説明

極低炭素鋼の溶製方法

【課題】本発明は、炭素濃度が100ppm以下で、かつ酸素濃度が2ppm以下の極低炭素鋼を安定して達成可能な極低炭素鋼の溶製方法を提供することを目的としている。
【解決手段】転炉で一次精錬された溶鋼を未脱酸で取鍋に出鋼し、真空脱ガス装置を用いて二次精錬を行い、炭素濃度が100ppm以下の極低炭素鋼に溶製するに際し、前記真空脱ガス装置にて、まず前記溶鋼中の酸素濃度を測定し、その測定値に応じて脱酸剤としての高炭素フェロマンガンを添加し、該溶鋼の酸素濃度を400〜500ppmに予備調整してから脱炭し、その後に別の脱酸剤で仕上げ脱酸し、酸素濃度を2ppm以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低炭素鋼の溶製方法に係わり、詳しくは転炉で一次精錬された溶鋼を真空脱ガス装置を用いて二次精錬を行うに際し、まず脱酸剤として炭素含有物質を用いて溶鋼の酸素濃度を予備調整してから真空下で脱炭し、その後さらに別の脱酸剤で仕上げ脱酸する溶鋼の清浄化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素濃度が100ppm以下の所謂「極低炭素鋼」を溶製するには、まず転炉で炭素濃度を0.03〜0.04質量%(300〜400ppm)程度までに脱炭し、脱酸せずに取鍋へ出鋼した溶鋼を素溶湯とする(一次精錬という)。そして、該溶鋼を、RH真空脱ガス装置に配置し、真空下で溶鋼中の酸素と炭素とを反応させてCOガスやCOガスとして目標炭素濃度まで脱炭した後、さらにアルミニウムを添加して脱酸する。なお、RH真空脱ガス装置2は、溶鋼1を保持する取鍋6と、該溶鋼1中に浸漬され、減圧下で溶鋼1を吸引する上昇管4と、吸引した溶鋼1を再び取鍋6に戻す下降管5とを備えた脱ガス真空槽3と、該脱ガス真空槽3の内部雰囲気を減圧する排気手段(図示せず、排気方向だけを矢印8で示す)とで構成されている。つまり、取鍋6内に保持した溶鋼1を、上昇管4の近傍に吹き込まれた還流用ガス7のリフトアップ作用で、該脱ガス真空槽3と取鍋6との間で還流させ、溶鋼1中のガスや不必要な成分を除去する精錬(二次精錬という)を可能とするのである。
【0003】
ところで、かかる二次精錬を行うに際して、RH真空脱ガス装置で脱炭後の溶鋼の酸素濃度が高いと、その後に該溶鋼1を脱酸する時の脱酸剤(主として、アルミニウム:記号Al)の添加量が増加し、脱酸剤の添加歩留りが低下する。添加したアルミニウム等は酸化物となるが、その一部が溶鋼中に懸濁して非金属介在物となり、溶鋼の清浄度を低下させるばかりか、凝固後の鋼材品質を低下させるのである。
【0004】
そこで、RH真空脱ガス装置2での脱炭処理中にアルミニウムを添加して、溶存酸素濃度を0.025〜0.04質量%(250〜400ppm)に予備脱酸しつつ炭素濃度を0.004質量%(40ppm)以下になるように脱炭し、その後さらにアルミニウムで仕上げ脱酸する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、この技術では予備及び仕上げ脱酸剤のいずれにもアルミニウムを利用するので、仕上げ脱酸時に投入するアルミニウムの添加歩留は向上しても、酸化アルミ系非金属介在物の存在問題は完全には解消されない。
【0006】
一方、本出願人は、極低炭素鋼より炭素濃度が0.02〜0.05質量%(200〜500ppm)と一段高い低炭素鋼の溶製においてではあるが、転炉出鋼時に溶鋼へ炭素含有物質を添加して加炭した後、前記RH真空脱ガス装置2で真空脱炭・脱酸して溶存酸素の濃度を0.02質量%(200ppm)以下に予備脱酸してから、さらにアルミニウムを添加して仕上げ脱酸し、酸素濃度を0.001質量%(10ppm)以下にする技術を開示した(特許文献2参照)。
【0007】
本出願人は、この特許文献2に記載される予備脱硫剤として炭素含有物質を用いる方法を極低炭素鋼の溶製に適用することを試みた。ところが、予備脱酸剤としてアルミニウムでなく炭素含有物質を使用すると、その際の脱酸生成物はCOガスであるので、気相中に移行して真空排気され、脱酸生成物が溶鋼中に残存することがない。また、炭素含有物質として製鋼過程で通常使用されるコークスや黒鉛は、アルミニウムよりもはるかに安価であるという利点もある。
【0008】
このような効果を期待して予備脱酸に炭素含有物質を使用したところ、予備脱酸において、速やかに溶鋼中の酸素が低下するチャージと、予測したよりも酸素濃度の低下が小さいチャージが発生した。さらに、予備脱酸後に所定時間の真空脱炭を行って、速やかに極低炭素領域まで脱炭できたチャージと、脱炭不良を生じるチャージが発生した。前述の予備脱酸で予測したよりも酸素濃度の低下が小さいチャージは、その後の真空脱炭終了後も溶鋼中の酸素濃度が高く、そのため仕上げ脱酸に予定した以上のアルミニウムを投入せざるを得ず、その結果、得られる極低炭素溶鋼の清浄度が劣るという問題が発生した。
【特許文献1】特開2006−225736号公報
【特許文献2】特開2001−152238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑み、炭素濃度が100ppm以下で、かつ酸素濃度が ppm以下の極低炭素鋼を安定して達成可能な極低炭素鋼の溶製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ね、その成果を本発明に具現化した。すなわち、本発明は、転炉で一次精錬された溶鋼を未脱酸で取鍋に出鋼し、真空脱ガス装置を用いて二次精錬を行い、炭素濃度が100ppm以下の極低炭素鋼に溶製するに際し、前記真空脱ガス装置にて、まず前記溶鋼中の酸素濃度を測定し、その測定値に応じて脱酸剤としての高炭素フェロマンガンを添加し、該溶鋼の酸素濃度を400〜500ppmに予備調整してから脱炭し、その後に別の脱酸剤で仕上げ脱酸し、酸素濃度を2ppm以下にすることを特徴とする極低炭素鋼の溶製方法である。
【0011】
この場合、前記高炭素フェロマンガンの投入原単位量を下記式を満足する値とすることが好ましい。
【0012】
(0.003×−1.45) ≦ WHMn ≦ (0.003×−1.29)
ここで、:測定した溶鋼中の酸素濃度(ppm)、 WHMn :高炭素フェロマンガンの投入原単位量(kg/t−steel)
また、前記別の脱酸剤をアルミニウムとしたり、あるいは前記真空脱ガス装置をRH方式とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、真空脱ガス装置に到着した時の溶鋼の酸素濃度に応じて介在物の形成されない脱酸材を投入し、鋼中の酸素濃度を脱炭に最低限に必要な値へと予備調整するので、仕上げ脱酸に用いる脱酸剤の添加量が低減でき、非金属介在物が少なく、炭素濃度が100ppm以下で、且つ酸素濃度が2ppm以下の清浄な極低炭素鋼が溶製できるようになる。また、高炭素フェロマンガンの投入により、従来使用していた電解マンガンの削減効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明をなすに至った経緯をまじえ、本発明の最良の実施形態を説明する。
【0015】
まず、発明者は、特許文献2記載の技術で極低炭素鋼を溶製しても、目標の達成が不安定で必ずしも清浄度の高い極低炭素鋼にならない原因を鋭意検討した。その結果、コークスや黒鉛等の炭素含有物質を使用すると、これらの物質は比重が小さいために、真空脱ガス槽内の真空排気されるガスの流れに左右され易く、真空脱ガス槽の内壁に付着して棚状に張り出した地金上に落下し、槽内の溶鋼中に直ちに到達しない傾向が高いことが分かった。とくに、極低炭素鋼の精錬では、真空脱ガス装置内で長時間にわたって脱炭反応を生じさせるので、発生するCOガスのバブルによる溶鋼スプラッシュが多量に発生し、これが真空脱ガス槽の内側に地金となって張り付く傾向が強い。そのために上述のような問題が発生していた。
【0016】
このように、投入した炭素含有物質が地金の棚上に落下すると、溶鋼の予備脱酸には寄与しないために、予備脱酸時の酸素濃度の低下が不十分となる。さらに、地金上に落下した炭素含有物質は、その後の真空脱炭や次チャージ以降の真空脱炭の際に、真空脱ガス槽内でフォーミングした溶鋼によって洗われて溶鋼中に入り(すなわち、カーボンのピックアップが生じ)、脱炭不良を生じるものであった。
【0017】
そこで、発明者は、コークスや黒鉛よりも比重が大きく、真空排気のガス流れに左右され難い炭素含有物質として、高炭素フェロマンガンを使用することを想到した。高炭素フェロマンガンを予備脱酸剤として使用することは、特許文献2にも示唆されているところであるが、極低炭素鋼の溶製の場合に、予備脱酸後の真空脱炭を阻害せず、しかも真空脱炭終了時に十分に低い溶存酸素レベルまで低下させるための適切な使用条件については何ら教示されていない。
【0018】
発明者は、真空脱ガス装置にて、まず前記溶鋼中の酸素濃度を測定し、その測定値に応じて脱酸剤としての高炭素フェロマンガンの添加量を調整することにして、本発明を完成させたのである。ここに、高炭素フェロマンガンの投入に際しては、予備脱酸後の該溶鋼中の酸素濃度を400〜500ppm程度になるように調整するのが必須である。500ppmより多いと、その後の真空(約270Pa以下)下での脱炭で、終了後の酸素濃度が高過ぎて、仕上げ脱酸用のアルミニウムが大量に必要となる。一方、400ppmより少ないと、酸素が不足し、炭素濃度が極低領域にるのに時間がかかり過ぎるからである。
【0019】
発明者は、転炉において、炭素濃度を0.03〜0.04質量%まで脱炭して得た溶鋼について、RH真空脱ガス装置で予備脱酸前の酸素濃度を測定し、高炭素フェロマンガン(炭素含有量:6質量%)を種々の原単位で投入し、溶鋼中の酸素濃度を400〜500ppmに低下するに要する高炭素フェロマンガンの投入量を調査した。その結果、投入すべき高炭素フェロマンガンの投入原単位を下記式の範囲にするのが好ましいことを見出した。
【0020】
(0.003×−1.45) ≦ WHMn ≦ (0.003×−1.29)
ここで、:測定した溶鋼中の酸素濃度(ppm)、 WHMn :高炭素フェロマンガンの投入原単位量(kg/t−steel)
そして、本発明では、この脱炭後に別の脱酸剤を投入し、仕上げ脱酸を行い、酸素濃度を2ppm以下にするのである。
【0021】
なお、前記高炭素フェロマンガンの好ましい粒径は、5〜15mmとするのが特に良い。5mm未満では、操業中の真空脱ガス槽内での飛散量が多くなり過ぎ、15mm超えでは溶鋼に溶解しずらく加炭剤としての添加効果が低下する。
【0022】
本発明では、仕上げ脱酸に利用する別の脱酸剤(炭素含有物質以外)を特に限定するものではない。フェロシリコン、シリコン・マンガン、アルミニウム等のいずれでも良い。ただし、脱酸能力や価格の点でアルミニウムとするのが好ましい。また、真空脱ガス装置も特に限定するものでないが、RH方式とするのが好ましい。VOD等、他の装置に比べて装置が簡単で、操業し易いからである。
【実施例】
【0023】
溶銑予備処理により、燐濃度を0.03質量%以下、硫黄濃度を0.02質量%以下にした溶銑を生産能力250トン(以下、記号t)の上吹き転炉で脱炭(一次精錬)し、炭素濃度を200ppmの溶鋼とした。この溶鋼を温度1700℃で取鍋に出鋼し、図3に示したRH真空脱ガス装置2にセットした後、本発明に係る方法により二次精錬を多数チャージ行った。まず、溶鋼1中の酸素濃度を公知の酸素プローブにより測定した。その測定値は、500〜1100ppmの範囲であったので、測定値の大きさに応じて該溶鋼に0.005〜2.0tkg/t−steelの範囲で調整した高炭素フェロマンガン(Mn:75.2質量%,Si:0.65質量%,C:6.75質量%,P:0.21質量%,S0.021質量%)を投入し、該RH真空脱ガス装置2を排気することで、1.33パスカル(1Torr)程度に減圧して、1〜2分間の還流を行った。その結果、溶鋼1の酸素濃度が、ほぼ400ppm程度にまで低下することが確認されたので、引き続き8〜12分間の還流を継続した。その結果、炭素濃度が10〜34ppmに低下し、極低炭領域になるまでの脱炭が起きていることを確認した。その後、該溶鋼に約0.06〜0.08kg/t−steelのアルミニウムを投入して仕上げ脱酸を行った。仕上げ脱酸後の溶鋼中酸素濃度(プローブによる測定値)は、0〜2ppmであった。
【0024】
このような操業を多数チャージ行い、溶鋼を加炭処理による予備脱酸をしない操業(マンガン成分の調整には、電解マンガンを使用)との結果を比較くした。その結果を、ロス・アルミニウム原単位(kg/t−steel)及びスラグ中の酸化マンガン(質量%)量で整理し、図1及び2に示す。ロス・アルミニウム原単位は、添加したアルミニウムが溶鋼中の酸素等によって酸化損失した程度を示すものであり、下記の式で定義される。
ロス・アルミニウム原単位(kg/t−steel)=[投入アルミニウム原単位(kg/t−steel)−10×Alsol]
ここに、Alsolは、アルミニウムを投入して脱酸終了後の溶鋼中の溶解アルミニウム濃度(単位:質量%)である。
【0025】
図1より明らかなように、本発明によれば低減している。次に、これらの溶鋼を連続鋳造機で鋳片として凝固させ、任意の位置よりブロック状サンプルを切り出し、公知のスライム抽出法で介在物を分離した。その結果、本発明によれば、従来の極低炭素鋼より介在物が格段に少ないことが明らかになった。つまり、極低炭素鋼の清浄度が向上していることが確認された。また、図2に示すように、スラグ中の酸化マンガン量も低下し、高炭素フェロマンガンの利用で従来の電解マンガンの使用時よりマンガンの損失が少ないことも明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】真空脱ガス装置での二次精錬前の溶鋼中酸素濃度とロス・アルミニウム原単位との関係を示す図である。
【図2】真空脱ガス装置での二次精錬前の溶鋼中酸素濃度と二次精錬後のスラグ中酸化マンガンとの関係を示す図である。
【図3】RH真空脱ガス装置を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 溶鋼
2 RH真空脱ガス装置
3 脱ガス槽
4 上昇管
5 下降管
6 取鍋
7 還流用ガス
8 排気方向を示す矢印
9 副原料(脱酸剤、フラックス等)の投入口
10 監視用ITV
11 副原料ホッパー
12 副原料切出装置
13 付着地金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉で一次精錬された溶鋼を未脱酸で取鍋に出鋼し、真空脱ガス装置を用いて二次精錬を行い、炭素濃度が100ppm以下の極低炭素鋼に溶製するに際し、
前記真空脱ガス装置にて、まず前記溶鋼中の酸素濃度を測定し、その測定値に応じて脱酸剤としての高炭素フェロマンガンを添加し、該溶鋼の酸素濃度を400〜500ppmに予備調整してから脱炭し、その後に別の脱酸剤で仕上げ脱酸し、酸素濃度を2ppm以下にすることを特徴とする極低炭素鋼の溶製方法。
【請求項2】
前記高炭素フェロマンガンの投入原単位量を下記式を満足する値とすることを特徴とする請求項1記載の極低炭素鋼の溶製方法。
(0.003×−1.45) ≦ WHMn ≦ (0.003×−1.29)
ここで、:測定した溶鋼中の酸素濃度(ppm)、 WHMn :高炭素フェロマンガンの投入原単位量(kg/t−steel)
【請求項3】
前記別の脱酸剤をアルミニウムとすることを特徴とする請求項1又は2記載の極低炭素鋼の溶製方法。
【請求項4】
前記真空脱ガス装置をRH方式とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の極低炭素鋼の溶製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−191290(P2009−191290A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30548(P2008−30548)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】