説明

核酸分析デバイス,核酸分析装置、及び核酸分析方法

【課題】基板表面に固定した核酸試料上の蛍光色素を、エバネッセント光で励起して検出する核酸分析デバイスにおいて、長い核酸試料に対しても高いSN比での蛍光信号の検出を実現する。
【解決手段】本発明の核酸分析デバイスは、支持基体の表面には核酸試料を固定する複数の領域を有し、該領域の少なくとも一つには核酸試料が1分子固定されており、前記固定した核酸試料の伸長反応を行うことで配列決定を行う核酸分析デバイスにおいて、前記核酸試料1分子と支持基体との固定は2点以上でなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析デバイス,核酸分析装置、及び核酸分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸分析方法として、DNAやRNAを含む核酸試料の塩基配列を決定する新しい技術が開発されてきている。
【0003】
従来、通常用いられてきた電気泳動を利用した方法においては、予め配列決定用のDNA断片又はRNA試料から逆転写反応を行い合成したcDNA断片試料を調製し、周知のサンガー法によるジデオキシ反応を実行した後、電気泳動を行い、分子量分離展開パターンを計測して解析する。
【0004】
近年、基板に試料となるDNA断片を数多く固定して、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法(パラレル解析法)が実現されている。この方法では、従来の電気泳動を利用した方法に比べて桁違いの配列をパラレルに処理できるため、DNAの配列決定の処理速度向上に貢献している。パラレル解析法の中で、試料のDNA断片を増幅せずに、1分子のまま配列決定を行う方法(1分子シーケンス法)が提案されている。
【0005】
特許文献1では、1分子シーケンス法としてリアルタイム方式の配列決定方法の例が開示されている。この特許文献1には、次のような(1)〜(3)が開示されている。
【0006】
(1)平滑基板の上に接着パッドを規則正しく、格子状に形成する。接着パッドと微粒子は、線状分子を介して化学結合により結ばれている。線状分子の末端の官能基と、接着パッドとは化学的相互作用により結合している。
【0007】
(2)核酸を捕捉するプローブ分子には、DNAやRNAの核酸分子の一本鎖を用いることができる。核酸分子の末端を官能基と同様に予め修飾しておき、微粒子と反応させておく。一つの微粒子に一分子のプローブ分子を固定するためには、微粒子の粒径が小さいほど好ましい。接着パッドの直径dが微粒子の直径Dに比べて小さい、という条件が成り立てば、一つの接着パッドに1個の微粒子を固定できる。
【0008】
(3)プローブ分子により特定の相補配列を有する核酸試料分子を捕捉することができる。捕捉後に、核酸合成酵素やヌクレオチドを供給することにより、基板上で核酸伸張反応を起こすこともできる。蛍光色素を有するヌクレオチドを供給し、核酸合成酵素を供給する。デバイス上で核酸伸長反応を起こし、伸長反応中に核酸鎖中に取り込まれた蛍光色素の蛍光測定を行う。4種類のヌクレオチドが各々異なる蛍光色素を有するものを供給し、洗浄することなく、連続的な核酸伸長反応を起こし、連続的に蛍光観察を行うことで、いわゆるリアルタイム反応方式を実現することもできる。この場合、蛍光色素がリン酸部位に付いたヌクレオチドを用いると、伸長反応後リン酸部位が切断されるため、消光することなく連続的に蛍光測定して核酸試料の塩基配列情報を得ることができる。
【0009】
以上のように、平滑基板上に、核酸試料を数多く固定することにより、パラレルに数多くの断片の配列情報を決定する方法が開発され、実用化されつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−172271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明者がパラレル解析法の1分子シーケンス法において、配列決定可能な核酸試料の長さ(断片長)について鋭意検討した結果、次のような知見を得るに至った。
【0012】
パラレル解析法の1分子シーケンス法のうち、特許文献1にて開示されているような、DNA断片を基板に固定する方式では、蛍光色素1分子の発する微弱な蛍光を測定する必要がある。そのため、少しでも背景光信号を低減するために、これらの方法では、励起光照射方式としてエバネッセント光などの局所照明可能な方式を用いる。エバネッセント光によれば、励起光は平滑基板表面の100〜200nmの狭い空間を局所的に照明できるため、周囲の物質に由来する背景光信号を抑えることができる。しかし、試料DNA断片は基板上にその一端で固定されているため、他方の末端を含む他の部分は自由に動くことができる。そのため、試料DNA断片が長くなると、DNA断片の一部分がエバネッセント光で照明される空間から外れてしまう可能性がある。すると、その部分に取り込まれた蛍光色素付き塩基への励起光が弱くなり、発せられる蛍光測定のSN比が低下してしまう。そのため、配列決定可能なDNA断片を長くできないという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、塩基配列を決定する装置において、より長い核酸試料の配列決定を可能実現することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の核酸分析デバイスは、支持基体の表面には核酸試料を固定する複数の領域を有し、該領域の少なくとも一つには核酸試料が1分子固定されており、前記固定した核酸試料の伸長反応を行うことで配列決定を行う核酸分析デバイスにおいて、前記核酸試料1分子と支持基体との固定は2点以上でなされる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、核酸試料と支持基体表面との距離を小さくすることが可能となり、支持基体近傍への局所照明中に核酸試料を留めることが可能となる。これによって、核酸合成酵素によって取り込まれた蛍光色素つき塩基を、常に十分な強度で励起することが可能となる。よって、より長い核酸試料の塩基配列を決定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】核酸分析装置の構成の一例を説明するための図。
【図2】核酸分析デバイスを用いた核酸分析方法の一例を説明するための図。
【図3】核酸分析デバイスを用いた核酸分析方法の一例を説明するための図。
【図4】核酸分析デバイスの構成の一例を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図を参照して説明する。ここでは、本発明を完全に理解してもらうため、特定の実施形態について詳細な説明を行うが、本発明はここに記した内容に限定されるものではない。
【0018】
また、以下に示す図では、理解しやすくするために模式的な図を用いるため、寸法等において実際とは異なる場合がある。
【実施例1】
【0019】
基板表面に分析すべき試料DNA断片を1分子ずつ均等間隔で捕捉し、ほぼ1塩基ずつ伸長させて、取り込まれた蛍光標識を1分子ごと検出して塩基配列を決定する装置,方法について説明する。具体的には、DNAポリメラーゼの基質として鋳型DNAに取り込まれてDNA伸長反応を保護基の存在により停止することができかつ検出され得る標識を持つ4種のdNTPの誘導体を用いてDNAポリメラーゼ反応を行わせる工程、次いで取り込まれたdNTP誘導体を蛍光検出等で検出する工程、及びdNTP誘導体を伸長可能な状態に戻す工程を1サイクルとし、それを繰り返すことにより試料DNAの塩基配列を決定する。
【0020】
蛍光色素1分子の発する微弱な蛍光を測定する必要がある。そのため、少しでも背景光信号を低減するために、これらの方法では、励起光照射方式としてエバネッセント光などの局所照明可能な方式を用いる。エバネッセント光によれば、励起光は平滑基板表面の100〜200nmの狭い空間を局所的に照明できるため、周囲の物質に由来する背景光信号を抑えることができる。なお、本操作は単分子蛍光検出を行うため、測定はHEPAフィルタなどを介したクリーンルーム様の環境にて行うのが望ましい。
【0021】
なお、ここでDNA断片や試料DNAという際のDNAとは、DNAやRNA,PNA(ペプチド核酸)およびこれらの誘導体を含んだ核酸の代表であり、DNAのみに限定されるものではない。同じく、塩基,蛍光付き塩基として、dNTP,dNTP誘導体を用いるが、NTPやNTP誘導体等を用いても同様の効果を得ることができる。
【0022】
(装置構成)
図1は、本発明の核酸分析デバイスを使った核酸分析装置の構成図である。装置は顕微鏡に類似する装置の構成であり、基板8に捕捉する試料DNAの伸長反応を蛍光検出にて測定する。
【0023】
核酸分析デバイスは、図2に示すような構造をしている。基板8は少なくともその一部が透明材質でできており、材質としては合成石英などが使用できる。基板8には反応領域8aがあり、この部分は透明材質であり、この部分にDNA伸長反応に必要な試薬などが接触する。
【0024】
反応領域8a内にDNAが固定される領域8ijが1つ以上形成されている。領域8ijの個々の大きさは直径100nm以下が好ましい。この領域にはDNAを2箇所以上で捕捉するための表面処理を施す。その表面処理と捕捉するDNA断片の修飾303として、適切な組み合わせを選ぶことで、DNA断片を領域8ijに捕捉することができる。また、DNA断片を固定化する際、DNA断片濃度を適当に制御することで、個々の領域8ijに単一分子のDNAのみが入るようにすることができる。なお、領域8ijをより小さくしていくことで、領域内に捕捉できる分子が1個になるようにすることができる。
【0025】
以後このような状態の基板を計測する。このような基板では、すべての領域8ijに単一分子のDNAが捕捉されている場合、領域8ijの一部のみDNAが捕捉されている場合がある。一部のみDNAが捕捉されている場合は、残りの領域8ijには捕捉されておらず、空きの状態となる。領域8ijはこのように、格子構造(2次元の格子構造)を形成し、その格子点の位置に領域8ijが配置される。
【0026】
領域8ijの表面処理としては、特異的な相互作用を示すタンパク質,反応性の官能基,核酸分子,金属などを用いることができる。より具体的には、特異的な相互作用を示すタンパク質としては、アビジン,ストレプトアビジン,ニュートラアビジンなどのビオチン結合性タンパク質や、抗体、1本鎖結合タンパク質などのDNA結合タンパク質等を用いてよい。反応性の官能基としては、チオール基,アミノ基,カルボキシル基,リン酸基,アルデヒド基等を用いることができる。核酸分子としては、DNA,RNAやその誘導体のほか、PNA(ペプチド核酸)を用いてよい。また、金属として、金,銀,アルミ,クロム,チタン,タングステン,白金,ニッケルを用いてよい。
【0027】
表面処理の方式としては、基板との共有結合により結ばれていてもよい。共有結合を用いることで、核酸試料を強固に固定できるため分析過程での核酸試料の解離を避けられるため好ましい。また、化学的または物理的な吸着により基板に固定されていてもよい。また、基板表面を直接改質するのでもよい。例えば、基板として合成石英を用いた際には、アミノシランで処理することでアミノ基の表面処理を導入することができるし、石英に吸着する性質を持つBSA(牛血清アルブミン)にビオチンを導入した、BSA−ビオチンを石英表面に吸着させたものでも良い。また、両者を組み合わせて、石英表面に吸着したBSA−ビオチンの上に、アビジンを介して、ビオチン化DNA結合タンパク質を固定することもできる。
【0028】
捕捉するDNA断片301の修飾303としては、ビオチン,抗原,チオール基,アミノ基,カルボキシル基,リン酸基,アルデヒド基,金などの金属微粒子等を用いることができる。
【0029】
また、領域8ijの表面処理として核酸分子やDNA結合タンパク質を用いる際には、DNA断片と直接ハイブリダイゼーションすることにより捕捉できるため、核酸分子やDNA結合タンパク質が結合するDNA配列そのものが修飾303となる。例えば、表面処理としてポリT配列を持つ核酸分子をプローブDNAとして領域8ijに固定しておくことで、一端をポリA化処理したDNA断片、または元々3′末端付近にポリA配列を有するmRNA分子を捕捉することができる。このように、試料DNAに新たに加えた配列や元々持っていた配列を修飾303として用いることができる。
【0030】
さらに、例えばヒストンのように結合するDNA配列の選択性が低いDNA結合タンパク質を表面処理として用いる場合は、DNA断片301全体が修飾303として機能することとなる。
【0031】
捕捉するDNA断片301中の修飾303の位置としては、とくに限定は無いものの、5′末端,3′末端、またはそれらの近傍が好ましい。これらの位置でDNA断片を捕捉することで、DNA断片の配列決定できる領域を広く取ることができる。
【0032】
1つの捕捉するDNA断片301の中の2つ以上の位置に2つの修飾303,302を導入することで、DNA断片を2点以上で基板上に捕捉することができる。例えば、DNA断片の5′末端と3′末端を共にビオチン化しておき、領域8ijにストレプトアビジンを結合させておくことで、DNA断片の5′末端と3′末端の2点で基板に捕捉できる。これによって、1点で捕捉されていた時に比べて、DNA断片、特にDNA断片中の捕捉されていた点から最も遠い部位が、基板8の表面から近い空間に位置することとなる。
【0033】
一般に試料DNA断片が基板上にその一端で捕捉されている場合、他方の末端を含む他の部分は自由に動くことができる。そのため、試料DNA断片が長くなると、時としてDNA断片の一部分がエバネッセント光で照明される空間から外れてしまう。すると、その部分に取り込まれた蛍光色素付き塩基への励起光が弱くなり、発せられる蛍光測定のSN比が低下してしまう。しかし、前記のようにDNA断片を2点で基板に捕捉することで、DNA断片の蛍光測定が行われている部位がエバネッセント光の範囲から外れることを防ぐことができる。
【0034】
これによって、DNA断片が長くなった際にSN比が低下することを防止できる。そのため、より長いDNA断片の配列決定が可能となる。
【0035】
なお、DNA断片301の固定に用いる領域8ijの表面処理が、DNA断片301とハイブリダイゼーションする核酸分子を固定したもので、かつDNA伸長反応のプライマーを兼ねる場合には、伸長反応は5′末端から3′末端方向へ進むため、5′末端で該核酸分子を基板に固定することが好ましい。または、該核酸分子の少なくとも3′末端がフリーである必要がある。
【0036】
また、3点以上の位置でDNA断片301を捕捉することで、DNA断片を基板表面に留める効果をさらに高めることができる。これは例えば、ゲノム中の繰り返し配列など、長いDNA断片中に複数回出現する配列を修飾303とし、これと相補的な配列を持つDNA断片を表面処理しておくことで、3点以上での捕捉が可能となる。また、一本鎖結合タンパク質を表面処理として用いて、DNA断片全体を捕捉対象とする場合も同じ効果を得ることができる。
【0037】
また、図3(a)のように、2つ目以降の修飾302を捕捉できるような異なる表面処理を施した領域304を領域8ijと隣接または分離された別の領域として設けても良い。また、このような領域304は、反応領域8aの領域8ij以外の部分のうち、図3(d)のようにその全体でも良く、図3(e)のように一部分でも良い。この場合、領域8ijの面積を小さく保ったまま、2箇所の修飾303,302が捕捉される位置の距離を長くすることができる。領域8ijの面積を小さくすることで、領域8ijにDNA断片301が1分子のみ捕捉される確率を高められる。領域304と領域8ijの距離に制限は無いが、好ましくは、捕捉するDNA断片301の平均的な長さ、または領域8ij同士の間隔の寸法dx,dyよりは短い。
【0038】
また、図3(b)のように、領域8ijの中に、異なる2種表面処理を混在させることで、DNA断片301の2種の修飾302,303を、共に領域8ijに捕捉しても良い。このような表面処理は、例えば、配列の異なる2種のプローブDNAを混合して固定することで実現できる。
【0039】
このような、領域8ijを均等間隔に設けた基板の作成法は、例えば、特開2002−214142号公報に記載の手法などで、作成する。なお、dx,dyは領域8ijの個々の大きさより大きく、0.2〜10マイクロメータ以下、さらには0.5〜6マイクロメータ程度が好ましい。
【0040】
格子点位置の領域(スポット,格子点の領域)の大きさは100nm径以下が好ましい。少なくとも、隣接する最短の格子点の間隔の1/3以下が好ましい。これにより、光学的に解像しやすくなり、識別が容易になる。なお、格子構造は正方格子構造,長方格子構造,三角格子構造などにしてもよい。基板の反応領域8aは1mm×1mmの大きさとする。反応領域8aの大きさは、それより大きくても可であるし、0.5mm×0.5mmの大きさのものを一定間隔で、1次元または2次元に複数個並べたようなものでもよいし、長方形,丸型,三角形,六角形の形状などでもよい。以下では、これらの可能性のうち、dx,dyを2マイクロメートルとした場合について説明する。
【0041】
なお、図3(c)のように、領域8ijには接着用パッド306を配置してもよい。接着用パッド306は前記の表面修飾を施せる材料であればよく、例えば金属構造体を用いることができる。金属構造体は半導体プロセスにて作成することもできる。電子線描画,光リソグラフィー,ドライエッチング,ウェットエッチングなどの手法にて作製できる。金属構造体は、金,銀,アルミ,クロム,チタン,タングステン,白金,ニッケル等で、励起光の波長以下の大きさを有する形状であり、直方体,円錐,円柱,三角柱,一部が突起状のものを有する構造、あるいは、これらを2個または複数個近接して並べた構造など、また金属微粒子なども使用可能である。たとえば、直径10nmから100nm程度の大きさの金の膜状のドットを上記dx,dyの間隔、たとえば、1×1,1×2,1×3,2×3,2×4,3×5,3×6(マイクロメータ×マイクロメータ)などの間隔の格子上に構築できる。
【0042】
2つ目以降の修飾302を捕捉できるような異なる表面処理を施した領域304を領域8ijとは別に設けるには、図3(e)のように反応領域8aの領域8ij以外の部分の一部分を領域304とする場合、例えば前記の半導体プロセスを2回繰り返すことで作製できる。
【0043】
また、反応領域8aのうち領域8ij以外の全面を領域304とする場合、例えば、基板8として合成石英を用い、領域8ijとして、金の接着用パッド306を配置する。反応領域8aの石英にアミノシランを反応させることでアミノ基を導入した後、ビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS−Biotin)を反応させる。これによって、領域8ijの表面処理として金、反応領域8a全面の表面処理としてビオチンを有する基板を作製できる。
【0044】
図3(f)のように、領域8ijの上に、表面処理を施した微粒子305を固定しても良い。この場合の領域8ijも、前述の接着用パッド306を配置してよい。微粒子としては、例えば表面にストレプトアビジンを固定したポリスチレンビーズを用いることができる。この場合、接着用パッド306の直径を微粒子の直径以下にすることで、1分子固定を容易にすることができる。例えば、前記の直径20nm程度のドットに、大きさ20nm程度の蛋白や蛍光物質,リンカーをその上部に捕捉すれば、確率的にその大きさからドットあたり1分子を捕捉し、格子状に単一分子を配置することが可能になる。また、周知の手法でドットに選択的なリンカーを結合させ、それにオリゴヌクレオチド,たんぱく質などを捕捉することで、ドットに目的の分子を捕捉することが可能であり、これを使うことができる。
【0045】
基板8上に金属構造物を形成している場合、構造物の光ルミネセンス,光散乱を検出することで、構造物の空間位置を検出することができ、位置の基準マーカとして活用でき、効果的である。
【0046】
dNTPの蛍光標識として種々の蛍光体を使うことができる。たとえば、Bodipy−FL−510,R6G,ROX,Bodipy−650を使用し、これらそれぞれ異なる4種の蛍光体で標識された3′末端がアリル基で修飾された4種のdNTP(3′−O−allyl−dGTP−PC−Bodipy−FL−510,3′−O−allyl−dTTP−PC−R6G,3′−O−allyl−dATP−PC−ROX,3′−O−allyl−dCTP−PC−Bodipy−650)を使用する。これ以外の蛍光体で修飾したdNTPを使用することもできる。
【0047】
蛍光励起用のレーザ光源101a(Arレーザ、488nm:Bodipy−FL−510,R6G励起用)からのレーザ光をλ/4波長板102aを通して円偏光とする。蛍光励起用のレーザ光源101b(He−Neレーザ,594.1nm:ROX,Bodipy−650励起用)からのレーザ光をλ/4波長板102bを通して円偏光とする。両レーザ光をミラー104bとダイクロイックミラー104a(520nm以下を反射)で重ね合わせ、ミラー5を介して全反射照明用の石英製プリズム7に図のように入射面に垂直に入射し、DNA分子を捕捉する基板8の裏側から照射する。石英製プリズム7と基板8はマッチングオイル(無蛍光グリセリン等)を介して接触させており、レーザ光はその界面で反射することなく、基板8に導入される。基板8表面は反応液(水)で覆われており、その界面にてレーザ光は全反射し、エバネッセント照明となる。エバネッセント照明は基板8表面のごく近傍(励起光波長程度の距離)のみを照明し、基板からの距離に対して指数関数的にその強度が減少する。これにより、背景光の影響を抑え、高いS/Nで蛍光測定が可能になる。
【0048】
なお、基板の近傍には、温調器が配置されているが、図では省略した。また、通常観察のため、プリズム下部よりハロゲン照明,LED照明ができる構造としているが、図ではこれを省略している。
【0049】
また、レーザ光源101a,101bとは別にレーザ装置100(YAGレーザ、355nm)を配置し、ダイクロイックミラー103(400nm以下を反射)でレーザ光源101a,101bのレーザ光と重ね合わせ同軸にして照射できるようにする。本レーザは、取り込まれたdNTP誘導体の蛍光検出後、dNTP誘導体を伸長可能な状態に戻す工程に使用するものである。
【0050】
基板8の上部には、試薬などを流し、反応させるためのフローチャンバ9が構成されている。チャンバには導入口12があり、分注ノズル26を有する分注ユニット25,試薬保管ユニット27,チップボックス28により、目的の試薬液の注入などを行う。試薬保管ユニット27には、試料液容器27a,dNTP誘導体溶液容器27b,27c,27d,27e(27c,27d,27eは予備)及び洗浄液容器27f等が用意される。チップボックス28内の分注チップを分注ノズル26に取り付け、適当な試薬液を吸引し、チャンバ導入口から基板の反応領域に導入し、反応させる。廃液は廃液チューブ10を介して廃液容器11に排出される。これらは制御PC21により自動的に行われる。
【0051】
フローチャンバは、蛍光検出を行うため、光軸方向に透明な材料で形成される。蛍光13は、自動ピントあわせ装置29で制御される集光レンズ(対物レンズ)14で集められ、フィルタユニット15で必要な波長の蛍光を取り出し、不必要な波長の光を除去するフィルタユニット15を透過する蛍光はダイクロイックミラー32により、波長ごとに異なる比率で分割された光束に分離される。分離された光束をそれぞれ、補助フィルタ17a,17bを通し、その像を結像レンズ18a,18bで、CCDカメラ19a,19b(高感度冷却2次元CCDカメラ)に結像させ、検出する。カメラの露光時間の設定,蛍光画像の取り込みタイミングなどの制御は、2次元センサカメラコントローラ20a,20bを介して制御PC21が行う。なお、フィルタユニット15には、レーザ光除去用のノッチフィルタ2種(488nm,594.1nm)、検出する波長帯を透過させるバンドパス干渉フィルタ(透過帯域:510−700nm)を組み合わせて用いる。
【0052】
なお、装置は、調整などのため、透過光観察用鏡筒16とTVカメラ23とモニタ24を備えており、ハロゲン照明などで基板8の状態をリアルタイムで観察できるようになっている。
【0053】
図2にあるように、基板8には位置きめマーカ30,31が刻印されている。位置きめマーカ30,31は領域8ijの並びと平行に配置され、その間隔が規定されている。そこで、透過照明での観測でマーカを検出することで、領域8ijの位置を計算することができる。
【0054】
CMOSカメラ等の2次元センサカメラ一般を使ってよい。本実施例で使用は、CCDエリアセンサを使用するが、2次元センサカメラを使うことができる。種々の画素サイズ,画素数のCCDエリアセンサを使うことができる。たとえば、画素サイズが7.4×7.4マイクロメータで、画素数2048×2048画素の冷却CCDカメラを使用する。なお、2次元センサカメラとしては、CCDエリアセンサの他、CMOSエリアセンサなどの撮像カメラなどを一般に使うことができる。CCDエリアセンサにも、構造によって、背面照射型,正面照射型があり、どちらも使用できる。また、素子内部に信号の増倍機能を有する電子増倍型CCDカメラなども高感度化を図る上で有効である。また、センサは冷却型が望ましく、−20℃程度以下にすることで、センサの持つダークノイズを低減でき、測定の精度を高めることができる。
【0055】
反応領域8aからの蛍光像を一度に検出してもいいし、分割することもできる。この場合、基板の位置を移動させるためのX−Y移動機構部をステージ下部に配置し、制御PCで照射位置への移動,光照射,蛍光像検出を制御する。本例ではX−Y移動機構部は図示していない。
【0056】
(核酸試料の捕捉工程)
まず、核酸試料の調製方法を述べる。ゲノムDNAを周知の方法で断片化する。両末端にアダプターDNAをライゲーションする。アダプターDNAは、2本のオリゴDNAをハイブリダイゼーションしたものを用いる。2本のオリゴDNAは互いに相補的な配列を持ち、一方は5′末端、他方は3′末端をビオチン化してある。アダプターDNAをライゲーションした断片化ゲノムDNAを熱変性させ、1本鎖に解離させる。これによって、両末端をビオチン化した1本鎖DNAからなる核酸試料を作ることができる。同様に、2本のオリゴDNAの一方を3′チオール修飾、もう一方を5′アミノ基修飾等とすることで、両末端に異なる修飾を持つ核酸試料を調製できる。
【0057】
核酸分析デバイスの領域8ijには、前記の方法により金属構造体にビオチンを導入したものを配置してある。ストレプトアビジンを加えたバッファを導入口12よりチャンバに導入し、ストレプトアビジンを金属構造体に捕捉されているビオチンに結合させ、ビオチン−アビジン複合体を形成させる。これにより、核酸試料の両末端を基板8に固定できる。核酸試料であるビオチン修飾一本鎖鋳型DNAにプライマをハイブリさせ、前記鋳型DNA−プライマ複合体と大過剰のビオチンを加えたバッファをチャンバへ導入し、ビオチン−アビジン結合を介して、単分子の前記鋳型DNA−プライマ複合体を格子点に配置された金属構造体に捕捉する。捕捉反応後に、余剰な鋳型DNA−プライマ複合体およびビオチンを洗浄用バッファにてチャンバより洗い流す。
【0058】
(反応の工程)
段階的伸長反応の工程を以下に示す。反応工程はProc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.100, pp3960, 2003、およびProc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.102, pp5932, 2005を参考に行った。
【0059】
それぞれ異なる4種の蛍光体で標識された3′末端がアリル基で修飾された4種のdNTP(3′−O−allyl−dGTP−PC−Bodipy−FL−510,3′−O−allyl−dTTP−PC−R6G,3′−O−allyl−dATP−PC−ROX,3′−O−allyl−dCTP−PC−Bodipy−650)およびThermo Sequenaseポリメラーゼを加えたThermo Sequenase Reactionバッファを導入口12よりチャンバへ導入し、伸長反応を行う。鋳型DNA−プライマ複合体に取り込まれたdNTPは、3′末端はアリル基で修飾されているため、前記鋳型DNA−プライマ複合体に1塩基以上取り込まれることはない。伸長反応後、未反応の各種dNTPおよびポリメラーゼを洗浄用バッファで洗い流し、Arレーザ光源101a,He−Neレーザ光源101bのそれぞれの光源から発振するレーザ光を同時にチップに照射する。レーザ照射により鋳型DNA−プライマ複合体に取り込まれたdNTPに標識された蛍光体を励起し、そこから発する蛍光を検出する。鋳型DNA−プライマ複合体に取り込まれたdNTPに標識された蛍光体の蛍光波長を特定することにより、前記dNTPの塩基種を特定できる。なお、エバネッセント照射であり、反応領域表面近傍のみが励起光照射領域となるため、前記表面以外の領域に存在する蛍光体を励起することは無く、背景光の少ない測定ができる。そのため、上記では、伸長反応後洗浄しているが、蛍光標識dNTP濃度が小さい場合、洗浄不要で測定が可能になる場合もある。すなわち、リアルタイム方式による塩基配列の決定が可能となる。
【0060】
次に、YAGレーザ光源100より発振するレーザ光をチップへ照射し、前記複合体に取り込まれたdNTPに標識された蛍光体を光切断により取除く。次いで、パラジウムを含んだ溶液を流路内に導入し、パラジウム触媒反応により、前記複合体に取り込まれたdNTPの3′末端のアリル基を水酸基に変える。前記3′末端のアリル基を水酸基に変えることにより、前記鋳型DNA−プライマ複合体の伸長反応が再開可能となる。前記触媒反応後に、洗浄用バッファにてチャンバを洗浄する。これを繰り返すことにより、捕捉された一本鎖鋳型DNAの配列を決定する。
【0061】
本システムでは、反応領域8aの複数の領域8ijからの発光を同時計測できるため、領域8ijにそれぞれ異なる鋳型DNAを捕捉する場合、前記複数の異なる鋳型DNA−プライマ複合体に取り込まれたdNTPの塩基種を、つまり複数の鋳型DNAの配列を同時に決定できる。すなわち、パラレル解析方式による塩基配列の決定が可能となる。
【0062】
(蛍光検出と蛍光体識別)
基板上に捕捉された上記蛍光体の蛍光を検出して蛍光体の種類つまりは塩基の種類を識別して強度を測定する方式について説明する。
【0063】
図1では、CCDカメラ19a,19bへの結像倍率を14.8倍とし、DNAが捕捉されるべき複数の領域8ij(格子点)を蛍光計測する。この場合、dx=2マイクロメータの距離を4分割してCCD画素で検出する。波長ごとに異なる比率で分割するダイクロイックミラーを使用し、ひとつの輝点の蛍光強度を分割し、それらを異なる画素にて検出することで、4種の蛍光体を識別し、蛍光検出することができる。制御PC21では、各CCDカメラの画像から、領域8ijからの蛍光輝点を抽出し、その強度の比を算定し、蛍光輝点がどの蛍光体の蛍光なのかを判定することで、塩基の種類が識別でき、配列解析ができる。
【0064】
なお、使用できる蛍光体は本実施例に示すものに限らず、所定の励起光をつかい、異なる蛍光特性を有する蛍光体の組み合わせであれば同様に使用できる。一般には、蛍光極大波長が各々異なる種類の組み合わせであればよい。
【0065】
本例では、ダイクロイックミラー32として、指定の波長範囲において、透過率が、実質的にほぼ0からほぼ100%までのほぼ線形的な特性を有する2色性ミラーを使用するが、ほぼ10からほぼ80%までのほぼ線形的な特性であってもよい。また使用する複数の蛍光体の各蛍光極大波長ごとに透過率・反射率が異なる特性の分割ミラーであってもよい。たとえば、蛍光極大波長ごとに階段状に変化する特性のミラーでも同様に可能である。対象とする複数の蛍光体の蛍光極大波長または最大ピークを示す波長ごとに異なる比率に分割できる効能を有していればよい。
【0066】
なお、蛍光測定では、背景光が存在するが、上記では、背景光成分を差し引いた信号成分での説明である。
【0067】
また、石英製プリズム7に対してレーザ光をその入射面に垂直つまり入射角度0度で入射している。これにより、基板8とプリズムを一体化して移動させても、対物レンズ観察視野からレーザ照射位置がずれないため、基板とプリズムを一体化することができ、プリズムと基板とのカップリング方式を種々選ぶことが可能になる。オイルカップリングのほか、光学接着も可能になり、装置構成を容易に選ぶことができる。
【0068】
なお、本実施例では、基板8の各々の領域8ijに結合している蛍光分子が1分子であり、複数の異なる蛍光分子が同じ位置にいないため、本発明のような装置及び方法で効率よく蛍光体種つまりは塩基種が識別でき、しかも高密度な基板に対応できる。
【0069】
本実施例によれば、複数の測定対象物を精密配置し、複数の検出画素を備えた複数の検出器の特定画素に各測定対象物をそれぞれ結像させ、検出器ごとの強度比を測定することで、より多い種類の蛍光体を識別し、その蛍光強度を算定することができる。特に検出器である2次元CCDカメラを1台または2台で、標識物である蛍光体3種、または4種以上を識別検出することができる。これにより、装置コストを抑えることができる。1分子ごとに検出することもできる。
【0070】
なお、本実施例では、検出する波長帯域が500−700nmであるが、これに制限されることはない。波長範囲400−600nmとか、400−700nmの範囲など任意に対応できる。使用する蛍光体種の中で、一番短い蛍光極大波長を有する蛍光体種の蛍光極大波長付近から、一番長い蛍光極大波長を有する蛍光体種の蛍光極大波長付近までの範囲で調整することができる。厳密に蛍光極大波長間とする必要はない。蛍光体種ごとの蛍光極大波長付近でそれぞれ異なる比率に分割できればよい。また、特定の蛍光体を受光するときの蛍光強度比が、ほかの蛍光体の蛍光強度比と異なることで、複数の蛍光体を識別することができる。
【0071】
実施例では、オリゴヌクレオチド等の生体関連分子が分子中の2点以上において捕捉される基板8に蛍光測定用の光を照射し、生じる蛍光を集光し、2次元センサカメラに結像させ、2次元検出器にて蛍光検出する。基板8は実質的に透明な基板であり、分子が捕捉されうる領域8ijが複数設けられ、それらが格子構造の格子点位置に配置されている。該基板上で必要な試薬や試料などを反応させ、全反射照明のための光励起用の光源と、照射光学系により該基板上の蛍光体を励起し、発する蛍光を蛍光集光系で集光し、その光束を指定の波長範囲において実質的に各々の波長で異なる比率で分割する分光部により分割し、結像光学系で各々検出器に結像し、複数の検出画素を備えた検出器により検出する。さらにデータ処理部では、分割された蛍光像の相対応する輝点の強度を算定し、その強度比から蛍光体種を判定する。これにより、簡便に多種の蛍光体種を識別検出することができる。
【0072】
また、本例では、一定間隔の格子状に捕捉領域8ijを配置する基板を使用する例を示した。格子状に配置することで、透過像と反射像内の相対応する輝点の識別が容易になる。捕捉位置が、ランダムに分散する場合は、両方の画像を比較し、パターン解析し、または基準マーカを参照して、相対応する輝点を判定すればよい、これによっても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0073】
反応基板の別の実施例を示す。本実施例では、エバネッセント光の代わりに微小開口に生じる近接場光を用いて背景光を抑える方式を示す。
【0074】
励起光の波長程度以下の開口が、励起光に対して不透明なマスクに設けられている場合、励起光は微小な開口の内部、またはごく近傍にのみ染み出す近接場光として存在する。反対側へ伝搬する光としては透過しないため、開口から離れた位置にある蛍光色素を励起しない。そのため、エバネッセント光を用いた場合と同様に、背景光を大幅に低減することができる。なお、ここで開口部とは物理的な穴でもよく、光学的に透明な部材による窓でも良い。また、開口の大きさが励起光の波長程度より大きい場合には、近接場光による照明とはならないものの、やはり基板を透過する励起光強度を抑えることで、背景光を低減できる。
【0075】
本実施例での基板60の構造を図4(a)に示す。基板60は、反応領域60aを有し、その内部に核酸試料を捕捉する反応領域60ijがピッチdsで複数形成されており、さらに複数の反応領域60ijの周りを光学的に不透明なマスク60bで覆う構造とする。すなわち、マスク60bに設けられた開口60cの中に反応領域60ijが存在する。マスク材料としては、アルミニウム,クロムなどの金属,炭化シリコンなどが適用でき、蒸着などで、薄膜化する。反応領域60ijの個々の大きさは直径100nm以下である。この開口をマスク60bのなかに作成する方法としては、プロジェクション法での蒸着(蒸着源と基板との間に適当なマスクを配置して蒸着する),電子ビームリソグラフィー,フォトリソグラフィーによる直接描画によって作成できる。ドライエッチング,ウェットエッチングを用いても良い。
【0076】
反応領域60ijへDNA断片301を捕捉する方法は、すでに述べたものを使用することができる(図4(b))。基板60が合成石英である場合は、アミノシランを反応させることでアミノ基を導入した後ビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS−Biotin)を反応させ、ストレプトアビジンを反応させることにより、修飾303としてアビジン修飾することが容易にできる。さらに、修飾302として末端をビオチン化した核酸分子を固定することで、核酸試料を2点以上で捕捉することが可能になる。
【0077】
本実施例では、生体分子周囲の試料液のラマン散乱光と生体分子近傍の金属構造物の光ルミネセンス・光散乱を検出することで、構造物の空間位置を検出することができ、位置の基準マーカとして活用できる。
【0078】
開口中に金属構造体を作成してもよい。実施例1と同様に位置きめマーカ61,62,63を配置することもでき、実施例1と同様の効果が期待できる。
【0079】
本例によっても、前記実施例1等と同様の効果が得られる。また、反応領域60ij以外はマスクされているため、不要な迷光,蛍光が低減でき、より高感度に測定することができるようになる。
【実施例3】
【0080】
蛍光体として別の組み合わせの例を示す。
【0081】
共鳴による励起エネルギーの移動(いわゆるFRET、Fluoresent Resonance Energy Transfer)を利用した蛍光測定にも適用できる。例えば、ドナーとして、蛍光波長525nmのQdot525などを使い、アクセプタとしてAlexa Fluor546,Alexa Fluor594,Alexa Fluor633,Alexa Fluor660の4種の蛍光体を使うことも可能である。これら5種の蛍光体も、前記実施例と同様に、その蛍光強度比率でそれぞれ識別弁別することができる。FRETの場合は、実施例1などで記載した反応領域の個々のドット(領域8ijなど)に核酸試料を捕捉し、Qdot標識した核酸合成酵素を供給し、それに対して4種の蛍光付き塩基を個々に反応させる。前記実施例に記載の装置により、蛍光強度検出、各々の検出蛍光強度比率を算定することで、蛍光体の種類を識別することができる。個々の領域の状態は、何も捕捉されていないドット,Qdotのみ捕捉されたドット,Qdot+Alexa Fluor546が捕捉されたドット,Qdot+Alexa Fluor594が捕捉されたドット,Qdot+Alexa Fluor633が捕捉されたドット,Qdot+Alexa Fluor660が捕捉されたドット、になる。Qdotが捕捉されたドットからはその蛍光が検出されるが、蛍光強度の比率が異なっており、また、励起エネルギーの移動によりQdotからの蛍光強度が低下することにより、蛍光強度比率により、上記組み合わせの状態を識別することが可能である。また、核酸合成酵素により核酸鎖に取り込まれていない未反応の蛍光付き塩基は、Qdotから離れているためFRETによる蛍光を発しない。よって、未反応の蛍光付き塩基を洗浄する工程なしに、4種の蛍光付き塩基が核酸鎖に取り込まれる様子をリアルタイムで蛍光検出することも可能である。
【符号の説明】
【0082】
5 ミラー
7 プリズム
8,60 基板
8a,60a 反応領域
8ij,60ij 反応領域
9 フローチャンバ
10 廃液チューブ
11 廃液容器
12 導入口
13 蛍光
14 集光レンズ(対物レンズ)
15,406 フィルタユニット
16 透過光観察用鏡筒
17a,17b 補助フィルタ
18a,18b 結像レンズ
19a,19b CCDカメラ
20a,20b 2次元センサカメラコントローラ
21 制御PC
22,24 モニタ
23 TVカメラ
25 分注ユニット
26 分注ノズル
27 試薬保管ユニット
27a 試料液容器
27b,27c,27d,27e dNTP誘導体溶液容器
27f 洗浄液容器
28 チップボックス
29 自動ピントあわせ装置
30,31,61,62,63 位置きめマーカ
32,103,104a ダイクロイックミラー
60b マスク
60c 開口
100,101a,101b レーザ光源
102a,102b λ/4波長板
dx,dy 領域8ijの間隔の寸法
301 DNA断片
302,303 結合のための修飾
304 領域
305 微粒子
306 接着用パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基体の表面には核酸試料を固定する複数の領域を有し、該領域の少なくとも一つには核酸試料が1分子固定されており、前記固定した核酸試料の伸長反応を行うことで配列決定を行う核酸分析デバイスにおいて、
前記核酸試料1分子と支持基体との固定は2点以上でなされることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記領域には、前記核酸試料が固定しうる表面処理が施されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記領域の少なくともいずれかには、異なる2種以上の表面処理が施されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項4】
請求項2に記載の核酸分析デバイスにおいて、
少なくともいずれかの領域間の表面処理が異なることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項5】
請求項1に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記領域上には金属構造体が配置されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記金属構造体には微粒子が固定されることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記金属構造体は平面形状が円形であり、該金属構造体の直径は、前記微粒子の直径よりも小さいことを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項8】
請求項5に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記金属構造体は、金,銀,アルミ,クロム,チタン,タングステン,白金,ニッケルのいずれかからなることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項9】
請求項1に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記領域は、格子状に配列されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記核酸試料の少なくとも一端は、3′末端において前記支持基体に固定されていることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項11】
請求項2に記載の核酸分析デバイスにおいて、
前記表面処理は、前記支持基体の表面に固定された核酸分子であることを特徴とする核酸分析デバイス。
【請求項12】
支持基体の表面の核酸試料を固定する複数の領域の少なくとも一つに核酸試料を1分子固定し、前記固定した核酸試料の伸長反応を行うことで配列決定を行う核酸分析方法において、
前記核酸試料1分子と支持基体との固定を2点以上で行うことを特徴とする核酸分析方法。
【請求項13】
核酸合成酵素と蛍光色素付き塩基を前記核酸試料に接触させ核酸合成反応を行う工程と、
局所照明により標識を励起することで生じる蛍光を検出する工程を含む核酸分析方法において、
支持基体の表面に核酸試料の第1の箇所により1分子固定する工程と、
支持基体の表面に核酸試料の第2の箇所により固定する工程と、を含むことを特徴とする核酸分析方法。
【請求項14】
請求項13に記載の核酸分析方法において、
局所照明により励起することで生じる蛍光を検出する工程を含む工程を、蛍光色素付き塩基が前記核酸試料の周囲に存在する状態で行うことを特徴とする核酸分析方法。
【請求項15】
請求項13に記載の核酸分析方法において、
前記核酸合成酵素には蛍光体が結合されていることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項16】
請求項13に記載の核酸分析方法において、
前記核酸試料と前記支持基体との固定は前記核酸試料の1つの鎖の両末端を介してなされていることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項17】
請求項13に記載の核酸分析方法において、
前記核酸試料と前記支持基体との固定は共有結合によってなされることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項18】
請求項13に記載の核酸分析方法において、
前記核酸試料と前記支持基体との固定はタンパク質よってなされていることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項19】
請求項13に記載の核酸分析方法において、
前記核酸試料と前記支持基体との固定は3点以上においてなされていることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項20】
請求項13に記載の核酸分析方法において、
前記核酸試料の両端に修飾を導入する工程を含むことを特徴とする核酸分析方法。
【請求項21】
支持基体の表面には核酸試料を固定する複数の領域を有し、該領域の少なくとも一つには核酸試料が1分子固定されている核酸分析デバイスと、
前記核酸分析デバイスに少なくとも核酸試料を供給する手段と、
前記核酸分析デバイスに光を照射する手段と、
核酸伸長反応により取り込まれた蛍光を検出する検出部を備え、核酸試料の塩基配列を決定する核酸分析装置であって、
前記核酸試料1分子と支持基体との固定は2点以上でなされることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項22】
請求項21に記載の核酸分析装置において、
前記領域は、格子状に配列されていることを特徴とする核酸分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−55250(P2012−55250A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202626(P2010−202626)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】