説明

極紫外光発生装置

【課題】デブリによるコレクターの損傷を効果的に抑制することを可能にする極紫外光発生装置を提供する。
【解決手段】放電ガスをキャピラリ11Cに供給する放電ガス導入路10と、同軸円筒状のキャピラリ11Cが中心部に配置されその周囲は絶縁体で作られたキャピラリ構造体11と、前記キャピラリ11Cの両端と接続する陽極12及び陰極13とを備えており、前記キャピラリ11Cの軸上前方にノズル17及びデフューザ18を設け、前記ノズル17からカーテンガスを送出し前記デフューザ18で前記カーテンガスを回収するデブリシールド機構を前記キャピラリ11Cの近傍に設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電生成プラズマ方式を用いた極紫外光(EUV)発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長10nm乃至13nm程度の極紫外光(EUV)を発生させる方式の一つとして、放電生成プラズマ方式(ディスチャージ・プロデュースド・プラズマ、以下、「DPP方式」という。)を利用したものが知られている。
【0003】
図5は、典型的な従来のDPP方式の極紫外光発生装置の一例を示すもので、特に放電部周辺の一部断面図を示している。同図において、放電ガス導入路100から例えばキセノンガス(Xe)を、セラミックスなどの絶縁体で作られたキャピラリ(細管)構造体101の中心部に配置されたキャピラリ101Cに導入し、陽極102及び陰極103に高電圧を印加すると、キャピラリ内部を介して両電極間にプラズマが発生し、極紫外光が発生する。放電部となるキャピラリ101Cは高温になるので、冷却水導入口104、冷却水排出口105及び装置内部に冷却水循環通路106を設け冷却水を循環させる。極紫外光は一定の集光角α(より正確には立体角である)で放射し、集光ミラーなどが設けられた集光系(不図示)で集められる。なお、極紫外光は中性気体により吸収・減衰されやすいため、集光系は高真空下に置かれる。
【0004】
例えば、特許文献1は極端紫外光光源について開示しており、放電部の構造は概ね上記構成と同様と考えられる。
【0005】
なお、本発明に係る極紫外光発生装置はいずれも放電生成プラズマ(DPP)を前提としているが、これとは異なり、特許文献2にはレーザ生成プラズマ(レーザ・プロデュースド・プラズマ、以下、「LPP方式」という。)の極紫外光発生装置に用いられるノズル構造について開示されている。これについては後述する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−288998号公報
【特許文献2】特開2001−319800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のDPP方式の極紫外光発生装置の問題点は、キャピラリ構造体が放電によって極めて高温となり、そのためキャピラリ構造体の一部が蒸発し有害塵(デブリ)が発生し、集光ミラー(コレクター)に衝突及び集積し、ミラーを損傷して反射率を著しく低下させることである。
【0008】
本発明は、デブリによるコレクターの損傷を効果的に抑制することを可能にする極紫外光発生装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る第1の極紫外光発生装置1は、放電ガスをキャピラリ11Cに供給する放電ガス導入路10と、同軸円筒状のキャピラリ11Cが中心部に配置されその周囲は絶縁体で作られたキャピラリ構造体11と、前記キャピラリ11Cの両端と接続する陽極12及び陰極13とを備えており、前記キャピラリ11Cの軸上前方にノズル17及びデフューザ18を設け、前記ノズル17からカーテンガスを送出し前記デフューザ18で前記カーテンガスを回収するデブリシールド機構を前記キャピラリ11Cの近傍に設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る第2の極紫外光発生装置20は、環状断面を有する第1のガス流通路24とその内側に第2のガス流通路25を備えたノズル21と、前記第1及び第2のガス流通路に対向して設けられたデフューザ22とを備え、前記ノズル21及び前記デフューザ22を放電電極として構成したことを特徴とする。この装置はノズルとデフューザを電極として放電するため、従来のように主放電には放電管を用いる必要がなく、デブリ発生を効果的に低減することができる。
【0011】
この装置は、ノズル21及びデフューザ22が同軸上に配置されると共に、その軸上であって前記ノズルの一端近傍に予備電離機構23を更に備えていることが好ましい。このようにすると、放電気体が流通する第2のガス流通路にプラズマジェットが形成され、確実に主放電を開始させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る第1の極紫外光発生装置によると、放電部で生成されたデブリが効果的に除去される。
また、本発明に係る第2の極紫外光発生装置によると、カーテンガスと放電ガスとが干渉しにくく、圧力整合を取りやすい。しかも、キャピラリ構造体の軸方向に対して半径方向から集光するため、広い集光角を得ることが可能となる。従って、より多くの極紫外光を露光装置などが設置された集光系(照明光学系)に送り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(第1の実施形態)−ダイナミックガスカーテン方式−
第1の実施形態として、放電部の軸上前方にヘリウム等のカーテンガスによるデブリシールド機構を設けることにより、デブリを除去するという方法が挙げられる。
【0014】
図1は、本発明の実施形態の一つを示すDPP方式の極紫外光発生装置の一例を示すもので、特に放電部周辺の一部断面図を示している。放電部の構造自体は従来のものと同様の構成を採用することができるが、デブリが集光系に拡散することを防止するためのデブリシールド機構が設けられている点が特徴である。
【0015】
図1において、放電ガス導入路10から放電ガス、例えばキセノンガス(Xe)を、周囲を絶縁体で作られたキャピラリ(細管)構造体11の中心部に配置されたキャピラリ11Cに導入し、陽極12及び陰極13に高電圧を印加すると、キャピラリ内部を介して両電極間にプラズマが発生し、極紫外光が発生する。放電部となるキャピラリ11Cは高温になるので、冷却水導入口14、冷却水排出口15及び装置内部に冷却水循環通路16を設け冷却水を循環させて冷却する。
【0016】
更に、キャピラリ11Cの軸上前方にノズル17及びデフューザ18を設け、前記ノズル17からヘリウムガスなどのカーテンガスを送出すると共に前記デフューザ18で前記カーテンガスを回収するデブリシールド機構を設けている。デフューザはターボ分子ポンプ(TMP)などの真空ポンプ(不図示)によって常に排気されるようにして使用する。
【0017】
ノズル17はカーテンガスを高速で送り出すことができるようなものであることが必要であり、デフューザ18はノズル側とポンプ側とで圧力が変換されるように傾斜勾配の異なる面が対向して設けられる構成とすることが好ましい。このような構成により、デフューザで圧力を回復することができ、排気能力が小さいポンプでも高速のガスを連続して回収できるからである。
【0018】
カーテンガスを連続的に流し続けることにより、デブリシールドとなるガスカーテン19を形成する。このガスカーテン19は、高真空に排気された集光系と接して設けられるため、ある程度高速でカーテンガスを流し続けることが必要である。例えば、カーテンガスの流速は条件により種々の値を取り得るが、少なくとも音速の数倍(マッハ5程度の速度)が必要と考えられる。また、カーテンガスはEUV光を吸収しないガス、例えばヘリウムガスなどの不活性ガスが好ましい。
【0019】
これらのデブリシールド機構は、ガスカーテンが放電部の軸方向に対して垂直になるように設け、ガスカーテン19は例えば図2(a)に示すようにある程度の幅を持った柱状(19a)、あるいは、ノズル及びデフューザの形状を工夫して図2(b)に示すように平面的なシート状(19b)に構成することが好ましい。また、EUV放射光の立体角よりも広い範囲でデブリを完全に遮断するものが好ましい。
【0020】
以上のような構成により、放電部でデブリが生成されても、ガスカーテン19によってデブリが集光系に混入することを防止できる。
【0021】
(第2の実施形態)−二重同軸ノズル方式−
上述した第1の実施形態で説明した方式では、集光角を大きくするために放電部に近接してガスカーテンを設けると、放電気体(キセノンガスなど)とカーテンガス(ヘリウムガスなど)とが干渉し、圧力整合を取ることが非常に難しくなり、逆に、ガスカーテンと放電部との距離を大きくすると、大きな集光角が得るためにはガスカーテンの幅を大きくしなければならない。そうすると、大量のカーテンガスを消費すると共に、幅広で安定した一様なガスカーテンを発生するためのノズルの設計が困難となる。そこで考え出されたのが本実施形態で説明する方式である。
【0022】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るDPP方式の極紫外光発生装置の一例を示すもので、特に放電部周辺を示している。放電部の構造は従来のものとは全く異なる新規な構成を採用している。図3(a)は、装置の正面図を示しており、図3(b)はその一部断面図を示している。
【0023】
図3(a)及び(b)に示す極紫外光発生装置20は、二種類のガスがそれぞれ通過する第1及び第2のガス流通路24,25を備えたノズル21と、これらの二種類のガスを回収するデフューザ22とを備えており、必要により、予備電離放電管23がノズル21の一端近傍(放電ガス導入側)に設けられている。
【0024】
図4(a)は、図3(b)におけるX−X断面図を、図4(b)は、図3(b)におけるY−Y断面図を示している。図3及び図4に示されるように、このノズル21は、略円筒状であって、その円筒の中心軸に垂直な切断した一断面が円環状である第1のガス流通路24と、その内周部に中心軸を含む円筒状の第2のガス流通路25を備えている。
【0025】
カーテンガス導入口24a及び放電ガス導入口25aから導入されたそれぞれのガスはそれぞれのガス流通路24,25を通り、反対側のガス排出口24b、25bから排出される。
【0026】
一方、これら二種類のガスは図3に示すような位置関係でノズル21と対向して設置されたデフューザ22によってガス回収口26aから回収される。回収したガスはガス流通路26を通り、ガス排出口26bから排気される。このように同軸上かつ同方向にガスが流れるような系の場合、比較的小型の真空ポンプでガスの供給及び排気系の定常運転が可能となる。
【0027】
−放電のメカニズムについて−
従来のキャピラリを用いたDPP方式とは異なり、この実施形態では、ノズル21及びデフューザ22がそれぞれ電極の役割を兼ね備えている。まず、ノズル21から放電ガス及びカーテンガスを流すことにより、外側に筒状のガスカーテンを形成しながらその中心部を所定の圧力となるように調整する。カーテンガスの流速は例えばマッハ5程度とし、放電気体の流速は内圧が所定の放電圧力(例えば、66.5Pa(0.5Torr)乃至665Pa(5Torr))となる程度とする。このように、周囲に高速のガス流を形成すると、中心部のガス密度の低下が抑えられる。
【0028】
この状態で、例えば、ノズル21を陰極としデフューザ22を陽極として、所定の放電回路を用いて両電極の両端に電圧を印加すると、ノズル21とデフューザ22との間に高温高密度のピンチプラズマPが発生し、ノズル及びデフューザの中心軸に対して半径方向(すなわち中心軸に対して垂直な全方向)に極紫外光が放射される。なお、ノズル21及びデフューザ22は電極として用いるので、金属など導電性の部材で構成されていることが必要である。なお、両電極の距離は放電条件により異なるが、例えば最端部で約10mm程度離間するように設けるとよい。
【0029】
上述した放電メカニズムにより高周波数のパルス放電を行う場合、放電管が存在しない(放電管に相当するのは円筒状の高速のガス流である)ため、放電が開始しにくい。そこで、放電の開始効率を高めるために、必要により予備電離放電機構(予備電離放電管及び予備電離回路)を設け、ノズル21の放電ガス導入口25a近傍に予備放電管23を設けることが好ましい。このようにすると、放電気体がノズルの中心軸上で一直線にプラズマジェットを形成するため、確実に放電(予備放電に対し「主放電」という)を開始させることができる。
【0030】
具体的には、予備電離放電管として直流放電管を設け主放電回路の放電電極(ノズル21とデフューザ22の両端)にパルス電圧を印加すると、主放電のピンチプラズマでは少なくとも10kHz程度のパルス放電を行うことができる。もちろん、周波数が低い間は予備電離放電と主放電とを同期させ両方ともパルス放電としても構わない。
【0031】
このようにカーテンガスにより形成される筒状の空間の内部に放電気体を閉じこめて高温高密度ピンチプラズマを発生させるため、ガスカーテンがいわば放電管の役割を果たすこととなる。すなわち、キャピラリ構造体のような放電管を必要としないため、放電部から発生するデブリの発生が抑えられ、万一何らかの原因により主放電部からデブリが発生しても、放電部をガスカーテンがすっぽりと包み込んでいるため、放電部からデブリが外部(集光系)に漏れ出るという心配がない。
【0032】
更に、発光はノズルとデフューザの中心軸に対して半径方向の全方位に放射されるため、集光角が極めて大きい。また、音速レベルのガスカーテンが放電気体を完全に包囲するため、放電気体とガスカーテンの干渉が殆ど起こらない。
【0033】
更に、カーテンガスは例えばマッハ5のような高速で流れているため、電極部(ノズル21及びデフューザ22)の冷却効果も期待され、ゆえに電極から発生するデブリもそれほど多く発生しないと考えられる。
【0034】
なお、上述したようにレーザ生成プラズマ(LPP方式)の場合にも、本発明の第2の実施形態と似た構造の、2つのガス流通路を備えたノズルが知られているが(上掲特許文献2参照)、環状断面を有するガス流通路(同文献における「第2のチャネル」)は中心部を流れる第1のガス流の横方向の膨張を制限するためのものであり、本発明のようにガスカーテンを生成するためのものではない。LPP方式の場合、プラズマ発生のためには外部からレーザを照射しなければならず、ノズル及びデフューザを電極として用いるものでもない。また、LPP方式の場合、予備電離機構は不要である。更に、レーザにより励起するため、デブリ発生の問題はDPP方式ほど深刻な問題とはならない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る極紫外光発生装置によると、デブリの発生を従来よりも大幅に抑えることができる。特に、第2の実施形態で説明した極紫外光発生装置は、従来とは異なる全く新しい放電生成プラズマ発生方式を提案するものであり、デブリの発生を最小限に抑えるだけでなく、広い集光角が得られるという意味において、その技術上の意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の実施形態の一つを示すDPP方式の極紫外光発生装置の一例を示すもので、特に放電部周辺の一部断面図を示している。
【図2】図2はキャピラリ11Cから極紫外光と共に発生したデブリがガスカーテン19により遮断される様子を示す模式図である。(a)は柱状のガスカーテン19aを、(b)は平板状のガスカーテン19bを示している。
【図3】図3は、本発明の第2の実施形態に係るDPP方式の極紫外光発生装置の一例を示すもので、特に放電部周辺の構造を示している。(a)は装置の正面図、(b)は断面図を示している。
【図4】図4(a)は、図3(b)におけるX−X断面図を、図4(b)は、図3(b)におけるY−Y断面図を示している。
【図5】典型的な従来のDPP方式の極紫外光発生装置の一例を示すもので、特に放電部周辺の一部断面図を示している。
【符号の説明】
【0037】
1 第2の実施形態に係る極紫外光発生装置
10 放電ガス導入路
11 キャピラリ(細管)構造体
11C キャピラリ
12 陽極
13 陰極
14 却水導入口
15 冷却水排出口
17 ノズル
18 デフューザ
20 第1の実施形態に係る極紫外光発生装置
21 ノズル(電極)
22 デフューザ(電極)
23 予備電離放電管
24 第1のガス流通路
25 第2のガス流通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電ガスをキャピラリに供給する放電ガス導入路と、前記キャピラリが中心部に配置されその周囲は絶縁体で作られたキャピラリ構造体と、前記キャピラリの両端と接続する陽極及び陰極とを備えており、前記キャピラリの軸上前方にノズル及びデフューザを設け、前記ノズルからカーテンガスを送出し前記デフューザで前記カーテンガスを回収するデブリシールド機構を前記キャピラリの近傍に設けたことを特徴とする極紫外光発生装置。
【請求項2】
環状断面を有する第1のガス流通路とその内側に第2のガス流通路を備えたノズルと、前記第1及び第2のガス流通路に対向して設けられたデフューザとを備え、前記ノズル及び前記デフューザを放電電極として構成したことを特徴とする極紫外光発生装置。
【請求項3】
ノズル及びデフューザが同軸上に配置されると共に、その軸上であって前記ノズルの一端近傍に予備電離機構を更に備えていることを特徴とする請求項2記載の極紫外光発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−54270(P2006−54270A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233957(P2004−233957)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】