説明

椅子

【課題】点滴用のリクライニング式椅子において、長時間の点滴であっても退屈せず、しかも、容体急変時のベッドの移し替も容易ならしめる。
【手段】椅子は、座1と背もたれ2とレッグレスト4とフットレスト3とを有すしている。背もたれ2及びレッグレスト4は水平状に姿勢まで回動し、かつ、フットレスト3はレッグレスト4の下端に連結されていて、レッグレスト4の跳ね上げ回動によって座1と同じ高さまで上昇する。座1の左右両側にはサイドガード5が着脱自在に配置されている。サイドガード5には幅広のアームレスト13が高さ調節自在に取り付けられており、患者は身体を起こし、例えばテレビを視ながらアームレスト13に腕を載せて点滴を受けることができる。容体急変時のベッドの移し替は、サイドガード5を取り外すことで容易に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、点滴や透析のような病気治療に使用するのに好適な(すなわち医療用として好適な)椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
点滴・透析に使用する医療用椅子の一例として特許文献1がある。この特許文献1の椅子は、座と背もたれとフットレスト(足載せ台)とレッグレスト(すね当て体)、及び、これらを支持するフレーム構造の本体部とを有している。本体部には前輪と後輪とが取り付けられている。
【0003】
背もたれは起倒自在となるようにその下端部が座の後端部に連結されており、レッグレストは座と略同じ高さで水平状の姿勢となるようにその上端部が座の前端部に回動自在に連結されており、更に、フットレストはレッグレストの回動によって高さが変わるようにその後端部がレッグレストの下端部に連結されている。背もたれは第1をアクチェータで回動され、レッグレストは第2のアクチェータで回動される。
【0004】
レッグレストの下端には下向きに延びる第2係合板が固定されており、レッグレストを起こし回動すると第2係合板がフットレストに下方から当たり、これによってフットレストは下方から上昇位置に高さが変わる。
【0005】
点滴は種々の目的で行われており、患者に対する危険性の程度も様々である。栄養補給を目的とした点滴は危険性が低いと言えるが、例えばガン治療の一つとして実施されている高濃度ビタミンC点滴療法のように治療として行われる場合は、点滴中に患者の容体が急変することがあって危険性が高いことが多い。
【0006】
他方、点滴自体は危険な行為ではないため一般に医師や看護士が始終付き添うことはなく、患者は点滴室やロビーのような非治療室においてリラックスした状態で点滴を受けている。そこで、点滴中に患者の容体が急変した場合は、患者を治療室に急送せねばならない。この点、特許文献1の椅子は前後のキャスタが付いているため、背もたれを倒すと共にレッグレストを起こしてストレッチャー化することで患者を治療室に急送することができる利点がある。
【0007】
さて、治療室に搬送された患者は椅子からベッドに移し替られることになるが、特許文献1では座の左右外側にサイドカバーが固定的に配置されているため、患者をベッドに移し替るに際してサイドカバーが邪魔になる。また、特許文献1ではアームレストを後ろに跳ね上げ回動させ得るが、アームレストははね上げた状態で座や寝かせた状態の背もたれの上方に立ち上がっているため、このアームレストも患者の移し替の障害になる。結局、特許文献1では患者を椅子からベッドに移し替る(横移動させる)ことの容易性は考慮されていないと言える。
【0008】
他方、特許文献2は車椅子に関するものであるが、この特許文献2には、座の左右外側に配置したスカートガード(サイドカバー)を着脱式とすることで乗り降りの容易性を図ること、及び、アームレストをスカートガードに高さ調節自在に取り付けることが開示されている。この特許文献2のスカートガードを特許文献に適用すると、ベッドへの患者の移し替が容易になると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実公平3−34179号公報
【特許文献1】特開2001−252310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の椅子は点滴・透析用のものであるが、患者はリクライニング状態で点滴や透析を受けると記載されており、従って、患者は腕を背もたれに載せ、その状態で腕に点滴を受けることになる。このような点滴方法も一つの態様として有り得るが、点滴を受けながらテレビを視たり読書をしたりと言った要望も高く、この場合は、身体を起こしておらねばならず、すると、腕(一の腕)はアームレストに載せることになる。特に、ガン治療として行われ点滴は長時間に及ぶことが多いため(10時間を超える場合もある)、患者が退屈しないように配慮する必要が高いと言えるのであり、このため、アームレストに腕を載せて点滴を受けることの必要性が高いと言える。
【0011】
しかし、特許文献1は患者がアームレストに腕を載せて点滴を受けることは想定しておらず、このため、患者の様々な要望に的確に応え得るとは言い難い。従って、患者に対するユーザーフレンドリー性に欠ける問題があったと言える。なお、特許文献2は車椅子に関するものであるから、当然ながら点滴や透析に関する課題を示唆することはない。
【0012】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、点滴治療に好適なリクライニング方式椅子を改善された形態で提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は幾つかの構成を含んでいる。第1の発明(請求項1の発明)は上位概念を成すものであり、この発明は、前輪及び後輪が取り付けられた本体と、前記本体で支持された座と背もたれとレッグレストとフットレストとを備えており、前記背もたれ及びレッグレストを回動自在で前記フットレストを昇降自在と成すことにより、人を寝かせた姿勢で搬送できるようになっている椅子において、前記座の左右外側に、当該座の上方にはみ出る状態に配置されるサイドガードを着脱自在に配置しており、かつ、前記サイドガードには、着座した人が腕を載せて点滴し得る横幅のアームレストが高さ調節可能に取り付けられている。
【0014】
第2の発明(請求項2)は第1の発明を具体化したものであり、この発明では、前記サイドガードは、人が持ち上げるだけで取り外しできる状態で前記本体又は座に取り付けられている一方、前記アームレストは、人の腕が当たる上面部と前記サイドガードの側面に重なる側板部とを有していて正面視コの字状又は逆L字状の形態になっている。
【0015】
第3の発明(請求項3の発明)は第1又は第2の発明を具体化したもので、この発明では、前記背もたれの左右側部の全体又は大部分は座の左右外側に突出した張り出し部になっており、前記張り出し部の側面は前記サイドガードの左右外側面と略同じ位置に位置している一方、前記前輪と後輪は、前記背もたれにおける張り出し部の側面よりも左右内側に配置されている。
【発明の効果】
【0016】
本願の各発明では、着座した人はアームレストに腕(一の腕)を載せて点滴や透析を受けることができるため、点滴や透析を受けている間、人(患者)は背もたれを好みの角度に保持して身体を起こしておくことができる。従って、人(患者)はテレビをを視たり読書をしたりといったことを行いつつ点滴や透析を受けることができ、このため、高濃度ビタミンC点滴療法のように治療が長時間に及ぶことがある場合であっても、退屈することがなくて(或いは少なくて)ユーザーフレンドリー性が高い。また、アームレストは高さ調節できるため、腕を体格や姿勢に応じた適切な高さに保持して、楽な状態で点滴や透析を受けることができる。
【0017】
また、人(患者)の身体はサイドガードによって左右ずれ落ち不能に保持されいるため、容体が急変した患者を寝かせた状態にして治療室に移動させるにおいて、例えば方向変換するにおいて遠心力で身体が椅子からずれ落ちるようなことはなく、患者を安全な状態で搬送できる。また、サイドガードは着脱自在であるため、患者の治療室でベッドに移し替るにおいては、サイドガードを取り外すことで患者の身体をベッドに簡単に横移動させることができる。
【0018】
アームレストは、例えば板状に形成して、その左右中間部から足が延びている形態となすことも可能であるが、第2の発明のように正面視でコの字状又は逆L字状に形成すると、側板部がサイドガードの側面に当たることで安定性を向上できる利点がある。特に、コの字状に形成すると、左右の側板部でサイドガードが挟まれるため安定性が一層優れている。
【0019】
さて、容体が急変した患者を寝かせた状態にして治療室に搬送してからベッドに移し替る場合、患者の安全を図るため椅子をベッドにできるだけ寄せて(好ましくは密着させて)、それからサイドガードを取り外し、次いで、何人かで患者の胴体や頭や足を直接に持ち上げたりシーツを介して持ち上げたりして横移動させることになる。
【0020】
この場合、仮に特許文献1に着脱式のサイドガードを適用すると、サイドガードがベッドに近接する状態に椅子を寄せ、それからサイドガードを取り外して患者をベッドに横移動させることになるが、特許文献1では背もたれの横幅は座の横幅の同じであるため、サイドガードをベッドに近接させた状態で背もたれとベッドとの間にはサイドガードの厚さ寸法と同じ程度の間隔が空いており、このため、背もたれとベッドとの間に間隔を開けた状態のままで患者を横移動させねばならず、すると、患者の安定性が低くなる虞がある。
【0021】
これに対して本願の第3の発明を採用すると、サイドガードをベッドに近接又は密着させると背もたれの張り出し部もベッドに近接又は密着するため、サイドガードを取り外した後においても背もたれはその前部又は大部分をベッドに近接又は密着させておくことができるのであり、その結果、患者を安全な状態でベッドに移し替ることができる。更に補足すると、身体を横移動させる場合に最も重要なのは患者の胴体と頭とを安定させておくことであり、胴体が安定していると脚は軽い力で移動させ得るのであるが、背もたれを水平状に倒すと胴体の大部分と頭は背もたれで支持されるため、背もたれをベッドに近接又は密着させることにより、患者を安全に横移動させることができるのである。
【0022】
また、前輪と後輪は背もたれにおける張り出し部の左右内側に位置しているため、車輪がベッドの足に当たって背もたれをベッドに近接又は密着させることができないといった不具合も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の椅子を前から見た斜視図である。
【図2】(A)は実施形態の椅子を後ろから見た斜視図、(B)はベッドに寄せた状態での部分的な平面図である。
【図3】実施形態の椅子をベッド状に伸ばした状態での分離斜視図である。
【図4】本体の斜視図である。
【図5】側断面図である。
【図6】ベッド状に伸ばした状態での側断面図であり、(A)は前部を除いた部分の図、(B)は前部の図である。
【図7】(A)は概略分離平面図、(B)は(A)のB−B視断面図、(C)は(A)のC−C視断面図、(D)は(C)と同じ箇所の別例図、(E)は(A)のE−E視断面図である。
【図8】(A)は本体と背もたれとの関係を示す概略分離平面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【図9】サイドパネルを分離した状態での一部破断側面図である。
【図10】(A)は図9の XA-XA視断面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【図11】(A)は肘当ての高さ調節機構を示し縦断正面図、(B)は(A)のB−B視図、(C)は(A)のC−C視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は病院で点滴療法を施療するのに好適な医療用椅子に適用している。
【0025】
(1).椅子の概略
例えば図1〜図3に示すように、椅子は、人が腰掛ける座1、着座した人がもたれ掛かる背もたれ2、着座した人が足を載せるフットレスト3、着座した人のふくらはぎが当たり得るレッグレスト4、座1の左右両側に配置されたサイドガード5、左右の前輪(前キャスタ)6と左右の後輪(後キャスタ)7とを備えている。サイドガード5は、はサイドサポート又はサイドパネル5と呼ぶことも可能である。前輪6と後輪7とのうちいずれか一方又は両方にはロック機構を備えている。サイドガード5の下には、当該サイドガード5が載る(又は密接する)ベースパネル8を配置している。ベースパネル8は左右に一連に広がる形態になっている。
【0026】
詳しい機構は後述するが、図3に示すように、背もたれ2は略水平姿勢まで寝かせることができる一方、レッグレスト4はその上端部を中心にして跳ね上げ回動させることで水平状の姿勢まで起こすことができ、かつ、フットレスト3は着座した人が足を載せる下降位置から座1と略同じ高さの上昇位置まで昇降させることができる。
【0027】
背もたれ2の上部前面にはヘッドレスト(枕)9を配置している。ヘッドレスト9はシート10に固定されており、シート10と背もたれ2とには係脱自在な面ファスナー(図示せず)を設けている。このため、ヘッドレスト9は背もたれ2に対して着脱自在である。背もたれ2の上端面には左右横長のトップ把手11を固定しており、また、背もたれ2の背面のうち上端寄りの箇所には左右横長のバック把手12を固定している。
【0028】
椅子はかなりの重量があるが、図1,2のように背もたれ2を起こした姿勢ではバック把手12に手を掛けることで簡単に引き移動させることができ、また、図3のように背もたれ2を寝かせて寝台車状(或いはストレッチャー状)と成した状態ではトップ把手11に手を掛けることで容易に引き移動させることができる。なお、把手11,12は例えばT型等の他の形態を採用することも可能であり、また、左右2個ずつ配置することも可能である。
【0029】
サイドガード5の上端は座1よりも高い高さになっており、このため着座した人が座1の左右外側にずり落ちることを防止できる。また、サイドガード5には、着座した人が一の腕を安定した状態で載せ得るアームレスト(肘当て)13を取り付けている。アームレスト13は、着座した人の腕が載る上面部13aとサイドパネル5の内側面に重なる内側板部13bとサイドパネル5の外側面に重なる外側板部13cとを有しており、このため正面視で下向き開口コの字状の形態になっており、サイドガード5に上から被さる状態で嵌まっている。
【0030】
図3に示すように、左右のサイドガード5は取り外すことができる。このため、患者をベッドBに移し替ることが容易に行える。アームレスト13は、サイドガード5に対して段階的又は無段階的に高さ調節できるように取り付けられている。
【0031】
背もたれ2の左右側部は、その下部を除いて座1の左右外側に突出した張り出し部2aになっており、左右張り出し部2aの箇所の左右横幅は左右サイドガード5の外面間の間隔と略同じ寸法に設定している。背もたれ2の下端部は張り出し部2aが存在せず、座1と略同じ左右横幅に設定されている。背もたれ2の全高にわたって張り出し部2aを形成していないのは、サイドガード5が座1の後ろまで延びていることから(図5参照)、サイドパネル5との緩衝を回避するためである。サイドガード5が座1の後ろに延びていない場合は、背もたれ2の左右側部はその全高にわたって張り出し部2aと成し得る。
【0032】
図2に示すように、背もたれ2の背面のうち下部には後ろ向きに突出したバックカバー14を取り付けている(その意義は後述する。)。椅子は、付属品として輸液バッグの吊り下げ用支柱15を備えている。
【0033】
(2).本体の構造
椅子は、基幹要素として図4に明瞭に示す本体17を備えている(本体は、本体部又は木枠部と呼ぶことも可能である。)。次に、この本体17を主として図4に基づいて説明する。本体17は、その下部を構成する前後長手の左右下部サイドフレーム18、下部サイドフレーム18の前端に溶接で固着された側面視L形の前フレーム19、左右下部サイドフレーム18をその前部において連結する前部下ステー20、左右下部サイドフレーム18を前後中間位置よりも僅かに手前の部位で連結する後部下ステー21を有している。
【0034】
左右下部サイドフレーム18の内側部には後部下ステー21の後ろに近接した状態でリア支柱22が固着されており、リア支柱22の上端とフロントフレーム19の上端とは前後長手の上部上部サイドフレーム23で連結されており、更に、左右の上部上部サイドフレーム23の前部は金属板より成る左右横長の前部支持体24で連結され、左右の上部上部サイドフレーム23の後部は左右横長の後部支持体25で連結されている。敢えて述べるまでもないが、本体部は板金製とするなど様々の構造を採用できる。
【0035】
下部サイドフレーム18の略前半部と上部サイドフレーム23、各ステー20,21フロントフレーム19の後部起立部、リア支柱22、前後の支持板24,25の各部材によって略直方体状のフレーム構造体を成しており、このフレーム構造体で請求項に記載した基部26が構成されている。フロントフレーム19は下部サイドフレーム18よりも下方において手前に向けて延びる前向き部19aを有しており、この前向き部19aの前部に前輪6を水平旋回自在に取り付けている。
【0036】
他方、下部サイドフレーム18は基部26(或いはリア支柱22)よりも後ろに大きく延びる後ろ向き部18aを有しており、この後ろ向き部18aの後端に下向きの足部18bを曲げ形成し、足部18bの下端に後端7を水平旋回自在に取り付けている。
【0037】
例えば図1〜3や図5に示すように、本体17を構成するフロントフレーム18の前向き部19aは座1及びレッグレスト4の前端よりも手前に張り出しており、このため前輪6も座1の手前に位置している。また、後輪7は座1の後ろに大きく張り出した後ろ向き部18aに取り付けており、このため前輪6と後輪7との間隔を大きくとることができ、その結果、椅子の安定性を高くして移動走行も安全に行える。
【0038】
下部サイドフレーム18における後ろ向き部18aの内側部には、輸液バッグ用支柱15を支持する底付きで上下長手の支持筒27が固着されている。支持筒27は背もたれ2の左右外面よりも左右内側に位置しているが、輸液バッグ用支柱15は背もたれ2の左右外側に配置しているのが好ましい。そこで、図2に示すように輸液バッグ用支柱15の下部はクランク状に折り曲げている。
【0039】
左右の上部サイドフレーム23には、サイドガード5の支持部材として、左右外側に張り出すサイドサポート28を固着しており、このサイドサポート28の前後両端に上下開口のサイド支持筒29を固着している(サイドガード5の取り付け構造は後述する。)。本体17を構成する部材は鋼材からなっており、下部サイドフレーム18とフロントフレーム19とは丸パイプを使用し、前後ステー20,21とリア支柱22と上部サイドフレーム23とは角パイプを使用している。もちろん、他の形態の材料を使用することも可能である。
【0040】
(3).座等の構造及びリクライニング機構
次に、図5〜8を中心にして座1等の構造とリクライニング機構とを説明する。例えば図5に示すように、座1と背もたれ2とレッグレスト4とフットレスト3とは合板等の基板30,31,32,33にクッション材34を張った構造になっている(敢えて述べるまでもないが、クッション材34はレザーやクロス等の表皮材で覆われている。)。座1の基板30は、本体17における基部26の上面にビス等で固定されている。
【0041】
本体17を構成する後部支持体25の後端部は上向きに起立しており、この起立部の左右両端部には左右開口の第1軸受け筒36が固着されている一方、図5や図8に明示するように、背もたれ2における基板31の下端部裏面には金属板製の第1支持体37が固定されており、第1支持板37の下端を背もたれ2の下端面に重なるように折り曲げ、その折り曲げ部の左右両端部に第1軸受け筒36と直線状に並ぶ第2軸受け筒38を溶接等で固定し、第1軸受け筒36と第2軸受け筒38とに第1支軸39を挿通している。従って、背もたれ2は第1支軸39を中心にして前後に自在に回動し得る。
【0042】
そして、図5や図6に示すように、本体17を構成するフロントステー20に第1ブラケット40を固着している一方、背もたれ2における基板31の下部には後ろ向きに大きく張り出した第2ブラケット41をビス等で固定し、第1ブラケット40と第2ブラケット41とに、アクチェータの一例としての第1電動シリンダ42がピンで相対回動自在に連結されている。第1電動シリンダ42はモータ43を備えており、モータ43を正逆回転させるとロッド42aが前後動し、その結果、背もたれ2を起立姿勢から水平状に寝た姿勢まで任意の角度に傾動(回動)させることができる。
【0043】
背もたれ2に固定した第2ブラケット41はバックカバー14で覆われている。このため安全性が確保されている。図5,6に示すように、ベースパネル8は板材で中空状に形成されている。椅子は背もたれ2を起こした状態で移動させることもあるが、この場合、ベースパネル8の後端に足を当てて押すことも可能である。
【0044】
(4).レッグレスト及びフットレスト駆動機構
本体17を構成する前部支持体24の前半部は斜め上向きの傾斜部24aになっており、傾斜部24aの左右両端部に、左右に開口した第3軸受け筒44が溶接等で固着されて(或いは曲げ形成されて)いる一方、レッグレスト4における基板32の上端部には支持金属板製の第2支持体45がビス止め等で固定されており、第2支持体45に前部支持体24の傾斜部に下方から重なる傾斜部45aを曲げ形成し、傾斜部45aの左右両端部に、第3軸受け筒44と一直線に並ぶ第4軸受け筒46を溶接等で固着し、第3軸受け筒44と第4軸受け筒46とに第2支軸47を挿通している。従って、レッグレスト4は第2支軸47を中心にして回動し得る。
【0045】
図5に明示するように、前部支持体24の傾斜部24aと第2支持体45の傾斜部45aとは側面視で水平に対して略45度程度の角度になっている。また、座1及びレッグレスト4とも、支持体24,45における傾斜部24a,45aの先端よりも先の部分はクッション34のみからなっている。このため、レッグレスト4はクッション34を圧縮変形させることで図6のように水平状の姿勢に回動し得る。
【0046】
レッグレスト4の回動は、アクチェータの一例としての第2電動シリンダ49で行われ。図4,5,7等に示すように、第2電動シリンダ49は、後部ステー25に溶接等で設けた第3ブラケット50と第2支持体45に設けた第4ブラケット51とにピンで相対回動自在に連結されている。第4ブラケット51は、図7(C)に示すように第2支持板45に切り起こしによって形成することも可能であるし、図7(D)に示すように別体の部材にとすることもできる。
【0047】
図7(A)に示すように、第2電動シリンダ49もモータ52を有しており、モータ52を正逆回転させてロッド49aを前後動させることでレッグレスト4を下向き姿勢から水平状姿勢まで任意の回動角度に回動させることができる。そして、第1電動シリンダ42と第2電動シリンダ49とは椅子の縦長中心線を挟んだ左右両側に振り分けて配置している。この場合、両電動シリンダ42,49のモータ43,52を互いに逆向きに突出させることにより、両電動シリンダ42,49をでるだけ近接させている。その結果、重量が重い電動シリンダ42,49を椅子の左右中間部に寄せることができて、椅子の安定性を向上できる。
【0048】
レッグレスト4における基板32の下端部には鋼板より成る第3支持板53がビス等で固定されており、この第3支持体53にレッグレスト4の下端面に向けて45°程度で傾斜した傾斜部53aを曲げ形成し、傾斜部53aの左右両端部に左右開口の第5軸受け筒54を溶接等で設けている。一方、フットレスト3における基板33には鋼板製の第4支持体55を固定しており、第4支持体55の左右両端部に、第5軸受け筒54と一直線に並ぶ第6軸受け筒56を設けて、第5軸受け筒54と第6軸受け筒56とに第3支軸57を挿通している。従って、フットレスト3とレッグレスト4とは第3支軸57を中心にして相対回動し得る。
【0049】
既述のようにレッグレスト4は第2電動シリンダ49で駆動されるが、フットレスト3はレッグレスト4に連動して昇降する。この連動は図5〜図7に示すリンク58を介して行われる。リンク58の後端は図7(A)(B)に示す第5ブラケット59にピンで回動自在に連結されており、リンク58の後端は図5や図7(A)(E)に示す第6ブラケット60にピンで回動自在に連結されている。第5ブラケット59は前部支持体24の下面に溶接で固着されており、第6ブラケット60はフットレスト3の第3支持体53に固定されている。
【0050】
フットレスト3はレッグレスト4よりも薄くなっている。このため、図6(B)に示すように、フットレスト3を上昇させ切った状態では、フットレスト3の下面はレッグレスト4の下面よりも上に位置している。また、フットレスト3はは下降させ切った状態でその後端がレッグレスト4の後端面よりも手前に位置している。そこで、リンク58が略鉛直姿勢から水平姿勢まで回動することを可能ならしめるため、第6ブラケット60はフットレスト3の下方に大きく突出すると共に後方に大きく張り出す形態にしている。図5から理解できるように、フットレスト3は下降させ切った状態でフロントフレーム19の前向き部19aで支持されている。
【0051】
(5).サイドガードの着脱構造・アームレストの高さ調節機構
次に、サイドガード5の着脱機構とアームレスト13の上下高さ調節機構とを主として図9〜図11に基づいて説明する。既述のようにサイドガード5は本体17に設けたサイドサポート28で支持される。そこで、図9や図11(図3も参照)に示すように、サイドガード5の内面部にはサイドサポート28に上方から嵌まる側面視四角形の切欠き部65を形成している。
【0052】
図1に示すように、サイドガード5は大まかには内外の芯板66,67の外面にクッション68を張った構造になっており、内芯板66とこれに張ったクッション68とを切除することで切欠き部65を形成している。内外の芯板66,67はスペーサ69で間隔が保持されている。そして、内外の芯板66,67で形成された空間のうち切欠き部65の上方部に上向き開口コの字形のスペーサブラケット70を固定し、このスペーサブラケット70に、サイドサポート28のサイド支持筒29に嵌まる支持ピン71を固定している。
【0053】
従って、支持ピン90をサイド支持筒29に抜き差しすることにより、サイドガード5を本体17に着脱することができる。サイドガード5は座1の基板30に取り付けることも可能である。支持ピン71をサイドサポート28に設けて、支持筒29をサイドガード5に設けることも可能である。また、他の着脱機構を採用することも可能である。
【0054】
図11(A)に示すように、アームレスト13は下向き開口コの字形の芯材13′にクッション13″を外側から張った断面構造になっている。アームレスト13の内側部13bは座1との関係で高さは規制されるが、外側部13bの高さは座1で規制されることはない。このため外側部を内側部より下方に長く延びるように大きな高さに設定している。このため、アームレスト13は高さを高くした状態であっても高い安定性が確保される。支持ピン71は上向きに大きく延びている一方、アームレスト13の芯材13′には支持ピン71に嵌まるガイド筒74を固定している。このためアームレスト13をスムースに上下動させることができる。
【0055】
図11に示すように、アームレスト13における芯材13′の前後中間部には下向きに長く延びるロッド75を設けており、ロッド75の下端部に、高さ調節機構を構成する左右一対のラチェット爪72が取り付けられている。ラチェット爪72は板ばね製又は樹脂製であり、サイドガード5におけるスペーサブラケット70の内側面に向けて正面視で斜め下向きに延びている。また、左右のラチェット爪72はロッド75に貫通した左右長手のスライド軸76に固定されており、かつ、スライド軸76はロッド75に設けた前後ガイド穴77に前後スライド自在に嵌まっている。
【0056】
そして、スペーサブラケット70には、ラチェット爪72が上昇動する係合溝78とラチェット爪72が下降動する逃がし溝79が隣り合わせて形成されており、係合溝78にはラチェット爪72を下向き動不能に保持する係合穴80が複数段形成されている。また、係合溝78と逃がし溝79とは上下の傾斜溝81を介して繋がっている。スペーサブラケット70のうち傾斜溝81の近傍部には、スライド軸76を案内するガイド溝(図示せず)が形成されており、このガイド溝の作用により、アームレスト13を上昇させ切るとラチェット爪72は係合溝79から逃がし溝79に移行し、アームレスト13を下降させ切るとラチェット爪72は逃がし溝79から係合溝78に移行する。
【0057】
アームレスト13を高さ調節するための機構としては、ハート形カムを利用したワンウエイ方式ラチェット機構など様々の構成を採用できる。また、無段階的に調節可能とすることも可能である。
【0058】
高さ調節機構としてロック解除ボタンをアームレスト13の外面に配置して、解除ボタンを押して高さ調節することも可能である。他方、アームレスト13には点滴のために腕を載せており、このため、アームレスト13がずり下がるような不測の事態は避けるべきであるが、ロック解除ボタンがアームレスト13の外面にあると、誤ってロック解除ボタンを押してアームレスト13が下降してしまう虞がある。これに対して、本実施形態のように持ち上げることのみで高さ調節する構成を採用すると、アームレスト13が意図することなく下降してしまう不測の事態を確実に回避できる利点がある。
【0059】
(6).以上のまとめ・補足
患者は椅子に腰掛けて片方の腕をアームレスト13に載せ、その状態で点滴を受ける。点滴治療は相当の時間が掛かるため、背もたれ2の角度やレッグレスト4の角度、フットレスト3の高さなどを調節することにより、患者は体格や好み等に合わせて安楽な姿勢を確保できる。これらの調節は、図1に簡単に表示しているコントローラ(リモコン)61で行う。図示のコントローラ61は有線方式になっているが、無線方式とすることも可能である。
【0060】
図1,2に示すように、左右サイドガード5の外面には、コントローラ61を係止するフック62が設けられている。また、図2に示すように、背もたれ2の背面部にはコントローラ61の収納ポケット63を設けている。患者の容体が急変して治療室に急送する場合は、コントローラ61は収納ポケット63に収納したら良い。
【0061】
椅子の近くにワゴンやキャッビネットを配置し、これらワゴンやキャビネットにテレビを設けてもよい。左右のサイドガード5で保持テーブルを支持し、補助テーブルを利用して読書や書き物、パソコン操作などを行うことも可能である。これらテレビ鑑賞や読書、パソコン操作などは身体を起こした状態で行うが、点滴は身体を起こして腕をアームレスト13に載せた状態で行われるため、点滴を受けつつテレビ鑑賞等を行える。
【0062】
例えば図1に示すように、サイドガード5の前上部は後傾状(面取り状)にカットされている。このため、乗り降りに際して身体がサイドガード5に当たることを防止できる。また、サイドガード5の後ろ上部も斜めにカットしており、このため、背もたれ2を起こした状態であってもサイドガード5を簡単に取り外すことができる。
【0063】
患者の容体が急変したら、背もたれ2を倒すと共にレッグレスト4の起こしとフットレスト3の上昇とを行って、治療室に移動(搬送)することになる。その場合、左右のサイドガード5が存在するため、廊下を曲がるに際して患者に遠心力が働いても、患者が椅子から落ちることはない。
【0064】
また、背もたれ2を倒して患者を寝かせた状態にした場合、両腕は背もたれ2の左右両側部に載るが、背もたれ2は張り出し部2aを有しているため、腕が背もたれ2の外側で垂れ下がることを防止できる。また、図2(B)に示すように、背もたれ2の張り出し部2aをベッドBに近接させておけるため、サイドガード5を取り外してから患者をベッドBに移行させることを安全に行える。サイドガード5は、ロック解除のような操作を行うことなく上に引くだけで取り外すことできる。このため緊急対応性に優れている。
【0065】
さて、サイドガード5は、着座した人の身体が内側から当たることにより、外側に倒すようなモーメントが掛かることがある。この場合、サイドガード5の下端が本体に取り付けられていると、サイドガード5に作用するモーメントも大きくなって、取り付け部が破損しやすくなる。特許文献2ではスカートガードはその下端が本体に取り付けられているため、内側から掛かった荷重によって破損・変形しやすいと言える。
【0066】
他方、本実施形態では、サイドガード5は上部サイドフレーム23に設けたサイドサポート28で支持されているが、図2に明示するように、サイドガード5の下端は上部サイドフレーム23よりもかなり下方に位置しているため、サイドガード5はその上下中途部の位置がサイドサポート28のサイド支持筒29に取り付けられており、従って、着座した人の体圧がサイドガード5に内側から作用しても、サイドガード5の下端部がリア支柱22に当たる(突っ張る)ことにより、過大なモーメントが掛かることを防止できる。その結果、支持ピン71やサイド支持筒29は過度に大きくすることなく破損変形を防止できる。
【0067】
また、本実施形態のようにサイドガード5における切欠き部65の内部に支持ピン71を設けると、支持ピン71はサイドガード5でカバーされた状態になっているため、本体17から取り外したサイドガード5の外側に支持ピン71が突出することはなく、このためサイドガード5を取り外した後に支持ピン71に身体が触れるといったことはなくて安全である。
【0068】
(7).その他
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、アームレストの長さや平面視形状は腕の支持機能を損なわない範囲で任意に変更できるのであり、座の前後長さと略同じ程度の長さに設定したり、上面を上向き凹状に湾曲させたりすることも可能である。背もたれを上下2つの部材で構成して、2つの部材を屈曲可能に連結することも可能である。アームレストは後傾させたり前傾させたり側面視姿勢を変更可能に構成することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 座
2 背もたれ
3 フットレスト
4 レッグレスト
5 サイドガード
6 前輪
7 後輪
8 ベースパネル
13 アームレスト
13a アームレストの上面部
13b アームレストの内側部
13b アームレストの外側部
17 本体
28 サイドガードの支持部の一例としてのサイドサポート部
29 サイド支持筒
71 支持ピン
72 高さ調節機構を構成するラチェット爪
75 高さ調節機構を構成するロッド
78 係合溝
79 逃がし溝
80 係合穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪が取り付けられた本体と、前記本体で支持された座と背もたれとレッグレストとフットレストとを備えており、前記背もたれ及びレッグレストを回動自在で前記フットレストを昇降自在と成すことにより、人を寝かせた姿勢で搬送できるようになっている椅子であって、
前記座の左右外側に、当該座の上方にはみ出る状態に配置されるサイドガードを着脱自在に配置しており、かつ、前記サイドガードには、着座した人が腕を載せて点滴し得る横幅のアームレストが高さ調節可能に取り付けられている、
椅子。
【請求項2】
前記サイドガードは、人が持ち上げるだけで取り外しできる状態で前記本体又は座に取り付けられている一方、前記アームレストは、人の腕が当たる上面部と前記サイドガードの側面に重なる側板部とを有していて正面視コの字状又は逆L字状の形態になっている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記背もたれの左右側部の全体又は大部分は座の左右外側に突出した張り出し部になっており、前記張り出し部の側面は前記サイドガードの左右外側面と略同じ位置に位置している一方、前記前輪と後輪は、前記背もたれにおける張り出し部の側面よりも左右内側に配置されている、
請求項1又は2に記載した椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−227388(P2010−227388A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79908(P2009−79908)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】