説明

核酸増幅装置

【課題】 連続流体によるポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)において、3温度設定領域であるディネーチャ温度(94℃)、アニール温度(65℃)、エクステンション温度(72℃)の領域に流路が配置され、配置された流路内の液体は3温度設定領域を交互に通過することによりPCRを行うコンティニュアスPCRの構成において、3温度設定領域の中央に位置する温度流域の往路と復路の通過時間を流路の長さにより決定したため、流路長が長くなることにより流路の占有面積が大きくなる欠点があった。
【解決手段】 往路と復路の断面積を異ならせることにより流体の通過時間を決定した。そのことにより平面の占有面積を必要最低限とすることを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅装置に関する。更に詳しくは、異なる複数の温度設定領域を有する流路に核酸の増幅反応を行うための液体を流して、該液体に核酸の増幅のための温度サイクルを供する核酸増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微量のテンプレートDNAの効率的な複製・増幅には、PCR(Polymerase Chain Reaction)法が広く用いられている。PCR法は、以下に示す(1)〜(3)の工程を1サイクルとして、この温度サイクルを複数回繰り返すことによって目的のDNAを増幅する方法である。(1)テンプレートとなる2本鎖DNAを熱変性して1本鎖DNAにする工程(変性工程またはディネーチャ工程と呼ばれる)。(2)得られた1本鎖テンプレートDNAに各々相補的なプライマを結合する工程(結合工程またはアニーリング工程と呼ばれる)。(3)耐熱性を有するDNAポリメラーゼを作用させて、プライマから相補鎖合成を行うことにより2本鎖DNAを合成する工程(伸張工程またはエクステンション工程と呼ばれる)。
【0003】
上記各工程は、反応液(増幅反応を行うための液体)の温度及び反応時間を管理することにより行われており、通常、テンプレートとなる2本鎖DNAの1本鎖DNAへの熱変性は約94℃である。また、1本鎖DNAへのプライマの結合は約65℃、DNAポリメラーゼによる相補鎖の合成は約72℃で行われる。
【0004】
従来、PCR法を自動的に行う装置として、反応液をエッペンドルフ型チューブに入れ、このチューブの温度をヒータと冷却器を用いて変化させることにより反応を行う装置が知られている。反応液には、テンプレートDNA、プライマ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)、DNAポリメラーゼ等が含まれる。装置には、アルミ製のブロックに設けられたウェルを有し、これに上記のチューブに挿入してブロックの温度を調整している。
【0005】
しかしながら、上記PCR法は熱サイクルを高い精度の温度コントロール下で行う必要があり、上記のようなバッチ式での反応ではスケールの増大とともに反応系の熱揺らぎが著しくなるためスケールアップに限界があった。
【0006】
そのため、熱サイクルの温度コントロールを高い精度で行い、かつスケールアップも可能なPCR法として、下記特許文献1、特許文献2及び下記非特許文献1には、フロー式PCR法が開示されている。このフロー式PCR法は、加熱部と冷却部を設けた流路に、DNAポリメラーゼ、鋳型DNA、プライマDNA、dNTP等を含む反応液を送液することによって熱サイクルを行い、PCRを行う方法である。
【0007】
特許文献3の図2に記載されたPCR法は、流路液体に電流を通電することによりジュール熱を発生させ、流路からの熱の放散により温度が決定される。流路内で液体に与えられる温度は、その位置の断面積により決定される。また、流体の所定温度における通過時間は流路長により決定される。ただし、該方法は流路の形状及び周辺への熱の放散により流路内における所定位置の液体の温度が決定されるので、高精度な温度精度を求めることは不可能である。
【0008】
非特許文献1に記載されたPCR法は、平面に3温度領域(94℃、73℃、55℃)が94℃、73℃、55℃の順番で配置されている。真中に配置された73℃の領域の流路は、94℃の領域から55℃の領域へ液体が移動する際の中継領域として存在し、この移動は急速に通過するように構成されている。これに対して、55℃の領域から94℃の領域へ液体が移動する際の75℃の中継領域は、DNAを伸張させるためにそれよりも長い時間をかけて通過するように構成されている。この75℃の中継領域において、できるかぎり高速通過と伸張時間の確保という相矛盾する要求に対して、流路の長さを変更することで通過時間を変更している。そのために、流路長が長くなり、流路長の長さによる流抵抗の増大が発生する。圧力により液移動を行う場合、高い負圧によるPCR液体の沸点の低下による沸騰、高い加圧の場合のリーク対応のためのカートリッジの大型化、コストアップなどの問題が生じる。また、流路長が長くなるに従ってテンプレートDNAが流路に付着する割合が増大し、付着による増幅率の低減の問題点がある。更に流路長が長くなることにより流路が配置される平面の面積が増大するため、装置のコンパクト化の要求には対応できない。
【特許文献1】特開平6−30776号公報
【特許文献2】特開平7−075544号公報
【特許文献3】特表2001−521622号公報
【非特許文献1】Science(1998年)280号5366巻、1046−1048頁(Kopp MU、Mello AJ、Manz A.著)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、装置のコンパクト化および反応の効率化を達成する核酸増幅装置を提供することにある。更にカートリッジ化した場合に増幅した核酸の分離・精製が容易で、スケールアップも可能な核酸増幅装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、反応の効率化を達成しつつ、よりコンパクトな増幅装置を実現するためには、流路内を流れる反応液の滞在時間を効率化し、それによって1サイクルの往復路の面積、ひいては複数サイクルの往復路の集積面積を増加させることが重要であることを見出した。
【0011】
特に、3温度PCRを行う系においては、変性工程(94℃)→結合工程(55℃)への温度推移はできる限り高速に行うことにより所望のテンプレートの位置に所望のプライマの結合が行える。さらに、数十回行う増幅において不要な温度推移時間を短縮することが増幅のトータル時間を短縮することにおいて重要となる。この知見により、本発明は為された。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明に係る核酸増幅装置は、
互いに異なる温度に設定可能な少なくとも3つの温度設定領域と、該温度設定領域のいずれか1つを中継領域として、該中継領域を経由して残りの2つの温度設定領域を繰り返し往復するように複数の往路および複数の復路を有して構成された流路と、を有し、液体が前記流路内を一方に向かって流れることによって核酸増幅の温度サイクルが該液体に与えられ、該液体中の核酸増幅反応を実現する装置であって、前記中継領域において前記流路の往路と復路の断面積が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3つの温度設定領域を往復して温度サイクルのサイクル時間の調整を、液体の滞在時間に相当する流路の断面積の大きさに基づいて調整することで、流路配置の平面方向の面積を著しく軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に使用される液体としては、核酸増幅反応用の反応液が用いられる。反応液は、少なくともテンプレートとなる核酸(以下、単にテンプレートという)と、プライマとなる核酸(以下、単にプライマという)と、DNAポリメラーゼ及びDNA合成の素材(基質)であるデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を含む。
【0015】
この溶液を本発明の増幅装置の流路に流し、該溶液に温度サイクルを供する。温度サイクルにより、テンプレートの変性(ディネーチャ)、変性させたテンプレートとプライマとの結合(アニーリング)、核酸合成酵素による核酸の伸張(エクステンション)が繰り返し行われる。
【0016】
この温度サイクルを、互いに異なる温度に設定可能な少なくとも3つの温度設定領域と、該温度設定領域のいずれか1つを中継領域として、該中継領域を経由して残りの2つの温度設定領域を繰り返し往復するように複数の往路および複数の復路を有して構成された流路と、を有する核酸増幅装置内で実現する。液体がこの流路内を一方に向かって流れることによって核酸増幅の温度サイクルが流れる液体に与えられ、液体中の核酸増幅反応が実現される。
【0017】
3つの温度設定領域には、変性反応を行う変性領域(ディネーチャ領域)と、アニーリング反応を行う結合領域(アニーリング領域)と、伸長反応を行う伸張領域(エクステンション領域)を選ぶことが好ましい。
【0018】
本発明においては、温度設定領域の1つを中継領域と定義する。この中継領域を経由して、残りの2つの温度設定領域を流路が往復する構成になっている。
【0019】
すなわち、2つの温度設定領域を往復する複数の往路および復路を有しており、往路および復路のそれぞれが中継領域を経てから他方の温度設定領域に到達する流路の構成となっている。
【0020】
3つの温度設定領域の配置はどのような配置構成でも構わないが、3つの領域を並列して配置する構成が好ましい。特に、中継領域が、残りの2領域の間、すなわち2つの温度設定領域を結ぶ直線上に配置される構成が好ましい。中継領域と残りの温度設定領域との関係については、以下のものが挙げられる。
(1)前記中継領域が、核酸増幅反応における伸張反応を行う領域であり、前記残りの2つの領域が、変性反応を行う領域と、結合反応を行う領域のいずれかである。
(2)前記中継領域が、結合反応を行う領域であり、前記残りの2つの領域が、変性反応を行う領域と、伸長反応を行う領域のいずれかである。
(3)前記中継領域が、変性反応を行う領域であり、前記残りの2つの領域が、結合反応を行う領域と、伸長反応を行う領域のいずれかである。
【0021】
本発明においては、この中継領域において前記流路の往路と復路の断面積が異なることが特徴である。
【0022】
すなわち、例えば(1)の場合、伸張領域(エクステンション設定領域)の流路の断面積が流体の導入方向(変性反応を行う領域から結合反応を行う領域に液体を移動させるための流路であるか、その逆方向に移動させるものであるか)により異なっている。なお、テンプレートの変性とは、二重鎖を形成した核酸を融解させて、一本鎖状にすることを意味する。
【0023】
流路の断面積が異ならせることによって、例えば小断面積から大断面積に流体が移動する場合、大面積部で流体の混合が起こり易くなる。従って、細流路により所定距離以上はなれた物質の出会い確立が低下し、効率的な増幅が行われない弊害を解決することが可能となる。
【0024】
また、本発明において、変性領域は、流路内を移動する反応液を核酸の融解温度以上に加熱できるように、流路の外部に変性用温度制御手段を設けることによって形成することが好ましい。アニ−リング温度設定領域は、流路内を移動する反応液を核酸の融解温度以下に調節できるように、流路の外部にアニ−リング用温度制御手段を設けることによって形成することが好ましい。温度制御手段は、所定の領域の温度を制御できる手段であればよく、抵抗ヒーターや、ペルチェ素子等公知のものが利用できる。
【0025】
本発明の方法で使用される核酸合成酵素は、核酸増幅に使用できる酵素であって、一般に入手可能な酵素を用いることができる。具体的には、DNAポリメラーゼ、リガーゼ、逆転写酵素、RNAポリメラーゼ等が例示できる。また、これらの核酸合成酵素を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
また、流路は、熱伝導性が比較的高く、PCRに必要な温度範囲において安定で、電解質溶液や有機溶媒に浸食されにくく、核酸やタンパク質を吸着しにくい材質で形成されていることが好ましい。耐熱性や耐食性を有する材質としては、ガラス、石英、シリコンの他、各種プラスチックが例示できる。さらにそれらの表面(反応液と接触する内壁面)を、ポリエチレン、ポリプロピレン等の一般的に核酸やタンパク質を吸着しにくいと言われる材質で被覆してもよい。また、上記の表面をポリエチレングリコール(PEG)等の親水性の官能基を多く含む分子を共有結合等で導入し、核酸やタンパク質の吸着を抑制することも好ましい。
【0027】
本発明を適用できる装置においては、流路内でテンプレートの変性、変性させたテンプレートとプライマとのアニーリング、及び核酸合成を効率よく行うことができるように、上記反応液の送液速度や流路の断面積及び長さ等の条件を適宜調整することが好ましい。これらの条件は、テンプレートの長さや合成する核酸の長さ、用いる核酸合成酵素の反応速度等によって適宜設定される。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
(実施例1)
以下、本発明の核酸増幅装置を図面に基づいて説明するが、基本的に同一の部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0030】
図2は、本発明に係るPCR増幅の温度サイクルを説明するための図である。横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。記号16は常温状態を表している。記号11はディネーチャ工程で、記号12はアニーリング工程で、記号13はエクステンション工程である。ディネーチャ工程、アニーリング工程、エクステンション工程の繰り返しにより増幅が行なわれている。最後のエクステンション工程から反応液温度を常温16bに戻して終了している。最初のディネーチャ工程11は、あとのディネーチャ時間より一般的には長くしている(Hot Start PCRなど)。記号21,22,23,24,は、常温(10)とディネーチャ温度(11)、アニーリング温度(12)、エクステンション温度(13)、ディネーチャ温度(14)の温度変化の状態を表している。記号25は、エクステンション温度(15)、常温(16)の温度変化の状態を表している。
【0031】
図1には、本発明の核酸増幅装置の一実施形態が示されている。記号4は流路を表し、記号1,2,3は、所定の温度に温度制御された温度設定領域である。温度設定領域1は、2本鎖の核酸を1本鎖に変性するためのディネーチャ温度を与えるための温度設定領域である。
【0032】
中継領域となる温度設定領域2は、結合した二重鎖が伸張するエクステンション温度を与えるための温度設定領域である。温度設定領域3は、テンプレートとプライマとの結合を行わせるアニーリング温度を与えるための温度設定領域である。流路4aの流体は記号5で表されるA方向に流れる。
【0033】
流路4aの流体は、ディネーチャ温度設定領域1の流路6を通過し、エクステンション温度設定領域2の流路7を通過し、アニ−リング温度設定領域3の流路9を通過し、エクステンション温度設定領域2の流路8を通過する。
【0034】
図1の中継領域であるエクステンション温度設定領域2で示す流路7の流体は出来る限り早くアニーリング温度設定領域3に到達すること望ましい。アニーリング工程とはテンプレートの所定位置に所望のプライマが的確に結合することが正しい増幅を行うための必須条件である。そのために正確な温度に高速に全液体が達することが望まれている。そのために流路7の断面積を小さくすることにより達成する。流路8に関しては、流体の通過時間を確保する必要があり、そのためには流路断面積を大きくすることにより達成することができる。
【0035】
図1のAA´断面図、及びBB´断面図で示すカートリッジ101は、部材101a,101b,101cの3層で構成されている。断面積大の流路は部材101bの厚さ方向に突き抜ける状態で構成され、断面積小の流路は部材101cの一部を除去することで構成されている。部材101bの流路は部材101aで密閉される構成となっている。断面積の増減を厚さ方向で調整することで、カートリッジの平面方向にはより密に複数の流路を配置することができ、コンパクト化により好ましい構成となっている。
【0036】
図3は、第一サイクルのディネーチャ温度の時間を長く確保するために、ディネーチャ温度設定領域の流路31の断面積を他のサイクルの断面積に対して大きく確保し、保持時間を確保するようにしている。他の部分に関しては、図1と同一符号は同一の作用効果である。
【0037】
また、エクステンション温度設定領域2を通過する流路7と流路8は、その断面積を異ならせることが本発明の特徴であるが、流路の長さは同じである必要はなく、流路8の長さを長くしてよりエクステンション温度設定領域2の滞在時間を増加させる構成でもよい。
【0038】
(実施例2)
図4には、本発明の核酸増幅装置の他の実施形態が示されている。図4が図1と異なる点は、図1は、ディネーチャ温度設定領域1、エクステンション温度設定領域2、アニーリング温度設定領域3で、図4は、ディネーチャ温度設定領域51、アニーリング温度設定領域52でエクステンション温度設定領域53である。エクステンション温度設定領域53とアニ−リング温度設定領域52が入れ変わっている。図4においては、ディネーチャ温度設定領域51、アニーリング温度設定領域52が隣接しているためにディネーチャ工程からアニーリング工程に流路のPCR溶液が高速に移動し、温度変化が高速に行われる。更にアニーリング温度設定領域52とエクステンション温度設定領域53も隣接しているので円滑に温度変化を行わせることが可能となる。しかしながら、エクステンション温度設定領域53からディネーチャ温度設定領域51に推移する過程においてアニーリング温度設定領域52を高速に通過させる必要がある。そのための手段として流路断面積を小さくすることにより達成することができる。図4の配置の場合は、エクステンション工程からディネーチャ工程の間にアニーリング温度設定領域52を通過するが、エクステンション工程で十分に伸張されているので再度アニーリング温度設定領域52を通過しても大きな弊害は発生しない。アニーリング工程とエクステンション工程を比較した場合、一般的にはエクステンション工程の時間が長い。更に、端に位置する温度設定領域は流路が戻る関係上流路が必然的に長くなる。図4のメリットとしては、比較的長くなるエクステンション工程の流路長を長くすることが可能となる。
【0039】
(実施例3)
図5には、本発明の核酸増幅装置の他の実施形態が示されている。図5が図1と異なる点は、図1は、ディネーチャ温度設定領域1、エクステンション温度設定領域2、アニーリング温度設定領域3で、図5は、エクステンション温度設定領域61、ディネーチャ温度設定領域62、アニーリング温度設定領域63の順番に配置している。エクステンション温度設定領域61、ディネーチャ温度設定領域62を入れ替えて配置していることである。図5において、ディネーチャ工程からアニーリング工程は、ディネーチャ温度設定領域62とアニーリング温度設定領域63の温度設定領域が隣接して配置され、ディネーチャ工程からアニーリング工程に流路のPCR溶液が高速に移動し、温度変化が高速に行われる。アニーリング工程からエクステンション工程にPCR溶液が移行する場合、図5においては、ディネーチャ温度設定領域62を通過する必要がある。アニーリング工程でテンプレートとプライマを結合させたものをディネーチャ温度設定領域で再度分離させることになる。従って、ディネーチャ温度設定領域62の流路65の溶液は高速にディネーチャ温度設定領域62を通過させることが重要である。そのための手段として、流路断面積を小さくし、流速を増大させて、通過時間を短くすることが有効となる。通常の温度サイクルの各工程の必要時間は、エクステンション時間>アニーリング時間>>ディネーチャ時間である。従って、端に位置する温度設定領域は流路が戻る関係上流路が必然的に長くなる。図5のメリットとしては、比較的長くなるエクステンション工程、アニーリング工程のための温度設定領域を端に位置させることが可能となる。
【0040】
図6は、同一カートリッジに複数の流路を設けて、複数のPCR増幅を平行して同時に行う場合の実施例である。図1の実施例に対して流路が3流路の場合を示している。一例として各流路はオーバラップしないように構成している。複数の流路に対して略同一温度設定領域の場所で流路の加熱を行っているので、各流路の各部に対する温度のバラツキは最小とすることが可能である。図6において、各流路のトータルの長さを同一にするように設計することは容易であり、好ましい。また、各流路の各工程の時間を略同一とするために温度設定領域の温度設定領域を記号61の部分拡大図で示している記号62で示す形状により達成することが可能となる。
【0041】
複数流路の他の実施例として図1の流路を単純に水平方向に配置しても本発明目的を達成することも可能である。
【0042】
複数流路の構成として、厚み方向を多層のカートリッジとして構成することにより複雑な流路構成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の核酸増幅装置の流路の一部の模式図である。
【図2】本発明の核酸増幅装置の流路内溶液の時間に対する温度を表す図である。
【図3】本発明の核酸増幅装置の別の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の核酸増幅装置の別の実施形態を示す図である。
【図5】本発明の核酸増幅装置の別の実施形態を示す図である。
【図6】本発明を複数流路で構成した核酸増幅装置の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1、2,3 温度制御設定領域
4a 導入流路
4b 取り出し流路
6,7,8,9,10 流路
11,12,13,14,15,16 流体温度
21,22,23,24,25 流体温度
51,52,53 温度制御設定領域
54,55,56 流路
61,62,63 温度制御設定領域
64,65 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる温度に設定可能な少なくとも3つの温度設定領域と、該温度設定領域のいずれか1つを中継領域として、該中継領域を経由して残りの2つの温度設定領域を繰り返し往復するように複数の往路および複数の復路を有して構成された流路と、
を有し、液体が前記流路内を一方に向かって流れることによって核酸増幅の温度サイクルが該液体に与えられ、該液体中の核酸増幅反応を実現する装置であって、
前記中継領域において前記流路の往路と復路の断面積が異なることを特徴とする核酸増幅装置。
【請求項2】
前記中継領域が、核酸増幅反応における伸張反応を行う領域であり、前記残りの2つの領域が、変性反応を行う領域と、結合反応を行う領域のいずれかであり、
前記中継領域における、前記変性反応を行う領域から結合反応を行う領域に液体が移動するための前記流路の断面積が、前記結合反応を行う領域から変性反応を行う領域に液体が移動するための流路の断面積より小さい請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項3】
前記中継領域が、結合反応を行う領域であり、前記残りの2つの領域が、変性反応を行う領域と、伸長反応を行う領域のいずれかであり、
前記中継領域における、前記変性反応を行う領域から結合反応を行う領域に液体が移動するための前記流路の断面積が、前記結合反応を行う領域から変性反応を行う領域に流体が移動するための前記流路の断面積より小さい請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項4】
前記中継領域が、変性反応を行う領域であり、前記残りの2つの領域が、結合反応を行う領域と、伸長反応を行う領域のいずれかであり、
前記中継領域における、前記結合反応を行う領域から伸長反応を行う領域に液体が移動するための前記流路の断面積が、前記伸長反応を行う領域から結合反応を行う領域に流体が移動するための前記流路の断面積より小さい請求項1記載の核酸増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−148232(P2009−148232A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330965(P2007−330965)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】