説明

植物水耕栽培における液噴射式害虫駆除装置

【課題】 液噴射により植物から落下した害虫を確実に駆除する。
【解決手段】 培養液を入れた栽培槽で、その前部及び後部に駆帯車をそれぞれ軸支し、駆帯を上記後部駆帯車から前部駆帯車に走行可能に掛け渡して駆帯の上部走行路を形成すると共に、上記駆帯を上記前部駆帯車から反転し、上記栽培槽の下に走行させて駆帯の下部走行路を形成しつつ上記後部駆帯車にエンドレスに戻し、
上記無端駆帯に多数枚の植物植設パネルを、該無端駆帯の走行に付随して走行可能に連結し、該植物植設パネルは、上記上部走行路にあるとき葉茎部を上に向けた正姿勢で根を培養液に浸し、上記下部走行路にあるときは葉茎部を下に向けた逆姿勢をとる位置関係にあり、
上記下部走行路に、上記逆姿勢で走行する植物植設パネルの葉茎部に液を噴射するための液噴射ノズルを配置すると共に、上記葉茎部の下位に、液を入れた害虫回収槽を設置した、
植物水耕栽培における液噴射式害虫駆除装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の水耕栽培において液体を植物に噴射することにより植物に付着した害虫を駆除する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養液を入れた栽培槽の液面に、パネルに植物を植え、根をパネル下面から延出させた多数の植物植設パネルを浮かべると共に根を培養液に浸して行う植物水耕栽培において、植物に付着した害虫を駆除する方法として、上記栽培槽内の複数枚の植物植設パネルの前後、左右及び上面をカーテンで覆い、該カーテン内の両側部及び上部に配置した液噴射ノズルから液を植物に噴射し、その噴射力により植物に付着した害虫を吹き落す、液噴射式害虫駆除方法が提案されている。
【0003】
しかし、上記の液噴射式害虫駆除方法では、吹き落とされた害虫のほとんどがパネル上に落下するため、これら落下害虫を回収除去する作業に多くの手間がかかるばかりでなく、回収するまでの間に再び植物に戻ってしまう害虫が少くない。
【特許文献1】特開平11−32646
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液噴射により植物から落下させた害虫を確実に駆除することができる植物水耕栽培における液噴射式害虫駆除装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題解決の手段として、本発明は、
培養液を入れた栽培槽で、その前部及び後部に駆帯車をそれぞれ軸支し、駆帯を上記後部駆帯車から前部駆帯車に走行可能に掛け渡して駆帯の上部走行路を形成すると共に、上記駆帯を上記前部駆帯車から反転し、案内車を介して、上記栽培槽の下に走行させて駆帯の下部走行路を形成しつつ上記後部駆帯車にエンドレスに戻し、
上記無端駆帯に多数枚の植物植設パネルを、該無端駆帯の走行に付随して走行可能に連結し、該植物植設パネルは、上記上部走行路にあるとき葉茎部を上に向けた正姿勢で根を培養液に浸し、上記下部走行路にあるときは葉茎部を下に向けた逆姿勢をとる位置関係にあり、
上記下部走行路に、上記逆姿勢で走行する植物植設パネルの葉茎部に液を噴射するための液噴射ノズルを配置すると共に、上記葉茎部の下位に、液を入れた害虫回収槽を設置した、
植物水耕栽培における液噴射式害虫駆除装置を提案する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の液噴射式害虫駆除装置によれば、栽培槽において葉茎部を上に向けた通常の正姿勢で栽培している植物植設パネルを下部走行路に反転して導くことにより葉茎部を下に向けた逆姿勢に容易に変換させ、そこで液を葉茎部に噴射することにより葉茎部に付着した害虫を液を入れた害虫回収槽内に落下させることができ、従来のようにパネル上に害虫を落下させて植物に再び戻してしまう欠点を解消することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明における上記「無端駆帯」には、ローラチエン、ワイヤロープ、繊維ロープ、布ベルト、ステンレス鋼帯、その他種々の材料による無端のものを含む。又「駆帯車」には、ローラチエンの場合はスプロケット、ワイヤロープ、繊維ロープ等の場合は、溝プーリー、布ベルト、ステンレス鋼帯等の場合はベルト車である。
【0008】
又、植物を植える「パネル」は、発泡スチロール板、木板等のフロート型パネル、合成樹脂板、金属板等の沈下型パネルのほか、網、孔あき板、植物を植えるべき環を多数有するバー、ロッド等が含まれる。
【実施例1】
【0009】
以下図面を参照して本発明の実施例について詳述する。
図1(イ)、(ロ)において、フレーム(F)の上部に、培養液(2)を入れた前後に長い栽培槽(1)をほぼ水平に設置し、該栽培槽(1)の前側の左右両側部に軸受(3)、(3)を、栽培槽(1)の後側の左右両側部に軸受(4)、(4)をそれぞれ突設し、これら軸受(3)、(3)及び(4)、(4)にそれぞれ回転自在に支承された軸(5)、(6)に、駆帯車として本例では左右一対づつの駆動溝プーリー(7)、(7)及び従動溝プーリー(8)、(8)をそれぞれ固着し、これら従動溝プーリー(8)、(8)から駆動溝プーリー(7)、(7)に、それぞれ駆帯として、本例ではワイヤロープ(9)、(9)を案内プーリー(21)、(21)及び(20)(20)を介して掛け渡して、前後に長く水平に延長するワイヤロープの上部走行路(A)を形成すると共に、上記ワイヤロープ(9)、(9)を上記駆動プーリー(7)、(7)から下方へ反転させ、案内プーリー(10)、(10)を介して上記栽培槽(1)の下に水平に延長する下部走行路(B)を形成した後、案内プーリー(11)、(11)を介して上記従動プーリー(8)、(8)にエンドレスに戻してある。
【0010】
上記のような左右の無端ワイヤロープ(9)、(9)に、植物(12)…をパネル(13)に植えつけ、その葉茎部をパネル一面がわに、根を他面がわにそれぞれ延出させた植物植設パネル(P)…多数枚を、そのパネル両端部において、同図(ロ)に示すように連結具(14)…により、パネル同志互に前後隣接状態で連結してある。
【0011】
本例では、ワイヤロープ(9)、(9)のうち、上記栽培槽(1)の前後長さに対応する範囲に植物植設パネル(P)…を連結してある。これら植物植設パネル(P)…は、上記上部走行路(A)にあるときは、葉茎部を上に向けた正姿勢で図1(イ)のように栽培槽(1)上にあって、その根を培養液(2)に浸した水耕栽培の状態にあり、ワイヤロープ(9)、(9)の駆動により上記下部走行路(B)に移動したときは、同図(イ)仮想線で示すように葉茎部を下に向けた逆姿勢に反転する。
【0012】
上記駆動溝プーリー(7)の前側に駆動モータ(15)が設置され、その出力軸に固着された小プーリー(16)から、上記駆動溝プーリー(5)に固着された大プーリー(17)にベルト(18)を介して回転が伝達される。
【0013】
本例では、さらに図1(ロ)、図2に示すように横断面コ字形のガイドレール(19)、(19)を上記ワイヤロープ(9)、(9)の上部走行路(A)及び下部走行路(B)に敷設し、両ガイドレール(19)、(19)の溝内に、上記ワイヤロープ(9)、(9)及び各植物植設パネル(P)…の左右端部を摺動自在に係合支持させている。
【0014】
なお、上記栽培槽(1)の前端側壁にはオーバーフロー口を形成し、その下位にオーバーフロー液を受けるタンク(22)を設置し、該タンク(22)に接続された循環管(23)を経てポンプ(24)により培養液を濾過タンク(25)に送り、そこで濾過された培養液を栽培槽(1)の後端部内に供給するようにしてある。
【0015】
上記下部走行路(B)の下位に液噴射装置が設けられている。図1(イ)及び図2において、走行する植物植設パネル(P)…の下に、その葉茎部の垂下長よりも適宜広い間隔をあけた位置に、水(27)を入れた上面全開放の害虫回収パン(26)を設置すると共に、該パン(26)の開放上面の位置に、多数の液噴射ノズル(29)…を有する液噴射管(28)…(本例では4本)を前後に等間隔をあけて、噴射ノズル(29)…を上向きで、互に平行に配置してある。
【0016】
この場合、上記4本の液噴射管(28)…は、図1(イ)に示すように、害虫回収パン(26)の開放上面におけるほぼ前半部に配置する。
【0017】
上記害虫回収パン(26)は、そのすり鉢状底面の最深部に大型害虫の通過できる排出口(30)を設け、該排出口(30)に接続された排出管(31)を落差式濾過筒(32)に接続し、又回収パン(26)の一側壁にオーバーフロー口(33)を形成し、該オーバーフロー口(33)に接続されたシュート(34)を落差式濾過筒(35)に接続し、これら濾過筒(32)、(35)のフィルターで害虫を分離した濾液は、ポンプ(36)により循環管(37)、(38)、(39)を経て回収パン(26)に戻す。分離した害虫は濾過筒(32)、(35)から取り出して処分する。
【0018】
(40)、(40)は、図2に示すように下部走行路(B)にある左右のガイドレール(19)、(19)に上端部を固定して垂下された合成樹脂板又はシート、アルミ薄板等からなるカーテンで、上記回収パン(26)のほぼ左右側面を覆い、カーテン下端を回収パン(26)の左右側壁の内側に延長しており、それにより噴射水の左右への放散を防止している。
【0019】
上例の装置において、栽培槽(1)で水耕栽培されている植物(12)…に害虫が付着し、これを駆除する必要が生じた場合は、モータ(15)を正回転して駆動溝プーリー(7)、(7)を同方向へ回転させ、それによりワイヤロープ(9)、(9)を反時計方向へ低速で走行させると、植物植設バネル(P)…が正姿勢で栽培槽(1)から離脱し、ついで駆動プーリー(7)、(7)をめぐりつつ下方へ反転し、下部走行路(B)へ葉茎部を下に向けた逆姿勢で進入していく。
【0020】
そこで、液噴射管(28)…に圧力水を送り、各管(28)…の噴射ノズル(29)…から水を上方へ噴射し、上方を後方へ走行していく植物植設パネル(P)…の垂下する葉茎部に水を吹きつけて、葉茎部に付着する害虫を吹き落す。吹き落とされた害虫は直ちに回収パン(26)内の水面に落ち、そのうち体の大きい重い害虫は水中に沈下して窒息死し、死がいは排出口(30)から濾過筒(32)内に送られ、フィルターにて分離される。体の軽い害虫は生きたまま水面に浮遊するが、オーバーフロー口(33)からの流れに乗ってシュート(34)を経て濾過筒(35)に送られ、フィルターにより分離される。それと同時に、ポンプ(36)の駆動により両濾過筒(32)、(35)の濾液を循環管(37)、(38)、(39)を経て回収パン(26)に戻す。
【0021】
上記害虫駆除を受けた各植物植設パネル(P)…は、案内プーリー(11)を経て従動溝プーリー(8)、(8)をめぐりつつ葉茎部を上に向けた正姿勢に反転して栽培槽(1)に入り、元の水耕栽培の体勢に戻る。そこでモータ(15)を停止する。
【0022】
なお、上記濾過筒(32)、(35)には、図2に例示するように、上部側壁に開閉ドア(41)を設け、該ドア(41)を開いて害虫の溜まったフィルターバスケット(42)を取り出し可能にしておくとよい。
【実施例2】
【0023】
本例は、往復で2回の液噴射を受けさせることができる例で、上記モータ(15)を正逆回転モータに代え、又全植物植設パネル(P)…が下部走行路(B)にある間に液噴射を受けることができるように、下部走行路(B)を上部走行路(A)より長くし、さらに上記液噴射管(38)…を、上記回収パン(26)の開放上面におけるほぼ中央部に配置替えし、他の構造は図1(イ)、(ロ)、図2と実質的に同一である。
【0024】
使用においては、上記モータ(15)の正回転により水耕栽培にある植物植設パネル(P)…を反時計方向に走行させ、逆姿勢で下部走行路(B)に進入させて液噴射による害虫駆除を受けさせ、全植物植設パネル(P)…の往復での1回目の害虫駆除を終了したら、上記モータ(15)の逆回転により各植物植設パネル(P)…を時計方向に逆走させて復路での2回目の害虫駆除を受けさせ、その逆走のまま正姿勢に反転させて栽培槽(1)に戻す。そこでモータ(15)を停止する。
本例によれば、1回の液噴射に要する走行時間を短縮できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(イ)本発明による水耕栽培における液噴射式害虫駆除装置の一部省略縦断側面図である。 (ロ)同上一部の拡大平面図である。
【図2】図1(イ)のII−II線拡大断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 栽培槽
2 培養液
7 前部駆動溝プーリー
8 後部駆動溝プーリー
A 上部走行路
B 下部走行路
P 植物植設パネル
26 害虫回収パン
27 水
28 液噴射管
29 液噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を入れた栽培槽で、その前部及び後部に駆帯車をそれぞれ軸支し、駆帯を上記後部駆帯車から前部駆帯車に走行可能に掛け渡して駆帯の上部走行路を形成すると共に、上記駆帯を上記前部駆帯車から反転し、案内車を介して、上記栽培槽の下に走行させて駆帯の下部走行路を形成しつつ上記後部駆帯車にエンドレスに戻し、
上記無端駆帯に多数枚の植物植設パネルを、該無端駆帯の走行に付随して走行可能に連結し、該植物植設パネルは、上記上部走行路にあるとき葉茎部を上に向けた正姿勢で根を培養液に浸し、上記下部走行路にあるときは葉茎部を下に向けた逆姿勢をとる位置関係にあり、
上記下部走行路に、上記逆姿勢で走行する植物植設パネルの葉茎部に液を噴射するための液噴射ノズルを配置すると共に、上記葉茎部の下位に、液を入れた害虫回収槽を設置した、
植物水耕栽培における液噴射式害虫駆除装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−261300(P2009−261300A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113808(P2008−113808)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(395021239)株式会社生物機能工学研究所 (21)
【Fターム(参考)】