説明

棒形状長尺部材の加工方法及び装置

【課題】長尺部材の追込み加工において、連続的で均一な加工面が得られる棒形状長尺部材の加工方法及び装置を提供することにある。
【解決手段】把持固定機構AAは、棒形状長尺部材7に装置設備を把持固定することで追込み加工の基準にする。回転機構BBは、円柱形状の放電加工用電極9を連続的に回転駆動させる。径方向駆動機構CCは、棒形状長尺部材7の径方向に、放電加工用電極9を回転駆動させた状態で、回転機構を径方向に移動する。軸方向駆動機構DDは、放電加工用電極により、径方向の加工を軸方向に連続的に継続すべく、回転機構を棒形状長尺部材の軸方向に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒形状長尺部材の加工方法及び装置に係り、特に、原子力発電プラントにおける原子炉内構造物の保全に必要な遠隔・水中下での原子炉内構造物の内、棒形状長尺部材に対して追込み加工するに好適な棒形状長尺部材の加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設の原子力発電プラントでは、安全運転の維持・継続及び将来的なプラント運転の長寿命化をにらみ、特に原子炉内の構造物を中心に材料対策および構造物の強度等の健全化を念頭に大型の予防保全あるいは事後保全技術が多数適用され、その工事が急速に推進されている。
【0003】
原子炉内構造物の保全技術を推進するにあたり、原子炉内構造物は高放射線量および高放射能濃度を有しており、人が接近して作業をすることが不可能なため、その作業環境は、原子炉とその上部に構成される原子炉ウェル内に純水を満水にはり、原子炉内構造物からの放射線や放射性物質をさえぎり、その上部から水面下の対象物をねらった高度な遠隔・水中作業が要求される。
【0004】
遠隔・水中作業の一例として、長尺配管に対して、遠隔により、水中放電加工により切断作業を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−175421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子炉内構造物の保全技術としては、特許文献1記載の配管の切断の他にも、既設の構造物の傷め除去または他構造物との干渉回避などの目的で、棒形状長尺部材に対して、棒の外周から棒の中心方向に対する加工(追込み加工)がある。
【0007】
棒形状長尺部材に対する追込み加工方法として、放電加工を用いて平板状の放電加工用電極を棒の半径方向に動作させて加工する方法が考えられる。
【0008】
この時、棒形状長尺部材の長手方向に対する加工範囲が放電加工用電極より小さい場合は、一度の追込み加工でその範囲を包括できるが、棒形状長尺部材の追込み加工範囲が放電加工用電極の寸法より長い場合は、棒形状長尺部材の長手方向の加工を分割して追込み加工を複数回繰返す必要がある。棒形状長尺部材の追込み加工範囲が放電加工用電極の寸法より長い場合の例としては、原子炉内に他の構造物を追加することにより、既存の長尺部材が干渉する場合がある。この場合には、追加される他の構造物に対して、既存の長尺部材が干渉することを回避するため、両者の干渉位置よりも下方における、既存の長尺部材に対する追込み加工が必要となる。また、既存の長尺部材に下方に複数箇所の傷等が発見された場合には、その複数箇所に対して追込み加工する場合も、棒形状長尺部材の追込み加工範囲が放電加工用電極の寸法より長くなる。
【0009】
このような場合に、長手方向の加工を分割して複数回繰返すと、先の追込み加工と次の追込み加工の繋ぎ目において不連続な面が発生する。これは、先の加工と次の加工の追込み量の僅かな差や放電加工用電極の消耗具合のバラツキなどの要因で発生するため、この不連続面の解消が困難である。加工面における不連続な面は、追込み加工後の研磨作業において、その段差部の研磨が不可能となるとともに、その段差部に過度な応力が集中すると、新たな傷等が生じる恐れもある。
【0010】
本発明の目的は、長尺部材の追込み加工において、連続的で均一な加工面が得られる棒形状長尺部材の加工方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、原子炉内構造物の棒形状長尺部材を、水中遠隔で放電加工により追込み加工する棒形状長尺部材の加工方法であって、加工対象の前記棒形状長尺部材に装置設備を把持固定することで追込み加工の基準とし、円柱形状の放電加工用電極を回転駆動させた状態で、前記棒形状長尺部材の径方向の加工を実施し、その後、前記放電加工用電極により、径方向の加工を軸方向に連続的に継続するようにしたものである。
かかる方法により、長尺部材の追込み加工において、連続的で均一な加工面が得られるものとなる。
【0012】
(2)また、上記目的を達成するために、本発明は、原子炉内構造物の棒形状長尺部材を、水中遠隔で放電加工により追込み加工する棒形状長尺部材の加工装置であって、加工対象の前記棒形状長尺部材に装置設備を把持固定することで追込み加工の基準にするための把持固定機構と、円柱形状の放電加工用電極を連続的に回転駆動させるための回転機構と、前記棒形状長尺部材の径方向に、前記回転機構により前記円柱形状の放電加工用電極を回転駆動させた状態で、前記回転機構を径方向に移動する径方向駆動機構と、前記放電加工用電極により、径方向の加工を軸方向に連続的に継続すべく、前記回転機構を前記棒形状長尺部材の軸方向に移動する軸方向駆動機構とを備えるようにしたものである。
かかる構成により、長尺部材の追込み加工において、連続的で均一な加工面が得られるものとなる。
【0013】
(3)上記(2)において、好ましくは、加工対象の前記棒形状長尺部材に装置設備を把持固定する把持固定機構部と放電加工用電極を搭載した放電加工用機構部に機能を分割し、前記把持固定機構部に対して、前記放電加工用機構部を遠隔で分離及び再取付け可能な構成としたものである。
【0014】
(4)上記(3)において、好ましくは、前記把持固定機構部は、前記放電加工用機構部に代えて、放電加工による加工面を研磨する研磨用機構部、若しくは補修加工後の寸法測定用機構部を搭載可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長尺部材の追込み加工において、連続的で均一な加工面が得られるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図1〜図8を用いて、本発明の一実施形態による棒形状長尺部材の加工装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による棒形状長尺部材の加工装置を用いる原子炉内構造物の保全技術工事の作業環境について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による棒形状長尺部材の加工装置を用いる原子炉内構造物の保全技術工事の作業環境の説明図である。
【0017】
原子炉内構造物1の保全技術を推進するにあたり、原子炉内構造物1は高放射線量および高放射能濃度を有しており、人が接近して作業をすることが不可能である。そのため、その作業環境は、原子炉2とその上部に構成される原子炉ウェル3の内部に純水を満水にはり、原子炉内構造物1からの放射線や放射性物質をさえぎり、その上部から作業台車4を用い水深約25m下の対象物をねらった遠隔・水中作業が要求される。
【0018】
原子炉内構造物1の保全技術の中で、既設の構造物の傷め除去または他構造物との干渉回避などの目的で補修加工は、原子炉内構造物1の多種多様な部位に亘るが、そのひとつに棒形状長尺部材7がある。この棒形状長尺部材7に対し、追込み装置10を用いて、放射線環境下における遠隔・水中作業を行う。追込み装置10の詳細構成については、図3以降を用いて説明する。
【0019】
次に、図2を用いて、本実施形態による棒形状長尺部材の加工装置による追込み加工の概念について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による棒形状長尺部材の加工装置による追込み加工の概念の説明図である。
【0020】
本実施形態では、棒形状長尺部材7の長手方向と直行する向きに配置された円柱状の放電加工用電極9を回転させながら、棒形状長尺部材7の半径方向(矢印L1方向)に規定の深さの追込み加工を行う。半径方向の追込み加工後、放電加工用電極9の追込み加工深さを維持した状態で、放電加工用電極9を棒形状長尺部材7の長手方向(矢印L2方向)の加工に移行する。
【0021】
これにより、長手方向の加工範囲を分割する必要がないため、放電加工用電極の繋ぎ目が発生せず、連続的で均一な加工面の形成が可能となる。
【0022】
次に、図3を用いて、本実施形態による棒形状長尺部材の加工装置である追込み装置10の全体構成について説明する。
図3は、本発明の一実施形態による棒形状長尺部材の加工装置である追込み装置の全体構成図である。図3(A)は左側面図であり、図3(B)は正面図である。
【0023】
棒形状長尺部材7用の追込み装置10は、加工対象の棒形状長尺部材7を把持する把持固定機構AA1,AA2と、放電加工用電極24を連続的に回転する回転機構BBと、加工対象の棒形状長尺部材7に対して径方向の駆動軸である前後軸(LMガイド21)に沿って回転機構BBを駆動する径方向駆動機構CCと、棒形状長尺部材7に対して軸方向の駆動軸である上下軸(LMガイド18)に沿って回転機構BBを駆動する軸方向駆動機構DDとを有する。
【0024】
次に、図4を用いて、本実施形態による追込み装置の把持固定機構AA1,AA2の構成について説明する。なお、図3に示した把持固定機構AA1,AA2は、同一構成を有するため、ここでは、把持固定機構AAとして説明する。
図4は、本発明の一実施形態による追込み装置の把持固定機構の正面図である。なお、図3と同一符号は、同一部分を示している。
【0025】
図3に示した追込み装置10は、加工対象の棒形状長尺部材7に対し、自身の姿勢が平行になるよう設定される必要がある。そのため、把持固定機構AAは、先端にV字型のパッドを有する固定クランプ13と、同じく先端にV字型のパッドを有するシリンダ駆動の可動クランプ14とにより構成される。さらに、エアまたは水を駆動源とするシリンダ15を備え、シリンダ15の推力により、加工対象の棒形状長尺部材7を固定クランプ13および可動クランプ14で把持固定する。
【0026】
この構造により、加工対象の棒形状長尺部材7の外周に、固定クランプ13先端のV字型の面が接するように把持固定できるため、追込み装置10の位置を、棒形状長尺部材7の軸心に対し相対的に合せることが可能である。
【0027】
また、棒形状長尺部材7の径にばらつきがある場合でも、クランプの先端がV字型になっているため、必ず接触点が3点以上になる様、把持することが可能であり、追込み装置10を棒形状長尺部材7に剛に固定できる。
【0028】
把持固定機構AAで、棒形状長尺部材7の長手方向の加工範囲を挟む2点を把持固定することにより、棒形状長尺部材7の軸に対し、追込み装置10を平行かつ安定的に設定することが可能である。
【0029】
次に、図5を用いて、本実施形態による追込み装置の回転機構BBと径方向駆動機構CCの構成について説明する。
図5は、本発明の一実施形態による追込み装置の回転機構と径方向駆動機構の構成図である。図5(A)は平面図であり、図5(B)は側面図である。なお、図3と同一符号は、同一部分を示している。
【0030】
最初に、追込み装置10の回転機構BBの構成について説明する。
【0031】
本実施形態における放電加工方式は、消耗のばらつきによる加工面への影響を低減でき、かつ、放電加工の効率が良い回転式とし、これにより放電加工用電極24は円柱形状とする。
【0032】
このとき、放電加工用電極24の径は消耗量や、次ステップでの磨きに配慮すると、放電加工用電極24の径は大きい方が良いが、実際には寸法上の取合いや、放電加工用電極24の偏芯による振れと、装置剛性の兼合いを加味し、適正な径を決定する。
【0033】
放電加工用電極24の回転機構BBは、駆動源であるモータ22と、タイミングベルト25と、プーリー23と、プーリー26とから構成される。モータ22からの動力は、プーリー26,タイミングベルト25,プーリー23により、放電加工用電極24に伝達され、放電加工用電極24を連続的に回転させる。
【0034】
放電加工用電極24の回転は、加工対象の棒形状長尺部材7の径方向および軸方向の二軸に直交する軸に対して、平行な軸の回りの回転である。放電加工用電極24の回転駆動により、放電加工用電極24の外周面が均一に放電し消耗するので、均一な加工面を形成することが可能である。
【0035】
また、放電加工用電極24の回転により生じる水の流れで、放電加工用電極24と加工対象の棒形状長尺部材7の加工面間に発生する放電加工の二次生成物を排除することにより、加工効率を上げるとともに、放電加工用電極24の消耗を低減することができる。
【0036】
放電加工用電極24への給電は、放電加工用電極24と電気的に通な機構部にケーブルを接続し行う。
【0037】
放電加工用電極24、および放電加工用電極24と電気的に通な機構部は、絶縁体27およびタイミングベルト25により、追込み装置10の他の構造部と絶縁され、放電加工用電極24への給電が追込み装置10本体に導通することのない構造とする。
【0038】
次に、追込み装置10の径方向駆動機構CCの構成について説明する。
【0039】
追込み装置10の径方向駆動機構CCは、棒形状長尺部材7径方向の加工をするための駆動機構である。径方向駆動機構CCは、駆動源であるモータ19と、ボールネジ20と、LMガイド21とにより構成される。径方向駆動機構CCは、放電加工用電極24の回転機構BBを、棒形状長尺部材7の径方向に動作させる。
【0040】
追込み装置10の径方向駆動機構CCにおける位置制御は、前述の把持固定機構AAの機能により棒形状長尺部材7の芯を相対的な基準とするため、正確な追込み深さでの棒形状長尺部材7径方向の加工が可能である。
【0041】
次に、図6を用いて、本実施形態による追込み装置の軸方向駆動機構DDの構成について説明する。
図6は、本発明の一実施形態による追込み装置の軸方向駆動機構の構成図である。図6(A)は左側面図であり、図6(B)は正面図である。なお、図3と同一符号は、同一部分を示している。
【0042】
追込み装置10の軸方向駆動機構DDは、棒形状長尺部材7の軸方向の加工をするための駆動機構である。軸方向駆動機構DDは、駆動源であるモータ16と、ボールネジ17と、LMガイド18とにより構成される。軸方向駆動機構DDは、放電加工用電極24の回転機構BBを、棒形状長尺部材7の軸方向の動作を可能とする構造である。
【0043】
追込み装置10の軸方向駆動機構DDは、前述の把持固定機構AAの機能により、加工対象の棒形状長尺部材7の軸と平行な配置にあるため、棒形状長尺部材7の径方向の加工を、棒形状長尺部材7の軸方向に一定の深さで継続することが可能である。
【0044】
図5及び図6にて説明した追込み装置10の径方向駆動機構CC及び軸方向駆動機構DDにより、図2にて説明したように、最初に加工対象の棒形状長尺部材7径方向を加工軸とした追込み加工を行い、次に、径方向の追込み深さを維持したまま、加工軸を棒形状長尺部材7の軸方向に切り替え、棒形状長尺部材7径方向の加工を、棒形状長尺部材7の軸方向に継続することで、連続的な加工面を形成することが可能である。
【0045】
次に、図3に戻り、図4〜図6にて説明した機構を用い、連続的かつ均一な加工面の形成が可能である加工方向について説明する。
【0046】
まず、把持固定機構AAにより、加工対象の棒形状長尺部材7を把持し、追込み装置10を棒形状長尺部材7の軸に対し平行に固定し、加工の基準だしを行う。
【0047】
次に、放電加工用電極24を回転駆動により連続的に回転させ、前後軸を加工軸とし、棒形状長尺部材7径方向の追込み加工を行う。
【0048】
棒形状長尺部材7径方向の追込み加工を所定の深さまで実施した後、前後軸の加工位置を保持したまま、加工軸を上下軸に切り替え、棒形状長尺部材7の軸方向に径方向の追込みを継続する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、上述の様な加工方法および加工装置により、棒形状長尺部材7の長手方向の追込み補修を遠隔・水中で施工する場合においても、段差のない連続的かつ均一な加工面を形成することが可能である。
【0050】
また、把持固定機構AAの機能により、装置の設定と同時に加工基準の位置だしが可能であり、放電加工用電極24の回転機構BBの機能により、放電加工用電極24の消耗を抑え放電加工用電極24の交換、再設定の回数を最小限にすることが可能であるため作業の一部に簡略化を図れる。従って、ヒューマンエラーの低減や、工程の短縮が行える。
【0051】
次に、図5及び図6を用いて、本実施形態による追込み装置において、装置設備を加工対象の棒形状長尺部材7に把持固定する機構部と、放電加工用電極24を搭載した放電加工用の機構部とに装置設備の機能を分割し、各々を個別に遠隔で分離および再取付け可能な構造について説明する。
【0052】
図6は、受け台11の構成を示している。受け台11は、前述の装置設備を加工対象の棒形状長尺部材7に把持固定する機構部であり、把持固定機構AAと、上下軸(LMガイド18)と、この上下軸の駆動により上下昇降するテーブル28とを有する。
【0053】
受け台11は、加工対象の棒形状長尺部材7に対し、自身の姿勢が平行になるよう設定される必要がある。そのため、把持固定機構AAは、図4にて説明した構成を有しており、棒形状長尺部材7の長手方向の加工範囲を挟む2点を把持固定することにより、棒形状長尺部材7の軸に対し、受け台11を平行かつ安定的に設定することが可能である。
【0054】
図5は、EDM(Electrical Discharge Machining:放電加工)アクチュエータ12の構成例を示している。
【0055】
EDMアクチュエータ12は、放電加工用電極24を搭載した放電加工用の機構部であり、放電加工用電極24の回転機構BBと前後軸(LMガイド21)を有する。
【0056】
EDMアクチュエータ12の前後軸は、棒形状長尺部材7径方向の加工をするための駆動機構であり、放電加工用電極24の棒形状長尺部材7の径方向の動作を可能とする構造である。EDMアクチュエータ12の前後軸における位置制御は、前述した受け台11の把持固定機構AAの機能により棒形状長尺部材7の芯を相対的な基準とするため、棒形状長尺部材7の径方向の加工を正確な追込み深さで可能である。
【0057】
受け台11およびEDMアクチュエータ12は、前述の追込み装置10が有する機能に加え、遠隔での組合せを行うための着脱機構を有する。
【0058】
受け台11は、ガイドピン30と、EDMアクチュエータ12を固定するためのボルト穴29とを有する。EDMアクチュエータ12は、ガイドピン挿入穴32と、遠隔ボルトヘッド31とを有する。
【0059】
EDMアクチュエータ12のガイドピン挿入穴32は、これに受け台のガイドピン30を挿入することでEDMアクチュエータ12を位置決めするものである。
【0060】
EDMアクチュエータ12の遠隔ボルトヘッド31は、図1に示したように、これと取合うためのソケットポール6と、これを気中に配置された作業台車4まで延長するための操作ポール5とを用いて、手動で回転させることで、ボルトを締め、または緩めて、遠隔での取付け、または取外し操作が可能である。すなわち、操作ポール5を操作して、ソケットポール6を回転させると、ボルトヘッド31が回転する。ボルトヘッド31が回転すると、ボルトの先端が図示の下方向に突出し、穴29にねじ止めされる。また、ボルトヘッド31を逆に回転させると、穴29からボルトヘッド31が解離される。
【0061】
これにより、放電加工用電極24の消耗時の放電加工用電極24の交換や、放電加工用電極24の回転機構BB、前後軸の故障に伴う、装置の回収、および再投入が、EDMアクチュエータ12の着脱だけで対応可能であり、受け台11を再設定する必要がないため、加工基準を変更することなく作業を継続できる。
【0062】
また、あらかじめ放電加工用電極24を組付けたEDMアクチュエータ12を複数台準備し、放電加工用電極24交換の際にEDMアクチュエータ12ごと交換することで、更なる作業の時間短縮を図ることも可能である。
【0063】
このように、追込み装置10の機能を、受け台11とEDMアクチュエータ12に分割することで、作業の簡略化と作業時間の短縮を図ることができ、ヒューマンエラーの低減や、工程を短縮することができる。
【0064】
次に、図7を用いて、本実施形態による追込み装置に用いる研磨用アクチュエータの構成について説明する。
図7は、本発明の一実施形態による追込み装置に用いる研磨用アクチュエータの構成図である。図7(A)は平面図であり、図7(B)は側面図である。
【0065】
図5に示したEDMアクチュエータ12の替りに、図7に示す、研磨作業の装置設備である研磨用アクチュエータEEを受け台11上に設定することで、EDMアクチュエータ12と同一の基準で研磨ができ、研磨面の位置決め精度の向上及び位置決め作業の効率化が図れる。
【0066】
研磨用アクチュエータEEは、図5に示したEDMアクチュエータ12と同じ遠隔での着脱機構を有し、ガイドピン挿入穴34と、遠隔ボルトヘッド35により構成される。
【0067】
研磨用アクチュエータEEに搭載したブラシ36を交換する場合、研磨用アクチュエータEEを一旦取外し、ブラシ36の交換後に再取り付けしても先の研磨面と同一の基準で研磨が継続可能である。
【0068】
研磨は、ブラシ36の毛の先端を放電加工面に押し付け、これを追込み加工の軸周りに回転させて行う。従って、研磨用アクチュエータEEは、研磨のためのブラシ36と、ブラシ36を回転駆動するためのブラシ回転軸37と、ブラシを放電加工面に押し付けるための前後軸38とを有する。
【0069】
ブラシ回転軸37は、モータ39を駆動源とし、これをプーリー40とタイミングベルト42、プーリー41で連結し、ブラシ36を連続的に回転可能な構造である。ブラシ回転軸37の先端は、雄ネジになっており、ブラシ36をブラシ回転軸37の先端に取り付けて、これをナットで固定する構造であり、ブラシ36の交換作業が容易に可能である。
【0070】
前後軸38は、エアまたは水を駆動源とするシリンダ43の推力により、ブラシ36を放電加工の面に押し付ける構造であり、シリンダ43とLMガイド44により構成される。ブラシ36の加工面への押付け力は、エアまたは水の駆動源の圧力を可変することで調整が可能であり、これにより研磨面の仕上がり具合を調整することが可能である。
【0071】
研磨は、ブラシ36を回転させて行うため、回転中心に研磨できない箇所が生じる。このため、受け台11の上下軸を駆動させることで回転中心を上下方向にずらすことができ、放電加工面全体の研磨が可能である。
【0072】
次に、図8を用いて、本実施形態による追込み装置に用いる寸法測定用アクチュエータの構成について説明する。
図8は、本発明の一実施形態による追込み装置に用いる寸法測定用アクチュエータの構成図である。図8(A)は平面図であり、図8(B)は側面図である。
【0073】
図5に示したEDMアクチュエータ12の替りに、図8に示す、寸法測定用アクチュエータFFを受け台11上に設定することで、EDMアクチュエータ12及び研磨用アクチュエータEEと同一の基準で寸法測定ができ、寸法測定の精度向上が可能である。
【0074】
寸法測定用アクチュエータFFは、図5に示したEDMアクチュエータ12と同じ遠隔での着脱機構を有し、ガイドピン挿入穴46と、遠隔ボルトヘッド47により構成される。
【0075】
寸法測定は、対象の部材を把持することで、把持前後での寸法差から求める。そのため、寸法測定用アクチュエータFFは、対象物を把持するための把持固定機構59と、把持固定機構59を対象物に接近及び位置調整するための前後軸60と左右軸61の駆動機構を有する。
【0076】
把持固定機構59は、対象物の把持及び寸法測定基準となる把持部材48と、エアまたは水を駆動源とするシリンダ49と、シリンダ49が可動した寸法を読み取るためのメジャー50とにより構成される。把持部材48の先端は、位置決め及び寸法測定の基準出しのために対象物と2点で接触する様にL字型の形状になっている。メジャー50は、シリンダ49の駆動に対して固定側に取り付けられており、シリンダ49の可動側に指針51を取り付ける。メジャー50と指針51の位置関係を水中カメラで読み取ることにより、シリンダ49の可動位置が測定できる。
【0077】
これにより、シリンダ49を収縮させた時の把持部材48とシリンダ49の開口寸法と、このときのメジャー50読み値の関係を事前に把握することで、対象物を把持した時のメジャー50の読み値から、対象物の寸法が求められる。また、補修加工による加工寸法が必要な場合は、加工前及び加工後に寸法を測定することで、加工前後での寸法差から加工量を求めることが可能である。
【0078】
次に、把持固定機構59を対象物に接近及び位置調整するための前後軸60と左右軸61について説明する。前後軸60と左右軸61は、直行する軸配置になっており、それぞれ対象物の径方向に把持固定機構59を駆動可能な軸である。前後軸60の駆動機構は、遠隔ボルトヘッド62を操作ポール5とソケットポール6を用いて遠隔手動で回転させることにより、歯車52と台形ネジ53及びLMガイド54を介して把持固定機構AA59を駆動する。左右軸61も前後軸60と同じ機構であり、遠隔ボルトヘッド55を遠隔手動で回転させることで歯車56と台形ネジ57及びLMガイド58を介して把持固定機構59を駆動する。
【0079】
なお、上述の説明では、前後軸60および左右軸61の駆動源を手動にしているが、電動モータなどの他の駆動源を用いてもよいものである。
【0080】
以上、EDMアクチュエータ12の替わりに、受け台11上に研磨用アクチュエータEE及び寸法測定用アクチュエータFFを搭載することで、放電加工による追込み加工と加工面の研磨及び寸法測定の一連の作業が、高い位置決め精度で、かつ効率的な作業で実施が可能である。
【0081】
以上説明したように、本実施形態によれば、長尺部材の追込み加工において、連続的で均一な加工面が得られる。
【0082】
そのため、原子炉内構造物の補修技術向上に貢献でき、これにより適用範囲の拡大が期待でき、しいては原子力発電プラントの長寿命化に寄与できる。
【0083】
また、不連続面が発生しないため、加工面の連続化を目的とした追加加工のステップが不要になるため作業の効率化が可能になり、定期検査期間の短縮に貢献でき、原子力発電プラントの発電効率の向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施形態による棒形状長尺部材の加工装置を用いる原子炉内構造物の保全技術工事の作業環境の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態による棒形状長尺部材の加工装置による追込み加工の概念の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態による棒形状長尺部材の加工装置である追込み装置の全体構成図である。
【図4】本発明の一実施形態による追込み装置の把持固定機構の正面図である。
【図5】本発明の一実施形態による追込み装置の回転機構と径方向駆動機構の構成図である。
【図6】本発明の一実施形態による追込み装置の軸方向駆動機構の構成図である。
【図7】本発明の一実施形態による追込み装置に用いる研磨用アクチュエータの構成図である。
【図8】本発明の一実施形態による追込み装置に用いる寸法測定用アクチュエータの構成図である。
【符号の説明】
【0085】
1…原子炉内構造物
2…原子炉
3…原子炉ウェル
4…作業台車
5…操作ポール
6…ソケットポール
7…棒形状長尺部材
9…放電加工用電極
10…追込み装置
11…受け台
12…EDMアクチュエータ
13…固定クランプ
14…可動クランプ
15,43,49…シリンダ
16,19,22,39…モータ
17,20…ボールネジ
18,21,44,54,58…LMガイド
23,26,40,41…プーリー
24…放電加工用電極
25…タイミングベルト
27…絶縁体
28…テーブル
29…ボルト穴
30…ガイドピン
31,35,47,55,62…遠隔ボルトヘッド
32,46…ガイドピン挿入穴
34…ガイドピン挿入穴
36…ブラシ
37…ブラシ旋回軸
38,60…前後軸
42…タイミングベルト
48…把持部材
50…メジャー
51…指針
52,56…歯車
53,57…台形ネジ
59…把持固定機構
61…左右軸
AA…把持固定機構
BB…回転機構
CC…径方向駆動機構
DD…軸方向駆動機構
EE…研磨用アクチュエータ
FF…寸法測定用アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉内構造物の棒形状長尺部材を、水中遠隔で放電加工により追込み加工する棒形状長尺部材の加工方法であって、
加工対象の前記棒形状長尺部材に装置設備を把持固定することで追込み加工の基準とし、
円柱形状の放電加工用電極を回転駆動させた状態で、前記棒形状長尺部材の径方向の加工を実施し、
その後、前記放電加工用電極により、径方向の加工を軸方向に連続的に継続することを特徴とする棒形状長尺部材の加工方法。
【請求項2】
原子炉内構造物の棒形状長尺部材を、水中遠隔で放電加工により追込み加工する棒形状長尺部材の加工装置であって、
加工対象の前記棒形状長尺部材に装置設備を把持固定することで追込み加工の基準にするための把持固定機構と、
円柱形状の放電加工用電極を連続的に回転駆動させるための回転機構と、
前記棒形状長尺部材の径方向に、前記回転機構により前記円柱形状の放電加工用電極を回転駆動させた状態で、前記回転機構を径方向に移動する径方向駆動機構と、
前記放電加工用電極により、径方向の加工を軸方向に連続的に継続すべく、前記回転機構を前記棒形状長尺部材の軸方向に移動する軸方向駆動機構とを備えることを特徴とする棒形状長尺部材の加工装置。
【請求項3】
請求項2記載の棒形状長尺部材の加工装置において、
加工対象の前記棒形状長尺部材に装置設備を把持固定する把持固定機構部と放電加工用電極を搭載した放電加工用機構部に機能を分割し、
前記把持固定機構部に対して、前記放電加工用機構部を遠隔で分離及び再取付け可能な構成とすることを特徴とする棒形状長尺部材の加工装置。
【請求項4】
請求項3の棒形状長尺部材の加工装置において、
前記把持固定機構部は、前記放電加工用機構部に代えて、放電加工による加工面を研磨する研磨用機構部、若しくは補修加工後の寸法測定用機構部を搭載可能であることを特徴とする棒形状長尺部材の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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