説明

検査システム

【課題】大量生産される車載用ミリ波レーダ装置における性能の検査に適した検査システムの提供。
【解決手段】検査システム1は、出力検査項目を検査するための第一検査ユニット10と、周波数検査項目を検査するための第二検査ユニット20と、距離検査項目を検査するための検査ユニットを第三検査ユニット30と、相対速度検査項目を検査するための第四検査ユニット40と、方位補正項目を検査するための第五検査ユニット50と、方位検査項目を検査するための第六検査ユニット60と、各検査ユニット間を予め規定された経路に従って、ミリ波レーダ装置5を搬送する搬送装置70とから構成されている。そして、第三検査ユニット30、及び第四検査ユニット40にのみ、RTS(ターゲット模擬装置)31,41を検査機器として用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波レーダ装置の性能を検査するための検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ミリ波帯の電波を連続波(以下、レーダ波とする)として送受信することにより取得される取得結果に基づき、障害物を認識し、搭載車両と障害物との距離、搭載車両と障害物との相対速度、及び障害物が位置する方向等のターゲット情報を取得する車載用ミリ波レーダ装置が知られている。
【0003】
また、この種の車載用ミリ波レーダ装置の性能を検査する検査装置として、車載用ミリ波レーダ装置から送信されたレーダ波を受信する受信アンテナと、受信アンテナを介して受信したレーダ波に時間遅延を加える遅延回路と、受信アンテナを介して受信したレーダ波の周波数を変換する周波数変換回路と、遅延回路で時間遅延が加えられたレーダ波、もしくは周波数変換回路で周波数が変換されたレーダ波を送信する送信アンテナとを備えたターゲット模擬装置(いわゆるターゲットシミュレータ)が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、この種のターゲットシミュレータは、車載用ミリ波レーダ装置から送信され、受信アンテナを介して受信したレーダ波の受信電力を検出するパワーメータや、受信したレーダ波の周波数を検出するスペクトラムアナライザとしての機能を備えている。
【0004】
そして、従来の車載用ミリ波レーダ装置に対する性能の検査では、図8に示すように、車載用ミリ波レーダ装置85を収納する電波暗箱82と、電波暗箱82内に収納された車載用ミリ波レーダ装置85との間でレーダ波を送受信可能なように配置されたターゲットシミュレータ81とからなる一つの検査ユニット80を用いて、車載用ミリ波レーダ装置85の性能を検査するために必要な全ての検査項目を検査していた。
【0005】
また、その検査すべき検査項目としては、車載用ミリ波レーダ装置85の送信アンテナを介して送信されたレーダ波の特性を検査する特性範囲検査項目や、車載用ミリ波レーダ装置85がターゲット情報を正確に取得しているか否かを検査する障害物検出検査項目が挙げられる。
【0006】
このうち、特性範囲検査項目では、図8に示すように、車載用ミリ波レーダ装置85から送信されたレーダ波をターゲットシミュレータ81の受信アンテナ81aで受信し、受信したレーダ波の受信電力、及び周波数が予め規定された規定範囲内であるか否かを検査していた。
【0007】
また、障害物検出検査項目としては、車載用ミリ波レーダ装置85で取得されるターゲット情報のうち、搭載車両と障害物との距離を検査する距離検査項目、搭載車両と障害物との相対速度を検査する相対速度検査項目、障害物が位置する方向を検査する方位検査項目が挙げられる。
【0008】
特に、これらの障害物検査項目のうち、距離検査項目や相対速度検査項目では、受信したレーダ波を距離に相当する分だけ遅延させたり、レーダ波の周波数を相対速度に相当する分だけシフトさせたりすることにより、所望の距離、もしくは所望の相対速度を有した障害物からの反射波を模擬して、検査を実施していた。さらに、方位検査項目では、車載用ミリ波レーダ装置が配置される角度(即ち、ターゲットシミュレータ81の送受信アンテナと車載用ミリ波レーダの送受信アンテナとの角度)を変化させることにより、車載用ミリ波レーダ装置85に予め規定された規定方向に対して、検査すべき障害物が位置する方向を変化させて検査を実施していた。
【特許文献1】特開2005−241602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、従来の検査ユニットでは、大量の車載用ミリ波レーダ装置を効率よく検査する場合、この検査ユニットを複数用いて、複数の車載用ミリ波レーダ装置が各検査ユニットで全検査項目を検査されるように検査システム(即ち、検査ユニットの集合体としてのシステム)を構築する必要があった。
【0010】
しかしながら、従来の検査ユニットでは、検査ユニットに設けられた一つのターゲットシミュレータを用いて、全ての検査項目を検査しているため、検査システムを構築する全ての検査ユニットにターゲットシミュレータが必要となり、検査システムの設備費が高価になるという問題があった。
【0011】
つまり、従来の検査ユニットでは、大量生産される車載用ミリ波レーダ装置の性能を検査する検査設備として不向きであるという問題があった。
そこで、本発明は、大量生産される車載用ミリ波レーダ装置における性能の検査に適した検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するためになされた本発明の検査システムは、連続波をレーダ波として送受信することにより得られる検出結果に基づき、レーダ波を反射した物標を認識し、少なくとも位置及び速度に関する情報を含む物標情報を求めるレーダ装置に対し、予め規定された複数の検査項目で検査を実行することにより、レーダ装置の性能を検査するものである。
【0013】
そして、検査システムは、検査項目毎に少なくとも一つ設けられ、レーダ装置の検査に必要な機器を有した複数の検査ユニットからなり、検査対象のレーダ装置から送信され、機器が受信したレーダ波を遅延、もしくは受信したレーダ波の周波数を変換した後、検査対象のレーダ装置に返信する必要がある特定検査項目を検査するための検査ユニットは、受信したレーダ波に時間遅延を加える遅延手段と、受信したレーダ波の周波数を変換する周波数変換手段とを備えたターゲット模擬装置を機器として備えている。
【0014】
したがって、本発明の検査システムは、予め規定された検査項目の順序で検査を実施するように、それぞれの検査ユニットが配置された上で、その配置されたそれぞれの検査ユニットで対応する各検査項目を実施して使用される。
【0015】
これにより、本発明の検査システムによれば、異なる検査項目について複数のレーダ装置を同時に検査することができるため、大量のレーダ装置であっても、効率よく全ての検査項目で検査を実施することができる。
【0016】
また、本発明の検査システムによれば、特定検査項目を検査するための検査ユニットにのみ、ターゲット模擬装置を備えさせることで、全ての検査項目を検査する検査システムであっても、その設備費を低減することができる。
【0017】
つまり、本発明によれば、大量のレーダ装置を効率よく検査するための検査システムを、安価に提供することができる。
一方、レーダ装置と物標との距離を検査する検査項目では、レーダ装置の検査を実施する際に、実際に検査したい距離(例えば、150m)にレーダ装置と物標とを配置することが困難であり、その距離を仮想的に作成する必要がある。また、レーダ装置と物標との相対速度を検査する検査項目では、レーダ装置の検査を実施する際に、レーダ装置(もしくは、物標)を実際に検査したい速度で移動させることが困難であり、その速度で移動していることを示すように周波数を変位(いわゆる、ドップラーシフト)させる必要がある。
【0018】
このため、請求項2に記載のように、レーダ装置と物標との距離、もしくはレーダ装置と物標との相対速度に関する検査項目を特定検査項目とする。
このように、請求項2に記載の検査システムによれば、他の検査項目を検査するための検査ユニットにターゲット模擬装置以外の機器を用いることができるため、全ての検査項目を検査可能な検査システムを安価に提供することができる。
【0019】
なお、本発明の検査システムでは、請求項3に記載のように、予め規定された単位時間内に、それぞれの検査項目で検査が実施されたレーダ装置の数が等しくなるように、検査の実施に要する所要時間が長い検査項目に対応する検査ユニットの数が多く、所要時間が短い検査項目に対応する検査ユニットの数が少なくなるよう検査ユニットの数を設定することが望ましい。
【0020】
このように構成された本発明の検査システムによれば、一つの検査項目がボトルネックとなり全ての検査を遅延させてしまうことがないため、同じ時間でより多くのレーダ装置を検査することができる。
【0021】
また、本発明の検査システムは、請求項4に記載のように、搬送手段が、検査ユニットで検査を実施するためにレーダ装置が配置される配置位置間を予め規定された規定経路で、レーダ装置を搬送しても良い。
【0022】
本発明の検査システムによれば、検査ユニットの配置位置から配置位置へのレーダ装置の移動をスムーズに実施することができ、全検査項目で検査を実施するために必要な時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明が適用され、ミリ波レーダ装置の性能を検査するための検査システムの概略構成を説明する説明図である。
【0024】
まず、検査システム1にて検査される検査対象のミリ波レーダ装置5は、車両に搭載され、送信アンテナからミリ波帯域の連続波(いわゆるCW波や、周波数変調されたFMCW波、以下、レーダ波とする)を送信し、物標(例えば、ガードレール等の路側物や、路上を走行する他の車両等の障害物)が反射したレーダ波を複数の受信アンテナを介して受信することにより、物標の情報(以下、ターゲット情報とする)を取得する周知のものである。特に、本実施形態のミリ波レーダ装置5では、ターゲット情報として、少なくとも、ミリ波レーダ装置5と物標との距離(以下、検出距離とする)、ミリ波レーダ装置5と物標との相対速度(以下、検出相対速度とする)、及び物標が位置する方向(以下、検出方向とする)を検出可能に構成されている。
【0025】
さらに、本実施形態のミリ波レーダ装置5は、ターゲット情報を取得するために通常の動作をする通常動作モードと、そのミリ波レーダ装置5の性能を検査するために動作をする検査動作モードとを備えており、図示しない端子を介して、それらのモードを切り替えるための切替指令や、レーダ波を送信するための送信指令の入力や、検査結果の出力が行われるように構成されている。
〈検査システム〉
次に、図1に示すように、検査システム1は、ミリ波レーダ装置5の性能を検査するために予め設定された検査項目毎に少なくとも一つ設けられ、各検査項目での検査に必要な検査機器を有した複数の検査ユニットと、各検査ユニット間を予め規定された経路に従って、ミリ波レーダ装置5を搬送する搬送装置70とを備えている。
【0026】
なお、本実施形態では、検査システム1で検査される検査項目として、ミリ波レーダ装置5から送信されるレーダ波の特性を検査する特性検査項目と、ミリ波レーダ装置5がターゲット情報を正確に取得しているか否かを検査する障害物検出検査項目が挙げられる。
【0027】
そして、特性検査項目としては、ミリ波レーダ装置5から送信されるレーダ波の出力が予め規定された規定出力範囲内であるか否かを検査する出力検査項目と、ミリ波レーダ装置5から送信されるレーダ波の周波数帯が予め規定された規定周波数帯の範囲内であるか否かを検査する周波数検査項目とがある。
【0028】
また、障害物検出検査項目としては、ミリ波レーダ装置5で取得されるターゲット情報のうち、検出距離について検査する距離検査項目、検出相対速度について検査する相対速度検査項目、物標の位置に応じて本来検出されるべき方向に、検出方向を補正する方位補正項目、検出方向について検査する方位検査項目が挙げられる。
【0029】
なお、以下では、出力検査項目で検査を実施するための検査ユニットを第一検査ユニット10、周波数検査項目で検査を実施するための検査ユニットを第二検査ユニット20、距離検査項目で検査を実施するための検査ユニットを第三検査ユニット30、相対速度検査項目で検査を実施するための検査ユニットを第四検査ユニット40、方位補正項目を実施するための検査ユニットを第五検査ユニット50、方位検査項目で検査を実施するための検査ユニットを第六検査ユニット60とする。
【0030】
そして、第一検査ユニット10から第六検査ユニット60までのそれぞれの検査ユニットの数は、予め規定された単位時間内に、それぞれの検査項目で検査が実施されるミリ波レーダ装置5の数が等しくなるように設定されている。つまり、設定される各検査ユニットの数は、検査の実施に要する所要時間が長い検査項目に対応する検査ユニットでは多く、所要時間が短い検査項目に対応する検査ユニットでは少なくなるようにされている。なお、図1に示すように、本実施形態では、第一検査ユニット10、第二検査ユニット20、及び第四検査ユニット40の数を一つとし、第三検査ユニット30(図中、30a,b)、及び第六検査ユニット60(図中、60a,b)の数を二つとし、第五検査ユニット50(図中、50a〜d)の数を四つとする。
【0031】
また、検査システム1では、各検査ユニットが予め規定された検査ラインに沿って配置されており、第一検査ユニット10、第二検査ユニット20、第五検査ユニット50、第三検査ユニット30、第四検査ユニット40、第六検査ユニット60の順で配置されている。
【0032】
ところで、搬送装置70は、各検査項目での検査を実施するために検査ユニット毎に予め設定された配置位置に、ミリ波レーダ装置5を配置する複数の把持機構75(図3,4,6参照)と、検査ラインに沿って配置された各検査ユニットの配置位置の順に、ミリ波レーダ装置5が配置されるように、予め規定されたプログラムに従って、把持機構75を移動させる移動機構74とを備えている。
【0033】
そして、把持機構75は、ミリ波レーダ装置5を把持する把持アーム71(図3,4,6参照)と、把持アーム71を所望の角度に回動させる回動部72(図3,4,6参照)と、把持アーム71に把持されたミリ波レーダ装置5が配置位置に配置されるように、伸縮自在に構成された伸縮アーム73(図3,4,6参照)とを備えている。
【0034】
なお、搬送装置70は、各検査項目での検査に要する時間に応じて、移動機構74が停止と移動とを繰り返すと共に、検査項目が切り替わる際、次の検査項目での検査が開始されるまでの間、ミリ波レーダ装置5を把持した把持機構75を待機させるように構成されている。
【0035】
ただし、ここで言う配置位置とは、少なくともミリ波レーダ装置5が後述するケース16内に完全に収納される位置である。
〈第一、第二検査ユニット〉
次に、第一検査ユニット10、及び第二検査ユニット20について説明する。
【0036】
ここで、図3は、第一検査ユニット10、第二検査ユニット20の構成、及び使用方法について説明するための説明図である。
図3に示すように、第一検査ユニット10は、検査を実施する時に、ミリ波レーダ装置5を収納する電波暗箱13と、ミリ波レーダ装置5から送信されたレーダ波を受信する受信用ホーンアンテナ12と、受信用ホーンアンテナ12を介して受信したレーダ波の受信電力を検出するパワーメータ11とを備えている。
【0037】
また、図2に示すように、電波暗箱13は、内部に空洞を有し、一端に開口(以下、開口が形成されている一端を開口端とし、開口が形成されていない他端を閉塞端とする)が形成された直方体のケース16と、ケース16の内壁に固定され、ノイズ等の検査に不要な電波を吸収する電波吸収体17とからなる周知のものである。以下、各検査ユニットを構成するための電波暗箱は、第一検査ユニット10を構成する電波暗箱13と同様に構成されているため、構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0038】
なお、受信用ホーンアンテナ12は、ミリ波レーダ装置5から送信されたレーダ波を受信する受信部がケース16内部の空洞に位置するように、ケース16の閉塞端に固定されている。
【0039】
つまり、第一検査ユニット10では、ミリ波レーダ装置5が電波暗箱13に配置され、そのミリ波レーダ装置5が送信したレーダ波を受信用ホーンアンテナ12を介して受信し、その受信したレーダ波の出力をパワーメータ11で検出することにより、その検出されたレーダ波の出力が、予め規定された規定出力帯の範囲内であるか否かを検査する。
【0040】
次に、第二検査ユニット20は、検査を実施する時に、ミリ波レーダ装置5を収納する電波暗箱23と、ミリ波レーダ装置5から送信されたレーダ波を受信する受信用ホーンアンテナ22と、受信用ホーンアンテナ22を介して受信したレーダ波の周波数帯を検出するスペクトラムアナライザ(以下、スペアナとする)21とを備えている。
【0041】
なお、受信用ホーンアンテナ22は、レーダ波を受信する受信部がケース16内部の空洞に位置するように、ケース16の閉塞端に固定されている。
つまり、第二検査ユニット20では、ミリ波レーダ装置5が電波暗箱23内に配置され、そのミリ波レーダ装置5が送信したレーダ波を、受信用ホーンアンテナ22を介して受信し、その受信したレーダ波の周波数帯をスペアナ21で検出することにより、その検出されたレーダ波の周波数帯が予め規定された規定周波数の範囲内であるか否かを検査する。
〈第三、第四検査ユニット〉
次に、第三検査ユニット30、及び第四検査ユニット40について説明する。
【0042】
ここで、図4は、第三検査ユニット、第四検査ユニットの構成、及び使用方法について説明するための説明図である。
第三検査ユニット30は、検査を実施する時に、ミリ波レーダ装置5を収納する電波暗箱33と、外部からの入力に従って、ミリ波レーダ装置5で検出されるべき物標を模擬するターゲット模擬装置(以下、RTS(レーダターゲットシミュレータ)とする)31とを備えている。
【0043】
ここで、図5は、RTS31の概略構成を示す説明図である。
RTS31は、外部からの入力を受け付ける外部入力部39と、ミリ波レーダ装置5から送信されたレーダ波を受信する受信用ホーンアンテナ34と、外部からの入力に従って、受信用ホーンアンテナ34を介して受信したレーダ波に時間遅延を加える信号遅延部36と、外部からの入力に従って、受信したレーダ波を減衰(もしくは、増幅)させるアンプ(以下、AMP)37と、外部からの入力に従って、受信したレーダ波の周波数を変換する周波数変換部38と、信号遅延部36で時間遅延が加えられたレーダ波(以下、遅延レーダ波とする)、AMP37で減衰されたレーダ波、周波数変換部38で周波数が変換されたレーダ波(以下、シフトレーダ波とする)をミリ波レーダ装置5に送信する送信用ホーンアンテナ35とを備えている。
【0044】
その受信用ホーンアンテナ34(及び、送信用ホーンアンテナ35)は、ミリ波レーダ装置5からのレーダ波を受信する受信部(送信用ホーンアンテナ35では、レーダ波を送信する送信部)がケース内部の空洞に位置するように、電波暗箱33の閉塞端に固定されている。
【0045】
このようなRTS31では、信号遅延部36で、外部入力部36を介して入力された物標までの距離に相当する分の時間遅延を加えた遅延レーダ波を生成し、AMP37でレーダ波を減衰させることにより、ミリ波レーダ装置5で検出されるべき検出距離(以下、模擬距離とする)を模擬する。
【0046】
つまり、第三検査ユニット30では、遅延レーダ波をミリ波レーダ装置5に返送することにより、遅延レーダ波を受信したミリ波レーダ装置5に検出距離を検出させ、そのミリ波レーダ装置5で検出された検出距離が、模擬距離から予め規定された範囲内(即ち、予め規定された精度の範囲内)であるか否かを検査する。
【0047】
なお、第四検査ユニット40は、第三検査ユニット30と同様に構成されており、第四検査ユニット40を構成する各部の符号を、第三検査ユニット30を構成する各部の符号に10加算したもの(例えば、第四検査ユニット40のRTSは、その符号が41となる)として説明を省略する。
【0048】
その第四検査ユニット40では、RTS41の周波数変換部48で、レーダ波の周波数を、外部入力部36を介して入力された物標との相対速度に相当する分だけシフトさせることにより、ミリ波レーダ装置5で検出されるべき検出相対速度(以下、模擬検出相対速度とする)を模擬する。
【0049】
つまり、第四検査ユニット40では、シフトレーダ波をミリ波レーダ装置5に返送することにより、シフトレーダ波を受信したミリ波レーダ装置5に検出相対速度を検出させ、そのミリ波レーダ装置5で検出された検出相対速度が、模擬検出相対速度から予め規定された規定範囲内(即ち、予め規定された精度の範囲内)であるか否かを検査する。
〈第五、第六検査ユニット〉
次に、第五検査ユニット50、及び第六検査ユニット60について説明する。
【0050】
ここで、図6は、第五検査ユニット50、第六検査ユニット60の構成、及び使用方法について説明するための説明図である。
第五検査ユニット50は、検査を実施する時に、ミリ波レーダ装置5収納する電波暗箱53と、ミリ波レーダ装置5から送信されたレーダ波を、そのレーダ波の入射方向に反射するコーナーキューブリフレクタ51とを備えている。
【0051】
ただし、コーナーキューブリフレクタ51は、電磁波を反射する3枚の金属板により、頂角が90度となるように形成された三角錐の部材であり、配置位置に配置されたミリ波レーダ装置5が位置する方向を反射方向とするように、その頂角がケース16の閉塞端に固定されている。
【0052】
つまり、第五検査ユニット50では、ミリ波レーダ装置5が送信するレーダ波をコーナーキューブリフレクタ51が反射することにより、ミリ波レーダ装置5に検出方向を検出させる。
【0053】
そして、第五検査ユニット50では、図7に示すように、ミリ波レーダ装置5が配置される角度、即ち、コーナーキューブリフレクタ51の中心軸(即ち、コーナーキューブリフレクタ51の頂角を通り電波暗箱53の側壁に平行な軸、図中、リフレクタ中心軸)とミリ波レーダ装置5に予め設定された基準軸(本実施形態では、受信アンテナが延設されている方向とする、図中、レーダ中心軸)とがなす角度(以下、検査角度とする、図中、θ)を、搬送装置70の回動部72が変化させることにより、ミリ波レーダ装置5で検出される検出方向を変化させる。さらに、ミリ波レーダ装置5で検出された検出方向が検査角度であること(より正確には、ミリ波レーダ装置5に備えられた複数の受信アンテナで受信したそれぞれのレーダ波の位相差が、設定された検査角度に対応すること)をミリ波レーダ装置5に記憶させる。
【0054】
ただし、本実施形態では、検査角度を1度、3度、5度、7度、9度、11度として、方位補正項目を実施する。
一方、図6に示すように、第六検査ユニット60は、第五検査ユニット50と同様に構成されており、第六検査ユニット60を構成する各部の符号を、第五検査ユニット50を構成する各部の符号に10加算したもの(例えば、第六検査ユニット60のコーナーキューブリフレクタは、その符号が61となる)として説明を省略する。
【0055】
その第六検査ユニット60では、検査角度が設定された状態でミリ波レーダ装置5が第六検査ユニット60内に配置され、ミリ波レーダ装置5が送信するレーダ波をコーナーキューブリフレクタ61が反射し、その反射波をミリ波レーダ装置5に受信させることで、ミリ波レーダ装置5に検出方向を検出させる。これにより、ミリ波レーダ装置5で検出される検出方向が、検査角度から予め規定された規定角度の範囲内(即ち、予め規定された制度の範囲内)である否かを検査する。
【0056】
ただし、本実施形態では、検査角度を2度、4度、6度、8度として、方位検査項目を実施する。
〈検査システムの動作〉
ここで、図1に戻り、検査システム1の動作について説明する。
【0057】
検査システム1では、まず、把持アーム71がミリ波レーダ装置5を把持し、ミリ波レーダ装置5に切替指令が入力されることで、ミリ波レーダ装置5のモードが検査動作モードに切り替えられる。
【0058】
そして、検査システム1では、把持アーム71に把持され、検査モードに切り替えられたミリ波レーダ装置5を、開口端から電波暗箱13内に収納し、第一検査ユニット10の配置位置に配置した上で、ミリ波レーダ装置5に送信指令を入力する。これにより、第一検査ユニット10では、ミリ波レーダ装置5からレーダ波が送信され、出力検査項目での検査がなされる。
【0059】
さらに、検査システム1では、出力検査項目での検査がなされたミリ波レーダ装置5を、把持アーム71に把持したまま、開口端から電波暗箱23内に収納し、第二検査ユニット20の配置位置に配置した上で、ミリ波レーダ装置5に送信指令を入力する。これにより、第二検査ユニット20では、ミリ波レーダ装置5からレーダ波が送信され、周波数検査項目での検査がなされる。
【0060】
その後、検査システム1では、把持アーム71に把持されたままのミリ波レーダ装置5を、第五検査ユニット50aに対して予め設定された検査角度にて配置位置に配置した上で、ミリ波レーダ装置5に送信指令を入力する。これにより、第五検査ユニット50aでは、ミリ波レーダ装置5がレーダ波を送受信し、その検査ユニットに予め設定された検査角度における方位補正項目が実施される。さらに、搬送装置70により、第五検査ユニット50b、第五検査ユニット50c、第五検査ユニット50dの順にミリ波レーダ装置5を移動し、それぞれの検査ユニット毎に設定された検査角度にて方位補正項目が実施される。
【0061】
そして、検査システム1では、方位補正項目が実施されたミリ波レーダ装置5を、把持アーム71に把持したまま、第三検査ユニット30aの配置位置に配置した上で、ミリ波レーダ装置5に送信指令を入力する。これにより、第三検査ユニット30aでは、ミリ波レーダ装置5がレーダ波を送受信し、第三検査ユニット30aに予め規定された合計の回数だけ、距離検査項目での検査がなされる。さらに、第三検査ユニット30bでも、第三検査ユニット30aと同様に、距離検査項目での検査がなされる。
【0062】
その後、検査システム1では、把持アーム71に把持されたままのミリ波レーダ装置5を、開口端から電波暗箱43内に収納し、第四検査ユニット40の配置位置に配置した上で、ミリ波レーダ装置5に送信指令を入力する。これにより、第四検査ユニット40では、ミリ波レーダ装置5がレーダ波を送受信し、相対速度検査項目での検査がなされる。
【0063】
さらに、検査システム1では、相対速度検査項目での検査が実施されたミリ波レーダ装置5を、把持アーム71に把持したまま、第六検査ユニット60aに対して予め設定された検査角度にて配置位置に配置した上で、ミリ波レーダ装置5に送信指令を入力する。これにより、第六検査ユニット60aでは、ミリ波レーダ装置5がレーダ波を送受信し、方位補正項目での検査がなされる。そして、検査システム1では、搬送装置70により、第六検査ユニット60bにミリ波レーダ装置5を移動し、予め設定された検査角度にて方位検査項目での検査がなされる。
【0064】
その後、検査システム1では、ミリ波レーダ装置5に対する性能の検査を終了し、把持アーム71が、まだ検査が実施されていないミリ波レーダ装置5を把持することで、次のミリ波レーダ装置5に対して検査を実施する。
【0065】
ただし、検査システム1では、複数の把持アーム71がそれぞれミリ波レーダ装置5を同時に把持することで、複数のミリ波レーダ装置5に対し、それぞれの検査ユニットに対応する検査項目での検査を実施する。
[本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態の検査システム1によれば、第三検査ユニット30、及び第四検査ユニット40にのみ、RTS(ターゲット模擬装置)を検査機器として用いている、即ち、第一検査ユニット10、第二検査ユニット20、第五検査ユニット50、第六検査ユニット60には、RTSよりも安価なパワーメータ11、スペアナ21、コーナーキューブリフレクタ51、61を用いているため、検査システム全体の設備費を低減することができる。
【0066】
さらに、検査システム1によれば、検査ラインに沿って各検査項目に対応する検査ユニットが配置され、それぞれの検査ユニットで異なる検査項目について複数のミリ波レーダ装置5を同時に検査することができるため、全ての検査項目を検査するのに要する時間を短くすることができる。
【0067】
特に、検査システム1によれば、それぞれの検査項目で予め規定された単位時間内に検査が実施されたミリ波レーダ装置5の数が等しくなるように、各検査項目に対応する検査ユニットの数が設定されているため、一つの検査項目での検査がボトルネックとなり、以後の検査項目での検査が遅延することを防止できる。
【0068】
これらのことから、検査システム1によれば、大量のミリ波レーダ装置5であっても、全ての検査項目をスムーズに実施することができ、より効率よくミリ波レーダ装置5を検査することができる。
【0069】
つまり、検査システム1によれば、安価な設備費で、大量のミリ波レーダ装置5を効率よく検査することができる。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において様々な態様にて実施することが可能である。
【0070】
例えば、上記実施形態における検査システム1では、第一検査ユニット10、第二検査ユニット20、第四検査ユニット40が一つ、第三検査ユニット30、第六検査ユニット60が二つ、第三検査ユニットの数が四つとして、各検査ユニットの数が設定されていたが、各検査ユニットの数は、これに限るものではない。全ての検査ユニットの数が、これの整数倍となっていてもよい。
【0071】
つまり、各検査ユニットの数は、予め規定された単位時間内に、それぞれの検査項目で検査が実施されたレーダ装置の数が等しくなるように、検査の実施に要する所要時間が長い検査項目に対応する検査ユニットの数が多く、所要時間が短い検査項目に対応する検査ユニットの数が少なくなるよう検査ユニットの数が設定されていれば、どのような数であっても良い。
【0072】
また、上記実施形態では、出力検査項目(第一検査ユニット10)、周波数検査項目(第二検査ユニット20)、方位補正項目(第五検査ユニット50)、距離検査項目(第三検査ユニット30)、相対速度検査項目(第四検査ユニット40)、方位検査項目(第六検査ユニット60)の順で検査を実施していたが、実施される各検査項目の順序は、これに限るものではない。例えば、距離検査項目と相対速度検査項目との順序が逆でも良いし、方位補正項目と相対速度検査項目との順序が逆でも良い。
【0073】
つまり、実施される検査項目の順序は、出力検査項目と周波数検査項目とが、全検査項目の中で一番目、及び二番目に実施され、かつ方位補正項目、方位検査項目の二つの項目が、方位補正項目、方位検査項目の順序で実施されていれば、どのような順序で実施されても良い。
【0074】
さらに、上記実施形態における方位補正項目、方位検査項目で挙げた検査角度は、これに限るものではない。例えば、方位補正項目での検査角度と、方位検査項目での検査角度とが逆であっても良い。
【0075】
なお、上記実施形態における把持機構75は、把持アーム71と、回動部72と、伸縮アーム73とによってミリ波レーダ装置5を配置位置に配置していたが、ミリ波レーダ装置5を固定可能なテーブルと、予め規定された一軸に従ってテーブルを回動させるローテータとから構成されていても良い。つまり、搬送装置70は、ミリ波レーダ装置5を、開口端から電波暗箱内に収納し、各検査ユニットの配置位置間を移動させながら、それぞれの配置位置に配置可能であり、かつ検査角度に応じてミリ波レーダ装置5を回動可能なものであれば、どのようなものでも良い。
【0076】
さらには、搬送装置70を用いずに、人の手によってミリ波レーダ装置5が配置位置に配置されていても良い。
なお、上記実施形態では、ミリ波レーダ装置5を検査動作モードに切り替えた上で、外部からの入力によりミリ波レーダ装置5を作動させて、ミリ波レーダ装置5の性能を検査していたが、検査動作モードとして予め組み込まれたプログラムに従って検査を実施しても良いし、通常動作モードのまま検査を実施しても良い。ただし、後者の場合、ミリ波レーダ装置5には、通常動作モードのみが備えられ、各検査項目でミリ波レーダ装置5が動作するために必要な動作を外部からの入力により実行させる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】検査システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】検査ユニットを構成する電波暗箱の斜視図である。
【図3】第一検査ユニット、第二検査ユニットについて説明する説明図である。
【図4】第三検査ユニット、第四検査ユニットについて説明する説明図である。
【図5】ターゲット模擬装置の概略構成について説明する説明図である。
【図6】第五検査ユニット、第六検査ユニットについて説明する説明図である。
【図7】検査角度を説明するための説明図である。
【図8】従来の検査方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0078】
1…検査システム 5…ミリ波レーダ装置 10,20,30,40,50,60…第一〜第六検査ユニット 11…パワーメータ 12…受信用ホーンアンテナ 13,23,33,43,53,63…電波暗箱 16…ケース 17…電波吸収体 21…スペアナ 34…受信用ホーンアンテナ 35…送信用ホーンアンテナ 36…信号遅延部 37…減衰部 38…周波数変換部 39…外部入力部 51,61…コーナーキューブリフレクタ 70…搬送装置 71…把持アーム 72…回動部 73…伸縮アーム 74…移動機構 75…把持機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続波をレーダ波として送受信することにより得られる検出結果に基づき、レーダ波を反射した物標を認識し、少なくとも位置及び速度に関する情報を含む物標情報を求めるレーダ装置に対し、予め規定された複数の検査項目で検査を実行することにより、前記レーダ装置の性能を検査する検査システムであって、
前記検査システムは、前記検査項目毎に少なくとも一つ設けられ、前記レーダ装置の検査に必要な機器を有した複数の検査ユニットからなり、
検査対象のレーダ装置から送信され、前記機器が受信したレーダ波を遅延、もしくは受信したレーダ波の周波数を変換した後、検査対象のレーダ装置に返信する必要がある特定検査項目を検査するための前記検査ユニットは、受信したレーダ波に時間遅延を加える遅延手段と、受信したレーダ波の周波数を変換する周波数変換手段とを備えたターゲット模擬装置を前記機器として備えることを特徴とする検査システム。
【請求項2】
前記特定検査項目とは、前記レーダ装置と前記物標との距離、もしくは相対速度に関する前記レーダ装置の性能であることを特徴とする請求項1に記載の検査システム。
【請求項3】
予め規定された単位時間内に、それぞれの検査項目で検査が実施された前記レーダ装置の数が等しくなるように、検査の実施に要する所要時間が長い検査項目に対応する検査ユニットの数が多く、前記所要時間が短い検査項目に対応する検査ユニットの数が少なくなるよう前記検査ユニットの数を設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の検査システム。
【請求項4】
前記検査ユニットで検査を実施するために前記レーダ装置が配置される配置位置間を予め規定された規定経路で、前記レーダ装置を搬送する搬送手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の検査システム。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−145177(P2008−145177A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330748(P2006−330748)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】