説明

植物土壌病害を軽減する微生物及びその微生物を活用した機能性コンポスト

【課題】ホウレンソウの萎凋病、立枯病及び株腐病のすべてに対して発病軽減効果を有する微生物を活用した機能性コンポストを提供すること。
【解決手段】食品廃棄物を主な栄養源として生育し、ホウレンソウに対して病原性を有しないが、ホウレンソウの萎凋病の病原菌、立枯病の病原菌及び株腐病の病原菌に対しては拮抗作用を有するバチルス属に属する微生物KS22株を液体培養し、前記液体培養物を、植物系完熟コンポストを含む固体培地に添加して混合しKS22菌株を馴養させたコンポストを製造することによって課題解決できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の立枯病、萎凋病及び株腐病の土壌病害を軽減する微生物及び前記微生物を活用させた機能性コンポストに関する。より詳しくはホウレンソウの立枯病、萎凋病及び株腐病の土壌病害を軽減する、コンポスト製造過程から採取した微生物及び前記微生物を活用する機能性コンポストに関する。
【背景技術】
【0002】
広島県におけるホウレンソウは、野菜の中で作付面積の広さでは「だいこん」についで広く栽培されており、ホウレンソウの重要病害として、株の萎凋を起こす萎凋病、発芽まもなく地下部が侵され立枯れ症状を呈し苗が立ち消えて欠株となる立枯病、または苗立枯れや主根の地際部のくびれ及び褐変を呈する株腐病があるため、ホウレンソウの栽培は、土壌病害回避を目的に徹底した農薬による土壌消毒を前提にした栽培体系が取られている。
【0003】
しかし、農薬による土壌消毒によって、微生物相の撹乱、土壌の劣化、生産コスト増大、周辺の土壌や水質を汚染するという環境問題、及び消費者の安全安心へのニーズや生産者の軽労化ニーズから乖離しているという問題があった。
【0004】
そこで、農薬による土壌消毒に代わり植物病害を軽減させる方法として、土壌病害の病原菌と拮抗作用を有する微生物を選抜・同定し、土壌病害を軽減する試みをした。
【0005】
例えば、植物病原性の糸状菌、細菌またはウイルスの感染または増殖を抑制する能力を有するバチルス属に属する細菌の栄養細胞を有効成分として含む、植物病害の防除剤または防除資材の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
そして、特許文献1の段落[0019]に前記栄養細胞はそれ自体単独、または任意成分として有機物粉末の固体担体や固着剤の補助剤と組み合わせて使用することができ、段落[0020]に栄養細胞などを地上部散布や土壌混和などの処理を行うとの記載がある。
【0007】
そして、段落[0025]に、ホウレンソウの立枯病、株腐病及び萎凋病の病原菌の土壌中での増殖または伝染を阻止して発病を軽減することができるとの記載がある。
【0008】
また、植物病原菌と拮抗するバチルス ズブチリスに属する細菌の胞子及び保湿剤を含有する農園芸用殺菌剤組成物に関する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
そして、特許文献2の段落[0020]に、保湿剤はオリゴ糖類などの一般に食品添加物等で保湿剤として用いられているものでよいとの記載があり、段落[0029]に、適用される植物の病原菌としてホウレンソウの株腐病菌リゾクトニア ソラニが含まれるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−55982号公報
【特許文献2】特許第3527557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の発明は、バチルス属細菌の栄養細胞を単独、または他の任意成分である固体担体と補助剤との組み合わせた防除剤を、植物の葉に霧吹きで直接に噴霧したり、土壌と混和させて病害の軽減を行っている。
【0012】
しかし、植物の葉などの地上部に液体噴霧した場合には微生物が抗菌力を発揮し軽減効果が認められるが、植物の地下部である土壌に液体噴霧した場合には微生物が抗菌力をあまり発揮せず、持続的な軽減効果もほとんど認められないという問題があった。
【0013】
そして、防除剤そのものの状態で土壌と混和させた場合には、土壌の成分によっては拮抗作用を有する微生物が減少し土壌伝染性病害菌が増殖する場合もあるので病害の軽減の効果が低減するという問題があった。
【0014】
また、微生物を単独で防除剤として、または微生物をパーライトなどの固体担体及びゼラチンなどの補助剤と組み合わせた防除剤として使用したとき植物や土壌へ噴霧した後に、前記微生物が増殖しにくいという問題があった。
【0015】
特許文献1における防除剤と土とを混和させた実施例はアイスクリームカップ内での実施例であったので、土壌によって微生物や病原菌の生存が影響を受ける圃場での防除効果が明確でないという問題があった。
【0016】
また、ホウレンソウの土壌病害についての実施例がなく、圃場でのホウレンソウの土壌病害に対する軽減効果を有するのかが明確になっていないという問題があった。
【0017】
特許文献2の発明は、農園芸用殺菌剤組成物の施用方法として段落[0033]に土壌混和施用との記載があるが、実施例はすべて噴霧による施用のみである。前記組成物そのものを土壌に噴霧すると、土壌の成分によっては拮抗作用を有する微生物が減少し土壌伝染性病害菌が増殖する場合があり、実施例においても圃場における病害の軽減効果が明確になっていないという問題があった。
【0018】
また、微生物と保湿剤を含有させた農園芸用殺菌剤組成物を使用したとき、植物の葉などの地上部に液体噴霧した場合には微生物が抗菌力を発揮し軽減効果が認められるが、植物の地下部である土壌に液体噴霧した場合には微生物が抗菌力をあまり発揮せず、持続的な軽減効果もほとんど認められないという問題があった。
【0019】
さらに、ホウレンソウの土壌病害については段落[0029]に立枯病に適応されるとの記載はあるが、その実施例がなく、特にホウレンソウの立枯病、株腐病及び萎凋病のすべての病原菌に拮抗し土壌病害を軽減する効果を有するかが明確になっていないという問題があった。
【0020】
本発明は、こうした問題に鑑み創案されたもので、コンポスト製造過程に生存している微生物の中から、ホウレンソウの重大病害菌である萎凋病菌、立枯病菌及び株腐病菌のすべてに対して拮抗作用を有する微生物を選抜・同定し、前記ホウレンソウの重大病害を軽減する前記微生物を持続して長期間生育し得るコンポストを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明における「KS22菌株」とは、バチルス属に属する「受領番号FERM AP−21942」の微生物を意味する。
【0022】
請求項1に記載の植物土壌病害を軽減する微生物の発明は、植物土壌病害を軽減する微生物が、食品廃棄物のコンポスト化過程より採取され、食品廃棄物を主な栄養源として生育し、ホウレンソウに対して病原性を有しないが、ホウレンソウの萎凋病の病原菌、立枯病の病原菌及び株腐病の病原菌に対して拮抗作用を有し、バチルス属に属する微生物KS22株であることを特徴とする。
【0023】
請求項2に記載の植物土壌病害を軽減する微生物を活用した機能性コンポストの発明は、食品廃棄物を栄養源とする液体培養液に微生物KS22株を接種して得られた液体培養物を、植物系完熟コンポストを含む固体培地に添加して混合し、前記混合した固体培地を20℃〜50℃で2日〜8日静置し、前記微生物KS22株を固体培養させて製造することを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載の植物土壌病害を軽減する微生物を活用した機能性コンポストの発明は、請求項3において、前記固体培地が、植物系完熟コンポスト100重量部に対して、吸水性や通気性などの物理性を改善する副資材を5重量部〜15重量部を混合されていることを含む培地であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明は、特異的拮抗作用をもった1種類の微生物は特定の1種類の土壌伝染性病原菌の生育を抑制するのが一般的であり、複数の病原菌の生育を一度に抑制する場合には病原菌の種類に応じて複数種類の微生物を準備しなければならないが、本発明の微生物KS22株はホウレンソウの萎凋病、立枯病及び株腐病のすべての土壌伝染性病害を軽減できるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明の微生物KS22株は、食品製造時に発生する汚泥、ビールカスや酒粕などの飲料製造時に発生する残渣、牛乳などの賞味期限切れ飲料などの中なら少なくとも一つ以上を混合しコンポスト化する醗酵過程で採取されたので、消費者にも安全・安心であり植物にも土壌病害を発生させないという効果を奏する。
【0027】
本発明の微生物KS22株の作用には、食品廃棄物のコンポスト化する醗酵過程で採取されたので、有機物に含有される作物生育阻害物質を分解し無害化及び無臭化する作用も有するという効果がある。
【0028】
本発明の微生物KS22株は、食品廃棄物に含有されている成分を栄養源とすることができるので、食品廃棄物から製造されたコンポストと混和された状態で長い期間生存するのに適しているという効果を奏する。
【0029】
請求項2の発明は、微生物KS22株の栄養源とともに微生物KS22株を固体培地に接種し、固体に馴養させて培養するので、微生物KS22株が増殖しやすく、土壌伝染性病害に対する軽減効果が長続きするという効果を奏する。
【0030】
また、養分補給などの化学性の改善効果、保水性や通気性などの物理性の改善効果、及び有機物分解などの生物性の改善効果という土つくりの三つの機能に加えて、特定の拮抗菌を活用していることから特に病気を軽減する生物性の改善効果が加わった機能性コンポストであり、種々の微生物を生育させるが、ホウレンソウの前記萎凋病、立枯病及び株腐病のすべての病害を軽減してくれるという効果を奏する。
【0031】
一般的にコンポストの施用で、土壌中の生物や微生物が増加するため土壌の生物的緩衝能が増し、土壌病害の発生が軽減されることがあるが、逆に、施用したコンポストが土壌病原菌の栄養になり、病原菌の活動を助長して病害の発生をふやすことがある。しかし、本発明の機能性コンポストはホウレンソウの萎凋病、立枯病及び株腐病のいずれの病害も軽減するという効果を奏する。
【0032】
本発明の機能性コンポストは、ホウレンソウの萎凋病、立枯病及び株腐病のすべてに対して拮抗作用を有する微生物を定着させ、かつ前記微生物の栄養源となっているので、長期間拮抗作用を有する微生物を生存しやすくする環境が整っており土壌病軽減効果が持続するという効果を奏する。
【0033】
本発明の機能性コンポストには、ホウレンソウの三大病害を軽減する農薬の代替効果があるので有機栽培に適するという効果がある。
【0034】
本発明のKS22菌株を活用している機能性コンポストは、拮抗作用を有するという効果のみならず、土壌の化学性改善効果をもたらす、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムの5大要素だけでなく、亜鉛、マンガン、鉄、ホウ素などの微量要素も含有し、かつ土壌中の有機物含量が増えると土壌の団粒化がすすみ比較的大きな孔隙が形成されるなどの土壌の物理性改善効果をもたらして、作物の根を伸びやすくするなど根の生育環境を整えるという効果がある。
【0035】
KS22菌株は無滅菌状態の培地においても純粋培養によって増殖する特質を有しているので、食品廃棄物を栄養源とする液体培養液に微生物KS22株を接種して得られた液体培養物を添加する植物系完熟コンポストを含む固体培地は無滅菌状態でもよいという効果がある。
【0036】
請求項3の発明の機能性コンポストは、請求項2と同じ効果を奏する。そして、吸水性や通気性などの物理性を改善する副資材を混和するので、微生物活性を盛んにするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】阻止円形成の場合の概要図である。
【図2】阻止斑形成の場合の概要図である。
【図3】KS22菌株のpHの生育に及ぼす影響を表した図である。
【図4】16SrDNA塩基配列に基づいて求めた既知の近縁微生物との分子系統樹を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
まず、食品廃棄物のコンポスト化過程から微生物を採取すれば、植物に対して安全であり、かつ再びコンポストに戻せば前記微生物は増殖できると考え、コンポスト化過程から微生物を採取することとし、その中でホウレンソウの萎凋病、立枯病及び株腐病の各病原菌に対して拮抗作用を有する微生物の検索を行った。
【0039】
本発明の拮抗作用を有する微生物は、食品製造過程に発生する汚泥、ビールカスや酒粕などの飲料製造過程に発生する残渣、牛乳などの賞味期限切れ飲料などの中なら少なくとも一つ以上を混合し醗酵させコンポスト化させる過程の堆積物の中から熟度の異なる123試料1gずつを採取した。
【0040】
次に、ホウレンソウの萎凋病、立枯病及び株腐病のそれぞれの病原菌との対峙法によって、拮抗作用を有する微生物を検索する。
【0041】
採取した試料を直ちに約1gを26ml内容積の試験管に秤取し、滅菌済生理食塩水9mlを加えてボルテックミキサーで約5分間撹拌混合した。約20分間室内に静置した10%懸濁水の上澄液を円形濾紙1(直径8mm、厚手、アドバンテック製)に浸して滲み込ませてから対峙試験の供試試料とした。
【0042】
対峙試験のPDA平板培地として、ポテトデキストロース寒天培地(日水製)3.9gを脱イオン水100mlに溶解し、121℃で15分間滅菌後、シャーレに20mlを移し固化させたPDA培地を使用した。本発明に用いたPDA培地はすべて前記対峙試験に用いたPDA平板培地と同一の組成からなる。
【0043】
そして前記PDA平板培地の中心にホウレンソウの立枯病の病原菌2を接種し、等間隔になる4点に前記滲み込ませた円形濾紙1を配置し、25℃の恒温槽で2日間培養し、阻止円3または阻止斑4形成や病原菌2の育成状況を観察した。
【0044】
ここで、図2または図3において抗菌性の判断方法を説明する。上澄液に抗菌物質を生産する微生物群が存在すれば、前記円形濾紙1の周囲に病原菌2の生育阻止円3または生育阻止斑4ができ、生育阻止円3の場合にはその直径5を測定し、生育阻止斑4の場合には円形濾紙1の外縁と病原菌2の生育帯の外縁との距離6を測定して抗菌性を判定した。
【0045】
前記ホウレンソウの立枯病の病原菌の阻止円3または阻止斑4形成状況を観察する方法と同じ方法で、ホウレンソウの萎凋病及び株腐病の病原菌についても、それぞれ阻止円3または阻止斑4を観察できるようにした。
【0046】
明確な阻止円3または阻止斑4を形成した拮抗菌群は画線塗沫培養を繰り返し純粋化した。さらに、純粋化した細菌を用いて対峙試験を行い、明確な阻止円3または阻止斑4を形成した15菌株を分離菌株として取り扱った。
【0047】
ホウレンソウの立枯病、株腐病及び萎凋病のそれぞれの病原菌との対峙試験を15種類の分離菌株ごとに実施した。対峙試験結果を表1及び表2に示す。表1及び表2において、株腐病菌の場合は阻止円3が形成されるので阻止円3の直径5が10mm以上を○、5mm以上10mm未満を△とし、立枯病菌または萎凋病菌の場合は阻止斑4が形成されるので円形濾紙1の外縁と病原菌2の生育帯との距離6が10mm以上を○、5mm以上10mm未満を△とした。番号は仮につけた菌株番号を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1及び表2から、3種の病原菌2に対し抗菌活性を示した菌株は6種類の菌株に絞られる。前記6種類の菌株の中で株腐病菌に対する阻止円3の大きさは直径21mm〜32mmであり、前記6種類の菌株の中でKS22菌株の阻止円3の直径5が32mmで最も大きく抗菌力が最も強いことを確認した。
【0051】
次に、前記6種類の菌株を試験管斜面培地(PDA培地)で培養(30℃、3日培養)させ生育状態を肉眼で、または顕微鏡を用いて観察した。その視覚的な観察結果の特徴を表3及び表4に示す。菌株の色調・光沢はすべて乳白色で光沢あり、表3及び表4において、「表面」とは寒天の表面で生育したことを示し、「深部」とは寒天の深部まで生育したことを示す。また、「起源」欄のAは一次醗酵完了物(醗酵開始から2週間後)、Bは一次醗酵途中物(醗酵開始から2週間以内)、Cは二次醗酵途中物(醗酵開始から2〜4ケ月後)を示す。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
表3からKS22菌株は粘質物を有しないこと、及び莢膜などを形成しないことなどから、KS22菌株には白金耳で採りやすい性質がある。
【0055】
さらに、表3及び表4に示した視覚的な特徴や生理学的性質の他に、菌株を取り扱う過程において、KS22菌株の生育が早いこと、典型的なクレータ状のコロニーを作ること、80℃においても生存していること、及び菌がタフであって取扱が容易であったことから、KS22菌株を選抜した。
【0056】
次に、KS22菌株の最適生育条件のpHを試験した。まず、KS22菌株を試験管斜面培地(PDA培地)で培養(30℃、3日培養)し生育させた後、PDA培地から寒天を取り除き、前記寒天を取り除いた培地を100ml三角フラスコに20mlずつ入れ、恒温水槽中で30℃、120rpmで振盪培養を20時間行った後に生育度OD660(660nmにおける吸光度測定)を、pH値を変えながら実施した。その結果を図3に示す。図3により、KS22菌株の生育最適pHは7〜9であることが示された。
【0057】
次に、KS22菌株についての他の生理学的性質を表5に示す。表5において+は項目に記載した性状を有していることを示している。
【0058】
【表5】

【0059】
表5より、KS22菌株は、25℃〜50℃で生育可能で、桿菌でグラム陽性を示し、芽胞形成能を有し、カタラーゼ活性、オキシダーゼ活性を示した。これらの性状からKS22菌株はバチルス(Bacillus)属の細菌であると推定できた。また、KS22菌株は80℃のコンポストの中で生存しているので耐熱性を有している。
【0060】
次に、API50CHBによる試験結果を表6、表7に示す。陽性を+、陰性を−で表す。
【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
表6または表7より、グリセロール、グルコースまたはフラクトースなどを醗酵し、D−アラビノース、イヌリンまたはラフィノースなどを醗酵せず、ゼラチンを加水分解し、硝酸塩を還元したことが示されている。
【0064】
さらに試験した生理学的性質を表8に示す。陽性を+、陰性を−で表す。
【0065】
【表8】

【0066】
表8より、KS22菌株は嫌気条件下でも生育し、50℃で生育し、10%NaClで生育し、でんぷん及びカゼインを加水分解し、リパーセ活性を示した。
【0067】
次に、KS22菌株の16SリボソームDNA(16SrDNA)のシークエンスを行った。その結果、得られた塩基配列を国際塩基配列データベースでBLAST検索を行った結果、Bacillus属細菌の16SrDNA塩基配列と非常に高い相同率を示した。基準株であるBacillus amyloliquefaciens NBRC15535との相同率は99.7%、Bacillus subtilis IAM12118との相同率は99.4%であった。得られた分子系統樹を図4に示す。
【0068】
図4の分子系統樹において、KS22菌株は、Bacillus amyloliquefaciensに近縁であり、完全一致の菌株は同定されていないことが示されている。
【0069】
さらに、好気条件下でも嫌気条件下でも生育できること、ラフィノースを酸化しないこと、コンポスト製造過程中からの堆積物中から分離したこと、未熟コンポストの水抽出液に良好に生育すること、コンポスト化微生物の特徴である低級脂肪酸の悪臭成分・発芽阻害成分を炭素源とし、ペプチド(分子量約10,000ダルトン、作物生育阻害物質)を窒素源としていること、前記炭素源及び前記窒素源に加えて生育要素としてコバルトイオンを必須とする人工培地によく生育すること、無臭化・コンポスト化微生物の一種であること、及び本菌株1種類のみでホウレンソウの立枯病、株腐病及び萎凋病の各病原菌に対して同時に抗菌作用を有するというKS22菌株の性状または特徴は、Bacillus amyloliquefaciensの性状または特徴と相違点があることからKS22菌株は新菌株であると判定した。
【0070】
次に、ホウレンソウの3重要病害菌に対し拮抗性を有するKS22菌株の増殖を行う。
【0071】
KS22菌株は、PDA培地の試験管内斜面培地に接種し、30℃、2日間培養後、冷暗所に保存した。
【0072】
植物系の完熟コンポスト(商品名「豊穣」久米産業株式会社製)150gを1lの水に懸濁し、約5分間撹拌混合した後、脱脂綿で濾過し、その濾液を遠心分離(約5000×、5分間)し、その上清液をKS22菌株の基礎培地とした。
【0073】
前記基礎培地に、食品廃棄物として1重量%の廃粉状スキムミルクを添加し、液体培養の培地とした。前記液体培養の培地を、6本の100ml三角フラスコに20mlずつ入れ、オートクレーブ滅菌(120℃、15分間)し、冷却後、KS22菌株の斜面培養物を1白金耳ずつ接種し、30℃恒温水槽中で振盪培養(150rpm)を2日間行った。
【0074】
前記液体培養の培地200mlずつを6本の500ml三角フラスコに入れ、オートクレーブ滅菌(120℃、15分間)し、冷却後、前記500ml三角フラスコ1本に前記100ml三角フラスコ1本分の培養物全量をそれぞれ添加して、6本の500ml三角フラスコで30℃恒温水槽中で振盪培養(150rpm)を2日間行った。
【0075】
次に、KS22菌株を混和させた機能性コンポストの製造を行う。
【0076】
底に金網を張り自然通気を可能にした木箱(横25cm×奥行き25cm×高さ40cm)に、完熟コンポストである植物性コンポスト(商品名 豊穣)5kgと、吸水性や通気性などの物理性を改善する副資材としてパーライト0.5kgとを混合し固体培養の培地とした。前記固体培地は無滅菌状態のままとした。
【0077】
ここで、前記固体培地は滅菌せず無滅菌の状態でも滅菌された状態でもよい。固体培地が無滅菌の状態であってもKS22菌株は純粋に増殖できるという特徴がある。
【0078】
前記植物性完熟コンポスト(商品名 豊穣)は、バーク(樹皮)、剪定枝葉、山林伐採廃材などの木質原料を副資材とし、窒素源として食品産業汚泥(乳飲料業、製菓・製パン業、製麺業、醸造業などの廃水を活性スラッジ法により浄化する際に得られる菌体)、動植物性残渣、廃乳、糖蜜などを融合し、6か月以上醗酵・熟成させた完熟コンポストである。
【0079】
前記6本の500ml三角フラスコの液体培養のうち、5本分を遠心分離(1l、5分間)を行いKS22菌株を集め、前記集めたKS22菌株を残りの1本の500ml三角フラスコ中の液体培養物に入れた。
【0080】
次に、KS22菌株を固体に馴養させて培養させるために、前記固体培地に集めた1本の500ml三角フラスコ中の液体培養物を接種し、前記液体培養物を接種した固体培地を、最低20℃の室温で4日間放置し、機能性コンポスト約5kgを製造した。前記機能性コンポストはpH約9で9×10cfu/gのKS22菌株が生育していた。
【0081】
前記機能性コンポストは、KS22菌株を、KS22菌株の栄養源とともに固体培地に接種して固体に馴養させて培養するので、微生物KS22株が機能性コンポスト内で増殖しやすく、機能性コンポストを土壌と混和した後において土壌伝染性病害に対する軽減効果を長続きさせることができる。
【実施例】
【0082】
ホウレンソウの3つの重要病害に対する栽培試験を実施した。
【0083】
まず、ホウレンソウの萎凋病の病原菌(Fusarium oxysporum)、ホウレンソウの立枯病の病原菌(Pythium aphanidermatum)、及びホウレンソウの株腐病の病原菌(Rhizoctonia solani)を、それぞれ、ふすま:バーミキュライト(1:4)培地で25℃で10日間培養後、市販培土(JAの土、広島県製肥株式会社製、培土1l当り窒素0.2g、リン2g、カリウム0.2g含有)1l当り前記病原菌の培養した菌4g、前記機能性コンポスト80gの割合で混和した。
【0084】
前記病原菌汚染培土を1プランター(590mm×180mm×180mm)当り8lずつ充填して7日間静置した。
【0085】
前記7日後に、ホウレンソウ(品種 ニューアンナR4)を1プイラター当り100粒播種した。ハウス内で、土壌は乾燥土にならないよう潅水し、地温は最低20℃で管理し土壌病原菌が発病しやすいようにした。
【0086】
播種後の発病状況を、ホウレンソウの立枯病については表9に、萎凋病については表10に、及び株腐病については表11にまとめた。そして、各表中において、植物系完熟コンポスト(商品名 豊穣)を使用した機能性コンポストを「本発明」と記載し、拮抗菌を活用したコンポストを混和させていない場合を「無し」と記載した。
【0087】
【表9】

【0088】
表9より、本発明の微生物を活用した機能性コンポストを使用した場合、拮抗菌を活用したコンポストを使用していない場合に比較して、苗立率が約1.4倍向上し発病率が約1/4に減じるという効果がみられた。
【0089】
【表10】

【0090】
表10より、本発明の微生物を活用した機能性コンポストを使用した場合、拮抗菌を活用したコンポストを使用していない場合に比較して、苗立率は略同じであるが、発病率が約1/14に激減するという効果がみられた。
【0091】
【表11】

【0092】
表11より、本発明の微生物を活用した機能性コンポストを使用した場合、拮抗菌を活用したコンポストを使用していない場合に比較して、苗立率は約1.1倍向上し、発病率が約1/8に激減するという効果がみられた。
【0093】
表9乃至表11から、本発明の微生物を活用した機能性コンポストは、ホウレンソウの立枯病、萎凋病及び株腐病の病原菌に対し拮抗性を有することがみられ、ホウレンソウの立枯病、萎凋病及び株腐病の軽減効果が極めて大きいことがわかる。
【符号の説明】
【0094】
1 円形濾紙
2 病原菌
3 阻止円
4 阻止斑
5 直径
6 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物土壌病害を軽減する微生物が、食品廃棄物のコンポスト化過程より採取され、食品廃棄物を主な栄養源として生育し、ホウレンソウに対して病原性を有しないが、ホウレンソウの萎凋病の病原菌、立枯病の病原菌及び株腐病の病原菌に対して拮抗作用を有し、バチルス属に属する微生物KS22株であることを特徴とする植物土壌病害を軽減する微生物。
【請求項2】
食品廃棄物を栄養源とする液体培養液に微生物KS22株を接種して得られた液体培養物を、植物系完熟コンポストを含む固体培地に添加して混合し、前記混合した固体培地を20℃〜50℃で2日〜8日静置し、前記微生物KS22株を固体培養させて製造することを特徴とする植物土壌病害を軽減する微生物を活用した機機能性コンポスト。
【請求項3】
前記固体培地が、植物系完熟コンポスト100重量部に対して、吸水性や通気性などの物理性を改善する副資材を5重量部〜15重量部を混合されていることを含む培地であることを特徴とする請求項3に記載の植物土壌病害を軽減する微生物を活用した機機能性コンポスト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−205989(P2011−205989A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77987(P2010−77987)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成21年度末研究成果発表会 主催者名 特定非営利活動法人広島循環型社会推進機構 開催日 平成22年3月29日
【出願人】(506212916)特定非営利活動法人広島循環型社会推進機構 (12)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】