説明

案内装置

【課題】工作機械などにおいて基台の上に案内面を形成し、その案内面上で潤滑油を介在させて可動体に形成したスライド面が摺動することで、可動体を案内する案内装置において、可動体の偏荷重により可動体が傾くのを抑制することのできる案内装置を提供する。
【解決手段】工作機械におけるベッドの案内部上面に形成された案内面11と、コラム7の下面に案内面11と対向して設けられ案内面11上を潤滑油を介在して摺動するスライド面12A,12Bとを備える案内装置において、コラム7の偏荷重が小さく作用するスライド面12Bに、そのスライド面12Bを長手方向に4等分する圧力逃がし手段としての圧力逃がし溝17を形成し、スライド面12A,12B間でその接触面形状を非対称形状として、コラム7の移動により発生する動圧の大きさを、夫々に作用する偏荷重の大きさに対応させることで、コラム7の傾きを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械などにおいて基台の上に案内面を形成し、その案内面上で潤滑油を介在させてテーブルやコラムなどの可動体に形成したスライド面が摺動することで、可動体を案内する案内装置に関し、特に偏荷重により可動体が傾くのを抑制することのできる案内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の案内装置は、基台の上に案内面が形成され、その案内面上に潤滑油を介在させて可動体に形成されたスライド面が摺動することで可動体を案内するもので、この案内装置においては、可動体を高速で送る場合、可動体の進行方向の前端部で潤滑油が巻き込まれて動圧が発生して可動体が浮かび上がり、特に可動体の進行方向における前端部の浮き上がりが大きく、可動体が傾く問題があった。それにより、案内面とスライド面との間で摩擦力と摺動抵抗が増加し、大きな送り力が必要となる。そこで、本願出願人および発明者は、先の出願において、可動体のスライド面に潤滑油に発生する動圧の一部を大気に逃がす圧力逃がし手段を設けて、動圧を緩和させたり、スライド面の摺動方向に略均等に動圧を分割・分散させて、可動体の浮き上がりや傾きを抑制することのできる案内装置を提案している。
【0003】
図7は、その案内装置100におけるスライド面を示す図であり、スライド面101の摺動方向(図面上左右方向)の略中央に略菱形形状のポケット102を設け、このポケット102の中央に他端が大気に開放された逃がし孔103を穿設してポケット102内の圧力を逃がすようにしている。また、スライド面101を摺動方向に略4等分に分割する位置に分割溝104を設けると共に、各分割溝104に夫々逃がし孔103を穿設して分割溝104内の圧力を逃がすようにしている。これにより、動圧が分割・分散させられて可動体の浮き上がりや傾きが抑制されるようになっている。なお、符合105は、潤滑油を供給する油溝である。
【0004】
本出願人は、本出願時において、以上の従来技術が記載されている文献として、以下のものを知見している。
【特許文献1】特開2001−280343号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図7に示す案内装置100により動圧による可動体の浮き上がりや傾きを充分に抑制することができるようになったが、この案内装置100の可動体としてコラムに用いたり、或いは、テーブルに用いた場合でもワークがテーブルに対して常に偏心して載せられるなど可動体に対して偏荷重が作用している場合は、可動体が摺動する際に案内面とスライド面との間に潤滑油が巻き込まれることにより発生する動圧が、分割溝などにより略均等に分割・分散させられるが、可動体の偏荷重によりスライド面に作用する荷重がその偏荷重の方向によって異なる荷重となり、偏荷重が大きく作用する側でも小さく作用する側でも、略同じ力の動圧が発生するため、その動圧により偏荷重が大きく作用する側は沈み込み小さく作用する側は浮き上がってしまう。その結果、可動体が傾いてしまい、その傾きにより案内面とスライド面との間で偏摩耗が発生したり、摺動抵抗が増加して大きな送り力が必要となる問題があった。
【0006】
また、コラムが、その偏荷重の方向に対して略直角方向に案内され、その案内面が偏荷重の方向に列設されているものの場合、一般には、偏荷重の方向に列設されたスライド面は案内面と接触する接触面形状が夫々同じ形状とされており、これにより、可動体が摺動する際に発生する動圧も、各スライド面で略同じ力であるのに対して、可動体の偏荷重によってスライド面に作用する荷重が異なるので、これにより、可動体が傾くことになる。そこで、偏荷重の大きく作用する側の案内面の幅を広くしたり、案内面の形状をV字形状としたりして、その案内面の面積を大きくして偏荷重を大きく受けるようにすることが考えられるが、この場合、案内面が大きくなり、工作機械全体が大型化してしまう問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記の実状に鑑み、工作機械などにおいて基台の上に案内面を形成し、その案内面上で潤滑油を介在させてテーブルやコラムなどの可動体に形成したスライド面が摺動することで、可動体を案内する案内装置において、可動体の偏荷重により可動体が傾くのを抑制することのできる案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る案内装置は、「基台の上に案内面が形成され、該案内面上で潤滑油を介在させて可動体に形成されたスライド面が摺動することで前記可動体が案内される案内装置において、前記スライド面は、前記案内面と接触する接触面形状を、前記可動体の偏荷重の方向に対して非対称形状とすることで、前記可動体の摺動により潤滑油に発生する動圧を異ならせ該可動体の傾きを抑える」構成とするものである。
【0009】
本発明によると、案内面と接触するスライド面の接触面形状を、可動体の偏荷重の方向に対して非対称形状としており、例えば、偏荷重が大きく作用する側のスライド面の接触面形状を動圧の大きい面形状とし、偏荷重が小さく作用する側のスライド面の接触面形状を動圧の小さい面形状とし、これにより、夫々の動圧によって偏荷重を相殺して、可動体が傾くのを抑制することができる。それにより、案内面とスライド面との間で偏摩耗が発生したり、摺動抵抗が増加して大きな送り力が必要となることを防止することができる。なお、スライド面の案内面と接触する接触面形状には、潤滑油を供給するために形成された潤滑油供給溝の形状は含まないものとする。ただし、動圧に対して大きな影響を与える形状の場合は、供給溝の形状も含まれる。
【0010】
本発明に係る案内装置は、上記の構成に加えて、「前記可動体は、前記案内面により前記可動体の偏荷重の方向と略直角方向に案内されると共に、前記スライド面は、前記可動体の偏荷重の方向に少なくとも2つ形成され、各前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、前記可動体の偏荷重の方向に対して、各前記スライド面の間で非対称形状である」構成とすることもできる。
【0011】
本発明によると、可動体における偏荷重の方向に対して、その略直角方向に可動体を案内する工作機械に適用するもので、偏荷重の方向に列設されるスライド面に対して、各スライド面間で案内面と接触する接触面形状を非対称形状とすることで、各スライド面間での動圧が異なるものとなり、偏荷重により可動体が傾くのを抑制することができる。また、案内面の幅や形状を変える必要がないので、工作機械が大型化する問題を解決することができる。
【0012】
本発明に係る案内装置は、上記の構成に加えて、「前記可動体は、前記案内面により前記可動体の偏荷重の方向と略同一方向に案内されると共に、前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、前記スライド面の長手方向に対して非対称形状である」構成とすることもできる。
【0013】
本発明によると、可動体をその偏荷重の方向と略同一の方向に案内する工作機械に適用するもので、スライド面の案内面と接触する接触面形状を、スライド面の長手方向中央に対して非対称形状としており、これにより、可動体が偏荷重によって傾くのを抑制することができる。
【0014】
本発明に係る案内装置は、上記の構成に加えて、「前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、潤滑油に発生する動圧の一部を大気に逃がす圧力逃がし手段を形成する数を異ならせることで非対称形状とする」構成とすることもできる。
【0015】
ここで、「圧力逃がし手段」としては、具体的な構成を何ら限定するものではないが、「スライド面の幅方向に延びると共に、幅方向に貫通する所定幅の溝を設けて、その貫通する両端から圧力を大気に逃がすもの」、「スライド面の幅方向に延びると共に、幅方向には貫通しない所定幅の溝を設け、さらに、その溝と大気とを連通する孔を設けて、その孔を介して圧力を大気へ逃がすもの」、「スライド面に所定形状の溝(ポケット)を設けると共に、その溝と大気とを連通する孔を設けて、その孔を介して圧力を大気へ逃がすもの」などを例示することができる。
【0016】
本発明によると、スライド面に形成する動圧の一部を大気へ逃がす圧力逃がし手段を異なる数とするもので、例えば、圧力逃がし手段の形成を多くした場合は、大気に逃がされる動圧も多くなる。逆に、圧力逃がし手段の形成を少なくした場合は、大気に逃がされる動圧も少なくなる。これにより、偏荷重が大きく作用する側には、圧力逃がし手段の数を少なく形成し、偏荷重が小さく作用する側には、圧力逃がし手段の数を多く形成することで、偏荷重を相殺し、可動体が傾くのを抑制することができる。
【0017】
本発明に係る案内装置は、上記の構成に加えて、「前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、潤滑油に発生する動圧の一部を大気に逃がす前記圧力逃がし手段を形成する位置を異ならせることで非対称形状とする」構成とすることもできる。
【0018】
本発明によると、スライド面に形成する圧力逃がし手段の位置を異ならせるもので、例えば、一つのスライド面において、偏荷重が大きく作用する側と小さく作用する側とがあり、圧力逃がし手段を偏荷重が小さく作用する側に形成することで、偏荷重が小さく作用する側の動圧を圧力逃がし手段により逃がし、それにより、可動体が傾くのを抑制することができる。
【0019】
本発明に係る案内装置は、上記の構成に加えて、「前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、前記スライド面の幅を異ならせることで非対称形状とする」構成とすることもできる。ここで、スライド面の幅を異ならせる方法としては、スライド面全体の幅を一様に異ならせるものや、スライド面の全体或いは一部に、円弧状やV字状などの切欠きを設けてその幅を異ならせるものなどを例示することができる。
【0020】
本発明によると、スライド面の幅を異ならせるもので、例えば、偏荷重が大きく作用する側の幅を大きくして動圧が高くなるようにし、偏荷重が小さく作用する側の幅を小さくして動圧が低くなるようにすることで、動圧により偏荷重を相殺して、可動体が偏荷重により傾くのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、工作機械などにおいて基台の上に案内面を形成し、その案内面上で潤滑油を介在させてテーブルやコラムなどの可動体に形成したスライド面が摺動することで、可動体を案内する案内装置において、可動体の偏荷重により可動体が傾くのを抑制することのできる案内装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態である案内装置について、図1から図4までの図面に基いて説明する。図1(A)は、本発明の一実施の形態である案内装置を用いた工作機械の概略側面図であり、(B)は、案内装置を摺動方向に対して直角方向に切断してその一部を示す断面図である。図2(A)は、案内装置における移動体のスライド面の概略底面図であり、(B)は、(A)におけるB−B部拡大断面図であり、(C)は、(A)におけるC−C部拡大断面図である。図3は、本発明の案内装置と従来の案内装置との浮き上がり及び傾きを比較して示すグラフである。図4は、動圧と圧力逃がし手段との関係を示す説明図である。
【0023】
図1(A)に示す工作機械1は、コンピュータ数値制御装置(CNC)により、X軸、Y軸、Z軸、の他に、B軸の4軸を数値制御することのできるマシニングセンタであり、全体を支持する基台としてのベッド2上には、X軸方向およびZ軸方向に延びる案内部3が夫々2つづつ平行に備えられており、Z軸方向(図面上左右方向)に延びる案内部3には、上部にB軸周りに回転することのできる回転テーブル4がZ軸方向に摺動可能に案内支持されており、この回転テーブル4は、駆動手段5によってZ軸方向に移動することができる。この回転テーブル4には、パレットを介してワーク6が載置固定され、この回転テーブル4は、図示しない回転駆動手段を有しており、ワーク6を回転させることができると共に、高精度に回転角を位置決めできるようになっている。
【0024】
一方、X軸方向(図面上表裏方向)に延びる案内部3は、コラム7が摺動可能に案内支持されている。このコラム7は、ベッド2に取付けられた図示しない駆動手段によってX軸方向に移動可能とされている。このコラム7には、図面上左側の側面に、工具8を保持する主軸頭9がY軸方向に摺動可能に設けられており、主軸頭9は、図示しない一対の案内部により案内支持されると共に、コラム7の上部に設けられた駆動手段10によってY軸方向に移動可能とされ、主軸頭9と共にY軸方向に移動する図示しない主軸モータによって工具8が回転駆動するようになっている。なお、X軸、Y軸、Z軸、及びB軸の移動および回転に用いる駆動手段としては、ステッピングモータなどを用いることができる。
【0025】
これら工具8および主軸頭9は、コラム7の左側(図面上)に設けられており、このためコラム7の重心Gは、図示するようにコラム9を案内支持する2つの案内部3の中心軸よりも主軸頭9を設けた側に偏心した場所に位置している。このため、本実施の形態においては、コラム9には、Z軸方向と同じ方向、すなわちコラム7の摺動方向と直交する方向に偏荷重が作用しており、特に図面上左側に大きく荷重が作用するようになっている。
【0026】
このコラム7を案内支持する案内部3は、テーブル2から上方へ突出する逆L字形状をなすとともに、図面上左右対称に所定距離離間して配置されている。そして、図1(B)に示すように、これら案内部3の上部には、案内面11が形成されており、コラム7の下面には、案内面11と対向する位置に形成されたスライド面12が案内面11と接触している。このスライド面12には、スライド面12と案内面11との間に潤滑油を供給する供給孔13が形成されている。
【0027】
図2(A)に示すように、コラム7の底面には、コラム7の摺動方向と略平行な方向に延びる2つのスライド面12が形成されており、各スライド面12の長さおよび幅は略同じ大きさとされている。このスライド面12の表面には、案内面11とスライド面12との間に潤滑油を供給する潤滑油供給溝が夫々設けられており、偏荷重が大きく作用する左側のスライド面12Aでは、スライド面12Aの全長に亘って続くクランク形状の潤滑油供給溝14が設けられている。一方、右側のスライド面12Bでは、長手方向両端部にクランク形状の潤滑油供給溝15が、さらに、その潤滑油供給溝15に続いて長手方向内側にコ字形状の潤滑油供給溝16が形成されており、夫々の潤滑油供給溝14,15,16には、所定位置に供給孔13が形成されている。そして、これら潤滑油供給溝14,15,16には、図2(B)に示すように、供給孔13を介して図示しない油圧ポンプから潤滑油が供給されるようになっている。
【0028】
このスライド面12Aは、スライド面12A全体が一つの大きな接触面で構成されており、このスライド面12Aにおけるコラム7の移動により発生する動圧の分布は、図4(A)に示すように、スライド面12Aの全長に亘って広がると共に、その中央付近が高くなる一つの大きな山形形状となり、この山形形状の面積に相当する圧力がスライド面12Aに作用する。
【0029】
一方、偏荷重の作用が小さい右側のスライド面12Bは、スライド面12Aとは非対称形状とされ、スライド面12Bの長手方向に対して略4等分する位置に、スライド面12Bの幅方向に延びると共に、略全幅に亘って形成された圧力逃がし溝17が3箇所設けられており、これら圧力逃がし溝17は、図2(C)に示すように、その長手方向中央付近に一端が大気へと連通する通路18の他端が開口しており、その開口19を介して、スライド面12Bに作用する動圧の一部を大気に逃がすことができる。
【0030】
また、この右側のスライド面12Bには、その長手方向中央に、長手方向に延びる菱形形状のポケット20が設けられていると共に、このポケット20は、中央に形成された圧力逃がし溝17と連通しており、ポケット20からも動圧の一部を大気へ逃がすようにしている。これにより、スライド面12Bにおいては、その長手方向中央付近において、多くの動圧を大気へ逃がせるようになっている。
【0031】
このスライド面12Bは、圧力逃がし溝17により4つに分割された小さな接触面により構成されており、また、ポケット20により中央の2つの接触面形状と、左右2つの接触面形状が異なる形状となっている。このスライド面12Bにおけるコラム7の移動により発生する動圧の分布は、図4(B)に示すように、スライド面12Bの長手方向に形成された圧力逃がし溝17により、スライド面12Bの全長に対して1/4の幅の山形形状をした圧力分布が4つ現れ、それらの山形形状の面積の総和に相当する圧力がスライド面12Bに作用する。なお、本例では、圧力逃がし溝17、通路18、開口19、および、ポケット20が本発明の圧力逃がし手段に相当している。
【0032】
ところで、本実施の形態では、図1に示すように、コラム7の下面は、左右の案内部3に挟まれた位置において、案内部3の案内面11の高さよりも所定高さ低く下方へ突出した突出部21を備えており、この突出部21の中央には、X軸方向に延在するボールねじ22が螺合されており、このボールねじ22を回転駆動させることでコラム7をX軸方向に移動させることができる。
【0033】
このコラム7の突出部21には、案内部3における内側の側面と対向する側面23に、ころがり支承ユニット24が設けられており、このころがり支承ユニット24の転動ローラ25が、案内面3の内側側面に形成された側部案内面26に当接するようになっている。また、コラム7の下面には、案内部3より外側の位置に下側に延びる側板27が左右に夫々取付けられており、この側板27の下面には、案内部3における外側に突出した部分の下側へ延びる裏板28がさらに取付けられている。この裏板28の上面にも、ころがり支承ユニット24が設けられており、そのころがり支承ユニット24の転動ローラ25が、案内部3の外側に突出した部分の下面に形成された下部案内面29と当接するようになっている。
【0034】
このころがり支承ユニット24は、その送り面および戻り面を有しそれらの面に複数の転動ローラ25をコラム7の摺動方向へ複数列に無端環状に整列させるガイド部材30と、ガイド部材30の戻り面側の転動ローラ25を保持する保持部材31と、ガイド部材30を介して、送り面側の転動ローラ25を被転動面としての側部案内面26または下部案内面29に所定の力で付勢する付勢手段32とを備えている。なお、符合33は、裏板28に設けられたころがり支承ユニット24の下側案内面29への付勢力を調整する調整ボルトである。このころがり支承ユニット24は、コラム7が移動すると、ガイド部材30の送り面側の転動ローラ25が、当接している案内部3の側部案内面26、下部案内面29上を転動し、自転しながらガイド部材30の周りを公転することで、摺動抵抗の低いものとなっている。これらころがり支承ユニット24は、コラム7の浮き上がり、および、移動方向に対して直角方向の移動を抑制するものである。
【0035】
次に、本実施の形態における案内装置の作用について、詳細に説明する。まず、図示しない駆動手段によってボールねじ22が回転駆動させられると、コラム7は、ボールねじ22の回転方向に応じてX軸に対して、プラス方向或いはマイナス方向に移動させられる。このコラム7の移動に伴なって、ベッド2に設けられた一対の案内部3における上面の案内面11上を、潤滑油を介在させてコラム7の下面に形成されたスライド面12A,12Bが摺動案内される。
【0036】
一方、コラム7は、図1(A)に示すように、その図中左側に、主軸頭9などを備えており、コラム7の重心Gが左側に偏心した状態となっている。そのため、コラム7の荷重が主軸頭9などを備えた側の案内部3、すなわち、スライド面12A側に大きく作用するようになっている。
【0037】
このコラム7をX軸方向に移動させると、スライド面12A,12Bの摺動方向の前端部で潤滑油が巻き込まれてスライド面12A,12Bに動圧が発生する。このとき、スライド面12Aでは、図4(A)に示すように、大きな動圧が発生する。一方、スライド面12Bでは、同図(B)に示すように、圧力逃がし溝17などの圧力逃がし手段により、スライド面12Aに発生する動圧に対して、発生する動圧が略4等分された小さな動圧となる。すなわち、偏荷重が大きく作用するスライド面12Aには大きな動圧が、一方、偏荷重が小さく作用するスライド面12Bには小さな動圧が夫々発生し、これによって、スライド面12A側の沈み込みを抑制すると共に、スライド面12B側の浮き上がりが抑制され、コラム7が偏荷重により傾くのが抑制される。
【0038】
そして、図3に示すように、本発明の案内装置と従来の案内装置とを比較すると、浮き上がりにおいては、従来では6μmに対して本発明では3μm、傾きにおいては、従来では3μmに対し本発明では1μmと、いずれの場合も、本発明のほうが従来よりも大きく抑制されていることが判る。
【0039】
このように、上記の案内装置によると、案内面11と接触するスライド面12A,12Bの接触面形状を、コラム7の偏荷重の方向に対して非対称形状としており、偏荷重が大きく作用する側のスライド面12Aの接触面形状を動圧の大きい接触面形状とし、偏荷重が小さく作用する側のスライド面12Bの接触面形状を動圧の小さい接触面形状としており、これにより、夫々スライド面12A,12Bに発生する動圧によって偏荷重を相殺して、コラム7が傾くのを抑制することができる。それにより、案内面11とスライド面12との間で偏摩耗が発生したり、摺動抵抗が増加して大きな送り力が必要となることを防止することができる。
【0040】
また、スライド面12A,12Bの接触面形状を、夫々のスライド面12A,12Bに作用する偏荷重の大きさに対応した動圧が発生する接触面形状としており、これにより、偏荷重の大きく作用する側の案内面の幅を広くしたり、案内面の形状をV字形状としたりして、その案内面の面積を大きくして偏荷重を大きく受けるようにする必要がなく、そのため、案内面が大きくなって、工作機械全体が大型化してしまうのを防止することができる。
【0041】
さらに、スライド面12A,12Bに形成する動圧の一部を大気へ逃がす圧力逃がし溝17、ポケット20などの圧力逃がし手段を異なる数としており、偏荷重が大きく作用するスライド面12A側には、圧力逃がし溝17などを形成せず、偏荷重が小さく作用する側には、圧力逃がし溝17、ポケット20などの数を多く形成することで、スライド面12A,12B間で接触面形状を非対称形状としており、これにより、偏荷重を相殺し、コラム7が傾くのを抑制することができる。
【0042】
次に、本発明の案内装置における、上記の実施の形態とは異なる実施の形態の案内装置について、図5を基に説明する。図5(A)は、上記とは異なる本発明の実施の形態である案内装置を用いた工作機械の概略側面図であり、(B)は、その案内装置における移動体のスライド面の概略底面図である。この工作機械40は、コンピュータ数値制御装置(CNC)により、X軸、Y軸、Z軸、の3軸を数値制御することのできるマシニングセンタである。
【0043】
この工作機械40には、基台としてのベッド2と、ベッド2の上部に設けられX軸方向およびZ軸方向に延びる夫々一対の案内部3と、X軸方向に延びる一対の案内部3に案内されるテーブル41と、Z軸方向に延びる一対の案内部3に案内されるコラム7と、コラム7の図中左側に設けられ工具8を保持すると共に図示しないY軸方向に延びる一対の案内部によりY軸方向に案内される主軸頭9とを備えている。なお、図示は省略するが、コラム7をZ軸方向に案内する一対の案内部3も、上記の実施の形態における案内部3と同様に逆L字形状となっている。
【0044】
テーブル41は、ベッド2における図面上表裏方向に設けられた図示しない駆動手段によって、X軸方向に案内される。また、主軸頭9は、コラム7の上部に設けられた駆動手段10によりY軸方向に案内される。さらに、コラム7は、ベッド2に設けられた駆動手段42によりZ軸方向に案内されるようになっている。
【0045】
このコラム7も、工具及び主軸頭9がコラムの左側(図面上)に設けられており、コラム7の重心Gは、コラム7の左右方向中心よりも主軸頭9などを設けた左側に偏心している。このため、コラム7には、Z軸方向と同じ方向、すなわちコラム7の摺動方向と同じ方向に偏荷重が作用している。詳述すると、本実施の形態では、コラム7の下面に形成された、案内部3上面の案内面11と接触するスライド面43の長手方向(図中左右方向)に対して、コラム7の偏荷重は、その中心から左側には大きく作用すると共に、右側には小さく作用する。
【0046】
図5(B)に示すように、コラム7の下面には、Z軸方向に延びる一対の案内部3の案内面11と対応して、一対のスライド面43A,43Bが形成されている。これらスライド面43A,43Bの長手方向の略中央位置と、及び長手方向を4等分する位置の中央より右側の位置に、スライド面43A,43Bの幅方向に延びる圧力逃がし溝17が夫々形成されている。これら圧力逃がし溝17の底部には、大気へと連通する通路の開口19が設けられている。これら圧力逃がし溝17により、スライド面43A,43Bは、3つの接触面に夫々分割されており、偏荷重の方向すなわち、スライド面43A,43Bの長手方向の中央に対して、圧力逃がし溝17などを形成する位置が異なる位置に設けることでスライド面43A,43Bは、非対称形状となっている。また、スライド面43A,43Bの略中央には、長手方向に延びる菱形形状のポケット20が夫々設けられている。
【0047】
このスライド面43A,43Bは、圧力逃がし溝17により、その長手方向に全体が3つに分割され、中央より左側にスライド面43A,43Bの略半分を占める大きな接触面と、その右側に大きさがスライド面43A,43Bの略1/4の小さな接触面が2つ形成されている。スライド面43A,43Bの中央に設けられたポケット20により、スライド面43A,43Bの中央より右側の2つの接触面は、夫々の接触面形状が異なる形状となっている。これにより、スライド面43A,43Bは、その長手方向中央に対して、左右でその接触面形状が異なる形状となっている。
【0048】
これらスライド面43A,43Bには、その長手方向の中央より左側(図中)には、コ字形状をした潤滑油供給溝44が、2個所形成されており、2つの内の一方が180度回転した向きに形成されている。また、スライド面43A,43Bの中央より右側では、ポケット20と右端の圧力逃がし溝17との間には、幅方向に延びる直線形状の潤滑油供給溝45が、さらに、右端の圧力逃がし溝17より右側には、クランク形状の潤滑油供給溝46が夫々形成されている。これら潤滑油供給溝44,45,46には、夫々潤滑油の供給孔13が設けられている。
【0049】
これらスライド面43A,43Bにおけるコラム7の移動により発生する動圧の分布は、図4(C)に示すように、中央より左側に、一つの大きな山形形状が現れると共に、その右側には、それよりも小さな山形形状が2つ現れ、これにより、スライド面43A,43Bの中央より左側(偏荷重の作用が大きい側)には大きな動圧が、右側(偏荷重の作用が小さい側)には小さな動圧が夫々発生する。
【0050】
次に、本実施の形態における案内装置の作用について説明する。コラム7を駆動手段42によりZ軸方向に移動させると、スライド面43A,43Bに夫々動圧が発生する。この動圧は、図4(C)に示すように、偏荷重が大きく作用する側(図中左側)には、大きな動圧が発生すると共に、偏荷重が小さく作用する側(図中右側)には、小さな動圧が発生する。これにより、スライド面43A,43Bの左側の沈み込みを抑制すると共に、スライド面43A,43Bの右側の浮き上がりが抑制され、コラム7が偏荷重により傾くのが抑制される。
【0051】
このように、上記の案内装置によると、案内面11と接触するスライド面43A,43Bの接触面形状を、スライド面43A,43Bの長手方向、すなわち、偏荷重の方向に対して非対称形状としており、スライド面43A,43Bの長手方向における偏荷重が大きく作用する側の接触面形状を動圧の大きい面形状とし、スライド面43A,43B長手方向における偏荷重が小さく作用する側の接触面形状を動圧の小さい面形状とし、これにより、夫々に発生する動圧によって偏荷重を相殺して、コラム7が傾くのを抑制することができる。
【0052】
また、スライド面43A,43Bに形成する圧力逃がし溝17の位置を、偏荷重の方向すなわち、スライド面43A,43Bの長手方向の中央に対して、圧力逃がし溝17などを形成する位置が異なる位置に設けることでスライド面43A,43Bは、非対称形状となっている。換言すると、偏荷重が大きく作用する側には、圧力逃がし溝17などを設けず動圧を大きくすると共に、偏荷重が小さく作用する側には、圧力逃がし溝17などを設けて動圧を小さくしており、これにより、コラム7が傾くのを抑制することができる。
【0053】
以上、本発明を実施するための最良の実施の形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0054】
すなわち、本実施の形態では、案内装置として、コラム7を案内するものを示したがこれに限定するものではなく、回転テーブル4、テーブル41などを案内する案内装置に用いることもできる。特に、回転テーブル4、テーブル41などにワークが偏心して載置される場合が多いものに好適である。
【0055】
また、本実施の形態では、コラム7における偏荷重の方向に対して、スライド面12,43に形成する、圧力逃がし溝17、ポケット20などの数や位置を異ならせることで、偏荷重の方向に対して、スライド面12,43の案内面11との接触面形状を非対称形状とするものを示したが、これに限定するものではなく、例えば、図6(A)に示すように、偏荷重の方向と可動体の摺動方向とが略直交する場合は、偏荷重が大きく作用する側のスライド面50Aの幅W1と、偏荷重が小さく作用する側のスライド面50Bの幅W2とを、W1>W2となるようにその幅を異ならせて構成することもできる。これにより、スライド面50A,50Bに発生する動圧の圧力を異ならせて、可動体が偏荷重により傾くのを抑制することができる。
【0056】
一方、図6(B)に示すように、偏荷重の方向と可動体の摺動方向とが略同一方向の場合は、例えば、その長手方向中央に、圧力逃がし溝17、ポケット20などの圧力逃がし手段を設けて、スライド面51における偏荷重が大きく作用する側の幅W3と、偏荷重が小さく作用する側の幅W4とで、W3>W4となるように、ひとつのスライド面51でその幅が異なるように構成することもできる。これにより、スライド面51で場所により発生する動圧を異ならせて、可動体が偏荷重により傾くのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(A)は、本発明の一実施の形態である案内装置を用いた工作機械の概略側面図であり、(B)は、案内装置を摺動方向に対して直角方向に切断してその一部を示す断面図である。
【図2】(A)は、案内装置における移動体のスライド面の概略底面図であり、(B)は、(A)におけるB−B部拡大断面図であり、(C)は、(A)におけるC−C部拡大断面図である。
【図3】本発明の案内装置と従来の案内装置との浮き上がり及び傾きを比較して示すグラフである。
【図4】動圧と圧力逃がし手段との関係を示す説明図である。
【図5】(A)は、図1から図4の実施の形態とは異なる本発明の他の実施の形態である案内装置を用いた工作機械の概略側面図であり、(B)は、その案内装置における移動体のスライド面の概略底面図である。
【図6】本発明の案内装置におけるスライド面の変形例を示す概略底面図である。
【図7】従来の案内装置におけるスライド面を示す概略底面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 工作機械
2 ベッド
3 案内部
7 コラム
9 主軸頭
11 案内面
12(12A,12B) スライド面
17 圧力逃がし溝
18 通路
19 開口
20 ポケット
40 工作機械
43(43A,43B) スライド面
50A,50B,51 スライド面
G 重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台の上に案内面が形成され、該案内面上で潤滑油を介在させて可動体に形成されたスライド面が摺動することで前記可動体が案内される案内装置において、
前記スライド面は、前記案内面と接触する接触面形状を、前記可動体の偏荷重の方向に対して非対称形状とすることで、前記可動体の摺動により潤滑油に発生する動圧を異ならせ該可動体の傾きを抑えることを特徴とする案内装置。
【請求項2】
前記可動体は、前記案内面により前記可動体の偏荷重の方向と略直角方向に案内されると共に、前記スライド面は、前記可動体の偏荷重の方向に少なくとも2つ形成され、各前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、前記可動体の偏荷重の方向に対して、各前記スライド面の間で非対称形状であることを特徴とする請求項1に記載の案内装置。
【請求項3】
前記可動体は、前記案内面により前記可動体の偏荷重の方向と略同一方向に案内されると共に、前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、前記スライド面の長手方向に対して非対称形状であることを特徴とする請求項1に記載の案内装置。
【請求項4】
前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、潤滑油に発生する動圧の一部を大気に逃がす圧力逃がし手段を形成する数を異ならせることで非対称形状とすることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の案内装置。
【請求項5】
前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、潤滑油に発生する動圧の一部を大気に逃がす前記圧力逃がし手段を形成する位置を異ならせることで非対称形状とすることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一つに記載の案内装置。
【請求項6】
前記スライド面の前記案内面と接触する接触面形状は、前記スライド面の幅を異ならせることで非対称形状とすることを特徴とする請求項1および請求項3から請求項5までのいずれか一つに記載の案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−238397(P2008−238397A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108451(P2008−108451)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【分割の表示】特願2003−276074(P2003−276074)の分割
【原出願日】平成15年7月17日(2003.7.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】