説明

検体分析装置

【課題】各臨床目的に応じた感度で細菌測定を行うことができる検体分析装置を提供する。
【解決手段】検体に含まれる細菌を分析する検体分析装置。検体と細菌を染色する染色試薬とを混和して測定試料を調整する試料調製部と、前記試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、染色された細菌から蛍光を受光し、前記測定試料に含まれる細菌を測定する測定部と、細菌測定の感度を入力する測定感度入力手段と、入力された測定感度に応じて、前記測定部により測定される測定試料の量を制御する制御部と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体分析装置に関し、さらに詳しくは、検体中の細菌を染色して分析する検体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、疾患の発見や感染の推定をするために、患者から採取した血液や尿等の検体を用いて細菌の検査が行われている。尿中に含まれる細菌等の有形成分の分析は、一般検査室で主として顕微鏡を用いた目視検査により行われている。この目視検査は、尿を遠心分離して濃縮し、その沈渣物を場合によっては染色後、顕微鏡スライド上に載置し、顕微鏡下で分類・計数を行うものである。尿中の有形成分の検査としては、上述の細菌の他、赤血球、白血球、上皮細胞及び円柱が一般的な測定項目とされている。
【0003】
この顕微鏡を用いた検査は、まず100倍の低倍率視野(LPF)で尿中有形成分の有無、尿検体の状態を把握し、400倍の高倍率視野(HPF)で、各成分の分類が行われる。測定項目のうち、円柱は出現しても個数は非常に少ないが、その検出は臨床的に有用性が高いので、低倍率視野(LPF)で検出することが行われている。他の有形成分は高倍率視野(HPF)で分類され、赤血球、白血球は高倍率視野(HPF)で個数を計数することが行われている。
【0004】
このように尿中有形成分検査は、定性検査であり(細菌 ++)、定量検査であり(赤血球 5個/HPF),形態検査である(変形赤血球を認む)といわれている。
尿中有形成分検査の自動化する装置として、自動顕微鏡装置が提案されている。フロー式自動顕微鏡装置UA−2000(シスメックス社)は、尿検体を濃縮することなしに、扁平形のフローセルに流し、フローセルで流れている粒子を撮像してその撮像画像を記憶する。記憶された撮像画像は、粒子の大きさで仕分けられており、ユーザがその画像を見て、各有形成分に分類するように用いられる。
【0005】
このような自動顕微鏡方式でも近年、有形成分を自動的に分類する装置が提案されているが、尿中有形成分は形態が多様であり、ダメージを受けた有形成分も多く、撮像画像を精度よく分類することは困難である。特に小型有形成分である赤血球(その中でも特に破砕赤血球)、細菌、結晶を精度よく分類することは難しく、ユーザが目視で確認して再分類を行う場合が多い。
【0006】
自動化をさらに進めた自動分類装置として、フローサイトメータによる尿中有形成分測定装置が提案されている。この装置では尿中有形成分を染色試薬で染色して、フローセルに流した試料に光を照射して散乱光信号、蛍光信号を検出し、これらの散乱光信号及び蛍光信号を組み合わせて、赤血球、白血球、上皮細胞、円柱、細菌の分類を行うものである。
【0007】
前述のように、尿中有形成分は形態も多様であり、ダメージを受けた有形成分も多く、散乱光信号と蛍光信号とを組み合わせるだけでは精度良く分類することは難しい。そこでこの装置では、尿中有形成分にダメージを与えることなく、膜染色で各有形成分を染色するように構成された染色試薬を用いており(特許文献1)、散乱光信号の強度とパルス幅及び蛍光信号の強度とパルス幅を組み合わせることによって、尿中有形成分を分類する(特許文献2)。これにより、尿中有形成分が自動的に分類することが可能となり、尿検査の自動化に大きな寄与を果たしている。また、このフローサイトメータによる尿中有形成分測定装置は、様々な工夫で尿中有形成分の分類、形態情報を提供するように構成されている。例えば、赤血球の散乱光信号を解析することによって、尿中赤血球の由来(糸球体由来または非糸球体由来)の情報を提供する(特許文献3)。
【0008】
しかしながら、このように散乱光信号や蛍光信号を用いて解析したとしても、高い精度で測定することが困難な検体がある。その原因としては、尿中に含まれる細菌には非常に小さいものがあり、また大きさが非常に多様であることがあげられる。上述した尿中有形成分測定装置は、一度の測定で、大型有形成分(円柱、上皮細胞)、中型有形成分(白血球、赤血球)、小型有形成分(細菌)を測定するように構成されている。しかし、1μm〜数十μmもの広い範囲を全体にわたって精度良く検出することは難しく、小型の細菌、すなわち集塊状でない球菌までの検出は困難であった。本装置を用いた尿中有形成分検査での細菌検査は、顕微鏡検査で確認できるほどの量の細菌が尿中に出現しているかを調べる検査であり、一般的に10個/ml(尿中の有形成分の濃度が10個/mlのときに、尿中の細菌を分類測定することが可能な測定感度)程度の感度の検査である。球菌であれば増殖して集塊状になっていることが多いため、この感度であれば通常の尿中有形成分検査の要求は満たされるが、小型の球菌ばかりが出現している検体も見受けられ、このような場合には精度がよい測定結果が得られなかった。また、大型の細菌、すなわち集塊が大きくなった球菌や大型の桿菌が出現すると、赤血球や白血球の領域にまで入り込むことがあり、誤測定を起こすこともある。
【0009】
一方、尿の細菌検査も、臨床目的によってはより高感度な検査を行うことが要求されている。その場合は、試料を培養して細菌を検査する培養検査が、尿中有形成分検査とは別途細菌質検査室で行われている。しかし、培養検査には培養する日数がかかるため、培養せずに高感度な細菌検査を行うことが要望されている。
【0010】
フローサイトメータによる細菌分析、すなわち細菌を染色試薬で染色して、散乱光信号と蛍光信号とで細菌を測定する方法が提案されている。特許文献4では、細菌以外の夾雑物を溶解するようにカチオン性界面活性剤を含む染色試薬とすることで、細菌と同じ位の大きさの夾雑物が含まれている尿のような試料も精度良く測定する方法が記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開平8−170960号公報
【特許文献1】特開平5−322285号公報
【特許文献1】特開平11−295207号公報
【特許文献1】特開2001−258590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、従来の尿中有形成分測定装置では、小型の細菌や大型の細菌が多く含まれる検体では十分な測定精度が得られなかった。また、検体中の細菌検査は、臨床目的によって求められる測定感度が異なり、各臨床目的に応じた測定感度で測定することが可能な自動分析装置が求められている。
【0013】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、各臨床目的に応じた感度で細菌測定を行うことができる検体分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の検体分析装置は、検体に含まれる細菌を分析する検体分析装置であって、
検体と細菌を染色する染色試薬とを混和して測定試料を調整する試料調製部と、
前記試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、染色された細菌から蛍光を受光し、前記測定試料に含まれる細菌を測定する測定部と、
細菌測定の感度を入力する測定感度入力手段と、
入力された測定感度に応じて、前記測定部により測定される測定試料の量を制御する制御部と、
を備えることを特徴としている。
【0015】
本発明の検体分析装置では、細菌を測定する際の測定感度を選択することができ、選択された測定感度に応じた細菌測定を行うので、多様な測定感度での細菌測定に対応することができる。しかも、測定試料の量を制御することにより、測定部による測定感度の調整を行うことができる。例えば、測定試料の量を標準の測定よりも多くすることにより、通常の測定感度のときよりも高い測定感度で測定を行うことができる。
【0016】
前記測定感度入力手段が、標準の感度での測定を行う標準モードと、この標準モードよりも高感度な測定を行う精査モードとのいずれかの選択を受け付けるように構成されており、且つ
前記制御部が、標準モードが選択された場合には、前記測定部を標準モードで動作させ、精査モードが選択された場合には、前記測定部を精査モードで動作させるように構成することができる。この場合、ユーザは、例えば尿検査において標準的な感度(例えば10個/ml)での細菌測定を行うときには標準モードを選択し、高感度(例えば10個/ml)の細菌測定を行うときには精査モードを選択すればよく、ユーザが目的に応じた動作モードを選択するだけで、所望の測定を自動的に行うことができる。
【0017】
前記制御部は、精査モードでの測定動作時間が標準モードでの測定動作時間よりも長くなるように、前記測定部の測定動作を制御するのが好ましい。標準モードよりも精査モードの動作時間を長くすることにより、測定部における分解能を大きくすることができ、高感度な測定に対応することができる。
【0018】
前記制御部を、前記精査モードにおいて、標準モードで測定するときよりも多量の測定試料を使用した測定動作を前記測定部に実行させるように構成することができる。標準モードよりも精査モードで使用する測定試料の量を多くすることにより、細菌検出の機会を多く確保することができ、低濃度の細菌であっても、その濃度に応じて細菌を検出することができることから、高感度な測定に対応することができる。
【0019】
前記検体が尿であり、
少なくとも白血球を含む尿中有形成分の測定が可能であるように構成することができる。この構成によれば、実質的に細菌を除く尿中有形成分の測定が可能となり、一般的な尿検査に対応することができ、装置の汎用性を高めることができる。なお、疾患により異なるが、尿中に含まれる有形成分としては、赤血球、白血球、上皮細胞、円柱、細菌、真菌、結晶及び粘液糸や、細胞の破砕片等の夾雑物等をあげることができる。本明細書では、明確化のために、これらの有形成分のうち、比較的大きな粒子である赤血球、白血球、上皮細胞、円柱を「尿中有形成分」といい、細菌は、この「尿中有形成分」には含まれないものとする。ただし、単に尿中の「有形成分」という場合、細菌は、この「有形成分」に含まれるものとする。
【0020】
前記試料調製部は、尿検体に前記染色試薬を混和して細菌測定用の第1試料を調製する第1試料調製部と、尿検体に尿中有形成分の測定用の試薬を混合して少なくとも白血球を含む尿中有形成分の測定用の第2試料を調製する第2試料調製部とを備え、
前記測定部は、前記第1試料に含まれる細菌を測定することが可能であると共に、前記第2試料に含まれる少なくとも白血球を含む尿中有形成分を測定することが可能であるように構成することができる。この構成によれば、細菌の測定と尿中有形成分の測定とを一つの測定部を用いて行うことができるので、製品のコストを低減させるとともに、装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の検体分析装置によれば、標準的な感度での測定に加えて、高感度な細菌測定をリアルタイムで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の検体分析装置の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る検体分析装置の斜視説明図である。なお、図1では、分かり易くするために検体分析装置の構成要素を収容する筐体を部分的に省略している。
【0023】
[装置の構成]
図1において、検体分析装置である尿分析装置Uは、試料を調製するための試料調製部2と、サンプルラック(試験管立て)3を移送するラックテーブル4と、試料から尿中有形成分や細菌の情報を検出するための光学検出部5と、回路部14とを備えている。筐体側面にはアーム15を介して支持台16が取り付けられ、その上にパソコン13が設置されている。パソコン13は、尿分析装置Uの回路部14とLAN接続されている。
【0024】
本実施の形態では、主として前記光学検出部5及び回路部14により、患者の臨床検体を測定する測定部が構成されてり、前記パソコン13のディスプレイ13aにより、当該測定部による測定結果を出力する出力部(表示部)が構成されている。また、このパソコン13は、例えば院内のホストコンピュータと接続されており、当該ホストコンピュータから、氏名、生年月日(年齢)、受診している診療科等の患者に関する患者情報を取得できるように構成されている。
【0025】
前記パソコン13は、より詳細には、以下の構成を備えている。
図2に示されるように、パソコン13は、CPU104aと、ROM104bと、RAM104cと、ハードディスク104dと、読出装置104eと、入出力インタフェース104fと、通信インタフェース104gと、画像出力インタフェース104hとを含んでおり、CPU104a、ROM104b、RAM104c、ハードディスク104d、読出装置104e、入出力インタフェース104f、及び画像出力インタフェース104hは、バス104iによってデータ通信可能に接続されている。
【0026】
CPU104aは、ROM104bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM104cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、後述するようなアプリケーションプログラム140aを当該CPU104aが実行することにより、パソコン13がシステムとして機能する。
ROM104bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPU104aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が記録されている。
【0027】
RAM4cは、SRAM又はDRAM等によって構成されている。RAM4cは、ROM4b及びハードディスク4dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU4aの作業領域として利用される。
ハードディスク104dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU104aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。後述するアプリケーションプログラム140aも、このハードディスク104dにインストールされている。
【0028】
読出装置104eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体140に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体140には、パソコン13を本発明のシステムとして機能させるためのアプリケーションプログラム140aが格納されており、パソコン13が当該可搬型記録媒体140から本発明に係るアプリケーションプログラム140aを読み出し、当該アプリケーションプログラム140aをハードディスク104dにインストールすることが可能である。
【0029】
なお、前記アプリケーションプログラム140aは、可搬型記録媒体140によって提供されるのみならず、電気通信回線(有線、無線を問わない)によってパソコン13と通信可能に接続された外部の機器から前記電気通信回線を通じて提供することも可能である。例えば、前記アプリケーションプログラム140aがインターネット上のサーバコンピュータのハードディスク内に格納されており、このサーバコンピュータにパソコン13がアクセスして、当該コンピュータプログラムをダウンロードし、これをハードディスク104dにインストールすることも可能である。
また、ハードディスク104dには、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施の形態に係るアプリケーションプログラム140aは当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0030】
入出力インタフェース104fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェース104fには、キーボードやマウスなどからなる入力デバイス(入力手段)13bが接続されており、ユーザが当該入力デバイス13bを使用することにより、パソコン13にデータを入力することが可能である。
画像出力インタフェース104hは、LCDまたはCRT等で構成されたディスプレイ13aに接続されており、CPU104aから与えられた画像データに応じた映像信号をディスプレイ13aに出力するようになっている。ディスプレイ13aは、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0031】
図3は前記試料調製部2及び光学検出部5の概略機能構成を示す図である。図において、試験管Tに入った尿(検体)は、吸引管17を用いて図示しないシリンジポンプにより吸引され、検体分配部1によって試料調製部2へ分注される。本実施の形態における試料調製部2は試料調製部(第1試料調製部)2uと試料調製部(第2試料調製部)2bとで構成されており、試料調製部2uは、赤血球、白血球、上皮細胞、円柱等の比較的大きい尿中有形成分を分析するための沈渣系のアリコート(第1のアリコート)を収容し、他方、試料調製部2bは細菌のような比較的小さい有形成分を分析するための細菌系のアリコート(第2のアリコート)を収容する。
【0032】
各試料調製部2u、2bの尿は、希釈液19u、19bによってそれぞれ希釈され、その後、染色液(染色試薬)18u、18bが混合されて当該染色液(染色試薬)18u、18bに含まれる色素によりそれぞれ染色が施され、有形成分の懸濁液となる。試料調製部2uにより、少なくとも白血球を含む尿中有形成分を測定するための第1の試料が調製され、一方、試料調製部2bにより、細菌を測定するための第2の試料が調製される。
【0033】
以上のようにして調製された2種類の懸濁液(試料)は、先に試料調製部2uの懸濁液(第1の試料)が光学検出部5に導かれ、シースフローセル51においてシース液に包まれた細い流れを形成し、そこに、レーザ光が照射される。その後同様に、試料調製部2bの懸濁液(第2の試料)が光学検出部5に導かれ、シースフローセル51において細い流れを形成し、レーザ光が照射される。このような動作は、後述のマイクロコンピュータ11(制御装置)の制御により、図示しない駆動部や電磁弁等を動作させることにより、自動的に行われる。
【0034】
図4は、光学検出部5の構成を示す図である。図において、コンデンサレンズ52は、光源である半導体レーザ53から放射されたレーザ光をシースフローセル51に集光し、集光レンズ54は尿中の有形成分の前方散乱光を散乱光受光部であるフォトダイオード55に集光する。また、他の集光レンズ56は前記有形成分の側方散乱光と側方蛍光とをダイクロイックミラー57に集光する。ダイクロイックミラー57は、側方散乱光を散乱光受光部であるフォトマルチプライヤ58へ反射し、側方蛍光を蛍光受光部であるフォトマルチプライヤ59の方へ透過させる。これらの光信号は、尿中の有形成分の特徴を反映したものとなっている。そして、フォトダイオード55、フォトマルチプライヤ58及びフォトマルチプライヤ59は光信号を電気信号に変換し、それぞれ、前方散乱光信号(FSC)、側方散乱光信号(SSC)及び側方蛍光信号(SFL)を出力する。これらの出力は、図示しないプリアンプにより増幅された後、次段の処理に供される。
【0035】
図5は、尿分析装置Uの全体構成を示すブロック図である。図において、尿分析装置Uは、前述した検体分配部1、試料調製部2及び光学検出部5と、この光学検出部5の出力をプリアンプにより増幅したものに対して増幅やフィルタ処理等を行うアナログ信号処理回路6と、アナログ信号処理回路6の出力をディジタル信号に変換するA/Dコンバータ7と、ディジタル信号に対して所定の波形処理を行うディジタル信号処理回路8と、ディジタル信号処理回路8に接続されたメモリ9と、アナログ信号処理回路6及びディジタル信号処理回路8と接続されたマイクロコンピュータ11と、マイクロコンピュータ11に接続されたLANアダプタ12とを備えている。外部のパソコン13は、このLANアダプタ12を介して尿分析装置UとLAN接続されており、このパソコン13により、尿分析装置Uで取得したデータの解析が行われる。前記アナログ信号処理回路6、A/Dコンバータ7、ディジタル信号処理回路8及びメモリ9は、光学検出部5の出力する電気信号に対する信号処理回路10を構成している。
【0036】
図6は本実施の形態に係る尿分析装置の定量機構及び試料調製部の斜視説明図であり、図7はその説明図である。本実施の形態では、所定量の尿検体を試料調製部(第1試料調製部)2uと試料調製部(第2試料調製部)2bとに分配する定量機構として、常用されているサンプリングバルブ30が採用されている。このサンプリングバルブ30は、2枚の円盤状の固定素子と、両固定素子に挟まれた可動素子とからなっており、前記可動素子はモータ31により回動操作される。
【0037】
前記サンプリングバルブ30は、互いに重ねあわされた2枚のアルミナセラミック製の円盤30a、30bを備えている。円盤30a、30bの内部には試料を流通するための流路が形成されており、一方の円盤30bがその中心軸を回転中心として回転することにより前記流路が分断され、内部に試料用の流路32を有する流体カセット33を介して前記試料調製部2bと一体的に構成されている。すなわち、サンプリングバルブ30、流体カセット33及び試料調製部2bは、熱的に一体となるように、互いに密着した状態で配設されており、サンプリングバルブ30の温度が、試料調製部2bの温度と略等しくなるように構成されている。これに対し、試料調製部2uは、筐体に固定された取付プレート34に所定のクリアランスSを設けてボルト35で固定されており、このため試料調製部2uは、前記サンプリングバルブ30や試料調製部2bとは、熱的に略隔離された状態となっている。
【0038】
前記試料調製部2u及び試料調製部2bは、それぞれ温度調節部を構成するヒータ36u、36bによって加熱されるが、少なくとも白血球を含む尿中有形成分を測定するための第1の試料を調製する試料調製部2uの温度を第1の温度に調節するとともに、細菌を測定するための第2の試料を調製する試料調製部2bの温度を前記第1の温度よりも高い第2の温度に調節している。具体的には、試料調製部2uは35±2℃程度になるように、試料調製部2bは、これよりも高い42±2℃程度になるように調節される。試料の温度を高くするほど、当該試料に含まれる赤血球や細菌等の所定部位(膜や核)を速く染色することができ、測定時間を短縮することができるが、一方、赤血球は、高温によりダメージを受け易く、温度を高くしすぎると正確な測定を行うことができなくなる。そこで、他の尿中有形成分に比べて耐熱性の高い細菌を測定するための第2の試料の温度を尿中有形成分を測定するための第1の試料の温度よりも高くなるように調節することにより、換言すれば、試料調製部2uと試料調製部2bとをそれぞれ測定に適した温度に調節することにより、赤血球を含む尿中有形成分及び細菌をともに高精度に測定することができる。なお、試料調製部2uと試料調製部2bの温度は、例えばサーミスタにより測定することができる。そして、この測定結果に基づいて前記ヒータ36u、36bをオンオフ制御することにより、試料調製部2u及び試料調製部2bを前記所定範囲の温度に調節することができる。
【0039】
また、サンプリングバルブ30と試料調製部2bとを熱的に一体となるように構成することにより、サンプリングバルブ30にて温度調節された試料が試料調製部2bに供給される際に冷えるのを防止することができることから、温度調節のロスを低減させることができる。この場合、試料調製部2bよりも低温に保たれる試料調製部2uに供給される試料については、サンプリングバルブ30から供給される際に、前記クリアランスSを試料の流路が通るようにすることで自然に低下させることができる。
【0040】
[測定モードの選択]
本発明では、前記試料調製部2bにより調整された第2の試料を用いて細菌を測定するに際し、当接細菌の測定感度を選択することができる。すなわち、前記尿分析装置は、細菌測定の感度を入力する測定感度入力手段と、入力された測定感度に応じて、前記測定部により測定される測定試料の量を制御する制御部とを備えており、細菌を測定する際の測定感度を選択することができ、選択された測定感度に応じた細菌測定を行うので、多様な測定感度での細菌測定に対応することができる。しかも、この細菌測定は制御部により自動で行うことができ、したがって、標準的な感度での測定に加えて、高感度な細菌測定をリアルタイムで行うことができる。
【0041】
前記測定感度入力手段としては、例えばパソコン13の入力デバイスであるキーボードやマウス等とすることができ、この場合、パソコン13の出力部(表示部)であるディスプレイ13aに設定画面を表示し、この設定画面上の所定のボタンをクリックすることで前記選択を行うようにすることができる。また、前記制御部としては、例えば前述したマイクロコンピュータ11とすることができる。
【0042】
また、前記測定感度入力手段を、標準の感度での測定を行う標準モードと、この標準モードよりも高感度な測定を行う精査モードとのいずれかの選択を受け付けるように構成し、且つ前記制御部を、標準モードが選択された場合には、前記測定部を標準モードで動作させ、精査モードが選択された場合には、前記測定部を精査モードで動作させるように構成することができる。この場合、ユーザは、例えば尿検査において標準的な感度(例えば10個/ml)での細菌測定を行うときには標準モードを選択し、高感度(例えば10個/ml)の細菌測定を行うときには精査モードを選択すればよく、ユーザが目的に応じた動作モードを選択するだけで、所望の測定を自動的に行うことができる。
【0043】
従来の細菌測定(標準モード)の場合、測定試料の量は、通常1μL程度であるが、この量を例えば6μLとすることにより、精査モードでの測定を行うことができる。標準モードよりも精査モードで使用する測定試料の量を多くすることにより、細菌検出の機会を多く確保することができ、低濃度の細菌であっても、その濃度に応じて細菌を検出することができることから、高感度な測定に対応することができる。具体的には、10個/mlの低密度の細菌の場合、1μLの測定試料の量であると、この1μL中に1個存在するかしないという程度のサンプル量であることから、測定結果の信頼性は非常に低いものとなるが、測定試料の量を例えば6μLとすると、確率分布からして、高い確率で実際の濃度に相当する測定結果を得ることができる。
【0044】
また、前記制御部は、精査モードでの測定動作が標準モードでの測定動作よりも動作時間が長くなるように、前記測定部の測定動作を制御するのが好ましい。標準モードよりも精査モードの動作時間を長くすることにより、測定部における分解能を大きくすることができ、高感度な測定に対応することができる。
【0045】
[分析手順]
つぎに、図8〜9に示されるフローチャートに従って、本実施の形態の尿分析装置を用いた尿の分析手順について説明する。
まず、ホストコンピュータで管理されている検体番号や、当該検体番号と関連付けられた患者の氏名、年齢、性別、診療科等の患者情報や、測定項目等の検体情報を予め当該ホストコンピュータから取得しておく(ステップS1)。ついで、測定実行の指示が、前述したパソコン13のキーボードやマウスからなる入力デバイス13bによりなされる(ステップS2)。このとき、測定実行の指示に先立って、測定モードの選択が前記入力デバイス13bによりおこなわれる。そして、制御部である前記マイクロコンピュータ11は、標準モードが選択された場合には、前記測定部を標準モードで動作させ、精査モードが選択された場合には、前記測定部を精査モードで動作させる。具体的には、標準モードが選択された場合には、測定試料の量を例えば1μLとし、精査モードが選択された場合には、測定試料の量を例えば6μLとする。
【0046】
前記測定実行の指示を受けて、試料入りの試験管Tが立てられたサンプルラック3がラックテーブル4により所定の吸引位置の移送される(ステップS3)。この吸引位置において、前記試験管Tが回転させられ、当該試験管Tの外周面に貼付されたIDラベルのバーコードが読み取られる(ステップS4)。これにより、試料の検体番号を知ることができ、この検体番号をステップS1において取得した検体情報と照合させることにより、当該試料の測定項目を特定することができる。
【0047】
ついで、吸引管17が下降して試験管T内の試料中に当該吸引管17の先端部が挿入され、この状態で前記試料を軽く吸引及び吐出することを繰り返すことにより、試料が攪拌される(ステップS5)。攪拌後、所定量(800μL)の試料が吸引され、サンプリングバルブ30によって、少なくとも白血球を含む尿中有形成分(SED)を測定するための試料を調製する試料調製部2uと、尿中に含まれる細菌(BAC)を測定するための試料を調製する試料調製部2bとにそれぞれ150μL及び62.5μLずつ分注される(ステップS7及びステップS11)。
【0048】
試料調製部2uには、前記試料とともに所定量の染色液(染色試薬)及び希釈液が定量されて分注される(ステップS8及びステップS9)。一方、試料調製部2bにも同様にして、前記試料とともに所定量の染色液(染色試薬)及び希釈液が定量されて分注される(ステップS12及びステップS13)。試料調製部2u及び試料調製部2bは、それぞれヒータ36u、36bによって所定温度になるように加温されており、この状態でプロペラ状の攪拌具(図示せず)により試料の攪拌が行われる(ステップS10及びステップS14)。なお、ステップS9において試料調整部2uに分注される希釈液には界面活性剤が含まれており、これにより細菌膜にダメージが与えられ、細菌の核を効率よく染色することが可能となる。
【0049】
ついで、光学検出部5のシースフローセル51にシース液が送液され(ステップS15)、その後、まず尿中有形成分(SED)測定用の試料が光学検出部5に導かれ、前記シースフローセル51においてシース液に包まれた細い流れ(シースフロー)が形成される(ステップS16)。そして、このようにして形成されたシースフローに半導体レーザ53からのレーザビームが照射される(ステップS17)。尿中有形成分の測定を先に行うのは、細菌測定用試料には界面活性剤が含まれることから、細菌を測定した後に尿中有形成分の測定を行うと、試料のキャリーオーバにより尿中有形成分測定用の試料に界面活性剤が混入し、赤血球を含む尿中有形成分の膜にダメージを与え当該尿中有形成分の測定に影響を与えることがあるからである。
【0050】
前記レーザビームの照射により生じる尿中有形成分の前方散乱光、蛍光及び側方散乱光は、それぞれフォトダイオード55、フォトマルチプライヤ59及びフォトマルチプライヤ58により受光されて電気信号に変換され、前方散乱光信号(FSC)、蛍光信号(FL)及び側方散乱光信号(SSC)として出力される(ステップS18〜20)。これらの出力は、プリアンプにより増幅される(ステップS21〜23)。
【0051】
一方、尿中有形成分(SED)測定用の試料による測定が終了すると、引き続いてステップS14で調製された試料を用いて尿中の細菌が測定される。この場合、尿中有形成分の測定で用いた光学検出部5により、前記ステップS15〜23と同様にして前方散乱光信号(FSC)及び蛍光信号(FL)が出力され、且つ増幅される。
【0052】
増幅された前記前方散乱光信号(FSC)、蛍光信号(FL)及び側方散乱光信号(SSC)は、前記信号処理回路10(図6参照)においてディジタル信号に変換されるとともに所定の波形処理が施され(ステップS24〜27)、LANアダプタ12を介してパソコン13に送られる。なお、ステップS25における「FLH」は、蛍光信号(FL)を高いゲインで増幅したものであり、ステップS26「FLL」は同じく蛍光信号(FL)を低いゲインで増幅したものである。
【0053】
そして、パソコン13において尿中有形成分(SED)の生データが作成される(ステップS28)とともに、このデータに基づいてスキャッタグラムが作成される(ステップS29)。ついで、アルゴリズム解析により作成したスキャッタグラムのクラスタリングが行われ(ステップS30)、各クラスタ毎に粒子の計数が行われる(ステップS31)。
【0054】
また、細菌についても同様にして、増幅された前記前方散乱光信号(FSC)及び蛍光信号(FL)は、前記信号処理回路10においてディジタル信号に変換されるとともに所定の波形処理が施される(ステップS32〜34)。なお、ステップS32における「FSCH」は、前方散乱光信号(FSC)を高いゲインで増幅したものであり、ステップS33「FSCL」は同じく前方散乱光信号(FSC)を低いゲインで増幅したものである。
【0055】
そして、LANアダプタ12を介してパソコン13に送られる。そして、パソコン13において細菌(BAC)の生データが作成される(ステップS35)とともに、このデータに基づいてスキャッタグラムが作成される(ステップS36)。ついで、アルゴリズム解析により作成したスキャッタグラムのクラスタリングが行われ(ステップS37)、各クラスタ毎に粒子の計数が行われる(ステップS38)。
以上のようにして得られる測定結果は、パソコン13の表示手段であるディスプレイ上に表示される(ステップS39)。
【0056】
以上の実施の形態では、細菌と尿中有形成分の両方の測定を同じ光学検出部を用いて行っているので、製品のコストを低減させるとともに、装置の小型化を図ることができる。また、現状においては、細菌と尿中有形成分の両方の測定結果が求められるケースが多いことから、前記制御部を、標準モードが選択された場合には、前記測定部を標準モードで動作させるとともに、少なくとも白血球を含む尿中有形成分の測定動作を当該測定部に実行させ得るように構成することができる。この構成によれば、標準モードが選択された場合に、標準モードによる細菌測定と、実質的に細菌を除く尿中有形成分の測定との両方を実行することにより、当該標準モードにて一般的な尿検査に対応することができ、装置の汎用性を高めることができる。
【0057】
なお、本実施の形態では、細菌について標準モードか精査モードのいずれかのモードでのみ測定を行っているが、標準モードでの測定結果による症状等の判断が難しい場合に、精査モードでの再測定を自動的に行うようにすることもできる。図10は、かかる場合のフローチャートを示しており、前述したステップにより標準モード(1μL)で細菌の測定が行われ(ステップS101)、ついで得られた測定結果が所定のカットオフ値付近であるか否かの判断がなされる(ステップS102)。例えば、尿路感染症の場合、当該尿路感染症である疑いが強いか否かの判断基準となるカットオフ値は1.0×10(個/mL)であるが、得られた測定結果が5×10(個/mL)の場合に再測定を行うようにすることができる。そして、カットオフ値付近である場合は、標準モードを精査モードに変更して、再度細菌の測定が行われる(再検)(ステップS103)。
また、前記実施の形態に係る尿分析装置は、細菌と尿中有形成分の両方が測定可能であるが、細菌のみ測定可能な装置とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の臨床検査装置の一実施の形態である尿分析装置の斜視説明図である。
【図2】図1に示されるパソコンのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】尿分析装置の試料調製部及び光学検出部の概略機能構成を示す図である。
【図4】光学検出部の構成を示す図である。
【図5】図1に示される尿分析装置の全体構成を示すブロック図である。
【図6】尿分析装置の定量機構及び試料調製部の斜視説明図である。
【図7】尿分析装置の定量機構及び試料調製部の説明図である。
【図8】本発明の尿分析装置を用いた尿の分析手順を示すフローチャート(前半部)である。
【図9】本発明の尿分析装置を用いた尿の分析手順を示すフローチャート(後半部)である。
【図10】標準モード後に精査モードを実行する場合のフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 検体分配部
2 試料調製部
3 サンプルラック
4 ラックテーブル
5 光学検出部
13 パソコン
15 アーム
16 支持台
17 吸引管
18 染色液
19 希釈液
30 サンプリングバルブ
31 モータ
32 流路
33 流体カセット
34 取付プレート
36 ヒータ
U 尿分析装置
T 試験管
S クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる細菌を分析する検体分析装置であって、
検体と細菌を染色する染色試薬とを混和して測定試料を調整する試料調製部と、
前記試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、染色された細菌から蛍光を受光し、前記測定試料に含まれる細菌を測定する測定部と、
細菌測定の感度を入力する測定感度入力手段と、
入力された測定感度に応じて、前記測定部により測定される測定試料の量を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする検体分析装置。
【請求項2】
前記測定感度入力手段が、標準の感度での測定を行う標準モードと、この標準モードよりも高感度な測定を行う精査モードとのいずれかの選択を受け付けるように構成されており、且つ
前記制御部が、標準モードが選択された場合には、前記測定部を標準モードで動作させ、精査モードが選択された場合には、前記測定部を精査モードで動作させるように構成されている請求項1に記載の検体分析装置。
【請求項3】
前記制御部は、精査モードでの測定動作時間が標準モードでの測定動作時間よりも長くなるように、前記測定部の測定動作を制御する請求項2に記載の検体分析装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記精査モードにおいて、標準モードで測定するときよりも多量の測定試料を使用した測定動作を前記測定部に実行させるように構成されている請求項2又は3に記載の検体分析装置。
【請求項5】
前記検体が尿であり、
少なくとも白血球を含む尿中有形成分の測定が可能であるように構成されている請求項2〜4のいずれかに記載の検体分析装置。
【請求項6】
前記試料調製部は、尿検体に前記染色試薬を混和して細菌測定用の第1試料を調製する第1試料調製部と、尿検体に尿中有形成分の測定用の試薬を混合して少なくとも白血球を含む尿中有形成分の測定用の第2試料を調製する第2試料調製部とを備え、
前記測定部は、前記第1試料に含まれる細菌を測定することが可能であると共に、前記第2試料に含まれる少なくとも白血球を含む尿中有形成分を測定することが可能であるように構成されている請求項5に記載の検体分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−271482(P2007−271482A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98084(P2006−98084)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】