説明

梁又はスラブの強度の算定方法、梁又はスラブの設計方法、建物

【課題】施工に手間がかからずに、梁の鉄筋量を削減できるようにする。
【解決手段】外周より土水圧が作用する建物の地下部を構成する梁40の強度を、土水圧により梁40に作用する圧縮力を算定し、算定した圧縮力が梁40に作用した状態における梁40の強度を算定する。そして、この算定した強度が必要となる強度以上となるように梁40の断面設計を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲から土水圧が作用する建物の地中躯体における梁又はスラブの強度の算定方法及び設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、周囲の地盤より土水圧が作用する建物の地中階の梁を設計する際には、梁やスラブが積載荷重を支持でき、かつ、土水圧に対して耐え得るように設計していた。
ところで、このような地中階の梁の強度を向上する方法として、梁をプレストレストコンクリートにより構成する方法がある(例えば、特許文献1及び2参照)。プレストレストコンクリートを用いた部材は、同一断面であっても通常の鉄筋コンクリート部材に比べて強度が向上される。このため、梁にプレストレストコンクリートを適用することにより、梁に必要とされる強度を確保したまま、断面を小さくしたり、鉄筋量を削減したりすることが可能となる。
【特許文献1】特開昭63―83357号公報
【特許文献2】特許2729128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、プレストレスコンクリートを用いる場合には、コンクリートの所定の位置にPC鋼線又は鋼棒を配置しなければならず、また、PC鋼線又は鋼棒に緊張力を加える必要もあり、施工に手間がかかるという問題があった。
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、施工に手間がかからずに、梁の鉄筋量を削減したり、断面を小さくしたりできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の梁又はスラブの強度の算定方法は、外周より土水圧が作用する建物の地下躯体を構成する梁又はスラブの強度の算定方法であって、前記土水圧により前記梁又はスラブに作用する圧縮力を考慮して、前記梁又はスラブの強度を算定することを特徴とする。なお、上記の土水圧は、土圧又は水圧の何れかのみが作用する場合も含むものである。
【0006】
また、本発明の梁又はスラブの強度の算定方法は、外周より土水圧が作用する建物の地下躯体を構成する梁又はスラブの強度の算定方法であって、 前記土水圧により前記梁又はスラブに作用する圧縮力を算定するステップと、前記算定した圧縮力が前記梁又はスラブに作用した状態における前記梁又はスラブの強度を算定するステップと、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の梁又はスラブの設計方法は、土水圧が作用する建物の地下躯体を構成する梁又はスラブの強度の設計方法であって、上記の方法により算定した前記梁又はスラブの強度が、前記梁又はスラブに必要とされる強度以上になるように前記梁又はスラブの断面設計を行うことを特徴とする。
また、本発明の建物は、上記の方法により建物の地下躯体を構成する梁又はスラブが設計されたことを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、土水圧を考慮に入れて梁の強度を算定するため、梁の強度として従来の方法に比べて大きな値が算定される。このため、梁を設計する際に、鉄筋量を削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の建物の地中部の梁又はスラブの強度の算定方法の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態では建物の地中部の梁を設計する場合を例として説明する。
図1は、本実施形態の強度の算定方法による計算の対象となる梁を含む建物の地下部10の構造を示す図であり、(A)は外壁部及びその周辺を示す鉛直断面図、(B)は(A)におけるB−B´断面図、(C)は(B)におけるC−C´断面図である。同図に示すように、建物の地下部10は地中壁20の内側に構築されており、地中壁20と一体に構築された外壁60と、外壁60内に構築された柱30及び梁40と、各階の梁40に支持されるスラブ50とを備える。
【0010】
建物の地下部10の外壁60には地中壁20を介して、周囲の地盤70から土水圧が作用する。そして、外壁60に作用した土水圧は梁40に軸方向の圧縮力として作用する。従来は、地中部10の梁40やスラブ50にはこのような土水圧による圧縮力を無視して梁40及びスラブ50の断面設計を行っていた。
【0011】
これに対して、本願発明者らは、実際には上記のように梁40やスラブ50に圧縮力が作用している点に着目した。すなわち、梁40やスラブ50は、圧縮力が作用することで、プレストレスコンクリートと同様に、圧縮力が作用しない場合に比べて高強度になっていると考えた。本実施形態の地中部の梁40の強度の算定方法は、土水圧により梁40に軸方向に作用する圧縮力を考慮に入れて、梁40の強度を算定するものである。
【0012】
以下、建物の地下部10の梁40の強度として長期許容応力度を算定する場合について説明する。図2は、梁40に作用する圧縮力を算定する際に、計算の対象となる土水圧が作用する領域及びこの土水圧を支持する梁40及びスラブ50の領域を示す図である。後述するように、本実施形態では、同図における破線で囲む部分に作用する土水圧を、斜線を付して示す部分の梁40及びスラブ50が支持するものとして、梁40に作用する圧縮力を算定する。
なお、以下の説明では、上記の建物の地下部10における柱30のスパンを7.2m、B1階の階高を5.0m、B2階の階高:5.0mとして、B1階の梁の長期許容応力度を算定する場合を例として説明する。
【0013】
まず、建物のB1階の梁40に作用する圧縮荷重を計算する。なお、本実施形態では、地下水位を1階のフロアレベルよりも1m低い高さとし、土の湿潤密度を1.8t/mとし、土圧係数を0.5として計算する。外壁20を一方向版とすると、斜線を付した梁40及びスラブ50に作用する荷重は以下の式で算定される。
7.2×5×(0.5×(1×1.8+(5−1)×(1.8−1))+4)=234t
【0014】
ここで、地下1階のスラブ厚を200mm、梁40の断面をB×D=500mm×800mm、主筋を上筋5−D25、下筋を上筋5−D25とすると、梁40の断面に作用する圧縮応力度は以下の式で算定される。
σ=234×1000/(720×20+(80−20)×50)=13.4kg/cm
【0015】
ここで、梁40には軸方向に圧縮応力が作用しているため、その長期許容応力度を算定する方法として、圧縮応力が作用している状態の柱の長期許容応力度の算定方法を適用できる。すなわち、図3に示すような、「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」、社団法人 日本建築学会、1991年一部改訂、p578などに記載されている柱の断面算定表を用いて長期許容応力度を算定する。
梁40における引張鉄筋比ptは以下の式で算定できる。
5×5.07/50/75×100=0.675%
【0016】
この値を用いて図3の断面算定表により、圧縮応力N/BD=σ=13.4kg/cmにおける、M/BDを求めると、M/BDを=12kg/cmとなる。
このため、梁40の長期許容応力度Malは以下の式により算定される。
Mal=12×50×80×80/100000=38.4t・mとなる。
【0017】
これに対して、比較対象として従来の方法により長期許容応力度Mal´を算定すると以下の式により算定される。
Mal´=2.2×0.75×0.875×5×5.07=36.6t・m
【0018】
このように、従来の長期許容応力度の算定方法では、梁40に作用する圧縮力を考慮に入れていないため、実際の長期許容応力度に比べて小さな値が算定される。これに対して、本実施形態の長期許容応力度の算定方法によれば、従来の方法に比べて5%程度大きな値が算定される。
【0019】
なお、上記の例では、長期許容応力度を算定する場合について説明したが、これと同様に、短期許容応力度などの強度を算定することもできる。このようにして算定した短期許容応力度などの強度も長期許容応力度の場合と同様に、従来の方法に比べて大きな値が算定される。
【0020】
そして、上記の梁の強度の算定方法を用いて梁40の断面設計を行う場合には、このように算定した強度が、梁40に必要とされる強度を超えるように梁の断面設計を行えばよい。なお、必要とされる強度は、地震荷重及び固定荷重に基き数値解析等を行うことにより決定することができる。
【0021】
ここで、上記のように、本実施形態の強度の算定方法により算定される強度は、従来の方法に比べて大きな値となる。すなわち、従来の強度の算定方法を用いて設計を行う場合に比べて、梁に所定の強度を持たせるために必要となる鉄筋量を少なくしたり、梁の断面を小さくしたりすることが可能となる。
【0022】
本実施形態によれば、従来の方法では無視していた土水圧を考慮に入れて梁40の強度を算定するため、梁の強度として従来の方法に比べて大きな値が算定される。このため、梁40の鉄筋量を削減したり、梁の断面を小さくしたりすることが可能となる。
【0023】
なお、本実施形態では、建物の地下部10の梁40を設計する場合について説明したが、これに限らず、土水圧により圧縮力が作用するようなスラブを設計する場合にも本発明を適用することができる。
【0024】
また、本実施形態では、土水圧が作用する建物の地下部10の梁40を設計する場合について説明したが、これに限らず、水圧のみが作用する水中の構造物や土圧のみが作用する建物の地下部の梁やスラブを設計する場合にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の強度の算定方法による計算の対象となる梁を含む建物の地下部の構造を示す図であり、(A)は外壁部及びその周辺を示す鉛直断面図、(B)は(A)におけるB−B´断面図、(C)は(B)におけるC−C´断面図である。
【図2】長期許容応力度を算定する際に、計算の対象となる梁が負担する土水圧を受ける領域を示す図である。
【図3】柱の断面算定表である。
【符号の説明】
【0026】
10 地下部
20 地中壁
30 柱
40 梁
50 スラブ
60 外壁
70 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周より土水圧が作用する建物の地下躯体を構成する梁又はスラブの強度の算定方法であって、
前記土水圧により前記梁又はスラブに作用する圧縮力を考慮して、前記梁又はスラブの強度を算定することを特徴とする方法。
【請求項2】
外周より土水圧が作用する建物の地下躯体を構成する梁又はスラブの強度の算定方法であって、
前記土水圧により前記梁又はスラブに作用する圧縮力を算定するステップと、
前記算定した圧縮力が前記梁又はスラブに作用した状態における前記梁又はスラブの強度を算定するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項3】
外周より土水圧が作用する建物の地下躯体を構成する梁又はスラブの強度の設計方法であって、
請求項1又は2記載の方法により算定した前記梁又はスラブの強度が、前記梁又はスラブに必要とされる強度以上になるように前記梁又はスラブの断面設計を行うことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法により建物の地下躯体を構成する梁又はスラブが設計されたことを特徴とする建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−215733(P2009−215733A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58141(P2008−58141)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】