説明

極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法およびポリアミドマルチフィラメント糸の溶融紡糸装置

【課題】染め品質の良好な極細ポリアミドマルチフィラメントを、優れた製糸操業性のもとで生産性良く製造する方法および装置を提供する。
【解決手段】単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上のポリアミドマルチフィラメント糸を製造する方法において、ポリアミドを吐出孔が円周状に配列された1つの紡糸口金から溶融吐出し、紡出された糸条を取り囲むように設置された円筒状の冷却装置により糸条に対して全周方向から冷却風を吹き出すように冷却した後、給油を行い、さらに交絡を付与し、少なくとも1対のゴデットローラーを介して、巻き取り装置に3500〜5000m/minの高速で巻き取る極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法、および溶融紡糸装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染め品質の良好な単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上の極細ポリアミドマルチフィラメントを、優れた製糸操業性のもとで生産性良く製造する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の一つであるポリアミド繊維は、高強度、耐摩耗性、ソフト性、染色鮮明性などの優れた特徴を持っているため、パンティストッキング、タイツ等のレッグウェア、ランジェリー、ファンデーション等のインナーウェア、スポーツウェア、カジュアルウェア等の衣料用途に好まれて用いられてきている。
【0003】
近年、更なるソフト感を求める傾向が強まり、従来の単糸繊度1dtex以上のフィラメントでは、そのソフト感が期待できない状況であった。
【0004】
単糸繊度の細いフィラメントを得る方法としては、直接紡糸する方法の他に、複合紡糸により2種類以上のポリマーをいわゆる海島型に複合紡糸し、高次加工過程において分割したり、特定のポリマーを溶出したりすることによって製造する方法が知られている。しかしながら、複合紡糸法では、2種類以上のポリマーを溶融することによる紡糸の難しさや生産性の悪さがあり、さらには設備も非常に高価なものが必要であるうえ、高次加工工程において分割、溶出等処理工程が増えるという欠点があり、コスト面では直接紡糸法に比べて格段に不利であった。
【0005】
一方、直接紡糸法においては、単糸繊度を細くすることにより、ソフト感をアップすることは可能である。しかしながら、直接紡糸法において、糸条繊度をそのままとして単糸繊度を細くする場合には、紡糸口金から吐出されるフィラメント数が非常に多くなり、従来用いられている一方向から冷却風が吹き出される形の冷却装置では、冷却風吹き出し口から各フィラメントまでの距離の差が大きくなるため、十分な均一冷却を行うことが難しかった。その結果、冷却履歴による違いから、糸切れや繊維構造差による染色斑等の品質面において問題が招かれていた。
【0006】
このような問題を解決する一手段としては、糸条の均一冷却を目的として、紡出装置の周囲から冷風を吹き付ける冷却装置、いわゆる環状チムニーの改良型を使用する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この環状チムニーは、周囲から糸条に冷風を吹き付けるため、冷却風が中央部でぶつかり合って乱流を生じ、その結果糸揺れが激しくなり、数本のフィラメントが融着する現象が見られることがあった。また、融着を防ぐためには冷却風の吹き出し量を極力少量とせざるを得なく、これに伴って紡糸速度も著しく低速とする必要を生じるため、生産性が著しく阻害されるという問題点があった。
【0007】
また、フィラメントに融着などが発生しなくても、冷却風は糸条内で乱流を生じ、この乱流に起因して、冷却工程に引き続く給油工程においてフィラメントがばらけやすくなり、給油がされる部分と給油されない部分が発生することによる油分の付着斑が発生するという問題点があった。通常、油剤は水とのエマルジョンの形態である含水油剤として糸条に付与されるが、ポリアミド繊維は、水分によりその後の延伸工程などでの結晶化状態に変化が生じるため、この油剤をできる限り糸条に均一に付与する必要があり、均一に付与ができていないと、染色工程において染色斑が発生することが知られている。
【0008】
なお、5000m/min以上の高速で分割給油した後、合糸することからなるポリエステル繊維の溶融紡糸方法(例えば、特許文献2参照)が知られているが、本発明者らの追試によれば、この方法をポリアミドマルチフィラメントに適用し、一般的に付与する0.4〜1.2重量%の油分を得るために糸条に含水油剤を付与したとしても、水分量が十分ではなく、染色斑の発生は避けられないことが判明した。
【特許文献1】特開昭59−163410号公報
【特許文献2】特開平07−243129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、染め品質の良好な単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上の極細ポリアミドマルチフィラメントを、優れた製糸操業性のもとで生産性良く製造する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明によれば、単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上のポリアミドマルチフィラメント糸を製造する方法において、ポリアミドを吐出孔が円周状に配列された1つの紡糸口金から溶融吐出し、紡出された糸条を取り囲むように設置された円筒状の冷却装置により糸条に対して全周方向から冷却風を吹き出すように冷却した後、給油を行い、さらに交絡を付与し、少なくとも1対のゴデットローラーを介して、巻き取り装置に3500〜5000m/minの高速で巻き取ることを特徴とする極細ポリアミドマルチフィラメント糸の製造方法が提供される。
【0012】
なお、本発明の極細ポリアミドマルチフィラメント糸の製造方法においては、
給油方法が、1段目の給油を行い、さらに交絡を付与した後に、2段目の給油を行うこと、
含水油剤としてポリマー吐出量に対して25重量%以上の給油量を給油することにより1段目の給油を行ない、さらに交絡を付与した後に、1段階目の給油よりも濃度の高い含水油剤を用いて2段階目の給油を行うこと、
紡出された糸条を、2つ以上に分割して1段目の給油を行い、次いで合糸し、1つの糸条として交絡を付与した後に、2段目の給油を行うこと、
1段目の給油を、紡糸口金から400〜1800mmの位置で行うこと、および
1段目の給油を、給油ガイドにより付与し、円周上に配列された吐出孔により描かれる円の直径をa(mm)、給油ガイドの間隔をb(mm)、糸条の分割個数をnとした場合に、aとbとnとが、式1/(n+1)≦b/a≦1/nの関係にあること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0013】
また本発明の装置は、吐出孔が円周状に配列された紡糸口金と、紡出された糸条を取り囲むように設置された円筒状の冷却装置と、1段目の給油装置と、交絡付与装置と、2段目の給油装置と、少なくとも1対のゴデットローラーと巻き取り装置とが紡糸の上流側から順に配設されたポリアミドマルチフィラメント糸の溶融紡糸装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下に説明するとおり、染め品質の良好な単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上の極細ポリアミドマルチフィラメントを、優れた製糸操業性のもとで生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明で用いるポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、その種類については特に制限されない。その例としては、ポリカプラミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミドなどが挙げられる。好ましくは、衣料用途などで広く用いられているポリカプラミド、ポリヘキサメチレンアジパミドである。また、本発明におけるボリアミドには、各種の共重合成分や添加剤、たとえば艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤等を、必要に応じて共重合或いは混合しても良い。
【0017】
本発明の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法においては、ポリアミドを吐出孔が円周状に配列された1つの紡糸口金から溶融吐出し、紡出された糸条を取り囲むように設置された円筒状の冷却装置により糸条に対して全周方向から冷却風を吹き出すように冷却した後、給油を行い、さらに交絡を付与し、少なくとも1対のゴデットローラーを介して延伸した後、巻き取り装置に3500〜5000m/minの高速で巻き取ることが必要である。
【0018】
図1は本発明を実施するための装置の一例を示す説明図である。図1において、1は溶融紡糸機におけるスピンブロックであり、加熱手段(図示せず)により加熱されている。紡糸口金2を前記スピンブロック1に装着し、ポリマーを押し出して糸条を形成し、前記口金2の下流側に設けた環状チムニー3を経た後、2分割して第1給油ガイド4、5により油剤を付与した後、合糸し、さらに交絡ノズル6によりインターレース処理した後に、第2給油ガイド7により油剤を付与して第1ゴデッドローラー8に引き取られ、第2ゴデッドローラー9との間で延伸された後、トラバース10で綾振りされ、ローラーベール11とスピンドル12により巻き取られる。
【0019】
本発明で用いる紡糸口金2は、各フィラメントへの均一冷却ということを達成するために、冷却風までの距離を一定にする必要があり、各吐出孔2aは、図2に示したように円周配列になっていることが必要である。最大でも3列円周配列までの配列が好ましい。
【0020】
本発明で用いる冷却装置は、冷却風までの距離を一定にするために、口金を取り囲むように作られた筒状の冷却装置を用いる。
【0021】
本発明の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造における冷却方法は、図3に示したように、紡出された糸条を取り囲むように設置された円筒状の冷却装置3により、糸条に対して全周方向から冷却風13を矢印のようにやや糸条走行方向に吹き出し、冷却することが必要である。糸条を取り囲むように糸条に対して全周方向から冷却風を吹き出すことによって、冷却装置から各フィラメントまでの距離が均一となり、各フィラメントが均一に冷却される。従来からよく用いられている一方向からの冷却風による冷却では、冷却装置から各フィラメントまでの距離が冷却装置近くと遠くとで異なるため、冷却装置近くのフィラメントは速く冷却固化し、冷却装置遠くのフィラメントはゆっくりと冷却固化することになって、各フィラメント間で冷却履歴に差が生じ、繊維構造差などを生じやすく、その繊維構造差のある糸条が、その後の給油、交絡などの工程において同一条件で処理されることから、毛羽や糸切れが生じやすく、生産性が劣る原因となっていた。しかるに、本発明においては、上記したように、糸条を取り囲むように、外側から内側に向けて走行糸条に対して略垂直方向(やや糸条の走行方向)に冷却風を吹き出すことによって、従来の問題が効率的に解消されるのである。また、この冷却風は、糸条を十分に冷却固化および均一冷却させるために、20℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは18℃以下である。
【0022】
本発明の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法における給油方法は、1段目の給油を行い、さらに交絡を付与した後に、2段目の給油を行うことが好ましい。
【0023】
ポリアミドは、ポリエステルとは異なり、水により結晶配向化が進みやすいポリマーである。そのため、給油時の水分量によって、各フィラメントに繊維構造(配向結晶化)に違いが生じる。この繊維構造の差が、染色工程において染着差となり、染色斑を発生させる。したがって、各フィラメントに十分な水分を与えることが重要である。しかし、1段目のみの含水給油の場合に、十分な量の水分を付与しようとすると、油剤付着量が過剰になるもしくは不足するなど、油分をコントロールするのが困難になり、糸切れが増加したり、毛羽が発生したり、生産性が低下したりする。適量の油分・水分を付着させるためには、油剤濃度が5〜15重量%の油剤を大量に供給する必要があり、油剤の無駄になることが多い。したがって、1段目の給油で、ポリアミドマルチフィラメントに十分な量の水分を付与し、2段目の給油で、油分を付与することにより、各フィラメントの繊維構造を均一にすることができ、かつ適量の油分を付着することができる。なお、非含水給油の場合は、1段目給油だけでも、染色性に関しては、問題ないが、均一付与が難しく、製糸性の点で劣る。
【0024】
本発明における1段目の給油は、含水油剤としてポリマー吐出量に対して25重量%以上の給油量を給油した後、交絡を付与し、1段目の給油よりも濃度の高い含水油剤を用いて2段目の給油を行われることが好ましい。
【0025】
本発明における1段目の給油に使用する油剤は、主に水分を付与することが目的のため、含水油剤であることが好ましい。その含水油剤の油剤濃度(界面活性剤濃度)は、1.5重量%以下であることが好ましく、0.4〜1.2重量%であることがさらに好ましい。油剤濃度が0.4重量%未満の場合は、各フィラメントへの水分の浸透性が悪くなる。1.5重量%を越えると、水分が付きにくくなって、給油吐出量を上げざるを得なくなり、結果として大量の油剤が必要になるため、油剤の無駄が多くなるばかりか、油剤の飛散による作業環境の悪化および製品汚れなどによる製品欠点が多くなり、生産効率を落とすことになる。
【0026】
特に50フィラメント以上のマルチフィラメントの場合は、給油量が少ないと各フィラメントに十分な量の水分を供給できないので、ポリマー吐出量に対して25重量%以上の給油量が好ましく、さらに好ましくは28〜35重量%である。
【0027】
また、2段目の給油の前に交絡をかけることにより、1段目の給油により過剰に付けられた油剤を吹き飛ばすとともに、マイグレーション効果により油剤の各フィラメントに対する均一付与性が増加するため、引き続き行われる2段目の給油も均一付与性を高めることができる。
【0028】
本発明における2段目の給油に使用する油剤は、主に油剤本来の有効成分を付与することが目的のため、1段目の給油に使用する油剤よりも濃度の高い含水油剤を使用することが好ましい。その含水油剤の油剤濃度は8〜16重量%がさらに好ましい。かかる範囲とすることにより、適正な給油量にすることができ、油分の均一付着性を向上することができる。
【0029】
本発明における給油方法としては、例えば図1に示すように、糸条を2つ以上に分割して1段目の給油(4、5)を行い、合糸し、1つの糸条として交絡(6)を付与した後に、さらに2段目の給油(7)を行うことが好ましい。
【0030】
特に50フィラメント以上のマルチフィラメントにおいては、2つ以上に分割されていることが好ましい。1糸条当たりの分割数としては、50〜100フィラメントまでは2分割、100〜150フィラメントまでは3分割、150フィラメント以上の場合は、状況に応じてさらに分割することができる。かかる範囲とすることにより、各フィラメントに均一に水分を付着することができ、染色斑のない染色品位良好なポリアミドマルチフィラメントを得ることができる。
【0031】
また、1段目の給油方法は、紡糸口金2から400〜1800mmの位置で給油することが好ましい。400mmよりも短いと、糸条が持ち込む随伴気流は少ないために、給油時の油剤の飛散は少ないが、各フィラメントが十分に冷却されていない状態で収束するため、隣接するフィラメントの融着が発生したり、毛羽の発生が多くなり、生産性が低下する傾向となる。また、1800mm以上離れると、糸条が持ち込む随伴気流が多くなり、給油時の油剤の飛散が多く、油剤の均一付与が難しくなるばかりか、外側から内側に向けて冷却風を出しているため、糸条の内側で冷却風が旋回流となって、糸揺れが大きくなり、糸切れや隣接するフィラメントの融着が発生し、生産が低下する傾向となる。さらに好ましくは、紡糸口金2から600〜1600mmの位置である。
【0032】
さらに、1段目の給油方法は、給油ガイドにより油剤を付与し、円周上に配列された口金孔により描かれる円の直径をa(mm)、給油ガイドの間隔をb(mm)、分割個数をnとした場合に、aとbとnとが、式1/(n+1)≦b/a≦1/nの関係にあることが好ましい。
【0033】
分割された給油ガイドの位置は、そのガイドを使用するフィラメント群の口金孔の中心位置が好ましい。給油ガイドの間隔b(mm)が狭くなると、随伴気流による影響を受けるために、均一給油が難しくなる。
【0034】
本発明の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法における引き取り方法は、油剤付与後に、少なくとも一対のゴデッドローラー(8、9)で引き取るが、そのゴデッドローラーとして加熱されたローラーを用いるかどうかは任意である。また、ローラー間で1.0〜3.0倍に延伸してもよい。
本発明の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法における巻き取り速度は、3500〜5000m/minであることが必要である。3500m/min未満の場合、引き取り速度(ローラー8の速度)が遅く、特に、例えば延伸倍率1.8倍の延伸を行った場合、その引き取り速度は2000m/minと遅くなり、ポリアミドの繊維構造が、低配向、低結晶性の未延伸糸に可塑剤としての水分を付与することになり、少しの不均一付与が、その後の延伸工程で、繊維構造(配向結晶化)に違いを生じ、染色斑の原因となる。一方、巻き取り速度が高速になれば生産性は向上するが、5000m/minを越えると、特に0.8デシテックス以下の単糸繊度が細いフィラメントにおいては、随伴気流が多くなることにより、糸揺れが大きくなり、糸切れの増加や、毛羽の増加となり生産性が低下することになる。
【0035】
本発明でいう極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法は、0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上のかかる範囲において効果的に作用する。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、染め品質の良好な単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上の極細ポリアミドマルチフィラメントを、優れた製糸操業性のもとで生産性良く製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例および比較例における各測定値や評価方法は、次の方法で得たものである。
【0038】
[ウースター斑(U%)]
keisokki社製 USTER TESTER IIIにて測定した繊維の長手方向の太さ変動を測定し、得られたU%(HI)により評価した。測定条件は、糸速100m/min、5分間とした。
【0039】
[染色品位]
繊維を筒編み(筒編み地長15cm)、染色(含金染料 Palatine Fast Black WAN、0.5重量%)した後に、目視にて判定した。5段階にて評価し、評価基準は次の通りである。
○ :全く染色斑が見られず、合格、
○〜△:よく見ると染色斑が見られるが、合格、
△ :若干の染色斑が見えるが、実用上は問題内範囲であり、合格、
△〜×:染色斑が見え、不合格、
× :染色斑が目立ち、不合格。
【0040】
[製糸性]
1tの製糸を実施し、その間の糸切れ回数により製糸性を評価した。
【0041】
[98%硫酸粘度]
98%硫酸にチップを溶解し、オストワルド粘度計で25℃の恒温下で測定し、98%硫酸の粘度比で示した。
【0042】
[実施例1、2、4〜6]
98%硫酸相対粘度2.60のポリヘキサメチレンアジパミドチップを290℃で溶融し、図2に示す吐出孔を円周状に1列に配列した口金(孔径0.15mm、a=80mm)から吐出し、図1に示すプロセスで製造した。すなわち、紡出された糸条を環状チムニー(1)により糸条に対して全周方向から16℃の冷却風を吹き出すように冷却し、表1に示す条件で1段目の給油(4、5)を行い、交絡を付与した後に、表1に示す条件で2段目の給油(7)を行い、第1ゴデッドローラー(8)と第2ゴデッドローラー(9)(倍率1.04)を介して巻き取り装置(10)に4200m/minで巻き取り、56デシテックス98フィラメントのポリヘキサメチレンアジパミドマルチフィラメントを得た。
【0043】
得られたポリヘキサメチレンアジパミドフィラメントについて、ウースター斑、染色品位、製糸性について評価した結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3、比較例1,2]
巻き取り速度を4800、3000、5500m/minとした以外は、実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス98フィラメントのポリヘキサメチレンアジパミドマルチフィラメントを得た。
【0045】
得られたポリヘキサメチレンアジパミドフィラメントについて、ウースター斑、染色品位、製糸性について評価した結果を表1に示す。
【0046】
[比較例3]
紡出された糸条を一方向からの冷却風による冷却装置とした以外は、実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス98フィラメントのポリヘキサメチレンアジパミドマルチフィラメントを得た
得られたポリヘキサメチレンアジパミドフィラメントについて、ウースター斑、染色品位、製糸性について評価した結果を表1に示す。
【0047】
[比較例4]
1段目の油剤濃度を6重量%、2段目の給油を行わない以外は、実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス98フィラメントのポリヘキサメチレンアジパミドマルチフィラメントを得た。
【0048】
得られたポリヘキサメチレンアジパミドフィラメントについて、ウースター斑、染色品位、製糸性について評価した結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
以上の実施例1〜6の結果、製糸性は生産として耐えうるレベル(糸切れ:1〜6回/t)であり、染色品位、ウースター斑について良好な結果が得られた。
【0051】
一方、比較例1、3、4は実施例1〜6と比較して、巻き取り速度が遅い、一方方向からの冷却風による冷却装置、2段目の給油なしのものは、染色品位が不合格であることがわかる。また、比較例2は実施例1〜6と比較して糸切れが高く生産性に劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、染め品質の良好な単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上の極細ポリアミドマルチフィラメントを、優れた製糸操業性のもとで生産性良く製造することができるため、合成繊維業界への貢献度が高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を実施するための装置の一例を示す説明図
【図2】本発明で使用する紡糸口金の一例を示す平面図
【図3】本発明で使用する冷却装置の一例を示す説明図
【符号の説明】
【0054】
1:スピンブロック
2:紡糸口金
2a:吐出孔
3:円筒状の冷却装置(環状チムニー)
4:1段目給油装置
5:1段目給油装置
6:交絡ノズル
7:2段目給油装置
8:第1ゴデッドローラー
9:第2ゴデッドローラー
10:トラバース
11:ローラーベール
12:スピンドル
13:冷却風
a:口金の吐出孔により描かれる円の直径
b:2個の冷却装置の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が0.8デシテックス以下かつ50フィラメント以上のポリアミドマルチフィラメント糸を製造する方法において、ポリアミドを吐出孔が円周状に配列された1つの紡糸口金から溶融吐出し、紡出された糸条を取り囲むように設置された円筒状の冷却装置により糸条に対して全周方向から冷却風を吹き出すように冷却した後、給油を行い、さらに交絡を付与し、少なくとも1対のゴデットローラーを介して、巻き取り装置に3500〜5000m/minの高速で巻き取ることを特徴とする極細ポリアミドマルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項2】
給油方法が、冷却後に1段目の給油を行い、さらに交絡を付与した後に、2段目の給油を行うことを特徴とする請求項1記載の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法。
【請求項3】
含水油剤としてポリマー吐出量に対して25重量%以上の給油量を給油することにより1段目の給油を行ない、さらに交絡を付与した後に、1段階目の給油よりも濃度の高い含水油剤を用いて2段階目の給油を行うことを特徴とする請求項2記載の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法。
【請求項4】
紡出された糸条を、2つ以上に分割して1段目の給油を行い、次いで合糸し、1つの糸条として交絡を付与した後に、2段目の給油を行うことを特徴とする請求項2記載の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法。
【請求項5】
冷却後の給油を、紡糸口金から400〜1800mmの位置で行うことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法。
【請求項6】
冷却後の給油を、給油ガイドにより付与し、円周上に配列された口金孔により描かれる円の直径をa(mm)、給油ガイドの間隔をb(mm)、糸条の分割個数をnとした場合に、aとbとnとが、式1/(n+1)≦b/a≦1/nの関係にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の極細ポリアミドマルチフィラメントの製造方法。
【請求項7】
吐出孔が円周状に配列された紡糸口金と、紡出された糸条を取り囲むように設置された円筒状の冷却装置と、1段目の給油装置と、交絡付与装置と、2段目の給油装置と、少なくとも1対のゴデットローラーと巻き取り装置とが紡糸の上流側から順に配設されたポリアミドマルチフィラメント糸の溶融紡糸装置。
【請求項8】
前記1段目の給油装置が給油ガイドであって、前記紡糸口金下面に対して、前記給油ガイドの油剤吐出孔位置が400〜1800mmの範囲である請求項7記載のポリアミドマルチフィラメント糸の溶融紡糸装置。
【請求項9】
前記1段目の給油装置が給油ガイドであって、前記紡糸口金下面に対して、前記給油ガイドの油剤吐出孔位置を400〜1800mmの範囲で任意に変更可能な請求項7記載のポリアミドマルチフィラメント糸の溶融紡糸装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−77547(P2007−77547A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268445(P2005−268445)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】