説明

植物栽培装置

【課題】植物栽培装置において、供給する養液や水の使用量を低減する。
【解決手段】栽培植物の根部が下垂する中空の栽培ボックス内に、養液をレーザー法での測定値で平均粒子径10μm以下の霧として噴霧すると共に該栽培ボックス内に略均等に充満させる霧供給手段を備え、前記霧の噴霧量および流速と、前記栽培ボックスの容積と、前記栽培ボックス内の湿度との相関関係を予め測定したデータに基づいて、前記栽培ボックスの容積に応じて該栽培ボックス内の湿度を近飽和状態となるように霧噴霧量を設定し供給する制御装置を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培装置に関し、特に、植物工場で好適に用いられるものであり、植物栽培に最適の生育条件と経済条件を付与し、砂漠や水の少ない乾燥地域での植物栽培にも好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
植物栽培装置は従来より多数提案されており、そのうちで、特開2008−104377号公報等で提案されている霧栽培方法は、栽培植物に養液を含む霧を噴霧している。この種の霧栽培方法は、養液の吸収率を高め、生育を早めることができると共に、自動化、省力化ができる等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−104377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1の霧栽培では、加湿器を用いて養液を含む霧を発生させている。この加湿器から発生する微細な霧の量が余りにも少量であるため、趣味の園芸の域にとどまり、実営業には不適である。
【0005】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、栽培植物にとって適切な養液を供給できるようにして、植物栽培装置を用いて営農を可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、栽培植物の根部が下垂する中空の栽培ボックス内に、養液をレーザー法での測定値で平均粒子径10μm以下の霧として噴霧すると共に該栽培ボックス内に略均等に充満させる霧供給手段を備え、
前記霧の噴霧量および流速と、前記栽培ボックスの容積と、前記栽培ボックス内の湿度との相関関係を予め測定したデータに基づいて、前記栽培ボックスの容積に応じて該栽培ボックス内の湿度を近飽和状態となるように霧噴霧量を設定し供給する制御装置を備えていることを特徴とする植物栽培装置を提供している。
【0007】
前記栽培ボックス内が近飽和状態となるとは、栽培ボックスの内部全体、即ち、栽培ボックスの霧発生手段側のみだけでなく反対側を含めた栽培ボックス内部の全体が養液の霧で均等な白濁状態となることを指す。
【0008】
本発明は主として営農用を対象としているため、栽培ボックスとして例えば長さ6m、巾1m、高さ0.4mの大型栽培ボックスが好適に用いられる。この大型の栽培ボックスの中空内に平均粒子径が10μm以下の超微細な霧(所謂、ドライフォグ)を均等に充満させて近飽和状態とし、かつ、該近飽和状態を保持できるように、栽培ボックスの容積に応じて供給する噴霧量を設定している。この栽培ボックスの容積と、噴霧量と、湿度との相関関係を予め測定し、その測定データに基づいて噴霧量を設定している。
【0009】
即ち、本発明の植物栽培装置では、予め測定した栽培ボックスの容積と噴霧量との相対関係の測定データから、所要の容積とした栽培ボックスが近飽和状態となる噴霧量を求めて、栽培ボックス内に求めた噴霧量の霧を供給している。
かつ、栽培ボックスが大型ボックスであると、ボックス内部で霧を均等に充満させるには噴霧する霧に所要の流速を付与する必要がある。よって、栽培ボックスが大型であると、ファンを設置して霧に所要の流速を付与して測定している。なお、栽培ボックスが比較的小型で供給する霧の流速で栽培ボックス内に霧を均等に充満されることができれば、ファンは必須ではない。
【0010】
栽培ボックス内に供給して充填する養液は前記のように、平均粒子径が10μm以下の超微細な霧、所謂ドライフォグとしている。該霧の平均粒子径は詳細にはレーザー回折法を用い、ノズルの噴口から30cmの位置で測定している。
このように超微細な霧としているのは、大型の栽培ボックス内を養液の霧で近飽和状態にできることによる。即ち、粒子径の大きな霧粒は容易に落下し、また、粒子同士の付着凝塊作用もあって粒子径が肥大化して落下が促進され、霧粒の空中浮遊が困難となる。したがって、粒子径が小さければ小さい程、近飽和空間にできる栽培ボックスを大きくでき、より経済的な営農が可能となる。
【0011】
前記霧供給手段は、霧噴霧用のノズルと、該ノズルから噴霧される霧に所要の風速および風向を付与して前記栽培ボックス内に均等に霧を充満させるファンを含み、前記ノズルは養液と空気とを混合噴霧する二流体ノズルからなり、該ノズルからの噴霧は間欠的または連続的に自動または手動のオン・オフの切り替え操作で行う構成としていることが好ましい。
【0012】
前記超微細な霧を栽培ボックス内に供給して、該栽培ボックスの中空に充満させる霧供給手段として、養液を噴射するノズル、養液を遠心分離で微細化する遠心分離式噴霧機、養液をろ布を通して微細噴霧する濾布式噴霧機等があげられるが、ノズルが最も噴霧量の制御を行いやすく、設備的に簡単かつ安価に設置できるため、前記のようにノズルを採用している。かつ、霧の平均粒子径を小さくできるとともに噴霧量を多くできることから圧力空気を用いた養液と空気とを混合噴霧する二流体ノズルを採用している。該二流体ノズルにおいて、超微細な霧を発生させることができる二流体ノズルは3リットル/時間とし、3リットル/時間が経済的な最大噴霧量である。
また、ノズルからの噴霧は噴霧開始のオンと噴霧停止のオフとの簡単な開閉切替操作で行うことで、構成を簡単にして誤作動が発生しにくいものとしている。
【0013】
前記栽培ボックスの容積、噴霧量、噴霧速度、湿度の具体的な相関関係は、栽培ボックス内における霧の流速を0.5m/秒以上とした条件下で、容積2.4mに対して栽培ボックスの湿度が97%以上100%以下となるように、霧噴霧量を0.7〜3.0リットル/時間の範囲で設定することが好ましい。
【0014】
栽培ボックスの容積を2.4mを基準としているのは、前記長さ6m、巾1m、高さ0.4mの大型栽培ボックスの容積を基準としていることによる。
平均粒子径が30μm以下の比較的微細な霧を噴霧できるノズルとして使用されている従来のノズルは、0.5リットル〜1リットル/時間であるが、本発明で使用する二流体ノズルは3リットル/時間で超微細な霧が噴霧できるものを用いている。
なお、当然のことながら前記2.4mに限定されず、言い換えれば、2.4mより小さい場合には、容積1m当たり0.3〜1.25リットル/時間の範囲とすることが好ましい。
栽培ボックス内の湿度が97%以上100%以下が前記近飽和状態の範囲となるが、植物の種類や成長状態に応じて湿度100%を越えることが瞬間的および短期的に発生する場合もあり、この場合も前記近飽和状態に含む。なお、過飽和になると液滴が栽培ボックスの下方に滴下し、栽培植物に養液を過剰に与える問題はない。
【0015】
前記栽培ボックス内に設置する前記ノズルとファンの個数を増加して、該栽培ボックスの湿度を97%以上100%以下の範囲に維持しながら、該栽培ボックスの容積を増加してもよい。
【0016】
さらに、前記栽培植物の成長に応じて栽培ボックス内の設定湿度を97%から100%へと高湿度に変化させ、該設定湿度になるように前記霧噴霧量を前記設定範囲で変化させることが好ましい。
【0017】
また、前記栽培植物の成長に応じた養液供給量の増量を前記97%から100%の範囲で行うことが好ましいが、成長時に糖度を高めるために養液供給量を減量すべき栽培植物に対しては、成長時に97%以下に引き下げることが好ましい。
【0018】
前記栽培ボックスの上面開口を、栽培植物の根部と地上部との境界をフロート支持する支持材で閉鎖して前記中空部を形成し、該栽培ボックスの長手方向の一端側の内面に前記ノズルを設置して他端側に向けて噴射させ、該噴射により栽培植物の根部に揺動を与え、かつ、前記一端側から他端側にかけて上向きに傾斜させた傾斜板をボックスの内面と隙間をあけて配置し、少なくとも前記他端側のボックスの内面にファンを設置し、前記ノズルからの噴霧が傾斜板の上面に沿って他端へと流通した後に他端で下向きに向きをかえて前記傾斜板の下面に沿って循環させる構成としていることが好ましい。
【0019】
さらに、前記栽培ボックスの底部に滞留した養液の残留を養液槽に回収し、新しい養液と混合して再噴霧養液としていることが好ましい。
【0020】
本発明の植物栽培装置では、サラダナ、リーフレタス、ベビーリーフ、ミズナ、大葉、ケーキキャベツなどの葉菜、トマト、イチゴ、メロン、マンゴーなどの果菜、ジャガイモ、ラディッシュなどの根菜、豆、粟、麦、稲等の穀物等の栽培が可能であり、花卉類を栽培することもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の植物栽培装置では、栽培ボックスの容積と、該栽培ボックス内に供給する霧の噴霧量および流速と、該栽培ボックス内の湿度の相関関係を予め測定しておき、この既測定値のデータを基準にして栽培ボックスの湿度が近飽和状態になるように噴霧量を設定し、設定した噴霧量で連続的または間欠的に噴霧している。
かつ、栽培植物の根部を垂れ下げる栽培ボックスの中空部内に、平均粒子径が10μm以下のドライフォグを供給して充満しているため、大型の栽培ボックス内を近飽和状態に常時保持することができる。よって、密植や連作が可能なため、栽培植物を大量かつ迅速に生育でき、営農用の栽培装置として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(A)は本発明の実施形態の植物栽培装置の栽培ボックスを示す断面図、(B)は(A)のB−B線の拡大断面図である。
【図2】植物栽培装置の全体の斜視図である。
【図3】栽培ボックスと霧供給装置の関係を示す図面である。
【図4】前記栽培ボックス内に設置するノズルの正面図である。
【図5】前記栽培ボックスの表面に配置して栽培植物を支持する支持材を示す平面図である。
【図6】(A)〜(E)は測定条件1〜5を変えて測定した結果を示す表である。
【図7】前記測定試験の結果を示すグラフである。
【図8】(A)〜(D)はノズルとファンとの配置例を示す概略図である。
【図9】(A)〜(E)は栽培植物を支持する支持材に設けた植付穴のパターンを示す図面である。
【図10】(A)(B)は栽培ボックスの形状の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の植物栽培装置の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図7に第1実施形態を示す。
植物栽培装置は図1(A)(B)に示すように、上面開口の直方体状の栽培ボックス1を備えている。各栽培ボックス1の大きさは多数の栽培植物Pを長さ方向Lおよび幅方向Wに一定間隔をあけて栽培できる大きさとしている。本実施形態の栽培ボックス1は、長さLが6m、幅Wが1m、高さHが0.4mである。
【0024】
複数の栽培ボックス1は図2に示すように、搭載用フレーム10に上下複数段に搭載して1つのユニットUとし、植物工場内、ビニールハウス、あるいは屋外に複数ユニットを設置している。なお、家庭で庭やベランダに設置してもよい。
【0025】
栽培ボックス1の上面開口1hを支持材2で閉鎖し、栽培ボックス1の内部に略密閉された中空部3を形成している。支持材2は発泡スチロールからなる基板20と、該基板20の上面に固着する遮熱板21からなる。図5に示すように、前記支持材2に植付穴22を所要間隔をあけて千鳥配置状に設け、該植付穴22に栽培植物Pを植え付けたスポンジ材4を押し込んで支持材2で支持し、中空部3内に支持材2でフロート支持された栽培植物Pの根部Prを垂れ下げている。本実施形態では1台の栽培ボックス1の支持材2に植付穴22を168個設け、168株植えるようにしている。
支持材2に予め設ける植付穴22は後述する図9に示すように、植物の種類、同一種類でも成長時の大きさに応じて、長さ方向Lと幅方向Wの配列を変えて、植付穴22の間隔を相違させている。
【0026】
前記栽培ボックス1の中空部3を囲む図1中で左側壁1bの内面の幅方向Wの略中央位置に、1本の噴霧用のノズル5を取り付けている。該ノズル5は図4に示す二流体ノズルとし、肥料を水により所要倍率で希釈した養液を空気と混合して平均粒径10μm以下のドライフォグの霧Mを噴霧している。
【0027】
該ノズル5は圧力空気供給管7bとサクションチューブからなる養液供給管7aを接続している。圧力空気供給管7bから導入する圧力空気により養液供給管7aから養液を吸引し、ノズル本体5aの内部で混合し、ノズル本体5aの先端に設けた噴口5bから噴射している。該噴口5bと対向位置の外部に噴口からの噴霧が衝突して超音波振動を発生させる外部衝突部材5cを有する構成とし、超音波振動で粒子をより微細化している。該二流体ノズル5は最大3リットル/時間で平均粒子径10μm以下の超微細な霧の噴霧が行えるノズルである。
【0028】
栽培ボックス1の側壁1bに取り付ける前記ノズル5から対向する側壁1cに向けてドライフォグを噴霧し、これにより栽培ボックス1の左右両側壁1bと1cとの間に配列した栽培植物Pの根部Prにドライフォグを直接に吹き付け、根部Prを揺らせると共に養液の液滴を根部Prに接触させて養液を吸収させている。
【0029】
また、栽培ボックス1の中空部3内の下部に、図1に示すように、ノズル5の設置側の側壁1b側のノズル5の下部から側壁1c側に向けて上向きに傾斜する傾斜板8を配置している。傾斜板8の長さは栽培ボックス1の長さLより若干短くし、傾斜板8の長さ方向の両端と栽培ボックス1の側壁1b、1cの内面との間にそれぞれ循環流発生用の隙間9A、9Bを設けている。これにより、ノズル5から噴射するドライフォグの霧Mが傾斜板8の上面に沿って流れた後に循環流発生用の隙間9Aを通って傾斜板8の下面側へと流れ、循環流発生用の隙間9Bから傾斜板8の上面側へと流れ、傾斜板8を挟んで循環できるようにしている。
【0030】
さらに、前記側壁1c側で且つ前記傾斜板8の下部にファン11を設置し、傾斜板8の上方を流れる霧Mを下方側へ還流させ、霧Mが傾斜板8を囲んで栽培ボックス内を循環するようにしている。かつ、この栽培ボックス1内を循環する霧Mに所要の流速、本実施形態では0.5m/s以上の流速を付与している。
【0031】
前記ノズル5からの噴霧の開始および停止は、栽培ボックス1の外部に配置した制御装置で自動的に行い、前記圧力空気供給管7bへの圧力空気の供給と停止を図3に示すように、電磁開閉弁43を開閉して行っている。
詳細には、コンプレッサー42にエアータンク46を介在させて接続した配管45と前記圧力空気供給管7bとを電磁開閉弁43を介して接続し、該電磁開閉弁43を制御装置81からの信号で間欠的に開閉している。
養液供給側では、液肥タンク47にポンプ48を介在させて接続した配管49を供給液タンク50の内に配置したフロート弁51と接続している。供給液タンク50内のフロート弁51は供給液タンク50内に貯溜する養液に浮上させ、設定量以下となるとポンプ48を駆動して配管49から養液を供給液タンク50に供給するようにしている。
【0032】
さらに、栽培ボックス1に設けた排液口54から栽培ボックス1内で結露した養液を排出し、該排出した養液を供給液タンク50で受け止めて回収している。該供給液タンク50に前記養液供給管7aとなるサクションチューブを垂下し、その下端にストレーナ52を取り付け、ノズル5内を流れる圧力空気で養液をストレーナ52を通して吸い上げている。
【0033】
前記のように、電磁開閉弁43をオン・オフ制御し、または、コンプレッサー42をオン・オフにして、ノズル5からの噴霧を開始および所要時間後に停止して、栽培ボックス1内の湿度を97%以上100%以下の範囲で設定した湿度となるように保持している。
【0034】
前記ノズル5からの噴霧量は、栽培ボックスの容積、噴霧量、噴霧速度および栽培ボックス内の湿度の相関関係を予め測定しておき、該測定したデータに基づいて、栽培ボックス1内の湿度を97%以上100%以下となるに必要なノズル5からの1日の噴霧量を求めている。この求めた噴霧量に応じて、前記制御装置81から電磁開閉弁43に開閉信号を送付して、間欠噴霧または連続噴霧を行っている。
【0035】
前記栽培ボックスの容積、湿度、噴霧量および噴霧速度の相関関係の測定試験では、栽培ボックス1として、長さLを9mとし、幅Wを1m、高さHを0.4mの試験用栽培ボックスを用いた。該栽培ボックス1内の長さ方向の一端内面にノズル5を設置し、他端側にファン11を設置し、ノズル5からの噴霧の流速を0.5m/s以上とした。ノズル5は、平均粒子径10μm以下の霧を2.4リットル/時間とし噴霧できる能力を有するものである。
【0036】
測定条件は、図6の表(A)〜(E)に示す条件1〜5に変えて行った。各条件1〜5はファンの設置台数を変えるとともに、噴霧時間を連続噴霧と間欠噴霧に変えている。連続噴霧では噴霧量は2.4リットル/時間であり、間欠噴霧では1.2リットル/時間である。設置する噴霧ノズル5は1個としている。
【0037】
前記測定実験による栽培ボックス1内の湿度変化を図7に示す。噴霧を連続噴霧して、噴霧量を2.4リットル/時間とした条件1、2、4とした場合、ノズル位置から5.4m位置での湿度を99%および98%にできるとともに、9mの位置での湿度を97%以上にできた。ノズル5から間欠噴霧して噴霧量を1.2リットル/時間とした条件3、5でも5.4mの位置で湿度98%以上にでき、9mの位置で97%にできた。
かつ、ファンの設置台数を増加するとボックス内の湿度を高めることができることがわかった。
よって、栽培ボックス1の長さを6mとし、ノズルからの噴霧量を1.2〜2.4リットル/時間とすると、栽培ボックス1内の湿度を確実に97%以上とすることができることが確認できた。
【0038】
なお、ノズル5からの噴霧量を0.7リットル/時間とした実験を行った場合も、長さ6mの栽培ボックス内の湿度を97%以上とすることができた。また、ノズル5からの噴霧量が3リットル/時間を越えると、長さ6mの栽培ボックスでは、該栽培ボックス内の湿度が常時過飽和となり、栽培植物に根腐れが発生しやすくなり、かつ、栽培ボックス1の底部に落下する水滴が増加し、過剰な噴霧となることが確認できた。
【0039】
本実施形態では、前記図6と図7との実験データに基づいて、容積2.4mの栽培ボックス内に0.7〜3リットル/時間、好ましくは、1.2〜2.4リットル/時間の範囲で噴霧を行っている。
具体的には、2.4リットル/時間の能力を有するノズル5を用い、本栽培ボックス1内での植付開始から所要期間まで、噴霧時間:停止時間を1:1とした間欠噴霧を行い、1.2リットル/時間で噴霧を行っている。
また、栽培植物が予め定めた所要の成長に達した後から収穫時点までは連続噴霧とし、2.4リットル/時間で噴霧を行っている。なお、成長時に養液供給量を減少した方が甘みが高まる栽培植物では前記間欠噴霧を続行している。
【0040】
前記構成とした植物栽培装置では、栽培ボックス1の上面開口を支持材2で閉鎖して、中空部3を略密閉し、該中空部3の上方に配置する支持材2に長さ方向Lおよび幅方向Wに一定間隔をあけて設けた植付穴22に栽培植物Pを植え付けたスポンジを嵌合し、該栽培植物Pの根部Prを中空部3内に上方から垂れ下がった状態としている。
2.4mの容積の中空部3内に、ノズル5から1.2〜2.4リットル/時間で養液を供給することで中空部3内を湿度97%以上100%以下に保持している。
詳細には、ノズル5から噴射する霧Mの噴射圧およびファン11から供給する風により0.5m/s以上の速度で霧Mを、傾斜板8の上面側に沿ってノズル5の設置側の側壁1bから対向する側壁1c側へと流し、ついで、ファン11で吸引されて、傾斜板8の下面側で側壁1c側から側壁1b側へと流している。このように、中空部3内で霧Mを滞留させずに循環流として、栽培植物Pの根部Prを揺らせながら霧Mを接触させて、養液を根部Prに吸収させている。
【0041】
特に、ノズル5から噴霧の平均粒子径を10μm以下の超微細な霧であるドライフォグとしているため、水滴として凝集して落下するのを防止でき、大型の栽培ボックス1内を湿度97%以上100%以下の近飽和状態に保持することができる。このように微細化した養液の霧とすることで、栽培植物が養液を吸着しやすくし、同時に空中の酸素、窒素の触取も容易に行えるようにしている。かつ、近飽和状態を維持することができるため、栽培植物が常時養液を吸着することで、栽培植物の成長を促進させて経済的な営農を可能にしている。
かつ、中空部内に養液を含む霧を充満させることで、養液を無駄なく植物に吸収させることができるため、肥料および水の供給量を低減でき、密植栽培や連作を忌避する植物の栽培も可能にでき、コストの低減を図ることができる。かつ、養液や水の貯留設備、配管設備を簡素化でき、設備コストも低減できる。
【0042】
本発明は前記実施形態に限定されず、栽培ボックス1の容積を増大する場合、図8(A)〜(D)に示すように、ノズル5の設置個数、ファン11の設置個数を増加させ、栽培ボックス1内の湿度が97%以上に保持できるようにしている。
栽培ボックス1の長さが図8(C)(D)のように長くなると、長さ方向の中間位置の両側壁または上面に下流側に向けて噴霧するノズル5を配置している。
【0043】
また、栽培ボックス1の上面開口を塞ぐように被せる支持材2に設ける植付穴22は植物の種類や成長時の大きさに応じて、図9(A)〜(E)に示すように、配置を変えたり間隔を変えることが好ましい。図9(A)では144個の植付穴を設け、(B)は120個、(C)は96個、(D)は72個、(E)は48個としている。成長時に大型化する植物は植付穴22の個数を減少して間隔を広げている。
【0044】
また、栽培植物Pを植え付ける栽培ボックス1の上面の形状を図10(A)に示すように三角形状としたり、図10(B)に示すように、両側に階段を設けた形状としてもよい。このように、高低差を設けると栽培植物に均等な光量(屋外栽培やビニルハウス内では太陽光、植物工場内では照明光)を付与することができる。
【0045】
さらに、栽培ボックス1内に設置するノズルとして、本出願人が特開2008−306585号公報で提供している平均粒子径が10μm以下のドライフォグ発生用の2流体ノズルを用いてもよい。さらに、本出願人の先願である特開2008−104929号公報に開示した1流体ノズルを用いてもよい。該1流体ノズルでは、肥料を所要倍率で希釈した液肥からなる液体のみを噴霧している。
【0046】
さらにまた、ノズルからの噴霧開始および噴霧停止は、作業者が定期的にノズルを開閉操作してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 栽培ボックス
2 支持材
5 ノズル
8 傾斜板
22 植付穴
81 制御装置
P 栽培植物
Pr 根部
M 養液を含む霧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培植物の根部が下垂する中空の栽培ボックス内に、養液をレーザー法での測定値で平均粒子径10μm以下の霧として噴霧すると共に該栽培ボックス内に略均等に充満させる霧供給手段を備え、
前記霧の噴霧量および流速と、前記栽培ボックスの容積と、前記栽培ボックス内の湿度との相関関係を予め測定したデータに基づいて、前記栽培ボックスの容積に応じて該栽培ボックス内の湿度を近飽和状態となるように霧噴霧量を設定し供給する制御装置を備えていることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記霧供給手段は、霧噴霧用のノズルと、該ノズルから噴霧される霧に所要の風速および風向を付与して前記栽培ボックス内に均等に霧を充満させるファンを含み、前記ノズルは養液と空気とを混合噴霧する二流体ノズルからなり、該ノズルからの噴霧は間欠的または連続的に自動または手動のオン・オフ切り替えで行う構成としている請求項1に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記栽培ボックス内における霧の流速を0.5m/秒以上とした条件下で、容積2.4mに対して前記栽培ボックスの湿度が97%以上100%以下となるように、霧噴霧量を0.7〜3.0リットル/時間の範囲で設定している請求項1または請求項2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記栽培ボックス内に設置する前記ノズルとファンの個数を増加して、該栽培ボックスの湿度を97%以上100%以下の範囲に維持しながら、該栽培ボックスの容積を増加している請求項1または請求項2に記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記栽培植物の成長に応じて栽培ボックス内の設定湿度を97%から100%へと高湿度に変化させ、該設定湿度になるように前記霧噴霧量を前記設定範囲で変化させている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記栽培ボックスの上面開口を、栽培植物の根部と地上部との境界をフロート支持する支持材で閉鎖して前記中空部を形成し、該栽培ボックスの長手方向の一端側の内面に前記ノズルを設置して他端側に向けて噴射させ、該噴射により栽培植物の根部に揺動を与え、かつ、前記一端側から他端側にかけて上向きに傾斜させた傾斜板を栽培ボックスの内面と隙間をあけて配置し、少なくとも前記他端側の内面にファンを設置し、前記ノズルからの噴霧が傾斜板の上面に沿って他端へと流通した後に他端で下向きに向きをかえて前記傾斜板の下面に沿って循環させる構成としている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−223127(P2012−223127A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93517(P2011−93517)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(390002118)株式会社いけうち (26)
【Fターム(参考)】