植物栽培用器具および植物栽培方法
【課題】栽培された植物体の特定成分(例えば、硝酸態窒素)を低減可能な植物栽培用器具、および栽培方法を提供する。
【解決手段】栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具。該器具は、水または養液を該容器が水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含む。前記フィルムは、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムである。
【解決手段】栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具。該器具は、水または養液を該容器が水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含む。前記フィルムは、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培用器具および植物栽培方法に関する。より詳しくは、本発明は、水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含む植物栽培用器具、および該植物栽培用器具を用いた植物栽培方法に関する。
【0002】
本発明によれば、無孔性親水性フィルムを介して、植物体を水または養液と接触させて栽培することができ、植物体に対する酸素供給と、水および肥料成分の供給とを好適に機能分離することが可能となる。したがって、本発明によれば、例えば、養液栽培の基本となる植物の根と、水または養液が直接接することにより生ずる多くの問題、すなわち根に対する酸素の供給、肥料成分の精密な管理、根からの水または養液の汚染、あるいは水または養液からの植物への病原菌汚染等の、多くの問題を解消することができる。
【0003】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、下記のような追加的な利点の一以上をも容易に得ることができる。
(1)植物栽培に使用する水または養液量を極めて少なくすることが容易であるため、水または養液の加温あるいは冷却を、極めて容易にかつ低コストで行うことが容易である。
(2)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、通常は、水または養液が断熱材料で密封された状態に置かれることとなるため、加温または冷却の効率を極めて大きくすることが容易である。
(3)通常は、腐敗性が高く植物栽培時に使用し難い、糖類、アミノ酸類、有機酸などの高価な有用物質を使用した場合であっても、これらの有用物質を実質的に腐敗させることなく、該有用物質の少量を水または養液に含有させて用いることが容易である。
(4)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、栽培すべき植物を水分抑制状態として、該植物を高品質化することが容易になる。
(5)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、水または養液からの植物への病原菌汚染を効果的に防止できるために、有糖培養、すなわち、クローン苗の組織培養を行うことが容易になる。
【背景技術】
【0004】
養液栽培の種類は、噴霧耕、水耕(たん液式、NFT)、固形培地(砂耕、れき耕、ロックウール耕)の3種類あり、それぞれの方式には利点、欠点を有する(これらの各方式の詳細、利害得失、等、に関しては、例えば文献「養液栽培の新マニュアル」編者:(社)日本施設園芸協会、28〜135頁、発行所:(株)誠文堂新光社、発行:2002年7月を参照することができる)。
【0005】
上記した各方式の養液栽培システムに共通する最も重要なポイントないし弱点は、初期導入コスト、ランニングコスト、および酸素の供給である。更には、養液栽培では、根と養液が直接接触することから、養液の調整がデリケートであり、その管理範囲が非常に狭いことが問題となる。特に、養液の組成、濃度、pHの変化には細心の注意が必要とされている。中でも、養液栽培で最も問題となる点の1つは、養液のpHが容易に変化することである。
【0006】
従来の養液栽培においては、大量の養液を大気中オープンで使用するため、養液を加温あるいは冷却するには設備費ならびに運転経費が高くなる。また、養液には植物の根から吸収させる酸素を常に含有させておく必要があり、腐敗性のある有用物質、例えばアミノ酸、有機酸あるは糖類を混ぜることが不可能である。
【0007】
加えて、従来の養液栽培においては、病原菌の感染防止が極めて重大な問題である場合が極めて多い。これを防止するための種々の工夫が試みられている。農薬の投与が考えられるが、農薬登録上、養液中に農薬を添加することが出来ないので、農薬によらない殺菌方法が、種々考えられている。例えば、紫外線、オゾンや熱による殺菌、ろ過による病原菌の除去、銀等の金属イオンの添加による殺菌、拮抗微生物の添加等がある。しかしながら、いずれも付帯設備の設置や管理によるコストアップが問題になり、更には、植物体にダメージを与える、あるいは養液中の有効成分を分解する等の新たな問題を生じ、未だに決定的な感染防止の方策は得られていない。
【0008】
(養液栽培のデメリット)
一般的には、養液栽培においては、初期の資本投資額が大きいとされている。すなわち、養液栽培では温室、ハウスなどの園芸用施設だけでなく、養液調整装置の設置が不可欠であり、土耕栽培と比較して初期投資額が大きくなる。しかも、養液の給液管理や環境制御等を自動化する場合には、さらに各種コントローラーへの投資が必要となる。
【0009】
【非特許文献1】「養液栽培の新マニュアル」編者:(社)日本施設園芸協会、(株)誠文堂新光社、2002年7月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消した植物栽培用器具、および植物栽培方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、栽培された植物体の特定の成分(例えば、動物体内への過剰摂取が問題となる可能性のある、硝酸態窒素等の成分)を容易に低減可能な植物栽培用器具、および栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究の結果、リザーバ中の水または養液上に、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムを配置した系においては、根への「酸素供給」と「水分供給」の機能分離に加えて、更に「養分供給」と「純然たる水分供給」を機能分離することも可能であることを見出した。
【0013】
本発明の植物栽培用器具は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;該容器が、水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み;且つ、前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る、無孔性親水性フィルムであることを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば更に、水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み、且つ、前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムである植物栽培用器具を用い;該器具中に植物体を配置し、水または養液を、少なくとも前記フィルムを介して接触させつつ、前記植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法が提供される。
【0015】
無孔性親水性フィルムを介して、養液を植物体に供給した場合には、該フィルムを介することによる「制限的な水分供給」により、濃縮した養分が植物体に供給される場合がある。栽培された植物体における、該養分中の特定の成分(例えば、動物体内への過剰摂取が問題となる可能性のある、硝酸態窒素等の成分)に関しては、該植物体の動物(本発明においては、「ヒトをも含む意味」で用いる)による摂取の場合の安全性等の観点から、栽培された植物体中の該「特定の成分」の含量を、ある程度以下に制限することが好ましい場合がある。例えば、ニトロソ化合物(一般的に、発ガン性を有するとされる)の含有量への制限等の観点からは、栽培された植物体中の硝酸態窒素の含量を、ある程度以下に制限することが好ましい。
【0016】
フィルムの下(すなわち、リザーバ側)を養液として、該フィルムを介して植物体に養分を供給する場合には、栽培植物の硝酸態窒素を低減するためには、通常は、栽培終盤に養液を水に変える必要がある。
【0017】
このような場合であっても、上記構成を有する本発明においては、植物が要求する養分/水分を「互いに別ルート」で供給することができるため、これらの養分/水分の供給を、(例えば、植物体の生育状況に応じて)互いに独立に最適化することができる。本発明においては、例えば、(養分濃縮を避けるために)植物体の根とフィルムとが実質的に一体化するまでは、フィルムを介してリザーバ側(フィルムの下方)から水分を供給し、他方、植物体の根とフィルムとが実質的に一体化した後には、フィルム上方から養分および/又は水分を適宜供給することができる。すなわち、本発明においては、栽培植物の硝酸態窒素等を低減する観点から行う場合がある、栽培終盤におけるフィルム下の養液を水に変える工程を省略できる。
【0018】
また、本発明においては、例えば、最初からフィルムの下(リザーバ側)に水のみを配置し、例えば、フィルム上の植物の根の上方に配置したマトリックスに養液を少量加えることで、水と養分の供給経路を機能分離し、肥料の供給を最小限に抑えることが出来る。これにより、植物中の硝酸態窒素を低減させることが可能になる。
【0019】
更に、リザーバ中の水または養液と、植物体とがフィルムによって分離されている本発明においては、例えば、該フィルム上に土耕栽培に使用されているマトリックスを配置することにより、フィルムと接している植物の根が、同時に該マトリックスに接触していることとなる。これにより、フィルム上から供給される養液等の量的変動や濃度変化に対するマトリックスの緩衝効果が発揮され、養液等の量や濃度の制御が極めて容易となるため、(例えば、従来の養液栽培において、養液等の量や濃度を精密に制御するために必要であったところの)施設の設置によるコストを著しく軽減することが可能となる。
【0020】
(高品質化のための養液管理技術−特定成分の低含量化)
養液と植物体がフィルムによって分離されている本発明においては、上述したように、養液組成、濃度、pH等の調整が極めて容易であるため、以下のような特定成分の調整も容易に行うことができる。
【0021】
(1)硝酸態窒素
サラダやホウレン草等の葉菜にはその可食部に葉柄部が含まれているため、高い濃度で硝酸塩が含まれていることがある。硝酸塩は唾液と反応して亜硝酸塩となり、更に消化の過程で発ガン性を持つニトロソアミンという物質を生成するとされている。このため、野菜に含まれる硝酸含量が品質の重要な基準の1つになりつつあり、その低含量化が求められている。養液栽培においては、一般的に、収穫前の数日間、硝酸態窒素の供給を停止することなどの養液管理によって植物体の硝酸態窒素含量を低下させることが可能である。
【0022】
(2)シュウ酸
葉菜の中でも、ホウレン草は特にシュウ酸含量が高いものとして知られている。シュウ酸はアク、えぐ味の成分であるばかりでなく、尿路結石の原因物質としても知られているため、その低含量化が求められている。養液栽培においては、例えば、養液中の硝酸態窒素を減らすことでシュウ酸含量を低下させることができる(ただし、この場合には、若干の生育の抑制も伴う場合がある)。
【0023】
(フロート部材の配置)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムの力学的強度を補強するために、必要に応じて、該水または養液に浮かぶフロート部材を用いても良い。このような場合には、該フィルムの力学的強度と、透過性との良好なバランスが容易に達成される。より具体的には、このような態様においては、無孔性親水性フィルムが吸水、膨潤して、該フィルム自体としての力学的強度が低下したとしても、その力学的強度が、水または養液に浮かぶフロート部材により補強されるため、該フィルムの不必要な伸びや破損の可能性を効果的に抑制することが可能となる。したがって、本発明においては、無孔性親水性フィルム自体の水または養液中における力学的強度を、それ程問題とすることなく、該フィルムの有用な特性(例えば、養液中の水分、養分の透過性)に基づき、好適なフィルム材質、厚さ、サイズその他のフィルム属性を選択することが可能となる。換言すれば、本発明においては、無孔性親水性フィルムの属性選択の範囲が著しく拡大することとなる。
【0024】
更に、フロート部材を用いる本発明の態様においては、フィルムが直接水または養液に接触している場合、水または養液の水位が下がったとき、植物体およびマトリックスの重さでフィルムが伸びてフィルム強度が低下することがあったとしても、水または養液の水位が上下するにつれ、フロート部材が水または養液の水位に追従するため、実質的にフィルムに過大な荷重がかかることを防止でき、効果的にフィルムの破損を防ぐことができる。
【0025】
更には、フロート部材を断熱の材料(例えば、発泡スチロール)で構成した場合には、水または養液が断熱材料で囲まれていることとなり、水または養液量を少量にすることができ、加温および/又は冷却をより効率的に行うことができる。
【0026】
(酸素供給−水分/養分供給の機能分離)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、植物の根と水または養液(肥料成分を含む液体)とが、無孔性親水性フィルムを介して配置されているため、植物の根は水または養液には直接には接触していない。換言すれば、植物体に対する酸素供給と、水および肥料成分の供給とが好適に機能分離された状態にある。このため、本発明においては、植物が空気中の酸素を有効に利用することができ、従来の養液栽培の問題(すなわち、植物の根と水または養液が直接に接することにより生ずる多くの問題)であったところの、根に対する酸素の供給、水または養液の厳密な管理、根からの水または養液の汚染あるいは水または養液からの植物への病原菌汚染等の問題を容易に解消することができる。更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、栽培すべき植物を水分抑制状態とすることが極めて容易となり、該植物を高品質化することができる。
【0027】
(腐敗防止)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、リザーバ中の水または養液は実質的に密封された状態にあるため、外部から酸素が供給されず、水または養液中に溶存酸素が存在しない。したがって、本発明においては、大気中においては腐敗性のある糖類、アミノ酸類、有機酸等の植物にとって有用な物質を特に制限されずに水または養液に加えることができ、無孔性親水性フィルムを通して植物に供給することが可能である。
【0028】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、リザーバおよびフロート部材を、例えば発泡ポリスチレンボードにより構成した場合には、水または養液は、断熱材料およびフィルムにより密封状態にある。したがって、リザーバ内から大気中に不定蒸散する水も殆どなく、消費される水は、その大部分が、フィルムを通じて植物が吸収する水とフィルムを通して水蒸気として蒸散する水である。本発明において、更に、フィルム上を、水蒸気を通さないマルチングフィルムまたはマルチング部材(例えば、発泡ポリスチレンボードなど)で被覆する態様においては、水の消費を更に抑制することができる。
【0029】
(加温または冷却)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具において、水または養液が、断熱された材料で囲まれている態様においては、水または養液中に1本以上のパイプを配置し、パイプの中に加温または冷却された水または媒体を通すことにより、フィルムと一体化した根を効率的に加温あるいは冷却することができる。
【発明の効果】
【0030】
上述したように本発明によれば、フィルムの下の養液の代わりに水のみを使用した場合、フィルムの上から少量の量および時間が制御された養液を潅水することにより、容易に栽培品中の硝酸態窒素を大幅に低減できる。
【0031】
更には、フロート部材を用いることで、水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムの力学的強度が、該水または養液に浮かぶフロート部材で補強されているため、該フィルムの力学的強度と、透過性の良好なバランスが達成される。より具体的には、無孔性親水性フィルムが吸水、膨潤して、該フィルム自体としての力学的強度が低下しても、その力学的強度が、水または養液に浮かぶフロート部材により補強されるため、該フィルムの不必要な伸びや破損の可能性を効果的に抑制することが可能となる。したがって、本発明のこのような態様においては、無孔性親水性フィルムの有用な特性(例えば、養液中の水分、養分の透過性)に基づき、好適なフィルム材質、厚さ、サイズ、その他のフィルム属性を選択することが可能となる。換言すれば、この態様においては、無孔性親水性フィルムの属性選択の範囲が著しく拡大することとなる。
【0032】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、植物の根と水または養液(肥料成分を含む液体)とが直接には接触せず、植物体に対する酸素供給と、肥料成分の供給とが好適に機能分離された状態にある。このため、本発明においては、植物が空気中の酸素を有効に利用することができ、従来の養液栽培の問題であった、根に対する酸素の供給、水または養液の精密な管理、根からの水または養液の汚染あるいは水または養液からの植物への病原菌汚染等の問題を容易に解消することができる。
【0033】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、栽培すべき植物を水分抑制状態とすることが極めて容易となり、該植物を高品質化することもできる。
【0034】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、植物が必要とする、水および肥料成分を極めて少量で栽培することができる。
【0035】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、植物の根圏を極めて低コストで加温または冷却することができる。
【0036】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、通常は腐敗性があるために、植物栽培には使用が困難とされて来た物質(例えば、糖類、アミノ酸類、有機酸類などの植物にとって有用な物質)を植物に供給することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0038】
(植物栽培用器具)
本発明の植物栽培用器具は、水または養液を収容するためのリザーバと、該水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段とを少なくとも含む。
【0039】
図1は、本発明の植物栽培用器具の基本的な一態様を示す模式断面図である。図1を参照して、この態様の植物栽培用器具1は、水または養液および植物体を収容するための収容部2を与える(画する)ためのリザーバ5と、リザーバ5中の水または養液6上に配置されたフィルム3とを含む。本発明の植物栽培用器具が具備すべき、フィルム3の上方から水または養液を供給する手段は、図2に記載の潅水手段11(点滴チューブなど)と同様である。
【0040】
(他の態様)
図2は、本発明の植物栽培用器具1の他の態様を示す模式断面図である。図2を参照して、この態様においては、水または養液6に浮かぶことができるフロート部材4と、該フロート部材4上に揚水シート7を配置し、その上に無孔性親水性フィルム3が配置されている。このような揚水シート7を配置することにより、フロート部材4上に配置された無孔性親水性フィルム3に対して、効果的に水または養液を供給できるというメリットを得ることができる。
【0041】
図2においては、収容部2の底部下全域にフロート部材4を配置しているが、本発明においては、少なくとも一部に、配置されていれば足りる。収容部2の底部下全体の面積に対するフロート部材4の面積の割合は、水または養液の水位が上下するときに、フロート部材4が追従できる範囲で選択できる。フロート部材4に乗る無孔性親水性フィルム3の面積に対するフロート部材4の全面積の割合は、10%以上、更には30%以上、より好ましくは50%以上である。
【0042】
(フロート部材の他の態様)
必要に応じて、フロート部材4に孔(ないし穴)を1個以上開けることも可能である。図22にスリット状の孔の例を示し、図23に円形の孔の例を示す。この孔は、フロート部材4の厚さ方向を貫通する貫通孔であってもよく、また、非貫通孔であってもよい。このような孔を設けることにより、無孔性親水性フィルム3に供給される水または養液量の変動を小さくする効果が得られる。更には、フィルム3上に供給される水または養液量の、該フィルム3面上の分布を、より均一にする効果も得られる。
【0043】
(貫通孔/非貫通孔)
フィルム3と、水または養液6との効率的な接触が容易な点からは、フロート部材4表面には貫通孔を設ける方が好ましい。フロート部材4表面に非貫通孔(例えば、スリットないし溝状の非貫通孔)を設ける態様においては、該非貫通孔をフロート部材4の端部まで延長して、該端部の切り口から、水または養液6がフロート部材4の中心部付近まで侵入することを容易とすることが好ましい。この場合、必要に応じて、縦横等の複数方向に沿って、それぞれ複数のスリットないし溝状の非貫通孔を設けることが、更に好ましい。
【0044】
(孔の形状、等)
フロート部材4に設けるべき孔の形状、サイズ、個数等は、特に制限されない。この孔は、例えば、網目状、格子状あるいは円、楕円、多角形、星型など様々な形の、1個以上の孔であってもよい。図22および図23に、フロート部材4に孔を開けた態様の例を示す。フロート部材4の面積に対する、フロート部材4に開けられた空隙面積(すなわち、フロート部材4表面における孔面積の合計/フロート部材4表面の全面積)の割合は、水等の供給の均一化とフロート部材4強度とのバランスの点からは、90%以下であることが好ましく、70%以下(特に50%以下)であることが好ましい。また、フロート部材4の面積に対する、フロート部材4に開けられた空隙の割合は、1%以上であることが、好ましく、3%以上(特に5%以上)であることが好ましい。
【0045】
(揚水シートの使用)
図2を参照して、揚水シート7を使用する態様においては、フロート部材4の端からリザーバ5の水または養液6中に揚水シート7を落とし込む(浸漬させる)ことにより、揚水シート7を介して、水または養液6を、よりスムーズに無孔性親水性フィルム3に供給することができる。この場合、フロート部材4の巾(すなわち、平面)方向で考えた場合、無孔性親水性フィルム3上の植物体においては、通常は、フロート部材4の端に近い方が養分を先に吸収し、これにより、フロート部材4の中心近くの植物体への養分供給が、より少なくなる傾向がある。
【0046】
上記したようにフロート部材4に網目状、格子状、あるいは円、楕円、多角形、星型など様々な形の孔を1個以上開ける態様においては、リザーバ5中の水または養液6と無孔性親水性フィルム3が直接触れる機会が増大するため、無孔性親水性フィルム3に供給される水または養液6量の変動を小さくする効果がある。また、上記した揚水シート7を使用する態様において、上記の孔を設けた場合には、リザーバ5中の水または養液6と揚水シート7が直接触れる機会が増大するため、無孔性親水性フィルム3に供給される水または養液6量の変動を小さくする効果がある。
【0047】
(孔の好適な配置)
フロート部材4の無孔性親水性フィルム3に対する強度補強が損なわれない限り、フロート部材4に開けた隣接する孔(空隙)の端同士を結ぶ距離が短いほどこの効果は大きい。隣接する空隙の端同士を結ぶ距離(図22、図23に示す間隔a)は0.01〜100cmが好ましく、0.1〜50cm(特に1〜30cm)であることが好ましい。
【0048】
また、必要に応じて、器具1の強度、フィルム3の補強等の観点から、他の材料(例えば、リザーバ5と同じ材料)で、フィルム3を適当に分割してもよい。
【0049】
(フロート部材配置の利点)
フィルム3が直接に水または養液6に接触している場合、例えば水または養液6の水位が下がったときに、植物体(および、場合によってはマトリックス)の重さでフィルム3が伸びてフィルム強度が低下する可能性がある。フィルム3が直接に水または養液6に接触している場合には、該フィルム3は、通常は水分吸収によって膨潤している場合が多いため、このフィルム3は、更に伸びやすい(すなわち、力学的強度が低下している)状態にあることが多い。
【0050】
これに対し、フロート部材4を配置する態様においては、該フロート部材4がフィルム3をサポートしているため、水または養液6の水位が上下するにつれ栽培ベッドが追従し、フィルム3にかかる荷重が軽減(ないし荷重が実質的に除去)される。
【0051】
(フロート部材)
器具1のフロート部材4の材質、厚さ等も、特に制限されず、基本的には水または養液6に浮かべることのできる材料(すなわち、水または養液6より比重が小さい材料)から適宜選択することが可能である。
【0052】
必要に応じて、水または養液6とフィルムの接触を容易にする手段を採用しても良い。このような手段としては、例えば、フロート部材4にはスリット状または円、楕円、多角形、星形その他の形状の孔を1個以上開けることができる。または、フィルム上にかかる荷重を考慮して、水または養液6に浮いている状態でフロート部材4の表面レベルが水または養液6の表面レベルに近くなるように、フロート部材4の浮力を調節すること等も可能である。
【0053】
例えば、フロート部材4の材質としては、軽量化、易成形性および低コストの点からはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の汎用プラスチックの発泡体あるはこれらプラスチックの板状の製品が好適に使用可能である。
【0054】
(断熱材で囲む態様)
水または養液6を囲む部材として、断熱性の材料を使用した本発明の態様においては、該水または養液6は断熱材で囲まれることになるため、水または養液6の量が、従来の水耕栽培よりも少ないことと合わせて、水または養液6の加温または冷却を、更に効率的に行うことができる。
【0055】
(追加的手段)
図2の態様においては、必要に応じて、フィルム3の上に土壌などのマトリックス8、および/又は、水蒸気を通さないか、または低透過性の蒸発抑制部材9(例えば、後述するマルチング材)を配置することができる。このような蒸発抑制部材9を配置することにより、フィルムから大気中に蒸散する水蒸気をマルチング材表面あるいはマトリックス中に凝結させ、水として植物が利用できる。
【0056】
更に、必要に応じて、フィルム3の上には間歇的に水または養液を供給するための潅水手段11(例えば、点滴チューブ)を配置することができる。このような潅水手段11を配置することにより、植物がフィルムを介して摂取する水または肥料成分が不足した場合に、それを補うことができるというメッリトを得ることができる。
【0057】
更に、必要に応じて、水または養液中には、水または養液6を加温または冷却する温度制御手段10(例えば、水あるいは媒体を通すためのパイプ)を配置することができる。このような温度制御手段10を配置することにより、水または養液温度を制御し、フィルム上の植物の根圏温度を効率的に調整し、生長を促進するというメリットを得ることができる。
【0058】
更に、必要に応じて、収容部2の上部に細霧噴霧用手段12(例えば、バルブ)を配置し、間歇的に水、養液または農薬希釈液を噴霧することができる。このような細霧噴霧用手段12を配置することにより、水の間歇的噴霧による特に夏季の冷却、水または養液の噴霧による環境の冷却、葉面散布による肥料成分の供給、あるいは農薬の配合された水または養液の噴霧による農薬の散布、などが可能となるというメリットを得ることができる。
【0059】
図2の構成においては、上記した以外の構成は図1におけると同様である。
【0060】
(マルチング材)
本発明においては、いわゆる「マルチング材」も、好適に使用することができる。ここに、「マルチング材」とは、植物の生長を助けるため、防寒・乾燥防止などを目的として、根元や幹などに施すために使用されるフィルムなどの材料を言う。このようなマルチング材を用いた場合には、水分の有効利用性が高まるというメリットを得ることができる。
【0061】
すなわち、本発明によるシステムでは、水または養液からフィルム中に移動した水が、フィルムに密着した植物の根によって直接吸収される以外に、土壌側のフィルム表面から水蒸気として蒸発する傾向がある。このように蒸発する水蒸気を大気中にできる限り逃がさないようにするために、土壌表面をマルチング材で覆うことができる。マルチング材で覆うことにより、土壌側のマルチング材表面に水蒸気を凝結させ、水として植物が利用することができる。
【0062】
(潅水手段)
潅水手段11(例えば、点滴チューブ)は土壌等のマトリックスに、水または養液を間歇的に少量ずつ供給するために用いることができ、土のもつ緩衝機能を活かしながら栽培するためのものである。例えば、水が貴重なイスラエルで開発された点滴チューブ(例えば、「ドリップチューブ」とも称される)であるが、点滴潅水で作物の生育に必要な水および肥料をできるだけ少量供給する手段として用いることができる。
【0063】
(細霧噴霧手段)
施設栽培で夏季における高温対策として行われる遮光や換気だけでは間に合わず、かといって冷房をするにはエネルギーコストが上がってしまう場合がある。そこで、細霧噴霧用手段12を配置して、細霧噴霧と称される、非常に粒子の細かい霧状の水を植物に噴霧し、空気中の気化熱を奪い、植物体を冷却することができる。冷却の目的以外に、水に肥料および/または農薬を加え噴霧することにより、葉面からの肥料の吸収および/または農薬散布の省力化を兼ねて行うこともできる。
【0064】
(栽培方法)
本発明においては、上記した構成を有する栽培器具1を使用する限り、これと組み合わせて使用すべき栽培方法は、特に制限されない。本発明において好適に使用可能な栽培方法の態様を、以下に述べる。
【0065】
(栽培方法における一体化)
本発明の栽培方法において、根とフィルムとの「一体化」とは、(リザーバ内の水または養液の如何に関わりなく)根−フィルム間の剥離強度が、2g以上であることを言う。この剥離強度は、更には3g以上であることが好ましく、更には4g以上であることが好ましい。この剥離強度の測定方法は、リザーバ5内に収容される媒体6(水または養液)が、実際の栽培方法において使用される「水または養液」であること以外は、後述する「フィルム材質確認」の場合と同様である。
【0066】
(好適な栽培方法−1)
本発明において、植物体の特定の成分(たとえば、硝酸態窒素)を低減することを意図する際には、基本的には、(養分濃縮を避けるため)フィルム3下のリザーバ5からは水しか供給しないことが好ましい。ただし、必要に応じて、多少の養分を、フィルム3の下のリザーバ5に加えても良い。フィルム3下に養分を加えた場合には、(他は同じ条件として)フィルム3下に養分を加えない場合と比較して、該フィルム3と根の「一体化」(すなわち、水のみをリザーバ5中で用いる場合を考慮して、後述するフィルム−根の剥離強度が2g以上)が促進される、即ち、フィルム3からの根の剥離強度が増大する傾向がある。
【0067】
根とフィルム3の「一体化」が促進される前に、フィルム3上から水分を加え過ぎると、植物は摂取し易いフィルム3上の水分を吸収してしまい、フィルム3を介して水分を摂取しなくなる(よって、根がフィルム3と一体化し難くなる)傾向がある。したがって、根がフィルム3と一体化するまでは、フィルム3上からは、過度の水分を加えることは好ましくない。
【0068】
他方、根がフィルム3と一体化した後であれば、適宜、フィルム3上から水分/養分を与えても良い。ただし、このように「フィルム上から/養分を与える」場合には、以下の点に注意することが好ましい。
【0069】
本発明の、根がフィルム3と一体化することにより、根はフィルム3から水または養分を吸い上げることができ、植物が生長していくために必要な最小限の水を得ることができる。より生長を促進させる目的で、フィルム3上からも、水または養分を加える場合には、この根とフィルム3の一体化が維持されることが必要である。即ち、フィルム3上に常時、過剰な水があると、根はフィルム3を介して、水または養液を吸うことを止め、フィルム3上に供給される水または養液だけを摂取するようになる。
【0070】
この場合には、根とフィルム3の一体化が弱くなって、根がフィルム3から水または養液を吸う力が弱くなる、あるいは全く吸う力が無くなってしまう。即ち、本発明の最も重要な、フィルム3による水分抑制がかからなくなり、高品質化が抑制される傾向が生ずる。どの程度、フィルム3の上から水または養液を加えることが可能かは、植物の種類や生育段階、および栽培環境で異なるが、少なくとも、昼間の太陽が当っている時期に過剰な水または養液がフィルム3上に存在することは避けるべきである。即ち、夕方以降にフィルム3上に供給された水分が、太陽が当って温度上昇が始まるまでには消費され、フィルム3上には殆ど無くなる程度の量が供給されるべきである。これは、植物の水分要求性は昼間が夜間に比較して著しく強く、昼間にフィルム3上の水が少ない程、植物はフィルム3を介して水あるいは養分を摂取しようとするために、一体化が促進されると同時に、水分規制がかかり、高品質化する。
【0071】
上記した条件の下で、フィルム3下に水を使用し、フィルム3上に養液を点滴し、植物体を生長させ、収穫の数日前からフィルム3上の点滴を水に変える事によって、生長性と品質を落とすことなく、硝酸態窒素などの含有量を低減することが可能になる。
【0072】
(好適な栽培方法−2)
図2の模式断面図を参照して、この態様においては、発泡ボードに代表される断熱材料のフロート部材4の上にフィルム3が配置され、水または養液6の上下に追従して、常に水または養液6が不織布7に供給される。また、この態様においては、フィルム3と水または養液6とが不織布7を介して接触している。また、この態様においては、四方をリザーバ5と発泡ボードに代表される断熱材料で囲まれた水または養液6を内部に配置したパイプ10の中に温水あるいは冷水を通すことによって、該水または養液6を加温あるいは冷却することもできる。
【0073】
また、この態様においては、発泡ボードに代表される断熱材料がマルチング材9として機能し、フィルム3から蒸散する水蒸気の大気中への飛散を防ぐことが出来る。また、この態様においては、マトリックス(土壌)8に点滴チューブ11を配置することで、制御された量の水または養液をマトリックス(土壌)8に供給できる。また、この態様においては、植物体の上部に配置された細霧噴霧用バルブ12を通じて、水または養液に農薬または栄養素を加えた液を間歇的に細霧噴霧することができる。
【0074】
(本発明の利点)
上記構成を有する本発明の栽培用器具ないし栽培方法を用いることにより、植物に対する酸素供給が、植物に対する水または養分供給から機能分離されることとなる。すなわち、従来の養液栽培の最大の問題点であった根への酸素供給が、空気中から容易に行われる。一方、水または養分は、フィルムを介して植物に供給される。したがって、本発明においては、水または養液6の濃度、pH等の管理に関し、従来の養液栽培におけるよりも遥かに自由度が増大する。すなわち、本発明においては、植物体がフィルムによって、水または養液6と物理的に分離されているため、実質的に、植物体とは無関係に水または養液6を管理することが可能となる。換言すれば、栽培途中における水または養液6自体の交換および水または養液の濃度、pH等の管理が極めて容易になる。
【0075】
更に、本発明によれば、水または養液中の有害細菌から、植物体を隔離することが極めて容易である。加えて、フィルムを介して接触する水または養液からの水分供給が、植物に対しては比較的抑制されるため、糖度等の栄養成分が高くなるという点で植物の品質の向上も可能となる。
【0076】
(各部の構成)
以下、本発明の栽培用容器1の各部の構成について詳細に説明する。このような構成(ないしは機能)に関しては、必要に応じて、本発明者による文献(WO 2004/064499号)の「発明の詳細な説明」、「実施例」等を参照することができる。
【0077】
(フィルム)
本発明において、植物栽培用器具1を構成するフィルム3は、「植物体の根と実質的に一体化し得る」であることが特徴である。本発明において「植物体の根と実質的に一体化」できるか否かは、例えば、後述する「一体化試験」によって判断できる。本発明者らの知見によれば、「植物体の根と実質的に一体化し得る」フィルム3としては、以下のような水分透過性/イオン透過性のバランスを有するフィルムが好ましいことが見出されている。本発明者らの知見によれば、このような水分/イオン透過性のバランスを有するフィルムにおいては、栽培すべき植物の生長(特に、根の生長)に好適な水分/養分透過性のバランスが容易に実現できるため、根と実質的に一体化が可能となると推定される。
【0078】
本発明において、植物はフィルムを通して肥料をイオンとして吸収するが、このように使用するフィルムの塩類(イオン)透過性が、植物に供給される肥料成分の量に影響すると推定される。該フィルムを介して水と塩水を対向して接触させた際に、下記に示す測定開始4日後の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のイオン透過性を有するフィルムを好適に用いることができる。このようなフィルムを用いた際には、根に対して好適な量の水分および養分が供給され、該フィルムと根の一体化が促進される。
【0079】
このフィルムは、耐水圧として10cm以上の水不透性を有することが必須である。このようなフィルムを用いた際には、根に対する好適な酸素供給および該フィルムを介しての病原菌汚染を防止することが容易となる。
【0080】
(耐水圧)
耐水圧はJIS L1092(B法)に準じた方法によって測定することができる。本発明のフィルムの耐水圧としては10cm以上、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。
【0081】
(水分/イオン透過性)
本発明においては、上記フィルム3は、該フィルムを介して水と塩水(0.5質量%)とを対向して接触させた際に、測定開始4日後の水/塩水の栽培温度において測定した電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、更には3.5dS/m以下であることが好ましい。特に、2.0dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、以下のようにして測定することが好ましい。
【0082】
<実験器具等>
なお、本明細書の以降の部分(実施例も含む)において用いた実験器具、装置および材料は、(特に指定がない限り)後述する「実施例」の前の部分に示した通りである。
【0083】
<電気伝導度の測定方法>
肥料は、通常イオンの形で吸収されるため、液中に溶けている塩類(あるいはイオン)量を把握することが望ましい。このイオン濃度を測定する手段として電気伝導度(EC、イーシー)を用いる。ECは比導電率ともいい、断面積1cm2の電極2枚を1cmの距離に離したときの電気伝導度の値を使用する。単位はシーメンス(S)が使われ、S/cmとなるが肥料養液のECは小さいので、1/1000のmS/cmを使う(国際単位系ではdS/m(dはデシ)と表示する)。
【0084】
実際の測定においては、上記した電気伝導度の測定部位(センサー部)にスポイトを用いて試料(例えば溶液)を少量乗せ、導電率を測定する。
【0085】
<フィルムの塩/水の透過試験>
市販の食塩(例えば、後述する「伯方の塩」)10gを水2000mlに溶解して、0.5%塩水を作製する(EC:約9dS/m)。
【0086】
図3を参照して、上記「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記の塩水150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、塩水側のECを測定する。
【0087】
本発明においては、フィルムを介する植物の根の養分(有機物)吸収を容易とする点からは、上記フィルムは、所定のグルコース透過性を示すことが好ましい。このグルコース透過性は、下記の水/グルコース溶液の透過試験により好適に評価できる。本発明においては、上記フィルムは、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の栽培温度において測定した濃度(Brix%)の差が4以下であることが好ましい。この濃度(Brix%)の差は、更には、3以下、より好ましくは2以下(特に1.5以下)であることが好ましい。
【0088】
<フィルムの水/グルコース溶液透過試験>
市販のグルコース(ブドウ糖)を用いて5%グルコース溶液を作製する。上記塩水試験と同様の「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記のグルコース溶液150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、グルコース溶液側の糖度(Brix%)を糖度計で測定する。
【0089】
(植物との一体化)
後述する実施例3の条件(バーミキュライト使用)で、試験を行う。すなわち、サニーレタス(本葉1枚強)を2本用いて、実施例3の液肥(原液ハイポネックス1000倍希釈液)条件で、35日間、植物の生長試験を行う。
【0090】
得られた植物とフィルムの系において、植物苗の根元で茎葉を切断する。根の密着したフィルムの茎がほぼ中心になるように、該フィルムを巾5cm(長さ:約20cm)に切断して試験片とする(図6を参照)。
【0091】
図4を参照して、ばね式手秤に市販のクリップを付け、上記で得た試験片の一方をクリップで固定して、ばね式手秤の示す重量(試験片の自重に対応=Aグラム)を記録する。次いで試験片の中心にある茎を手で持ち、下方に緩やかに引き下げて、根とフィルムが離れる(または切断される)際の重量(荷重=Bグラム)をばね式手秤の目盛りから読み取る。この値から初期の重量を差し引き、得られた(B−A)グラムを巾5cmの引き剥がし荷重とする。
【0092】
本発明においては、このようにして測定された剥離強度において、前記植物体の根に対して5g以上の剥離強度を示すフィルムが好適に使用可能である。この剥離強度は、更には10g以上、特に30g以上であることが好ましい。
【0093】
(一体化の意義)
本発明において、このフィルムと根の「一体化」の定義・測定方法は、原則として、フィルム材質確認の場合のみに用いるものとする(すなわち、前述した栽培方法におけるフィルムと根の「一体化」においては、測定方法が異なる場合がある)。
【0094】
(光学顕微鏡による確認)
上述したように、本発明においては、フィルムと植物の根の一体化は、根が密着したフィルムから根を引き剥すため必要な荷重の大きさで評価することができるが、この一体化は、光学顕微鏡によっても確認することができる。例えば、図16に示すように、根とフィルムの界面の光学顕微鏡写真において、根とフィルムが一体化して、根がフィルム表面を実質的に隙間無く覆っていることが観察され、フィルムと植物の根が一体化していることが確認されている。
【0095】
(フィルム材料)
上述した「根と実質的に一体化し得る」性質を満足する限り、本発明において、使用可能なフィルム材料は、特に制限されず、公知の材料から適宜選択して使用することが可能である。このような材料は、通常フィルムないし膜の形態で用いることができる。
【0096】
より具体的には、このようなフィルム材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セロファン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、ポリエステル等の親水性材料が使用可能である。
【0097】
植物栽培目的のフィルムとしては、耐久性の面で微生物による腐食性が無いこと、および太陽光あるいは人工光により劣化が無いことが望ましい。
【0098】
上記フィルムの厚さも特に制限されないが、通常は、300μm以下程度、更には200〜5μm程度、特に100〜20μm程度であることが好ましい。
【0099】
(器具・収容部・リザーバ)
該器具1の収容部2の形状、大きさ、ないしは該収容部を与えるためのリザーバ5の材質、厚さ等も、特に制限されず、育成すべき植物の水分消費量、容器の内容積、植物支持体(土壌等)の通気性、水の温度等の種々の条件を考慮して、適宜選択することが可能である。
【0100】
例えば、リザーバ5の材質としては、軽量化、易成形性および低コスト化の点からはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の汎用プラスチックあるはこれらプラスチック発泡製品が好適に使用可能である。
【0101】
(フィルムの含水率)
本発明者の知見によれば、無孔性親水性フィルムがイオン透過する理由は、肥料成分であるイオンが水と共にフィルムの片側から中に浸透し、反対側のフィルム面に到達するためであると推定される。このメカニズムに従えば、例えば、フィルムの含水率を大きくすることにより、水分および肥料成分を増大させることができる。
【0102】
後述する実施例15には、フィルムの含水率を測定した結果を示す。(この実施例において使用したフィルムは、フィルム種類や厚みによる含水率の差は、比較的に小さいものであった)。本発明においては、例えば、含水率をより高めたフィルムに改質することにより、水分または肥料成分等の透過を、更に大きくすることができる。このように、含水率をより高めるためのフィルム改質は、フィルムに親水性をより多く持たせることで、例えば、[文献:P.J.フローリー著「高分子化学I」昭和40年8月20日第3版第9刷 訳者 岡 小天、金丸 競発行所 丸善株式会社 P38〜47、P48〜54、P168〜221]で参照される方法で、水酸基(OH)などの親水基を含む分子をより多く、共重合することで可能となる。また、表面改質方法があり、その詳細は、例えば[文献:「電気電子用プラスチック材料」発行 2002年3月 東レリサーチセンター P47〜77]を参照することができる。
【0103】
(フィルムへのイオン基の導入)
一般に、植物は肥料成分を水に溶けた状態のイオンとして吸収する。例えば、肥料成分の1つである窒素は、アンモニア性窒素または硝酸態窒素として植物に吸収されるが、どちらの成分を吸収し易いかは植物によって異なる。従来は、供給する肥料としてアンモニア性窒素または硝酸態窒素のバランスを変えることが行われてきた。本発明のシステムにおいては、例えばフィルム中にチャージを持ったイオン基を導入することにより養液中のイオンを透過しにくくしたり、透過しやすくしたりできる。このような、フィルム組成へのイオン基の導入の詳細に関しては、例えば、[文献:P.J.フローリー著「高分子化学I」昭和40年8月20日第3版第9刷 訳者 岡 小天、金丸 競発行所 丸善株式会社 P38〜47、P48〜54、P168〜221]で参照される方法で、イオン基を導入することで可能となる。また、表面改質方法があり、その詳細は、例えば[文献:「電気電子用プラスチック材料」発行 2002年3月 株式会社東レリサーチセンター P47〜77]を参照することができる。
【0104】
(容器の形成方法)
上記を構成する植物栽培用器具の使用方法は特に制限されないが、例えば、該容器中に植物保持用マトリックスおよび植物体を配置し、少なくとも前記フィルムを水もしくは肥料溶液に接触させつつ、該植物体を栽培すればよい。
【0105】
(植物体)
本発明において栽培可能な植物(体)は、特に制限されない。本発明の栽培方法においては、植物の生長した根が、上記したフィルムと一体化した後に、該フィルムを介して接する液体からの肥料成分吸収が可能となるため、該植物は、ある程度生長した苗の状態であることが望ましい。ただし、該植物を保持すべきマトリックス(ないし土壌)中に、該植物がフィルムと一体化するまでの根の成長を可能とする程度の養分および水分を含有ないし混入することにより、種子ないし発芽直後の種子であっても、本発明の栽培方法により栽培することが可能となる。
【0106】
また、本発明においては、支持体無しで、直接フィルム上に植物体(例えば、種子)を蒔いて発芽させ、生育させることも可能である。
【0107】
(マトリックス、土壌)
上述したように、通常使用される土壌ないし培地は、本発明において、いずれも使用可能である。このような土壌ないし培地としては、例えば、土耕栽培に用いられる土壌、および水耕栽培に用いられる培地が挙げられる。
【0108】
例えば、無機系では天然の砂、れき、パミスサンドなど、加工品(高温焼成等)では、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、セラミック、籾殻くん炭など。有機系では天然のピートモス、ココヤシ繊維、樹皮培地、籾殻、ニータン、ソータンなど、合成品の粒状フェノール樹脂などがある。また、これらの混合物でもよい。また、合成繊維の布あるいは不織布も使用可能である。必要最小限の肥料および微量要素を、これらの土壌ないし培地に加えてもよい。本発明者らの知見によれば、本発明の栽培器具/栽培方法においては、植物の根が、フィルムを介して接触する水または養液側から吸収可能な程度に伸びるまでの水または養分は、ここに言う「必要最小限の水分、肥料および微量要素」として、フィルムより上側(すなわち、植物側)に加えておくことが望ましい。
【0109】
(養液)
本発明において使用可能な養液(ないし肥料溶液)は特に制限されない。例えば、従来の養液栽培ないし水耕栽培において使用されてきた液状成分は、本発明においていずれも使用可能である。
【0110】
一般には、水または養液として植物の生育にとって必要不可欠な無機成分としては、主要な成分として:窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、微量成分として:鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)が挙げられる。さらにこの他に、副成分として、珪素(Si)、塩素(Cl)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)等がある。必要に応じて、本発明の効果を実質的に阻害しない限り、その他の生理活性物質も加えることができる。更に、グルコース(ブドウ糖)などの糖質、アミノ酸等を添加することも可能である。
【0111】
(根圏温度の制御)
本発明においては、必要に応じて、フィルムを介して植物体の根と接触する液体(例えば、水または養液)の温度を制御することにより、該フィルムと一体化すべき(ないしは、既に一体化した)根周辺の温度、すなわち根圏温度を調節することができる。このような態様によれば、温室等の室内全体を暖房/冷房していた従来の方式と比べて、植物の根圏温度を精密に、且つ省エネルギー的にコントロールすることが容易となる。
【0112】
本発明においては、特に、植物体の根がフィルムと密着ないし一体化しているため、根圏温度の制御が特に容易である。
【0113】
加えて、本発明によるシステムでは加温、冷却すべき水または養液の量が極めて少ないこと、従来の養液栽培のように、養液の溶存酸素を増やす操作が不要であること、あるいは、栽培ベッド中の水または養液が外気と直接に触れず、密閉されているため保温効果に優れ、全体として加温冷却を効率的に行うことができ、エネルギーコスト的に極めて優位性が高い。
【0114】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0115】
実施例1
(無孔性親水性フィルムを用いた小松菜の栽培における硝酸態窒素低減試験)
1)栽培方法
栽培ベッド:高設架台に30mm厚みエスレンボード(ビーズ発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))により作製した、巾90cm×長さ28m×深さ12cmの箱を設置した。箱を水槽とするためポリフィルム(農業用ポリエチレンフィルム)を内側に敷いた。養液を深さ約5cmまで加えた。養液の上に無孔性親水性フィルム(Hymecフィルム(厚さ40μm);メビオール(株))を敷き、端は水槽の外側に垂らした。
マトリックス:マトリックスとして、Hymecフィルムの上に不織布25S(メビオール(株))を敷いた。
点滴チューブ:マトリックスの上にドリッパー間隔10cmの点滴チューブ(吐出量1.05L/hr(ネタフィム社))約30mを敷いた。
【0116】
マルチング:巾約85cm×長さ180cm×厚み20mmエスレンフォーム(低発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))に15cm間隔で、苗植付け用の孔を開け、マトリックスの上に乗せ並べた。更に、同様15cm間隔に孔を開けた白黒マルチフィルム(「こかげ」厚み0.025mm:大倉工業(株))で発泡ボードの孔と合わせ、水槽ごと被覆した。
苗:小松菜の種をプラグトレーに播種し、作製した苗を使用。
苗の植付け:栽培ベッドに小松菜200株を植付けた。
【0117】
点滴チューブによる潅水:点滴チューブの端から4.22〜4.30までは水を、5.1〜5.6養液を注入供給し、5.7〜5.12には再度水に切り替えた。
【0118】
養液:(1)硝酸態窒素低減を目的とした栽培ではフィルム下に、水道水を使用した。また、フィルム上方より点滴チューブによる、潅水(水または養液)をおこなった。(2)比較対照実験としては、フィルム下に、大塚化学(株)製 大塚ハウス1号、2号、5号をそれぞれ1.5g/L、1g/L、0.05g/Lの割合で混合した養液を使用した。フィルム上方からの潅水は行わなかった。
【0119】
栽培場所:沖縄県島尻郡
栽培期間:4.22〜5.12
【0120】
2)結果
表1に結果を示す。
【0121】
表1 小松菜の硝酸態窒素含量(ppm)測定結果
【表1】
【0122】
硝酸態窒素の測定は、小松菜の葉(茎)を「にんにく搾り器」で搾り、搾り汁を硝酸イオンメーター(コンパクトイオンメーター C−141;(株)堀場製作所製)により測定した。
【0123】
硝酸態窒素低減を目的とした試験区の結果は、5/7には小松菜の草丈が20cmを超え、硝酸態窒素含有量が3,000ppmであったが、フィルム上からの点滴を水に変えたところ、5/12には硝酸態窒素含量を890ppmまでに下げることができた。
比較対照区の結果は、5/7には小松菜の草丈が同様に20cmを超え、5/12における硝酸態窒素は6000ppmであった。
【0124】
以上の結果から、フィルムの下に水のみを使用し、生育段階に応じてフィルム上から養液または水を適宜潅水することで、野菜の硝酸態窒素を大幅に引き下げることが可能であることがわかった。
【0125】
実施例2
(無孔性親水性フィルムを用いたトマト栽培)
1)方法
栽培ベッド:高設架台に40mm厚みエスレンボード(ビーズ発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))により作製した、巾45cm×長さ28m×深さ12cmの箱を設置した。箱の底面には冷却水を通し、往復させるためのパイプ(積水潅水PE管K20;積水化学工業(株))を2本設置した。箱を水槽とするためポリフィルム(農業用ポリエチレンフィルム)を内側に敷いた。養液を深さ約7cmまで加え、エスレンフォーム(低発泡ポリスチレンボード:積水化成工業(株))からなる巾約43cm×180cm×厚み20mmのフロート板(浮き板)を水槽に浮かべ並べた。フロート板を揚水用不織布(メビオールシート(メビオール(株))で被覆し、不織布は端が養液の中に浸るように設置した。フロート板上の揚水用不織布の上に無孔性親水性フィルム(Hymecフィルム(厚さ65μm);メビオール(株))を敷き、端は水槽の外側に垂らした。28m長さの栽培ベッドを2系列用意した。
【0126】
養液:大塚化学(株)製 大塚ハウス1号、2号、5号をそれぞれ1.5g/L、1g/L、0.05g/Lの割合で溶解混合した養液を使用した。
マトリックス:マトリックスとして、下記2種類をHymecフィルムの上に約1cmの深さで敷いた。
1)ピートモス(PEAT MOSS(Horticultual Grade 170l入り(Canadian Supreme Ltd.))、2)ピートモス、バーミキュライト(大粒 50l入り;(株)トーホー)、赤土(島尻赤土;(有)緑工産業)を容積比 2:2:1で混合使用した。
【0127】
点滴チューブ:マトリックスの上にドリッパー間隔10cmの点滴チューブ(吐出量1.05L/hr(ネタフィム社))約30mを敷いた。
【0128】
マルチング材:巾約43cm×長さ180cm×厚み20mmエスレンフォーム(低発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))の中央に30cm間隔で、苗植付け用の孔を開け、マトリックスの上に乗せ並べた。更に、同様30cm間隔に孔を開けた白黒マルチフィルム(「こかげ」厚み0.025mm:大倉工業(株))で発泡ボードの孔と合わせ、水槽ごと被覆した。
【0129】
トマト苗:品種 桃太郎ファイトのセルトレー苗((株)サザンプラント)、草丈約18cm
苗の植付け:2列の栽培ベッドに87本/1列の苗を植付け
点滴チューブによる潅水:点滴チューブの端から苗1本あたり30ml/日の養液を注入供給し、着花後は60ml/日とし、果実白熟期以降は停止した。
【0130】
栽培場所:沖縄県島尻郡
栽培期間:11.2〜3.5
【0131】
2)結果
植付後30日目に第1花房の開花が始まり、養液潅水量を60ml/日・本とした。
65日目に1〜2段目のみ残し、低段栽培とし、80日目に点滴潅水を停止した。
90日目には果実が色づき始め、95日目に収穫を開始した。
全体で約700個の果実をつけ、尻腐れは全く認められなかった。
又、トマトの根によるフィルムの破損は全く認められなかった。
表2に植付け後100日目に収穫したトマトの重量と果実サイズを測定した結果を示す。
【0132】
表2 トマトの測定結果(100日目)
【表2】
【0133】
代表的なサンプルの糖度は(Brix%)はサンプル(a)について9.3、9.5(n=2で測定)、サンプル(b)について8.4、8,3(n=2で測定)であった。また、トマトのリコピン含量は26.4mg/100gであり、市販品のトマト(品種:桃太郎ファイト)のリコピン含量3.3mg/100gに対し8倍もの高い値であった。リコピン含量は、外部測定機関(株)マシスにおいてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法により実施した。
【0134】
上記した実験系の概略を示す写真を図20に示す。また、上記で得られたトマトの写真を図21に示す。
以下で用いた実験方法は、上述したものの他は、以下の通りである。
【0135】
<水の蒸発量測定>
図5の模式断面図を参照して、上述した「ざるボウルセット」を使い、ざるにフィルム(200〜260×200〜260mm)を敷いた後に土壌を加え、植物の苗(1〜2本)を植え付ける。ボウルに水あるいは所定濃度の肥料希釈液を加え、この上にざるを乗せた。定期的に上皿天秤にて重量を測定し、減量から液の蒸発量を測定した。蒸発により減量した液は随時追加した。
【0136】
<成長過程の観察>
苗の成長過程の観察は、デジタル写真により撮影した(デジタルカメラ:キャノン社製 IXY Digital 200a)。
<試験終了後の観察ならびに測定>
試験終了後は、根の乗っているフィルムの裏側をフィルム越しに、あるいはフィルムを除き、根の部分を中心に写真撮影を行った。成長した苗の重量測定は、根の付いたまま、あるいは根元で切断し、茎葉部分を秤量した。
【0137】
<pHの測定>
pHの測定は後述のpHメーターによって行った。標準液(pH7.0)で校正したpHメーターのセンサー部分を測定すべき溶液につけ、本体を軽く揺らし、値が安定するのを待ち、LCD(液晶)表示部に表示される値を読み取った。
【0138】
<Brix%の測定>
Brix%測定は後述の糖度計(屈折計)を用いて行った。測定溶液をスポイトでサンプリングし、糖度計のプリズム部分に滴下し測定後、LCDの値を読み取った。
【0139】
<実験器具等>
1.使用器具および装置
1)ざるボールセット:ざるの半径6.4cm(底面の面積約130cm2)
2)発泡スチロール製トロ箱:サイズ55×32×15cm等
3)上皿電子天秤:Max.1Kg 株式会社タニタ
4)ばね式天秤:Max.500g 株式会社鴨下精衡所
5)ポストスケール:ポストマン100 丸善社
6)電気伝導度計:Twin Cond B−173 株式会社堀場製作所
7)pHメーター:pHパル TRANS Instruments(グンゼ産業)
8)糖度計(屈折計):PR201 (株)アタゴ社製
【0140】
2.使用材料(土壌)
1)スーパーミックスA:水分約70% 微量肥料入り 株式会社サカタの種
2)ロックファイバー:栽培用粒状綿66R(細粒) 日東紡 成分(%)SiO2 43、CaO 33、Al2O3 15、MgO 6、Fe2O3 1以下、MnO 1以下
3)バーミキュライト:タイプGS ニッタイ株式会社
【0141】
(フィルム)
4)ポリビニルアルコール(PVA):40μm アイセロ化学
5)二軸延伸PVA:ボブロン 日本合成化学工業
6)親水性ポリエステル、同不織布付、生地付:12μm デュポン社
7)セロファン
8)浸透セロファン:横浜商事(株)
9)微孔性ポリプロピレンフィルム:PH−35(約40μm) トクヤマ
10)不織布:シャレリア(超極細繊維不織布)旭化成社
【0142】
(苗用種)
11)サニーレタス:レッドファイヤー タキイ種苗株式会社
12)パンジー:マキシムF−1 株式会社サカタの種
【0143】
(肥料)
13)原液ハイポネックス: 株式会社ハイポネックスジャパン
全窒素量 5.0%、内アンモニア性窒素 1.95%、硝酸態窒素 0.90%
水溶性リン酸 10.0%、水溶性カリ 5.0%、水溶性苦土 0.05%
水溶性マンガン 0.001%,水溶性ほう素 0.005%(その他)
14)伯方の塩:伯方塩業株式会社
100g中ナトリウム37.5g、マグネシウム110mg、カルシウム 90mg、カリウム50mg
15)ブドウ糖:ブドウ糖100 (株)イーエスNA
【0144】
実施例3
(液体肥料の効果)
図5の系を用いて、ハイポネックス原液の濃度の効果を調べた。すなわち、ハイポネックス100倍希釈液、1000倍希釈液、および水(水道水)の効果を比較した。
【0145】
大きさが約20cm×20cmのフィルム(PVA)内に土壌として、バーミキュライト、またはロックファイバーを約300ml配置した。この土壌内に、植物の苗として、サニーレタス(本葉1枚強)を2本配置した。土壌および溶液毎に6種類の系を作製し、それぞれの溶液に浸漬した。この際、溶液は各300ml使用し、フィルム(PVA)内の土壌が約2cmの深さで浸かるように配置した。実験はハウス内で行い、日照は自然のままのものとした。実験の際の気温は、約0〜25℃、湿度は50〜90%RH程度であった。
【0146】
水分蒸発量および溶液のEC値を、栽培開始後13日後、および35日後に測定した。35日後には、前述した「引き剥がし試験」も行った。
上記実験条件を纏めると、以下の通りである。
【0147】
1.実験
1)フィルム:PVA40μm(アイセロ化学)200×200mm
2)苗:サニーレタス 本葉1枚強
3)土壌:バーミキュライト(細粒)、ロックファイバー66R
4)溶液: 水、ハイポネックス原液 100倍希釈水溶液、1000倍希釈水溶液
5)器具:ざるとボールのセット
6)置き場所:ハウス(温度湿度制御無し)
【0148】
7)実験方法: ざるにフィルム(200×200mm)を介しバーミキュライト150g(水分73%、乾燥重量40g)、ロックファイバー200g(水分79%、乾燥重量40g)を加え、苗を2本植え付ける。ボウルに水または養液を240〜300g加え、ざるを乗せた。
8)期間:10.29〜12.42.上記実験により得られた結果を、下記表1に示す。
【0149】
(表3)
【表3】
【0150】
EC:液肥追加前/追加後
【0151】
上記した表3のデータ(例えば、100倍希釈−1000倍希釈−水のデータ比較)により、植物がフィルムを介して肥料溶液中から成長に必要な肥料成分を得ていることも、容易に理解できよう。また、水と比較して肥料溶液を使用すると、引剥がし強度が顕著に増加し、肥料成分が根とフィルムの一体化を促進することがわかる。
【0152】
実施例4
養液として用いた液体肥料の濃度を、ハイポネックス1000倍、2000倍、3000倍希釈とし、表4に示した項目以外は、実施例3と同様に実験を行った。
「ざる」にフィルムを介し土壌200g(水分79%、乾燥重量40g)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水または肥料溶液を240g加え「ざる」を乗せた。(実施期間:10.30〜12.4)
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0153】
(表4)
【表4】
EC:液肥追加前/追加後
【0154】
(実験結果に対する記述)
液体肥料の希釈倍率によって、植物生長の程度は実施例3と同様に濃度の濃い方が成長しており、フィルムを介して肥料成分を吸収していることが理解できる。
【0155】
実施例5
(バーミキュライト/PVA液体肥料効果)
バーミキュライト/PVAの系を用いて、水とハイポネックス1000倍希釈液の効果を比較した。表5に示した以外は、実施例3と同様に実験を行った。
「ざる」にフィルムを介し土壌235g(水分63%)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水または肥料溶液を約250ml加え「ざる」を乗せた(実施期間:10.22〜11.25)。
上記実験により得られた結果を纏めれば、以下の通りである。
【0156】
(表5)
【表5】
EC:液肥追加前/追加後
【0157】
引き剥がし試験:ポストスケール使用
(実験結果に対する記述)
肥料溶液のEC値は、初期0.5dS/mに対し、最終35日目には0.22dS/mと低下し、明らかに肥料が消費されていた(水分蒸発を考慮すると、液体肥料の消費量は、さらに大きいと思われる)。
【0158】
実施例6
土壌としてバーミキュライトを用い、フィルムを黒不織布付親水性ポリエステルとし、表6に示した項目とした以外は、実施例3と同様に実験を行った。
<バーミキュライト/不織布付親水性ポリエステル液体肥料効果>
実験は、「ざる」にフィルムを介し土壌230g(水分76%、乾燥重量55g)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水、または肥料溶液を約200g加え「ざる」を乗せた。
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0159】
(表6)
【表6】
【0160】
(実験結果に対する記述)
30日目における根と茎葉の重量を、肥料溶液と水で比較すると、明らかに肥料溶液の方が大であり、肥料を吸収していることが理解できる。
【0161】
実施例7
土壌としてロックファイバー(使用量:乾燥重量10、20、30g)を用い、表7に示した項目以外は、実施例3と同様に実験を行った。
<ロックファイバー量の効果>
「ざる」にフィルムを介し土壌50〜150g(水分83%、乾燥重量10、20、30g)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水、または肥料溶液を290〜390g加え「ざる」を乗せた。(期間:11.1〜12.4)
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0162】
(表7)
【表7】
引き剥がし試験:ばね式秤を使用
【0163】
(実験結果に対する記述)
土壌量10gの場合には10日目で枯れ、根の成長が進む前に水分不足により枯れたと思われる。従って、適度な土壌量が極めて好ましいと考えられる。
【0164】
実施例8(各種フィルムの差)
上記した方法で、各種フィルムに関して、水による苗の成長を観察した。フィルムとしては、PVA、二軸延伸PVA(ボブロン)、親水性ポリエステル3種の計5サンプルを用いた。
ざるにフィルム(260×260mm)を介し土壌500mlを加え、苗を2本植え付ける。ボウルに水250mlを加え「ざる」を乗せた。期間は8月17日〜9月14日である。
【0165】
(表8)
【表8】
【0166】
(実験結果に対する記述)
不織布付親水性ポリエステルの水分蒸発量が突出しているが、不織布からの蒸発が含まれているためと考えられる。
【0167】
最終苗の本葉数は、不織布付親水性ポリエステル≧PVA>親水性ポリエステル≧ボブロン>生地付親水性ポリエステルの順であった。これは、根の発育状況と同様の傾向であった。
【0168】
実施例9
(塩水透過試験)
前述の<フィルムの塩/水透過試験>方法に従って、各種フィルムの塩水透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、親水性ポリエステル、セロファン、PH−35、超極細繊維不織布(シャレリア)の6種である。
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0169】
(表9)
【0170】
【表9】
上記データをグラフ化したものを図7に示す。
【0171】
(実験結果に対する記述)
6種類のフィルムのうち、PH−35は塩水の透過が認められなかった。その他のフィルムでは、超極細繊維不織布は水と共に塩が完全に透過しているが、PVA、親水性ポリエステルおよびセロファンも比較的早く塩の透過が進んでいる。ボブロンは塩の透過速度が小さいものの、4日目には塩水系と水系とのEC値の差が4.5以内になっている。
【0172】
実施例10
(ブドウ糖透過試験)
<グルコース(ブドウ糖)透過試験>
下記の<グルコース(ブドウ糖)透過試験>方法に従って、各種フィルムのブドウ糖透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、セロファン、浸透セロファン、PH−35の5種である。
【0173】
前述のざるボウルセットを使用し、ボウルに5%ブドウ糖水溶液(ブドウ糖50g/水1000ml)150gを加え、ざるに200×200mmのフィルムを敷き、水150gを加えて、ボウルに乗せた。それぞれの濃度と重量の経時変化を測定した。
【0174】
<濃度測定>
糖度計(屈折計)を用いてBrix%を測定した。Brix%はショ糖を水に溶解したときの重量%の単位で、例えば100g中に10gのショ糖が溶けている液はBrix10%となる。
【0175】
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0176】
(表10)
【0177】
【表10】
【0178】
上記データをグラフ化したものを、図8に示す。
【0179】
(実験結果に対する記述)
5種類のフィルムのうち、ボブロン、PH−35を除いた、PVA、セロファンおよび浸透セロファンは実験開始から3日目程度で、ブドウ糖系と水系とのBrix値の差が1以内になり、ブドウ糖がフィルムを透過していることが判る。
【0180】
実施例11
(耐水圧試験)
JIS L1092(B法)に準じた試験により、200cmH2Oの耐水圧試験を行った。
【0181】
実験結果
フィルム種 耐水圧(cmH2O)
PVAフィルム(40μm) 200以上
二軸延伸PVA(ボブロン) 200以上
セロファン 200以上
親水性ポリエステル 200以上
超極細繊維不織布 0
【0182】
実施例12
実施例9と同様にしてざるボールセット(ざるの半径6.4cm、容量130cm3)を用い、ざるに20×20cmのフィルムを乗せ純水を150g加え、ボール側に養液150gを加えて、サランラップで包んだ。サンプリング時間3、6、12、24、36、48、72hrsで計7個の容器を用意し、所定時間経過後100mlずつサンプル容器に採取した。各サンプル中の、主要肥料成分の分析を行った。
【0183】
1)透湿フィルム:PVAフィルム25μm(日本合成化学工業(株)製)、親水性ポリエステル20μm(デュポン社製)
2)水:蒸留水(和光純薬工業(株)製)、養液肥料:大塚ハウス1号 1.5g/L、2号 1g/L(大塚化学(株)製)
【0184】
3)分析方法
a)アンモニウムイオン、硝酸イオンおよび硫酸イオン:イオンクロマトグラフ法により分析(分析の詳細に関しては:「水の分析」第4版 日本分析化学会北海道支部編 発行(株)化学同人 1997年7月20日 第3章水の分析に用いられる分析法 3.7.3 イオンクロマトグラフィー(P125〜129)を参照することができる)。
【0185】
b)りん、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム:ICP(発光分光分析)法により分析(分析の詳細に関しては:「水の分析」第4版 日本分析化学会北海道支部編 発行(株)化学同人 1997年7月20日 第13章微量汚染物質と関連する分析法 13.10 ICP(P478〜480)を参照することができる)。
【0186】
主要成分のアンモニア性窒素(NH4−N)、硝酸態窒素(NO3−N)、りん酸(P2O5)、カリウム(K2O)、カルシウム(CaO)、マグネシウム(MgO)および硫黄(SO4)について、フィルム透過性の経時変化を表11〜表17に、またこれらのデータに対応するグラフを図9〜図15に示す。
【0187】
上記した表およびグラフに示すように、肥料のフィルム透過性に関して、肥料成分によって透過速度の違いはあるものの、主要成分の窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)および硫黄(S)はすべて透過する。
【0188】
(表11)アンモニア性窒素 単位:ppm
【表11】
【0189】
(表12)硝酸態窒素 単位:ppm
【0190】
【表12】
【0191】
(表13)りん酸 単位:ppm
【表13】
【0192】
(表14)カリウム 単位:ppm
【表14】
【0193】
(表15)カルシウム 単位:ppm
【表15】
【0194】
(表16)マグネシウム 単位:ppm
【表16】
【0195】
(表17)硫黄 単位:ppm
【表17】
【0196】
実施例13
30×22×8cmのトロ箱に養液としてハイポネックス原液(N:5%、P:10%、K:5%)((株)ハイポネックスジャパン製)300倍希釈水溶液(EC:1.37)1.3Lを加え、40μmPVAフィルム(アイセロ化学(株)製)48×40cmを上に浮かべた。
【0197】
フィルム上に土壌としてスーパーミックスA((株)サカタの種)を深さ2cm乗せ、サニーレタス幼苗(本葉3枚)を12本植えつけた。ビニルハウス(温度湿度制御無し)に11.12〜1.11(60日間)の間生長させた。その後、根と一体化したPVAフィルムを試料とし、根の界面の光学顕微鏡写真(倍率:10〜100倍)を撮影した。
[試料の前処理と観察]
【0198】
1)試料をエタノールで脱水
2)親水性の樹脂「テクノビット」(応研商事(株)社製)に包埋
3)ガラスナイフで厚さ3ミクロンに薄切りしてガラス板の上に載せ乾燥させる
4)0.1%のトルイジン青にて15分間染色
5)水洗下の血に70%エタノール溶液で過剰な染色部分を脱色させる(分別)
【0199】
6)アルコールで脱水した後にキシレンに入れて、その後にカバーガラスをかけて封入
7)観察は光学顕微鏡にて、10倍から100倍の間で観察
(なお、上記した試料の前処理および観察方法の詳細に関しては、例えば、応研商事株式会社のホームページ(http//www.okenshoji.co.jp/)の「低温重合樹脂テクノビット」の項で詳細な試験方法を参照することができる。)
【0200】
光学顕微鏡による観察結果を、図16に示す。この図16に示すように、根の細胞がPVAフィルム面に隙間無く配置され、PVAフィルムと根が一体化している様子が観察された。
【0201】
実施例14
実施例9と同様に、ざるボールセット(ざるの半径6.4cm、容量130cm3)を用い、ざるに20×20cmのフィルムを乗せ水道水を150g加え、ボール側に塩水150gを加えて、サランラップで包み室温に置いた。サンプリング時間毎に、水側(ざる)および塩水側(ボール)の養液を良く撹拌した後、スポイトでサンプリングし、EC値を測定した。
【0202】
1)透湿フィルム:厚みの異なる親水性ポリエステルフィルム(デュポン社製)およびPVAフィルム(日本合成化学工業(株)製)を使用した。
【0203】
親水性ポリエステルK06−20μm、K06−40μm、CRP06−75μm(デュポン社製)、PVA#2500(25μm)、#4000(40μm)、#6500(65μm)(日本合成化学工業(株)製)
【0204】
2)0.5%塩水:水道水に「伯方の塩」(伯方塩業(株)製)を0.5重量%溶解した。
伯方の塩:100g中ナトリウム37.5g、マグネシウム110mg、カルシウム90mg、カリウム50mg
【0205】
3)実験方法
電気伝導度計:Twin Cond B−173((株)堀場製作所)を用い、スポイトでサンプリングした溶液を電気伝導度計の測定部位に少量乗せ、電気伝導度EC(ds/m)を測定した。
【0206】
実施期間:8月26日〜31日
親水性ポリエステルフィルムの結果を表18および図17に、PVAフィルムの結果を表19および図18に示す。
【0207】
上記の図17および図18から、親水性ポリエステルフィルムおよびPVAフィルムとも水側のEC値は増加し、塩水側のEC値は減少し、両者の値が時間と共に同じ値に収束して行くことが判明した。親水性ポリエステルフィルムの場合、フィルム厚み20〜75μmの範囲で、水側EC値の増加速度および塩水側EC値の低下速度は、厚みが増すに従って遅くなり、すなわち0.5%塩水透過性が大きく低下している。一方、PVAフィルムの場合は、フィルム厚み25〜65μmの範囲で、厚みが増しても0.5%塩水透過性は殆ど変わらない。
【0208】
親水性ポリエステル 単位:dS/m
(表18)
【表18】
【0209】
PVA 単位:dS/m
(表19)
【表19】
【0210】
実施例15(含水率の測定)
ポリプロピレン製蓋つきプラスチック容器(15×11×4cm)に水300mlを加え、厚みの異なる3種類のPVAフィルムと親水性ポリエステル1種(10×20cm)を浸漬し、適温ボックスに入れ20時間保持した。所定時間経過後フィルムを取りだし、表面の水分をティッシュペーパーで速やかにふき取り秤量した(WTg)。乾燥時の重量をW0gとし、含水率(%)=(WT−W0)/WT×100を求めた。
【0211】
測定温度は5、20、35℃の3点で、各温度n=2の試料で測定した。
PVAフィルム:#2500(25μm)、#4000(40μm)、#6500(65μm)(日本合成化学(株)製)
親水性ポリエステル:K06−40(40μm)(デュポン社製)
【0212】
適温ボックス:型式ERV740(容量9L、消費電力75W)(松下電工(株)製)
(結果)
図19に含水率の温度別グラフを示す。このグラフに示すように、PVAは温度が上昇するにつれて、含水率が上昇する傾向を示す。親水性ポリエステルはPVAとは逆に温度が上昇するにつれ含水率が低下する。PVAのフィルム厚みの差、またはポリマー種による含水率の差はそれほど大きく無く、温度変化も含め、20〜28%程度である。
【0213】
実施例16(フィルムの腐食性)
使用するフィルムの天然に存在する微生物に対する腐食耐性の試験を下記の条件で実施した。
プラスチック製容器(20×12×5.5cm)に水道水700mlを加え、30×22cmの各種フィルムを水面上に乗せる。フィルムの上に、土壌スーパーミックスA((株)サカタのタネ製)170gを乗せ、ルッコラ(オデッセイ、(株)サカタのタネ)の本葉約1枚の幼苗(播種後17日目)を各6本植えつけた。温度21℃、湿度60〜70%、人工光による照度3700〜3800Lxの栽培棚で4.28から5.30まで栽培し、39日目に草丈と本葉数を測定した。
【0214】
使用したフィルムは、セロファンフィルム(PL#500、厚さ:35μm;二村化学工業(株))およびポリビニールアルコール(PVA)フィルム(#40、厚さ:40μm;アイセロ化学(株)))である。
結果を表20に示す。
【0215】
(表20)
【表20】
【0216】
表20に示す様に、セロファンフィルムの場合は1週間でフィルムが腐食し孔が開き、栽培を続けることができなかった。この実験は2回行ったが同様の結果であった。一方、PVAフィルムの場合は微生物による腐食が全く認められず、39日間の栽培の結果、良好な生長が認められた。この結果から、セロファンフィルムは天然素材であり微生物によって分解されやすいのに対して、PVAフィルムの場合は合成材料であり、微生物に分解されにくいものと考えられる。
【0217】
実施例17(フィルムの耐候性)
本発明に使用するフィルムは常に太陽光あるいは人工光に曝されるので、フィルムの耐候性試験を実施した。試験方法は、フィルムサイズ20×25cmを室内の窓辺に置き(9.12〜12.17)、外観の変化を観察した。使用したフィルムは、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム(#2500 厚さ:25μm)、親水性ポリエステルフィルム(K06−20 厚さ:20μm)およびセロファンフィルム(PL#500 厚さ:30μm)である。
【0218】
試験結果は、親水性ポリエステルフィルムの場合は1ヶ月で破損が認められたのに対して、ポリビニルアルコールおよびセロファンフィルムの場合は3ヶ月後も変化が無かった。
実施例16、17の結果から、微生物に対する耐腐食性、光に対する対候性に共に優れたポリビニルアルコール(PVA)フィルムが本発明を実施するのに好適であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】図1は、本発明の植物栽培用器具の基本的な態様の例を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の植物栽培用器具の他の態様例を示す模式断面図である。
【図3】図3は、本発明において用いるフィルム特性(水−塩水接触)測定を説明するための模式断面図である。
【0220】
【図4】図4は、本発明に用いるフィルム特性(引き剥がし強度)測定を説明するための模式斜視図である。
【図5】図5は、本発明において用いるフィルム特性(水蒸発量)測定を説明するための模式断面図である。
【図6】図6は、本発明において用いるフィルムの特性(引き剥がし強度)測定用の試験片を示す写真である。
【図7】図7は、本発明において用いるフィルム特性(水−塩水接触)測定結果の例を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明において用いるフィルム特性(水−ブドウ糖接触)測定結果の例を示すグラフである。
【0221】
【図9】図9は、アンモニア性窒素のフィルム透過性を表すグラフである。
【図10】図10は、硝酸態窒素のフィルム透過性を表すグラフである。
【図11】図11は、りん酸のフィルム透過性を表すグラフである。
【図12】図12は、カリウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図13】図13は、カルシウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図14】図14は、マグネシウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図15】図15は、硫黄のフィルム透過性を表すグラフである。
【0222】
【図16】図16は、植物の栽培終了時の、根/フィルム/養液の界面近傍の状態を表す光学顕微鏡写真(倍率:250倍)である。
【図17】図17は、種々の厚みの親水性ポリエステルフィルムの0.5%塩水透過性を示すグラフである。
【図18】図18は、種々の厚みのPVAフィルムの0.5%塩水透過性を示すグラフである。
【図19】図19は、実施例15において得られた、数種のフィルムの含水率の温度変化示すグラフである。
【図20】図20は、本発明の実施例2で用いた実験系の概略を示す写真である。
【図21】図21は、本発明の実施例2で得られたトマトの写真である。
【図22】図22は、フロート部材にスリット状の孔を設けた態様を示す模式平面図および模式断面図である。
【図23】図23は、フロート部材に円形の孔を設けた態様を示す模式平面図および模式断面図である。
【符号の説明】
【0223】
1 植物栽培用器具
2 収容部
3 無孔性親水性フィルム
4 フロート部材
5 リザーバ
6 水または養液
7 揚水シート
8 マトリックス(土壌)
9 マルチング材
10 通水パイプ
11 点滴チューブ
12 細霧噴霧バルブ
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培用器具および植物栽培方法に関する。より詳しくは、本発明は、水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含む植物栽培用器具、および該植物栽培用器具を用いた植物栽培方法に関する。
【0002】
本発明によれば、無孔性親水性フィルムを介して、植物体を水または養液と接触させて栽培することができ、植物体に対する酸素供給と、水および肥料成分の供給とを好適に機能分離することが可能となる。したがって、本発明によれば、例えば、養液栽培の基本となる植物の根と、水または養液が直接接することにより生ずる多くの問題、すなわち根に対する酸素の供給、肥料成分の精密な管理、根からの水または養液の汚染、あるいは水または養液からの植物への病原菌汚染等の、多くの問題を解消することができる。
【0003】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、下記のような追加的な利点の一以上をも容易に得ることができる。
(1)植物栽培に使用する水または養液量を極めて少なくすることが容易であるため、水または養液の加温あるいは冷却を、極めて容易にかつ低コストで行うことが容易である。
(2)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、通常は、水または養液が断熱材料で密封された状態に置かれることとなるため、加温または冷却の効率を極めて大きくすることが容易である。
(3)通常は、腐敗性が高く植物栽培時に使用し難い、糖類、アミノ酸類、有機酸などの高価な有用物質を使用した場合であっても、これらの有用物質を実質的に腐敗させることなく、該有用物質の少量を水または養液に含有させて用いることが容易である。
(4)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、栽培すべき植物を水分抑制状態として、該植物を高品質化することが容易になる。
(5)本発明の植物栽培用器具を用いることにより、水または養液からの植物への病原菌汚染を効果的に防止できるために、有糖培養、すなわち、クローン苗の組織培養を行うことが容易になる。
【背景技術】
【0004】
養液栽培の種類は、噴霧耕、水耕(たん液式、NFT)、固形培地(砂耕、れき耕、ロックウール耕)の3種類あり、それぞれの方式には利点、欠点を有する(これらの各方式の詳細、利害得失、等、に関しては、例えば文献「養液栽培の新マニュアル」編者:(社)日本施設園芸協会、28〜135頁、発行所:(株)誠文堂新光社、発行:2002年7月を参照することができる)。
【0005】
上記した各方式の養液栽培システムに共通する最も重要なポイントないし弱点は、初期導入コスト、ランニングコスト、および酸素の供給である。更には、養液栽培では、根と養液が直接接触することから、養液の調整がデリケートであり、その管理範囲が非常に狭いことが問題となる。特に、養液の組成、濃度、pHの変化には細心の注意が必要とされている。中でも、養液栽培で最も問題となる点の1つは、養液のpHが容易に変化することである。
【0006】
従来の養液栽培においては、大量の養液を大気中オープンで使用するため、養液を加温あるいは冷却するには設備費ならびに運転経費が高くなる。また、養液には植物の根から吸収させる酸素を常に含有させておく必要があり、腐敗性のある有用物質、例えばアミノ酸、有機酸あるは糖類を混ぜることが不可能である。
【0007】
加えて、従来の養液栽培においては、病原菌の感染防止が極めて重大な問題である場合が極めて多い。これを防止するための種々の工夫が試みられている。農薬の投与が考えられるが、農薬登録上、養液中に農薬を添加することが出来ないので、農薬によらない殺菌方法が、種々考えられている。例えば、紫外線、オゾンや熱による殺菌、ろ過による病原菌の除去、銀等の金属イオンの添加による殺菌、拮抗微生物の添加等がある。しかしながら、いずれも付帯設備の設置や管理によるコストアップが問題になり、更には、植物体にダメージを与える、あるいは養液中の有効成分を分解する等の新たな問題を生じ、未だに決定的な感染防止の方策は得られていない。
【0008】
(養液栽培のデメリット)
一般的には、養液栽培においては、初期の資本投資額が大きいとされている。すなわち、養液栽培では温室、ハウスなどの園芸用施設だけでなく、養液調整装置の設置が不可欠であり、土耕栽培と比較して初期投資額が大きくなる。しかも、養液の給液管理や環境制御等を自動化する場合には、さらに各種コントローラーへの投資が必要となる。
【0009】
【非特許文献1】「養液栽培の新マニュアル」編者:(社)日本施設園芸協会、(株)誠文堂新光社、2002年7月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消した植物栽培用器具、および植物栽培方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、栽培された植物体の特定の成分(例えば、動物体内への過剰摂取が問題となる可能性のある、硝酸態窒素等の成分)を容易に低減可能な植物栽培用器具、および栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究の結果、リザーバ中の水または養液上に、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムを配置した系においては、根への「酸素供給」と「水分供給」の機能分離に加えて、更に「養分供給」と「純然たる水分供給」を機能分離することも可能であることを見出した。
【0013】
本発明の植物栽培用器具は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;該容器が、水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み;且つ、前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る、無孔性親水性フィルムであることを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば更に、水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み、且つ、前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムである植物栽培用器具を用い;該器具中に植物体を配置し、水または養液を、少なくとも前記フィルムを介して接触させつつ、前記植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法が提供される。
【0015】
無孔性親水性フィルムを介して、養液を植物体に供給した場合には、該フィルムを介することによる「制限的な水分供給」により、濃縮した養分が植物体に供給される場合がある。栽培された植物体における、該養分中の特定の成分(例えば、動物体内への過剰摂取が問題となる可能性のある、硝酸態窒素等の成分)に関しては、該植物体の動物(本発明においては、「ヒトをも含む意味」で用いる)による摂取の場合の安全性等の観点から、栽培された植物体中の該「特定の成分」の含量を、ある程度以下に制限することが好ましい場合がある。例えば、ニトロソ化合物(一般的に、発ガン性を有するとされる)の含有量への制限等の観点からは、栽培された植物体中の硝酸態窒素の含量を、ある程度以下に制限することが好ましい。
【0016】
フィルムの下(すなわち、リザーバ側)を養液として、該フィルムを介して植物体に養分を供給する場合には、栽培植物の硝酸態窒素を低減するためには、通常は、栽培終盤に養液を水に変える必要がある。
【0017】
このような場合であっても、上記構成を有する本発明においては、植物が要求する養分/水分を「互いに別ルート」で供給することができるため、これらの養分/水分の供給を、(例えば、植物体の生育状況に応じて)互いに独立に最適化することができる。本発明においては、例えば、(養分濃縮を避けるために)植物体の根とフィルムとが実質的に一体化するまでは、フィルムを介してリザーバ側(フィルムの下方)から水分を供給し、他方、植物体の根とフィルムとが実質的に一体化した後には、フィルム上方から養分および/又は水分を適宜供給することができる。すなわち、本発明においては、栽培植物の硝酸態窒素等を低減する観点から行う場合がある、栽培終盤におけるフィルム下の養液を水に変える工程を省略できる。
【0018】
また、本発明においては、例えば、最初からフィルムの下(リザーバ側)に水のみを配置し、例えば、フィルム上の植物の根の上方に配置したマトリックスに養液を少量加えることで、水と養分の供給経路を機能分離し、肥料の供給を最小限に抑えることが出来る。これにより、植物中の硝酸態窒素を低減させることが可能になる。
【0019】
更に、リザーバ中の水または養液と、植物体とがフィルムによって分離されている本発明においては、例えば、該フィルム上に土耕栽培に使用されているマトリックスを配置することにより、フィルムと接している植物の根が、同時に該マトリックスに接触していることとなる。これにより、フィルム上から供給される養液等の量的変動や濃度変化に対するマトリックスの緩衝効果が発揮され、養液等の量や濃度の制御が極めて容易となるため、(例えば、従来の養液栽培において、養液等の量や濃度を精密に制御するために必要であったところの)施設の設置によるコストを著しく軽減することが可能となる。
【0020】
(高品質化のための養液管理技術−特定成分の低含量化)
養液と植物体がフィルムによって分離されている本発明においては、上述したように、養液組成、濃度、pH等の調整が極めて容易であるため、以下のような特定成分の調整も容易に行うことができる。
【0021】
(1)硝酸態窒素
サラダやホウレン草等の葉菜にはその可食部に葉柄部が含まれているため、高い濃度で硝酸塩が含まれていることがある。硝酸塩は唾液と反応して亜硝酸塩となり、更に消化の過程で発ガン性を持つニトロソアミンという物質を生成するとされている。このため、野菜に含まれる硝酸含量が品質の重要な基準の1つになりつつあり、その低含量化が求められている。養液栽培においては、一般的に、収穫前の数日間、硝酸態窒素の供給を停止することなどの養液管理によって植物体の硝酸態窒素含量を低下させることが可能である。
【0022】
(2)シュウ酸
葉菜の中でも、ホウレン草は特にシュウ酸含量が高いものとして知られている。シュウ酸はアク、えぐ味の成分であるばかりでなく、尿路結石の原因物質としても知られているため、その低含量化が求められている。養液栽培においては、例えば、養液中の硝酸態窒素を減らすことでシュウ酸含量を低下させることができる(ただし、この場合には、若干の生育の抑制も伴う場合がある)。
【0023】
(フロート部材の配置)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムの力学的強度を補強するために、必要に応じて、該水または養液に浮かぶフロート部材を用いても良い。このような場合には、該フィルムの力学的強度と、透過性との良好なバランスが容易に達成される。より具体的には、このような態様においては、無孔性親水性フィルムが吸水、膨潤して、該フィルム自体としての力学的強度が低下したとしても、その力学的強度が、水または養液に浮かぶフロート部材により補強されるため、該フィルムの不必要な伸びや破損の可能性を効果的に抑制することが可能となる。したがって、本発明においては、無孔性親水性フィルム自体の水または養液中における力学的強度を、それ程問題とすることなく、該フィルムの有用な特性(例えば、養液中の水分、養分の透過性)に基づき、好適なフィルム材質、厚さ、サイズその他のフィルム属性を選択することが可能となる。換言すれば、本発明においては、無孔性親水性フィルムの属性選択の範囲が著しく拡大することとなる。
【0024】
更に、フロート部材を用いる本発明の態様においては、フィルムが直接水または養液に接触している場合、水または養液の水位が下がったとき、植物体およびマトリックスの重さでフィルムが伸びてフィルム強度が低下することがあったとしても、水または養液の水位が上下するにつれ、フロート部材が水または養液の水位に追従するため、実質的にフィルムに過大な荷重がかかることを防止でき、効果的にフィルムの破損を防ぐことができる。
【0025】
更には、フロート部材を断熱の材料(例えば、発泡スチロール)で構成した場合には、水または養液が断熱材料で囲まれていることとなり、水または養液量を少量にすることができ、加温および/又は冷却をより効率的に行うことができる。
【0026】
(酸素供給−水分/養分供給の機能分離)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、植物の根と水または養液(肥料成分を含む液体)とが、無孔性親水性フィルムを介して配置されているため、植物の根は水または養液には直接には接触していない。換言すれば、植物体に対する酸素供給と、水および肥料成分の供給とが好適に機能分離された状態にある。このため、本発明においては、植物が空気中の酸素を有効に利用することができ、従来の養液栽培の問題(すなわち、植物の根と水または養液が直接に接することにより生ずる多くの問題)であったところの、根に対する酸素の供給、水または養液の厳密な管理、根からの水または養液の汚染あるいは水または養液からの植物への病原菌汚染等の問題を容易に解消することができる。更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、栽培すべき植物を水分抑制状態とすることが極めて容易となり、該植物を高品質化することができる。
【0027】
(腐敗防止)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、リザーバ中の水または養液は実質的に密封された状態にあるため、外部から酸素が供給されず、水または養液中に溶存酸素が存在しない。したがって、本発明においては、大気中においては腐敗性のある糖類、アミノ酸類、有機酸等の植物にとって有用な物質を特に制限されずに水または養液に加えることができ、無孔性親水性フィルムを通して植物に供給することが可能である。
【0028】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、リザーバおよびフロート部材を、例えば発泡ポリスチレンボードにより構成した場合には、水または養液は、断熱材料およびフィルムにより密封状態にある。したがって、リザーバ内から大気中に不定蒸散する水も殆どなく、消費される水は、その大部分が、フィルムを通じて植物が吸収する水とフィルムを通して水蒸気として蒸散する水である。本発明において、更に、フィルム上を、水蒸気を通さないマルチングフィルムまたはマルチング部材(例えば、発泡ポリスチレンボードなど)で被覆する態様においては、水の消費を更に抑制することができる。
【0029】
(加温または冷却)
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具において、水または養液が、断熱された材料で囲まれている態様においては、水または養液中に1本以上のパイプを配置し、パイプの中に加温または冷却された水または媒体を通すことにより、フィルムと一体化した根を効率的に加温あるいは冷却することができる。
【発明の効果】
【0030】
上述したように本発明によれば、フィルムの下の養液の代わりに水のみを使用した場合、フィルムの上から少量の量および時間が制御された養液を潅水することにより、容易に栽培品中の硝酸態窒素を大幅に低減できる。
【0031】
更には、フロート部材を用いることで、水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムの力学的強度が、該水または養液に浮かぶフロート部材で補強されているため、該フィルムの力学的強度と、透過性の良好なバランスが達成される。より具体的には、無孔性親水性フィルムが吸水、膨潤して、該フィルム自体としての力学的強度が低下しても、その力学的強度が、水または養液に浮かぶフロート部材により補強されるため、該フィルムの不必要な伸びや破損の可能性を効果的に抑制することが可能となる。したがって、本発明のこのような態様においては、無孔性親水性フィルムの有用な特性(例えば、養液中の水分、養分の透過性)に基づき、好適なフィルム材質、厚さ、サイズ、その他のフィルム属性を選択することが可能となる。換言すれば、この態様においては、無孔性親水性フィルムの属性選択の範囲が著しく拡大することとなる。
【0032】
上記構成を有する本発明の植物栽培用器具においては、植物の根と水または養液(肥料成分を含む液体)とが直接には接触せず、植物体に対する酸素供給と、肥料成分の供給とが好適に機能分離された状態にある。このため、本発明においては、植物が空気中の酸素を有効に利用することができ、従来の養液栽培の問題であった、根に対する酸素の供給、水または養液の精密な管理、根からの水または養液の汚染あるいは水または養液からの植物への病原菌汚染等の問題を容易に解消することができる。
【0033】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、栽培すべき植物を水分抑制状態とすることが極めて容易となり、該植物を高品質化することもできる。
【0034】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、植物が必要とする、水および肥料成分を極めて少量で栽培することができる。
【0035】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、植物の根圏を極めて低コストで加温または冷却することができる。
【0036】
更に、本発明の植物栽培用器具を用いることにより、通常は腐敗性があるために、植物栽培には使用が困難とされて来た物質(例えば、糖類、アミノ酸類、有機酸類などの植物にとって有用な物質)を植物に供給することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0038】
(植物栽培用器具)
本発明の植物栽培用器具は、水または養液を収容するためのリザーバと、該水または養液上に配置すべき無孔性親水性フィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段とを少なくとも含む。
【0039】
図1は、本発明の植物栽培用器具の基本的な一態様を示す模式断面図である。図1を参照して、この態様の植物栽培用器具1は、水または養液および植物体を収容するための収容部2を与える(画する)ためのリザーバ5と、リザーバ5中の水または養液6上に配置されたフィルム3とを含む。本発明の植物栽培用器具が具備すべき、フィルム3の上方から水または養液を供給する手段は、図2に記載の潅水手段11(点滴チューブなど)と同様である。
【0040】
(他の態様)
図2は、本発明の植物栽培用器具1の他の態様を示す模式断面図である。図2を参照して、この態様においては、水または養液6に浮かぶことができるフロート部材4と、該フロート部材4上に揚水シート7を配置し、その上に無孔性親水性フィルム3が配置されている。このような揚水シート7を配置することにより、フロート部材4上に配置された無孔性親水性フィルム3に対して、効果的に水または養液を供給できるというメリットを得ることができる。
【0041】
図2においては、収容部2の底部下全域にフロート部材4を配置しているが、本発明においては、少なくとも一部に、配置されていれば足りる。収容部2の底部下全体の面積に対するフロート部材4の面積の割合は、水または養液の水位が上下するときに、フロート部材4が追従できる範囲で選択できる。フロート部材4に乗る無孔性親水性フィルム3の面積に対するフロート部材4の全面積の割合は、10%以上、更には30%以上、より好ましくは50%以上である。
【0042】
(フロート部材の他の態様)
必要に応じて、フロート部材4に孔(ないし穴)を1個以上開けることも可能である。図22にスリット状の孔の例を示し、図23に円形の孔の例を示す。この孔は、フロート部材4の厚さ方向を貫通する貫通孔であってもよく、また、非貫通孔であってもよい。このような孔を設けることにより、無孔性親水性フィルム3に供給される水または養液量の変動を小さくする効果が得られる。更には、フィルム3上に供給される水または養液量の、該フィルム3面上の分布を、より均一にする効果も得られる。
【0043】
(貫通孔/非貫通孔)
フィルム3と、水または養液6との効率的な接触が容易な点からは、フロート部材4表面には貫通孔を設ける方が好ましい。フロート部材4表面に非貫通孔(例えば、スリットないし溝状の非貫通孔)を設ける態様においては、該非貫通孔をフロート部材4の端部まで延長して、該端部の切り口から、水または養液6がフロート部材4の中心部付近まで侵入することを容易とすることが好ましい。この場合、必要に応じて、縦横等の複数方向に沿って、それぞれ複数のスリットないし溝状の非貫通孔を設けることが、更に好ましい。
【0044】
(孔の形状、等)
フロート部材4に設けるべき孔の形状、サイズ、個数等は、特に制限されない。この孔は、例えば、網目状、格子状あるいは円、楕円、多角形、星型など様々な形の、1個以上の孔であってもよい。図22および図23に、フロート部材4に孔を開けた態様の例を示す。フロート部材4の面積に対する、フロート部材4に開けられた空隙面積(すなわち、フロート部材4表面における孔面積の合計/フロート部材4表面の全面積)の割合は、水等の供給の均一化とフロート部材4強度とのバランスの点からは、90%以下であることが好ましく、70%以下(特に50%以下)であることが好ましい。また、フロート部材4の面積に対する、フロート部材4に開けられた空隙の割合は、1%以上であることが、好ましく、3%以上(特に5%以上)であることが好ましい。
【0045】
(揚水シートの使用)
図2を参照して、揚水シート7を使用する態様においては、フロート部材4の端からリザーバ5の水または養液6中に揚水シート7を落とし込む(浸漬させる)ことにより、揚水シート7を介して、水または養液6を、よりスムーズに無孔性親水性フィルム3に供給することができる。この場合、フロート部材4の巾(すなわち、平面)方向で考えた場合、無孔性親水性フィルム3上の植物体においては、通常は、フロート部材4の端に近い方が養分を先に吸収し、これにより、フロート部材4の中心近くの植物体への養分供給が、より少なくなる傾向がある。
【0046】
上記したようにフロート部材4に網目状、格子状、あるいは円、楕円、多角形、星型など様々な形の孔を1個以上開ける態様においては、リザーバ5中の水または養液6と無孔性親水性フィルム3が直接触れる機会が増大するため、無孔性親水性フィルム3に供給される水または養液6量の変動を小さくする効果がある。また、上記した揚水シート7を使用する態様において、上記の孔を設けた場合には、リザーバ5中の水または養液6と揚水シート7が直接触れる機会が増大するため、無孔性親水性フィルム3に供給される水または養液6量の変動を小さくする効果がある。
【0047】
(孔の好適な配置)
フロート部材4の無孔性親水性フィルム3に対する強度補強が損なわれない限り、フロート部材4に開けた隣接する孔(空隙)の端同士を結ぶ距離が短いほどこの効果は大きい。隣接する空隙の端同士を結ぶ距離(図22、図23に示す間隔a)は0.01〜100cmが好ましく、0.1〜50cm(特に1〜30cm)であることが好ましい。
【0048】
また、必要に応じて、器具1の強度、フィルム3の補強等の観点から、他の材料(例えば、リザーバ5と同じ材料)で、フィルム3を適当に分割してもよい。
【0049】
(フロート部材配置の利点)
フィルム3が直接に水または養液6に接触している場合、例えば水または養液6の水位が下がったときに、植物体(および、場合によってはマトリックス)の重さでフィルム3が伸びてフィルム強度が低下する可能性がある。フィルム3が直接に水または養液6に接触している場合には、該フィルム3は、通常は水分吸収によって膨潤している場合が多いため、このフィルム3は、更に伸びやすい(すなわち、力学的強度が低下している)状態にあることが多い。
【0050】
これに対し、フロート部材4を配置する態様においては、該フロート部材4がフィルム3をサポートしているため、水または養液6の水位が上下するにつれ栽培ベッドが追従し、フィルム3にかかる荷重が軽減(ないし荷重が実質的に除去)される。
【0051】
(フロート部材)
器具1のフロート部材4の材質、厚さ等も、特に制限されず、基本的には水または養液6に浮かべることのできる材料(すなわち、水または養液6より比重が小さい材料)から適宜選択することが可能である。
【0052】
必要に応じて、水または養液6とフィルムの接触を容易にする手段を採用しても良い。このような手段としては、例えば、フロート部材4にはスリット状または円、楕円、多角形、星形その他の形状の孔を1個以上開けることができる。または、フィルム上にかかる荷重を考慮して、水または養液6に浮いている状態でフロート部材4の表面レベルが水または養液6の表面レベルに近くなるように、フロート部材4の浮力を調節すること等も可能である。
【0053】
例えば、フロート部材4の材質としては、軽量化、易成形性および低コストの点からはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の汎用プラスチックの発泡体あるはこれらプラスチックの板状の製品が好適に使用可能である。
【0054】
(断熱材で囲む態様)
水または養液6を囲む部材として、断熱性の材料を使用した本発明の態様においては、該水または養液6は断熱材で囲まれることになるため、水または養液6の量が、従来の水耕栽培よりも少ないことと合わせて、水または養液6の加温または冷却を、更に効率的に行うことができる。
【0055】
(追加的手段)
図2の態様においては、必要に応じて、フィルム3の上に土壌などのマトリックス8、および/又は、水蒸気を通さないか、または低透過性の蒸発抑制部材9(例えば、後述するマルチング材)を配置することができる。このような蒸発抑制部材9を配置することにより、フィルムから大気中に蒸散する水蒸気をマルチング材表面あるいはマトリックス中に凝結させ、水として植物が利用できる。
【0056】
更に、必要に応じて、フィルム3の上には間歇的に水または養液を供給するための潅水手段11(例えば、点滴チューブ)を配置することができる。このような潅水手段11を配置することにより、植物がフィルムを介して摂取する水または肥料成分が不足した場合に、それを補うことができるというメッリトを得ることができる。
【0057】
更に、必要に応じて、水または養液中には、水または養液6を加温または冷却する温度制御手段10(例えば、水あるいは媒体を通すためのパイプ)を配置することができる。このような温度制御手段10を配置することにより、水または養液温度を制御し、フィルム上の植物の根圏温度を効率的に調整し、生長を促進するというメリットを得ることができる。
【0058】
更に、必要に応じて、収容部2の上部に細霧噴霧用手段12(例えば、バルブ)を配置し、間歇的に水、養液または農薬希釈液を噴霧することができる。このような細霧噴霧用手段12を配置することにより、水の間歇的噴霧による特に夏季の冷却、水または養液の噴霧による環境の冷却、葉面散布による肥料成分の供給、あるいは農薬の配合された水または養液の噴霧による農薬の散布、などが可能となるというメリットを得ることができる。
【0059】
図2の構成においては、上記した以外の構成は図1におけると同様である。
【0060】
(マルチング材)
本発明においては、いわゆる「マルチング材」も、好適に使用することができる。ここに、「マルチング材」とは、植物の生長を助けるため、防寒・乾燥防止などを目的として、根元や幹などに施すために使用されるフィルムなどの材料を言う。このようなマルチング材を用いた場合には、水分の有効利用性が高まるというメリットを得ることができる。
【0061】
すなわち、本発明によるシステムでは、水または養液からフィルム中に移動した水が、フィルムに密着した植物の根によって直接吸収される以外に、土壌側のフィルム表面から水蒸気として蒸発する傾向がある。このように蒸発する水蒸気を大気中にできる限り逃がさないようにするために、土壌表面をマルチング材で覆うことができる。マルチング材で覆うことにより、土壌側のマルチング材表面に水蒸気を凝結させ、水として植物が利用することができる。
【0062】
(潅水手段)
潅水手段11(例えば、点滴チューブ)は土壌等のマトリックスに、水または養液を間歇的に少量ずつ供給するために用いることができ、土のもつ緩衝機能を活かしながら栽培するためのものである。例えば、水が貴重なイスラエルで開発された点滴チューブ(例えば、「ドリップチューブ」とも称される)であるが、点滴潅水で作物の生育に必要な水および肥料をできるだけ少量供給する手段として用いることができる。
【0063】
(細霧噴霧手段)
施設栽培で夏季における高温対策として行われる遮光や換気だけでは間に合わず、かといって冷房をするにはエネルギーコストが上がってしまう場合がある。そこで、細霧噴霧用手段12を配置して、細霧噴霧と称される、非常に粒子の細かい霧状の水を植物に噴霧し、空気中の気化熱を奪い、植物体を冷却することができる。冷却の目的以外に、水に肥料および/または農薬を加え噴霧することにより、葉面からの肥料の吸収および/または農薬散布の省力化を兼ねて行うこともできる。
【0064】
(栽培方法)
本発明においては、上記した構成を有する栽培器具1を使用する限り、これと組み合わせて使用すべき栽培方法は、特に制限されない。本発明において好適に使用可能な栽培方法の態様を、以下に述べる。
【0065】
(栽培方法における一体化)
本発明の栽培方法において、根とフィルムとの「一体化」とは、(リザーバ内の水または養液の如何に関わりなく)根−フィルム間の剥離強度が、2g以上であることを言う。この剥離強度は、更には3g以上であることが好ましく、更には4g以上であることが好ましい。この剥離強度の測定方法は、リザーバ5内に収容される媒体6(水または養液)が、実際の栽培方法において使用される「水または養液」であること以外は、後述する「フィルム材質確認」の場合と同様である。
【0066】
(好適な栽培方法−1)
本発明において、植物体の特定の成分(たとえば、硝酸態窒素)を低減することを意図する際には、基本的には、(養分濃縮を避けるため)フィルム3下のリザーバ5からは水しか供給しないことが好ましい。ただし、必要に応じて、多少の養分を、フィルム3の下のリザーバ5に加えても良い。フィルム3下に養分を加えた場合には、(他は同じ条件として)フィルム3下に養分を加えない場合と比較して、該フィルム3と根の「一体化」(すなわち、水のみをリザーバ5中で用いる場合を考慮して、後述するフィルム−根の剥離強度が2g以上)が促進される、即ち、フィルム3からの根の剥離強度が増大する傾向がある。
【0067】
根とフィルム3の「一体化」が促進される前に、フィルム3上から水分を加え過ぎると、植物は摂取し易いフィルム3上の水分を吸収してしまい、フィルム3を介して水分を摂取しなくなる(よって、根がフィルム3と一体化し難くなる)傾向がある。したがって、根がフィルム3と一体化するまでは、フィルム3上からは、過度の水分を加えることは好ましくない。
【0068】
他方、根がフィルム3と一体化した後であれば、適宜、フィルム3上から水分/養分を与えても良い。ただし、このように「フィルム上から/養分を与える」場合には、以下の点に注意することが好ましい。
【0069】
本発明の、根がフィルム3と一体化することにより、根はフィルム3から水または養分を吸い上げることができ、植物が生長していくために必要な最小限の水を得ることができる。より生長を促進させる目的で、フィルム3上からも、水または養分を加える場合には、この根とフィルム3の一体化が維持されることが必要である。即ち、フィルム3上に常時、過剰な水があると、根はフィルム3を介して、水または養液を吸うことを止め、フィルム3上に供給される水または養液だけを摂取するようになる。
【0070】
この場合には、根とフィルム3の一体化が弱くなって、根がフィルム3から水または養液を吸う力が弱くなる、あるいは全く吸う力が無くなってしまう。即ち、本発明の最も重要な、フィルム3による水分抑制がかからなくなり、高品質化が抑制される傾向が生ずる。どの程度、フィルム3の上から水または養液を加えることが可能かは、植物の種類や生育段階、および栽培環境で異なるが、少なくとも、昼間の太陽が当っている時期に過剰な水または養液がフィルム3上に存在することは避けるべきである。即ち、夕方以降にフィルム3上に供給された水分が、太陽が当って温度上昇が始まるまでには消費され、フィルム3上には殆ど無くなる程度の量が供給されるべきである。これは、植物の水分要求性は昼間が夜間に比較して著しく強く、昼間にフィルム3上の水が少ない程、植物はフィルム3を介して水あるいは養分を摂取しようとするために、一体化が促進されると同時に、水分規制がかかり、高品質化する。
【0071】
上記した条件の下で、フィルム3下に水を使用し、フィルム3上に養液を点滴し、植物体を生長させ、収穫の数日前からフィルム3上の点滴を水に変える事によって、生長性と品質を落とすことなく、硝酸態窒素などの含有量を低減することが可能になる。
【0072】
(好適な栽培方法−2)
図2の模式断面図を参照して、この態様においては、発泡ボードに代表される断熱材料のフロート部材4の上にフィルム3が配置され、水または養液6の上下に追従して、常に水または養液6が不織布7に供給される。また、この態様においては、フィルム3と水または養液6とが不織布7を介して接触している。また、この態様においては、四方をリザーバ5と発泡ボードに代表される断熱材料で囲まれた水または養液6を内部に配置したパイプ10の中に温水あるいは冷水を通すことによって、該水または養液6を加温あるいは冷却することもできる。
【0073】
また、この態様においては、発泡ボードに代表される断熱材料がマルチング材9として機能し、フィルム3から蒸散する水蒸気の大気中への飛散を防ぐことが出来る。また、この態様においては、マトリックス(土壌)8に点滴チューブ11を配置することで、制御された量の水または養液をマトリックス(土壌)8に供給できる。また、この態様においては、植物体の上部に配置された細霧噴霧用バルブ12を通じて、水または養液に農薬または栄養素を加えた液を間歇的に細霧噴霧することができる。
【0074】
(本発明の利点)
上記構成を有する本発明の栽培用器具ないし栽培方法を用いることにより、植物に対する酸素供給が、植物に対する水または養分供給から機能分離されることとなる。すなわち、従来の養液栽培の最大の問題点であった根への酸素供給が、空気中から容易に行われる。一方、水または養分は、フィルムを介して植物に供給される。したがって、本発明においては、水または養液6の濃度、pH等の管理に関し、従来の養液栽培におけるよりも遥かに自由度が増大する。すなわち、本発明においては、植物体がフィルムによって、水または養液6と物理的に分離されているため、実質的に、植物体とは無関係に水または養液6を管理することが可能となる。換言すれば、栽培途中における水または養液6自体の交換および水または養液の濃度、pH等の管理が極めて容易になる。
【0075】
更に、本発明によれば、水または養液中の有害細菌から、植物体を隔離することが極めて容易である。加えて、フィルムを介して接触する水または養液からの水分供給が、植物に対しては比較的抑制されるため、糖度等の栄養成分が高くなるという点で植物の品質の向上も可能となる。
【0076】
(各部の構成)
以下、本発明の栽培用容器1の各部の構成について詳細に説明する。このような構成(ないしは機能)に関しては、必要に応じて、本発明者による文献(WO 2004/064499号)の「発明の詳細な説明」、「実施例」等を参照することができる。
【0077】
(フィルム)
本発明において、植物栽培用器具1を構成するフィルム3は、「植物体の根と実質的に一体化し得る」であることが特徴である。本発明において「植物体の根と実質的に一体化」できるか否かは、例えば、後述する「一体化試験」によって判断できる。本発明者らの知見によれば、「植物体の根と実質的に一体化し得る」フィルム3としては、以下のような水分透過性/イオン透過性のバランスを有するフィルムが好ましいことが見出されている。本発明者らの知見によれば、このような水分/イオン透過性のバランスを有するフィルムにおいては、栽培すべき植物の生長(特に、根の生長)に好適な水分/養分透過性のバランスが容易に実現できるため、根と実質的に一体化が可能となると推定される。
【0078】
本発明において、植物はフィルムを通して肥料をイオンとして吸収するが、このように使用するフィルムの塩類(イオン)透過性が、植物に供給される肥料成分の量に影響すると推定される。該フィルムを介して水と塩水を対向して接触させた際に、下記に示す測定開始4日後の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のイオン透過性を有するフィルムを好適に用いることができる。このようなフィルムを用いた際には、根に対して好適な量の水分および養分が供給され、該フィルムと根の一体化が促進される。
【0079】
このフィルムは、耐水圧として10cm以上の水不透性を有することが必須である。このようなフィルムを用いた際には、根に対する好適な酸素供給および該フィルムを介しての病原菌汚染を防止することが容易となる。
【0080】
(耐水圧)
耐水圧はJIS L1092(B法)に準じた方法によって測定することができる。本発明のフィルムの耐水圧としては10cm以上、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。
【0081】
(水分/イオン透過性)
本発明においては、上記フィルム3は、該フィルムを介して水と塩水(0.5質量%)とを対向して接触させた際に、測定開始4日後の水/塩水の栽培温度において測定した電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、更には3.5dS/m以下であることが好ましい。特に、2.0dS/m以下であることが好ましい。この電気伝導度の差は、以下のようにして測定することが好ましい。
【0082】
<実験器具等>
なお、本明細書の以降の部分(実施例も含む)において用いた実験器具、装置および材料は、(特に指定がない限り)後述する「実施例」の前の部分に示した通りである。
【0083】
<電気伝導度の測定方法>
肥料は、通常イオンの形で吸収されるため、液中に溶けている塩類(あるいはイオン)量を把握することが望ましい。このイオン濃度を測定する手段として電気伝導度(EC、イーシー)を用いる。ECは比導電率ともいい、断面積1cm2の電極2枚を1cmの距離に離したときの電気伝導度の値を使用する。単位はシーメンス(S)が使われ、S/cmとなるが肥料養液のECは小さいので、1/1000のmS/cmを使う(国際単位系ではdS/m(dはデシ)と表示する)。
【0084】
実際の測定においては、上記した電気伝導度の測定部位(センサー部)にスポイトを用いて試料(例えば溶液)を少量乗せ、導電率を測定する。
【0085】
<フィルムの塩/水の透過試験>
市販の食塩(例えば、後述する「伯方の塩」)10gを水2000mlに溶解して、0.5%塩水を作製する(EC:約9dS/m)。
【0086】
図3を参照して、上記「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記の塩水150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、塩水側のECを測定する。
【0087】
本発明においては、フィルムを介する植物の根の養分(有機物)吸収を容易とする点からは、上記フィルムは、所定のグルコース透過性を示すことが好ましい。このグルコース透過性は、下記の水/グルコース溶液の透過試験により好適に評価できる。本発明においては、上記フィルムは、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の栽培温度において測定した濃度(Brix%)の差が4以下であることが好ましい。この濃度(Brix%)の差は、更には、3以下、より好ましくは2以下(特に1.5以下)であることが好ましい。
【0088】
<フィルムの水/グルコース溶液透過試験>
市販のグルコース(ブドウ糖)を用いて5%グルコース溶液を作製する。上記塩水試験と同様の「ざるボウルセット」を使い、ざる上に試験すべきフィルム(サイズ:200〜260×200〜260mm)を乗せ、該フィルム上に水150gを加える。他方、ボウル側に上記のグルコース溶液150gを加え、得られた系全体を食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデンフィルム、商品名:サランラップ、旭化成社製)で包んで、水分の蒸発を防ぐ。この状態で、常温で放置して、24hrs毎に水側、グルコース溶液側の糖度(Brix%)を糖度計で測定する。
【0089】
(植物との一体化)
後述する実施例3の条件(バーミキュライト使用)で、試験を行う。すなわち、サニーレタス(本葉1枚強)を2本用いて、実施例3の液肥(原液ハイポネックス1000倍希釈液)条件で、35日間、植物の生長試験を行う。
【0090】
得られた植物とフィルムの系において、植物苗の根元で茎葉を切断する。根の密着したフィルムの茎がほぼ中心になるように、該フィルムを巾5cm(長さ:約20cm)に切断して試験片とする(図6を参照)。
【0091】
図4を参照して、ばね式手秤に市販のクリップを付け、上記で得た試験片の一方をクリップで固定して、ばね式手秤の示す重量(試験片の自重に対応=Aグラム)を記録する。次いで試験片の中心にある茎を手で持ち、下方に緩やかに引き下げて、根とフィルムが離れる(または切断される)際の重量(荷重=Bグラム)をばね式手秤の目盛りから読み取る。この値から初期の重量を差し引き、得られた(B−A)グラムを巾5cmの引き剥がし荷重とする。
【0092】
本発明においては、このようにして測定された剥離強度において、前記植物体の根に対して5g以上の剥離強度を示すフィルムが好適に使用可能である。この剥離強度は、更には10g以上、特に30g以上であることが好ましい。
【0093】
(一体化の意義)
本発明において、このフィルムと根の「一体化」の定義・測定方法は、原則として、フィルム材質確認の場合のみに用いるものとする(すなわち、前述した栽培方法におけるフィルムと根の「一体化」においては、測定方法が異なる場合がある)。
【0094】
(光学顕微鏡による確認)
上述したように、本発明においては、フィルムと植物の根の一体化は、根が密着したフィルムから根を引き剥すため必要な荷重の大きさで評価することができるが、この一体化は、光学顕微鏡によっても確認することができる。例えば、図16に示すように、根とフィルムの界面の光学顕微鏡写真において、根とフィルムが一体化して、根がフィルム表面を実質的に隙間無く覆っていることが観察され、フィルムと植物の根が一体化していることが確認されている。
【0095】
(フィルム材料)
上述した「根と実質的に一体化し得る」性質を満足する限り、本発明において、使用可能なフィルム材料は、特に制限されず、公知の材料から適宜選択して使用することが可能である。このような材料は、通常フィルムないし膜の形態で用いることができる。
【0096】
より具体的には、このようなフィルム材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セロファン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、ポリエステル等の親水性材料が使用可能である。
【0097】
植物栽培目的のフィルムとしては、耐久性の面で微生物による腐食性が無いこと、および太陽光あるいは人工光により劣化が無いことが望ましい。
【0098】
上記フィルムの厚さも特に制限されないが、通常は、300μm以下程度、更には200〜5μm程度、特に100〜20μm程度であることが好ましい。
【0099】
(器具・収容部・リザーバ)
該器具1の収容部2の形状、大きさ、ないしは該収容部を与えるためのリザーバ5の材質、厚さ等も、特に制限されず、育成すべき植物の水分消費量、容器の内容積、植物支持体(土壌等)の通気性、水の温度等の種々の条件を考慮して、適宜選択することが可能である。
【0100】
例えば、リザーバ5の材質としては、軽量化、易成形性および低コスト化の点からはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の汎用プラスチックあるはこれらプラスチック発泡製品が好適に使用可能である。
【0101】
(フィルムの含水率)
本発明者の知見によれば、無孔性親水性フィルムがイオン透過する理由は、肥料成分であるイオンが水と共にフィルムの片側から中に浸透し、反対側のフィルム面に到達するためであると推定される。このメカニズムに従えば、例えば、フィルムの含水率を大きくすることにより、水分および肥料成分を増大させることができる。
【0102】
後述する実施例15には、フィルムの含水率を測定した結果を示す。(この実施例において使用したフィルムは、フィルム種類や厚みによる含水率の差は、比較的に小さいものであった)。本発明においては、例えば、含水率をより高めたフィルムに改質することにより、水分または肥料成分等の透過を、更に大きくすることができる。このように、含水率をより高めるためのフィルム改質は、フィルムに親水性をより多く持たせることで、例えば、[文献:P.J.フローリー著「高分子化学I」昭和40年8月20日第3版第9刷 訳者 岡 小天、金丸 競発行所 丸善株式会社 P38〜47、P48〜54、P168〜221]で参照される方法で、水酸基(OH)などの親水基を含む分子をより多く、共重合することで可能となる。また、表面改質方法があり、その詳細は、例えば[文献:「電気電子用プラスチック材料」発行 2002年3月 東レリサーチセンター P47〜77]を参照することができる。
【0103】
(フィルムへのイオン基の導入)
一般に、植物は肥料成分を水に溶けた状態のイオンとして吸収する。例えば、肥料成分の1つである窒素は、アンモニア性窒素または硝酸態窒素として植物に吸収されるが、どちらの成分を吸収し易いかは植物によって異なる。従来は、供給する肥料としてアンモニア性窒素または硝酸態窒素のバランスを変えることが行われてきた。本発明のシステムにおいては、例えばフィルム中にチャージを持ったイオン基を導入することにより養液中のイオンを透過しにくくしたり、透過しやすくしたりできる。このような、フィルム組成へのイオン基の導入の詳細に関しては、例えば、[文献:P.J.フローリー著「高分子化学I」昭和40年8月20日第3版第9刷 訳者 岡 小天、金丸 競発行所 丸善株式会社 P38〜47、P48〜54、P168〜221]で参照される方法で、イオン基を導入することで可能となる。また、表面改質方法があり、その詳細は、例えば[文献:「電気電子用プラスチック材料」発行 2002年3月 株式会社東レリサーチセンター P47〜77]を参照することができる。
【0104】
(容器の形成方法)
上記を構成する植物栽培用器具の使用方法は特に制限されないが、例えば、該容器中に植物保持用マトリックスおよび植物体を配置し、少なくとも前記フィルムを水もしくは肥料溶液に接触させつつ、該植物体を栽培すればよい。
【0105】
(植物体)
本発明において栽培可能な植物(体)は、特に制限されない。本発明の栽培方法においては、植物の生長した根が、上記したフィルムと一体化した後に、該フィルムを介して接する液体からの肥料成分吸収が可能となるため、該植物は、ある程度生長した苗の状態であることが望ましい。ただし、該植物を保持すべきマトリックス(ないし土壌)中に、該植物がフィルムと一体化するまでの根の成長を可能とする程度の養分および水分を含有ないし混入することにより、種子ないし発芽直後の種子であっても、本発明の栽培方法により栽培することが可能となる。
【0106】
また、本発明においては、支持体無しで、直接フィルム上に植物体(例えば、種子)を蒔いて発芽させ、生育させることも可能である。
【0107】
(マトリックス、土壌)
上述したように、通常使用される土壌ないし培地は、本発明において、いずれも使用可能である。このような土壌ないし培地としては、例えば、土耕栽培に用いられる土壌、および水耕栽培に用いられる培地が挙げられる。
【0108】
例えば、無機系では天然の砂、れき、パミスサンドなど、加工品(高温焼成等)では、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、セラミック、籾殻くん炭など。有機系では天然のピートモス、ココヤシ繊維、樹皮培地、籾殻、ニータン、ソータンなど、合成品の粒状フェノール樹脂などがある。また、これらの混合物でもよい。また、合成繊維の布あるいは不織布も使用可能である。必要最小限の肥料および微量要素を、これらの土壌ないし培地に加えてもよい。本発明者らの知見によれば、本発明の栽培器具/栽培方法においては、植物の根が、フィルムを介して接触する水または養液側から吸収可能な程度に伸びるまでの水または養分は、ここに言う「必要最小限の水分、肥料および微量要素」として、フィルムより上側(すなわち、植物側)に加えておくことが望ましい。
【0109】
(養液)
本発明において使用可能な養液(ないし肥料溶液)は特に制限されない。例えば、従来の養液栽培ないし水耕栽培において使用されてきた液状成分は、本発明においていずれも使用可能である。
【0110】
一般には、水または養液として植物の生育にとって必要不可欠な無機成分としては、主要な成分として:窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫黄(S)、微量成分として:鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ホウ素(B)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)が挙げられる。さらにこの他に、副成分として、珪素(Si)、塩素(Cl)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)等がある。必要に応じて、本発明の効果を実質的に阻害しない限り、その他の生理活性物質も加えることができる。更に、グルコース(ブドウ糖)などの糖質、アミノ酸等を添加することも可能である。
【0111】
(根圏温度の制御)
本発明においては、必要に応じて、フィルムを介して植物体の根と接触する液体(例えば、水または養液)の温度を制御することにより、該フィルムと一体化すべき(ないしは、既に一体化した)根周辺の温度、すなわち根圏温度を調節することができる。このような態様によれば、温室等の室内全体を暖房/冷房していた従来の方式と比べて、植物の根圏温度を精密に、且つ省エネルギー的にコントロールすることが容易となる。
【0112】
本発明においては、特に、植物体の根がフィルムと密着ないし一体化しているため、根圏温度の制御が特に容易である。
【0113】
加えて、本発明によるシステムでは加温、冷却すべき水または養液の量が極めて少ないこと、従来の養液栽培のように、養液の溶存酸素を増やす操作が不要であること、あるいは、栽培ベッド中の水または養液が外気と直接に触れず、密閉されているため保温効果に優れ、全体として加温冷却を効率的に行うことができ、エネルギーコスト的に極めて優位性が高い。
【0114】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0115】
実施例1
(無孔性親水性フィルムを用いた小松菜の栽培における硝酸態窒素低減試験)
1)栽培方法
栽培ベッド:高設架台に30mm厚みエスレンボード(ビーズ発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))により作製した、巾90cm×長さ28m×深さ12cmの箱を設置した。箱を水槽とするためポリフィルム(農業用ポリエチレンフィルム)を内側に敷いた。養液を深さ約5cmまで加えた。養液の上に無孔性親水性フィルム(Hymecフィルム(厚さ40μm);メビオール(株))を敷き、端は水槽の外側に垂らした。
マトリックス:マトリックスとして、Hymecフィルムの上に不織布25S(メビオール(株))を敷いた。
点滴チューブ:マトリックスの上にドリッパー間隔10cmの点滴チューブ(吐出量1.05L/hr(ネタフィム社))約30mを敷いた。
【0116】
マルチング:巾約85cm×長さ180cm×厚み20mmエスレンフォーム(低発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))に15cm間隔で、苗植付け用の孔を開け、マトリックスの上に乗せ並べた。更に、同様15cm間隔に孔を開けた白黒マルチフィルム(「こかげ」厚み0.025mm:大倉工業(株))で発泡ボードの孔と合わせ、水槽ごと被覆した。
苗:小松菜の種をプラグトレーに播種し、作製した苗を使用。
苗の植付け:栽培ベッドに小松菜200株を植付けた。
【0117】
点滴チューブによる潅水:点滴チューブの端から4.22〜4.30までは水を、5.1〜5.6養液を注入供給し、5.7〜5.12には再度水に切り替えた。
【0118】
養液:(1)硝酸態窒素低減を目的とした栽培ではフィルム下に、水道水を使用した。また、フィルム上方より点滴チューブによる、潅水(水または養液)をおこなった。(2)比較対照実験としては、フィルム下に、大塚化学(株)製 大塚ハウス1号、2号、5号をそれぞれ1.5g/L、1g/L、0.05g/Lの割合で混合した養液を使用した。フィルム上方からの潅水は行わなかった。
【0119】
栽培場所:沖縄県島尻郡
栽培期間:4.22〜5.12
【0120】
2)結果
表1に結果を示す。
【0121】
表1 小松菜の硝酸態窒素含量(ppm)測定結果
【表1】
【0122】
硝酸態窒素の測定は、小松菜の葉(茎)を「にんにく搾り器」で搾り、搾り汁を硝酸イオンメーター(コンパクトイオンメーター C−141;(株)堀場製作所製)により測定した。
【0123】
硝酸態窒素低減を目的とした試験区の結果は、5/7には小松菜の草丈が20cmを超え、硝酸態窒素含有量が3,000ppmであったが、フィルム上からの点滴を水に変えたところ、5/12には硝酸態窒素含量を890ppmまでに下げることができた。
比較対照区の結果は、5/7には小松菜の草丈が同様に20cmを超え、5/12における硝酸態窒素は6000ppmであった。
【0124】
以上の結果から、フィルムの下に水のみを使用し、生育段階に応じてフィルム上から養液または水を適宜潅水することで、野菜の硝酸態窒素を大幅に引き下げることが可能であることがわかった。
【0125】
実施例2
(無孔性親水性フィルムを用いたトマト栽培)
1)方法
栽培ベッド:高設架台に40mm厚みエスレンボード(ビーズ発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))により作製した、巾45cm×長さ28m×深さ12cmの箱を設置した。箱の底面には冷却水を通し、往復させるためのパイプ(積水潅水PE管K20;積水化学工業(株))を2本設置した。箱を水槽とするためポリフィルム(農業用ポリエチレンフィルム)を内側に敷いた。養液を深さ約7cmまで加え、エスレンフォーム(低発泡ポリスチレンボード:積水化成工業(株))からなる巾約43cm×180cm×厚み20mmのフロート板(浮き板)を水槽に浮かべ並べた。フロート板を揚水用不織布(メビオールシート(メビオール(株))で被覆し、不織布は端が養液の中に浸るように設置した。フロート板上の揚水用不織布の上に無孔性親水性フィルム(Hymecフィルム(厚さ65μm);メビオール(株))を敷き、端は水槽の外側に垂らした。28m長さの栽培ベッドを2系列用意した。
【0126】
養液:大塚化学(株)製 大塚ハウス1号、2号、5号をそれぞれ1.5g/L、1g/L、0.05g/Lの割合で溶解混合した養液を使用した。
マトリックス:マトリックスとして、下記2種類をHymecフィルムの上に約1cmの深さで敷いた。
1)ピートモス(PEAT MOSS(Horticultual Grade 170l入り(Canadian Supreme Ltd.))、2)ピートモス、バーミキュライト(大粒 50l入り;(株)トーホー)、赤土(島尻赤土;(有)緑工産業)を容積比 2:2:1で混合使用した。
【0127】
点滴チューブ:マトリックスの上にドリッパー間隔10cmの点滴チューブ(吐出量1.05L/hr(ネタフィム社))約30mを敷いた。
【0128】
マルチング材:巾約43cm×長さ180cm×厚み20mmエスレンフォーム(低発泡ポリスチレンボード;積水化成工業(株))の中央に30cm間隔で、苗植付け用の孔を開け、マトリックスの上に乗せ並べた。更に、同様30cm間隔に孔を開けた白黒マルチフィルム(「こかげ」厚み0.025mm:大倉工業(株))で発泡ボードの孔と合わせ、水槽ごと被覆した。
【0129】
トマト苗:品種 桃太郎ファイトのセルトレー苗((株)サザンプラント)、草丈約18cm
苗の植付け:2列の栽培ベッドに87本/1列の苗を植付け
点滴チューブによる潅水:点滴チューブの端から苗1本あたり30ml/日の養液を注入供給し、着花後は60ml/日とし、果実白熟期以降は停止した。
【0130】
栽培場所:沖縄県島尻郡
栽培期間:11.2〜3.5
【0131】
2)結果
植付後30日目に第1花房の開花が始まり、養液潅水量を60ml/日・本とした。
65日目に1〜2段目のみ残し、低段栽培とし、80日目に点滴潅水を停止した。
90日目には果実が色づき始め、95日目に収穫を開始した。
全体で約700個の果実をつけ、尻腐れは全く認められなかった。
又、トマトの根によるフィルムの破損は全く認められなかった。
表2に植付け後100日目に収穫したトマトの重量と果実サイズを測定した結果を示す。
【0132】
表2 トマトの測定結果(100日目)
【表2】
【0133】
代表的なサンプルの糖度は(Brix%)はサンプル(a)について9.3、9.5(n=2で測定)、サンプル(b)について8.4、8,3(n=2で測定)であった。また、トマトのリコピン含量は26.4mg/100gであり、市販品のトマト(品種:桃太郎ファイト)のリコピン含量3.3mg/100gに対し8倍もの高い値であった。リコピン含量は、外部測定機関(株)マシスにおいてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法により実施した。
【0134】
上記した実験系の概略を示す写真を図20に示す。また、上記で得られたトマトの写真を図21に示す。
以下で用いた実験方法は、上述したものの他は、以下の通りである。
【0135】
<水の蒸発量測定>
図5の模式断面図を参照して、上述した「ざるボウルセット」を使い、ざるにフィルム(200〜260×200〜260mm)を敷いた後に土壌を加え、植物の苗(1〜2本)を植え付ける。ボウルに水あるいは所定濃度の肥料希釈液を加え、この上にざるを乗せた。定期的に上皿天秤にて重量を測定し、減量から液の蒸発量を測定した。蒸発により減量した液は随時追加した。
【0136】
<成長過程の観察>
苗の成長過程の観察は、デジタル写真により撮影した(デジタルカメラ:キャノン社製 IXY Digital 200a)。
<試験終了後の観察ならびに測定>
試験終了後は、根の乗っているフィルムの裏側をフィルム越しに、あるいはフィルムを除き、根の部分を中心に写真撮影を行った。成長した苗の重量測定は、根の付いたまま、あるいは根元で切断し、茎葉部分を秤量した。
【0137】
<pHの測定>
pHの測定は後述のpHメーターによって行った。標準液(pH7.0)で校正したpHメーターのセンサー部分を測定すべき溶液につけ、本体を軽く揺らし、値が安定するのを待ち、LCD(液晶)表示部に表示される値を読み取った。
【0138】
<Brix%の測定>
Brix%測定は後述の糖度計(屈折計)を用いて行った。測定溶液をスポイトでサンプリングし、糖度計のプリズム部分に滴下し測定後、LCDの値を読み取った。
【0139】
<実験器具等>
1.使用器具および装置
1)ざるボールセット:ざるの半径6.4cm(底面の面積約130cm2)
2)発泡スチロール製トロ箱:サイズ55×32×15cm等
3)上皿電子天秤:Max.1Kg 株式会社タニタ
4)ばね式天秤:Max.500g 株式会社鴨下精衡所
5)ポストスケール:ポストマン100 丸善社
6)電気伝導度計:Twin Cond B−173 株式会社堀場製作所
7)pHメーター:pHパル TRANS Instruments(グンゼ産業)
8)糖度計(屈折計):PR201 (株)アタゴ社製
【0140】
2.使用材料(土壌)
1)スーパーミックスA:水分約70% 微量肥料入り 株式会社サカタの種
2)ロックファイバー:栽培用粒状綿66R(細粒) 日東紡 成分(%)SiO2 43、CaO 33、Al2O3 15、MgO 6、Fe2O3 1以下、MnO 1以下
3)バーミキュライト:タイプGS ニッタイ株式会社
【0141】
(フィルム)
4)ポリビニルアルコール(PVA):40μm アイセロ化学
5)二軸延伸PVA:ボブロン 日本合成化学工業
6)親水性ポリエステル、同不織布付、生地付:12μm デュポン社
7)セロファン
8)浸透セロファン:横浜商事(株)
9)微孔性ポリプロピレンフィルム:PH−35(約40μm) トクヤマ
10)不織布:シャレリア(超極細繊維不織布)旭化成社
【0142】
(苗用種)
11)サニーレタス:レッドファイヤー タキイ種苗株式会社
12)パンジー:マキシムF−1 株式会社サカタの種
【0143】
(肥料)
13)原液ハイポネックス: 株式会社ハイポネックスジャパン
全窒素量 5.0%、内アンモニア性窒素 1.95%、硝酸態窒素 0.90%
水溶性リン酸 10.0%、水溶性カリ 5.0%、水溶性苦土 0.05%
水溶性マンガン 0.001%,水溶性ほう素 0.005%(その他)
14)伯方の塩:伯方塩業株式会社
100g中ナトリウム37.5g、マグネシウム110mg、カルシウム 90mg、カリウム50mg
15)ブドウ糖:ブドウ糖100 (株)イーエスNA
【0144】
実施例3
(液体肥料の効果)
図5の系を用いて、ハイポネックス原液の濃度の効果を調べた。すなわち、ハイポネックス100倍希釈液、1000倍希釈液、および水(水道水)の効果を比較した。
【0145】
大きさが約20cm×20cmのフィルム(PVA)内に土壌として、バーミキュライト、またはロックファイバーを約300ml配置した。この土壌内に、植物の苗として、サニーレタス(本葉1枚強)を2本配置した。土壌および溶液毎に6種類の系を作製し、それぞれの溶液に浸漬した。この際、溶液は各300ml使用し、フィルム(PVA)内の土壌が約2cmの深さで浸かるように配置した。実験はハウス内で行い、日照は自然のままのものとした。実験の際の気温は、約0〜25℃、湿度は50〜90%RH程度であった。
【0146】
水分蒸発量および溶液のEC値を、栽培開始後13日後、および35日後に測定した。35日後には、前述した「引き剥がし試験」も行った。
上記実験条件を纏めると、以下の通りである。
【0147】
1.実験
1)フィルム:PVA40μm(アイセロ化学)200×200mm
2)苗:サニーレタス 本葉1枚強
3)土壌:バーミキュライト(細粒)、ロックファイバー66R
4)溶液: 水、ハイポネックス原液 100倍希釈水溶液、1000倍希釈水溶液
5)器具:ざるとボールのセット
6)置き場所:ハウス(温度湿度制御無し)
【0148】
7)実験方法: ざるにフィルム(200×200mm)を介しバーミキュライト150g(水分73%、乾燥重量40g)、ロックファイバー200g(水分79%、乾燥重量40g)を加え、苗を2本植え付ける。ボウルに水または養液を240〜300g加え、ざるを乗せた。
8)期間:10.29〜12.42.上記実験により得られた結果を、下記表1に示す。
【0149】
(表3)
【表3】
【0150】
EC:液肥追加前/追加後
【0151】
上記した表3のデータ(例えば、100倍希釈−1000倍希釈−水のデータ比較)により、植物がフィルムを介して肥料溶液中から成長に必要な肥料成分を得ていることも、容易に理解できよう。また、水と比較して肥料溶液を使用すると、引剥がし強度が顕著に増加し、肥料成分が根とフィルムの一体化を促進することがわかる。
【0152】
実施例4
養液として用いた液体肥料の濃度を、ハイポネックス1000倍、2000倍、3000倍希釈とし、表4に示した項目以外は、実施例3と同様に実験を行った。
「ざる」にフィルムを介し土壌200g(水分79%、乾燥重量40g)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水または肥料溶液を240g加え「ざる」を乗せた。(実施期間:10.30〜12.4)
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0153】
(表4)
【表4】
EC:液肥追加前/追加後
【0154】
(実験結果に対する記述)
液体肥料の希釈倍率によって、植物生長の程度は実施例3と同様に濃度の濃い方が成長しており、フィルムを介して肥料成分を吸収していることが理解できる。
【0155】
実施例5
(バーミキュライト/PVA液体肥料効果)
バーミキュライト/PVAの系を用いて、水とハイポネックス1000倍希釈液の効果を比較した。表5に示した以外は、実施例3と同様に実験を行った。
「ざる」にフィルムを介し土壌235g(水分63%)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水または肥料溶液を約250ml加え「ざる」を乗せた(実施期間:10.22〜11.25)。
上記実験により得られた結果を纏めれば、以下の通りである。
【0156】
(表5)
【表5】
EC:液肥追加前/追加後
【0157】
引き剥がし試験:ポストスケール使用
(実験結果に対する記述)
肥料溶液のEC値は、初期0.5dS/mに対し、最終35日目には0.22dS/mと低下し、明らかに肥料が消費されていた(水分蒸発を考慮すると、液体肥料の消費量は、さらに大きいと思われる)。
【0158】
実施例6
土壌としてバーミキュライトを用い、フィルムを黒不織布付親水性ポリエステルとし、表6に示した項目とした以外は、実施例3と同様に実験を行った。
<バーミキュライト/不織布付親水性ポリエステル液体肥料効果>
実験は、「ざる」にフィルムを介し土壌230g(水分76%、乾燥重量55g)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水、または肥料溶液を約200g加え「ざる」を乗せた。
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0159】
(表6)
【表6】
【0160】
(実験結果に対する記述)
30日目における根と茎葉の重量を、肥料溶液と水で比較すると、明らかに肥料溶液の方が大であり、肥料を吸収していることが理解できる。
【0161】
実施例7
土壌としてロックファイバー(使用量:乾燥重量10、20、30g)を用い、表7に示した項目以外は、実施例3と同様に実験を行った。
<ロックファイバー量の効果>
「ざる」にフィルムを介し土壌50〜150g(水分83%、乾燥重量10、20、30g)を加え、苗を2本植え付けた。ボウルに水、または肥料溶液を290〜390g加え「ざる」を乗せた。(期間:11.1〜12.4)
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0162】
(表7)
【表7】
引き剥がし試験:ばね式秤を使用
【0163】
(実験結果に対する記述)
土壌量10gの場合には10日目で枯れ、根の成長が進む前に水分不足により枯れたと思われる。従って、適度な土壌量が極めて好ましいと考えられる。
【0164】
実施例8(各種フィルムの差)
上記した方法で、各種フィルムに関して、水による苗の成長を観察した。フィルムとしては、PVA、二軸延伸PVA(ボブロン)、親水性ポリエステル3種の計5サンプルを用いた。
ざるにフィルム(260×260mm)を介し土壌500mlを加え、苗を2本植え付ける。ボウルに水250mlを加え「ざる」を乗せた。期間は8月17日〜9月14日である。
【0165】
(表8)
【表8】
【0166】
(実験結果に対する記述)
不織布付親水性ポリエステルの水分蒸発量が突出しているが、不織布からの蒸発が含まれているためと考えられる。
【0167】
最終苗の本葉数は、不織布付親水性ポリエステル≧PVA>親水性ポリエステル≧ボブロン>生地付親水性ポリエステルの順であった。これは、根の発育状況と同様の傾向であった。
【0168】
実施例9
(塩水透過試験)
前述の<フィルムの塩/水透過試験>方法に従って、各種フィルムの塩水透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、親水性ポリエステル、セロファン、PH−35、超極細繊維不織布(シャレリア)の6種である。
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0169】
(表9)
【0170】
【表9】
上記データをグラフ化したものを図7に示す。
【0171】
(実験結果に対する記述)
6種類のフィルムのうち、PH−35は塩水の透過が認められなかった。その他のフィルムでは、超極細繊維不織布は水と共に塩が完全に透過しているが、PVA、親水性ポリエステルおよびセロファンも比較的早く塩の透過が進んでいる。ボブロンは塩の透過速度が小さいものの、4日目には塩水系と水系とのEC値の差が4.5以内になっている。
【0172】
実施例10
(ブドウ糖透過試験)
<グルコース(ブドウ糖)透過試験>
下記の<グルコース(ブドウ糖)透過試験>方法に従って、各種フィルムのブドウ糖透過試験を行った。フィルムはPVA、ボブロン(二軸延伸PVA)、セロファン、浸透セロファン、PH−35の5種である。
【0173】
前述のざるボウルセットを使用し、ボウルに5%ブドウ糖水溶液(ブドウ糖50g/水1000ml)150gを加え、ざるに200×200mmのフィルムを敷き、水150gを加えて、ボウルに乗せた。それぞれの濃度と重量の経時変化を測定した。
【0174】
<濃度測定>
糖度計(屈折計)を用いてBrix%を測定した。Brix%はショ糖を水に溶解したときの重量%の単位で、例えば100g中に10gのショ糖が溶けている液はBrix10%となる。
【0175】
上記実験により得られた結果は、以下の通りである。
【0176】
(表10)
【0177】
【表10】
【0178】
上記データをグラフ化したものを、図8に示す。
【0179】
(実験結果に対する記述)
5種類のフィルムのうち、ボブロン、PH−35を除いた、PVA、セロファンおよび浸透セロファンは実験開始から3日目程度で、ブドウ糖系と水系とのBrix値の差が1以内になり、ブドウ糖がフィルムを透過していることが判る。
【0180】
実施例11
(耐水圧試験)
JIS L1092(B法)に準じた試験により、200cmH2Oの耐水圧試験を行った。
【0181】
実験結果
フィルム種 耐水圧(cmH2O)
PVAフィルム(40μm) 200以上
二軸延伸PVA(ボブロン) 200以上
セロファン 200以上
親水性ポリエステル 200以上
超極細繊維不織布 0
【0182】
実施例12
実施例9と同様にしてざるボールセット(ざるの半径6.4cm、容量130cm3)を用い、ざるに20×20cmのフィルムを乗せ純水を150g加え、ボール側に養液150gを加えて、サランラップで包んだ。サンプリング時間3、6、12、24、36、48、72hrsで計7個の容器を用意し、所定時間経過後100mlずつサンプル容器に採取した。各サンプル中の、主要肥料成分の分析を行った。
【0183】
1)透湿フィルム:PVAフィルム25μm(日本合成化学工業(株)製)、親水性ポリエステル20μm(デュポン社製)
2)水:蒸留水(和光純薬工業(株)製)、養液肥料:大塚ハウス1号 1.5g/L、2号 1g/L(大塚化学(株)製)
【0184】
3)分析方法
a)アンモニウムイオン、硝酸イオンおよび硫酸イオン:イオンクロマトグラフ法により分析(分析の詳細に関しては:「水の分析」第4版 日本分析化学会北海道支部編 発行(株)化学同人 1997年7月20日 第3章水の分析に用いられる分析法 3.7.3 イオンクロマトグラフィー(P125〜129)を参照することができる)。
【0185】
b)りん、カリウム、カルシウムおよびマグネシウム:ICP(発光分光分析)法により分析(分析の詳細に関しては:「水の分析」第4版 日本分析化学会北海道支部編 発行(株)化学同人 1997年7月20日 第13章微量汚染物質と関連する分析法 13.10 ICP(P478〜480)を参照することができる)。
【0186】
主要成分のアンモニア性窒素(NH4−N)、硝酸態窒素(NO3−N)、りん酸(P2O5)、カリウム(K2O)、カルシウム(CaO)、マグネシウム(MgO)および硫黄(SO4)について、フィルム透過性の経時変化を表11〜表17に、またこれらのデータに対応するグラフを図9〜図15に示す。
【0187】
上記した表およびグラフに示すように、肥料のフィルム透過性に関して、肥料成分によって透過速度の違いはあるものの、主要成分の窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)および硫黄(S)はすべて透過する。
【0188】
(表11)アンモニア性窒素 単位:ppm
【表11】
【0189】
(表12)硝酸態窒素 単位:ppm
【0190】
【表12】
【0191】
(表13)りん酸 単位:ppm
【表13】
【0192】
(表14)カリウム 単位:ppm
【表14】
【0193】
(表15)カルシウム 単位:ppm
【表15】
【0194】
(表16)マグネシウム 単位:ppm
【表16】
【0195】
(表17)硫黄 単位:ppm
【表17】
【0196】
実施例13
30×22×8cmのトロ箱に養液としてハイポネックス原液(N:5%、P:10%、K:5%)((株)ハイポネックスジャパン製)300倍希釈水溶液(EC:1.37)1.3Lを加え、40μmPVAフィルム(アイセロ化学(株)製)48×40cmを上に浮かべた。
【0197】
フィルム上に土壌としてスーパーミックスA((株)サカタの種)を深さ2cm乗せ、サニーレタス幼苗(本葉3枚)を12本植えつけた。ビニルハウス(温度湿度制御無し)に11.12〜1.11(60日間)の間生長させた。その後、根と一体化したPVAフィルムを試料とし、根の界面の光学顕微鏡写真(倍率:10〜100倍)を撮影した。
[試料の前処理と観察]
【0198】
1)試料をエタノールで脱水
2)親水性の樹脂「テクノビット」(応研商事(株)社製)に包埋
3)ガラスナイフで厚さ3ミクロンに薄切りしてガラス板の上に載せ乾燥させる
4)0.1%のトルイジン青にて15分間染色
5)水洗下の血に70%エタノール溶液で過剰な染色部分を脱色させる(分別)
【0199】
6)アルコールで脱水した後にキシレンに入れて、その後にカバーガラスをかけて封入
7)観察は光学顕微鏡にて、10倍から100倍の間で観察
(なお、上記した試料の前処理および観察方法の詳細に関しては、例えば、応研商事株式会社のホームページ(http//www.okenshoji.co.jp/)の「低温重合樹脂テクノビット」の項で詳細な試験方法を参照することができる。)
【0200】
光学顕微鏡による観察結果を、図16に示す。この図16に示すように、根の細胞がPVAフィルム面に隙間無く配置され、PVAフィルムと根が一体化している様子が観察された。
【0201】
実施例14
実施例9と同様に、ざるボールセット(ざるの半径6.4cm、容量130cm3)を用い、ざるに20×20cmのフィルムを乗せ水道水を150g加え、ボール側に塩水150gを加えて、サランラップで包み室温に置いた。サンプリング時間毎に、水側(ざる)および塩水側(ボール)の養液を良く撹拌した後、スポイトでサンプリングし、EC値を測定した。
【0202】
1)透湿フィルム:厚みの異なる親水性ポリエステルフィルム(デュポン社製)およびPVAフィルム(日本合成化学工業(株)製)を使用した。
【0203】
親水性ポリエステルK06−20μm、K06−40μm、CRP06−75μm(デュポン社製)、PVA#2500(25μm)、#4000(40μm)、#6500(65μm)(日本合成化学工業(株)製)
【0204】
2)0.5%塩水:水道水に「伯方の塩」(伯方塩業(株)製)を0.5重量%溶解した。
伯方の塩:100g中ナトリウム37.5g、マグネシウム110mg、カルシウム90mg、カリウム50mg
【0205】
3)実験方法
電気伝導度計:Twin Cond B−173((株)堀場製作所)を用い、スポイトでサンプリングした溶液を電気伝導度計の測定部位に少量乗せ、電気伝導度EC(ds/m)を測定した。
【0206】
実施期間:8月26日〜31日
親水性ポリエステルフィルムの結果を表18および図17に、PVAフィルムの結果を表19および図18に示す。
【0207】
上記の図17および図18から、親水性ポリエステルフィルムおよびPVAフィルムとも水側のEC値は増加し、塩水側のEC値は減少し、両者の値が時間と共に同じ値に収束して行くことが判明した。親水性ポリエステルフィルムの場合、フィルム厚み20〜75μmの範囲で、水側EC値の増加速度および塩水側EC値の低下速度は、厚みが増すに従って遅くなり、すなわち0.5%塩水透過性が大きく低下している。一方、PVAフィルムの場合は、フィルム厚み25〜65μmの範囲で、厚みが増しても0.5%塩水透過性は殆ど変わらない。
【0208】
親水性ポリエステル 単位:dS/m
(表18)
【表18】
【0209】
PVA 単位:dS/m
(表19)
【表19】
【0210】
実施例15(含水率の測定)
ポリプロピレン製蓋つきプラスチック容器(15×11×4cm)に水300mlを加え、厚みの異なる3種類のPVAフィルムと親水性ポリエステル1種(10×20cm)を浸漬し、適温ボックスに入れ20時間保持した。所定時間経過後フィルムを取りだし、表面の水分をティッシュペーパーで速やかにふき取り秤量した(WTg)。乾燥時の重量をW0gとし、含水率(%)=(WT−W0)/WT×100を求めた。
【0211】
測定温度は5、20、35℃の3点で、各温度n=2の試料で測定した。
PVAフィルム:#2500(25μm)、#4000(40μm)、#6500(65μm)(日本合成化学(株)製)
親水性ポリエステル:K06−40(40μm)(デュポン社製)
【0212】
適温ボックス:型式ERV740(容量9L、消費電力75W)(松下電工(株)製)
(結果)
図19に含水率の温度別グラフを示す。このグラフに示すように、PVAは温度が上昇するにつれて、含水率が上昇する傾向を示す。親水性ポリエステルはPVAとは逆に温度が上昇するにつれ含水率が低下する。PVAのフィルム厚みの差、またはポリマー種による含水率の差はそれほど大きく無く、温度変化も含め、20〜28%程度である。
【0213】
実施例16(フィルムの腐食性)
使用するフィルムの天然に存在する微生物に対する腐食耐性の試験を下記の条件で実施した。
プラスチック製容器(20×12×5.5cm)に水道水700mlを加え、30×22cmの各種フィルムを水面上に乗せる。フィルムの上に、土壌スーパーミックスA((株)サカタのタネ製)170gを乗せ、ルッコラ(オデッセイ、(株)サカタのタネ)の本葉約1枚の幼苗(播種後17日目)を各6本植えつけた。温度21℃、湿度60〜70%、人工光による照度3700〜3800Lxの栽培棚で4.28から5.30まで栽培し、39日目に草丈と本葉数を測定した。
【0214】
使用したフィルムは、セロファンフィルム(PL#500、厚さ:35μm;二村化学工業(株))およびポリビニールアルコール(PVA)フィルム(#40、厚さ:40μm;アイセロ化学(株)))である。
結果を表20に示す。
【0215】
(表20)
【表20】
【0216】
表20に示す様に、セロファンフィルムの場合は1週間でフィルムが腐食し孔が開き、栽培を続けることができなかった。この実験は2回行ったが同様の結果であった。一方、PVAフィルムの場合は微生物による腐食が全く認められず、39日間の栽培の結果、良好な生長が認められた。この結果から、セロファンフィルムは天然素材であり微生物によって分解されやすいのに対して、PVAフィルムの場合は合成材料であり、微生物に分解されにくいものと考えられる。
【0217】
実施例17(フィルムの耐候性)
本発明に使用するフィルムは常に太陽光あるいは人工光に曝されるので、フィルムの耐候性試験を実施した。試験方法は、フィルムサイズ20×25cmを室内の窓辺に置き(9.12〜12.17)、外観の変化を観察した。使用したフィルムは、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム(#2500 厚さ:25μm)、親水性ポリエステルフィルム(K06−20 厚さ:20μm)およびセロファンフィルム(PL#500 厚さ:30μm)である。
【0218】
試験結果は、親水性ポリエステルフィルムの場合は1ヶ月で破損が認められたのに対して、ポリビニルアルコールおよびセロファンフィルムの場合は3ヶ月後も変化が無かった。
実施例16、17の結果から、微生物に対する耐腐食性、光に対する対候性に共に優れたポリビニルアルコール(PVA)フィルムが本発明を実施するのに好適であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】図1は、本発明の植物栽培用器具の基本的な態様の例を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の植物栽培用器具の他の態様例を示す模式断面図である。
【図3】図3は、本発明において用いるフィルム特性(水−塩水接触)測定を説明するための模式断面図である。
【0220】
【図4】図4は、本発明に用いるフィルム特性(引き剥がし強度)測定を説明するための模式斜視図である。
【図5】図5は、本発明において用いるフィルム特性(水蒸発量)測定を説明するための模式断面図である。
【図6】図6は、本発明において用いるフィルムの特性(引き剥がし強度)測定用の試験片を示す写真である。
【図7】図7は、本発明において用いるフィルム特性(水−塩水接触)測定結果の例を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明において用いるフィルム特性(水−ブドウ糖接触)測定結果の例を示すグラフである。
【0221】
【図9】図9は、アンモニア性窒素のフィルム透過性を表すグラフである。
【図10】図10は、硝酸態窒素のフィルム透過性を表すグラフである。
【図11】図11は、りん酸のフィルム透過性を表すグラフである。
【図12】図12は、カリウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図13】図13は、カルシウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図14】図14は、マグネシウムのフィルム透過性を表すグラフである。
【図15】図15は、硫黄のフィルム透過性を表すグラフである。
【0222】
【図16】図16は、植物の栽培終了時の、根/フィルム/養液の界面近傍の状態を表す光学顕微鏡写真(倍率:250倍)である。
【図17】図17は、種々の厚みの親水性ポリエステルフィルムの0.5%塩水透過性を示すグラフである。
【図18】図18は、種々の厚みのPVAフィルムの0.5%塩水透過性を示すグラフである。
【図19】図19は、実施例15において得られた、数種のフィルムの含水率の温度変化示すグラフである。
【図20】図20は、本発明の実施例2で用いた実験系の概略を示す写真である。
【図21】図21は、本発明の実施例2で得られたトマトの写真である。
【図22】図22は、フロート部材にスリット状の孔を設けた態様を示す模式平面図および模式断面図である。
【図23】図23は、フロート部材に円形の孔を設けた態様を示す模式平面図および模式断面図である。
【符号の説明】
【0223】
1 植物栽培用器具
2 収容部
3 無孔性親水性フィルム
4 フロート部材
5 リザーバ
6 水または養液
7 揚水シート
8 マトリックス(土壌)
9 マルチング材
10 通水パイプ
11 点滴チューブ
12 細霧噴霧バルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;
該容器が、水または養液を収容するためのリザーバと、
該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、
該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み、且つ、
前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムであることを特徴とする植物栽培用器具。
【請求項2】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水と塩水とを対向して接触させた際に、測定開始後4日目(96時間)の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のフィルムである請求項1に記載の植物栽培用器具。
【請求項3】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の濃度(Brix%)の差が4以下のフィルムである請求項1または2に記載の植物栽培用器具。
【請求項4】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムの内側(水に対向する面の反対側)に植物体を配置して栽培を開始した35日後に、前記植物体の根に対して5g以上の剥離強度を示すフィルムである請求項1〜3のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項5】
前記無孔性親水性フィルムが、耐水圧として10cm以上の水不透性を有する請求項1〜4のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項6】
前記リザーバと、無孔性親水性フィルムとの間に、該リザーバ中に収容されるべき水または養液に浮かぶことができるフロート部材が配置された請求項1〜5のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項7】
水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み、且つ、前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムである植物栽培用器具を用い;
該器具中に植物体を配置し、
水または養液を、少なくとも前記フィルムを介して接触させつつ、前記植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項8】
前記植物体とフィルムとの間に、植物保持用支持体を配置する請求項7に記載の植物栽培方法。
【請求項9】
前記植物体とフィルムとの間に、マルチング材料を配置する請求項7または8に記載の植物栽培方法。
【請求項10】
前記リザーバと、無孔性親水性フィルムとの間に、該リザーバ中に収容されるべき水または養液に浮かぶことができるフロート部材を配置する請求項7〜9のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項11】
前記フィルムと植物体とが実質的に一体化するまでは、前記リザーバから植物体に実質的に水分のみを供給し、フィルムと植物体とが実質的に一体化した後は、前記フィルムの上方から植物体に、水または養液を必要に応じて植物体に供給する請求項7〜10のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項12】
前記フィルムの上方から植物体に、必要に応じて水または養液を切り替えて、植物体に供給する請求項11に記載の植物栽培方法。
【請求項1】
栽培すべき植物体を収容可能な形状を有する器具であって;
該容器が、水または養液を収容するためのリザーバと、
該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、
該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み、且つ、
前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムであることを特徴とする植物栽培用器具。
【請求項2】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水と塩水とを対向して接触させた際に、測定開始後4日目(96時間)の水/塩水の電気伝導度(EC)の差が4.5dS/m以下のフィルムである請求項1に記載の植物栽培用器具。
【請求項3】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムを介して水とグルコース溶液とを対向して接触させた際に、測定開始後3日目(72時間)の水/グルコース溶液の濃度(Brix%)の差が4以下のフィルムである請求項1または2に記載の植物栽培用器具。
【請求項4】
前記無孔性親水性フィルムが、該フィルムの内側(水に対向する面の反対側)に植物体を配置して栽培を開始した35日後に、前記植物体の根に対して5g以上の剥離強度を示すフィルムである請求項1〜3のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項5】
前記無孔性親水性フィルムが、耐水圧として10cm以上の水不透性を有する請求項1〜4のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項6】
前記リザーバと、無孔性親水性フィルムとの間に、該リザーバ中に収容されるべき水または養液に浮かぶことができるフロート部材が配置された請求項1〜5のいずれかに記載の植物栽培用器具。
【請求項7】
水または養液を収容するためのリザーバと、該リザーバ中の水または養液上に配置すべきフィルムと、該フィルムの上方から水または養液を供給する手段を少なくとも含み、且つ、前記フィルムの少なくとも一部が、植物体の根と実質的に一体化し得る無孔性親水性フィルムである植物栽培用器具を用い;
該器具中に植物体を配置し、
水または養液を、少なくとも前記フィルムを介して接触させつつ、前記植物体を栽培することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項8】
前記植物体とフィルムとの間に、植物保持用支持体を配置する請求項7に記載の植物栽培方法。
【請求項9】
前記植物体とフィルムとの間に、マルチング材料を配置する請求項7または8に記載の植物栽培方法。
【請求項10】
前記リザーバと、無孔性親水性フィルムとの間に、該リザーバ中に収容されるべき水または養液に浮かぶことができるフロート部材を配置する請求項7〜9のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項11】
前記フィルムと植物体とが実質的に一体化するまでは、前記リザーバから植物体に実質的に水分のみを供給し、フィルムと植物体とが実質的に一体化した後は、前記フィルムの上方から植物体に、水または養液を必要に応じて植物体に供給する請求項7〜10のいずれかに記載の植物栽培方法。
【請求項12】
前記フィルムの上方から植物体に、必要に応じて水または養液を切り替えて、植物体に供給する請求項11に記載の植物栽培方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図22】
【図23】
【図6】
【図16】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図22】
【図23】
【図6】
【図16】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2008−52(P2008−52A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171866(P2006−171866)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年(平成18年)3月15日 「日本農業新聞」に発表
【出願人】(596009814)メビオール株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年(平成18年)3月15日 「日本農業新聞」に発表
【出願人】(596009814)メビオール株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
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