説明

極低温ブッシング構造

【課題】極低温液体に浸漬しても絶縁物に剥離やクラックが入りにくく、超電導機器から発生する気泡の影響を受けにくい高電圧印加用の極低温ブッシング構造を提供する。
【解決手段】高電圧導体2と、前記高電圧導体2を取り囲むように配置された固体絶縁体3と、前記固体絶縁体3中に配置された複数の同心状の中間電極12と、前記固体絶縁体3の下部を収容する極低温容器17と、を有する極低温ブッシング構造において、前記固体絶縁体3の下部に位置する前記複数の中間電極12の間に、少なくとも一つの同心状の溝13を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導機器に用いられる極低温ブッシング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大電流を流せる高温超電導体が線材として実用化されるようになってきているが、一方で、高温超電導体を限流器等の電力機器に適用することが検討され始めてきた。高温超電導体を用いた超電導機器を高電圧で使用するためには、既存の変電機器と接続する手段が必要である。気中絶縁を介して超電導機器を接続するには、極低温に耐えうるブッシング構造が不可欠である。
【0003】
従来の液体窒素温度で使用できる高電圧印加用の極低温用ブッシングは、超電導ケーブルや超電導限流器用として定格電圧66kVクラスまでのものが研究・開発されている。現状では、この電圧クラス以下の超電導機器であれば、電力用の開閉機器等を既存の極低温用ブッシングを介して接続することが可能である。特許文献1乃至3には、このような極低温用のブッシングを用いた超電導ケーブル端末構造が開示されている。
【0004】
この従来の極低温用ブッシングは、図4に示すように、固体絶縁体22が高電圧導体21を包み込むように、常温部24と低温部25とにまたがって配置されている。固体絶縁体22の両端部には電界緩和用のシールド23が設置されている。常温部24の固体絶縁物22は碍管26とフランジ27により密閉され、密閉空間28は気体または液体の絶縁体で満たされている。また、固体絶縁体22の内部には電位をコントロールするための中間電極29が同心状に複数設けられている。固体絶縁体22は、クラックや剥離が生じないようにできる限り薄くなるような構造に設計されている。
【特許文献1】特開平8−196031号公報
【特許文献2】特開平9−130955号公報
【特許文献3】特開2005−237062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の極低温ブッシング構造は、定格電圧66kVクラスまでの使用に耐えることができるが、近年、発電プラントが大型化されるにつれて定格電圧300〜500kVクラスに対応できる極低温ブッシング構造の開発が望まれている。上述した従来の極低温ブッシング構造では、高電圧化するために固体絶縁体の絶縁厚さを厚くする必要があるが、極低温中に浸漬すると熱収縮が大きくなるため固体絶縁体の厚さが増すほど絶縁体に剥離やクラックが入る可能性が高くなるという問題、及び超電導機器から発生する気泡が絶縁体の外周沿面に付着し、ブッシングの絶縁性能を低下させるといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、極低温液体に浸漬しても絶縁物に剥離やクラックが入りにくく、超電導機器から発生する気泡の影響を受けにくい高電圧印加用の極低温ブッシング構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る極低温ブッシング構造は、高電圧導体と、前記高電圧導体を取り囲むように配置された固体絶縁体と、前記固体絶縁体中に配置された複数の同心状の中間電極と、前記固体絶縁体の下部を収容する極低温容器と、を有する極低温ブッシング構造において、前記固体絶縁体の下部に位置する前記複数の中間電極の間に、少なくとも一つの同心状の溝を形成したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る極低温ブッシング構造は、高電圧導体と、前記高電圧導体を取り囲むように配置された固体絶縁体と、前記固体絶縁体中に配置された複数の同心状の中間電極と、前記固体絶縁体の下部を収容する極低温容器と、を有する極低温ブッシング構造において、前記複数の中間電極の高電圧導体からの絶縁距離を、前記高電圧導体の下端に近づくにつれて大きくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極低温液体に浸漬しても絶縁物に剥離やクラックが入りにくく、超電導機器から発生する気泡の影響を受けにくい高電圧印加用の極低温ブッシング構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る極低温ブッシング構造の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る極低温ブッシング構造を、図1を参照して説明する。
【0012】
図1において、極低温ブッシング1は内部に高電圧導体2が設置されており、高電圧導体2の周囲には固体絶縁体3が常温部4と低温部5にまたがって配置され、固体絶縁体3の両端部には電界緩和用のシールド6が設置されている。
【0013】
常温部4の固体絶縁体3は、碍管7の内部に収納され、フランジ8とで密閉された密閉空間9は絶縁性ガスで満たされている。高電圧印加部には電界緩和用のシールド電極10が取り付けられ、フランジ8近傍にも接地側の電界緩和用のシールド電極11が設置されている。また、低温部5の固体絶縁体3は、液体窒素で満たされた極低温容器(ブッシングポケット)17内に収容されている。
【0014】
固体絶縁体3は、その内部に同心状の多層の中間電極12が配置されているが、低温部5の固体絶縁体3には中間電極12と中間電極12との間に同心円状の溝13が設けられており、また、溝13の端部に、固体絶縁体3の外周に連通する連通孔14が少なくとも1つ設けられている。
【0015】
さらに、高電圧導体2の下部には気泡が固体絶縁体3に直接接触することを防止するために、上方に向けて広がる円錐形状の絶縁体15が設置されている。
【0016】
固体絶縁体の材料として、例えば、FRP(ファイバー強化プラスチック)を用いられ、また、中間電極の材料としては、金属メッシュ、導電性プラスチック等を用いられる。
【0017】
このように構成された極低温ブッシング1は、極低温液体に浸漬される低温部5の固体絶縁体3を円周状の溝13で分割することにより、低温部5の個体絶縁体3は複数の薄い絶縁体から構成されることになり、熱収縮による応力が絶縁厚さが厚いものに比べて小さくなる。なお、図1では、中間電極12は3つで同心状の溝13は一つであるが、いずれもこれに限定されることはなく、中間電極の数に応じて同心状の溝を複数形成してもよい。
【0018】
また、円周状の溝13は、連通孔14を通して外部に連通しているため、溝13内の極低温液体の温度変化等により発生した気泡又は外部から混入した気泡は、連通孔14を通して外部に排出することができるので、溝13には気泡が溜まらない。これにより、定常的に溝13内を極低温液体で満たすことができるので、高電圧導体の超電導性及び電界に悪影響を及ぼすことはない。
【0019】
さらに、必要に応じて、溝13が電界に悪影響を及ぼさないように、同心状の溝13の内周側及び外周側の中間電極12を電気的に接続することで、溝13間に電位差が発生しないようにしてもよい。これにより、仮に溝13に気泡などが滞留しても電気的な弱点部にならない。
【0020】
また、高電圧導体2の下部に円錐形状絶縁体15を設けることにより、下方からの気泡が直接低温部5の固体絶縁体3に接触しないので、気泡が低温部の固体絶縁体3に付着して絶縁性能が低下することもない。
【0021】
本第1の実施形態の極低温ブッシング構造によれば、低温部の固体絶縁体の中間電極間に同心状の溝を設けることで、固体絶縁体を多層の薄い絶縁体から構成し、これにより高電圧下において剥離やクラック発生を抑制し、絶縁性能を高く維持することができる。
【0022】
また、同心状の溝に連通孔を設けることにより、また、同心状の溝の内外周の中間電極を電気的に接続することにより、高電圧下においても安定した絶縁性能を保持することができる。
【0023】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る極低温ブッシング構造を、図2を用いて説明する。なお実施例1と同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0024】
図2において、低温部5の固体絶縁体3内部に配置する複数の同心状の中間電極16は、下端部にいくほど高電圧導体2からの絶縁距離が大きくなるように構成されている。
【0025】
この構成により、固体絶縁体の端部で絶縁距離を大きく取れるので中間電極16のエッジ部の電界が緩和されるように作用する。
【0026】
また、第1の実施形態のように、複数の中間電極の間に同心状の溝及び連通孔を設けることができることはもちろんである(図示せず)。
【0027】
本第2の実施形態の極低温ブッシング構造によれば、中間電極の端部を広げることにより、電界緩和効果を高くし、その結果、中間電極数の枚数を少なくすることができる。
【0028】
また、固体絶縁体の端部の絶縁距離が大きくなることで、中間電電極16のエッジ部の曲率半径を大きく取ることができるので、さらにエッジ部の電界を小さくコントロールすることが可能になる。
【0029】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る極低温ブッシング構造を、図3を用いて説明する。なお、第1及び第2の実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0030】
図3において、極低温ブッシング1は極低温容器(ブッシングポケット)17に収納され、極低温容器18の側面に設置されている。極低温容器18内部には極低温コイルなどの超電導機器19が収納されており、液体窒素などの極低温液体20で満たされている。極低温ブッシング1は超電導機器19から離れた位置に配置されている。
【0031】
この構成により、極低温ブッシング1と超電導機器19とが、それぞれ別容器内に収納されていることから、超電導機器19から気泡が発生した場合でも極低温ブッシングには気泡が到達しない。
【0032】
本第3の実施形態の極低温ブッシング構造によれば、超電導機器19から発生する気泡が極低温ブッシング1に到達しないため、気泡発生による絶縁低下の恐れが無くなり、絶縁性能を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る極低温ブッシング構造。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る極低温ブッシング構造。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る極低温ブッシング構成。
【図4】従来の極低温ブッシング構造。
【符号の説明】
【0034】
1…極低温ブッシング、2…高電圧導体、3…固体絶縁体、4…常温部、5…低温部、6…シールド、7…碍管、8…フランジ、9…密閉空間、10…シールド電極、11…シールド電極、12…中間電極、13…溝、14…連通孔、15…円錐形状絶縁体、16…中間電極、17…極低温容器、18…極低温容器、19…超電導機器、20…液体窒素、21…高電圧導体、22…固体絶縁体、23…シールド、24…常温、25…低温部、26…碍管、27…フランジ、28…密閉空間、29…中間電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧導体と、前記高電圧導体を取り囲むように配置された固体絶縁体と、前記固体絶縁体中に配置された複数の同心状の中間電極と、前記固体絶縁体の下部を収容する極低温容器と、を有する極低温ブッシング構造において、
前記固体絶縁体の下部に位置する前記複数の中間電極の間に、少なくとも一つの同心状の溝を形成したことを特徴とする極低温ブッシング構造。
【請求項2】
前記固体絶縁体に、前記同心状の溝の上部から前記固体絶縁体の外周に連通する少なくとも一つの連通孔を設けたことを特徴とする請求項1記載の極低温ブッシング構造。
【請求項3】
前記円周状の溝の内外周の中間電極を電気的に接続したことを特徴とする請求項1又は2記載の極低温ブッシング構造。
【請求項4】
前記高電圧導体の下方に円錐形状絶縁体を設けたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の極低温ブッシング構造。
【請求項5】
前記複数の中間電極の高電圧導体からの絶縁距離を、前記高電圧導体の下端に近づくにつれて大きくしたことを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の極低温ブッシング構造。
【請求項6】
高電圧導体と、前記高電圧導体を取り囲むように配置された固体絶縁体と、前記固体絶縁体中に配置された複数の同心状の中間電極と、前記固体絶縁体の下部を収容する極低温容器と、を有する極低温ブッシング構造において、
前記複数の中間電極の高電圧導体からの絶縁距離を、前記高電圧導体の下端に近づくにつれて大きくしたことを特徴とする極低温ブッシング構造。
【請求項7】
前記固体絶縁体の下部に位置する前記複数の中間電極の間に、少なくとも一つの同心状の溝を形成したことを特徴とする請求項6記載の極低温ブッシング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−153211(P2010−153211A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330065(P2008−330065)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】