説明

核酸の迅速な検出方法

【課題】従来では、インターカレーター及び標識プローブを用いる核酸検出方法では、増幅阻害が生じるため、迅速な核酸検出と高感度な核酸検出は両立しなかった。本発明では、これらの問題点を克服し、標的核酸の検出をより迅速に、より高感度に行うことを課題とした。
【解決手段】標的核酸の存在または量を確認したい試料と少なくともインターカレーターと標識プローブとプライマーの存在下、連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、該標的核酸の存在または量を調べることを特徴とする検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に存在する特定の標的核酸分子を迅速に検出する方法及びこれらの方法により利用するプローブとキットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に生物の保持する核酸は極めて少量であり、それらを検出する際には核酸増幅工程を伴うことがほとんどである。既に知られている核酸増幅方法としてPCR(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、NASBA(非特許文献1)、LCR(特許文献4、特許文献5)、SDA(非特許文献2)、RCR(特許文献6)、TMA(非特許文献3)LAMP(非特許文献4)、ICAN(非特許文献5)などが挙げられる。
【0003】
なかでもPCR法は、標的核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のオリゴヌクレオチドプライマー及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、温度の上昇、下降を繰り返すことにより、上記一対のオリゴヌクレオチドプライマーで挟まれる標的核酸の特定領域を指数関数的に増幅させることができる。
【0004】
通常PCR法は特許文献3に示されているように、以下のa)〜c)からなる増幅サイクルを用いる。
a)90〜105℃の範囲内の温度で(好ましくは90〜100℃)0.5〜5分間(好ましくは0.5〜3分間)、変性させる工程、b)35〜65℃の範囲内の温度で(好ましくは37〜60℃)0.5〜5分間(好ましくは1〜3分間)、プライマーと鋳型のハイブリッドを形成させる(アニーリング)工程、及びc)40〜80℃の範囲内の温度で(好ましくは50〜75℃)0.5〜40分間(好ましくは1〜3分間)、プライマー伸長生成物を形成させる(伸長)工程。
【0005】
PCR法のサイクルを繰り返し行うことで増幅させた標的核酸の複製は、各種の検出方法を用いて検出できるようになる。現在利用されている代表的な検出方法として、アガロースゲル電気泳動法がある。しかしながら、電気泳動による検出では指数関数的に増幅された標的核酸の複製を取り扱う必要がありコンタミネーションの起こる危険性が高かった。また、操作も煩雑であり検出終了までの時間も1時間以上を要した。
【0006】
電気泳動以外の検出方法として、二重鎖核酸に結合した時に増強された蛍光を示すDNA挿入色素(インターカレーター)を利用する方法が一般的に用いられている。増幅中のDNA濃度の上昇による蛍光増強は、反応の進行を測定するのに、および標的分子のコピー数を決定するのに利用できる。さらに、制御された温度変化に伴う蛍光をモニターすることにより、例えばPCRサイクル反応の終了時点で、DNA融解曲線が作成できる。
【0007】
一般的な核酸検出法が核酸濃度の上昇をモニターするのに利用される場合、前述のインターカレーターを利用する方法は比較的短時間で核酸を検出することができる。各反応の同じ時点で、単一の蛍光シグナル値が取得される。最終時点での融解曲線解析は、二重鎖核酸の性質をある程度識別できる。融解曲線解析での融解温度が極端に低い時はプライマーダイマーと考えられるし、主なピークが一本でない時は目的のPCR産物ではない非特異増幅産物が存在することを示している。
【0008】
しかし、一般的なインターカレーター法は二重鎖核酸特異的に蛍光が生じる。それゆえ目的の核酸配列特異的な検出が必要とされる場合は目的の核酸配列に非特異的な二重鎖核酸をも検出する可能性があるため、それほど有効ではない。
【0009】
核酸配列特異的プローブ法は、増幅反応の進行をモニターするのにさらなる核酸反応成分を利用する。これらの方法は、検出の基本として、蛍光エネルギー転移(FET)を利用することが多い。一つあるいはそれ以上の核酸プローブを蛍光分子で標識するが、そのうちの一つはエネルギー供与体として働くことができ、もう一方はエネルギー受容体分子である。これらは時として、それぞれレポーター分子および消光分子として知られる。供与体分子は励起スペクトラム範囲の光の特異的波長で励起され、引き続いて蛍光放出波長の範囲で光を放出する。受容体分子も、様々な距離依存性エネルギー転移機構により、供与体分子からエネルギーを受け取ることにより、この波長で励起される。起こり得る蛍光エネルギー移動の特別の例には、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)がある。一般に、受容体分子と供与体分子が近接している時に(例えば、同じまたは隣接する分子上)、受容体分子は供与体分子の放出エネルギーを受け取る。FET検出の基本は、供与体と受容体放出波長における変化をモニターすることである。
【0010】
FETまたはFRETプローブには通常用いられる二つの種類があり、受容体から供与体を分離するために核酸プローブの加水分解を用いるものと、供与体と受容体分子の空間的関係を変化させるためにハイブリダイゼーションを利用するものである。
【0011】
加水分解プローブは、TaqMan(登録商標)プローブとして市販されている。これらは、供与体および受容体分子で標識されたDNAオリゴヌクレオチドからなる。このプローブは、PCR増幅産物の一方の鎖の特異的領域に結合するよう設計される。PCRプライマーがこの鎖にアニールした後、Taq酵素が5’から3’へのポリメラーゼ活性によりDNAを伸長する。TaqMan(登録商標)プローブは、Taq伸長の開始を防ぐために、3’末端がリン酸化で保護されている。もしTaqMan(登録商標)プローブが産物の鎖にハイブリダイズしているのならば、伸長するTaq分子がプローブを加水分解し、検出の基本として受容体から供与体を遊離する。この場合のシグナルは累積的であり、遊離の供与体と受容体分子の濃度は増幅反応の各サイクルで上昇する。
【0012】
蛍光シグナルの生成がプローブの加水分解反応の発生に依存するという事実は、この方法に伴う時間的不利益が存在することを意味する。さらに、プローブの存在がPCR過程のプライマーの伸長過程を妨げる可能性もあった。また、50サイクル以上というような多数回の増幅サイクルが必要な場合、加水分解が非特異的になり得ることも見出されている。
【0013】
ハイブリダイゼーションプローブは、数多くの型式のものが利用可能である。分子ビーコンは、ヘアピンループを形成するような相補的な5’および3’配列を有するオリゴヌクレオチドである。末端の蛍光標識は、ヘアピン構造が形成されるためにFRETの近接にある。分子ビーコンの相補的配列へのハイブリダイゼーションに続き、蛍光標識は分離され、そのためFRETは生じず、これが検出の基本となる。
【0014】
標識プローブの対合も利用可能である。供与体分子を標識したプローブと受容体分子を標識したプローブがPCR産物の鎖上で近接してハイブリダイゼーションすることによって、FRETが生じ得る。この時のFRETによって生じた波長の蛍光が検出の基本となる。このタイプの変種には、標識増幅プライマーと単一の近接する標識プローブの利用が含まれる。
【0015】
二つのプローブ、または二つの標識分子を含む分子ビーコンタイプの使用は、その過程に伴うコストを増やす。さらに近接して特異的に結合するに十分な長さの二つのプローブを知るため、この方法では合理的な長さの既知配列の存在が必要となる。これはある診断応用で問題となり、例えばHIVウイルスのように、保存されている配列の長さが比較的短い場合に、有効なプローブを設計することが難しいことがある。
【0016】
特許文献7では、DNA二重鎖結合剤と、DNA二重鎖結合剤から蛍光エネルギーを吸収できるあるいは蛍光エネルギーを与えることができる反応性分子を含む核酸プローブを利用し、標的核酸の増幅反応を経て、蛍光をモニターする検出方法が明示されている。しかしながら、特許文献7の記述では迅速かつ高感度な核酸の検出を容易に達成できるものではなかった。つまり、DNA二重鎖結合剤(すなわち挿入色素)および核酸プローブが核酸増幅工程、特に伸長工程を阻害するため、本検出方法を短時間化しようとすると、感度が著しく低下する問題点があった。
【特許文献1】米国特許第4,683,195号
【特許文献2】米国特許第4,683,202号
【特許文献3】米国特許第4,965,188号
【特許文献4】国際公開89/12696号
【特許文献5】特開平2−2934号
【特許文献6】国際公開90/1069号公報
【特許文献7】特表2003−500001
【非特許文献1】Nucleic acid sequence-basedamplification method;Nature 第350巻、第91頁(1991)
【非特許文献2】Strand Displacement Amplification:Nucleic acid research 第20巻、第1691頁(1992)
【非特許文献3】Transcription mediated amplification method;J.Clin.Microbiol. 第31巻、第3270頁(1993)
【非特許文献4】loop-mediated isothermal amplification method :J Clin Microbiol. 2004 第42巻:第1,956頁
【非特許文献5】isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids: Kekkaku. 2003 第78巻、第533頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前述のように、FRETを用いた方法では、DNA二重鎖結合剤(本明細書においては「挿入色素」や「インターカレーター」と称することもある)および核酸プローブが核酸増幅工程、特に伸長工程を阻害するため、本検出方法を短時間化しようとすると、感度が著しく低下する問題点があった。本発明では、これらの問題点を克服し、標的核酸の検出をより迅速に、より高感度に行うことを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の点に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、第一プライマー及び第二プライマーのTm値と標識プローブのTm値の関係、さらにプライマーの濃度と標識プローブの濃度の関係を調節し最適化することによって標的核酸の検出をより迅速に、より高感度に行うことができることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
【0019】
1.標的核酸の存在または量を確認したい試料と少なくとも下記(a)〜(c)の存在下、連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、該標的核酸の存在または量を調べることを特徴とする検出方法。
(a)インターカレーター
(b)次の(i)〜(iii)の性質を有する標識プローブ
(i) 標的核酸に相補的な配列と二重鎖核酸構造を形成でき、かつ14塩基以上30塩基以下の長さのオリゴヌクレオチドを有する
(ii) 前記インターカレーターからの蛍光エネルギーを吸収し自ら蛍光を発することができる1個または複数の蛍光物質で該オリゴヌクレオチドが標識されている
(iii)該標識プローブの濃度が、(c)の第二プライマーの濃度に対して3倍以上15倍以下である
(c)次の(i)〜(iii)の性質を有する第一プライマーおよび第二プライマー
(i) 第一プライマーの伸長産物が標的核酸と相補的な配列を有しかつ第二プライマーの鋳型となる性質を有し、該第二プライマーの伸長産物が標的核酸と相同な配列を有しかつ該第一プライマーの鋳型となる性質を有する
(ii) 該第一プライマーおよび該第二プライマーによる増幅産物の長さが50bp以上500bp以下である
(iii) 該第一プライマー及び該第二プライマーのTm値が70℃以上90℃以下であり、かつ該第二プライマーのTm値は(b)の標識プローブのTm値より大きい
2.第一プライマーの濃度が第二プライマーの濃度に対して4倍以上であることを特徴とする1の検出方法。
3.高速PCRが、10℃/秒以上の速度で温度の上昇及び下降を繰り返すことを特徴とする1または2の検出方法。
4.さらに、
(d)100塩基/秒以上のDNA合成速度を有するDNAポリメラーゼ
の存在下、
高速PCRを行うことを特徴とする1〜3のいずれかの検出方法。
5.DNAポリメラーゼが、さらに5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことを特徴とする4の検出方法。
6.DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体であることを特徴とする4または5の検出方法。
7.(c)の第一プライマーおよび第二プライマーが、さらに
(iv) 該第一プライマーの伸長産物において、該伸長産物の5’末端から前記標識プローブが二重鎖核酸構造を形成する領域までの距離を(A)、該標識プローブが二重鎖核酸構造を形成する領域から該伸長産物の3’末端までの距離を(B)とした場合に(A/B)の値が0.1以上3.0以下であること、
を特徴とする1〜6のいずれかの検出方法。
8.(b)の標識プローブが、さらに
(iv) 標的部位と3個以下の非相補的塩基を有すること、
を特徴とする1〜7のいずれかの検出方法。
9.標識プローブの中央部に、非相補的塩基が位置することを特徴とする8の検出方法。
10.インターカレーターが、SYBR Green I(商標)、LC Green I(商標)、LC Green Plus(商標)、または[2-[N-[(3-dimethylaminopropyl)-N- propylamino]-4-[2,3-dihydro-3-methyl-(benzo-1,3-thiazol-2-yl)-methylidene]-1-phenyl-qunolinium]のうちのいずれかであり、標識プローブの蛍光物質がTexas Red(商標)であることを特徴とする1〜9のいずれかの検出方法。
11.標的核酸がピロリ菌の23S rRNA遺伝子のセンス鎖であり、
(b)の標識プローブのオリゴヌクレオチドの配列が、配列番号2より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第一プライマーが、配列番号3より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第二プライマーが、配列番号4より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べることを特徴とする1〜10のいずれかの検出方法。
12.標的核酸がピロリ菌の23S rRNA遺伝子のアンチセンス鎖であり、
(a)の標識プローブのオリゴヌクレオチドの配列が配列番号1より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第一プライマーが、配列番号4より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第二プライマーが、配列番号3より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べることを特徴とする1〜10のいずれかの検出方法。
13.1〜12のいずれかの方法に引き続いて、密封状態のまま、インターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、0.1℃/秒以上の連続的な温度上昇又は下降を伴う融解曲線解析を行い、標的核酸中の変異の存在を調べることを特徴とする検出方法。
14.変異が、ピロリ菌の抗生物質耐性を判別する23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位における変異の存在を調べることを特徴とする13の検出方法。
15.標識プローブの中央部に変異の部位が位置することを特徴とする13または14にの検出方法。
16.少なくとも次の(a)〜(c)を含むことを特徴とするピロリ菌の存在および/またはピロリ菌の抗生物質耐性の存在を検出するためのキット。
(a)インターカレーター
(b)配列番号1または配列番号2より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列のオリゴヌクレオチドを有し、該オリゴヌクレオチドがインターカレーターからの蛍光エネルギーを吸収し自ら蛍光を発することができる1個又は複数の蛍光物質で標識されたピロリ菌の存在および/またはピロリ菌の抗生物質耐性の存在を検出するための標識プローブ
(c)20塩基以上35塩基以下であり配列番号3より選ばれる連続した塩基配列を含む第一プライマーと、20塩基以上35塩基以下であり配列番号4より選ばれる連続した塩基配列を含む第二プライマー
17.(b)の標識プローブと二重鎖核酸構造を形成しうる伸長産物を生成せしめる側のプライマーの濃度が、他方のプライマーの濃度に対して4倍以上であることを特徴とする16のキット。
18.さらに、
(d)100塩基/秒以上のDNA合成速度を有するDNAポリメラーゼ
を含むことを特徴とする16または17のキット。
19.DNAポリメラーゼが、さらに5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことを特徴とする18のキット。
20.DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体であることを特徴とする18または19のキット。
21.インターカレーターが、SYBR Green I(商標)、LC Green I(商標)、LC Green Plus(商標)、または[2-[N-[(3-dimethylaminopropyl)-N- propylamino]-4-[2,3-dihydro-3-methyl-(benzo-1,3-thiazol-2-yl)-methylidene]-1-phenyl-qunolinium]のうちのいずれかであり、標識プローブの蛍光物質がTexas Red(商標)であることを特徴とす16〜20のいずれかのキット。
22.標識プローブの中央部に、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位に相当する部位が位置することを特徴とする16〜21のキット。
23.配列番号1または配列番号2より選ばれる14塩基以上30塩基以下の長さのオリゴヌクレオチドを有し、2個の蛍光物質で標識されたピロリ菌の存在および/またはピロリ菌の抗生物質耐性の存在を検出するための標識プローブ。
24.蛍光物質が、Texas Red(商標)であることを特徴とする23の標識プローブ。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、迅速かつ高感度な核酸検出が可能となる。具体的には、標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルの発生と、標的核酸または第一プライマーの伸長産物を鋳型とする第二プライマーの伸長による核酸の増幅とを、PCRの同一サイクル中に達成することが可能になった。さらに伸長速度が速いDNAポリメラーゼを使用することにより増幅反応時間を短縮し、これまでになく迅速かつ高感度な核酸検出方法を実現できた。
さらに、本発明を利用し、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べること、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の変異の存在を調べること、23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位における変異の存在を調べピロリ菌の抗生物質耐性を判別することも迅速かつ高感度に行えるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明では、高速PCRは核酸増幅工程、すなわち後述するような「変性」、「アニーリング」、「伸長」からなる一連の工程、または本工程のうちアニーリングおよび伸長を同時に行い「変性」および「アニーリングと伸長」とした一連の工程、に要する時間を短縮することにより、迅速性が高い利点を有している。また、FRETは標的核酸の存在または量を反映した特異的な増幅核酸を、標的核酸に依存しない非特異的な増幅核酸と明確に区別し得るため、感度および正確性が高い利点を有している。しかし、これらを単純に組み合わせても、迅速かつ高感度な核酸検出はできない。なぜならば、高速PCRにおいては標的核酸を増幅する工程として、標的核酸へのプライマーのアニーリングおよび標的核酸を鋳型とするプライマーの伸長(伸長反応)と、標的核酸およびプライマー伸長産物の解離(変性反応)が短時間のうちに繰り返し行われており、FRETにおいては標的核酸への標識プローブのハイブリダイゼーションによって蛍光シグナルが発生するため、標的核酸へのプライマーのアニーリングを起点とする核酸増幅と、標的核酸への標識プローブのハイブリダイゼーションに起因する蛍光シグナルの発生とを、PCRの同一サイクル中に起こすことが困難だからである。つまり、高速PCRおよびFRETを単純に組み合わせても、核酸増幅のためのプライマーのアニーリングと、蛍光シグナル発生のための標識プローブのハイブリダイゼーションとの間で、標的核酸に対する競合が起こり、標的核酸は増幅するが蛍光シグナルが発生しない、または蛍光シグナルは発生するが標的核酸が増幅しないことになり、どちらも標的核酸の存在または量、並びに標的核酸中の変異の存在を、迅速かつ高感度に調べることはできない。すなわち、本発明では、様々な条件を検討し、高速PCRの迅速性が高い利点と、FRETの感度および正確性が高い利点を両立し、標的核酸の存在または量、並びに標的核酸中の変異の存在を、迅速かつ高感度に調べる核酸検出方法を確立したものである。
【0022】
本発明の標的核酸とは生物(細菌も含む)の保持する核酸の塩基配列またはその相補的な塩基配列のいずれかを指す。
【0023】
本発明における高速PCR を以下に示す。PCR法を高速化するには「変性」、「アニーリング」、「伸長」の各温度へ達する温度変化に要する時間の短縮、各工程の温度を保持する時間の短縮、サイクル数の減少などが考えられる。特に重要となるのは温度変化に要する時間の短縮及び各工程の温度保持時間の短縮である。温度変化に要する時間の短縮は、具体的に温度の上昇及び下降を10℃/秒以上の速度で行うことを示す。10℃/秒以上の温度上昇・下降を達成する手段には特に制限がないが、一例としてロシュ・ダイアグノスティック社製のLight Cycler(登録商標)システムが挙げられる。このシステムでは温度上昇・下降に空気を使って温度制御する方式を採用し、温風と冷風で反応液の入ったガラスキャピラリーの温度を直接変化させている。それにより約20℃/秒の温度上昇・下降速度を達成している。
【0024】
また高速核酸増幅を達成するための別の手段として伸長工程に要する時間の短縮が考えられる。伸長工程時間を短縮する方策は、いくつか考えられる。最も有力な方策は、PCRによる増幅領域を極限まで少なくすることである。そうすれば当然、伸長に要する時間は短縮可能になる。このような場合でも、増幅領域は第一プライマー及び第二プライマーを含めて60塩基対程度が最低限度である。検出の目的で標識プローブを設定すれば、更にその部分を確保する必要があり、100塩基対程度の増幅が必要となる。増幅産物の長さは、高速増幅を行うために50bpから500bpの短い産物が好ましく、50bpから300bpが好ましい。より好ましくは80bpから200bpが好ましい。
【0025】
さらにこの増幅産物の長さはDNAポリメラーゼの伸長速度により制限される。現在知られているDNAポリメラーゼ(単独あるいは組みあわせ)としてのTaqポリメラーゼや,EX−Taq,LA−Taq,Expandシリーズ,Plutinumシリーズ,Tbr,Tfl,Tru,Tth,T1i,Tac,Tne,Tma,Tih、Tfi(以上はPolI型酵素),Pfu,Pfutubo,Pyrobest(登録商標),Pwo,KOD,Bst,Sac,Sso,Poc,Pab,Mth,Pho,ES4,VENT,DEEPVENT(以上はα型酵素)などが挙げられ、この中で伸長速度の速い酵素としてKODが挙げられる。KOD DNAポリメラーゼは最も一般的であるTaqポリメラーゼの倍にあたる100〜140塩基/秒以上のDNA合成速度を有する。また、プロセッシビティーなども優れていることが、伸長速度の速い要因のひとつであると考えられる。KOD DNAポリメラーゼは、たとえば東洋紡績製のもの(製品コードKOD−101など)を容易に入手することができる。天然型のポリメラーゼのアミノ酸配列を公知の手段により、1もしくは数個が欠失、置換若しくは付加させたもの(変異体)であっても良い。あるいは、上記の酵素(天然型、変異体)に化学修飾などの手段によりさらに改変を加えたものであっても良い。
【0026】
近年、上記のDNAポリメラーゼをさらに変異、改変などの改良を加えて100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を達成させたもの、あるいは、組み合わせにより当該性能を達成させたもの(組合せにはKOD DNAポリメラーゼを含んでいても良い)も、本願発明のDNAポリメラーゼとして用いることができる。
【0027】
DNAポリメラーゼはさらに、5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことが好ましい。本発明では標識プローブからの蛍光を検出に利用している。そのため、高速PCR工程中で第一のプライマーによる伸長産物に対して標識プローブ及び第二のプライマーがハイブリダイゼーションしている場合に、5’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼ、例えばTaqポリメラーゼでは標識プローブを分解し、検出シグナルの低下を伴う。5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼ、特に限定はされないが例えばKODポリメラーゼは本発明に適合する。
【0028】
挿入色素(インターカレーター)は二重鎖核酸に特異的に結合し蛍光を発する物質であれば良く、SYBR Green I(商標)、LC Green I(商標)、LC Green Plus(商標)、エチジウムブロマイド、アクリジンオレンジ、チアゾールオレンジ、オキサゾールイエロー、ローダミン等があるがこの限りではない。[2-[N-[(3-dimethylaminopropyl)-N-propylamino]-4-[2,3-dihydro-3-methyl-(benzo-1,3-thiazol-2-yl)-methylidene]-1-phenyl-qunolinium]を用いても良い。
【0029】
二重鎖核酸構造は、標的核酸中の塩基とその相補的な核酸配列中の塩基の間で起こる塩基対生成によって形成される。塩基対生成はシトシンとグアニン、アデニンとチミンまたはアデニンとウラシルの間で起こる水素結合により生じる。インターカレーターはこの二重鎖核酸構造を標的に結合し、蛍光を生じるようになる。
【0030】
核酸プローブに標識する蛍光物質は、核酸増幅工程中分解もしくは減衰しなければよく、蛍光検出工程で検出できればよい。蛍光物質としてはFITC,6−FAM,HEX,TET,TAMRA,Texas Red(商標)、Cy3、Cy5、ローダミン等があるが、好ましくはFRETを生じる蛍光物質であり、より好ましくはインターカレーターと相互作用して特異的に検出できればよく、特に好ましい蛍光物質としてはTexas Red(商標)が挙げられるがこの限りではない。FRET現象を利用すれば、蛍光検出工程において核酸プローブの存在のみで発する蛍光が抑えられ、標的核酸とハイブリダイゼーションした核酸プローブの発する蛍光を特異的に検出することが可能となる。
【0031】
本発明に用いられる、好ましいインターカレーターと核酸プローブに標識する蛍光物質の組み合わせは、(SYBR Green I(商標)とTexas Red(商標))、(LC Green I(商標)とTexas Red(商標))、(LC Green Plus(商標)とTexas Red(商標))または([2-[N-[(3-dimethylaminopropyl)-N- propylamino]-4-[2,3-dihydro-3-methyl-(benzo-1,3-thiazol-2-yl)-methylidene]-1-phenyl-qunolinium]とTexas Red(商標))である。
【0032】
本発明を達成する手段として各プライマー及び標識プローブのTm値が規定される。Tm値とはプライマーが相補塩基とアニーリングし解離する時の温度を表す。Tm値は計算により算出することも可能である。Tm値の計算方法は、ハイブリダイゼーションにおける塩濃度等をパラメーターにして各種の計算方法が考案されている。一般的に良く用いられる計算方法としては、最近接塩基対法(Schildkraut C., Lifson S. (1965) Dependence of the melting temperature of DNA on salt concentration - Biopolymers 3, 195-208 、Breslauer K.J., Frank R., Blocker H., Markey L.A. (1986) Predicting DNA duplex stability from the base sequence - Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83, 3746-3750)やWallance法(Wallace, R.B.; Shaffer, J.; Murphy R.F.; Bonner, J.; Hirose, T.; Itakura, K.; (1979) Nucelic Acid Res. 6, 3543)、GC%法(Dependence of the Melting Temperature of DNA on Salt Concentration、Schildkraut C.,Lifson S. (1965) BIOPOLYMERS 3.195-208、Optimization of the annealing temperature for DNA amplification in vitro、W.Rychlik、 Nucl.Acids Res.(1990) 18(21)6409-6412)などを用いることができ、標的核酸の配列または検出の条件などによっては計算方法によるTm値の差異が影響するが、当業者にとって容易に想到し得る検討により実験的に当該Tm値の差異を修正し、本発明の効果を有するプライマーおよび標識プローブを設定することができる。
【0033】
第一プライマーおよび第二プライマーのTm値と標識プローブのTm値の関係が、本発明に記載の効果を得るために重要な要素の一つとなる。そこで、発明をより具体的に説明するための一例として、本発明では、Breslauer K.J., Frank R., Blocker H., Markey L.A. (1986) Predicting DNA duplex stability from the base sequence - Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83, 3746-3750に記載の方法にて計算したTm値を用いる。
【0034】
一例として、上記計算方法によれば、配列番号3より選ばれる24塩基の連続した塩基配列(5’−GAGATGGGAGCTGTCTCAACCAGA−3’:配列番号5)のTm値は70.52、配列番号4より選ばれる25塩基の連続した塩基配列(5’−TGCGCATGATATTCCCATTAGCAGT−3’:配列番号10)のTm値は73.39となる。
【0035】
プライマーのTm値は70℃以上が好ましい。より好ましくは70℃以上90℃以下である。本プライマーの使用で65℃以上の温度で安定したアニーリングが可能となる。91℃以上のプライマーを使用する場合、非特異的なハイブリダイゼーションが起こりやすくなり結果的に目的とする増幅産物の増幅効率を下げてしまう。
【0036】
本発明では標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルの発生と、標的核酸または第一プライマーの伸長産物を鋳型とする第二プライマーの伸長による核酸の増幅とのバランスが重要となる。この関係は第二プライマー及び標識プローブのTm値、さらに第二プライマー及び標識プローブの濃度によって最適化される。この関係を最適化するにはTm値は標識プローブよりも第二プライマーが大きくなるように設計する必要があり、かつ濃度は第二プライマーよりも標識プローブが高いほうが良く、3倍以上、好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上である。また、15倍以下がよく、好ましくは10倍以下である。好ましくは3倍以上15倍以下であり、より好ましくは5倍以上10倍以下である。
【0037】
上記Tm値及び濃度の関係を満たすことにより、従来法では達成できなかった、標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルの発生と、標的核酸または第一プライマーの伸長産物を鋳型とする第二プライマーの伸長による核酸の増幅とを、PCRの同一サイクル中に達成することが可能になる。
【0038】
本発明の重要な開示について、図1を用いて、より詳しく説明する。従来の方法では第二プライマーのアニーリングおよび伸長により標的核酸は増幅するが、標識プローブが標的核酸または第一プライマーの伸長産物にハイブリダイゼーションできないために蛍光シグナルが発生しない場合(図1(1)−A及び図1(2)−A)、または標識プローブの標的核酸または第一プライマーの伸長産物へのハイブリダイゼーションにより蛍光シグナルが発生するが、標識プローブのハイブリダイゼーションがプライマーの伸長を阻害し、標的核酸が増幅しない場合(図1(1)−B及び図1(2)−B)のどちらか一方が起こる割合が大きく、どちらの場合も標的核酸の存在または量、並びに標的核酸中の変異の存在を、迅速かつ高感度に調べることはできなかった。一方、本発明の方法によれば、第一プライマー及び第二プライマーのTm値と標識プローブのTm値の関係、さらにプライマーの濃度と標識プローブの濃度の関係を上記のように規定することで高速PCR工程における変性温度からアニーリング・伸長温度までの温度下降中に標識プローブが標的核酸または第一プライマーの伸長産物にハイブリダイゼーションしつつ、その二重鎖核酸構造を形成する領域まで第二プライマーが伸長する。続いて、アニーリング・伸長温度から次サイクルとなる変性温度までの温度上昇中には標識プローブは標的核酸または第一プライマーの伸長産物から解離することにより、二重鎖核酸構造を形成した領域まで伸長した第二プライマーのさらなる伸長を阻害しないため、第一プライマーの鋳型となるような第二プライマーの伸長産物が形成される(図1−C及び図1(2)−C)。このように、標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルの発生と、標的核酸または第一プライマーの伸長産物を鋳型とする第二プライマーの伸長による核酸の増幅とを、PCRの同一サイクル中に達成することで、高速PCRの迅速性が高い利点と、FRETの感度および正確性が高い利点を両立し、標的核酸の存在または量、並びに標的核酸中の変異の存在を、迅速かつ高感度に調べる核酸検出方法を確立することができた。
【0039】
さらには、前記に記載の伸長速度の速いDNAポリメラーゼを使用することにより第二プライマーの伸長が第一プライマーと相補的な塩基配列まで到達することが可能となり、より効率的に第一プライマーの鋳型となるような第二プライマーの伸長産物が形成され得る。
【0040】
また、本発明の別の重要な開示として、上記のように蛍光シグナルの発生と核酸の増幅とを効率よく行うためには、第一プライマーの伸長産物において標識プローブが二重鎖核酸構造を形成する位置も重要である。前述の通り、本発明の方法では、標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルの発生と、標的核酸または第一プライマーの伸長産物を鋳型とする第二プライマーの伸長による核酸の増幅とを、PCRの同一サイクル中に達成することが重要であり、さらには高速PCR工程において変性温度からアニーリング・伸長温度までの温度下降中に、標識プローブの標的核酸または第一プライマーの伸長産物へのハイブリダイゼーションより二重鎖核酸構造を形成する領域まで第二プライマーが伸長し、続いて、アニーリング・伸長温度から次サイクルとなる変性温度までの温度上昇中に、当該二重鎖核酸構造を形成した領域まで伸長した第二プライマーがさらなる伸長を行うことにより、第一プライマーの鋳型となるような第二プライマーの伸長産物が形成されることが重要である。すなわち、第一プライマーの伸長産物の5’末端から標識プローブが二重鎖核酸構造を形成する領域までの距離を(A)、該標識プローブが二重鎖核酸構造を形成する領域から第一プライマーの伸長産物の3’末端までの距離を(B)とした場合(図2)に、(A)と(B)のバランスが重要である。より詳細には(A)は第一プライマーの伸長産物の5’末端から二重鎖核酸構造を形成している標識プローブの3‘末端まで、(B)は二重鎖核酸構造を形成している標識プローブの5‘末端から第一プライマーの伸長産物の3’末端までの距離である。特に(A)が(B)より大きすぎると、第二プライマーの伸長が第一プライマーまで届かず、第一プライマーの鋳型となるような第二プライマーの伸長産物を形成することができないため、標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルの発生と、標的核酸または第一プライマーの伸長産物を鋳型とする第二プライマーの伸長による核酸の増幅とを、PCRの同一サイクル中に達成することができない。蛍光シグナルの発生と核酸の増幅とを効率よく行うための(A)と(B)のバランスとして、具体的には、(A/B)の値が0.1以上3.0以下であることが好ましく、0.3以上2.0以下かつ第一プライマーと第二プライマーの伸長産物が80bp〜300bpであることがより好ましい。さらに好ましくは(A/B)の値が0.3以上1.5以下かつ第一プライマーと第二プライマーの伸長産物が100bp〜250bpである。
【0041】
核酸増幅工程で使用する第一プライマーと第二プライマーの濃度に差をつけることによって標的核酸の特定領域の一本鎖核酸を優先的に増幅する方法も、本発明に適用できる。例えば図3に示すような第一プライマーと第二プライマー、核酸プローブの設計において、第一プライマーの濃度を第二プライマーの濃度より高く設定することにより、第一プライマーによる伸長産物を優先的に生成させることもできる。第二プライマーによる伸長産物および標識プローブは第一プライマーの伸長産物に対して競合的に作用するため、このように標的核酸を含む一本鎖核酸を意図的に増幅させることにより、蛍光検出工程において標識プローブのハイブリダイゼーション効率を上げ、より多くの蛍光シグナルを発生させることができる。第二プライマーに対する第一プライマーの濃度比は、特に限定されないが好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上がよい。また、50倍以下がよく、より好ましくは30倍以下がよい。好ましくは4倍以上50倍以下であり、より好ましくは10倍以上30倍以下である。本発明の第二プライマーの濃度は特に限定されないが、25nM〜500nMが好ましい。より好ましくは50nM〜250nMである。
【0042】
蛍光検出は例えば核酸プローブと、標的核酸または第一プライマーの伸長産物をハイブリダイゼーションさせ、温度上昇により核酸プローブと標的核酸が解離することで生じる蛍光の減少を検出してもよい。温度上昇速度は好ましくは0.1℃/秒以上であり、0.1℃/秒以上5℃/秒以下であり、より好ましくは0.5℃/秒以上2℃/秒以下である。5℃/秒を超える場合は核酸プローブと標的核酸の解離温度を正確に捉えることができない。
【0043】
非相補的塩基の定義は標識プローブがハイブリダイゼーションする時に標的核酸中の塩基と塩基対を形成しない標識プローブ中の塩基のことである。野生型の塩基配列と一致する標識プローブと野生型の標識核酸がハイブリダイゼーションする場合は完全に一致するため非相補的塩基はない。しかし、野生型の塩基配列と一致する標識プローブと野生型に対して一塩基変異をもつ標的核酸をハイブリダイゼーションする場合には、標識プローブに非相補的塩基がある。本発明の変異の意味は野生型に対して異なる塩基を有することであり、標的核酸中での事象である。標識プローブ塩基配列中の非相補的塩基は、前記の標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションによる蛍光シグナルの発生と、標的核酸または第一プライマーの伸長産物を鋳型とする第二プライマーの伸長による核酸の増幅とを、PCRの同一サイクル中に達成するために有利に働く。その理由としては、非相補的塩基を含んだ標識プローブは温度上昇時に解離しやすくなるため、第二プライマーの伸長がより円滑に達成されることが挙げられる。この場合、4個以上の非相補的塩基が一つの標識プローブ中に存在すると、前述の標識プローブ14塩基〜30塩基の範囲内ではハイブリダイゼーションが起こりにくくなる。非相補的塩基の数は好ましくは3個以下である。標識プローブ中の非相補的塩基の導入位置は特に限定されないが、標的核酸において検出対象となる変異塩基を除く位置に導入することが好ましく、標識プローブの末端から2塩基以上離れていることが好ましい。また、標識プローブ中に塩基対結合力の比較的強いグアニンやシトシンが3塩基以上連続して存在する場合に、グアニンやシトシンの連続した領域に導入することが好ましい。
【0044】
標識プローブのオリゴヌクレオチド配列と変異における位置関係は、例えば核酸プローブと標的核酸または第一プライマーの伸長産物をハイブリダイゼーションさせ、温度上昇により核酸プローブと標的核酸が解離することで生じる蛍光の減少を検出する方法を用いる場合に、完全一致配列と1塩基変異が存在する配列の解離温度の違いがわかれば特に限定されない。好ましくは当該オリゴヌクレオチド配列の両末端から3塩基以上離れて存在すればよく、より好ましくは両末端から5塩基以上離れて存在すればよい。特に好ましくは標識プローブの中央部に変異の部位が位置すればよい。この場合の中央部は当該オリゴヌクレオチド配列の中心から両末端に向かって3塩基以内である。当該オリゴヌクレオチド配列が偶数個の場合の中心とは当該オリゴヌクレオチド配列数を2で割った数を、両末端を含んで数える数え方で両末端塩基より内側に向かって数えた塩基をいい、当該オリゴヌクレオチド配列が奇数個の場合の中心とは当該オリゴヌクレオチド配列数に1を加えて2で割った数を、両末端を含んで数える数え方で両末端塩基より内側に向かって数えた塩基をいう。
【0045】
プローブの両末端を標識することにより、片側末端を標識する場合に比べて蛍光強度が高く、安定した検出が可能となる。例えば、2つの異なる蛍光色素の間で起こるFRET現象においてエネルギー転移後のアクセプター蛍光色素の発する蛍光強度は一般的に弱くなる。本発明のようにインターカレーターを用いた場合は、他の方法、例えばプローブに標識した蛍光色素をドナーとする場合などに比べて、ドナーとなり得る蛍光色素の分子数が多いためアクセプター蛍光色素の発する蛍光強度は比較的強くなるが、それでも蛍光シグナルの強度や再現性などの観点から、プローブの両末端を標識することがより好ましい。片側末端を標識したプローブを用いる場合は、3’末端を蛍光色素で標識するか、3’末端にリン酸化などの処置を加えるなどして高速PCR中に伸長して標識プローブのTm値が上昇しないような工夫をすることが好ましい。ただし、蛍光検出方法として、例えば標識プローブと標的核酸または第一プライマーの伸長産物をハイブリダイゼーションさせ、温度上昇により標識プローブと標的核酸が解離することで生じる蛍光の減少を検出する方法を用いる場合は、高速PCR中にプローブが伸長すると核酸プローブと標的核酸の解離温度を正確に測定できなくなるため、前記のような工夫が特に必要である。
【0046】
また、本発明は下記も含む。
標的核酸の存在または量を確認したい試料と少なくとも下記(a)〜(c)の存在下、連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、該標的核酸の存在または量を調べ、引き続いて、密封状態のまま、インターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、0.1℃/秒以上の連続的な温度上昇又は下降を伴う融解曲線解析を行い、標的核酸中の変異の存在を調べることを特徴とする検出方法。この場合において、
(a)インターカレーター
(b)次の(i)〜(iii)の性質を有する標識プローブ
(i) 標的核酸に相補的な配列と二重鎖核酸構造を形成でき、かつ14塩基以上30塩基以下の長さのオリゴヌクレオチドを有する
(ii) 前記インターカレーターからの蛍光エネルギーを吸収し自ら蛍光を発することができる1個または複数の蛍光物質で該オリゴヌクレオチドが標識されている
(iii)該標識プローブの濃度が、(c)の第二プライマーの濃度に対して3倍以上15倍以下である
(c)次の(i)〜(iii)の性質を有する第一プライマーおよび第二プライマー
(i) 第一プライマーの伸長産物が標的核酸と相補的な配列を有しかつ第二プライマーの鋳型となる性質を有し、該第二プライマーの伸長産物が標的核酸と相同な配列を有しかつ該第一プライマーの鋳型となる性質を有する
(ii) 該第一プライマーおよび該第二プライマーによる増幅産物の長さが50bp以上500bp以下である
(iii) 該第一プライマー及び該第二プライマーのTm値が70℃以上90℃以下であり、かつ該第二プライマーのTm値は前記標識プローブのTm値より大きい
を示すものである。
【0047】
標的核酸の例として、感染症の原因となる細菌の保持している特定の核酸が考えられる。例えばピロリ菌(Helicobacter pylori)の23SrRNA遺伝子の検出が挙げられる。ピロリ菌は、胃・十二指腸潰瘍の起因菌とされ、近年胃癌との関連性も指摘されてきている。潰瘍の疑いがある場合、呼気試験、血中または便中ピロリ菌抗体検査等、を行った結果、ピロリ菌感染の可能性がある場合、さらに内視鏡検査において胃生検を行い、ピロリ菌の存在を迅速ウレアーゼ試験あるいは培養法によって確かめられる。内視鏡検査においてピロリ菌の存在が確認された場合、除菌療法等の処置が行なわれる。ピロリ菌の除菌療法としては、プロトンポンプ阻害剤とアモキシシリンとクラリスロマイシンの3剤併用療法が有効とされ、本邦においては、西暦2000年より保険診療として広く実施されている。本発明によりピロリ菌を検出するために、第一プライマー及び第二プライマー、標識プローブをピロリ菌の23SrRNA遺伝子配列をターゲットとして設計した。第一プライマー及び第二プライマーにより23SrRNA遺伝子配列の特定領域を増幅する工程において、標識プローブを用い、「伸長」工程または「アニーリング・伸長」工程での蛍光シグナルの検出を行うことで、より高感度なピロリ菌検出が可能となる。
【0048】
また、近年クラリスロマイシン耐性ピロリ菌(以下CAM耐性菌と称する)の出現が報告され、ピロリ菌(Helicobacter pylori)のCAM耐性遺伝子の検出が注目を集めている。CAM耐性ピロリ菌はピロリ菌除菌成功率の低下の大きな要因の一つとして挙げられるようになってきている。CAMは、ピロリ菌の23SrRNAのペプチジルトランスフェラーゼループに結合し、そのタンパク質合成を阻害することによって作用を発揮する。しかしながら、23SrRNA遺伝子の点突然変異によってピロリ菌はCAM耐性能を取得することが明らかにされている(James versalovic et. al. Antimicrobial Agents and Chemotherapy p477-480 1996)。この点について、CAM耐性菌の93%は、前記の領域にある2142位あるいは2143位のアデニンがグアニンに変異しており(A2142GまたはA2143G)、CAM耐性菌の7%は、2142位がシトシンに変異している(A2142C)ことが報告されている(Stone,G.G. et. al. Antimicrobial Agents & Chemotherapy. 41(3):712-4, 1997)。
【0049】
ピロリ菌のCAM耐性を判定するには、例えば以下記述の方法が考えられる。野生型ピロリ菌とCAM耐性ピロリ菌に共通の配列を用いて設計した第一及び第二プライマーによりピロリ菌の23SrRNA遺伝子の特定領域を増幅する。この工程において増幅される産物(野生型のものとCAM耐性の一塩基変異が存在する増幅産物の二種類)を標的核酸とした野生型ピロリ菌の23SrRNA遺伝子と完全に一致する標識プローブまたは前記二種類のCAM耐性ピロリ菌の23SrRNA遺伝子と完全に一致する標識プローブを同時に使用する。PCR工程中の「伸長」工程または「アニーリング・伸長」工程での蛍光シグナルの検出を行う。この検出では野生型ピロリ菌の23SrRNA遺伝子と完全に一致する標識プローブを用いた場合は、野生型ピロリ菌の検出が可能であり、前記二種類のCAM耐性ピロリ菌の23SrRNA遺伝子と完全に一致する標識プローブを用いた場合はCAM耐性ピロリ菌の検出が可能である。さらに引き続き融解曲線解析を行うことにより、一つの標識プローブで野生型ピロリ菌とCAM耐性ピロリ菌の検出が同時に行えることも本発明の範疇に含まれる。CAM耐性ピロリ菌に関して、一塩基変異は前記のとおり2142位あるいは2143位のアデニンがグアニンに変異(A2142GまたはA2143G)、または2142位がシトシンに変異している(A2142C)ピロリ菌が大半を占めているが、この限りではない。ピロリ菌における標的核酸とは野生型の保有する核酸を含み、一塩基変異が存在しているCAM耐性菌の保有する核酸を含んでいる。この場合の非相補的塩基の数は、野生型に完全一致の塩基配列を持つ標識プローブではCAM耐性ピロリ菌に対して1塩基である。つまり3塩基以下の非相補的塩基とは標識プローブが同じで標的核酸が異なる場合に標的核酸中の1塩基変異を含んで3塩基以下の変異ということになる。
【0050】
すなわち、本発明を利用し、下記の検出方法を実施しても良い。
連続的または間欠的に(a)のインターカレーターの励起波長の光を与えかつ(b)の標識プローブからの蛍光を測定しながら、(c)の第一プライマーと第二プライマーを用いて高速PCRを行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べることを特徴とする検出方法。
【0051】
さらに、本発明を利用し、下記の検出方法を実施しても良い。
連続的または間欠的に(a)のインターカレーターの励起波長の光を与えかつ(b)の標識プローブからの蛍光を測定しながら、(c)の第一プライマーと第二プライマーを用いて高速PCRを行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べ、引き続いて、密封状態のまま、(a)のインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、0.1℃/秒以上の連続的な温度上昇又は下降を伴う融解曲線解析を行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の変異の存在を調べることを特徴とする検出方法。
【0052】
さらに、本発明を利用し、下記の検出方法を実施しても良い。
連続的または間欠的に(a)のインターカレーターの励起波長の光を与えかつ(b)の標識プローブからの蛍光を測定しながら、(c)の第一プライマーと第二プライマーを用いて高速PCRを行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べ、引き続いて、密封状態のまま、(a)のインターカレーターの励起波長の光を与えかつ(b)の標識プローブからの蛍光を測定しながら、0.1℃/秒以上の連続的な温度上昇又は下降を伴う融解曲線解析を行い、23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位における変異の存在を調べピロリ菌の抗生物質耐性を判別することを特徴とする検出方法。
【0053】
上記のピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べる方法、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の変異の存在を調べる方法、23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位における変異の存在を調べピロリ菌の抗生物質耐性を判別する方法においては、標的核酸がピロリ菌の23S rRNA遺伝子のセンス鎖の場合は、
(b)の標識プローブのオリゴヌクレオチドの配列が、配列番号2より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第一プライマーが、配列番号3より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第二プライマーが、配列番号4より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
標的核酸がピロリ菌の23S rRNA遺伝子のアンチセンス鎖の場合は、
(a)の標識プローブのオリゴヌクレオチドの配列が配列番号1より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第一プライマーが、配列番号4より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第二プライマーが、配列番号3より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列
であればよい。
【0054】
1つの容器中とは検体を含む溶液がプラスチック、あるいはガラスなどから成る容器中に充填され、増幅から検出に至るまでに別の容器に移し替えるもしくは取り出す操作がないことを示す。密封状態は外部からの不純物の進入がなく、内部からの溶液の蒸発がないことを示す。不純物などのコンタミネーションの防止、ならびに溶液組成の変化による結果の相違を防ぐことは重要である。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
以下にピロリ菌の23S rRNA遺伝子上のクラリスロマシン耐性を判定する方法を示す。
【0057】
(実施例1)
(検体の採取)
胃生検材料より遺伝子をQIAamp(登録商標) DNA micro Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。抽出されたDNAは-20℃で保存した。
(テンプレートプラスミドの調製)
1μlの抽出されたDNA溶液を鋳型として用い、PCRを実施した。ここで使用したプライマーペアは、ピロリ菌23SrRNA遺伝子を全長増幅できるプライマーを使用した。いずれもピロリ菌の23SrRNA遺伝子 (GenBank accession number U27270)の公知の配列から設計した。
【0058】
PCRは、サーマルサイクラーとしてGeneAmp(登録商標)9700(Applied Biosystems社製.)を使用し、全量を26μlとして実施した。1μlのDNA溶液と試薬混合物(KOD-plus 0.5U、10XPCR緩衝液2.5μl、200μMのdNTP、各々5μMのプライマー)を混合した。標的DNAの初期変性を94℃で2分間行った後、94℃・15秒の変性工程、60℃・30秒のアニーリング工程、68℃・60秒の伸長工程のサイクルを35回繰り返した。なお、その他のPCR条件は常法通りである(例えば、遺伝子操作技術マニュアル、医学書院、1995年発行を参照)。得られた核酸断片を制限酵素によって平滑末端切断されたpUC18へライゲーションし、コンピテントセルJM109を用いて形質転換体の取得を行なった。目的核酸断片が挿入された形質転換体を液体培養しプラスミドを抽出した。
得られたプラスミドの核酸配列をオートシークエンサーにより解析し、野生型の塩基配列を有するプラスミド、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位のアデニンがグアニンに変異した塩基配列を持つプラスミドの計3種類を得た。以下、野生型はWT、23S rRNA遺伝子の2142位変異型は2142G、同じく23S rRNA遺伝子の2143位変異型は2143Gと示す。
【0059】
(実施例2)
(プライマー及び標識プローブの合成)
検出に使用するプライマー及び標識プローブは核酸合成受託会社((株)日本バイオサービス、(株)サワディー、GENSET KK、シグマアルドリッチジャパン(株)等)に依頼した。
【0060】
使用した標識プローブ及びプライマーの塩基配列を表1に示す。標識プローブは配列番号1より選ばれる12塩基から22塩基の塩基配列を使用した。またプライマーについてもプライマーF1〜F4はそれぞれ配列番号3より選ばれる24塩基、29塩基、29塩基、22塩基からなる塩基配列である。プライマーR1〜R4はそれぞれ配列番号4より選ばれる25塩基、31塩基、24塩基、26塩基からなる塩基配列である。プライマーF5はピロリ菌23SrRNA遺伝子の塩基配列中、配列番号1で示される塩基配列までの距離が配列番号3で示される塩基配列より長くなる領域に設計した24塩基からなる塩基配列である。プライマーR5はピロリ菌23SrRNA遺伝子の塩基配列中、配列番号2で示される塩基配列までの距離が配列番号4で示される塩基配列より長くなる領域に設計した22塩基からなる塩基配列である。
【0061】
【表1】

【0062】
(実施例3)
(野生型ピロリ菌の検出)
WT、2142G、2143Gの各プラスミドDNAは表2に示す反応液にテンプレートとして混合した。以下、表2の反応組成を基準とし、反応液を構成するいずれかの溶液の最終濃度を変更した場合はミリQ水で調節し全量20μLを維持した。また、表2の組成は一例であり反応組成の最適化は同業者であれば容易に行えるものである。プラスミド量は104コピー及び10コピーを使用した。プライマーは表1に記載のプライマーF1とプライマーR1を使用した。標識プローブは表1記載の標識プローブAを使用した。標識プローブAは野生型に対して完全に一致する塩基配列の標識プローブに故意の非相補的塩基1塩基を導入したものである。例えば標識プローブAにおいて、故意の非相補的塩基とは、変異部位に相当する標識プローブ中の非相補的塩基、すなわち2142位および2143位を除いた標識プローブの塩基配列に非相補的塩基を導入することをいう。標識プローブAはCAM耐性ピロリ菌(変異型)2142G、2143Gに対して、いずれも非相補的塩基2塩基が存在している標識プローブである。PCR増幅時の反応条件は表3で示される(核酸増幅サイクル)を用いた。増幅及び蛍光の測定にはロシュ・ダイアグノスティック社製ライトサイクラー(登録商標)を使用した。測定モードは530nmと640nmを利用した。以下特に記載がない場合はすべてライトサイクラー(登録商標)での測定とする。
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
増幅の第nサイクルにおける蛍光シグナル値FL(n)を式(I)により計算し、解析した。
【0066】
FL(n)=FL640(n)−{k×FL530(n)}−FLtb(n) ・・・式(I)
【0067】
FL640(n):第nサイクルにおける、ライトサイクラー測定モード640nmによる蛍光測定値、
FL530(n):第nサイクルにおける、ライトサイクラー測定モード530nmによる蛍光測定値、
k:k×FL530(n)が、第nサイクルにおける、SYBR Green I (商標)の波長640nmにおけるバックグラウンド蛍光シグナル値となるような補正係数、
FLtb(n):第nサイクルにおける、Texas Red(商標) の波長640nmにおけるバックグラウンド蛍光シグナル値。
なお、バックグラウンド蛍光シグナルとは、標的核酸または第一プライマーの伸長産物への標識プローブのハイブリダイゼーションとは無関係に発生した蛍光シグナルを指す。
【0068】
図4〜8は、グラフの横軸をサイクル数n、縦軸を蛍光シグナル値FL(n)として解析結果を表した図である。
【0069】
解析の結果、標識プローブAのプラスミド量104コピー及び10コピーではそれぞれ図4、図5に示す結果が得られた。なお、図4,図5中、2143Gはピロリ菌23S rRNA遺伝子の2143位変異型、2142Gはピロリ菌23S rRNA遺伝子の2142位変異型、NCはテンプレートにミリQ水を使用したネガティブコントロール、WTはピロリ菌23S rRNA遺伝子の野生型を示し、図6〜11においても同様である。野生型のピロリ菌23S rRNA遺伝子を導入したプラスミドをテンプレートにした場合、104コピーでは30サイクルを越えた付近から、10コピーでは40サイクルを越えた付近から標識プローブによる蛍光シグナル値の増加を確認した。一塩基変異が存在している変異型のプラスミドを用いた場合は標識プローブAに2個の非相補的塩基が存在し、増幅反応中の標的核酸に対する標識プローブAのハイブリダイゼーション能力が低下するため、蛍光シグナル値の増加は見られなかった。このように標識プローブ中の非相補的塩基の数を調節することによりWTを特異的に検出することができた。標識プローブへの故意の非相補的塩基の導入は標識プローブの標的核酸に対するハイブリダイゼーション能力及び解離のしやすさを調整するための手法として有効である。プラスミド量10コピーでも標識プローブ特異的かつ短時間での検出が可能である。
【0070】
(実施例4)
(ピロリ菌CAM耐性遺伝子変異の検出)
表1に記載の標識プローブBを用いてCAM耐性ピロリ菌(変異型)の検出を行った。標識プローブBは2142G変異型に対して完全一致する塩基配列中、2142位および2143位を除く位置に故意の非相補的塩基1塩基を導入したものである。野生型に対しては変異部位に存在する非相補的塩基1塩基と故意の非相補的塩基1塩基で合計非相補的塩基が2塩基存在していることになる。2143G変異型に対しては非相補的塩基3塩基が存在する標識プローブである。標識プローブ以外は実施例3の条件を用いた。
標識プローブBでは図4、図5とは異なり2142G変異型のプラスミドをテンプレートとした場合にのみ蛍光シグナル値の増加が確認できた。NC、WT、2143Gのテンプレートを用いた時は蛍光シグナル値が得られなかった。本発明によれば標的核酸の塩基配列特異的に蛍光シグナルを得られることがわかる。
【0071】
(実施例5)
実施例3におけるプライマーF1を表1に記載のプライマーF2〜F5に、プライマーR1を表1に記載のプライマーR2〜R5に変更し、F1〜F5とR1〜R5で組み合わせを変えた検討を行った。その他の条件は実施例3に従った。テンプレートはWTの104コピープラスミドを使用した。その結果を表4に示す。表4の数値は、式(I)から求めた標識プローブのTexas Red(商標)の蛍光シグナル値がある一定値(0.25)をこえた時のサイクル数を示している。蛍光シグナルの増加が見られない組み合わせは数値の記載の代わりに(−)を示した。(A/B)の数値は(標的核酸におけるプライマーRの5‘末端相同的な塩基から標識プローブの3’末端と相補的な塩基までの距離/標的核酸におけるプライマーFの5‘末端と相補的な塩基から標識プローブの5’末端と相補的な塩基までの距離)を示している。
【0072】
表4より、(A/B)の数値で0.3〜2.0かつ増幅産物の大きさが250bpまでのプライマーの組み合わせである場合、プライマーF1及びR1の組み合わせと同等の結果を得ることが可能であった。Aの値が大きなR5を使用した場合は、プライマーFによる伸長反応がプライマーR5まで完了せず増幅がみられなかった。またBが極端に短い場合は蛍光シグナル値が弱くなる傾向にあった。この結果より増幅産物長が短く、Aの長さが短いほうが有利であることがわかる。
【0073】
【表4】

【0074】
(実施例6)
(標識プローブのTm値検討)
故意の変異の入っていない標識プローブのTm値(長さ)を39.64(12塩基)、50.68(14塩基)、60.07(16塩基)、63.68(18塩基)、69.39(20塩基)、76.29(22塩基)とした表1に記載の6種類の標識プローブC〜Hをそれぞれ用いて、標識プローブのTm値が本発明の迅速な核酸検出法に及ぼす影響を検討した。標識プローブ以外は実施例3と同様の条件、組成を使用した。標識プローブC〜Hはそれぞれ配列番号17〜22で示される塩基配列を持つ。テンプレートはWT、2142G、2143Gの各プラスミド(プラスミド量104コピー)を使用した。各標識プローブは中央に変異塩基部位が位置する設計になっている。核酸プローブD(Tm値60.07)による結果を図6に示す。
【0075】
Tm値が60℃から70℃(長さが16塩基から20塩基まで)の標識プローブではピロリ菌野生型の特異的な検出が可能であった。Tm値がプライマーF1、R1を超えている標識プローブHの場合、標的核酸へのハイブリダイゼーションが過度に安定することにより、当該ハイブリダイゼーションがPCRにおけるプライマーの伸長反応を阻害した。そのため増幅産物量が少なくなり蛍光シグナルが減少した。また、標識プローブCのようにTm値が50℃未満になると100%に近い標識プローブが65℃で解離しており蛍光シグナルが検出できなかった。プライマーのTm値がプライマーF1で70.52、プライマーR1で73.39、「アニーリング・伸長」温度65℃の条件の場合、標識プローブのTm値は60℃から70℃が最適であることがわかる。
【0076】
(実施例7)
(標識プローブ濃度の検討)
標識プローブ濃度を150 nM、1000 nMとした時の検出を検討した。実施例3の標識プローブ、プライマー、試薬組成及び反応条件をそのまま用い、標識プローブ濃度1000 nMを150 nMに変更して標識プローブ濃度検討を行った。上記標識プローブ濃度と第二プライマー濃度との関係は、第二プライマー濃度に対して標識プローブがそれぞれ1.0倍、6.7倍となっている。テンプレートはWT、2142G、2143Gの各プラスミド(プラスミド量10コピー)を使用した。標識プローブ濃度1000 nMの検討結果を図5に示す。
標識プローブ濃度1000 nMではWTピロリ菌を特異的に検出できた。1000 nMの濃度では標識プローブがハイブリダイゼーションする増幅産物に対して、標識プローブが十分量存在するためピロリ菌検出に十分な蛍光シグナルを得ることができた。標識プローブ濃度が150 nMの時は、増幅産物とハイブリダイゼーションした標識プローブの割合が少なくなり高感度にピロリ菌を検出することが難しいことがわかる。
【0077】
実施例7の比較例として、3000 nM(標識プローブの第二プライマーとの濃度比20倍)の標識プローブ濃度の検討を行った。図7に示すように、3000 nMのプローブ濃度では、プライマーの伸長を阻害してしまい蛍光シグナル値を得ることができなかった。第二プライマー濃度に対して標識プローブ濃度が20倍のような標識プローブ濃度が濃い時もピロリ菌の検出が難しいことがわかる。
【0078】
(実施例8)
(第一プライマー濃度及び第二プライマー濃度比の検討)
第二プライマーに対する第一プライマーの濃度比が1倍と10倍の検討を行った。1倍ではプライマーF1 500 nM、プライマーR1 500 nMを使用した。また、10倍ではプライマーF1 150 nM、プライマーR1 1500 nMを使用した。プライマー濃度以外の条件は実施例3と同じ条件を使用した。テンプレートはWT、2142G、2143Gの各プラスミド(プラスミド量10コピー)を使用した。濃度比1倍の結果を図8(比較例)、10倍の結果を図5に示す。
【0079】
濃度比が10倍の時は標識プローブに対しての一本鎖標的核酸がより多く増幅することにより、プライマーの伸長及び標識プローブのハイブリダイゼーションの関係が良好に維持されていた。そのため完全一致テンプレートの時のみ特異的に蛍光シグナルが得られた。濃度比1倍の時はテンプレートと塩基配列が完全一致する標識プローブを用いた場合に、プライマー濃度比10倍の結果と比べて得られた蛍光シグナルは少なかった。非対称PCRを行うと標的核酸がより多く増幅するため、特異的検出が対称PCRより感度良く行えることがわかる。
【0080】
(実施例9)
(高速増幅用DNAポリメラーゼの選択)
核酸増幅工程の高速化に適用し得るDNAポリメラーゼを検討した。DNAポリメラーゼとしてはTaqポリメラーゼ(Thermus aquaticus由来)とKODポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)の2種類を検討した。Taqポリメラーゼは東洋紡積社製Blend Taq-Plus-(登録商標)、KODポリメラーゼは東洋紡績社製KOD-Plus- ver.2(登録商標)を使用した。Taqポリメラーゼに関しては表1に示す標識プローブA、プライマーF1,R1を使用し、その他の試薬組成はプロトコール記載の試薬組成を参考にした。反応条件は表3に示す(核酸増幅サイクル)を利用した。KODポリメラーゼに関してはTaqポリメラーゼと同じく標識プローブA、プライマーF1,R1を使用し、基本反応条件は実施例3と同様の条件を使用した。テンプレートはWT、2142G、2143Gの各プラスミド(プラスミド量10コピー)を使用した。KODポリメラーゼを用いた場合の結果は図4に示すとおりである。また、それぞれの増幅産物を3%アガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色して増幅産物量を確認した結果を表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
Taqポリメラーゼを使用した場合、反応条件を固定し上記試薬組成の他にも様々な試薬組成検討を行ったが特異的なピロリ菌の検出はできなかった。これに対しKODポリメラーゼを使用すると高速増幅に対応して特異的にピロリ菌の検出が可能であった。電気泳動の結果から、Taqポリメラーゼによる増幅は高速増幅の場合WTでわずかにバンドが見える程度の増幅であり、WT のプラスミド(10コピー)をテンプレートにした時には電気泳動バンドの検出もできなかった。KODポリメラーゼは高速増幅に適応できるが、Taqポリメラーゼは高速増幅に適応できず、目的の核酸増幅が見られないためピロリ菌の検出ができなかった。伸長速度が速くかつ5‘エキソヌクレアーゼ活性を持たないKODポリメラーゼのほうが本発明のDNAポリメラーゼとして適していることがわかる。
【0083】
(実施例10)
核酸増幅工程に引き続き融解曲線解析を行うことでテンプレートに存在する1塩基変異を1つの標識プローブで検出できるかどうかを検討した。テンプレートはピロリ菌WT、2142G、2143Gの三種類のプラスミドを使用し、プラスミド量は104コピー及び10コピーを使用した。実施例3と同じ試薬組成ならびに反応条件は表3の(核酸増幅サイクル)・(融解曲線解析)・(クールダウン)に示すものを使用した。プライマー及び標識プローブはそれぞれ表1に示すプライマーF1,R1、核酸プローブAを使用した。得られた蛍光シグナル値の補正は行わず、ライトサイクラー(登録商標)における融解曲線解析の結果をそのまま利用した。測定レンジは640nmを使用した。
【0084】
104コピー及び10コピーのプラスミドをテンプレートとして用いた時の蛍光測定の結果をそれぞれ図9、図10に示す。本来ライトサイクラー(登録商標)を使用したリアルタイム蛍光検出では蛍光量の増加を検出しているが、融解曲線解析においては標識プローブが標的核酸から解離する時の蛍光量の減少を検出している。図の縦軸は蛍光強度の一次導関数の逆符号の値(-dF/dt)、横軸は温度(℃)である。図9、図10からはそれぞれ2つのピークが得られた。60℃に見られるピークはWTのピークであり、51℃に見られるピークはWTに対して1塩基変異を持つ二種類の変異型のピロリ菌のピークである。この結果から、1つの標識プローブを使用し融解曲線解析を行うことでWTと変異型を別々のピークで検出できることがわかる。
【0085】
(実施例11)
(菌体を直接テンプレートとした融解曲線解析による検出)
ピロリ菌のATCC株2種(野生型26695株及び2143G変異型UA1182株)を入手した。そのうちそれぞれ109菌体を分取し、95℃5分の熱処理を行った。その後それぞれ105熱処理後菌体溶液を表2のテンプレートとした。その他は融解曲線解析を行った実施例10と同様の方法にてピロリ菌の検出を行った。その結果を図11に示す。
融解曲線解析によりピロリ菌野生型及びCAM耐性ピロリ菌の検出を行ったところ、いずれも融解曲線解析によって単独ピークとして検出することができた。菌体をサンプルとして検出(CAM耐性判定)まで30分以内で行うことが可能である。
【0086】
(比較例1)
(ピロリ菌の検出までの時間)
一般的に使用されるPCRサイクル94℃15秒、65℃30秒、68℃30秒でPCRを行い、融解曲線解析で検出を行った場合、サーマルサイクラーの中でも温度の上昇・下降速度の早いとされているライトサイクラー(登録商標)でも増幅・検出あわせて1時間以上を要した。
【0087】
実施例3の反応条件において、ライトサイクラー(登録商標)を使用した標的核酸の検出までに要する時間は15分以内、さらに融解曲線解析を用いてもピロリ菌の検出及びピロリ菌CAM耐性遺伝子の存在を検出するのに要する時間は20分以内であった。本発明の検出方法を用いると極めて短時間で、かつ高感度なピロリ菌の検出が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、迅速かつ高感度な核酸検出が可能となる。具体的には、第二プライマーの伸長反応を阻害しない標識プローブの性質及び濃度により、増幅効率を保持したまま蛍光シグナルを検出することが可能になる。さらに伸長速度が速いDNAポリメラーゼを使用することにより増幅反応時間を短縮し、これまでになく迅速かつ高感度な核酸検出方法を実現でき、さらに、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べること、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の変異の存在を調べること、23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位における変異の存在を調べピロリ菌の抗生物質耐性を判別することなども迅速かつ高感度に行えるようになり、産業界に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】プライマー及びプローブの濃度とそれぞれのTm値の関係により可能となる迅速かつ高感度な検出方法の原理を示す。
【図2】標的核酸または第一プライマーの伸長産物と標識プローブの位置関係A、Bを模式的に示す。
【図3】本発明における非対称PCRの方法について、第一プライマー、第二プライマー及び標識プローブの位置関係を示す。
【図4】プラスミド10コピーを鋳型としてピロリ菌のリアルタイム検出結果を示す。
【図5】プラスミド10コピーを鋳型としてピロリ菌のリアルタイム検出結果を示す。
【図6】16塩基配列を持つ標識プローブを使用したピロリ菌のリアルタイム検出結果を示す。
【図7】第二プライマー濃度に対して標識プローブ濃度を20倍使用したときのピロリ菌のリアルタイム検出結果を示す。
【図8】第一プライマーと第二プライマーの濃度比が1:1である時のピロリ菌のリアルタイム検出結果を示す。
【図9】プラスミド10コピーを鋳型として融解曲線解析によるピロリ菌の野生型と変異型を同時検出した結果を示す。
【図10】プラスミド10コピーを鋳型として融解曲線解析によるピロリ菌の野生型と変異型を同時検出した結果を示す。
【図11】菌体を簡易処理したものを鋳型としてピロリ菌の検出を行った結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の存在または量を確認したい試料と少なくとも下記(a)〜(c)の存在下、連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、該標的核酸の存在または量を調べることを特徴とする検出方法。
(a)インターカレーター
(b)次の(i)〜(iii)の性質を有する標識プローブ
(i) 標的核酸に相補的な配列と二重鎖核酸構造を形成でき、かつ14塩基以上30塩基以下の長さのオリゴヌクレオチドを有する
(ii) 前記インターカレーターからの蛍光エネルギーを吸収し自ら蛍光を発することができる1個または複数の蛍光物質で該オリゴヌクレオチドが標識されている
(iii)該標識プローブの濃度が、(c)の第二プライマーの濃度に対して3倍以上15倍以下である
(c)次の(i)〜(iii)の性質を有する第一プライマーおよび第二プライマー
(i) 第一プライマーの伸長産物が標的核酸と相補的な配列を有しかつ第二プライマーの鋳型となる性質を有し、該第二プライマーの伸長産物が標的核酸と相同な配列を有しかつ該第一プライマーの鋳型となる性質を有する
(ii) 該第一プライマーおよび該第二プライマーによる増幅産物の長さが50bp以上500bp以下である
(iii) 該第一プライマー及び該第二プライマーのTm値が70℃以上90℃以下であり、かつ該第二プライマーのTm値は(b)の標識プローブのTm値より大きい
【請求項2】
第一プライマーの濃度が第二プライマーの濃度に対して4倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
高速PCRが、10℃/秒以上の速度で温度の上昇及び下降を繰り返すことを特徴とする請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
さらに、
(d)100塩基/秒以上のDNA合成速度を有するDNAポリメラーゼ
の存在下、
高速PCRを行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の検出方法。
【請求項5】
DNAポリメラーゼが、さらに5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことを特徴とする請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体であることを特徴とする請求項4または5に記載の検出方法。
【請求項7】
(c)の第一プライマーおよび第二プライマーが、さらに
(iv) 該第一プライマーの伸長産物において、該伸長産物の5’末端から前記標識プローブが二重鎖核酸構造を形成する領域までの距離を(A)、該標識プローブが二重鎖核酸構造を形成する領域から該伸長産物の3’末端までの距離を(B)とした場合に(A/B)の値が0.1以上3.0以下であること、
を特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の検出方法。
【請求項8】
(b)の標識プローブが、さらに
(iv) 標的部位と3個以下の非相補的塩基を有すること、
を特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の検出方法。
【請求項9】
標識プローブの中央部に、非相補的塩基が位置することを特徴とする請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
インターカレーターが、SYBR Green I(商標)、LC Green I(商標)、LC Green Plus(商標)、または[2-[N-[(3-dimethylaminopropyl)-N- propylamino]-4-[2,3-dihydro-3-methyl-(benzo-1,3-thiazol-2-yl)-methylidene]-1-phenyl-qunolinium]のうちのいずれかであり、標識プローブの蛍光物質がTexas Red(商標)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の検出方法。
【請求項11】
標的核酸がピロリ菌の23S rRNA遺伝子のセンス鎖であり、
(b)の標識プローブのオリゴヌクレオチドの配列が、配列番号2より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第一プライマーが、配列番号3より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第二プライマーが、配列番号4より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の検出方法。
【請求項12】
標的核酸がピロリ菌の23S rRNA遺伝子のアンチセンス鎖であり、
(a)の標識プローブのオリゴヌクレオチドの配列が配列番号1より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第一プライマーが、配列番号4より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
(c)の第二プライマーが、配列番号3より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列であり、
連続的または間欠的にインターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、高速PCRを行い、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の存在または量を調べることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の検出方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法に引き続いて、密封状態のまま、インターカレーターの励起波長の光を与えかつ標識プローブからの蛍光を測定しながら、0.1℃/秒以上の連続的な温度上昇又は下降を伴う融解曲線解析を行い、標的核酸中の変異の存在を調べることを特徴とする検出方法。
【請求項14】
変異が、ピロリ菌の抗生物質耐性を判別する23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位における変異の存在を調べることを特徴とする請求項13に記載の検出方法。
【請求項15】
標識プローブの中央部に変異の部位が位置することを特徴とする請求項13または14に記載の検出方法。
【請求項16】
少なくとも次の(a)〜(c)を含むことを特徴とするピロリ菌の存在および/またはピロリ菌の抗生物質耐性の存在を検出するためのキット。
(a)インターカレーター
(b)配列番号1または配列番号2より選ばれる14塩基以上30塩基以下の連続した塩基配列のオリゴヌクレオチドを有し、該オリゴヌクレオチドがインターカレーターからの蛍光エネルギーを吸収し自ら蛍光を発することができる1個又は複数の蛍光物質で標識されたピロリ菌の存在および/またはピロリ菌の抗生物質耐性の存在を検出するための標識プローブ
(c)Tm値が70℃以上90℃以下であり配列番号3より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列を含むプライマーと、Tm値が70℃以上90℃以下であり配列番号4より選ばれる20塩基以上35塩基以下の連続した塩基配列を含むプライマー
【請求項17】
(b)の標識プローブと二重鎖核酸構造を形成しうる伸長産物を生成せしめる側のプライマーの濃度が、他方のプライマーの濃度に対して4倍以上であることを特徴とする請求項16に記載のキット。
【請求項18】
さらに、
(d)100塩基/秒以上のDNA合成速度を有するDNAポリメラーゼ
を含むことを特徴とする請求項16または17に記載のキット。
【請求項19】
DNAポリメラーゼが、さらに5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことを特徴とする請求項18に記載のキット。
【請求項20】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体であることを特徴とする請求項18または19に記載のキット。
【請求項21】
インターカレーターが、SYBR Green I(商標)、LC Green I(商標)、LC Green Plus(商標)、または[2-[N-[(3-dimethylaminopropyl)-N- propylamino]-4-[2,3-dihydro-3-methyl-(benzo-1,3-thiazol-2-yl)-methylidene]-1-phenyl-qunolinium]のうちのいずれかであり、標識プローブの蛍光物質がTexas Red(商標)であることを特徴とする請求項16〜20のいずれかに記載のキット。
【請求項22】
標識プローブの中央部に、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子の第2142位または第2143位に相当する部位が位置することを特徴とする請求項16〜21に記載のキット。
【請求項23】
配列番号1または配列番号2より選ばれる14塩基以上30塩基以下の長さのオリゴヌクレオチドを有し、2個の蛍光物質で標識されたピロリ菌の存在および/またはピロリ菌の抗生物質耐性の存在を検出するための標識プローブ。
【請求項24】
蛍光物質が、Texas Red(商標)であることを特徴とする請求項23に記載の標識プローブ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−306935(P2008−306935A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154873(P2007−154873)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】