説明

極細線のダイス通し治具

【課題】極細線の伸線工程において、未熟練者でもワイヤー先端をダイス内に簡単に通すことを可能にした、線材のダイス通し治具を提供する。
【解決手段】ダイス1を着脱可能に保持し且つ該ダイス1の加工穴2の中心軸線と直交する面内で該ダイス1をXY方向に移動させ得るダイス保持手段3,4,12と、該ダイス保持手段と一体的に構成された支持台11と、該支持台11上に摺動可能に装架されていて被加工線材5を前記加工穴の中心軸線上に案内すると共に前記加工穴2のエントランス部2aに潜入可能の先端部を有するガイド手段6,7,8,10と、前記ダイス保持手段または支持台11を回動可能に支持すると共に該ダイス保持手段及び支持台11を上方より前記加工穴の入口が見える位置と前記ダイスの裏面が上方を向く位置とに保持し得るストッパー15a,15bを有する基台14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端を効率よくダイスに差し込むことを可能にした線材特に極細線のダイス通し治具に関する。
【背景技術】
【0002】
IC用ワイヤー等の極細線は、前工程より供給されたワイヤーをドローイングマシンと呼ばれる伸線機の中で、太径のダイスから細径のダイスへと順次通過させる伸線加工によって製造される。その際、各ダイスにワイヤーを通す作業は、ワイヤーの先端をエッチングやシゴキ加工によってテーパー状に成型した後に、作業者によってダイス一つずつに対して行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、伸線されるワイヤーが細く剛性が小さいことや、ダイス穴が小さく肉眼ではほとんど見えないことや、さらにダイスのマウント材と加工部分との間に段差があり、ワイヤー先端を正確に加工部のダイス穴に導入しなければならないことなどの理由のため、その作業を行うのには一定の訓練期間が必要とされている。それに加え、近年供給が求められている超極細線化によって剛性が益々弱くなり、さらに作業の困難さが増加している。
それにも拘わらず、この困難性を解決するための出願や文献等には実績がなく、一部の作業者により拡大レンズ等の使用も試みられているが、十分な成果が得られず、労働力の流動化による経験者の減少の中で、この作業によって生産性の向上がはかれない等の問題が発生している。
【0004】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金線等極細線の伸線工程において、未熟練者でもワイヤー先端をダイス内に簡単に通すことを可能にした、線材のダイス通し治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するため、本発明による線材のダイス通し治具は、ダイスを着脱可能に保持し且つ該ダイスの加工穴の中心軸線と直交する面内で該ダイスをXY方向に移動させ得るダイス保持手段と、該ダイス保持手段と一体的に構成された支持台と、該支持台上に摺動可能に装架されていて被加工線材を前記加工穴の中心軸線上に案内すると共に前記加工穴のエントランス部に潜入可能の先端部を有するガイド手段と、前記ダイス保持手段または支持台を回動可能に支持すると共に該ダイス保持手段及び支持台を上方より前記加工穴の入口が見える位置と前記ダイスの裏面が上方を向く位置とに保持し得るストッパーを有する基台とを備えている。
【0006】
本発明によれば、前記ガイド手段は、被加工線材を案内する案内溝と該案内溝内に被加工線材を定置させる着脱可能の押さえ板とを含んでいる。
【0007】
また、本発明による線材のダイス通し治具は、前記ダイスの表裏面を上方から拡大して観察し得るモニター用カメラと、該カメラに接続されたモニターとを更に備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、線材特に金線等極細線の伸線工程において、未熟練者でも伸線作業を簡単かつ能率的に行うことができ、装置の稼動率の向上をはかることが可能な、線材のダイス通し治具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図示した実施例に基づき説明する。
図1は、本発明に係る線材のダイス通し治具の一実施例の概略構成図、図2はダイスの一部を破断して示すワイヤーガイド部の拡大斜視図である。
【0010】
本ダイス通し治具は、図1及び2に示すように、ダイス1の加工穴2を上方斜めに向けて保持し得るダイスホルダー3と、ダイス1をダイスホルダー3に着脱可能に取り付け得るダイス押さえ4と、ワイヤー(被加工線材)5の案内溝6を持ち、先端がダイス1のエントランス部と呼ばれる円錐形凹部1a内に潜り込むことが出来るように成形されたワイヤーガイド板7と、案内溝6内のワイヤー5が座屈しないようにワイヤーガイド板7に取り付けられた先端がワイヤーガイド板7の先端と同様に成形されたワイヤー上ガイド8と、ワイヤー5をワイヤーガイド板7上に一時的に固定し得るワイヤー押さえ9と、ワイヤーガイド板7を担持するスライドテーブル10と、スライドテーブル10をダイス1の加工穴2の中心軸線に沿って移動可能に支持する支持台11と、調節ツマミ12a,12bを有する周知のボールネジ機構等を介してダイスホルダー3をワイヤー5の中心軸線に対して直交する面内でX−Y方向に移動可能に支持するダイスホルダーテーブル12と、支持台11とダイスホルダーテーブル12がユニットとなるように一体に支持する支持板13と、支持台11を回動可能に支持する基台14と、基台14上に植設され支持板13と当接して支持台11とダイスホルダーテーブル12を図1に示す位置に保持し得るストッパー15aと、支持台11とダイスホルダーテーブル12を図4に示す水平位置(ダイス1の裏面を上から見得る位置)に保持し得るストッパー15bより構成されている。
【0011】
上記ユニットの上方には、ダイス1の表裏面を確認できる位置にセットされた一対のモニター用カメラ16a,16bが設けられており、このモニター用カメラ16a,16bには、作業者が見易い位置に置かれたモニター17が接続されている。
【0012】
上記案内溝6は、ワイヤー5をダイス1の加工穴2の中心軸線上に案内し得るように穿設されている。なお、ダイスホルダーテーブル12を、ワイヤー5の中心軸線に対して直交する面内でX−Y方向に移動可能に支持するのに、上記のボールネジ機構に代えて、周知のラック・ピニオン機構が用いられてもよい。また、支持台11の代わりに、ダイスホルダーテーブル12が基台14に回動可能に支持されるように構成されてもよい。
【0013】
次に、上記装置の作用を説明する。
エッチングやしごき作業によって、図3に示すように伸線加工すべきワイヤーの先端部5aをテーパー状に加工し、このワイヤー5を、先端からワイヤーガイド板7と上ガイド板8の間にあるワイヤーガイド板7上の案内溝6内に差し込み、その先端がワイヤーガイド板7の先端から約ダイス1の厚み分だけ突出した位置で、ワイヤー後部をワイヤー押さえ9によってワイヤーガイド板7上に固定する(図2参照)。
【0014】
その状態で、モニター用カメラ16aを通してモニター17で拡大された映像を見ながらワイヤーガイド板7をダイス1の方向に移動させる。こうしてダイス1内の加工穴2にワイヤー5の先端が挿入されるが、この時、ダイス1の加工穴2の形状や、ワイヤー5の先端の曲がり等によって位置ずれが発生した場合は、調整ツマミ12a,12bを適宜廻して、ダイスホルダーテーブル12をワイヤー5に対しX−Y方向に移動させて、位置調整を行う。
【0015】
このようにして、ワイヤー5がダイス1内の加工穴2内に挿入されたことを確認した後、スライドテーブル10を図示しない周知の方法で支持台11に固定し、ユニット全体即ち支持台11とダイスホルダーテーブル12を一体的に、支持板13がストッパー15bに当接する位置まで時計回転させる(図4参照)。
【0016】
その後、ダイス1の裏面をモニター用カメラ16bを介してモニター17で観察しながら、裏面に出ているワイヤー5のテーパー状先端部5aをピンセット18でつまみ、上方に引き出す。
【0017】
この状態でワイヤー5とダイス1をダイスホルダー3から取り外し、これを図示しない周知の伸線機のダイス位置決め部にセットして、伸線加工を行う。
【0018】
更に伸線加工を行う場合は、再びそのワイヤーの先端部をテーパー状に成形し、更に穴径の小さいダイスを用いて上記作業を繰り返す。かくして、所望の径の極細線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るダイス通し治具の一実施例の概略構成図である。
【図2】ダイスの一部を破断して示すワイヤーガイド部の拡大斜視図である。
【図3】先端をテーパー状に加工したワイヤーの側面図である。
【図4】図1に示すダイス通し治具を時計方向へ所定位置まで回転させた状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ダイス
2 ダイス内の加工穴
3 ダイスホルダー
4 ダイス押さえ
5 ワイヤー
5a ワイヤー先端部
6 案内溝
7 ワイヤーガイド板
8 ワイヤー上ガイド
9 ワイヤー押さえ
10 スライドテーブル
11 支持台
12 ダイスホルダーテーブル
12a,12b 調整ツマミ
13 支持板
14 基台
15a,15b ストッパー
16a,16b モニター用カメラ
17 モニター
18 ピンセット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイスを着脱可能に保持し且つ該ダイスの加工穴の中心軸線と直交する面内で該ダイスをXY方向に移動させ得るダイス保持手段と、該ダイス保持手段と一体的に構成された支持台と、該支持台上に摺動可能に装架されていて被加工線材を前記加工穴の中心軸線上に案内すると共に前記加工穴のエントランス部に潜入可能の先端部を有するガイド手段と、前記ダイス保持手段または支持台を回動可能に支持すると共に該ダイス保持手段及び支持台を上方より前記加工穴の入口が見える位置と前記ダイスの裏面が上方を向く位置とに保持し得るストッパーを有する基台とを備えた線材のダイス通し治具。
【請求項2】
前記ガイド手段は、被加工線材を案内する案内溝と、該案内溝内に被加工線材を定置させる着脱可能の押さえ板と、を含んでいる請求項1に記載の線材のダイス通し治具。
【請求項3】
前記ダイスの表裏面を上方から拡大して観察し得るモニター用カメラと、該カメラに接続されたモニターとを更に備えている線材のダイス通し治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−29998(P2007−29998A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217779(P2005−217779)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】