説明

検出装置

【課題】検出感度を向上し得る検出装置を提案する。
【解決手段】試料の局所部位に振動波を授与する授与手段と、前記試料の全体又は一部に準静電界を与えて、前記局所位置での分極により試料に得られるキャリアの振動エネルギーを増強する増強手段と、前記増強手段により振動エネルギーが増強されるキャリアを検出する検出手段とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の状態を検出する技術に関する分野において好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体に光を照射し、該光による励起に起因して分極したキャリアを検出する技術が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】伊藤誠吾,桑島敦、「微小静電界検出プローブによる故障解析手法」、LSIテスティング学会,第29回LSIテスティングシンポジウム(LSITS2009)、H21,11.11/13、p.331-336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで非特許文献1の技術では、半導体以外の試料の検出が困難であった。具体的には、半導体や強誘電体などのように、電荷密度が高く、光による励起が発生しやすい試料に限定される。したがって、絶縁体等の電荷密度が低い試料については著しく検出感度が低下し、実質的には非検出となるという課題があった。
【0005】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、検出感度を向上し得る検出装置を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため本発明は、検出装置であって、試料の局所部位に振動波を授与する授与手段と、前記試料の全体又は一部に準静電界を与えて、前記局所位置での分極により試料に得られるキャリアの振動エネルギーを増強する増強手段と、前記増強手段により振動エネルギーが増強されるキャリアを検出する検出手段とを有する。
【発明の効果】
【0007】
試料が例えば絶縁体である場合、絶縁体の局所位置に振動波が照射されると分極が生じ準静電界が放出されるものの、該準静電界は距離の三乗に反比例して減衰する成分であるため直ちに緩和してしまう。また、試料とされる絶縁体が微小である場合、分極により生じる準静電界が広範囲に行き渡らない。つまり、分極により得られるキャリア(電荷担体)は局所位置又はその近傍に分極した状態で留まり、再結合により平衡状態に戻ってしまう。
しかし本発明では、試料に対して準静電界を与えて、局所位置での分極により試料に得られるキャリアの振動エネルギーが増強される。したがって、キャリアの移動度は、電界が与えられない場合よりも大きくなり、試料では、当該場合よりも遠方にまで準静電界が放出される(局所での分極がより広範に誘導される)。
この結果、試料が絶縁体である場合、また試料サイズが微小である場合において、試料の局所位置のごく近傍の範囲内にキャリア検出手段が非存在であったとしても、振動波の出力を強めることなくキャリアを検出させることが可能となる。
また本発明では、試料に対して準静電界を与えて、局所位置での分極により試料に得られるキャリアの振動エネルギーが増強されるため、局所内部での分極も誘発する。したがって、振動波の出力を強めることなく試料の内部が検出可能となる。このことは、試料が生体である場合には特に有用となる。
このように本発明は、試料に対して準静電界を与えて、局所位置での分極により試料に得られるキャリアの振動エネルギーを増強できるようにしたことにより、試料が絶縁体であったとしても、その分極キャリアの検出感度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(1[MHz])を示すグラフである。
【図2】距離に応じた各電界の相対的な強度変化(10[MHz])を示すグラフである。
【図3】試料解析装置の構成を示す図である。
【図4】電場の有無と、キャリアの移動度との関係を概略的に示す図である。
【図5】キャリアの移動の様子を概略的に示す図である。
【図6】試料解析装置による実験結果(1)を示す写真である。
【図7】試料解析装置による実験結果(2)を示す写真である。
【図8】他の実施の形態における照射部の構成を示す図である。
【図9】シミュレーションに基づく電界分布(1)を示すグラフである。
【図10】シミュレーションに基づく電界分布(2)を示すグラフである。
【図11】電極位置と、当該電極に授与される電荷との関係(1)を示す図である。
【図12】電極位置と、当該電極に授与される電荷との関係(2)を示す図である。
【図13】他の実施の形態における電界印加部(1)の構成を示す図である。
【図14】他の実施の形態における電界印加部(2)の構成を示す図である。
【図15】他の実施の形態におけるキャリア検出部(1)の構成を示す図である。
【図16】他の実施の形態におけるキャリア検出部(2)の構成を示す図である。
【図17】検出感度高揚体の形状例(1)を示す図である。
【図18】検出感度高揚体の形状例(2)を示す図である。
【図19】他の実施の形態におけるキャリア検出部(3)の構成を示す図である。
【図20】電界印加部と検出感度高揚体とを共用する形態例を示す図である。
【図21】試料として指を適用した場合の構成を示す図である。
【図22】試料として人体を適用した場合の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)電界
本発明を実施するための形態を説明する前に、まずは、電界について各種観点から説明する。
【0010】
(1−1)電界の分類
電界発生源となる微小ダイポールからの距離をrとし、その距離rを隔てた位置をPとした場合、当該位置Pでの電界強度Eは、マックスウェル方程式より、次式
【0011】
【数1】

【0012】
のように曲座標(r,θ,δ)として表すことができる。ちなみに、(1)式における「Q」は、電荷(単位はクーロン)であり、「l」は、電荷間の距離(但し、微小ダイポールの定義より、「l」は「r」に比して小さい)であり、「π」は、円周率、「ε」は、微小ダイポールを含む空間の誘電率、「j」は、虚数単位、「k」は、波数である。
【0013】
かかる(1)式を展開すると、次式
【0014】
【数2】

【0015】
となる。この(2)式からも分かるように、電界E及びEΘは、電界発生源からの距離に線形に反比例する放射電界(EΘの第3項)と、電界発生源からの距離の2乗に反比例する誘導電磁界(E、EΘの第2項)と、電界発生源からの距離の3乗に反比例する準静電界(E、EΘの第1項)との合成電界として発生する。
【0016】
このように電界は、距離と強度との関係では、放射電界、誘導電磁界及び準静電界に分類することができる。
【0017】
(1−2)電界の分解能
ここで、電界発生源からの距離によって電界強度が変化する割合を、放射電界、誘導電磁界、準静電界で比較する。(2)式における電界EΘのうち、放射電界に関する第3項を距離rで微分すると、次式
【0018】
【数3】

【0019】
のように表すことができる。また(2)式における電界EΘのうち、誘導電磁界に関する第2項を距離rで微分すると、次式
【0020】
【数4】

【0021】
のように表すことができる。さらに(2)式における電界EΘのうち、準静電界に関する第1項を距離rで微分すると、次式
【0022】
【数5】

【0023】
のように表すことができる。なお、(3)乃至(5)式の「T」は、単純化するために(2)式の一部分を次式
【0024】
【数6】

【0025】
のように置き換えている。
【0026】
これら(3)乃至(5)式からも明らかなように、距離によって電界強度が変化する割合は準静電界に関する成分が最も大きい。つまり、準静電界は距離に対して高い分解能があるといえる。
【0027】
(1−3)電界強度と周波数との関係
ここで、放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係を図1に示す。図1は、1[MHz]における各電界それぞれの相対的な強度と距離との関係を指数で示すものである。
【0028】
この図1からも明らかなように、放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度が等しくなる発信源からの距離(以下、これを強度一致距離と呼ぶ)が存在する。この強度一致距離よりも遠方の空間では放射電界が優位(誘導電磁界や準静電界の強度よりも大きい状態)となる。これに対して強度一致距離よりも近方の空間では準静電界が優位(放射電界や誘導電磁界の強度よりも大きい状態)となる。
【0029】
この強度一致距離は、(2)式における電界EΘの各項(EΘ1、EΘ2、EΘ3)に対応する電界の各成分、すなわち次式
【0030】
【数7】

【0031】
が一致する(EΘ1=EΘ2=EΘ3)ということであるから、次式
【0032】
【数8】

【0033】
を充足する場合、つまり、次式
【0034】
【数9】

【0035】
として表すことができる。
【0036】
この(9)式における波数kは、光速をc(c=3 ×10[m/s] )とし、周波数をf[Hz]とすると次式
【0037】
【数10】

【0038】
として表すことができる。したがって強度一致距離は(9)式と(10)式を整理し、次式
【0039】
【数11】

【0040】
となる。
【0041】
この(11)式からも分かるように、放射電界及び誘導電磁界に比して強度の大きい状態にある準静電界の空間(以下、これを準静電界優位空間とも呼ぶ)を広くする場合には周波数が密接に関係している。
【0042】
具体的には、低い周波数であるほど、準静電界優位空間が大きくなる(即ち、図1に示した強度一致距離は、周波数が低いほど長くなる(右に移ることになる))。これに対して高い周波数であるほど、準静電界優位空間が狭くなる(即ち、図1に示した強度一致距離は、周波数が高いほど短くなる(左に移ることになる))。
【0043】
つまり、準静電界は、低い周波数帯を選定するほど、電界発生源を基準とするより広い空間において、誘導電磁界及び放射電界に比して支配的(誘導電磁界及び放射電界に比して準静電界の電界強度が優位)となる。
【0044】
(1−4)準静電界優位空間のメリット
ここで、例えば10[MHz]を選定した場合における放射電界、誘導電磁界及び準静電界それぞれの相対的な強度と、距離との関係を図2に示す。
【0045】
この図2からも明らかなように、10[MHz]を選定した場合、上述の(11)式により、0.675[m]よりも近方では誘導電磁界及び放射電界に比べて準静電界が優位な空間となる。例えば電界発生源から0.01[m]地点の準静電界の強度は誘導電磁界に比しておよそ18.2[dB]大きい。つまり、準静電界優位空間では、準静電界と、誘導電磁界及び放射電界とが明確に区別可能である。
【0046】
また、準静電界には磁界が発生することはないが、放射電界及び誘導電磁界には磁界が発生するため電流が分布する。しかしながら準静電界優位空間では、準静電界に比べて放射電界及び誘導電磁界の強度が小さいため、該放射電界及び誘導電磁界での電流分布に起因して副次的に生ずる電界と、準静電界との干渉の程度が小さい。
【0047】
このように上述の(11)式を充足する範囲では、準静電界に対する放射電界や誘導電磁界の影響が極めて小さい状態にあるため、距離に対して高い分解能をもつ準静電界に対する検出感度が極めて良好となる。このことが、準静電界優位空間のメリットの1つとなる。
【0048】
(2)本発明を実施するための形態
次に、試料を解析するための装置(以下、これを試料解析装置とも呼ぶ)を、本発明を実施するための形態の一例として図を用いながら説明する。
【0049】
(2−1)試料解析装置の構成
図3に示すように、この試料解析装置1は、照射部10、電界印加部20、キャリア検出部30及び画像提示部40を含む構成とされる。
【0050】
(2−2)照射部の構成
照射部10は、レーザー発振源LORから発振されるコヒーレントの高い振動波(以下、これをレーザービームとも呼ぶ)を、例えばガルバノミラー11及び光学レンズ12を用いて、走査部位として割り当てられる複数の位置に所定の照射期間単位で順に照射する。
【0051】
この実施の形態では、絶縁体のステージSTGのうち試料SPLを配すべき面(以下、これをステージ表面とも呼ぶ)とは逆の面(以下、これをステージ裏面とも呼ぶ)側から、該ステージSTGに設けられる開口を介して試料SPLにレーザービームが照射される。ただし、ステージ表面側からレーザービームが照射される形態であってもよい。
【0052】
走査部位とされる試料SPLの局所となる位置にレーザービームが照射された場合、該レーザービームは試料表面で反射する。この場合、照射部10は、例えば光学レンズ12及びハーフミラー13を用いて、試料表面で反射するレーザービームを画像提示部40の受光面に照射する。
【0053】
ところで、走査部位とされる試料SPLの局所となる位置にレーザービームが照射された場合、当該局所位置では分極が生成され、その分極が準静電界を放出する。しかしながら、図4(A)に示すように、この準静電界は距離の三乗に反比例して減衰する成分であるため直ちに緩和してしまう。つまり、分極により得られるキャリア(電荷担体)は局所位置又はその近傍に分極した状態で留まり、再結合により平衡状態に戻ることになる。この傾向は、試料SPLが絶縁体や半導体ように電荷密度が大きいものである場合には特に顕著となる。
【0054】
(2−3)電界印加部の構成
電界印加部20は、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアをキャリア検出部30に検出させるためのものである。この電界印加部20は、1対の電極21A,21Bと、該1対の電極21A,21Bに接続される正弦波発振源22と、該正弦波発振源22に接続される出力調整部23とを有する。
【0055】
電極21A,21Bは、同形同大でなり、ステージSTGに配される試料SPLを挟み込めるよう、ステージ表面又は上方の基準から点対称となる位置に配される。正弦波発振源22から発振される正弦波の周波数は、(11)式に基づく「r<c/2πf」を充足する周波数とされる。
【0056】
すなわち、1対の電極21A,21Bから試料SPLまでの距離のうち最も遠い距離や、空気及び試料SPLの比誘電率などを考慮して、ハムノイズの周波数帯域(50〜60[Hz]程度)等のノイズフロアとの差が明確となる周波数が選定される。
【0057】
したがって、1対の電極21A,21Bに対して正弦波発振源22から正弦波が印加された場合、ステージSTGに配される試料SPL全体を含む空間では、放射電界、誘導電磁界及び準静電界の合成電界が形成される。また、1対の電極21A,21Bから少なくとも試料SPLを含む範囲は、準静電界優位空間(放射電界及び誘導電磁界に比して強度が大きい状態にある準静電界の空間)となる。なお、実験では例えば100[KHz]−100[MHz]の範囲において複数の周波数が選定されたが、いずれの周波数であっても準静電界優位空間の形成が確認されている。
【0058】
この準静電界優位空間にある試料SPLの局所位置で分極が生成された場合、該分極により得られるキャリアの振動エネルギーが、電極21A又は21Bを基準に形成される準静電界と相互作用し増強される。準静電界と相互作用したキャリアの移動度は、該準静電界と相互作用しない場合よりも大きくなり、図4(B)に示すように、当該場合よりも遠方にまで準静電界が放出される(局所での分極がより広範に誘導される)。したがって、試料SPLの局所位置のごく近傍の範囲内にキャリア検出部30が非存在となる場合であっても、該キャリア検出部30に対してキャリアを検出させることが可能となる。
【0059】
なお、キャリアの移動度は、該キャリアに与えられる準静電界の強度に比例する関係にあり、主に試料SPLの材質及び大きさに応じて変るものである。また、キャリアの移動度は、既知のドリフト速度を規定する関係式を用いて導出可能である。
【0060】
出力調整部23では、例えばマウスやキーボード等の操作入力部から試料のSPLの材質及び大きさを示す値が入力される。出力調整部23は、これら値を取得した場合、当該値と、ドリフト速度を規定する関係式を用いてキャリアの移動度を算出し、該キャリアの移動度に比例する強度となるよう、正弦波発振源22の出力値の設定を変更する。
【0061】
したがって、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアは、試料SPLの端部である表面にまで移動させることが可能となる。この結果、より多くの形状又は大きさの物体を試料SPLとして取り扱うことが可能となる。また、キャリア検出部30を配すべき位置の制限が、出力調整部23を設けない場合に比べて緩和される。
【0062】
このように電界印加部20は、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアの振動エネルギーを準静電界により増強させることで、該局所位置のごく近傍の範囲内にキャリア検出部30が非存在となる場合であってもキャリアを検出させることができる。
【0063】
なお、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアの振動エネルギーは、準静電界によって増強されているため、放射電界及び誘導電磁界での電流分布に起因して副次的に生ずる電界との干渉の程度が小さい。したがって電界印加部20は、放射電界又は誘導電磁界によって増強する場合に比べて、キャリア検出部30でのS/N比が低減するといった事態を緩和させることができる。
【0064】
(2−4)キャリア検出部の構成
キャリア検出部30は、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアを検出するものである。このキャリア検出部30は、FET(Field Effect Transistor)31と、アンプ32と、FET31に対する検出感度を高めるための物体(以下、これを検出感度高揚体とも呼ぶ)33とを有する。
【0065】
FET31のゲートには導体(以下、これを検出用電極とも呼ぶ)DTPが接続される。またFET31のソースにはアンプ32が接続され、ドレインにはFET31用の電源FPSを介してアンプ32が接続される。
【0066】
検出感度高揚体33は、板状の強誘電体とされる。強誘電体は、電荷密度の高い物質であり、無電場でも電気双極子が整列し、当該双極子の向きが電場で変化する性質をもつ。代表的には、Pb(Zr,Ti) O(PZT)、SrBiTa(SBT)、BaTiO又はPVDF(PolyVinylidene Fluoride)などがある。
【0067】
また検出感度高揚体33は移動可能に支持され、ステージSTGのステージ面に配される試料SPLと、検出用電極DTPに対してそれぞれ近傍となり、該試料SPL及び検出用電極DTPに対して非接触の状態で配される。なおこの実施の形態では、検出感度高揚体33のうち、試料SPLに対向される面とは逆側の面のある1つの角部分の近傍に検出用電極DTPが配される。
【0068】
図5に示すように、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアが検出感度高揚体33の近傍に移動された場合、該検出感度高揚体33のうち試料SPLの近傍となる部位では誘電分極が生じ、これが検出感度高揚体全体へ直ちに伝播される。つまり、検出感度高揚体33では、局所の分極から大きな分極が誘導され、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアに対する増幅作用が引き起こされる。したがって、FET31の検出用電極DTPに対する検出感度が向上することになる。
【0069】
試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアに応じた誘電分極が検出感度高揚体全体に伝播した場合、該検出感度高揚体33の近傍にある検出用電極DTPでは電位変動が生じる。この結果、FET31のドレイン−ソース間には、検出用電極DTPに生じる電位の変動量に応じた電流が生じ、これがアンプ32において増幅され、試料SPLの局所位置での状態を示す信号(以下、これを局所検出信号とも呼ぶ)として画像提示部40に送出される。
【0070】
(2−5)画像提示部の構成
画像提示部40は、試料SPLの局所位置で反射されるレーザービームを、受光部41及びアンプ42を順次介して、該局所位置における表面像を示す信号(以下、これを局所像信号とも呼ぶ)として画像生成部43に送出する。
【0071】
画像生成部43には、レーザービームの走査位置を示す情報(以下、これを走査位置情報とも呼ぶ)が入力される。画像生成部43は、この走査位置情報と、アンプ42から送出される局所像信号とを用いて、試料SPLの表面を示す画像(以下、これを試料表面画像とも呼ぶ)を生成する。
【0072】
また画像生成部43は、走査位置情報と、キャリア検出部30から送出される局所検出信号とを用いて、試料SPLの状態を示す画像(以下、これを試料状態画像とも呼ぶ)を生成する。例えば、局所検出信号の位置に対応するピクセルの輝度が、該局所検出信号のレベルに応じた階調として表現される。
【0073】
さらに画像生成部43は、試料表面画像と、試料状態画像とを重ね合わせた画像(以下、これを合成画像とも呼ぶ)を生成する。
【0074】
そして画像生成部43は、例えばマウスやキーボード等の操作入力部からの命令又は初期設定において表示すべきとされる試料表面画像、試料状態画像又は合成画像を表示部44に表示する。
【0075】
(2−6)効果等
以上の構成において、この試料解析装置1は、試料SPLの局所部位にレーザービームを照射し、該局所位置で分極を誘起させる。また試料解析装置1は、試料SPLに対して準静電界を与えて、局所位置での分極により試料SPLに得られるキャリアの振動エネルギーを増強し、そのキャリアをキャリア検出部30で検出する。
【0076】
試料SPLが例えば絶縁体や不導体である場合、絶縁体や不導体の局所位置にレーザービームが照射されると分極が生じ準静電界が放出されるものの、上述したように、該準静電界は距離の三乗に反比例して減衰する成分であるため直ちに緩和してしまう。また、試料SPLとされる絶縁体や不導体が微小である場合、分極により生じる準静電界が広範囲に行き渡らない。つまり、分極により得られるキャリア(電荷担体)は局所位置又はその近傍に分極した状態で留まり、再結合により平衡状態に戻ってしまう。
【0077】
しかしこの試料解析部1では、試料SPLに対して準静電界を与えて、局所位置での分極により試料SPLに得られるキャリアの振動エネルギーが増強される。したがって、キャリアの移動度は、準静電界が与えられない場合よりも大きくなり、当該場合よりも遠方にまで準静電界が放出される(局所での分極がより広範に誘導される)。
【0078】
この結果、試料SPLが絶縁体や不導体である場合、また試料SPLのサイズが微小である場合において、該試料SPLの局所位置のごく近傍の範囲内にキャリア検出手段が非存在であったとしても、振動波の出力を強めることなくキャリアを検出させることが可能となる。
【0079】
ここで、絶縁体の表面に30−100[μm]の鉄粉を付したものを試料SPLとして、電界を印加しない場合と、電界を印加した場合とでの相違を、試料検出装置1よって検出実験したときの画像を図6(A)及び(B)に示す。また、絶縁体のインクで文字が付された名刺を試料SPLとして、試料検出装置1によって検出実験したときの画像を図6(C)に示す。
【0080】
図6(A)及び(B)から分かるように、電界を印加しない場合に観測できない鉄粉が、電界を印加したことによって観測できた。また図6(C)から分かるように、インクが付された部位と、該インクが無い部位との密度の違いが検出できるため、試料SPLが絶縁体であっても観測できた。
【0081】
また、この試料解析部1では、試料SPLに対して準静電界を与えて、局所位置での分極により試料SPLに得られるキャリアの振動エネルギーが増強されるため、局所内部での分極も誘発する。したがって、レーザービームの出力を強めることなく試料SPLの内部が検出可能となる。このことは、試料SPLが生体である場合には特に有用となる。
【0082】
ここで、葉を試料SPLとして、試料検出装置1によって検出実験したときの画像を図7に示す。図7(A)は試料表面を反射したレーザービームに基づく画像であり、図7(B)はキャリア検出部30での検出結果に基づく画像である。この図7から分かるように、葉の内部構造である葉脈などが観測できた。
【0083】
なお、これら実験は、試料検出装置1における各種パラメータを同じ条件として行っている。具体的には、照射部10が、試料が配される領域を含む走査範囲に対して、50[mW],1064[nm]のYAGレーザーを、スポットサイズ5−10[μmφ]として走査するものとされ、キャリア検出部30が、1[sec]/Frame×1countでFET31を介して検出するものとされた。
【0084】
(3)他の実施の形態
(3−1)照射部に関して
上述の実施の形態では、コヒーレントの高い振動波(レーザビーム)を、試料SPLの局所に照射する照射部10が適用された。この照射部10に代えて、コヒーレントの低い振動波を、試料SPLの局所に絞り込む照射部が適用可能である。
【0085】
例えば、試料SPLが配されるステージ表面上にLED(Light Emitting Diode)を配置し、該LEDとステージ表面との間に集光レンズを配した照射部が適用可能ある。この照射部では、LEDから発振されるコヒーレントの低い光が、集光レンズによって試料SPLの局所に絞り込まれる。なお、この形態における集光レンズ及びLEDを格子状とし、当該LEDを所定の順序で駆動する駆動部を設けた場合、試料SPLに対してレーザーを走査する場合と同様の効果が得られる。
【0086】
別例として、図8に示す照射部がある。この照射部では、試料SPLが配されるステージ表面上に、照射対象に電界を照射するための電極(以下、これを照射用電極とも呼ぶ)51と、該照射用電極を重心とする正方形の頂点に位置する関係となる電極(以下、これを4重極子とも呼ぶ)52A〜52Dとが配される。また照射用電極51及び4重極子52A〜52Dに対して出力制御部53が接続される。出力制御部53は、照射用電極51に対して直流電圧を与えるとともに、4重極子に対して、照射用電極51与えられる電圧とは逆極性でなり、当該電圧値よりも小さい直流電圧を与える。
【0087】
図9及び図10においてシミュレーションに基づく電界分布を示す。図9は、照射用電極51に4[V]の直流電圧を与えた場合における電界分布である。一方、図10は、図11に示すように、照射用電極51に4[V]の直流電圧を与え、4重極子52A〜52Dに−1[V]の直流電圧を与えた場合における電界分布である。図9と図10の比較から分かるように、4重極子52A〜52Dから生じる電界が、照射用電極51から生じる電界に対する壁として機能し、該照射用電極51から生じる電界の拡散が抑制される。このため、照射用電極51から生じる電界は、該照射用電極51を通るZ軸上に絞り込まれ、局所に集中した状態となる。
【0088】
ところで、図10に示したように各極に与える電圧値が同じである場合、照射用電極51から生じる電界に対する、4重極子52A〜52Dから生じる電界の打ち消しが均一となるため、該照射用電極51から生じる電界のx−y方向における拡散は均一に抑制される。この結果、照射用電極51から生じる電界は、z軸に対して平行となる方向に指向性をもって絞り込まれることになる。
【0089】
これに対して例えば図12に示すように各極に与える電圧値が相違する場合、照射用電極51から生じる電界に対する、4重極子52A〜52Dから生じる電界との打ち消しが不均一となるため、該照射用電極51から生じる電界のx−y方向における拡散は不均一に抑制される。
【0090】
具体的には、4重極子52A〜52Dのなかで電圧値が大きい極から生じる電界のほうが、電圧値が小さい極から生じる電界よりも抑制度が大きくなるため、照射用電極51から生じる電界は、z軸に対して電圧値が小さい極側に傾く方向に指向性をもって絞り込まれる。
【0091】
したがって出力制御部53では、4重極子52A〜52Dの各極子それぞれに授与すべき電圧値を可変することで、照射電界における指向性の制御が可能となる。
【0092】
なお、図10及び図12に示す例では4つの電極(4重極子)52A〜52Dが配されたが、照射用電極51を重心とする正多角形の頂点に位置する関係となれば、電極数(多重極子の極子数)は4つに限るものではない。ただし、点対称の正多角形は、非点対称の正多角形よりも幾何学的対照性を有するので、照射電界の絞り込み度(拡散防止壁として機能する度合い)を高める観点では、4以上かつ偶数の頂点を有する正多角形がより好ましい。また、最も少ない極子数で絞り込み度を高める観点では、正三角形の頂点に位置する関係となる電極(すなわち3重極子)が好ましい。
【0093】
さらに、複数の電極の配置は、照射電界における深度及び指向性の制御が可能であるため、試料SPLに対向されていれば、異なる面上にあってもよく、異間隔であってもよい。上述の照射電界の制御に関する詳細にあっては、特願2009−299189号を参照されたい。
【0094】
上述の実施の形態では、ステージSTGが固定され、該ステージSTGに配される試料SPLに照射すべき照射位置が可変された。しかしながらステージSTGが可変され、該ステージSTGに配される試料SPLに照射すべき照射位置が固定されてもよく、ステージSTG及び照射位置がともに可変又は固定されてもよい。
【0095】
上述した照射部に関する事項から分かるように、照射部は、試料SPLの局所部位に振動波を授与するものであれば、該試料SPLの局所位置での分極によりキャリアが得られる。なお、振動波には、光、テラヘルツ波、音波又は弾性波など種々のものが適用可能である。
【0096】
(3−2)電界印加部に関して
上述の実施の形態では、電極21及び正弦波発振源22を用いて、放射電界及び誘導電磁界よりも準静電界の強度が大きい状態の電界(合成電界)を試料SPLに印加する電界印加部20が適用された。しかしながら電界印加部は上述の実施の形態に限定されるものではない。
【0097】
例えば、図3との対応部分に同一符号を付した図13に示す電界印加部がある。この電界印加部では、電極21、正弦波発振源22及び出力調整部23(図3)に代えて、照射部10から授与されるレーザー等の振動波により準静電界を表面に放出可能な物体(以下、これを準静電界放出体)QEBが設けられる。具体的には強誘電体や半導体などがある。
【0098】
この準静電界放出体QEBが、試料SPLの近傍の位置として、照射部10から授与される振動波が通る空間上であって、振動波の通過により自身から放出される準静電界に試料SPLが含まれる位置に配された場合、電界印加部として機能する。
【0099】
すなわち、当該位置に配される準静電界放出体QEBにレーザービーム等の振動波が照射されると、該準静電界放出体QEBでは誘電分極が生じ、これが準静電界放出体全体へ瞬間的に伝播され表面から準静電界が放出される。この準静電界は、表面弾性波に相当するものである。一方、試料SPLの局所部位では、レーザービームが印加されると同時に、準静電界放出体表面QEBから放出される準静電界が印加される。
【0100】
したがって、試料SPLの局所位置では分極によりキャリアが得られ、この振動エネルギーは準静電界放出体に形成される準静電界との相互作用により増強される。この結果、電極21、正弦波発振源22及び出力調整部23(図3)を用いることなく、電界印加部20と同様の効果を奏することとなる。また、準静電界放出体QEBから生じる準静電界を、該準静電界放出体QEBにおいて電気的に外界から閉じた場として形成することができる。この結果、準静電界に対する外界ノイズが大幅に抑制され、図3に示す形態に比べて、キャリア検出部30でのS/N比が向上する。
【0101】
別例として、電極印加部20を、上述した図8に示した構造としてもよい。具体的には、図3に示した検出感度高揚部33が設けられる位置に、上述した図8に示した構造の電界印加部20を設け、検出用電極DTPを移動可能にできるものとする。
【0102】
このようにすれば、レーザービームが照射される局所位置から所定の範囲までを準静電界優位空間として、照射用電極51から電界が印加されるよう、出力制御部53において4重極子52A〜52Dを制御することが可能となる。このため、試料SPLのサイズにかかわらず、試料SPLのある部位の状態に着目してキャリア検出部30に検出させることが可能となる。
【0103】
上述の実施の形態では、放射電界及び誘導電磁界よりも準静電界の強度が大きい状態の電界(合成電界)が、試料SPLに印加された。しかしながら、試料SPLの局所位置での分極により得られるキャリアを遠方に移動させる観点では、準静電界の強度が放射電界及び誘導電磁界よりも大きい状態で、試料SPLに電界を印加することが必須条件となるものではない。ただし、キャリア検出部30での検出精度の低下を低減する観点では、準静電界の強度が放射電界及び誘導電磁界よりも大きい状態で、試料SPLに電界を印加するほうが好ましい。
【0104】
上述の実施の形態では、電極21A,21Bに対して交流源である制限波発振源22が接続された。しかしながら、図14に示すように、電極21A,21Bに対して直流源DCSが接続されてもよい。
【0105】
上述した電界印加部に関する事項から分かるように、電界印加部は、試料SPLの全体又は一部に電界を与えて、前記局所位置での分極により試料に得られるキャリアの振動エネルギーを増強するものであればよい。
【0106】
(3−3)キャリア検出部に関して
上述の実施の形態では、1つのFET31(検出用電極DTP)から、検出感度高揚体33での誘電分極により生じる陽極のキャリア(正孔)又は陰極のキャリア(電子)を検出するキャリア検出部30が適用された。しかしながらキャリア検出部はこの実施の形態に限定されるものではない。
【0107】
例えば、陽極のキャリアと陰極のキャリアとの双方を検出するキャリア検出部が適用可能である。具体的には図15に示すように、一方のFET61のゲート電極(検出用電極)と、他方のFET71のゲート電極(検出用電極)とが、試料SPLにおいて正対する端部の近傍に1つずつ設けられる。
【0108】
アンプ62では、検出感度高揚体33で生じた電子に応じてFET61のゲート電極(検出用電極)に生じる電位変化が増幅される。一方、アンプ72では、検出感度高揚体33で生じる正孔に応じてFET62のゲート電極(検出用電極)に生じる電位変化が増幅される。
【0109】
電子に応じた電位変化を増幅するアンプ62の出力は差動アンプ80の陽極に与えられ、正孔に応じた電位変化を増幅するアンプ72の出力は差動アンプ80の陰極に与えられる。
【0110】
つまり、検出感度高揚体33に生じた正孔と電子とが差動アンプ80で加算される。したがって、1つのFET31(検出用電極DTP)から検出する場合に比べて、S/N比が改善される。
【0111】
また別例として、試料SPLの近傍に、複数の検出用電極を所定の距離だけ離間した状態で配し、これら検出用電極における後段の出力を切り換えるキャリア検出部が適用可能である。
【0112】
具体的には図16に示すように、例えば4つの検出用電極91A〜91Dが、直方体でなる検出感度高揚部33において試料SPLが対向される面とは逆面の四隅に配される。これら検出用電極91A〜91DにはFET(図示せず)及びアンプ92A〜92Dが順に接続され、該アンプ92A〜92Dが出力切換部92に接続される。
【0113】
出力切換部92は、アンプ92A〜92Dを介してそれぞれ与えられる信号のレベル及び極性に基づいて、取り扱うべき信号が検出される1又は2以上の検出用電極を選択する。
【0114】
具体的な選択手法として、例えば、最も高いレベルとなる信号を検出する検出用電極を選択するといった手法がある。この手法では、検出用電極91Aから与えられる信号のレベルが最も高い場合、該検出用電極91Aに対応するアンプ92Aでの増幅結果が、画像提示部40に与えられる。また例えば、電子に応じた電位変化を検出する1又は2以上の検出用電極を、差動アンプ93の陽極に接続すべきものとして選択し、正孔に応じた電位変化を検出する1又は2以上の検出用電極を、差動アンプ93の陰極に接続すべきものとして選択するといった手法がある。この手法では、差動アンプ93での増幅結果が、画像提示部40に与えられる。これら選択手法はあくまで例示であり、この他の種々の選択手法が適用可能である。
【0115】
この図16の形態によれば、レーザービームの照射位置に反映した検出感度高揚部33でのキャリアの挙動に応じて、後段に接続すべき検出用電極91A〜91Dが選択されるため、図15に示す形態よりも一段と的確にS/N比が改善される。また、試料SPLが大きい場合あるいは試料SPLに印加される準静電界の強度が小さい場合であっても、該試料SPLの局所での分極により得られるキャリアを検出感度高揚体33を介して検出することができる。
【0116】
上述の実施の形態では、FET31(検出用電極DTP)に対する、試料SPLでの分極により得られるキャリアの検出感度を高めるために、検出感度高揚体33が、試料SPL及び検出用電極DTPの近傍に配された。しかしながら検出感度高揚体33は、FET31(検出用電極DTP)での検出感度を向上するために必須となるものではない。ただし、検出感度をより一段と向上させる観点では、検出感度高揚体33を設ける形態のほうが好ましい。なお、検出感度高揚体33に代えて又は検出感度高揚体33に加えて、キャリアの検出感度が高まるようアンプ32のゲインを調整する調整部が設けられてもよい。
【0117】
上述の実施の形態では、検出感度高揚体33が強誘電体とされた。しかしながら検出感度高揚体33は強誘電体に限るものではない。例えば、半導体が適用可能である。また検出感度高揚体33の形状は板状に限定されるものではない。例えば図17に示すように、円錐状の検出感度高揚体33が適用可能である。
【0118】
この検出感度高揚体33では、試料SPLに近接される部位で誘電分極が生じると、その誘電分極により得られるキャリアは頂点又はその近傍(丸のハッチング部分)に集中する。したがって、頂点の近傍に検出用電極DTPを配すれば、板状の場合に比べて、該検出用電極DTPの検出感度が高まることとなる。
【0119】
また、キャリア集中型の検出感度高揚体には、例えば図18に示すようなものも適用可能である。要するに、キャリア集中型の検出感度高揚体は、検出用電極DTPの数に応じた集中点(丸のハッチング部分)を有し、該集中点を直線又は曲線でつなぐ角をもたない面を有していればよい。
【0120】
検出感度高揚体33の大きさは、試料SPLでの分極により得られるキャリアを増幅可能な程度の大きさを有していればよい。検出感度高揚体33が弾性を有していてもよい。要するに、試料SPLでの分極により得られるキャリアを増幅可能な程度の誘電分極が生じ得る電荷密度の高い物体が、該試料SPLの近傍に配されていればよい。
【0121】
なお、電極又は検出感度高揚体と、試料SPLとの間は空気に限られるものではい。固体や液体であってもよく、真空であってもよい。また、電極と試料SPLとの間に絶縁体が設けられてもよい。
【0122】
上述の実施の形態では、試料SPLを境界として、レーザービーム(振動波)が照射される側とは逆側に検出感度高揚体33が配された。しかしながら検出感度高揚体33の配置位置はレーザービーム(振動波)が照射される側であってもよい。振動波が検出感度高揚体33を通過できない場合がある。この場合、図19に示すように、検出感度高揚体33に対して、振動波が通る空間としての孔(以下、これを振動波通過開口とも呼ぶ)HLを設けるとよい。
【0123】
(3−4)その他
上述の実施の形態では、電界印加部20と検出感度高揚体33とが別の部材として設けられた。しかしながら、同一の部材で、電界印加部が有する作用と、検出感度高揚体が有する作用とを同時に得ることも可能である。
【0124】
具体的には、図20に示す形態が適用可能である。この形態では、強誘電体又は半導体のように、電荷密度の高い板状の物体(以下、これを高電荷密度体とも呼ぶ)100が、試料SPLの近傍の位置として、照射部10から授与される振動波が通る空間上であって、該振動波の通過により自身から放出される準静電界に試料SPLが含まれる位置に配される。この高電荷密度体100の表面近傍には検出用電極DTPが配される。この形態における検出用電極DTPの配置位置は、試料SPLと対向する面に対して逆側の面の近傍とされる。
【0125】
図13との比較から分かるように、検出用電極DTPを近づけるべき対象を変更するだけでよい。
【0126】
この高電荷密度体100では、レーザー発振器LORから発振されるレーザービームは、該高電荷密度体100を透過して試料SPLの局所部位に照射される。高電荷密度体100におけるレーザービームの照射部位では誘電分極が生じ、これが高電荷密度体全体へ直ちに伝播され、該高電荷密度体100ではその表面から準静電界が放出される。
【0127】
一方、試料SPLの局所位置では分極によりキャリアが得られ、この振動エネルギーは高電荷密度体100に形成される準静電界との相互作用により増強される。この結果、レーザービームの照射が終了しても、試料SPLにおける高電荷密度体100の近傍の部位には、キャリアが残存する。このキャリアによって、高電荷密度体100では再び誘電分極が生じ、これが高電荷密度体全体へ直ちに伝播され、FET31において電流として検知される。
【0128】
したがって図20に示す形態は、図3に示す形態における電極21、正弦波発振源22及び出力調整部23を省略することができ、また高電荷密度体100から生じる準静電界を、該高電荷密度体100において電気的に外界から閉じた場として形成することができる。この結果、準静電界に対する外界ノイズが大幅に抑制され、図3に示す形態に比べて、キャリア検出部30でのS/N比が向上する。このことは、本発明者らの実験及び試作品によって確認されている。
【0129】
上述の実施の形態では、試料SPLが直方体状(板状)とされた。しかしながら試料SPLの形状は直方体状(板状)に限定されるものではなく、あらゆる形状を採用することが可能である。なお、試料SPLのターゲットは物品に限らず生体であってもよく、あらゆる物体がターゲットとして適用可能である。例として、生体部位である指を適用する場合の形態を図21に示す。
【0130】
図21に示す形態では、指のうち、爪半月(爪のうち白く見える部分)が照射部位としてステージSTGに配される。この爪半月に対して、ヘモグロビンに対して吸収特性をもつ波長を含むレーザービームが、その光軸が固定された状態で、数百[kHz]〜数十[MHz]程度の広帯域にわたって周波数を切り換えながら照射される。
【0131】
爪半月表面の局所では分極によりキャリアが得られ、このキャリアに起因して、爪半月表面の近傍となる検出感度高揚体33の部位では誘電分極が生じ、これが検出感度高揚体全体へ直ちに伝播される。つまり、検出感度高揚体33では、爪半月表面での分極により得られるキャリアに対する増幅作用が引き起こされる。したがって、FET31の検出用電極DTPに対する検出感度が向上することになる。
【0132】
この画像提示部は、FET31及びアンプ32を順に介して得られる局所検出信号に基づいて複数の周波数における複素誘電率を算出し、該算出結果から、例えば血糖に関する誘電スペクトルを示すパラメータを解析する。
【0133】
このようにこの図21の形態では、局所内部での分極により得られるキャリアを捕捉することができるため、生体内部の状態を非浸襲で測定することができる。
【0134】
別例として、生体全体を適用する場合の形態を図22に示す。図22に示す形態では、走査型レーザー発振器201の照射領域に人体が立つ。照射領域の近傍には板状の電極202が配される。
【0135】
この電極202は、人体の身長として想定し得る値以上の縦幅を有し、人体の前面で最も突出する部位を通る水平面の垂線と、該人体の後ろ面で最も突出する部位を通る水平面の垂線との直線距離(人体幅)として想定し得る値以上の横幅を有する。電極202に接続される制限波発振源22における制限波の周波数は、走査型レーザー発振器201の照射領域が準静電界優位空間となるものとされる。
【0136】
一方、照射領域に立つ人体には、キャリア検出部30が取り付けられる。具体的には検出用電極DTPが人体表面の近傍に対向した状態とされる。
【0137】
人体の局所位置にレーザービームが照射された場合、その局所位置では分極によりキャリアが得られ、この振動エネルギーは電界照射用電極202を基準として形成される準静電界との相互作用により増強され、局所内部での分極も誘発する。これらキャリアは人体表面及び表面近傍の内部全体へ伝播され、キャリア検出部30によって局所検出信号として画像提示部203に送出される。
【0138】
画像提示部203は、走査型レーザー発振器201から送出される走査位置情報と、キャリア検出部30から送出される局所検出信号とを用いて、人体表面及び表面近傍の内部の状態を画像として生成する。
【0139】
このようにこの図22の形態でも、人体内部での分極により得られるキャリアを捕捉することができるため、人体内部の状態を非浸襲で測定することができる。
【0140】
上述の実施の形態では、電極21A,21B、検出用電極DTP、照射用電極51、4重極子52A〜52D、電極202の形状が直方体状(板状)とされた。しかしながらこれら電極の形状は直方体状(板状)に限定されるものではなく、あらゆる形状を採用することが可能である。また、互いに異なる形状とすることも可能である。
【0141】
なお、本発明は、上述の実施の形態又は他の実施の形態に示された内容に限定されるものではなく、適宜、この出願前の周知技術又は慣用技術を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、例えば農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業、情報通信業、運輸業又は医薬業において利用可能性があり、もちろんこれら以外のあらゆる産業において幅広く利用可能性がある。
【符号の説明】
【0143】
1……試料解析装置、10……照射部、11……ガルバノミラー、12……光学レンズ、13……ハーフミラー、20……電界印加部、21A,21B,91A〜91D……電極、22……正弦波発振源、23……出力調整部、30……キャリア検出部、31,61,71……FET、32,62,72,92A〜92D……アンプ、33,100……検出感度高揚体、40,205……画像提示部、51……照射用電極、52A〜52D……4重極子、53……出力制御部、80,93……差動アンプ、92……出力切換部、201……走査型レーザー発振器、202……電界照射用電極、DCS……直流源、DTP……検出用電極、LOR……レーザー発振源、QEB……準静電界放出体、SPL……試料、STG……ステージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の局所部位に振動波を授与する授与手段と、
前記試料の全体又は一部に準静電界を与えて、前記局所位置での分極により試料に得られるキャリアの振動エネルギーを増強する増強手段と、
前記増強手段により振動エネルギーが増強されるキャリアを検出する検出手段と
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記増強手段は、
放射電界、誘導電磁界及び準静電界の合成電界の発振源とされる電極と、
前記電極を基準として試料全体を含む範囲において放射電界及び誘導電磁界よりも準静電界が大きい強度となる周波数の信号を、前記電極に与える信号発生源と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記増強手段は、
前記振動波の通過により表面に準静電界を放出可能な物体であり、
前記物体が配される位置は、前記試料の近傍で前記振動波が通る空間上であり、該物体の表面から放出される準静電界に前記試料が含まれる位置である
ことを特徴とする請求項1に記載の検出装置。
【請求項4】
前記試料の近傍に配され、前記試料での分極により得られるキャリアを増幅可能な程度の誘電分極が生じる物体と、
前記物体の表面部位の近傍に配され、前記物体により増幅されるキャリアを検出するための電極と
を含むことを特徴とする請求項2に記載の検出装置。
【請求項5】
前記検出手段は、
キャリアを検出するための電極を含み、
前記電極は、前記物体の表面部位の近傍に配される
ことを特徴とする請求項3に記載の検出装置。
【請求項6】
前記電極は複数でなり、
前記検出手段は、
前記電極から得られる信号のレベル及び極性に基づいて、後段に出力すべき信号を得ている電極を選択する選択手段
を含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の検出装置。
【請求項7】
前記電極は、正孔を検出するための第1の電極と、電子を検出するための第2の電極とでなり、
前記検出手段は、
前記第1の電極から得られる信号と、前記第2の電極から得られる信号とを加算する作動アンプ
を含むことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の検出装置。
【請求項8】
前記振動波を複数の照射位置に走査する走査手段と、
前記電極から得られる信号に基づいて、各前記照射位置の状態を示す画像を生成する生成手段と
を有する請求項4又は請求項5に記載の検出装置。
【請求項9】
前記授与手段は、前記振動波を、該振動波の周波数を切り換えながら特定の位置に対して授与し、
前記電極から得られる信号に基づいて複素誘電率を算出する算出手段
を有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−103049(P2012−103049A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250030(P2010−250030)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(308039735)Qファクター株式会社 (8)
【出願人】(000003584)株式会社タカラトミー (248)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
【Fターム(参考)】