説明

梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造

【課題】梁主筋の座屈防止と貫通孔上下のコンクリートの圧壊防止を同時に達成することが可能で施工性が良好な梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造を提供する。
【解決手段】梁上端主筋4と梁下端主筋5との間に設置され、梁幅方向に形成される貫通孔16を補強するための貫通孔補強部材10と、貫通孔補強部材の下部・上部周面をそれぞれ取り囲むための第1・第2U字筋部11a,12a及びこれらU字筋部をそれぞれ繋いで梁上端主筋・梁下端主筋それぞれに係合させるための第1・第2座屈拘束筋部11b,12bをそれぞれ有する第1・第2補強鉄筋11,12と、貫通孔補強部材上部・下部にそれぞれ接合するための上部・下部接合筋部13a,14a及びこれら上部・下部接合筋部それぞれから連続して梁上端主筋・梁下端主筋にそれぞれ係合させるための第3・第4座屈拘束筋部13b,14bをそれぞれ有する第3・第4補強鉄筋13,14とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁主筋の座屈防止と貫通孔の上下に位置するコンクリートの圧壊防止を達成することが可能で、施工性が良好な梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート梁に、設備配管用などの貫通孔を梁幅方向に設ける場合、当該貫通孔周囲に補強を施すようにしている。また、貫通孔周囲だけでなく、梁主筋が座屈しないように補強することも行われている。
【0003】
特に、曲げモーメントが支配的となる梁端部(ヒンジ領域)に貫通孔を形成する場合には、地震などにより繰り返し大きな荷重が作用することで梁主筋が座屈し、耐力・剛性が大きく低下して倒壊の原因にもなるため、梁主筋の座屈対策が重要となる。
【0004】
この種の補強方法としては、特許文献1〜3に示されているように、鉄筋で補強するものや、貫通孔を補強する鋼管に鉄筋を組み合わせたものなどが知られている。
【0005】
特許文献1の「梁端部に設けた開孔の梁補強構造とその施工法」は、梁端部のヒンジ領域に貫通する開孔の周辺に開孔補強筋を配置し、開孔の上下位置に主筋を跨いだ座屈補強筋を配備して成る梁端部に設けた開孔の梁補強構造において、複数の脚部が櫛状に形成されて成る座屈補強筋を開孔の周辺に斜め方向に交差させて配備することを特徴としており、開孔上下位置での梁主筋の座屈を防止し、開孔部周辺のひび割れを抑制して開孔上下部におけるコンクリートの圧壊を緩和させている。
【0006】
特許文献2の「開口補強構造を備えた建築土木構造物の構成材及び横架材」では、開口補強構造が、第1,第2の開口補強筋を備え、これら第1,第2の開口補強筋は、略U字状をなす補強部と、この補強部の両端に連なる引掛部とを有し、第1開口補強筋の引掛部は、第1,第2方向と直交する第3方向の一方側に配置された主筋に掛けられ、第2の開口補強筋の引掛部は第3方向の他方側の主筋に掛けられ、これら第1,第2の開口補強筋の補強部が、開口を少なくとも略半周分ずつ囲んでいる;開口補強構造が開口補強筋を備え、この開口補強筋は、第1,第2方向と直交する第3方向の一方側の主筋から他方側の主筋まで延びる補強部と、この補強部の両端に連なる引掛部とを有し、これら引掛部が一方側の主筋と他方側の主筋にそれぞれ掛けられ、補強部の略中央部には、開口を囲むように巻回された環状部が形成されている;開口補強構造が、第1,第2の開口補強筋を備え、第1開口補強筋は、略U字状をなして垂れ下がる補強部と、この補強部の一対の上端に連なり上側主筋に掛けられる引掛部とを有し、第2開口補強筋は、略U字状をなして起き上がる補強部と、この補強部の一対の下端に連なり下側主筋に掛けられる引掛部とを有し、第1の開口補強筋の補強部が開口の少なくとも下側の略半周分を囲み、第2の開口補強筋の補強部が開口の少なくとも下側の略半周分を囲んでいる;又は開口補強構造が開口補強筋を備え、この開口補強筋は、上側主筋から下側主筋まで延びる補強部と、この補強部の上端に連なり上側主筋に掛けられる第1引掛部と、この補強部の下端に連なり下側主筋に掛けられる第2引掛部とを有し、補強部の略中央部には、開口を囲むように巻回された環状部が形成されている。
【0007】
特許文献3の「開口を有する鉄筋コンクリート梁の補強構造、補強方法、梁構造」は、開口を有する鉄筋コンクリート梁の補強構造を、開口の内側に鋼管が嵌挿され、鉄筋コンクリート梁のせん断補強筋が鋼管の外周面に接合されている構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−268925号公報
【特許文献2】特許第4006497号公報
【特許文献3】特開2007−051533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、開孔周辺の開孔補強筋に加えて、開孔の上下位置に座屈補強筋を設けているが、開孔補強筋と座屈補強筋を接続していないため、これら補強筋間で応力伝達はなされず、このため開孔上下部のコンクリートが崩壊しやすく、性能低下が懸念される。
【0010】
特許文献2では、鋼管、開口補強筋及び主筋のみで開口周辺部のコンクリートを拘束するようにしていて、開口補強筋間の開口(鋼管)直上及び直下には何らの補強構造も備えてはいないため、当該部分で梁主筋の座屈を生じる可能性が高い。
【0011】
特許文献3では、鋼管にせん断補強筋を直接接合するだけであるため、梁に作用する外力や梁主筋の座屈を拘束する力の反力が鋼管に作用し、当該鋼管を局部的に変形させるおそれがある。鋼管が変形すると、鋼管直上及び直下のコンクリート拘束力が低下し、ひいては梁主筋の拘束力を弱める可能性がある。また、鋼管が変形すると、せん断補強筋との接合部分が破断するなどの悪影響も生じ得る。
【0012】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、梁主筋の座屈防止と貫通孔の上下に位置するコンクリートの圧壊防止を達成することが可能で、さらに施工性が良好な梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる梁貫通孔周囲の補強装置は、梁上端主筋と梁下端主筋との間に設置され、梁幅方向に形成される貫通孔を補強するための貫通孔補強部材と、梁幅方向に並行に配置され上記貫通孔補強部材の下部周面を取り囲むための第1U字筋部及びこれら第1U字筋部を繋いで上記梁上端主筋に上方から係合させるための第1座屈拘束筋部を有する第1補強鉄筋と、梁幅方向に並行に配置され上記貫通孔補強部材の上部周面を取り囲むための第2U字筋部及びこれら第2U字筋部を繋いで上記梁下端主筋に下方から係合させるための第2座屈拘束筋部を有する第2補強鉄筋と、上記貫通孔補強部材上部に接合するための上部接合筋部及び該上部接合筋部から連続して上記梁上端主筋に上方から係合させるための第3座屈拘束筋部を有する第3補強鉄筋と、上記貫通孔補強部材下部に接合するための下部接合筋部及び該下部接合筋部から連続して上記梁下端主筋に下方から係合させるための第4座屈拘束筋部を有する第4補強鉄筋とを備えたことを特徴とする。
【0014】
前記第1補強鉄筋の前記第1U字筋部と前記第1座屈拘束筋部、前記第2補強鉄筋の前記第2U字筋部と前記第2座屈拘束筋部、前記第3補強鉄筋の前記上部接合筋部と前記第3座屈拘束筋部、並びに前記第4補強鉄筋の前記下部接合筋部と前記第4座屈拘束筋部それぞれを一体的に接続するための継手手段を備えることを特徴とする。
【0015】
前記貫通孔補強部材は、梁幅方向に配列される複数の筒状ピースで構成され、各筒状ピースには、少なくともいずれかの前記第1補強鉄筋及び前記第2補強鉄筋が配筋されるとともに、前記第3及び第4補強鉄筋の前記上部接合筋部及び前記下部接合筋部が接合されることを特徴とする。
【0016】
本発明にかかる梁構造は、上記梁貫通孔周囲の補強装置を、鉄筋コンクリート梁の梁鉄筋組に組み込んで構築したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造にあっては、梁主筋の座屈防止と貫通孔の上下に位置するコンクリートの圧壊防止を達成することができ、さらに継手手段を備えることによって施工性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造の第1実施形態を示す平面断面図である。
【図2】図1に示した第1実施形態の側断面図である。
【図3】図2中、A−A線矢視断面図である。
【図4】図2中、B−B線矢視断面図である。
【図5】図2中、C−C線矢視断面図である。
【図6】図1に示した第1実施形態の変形例を示す側断面図である。
【図7】本発明に係る梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造の第2実施形態を示す平面断面図である。
【図8】図7に示した第2実施形態の側断面図である。
【図9】図8中、D−D線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る梁貫通孔周囲の補強装置及び梁構造の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1〜図5には、本発明に係る梁貫通孔周囲の補強装置の第1実施形態が示されている。
【0020】
鉄筋コンクリート梁1は、梁端部1aが、例えば柱鉄筋組2を埋設した鉄筋コンクリート柱3に一体的に接合される。鉄筋コンクリート梁1には従来周知のように、梁幅方向に複数配列され、端部が鉄筋コンクリート柱3内に定着される梁上端主筋4及び梁下端主筋5と、梁長さ方向に所定のピッチPで複数配列され、これら梁上端主筋4及び梁下端主筋5を取り囲むスターラップ筋6とからなる梁鉄筋組7が梁のコンクリート8中に埋設される。図示例にあっては、梁上端主筋4及び梁下端主筋5はそれぞれ、梁幅方向に5本ずつ配筋されている。
【0021】
第1実施形態に係る梁貫通孔周囲の補強装置9は主に、貫通孔補強部材10と、第1〜第4補強鉄筋11〜14と、継手手段15とを備える。鉄筋コンクリート梁1には必要に応じて、梁幅方向へ貫通させて、設備配管用などの貫通孔16が形成され、貫通孔補強部材10は、当該貫通孔16を補強するために設けられる。貫通孔16は、梁長さ方向の適宜位置に形成され、図示にあっては、ヒンジ領域となる梁端部1aに形成される場合が例示されている。
【0022】
貫通孔補強部材10は、梁幅方向に形成される中空の貫通孔16を取り囲んで補強するために中空筒体状に形成され、梁上端主筋4と梁下端主筋5との間に梁幅方向に沿って設置される。貫通孔補強部材10の横断面は、円形状であっても、多角形状であってもよい。第1実施形態にあっては、貫通孔補強部材10は、梁幅方向に梁を貫通する長さ寸法を有し、貫通孔16を成形する際の型枠を兼ねる単一の鋼管で構成される。
【0023】
第1補強鉄筋11は、少なくとも第1U字筋部11aと第1座屈拘束筋部11bの2つの部分を備える。第1U字筋部11aは、梁幅方向に間隔を隔てて並行に複数配置される。図示例にあっては、第1U字筋部11aは、一対2本で配置されている。各第1U字筋部11aは、貫通孔補強部材10の下部周面を取り囲むために、その中央部が当該下部周面と接するかもしくは僅かな隙間を隔てるように湾曲又は屈曲形成される。各第1U字筋部11aの直線状の両端部はそれぞれ、梁長さ方向に間隔を隔てて、梁上端主筋4へ向かって立ち上げられる。
【0024】
第1補強鉄筋11の第1座屈拘束筋部11bは、梁幅方向に沿って梁上端主筋4に上方から係合するほぼコ字状に形成される。図示例にあっては、第1座屈拘束筋部11bは、梁幅方向に5本すべての梁上端主筋4上に跨って係合されているが、すべての梁上端主筋4に係合させなくてもよい。第1座屈拘束筋部11bは、各第1U字筋部11aの両端部と対応させて、梁長さ方向に間隔を隔てて2本配置される。各第1座屈拘束筋部11bの梁幅方向両端部は、梁上端主筋4から下方に向けて曲げられる。
【0025】
これら2本の第1座屈拘束筋部11bの両端部のうち、それらの一端部はそれぞれ、梁幅方向の一方に配置される第1U字筋部11aの両端部と接続される。同様に、それらの他端部はそれぞれ、梁幅方向の他方に配置される第1U字筋部11aの両端部と接続される。従って、第1座屈拘束筋部11bは、梁上端主筋4に係合しつつ、梁幅方向に並行に配置される第1U字筋部11aを繋ぐようになっている。
【0026】
これら第1U字筋部11aと第1座屈拘束筋部11bの端部同士は、鉄筋同士を連結するための継手手段15によって一体的に接続される。継手手段15としては各種のものが周知であり、例えば端部同士を向かい合わせて、繋ぎ代を備えるネジ式の機械式継手で接続するようにしてもよい。あるいは、端部同士を隣り合わせに重ね合わせて、重ね継手を構成するようにしてもよい。
【0027】
また、他の継手手段15として、反対方向からそれぞれ差し入れられる一対の鉄筋を並列状態で包囲するとともに、これら鉄筋同士の隙間と連通する孔部を備えるスリーブと、鉄筋同士の隙間へ嵌入される楔部材とからなり、当該孔部からスリーブ内へ楔部材を嵌入させることで、鉄筋間に楔部材が係合してこれら鉄筋同士を接続するようにした機械式継手なども採用することができる。
【0028】
なお、一例として挙げた上記継手手段15によれば、繋ぎ代や重ね代で鉄筋同士の接続位置を融通することができるとともに、溶接のように火気を使用することなく、また熟練工でなくても、簡便かつ適切に接続作業を行うことができる。
【0029】
図示例にあっては、一対2本の第1U字筋部11aと2本の第1座屈拘束筋部11bとからなる第1補強鉄筋11を、継手手段15で接続する場合が示されているが、継手手段15を使用することなく、第1補強鉄筋11全体を、第1座屈拘束筋部11bの両側から第1U字筋部11aが垂れ下がる鞍状に一体形成しても良いことはもちろんである。
【0030】
また、第1補強鉄筋11は、梁幅方向に複数設けても良いことはもちろんである。複数設ける場合には、各第1補強鉄筋11同士で、第1U字筋部11a及び第1座屈拘束筋部11bの位置をずらすことができるように、第1U字筋部11aの梁幅方向配置間隔や第1座屈拘束筋部11bの梁長さ方向配置間隔を調整すればよい。
【0031】
第2補強鉄筋12は、第1補強鉄筋11と上下逆関係の鉄筋構造であり、少なくとも第2U字筋部12aと第2座屈拘束筋部12bの2つの部分を備える。第2U字筋部12aは、第1U字筋部11a位置を避けて、言い換えれば第1U字筋部11aに隣接させて、梁幅方向に間隔を隔てて並行に複数配置される。図示例にあっては、第2U字筋部12aも、一対2本で配置されている。
【0032】
各第2U字筋部12aは、貫通孔補強部材10の上部周面を取り囲むために、その中央部が当該上部周面と接するかもしくは僅かな隙間を隔てるように湾曲又は屈曲形成される。各第2U字筋部12aの直線状の両端部はそれぞれ、梁長さ方向に間隔を隔てて、梁下端主筋5へ向かって垂下される。
【0033】
第2補強鉄筋12の第2座屈拘束筋部12bは、梁幅方向に沿って梁下端主筋5に下方から係合するほぼコ字状に形成される。図示例にあっては、第2座屈拘束筋部12bは、梁幅方向に5本すべての梁下端主筋5下に跨って係合されているが、すべての梁下端主筋5に係合させなくてもよい。第2座屈拘束筋部12bは、各第2U字筋部12aの両端部と対応させて、梁長さ方向に間隔を隔てて2本配置される。各第2座屈拘束筋部12bの梁幅方向両端部は、梁下端主筋5から上方に向けて曲げられる。
【0034】
これら2本の第2座屈拘束筋部12bの両端部のうち、それらの一端部はそれぞれ、梁幅方向の一方に配置される第2U字筋部12aの両端部と接続される。同様に、それらの他端部はそれぞれ、梁幅方向の他方に配置される第2U字筋部12aの両端部と接続される。従って、第2座屈拘束筋部12bは、梁下端主筋5に係合しつつ、梁幅方向に並行に配置される第2U字筋部12aを繋ぐようになっている。
【0035】
これら第2U字筋部12aと第2座屈拘束筋部12bの端部同士は、第1補強鉄筋11と同様に、鉄筋同士を連結するための継手手段15によって一体的に接続される。第2補強鉄筋12も、継手手段15を使用することなく、その全体を、第2座屈拘束筋部12bの両側から第2U字筋部12aが垂れ下がる鞍状に一体形成しても良いことはもちろんである。
【0036】
また、第2補強鉄筋12も、梁幅方向に複数設けても良いことはもちろんである。複数設ける場合には、各第2補強鉄筋12同士で、第2U字筋部12a及び第2座屈拘束筋部12bの位置をずらすことができるように、第2U字筋部12aの梁幅方向配置間隔や第2座屈拘束筋部12bの梁長さ方向配置間隔を調整すればよい。
【0037】
第3補強鉄筋13は、少なくとも上部接合筋部13aと第3座屈拘束筋部13bの2つの部分を備える。上部接合筋部13aは、第1U字筋部11aの両端部に挟まれる空間に、梁幅方向に沿って配置され、貫通孔補強部材10上部周面に溶接などによって接合される。
【0038】
図示例にあっては、上部接合筋部13aは、梁幅方向に沿って長く形成されて貫通孔補強部材10と接合される中央部17と、中央部17両側から梁上端主筋4へ向かってほぼ垂直に立ち上げられる両端部18とを有するU字状に形成され、貫通孔補強部材10上部周面に長い範囲に亘って接合される(図4参照)。しかしながら、上部接合筋部13aは、その中央部17長さを短くして接合範囲を短く設定し、両端部18を斜めに立ち上げるようにして、略V字状に形成してもよい。
【0039】
第3補強鉄筋13の第3座屈拘束筋部13bは、第1座屈拘束筋部11bと同様に、梁幅方向に沿って梁上端主筋4に上方から係合するほぼコ字状に形成される。図示例にあっては、第3座屈拘束筋部13bも、梁幅方向に5本すべての梁上端主筋4上に跨って係合されているが、すべての梁上端主筋4に係合させなくてもよい。第3座屈拘束筋部13bは、第1座屈拘束筋部11b間に、上部接合筋部13aに対応させて配置される。第3座屈拘束筋部13bの梁幅方向両端部は、梁上端主筋4から下方に向けて曲げられる。
【0040】
第3座屈拘束筋部13bの両端部はそれぞれ、上部接合筋部13aの両端部18と接続される。従って、第3座屈拘束筋部13bは、梁上端主筋4に係合しつつ、梁上端主筋4下に位置する上部接合筋部13aと連続するようになっている。
【0041】
これら上部接合筋部13aと第3座屈拘束筋部13bの端部同士は、第1及び第2補強鉄筋11,12と同様に、継手手段15によって一体的に接続される。第3補強鉄筋13も、継手手段15を使用することなく、その全体を、上部接合筋部13aから第3座屈拘束筋部13bに亘って周回する環状に一体形成しても良いことはもちろんである。
【0042】
また、第3補強鉄筋13は、梁長さ方向に複数設けても良いことはもちろんである。図示例にあっては、第1U字筋部11aの両端部間、すなわち第1補強鉄筋11で取り囲まれる空間内部に、2本設けられている。しかしながら、貫通孔補強部材10の中央部に1本設けるようにしても、あるいは3本以上を梁長さ方向に適宜間隔を隔てて配列するようにしてもよい。
【0043】
第4補強鉄筋14は、第3補強鉄筋13と上下逆関係の鉄筋構造であり、少なくとも下部接合筋部14aと第4座屈拘束筋部14bの2つの部分を備える。下部接合筋部14aは、第2U字筋部12aの両端部に挟まれる空間に、梁幅方向に沿って配置され、貫通孔補強部材10下部周面に溶接などによって接合される。
【0044】
図示例にあっては、下部接合筋部14aも、梁幅方向に沿って長く形成されて貫通孔補強部材10と接合される中央部17と、中央部17両側から梁下端主筋5へ向かってほぼ垂直に垂下される両端部18とを有するU字状に形成され、貫通孔補強部材10下部周面に長い範囲に亘って接合される(図4参照)。しかしながら、下部接合筋部14aも、その中央部17長さを短くして接合範囲を短く設定し、両端部18を斜めに垂下させるようにして、略V字状に形成してもよい。
【0045】
第4補強鉄筋14の第4座屈拘束筋部14bは、第2座屈拘束筋部12bと同様に、梁幅方向に沿って梁下端主筋5に下方から係合するほぼコ字状に形成される。図示例にあっては、第4座屈拘束筋部14bも、梁幅方向に5本すべての梁下端主筋5下に跨って係合されているが、すべての梁下端主筋5に係合させなくてもよい。第4座屈拘束筋部14bは、第2座屈拘束筋部12b間に、下部接合筋部14aに対応させて配置される。第4座屈拘束筋部14bの梁幅方向両端部は、梁下端主筋5から上方に向けて曲げられる。
【0046】
第4座屈拘束筋部14bの両端部はそれぞれ、下部接合筋部14aの両端部と接続される。従って、第4座屈拘束筋部14bは、梁下端主筋5に係合しつつ、梁下端主筋5上に位置する下部接合筋部14aと連続するようになっている。
【0047】
これら下部接合筋部14aと第4座屈拘束筋部14bの端部同士は、第1〜第3補強鉄筋11〜13と同様に、継手手段15によって一体的に接続される。第4補強鉄筋14も、継手手段15を使用することなく、その全体を、下部接合筋部14aから第4座屈拘束筋部14bに亘って周回する環状に一体形成しても良いことはもちろんである。
【0048】
また、第4補強鉄筋14は、第3補強鉄筋13と同様に、梁長さ方向に複数設けても良いことはもちろんである。図示例にあっては、第2U字筋部12aの両端部間、すなわち第2補強鉄筋12で取り囲まれる空間内部に、2本設けられている。しかしながら、貫通孔補強部材10の中央部に1本設けるようにしても、あるいは3本以上を梁長さ方向に適宜間隔を隔てて配列するようにしてもよい。
【0049】
第1〜第4補強鉄筋11〜14の第1〜第4座屈拘束筋部11b〜14bは、スターラップ筋6の配筋ピッチPよりも狭いピッチで配列することが好ましい。
【0050】
第1実施形態に係る梁貫通孔周囲の補強装置9は主に、上述した貫通孔補強部材10、第1〜第4補強鉄筋11〜14、並びに機械式継手等の継手手段15からなる部品で構成され、鉄筋コンクリート梁1を構築する際に梁鉄筋組7に組み込まれ、組み込んだ状態で梁のコンクリート8が打設されることにより、貫通孔16付きの鉄筋コンクリート梁1が構築されるようになっている。
【0051】
次に、第1実施形態に係る梁貫通孔周囲の補強装置9及び梁構造の作用について説明すると、貫通孔16を補強する貫通孔補強部材10及び当該貫通孔16周辺において貫通孔補強部材10と梁主筋4,5との間で応力伝達する第1〜第4補強鉄筋11〜14を、梁のコンクリート8中に埋設した鉄筋コンクリート梁1の構造が得られる。
【0052】
貫通孔補強部材10と梁上端主筋4及び梁下端主筋5との間では、貫通孔補強部材10の上下周面を取り囲む第1及び第2補強鉄筋11,12により、また貫通孔補強部材10の上下周面に接合した第3及び第4補強鉄筋13,14によって、貫通孔補強部材10全体で梁主筋4,5からの力を受け止めつつ、貫通孔補強部材10と梁主筋4,5との間の梁のコンクリート8を拘束して、いわゆるコンファインド効果を奏する構造を得ることができるので、貫通孔補強部材10の上下に位置する梁のコンクリート8に圧壊が生じることを防止でき、鉄筋コンクリート梁1の変形能力を向上することができる。
【0053】
また、貫通孔補強部材10の上下周面を取り囲む第1及び第2補強鉄筋11,12と、貫通孔補強部材10の上下周面に接合した第3及び第4補強鉄筋13,14により、貫通孔補強部材10に反力をとって、梁主筋4,5の座屈を効果的に防止することができる。
【0054】
さらに、第1〜第4補強鉄筋11〜14により、梁主筋4,5から貫通孔補強部材10に入力される力を分散させることができる。即ち、第3又は第4補強鉄筋13,14によって貫通孔補強部材10に部分的に過大な応力が発生して局部変形を生じさせようとするが、貫通孔補強部材10の周面を取り囲んだ第1又は第2補強鉄筋11,12を介して、貫通孔補強部材10の周面にはコンクリート8からの反力が作用するため、貫通孔補強部材10に入力される力を分散させることができ、これによって局部変形が生じることを適切に防止できて、この面からも梁のコンクリート8の圧壊及び梁主筋4,5の座屈を確実に防止することができる。
【0055】
また、貫通孔16及びその近傍の梁主筋4,5周辺に第1〜第4補強鉄筋11〜14を配筋して鉄筋量を増加させることにより、貫通孔16周囲の強度を格段に増強することができる。
【0056】
以上により、耐力・剛性がともに高く、かつ靭性にも富む、優れた構造性能を発揮する貫通孔16付きの鉄筋コンクリート梁1を構築することができ、特にヒンジ領域となる梁端部1aに適用して極めて有効な効果を発揮する。
【0057】
他方、上記補強装置9を梁鉄筋組7に取り付ける作業手順は基本的に、貫通孔補強部材10及び第1〜第4補強鉄筋11〜14をどのような順序で設けるようにしてもよい。
【0058】
継手手段15として機械式継手を用いる場合の一例を説明すると、まず、貫通孔補強部材10に第3及び第4補強鉄筋13,14の上部及び下部接合筋部13a,14aを接合する。次いで、貫通孔補強部材10を仮受けした状態で、当該貫通孔補強部材10に上方及び下方から、第1及び第2補強鉄筋11,12の第1及び第2U字筋部11a,12aを装着する。
【0059】
次いで、梁上端主筋4上方から、第1及び第3補強鉄筋11,13の第1及び第3座屈拘束筋部11b,13bを被せ、第1U字筋部11aと上部接合筋部13aを継手手段15で接続して第1及び第3補強鉄筋11,13を完成するとともに、梁鉄筋組7に固定する。
【0060】
その後、梁下端主筋5下方から、第2及び第4補強鉄筋12,14の第2及び第4座屈拘束筋部12b,14bを装着し、第2U字筋部12aと下部接合筋部14aを継手手段15で接続して第2及び第4補強鉄筋12,14を完成するとともに、梁鉄筋組7に固定する。なお、貫通孔補強部材10と上部及び下部接合筋部13a,14aとは、工場などで、予め接合しておいてもよい。
【0061】
継手手段15による接続によれば、上述したように繋ぎ代や重ね代の範囲で接続位置を融通することができるので、貫通孔補強部材10を取り囲む第1U字筋部11a等や貫通孔補強部材10に接合される上部接合筋部13a等と、梁上端主筋4等に係合する第1及び第3座屈拘束筋部11b,13b等とを接続する際、貫通孔補強部材10の設置位置を基準として、接続位置を調節して接続することができる。特許文献2の開口補強筋や特許文献3のせん断補強筋のような一体成形品の場合には、加工精度や取付精度に左右されて、貫通孔16位置に適切に設置し得ないおそれがあるが、継手手段15で接続することで、貫通孔補強部材10に対し、第1〜第4補強鉄筋11〜14を容易かつ的確に配筋することができる。
【0062】
図6には、第1実施形態の変形例が示されている。貫通孔補強部材10が梁せいのほぼ中央に配置されている第1実施形態に対し、変形例では貫通孔補強部材10は、やや下方に配置されている。
【0063】
接続位置の融通が利く機械式継ぎ手などの継手手段15で接続を行うようにしているので、第1〜第4座屈拘束筋部11b〜14bの両端部長さ、第1及び第2U字筋部11a,12aの両端部長さ、並びに上部及び下部接合筋部13a,14aの両端部長さについて、繋ぎ代や重ね代に余裕を持たせておけば、梁せいの高低や偏心のために貫通孔16位置が異なっても、第1〜第4補強鉄筋11〜14としてそれぞれ同一寸法のものを共用することができ、異なる貫通孔16位置それぞれに対して長さ寸法等の異なる多種類の補強鉄筋を準備する必要はなく、部品の共通化を達成することができる。
【0064】
図7〜図9には、本発明に係る梁貫通孔周囲の補強装置9及び梁構造の第2実施形態が示されている。第2実施形態では、貫通孔補強部材10は、梁幅方向に隙間を隔てて配列される複数の鋼管などの筒状ピース10a〜10cで構成される。すなわち、筒状ピース10a〜10cは、第1実施形態の貫通孔補強部材10を長さ方向に分断した形態で構成される。第2実施形態の場合、一連の貫通孔16を成形するために、これら筒状ピース10a〜10c内に一連に差し渡して、隙間に位置する型枠部材19が挿入される。図示例にあっては、筒状ピースは、第1〜第3筒状ピース10a〜10cとして、3つ設けられている。
【0065】
第2実施形態では、3つの筒状ピース10a〜10cに対し、第1〜第4補強鉄筋11〜14が2セット使用される。すなわち、第1及び第2筒状ピース10a,10b間に1セット、第2及び第3筒状ピース10b,10c間に1セット設けられる。第1及び第2筒状ピース10a,10bに対しては、第1及び第2補強鉄筋11,12の第1及び第2座屈拘束筋部11b,12b、並びに第3及び第4補強鉄筋13,14の第3及び第4座屈拘束筋部13b,14bが、第1及び第2筒状ピース10a,10b上方及び下方の梁主筋4,5に係合され、第1及び第2補強鉄筋11,12の一方の第1及び第2U字筋部11a,12aが第1筒状ピース10aを取り囲み、他方の第1及び第2U字筋部11a,12aが第2筒状ピース10bを取り囲むとともに、第3及び第4補強鉄筋13,14の上部及び下部接合筋部13a,14aが第1及び第2筒状ピース10a,10b間に掛け渡してこれら筒状ピース10a,10b双方に接合される。
【0066】
同様に、第2及び第3筒状ピース10b,10cに対しては、第1及び第2補強鉄筋11,12の第1及び第2座屈拘束筋部11b,12b、並びに第3及び第4補強鉄筋13,14の第3及び第4座屈拘束筋部13b,14bが、第2及び第3筒状ピース10b,10c上方及び下方の梁主筋4,5に係合され、第1及び第2補強鉄筋11,12の一方の第1及び第2U字筋部11a,12aが第2筒状ピース10bを取り囲み、他方の第1及び第2U字筋部11a,12aが第3筒状ピース10cを取り囲むとともに、第3及び第4補強鉄筋13,14の上部及び下部接合筋部13a,14aが第2及び第3筒状ピース10b,10c間に掛け渡してこれら筒状ピース10b,10c双方に接合される。
【0067】
2セットの第1〜第4補強鉄筋11〜14は、それらの8本の第1〜第4座屈拘束筋部11b〜14bが梁主筋4,5位置で干渉しないように、梁長さ方向に位置調整して配筋される。
【0068】
このように、貫通孔補強部材10を分割した第2実施形態にあっても、第1実施形態と同様の作用効果が得られることはもちろんである。
【0069】
上記実施形態の座屈拘束筋部の位置関係に関し、第1及び第2座屈拘束筋部11b,12bそれぞれの間に第3及び第4座屈拘束筋部13b,14bが位置する関係に代えて、U字筋部11a,12aに繋がる第1及び第2座屈拘束筋部11b,12bそれぞれを、接合筋部13a,14aに繋がる第3及び第4座屈拘束筋部13b,14b間に位置させるようにしてもよい。
【0070】
また、第1〜第4座屈拘束筋部11b〜14bのピッチは、等間隔であっても、等間隔でなくてもよい。
【0071】
また、上記実施形態にあっては、貫通孔補強部材10として、鋼管を例示して説明したが、スパイラル筋などを用いても良く、また、鋼管とスパイラル筋を組み合わせたり、鉄筋籠を使用してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 鉄筋コンクリート梁
4 梁上端主筋
5 梁下端主筋
7 梁鉄筋組
9 梁貫通孔周囲の補強装置
10 貫通孔補強部材
10a〜10c 筒状ピース
11 第1補強鉄筋
11a 第1U字筋部
11b 第1座屈拘束筋部
12 第2補強鉄筋
12a 第2U字筋部
12b 第2座屈拘束筋部
13 第3補強鉄筋
13a 上部接合筋部
13b 第3座屈拘束筋部
14 第4補強鉄筋
14a 下部接合筋部
14b 第4座屈拘束筋部
15 継手手段
16 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁上端主筋と梁下端主筋との間に設置され、梁幅方向に形成される貫通孔を補強するための貫通孔補強部材と、
梁幅方向に並行に配置され上記貫通孔補強部材の下部周面を取り囲むための第1U字筋部及びこれら第1U字筋部を繋いで上記梁上端主筋に上方から係合させるための第1座屈拘束筋部を有する第1補強鉄筋と、
梁幅方向に並行に配置され上記貫通孔補強部材の上部周面を取り囲むための第2U字筋部及びこれら第2U字筋部を繋いで上記梁下端主筋に下方から係合させるための第2座屈拘束筋部を有する第2補強鉄筋と、
上記貫通孔補強部材上部に接合するための上部接合筋部及び該上部接合筋部から連続して上記梁上端主筋に上方から係合させるための第3座屈拘束筋部を有する第3補強鉄筋と、
上記貫通孔補強部材下部に接合するための下部接合筋部及び該下部接合筋部から連続して上記梁下端主筋に下方から係合させるための第4座屈拘束筋部を有する第4補強鉄筋とを備えたことを特徴とする梁貫通孔周囲の補強装置。
【請求項2】
前記第1補強鉄筋の前記第1U字筋部と前記第1座屈拘束筋部、前記第2補強鉄筋の前記第2U字筋部と前記第2座屈拘束筋部、前記第3補強鉄筋の前記上部接合筋部と前記第3座屈拘束筋部、並びに前記第4補強鉄筋の前記下部接合筋部と前記第4座屈拘束筋部それぞれを一体的に接続するための継手手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の梁貫通孔周囲の補強装置。
【請求項3】
前記貫通孔補強部材は、梁幅方向に配列される複数の筒状ピースで構成され、各筒状ピースには、少なくともいずれかの前記第1補強鉄筋及び前記第2補強鉄筋が配筋されるとともに、前記第3及び第4補強鉄筋の前記上部接合筋部及び前記下部接合筋部が接合されることを特徴とする請求項1又は2に記載の梁貫通孔周囲の補強装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項に記載の梁貫通孔周囲の補強装置を、鉄筋コンクリート梁の梁鉄筋組に組み込んで構築したことを特徴とする梁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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