説明

検査装置用の判定モデル作成支援装置および検査装置ならびに耐久試験装置および耐久試験方法

【課題】耐久試験を自動的に行なうことに適した検査装置を提供すること。
【解決手段】ワーク(エンジン)にセンサを付け(S1)、耐久試験を開始(S2)。一定時間経過後、耐久試験を一旦停止(S3)。そして、取得したセンシングデータを、検査装置10内の判定アルゴリズム作成手段へ渡す(S4)。初期状態であれば、正常状態と推定し、判定アルゴリズム作成手段は、正常の波形データとして数値化し正常領域を規定する基準空間,判定モデルを作成し、判定アルゴリズムに登録し(S5)、判定モデルから異常と判定する閾値をセットする(S6)。ついで、耐久試験を再開し(S7)、長時間にわたってエンジンを回転させ続ける。耐久試験実行中に各センサから得られるセンシングデータを検査装置内の判定アルゴリズムに与え、リアルタイムに状態判定を行ない(S8)、閾値を超えることがあれば瞬間停止命令を耐久試験機に出力する(S9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検査装置用の判定モデル作成支援装置および検査装置ならびに耐久試験装置用異常検出装置および耐久試験方法に関するもので、より具体的には、入力された波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物から発生する音等に基づき、その検査対象物が正常か異常かを検査する製品検査や設備診断がある。設備診断は、工作機械や生産設備自体が発生する振動や音に基づいて、工作機械や生産設備自体が正常に動作しているかどうか、そろそろ手入れや調整などのメンテナンスが必要かどうかを診断するものである。具体例ではNC加工機,半導体プラント、食品プラントなど設備診断がある。製品検査は、製品が発生する振動や音に基づいてその製品が正常品か不良品かを検査するものである。どちらも振動または音に基づいて検査する点で共通している。製品検査のほうを主に説明すると、生産設備や生産システムによって製造される製品は、その内部に音源や振動源を内蔵するものがある。また製品の動作によって音が発生したり、振動が発生したりするものがある。例えば、家電製品の冷蔵庫,エアコン,洗濯機では、モータ等の部品が組み込まれていて、稼働するとモータ等の回転に伴って音や振動を発生する。例えば自動車では、エンジン,パワーステアリング,パワーシート,ミッションその他の至る所に音源または振動源がある。
【0003】
このような製品に係る音や振動は、正常な動作に伴い必然的に発生するものもあれば、不良に伴って発生するものもある。その不良に伴う異常音、振動は、モータ内部の異常接触、回転機構部分の軸受け(ベアリング)の異常,回転機構内部の異常接触,回転機構のアンバランス,異物混入などに起因して生じる。より具体的には、機構の動作によって生じる異常音の例には、モータ内部の回転部と固定部が回転中の一瞬だけこすれ合うような異常音がある。回転機構の異常音には、回転ギヤの1回転について1度の頻度で発生するギヤ欠け,ギヤへの異物かみ込み,軸受けのスポット傷などに起因する異常音がある。また、人が不快と感じる音の例には、一定の動作音のなかに一瞬だけ混じる「キッ」という音がある。正常品では一定の動作音だけが聞こえるとすれば、「キッ」という音が生じる製品は不良品とみなすことができる。
【0004】
また、陶器製品や、樹脂部品を組み合わせてなる製品では、そのもの自体に音源や振動源となる部品をもたないが、ひび割れ等があるかないかを検査する場合がある。このような製品における検査は、検査対象の陶器や樹脂部分をハンマーなどの工具でたたいて、音を鳴らして検査する。対象物にひび割れがない場合は高い音色で響く音がするが、ひび割れがある場合は鈍い音がするので、この違いによって検査できる。
【0005】
なお、明細書中で言う「音」は、音と振動とを含む。なお明細書中では、異常音と異常振動とを「異常音」または「異音」と総称している。また「振動」を振動と音とを含む意味で用いている。
【0006】
係る異常や不良に伴う音は、人間にとって不快であるばかりでなく、製品自体において故障を発生させるおそれもある。そのような音が生じる製品は、生産工程で検査して良品を区分けする必要がある。そこで、生産設備や生産システムにて製造された各製品に対して、品質保証を目的として、生産工場においては、通常、検査員による聴覚や触覚などの五感に頼った「官能検査」を行ない、異常音の有無の判断を行っている。具体的には、人間が耳で音を聞いたり、人間が手で触って振動を確認したりすることによって行っている。なお、官能検査は、官能検査用語 JIS(日本工業規格)のZ8144により定義されている。
【0007】
ところで、係る検査員の五感に頼った官能検査では、熟練した技術を要するばかりでなく、判定結果に個人差によるばらつきが大きい。さらには、官能検査の判定結果のデータ化,数値化が難しく管理も困難となるという問題がある。そこで、係る問題を解決するため、定量的かつ明確な基準による検査を目的とした異音検査装置がある。
【0008】
この異音検査装置は、「官能検査」工程の自動化を目的とした装置であり、製品駆動部の振動や音をセンサで測定し、センサで取り込んだアナログ信号を解析して検査するものである。
【0009】
このように検査対象から得られた振動波形から正常/異常を判別する検査(いわゆる異音検査)を自動的に行なう異音検査装置としては、従来、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1に開示された発明は、時間軸波形から得られた特徴量と周波数波形から得られた特徴量とを用いて検査対象の正常/異常を総合的に判別するものである。
【0010】
また、特許文献2に開示された発明のように、良品(正常品)から得られた正常データのみで正常品が存在する正常領域を形成し、検出値が正常領域内であれば正常と判断し、検出値が正常領域外であれば異常と判断する技術がある。この特許文献2に開示された発明では、複数の入力情報を用いて、正常な状態が許容される正常領域を多次元ベクトルで設定し、検出値が正常領域内であれば正常と判断し、領域外であれば異常と判断するようになっている。
【0011】
【特許文献1】特許第3484665号
【特許文献2】特許第3103193号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、エンジン、トランスミッション、タイヤなどの開発においては、試作段階で試運転を継続して行ない、弱い部分(試運転中に破損する部品)がないことを耐久試験で確認を行なうことが多い。この耐久試験において、試験ワーク(前述の試作エンジン、トランスミッション、タイヤなど)は、回転計・温度計・振動計、などでリアルタイムに状態変化を記録することがなされている。この試験において、どこか1箇所破損が発生した時にただちに停止しなければ、破損した部品により別の部位の破損が起こり、2次破損,3次破損,……と、破損が拡大し、破損が拡大した後で試験を停止し、試験ワークを分解確認しても、一番弱い1次破損部位の特定が極めて難しいし、仮に特定できたとしても多大な時間と労力を要する。
【0013】
一方、一次破損する部品は、突然破損するわけではなく、その予兆として何かしらの変化が発生する。一例を挙げると、通常破損する前に、磨耗や変形による微妙な異常発生し、その状態のまま耐久試験を継続して実施することで最終的に異常拡大により耐え切れない部品の1次破損が発生する。そして、係る微妙な異常発生や、少なくとも1次破損を生じた場合、それが、ワーク構成要素の運動の変化によるワーク振動の変化や、ワーク駆動負荷の変化や、部位ごとのワーク温度の変化や、ワーク筐体ひずみの変化が生じ、それに伴い、各部位の変化よるワーク駆動音の変化が生じる。つまり、上記の複数の複合的な情報が音として放射されることになる。
【0014】
異常(1次破損の前後)で耐久試験を行なっている試験対象物から発生する音色は差異がでる。そこで、通常の異音検査と同様に、試験ワークに詳しい検査員が耐久試験中の試験ワークのそばに駐在し、音を聞くことで、音色の変化を検出できれば、その段階で1次破損が生じたことを検出することはできる。つまり、人間は、特定の情報(特定の周波数のみ、特定の振動モードのみ、特定の部位の温度のみ)を見るのではなく、音色という全周波数帯域のパターン(の変化)を捕らえて判断するため、正常状態と異常状態の違いに気が付くのである。よって、従来の耐久試験の際に用いていた検査システムのように、特定の情報(特定の周波数のみ、特定の振動モードのみ、特定の部位の温度のみ)に基づいて異常の判断を行なっている限り、1次破損の段階或いは1次破損しそうな予兆段階での異常を検出することは不可能であり、被害が拡大して初めて検出することができるのである。
【0015】
このように、検査員の聴感を利用すれば1次破損の段階或いは1次破損しそうな予兆段階で異常に気が付くことが多いことは事実であるものの、係る検査員による異常検出の実現性は低い。耐久試験は長い場合は24時間から1週間継続する場合もあり、人が付きっ切りで異常が発生しないか監視することは実質的には不可能であるからである。また、人はその時々により、より感度良く1次破損を見つける場合もあれば、2次3次破損になってからよくやく気が付くなど、判定にバラツキがでるという問題を有することは、通常の異音検査と同様である。
【0016】
また、特許文献等に開示した従来の音や振動などの波形信号に基づいて良否(異常)を判定する検査装置の場合、試験ワークを駆動させ、その間センシングを行ない、5秒から30秒など一定秒数の波形データを取り込み、その取り込んだ波形データに対して正常らしさの判断を行なう。つまり、一定時間駆動させて得られた一定秒数の波形データ全体に対し、良否判定を行なうようになっている。
【0017】
これに対し、耐久試験の場合には、上述した通り、24時間以上という従来の異音検査装置が対象としていた連続波形に比べて非常に長い波形データが連続して入力され、その入力された波形データに対してリアルタイムで判定を行なうことから、従来の検査装置(異音検査装置)をそのまま適用することはできない。
【0018】
しかも、耐久試験に実装することを考慮すると、破損発生時に試験を中断停止させるまでに許される時間が短いために0.1秒から1秒などの短い時間の波形データに対して正常/異常の判断を行なうことが必要となり、係る点からも従来の数秒間の波形データに基づく良否判定(異常検出)アルゴリズムをそのまま適用することが困難である。
【0019】
この発明は、短時間の波形データであっても良否判定/異常判定を行なうことができ、比較的長時間にわたり連続して駆動させている検査対象物から連続して取得する波形データに対しても、異常発生時にその異常検出を短時間で行なうことができる検査装置用の判定モデル作成支援装置および検査装置ならびに耐久試験装置用異常検出装置および耐久試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)本発明の検査装置用の判定モデル作成支援装置は、検査対象品から取得した波形データから特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて検査対象品の状態を判定する検査装置用の判定モデル作成支援装置であって、 取得した波形データを設定された単位時間分のデータに分割する分割波形データ作成手段と、その分割波形データ作成手段で作成された単位時間分の複数個の分割波形データに基づいて、各分割波形データ単位で特徴量を演算する手段と、その分割波形データ単位で演算された特徴量に基づいて、単位時間毎に検査対象品の状態を判定するための判定モデルを作成するモデル作成手段を備えて構成した。このようにすると、例え単位時間(N秒)が短くても、異なる分割波形データから形成されるため、精度の良い判定モデルを作成することができる。
【0021】
(2)分割波形データ作成手段は、波形データを所定位置から単位時間分毎に分割する機能を備えるとよい。(3)また、分割波形データ作成手段は、単位時間分毎に分割する際の分割開始位置をランダムに決定する機能を備えるようにしてもよい。(4)さらに、分割波形データ作成手段は、分割処理をする際の基準長さとなる単位時間をランダムに決定する機能を備えてもよい。いずれの場合も、多数の分割波形データを収集できるので、精度の良い判定モデルを作成することができる。そして、前者では満遍なく分割波形データを取得することができ、後者ではランダムに採ることから実際の検査・判定時においてどの時点で発生するかわからない異常を確実に検出するのに適した判定モデルを作成することができる。
【0022】
(5)また、動作が所定のパターンで繰り返し変動する検査対象品から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて検査対象品の状態を判定する検査装置用の判定モデル作成支援装置であって、取得した波形データを設定された単位時間分のデータに分割する分割波形データ作成手段と、その分割波形データ作成手段で作成された単位時間分の複数個の分割波形データに基づいて、各分割波形データ単位で特徴量を演算する手段と、その分割波形データ単位で演算された特徴量に基づいて、前記分割波形データ作成手段で分割された前記パターン内の各領域についての判定モデルを作成するモデル作成手段を備えて構成することもできる。このようにすると、例えば、検査対象物の動作(動作プロファイル)が周期的に繰り返し実行されるような場合に、各分割された領域でそれぞれ適した判定モデルを製造することができる。
【0023】
(6)上記(1)から(5)において、特徴量を求める手段は、分割波形データを所定サイズのフレームにさらに分割するフレーム分割処理を実行するとともに、その分割されたフレームに基づいて特徴量を抽出する機能を備え、所定サイズをランダムに決定する機能を備えることができる。(7)この場合に、前記特徴量を求める手段は、前記フレーム分割処理を実行して得られた各フレームに対し、周波数分析を行ない、全周波数帯域での特徴量を求めるものとするとよい。このようにすると、多数のフレームを収集できるので、精度の良い判定モデルを作成することができる。特に、1つの分割波形データに従って、その領域の判定モデルを作成する場合でも、多数の情報に基づき精度の良い判定モデルを作成することができる。
【0024】
(8)本発明に係る検査装置は、上述した(1)から(7)の判定モデル作成支援装置で作成された判定モデルに基づき、取得した検査対象の波形データに対して状態判定を行なう判定手段を備えるようにした。
【0025】
(9)さらに、動作が所定のパターンで繰り返し変動するものに対する検査装置であって、(5)に記載の判定モデル作成支援装置が、繰り返し変動する1つのパターン部分に対応する波形データに基づいて作成した領域毎の判定モデルを取得し、検査対象の状態判定を行なうに際し、取得した波形データ部分にそれぞれ対応する領域の判定モデルを使用して判定処理をする判定手段を備えるようにするとよい。
【0026】
(10)また、本発明に係る耐久試験装置は、検査対象品の耐久性を試験する耐久試験装置であって、耐久試験開始後の動作が安定している期間に取得した波形データを正常データとして作成された判定モデルを用い、前記耐久試験の実行中に取得した波形データに基づき異常か否かを判断する判定手段を備えて構成することができる。
【0027】
(11)この場合に、判定モデル作成機能は、上述した(1)から(7)の判定モデル作成支援装置により構成されるとよい。
【0028】
(12)本発明に係る耐久試験方法は、耐久試験の対象となる駆動体を所定時間回転させ、そのときに取得した波形データを(1)から(7)のいずれかに記載の判定モデル作成支援装置に与える処理ステップと、判定モデル作成支援装置が、与えられた波形データを正常データとして異常検出のための判定モデルを作成する処理ステップと、その後、耐久試験を実行し、その耐久試験の実行中に取得した波形データに基づいて、判定モデル作成支援装置が作成した判定モデルを用いて異常の有無を判断する処理ステップと、異常を検知した場合に、異常検知信号を出力する処理ステップを実行するようにした。この異常検知信号の出力に伴い、前記駆動体の回転を停止することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、短時間の波形データであっても良否判定/異常判定を行なうことができる。その結果、比較的長時間にわたり連続して駆動させている検査対象物から連続して取得する波形データに対しても、異常発生時にその異常検出を短時間で行ない、異常発生と共に耐久試験を停止することが可能となる。もちろん、耐久試験に限らず、従来から一般に行なわれる数秒間の波形データを取得し、正常/異常を判断する検査装置にも適用することで、より短時間で判断が行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明の好適な一実施形態の1つである耐久試験システムの概略構成を示している。図1に示すように、試験対象物であるエンジン1の回転軸に、モータリングベンチなどの駆動装置2を連結し、その駆動装置2を回転駆動させることで強制的にエンジン1を回転させることができるようになっている。駆動装置2は、サーボモータと、そのサーボモータの回転を制御するサーボドライバなどを備え、PLC3からの制御命令に従って内蔵するサーボモータが所定の回転速度で回転する。サーボモータであるため、任意の回転数で等速回転をすることもできるし、回転数の増減速制御も精度良くできる。これにより、エンジン1を比較的長時間(1日〜2週間、さらにはそれ以上)にわたって、所望の回転数で連続して駆動し続けることができる。
【0031】
耐久試験対象のエンジン1の周囲には、試験中にエンジン1から発生する音を検出するためのセンサ(マイクロフォン4)を配置し、エンジン1の振動を検出するための振動センサ5をエンジン1の所定位置に接触させた状態で配置する。本実施形態では、マイクロフォン4は、エンジン1の上下2カ所に設置し、異なる方向からの音情報を収集するようにしたが、設置数および設置位置は任意である。この点は、振動センサ5についても同様である。さらに、図示するように、音を検出するためのマイクロフォン4と、振動を検出する振動センサ5のように異なる種類のセンサを設置する必要は必ずしもない。要は、異常を検出するための基となる波形データを検出できるようになっていればよい。
【0032】
マイクロフォン4ならびに振動センサ5の各種のセンサからは、アナログの波形データが出力されるため、それら各波形データは、AD変換器6にてデジタルデータに変更後、検査装置10に与えるようになっている。さらにこの検査装置10に対しては、PLC3からは、動作タイミングが与えられたり、駆動装置2からは、その駆動装置2に設置したモニタリングセンサ(エンコーダー、トルク計等)からの波形データがAD変換器6を介して与えられたりしている。
【0033】
検査装置10は、波形データや、異常検出するための判定モデル・判定ルール等のデータを格納するデータベース7を備え、そのデータベース7から取得した判定モデル等に従い、A/D変換器6から取得した波形データに対して異常の有無を判断し、異常を検出した場合には、判定結果として異常発生通知をPLC3に送る。PLC3は、係る異常発生通知を受信すると、駆動装置2に対して瞬時停止命令を出力し、駆動装置2のサーボモータの回転を瞬時に停止する。サーボモータであるため、瞬時停止命令を受けると、比較的瞬時に停止することができる。これにより、耐久試験中のエンジン1の回転も停止する。
【0034】
後述するように、異常の検出は、例えば1秒程度の波形データに基づいて行なうことができるため、異常発生とほぼ同時に異常を検出することができる。ここで検出する異常は、エンジン1の部品の一次破損の発生はもちろんのこと、このまま駆動し続けると一次破損のおそれが高いといった状態も異常に含む。そして、このように1秒間の波形データに従って迅速かつ精度良く判定をすることができるので、その検出結果をPLC3に伝達することで、駆動装置2の回転駆動を停止し、エンジン1の回転も停止する。これにより、1次損傷(或いはそのおそれ)の異常検知から実際に回転駆動するエンジン1を停止するまでを短期間(1秒強)で行なうことができる。
【0035】
図2は、本実施形態で行なう耐久試験の全体の流れを説明する図である。まず、ワークにセンサを付ける(S1)。ここでいうワークは、耐久試験対象であるエンジン1である。つまり、図1に示すように、耐久試験をしようとするエンジン1をモータリングベンダ等の駆動装置2に取り付けた後、そのエンジン1の所定位置に各センサ4,5を取り付ける。取付方法は、各センサに応じて適宜設定され、接触させた状態で取り付けるものもあれば、所定距離はなした状態で設置するのもある。これらのセンサの設置・取付方法は、従来の異音検査で行なわれているものと同様である。
【0036】
センサの設置が完了したならば、耐久試験を開始する(S2)。このとき、ある回転数で一定時間定速回転させたり、加速させたり、減速させたり、加速・減速・定速などを所定のパターンで繰り返し動作させるなど、各種の動作プロファイルを繰り返し行なう。そし、各動作プルファイルの実行中に、各種センサ(マイクロフォン4,振動センサ5や、駆動装置2に実装されているモニタリングセンサ等)から取得したセンシングデータ(波形データ)をA/D変換器6にてデジタルデータに変換後、検査装置10に取り込む。この取り込まれた波形データは、データベース7に格納されたり、検査装置10内の一次記憶手段等に格納されたりする。基本的に、耐久試験にかけるエンジン1は良品であるため、耐久試験開始直後に得られるセンシングデータである波形データは、良品に基づく正常な波形データと言える。
【0037】
耐久試験開始後、一定時間経過したならば、耐久試験を一旦停止させる(S3)。そして、それまでに取得したセンシングデータを、正常状態のデータとして検査装置10内に実装された判定アルゴリズム作成手段(判定モデル作成支援装置)へ渡す(S4)。そして、判定アルゴリズム作成手段は、与えられた正常の波形データを数値化し正常領域を規定する基準空間,判定モデルを作成し、判定アルゴリズムに登録する(S5)。この判定アルゴリズムは、検査装置10内にインストールされたアブケーションプログラムの1つであり、耐久試験時に状態判定(異常が発生していないかの判定)を行なう異常検出手段(機能)を実現するものである。実際には、ここでの登録は、例えばデータベース7に登録する。なお、ならし運転が必要なワーク(エンジン)は、当該ならし運転終了後から初期正常状態として数回センシングデータを取得し、それに基づいて判定アルゴリズム(判定モデル)を作成する。
【0038】
良品の波形データは、厳密に言うとエンジン1ごとによって異なるばかりか、駆動装置2とエンジン1の組み合わせや、エンジン1を駆動装置2に取り付けたときの連結状態や、周囲環境によって異なる。そこで、各エンジン1に対して耐久試験を行なう都度、実際の長時間にわたる連続運転を行なう前に、その都度一定時間動作させ、そのエンジン1について行なう耐久試験の環境をも考慮した正常な波形データを取得し、基準空間・判定モデルを作成するようにした。
【0039】
上述したS4,S5の監視用アルゴリズムの生成プロセスが完了したならば、判定モデルから求められる異常と判定する閾値(基準空間から一定距離離れたエリアを特定・検出するための値)をセットする(S6)。この閾値は、検査装置10内の判定アルゴリズム(当該アルゴリズムを実行する機能)に登録する。
【0040】
そして、実際の耐久試験の運用に移行する。つまり、耐久試験を再開し(S7)、要求される動作プロファイルに従って、長時間にわたってエンジン1を回転させ続ける。そして、その耐久試験実行中に各センサから得られるセンシングデータ(波形データ)を検査装置10内の判定アルゴリズムに与え、リアルタイムに状態判定を行ない(S8)、閾値を超えることがあれば瞬時停止命令を耐久試験機(駆動装置2)に出力する(S9)。
【0041】
すなわち、検査装置10は、後述するごとく、単位時間毎の波形データに基づいて異常の有無の判断ができるため、閾値を超えて異常を検出したならば、PLC3に対し、判定結果として異常検出通知をする(判定結果のビットを「0」から「1」にするなど)。この異常検出通知を受信したPLC3は、駆動装置2に対して瞬時停止命令を出力する。これにより、駆動装置2内のサーボモータは、緊急停止するため、エンジン1の回転も瞬時に停止する。よって、異常検知もリアルタイムで瞬時(例えば、異常発生から1秒程度)に行なえ、それに伴う耐久試験の停止処理も遅滞することなく行なえるので、2次破損に至る前にエンジンを停止することができる。よって、1次破損している場合には、その破損している部品を容易に特定できるし、1次破損前に停止したような場合でも、弱っている(破損を生じそうな)部品の特定は比較的容易に行なえる。その結果、耐久試験並びにそれに基づく解析に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0042】
図3は、本実施形態の判定アルゴリズム生成ならびにそれに基づく判定処理の概略イメージを示している。図3(a)は、従来のインライン検査機に用いる(異音)検査装置に概略イメージ図である。インライン検査機の場合、ある程度の長さ(図では、6秒)の時間全てにおける正常状態の音色を判断基準に判定モデルを作成し、その判定モデルにしたがって良否判定(異常判定)を行なう。
【0043】
この従来のインライン検査機の判定アルゴリズムをそのまま適用すると、例えば、6秒分の波形から判定モデルを作ることになるので、この6秒のどこかに異常がある場合、異常があることは判定できるが、異常が発生したタイミングで検査機を止めることはできない。これは、今までのインライン検査機の場合、試験対象が正常か異常かの判断のみで良いので、一連の波形データの中のどの部分で異常が発生し、不良と判断したかまでは特定する必要がない(異常発生タイミングで止める必要がない)ためである。
【0044】
そこで、本実施形態では、ある程度の長さ正常状態の波形データを取得した場合、その全体の波形データから判定モデルを作るのではなく、図3(b)に示すように、任意の時間(図示の例では1秒)に分割し、その時々の正常状態の音色を判断基準に判定モデルを生成し、その判定モデルに基づく判定アルゴリズムを実行する。これにより、図3(b)の場合、1秒ごとに異常がないかを検出でき、図3(a)の場合のように6秒間待つことなく異常を検知し、そこで停止することができる。尚、実際には、判定処理のため、停止命令を発生まで若干の遅れは生じる。
【0045】
尚、図3(b)では、6秒間の波形データを1秒ごとに分割し、各エリア毎に「判定モデル1」,「判定モデル2」,「判定モデル3」,「判定モデル4」,「判定モデル5」,「判定モデル6」と別々に分けて判定モデルを作成したが、例えば、耐久試験の内容が、ある回転数で長時間定速回転させた場合の状態変化を調べるようなものの場合、その他の外部条件が変化しないとすると、実際には、各判定モデル1から6に基づき、1秒間用の判定モデルを作成することで、より高精度な判定モデルを作成することができる。また、加速や、減速など所定のパターンで繰り返し速度を変化させる(途中に、定速状態が入ることもある)ような耐久試験の場合には、各速度などの異なる外部条件に応じてモデルを作成し、それに基づいて判断することになる。要は、一括して取得した波形データの全体に対して判定モデルを作成するのではなく、より短い時間に分割して判定モデルを作成するようにした。なお、監視する単位は固定ではなく、0.5秒でも良いし、1秒以上でも良い。これは、異常発生(検知)から停止までに要求される仕様(許容時間)に応じて設定する。
【0046】
次に、上記した各種の実施形態を実施するための検査装置10の具体的な内部構造を説明する。図4は、判定アルゴリズムを作成するための機能ブロックを示している。検査装置10は、エンジン1や駆動装置2に配置した各種の計測装置(マイクロフォン4,振動センサ5等)から波形データを取得する。本実施形態では、波形データは1つのエンジンに対する耐久試験において、複数種・複数箇所から取得するため、検査装置10は複数個の波形データを扱う。
【0047】
図2のS2,S3を実行して取得した波形データは、波形データ分割手段11と、ダミーNG生成手段12と、記録波形表示手段13とに与えられる。波形データ分割手段11は、取得した波形データを複数の領域に分割するものである。この波形データ分割手段11で分割された分割波形データ毎に特徴量が求められ、最終的な判定モデルが作成される。
【0048】
すなわち、波形データ分割手段11は、図5に示すように、取得した連続波形データを単位時間(N秒)で分割する。このN秒は、少なくとも瞬時停止時間、つまり、使用者から要求される異常発生から緊急停止するための時間(異常検出として許容される時間)を用いる。本実施形態では、1秒以内に異常検知をしたいという要求に伴い、N=1として波形データを1秒単位で分割している。図5は、定速回転定トルクで継続試験を行っているうちの0秒〜6秒を切り出して表示したものである。
【0049】
後述するにように、このN=1で分割した分割波形データに基づいて作成された判定モデルを用いることにより、1秒以内に異常検知をすることができ、異常発生に伴う瞬時停止時間は約1秒となる。そして、分割の仕方であるが、図5中実線の両方向矢印で示すように、まず、(1)先頭からN秒(1秒)単位で連続して順次分割する。つまり、1秒ごとに規則正しく分割する。これにより、図示の例では6個分の分割波形データが抽出される。後述するように、この分割波形データ毎に特徴量抽出を行なう。よって、6秒間に存在する波形データの全てが、いずれかの分割波形データ中に存在するため、特徴量を生成する際にどこかに影響を与えることができる。さらに、本実施の形態では、(2)の処理として、図5中破線の両方向矢印で示すように、分割開始位置をランダムして、所定数の波形データを抽出する。この(2)の処理により抽出された分割波形データ同士は、その一部分が重なるともあれば、6秒間の波形データのうち、分割開始位置をランダムにして抽出されたいずれの分割波形データにも属さない波形部分も存在する。このように、いずれの分割波形データにも属さない波形部分が存在したとしても、(1)の処理に基づく分割波形データのいずれかには属するため、特徴量抽出には反映されるため問題はない。
【0050】
一例を挙げると、「0.7秒目〜1.7秒目」の領域,「0.75秒目〜1.75秒目」の領域、「0.9秒目〜1.9秒目」の領域,「0.5秒目〜1.5秒目」の領域…というように各領域毎に分割波形データが抽出される。ただし、いずれの場合も抽出される分割波形データの長さは同じ(1秒)である。
【0051】
また、Nは任意の値をとることができ、例えばN=2とすると、図6に示すようになる。この場合も、先頭から2秒単位で連続して順次分割して3つの波形データ(図中実線の両方向矢印)がとれるとともに、図6中破線の両方向矢印で示すように、分割開始位置をランダムして、所定数の波形データを抽出する。Nの最大値は、取得した波形データの最長時間(図5の場合6秒)である。
【0052】
このように、仮に使用者から要求される異常発生から緊急停止するための時間が1秒としても、異常の原因によっては、1秒間の分割波形データでは検出できず、それ以上の長さ(例えば2秒間)の分割波形データに基づく特徴量により初めて検出できるようなものもある。係る場合、異常発生に伴い停止するまでに約2秒かかってしまい、ユーザの要求する1秒よりも長くなるが、それでも従来の6秒よりは早期に停止でき、異常箇所の特定も容易になる。なお、便宜上1秒と2秒を例にとって説明したが、実際には、Nの値もランダムに設定する。また、Nは整数としても良いし、整数に限らなくても良い。
【0053】
すなわち、1秒後に止めたいのであれば、基本的には1秒ごとに切り取った波形から生成した判定モデルがメインの判定になる。しかし、1秒以上のスパンのトレンドがある情報を判定に生かすには、この時間分の波形データから作成した判定モデルを使うのが良い。もちろん、N秒は何秒でもよく、複数個のデータベース、判定モデルを用意しても良い。
【0054】
このように、Nを1より長い値に設定して作成した判定ルール(判定モデル)は、1秒以内の瞬停には寄与しないが、長い時間トレンドの情報を判定に組み込めるメリットがあるため、演算能力に余裕があれば、種々の時間毎の波形データから作成した判定モデルも組み込むとよいのである。
【0055】
ダミーNG生成手段12は、S2,S3の実行により得られた正常の波形データを変形させるものである。そして、このダミーNG生成手段12で作成されたダミーNGデータは、波形データ分割手段11に与えられる。本実施形態の場合、正常品についてのサンプルデータを得ることができるものの、不良品(異常)についてのサンプルデータ(NGデータ)は得られない。これは、耐久試験の場合、その前提として初期に得られたデータが正常データであり、長期に連続して運転することで異常が発生することを検出することが目的であるので、当初から異常のサンプルデータが得られないためである。
【0056】
そこで、ダミーNG生成手段12により、正常品のサンプルデータ(波形データ)を取り込んで、その正常波形データに基づいて擬似的にNGデータを作成するようにした。このように作成したダミーNGデータは、作成した判定アルゴリズムの評価に利用することができる。つまり、ダミーNG生成手段12が後段の各手段にダミーNGデータを与え、それに基づいて判定した結果、正しく異常と判断できるか否かにより、作成された認識アルゴリズムの精度を推定できる。つまり、初期状態から変化したことを、判定モデルが正しく検出することができるかを検証するためのデータとして使用することができる。
【0057】
図7は、ダミーNG生成手段12の一例を示している。このダミーNG生成手段12は、入力側に波形変形パラメータ設定手段12aを備え、入力された波形データに対し変形のためのパラメータを設定する。
【0058】
この波形変形パラメータ設定手段12aが設定するパラメータ例としては、(1)波形ライブラリの異常モード波形合成(偏芯異常波形の合成、衝撃波形の合成),(2)駆動条件固有周波数のn次増幅(回転周波数、噛合い周波数の1〜4次の振幅を1.5倍化),(3)特定orランダム周波数増幅(周波数500〜1000Hzの振幅を1.2倍化)(4)FM変調、AM変調,(5)位相ズラシ(元の波形の位相を微妙にずらし、元の波形と合成する)等がある。
【0059】
ここで(1)の波形合成は、正常波形では生じない異常波形を合成することにより、その合成した異常波形部分の影響から合成後の波形データは重ね合わされた部分で正常データと異なる波形データが出現し、異常データとなる。また、(2)は、例えばギヤなどを想定した場合、噛合い周波数により異常時に発生する音や振動は特定の周波数に出現する。この噛合い周波数は、歯数と回転周波数により算出できる。そこで、各周波数のn次の振幅を大きくすることにより(正常品のパワーを上げることにより)、正常データと異なる異常データとなる。詳細な説明は省略するが他の場合も、正常では得られない波形データを生成することができる。
【0060】
設定したパラメータは、波形データとともに次段の変形仕様設定手段12bに与えられる。この変形仕様設定手段12bは、波形変形パラメータを実験計画直行表にもとづき変形する仕様を設定するもので、例えば波形合成については「on/offの2水準」,「特定周波数については周波数を3水準」,増幅については「1.2倍,1.5倍,2倍の3水準」がある。このように、波形変形する際の各パラメータの値等を設定する。
【0061】
そして、波形データ選択手段12cは、直行表の実験数だけ波形データをランダムに選ぶ。そして、その選ばれた波形データに対し、波形変形手段12dは、直行表に基づいた変形仕様設定手段で選んだ変形量に従い波形データを変更する。これにより、最終的にダミーNG波形が生成され、波形データとして正常な波形データに追加する。つまり、この波形データに基づいても、良否判定を行なうことができ、不良品と判定できれば、検査装置10の検査アルゴリズムの信頼性が向上する。
【0062】
記録波形表示手段13は、各計測装置から取り込んだ波形データまたは記録手段に記憶しておいた記録波形データを表示するものである。検査装置10は、汎用のパソコンなどにより構成することができるので、記録波形表示手段13は、係るパソコンが備えたディスプレイ・モニタにより実現できる。また、耐久試験の場合、連続した波形データが取り込まれ、リアルタイムで異常判定が行われるため、通常の作業においてはこの記録波形表示手段13は、リアルタイムで入力される波形データをスルー状態で表示することになる。また、このように連続して取り込まれる波形データは、データベース7やその他の記憶手段に格納されるため、異常発生に伴う停止後に解析を行なう場合などにおいて、その解析の際に記憶された波形データを読み出して表示することもある。つまり、記録波形表示手段13における「記録波形」とは、「記録する波形」と「記録した波形」の両方の意味を持つ。
【0063】
波形データ分割手段で分割された分割波形データは、次段の波形データ数値化手段14に与えられる。波形データ数値化手段14は、後述するように与えられた分割波形データを数値化して特徴量化するものである。
【0064】
また、波形データ数値化手段14には、数値化手段調整手段9ならびに波形データの履歴記録手段(データベース)7が接続される。数値化手段調整手段9は、波形データ数値化手段14が特徴量抽出するに際し、その特徴量のパラメータ調整を行なうもので、係るパラメータ調整のための指示を波形データ数値化手段14に与える機能を有する。また、帯域分割設定,フレーム分割設定,フレームバリエーション数設定等も行なう。
【0065】
波形データの履歴記録手段7は、上記したエンジン1を、駆動装置2を用いて強制的に回転駆動した際に生じる音などの波形データを記録するものである。正常/異常の判断結果を関連づけて格納しても良い。また、係る判断結果に対し、その記録した波形データを再生し、人が判断し、判断結果を修正することもある。
【0066】
波形データ数値化手段14は、与えられた分割波形データから所定の特徴量を抽出するものである。抽出する特徴量は、振動レベルの平均値や、大きさを示すRMS(Route mean Square Value)のほか、各種のものを用いることができる。係る特徴量は、各条件、例えば、分割波形データを作成する際の単位時間(N)毎に生成する。さらに図示は省略するが、周囲温度や、回転数や、加速・減速の状態など、動作プロファイル毎に作成する。波形データ数値化手段14は、波形データ数値化結果、つまり求めた各特徴量を数値化結果表示手段13″に対して出力表示することができる。
【0067】
ここでは、定速回転している場合、まず、Nが同一の分割波形データ単位で特徴量を求める。例えば、N=1とすると、(1)と(2)の方法でそれぞれ1秒ごとに抽出した分割波形データについて、それぞれ特徴量を求める。判定結果(正常)と波形データ数値化手段14で求めた特徴量とを関連付けて特徴量・履歴データベース15に格納する。このとき、特徴量と履歴はレコードNo.により関連づけられて格納される。
【0068】
この特徴量・履歴データベース15のデータ構造の一例を示すと、図8のようになる。履歴の欄(正常/異常(異常種類付き))は、波形データの履歴記録手段7から与えられたデータ(履歴種類)が格納され、それ以降の特徴量の欄に波形データ数値化手段14から与えられた各特徴量が格納される。モデル(判定アルゴリズム)の作成時においては、履歴の欄は、全て「正常」となる。
【0069】
図8において、Fx1,Fx2,Fx3,…が、それぞれ各レコードNo.で特定される分割波形データについての特徴量である。例えば、レコードNo1が、最初の分割波形データについての特徴量であり、レコードNo2が、次の分割波形データについての特徴量であり、……、レコードNo6が、最後の分割波形データについての特徴量である。また、具体的な図示は省略しているが、この後に(2)の開始位置をランダムに設定した各分割波形データについての特徴量が記録される。
【0070】
上述した特徴量の抽出処理は、時間軸で分割した分割波形データ(時間軸系波形形状)に基づいて作成したが、本実施形態では、さらにFFTやオーダ変換などの周波数分解により求めた周波数軸系の特徴量も抽出するようにした。このFFT処理等をする対象波形データも、分割波形データである。そして、本実施形態では、図9に示すように、各分割波形データに対し、所定のフレームサイズでフレーム分割を行なう。図9の例ではm個に分割される。フレーム分割を行なう関係上、フレームサイズは、N秒以下(この例では1秒以下)とし、ランダムに決定する。ただし、デジタル処理の関係で2のべき乗の数値になるようにする。
【0071】
そして、各フレーム毎にFFTを実行し、各周波数帯域(F1からFn)の周波数成分を求める。これにより、図10に示すように、各周波数帯域(F1からFn)と各フレーム(T1からTm)のマトリクスで周波数成分が特定される。そこで、各周波数帯域ごとに時間方向にパワーの平均値と標準偏差を計算する。ついて、求めた平均値と標準偏差を、横一列に並べなおして特徴量(1)とする(図11参照)。
【0072】
その後、フレームサイズをランダムに決めなおし、上記と同様の処理を行ない、特徴量(2)を得る。以下、指定回数のn回行ない、全ての特徴量(1)〜(n)を横一列に並べて、最終的な特徴量とする(図11参照)。なお、図11では、図示の便宜上2段に分けて描画しているが、実際には、1列に並べたイメージ(連続するデータ群)で格納する。この例では、(1)〜(n)を横一列に並べて特徴量としたが、これらを対数変換したものを最終的な特徴量としてもよい。
【0073】
図12に示すグラフは、試験ワークの駆動中の音色を周波数パターンとして表現したものである(任意の周波数帯域を40分割した例を示している)。人の聴感は、計測機器とは異なり、特定の周波数単独で感知しているのではなく、可聴領域の全周波数帯域をある種のパターンとして認識していると考えられる。そのため、どの周波数帯域のパワーが変化しても、「音が変わった」と認識できる。従来のインライン検査における検査装置のように、特定の破損を検出するのであれば、特定の周波数だけで判別ができる可能性があるため、通常、前処理として係る特定の周波数を抽出するフィルタリング処理を実行する。しかし、本実施形態の適用対象である耐久試験の場合、1次破損はどの部品で起こるか分からず、そのためその1時破損に伴い発生する音変化が、どの周波数帯域に生じるか分からない。そこで、本実施形態では、全周波数帯域を検査対象範囲として特徴量を求め、判定モデルを作成することにより、人の聴感のように全周波数帯域をパターンとして認識する手法とした。
【0074】
つまり、本実施形態では、上記の考え方に基づき、特定の周波数だけを見るのではなく、周波数帯域全体(F1からFn)を見て、周波数のパターンを任意の方法で数値で表し、人の聴感を模倣するようにした。なお、音の変化をもとにこの原理を説明しているが、音を波形として一般化してもこの原理が適応できるのはもちろんである。例えば、振動を振動センサ(加速度センサ)でセンシングを行ない、その波形をスピーカーで再生すれば、マイクでセンシングした時と同様な状態変化を人は聴感として感知できる。加速度センサを、温度センサやひずみゲージに変更しても同様のことがいえる。
【0075】
図13は、波形データ数値化手段14の内部構造の一例を示している。図13に示すように、波形データ数値化手段14は、波形データ分割手段11から取得した複数の分割波形データを、格納する時間軸系波形形状テンプレート郡記憶部14aと、各分割波形データに対してそれぞれフレーム分割処理をするフレーム分割部14fを備えている。フレーム分割部14fは、図9を用いて説明したように、まず、分割するフレームサイズをランダムに決定し、決定したフレームサイズに従って各分割波形データをフレーム分割する機能を備えている。そして、係るフレーム分割処理を、フレームサイズを変更しながら所定回数実行する。フレーム分割部14fにて生成された波形データが、周波数分解処理部14bに与えられる。周波数分解処理部14bは、与えられたフレーム単位の波形データに対し、FFTやオーダ変換などの周波数分解を行なう。つまり、図10を用いて説明した処理を実行する。そして、求めた各特徴量データが、周波数軸系波形形状のテンプレート郡記憶部14cに格納される。各テンプレート群記憶部14a,14cに登録されるデータは、1つの分割波形データから複数種の特徴量データが抽出されたものである。各種の特徴量データは、それぞれ特定関数により求められる。
【0076】
ところで、波形データ数値化手段14が特定関数により求める項目は、平均値,最大値等予め決まっている(必要に応じて追加されることはある)が、それらの特徴量を求めるための特定関数(演算式)は、調整可能なパラメータ(係数及び定数)を含み、そのパラメータを適切に設定することにより、良否判定(異常検出)の精度が上がる。換言すると、調整が適切でないと、良否判定(異常検出)の精度が低下する。そして、従来は係るパラメータの設定は、熟練した検査担当者がトライ&エラーにより調整し、最終的に決定している。もちろん本発明でも、従来と同様に調整をマニュアル操作によってパラメータを設定しても良いが、本実施形態では、検査装置10が自動的にパラメータを最適化し、最適な値に設定された特定関数を用いて波形データを数値化(特徴量抽出)をするようにしている。
【0077】
具体的には、波形データ数値化手段14は、波形データを数値化する際に使用する特定関数を調整し、最適化する特定関数最適化部14dを備えている。この特定関数最適化部14dは、数値化手段調整手段9からの指示により、特定関数の各種パラメータを変更する。具体的には、図14に示すフローチャートを実施する機能を有する。
【0078】
すなわち、特定関数最適化部14dは、まず、特定関数の係数および定数の組み合わせ効果を調べ、調査条件を実験計画直行表に基づき設定する(S11)。つまり、数値化手段調整手段9からの指示に従い、係数および定数の組み合わせを複数パターン設定し、調査条件(調査仕様)と関連づけた直行表を作成する。次いで、特定関数最適化部14dは、正常と異常を信号因子としてデータ数を誤差因子として各調査仕様(実験NO.)ごとの動特性(sn比)を算出する(S12)。つまり、与えられた複数個の波形データに対し、各調査仕様で規定されるパラメータ(係数および定数)で設定された特定関数を用いて数値化し(特徴量を求め)、OK(正常・良品)を示す特徴量(数値)のグループとNG(異常・不良)を示す特徴量(数値)のグループの距離がどれだけ離れているか等を求める。
【0079】
そして、特定関数最適化部14dは、特定関数の係数および定数の工程平均を算出し(S13)、特定関数の計数および定数ごとにsn比が高い値を選択する(S14)。この選択した値により、特定関数のパラメータ(係数および定数)が決定され、その係数および定数を用いた特定関数が最適なものと設定される(S15)。上記した特定関数のパラメータの評価・設定は、特定関数ごと、つまり、特徴量ごとに行なう。
【0080】
また、特定関数最適化部14dは、最適化された特定関数を数値化処理部14eに与える。そして、数値化処理部14eは、設定された最適な各特定関数を使い、波形データを数値化し、得られた特徴量を出力する。特徴量・履歴記憶手段7は、この出力された特徴量を格納する。
【0081】
なお、特徴量・履歴データベース15に格納されたデータは、登録内容表示手段13′に表示したり、編集削除手段16を操作して変更したりすることができる。ここでいう登録内容表示手段13′と上記した記録波形表示手段13とは、物理的には同じモニタにより実現できる。また、特徴量・履歴データベース15に格納されたデータは、分割した時間(N秒)ごとに時間分割データベース18に格納される。そして、この時間分割データベース18に記憶されたデータは、登録内容表示手段13′に出力され、表示される。また、編集削除手段16は、時間分割データベース18に格納されたデータを削除・変更することができる。
【0082】
この時間分割データベース18に記録された各データは、分割時間別に次段の判定モデル生成手段(時間毎の)19に与えられる。この判定モデル生成手段19は、各時間毎の特徴量に基づき、検査対象の波形データ(特徴量)が各履歴種類に合致するか否かを判定するための判定式を生成する。つまり、判定モデル生成手段19は、履歴種類が正常である正常データに基づいて、正常判定をするための判定式を作成する。
【0083】
なお、状態判定式は、マハラノビス距離方式,ユークリッド距離方式,正常-異常対比方式,ニューラルネットワーク方式,メンバシップ関数を用いたファジィ方式など各種の方式が取れる。そして、後述するごとく、自動的に作成することもできるし、従来と同様に人が作成することもできる。
【0084】
定速運転での試験の場合は、判定モデルは1種類作成される。しかし、判定モデルは、数秒分のデータから作成している。つまり、1秒ごとに分割した複数の波形データの特徴量から、判定モデルを生成する。ここで生成する判定モデルは、各特徴量の平均と標準偏差から、正常範囲(例えば平均から±3σ以内)を特定し、その正常範囲からの乖離度により正常/異常の判断をする判定ルール(判定モデル)を作成する。また、判定モデルとしては、各特徴量毎に正常範囲を求めておき、1秒ごとに取得した波形データから各特徴量を求め、各特徴量がそれぞれ上記の正常な範囲内(一定の乖離度内)か否かを判断し、異常となる特徴量が1つでも(或いは予め決めた所定数)あれば異常発生と判断するようにしても良いし、予め各特徴量を1つの多次元ベクトルとし、その多次元ベクトルと、検査対象の波形データから求めた多次元ベクトルとの差に基づいて異常の有無を判断することもできる。
【0085】
そして、本発明の場合、当初、判定実行手段21は、正常知識のみに基づいて判定するため、特徴量・履歴データベース15には、履歴が「正常」のもののみが格納されることになり、時間分割データベース18においても、図8に示す履歴種類が「正常」のデータのみが作成されて、格納されることになる。そのため、判定モデル生成手段19においても、正常判定するための判定式が生成され、判定実行手段21にセットされることになる。
【0086】
ここで判定モデルの生成は、
正常=f(特徴量値1、特徴量値2、・・・・特徴量値n)
というように、特徴量値は列ベクトルとなっている。そこで、正常(ラベル)は1と正規化して扱うようにした(もちろん、1以外としても良い)。これにより、各特徴量値が耐久試験開始直後の初期状態と異なる値を出しだすと、f(特徴量値1、特徴量値2、・・・・特徴量値n)が1に近い値を出さなくなる。つまりf(特徴量値1、特徴量値2、・・・・特徴量値n)をみれば、正常に近いか近くないかが判断可能になる。
【0087】
そして、このように
正常=f(特徴量値1、特徴量値2、・・・・特徴量値n)
の表現を使って正常品と差異を計算するアルゴリズムとしては、例えば、ユークリッド距離,マハラノビス距離,ニューラルネットワークモデル等各種の方法をとることができる。
【0088】
また、時間分割データベース18に記録された各データは、瞬時停止閾値設定手段20にも与えられる。そして、この瞬時停止閾値設定手段20は、エンジン1から得られた波形データに基づき求められた特徴量を、判定式を用いて演算処理して得られた結果がその履歴種別に合致するものか否かを弁別するための閾値を決定するものである。そして、決定した閾値は、判定実行手段21に与えられる。
【0089】
これにより、判定アルゴリズム(判定モデル)が生成され、判定実行手段21は、設定された判定式ならびに閾値を用いて、与えられた検査対象の波形データ(特徴量)に基づき良否判定(異常判定)を行なう。そして、その判定結果は、表示手段23や出力手段24を介して出力されるとともに、結果記憶手段25に格納される。結果記憶手段25には、状態判定結果のみならず、人が行なった判定(履歴)や、波形データや特徴量などを関連づけて格納すると良い。また、表示手段23は、物理的には、記録波形表手段13などと同じである。
【0090】
判定モデル生成手段19は、各種の方式がとれることは先に述べたが、一例としては、図15に示す内部構造を取ることができる。この図示したものは、ユークリッド距離方式を実現するものの一例である。まず、時間分割データベース18の正常データベース18aと異常データベース18b(ダミーNG生成手段12で作成)とに格納された履歴種類毎の特徴量データを、それぞれ対応するユークリッド距離の計算・蓄積手段19a,19bに与える。正常データのユークリッド距離の計算・蓄積手段19aは、取得した正常データ(特徴量)に基づき、その特徴量の2乗の総和の平方根を算出することにより、ユークリッド距離を求め、それを蓄積する。また、異常データのユークリッド距離の計算・蓄積手段19bは、処理対象のデータが異常データであることを除き、正常データのユークリッド距離と同様にして求め、それを蓄積する。また、異常データが異常種類毎に分けられている場合には、係る異常種類毎にユークリッド距離を求め、蓄積する。
【0091】
上述のようにして算出されて蓄積された各データのユークリッド距離は、それぞれ対応する統計量計算手段19c,19dに与えられる。正常データユークリッド距離の統計量を算出する正常統計量計算手段19cは、与えられた複数個の正常データのユークリッド距離の最大値,平均値,標準偏差等の統計量を算出する。同様に、異常データユークリッド距離の統計量を算出する異常統計量計算手段19dは、与えられた複数個の異常データのユークリッド距離の最大値,平均値,標準偏差等の統計量を算出する。この場合も、異常種類毎に求める。
【0092】
そして、各統計量計算手段19c,19dで求められた統計量は、次段の判定式決定部19eに与えられる。判定式決定部19eは、正常統計量計算手段19cで求めた正常統計量の最大値(正常最大値)と異常統計量計算手段19dで求められた異常統計量の最小値(異常最小値)とを比較し、
正常最大値<異常最小値
であるか否かを判断する。そして、上記条件式を満足する場合には、そのとき設定された特徴量のユークリッド距離を求める式が正しいと判断し、判定実行手段21にセットする。これにより、判定実行手段21は、与えられた特徴量の2乗の総和の平方根を求めることによりユークリッド距離を算出する。
【0093】
また、上記条件式を満足しない場合には、特徴量を算出する特定関数の設定が不適当となるので、判定式決定部19eは、数値化手段調整手段9に対し、そのパラメータ(特定関数の係数および定数)の変更要求をする。これを受けた数値化手段調整手段9は、前回セットした特定関数の係数および定数を、前回セットした値以外の値をセットする。これにより、特定関数が変更されるため、変更された特定関数に基づいて数値化された特徴量が変化し、統計値も変更される。この処理を繰り返し実行することにより、判定式決定部19eにて条件を満足するものが生成されることになる。
【0094】
判定モデル生成手段19が、上述したようにユークリッド距離方式により求めるものの場合、判定モデル生成手段19は、判定実行手段21に対して正常データユークリッド距離の計算を行なう(特徴量の2乗の総和の平方根)機能を指定する。
【0095】
図16は、判定モデル生成手段19の別の構成を示している。この例では、正常-異常対比方式を実現したものである。すなわち、時間分割データベース18の正常データベース18aと異常データベース18bとに格納された履歴種類毎の特徴量データを、特徴量算出手段19fに与える。この特徴量算出手段19fは、任意の特定関数を選択し、その選択した特定関数を用いて上記データベースに格納されたデータの特徴量を算出するものである。そして、正常データの特徴量は、正常データの特徴量データ記憶手段19gに格納し、異常データの特徴量は、異常データの特徴量データ記憶手段19hに格納する。
【0096】
上記のようにして算出されて蓄積された各データの特徴量は、それぞれ対応する統計量計算手段19i,19jに与えられる。正常データの特徴量の統計量を算出する正常統計量計算手段19iは、与えられた複数個の正常データの特徴量の最大値,平均値,標準偏差等の統計量を算出する。同様に、異常データの特徴量の統計量を算出する異常統計量計算手段19jは、与えられた複数個の異常データの特徴量の最大値,平均値,標準偏差等の統計量を算出する。この場合も、異常種類毎に求める。
【0097】
そして、各統計量計算手段19i,19jで求められた統計量は、次段の判定式決定部19kに与えられる。判定式決定部19kは、正常統計量計算手段19iで求められた正常統計量の最大値(正常最大値)と異常統計量計算手段19jで求められた異常統計量の最小値(異常最小値)とを比較し、
正常最大値<異常最小値
であるか否かを判断する。そして、上記条件式を満足する場合には、特徴量算出手段19fで選抜した特定関数が正しいと判断し、状態判定手段21に定義する。これにより、判定実行手段21は、与えられた特徴量の2乗の総和の平方根を求めることによりユークリッド距離を算出する。そして、そのユークリッド距離が閾値以上か否かにより状態判定を行なう。
【0098】
また、上記条件式を満足しない場合には、選抜された特定関数が不適当と判断できるので、特徴量算出手段19fに対し、使用する特定関数の変更要求をする。これを受けた特徴量算出手段19fは、前回と違う特定関数を選択し、再度特徴量を算出する。これにより、特定関数が変更されるため、変更された特定関数に基づいて数値化された特徴量が変化し、統計値も変更される。この処理を繰り返し実行することにより、判定式決定部19kにて条件を具備するものが選択されることになる。
【0099】
なお、判定式決定部19kにおける条件は、上記したものに限ることはなく、例えば、最大値を正常の平均+3σにし、最小値を異常の平均−3σにしても良く、各種の変更実施が可能である。
【0100】
判定モデル生成手段19が、上述したように正常-異常対比方式により求めるものの場合、判定モデル生成手段19は、判定実行手段21に対して選抜した特定関数を定義する。
【0101】
図17は、判定モデル生成手段19のさらに別の構成を示している。この例では、ニューラルネットワーク方式を実現したものである。すなわち、時間分割データベース18の正常データベース18aと異常データベース18bとに格納された履歴種類毎の特徴量データを、スクリーニング手段19mに与える。このスクリーニング手段19mは、それぞれのデータベースの外れ値を算出し、そのデータを削除する。外れ値は、例えば、(1)平均±3σから外れるもの,(2)最大値から3つ目までのデータと最小値から3つめまでのデータ、計6点のデータを使わずに平均,標準偏差を計算して、平均±3σから外れるもの等とすることができる。
【0102】
スクリーニング手段19mでスクリーニングされたデータをデータベース統合手段19nに与え、データ統合をする。そして、学習手段19pにて、統合したデータベースに格納された特徴量データを入力にし、履歴レベルを出力にしたニューラルネットワークモデルを学習(クラスタリングモデルの構築)させる。学習処理は、ニューラルネットワークにおいて用いられる各種の手法を用いることができる。そして、学習が終了したならば、学習結果のニューラルネットワークモデルを状態判別手段として定義し、判定実行手段21にセットする。
【0103】
図18は、判定モデル生成手段19のさらに別の構成を示している。この例では、正常データのみに基づき複数の特徴量を統合し、マハラノビス距離を用いて判別するモデルを作成するものである。正常データベース18aに格納された正常データの特徴量を統計処理手段19qに与え、そこにおいて全ての特徴量の統計量を算出する。求める統計量は、平均と標準偏差としている。すなわち、特徴量毎の平均値と標準偏差を求め、各特徴量の平均値を1まとめにした平均ベクトルと標準偏差を1まとめにした標準偏差ベクトルとを求める。
【0104】
そして、求めた統計量は正常データベース基準化手段19rに与え、正常データベース基準化手段19rが正常データベース18aに格納されたデータを平均ベクトルと標準偏差ベクトルで基準化する。これは、各特徴量の数値の大きさにばらつきがあるため、正規化・基準化を図るのである。さらに、相関行列を求める手段19sにて各特徴量の相関行列を求め、その求めた相関行列を、逆行列を求める手段19tに渡し、相関行列の逆行列を求める。
【0105】
そして、上記手段で求めた平均ベクトル,標準偏差ベクトル並びに逆行列は、記憶手段19uに格納される。この記憶手段に格納された各データをマハラノビスの距離の計算式生成手段19vに与え、マハラノビスの距離の計算式を求める。
【0106】
すなわち、マハラノビスの距離D^2は、特徴量数kとして各項目の値をX1,X2,……,Xkとして、n個の検査対象ワークのデータを測定した場合、各特徴量ごとの平均m1,m2,……,mkと標準偏差σ1,σ2,……,σkを求める。この時の相関行列の逆行列の成分をaijとすると、マハラノビスの距離は次式で定義される。計算式生成手段31fでは、係る式を生成し判定実行手段21にセットする。
【0107】
【数1】

【0108】
耐久試験開始から初期に得られた正常データは理想的な正常データとパターンが似ているため、評価基準に近い位置にプロットされ、マハラノビスの距離が1近辺の値になる。これに対し、一次は損などを生じたことに伴い発生する異常データは正常データとのパターンの相違に合わせて評価基準から遠く離れたところにプロットされ、マハラノビスの距離が大きな値になる。そこで、マハラノビスの距離が1に近い否かにより、正常か否かの判定を簡単に行なえる。なお、使用する特定関数のマハラノビス距離の信頼性寄与率を評価し、寄与率が低いものを削除する機能を付加しても良い。
【0109】
従来の検査装置では、サンプリングした全時間の波形データから、演算するのに必要な時間分のデータを切り出すとともに、さらにその切り出したデータを一定データ数で分割して得られたひとまとまりのデータを1つのフレームとし、そのフレーム単位で、それぞれ複数種の特徴量を抽出する。そして、全フレームから得られた個々の特徴量について、同一種類の特徴量の毎に、平均その他各種の方法により代表特徴量演算値を求める。よって、代表特徴量演算値は、特徴量の種類に対応した数だけ算出される。そして、良否判定(異常判定)は、それら複数の代表特徴量演算値全て、或いはその中から選択された所定数のものを用いて判定するようにしている。使用する代表特徴量演算値の数はともかく、特徴量(代表特徴量演算値)単位(スカラー量)で比較し、判定するようにしている。
【0110】
これに対し、本実施の形態では、求めた複数種類の特徴量をまとめて、1つの数値(多元的波形評価:ベクトル量)に変換するようにした。当然のことながら、良否判定(異常判定)をする際のモデルも、複数の特徴量を求めて生成されたベクトル量である。従って、良否判定は、係るモデルと検査対象の波形データに基づくベクトル量同士を比較することにより行ない、両ベクトルの距離が一定以内であれば、そのモデルに合致し、距離が離れていればモデルとは異なると判断するようにした。つまり、正常判定のみの場合、基準となるモデルは、複数種類の特徴量をまとめて求めた1つの数値(多元的波形評価:ベクトル量)が少なくとも1つあればよく、それとの距離を求めることにより良否判定(異常判定)が行なえる。すなわち、各特徴量(実際は、複数のフレームに基づいて求めた各代表特徴量演算値)をまとめたベクトル量を算出後は、距離を求める演算処理を1回するだけで良否判定を行なうことができる。そして、両ベクトル量間の距離は、本実施の形態のようにマハラノビスの距離により算出してもよいし、ユークリッドの距離その他各種の方法で算出することができる。
【0111】
この特徴量の統一化は、複数の波形データの特徴量の統一にも利用できる。もちろん、異なるセンサや、計測場所からの波形データについては、上記のように特徴量の統一を図るのではなく、各波形データの測定源(センサ)ごとに得られた波形に基づき、それぞれ判断を行ない、総合的に判断(例えば、いずれか1つでも異常が出たら一時破損等)するようにしてもよい。つまり、複数のセンシングデータ(音、温度、振動など)がある場合の判定アルゴリズム作成は、各々の波形ごとに上述した各方法を使って判断を行ない、最終的に判定アルゴリズムで判定結果を統合することができる。
【0112】
瞬時停止閾値設定手段20は、マニュアル操作によりしきい値を設定するものである。すなわち、図19に示すように、瞬時停止閾値設定手段20は、時間分割データベース18に格納された正常データについての特徴量データを正常分布確認手段20aに与え、時間分割データベース18に格納された異常データ(ダミーNGデータ)についての特徴量データをダミーNG分布確認手段20bに与える。異常種類が設定されている類場合には、その異常種類ごとに与えられる。ここで正常データ,異常データについては、履歴情報に基づいて切り分けても良いし、人の判定結果をもとに正常,異常を分けても良い。
【0113】
各分布確認手段20a,20bは、取得した履歴種別ごとの特徴量の分布状況を求めるもので、例えば、平均値,中央値,標準偏差,四分位点,n×σ(n=1,2,・・・)を算出する。そして、算出した各値を、正常分布-異常種類分布位置関係算出手段20cに与える。この正常分布−異常種類分布位置関係算出手段20cは、正常分布と1つの異常種類分布の位置関係TXを求めるものである。例えば、正常分布と異常種類Aの分布の位置関係TA,正常分布と異常種類Bの分布の位置関係TB,…というように全ての異常種類の分布と正常分布の位置関係を求める。
ここで位置関係TX(X=A,B,C,…)は、特徴量上の数値であり、例えば、
TX=正常(平均+3σ)−異常種類X(平均−3σ)
により求めることができる。また、平均は中央値に変更したり、3σを四分位点に変更したり、nXσ(n=1,2,…)に変更したりすることができる。
【0114】
この正常分布−異常分布位置関係算出手段20cにて求めた各異常種類との位置関係TXを、閾値決定手段20dに与える。閾値決定手段20dは、TXの符号を確認し、以下のルールに従ってΔXを求める。
【0115】
TXが負の場合は、正常分布と異常種類分布の一部がオーバーラップしている状態であるため、TXの中間位置をΔXとする。具体的には下記式により求める。
【0116】
ΔX=1/2{正常(平均+3σ)+異常種類X(平均−3σ)}
TXが0,正の場合には、両分布がオーバーラップしていないので、異常種類Xの分布側にΔXを設定する。具体的には下記式により求める。
【0117】
ΔX=異常種類X(平均−3σ)
そして、全ての異常種類について、それぞれのΔXを求め、その最小を閾値Δ(Δ=min(ΔX))にする。上記式において、平均を中央値に変更したり、3σを四分位点やn×σ(n=1,2,…)に変更したりすることもできる。
【0118】
図20は、瞬時停止閾値設定手段20の別の構成を示している。図19に示した例では、正常分布と異常(ダミーNG)分布を必要としたが、この例では、一方の分布に基づいて設定することができる。具体的には、時間分割データベース18に格納されたデータを収集し、検査装置10にかけたエンジン1の全ての特徴量の値を集計する。具体的には、特徴量値の標準偏差σを求める。
【0119】
また、瞬時停止閾値設定手段20は、各種の登録手段20fを備えている。具体的には、(1)エンジン1の廃棄コストA0,(2)廃棄判定の閾値Δ0(任意の特徴量レベル),(3)エンジン1のリワークコストAを登録する。ここで、廃棄コストとは、異常(不良)と判定されて廃棄処理する際に係るコストである。例えば、製造に係る費用や廃棄する際にかかる費用などがある。リワークコストは、異常(不良)と判定されたエンジン1について、部品交換等を行ない作り直して良品にするために要するコストである。
【0120】
特徴量集計手段20eで収集した特徴量ならびに登録手段20fで入力された登録情報は、次段の損失関数算出手段20gに与えられる。この損失関数算出手段20gは、下記式に基づき損失関数Lを算出する。
【0121】
L=(A0/Δ0^2)×σ^2
そして、このようにして求めた損失関数Lを次段の閾値算出手段20hに与え、そこにおいて下記式に基づき閾値Δを算出する。
【0122】
Δ=(A/A0)^(1/2)×Δ0
【0123】
ここで、評価関数Lについて説明する。特性の変化は品質の変化であるが、これを損害金額で示すことで品質をマネジメント指標として機能させるようにしている。すなわち、着目している工程で品質維持するコストと次工程以降で発生する品質損害金額の和とを最小にバランスさせる閾値で管理するようにした。
【0124】
つまり、品質を機能の安定性に費やす費用で考えた場合、品質は経済損失で定義でき、金額で管理目標(閾値)を決めることができる。たとえば、出荷後に使用者に渡り、そこで機能が安定しないとクレームになり、損害がでる。これが使用者の損害である。一方、機能の安定性を検査して、それを手直ししたり、あるいはそこで廃棄するとそれは着目している工程の経済的損失である。また、工程で損失を出さずに、製造物を出荷すると、使用者の段階で損失が大きくなる。逆に工程で修理をするなどして損失を完全に吸収すると、工程の段階での損失が最大化される。重要なのは、この2つの損失をバランスさせて最小化することである。
【0125】
上記した2つの損失バランスは、図21に示すように表現できる。すなわち、ある特徴量Yについての品質が悪くなるほど経済損失が高くなる。そして、一般的に品質(機能性)が悪化すると損失が急激に立ち上がる。そして、上記した式から閾値Δを求めると、OK側の領域αの面積とNG側の領域βの面積とが等しくなり、2つの損失のバランスがとれ、損失を最小にすることができる。
【0126】
また、この方法によれば、正常データのみ、或いは異常データのみというように一方の履歴種類のみでも閾値を設定することができる。よって、正常判定のみを行なう期間においては、係る方法で閾値を決めると好ましい。
【0127】
なお、上述したように、本実施形態では、判定モデルは図2のS4,S5に示すように、正常状態のデータに基づいて作成するが、より正確な判定ルール・モデルを作成するために、異常状態のデータ(ダミーNGデータ)を用いても良い。
【0128】
図22は、検査稼動時における本検査装置10の内部構成を示している。この検査稼働時においては、基本的には図4に示すアルゴリズム作成機能のうち、判定モデルを作成したり、判定モデルの調整を行なうためにのみ必要な機能が不要となる。具体的には、数値化手段調整手段9,ダミーNG生成手段12ならびに判定モデル生成手段19が不要となる。なお、単純に異常検出のみを考慮すると、編集削除手段16等も不要になるが、検査装置の判断が間違った場合に、人手による修正を可能にするために設けている。
【0129】
そして、検査稼動に着目して説明すると、エンジン1の耐久試験中に各種のセンサから波形テータが連続して入力されるため、波形データ分割手段11は、単位時間(N秒)で波形を分割して分割波形を生成し、次段の波形データ数値化手段14に渡す。ここでの分割処理は、先頭から順に連続して(規則正しく)分割する。ただし、モデル作成(アルゴリズム作成時に、Nをランダムに設定し、複数数種類の単位時間を設け、それに基づいて分割波形データを生成した場合には、各単位時間ごとに分割波形データを作成する。よって、複数種類の単位時間(例えば、1秒,2秒,3秒,…)からなるそれぞれの分割波形データが作成される。
【0130】
波形データ数値化手段14は、エンジン1の耐久試験中に取得したセンシングデータに基づいて作成された分割波形データに対し、数値化して特徴量を求め、その特徴量を特徴量・履歴データベース15に格納する。また、同一対象に対して人による判断が同時に行われた場合には、人の判定結果も履歴情報として特徴量・履歴データベース15に格納されるようにしてもよい。ただし、耐久試験の場合、通常のインライン検査と相違して長時間連続してエンジン1を回転駆動させていることから、人(検査員)が常駐し、常時エンジン1から発生する音等を聞き続けて判断を入力するようなことはない。よって、補助的に適宜のタイミング(例えば、定時毎等)で判断し、補助データとして判断結果を登録すると、その後の解析・検査装置10の判定モデルの精度の判定等に役立つ。
【0131】
特徴量・履歴データベース15に格納された特徴量データが、判定実行手段21に与えられ、そこにおいて状態判別(異常判断)が行われる。求められた状態判別結果は、表示手段23に表示されたり、出力手段24に出力されたり、結果記憶手段25に格納されたりする。
【0132】
次に、具体例を挙げつつ試験稼動時の作用効果を説明する。アルゴリズム(判定モデル)生成後、本番の耐久試験として試験プロファイルを繰り返し実行する。プロファイルの先頭(0秒目)から終了(X秒目)までの単位時間(N秒)ごとに正常度合いを評価することで異常をリアルタイムに検出する。本実施形態では、瞬時停止をするための基本を1秒としているため、それぞれ1秒の長さの波形から数値化した結果(特徴量)を求める。このとき行なう特徴量は、図23(a)に示すように行ベクトルデータの形態になる。この行ベクトルデータが1秒刻みで試験中は継続的に生成される。
【0133】
図23の場合、定速回転をしているため、使用する判定モデルは同一(図示の例では「判定モデル1」)のものを用いている(図23(b)参照)。そして、各分割波形データ毎に正常度合いを計算する(図23(c)参照)。上述したように、便宜上正常データに近ければ1としており、異常の度合いが増すほど、乖離度が大きくなり、1から離れる(大きな値を採る)ように判定モデルが作成されている。耐久試験の場合、図23に示すように、試験開始の初期では、1近辺の値が多い。
【0134】
また、本実施形態では、単位時間(N秒)を瞬間停止として要求される1秒の他に、3秒と6秒のモデルを設定したため、それぞれの分割波形データに基づいても正常度合いが算出される(図23(d),(e)参照)。
【0135】
一方、図24に示すように、例えば4秒目までは1付近で変動していたが、5秒目の正常度合いが2.3となり、6秒目では、3.4となり、徐々に1から離れていっている。仮に、異常判定の閾値が2.3未満であれば、5秒目の判定時点で試験機停止命令が出力される。当然の事ながら、係る場合には、エンジン1の耐久試験が停止されるため、6秒目の波形データは入力されず、よって、判定処理もされない(図24では、閾値が2.3未満でなかったので、6秒目まで判定されている)。
【0136】
上記した具体例は、定速回転のため、各分割波形データに対して使用する判定モデルが共通の場合を示しているが、本発明はこれに限ることはなく、速度が変化するような動作プロファイルに対しても適用できる。すなわち、例えば説明の便宜上、エンジン1の回転数を図25に示すように、最初の1秒目で加速し、2秒目と3秒目は等速回転をさせ、4秒目→5秒目→6秒目は、減速→増速→減速という動作を繰り返し実行させるような動作プロファイルがあるとする。
【0137】
係る場合の判定モデル(アルゴリズム)の作成は、まず、初期段階において取得した正常な波形データにたいし、波形データ分割手段11が1秒ごとに分割する。なお、このように速度(回転数)が短時間で変化する場合には、ランダムによる分割開始時期の変更は行なわない。但し、例えば、同一の動作が一定期間続くような場合には、分割開始位置をランダムに変更する手法を加えても良い。さらに、図25の例では、1秒単位の分割波形データは、それぞれ同一の動作状態であるが、本発明では必ずしもそのようになる必要はない。つまり、ある1秒間の間に0.5秒間加速した後、0.5秒間定速回転するような場合には、そのように1つの分割波形データ中で動作が変わることが、その波形部分の特徴として抽出できるので、タイミングを合わせて良否判定すれば問題はない。
【0138】
そして、波形データ数値化手段では、取得した分割波形データに対して、フレーム分割して特徴量を求める。このフレーム分割する際に、フレームサイズをランダムにする手法を取り入れることで、仮に、1秒間の波形データのみしか取得できなくても、精度の良い判定モデルを作成することができる。さらに、実際には、判定モデル生成のために、図25に示すような試験プロファイルを数回繰り返し、同一タイミングの波形データを収集することができる。それにより、より正確なアルゴリズム(判定モデル)を作成することができる。一例を示すと、図26では、各分割波形データについて8回分の波形データが収集された状態となり、さらに繰り返すことで、モデル作成のために十分なデータ数が得られる。そして、1秒目から6秒目に対してそれぞれ判定モデル1から6が作成される。
【0139】
上述した方法により、1秒目から6秒目までのそれぞれのモデル1から6が作成された
ならば、耐久試験における実際の判定処理に移行する。動作プロファイルの各状態に対応した判定モデルを用いて判定を行なう。このタイミングは、例えばPLC3からタイミング信号を取得することで精度良く各分割波形データの切出しが行なえる。図27に示すような判定結果が得られている場合には、いずれの判定モデルについても1近辺の値となっているので、正常に動作していると判定できる。
【0140】
これに対し、図24と同様に耐久試験の継続時間が長くなると、図28に示すように、例えば5秒目の判定モデル5に基づく判定結果は2.3となり、6秒目の判定モデル6に基づく判定結果は3.4となる。この場合、判定モデルが相違することから、徐々に1から離れていっているのか、増速(5秒目)と減速(6秒目)でそれぞれ異なる部品が一次破損しかけているのかは不明であるが、いずれにしても弱い部品が破損しかけているか、破損するおそれがあることは間違いない。
【0141】
そして、仮に、全ての判定モデルに対する異常判定の閾値が2.3未満であれば、判定モデル5の判定時点で試験機停止命令が出力される。当然の事ながら、係る場合には、エンジン1の耐久試験が停止されるため、6秒目の波形データは入力されず、よって、判定処理もされない(図28では、閾値が2.3未満でなかったので、6秒目まで判定されている)。また、閾値は、判定モデル毎に設定できる。
【0142】
図29,図30は正常度合いの変化の表示例を、つまり、耐久試験の監視機器としての使用方法を示している。この図示の例では、ある瞬間を0秒とし、2秒後に、なんらかの軽微な異常(判定値が2.1にアップ)を検知し(一瞬、音色が変わった)、その後一旦正常時に戻った。そして、その軽微な異常を検知した後に急激に判定値が10以上に悪化(音色が急激に変化)した例を示している。係る場合、判定値が2.1となった軽微な異常を、瞬時停止をさせるための正式な異常とするか否かは、ユーザの考え方(2.1の場合には、異常の予兆の場合もあれば、正常動作における揺らぎその他の誤差にもよる場合もあり、必ずしも一次破損の前兆とは言い切れないという考えもあるし、逆の考えもある)による。そこで、例えば正常時(初期状態)の正常度合いの分布(A)の裾野を計算することで、閾値を決定できる。例えば、正常範囲を平均値±3×標準偏差とした場合、99.7%が相当するため、それを超える範囲は異常とすることができる。
【0143】
図1に示した適用例(耐久試験システム)では、各センサからはアナログ信号の波形データが出力され、それをA/D変換器6にてA/D変換をしたの検査装置10に与えるようにしたが、センサ自体に情報処理装置が内蔵され、デジタル信号で出力される場合には、そのまま、或いはD/D変換器を介して検査装置10に波形データ(デジタル)を与えるようにしても良い。さらには、情報諸装置の能力によっては、検査装置10の一部の機能を当該情報処理装置に実行させるようにしても良い。
【0144】
また、図1では、説明の便宜上、検査装置10に接続され、異常が監視される駆動装置2とエンジン1の組み合わせからなる耐久試験対象は1個であったが、実際の開発現場では、複数の試験対象に対する耐久試験を同時に実行する場合がある。係る場合には、各検査対象に検査装置を接続しても良いが、非効率であると共に、複数の検査装置10を設置することは、コストならびに設置場所が多く必要であることから好ましくない。よって、複数の耐久試験の検査対象物に対する検査を1つの検査装置10で監視するようにしても良い。この場合、仮にエンジン1ならびに駆動装置2が共に同一の型式の場合、判定モデルの共有化をすることも考えられるが、好ましくは、それぞれに対して耐久試験の開始直後の初期に得られる正常データに基づいて判定モデル・アルゴリズムを作成し、それぞれに対して個別に判断することである。これは、例え型式等が同じであっても、設置場所が異なれば、周囲環境が異なるため周囲の音などの影響を考慮する必要があるとともに、耐久試験を行なう対象物は、試作機でもあり、例え型式が同じであっても、ある程度のばらつきがあることが予想されるため、それぞれにあった判定モデル・アルゴリズムを作成し、それに基づいて判定処理をした方が正確に行なえるからである。
【0145】
さらにまた、上述した実施形態や、変形例においては、いずれも検査装置を耐久試験を行なう現場に設置するようにしたが、本発明はこれに限ることはなく、検査装置自体は、開発現場とは別の遠隔地に設置し、開発現場に設置したコンピュータ(情報収集装置)と、高速の専用回線その他の通信網を利用して接続し、リアルタイムで開発現場から波形データを検査装置10が取得し、良否判定(異常判定)を行ない、その結果(特に、異常に伴う緊急停止)を上記と同一或いは別の通信網を利用して通知するようにすることもできる。特に、判定モデルの作成等の設定・調整に人手が必要になる場合、本実施形態によれば、いちいち現場に行くことなく、監視センタ等にて集中して処理をすることができる。
【0146】
また、データロガー等の情報収集装置に情報を収集したり、判定を行ない、その判定結果を他の収集したデータとともに一括して通信網を介して外部の解析センターのコンピュータに送り、そこにおいて異常原因を特定し、それを現場に返すようにしても良い。
【0147】
上述したように、本実施形態においては、モデルを作成するために、3つのランダム処理部を設け、短時間で精度良く異常を検出することができるようになっている。
(1)波形データのどこから単位時間(N秒)データを切り出すかをランダムに決める処理部と、
(2)切り出した波形に対して数値化する際に、フレームとして波形をさらに分割するときに、フレームの時間長をランダムに複数パターン決定する処理部と、
(3)1秒ごとの判定であっても1秒以上に渡ってのうねり傾向を判定に取り込む必要がある場合に1秒ごとに切り出した波形とは別にN秒の長さの波形を切り出す処理部とがある。このN秒もランダムに複数切り出す処理を行なう。
【0148】
上記した実施形態の検査装置10は、耐久試験に用いた例を説明したが、本発明はこれに限ることはなく、従来から行なわれていた異音騒音,組立てミス,出力特性の検査分野に適用できる。また、量産を行なうラインでも、量産とは別に試作品の検査等を行なうオフラインにも適用できる。そして、より具体的には、本実施形態の検査装置10は、例えば、自動車のエンジン(音),トランスミッション(振動)などの自動車の駆動モジュールの検査機や、電動ドアミラー,電動パワーシート,電動コラム(ハンドルの位置合わせ)などの自動車のモータアクチュエーターモジュールの検査機としたり、上記の開発における異音騒音,組立てミス,出力特性の評価装置さらには開発中の試作機の評価装置として適用できる。
【0149】
また、冷蔵庫,エアコン室内外機,洗濯機,掃除機,プリンタなどのモータ駆動家電の検査機並びに上記の開発における異音騒音,組立てミス,出力特性の評価装置として適用できる。
【0150】
さらにまた、NC加工機,半導体プラント、食品プラントなど設備の状態判別(異常状態/正常状態)を行なう設備診断機器として適用することもできる。これは、設備診断において従来は異常時のサンプルデータに基づいて異常有無の判定式(判定ルール)を作成することを既定事実・固定観念化していたのを、正常時のサンプルデータのみから正常か異常かを判定するようにしようとする考えである。設備機器を導入した直後は、通常、機器の調整をしながら(または操作パラメータの設定を調整・変更しながら)使用するので、「異常状態」は言わば不安定に発生するが、その異常状態は、メンテナンスを行なったり機器の調整をうまくしたりすることで、発生しなくすることができる。
【0151】
つまり、設備機器の稼動安定期になると異常状態のいくつかは解決策が施されて発生しなくすることができるのである。これは、設備機器の「異常状態」のいくつかが発生しなくなるのと、検査対象物の「不良品」のいくつかが発生しなくなるのとが類似した現象であることを意味しており、この発明を設備の状態判別(異常状態/正常状態)を行なう設備診断装置として適用できることを意味する。この設備診断装置への適用時にあたって、「初期状態」は設備が安定して稼動する前の段階が該当する。また、異常種類知識については、設備機器の稼動が安定した後、設備機器自体の経年変化などに起因して、設備機器の中で定期的にメンテナンス調整が必要な箇所が判明するので、その異常状態(異常有りと異常種類との二つ)を特定して、その異常種類ごとのデータに基づいて異常判定知識を生成すればよい。異常判定知識のうち解決策が施されて発生しなくなれば、その異常種類の異常種類知識を削除し、削除した状態で判定処理をすればよい。
【0152】
また、設備は、プラントなどに限ったものではなく、車,飛行機などの乗り物を含み、さまざまな物品の状態判別を行なう診断機器として適用することもできる。例えば乗り物を例に挙げると、試作の段階にエンジン状態についての正常状態のデータのみに基づいて正常知識を生成する。試作時点で当然に異常となる状態が生じるが、異常状態のいくつかは試作改良で発生しなくなる。よって、試作の初期段階では、正常データのみから判定ルールを作成し、試作改良を進めて異常状態のいくつかを解決して発生しなくさせて完成に近づいた段階で、いくつかの異常種類が特定し、その異常状態のデータから異常種類知識を生成する。こうすることで、正常状態と特定の異常状態とを判定できるようになる。このように、試作段階からデータと知識とを蓄積して、正常知識と異常種類知識とを用いて正常か否かおよび異常種類のどれかを判定する診断機器をつくり、その診断機器を完成品として市場に出る車や飛行機に搭載して、エンジンの振動に基づいて正常と異常とを診断することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の好適な一実施形態の1つである耐久試験システムの概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態で行なう耐久試験の全体の流れを説明する図である。
【図3】本実施形態の判定アルゴリズム生成ならびにそれに基づく判定処理の概略イメージを示す図である。
【図4】判定アルゴリズムを作成するための機能ブロックを示す図である。
【図5】波形データ分割手段の機能を説明する図である。
【図6】波形データ分割手段の機能を説明する図である。
【図7】ダミーNG生成手段の内部構造を示す図である。
【図8】特徴量・履歴データベース15のデータ構造の一例を示す図である。
【図9】数値化処理部の機能(フレーム分割)を説明する図である。
【図10】数値化処理部の機能(フレーム分割)を説明する図である。
【図11】数値化処理部の機能(フレーム分割)を説明する図である。
【図12】数値化処理部の機能(フレーム分割)の必要性を説明する図である。
【図13】波形データ数値化部の内部構造を示す図である。
【図14】波形データ数値化部の機能の一部を示すフローチャートである。
【図15】判定モデル生成手段の内部構造を示す図である。
【図16】判定モデル生成手段の内部構造を示す図である。
【図17】判定モデル生成手段の内部構造を示す図である。
【図18】判定モデル生成手段の内部構造を示す図である。
【図19】瞬停閾値設定手段の内部構造の一例を示すブロック図である。
【図20】瞬停閾値設定手段の内部構造の一例を示すブロック図である。
【図21】図20に示す瞬停閾値設定手段の動作原理を説明する図である。
【図22】本発明に係る検査装置(検査稼動時)の好適な一実施形態を示すブロック図である。
【図23】本発明に係る検査装置(検査稼動時)の好適な一実施形態の機能を説明する図ある。
【図24】本発明に係る検査装置(検査稼動時)の好適な一実施形態の機能を説明する図ある。
【図25】別の動作プロファイルに基づく判定モデル作成機能を説明する図である。
【図26】別の動作プロファイルに基づく判定モデル作成機能を説明する図である。
【図27】別の動作プロファイルに基づく検査稼働時の別の実施形態を説明する図である。
【図28】別の動作プロファイルに基づく検査稼働時の別の実施形態を説明する図である。
【図29】閾値設定の原理を説明する図である。
【図30】閾値設定の原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0154】
9 数値化手段調整手段
10 検査装置
11 波形データ数値化手段
12 ダミーNG生成手段
13 記録波形表示手段
13′ 登録内容表示手段
13″ 数値化結果表示手段
14 数値化手段調整手段
14 波形データの履歴記録手段
15 特徴量・履歴データベース
16 編集削除手段
17 履歴種類分類手段
18 時間分割データベース
18a 正常データベース
18b 異常データベース
19 判定モデル生成手段
20 瞬停閾値設定手段
21 状態判定手段
22 状態判定式更新判定手段
23 表示手段
24 出力手段
25 結果記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象品から取得した波形データから特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて検査対象品の状態を判定する検査装置用の判定モデル作成支援装置であって、
取得した波形データを設定された単位時間分のデータに分割する分割波形データ作成手段と、
その分割波形データ作成手段で作成された単位時間分の複数個の分割波形データに基づいて、各分割波形データ単位で特徴量を演算する手段と、
その分割波形データ単位で演算された特徴量に基づいて、単位時間毎に検査対象品の状態を判定するための判定モデルを作成するモデル作成手段と、
を備えたことを特徴とする検査装置用の判定モデル作成支援装置。
【請求項2】
前記分割波形データ作成手段は、波形データを所定位置から前記単位時間分毎に分割する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の検査装置用の判定モデル作成支援装置。
【請求項3】
前記分割波形データ作成手段は、前記単位時間分毎に分割する際の分割開始位置をランダムに決定する機能を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置用の判定モデル作成支援装置。
【請求項4】
前記分割波形データ作成手段は、分割処理をする際の基準長さとなる単位時間をランダムに決定する機能を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の検査装置用の判定モデル作成支援装置。
【請求項5】
動作が所定のパターンで繰り返し変動する検査対象品から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて検査対象品の状態を判定する検査装置用の判定モデル作成支援装置であって、
取得した波形データを設定された単位時間分のデータに分割する分割波形データ作成手段と、
その分割波形データ作成手段で作成された単位時間分の複数個の分割波形データに基づいて、各分割波形データ単位で特徴量を演算する手段と、
その分割波形データ単位で演算された特徴量に基づいて、前記分割波形データ作成手段で分割された前記パターン内の各領域についての判定モデルを作成するモデル作成手段を備えたことを特徴とする検査装置用の判定モデル作成支援装置。
【請求項6】
前記特徴量を求める手段は、前記分割波形データを所定サイズのフレームにさらに分割するフレーム分割処理を実行するとともに、その分割されたフレームに基づいて特徴量を抽出する機能を備え、前記所定サイズをランダムに決定する機能とを備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の検査装置用の判定モデル作成支援装置。
【請求項7】
前記特徴量を求める手段は、前記フレーム分割処理を実行して得られた各フレームに対し、周波数分析を行ない、全周波数帯域での特徴量を求めるものであることを特徴とする請求項6に記載の検査装置用の判定モデル作成支援装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の判定モデル作成支援装置で作成された判定モデルに基づき、
取得した検査対象の波形データに対して状態判定を行なう判定手段を備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項9】
動作が所定のパターンで繰り返し変動するものに対する検査装置であって、
請求項5に記載の判定モデル作成支援装置が、前記繰り返し変動する1つのパターン部分に対応する波形データに基づいて作成した領域毎の判定モデルを取得し、
検査対象の状態判定を行なうに際し、取得した波形データ部分にそれぞれ対応する領域の判定モデルを使用して判定処理をする判定手段を備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項10】
検査対象品の耐久性を試験する耐久試験装置であって、
前記耐久試験開始後の動作が安定している期間に取得した波形データを正常データとして作成された判定モデルを用い、前記耐久試験の実行中に取得した波形データに基づき異常か否かを判断する判定手段を備えたことを特徴とする耐久試験装置。
【請求項11】
前記判定モデルは、請求項1から7のいずれか1項に記載の判定モデル作成支援装置により作成されることを特徴とする請求項10に記載の耐久試験装置。
【請求項12】
耐久試験の対象となる駆動体を所定時間回転させ、そのときに取得した波形データを請求項1から7のいずれか1項に記載の判定モデル作成支援装置に与える処理ステップと、
前記判定モデル作成支援装置が、与えられた前記波形データを正常データとして異常検出のための判定モデルを作成する処理ステップと、
その後、耐久試験を実行し、その耐久試験の実行中に取得した波形データに基づいて、前記判定モデル作成支援装置が作成した判定モデルを用いて異常の有無を判断する処理ステップと、
異常を検知した場合に、異常検知信号を出力する処理ステップとを実行する耐久試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2006−292734(P2006−292734A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69228(P2006−69228)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】