説明

検知デバイス、およびエレベータ又はエスカレータの制御装置

本発明は、エレベータ及びエスカレータのセルフテスト機能を有する速度及び移動方向検知デバイスを開示する。検知デバイスは、120度の(電気)角度だけシフトした3つのパルスを生成するインクリメンタルエンコーダを含む。速度信号生成部は、エンコーダ信号を受信し、その周波数が入力信号の周波数に比例するパルス信号を生成する。エンコーダセルフテスト部は、エンコーダ状態をモニタし、エンコーダ信号に基づいてエンコーダエラーを検出し、方向検出部は、エンコーダパルスに基づいて方向信号を生成する。速度が0の場合であっても、この検知デバイスによって、セルフテストを実施することができる。耐故障性の速度及び移動方向検知デバイスは、従来技術よりも高い信頼性を提供し、高い安全性及び保全性レベルが要求される運動制御システムに適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は包括的には、運動制御システム(エレベータ、エスカレータ、モータドライブ等)における速度及び移動方向検知に関し、より詳細には、電子部品を用いることによって、セルフテスト、エラーモニタリング及び診断機能を有する、耐故障性で高信頼性の改善された速度及び移動方向検知デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、従来技術を改良したものであり、高信頼性の速度及び移動方向検知に比べて、コスト効率の良好な解決策である。
【0003】
運動制御システム(エレベータ、エスカレータ、モータドライブ)の場合の速度及び移動方向検知は、通常、図1に示されるように、2つのシフトした(90度の電気角を有する)パルスを生成するインクリメンタルエンコーダ(光、磁気、誘導等)を用いて実行される。パルスの周波数を測定することによって、エレベータかご又はエスカレータの回転速度及び走行速度を調べることができる。移動方向は、種々の手法を用いて検出することができる。1つの手法は、(たとえば)信号Aの立ち下がりエッジによって生成される事象において、信号Bの状態を調べることである。信号Bが論理1である場合には、移動方向は、時計回り(CW、すなわち前方)である。別の手法は、各エンコーダ状態に、図1に示される10進状態(3、1、0及び2)を割り当てることである。米国特許第6,127,948号「Bidirectional synthesis of pseudorandom sequences for arbitrary encoding resolutions」に開示されるように、状態遷移が、図1に示されるように、3、1、0、2である場合には、移動方向は時計回り(すなわち、前方又は上方)である。状態遷移が逆である場合には(図1を参照)、移動方向は反時計回り(CCW、すなわち後方又は下方)である。
【0004】
異なるエンコーダ状態間の無効な遷移も図1に示されており、誤り検出のために用いることができる。しかしながら、2つのパルスを用いるエンコーダでは、主に、センサのうちの1つが機能しなくなる場合には、もはや移動方向を検出することができなくなるという不都合がある(移動方向を検出するためには、2つのシフトした信号が必要とされ、速度を測定する場合には、1つの信号が必要とされる)。さらに、現在の状態に無効状態が存在しないため、現在の状態に基づく誤り検出が不可能であるという不都合もある。無効状態遷移だけが存在し、これを誤り検出のために用いることができる。
【0005】
一般的に、運動制御システムにおいて、特に、エレベータ及びエスカレータ業界では、速度及び移動方向検知の信頼性は、重要な課題である。さらに、いくつかの国におけるエレベータに関連付けられる現行の規制によれば、電子過速度調速機の使用が認められているが、課せられる安全性及び保全性のレベルによって、国際特許第WO2007123522号「Rotary encoder with built-in-self-test」及び欧州特許第EP1186432号「Pinter having fault tolerant encoder wheel」によって開示されるような、セルフテスト及びモニタリング機能を有するシステムが必要とされる。別の手法は、比較機能を有する2つ以上のチャネルを有するシステムを使用することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2つのシフトしたパルス(図1に示される)を有するエンコーダを用いる速度及び移動方向検知の信頼性は、システム障害を検出する比較機能(付加的な論理回路)を有するデュアルチャネルシステムを検討することによって改善することができる。エレベータの用途に用いることができるデュアルチャネルシステムが、米国特許第6,170,614号「Electronic overspeed governor for elevator」によって開示されている。しかしながら、このようなシステムでは、同じシャフト上に2つの同じエンコーダを取り付ける必要があるため、システムのコストが著しく増大することになる。さらに、エンコーダの正確な位置合わせも確保されなければならない。
【0007】
それゆえ、本発明において提案される検知デバイスは、これらの不都合な点を克服するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい実施の形態1によれば、速度及び移動方向検知デバイスは、エンコーダを備えており、このエンコーダは、エレベータ又はエスカレータ制御ユニットとのインターフェースである速度信号生成部、方向検出部及びエンコーダセルフテスト部のための信号を生成する。
【0009】
エンコーダは、120度の電気角を成して等距離に配置される3つのセンサと、エレベータモータシャフト、調速機シャフト若しくは調速機シーブ、又はエスカレータモータシャフトに機械的に接続される、光学的、磁気的又は誘導的に非対称であるディスクとを有する。
【0010】
しかしながら、エンコーダに関連付けられる状態及び状態遷移が、120度の(電気)角度だけシフトした3つのパルスを用いるエンコーダに関連付けられる状態及び状態遷移と同じである限り、パルス間のシフトは120度の(電気)角度とは異なることができる。120度の電気角で等距離に配置される3つのセンサを有するエンコーダのための状態及び状態遷移が、図3及び図4に示される。速度信号生成部がエンコーダ信号を受信し、パルス信号を生成し、そのパルス信号の周波数は、入力信号の周波数に等しい。方向検出部は、エンコーダパルスに基づいて方向信号を生成し、エンコーダセルフテスト部は、エンコーダ状態をモニタし、エンコーダ信号に基づいてエンコーダエラーを検出する。
【0011】
エレベータ又はエスカレータ制御ユニットは、速度信号、方向信号及びエンコーダセルフテスト信号を受信し、入力/出力ポートを介して、外部とインターフェースし、エンコーダ/センサ障害の場合に安全システムを起動することができる。
【0012】
本発明のエンコーダは、3つのシフトした信号に基づいて8つのエンコーダ状態を生成し、それによって、6つの有効エンコーダ状態及び2つの無効エンコーダ状態が生成される。エンコーダセルフテスト部が、現在のエンコーダ状態から無効状態を検出する場合には、エレベータ又はエスカレータ制御ユニットにエンコーダエラーを報告する。エレベータ/エスカレータの現在の状態、及び入力/出力ポートを介して受信した信号に基づいて、制御ユニットは、エレベータ/エスカレータが運転休止状態になるか、エレベータが次の階に安全に移動するか、又は安全装置が起動されるかを判断する。
【0013】
セルフテストは、現在のエンコーダ状態に基づくものであり、前の状態を知る必要がないため、主な利点は、エレベータ又はエスカレータが移動する前に、速度が0であってもエンコーダセルフテストを実行することができることである。
【0014】
さらに、そのエンコーダは、3つのシフトした信号を与える。方向を検出するには2つのシフトした信号しか必要としないため、耐故障性の速度及び移動方向検知が可能である。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態2によれば、耐故障性の速度及び移動方向検知デバイスは、120度の電気角で等距離に配置される3つのセンサと、可動部品のシャフト(すなわち、エレベータシャフト又はエスカレータモータシャフト、調速機シャフト又は調速機シーブ、モータドライブシャフト等)に機械的に接続される、光学的、磁気的又は誘導的に非対称であるディスクとを有する、エンコーダと、エンコーダ状態をモニタし、エンコーダ信号に基づいてエンコーダエラーを検出する、エンコーダセルフテスト部(本発明の第1の実施の形態と全く同じ)と、エンコーダ信号を受信し、入力信号に比例する周波数を有するパルス信号を生成する、速度信号生成部と、エンコーダ入力信号を合成し、3つの方向信号を生成する方向検出部と、エンコーダ信号障害を検出し、検出信号を選択する(適切な方向信号を選択する)信号、及び周波数分周器部において用いられる、適切な周波数分周比を選択する信号を生成する、エラーモニタリング及び診断部と、エラーモニタリング及び診断部によって提供される情報に基づいて、方向検出部から受信される適切な方向信号を選択する、方向信号選択部と、速度信号生成部からの信号の周波数を、エラーモニタリング及び診断部によって指定される周波数分周比で分周した後に速度信号を出力する、周波数分周器部とを備える。
【0016】
エンコーダに関連付けられる状態及び状態遷移が、120度の(電気)角度だけシフトした3つのパルスを用いるエンコーダに関連付けられる状態及び状態遷移と同じである限り、パルス間のシフトは、120度の(電気)角度とは異なることができる。
【0017】
1つのエンコーダ信号のみが機能しなかった場合には、検知デバイスは、マイナーエラーを報告し、有効な方向及び速度信号を与える(1つのエンコーダ信号障害の場合には、耐故障性がある)。2つ以上の信号が機能しなかった場合には、メジャーエラーが報告され、この場合には方向情報は、もはや有効ではなく、2つの信号が機能しなかった場合には、速度情報だけが有効である。
【0018】
耐故障性を有する検知デバイスの主な利点は、マイナーエラー(1つのエンコーダ信号の機能不全)の場合には有効な速度及び方向情報を提供すること、及びシステムが運転休止状態になる前に、運動制御システムがそのタスクを継続又は終了することができるようにすること(すなわち、エンコーダ障害に起因して運転休止状態になる前に、エレベータシステムが安全に次の階に移動すること)である。
【0019】
本発明の上記で説明された特徴及び利点、並びに他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び添付の図面から、当業者によって評価及び理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】エンコーダ状態及び状態遷移を示す、2つのシフトしたパルスを有するエンコーダに関連する説明図である。
【図2】システム構成要素及び相互接続を示す、エレベータ及びエスカレータにおいて適用されるセルフテスト機能を有する速度及び方向検知デバイスのブロック図である。
【図3】120度の(電気)角度だけシフトした3つのセンサを有するエンコーダの有効状態及び状態遷移を示す図である。
【図4】マイナーエンコーダエラー及びメジャーエンコーダエラーの場合に、120度の(電気)角度だけシフトした3つのセンサを有するエンコーダの無効状態遷移を示す図である。
【図5】エンコーダセルフテスト部の論理関数記述であり、論理ゲートを用いる実施態様の一例示である。
【図6】システム構成要素及び相互接続を示す、セルフテスト、エラーモニタリング及び診断機能を有する耐故障性の速度及び方向検知デバイスのブロック図である。
【図7】耐故障性の速度及び方向検知デバイスに関連する、速度信号生成部、周波数分周器部及び方向検出部を示す図である。
【図8】状態遷移の軌道を示し、方向信号選択に用いられるエンコーダエラーモニタリング及び診断部の状態機械記述を示す図である。
【図9】周波数分周比選択に用いられるエンコーダエラーモニタリング及び診断部の状態機械記述を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
2つのセンサを備え、90度だけシフトした2つのパルスを生成する、エンコーダの主な状態及び状態遷移の一例示(従来技術)が、本発明の背景技術において説明されており、図1に示される。
【0022】
図1では、各エンコーダ状態、すなわち、10進状態(3、1、0及び2)が割り当てられる。その状態遷移が、図1に示されるように、3、1、0、2である場合には、移動方向は時計回り(CW)であり、すなわち、前方又は上方である。状態遷移が逆である場合には(図1を参照)、移動方向は、反時計回り(CCW)であり、すなわち、後方又は下方である。
【0023】
図1には、種々の状態間の無効な遷移も示されており、誤り検出のために用いることができる(従来技術)。しかしながら、現在の状態に無効状態が存在しないため、現在の状態に基づく誤り検出が不可能である(無効状態遷移に基づいてのみ可能である)という主な不都合がある。
【0024】
現在のエンコーダ状態に基づく誤り検出を容易にするために、セルフテスト機能を有する速度及び方向検知デバイスが、以下にさらに詳細に説明される。
【0025】
図2は、システム構成要素及び相互接続を示す、セルフテスト機能を有する速度及び方向検知デバイスのブロック図である。120度の電気角で等距離に配置される3つのセンサ11、12、及び13とディスク14(光学的、磁気的又は誘導的に非対称)とを有するエンコーダ10が、結合リンク15を介して、エレベータモータシャフト又はエスカレータモータシャフト、調速機シャフト又は調速機シーブ70に機械的に接続される。エンコーダ10は、たとえば、120度の電気角だけシフトした3つのパルス1、2及び3を生成し、それらのパルスは、速度信号生成部20、エンコーダセルフテスト部30及び方向検出部40によって受信される。
【0026】
速度信号生成部20は、パルス信号1、2及び3に基づいて、速度信号21を生成する。速度を測定するには、1つの信号で十分であるため、速度信号生成部20は、入力信号のうちの1つ(1又は2又は3)を通し、この場合には、速度信号(出力信号)21の周波数は、入力信号の周波数に等しい。速度信号生成部20の別の実現形態では、速度信号21を生成するために、排他的論理和(XOR)を用いて入力信号を合成する。すなわち、全ての3つの入力信号1、2及び3がXOR論理を用いて合成される場合には、速度信号21の周波数は、入力信号の周波数の3倍になる。XOR論理を用いて2つの信号だけが合成される場合には、速度信号21の周波数は、入力信号の周波数の2倍になる。
【0027】
エンコーダセルフテスト部30は、入力信号(1、2及び3)を受信し、エンコーダ状態をモニタし、エンコーダエラーを検出する。負の論理に従って、エンコーダエラー信号31が生成され、すなわち、エンコーダエラーがある場合には、このエンコーダエラー信号31は、論理0であり、エンコーダエラーがない場合には、論理1である。
【0028】
方向検出部40は、3つのシフトしたパルス信号に基づいて、そのうちのいずれか2つのパルス信号を選択し、選択したパルス信号の遷移状態に基づいて前記回転体の移動方向信号を生成することができる(方向を測定するには、2つの信号で十分であるため、)。従って、方向検出部40は、入力信号のうちの2つのエンコーダ入力信号(たとえば、信号1及び信号2)を合成して、方向信号41を生成する。
【0029】
エレベータ又はエスカレータ制御ユニット50は、速度信号21、エンコーダエラー信号31及び方向信号41を受信する。エレベータ/エスカレータの現在の状態、及び入力/出力ポート52を介して受信された信号に基づいて、制御ユニット50は、エレベータ/エスカレータが運転休止状態になるか、エレベータが次の階に安全に移動するか、又は信号51を介して安全装置60を起動するかを判断する。
【0030】
入力/出力ポート52は、ソフトウエア更新、初期化、稼動状態、警告状態、及び制御ユニット50と外部デバイスとの間のモニタリング機能を容易にする。
【0031】
エンコーダセルフテスト部を説明するために、最初に、エンコーダ10の有効状態及び無効状態、並びに状態遷移が以下で、より詳細に説明され、図3及び図4に示される。
【0032】
図3を参照すると、その図は、エンコーダ10の有効状態及び状態遷移を示す。エンコーダ10の6つの有効状態がS1、S2、S3、S4、S5及びS6として符号化される。状態遷移が、S1からS2、又はS2からS3等である場合には、移動方向は、時計回り(すなわち、前方又は上方)である。一方、状態遷移が逆である場合には(図3を参照)、移動方向は、反時計回り(すなわち、後方又は下方)である。
【0033】
図4を参照すると、その図は、エンコーダ10の無効状態、及び無効状態遷移を示す。2つの無効状態がS0(000)及びS7(111)に符号化され、無効状態S0に向かう無効状態遷移が示される(状態S7に向かう同様の遷移も示すことができる)。
【0034】
状態S1からS0への遷移、状態S3からS0への遷移、状態S5からS0への遷移は、1つの信号障害に関連付けられる。状態S2からS0への遷移、状態S4からS0への遷移、状態S6からS0への遷移は、2つの同時の信号障害に関連付けられる。
【0035】
例示として、本発明は、エンコーダセンサは、pnp出力を有し、通常は、開いている(そのpnpトランジスタは、出力をHighに切り替える)ものと仮定する。センサ障害、トランジスタ障害又は電源障害の場合に、その出力は、Lowに切り替わり、Lowのままになるであろう。pnp出力を有し、通常閉じているセンサ、npn出力を有し、通常開いているか、又は閉じているセンサの場合にも、同様の遷移を定義することができる。
【0036】
定義されたエンコーダの有効状態及び無効状態を用いて、エンコーダセルフテスト部30が、以下に詳細に説明される。
【0037】
図5を参照すると、エンコーダセルフテスト部30の論理関数が示されている。無効エンコーダ状態は、エンコーダエラーとして報告される。エンコーダエラー信号31は(すなわち、負の論理を考慮すると)、有効エンコーダ状態(エンコーダエラーなし)の場合には、論理1であり、無効エンコーダ状態(エンコーダエラー)の場合には、論理0である。上記の論理関数は、論理ゲート及び回路を用いて実装することができ、一例示が図5に示されている。さらに、必要とされる場合には、出力信号をDラッチに格納することができる。
【0038】
それゆえ、本発明の実施の形態1は、エレベータ又はエスカレータ制御ユニットに接続される、セルフテスト機能を有する速度及び移動方向検知デバイスを説明する。エンコーダ10が120度の電気角だけシフトした3つの信号を生成する。移動方向検知には、2つの信号のみが必要であり、速度検知には、1つの信号のみが必要であるため、耐故障性の速度及び移動方向検知デバイスの実現が可能であり、本発明の実施の形態2において詳細に説明される。
【0039】
図6を参照すると、本発明の実施の形態2、すなわち、セルフテスト、エラーモニタリング及び診断の機能を有する耐故障性の速度及び方向検知デバイスのブロック図であり、システム構成要素及び相互接続が示されている。
【0040】
本発明の実施の形態2の構成要素及び相互接続が、以下に詳細に説明される。
【0041】
本発明の実施の形態1と同様に、エンコーダ10は、120度の電気角だけシフトしたパルス信号(1、2及び3)を生成し、それらのパルス信号は、速度信号生成部22、エンコーダセルフテスト部30(本発明の実施の形態1と同様)、方向検出部42、及びエラーモニタリング部及び診断部80によって受信される。
【0042】
速度信号生成部22は、XOR論理によって入力信号(1、2及び3)を合成することによって出力信号23(信号F)を生成する。
【0043】
エンコーダセルフテスト部30は、本発明の実施の形態1と全く同じようにして、出力信号31を生成する。
【0044】
方向検出部42は、エンコーダ入力信号を対にして(すなわち、1及び2、2及び3、3及び1を)合成し、D1、D2、D3によって示される3つの方向信号を生成する。
【0045】
エラーモニタリング及び診断部80は、エンコーダ部10から入力を受信し、S(n)によって表される現在のエンコーダ状態、並びにS(n−1)、S(n−2)及びS(n−3)によって表される前(過去)のエンコーダ状態に基づいて、P1、P2、P3及びメジャーエラーによって表される出力信号(81、82、83及び84)を生成する。
【0046】
信号81(P1)及び信号82(P2)は、方向信号部43を介して、適切な方向信号41を選択する。信号83(P3)は、1つの信号障害の場合に無効状態遷移をモニタし、信号84(メジャーエラーで表される)は、メジャーエンコーダエラー(2つ以上のエンコーダ信号障害)をモニタする。
【0047】
方向信号選択部43は、エラーモニタリング及び診断部80によって生成される信号81(P1)及び信号82(P2)の関数によって、入力信号(D1、D2又はD3)のうちの1つを選択(多重化)することによって、方向出力信号41を生成する。
【0048】
周波数分周器部24は、速度信号生成部22から入力信号23を受信し、エンコーダエラー状態に応じて、一定の係数で入力信号の周波数を分周する。一定の分周比は、信号83(P3)及び84(メジャーエラー)によって規定される。エンコーダエラーがない(信号障害がない)場合には、入力信号の周波数を3分周する。マイナーエンコーダエラーが生じた(1つの信号が機能しなかった)場合には、入力信号の周波数は2分周される。メジャーエンコーダエラーが生じた(2つ以上の信号が機能しなかった)場合には、入力信号の周波数は変更されないままである。
【0049】
本発明の実施の形態2による信号33(マイナーエラー)は、静的エラーモニタリング(エンコーダセルフテスト部30)及び動的エラーモニタリング(エラーモニタリング及び診断部80)を合成する、信号31と信号83(P3)との間の論理AND合成として演算部32によって生成される。静的エラーモニタリングは、エンコーダの現在の状態に関連付けられ、動的エラーモニタリングは、エンコーダ状態遷移に関連付けられる。
【0050】
速度信号生成部22、方向検出部42及び周波数分周器部23は、以下に、より詳細に説明される。
【0051】
図7を参照すると、速度信号生成部22を示す図であり、出力信号23が、入力信号1、2及び3のXOR合成として生成される。出力信号23は、周波数分周器部24によって受信され、周波数分周器部24は、信号83(P3)及び信号84(メジャーエラー)によって選択された周波数分周比1、2又は3で周波数を分周し、それによって出力速度信号21を生成する。方向検出部42は、2つのシフトしたパルスを有するエンコーダの場合のように、L1によって表される既知の方向検出論理を用いて、エンコーダ入力信号を対にして(すなわち、1及び2、2及び3、3及び1を)合成し、D1、D2、D3によって表される2つの方向信号を生成する。
【0052】
エンコーダエラーモニタリング及び診断は、エラーモニタリング及び診断部80において行われ、方向信号選択のための出力信号81(P1)及び82(P2)が、以下に詳細に説明される状態機械に従って生成される。
【0053】
図8を参照すると、本発明の実施の形態2による方向信号選択に用いられる、エンコーダエラーモニタリング及び診断部80の状態機械記述を示す図である。図8に示されるように、現在のエンコーダ状態遷移及び前の(過去2回分の)エンコーダ状態遷移に基づいて、いずれのエンコーダ信号が機能していないかを検出することができる。エンコーダ信号の状態(障害なし、又は障害あり)は、図8に従って、方向信号を選択するために用いられる出力信号81(P1)及び82(P2)に符号化され、方向信号選択部43のための選択信号を表す。この図8の状態遷移表においては、マイナーエラー(1つのエンコーダ信号が機能しなかった)に関連付けられる(があったか否かを判断するための)有効遷移及び無効遷移が示される。方向検出のためには、少なくとも2つの有効エンコーダ信号が必要とされるため、メジャーエラー(2つ以上の信号が機能しなかった)の場合には、方向検出は、もはや不可能である。
【0054】
周波数分周比は、信号83(P3)及び信号84(メジャーエラー)によって指定され、エラーモニタリング及び診断部80の出力信号を表す。エラーがない場合、周波数分周比は、3であるべきであり、マイナーエラーの場合には(1つのエンコーダ信号が機能しなかった)、2であるべきであり、メジャーエラーの場合には(2つ以上のエンコーダ信号が機能しなかった)、1であるべきである。エラー検出及び診断、並びに信号83(P3)及び信号84(メジャーエラー)の生成は、状態機械記述を用いて、以下に詳細に説明される。
【0055】
図9は、本発明の実施の形態2による、周波数分周比選択に用いられる、エンコーダエラーモニタリング及び診断部80の状態機械記述を示す図である。現在のエンコーダ状態遷移及び前の(過去3回分の)エンコーダ状態遷移(状態遷移表に示される)を用いて、エンコーダ信号障害が検出される。1つのエンコーダ信号障害は、出力信号83(P3)によってモニタされ、2つのエンコーダ信号障害は、信号84(メジャーエラー)によってモニタされる。速度信号生成部22に従って、エンコーダ信号障害がない場合には、出力信号23の周波数は、入力信号の周波数の3倍になる(信号1、2及び3は同じ周波数を有する)。1つのエンコーダ信号が機能しなくなる場合には、出力信号23の周波数は、入力信号の周波数の2倍になる。2つのエンコーダ信号が機能しなくなる場合には、出力信号23の周波数は、入力信号の周波数に等しくなる。
【0056】
それゆえ、信号83(P3)及び信号84(メジャーエラー)によって選択される周波数分周比(すなわち、図9の状態遷移表の分周ファクタ)は、エラーなしの場合には3であり、マイナーエラー(1つの信号が機能しなかった)の場合には2であり、メジャーエラー(2つの信号が機能しなかった)の場合には1であるべきである。
【0057】
耐故障性の速度及び移動方向検知デバイスによって生成される出力信号21(速度)、41(方向)、33(マイナーエラー)及び84(メジャーエラー)を、運動制御ユニットに送信することができる。
【0058】
本発明の実施の形態1は、エレベータ及びエスカレータのセルフテスト機能を有する速度及び移動方向検知デバイスを開示する。検知デバイスは、120度の(電気)角度だけシフトした3つのパルスを生成するインクリメンタルエンコーダを含む。しかしながら、エンコーダに関連付けられる状態及び状態遷移が、120度の(電気)角度だけシフトした3つのパルスを有するエンコーダに関連付けられる状態及び状態遷移と同じである限り、パルス間のシフトは、120度の(電気)角度とは異なることができる。
【0059】
速度信号生成部は、エンコーダ信号を受信し、その周波数が入力信号の周波数に比例するパルス信号を生成する。
【0060】
エンコーダセルフテスト部は、エンコーダ状態をモニタし、エンコーダ信号に基づいてエンコーダエラーを検出し、方向検出部は、エンコーダパルスに基づいて方向信号を生成する。
【0061】
速度信号、エンコーダセルフテスト信号及び方向信号は、エレベータ又はエスカレータ制御ユニットに送信される。速度が0の場合であっても、この検知デバイスによって、セルフテストを実施することができるようになる。すなわち、エレベータ又はエスカレータが移動する前に、エンコーダエラー(障害)を検出することができ、これは従来技術と比べて、利点となる。
【0062】
本発明の実施の形態2は、速度及び移動方向を検知するセルフテスト、モニタリング及び診断機能を有する耐故障性エンコーダを開示する。マイナーエンコーダエラーの場合(1つのエンコーダ信号が機能しなかった場合)において、検知デバイスは、正確な速度及び移動方向情報を提供する。また、メジャーエンコーダエラーの場合(2つ以上のエンコーダ信号が機能しなかった場合)において、検知デバイスは、メジャーエラーを報告し、2つのエンコーダ信号が機能しなかった場合において、正確な速度情報を提供することができる。
【0063】
耐故障性の速度及び移動方向検知デバイスは、従来技術よりも高い信頼性を提供し、高い安全性及び保全性レベルが要求される運動制御システムに適用することができる。
【0064】
上述したように、本発明の実施の形態1によれば、180度の電気角ごとにON/OFFを繰り返すパルス信号を、120度の電気角だけシフトした3種のパルス信号として出力するエンコーダを備えている。これにより、3つのシフトしたパルス信号に基づいて、8つのエンコーダ状態を生成することができる。さらに、この8つのエンコーダ状態は、6つの有効エンコーダ状態及び2つの無効エンコーダ状態に区別することができる(図3、図4参照)。
【0065】
従って、エンコーダセルフテスト部30(静的エラー診断部に相当)は、3つのシフトしたパルス信号に基づいて、2つの無効エンコーダ状態(図4におけるS0、S7の状態に相当)が発生することを監視することで、エンコーダエラー状態を静的に検出できる(図4、図5参照)。
【0066】
また、速度信号生成部20は、3つのシフトしたパルス信号に基づいて、そのうちのいずれか1つのパルス信号を選択し、選択したパルス信号の周波数に比例するパルス信号を速度信号として生成することができる(図3参照)。
【0067】
また、方向検出部40は、3つのシフトしたパルス信号に基づいて、そのうちのいずれか2つのパルス信号を選択し、選択したパルス信号の遷移状態に基づいて前記回転体の移動方向信号を生成することができる(図3参照)。
【0068】
また、上述したように、本発明の実施の形態2によれば、3つのシフトしたパルス信号に基づいて、3つのパルス信号の現在の状態、及び現在の状態に至るまでの所定の遷移状態をモニタリングすることで、3つのパルス信号の中で状態が遷移しないパルス信号を特定することができる(図8、図9参照)。
【0069】
従って、エラーモニタリング部及び診断部80(動的エラー診断部に相当)は、現在及び過去3回分のデータに基づいて、3つのパルス信号の遷移状態をモニタリングすることで、第2のエンコーダエラー状態を動的に検出できる(図6、図8、図9参照)。また、3つのパルス信号のうち、どの信号でエラーが発生しているかを特定できる。さらに、2つ以上のパルス信号で異常が発生しているメジャーエンコーダエラー信号と、1つのパルス信号のみで異常が発生しているマイナーエンコーダエラー信号とを、区別して出力することができる(図9参照)。
【0070】
また、演算部32は、エンコーダセルフテスト部30(静的エラー診断部に相当)によるエラー検出結果と、エラーモニタリング部及び診断部80(動的エラー診断部に相当)によるエラー検出結果との論理AND合成をとることで、マイナーエンコーダエラーを出力することができる(図6参照)。
【0071】
また、速度信号生成部22及び周波数分周器部24は、エラーモニタリング部及び診断部80によるメジャーエンコーダエラー信号及びマイナーエンコーダエラー信号を含むエンコーダエラー状態の検出結果に基づいて、3つのパルス信号の中から、正常に動作している1つのパルス信号を選択し、選択したパルス信号の周波数に比例するパルス信号を速度信号として生成することができる(図6、図9参照)。
【0072】
また、速度信号生成部22は、3つのパルス信号の排他的論理和を合成信号として求めることができる(図7参照)。そして、周波数分周器部24は、エラーモニタリング部及び診断部80によるエンコーダエラー状態の検出結果に基づいて、以下の3通りの方法により、速度信号を生成することができる(図7、図9参照)。
【0073】
(1)エンコーダエラー状態信号を受信しない場合には、合成信号の周波数を3分周して速度信号を生成する。
(2)マイナーエンコーダエラー信号を受信した場合には、合成信号の周波数を2分周して速度信号を生成する。
(3)メジャーエンコーダエラー信号を受信した場合には、合成信号の周波数のままで分周せずに速度信号を生成する。
【0074】
また、方向検出部42は、3つのシフトしたパルス信号に基づいて、3種類の1対の信号を生成することができる(図7参照)。さらに、方向信号選択部43は、エラーモニタリング部及び診断部80によるマイナーエンコーダエラー信号を含むエンコーダエラー状態の検出結果に基づいて、3種類の1対の信号の中から、正常に動作している2つのパルス信号からなる1対の信号を選択し、移動方向信号を生成することができる(図6、図8参照)。
【0075】
なお、3つのシフトしたパルス信号の、それぞれのパルス信号間のシフトは、必ずしも120度の電気角である必要はない。上述した方法により、静的なエラー検出、動的なエラー検出、速度信号検出、及び移動方向検出を行うことができれば、120度以外の電気角でシフトしていても構わない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に取り付けられたセンサからのパルス出力信号に基づいて、前記回転体の速度、前記回転体の移動方向、及び前記パルス出力信号の異常状態、の各検出を行う検知デバイスであって、
前記回転体に取り付けられた前記センサであり、180度の電気角ごとにON/OFFを繰り返すパルス信号を、120度の電気角だけシフトした3種のパルス信号として出力するエンコーダと、
前記3種のパルス信号を受信し、受信した前記3種のパルス信号のうちのいずれか1つのパルス信号を選択し、選択した前記1つのパルス信号の周波数に比例するパルス信号を前記回転体の速度信号として生成する速度信号生成部と、
前記3種のパルス信号を受信し、受信した前記3種のパルス信号のうちのいずれか2つのパルス信号を選択し、選択した前記2つのパルス信号の遷移状態に基づいて前記回転体の移動方向信号を生成する方向検出部と、
前記3種のパルス信号を受信し、受信した前記3種のパルス信号の状態をモニタリングし、前記3種のパルス信号の全てがON状態、又は全てがOFF状態であることを検出した場合には、いずれかのパルス信号の状態が遷移しないエラー状態が発生していると判断し、エンコーダエラー状態信号を生成する静的エラー診断部と
を備える検知デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の検知デバイスにおいて、
前記3種のパルス信号を受信し、受信した前記3種のパルス信号の現在の状態、及び前記現在の状態に至るまでの所定の遷移状態をモニタリングすることで、前記3種のパルス信号の中で状態が遷移しないパルス信号を特定して、第2のエンコーダエラー状態信号を生成する動的エラー診断部
をさらに備える検知デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の検知デバイスにおいて、
前記動的エラー診断部は、前記3種のパルス信号の中で特定の2つのパルス信号、又は3種全てのパルス信号の状態が遷移しない状態を検出した場合には、前記第2のエンコーダエラー状態信号として、メジャーエンコーダエラー信号を出力し、前記3種のパルス信号の中で特定の1つのパルス信号の状態が遷移しない状態を検出した場合には、前記第2のエンコーダエラー状態信号として、マイナーエンコーダエラー信号を出力する
検知デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の検知デバイスにおいて、
前記速度信号生成部は、前記動的エラー診断部による判定結果として前記メジャーエンコーダエラー信号又は前記マイナーエンコーダエラー信号を受信した場合には、前記メジャーエンコーダエラー信号又は前記マイナーエンコーダエラー信号に基づいて、前記3種のパルス信号のうち、正常に動作している1つのパルス信号を選択し、選択した前記1つのパルス信号の周波数に比例するパルス信号を前記速度信号として生成する
検知デバイス。
【請求項5】
請求項3に記載の検知デバイスにおいて、
前記速度信号生成部は、受信した前記3種のパルス信号のうちのいずれか1つのパルス信号を選択する代わりに、前記3種のパルス信号の排他的論理和を合成信号として求め、前記動的エラー診断部による判定結果に基づいて、前記エンコーダエラー状態信号を受信しない場合には、前記合成信号の周波数を3分周して前記速度信号を生成し、前記マイナーエンコーダエラー信号を受信した場合には、前記合成信号の周波数を2分周して前記速度信号を生成し、前記メジャーエンコーダエラー信号を受信した場合には、前記合成信号の周波数のままで分周せずに前記速度信号を生成する
検知デバイス。
【請求項6】
請求項3に記載の検知デバイスにおいて、
前記方向検出部は、前記動的エラー診断部による判定結果として前記マイナーエンコーダエラー信号を受信した場合には、前記マイナーエンコーダエラー信号に基づいて、前記3種のパルス信号のうち、正常に動作している2つのパルス信号を選択し、選択した前記2つのパルス信号の遷移状態に基づいて前記移動方向信号を生成する
検知デバイス。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の検知デバイスと、
前記検知デバイスから、前記速度信号、前記移動方向信号、及び前記エンコーダエラー状態信号を受信し、受信結果に基づいてエレベータ又はエスカレータの制御を行う制御ユニットと
を備えたエレベータ又はエスカレータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−529627(P2012−529627A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552112(P2011−552112)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/JP2009/062165
【国際公開番号】WO2010/150416
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】