説明

植栽具および壁面緑化植栽装置

【課題】比較的簡易な構成により製造コストを低減し、かつ、灌水の循環制御および温度管理により植物の維持管理の省力化および自動化を可能にする壁面緑化植栽装置並びにこれに使用する植栽具を提供する。
【解決手段】壁面緑化植栽装置は、植物鉢を並列に設置させるための植栽具10、灌水のための水を供給する灌水制御部20、肥料の供給のための肥料管理部30、水温等を制御及び管理するための根圏環境制御部40とから構成されている。灌水タンク21内の水は、植栽具10の中空部内に供給されて、一定の水量が貯留されると、他の植栽具10内に供給され、再び灌水タンク21に戻って循環される構成となっている。また、灌水タンク21には、肥料管理部30、温度管理部42が併設されており、肥料の供給、水温の制御及び管理を行っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の垂直壁面および傾斜する屋根面に植物を植栽するための装置並びにこれに使用する植栽具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、都市部における建物の緑化が要請されている。その理由としては、輻射熱等の低減による空調負荷の軽減のためや、景観の創出あるいは、大気中の二酸化酸素軽減を目的とすることである。すでに、水平面を有する屋上の緑化については、様々な方法で実施されている。他方、既存の建物の壁面においては垂直な面が多く、水平な屋上の緑化に見られるような栽培床を形成して植物を植える方法は採用し難いことがある。そのため、壁面を緑化する方法として、ハンガーバスケットタイプの吊下構造を有している鉢に植物を植え、既存の手すりまたは窓周辺にパイプ等を取り付け、そのパイプに鉢を吊下させる方法がある。この方法では植物に定期的な灌水又は肥料を供給する必要がある。このとき、植物を植えた鉢の培地の中に、予め肥料を供給しておくこともできるが、灌水作業は必要となる。また、植物を美しく維持するためには、曇天日には灌水を少なく、晴天日には灌水を多くするといった水量の管理や植物に応じた追肥の管理が必要になってくる。
【0003】
上記問題を解決するために案出された技術としては、有底の容器の上側に植栽部、下側に貯水部が設けられ、貯水部の下部から植栽部の上部にまで連続する吸水材が設けられている植物の育成装置がある(特許文献1)。この装置は吸水材が貯水部の水を吸い上げて、植栽部の土に万遍なく給水して植物を生育させるものである。植物に灌水させる際には、植栽部へ水を給水することにより、余分な水は貯水部に貯留させておくことができる。しかしながら、上記技術では、貯水部の水が減少した場合には、植栽部へ水を給水しなければならず、灌水作業を完全に不要とすることは出来ないものであった。
【0004】
そこで、灌水作業を不要とするための技術として、特開2002−153132号公報に記載される技術がある。これは上端を開口した略筒状の水容器におけるこの開口上端には支持容器を嵌着し、この支持容器における少なくとも底部は植物の根を貫通させ得るようになし、この支持容器内には底部上にヤシ繊維を収納し、このヤシ繊維上に土を収納し、この土には植物を植栽し、水容器には、雨水注入管を導入すると共にこの水容器内における支持容器の底部よりも高い位置よりオーバーフロー管を導出し、水容器内には、根腐れ防止剤を収納してなる建築物緑化ユニットがある(特許文献2)。
【0005】
また、建物の壁面に所定間隔で支持体を一体的に所定長さ延設し、一方、植栽具のプラスチックの断面方形のパレットの底壁に水槽を形成しその上部に空間を介しグリッドを設け、水槽に下方に向けて灌水パイプを一体的に形成し、グリッドには細径の灌水パイプを挿入し土壌に播種をするか、所定の植物の苗木を植生した状態で設定量収納充填し、これらの植栽具を相互に所定の間隙を介し支持体に載置させて壁面に添設させ灌水パイプで給水するようにし、上から下にかけて全てのパレットに灌水させ余剰水は最下段のパレットの灌水パイプから排水させ、生長する植物は上下左右の各パレットの間隙から側方、上方に立体的に繁茂し植栽される建物壁面植栽方法および植栽具がある(特許文献3)。
【0006】
さらに、水平レベルを維持した複数の保水樋の長さより短くかつ給水限界距離以内に規制した給水分配手段から給水を分配し、同保水樋から毛細管現象を利用した灌水手段によりプランタに灌水することにより、コンパクト化された構成の下で均一に分散した灌水を可能とする緑化システムがある(特許文献4)。
【特許文献1】特開2004−180575号(2頁−3頁、図1)
【特許文献2】特開2002−153132号(2頁−3頁、図1)
【特許文献3】特開平6−253684号(3頁−4頁、図1)
【特許文献4】特開2006−296230号(4頁−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記技術のうち、建築物緑化ユニット(特許文献2)にあっては、雨水のみを利用した灌水方法であるため、雨が長期間降らない場合に雨水タンクに貯留されている水が枯渇し得ることが予想される。
【0008】
また、同技術における水を貯留する容器(特許文献2)は、各植物に対して個々の容器等に対応させており、植栽させる植物が多ければ多いほど、水を貯留する容器等も多数必要になってくる。その結果、建物の壁面に設置させようとすると、多数の水容器等を設置しなければならず、設置のための作業工数、設置費用の増加が見込まれるものであった。この点は植生パレット(特許文献3)についても同様であった。
【0009】
さらに、壁面緑化システム(特許文献4)は、植物に灌水させる一定の水量を保水樋に貯留させることはできるが、この貯留させている水を循環させるシステムにはなっていないため、保水樋内の水が滞留して腐り易いという問題があった。
【0010】
ところで、壁面緑化システムを取り付ける壁面の方位あるいは季節の変化によって、植物を植えたプランタ内の温度は、生育限界を超えて上昇または下降し枯死することもある。例えば、北壁面と南壁面では植物を植えた鉢に当たる光量は大きく異なり、南壁面は北壁面の数倍の光量を受けることとなる。その結果、夏季における南壁面の鉢内の温度は、40℃近くまで上昇し、枯死する植物も発生する場合がある。一方、冬季における北壁面の鉢内の温度は、0℃近くまで下降し、枯死する植物も発生することとなる。このような場合には、日中の温度変化や季節の変化に伴って、水温の変化も大きくなるため、植物の生育に影響が出ることが考えられるが、上記各技術には水温を管理するシステムは有していなかった。
【0011】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、比較的簡易な構成により製造コストを低減し、かつ、灌水の循環制御および温度管理により植物の維持管理の省力化および自動化を可能にする壁面緑化植栽装置並びにこれに使用する植栽具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明は、建物の垂直な壁面および傾斜する屋根面を緑化するための植栽具であって、中空部を有する長尺な両端が閉塞された筒状の植栽部材と、該植栽部材の閉塞された両端に接続されている管状の配管部材とを備え、上記植栽部材には外周壁に植木鉢を挿入させるための貫通孔が単数または複数個所に貫設されていることを特徴とする植栽具を要旨とする。上記構成によれば、植栽部材は中空部を有するため、この中空部に植物を灌水させるための水を貯留させることができる。また、植栽部材には複数の貫通孔が貫設されているため、この貫通孔に植物の鉢を挿入させることで、一定の位置に固定させることができる。その結果、この固定された植物鉢を植栽部材の中空部に貯留されている水の一定の深さに浸水させることで、植物に潅水させることができるため、植物を生育させることが可能となる。
【0013】
また、本発明は、建物の垂直な壁面および傾斜する屋根面を緑化するための植栽装置であって、水平方向に配設される単数または複数の植栽具と、該植栽具と配管部材で連結されている灌水制御部とを備え、上記植栽具は、中空部を有する長尺な両端が閉塞された筒状の植栽部材と、該植栽部材の閉塞された両端に接続されている管状の配管部材とを有し、該植栽部材には外周壁に植木鉢を挿入させるための貫通孔が単数または複数個所に貫設されていることを特徴とする壁面緑化植栽装置をも要旨とする。上記構成によれば、植栽具は配管部材により灌水制御部と連結されているため、植栽具内に供給される水量は、常時一定量にさせることができる。また、この供給された水の余剰水を灌水制御部に戻すことで、この水を再び植栽具に供給させることができ、循環させて使用することができるのである。
【0014】
上記発明において、灌水制御部には、肥料を供給するための肥料管理部が配管部材により連結されている灌水制御部とすることができる。上記構成によれば、灌水制御部に肥料管理部が連結されていることで、植物に灌水させると同時に肥料をも供給させることができる。
【0015】
また、上記各発明において、灌水制御部には、上記植栽具内部の水温を管理するための温度管理部が備えられている灌水制御部とすることができる。上記構成によれば、灌水制御部に温度管理部が備えられることで、日中の温度変化や季節の変化による温度変化にも対応することができ、植物の生育において温度の影響を軽減させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、植栽装置における植栽具に植木鉢を複数個所に配設させる構成とすることで、多数の植栽具は必要にならないため、構成部材の部品数の低減により、製造コストおよび設置費用等のコスト低減ができる。また、この植栽具に灌水制御部を連結させて自動制御とすることで、植物への水の供給および水の循環に関して植物の維持管理の省力化を図ることができるのである。さらに、灌水制御部に温度管理部を設置することで、季節の変化による水温の変動にも対応することが可能となるため、植物の生育において温度の影響を軽減させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の概略は、図1において示すように、壁面緑化植栽装置は、植栽具10、灌水制御部20、肥料管理部30および根圏環境制御部40から構成されている。植栽具10は、灌水制御部20に連結されており、灌水制御部20には、肥料を供給するための肥料管理部30が設置されており、根圏環境制御部40は、灌水制御部20および植栽具10内に設置されている。
【0018】
ここで、壁面緑化植栽装置の主要部分である植栽具の実施形態について説明する。
【0019】
植栽具10は、図2に示すように、植物が植えられている鉢を並列に設置させるための部材で、植栽部材11およびこれに接合される配管部材12で構成されている。植栽部材11は長尺な円筒状に形成され、円筒内部には中空部が設けられている。この植栽部材の両側端面には、植栽部材の直径よりも小径である筒状の配管部材12が接合されており、端面のほぼ中心に位置するように配設されている。このとき、植栽部材11の両側端面のうち、配管部材12が接合されている部分以外の個所は、密閉状態になっており、上記中空部に灌水のための水が貯留できるようになっている。一方、配管部材12が接合されている部分は、この配管部材12の内部が植栽部材11の中空部と連通して、外部との水の出入りが可能な構造になっている。この植栽具10における植栽部材11の外周壁面上には、植物の定植口となる貫通孔13が複数個所に貫設されており、この貫通孔13に植物の鉢を挿入して配設できるようになっている。植栽具10の材質は、耐久性があればプラスチック、金属等の材質は問わないが、軽量化を図るためにはプラスチックが好ましい。
【0020】
そして、上記植栽具10に灌水制御部20を付加することにより、植栽装置が構成されるのである。ここで、灌水制御部20は、植栽具10に灌水させるための水量を調整する部分であり、灌水タンク21、灌水ポンプ22およびこれらを連結させる配管部材23とから構成されている。灌水タンク21は配管部材23と連結されて、灌水ポンプ22により植栽具10に水を供給することができる。
【0021】
上記のように、植栽装置における植栽具10は、建物の壁面に対して並列に設置されるものであるから、壁面が垂直の場合には、植栽具10は鉛直方向(天地方向)に並列に設置されることとなる。この植栽具10は、設置される壁面の面積によって、植栽部材11の長さや数量を適宜変更して取り付けられるようになっている。植栽部材11は、長尺な円筒状に形成されており、水を枯渇状態にさせないためには、円筒内部の中空部に一定の水量を常時貯留させておく必要がある。そのため、植栽部材11は地上に対して傾きが水平になるように配設されている。
【0022】
植栽具10への水の供給は、灌水タンク21内に貯留されている水を灌水ポンプ22により、植栽具10へ送水することにより行われる。灌水タンク21に貯留されている水は、灌水ポンプ22により灌水タンク21に連結されている配管部材23の内部を通過し、建物の上方に運ばれて、最上部に設置された植栽具10に供給される。供給された水は、植栽部材11内部の中空部に貯留されて、一定量が貯留された後は、連結されている他の植栽具10に水が供給され、下部に配設されている植栽具10に水が順次供給されることとなる。
【0023】
このとき、植栽具10内部に貯留される水量は、植栽部材11の形状および長さによって増減するものであるが、植栽部材11の形状が円筒状の場合には、この円筒の径の大きさによって決定する。即ち、植栽部材11の外径より配管部材12の外径は小さく形成されているため、植栽部材11の内径下部は、配管部材12の内径下部より低く位置することになる。これにより、植栽具10内に水が供給されると、この内部の水は、配管部材12に到達するときは当該配管部材12から流することとなり、その結果、水面が内径下部の位置で流出が停止するまでの水量を確保できるのである。なお、この植栽具10内部に供給される水量は、植栽部材11の内径下部と配管部材の内径下部との高低差によって決定し、この差が供給される水の深さとなるのである(図3(a)参照)。そして、最下部の植栽具10に供給された余剰水は、灌水タンク21に流入されて、配管部材23を通って再び灌水ポンプ22により、上方の植栽具10に供給されることとなり、供給される水を循環させて使用することができるのである。灌水タンク21内の水位は、タンク内に設置された水位センサー24により監視され、タンク内の水が減少したときは、水道水または雨水を溜めているタンクから自動的に水が供給される構造となっている。なお、灌水タンク21や灌水ポンプ22は、配設される植栽具10の長さや数量、大きさによって適宜選択することができる。
【0024】
このように設置された植栽具10の外周壁面上には、既述のとおり、植物の定植口となる貫通孔13が複数個所に貫設されているのであるから、この貫通孔13に植物が植えられている鉢14を挿入することで、植栽部材11の中空部に貯留されている水に鉢14の底面から一定の深さに浸水させることができ、これにより植物の灌水ができるため、植物を生育させることができるのである(図3(a)参照)。
【0025】
次に、肥料管理部30を備えた実施形態について説明する。肥料管理部30は、灌水タンク21に肥料を供給するための部分で、肥料タンク31、肥料供給ポンプ32および配管部材33とから構成されている。肥料タンク31には、肥料の原液が貯留されており、この肥料の原液が肥料供給ポンプ32により灌水タンク21に供給される。これにより、灌水タンク21内の水は、肥料成分を含有した水となり、一定の肥料濃度を維持した状態で植栽具10に配設されている植物に供給されるのである。灌水タンク21内には、肥料濃度を一定に維持するために、濃度測定センサー34が取り付けられており、タンク内の肥料濃度が減少すれば、自動的に肥料タンク31の肥料を肥料供給ポンプ32が灌水タンク21に供給し、設定された肥料濃度を維持するのである。
【0026】
次に、上記実施形態にさらに根圏環境制御部40を備えた実施形態について説明する。根圏環境制御部40は、植栽具10内部の温度、水温および灌水タンク21内の水温を制御および管理するための部分で、植栽具10内の空気を冷却する空気冷却部41と灌水タンク21内の水を冷却、加熱する温度管理部42とから構成されている。
【0027】
空気冷却部41は、外部から取り入れた空気を乾燥させるための空気乾燥装置43、乾燥させた空気を各植栽具10に分配するための通気パイプ44、この通気パイプ44に乾燥させた空気を送るための送風装置45、蒸発潜熱の効果を向上させるために最上端の配管部材23に設置した排気ファン46とから構成されている。空気乾燥装置43は、シリカゲル等の乾燥剤または中空糸膜を利用したもののいずれでもよいが、再生処理の必要な乾燥剤よりも再生処理の必要のない中空糸膜を用いることが好ましい。通気パイプ44は、ゴム等に代表される弾力性を有する円筒状のチューブで形成されており、空気乾燥装置43に接続されている。この通気パイプ44は、配管部材内を経由して植栽具10内に貯留されている水中に位置するように配設されている(図3(b)参照)。通気パイプ44の外周面には、水中に位置する範囲において、適宜微細な貫通孔が開いており、乾燥させた空気は、送風装置45により貫通孔から水中に放出される。これにより水が蒸発するため、水の蒸発潜熱により植栽具10内の温度を低下させることができる。また、常に新鮮な空気を植栽具10内の水中に供給させることができるため、植栽されている植物に酸素を供給させることもできる。更に、植栽具10内に貯留されている水を絶えず流動させることができるため、滞留によって水が腐るのを防ぐことができるのである。排気ファン46は、植栽装置における最上部に位置する配管部材に設置されており、植栽具10および配管部材内の滞留した空気を外部に排出させるためのものである。これにより、滞留した空気を外部に排出させると同時に水の蒸発を促進させることができ、通気パイプ44の貫通孔から放出される空気による水の蒸発と合わせて、水の蒸発潜熱により植栽具10内の温度を低下させることができる。
【0028】
温度管理部42においては、夏季の水温上昇、冬季の水温低下に対応させるため、灌水タンク21内の水の冷却と加熱を可能とするものが必要になる。そこで、省電力で効果の高い空気熱源式ヒートポンプを使用することが好ましい。
【0029】
灌水ポンプ22、肥料供給ポンプ32、送風装置45、排気ファン46、ヒートポンプ42の動力源は、一般電力を使用することができるが、太陽光発電または風力発電を使用することもできる。この場合、太陽光発電等のみでは、全ての電力をまかなうことができないことも考えられる。そのため、太陽光発電を主電力にしつつ、一般電力も従電力として使用することができる。
【0030】
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様をとることができる。例えば、植栽具10内の水温の管理において、植栽具10を構成している植栽部材11の外周面に断熱塗料を塗布することで、外気温による水温変化を減らすことができるので、植物を植栽させるのにより良い生育環境を提供することもできるのである。
【0031】
また、植栽装置における植栽具10、灌水制御部20、肥料管理部30、根圏環境制御部40のそれぞれの仕様は、建物の立地条件、壁面の方位、設置規模に応じて決定できるため、容易に植物を最適な環境で生育可能とし、さらに人力作業を不要とし、日常の管理を行うことができるようになる。植栽具10を自由に配置することにより、建物に合わせた景観の設計が可能となる。
【実施例】
【0032】
以下、植栽装置の実施例について説明する。本実施例は、植栽具10として塩化ビニル製の円筒形のパイプを使用した。植栽に用いたパイプの総長は18mで、高さ1mの位置から4mまで3段で設置した。植栽した植物は、アイビーを含め10種類で、プラスチック製のポット(鉢)にハイドロボールを入れて生育させたものである。このとき、パイプ内の水深は、パイプ内径下部から4cmの深さであった。植栽具10内の気温、外気温および灌水タンク21内の水温は、温度センサーで測定し、データロガーを用いて記録した。灌水ポンプ22の動力源は、太陽光発電装置のみからの電力供給で動作させた。実施時期は、6月から3月までの10ヶ月間である。
【0033】
上記の実施例によれば、6月から7月までの時期は、植物の生長も良好であったが、8月になるとパイプ内の気温は最高43℃、水温が35℃に達する日もあり、枯死する植物も発生した。9月後半には、生き残った植物は生長が回復するも、12月から1月の間の早朝には外気温が零下になることもあり、パイプ内の水温も2℃まで低下し、枯死する植物が多くなった。このとき生き残った植物も休眠状態となった。
【0034】
この結果、3月から7月、9月から11月までの期間においては、外気温の変化も少なく、植物の根腐れもなく順調に生育していることから、本発明の壁面緑化植栽装置は、実施可能であることがわかった。また、太陽光発電装置のみからの電力供給で灌水ポンプ22を動作させたので、夜間および雨天時においては全く灌水ポンプ22が運転せず、水が循環しないときもあった。そのため、本発明の壁面緑化植栽装置においては、太陽光発電を主電力にしつつ、一般電力も従電力として使用させることが良いことがわかった。
【0035】
ただし、耐暑および耐寒性の強いアイビー等の種類の植物であっても、1年間通じ最低限生育を行わせ、その景観を良好に保つには、植栽具10内の水温を夏季35℃以下に冬季5℃以上に維持しなければならないことが判明した。そのため、水を冷却、加熱することができるヒートポンプ42を灌水タンク21に設置することにより、夏季および冬季であっても、植物を快適な環境で育成できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態である壁面緑化植栽装置を示す全体図である。
【図2】本発明の実施形態である植栽具を示す斜視図である。
【図3】(a)は植栽具と植木鉢との関係を示す説明図であり、(b)はIIIB−IIIB断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 植栽具
11 植栽部材
12 配管部材
13 貫通孔
14 植木鉢
20 灌水制御部
21 灌水タンク
22 灌水ポンプ
23 配管部材
24 水位センサー
30 肥料管理部
31 肥料タンク
32 肥料供給ポンプ
33 配管部材
34 濃度測定センサー
40 根圏環境制御部
41 空気冷却部
42 温度管理部(ヒートポンプ)
43 空気乾燥装置
44 通気パイプ
45 送風装置
46 排気ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の垂直な壁面および傾斜する屋根面を緑化するための植栽具であって、中空部を有する長尺な両端が閉塞された筒状の植栽部材と、該植栽部材の閉塞された両端に接続されている管状の配管部材とを備え、上記植栽部材には外周壁に植木鉢を挿入させるための貫通孔が単数または複数個所に貫設されていることを特徴とする植栽具。
【請求項2】
建物の垂直な壁面および傾斜する屋根面を緑化するための植栽装置であって、水平方向に配設される単数または複数の植栽具と、該植栽具と配管部材で連結されている灌水制御部とを備え、上記植栽具は、中空部を有する長尺な両端が閉塞された筒状の植栽部材と、該植栽部材の閉塞された両端に接続されている管状の配管部材とを有し、該植栽部材には外周壁に植木鉢を挿入させるための貫通孔が単数または複数個所に貫設されていることを特徴とする壁面緑化植栽装置。
【請求項3】
上記灌水制御部には、肥料を供給するための肥料管理部が配管部材により連結されていることを特徴とする請求項2記載の壁面緑化植栽装置。
【請求項4】
上記灌水制御部には、上記植栽具内部の水温を管理するための温度管理部が備えられていることを特徴とする請求項2または3記載の壁面緑化植栽装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−125048(P2009−125048A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306712(P2007−306712)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(396024439)株式会社プラネット (1)
【Fターム(参考)】