説明

植毛板材からなる建築材料およびその製造方法

【課題】結露を防止し、かつ雨水が建物内に浸入するのを防止する植毛板材からなる建築材料およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】屋根材に使用可能な建築材料1であって、金属製の基材2の一面に短繊維4が植毛加工され、この植毛部5を分断するように、無短繊維部からなる所定幅の水切り部7が、一方向に連続して形成されている。
また、前記水切り部7は、植毛部5を加熱処理手段で加熱しながら基材2の一方向に相対移動させることにより、連続して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や倉庫等のような建造物の屋根に使用可能な植毛板材からなる建築材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場や倉庫等のような大きな空間を持つ建造物には、金属屋根材が多く用いられている。この金属屋根材としては、平板状の屋根用金属板材を適宜成型加工し、結露防止のために、その裏面に断熱性を有するポリエチレンフォーム等からなる裏貼り材を張り合わせたものがある。
【0003】
また、結露を防止する金属板材として、表面処理鋼板の表面に、短繊維からなる静電植毛層が形成された植毛鋼板が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3377765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記ポリエチレンフォーム等からなる裏貼り材は、成形時や施工時に破れや剥離等が発生する場合がある。このような欠損部が生じた場合、その部分より結露が生じ、本来の目的を果たさない欠点がある。
【0005】
前記植毛鋼板は、結露防止ダクトや結露防止パネル等に用いられており、植毛部は、裏貼り材に比し、前記のような不都合は発生し難い。そこで、植毛鋼板を屋根材として使用することも考えられるが、この植毛鋼板は、短繊維の毛細管現象による吸水性を有するため、植毛鋼板の一端側から水を吸水すると、吸水された水は、他端側に容易に進行してしまう。従って、植毛鋼板を屋根材に使用した場合、植毛鋼板の特徴である吸水性のために、例えば、軒先部のような風雨に晒される部位から雨水を吸い上げ、雨水が植毛部を伝って建物内に浸入するおそれがある。
【0006】
本発明は、結露を防止し、かつ雨水が建物内に浸入するのを防止する植毛板材からなる建築材料およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、本発明の植毛板材からなる建築材料は、金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部は分断されていることにある。
【0008】
そして、建築材料の一方側が水を吸収すると、吸収された水は、一方側から他方側に向けて進行しようとするが、植毛部は分断されているので、水の毛細管現象を遮断し、水が他方側に進行するのを防止できる。また、建築材料は、植毛加工されているため、結露を防止できる。
【0009】
本発明の建築材料は、屋根材に使用可能な建築材料であって、金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部を分断するように、無短繊維部からなる所定幅の水切り部が、一方向に連続して形成されていることにある。
【0010】
そして、建築材料の一方側が雨水を吸収すると、吸収された雨水は、一方側から他方側に向けて進行しようとするが、水切り部が雨水の毛細管現象を遮断するため、雨水が水切
り部よりも他方側に進行するのを防止できる。建築材料は、植毛加工されているため、結露を防止できる。仮に、植毛部に欠損部が生じ結露が発生した場合であっても、植毛されている短繊維の毛細管現象による吸水性のため、結露水が金属屋根材から落下するまでには至り難い。
【0011】
本発明の植毛板材からなる建築材料の製造方法は、金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部を加熱処理手段で加熱しながら基材の一方向に相対移動させることにより、無短繊維部からなる所定の幅の水切り部を、連続して形成することにある。なお、加熱処理手段は、植毛部に接触させた場合と、非接触の場合との両方の場合を含む。
【0012】
かかる製造を実施することにより、前記建築材料を容易かつ安価に製造することができる。
【0013】
また、本発明の植毛板材からなる建築材料の製造方法は、金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部を除去することにより、所定幅の無短繊維部からなる水切り部を、一方向に連続して形成することにある。
【0014】
なお、植毛部を除去するとは、機械的に削る等して、吸水性を有しないようにすることをいう。また、基材の一面とは、建築材料を屋根材に使用した際に建物の内側を向く面をいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植毛板材からなる建築材料は、屋根材として最適であり、結露を防止し、軒先等から吸水された雨水が進行して建物内に浸入するのを防止できる。
【0016】
本発明の植毛板材からなる建築材料の製造方法は、前記建築材料を容易かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1および図2は、本発明の一実施の形態の植毛板材からなる建築材料1を示す。この建築材料1として屋根用金属板材を例示する。建築材料1は、基材となる表面処理鋼板2と、この表面処理鋼板2の一面上に接着剤を塗布してなる植毛植え付け層3と、静電植毛操作により植毛植え付け層3に短繊維4を植え付けてなる植毛短繊維層(植毛部)5とからなる。
【0019】
表面処理鋼板2としては、溶融亜鉛めっき鋼板、合金系溶融めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金電気めっき鋼板、プレコート鋼板等の金属板を挙げることができる。
【0020】
接着剤としては、表面処理鋼板2との接着強度に優れたものが好ましい。
【0021】
植毛される短繊維4としては、例えば、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等の化学繊維、または植物繊維、動物繊維、炭素繊維、ガラス繊維等の天然繊維が使用され、有機繊維、無機繊維を問わない。
【0022】
また、建築材料1の植毛面側には、植毛部を分断するように、無短繊維部からなる水切り部7が形成されている。この水切り部7は、所定幅Wを有し、かつ表面処理鋼板2の一方向に連続して形成されている。例えば、建築材料1が長尺状を呈する場合、水切り部7は、建築材料1の幅方向にわたって連続した直線帯状に形成され、植毛短繊維層5を建築
材料1の一方側1Aと、他方側1Bとに分断している。なお、水切り部7の幅Wは、一定でなくてもよく、また、水切り部7は直線以外に湾曲したり、屈曲したりしたものであってもよい。水切り部7は、単数条に限らず、図1に仮想線で示すように、所定の間隔をおいて複数条設けることも可能である。
【0023】
次に、水切り部7を形成する方法について説明する。かかる水切り部7を形成する方法としては、加熱により植毛部を融着もしくは焼失させる方法と、機械的に短繊維層を削る等して除去する方法とが挙げられる。
【0024】
図2(a)は、加熱処理手段により植毛部を融着した場合の建築材料1の断面図を示す。加熱方法としては、ニクロム線などを熱源とする抵抗加熱、磁力線の影響を受けて発生する誘導電流による熱を熱源とする誘導加熱、摩擦による加熱、レーザー加熱等様々な方法が挙げられる。このように、加熱処理手段で短繊維を融着もしくは焼失させることにより水切り部7を形成した場合には、同図に示すように、水切り部7の位置する表面処理鋼板2は、短繊維が融着して形成された皮膜4aで被覆された状態となっている。
【0025】
図2(b)は、機械的に植毛部を除去した場合の建築材料1の断面図を示す。かかる場合には、研削機やスクレパー等の処理器具により、短繊維4を破壊したり、削る等することで、水切り部7を形成する。かかる方法では、同図に示すように、水切り部7の位置する表面処理鋼板2には、処理後の皮膜等が残存しないようにできる。
【0026】
次に、建築材料1を製造する一例について説明する。先ず、ロール状に巻かれた長尺状の表面処理鋼板を展延し、表面処理鋼板に連続して静電植毛加工処理を施して長尺状の建築材料を製造した後に、この植毛鋼板を巻き取る。そして、図3に示すように、静電植毛加工処理工程とは別工程の成形加工工程において、ロール状に巻かれた長尺状の建築材料1Aを展延して、所定の長さに切断し、平板状の建築材料1を製作する。
【0027】
さらに、図4に示すように、所定温度に設定された加熱処理手段20で、平板状の屋根用金属板1の植毛部5を加熱しながら、この加熱処理手段20を建築材料1の幅方向に移動させる。このとき、加熱処理手段20は、植毛部5の短繊維部を融着し、植毛部5の幅方向に所定の幅の水切り部7を連続して形成する。加熱処理手段20は、単数個であってもよいが、複数個を所定間隔をおいて配置し、同時に移動させるのが、作業効率の面からも好ましい。
【0028】
加熱処理手段20は、植毛部5を所定の圧力で押圧しても、植毛部5と間隔を有していてもよい。また、加熱処理手段20を固定しておいて、建築材料1を移動さても、加熱処理手段20および建築材料1の両方を移動させてもよい。
【0029】
さらに、水切り部の処理が施された平板状の建築材料1を屋根材に適宜成型加工する。
【0030】
水切り部の処理は、静電植毛加工工程以降であればどの工程でも可能である。前記のように、建築材料1を所定の長さで切断した後に水切り部の処理を行う(図3のA位置)以外に、建築材料1を所定の長さに切断する以前(図3のB位置)であっても、または、建築材料1を屋根材に成型加工した後(図3のC位置)であってもよいが、水切り部の処理は、建築材料1を所定の長さに切断した平板の状態で行うのが好ましい。これは、個々の長さに切断された加工前の平板状態で処理する方が、水切り部の位置が設定し易く、処理装置の構造は簡単であり処理装置の低コスト化が図れるからである。
【0031】
次に、平板状の建築材料1の具体的な使用例について説明する。
【0032】
所定長さの建築材料1は、適宜形状に成型加工されて、図5に示すように、金属屋根材10として使用される。このように金属屋根材10に使用する場合、建築材料1の一方側1Aが軒側となる。そして、水切り部7は、雨水に晒される部分(軒側)と建物12内との境界部に形成されている。具体的には、水切り部7は、建物12の外壁12aの内外面間、または内外面の近傍に位置し、かつ、軒先ラインに平行な方向(桁行き方向)に形成されている。図5は、水切り部7を外壁12aの外面近傍に設けた場合を例示している。
【0033】
金属屋根材10に降った雨水は、金属屋根材10を水上から水下へ流れ、軒先から排水される。このとき、金属屋根材10裏面に雨水が回り込むため、軒先は降雨時に必ず水に晒される部分となる。さらに、風を伴った雨の場合、外壁12aに当たった風の流れに乗り、外壁12a際の屋根材裏面も水に晒され易い部分である。
【0034】
前記のように、水切り部7は、建物12の外壁12aの近傍に位置し、かつ、軒先ラインに平行な方向に形成されているため、軒先等の雨水に晒される部分が吸水しても、水切り部7は雨水の毛細管現象を断ち切り、雨水の進行を防止する。この結果、雨水が植毛短繊維層5を介して建物12内に浸入するのを防止できる。
【0035】
実際には、建物ごとに軒先から外壁までの距離等が異なり、水切り部7の適正位置が一定ではない。水切り部7の適正位置は、建物ごとにそれぞれ設定され、図5に7aで示すように、金属屋根材10の軒先幕板や樋(図示省略)の近傍に設けても良い。
【0036】
図6(a)に示す金属屋根材10は、幅方向の一方に台形状のすくい部10aが、他方に台形状のかぶせ部10bがそれぞれ形成されたものである。かぶせ部10bは、隣接する他の金属屋根材10のすくい部10aに上方から嵌合される。水切り部7は、仮想線で示すように、かぶせ部10bの流れ方向に設けられている。かかる場合には、すくい部10aと、かぶせ部10bとの間に雨水が浸入しても、水切り部7が雨水の建物内への浸入を防止できる。なお、水切り部7はかぶせ部10bの任意の位置に設けることができる。
【0037】
また、図6(b)に示すように、金属屋根材10は、はぜ締め部を構成するすくい部10aと、かぶせ部10bとを備えたものであってもよい。
【0038】
図7に示すように、金属屋根材10は、横葺きの場合であってもよい。かかる場合には、棟側(上段)の金属屋根材10のかぶせ部10bに水切り部7が形成されている。
【実施例】
【0039】
本発明の効果を確認するために、水切り部を有する試験片と、水切り部を有しない試験片とを製造し、両者の比較試験を実施した。
【0040】
水切り部を有する試験片は、55%アルミ含有亜鉛めっき鋼板(板厚=0.8mm)の裏面側に、下塗り塗料としてエポキシ系塗料(NFC製NP365)を塗布し、さらに上塗り塗料としてエポキシ系塗料(NFC製RD751)を塗布したプレコート鋼板を製作し、プレコート鋼板に、水性接着剤をロールコートした後に、直ちにナイロン66からなる植毛短繊維を静電植毛したものである。
【0041】
水切り部の処理方法は、加熱処理手段を採用し、処理器具にニクロムはんだごて(出力=100W、こて先温度=約320℃)を使用した。このはんだごてを植毛部に接触させ、処理速度=1800mm/minで加熱処理を行った。
【0042】
前記条件にて製作した水切り部を有する試験片Aを、図8(a)に示す。この試験片Aは、一片L1が300mm、他片L2が200mmの矩形状に形成した。水切り部7は、
試験片Aの一端からの距離L3が40mmに設定し、水切り部7の幅Wは、約4mmに設定した。なお、水切り部を有しない試験片も同様の形状に形成した。
【0043】
水切り効果確認試験
図8(b)に示すように、容器15内に水16を入れ、水切り部を有する試験片Aは、水切り部7が上面となるように、水面16aに対して2.5寸勾配の傾斜を持たせ、水切り部7より20mm下側の位置に喫水位置17がくるように、水に24時間浸漬させ、水の吸い上げ状況を確認した。なお、水切り部を有しない試験片も同様の条件で水に浸漬させた(図示省略)。
【0044】
試験結果は、水切り部を有しない試験片は、1時間で喫水位置17より100mm以上水を吸い上げ、その後も吸水を続けたのに対し、水切り部を有する試験片は、水切り部7で水が止まり、24時間経過後もその状態を維持しており、水きり効果が充分であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の建築材料の裏面側を示す斜視図である。
【図2】同建築材料の要部を示し、(a)は加熱により植毛部を除去した場合の断面図、(b)は機械的に植毛部を除去した場合の断面図である。
【図3】本発明の建築材料の製造方法を示す概略図である。
【図4】同加熱処理手段で水切り部を形成する方法を示す斜視図である。
【図5】本発明の建築材料を屋根材として使用した概略側面図である。
【図6】(a)および(b)は、本発明の建築材料を屋根材として使用した概略斜視図である。
【図7】本発明の建築材料を横葺き屋根材として使用した概略斜視図である。
【図8】(a)は同屋根用金属板の試験片の平面図、(b)は同試験片を使用した水切り効果確認試験を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 建築材料
2 表面処理鋼板(基材)
3 植毛植え付け層
4 短繊維
5 植毛短繊維層(植毛部)
7 水切り部
20 加熱処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部は分断されていることを特徴とする植毛板材からなる建築材料。
【請求項2】
屋根材に使用可能な建築材料であって、金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部を分断するように、無短繊維部からなる所定幅の水切り部が、一方向に連続して形成されていることを特徴とする植毛板材からなる建築材料。
【請求項3】
金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部を加熱処理手段で加熱しながら基材の一方向に相対移動させることにより、無短繊維部からなる所定の幅の水切り部を、連続して形成することを特徴とする植毛板材からなる建築材料の製造方法。
【請求項4】
前記植毛部を融着または焼失させる請求項3に記載の植毛板材からなる建築材料の製造方法。
【請求項5】
金属製の基材の一面に短繊維が植毛加工され、この植毛部を除去することにより、所定幅の無短繊維部からなる水切り部を、一方向に連続して形成することを特徴とする植毛板材からなる建築材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−162461(P2007−162461A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−15921(P2007−15921)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【分割の表示】特願2004−270595(P2004−270595)の分割
【原出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【Fターム(参考)】