ基等が露出するようにデザインされた官能基タイプのラテックス粒子の場合には、各官能基に適した方法により受容体を結合させることができる。例えば、EDAC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル) −カルボジイミド塩酸塩)法として知られている、水溶性カルボジイミドでカルボン酸同士を結合させる方法や、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)とNHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)とを予め混合してカルボン酸とアミノ基とを結合させる方法が代表的である。他にNHSを双極性に有するリンカーを用いてアミノ基同士を架橋する方法や、活性化したアルデヒド基やトシル基で受容体を結合する方法等がある。特にEDAC法を用いて受容体を結合させることが好ましい。
【0030】
次に、工程(a)においてリガンドを用いて標識した複数種類の標的核酸を含む核酸試料に、作製した2種類の受容体結合分散性微粒子の懸濁液を添加して混合する。標的核酸1は、リガンドを介して、2種類の受容体結合分散性微粒子の両方と結合するため、分散性微粒子が凝集する。例えば、工程(a)において該標的核酸1の標識を、リガンドaを結合したプライマーとリガンドbを結合したプライマーを用いてPCR増幅する方法で行った場合には、該標的核酸1の一端において、リガンドaを介して、1の受容体A結合分散性微粒子と、他端において、リガンドbを介して、1の受容体B結合分散性微粒子と、それぞれ結合することになる。したがって、該核酸試料中に含まれる標的核酸1の量が多くなるほど、より多くの凝集塊が生じることになる。また、通常、各受容体結合分散性微粒子には複数の受容体が結合しているため、受容体結合分散性微粒子と標的核酸1とが連鎖反応的に結合し、大きな凝集塊が生じる。
【0031】
リガンドと受容体の偏った結合を防止するため、標的核酸1を含む核酸試料と受容体結合分散性微粒子懸濁液との混合は、ボルテックスミキサーを用いることや、ピペッティングを行うこと等により、速やかに行うことが好ましく、また、標的核酸1を含む核酸試料と、受容体結合分散性微粒子懸濁液の、それぞれの容量は、他方の容量の20%を下回らない容量であることが好ましい。また、受容体結合分散性微粒子懸濁液のバッファーの組成は、核酸試料のバッファーと同一であることが好ましいが、異なる場合には、混合前に、受容体結合分散性微粒子を核酸試料と同一のバッファーで2〜3回洗浄することにより、受容体結合分散性微粒子懸濁液のバッファーの組成を、核酸試料と同一にすることが好ましい。標的核酸1を含む核酸試料と受容体結合分散性微粒子懸濁液の混合は、用いたリガンドと受容体の結合に適した条件で行うことができる。例えば、リガンドが抗原であり、受容体が抗体である場合には、0〜37℃において5〜30分間反応させることにより、混合することができる。
【0032】
次に、分光光度計を用いて、標的核酸1を含む核酸試料と受容体結合分散性微粒子懸濁液の混合液の吸光度を測定する。粒径300nm以下の分散性微粒子が凝集すると、該凝集塊により、近赤外光の散乱が亢進されるため、近赤外入力光に対して透過光の光度を光度計で測定することにより、分散性微粒子の凝集度を測定することができる。つまり、該混合液中に存在する凝集塊の量が多くなるほど、該混合液の近赤外波長における吸光度は大きくなる。該混合液中に存在する凝集塊の量は、該混合液中に存在する標的核酸1の量に依存しているため、該混合液の標的核酸1の濃度が高くなるほど、該混合液の吸光度は大きくなる。したがって、該混合液の吸光度測定により得られた吸光度と、リガンドで標識された標的核酸1のみを各濃度で含む溶液の吸光度を測定して作成した検量線により、該核酸試料中に存在する該標的核酸1を検出して定量することができる。
【0033】
検量線は、主に、リガンドと受容体の親和性及び特異性に依存しているため、標的核酸1と同一種類のリガンドにより標識された、標的核酸1以外の核酸を用いて作成した検量線を用いることもできる。また、標的核酸1と同一種類のリガンドと、標的核酸1の検出に用いる受容体と同一種類の受容体とを用いて作成した検量線が既に作成されている場合には、該検量線を援用することができる。但し、受容体やリガンドが、抗体等のように各製造ロット間の差が大きいものである場合には、製造ロットが異なる受容体等を用いた検量線は援用しないことが好ましい。
【0034】
吸光度を測定する際のバッファーは、リン酸緩衝液やTEバッファー等の通常用いられているものを使用することができる。また、標的核酸1を含む核酸試料と受容体結合分散性微粒子懸濁液の混合液の吸光度が、OD値測定において、分光光度計のダイナミックレンジの適切な範囲になるように、例えば、OD値が0.01〜1となるように、受容体結合分散性微粒子懸濁液の濃度を調製することが好ましい。
【0035】
ELISA法を用いる場合には、具体的には以下のようにして、核酸試料中に存在する標的核酸1を、検出して定量することができる。
まず、標的核酸1の標識に用いた2種類のリガンドのうち、いずれか1種類のリガンドと特異的に結合する受容体を基盤に固定する。
受容体が固定される基盤の材質は、タンパク質を吸着するものであれば、特に限定されないが、ポリスチレンが好ましい。タンパク質の吸着量が多く、安価であり、頻用されているためである。また、タンパク質と結合する活性基が付いた基盤であることが好ましい。該活性基には、例えば、SH基、スクシニイミド基、NHS基等がある。該基盤の形状は特に限定されないが、操作性の点から、96ウェルマイクロプレートが好ましい。各ウェルの底近辺に受容体を固定することにより、B/F分離操作や洗浄等の操作が簡便となるためである。
【0036】
受容体を基盤へ固定する方法は、受容体及び基盤の種類に応じて適宜選択される。例えば、4〜25℃の温度範囲において、0.1μg〜1mgの受容体を、基盤と1秒〜24時間接触させることにより、受容体を基盤に固定することができる。受容体固定後、基盤をバッファーで洗浄して、固定されなかった受容体を除去した後、受容体が固定されていない該基盤面を、タンパク質等を用いてブロックすることが好ましい。該バッファーとして、リン酸緩衝液やTEバッファー等の通常用いられているものを使用することができる。該タンパク質等は、本発明において用いられる受容体やリガンドと反応しない限り、特に限定されるものではないが、BSA(ウシ血清アルブミン)が好ましい。
【0037】
次に、該基盤に固定された受容体に、リガンドを介して標的核酸を結合させる。具体的には、該基盤に核酸試料を添加することにより、核酸試料中の標的核酸1と受容体を接触させて、受容体と標的核酸を結合させることができる。受容体と標的核酸を結合させる際の、バッファー、温度、時間等の条件は、受容体とリガンドの種類に応じて、適宜選択される。例えば、4〜25℃の温度範囲において、核酸試料を、基盤と1秒〜24時間接触させた後、基盤をバッファーで洗浄して、結合されなかった核酸を除去することにより、受容体と標的核酸を結合させることができる。定量のためには、核酸試料中に存在する標的核酸1の量が、基盤に固定された受容体の量より少ないことが好ましいため、希釈等により、基盤に添加する核酸試料の濃度を調整することが好ましい。
【0038】
次に、検出用物質で修飾した修飾済受容体を用いて、基盤に固定した受容体と結合した標的核酸を検出して定量する。該修飾済受容体は、標的核酸を標識した2種類のリガンドのそれぞれに特異的に結合する、2種類の受容体のうち、基盤に固定した受容体とは異なる種類の受容体を、検出用物質で修飾したものである。該検出用物質は、例えば、酵素、蛍光物質等である。該酵素等は、通常生化学的手法において用いられているものであれば、特に限定されないが、該酵素として、アルカリホスファターゼ(AP)、ホースラディシュペルオキシダーゼ(HRP)が好ましく、該蛍光物質として、FITC、ローダミンが好ましい。但し、標的核酸を標識したリガンドが蛍光物質である場合には、酵素で修飾することが好ましい。
具体的には、該基盤に該修飾済受容体を添加することにより、リガンドを介して、該基盤に固定した受容体と結合した標的核酸を該修飾済受容体に結合させた後、基盤をバッファーで洗浄して、結合されなかった該修飾済受容体を除去する。その後、修飾に用いた検出用物質に応じて、適宜酵素活性や蛍光強度を測定し、免疫比濁法の場合と同様に、予め作成した検量線を用いることにより、標的核酸を検出して定量する。該基盤に該修飾済受容体を添加する場合の、バッファー、温度、時間等の条件は、受容体と標的核酸を結合させる場合と同様に、受容体とリガンドの種類に応じて、適宜選択される。また、酵素活性を測定する際の基質の選択や、蛍光強度を測定する際の励起波長の選択等の、検出の際の条件やシグナルリーダーは、検出用物質に応じて適宜選択される。
【0039】
次に、工程(c)として、工程(b)において検出に用いた受容体の、工程(a)において用いられた各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を用いて、工程(b)により得られた値を補正する。
多くの受容体は、該受容体と特異的に結合するリガンド以外にも、該リガンドと類似した立体構造を有する他のリガンド等と結合することや、該リガンドと立体構造上類似していない物質と非特異的に結合することがある。このような交差性のため、工程(b)により得られた値を用いてそのまま定量すると、実際の標的核酸の量よりも見かけ上多く算出されることになるが、該工程により、交差性を有する受容体を用いる場合であっても、標的核酸をより正確に定量することができる。
【0040】
具体的には、工程(b)において検出に用いた受容体の、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドに対する親和性と、前記受容体の、工程(a)において用いられた各種類のリガンドそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、工程(b)により得られた値を補正する。受容体のリガンドに対する親和性は、2物質の親和性を表す際に汎用されていること、及び、測定が簡便であること等から、Kd値の逆数であることが好ましい。
【0041】
例えば、リガンドaとリガンドbを用いて標識した標的核酸1、リガンドcとリガンドdを用いて標識した標的核酸2、及びリガンドeとリガンドfを用いて標識した標的核酸3が存在する核酸試料中に、受容体A結合分散性微粒子と受容体B結合分散性微粒子を添加して、免疫比濁法により標的核酸1を定量する場合に、生成される凝集塊は、標的核酸1と分散性微粒子からなるものだけではなく、標的核酸2と分散性微粒子からなるものや、標的核酸3と分散性微粒子からなるものが存在する。ここで、受容体Aのリガンドaに対する親和性すなわちKd値の逆数を[Kd(Aa)]−1、リガンドbに対するKd値の逆数を[Kd(Ab)]−1、リガンドcに対するKd値の逆数を[Kd(Ac)]−1、リガンドdに対するKd値の逆数を[Kd(Ad)]−1、リガンドeに対するKd値の逆数を[Kd(Ae)]−1、リガンドfに対するKd値の逆数を[Kd(Af)]−1とし、受容体Bのリガンドaに対するKd値の逆数を[Kd(Ba)]−1、リガンドbに対するKd値の逆数を[Kd(Bb)]−1、リガンドcに対するKd値の逆数を[Kd(Bc)]−1、リガンドdに対するKd値の逆数を[Kd(Bd)]−1、リガンドeに対するKd値の逆数を[Kd(Be)]−1、リガンドfに対するKd値の逆数を[Kd(Bf)]−1とすると、下記式(1)で表される値を補正係数とし、該補正係数を工程(b)において実際の吸光度から得られた標的核酸1の濃度の値に掛けて補正することにより、標的核酸1をより正確に定量することができる。
【0042】
{[Kd(Aa)]−1+[Kd(Ab)]−1}/{[Kd(Aa)]−1+[Kd(Ab)]−1+[Kd(Ac)]−1+[Kd(Ad)]−1+[Kd(Ae)]−1+[Kd(Af)]−1}+{[Kd(Ba)]−1+[Kd(Bb)]−1}/{[Kd(Ba)]−1+[Kd(Bb)]−1+[Kd(Bc)]−1+[Kd(Bd)]−1+[Kd(Be)]−1+[Kd(Bf)]−1}
・・・(1)
【0043】
核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、全ての種類の標的核酸に共通する第一のリガンドと、全ての種類の標的核酸において異なる第二のリガンドからなる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識した場合には、工程(b)において検出に用いた2種類の受容体のうち、前記第二のリガンドと特異的に結合する受容体の、前記第二のリガンドに対する親和性と、前記第二のリガンドと特異的に結合する受容体の、前記核酸試料中に存在する、前記第一のリガンド以外の全ての種類のリガンドそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、工程(b)により得られた値を補正することができる。全ての種類の標的核酸の検出及び定量において、第一のリガンドと特異的に結合する受容体を共通して用いるためである。つまり、全ての種類の標的核酸が第一のリガンドで標識されているため、第一のリガンドに特異的に結合する受容体の、各種類の標的核酸に対する親和性はほぼ同等であり、また、それぞれの第二のリガンドと特異的に結合する受容体の、第一のリガンドを介した各種類の標的核酸に対する親和性もほぼ同等である、と考えることができる。このため、補正において、第一のリガンドと特異的に結合する受容体の、第一のリガンド以外のリガンドに対する親和性、並びに、第一のリガンドと特異的に結合する受容体以外の受容体の、該第一のリガンドに対する親和性は、無視し得る程度に小さいと推察されるためである。
【0044】
例えば、リガンドaとリガンドbを用いて標識した標的核酸1と、リガンドaとリガンドcを用いて標識した標的核酸2と、リガンドaとリガンドdを用いて標識した標的核酸3が存在する核酸試料中に、受容体A結合分散性微粒子と受容体B結合分散性微粒子を添加して、免疫比濁法により標的核酸1を定量する場合には、下記式(2)で表される値を補正係数とし、該補正係数を工程(b)において実際の吸光度から得られた標的核酸1の濃度の値に掛けて補正することにより、標的核酸1をより正確に定量することができる。
【0045】
[Kd(Bb)]−1/{[Kd(Bb)]−1+[Kd(Bc)]−1+[Kd(Bd)]−1}・・・(2)
【0046】
工程(c)における補正に用いるために、工程(b)において検出に用いた受容体の、核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を測定することが好ましい。受容体のリガンドに対する親和性、すなわち、受容体とリガンドのKd値の逆数の算出方法は、特に限定されるものではなく、常法により求めることができる。該方法として、蛍光シグナルを解析する方法や散乱光を解析する方法等がある。散乱光を解析する方法は、物質に光を照射し、その散乱のゆらぎを解析する方法であり、蛍光標識をしない場合であっても物質の大きさの変化をモニターすることができる。検出感度が良いため、蛍光シグナルを解析する方法が好ましい。一分子当たりの解析が可能であるため、FCS解析法(例えば、特開2001−272404号公報参照。)やFIDA解析法が特に好ましい。
【0047】
受容体とリガンドのKd値を、FCS解析法を用いて測定する場合には、まず、1の塩基鎖の5’末端に該リガンドが1分子結合しており、もう一方の塩基鎖の5’末端に蛍光物質が1分子結合している、2本鎖核酸を作製する。
該2本鎖核酸は、例えば、該リガンドが5’末端に結合しているプライマーと、該蛍光物質が5’末端に結合しているプライマーを用いてPCR増幅することや、5’末端に該リガンドが1分子結合している合成1本鎖核酸と、5’末端に該蛍光物質が1分子結合している合成1本鎖核酸とをハイブリダイズしてアニーリングすること等により作製することができる。作製された該2本鎖核酸は、精製し、質量分析により、該リガンドと該蛍光物質がそれぞれ99%以上結合している2本鎖核酸であることを確認することが好ましい。
【0048】
該蛍光物質は、通常蛍光シグナルを解析する方法において用いられるものであれば、特に限定されない。該蛍光物質として、例えば、ローダミングリーン、TAMRA等がある。但し、該リガンドが蛍光物質である場合には、該リガンドと波長がかぶらない蛍光物質を用いることが好ましい。例えば、リガンドがAlexa546(Molecular Probes社製)である場合には、蛍光物質は、吸収波長がリガンドよりも長いAlexa647(Molecular Probes社製)等を使用することが好ましい。
【0049】
次に、一定量の該受容体を含む溶液と、該2本鎖核酸を各濃度で含む溶液を混合した混合溶液を作製する。該混合により、該受容体と該2本鎖核酸を結合させる。該混合溶液のバッファーは、リン酸緩衝液やTBS(トリスバッファードサライン)等の通常用いられているものを使用することができる。該混合の温度や時間等の条件は、該受容体と該リガンドに応じて適宜選択することができる。例えば、室温で30分間混合させることや、4℃で1晩混合させることにより、該受容体と該2本鎖核酸を結合させることができる。
【0050】
それぞれの混合溶液の蛍光シグナルを解析することにより、並進拡散時間や蛍光偏光度を計測する。該2本鎖核酸の濃度によって、算出される拡散時間や蛍光偏光度が異なる。例えば、該2本鎖核酸の濃度が低い場合には、該2本鎖核酸と結合している該受容体の割合は少ないため、平均的な並進拡散時間は短く、蛍光偏光度は小さい。一方、該2本鎖核酸の濃度が高くなると、該2本鎖核酸と結合している該受容体の割合が高くなるため、平均的な並進拡散時間は長くなり、蛍光偏光度は大きくなる。このように、種々の該2本鎖核酸濃度における並進拡散時間や蛍光偏光度を、並進拡散時間等を縦軸、該2本鎖核酸濃度を横軸としてプロットすることにより、検量線を作成することもできる。
【0051】
具体的には、まず、該蛍光物質を励起することが可能な励起光を該混合溶液に照射し、該蛍光物質からの蛍光を検出する。検出に使用する光学系は、例えば、蛍光検出のための検出器を有する通常の光学系であってもよい。該蛍光物質を励起する光源は、レーザー等を用いることができ、波長は紫外から可視、赤外までのどの波長であってもよい。励起光は、対物レンズを介して絞り込まれ、該混合溶液に照射される。該蛍光物質からの蛍光は、集光レンズによって集められ、ピンホールによってノイズを除去する。蛍光は、光学フィルターを透過することによって特定の波長の蛍光のみを取り出すことができる。該蛍光を検出器によって検出し、信号解析を行う。検出した蛍光に基づいて自己相関関数解析を行い、共焦点領域に1分子の蛍光物質が滞在する時間(並進拡散時間)を算出することができる。
自己相関関数解析では、大きさの変化をモニターすることができ、分子の相互作用や分解等による分子の大きさの変化を検出することができる。つまり、該混合溶液中の該受容体が、該リガンドを介して該2本鎖核酸と結合すると、分子量が増大するため、該蛍光物質からの蛍光を指標に、該混合溶液中の該受容体と該2本鎖核酸の結合の割合を測定することができる。
該リガンドと該受容体との結合が、ミカエリス・メンテンの式に従うとして、並進拡散時間を縦軸、並進拡散時間(μsec)を標識済PCR増幅標的核酸溶液の濃度(nM)で除したものを横軸として、Eadie−Hofsteeプロットを行うと、該プロットの近似直線の傾きが、各標識済PCR増幅標的核酸の−Kd値となる。Km値はKd値に相当するためである。
【0052】
一方、FCS解析法と同様に、一定量の該受容体を含む溶液と、該2本鎖核酸を各濃度で含む溶液の混合溶液を作製し、それぞれの混合溶液の蛍光シグナルを、FIDA解析法を用いて解析することにより、受容体とリガンドのKd値を測定することもできる。
FIDA解析法により、1分子あたりの蛍光強度及び分子数を求めることができる。さらに、分子の回転拡散状態を、蛍光偏光度Pで表すことができる(FIDA−pol)。該蛍光偏光度Pは、分子の大きさを反映しているため、自己相関関数解析と同様に分子の相互作用や分解などによる大きさの変化を知ることができる。したがって、FCS解析法と同様に、種々の該2本鎖核酸濃度における蛍光偏光度Pを用いてEadie−Hofsteeプロットすることにより作成した近似直線の傾きから、該受容体と該リガンドのKd値を算出することができる。
【0053】
FCS解析法及びFIDA解析法のための、蛍光物質の励起、蛍光の検出、およびFCS/FIDA解析に使用する装置は、MF20/MF10S装置(オリンパス株式会社)等の、市販の1分子蛍光分析システムを使用して行うことができる。
【0054】
本発明の核酸の定量方法を、該核酸試料中に含まれる標的核酸の種類毎に、別個に行うことにより、該核酸試料中に含まれる全種類の標的核酸を、それぞれ高精度に定量することができる。
【0055】
本発明の核酸定量装置は、本発明の核酸の定量方法に用いられる装置であり、複数種類の標的核酸の中の1種類の標的核酸を、前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する受容体を用いて、検出して定量するための定量手段と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を入力するための入力手段と、前記受容体の、前記1種類の標的核酸に対する親和性と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、前記定量手段により得られた値を補正するための補正手段と、を有することを特徴とするものである。予め前記受容体の各リガンドに対するそれぞれの親和性が不明である場合には、該入力手段の前に、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を測定するための測定手段と、を有することもできる。本発明の核酸定量装置を用いることにより、核酸試料中の複数種類の標的核酸に対して、迅速かつ容易に、高精度な標的核酸の定量を行うことができる。
【0056】
該定量手段として、広く普及している免疫比濁測定装置、免疫検査装置を用いることができる。該入力手段及び該補正手段として、用手法で行うこともできるが、汎用されているパーソナルコンピュータ等を用いることが好ましい。該定量手段、該入力手段、及び該補正手段をすべて接続して全工程を自動化した自動分析装置を用いることにより、各受容体の各リガンドに対する親和性の値を入力し、測定する核酸試料を分析装置にセットするだけで、高精度な標的核酸の定量を、容易かつハイスループットに行うことができる。
該測定手段として、市販の一分子蛍光分析システムを用いることができる。
また、前記自動分析装置に、一分子蛍光分析システム等の該測定手段が組み込まれた自動分析装置を用いることにより、各受容体の各リガンドに対する親和性を測定するための検量線作成に用いる試料と、測定する核酸試料を、それぞれ分析装置にセットするだけで、さらに迅速かつ簡便に、高精度な標的核酸の定量を行うことができる。
【0057】
図1は、本発明の核酸定量装置の一態様を示したものである。該一態様では、該定量手段として免疫比濁測定装置を、該入力手段としてパーソナルコンピュータを、該測定手段としてFCS測定装置を、それぞれ用いている。また、該核酸定量装置内における手順のフローチャートを図2に示す。なお、本発明の核酸定量装置は該一態様に限定されるものではない。
【0058】
具体的には、まず、定量目的の標的核酸と同一種類のリガンドと、該標的核酸を検出するために用いる受容体と同一種類の受容体を用いて作成された検量線のデータが保存されているかどうかを判断する(ステップ1)。該検量線のデータが保存されていない場合には、検量線の作成を開始し、保存されている場合には、検量線の作成を省略することができる。
次に、検量線作成用溶液として、各濃度の、濃度既知であって、定量目的の標的核酸のみを含む該リガンド標識済標的核酸溶液を調製する(ステップ2)。調製したそれぞれの該リガンド標識済標的核酸溶液と、受容体結合性微粒子を混合させ、凝集塊を生じさせた混合溶液を調製する。該混合溶液を容れた測定用セル2を、濁度測定機1にセットし、該混合溶液のA800(800nmの吸光度)を測定する(ステップ3)。得られた測定結果を、コンピュータ3に入力し、検量線を作成する(ステップ4)。検量線の作成は、コンピュータ3内で行ってもよく、用手法で行ってもよい。作成された検量線のデータを、コンピュータ3に入力して保存する。同時に定量測定する標的核酸のうち、他に標的核酸と同一種類のリガンドと受容体を用いて作成された検量線のデータが保存されていない標的核酸がある場合には、 この手順を繰り返すことにより、最終的には、定量する全ての種類の標的核酸について、同様に検量線のデータを保存する(ステップ5)。
【0059】
次に、定量目的の標的核酸と同一種類のリガンドと、該標的核酸の定量に用いる受容体と同一種類の受容体を使用して測定されたKd値が保存されているかどうかを判断する(ステップ6)。該Kd値が保存されていない場合には、Kd値の測定を開始し、保存されている場合には、Kd値の測定を省略することができる。
Kd値を測定するために、標的核酸の定量に用いる受容体と、検量線作成に用いた各濃度のリガンド標識済標的核酸溶液を、それぞれ混合させて凝集塊を生じさせたFCS測定用試料7を調整する(ステップ7)。該試料7を測定用容器6に容れ、該測定用容器6をFCS測定装置4の暗室5内の所定の位置にセットし、該試料7の蛍光を対物レンズ8とCCDカメラ9により測定した後、FCS測定を行い、FCS測定データをコンピュータ10に入力する(ステップ8)。該FCS測定データをEadie−Hofsteeプロットすることにより(ステップ9)、各近似直線の傾き(−Kd値)を算出し(ステップ10)、コンピュータ3に入力して保存する(ステップ11)。その後、算出されたKd値を、計算式(1)又は(2)に代入して、各補正係数を算出する(ステップ12)。該プロットや、Kd値や補正係数の算出等は、コンピュータ10内で行ってもよく、用手法で行ってもよい。なお、FCS測定装置4とコンピュータ10を接続することにより、該FCS測定データを自動的にコンピュータ10に入力させてもよく、コンピュータ3とコンピュータ10を接続することにより、算出された各補正係数を自動的にコンピュータ3に入力させてもよい。
【0060】
次に、検量線作成時と同様に、リガンド標識済の核酸試料と、受容体結合性微粒子を混合させ、凝集塊を生じさせた混合溶液のA800を測定し、該測定結果をコンピュータ3に入力し、既に作成された検量線に基づいて、該核酸試料中に含有される標的核酸の濃度を推定する。この手順を繰り返すことにより、定量する全ての種類の標的核酸について、同様に濃度を推定する(ステップ13)。なお、濁度測定機1とコンピュータ3を接続することにより、測定したA800を自動的にコンピュータ3に入力させてもよい。
推定された該核酸試料中に含有される標的核酸の濃度に、保存された補正係数を掛けることにより補正する(ステップ14)。該補正は、用手法で行ってもよいが、コンピュータ3内で行うことが好ましい。コンピュータ3内で行った場合には、補正後の該核酸試料中に含有される標的核酸の濃度を、コンピュータ3の画面に表示することができる(ステップ15)。なお、インターフェースを1台のコンピュータとする、すなわち、コンピュータ3とコンピュータ10を同一のコンピュータとしてもよい。
【0061】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
配列番号1の塩基配列を有する標的核酸1、配列番号2の塩基配列を有する標的核酸2、及び、配列番号3の塩基配列を有する標的核酸3の、計3種類の標的核酸を含有する核酸試料を用いて、該3種類の標的核酸を、免疫比濁法を用いてそれぞれ検出し定量した。なお、該3種類の標的核酸は、ヒトゲノム由来の塩基配列であり、標的核酸1はアクセッション番号IMS−JST164838、標的核酸2はアクセッション番号IMS−JST058048、及び、標的核酸2はアクセッション番号IMS−JST005689として、遺伝子多型データベース(Japanese Single Nucleotide Polymorphism database、JSNP)に登録されている。
【0063】
1.該核酸試料中の複数種類の標的核酸の標識
該核酸試料中の該3種類の標的核酸を、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識した。具体的には、全ての種類の標的核酸に共通する第一のリガンド(ビオチン)と、全ての種類の標的核酸において異なる第二のリガンド(DNP、FITC、及びTAMRA)からなる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識した。
【0064】
標的核酸1を鋳型として、該標的核酸1をPCR増幅することができる、配列番号4の塩基配列を有するフォワードプライマー1と、配列番号5の塩基配列を有するリバースプライマー1を、それぞれリガンドで修飾することにより、5’末端にビオチンを結合させた5’ビオチン化フォワードプライマー1と、5’末端にDNPを結合させた5’ DNP化リバースプライマー1を作製した。
標的核酸2を鋳型として、該標的核酸2をPCR増幅することができる、配列番号6の塩基配列を有するフォワードプライマー2と、配列番号7の塩基配列を有するリバースプライマー2を、それぞれリガンドで修飾することにより、5’末端にビオチンを結合させた5’ビオチン化フォワードプライマー2と、5’末端にFITCを結合させた5’ FITC化リバースプライマー2を作製した。
標的核酸3を鋳型として、該標的核酸3をPCR増幅することができる、配列番号8の塩基配列を有するフォワードプライマー3と、配列番号9の塩基配列を有するリバースプライマー3を、それぞれリガンドで修飾することにより、5’末端にビオチンを結合させた5’ビオチン化フォワードプライマー3と、5’末端にTAMRAを結合させた5’ TAMRA化リバースプライマー3を作製した。
【0065】
次に、該核酸試料を鋳型とし、該3種類の標的核酸をリガンドで標識するために、マルチプレックスPCRを行った。具体的には、10μLの10×Buffer(TaKaRa社製)に、該核酸試料を2ng、5’ビオチン化フォワードプライマー1、5’ DNP化リバースプライマー1、5’ビオチン化フォワードプライマー2、5’ FITC化リバースプライマー2、5’ビオチン化フォワードプライマー3、及び5’ TAMRA化リバースプライマー3をそれぞれ最終濃度0.4μMずつ、dNTP mix(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を最終濃度0.2mMとなるように混合し、最終的に98μLとなるように、標識用核酸試料を調製した。該標識用核酸試料に、2μLのTitanium Taq DNA polymerase(TaKaRa社製)を加え、サーマルサイクラーDNA Engine RTC−200(エムジェイジャパン社製)を用いて、94℃で2分間の変性、次に94℃で30秒間、68℃で30秒間のサイクルを25サイクル、最後に68℃で2分間の伸張、からなる反応条件により、マルチプレックスPCRを行った後、プライマーを除去した。得られた標識済核酸試料中には、片5’末端ビオチン標識−片5’末端DNP標識PCR増幅標的核酸1、片5’末端ビオチン標識−片5’末端FITC標識PCR増幅標的核酸2、及び片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3が含有されていた。
【0066】
2.標識済標的核酸の検出及び定量
該標識済核酸試料中に含有されている片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3を、ビオチンと特異的に結合する受容体であるヤギ抗ビオチン抗体(SIGMA社製)、及び、TAMRAと特異的に結合する受容体であるヤギ抗TAMRA抗体(アフィニティー精製品、ROCKLAND社製)を用いて、免疫比濁法により、検出して定量した。具体的には、該標識済核酸試料に、ヤギ抗ビオチン抗体結合分散性微粒子(以下、抗ビオチンパーティクルという)及びヤギ抗TAMRA抗体結合分散性微粒子(以下、抗TAMRAパーティクルという)を添加し、濁度を測定した。
【0067】
(2−1)抗ビオチンパーティクル及び抗TAMRAパーティクルの作製
まず、抗ビオチンパーティクルを作製する。1mLのMES(Wako社製)緩衝液(500mM、pH6.1)に、水を加えて9mLに調製した溶液を50mL容チューブに入れ、1mLの10%CM−MP(300nmカルボキシタイプラテックス粒子、Ceradyn社製)スラリーを加えた後、8mLの1mg/mLのヤギ抗ビオチン抗体リン酸緩衝溶液を加えた。該50mL容チューブを、ボルテックスミキサー(VORTEXGENIE2、Scientific Industries社製)の中間回転強度にて5秒間混合した後、さらに1mLの1.152g/LのEDAC(MW=191.7、Sigma社製)MES緩衝液(50mM、pH6.1)を加え、直ちにボルテックスミキサーの中間回転強度にて5秒間混合した。その後、該50mL容チューブを、ローテーター(MTR−103、アズワン社製)にセットし、室温で1時間混合したものを、4℃、15,000xgで5分間遠心し、遠心分離したCM−MPが上清側に舞い上がることを防止するために、最低減速条件で遠心を停止させた。上清を除去した後、10mLのMES緩衝液(50mM、pH6.1)を加え、室温で、ソニケーター(VC−130、Sonics社製)の30amplitudeの強度で3〜4秒間超音波処理を行うことにより、CM−MPの塊を分散させた。再度同様に、該50mL容チューブを遠心後、10mLのMES緩衝液を加え、CM−MPの塊を分散させた。その後、4℃で16時間静置後、目視にて沈渣が無いことを確認した。このようにして得たMES緩衝液中に分散したCM−MPが、1%抗ビオチンパーティクルスラリーである。
ヤギ抗ビオチン抗体の代わりにヤギ抗TAMRA抗体を用いる以外は、1%抗ビオチンパーティクルスラリーの作製と同様にして、1%抗TAMRAパーティクルスラリーを作製した。
【0068】
(2−2)検量線の作成に用いる濃度既知のリガンド標識核酸の作製
検量線を作成するために、定量の対象である片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3の濃度既知溶液を調製した。具体的には、鋳型として標的核酸3のみを、プライマーとして5’ビオチン化フォワードプライマー3と5’ TAMRA化リバースプライマー3のみを用いた以外は、該核酸試料中の標的核酸を標識した場合と同様にして、PCRを行った。該PCRにより、片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3のみを含む溶液が得られた。該溶液の核酸濃度を測定し、リン酸緩衝液を用いて希釈することにより、1〜100nMまでの濃度の、濃度既知の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液を調製した。
【0069】
(2−3)検量線の作成
2μLの各濃度の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液に、それぞれ、1μLの1%抗ビオチンパーティクルスラリーと、1μLの1%抗TAMRAパーティクルスラリーと、16μLのリン酸緩衝液を加え、ボルテックスミキサーを用いて混合した後、室温で5分間放置することにより、凝集塊を生じさせた。その後、80μLのリン酸緩衝液を加え、ボルテックスミキサーを用いて混合した後、全量をセル(アズワン社製)に容れた。該セルを分光高度計(SPECTRA max PLUS384、Molecular Device社製)にセットし、A800(800nmの吸光度)を測定した。片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)を横軸、吸光度を縦軸とし、該測定により得られたデータをプロットすることにより、検量線を作成した。作成した検量線を図3に示す。なお、該検量線は、傾きが0.0012であり、縦軸切片が0.0276であった。
【0070】
(2−4)該標識済核酸試料中の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3の定量
各濃度の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液に代えて、該標識済核酸試料を用いた以外は、全て前記(2−3)と同様にして、該標識済核酸試料のA800を測定したところ、0.078であった。得られたデータと前記(2−3)で作成した検量線から、図4に示す通りに、該標識済核酸試料中の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3の濃度は42nMであると推定した。該濃度から、該標識済核酸試料中の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3が定量できる。
【0071】
3.標的核酸の定量に用いた受容体の、該標識済核酸試料中に含有されている全ての種類の第二のリガンド(DNP、FITC、及びTAMRA)の、それぞれに対する親和性の測定
(3−1)Kd値算出に用いるためのリガンド標識核酸の作製
FCS解析法により、Kd値を算出するために、蛍光物質であるAlexa647と、該第二のリガンドにより標識された標的核酸3をPCR増幅により作製した。
【0072】
まず、5’ビオチン化フォワードプライマー3に代えて、フォワードプライマー3の5’末端にAlexa647を結合させた5’Alexa647化フォワードプライマー3を用いた以外は、全て前記(2−2)と同様にして、PCRを行った。該PCRにより、片5’末端Alexa647標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3を含む溶液が得られた。該溶液の核酸濃度を測定し、TBSを用いて希釈することにより、1〜100nMまでの濃度の、濃度既知の片5’末端Alexa647標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液を調製した。
次に、5’ TAMRA化リバースプライマー3に代えて、リバースプライマー3の5’末端にFITCを結合させた5’FITC化リバースプライマー3を用いた以外は、全て片5’末端Alexa647標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3と同様にして、1〜100nMまでの濃度の、濃度既知の片5’末端Alexa647標識−片5’末端FITC標識PCR増幅標的核酸3溶液を調製した。
さらに、5’ TAMRA化リバースプライマー3に代えて、リバースプライマー3の5’末端にDNPを結合させた5’DNP化リバースプライマー3を用いた以外は、全て片5’末端Alexa647標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3と同様にして、1〜100nMまでの濃度の、濃度既知の片5’末端Alexa647標識−片5’末端DNP標識PCR増幅標的核酸3溶液を調製した。
【0073】
(3−2)各濃度の標識済PCR増幅標的核酸3溶液の並進拡散時間または蛍光偏光度の計測
10μLの0.01mg/mLヤギ抗TAMRA抗体TBS溶液と、10μLの前記(3−1)で作製した各濃度の標識済PCR増幅標的核酸3溶液を、それぞれ混合した後、24℃で30分間放置することにより、凝集塊を生じさせた。その後、該混合溶液をMF20装置(オリンパス株式会社)にセットし、633nmのHe−Neレーザーの光源を用いて励起し、該混合溶液の蛍光を計測した。その後、各混合溶液あたり10秒間のFCS計測を行い、並進拡散時間を算出した。さらに、各混合溶液あたり1秒間のFIDA−pol計測を行い、蛍光偏光度を算出した。
【0074】
(3−3)Kd値の算出
標識済PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)を横軸、並進拡散時間(μsec)を縦軸とし、前記(3−2)で得られたデータをプロットすることにより、検量線を作成した。作成した検量線を図5に示す。また、標識済PCR増幅標的核酸3溶液の濃度を横軸、蛍光偏光度を縦軸とし、前記(3−2)で得られたデータをプロットすることにより、検量線を作成することもできる。
【0075】
並進拡散時間(μsec)を標識済PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)で除したものを横軸、並進拡散時間(μsec)を縦軸とし、前記(3−2)で得られたデータをEadie−Hofsteeプロットを行った。該プロットの結果、及び、各標識済PCR増幅標的核酸3溶液の該近似直線を図6に示す。
【0076】
図6の結果から、片5’末端Alexa647標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液の該近似直線は、傾きが−31.9であり、縦軸切片が2120であった。同様に、片5’末端Alexa647標識−片5’末端FITC標識PCR増幅標的核酸3溶液の該近似直線は、傾きが−102であり、縦軸切片が1910であって、片5’末端Alexa647標識−片5’末端DNP標識PCR増幅標的核酸3溶液の該近似直線は、傾きが−124であり、縦軸切片が1720であった。
つまり、ヤギ抗TAMRA抗体と、片5’末端Alexa647標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3、片5’末端Alexa647標識−片5’末端FITC標識PCR増幅標的核酸3、又は片5’末端Alexa647標識−片5’末端DNP標識PCR増幅標的核酸3のKd値(単位:nM)は、それぞれ、31.9、102、又は124であった。すなわち、ヤギ抗TAMRA抗体の、TAMRA、FITC、又はDNPに対する親和性(Kd値の逆数、単位:1/nM)は、それぞれ0.0313、0.00980、又は0.00807であった。
【0077】
4.免疫比濁法により得られた値の補正
本実施例では、核酸試料中の3種類の標的核酸を、全ての種類の標的核酸に共通する第一のリガンド(TAMRA)と、全ての種類の標的核酸において異なる第二のリガンド(DNP、FITC、及びTAMRA)からなる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識したため、片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3の定量においては、ヤギ抗TAMRA抗体の、TAMRAに対する親和性と、該標識済核酸試料中に存在する、TAMRA以外の全ての種類のリガンドそれぞれに対する親和性の総和との比を用いることにより、補正することができる。ここで、ヤギ抗TAMRA抗体の、TAMRA、FITC、又はDNPに対する親和性(Kd値の逆数)の総和は、0.0492であるから、0.0313を0.0492で除した値が補正係数であり、該補正係数を、前記(2−4)で得られた濃度に掛けることにより、補正することができる。したがって、該標識済核酸試料中に含有されている片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3の真の濃度は、推定された42nMではなく、26.7nMであった。
【0078】
なお、ヤギ抗TAMRA抗体に代えて、ヤギ抗FITC抗体(DAKO社製)又はヤギ抗DNP抗体(BETHYL社製)を用いることにより、片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3と同様にして、片5’末端ビオチン標識−片5’末端FITC標識PCR増幅標的核酸1及び片5’末端ビオチン標識−片5’末端DNP標識PCR増幅標的核酸2の真の濃度を求めることができる。
【実施例2】
【0079】
実施例1と同様に、標的核酸1、標的核酸2、及び標的核酸3を含有する核酸試料を用いて、該3種類の標的核酸を、ELISA法を用いてそれぞれ検出し定量した。
まず、実施例1と同様にして、該核酸試料中の3種類の標的核酸を、PCR増幅により標識し、片5’末端ビオチン標識−片5’末端FITC標識PCR増幅標的核酸1、片5’末端ビオチン標識−片5’末端DNP標識PCR増幅標的核酸2、及び片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3を含有する標識済核酸試料を得た。
また、実施例1と同様にして、検量線の作成に用いるための、1〜100nMまでの濃度の、濃度既知の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液を調整した。
【0080】
該標識済核酸試料中に含有されている片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3を、ELISA法により、検出して定量した。具体的には、アビジンでコートされた固相に、ビオチンを介して各標識済PCR増幅標的核酸を結合させた後、ヤギ抗TAMRA抗体を用いて、固相に結合した片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3を検出した。
【0081】
まず、検量線を作成した。
アビジンコートマイクロプレート(Reacti−BindTM Streptavidin HBCプレート、Pierce社製)の各ウェルを、200μLのSuper Block Blocking Buffer15500(Pierce社製)で3回洗浄後、100μLのSuper Block Blocking Bufferを各ウェルに加え、さらに1〜100nMまでの各濃度の濃度既知の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液をそれぞれ10μLずつ1のウェルに混合した。該アビジンコートマイクロプレートを室温で2時間放置した後、各ウェルの溶液を除去し、200μLのSuper Block Blocking Bufferで3回洗浄した。その後、各ウェルに、Super Block Blocking Bufferに0.2μg/mLとなるようにヤギ抗TAMRA抗体を溶解させたヤギ抗TAMRA抗体溶液を100μLずつ添加した。該アビジンコートマイクロプレートを室温で30分間放置した後、各ウェルの溶液を除去し、200μLのSuper Block Blocking Bufferで3回洗浄した。さらに、各ウェルに、Super Block Blocking Bufferに0.2μg/mLとなるようにHRP標識抗ヤギIgG抗体(Pierce社製)を溶解させたHRP標識抗ヤギIgG抗体溶液を100μLずつ添加し、室温で30分間放置した。該アビジンコートマイクロプレートを室温で30分間放置した後、各ウェルの溶液を除去し、200μLのSuper Block Blocking Bufferで3回洗浄した後、各ウェルに100μLの1−step Turbo TMB ELISA(Pierce社製)を加え、室温で15分間放置した後、分光光度計を用いてA450を測定した。片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)を横軸、吸光度を縦軸とし、該測定により得られたデータをプロットすることにより、検量線を作成した。作成した検量線を図7に示す。なお、該検量線は、傾きが0.0098であり、縦軸切片が0.0181であった。
【0082】
次に、1〜100nMまでの各濃度の濃度既知の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液に代えて、該標識済核酸試料を用いた以外は、全て前記検量線の作成と同様にして、該標識済核酸試料中のA450を測定したところ、0.35であった。得られたデータと作成された前記検量線から、図8に示す通りに、該標識済核酸試料中の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3の濃度は33.9nMであると推定した。該濃度から、該標識済核酸試料中の片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3が定量できる。
【0083】
実施例1で求めたヤギ抗TAMRA抗体の、TAMRA、FITC、又はDNPに対する親和性(Kd値の逆数)及び補正係数に基づき、実施例1と同様にして、ELISA法により推定された濃度を補正した。その結果、該標識済核酸試料中に含有されている片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3の真の濃度は、推定された33.9nMではなく、21.6nMであった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の核酸の定量方法及び核酸の定量装置を用いることにより、免疫比濁法やELISA法によって、核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を高精度活かつ迅速に検出して定量することができるため、極めて高い正確性を要求される臨床検査等の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の核酸の定量装置の一態様を示した概略図である。該一態様では、該定量手段として免疫比濁測定装置を、該入力手段としてパーソナルコンピュータを、該測定手段としてFCS測定装置を、それぞれ用いている。
【図2】図1に示した核酸定量装置内における手順のフローチャートを示したものである。図中のSは、ステップの意味である。
【図3】実施例1において、片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)を横軸、吸光度を縦軸とし、測定により得られたデータをプロットすることにより作成した検量線である。
【図4】実施例1において、A800が0.078であった場合の推定される片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液の濃度の算出方法の概要を示したものである。
【図5】実施例1において、標識済PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)を横軸、並進拡散時間(μsec)を縦軸とし、測定により得られたデータをプロットすることにより作成した検量線である。
【図6】実施例1において、各標識済PCR増幅標的核酸3とヤギ抗TAMRA抗体との結合が、ミカエリス・メンテンの式に従うとして、並進拡散時間(μsec)を標識済PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)で除したものを横軸、並進拡散時間(μsec)を縦軸とし、測定により得られたデータをEadie−Hofsteeプロットすることにより作成した近似直線である。但し、横軸は対数目盛で表示したものである。
【図7】実施例2において、片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液の濃度(nM)を横軸、吸光度を縦軸とし、測定により得られたデータをプロットすることにより作成した検量線である。
【図8】実施例2において、A450が0.35であった場合の推定される片5’末端ビオチン標識−片5’末端TAMRA標識PCR増幅標的核酸3溶液の濃度の算出方法の概要を示したものである。
【符号の説明】
【0086】
1…免疫比濁測定装置、2…測定用セル、3…コンピュータ、4…FCS測定装置、5…測定容器、6…測定用容器、7…FCS測定用試料、8…対物レンズ、9…CCDカメラ、10…コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する方法であって、
(a) 複数種類の標的核酸を、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する工程と、
(b) 複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する2種類の受容体を用いて、検出して定量する工程と、
(c) 工程(b)において検出に用いた受容体の、工程(a)において用いられた各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を用いて、工程(b)により得られた値を補正する工程と、
を有することを特徴とする核酸の定量方法。
【請求項2】
核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する方法であって、
(a) 複数種類の標的核酸を、標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する工程と、
(b) 複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する2種類の受容体を用いて、検出して定量する工程と、
(d) 工程(b)において検出に用いた受容体の、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドに対する親和性と、前記受容体の、工程(a)において用いられた各種類のリガンドそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、工程(b)により得られた値を補正する工程と、
を有することを特徴とする核酸の定量方法。
【請求項3】
核酸試料中に含有されている複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する方法であって、
(a’) 複数種類の標的核酸を、全ての種類の標的核酸に共通する第一のリガンドと、全ての種類の標的核酸において異なる第二のリガンドからなる2種類のリガンドを用いて、それぞれ標識する工程と、
(b) 複数種類の中の1種類の標的核酸を、工程(a)において前記1種類の標的核酸の標識に用いられた前記第一のリガンド及び前記第二のリガンドのそれぞれと特異的に結合する2種類の受容体を用いて、検出して定量する工程と、
(d’) 工程(b)において検出に用いた2種類の受容体のうち、前記第二のリガンドと特異的に結合する受容体の、前記第二のリガンドに対する親和性と、前記第二のリガンドと特異的に結合する受容体の、前記核酸試料中に存在する、前記第一のリガンド以外の全ての種類のリガンドそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、工程(b)により得られた値を補正する工程と、
を有することを特徴とする核酸の定量方法。
【請求項4】
前記工程(b)の後、前記工程(c)、前記工程(d)若しくは前記工程(d’)の前に、
(e) 前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を測定する工程と、
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の核酸の定量方法。
【請求項5】
前記親和性が、Kd値(平衡解離定数)の逆数であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の核酸の定量方法。
【請求項6】
前記親和性を測定する工程が、蛍光シグナルを解析する方法を用いて行われることを特徴とする請求項4又は5記載の核酸の定量方法。
【請求項7】
前記蛍光シグナルを解析する方法が、FCS(蛍光自己相関関数、Fluorescence Correlation Spectroscopy)解析法であることを特徴とする請求項6記載の核酸の定量方法。
【請求項8】
前記蛍光シグナルを解析する方法が、FIDA(蛍光強度分布、Fluorescence Intensity Distribution Analysis)解析法であることを特徴とする請求項6記載の核酸の定量方法。
【請求項9】
前記リガンドが、蛍光物質、親水性有機化合物、ビオチン(biotin)、グルタチオン(Glutathione)、DNP(dinitorophenol)、ジゴキシゲニン(digoxigenin)、ジゴキシン(digoxin)、2以上の糖からなる糖鎖、6以上のアミノ酸からなるポリペプチド、オーキシン、ジベレリン、ステロイド、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、MBP(マルトース結合タンパク質)、アビジン、ストレプトアビジン、タンパク質、及び、それらの類縁体からなる群より選ばれる化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の核酸の定量方法。
【請求項10】
前記リガンドが、蛍光物質、親水性有機化合物、ビオチン(biotin)、グルタチオン(Glutathione)、DNP(dinitorophenol)、ジゴキシゲニン(digoxigenin)、ジゴキシン(digoxin)、2以上の糖からなる糖鎖、6以上のアミノ酸からなるポリペプチド、オーキシン、ジベレリン、ステロイド、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、MBP(マルトース結合タンパク質)、アビジン、ストレプトアビジン、タンパク質、及び、それらの類縁体からなる群より選ばれ、かつ、核酸に対するリンカーを結合した化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の核酸の定量方法。
【請求項11】
前記蛍光物質が、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン(Rhodamin)、TAMRA、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)、Alexa dyeシリーズ(Molecular Probes社製)、Cy dyeシリーズ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)からなる群より選ばれる蛍光物質であることを特徴とする請求項9又は10記載の核酸の定量方法。
【請求項12】
前記6以上のアミノ酸からなるポリペプチドが、Hisタグ、HAタグ、Mycタグ、及びFlagタグからなる群より選ばれるポリペプチドであることを特徴とする請求項9又は10記載の核酸の定量方法。
【請求項13】
前記工程(a)において、リガンドを用いて標識する方法が、1種類の標的核酸に対して、それぞれ異なるリガンドで標識された2種類のプライマーを用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)増幅する方法であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の核酸の定量方法。
【請求項14】
前記工程(b)において、検出し、定量する方法が、免疫比濁法又はELISA法であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか記載の核酸の定量方法。
【請求項15】
標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて標識されている、核酸試料中の複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する装置であって、
前記複数種類の標的核酸の中の1種類の標的核酸を、前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する受容体を用いて、検出して定量するための定量手段と、
前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を入力するための入力手段と、
前記受容体の、前記1種類の標的核酸に対する親和性と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、前記定量手段により得られた値を補正するための補正手段と、
を有することを特徴とする核酸の定量装置。
【請求項16】
標的核酸の種類毎に組み合わせの異なる2種類のリガンドを用いて標識されている、核酸試料中の複数種類の標的核酸を、それぞれ定量する装置であって、
前記複数種類の標的核酸の中の1種類の標的核酸を、前記1種類の標的核酸の標識に用いられたリガンドと特異的に結合する受容体を用いて、検出して定量するための定量手段と、
前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性を測定するための測定手段と、
前記測定手段により得られた親和性を入力するための入力手段と、
前記受容体の、前記1種類の標的核酸に対する親和性と、前記受容体の、前記核酸試料中に含有されている各種類のリガンドのそれぞれに対する親和性の総和との比を用いて、前記定量手段により得られた値を補正するための補正手段と、
を有することを特徴とする核酸の定量装置。
【請求項17】
前記測定手段が、FCS解析法又はFIDA解析法を用いて行う手段であることを特徴とする請求項16記載の核酸の定量装置。
【請求項18】
前記定量手段が、免疫比濁法又はELISA法を用いて行う手段であることを特徴とする請求項15〜17のいずれか記載の核酸の定量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−196997(P2008−196997A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33459(P2007−33459)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】