説明

楽音出力装置および楽音出力プログラム

【課題】楽音を発音するときに、複数の波形信号を独立して出力する場合と、それらを混合して出力する場合とで、いずれも音質の良い楽音が出力できる楽音出力装置および楽音出力プログラムを提供すること。
【解決手段】モノラル出力モードに設定される場合には(S9:Yes)、左右2チャンネル(Lch,Rch)の波形信号を混合して位相干渉が生じないように、各波形信号に与えるべき遅延時間を決定し(S10,S11)、この遅延時間を音源回路7に設定する(S12)。音源回路7は、設定された遅延時間に従って、左右2チャンネルの波形信号を遅延させて発生させるので、これらの波形信号が混合された場合に、位相干渉による音質の劣化が抑制される。一方、モノラル出力フラグ4aが「0」である場合には(S9:No)、臨場感の高い楽音が再生されるように、各チャンネルの波形信号に与えるべき遅延時間を零に設定する(S13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽音出力装置および楽音出力プログラムに関し、特に、楽音を発音するときに、複数の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、それらを混合して出力する場合とで、いずれも音質の良い楽音が出力できる楽音出力装置および楽音出力プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステレオ用音色とモノラル用音色とを別々に記憶しておき、出力モードに応じて使用する音色を切り替える楽音発生装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載された楽音発生装置では、ステレオ用音色とモノラル用音色とが別々に生成されるので、音質のよいステレオ再生とモノラル再生とが行えるものの、ステレオ用音色とモノラル用音色とをそれぞれ別個に記憶しておく必要があるので、大容量のメモリが必要となる。
【0004】
一方、ステレオ用音色をモノラル出力する別の手法として、ステレオ用音色を構成する左右2つの波形信号を混合してモノラル出力する方法がある。この方法では、ステレオ用音色のみを記憶しておけばよいので、メモリ容量の増加を抑制することができる。
【特許文献1】特開平03−167599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、左右2つの波形信号を単純に混合すると、それぞれの波形信号が互いに位相干渉を起こして基音成分または倍音成分が打ち消しあい、発音すべき楽音として正確な音が再生されないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、楽音を発音するときに、複数の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、それらを混合して出力する場合とで、いずれも音質の良い楽音が出力できる楽音出力装置および楽音出力プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載の楽音出力装置は、楽音の発音指示を受けて、前記楽音に対応する第1の波形信号および第2の波形信号を発生させる波形信号発生手段と、その波形信号発生手段により発生する前記第1および第2の波形信号を混合する混合手段と、前記発音指示に応じて、前記楽音に対応する波形信号を出力する出力手段と、その出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力するか、前記混合手段により混合された波形信号を出力するかを選択する選択手段と、その選択手段の選択によって、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合とで、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせる時間調整手段とを備えている。
【0008】
請求項2記載の楽音出力装置は、請求項1記載の楽音出力装置において、前記時間調整手段は、前記選択手段の選択によって、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合とで、前記第1および第2の波形信号の発生タイミングを異ならせるように前記波形信号発生手段を制御することで、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせる。
【0009】
請求項3記載の楽音出力装置は、請求項1又は2記載の楽音出力装置において、前記時間調整手段は、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合には、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を零に設定し、前記出力手段より前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合には、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を零以外の値に設定する。
【0010】
請求項4記載の楽音出力装置は、請求項1から3のいずれか記載の楽音出力装置において、前記時間調整手段は、前記波形信号発生手段により発生する前記第1および第2の波形信号に応じて、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせる。
【0011】
請求項5記載の楽音出力装置は、請求項1から4のいずれか記載の楽音出力装置において、前記発音指示は、発音すべき楽音の音色を指示する音色情報、発音すべき楽音の音高を指示する音高情報、および、発音すべき楽音の強度を指示するベロシティ情報の少なくとも1つを含み、前記波形信号発生手段は、その発音指示に含まれる音色情報、音高情報およびベロシティ情報の少なくとも1つに対応して第1および第2の波形信号を発生するものであり、前記時間調整手段は、前記楽音の音色情報、音高情報、およびベロシティ情報の少なくとも1つに応じて、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を設定する。
【0012】
請求項6記載の楽音出力プログラムは、楽音の発音指示に応じて、その楽音に対応する波形信号を出力する出力手段を備えた楽音出力装置により実行されるプログラムであって、前記発音指示を受けて、前記楽音に対応する第1の波形信号および第2の波形信号を発生させる波形信号発生ステップと、前記波形信号発生ステップにより発生する前記第1および第2の波形信号を混合する混合ステップと、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力するか、前記混合手段により混合された波形信号を出力するかを選択する選択ステップと、その選択ステップの選択によって、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合とで、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせる時間調整ステップとを備えている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の楽音出力装置によれば、楽音の発音指示がなされると、その発音指示された楽音に対応する第1の波形信号および第2の波形信号が波形信号発生手段によって発生する。また、その波形信号発生手段により発生する前記第1および第2の波形信号が混合手段によって混合される。そして、選択手段の選択によって、出力手段から、第1および第2の波形信号がそれぞれ独立して出力されるか、もしくは、混合手段により第1および第2の波形信号が混合された波形信号が出力される。
【0014】
ここで、本発明によれば、第1および第2の波形信号がそれぞれ独立して出力手段より出力される場合と、混合手段により混合された波形信号が出力手段より出力される場合とで、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が、時間調整手段によって異なるように構成されている。これにより、それぞれの場合で音質が高くなるように、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を各々調整することができる。よって、複数の波形信号を独立して出力する場合と、それらを混合して出力する場合とで、いずれも音質の良い楽音が出力できるという効果がある。
【0015】
請求項2記載の楽音出力装置によれば、請求項1記載の楽音出力装置の奏する効果に加え、時間調整手段が、選択手段の選択によって、出力手段より第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、混合手段により混合された波形信号を出力する場合とで、第1および第2の波形信号の発生タイミングを異ならせるように波形信号発生手段を制御することで、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせるように構成されているので、第1および第2の波形信号の発生タイミングをそれぞれ制御することで、容易に第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を各々調整することができるという効果がある。
【0016】
請求項3記載の楽音出力装置によれば、請求項1又は2記載の楽音出力装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。第1および第2の波形信号がそれぞれ独立して出力手段より出力される場合には、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が時間調整手段によって零に設定され、混合手段により混合された波形信号が出力手段より出力される場合には、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が時間調整手段によって零以外の値に設定される。これにより、臨場感の高い楽音が得られる第1および第2の波形信号が波形信号生成手段により生成されれば、第1および第2の波形信号がそれぞれ独立して出力される場合には、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的なずれが生じないので、その出力された第1および第2の波形信号によって臨場感の高い楽音を得ることができる。一方、混合手段により混合された波形信号が出力される場合には、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が零以外の値に設定されるので、混合によってこれらの波形信号の間で位相干渉が起きないようにすることができる。従って、複数の波形信号を独立して出力する場合と、それらを混合して出力する場合とで、いずれも音質の良い楽音が出力できるという効果がある。
【0017】
請求項4記載の楽音出力装置によれば、請求項1から3のいずれか記載の楽音出力装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。時間調整手段が、波形信号発生手段により発生する第1および第2の波形信号に応じて、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせるように構成されている。これにより、混合手段により混合された波形信号が出力手段により出力される場合には、発音指示により指示された楽音に対応して波形信号発生手段により発生する第1の波形信号および第2の波形信号の組み合わせに応じて、混合によって第1および第2の波形信号の間で位相干渉が起きないように第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせることができる。よって、波形信号発生手段により発生した第1および第2の波形信号の組み合わせが複数存在する場合であっても、音質の良い楽音が出力できるという効果がある。
【0018】
請求項5記載の楽音出力装置によれば、請求項1から4のいずれか記載の楽音出力装置の奏する効果に加え、発音指示に少なくとも1つ含まれる発音すべき楽音の音色情報、音高情報、およびベロシティ情報に対応して、波形信号発生手段により第1および第2の波形信号が発生され、その楽音の音色情報、音高情報、およびベロシティ情報の少なくとも1つに応じて、第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が時間調整手段により設定されるので、音色情報、音高情報、およびベロシティ情報の少なくとも1つによって決まる楽音毎に、混合によって第1および第2の波形信号の間で位相干渉が起こらないように、これらの波形信号の相対的にずらす時間を調整することができる。従って、いずれの楽音においても、音質の良い楽音が出力できるという効果がある。
【0019】
請求項6記載の楽音出力プログラムによれば、本プログラムが楽音出力装置によって実行されることにより、請求項1記載の楽音出力装置と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における電子楽器1の電気的構成を示したブロック図である。この電子楽器1は、ライン出力回路10から楽音を出力するときに、左右2チャンネル(Lch,Rch)からそれぞれ独立した波形信号を出力するステレオ出力モードと、左右2チャンネルの波形信号を混合して出力するモノラル出力モードとを有しており、ステレオ出力モードと、モノラル出力モードとで、いずれも音質の良い楽音が出力できる装置である。
【0021】
電子楽器1は、図1に示すように、CPU(Central Processing Unit)2、ROM(Read Only Memory)3、RAM(Random Access Memory)4、操作ボタン5、鍵盤6、音源回路7、DSP(Digital Signal Processor)8、デジタル−アナログ変換器9(以下、「D/A変換器9」と称する)、ライン出力回路10、ヘッドフォン出力回路11を備えており、このうち、CPU2、ROM3、RAM4、操作ボタン5、鍵盤6、音源回路7、ライン出力回路10は、バスライン12を介して互いに接続されている。
【0022】
また、音源回路7によって発生した左右2チャンネルの波形信号は、DSP8、D/A変換器9を介して、ライン出力回路10およびヘッドフォン出力回路11に伝達され、ライン出力回路10およびヘッドフォン出力回路11からその波形信号に対応する楽音が出力される。
【0023】
CPU2は、ROM3やRAM4に記憶されるプログラムやデータに従って、或いは操作ボタン5および鍵盤6の操作状態に従って、バスライン10によって接続された各部を制御する演算装置である。
【0024】
ROM3は、CPU2によって実行される制御プログラム3aや、遅延時間テーブル3bおよびテーブル定義用テーブル3cを含む固定値データを記憶する書き換え不能なメモリである。制御プログラム3aは、後述する図4に図示されたフローチャート(メイン処理のフローチャート)のプログラムを含んでおり、CPU2がこのプログラムを実行することによって、ステレオ出力モードと、モノラル出力モードとで、ライン出力回路10からいずれも音質の良い楽音が出力される。
【0025】
遅延時間テーブル3bおよびテーブル定義用テーブル3cは、モノラル出力モードにおいて、発音すべき楽音に対して音源回路7により発生させられる、左右2チャンネルの波形信号に対して、与えるべき遅延時間をそれぞれ決定するためのテーブルである。尚、遅延時間テーブル3bおよびテーブル定義用テーブル3cの詳細については、図2を参照して後述する。
【0026】
RAM4は、CPU2による制御プログラム3aの実行時に、各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。このRAM4には、モノラル出力フラグ4aが格納される。
【0027】
モノラル出力フラグ4aは、ライン出力回路10の出力モードを設定するためのフラグであり、このフラグの値が「1」の場合には、ライン出力回路10の出力モードをモノラル出力モードに設定し、「0」の場合には、ステレオ出力モードに設定する。
【0028】
このモノラル出力フラグ4aは、ライン出力回路10に設けられたプラグ検出センサ10aによって、ライン出力回路10の左右2チャンネルの出力用ジャック(図示せず)のうち、左チャンネル(Lch)の出力用ジャックのみにプラグが挿入されていると検出された場合には、CPU2によってモノラル出力フラグ4aが「1」に設定され、ライン出力回路10はモノラル出力モードに設定される。一方、その他の場合には、モノラル出力フラグ4aは「0」に設定され、ライン出力回路10はステレオ出力モードに設定される。
【0029】
操作ボタン5は、電子楽器1に対して各種設定や指示を行うボタンで、その操作に応じて電子楽器1の動作条件が設定される。この操作ボタン5には、音色設定ボタン5aが設けられている。
【0030】
音色設定ボタン5aは、鍵盤6の各鍵に割り当てる楽音の音色毎に設けられた複数のボタン(例えば、「ピアノ1」ボタン、「ピアノ2」ボタン、「バイオリン」ボタンなど)を有している。CPU2は、その複数のボタンのうちいずれかのボタンが押されたことを検出すると、そのボタンに対応する楽音の音色を指示する音色情報を音源回路7に設定する。これにより、鍵盤6の各鍵に所望の楽音の音色が設定される。
【0031】
鍵盤6は、電子楽器1における楽音の発音指示を行う部材であり、複数の鍵によって構成されている。各鍵には、押鍵時の速度(以下、「押鍵速度」と称する)を検出するセンサ(図示せず)が設けられており、鍵盤6の鍵が押鍵されると、押鍵時に検出された押鍵速度情報と、その鍵に割り当てられた楽音の音高を指示するノートナンバ情報とを、発音指示情報としてCPU2に送信する。
【0032】
CPU2は、発音指示情報(押鍵速度情報、ノートナンバ情報)を受け取ると、押鍵速度情報を楽音の強度を指示するベロシティ情報に変換すると共に、音源回路7にノートナンバ情報とベロシティ情報を設定した上で、波形信号の発生指示を行う。これにより、音源回路7から左右2チャンネルのそれぞれに、鍵盤6によって発音指示された楽音に対応する波形信号が発生される。
【0033】
また、ライン出力回路10の出力モードがモノラル出力モードである場合には、音源回路7に波形信号の発生指示を行う前に、発音すべき楽音の音色情報、ベロシティ情報およびノートナンバ情報に基づき、遅延時間テーブル3bおよびテーブル定義用テーブル3cを用いて、左右2チャンネルのそれぞれに与えるべき遅延時間を決定する。
【0034】
音源回路7は、CPU2により設定された楽音の音色情報、ノートナンバ情報、ベロシティ情報に従って、左右2チャンネルのそれぞれに波形信号を発生する回路である。音源回路7は、音色情報、ノートナンバ情報、ベロシティ情報によって定まる各種楽音に対応する波形信号を、左右2チャンネルのそれぞれについて記憶した波形メモリ7aを内蔵している。
【0035】
音源回路7は、CPU2から波形信号の発生指示を受け取ると、音色情報、ノートナンバ情報、ベロシティ情報に従って、その楽音に対応する左右2チャンネルの波形信号をそれぞれ波形メモリ7aより読み出し、ノートナンバ情報に応じてピッチ変換を行って、左右2チャンネルの波形信号(デジタル信号)をそれぞれ発生する。
【0036】
また、音源回路7は、左右2チャンネルにそれぞれ発生する波形信号に対して遅延時間を設定できるように構成されている。音源回路7は、CPU2により左右2チャンネルのそれぞれに対して遅延時間が設定された場合、波形信号の発音指示を受け取ると、サンプリング周期をカウントし、左右2チャンネルのそれぞれにおいて、設定された遅延時間分がカウントされるまで、波形メモリ7aからの波形信号の読み出しを開始するタイミングを遅延する。これにより、左右2チャンネルの波形信号が、それぞれ与えられた遅延時間に従って遅延される。このように、左右2チャンネルのそれぞれに発生する波形信号の発生タイミングを異ならせるように音源回路7を制御することにより、容易に左右2チャンネルのそれぞれの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を生じさせることができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、音源回路7に設定される遅延時間が、左右2チャンネルで共に零に設定された場合に、各チャンネルで発生した波形信号がそれぞれ独立してライン出力回路10若しくはヘッドフォン出力回路11から出力されると、それらの波形信号によって得られる楽音の臨場感が高い状態で、各種楽音に対応する波形信号が波形メモリ7aに記憶されている。従って、ステレオ再生モードでは、この遅延時間を零に設定することにより、臨場感の高い楽音が出力される。
【0038】
DSP8は、左右2チャンネルのそれぞれの波形信号に対して、リバーブやコーラスといった音響効果や、各種フィルタ処理を施すプロセッサである。また、DSP8は、設定によって、音源回路7から入力された波形信号をそのまま出力する。
【0039】
D/A変換器9は、DSP8から入力された左右2チャンネルの波形信号(デジタル信号)を、それぞれアナログ信号に変換して出力するものである。
【0040】
ライン出力回路10は、D/A変換器9によってアナログ信号に変換された左右2チャンネルの波形信号を外部に出力するための回路である。この回路には、左右2チャンネルのそれぞれに、出力用ジャック(図示せず)が設けられている。また、ライン出力回路10は、プラグ検出センサ10aおよびミキシング回路10bを備えている。
【0041】
プラグ検出センサ10aは、左右2チャンネルに設けられた出力用ジャックのそれぞれのプラグ挿入状況を検出するセンサであり、左チャンネル出力用ジャックにはプラグが挿入され、右チャンネル出力用ジャックにプラグが挿入されていない場合には、検出結果として「1」を出力し、その他の場合には「0」を出力する。
【0042】
この検出結果は、ミキシング回路10bに入力されると共に、CPU2に伝えられる。上述したように、CPU2は、このプラグ検出センサ10aの検出結果を基に、モノラル出力フラグ4aを設定する。
【0043】
ミキシング回路10bは、ステレオ出力モードの場合には、左右2チャンネルの波形信号をそれぞれ独立して出力し、モノラル出力モードの場合には、これらを混合して左チャンネルから出力する回路である。尚、ミキシング回路10bの詳細については、図3を参照して後述する。
【0044】
ヘッドフォン出力回路11は、D/A変換器9によってアナログ信号に変換された左右2チャンネルの波形信号を外部に出力するための回路である。この回路は、ライン出力回路10の出力モードにかかわらず、常に左右2チャンネルの波形信号をそれぞれ独立して出力する、ステレオ出力を行う。
【0045】
次いで、本実施の形態において、左右2チャンネルを混合する場合に、各波形信号に与えられる遅延時間の決定方法について説明する。
【0046】
本実施の形態では、左右2チャンネルの波形信号を混合する場合に波形信号が位相干渉を起こさず、且つ、各波形信号をそれぞれ独立して出力されることにより形成される楽音の定位がずれない程度に、これらの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が生じるように、各波形信号に与えられる遅延時間を規定している。
【0047】
上述したように、波形信号は、楽音の音色情報、ベロシティ情報、ノートナンバ情報から、音源回路7によって発生する。そこで、本実施の形態では、楽音の音色情報、ベロシティ情報、ノートナンバ情報から、遅延時間テーブル3bおよびテーブル定義用テーブル3cを用いて、直接遅延時間を決定する。
【0048】
ここで、図2を参照して、遅延時間テーブル3bおよびテーブル定義用テーブル3cの詳細について説明する。図2(a)は、遅延時間テーブル3bの内容を模式的に示した模式図であり、図2(b)は、テーブル定義用テーブル3cの内容を模式的に示した模式図である。
【0049】
まず、遅延時間テーブル3bは、左右2チャンネルの波形信号に与えるべき遅延時間を規定したテーブルである。この遅延時間テーブル3bは、図2(a)に示すように、発音すべき楽音のノートナンバ情報(0〜127)に対応させて、それぞれの遅延時間を規定している。なお、このテーブルで規定される遅延時間は、波形信号のサンプリング周期を1単位として表わしている。
【0050】
また、この遅延時間テーブル3bには、ノートナンバ情報に対応させた遅延時間のテーブルが複数用意されおり、テーブル番号(1〜15)によってそれぞれのテーブルが識別される。この複数のテーブル(テーブル番号:1〜15)は、楽音の音色と強度とによって定まる波形信号に対応して用意されている。尚、本実施の形態では、テーブルの数を15として説明するが、これは一例であり、その数は任意の値であってよい。
【0051】
一方、テーブル定義用テーブル3cは、図2(b)に示すように、左チャンネルの波形信号に対応するL側テーブル定義用テーブル3c1と、右チャンネル(Rch)の波形信号に対応するR側テーブル定義用テーブル3c2とが設けられている。
【0052】
このL側テーブル定義用テーブル3c1およびR側テーブル定義用テーブル3c2は、それぞれ、発音すべき楽音の音色を指示する音色情報(「ピアノ1」、「ピアノ2」、・・・、「バイオリン」)と、発音すべき楽音の強度を指示するベロシティ情報(1〜127)の大きさ(「0〜39」、「40〜87」、「88〜127」)とに対応させて、遅延時間テーブル3bに複数用意されたテーブルの中から楽音の音色と強度とによって定まる波形信号に対応するテーブル番号(1〜15)を規定している。尚、本実施の形態では、ベロシティ情報の区分を「0〜39」、「40〜87」、「88〜127」の3区分として説明するが、その境界となる値や境界の数は、任意の値であってもよい。また、その境界となる値や、境界の数が、音色情報毎に異なるように規定してもよい。
【0053】
鍵盤6から楽音の発音指示がなされると、発音すべき楽音の音色を指示する音色情報と、楽音の強度を指示するベロシティ情報とから、テーブル定義用テーブル3c(L側テーブル定義用テーブル3c1およびR側テーブル定義用テーブル3c2)によって、左右2チャンネルにそれぞれ発生する波形信号に対応したテーブル番号を、左右2チャンネル毎に決定する。そして、これら左右2チャンネル毎に決定されたテーブル番号と、上述の発音指示に含まれるノートナンバ情報とから、その発音指示された楽音に対応する左右2チャンネルに発生する波形信号の各々に対して、与えるべき遅延時間を決定する。
【0054】
これにより、混合された波形信号がライン出力回路10より出力される場合に、左右2チャンネルのそれぞれの発生する波形信号の組み合わせに応じて、混合によってそれらの波形信号の間で位相干渉が起きないようにそれぞれの波形信号の遅延時間を決定することができる。よって、左右2チャンネルの波形信号の組み合わせ毎に、音質の良い楽音が出力できる。また、音色、強度、音高によって定まる楽音の種類ごとに、混合によって左右2チャンネルの波形信号の間で位相干渉が起こらないように、これらの波形信号の遅延時間を容易に決定することができる。
【0055】
また、遅延時間テーブル3bでは、楽音の音色と強度とによって定まる波形信号に対応して、遅延時間を規定するテーブルを複数用意しているので、異なる音色と強度とで指定される楽音が、同一の波形信号に基づいて、各チャンネルの波形信号を発生する場合には、同一のテーブル番号で示されるテーブルを用いて遅延時間を決定することができる。よって、遅延時間テーブル3bは、楽音の音色と強度との組み合わせすべてについてテーブルを用意しなくてもよいため、遅延時間テーブル3bで必要となるメモリ容量が小さく抑えられる。
【0056】
次いで、図3を参照して、ミキシング回路10bの詳細について説明する。図3は、ミキシング回路10bの回路構成を示す回路図である。ミキシング回路10bは、図3に示すように、D/A変換器9によってアナログ信号に変換された左右2チャンネルの波形信号をそれぞれ入力する2つの入力端子(Lin,Rin)を有すると共に、左右2チャンネルの出力用ジャックに接続された2つの出力端子(Lout,Rout)を有している。右チャンネル出力端子(Rout)は、右チャンネル入力端子(Rin)と接続されており、D/A変換器9によりアナログ変換された右チャンネルの波形信号が、右チャンネル出力用ジャックにそのまま出力される。
【0057】
また、ミキシング回路10bには、ミキサ10b1と、スイッチSWとが設けられている。ミキサ10b1は、左右2チャンネルの入力端子に入力される波形信号を混合する回路である。
【0058】
一方、スイッチSWは、切替信号の値が「0」の場合には、「0」側入力端子に入力される信号を出力し、切替信号の値が「1」の場合には、「1」側入力端子に入力される信号を出力するスイッチである。
【0059】
ミキサ10b1によって混合された波形信号は、スイッチSWの「1」側入力端子に入力される。また、スイッチSWの「0」側入力端子には、ミキシング回路10bの左チャンネル入力端子(Lin)が接続されると共に、スイッチSWの出力端子は、ミキシング回路10bの左チャンネル出力端子(Lout)に接続される。更に、スイッチSWの切替信号には、プラグ検出センサ10aの検出結果が入力される。
【0060】
これにより、プラグ検出センサ10aの検出結果が「1」の場合、即ち、左チャンネル出力用ジャックにはプラグが挿入され、右チャンネル出力用ジャックにプラグが挿入されていない場合には、スイッチSWの動作によって、ミキサ10b1から出力された波形信号が、左チャンネル出力用ジャックに出力される。
【0061】
一方、プラグ検出センサ10aの検出結果が「0」の場合には、スイッチSWの動作によって、D/A変換器9によりアナログ変換された左チャンネルの波形信号が、左チャンネル出力用ジャックに出力される。即ち、左右2チャンネルの波形信号がそれぞれ独立して左右2チャンネルの出力用ジャックに出力される。
【0062】
次いで、図4を参照して、メイン処理について説明する。図4は、メイン処理を示すフローチャートである。この処理は、操作ボタン5の操作状況や鍵盤6の押鍵状況に応じて電子楽器1の動作を制御するための処理で、鍵盤6の鍵が押鍵された場合には、その鍵に割り当てられた楽音の発音指示を音源回路7に対して行う。この処理は、電子楽器1の電源(図示せず)がオンされたときにCPU2によって開始され、電源がオフされるまで繰り返し実行される。
【0063】
このメイン処理では、まず、電子楽器1に設けられた各部を初期化する初期設定を行う(S1)。例えば、音源回路7に対して、デフォルトの音色情報を設定する。これにより、音源回路7からは、デフォルトの音色の楽音が生成される。尚、この音色情報は、RAM4にも格納される。
【0064】
次いで、音色設定ボタン5aの複数のボタンのうち、いずれかのボタンが新たに押されたか否かを判断する(S2)。そして、新たに押されたと判断される場合には(S2:Yes)、その押されたボタンに対応する音色の音色情報を音源回路7に設定し(S3)、S4の処理へ移行する。これにより、新たに押された音色設定ボタン5aに対応する音色の楽音が、音源回路7によって生成される。尚、この音色情報は、RAM4にも格納される。
【0065】
一方、音色設定ボタン5aのいずれのボタンも新たに押されていないと判断される場合には(S2:No)、S3の処理をスキップして、S4の処理へ移行する。
【0066】
S4の処理では、プラグ検出センサ10aの検出センサの検出結果が「1」であるか否かを判断する。そして、その検出結果が「1」であると判断される場合には(S4:Yes)、モノラル出力フラグを「1」に設定し(S5)、検出結果が「0」であると判断される場合には(S4:No)、モノラル出力フラグを「0」に設定する(S6)。これにより、ライン出力回路10の左右2チャンネルの出力用ジャック(図示せず)のうち、左チャンネル(Lch)の出力用ジャックのみにプラグが挿入されていると検出された場合には、ライン出力回路10はモノラル出力モードに設定され、ライン出力回路10はステレオ出力モードに設定される。
【0067】
S5あるいはS6の処理の後、鍵盤6のいずれかの鍵が押鍵されたか否かを判断する(S7)。そして、鍵盤6のいずれかの鍵が押鍵されたと判断される場合には(S7:Yes)、鍵盤6より送信された押鍵速度情報およびノートナンバ情報を受信すると共に、押鍵速度情報をベロシティ情報に変換する(S8)。
【0068】
次いで、RAM4に格納されたモノラル出力フラグ4aを読み出し、その値が「1」であるか否かを判断する(S9)。そして、モノラル出力フラグ4aの値が「1」であると判断される場合には(S9:Yes)、ライン出力回路10には、左チャンネル出力用ジャックにのみプラグが挿入され(即ち、プラグ検出センサ10aの検出結果が「1」)、出力モードがモノラル出力モードに設定されていると判断される。そこで、音源回路7により発生させる左右2チャンネルの波形信号に対してそれぞれ遅延時間を与えるために、まず、テーブル定義用テーブル3cを用いて、S1又はS2の処理で格納された音色情報と、S8の処理で求めたベロシティ情報から、遅延時間テーブル3bに用意された複数のテーブルのうち、使用するテーブルのテーブル番号を、左右2チャンネルのそれぞれについて決定する(S10)。
【0069】
次いで、遅延時間テーブル3bを用いて、S10の処理で決定されたテーブル番号と、S8の処理で受信したノートナンバ情報とから、左右2チャンネルの波形信号に対して与えるべき遅延時間を、左右2チャンネルのそれぞれについて決定する(S11)。
【0070】
そして、発音すべき楽音の音色情報、ノートナンバ情報、ベロシティ情報、および、S11の処理で決定された左右2チャンネルの波形信号に対して与えるべき遅延時間を、音源回路7に対して設定する(S12)。その後、音源回路7に対して、波形信号の発生を指示して(S14)、S15の処理へ移行する。
【0071】
これにより、左右2チャンネルのそれぞれにおいて、S11の処理により各チャンネルに対して決定された遅延時間経過後に、音源回路7から波形信号が発生する。よって、左右2チャンネルの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が生じる。一方、モノラル出力フラグ4aの値が「1」である場合、プラグ検出センサ10aは検出結果として「1」を出力しているので、混合された波形信号が左チャンネル出力用ジャック(図示せず)から出力される。
【0072】
ここで、上述したように、左右2チャンネルの波形信号に与えられる遅延時間は、各チャンネルの波形信号を混合すると、それぞれの波形信号が位相干渉を起こさない程度に、これらの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が生じるように規定されている。従って、ライン出力回路10から出力される混合された波形信号は、位相干渉による音質の劣化が抑制されるので、音質の良い楽音が出力される。
【0073】
一方で、この遅延時間は、各チャンネルの波形信号をそれぞれ独立して出力する場合には楽音の定位がずれない程度に、これらの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が生じるに規定されているので、ライン出力回路10がモノラル出力モードに設定されている場合であっても、ヘッドフォン出力回路11からは、楽音の定位にずれのないステレオ出力を行うことができる。
【0074】
また、S10およびS11の処理により、テーブル定義用テーブル3cおよび遅延時間テーブル3bを用いて、発音指示された楽音の音色情報、ノートナンバ情報、ベロシティ情報に応じて、楽音の種類ごとに混合によって左右2チャンネルの波形信号の間で位相干渉が起こらないように、これらの波形信号の遅延時間を調整することができる。従って、いずれの楽音においても、音質の良い楽音が出力される。
【0075】
一方、モノラル出力フラグ4aの値が「0」であると判断される場合には(S9:No)、ライン出力回路10の出力モードがステレオ出力モードに設定されていると判断される。そこで、音源回路7に対し、左右2チャンネルのそれぞれに発生させる波形信号に対して与えるべき遅延時間を零に設定すると共に、発音すべき楽音の音色情報、ノートナンバ情報、ベロシティ情報を音源回路に設定し(S13)、その後、音源回路7に対して、波形信号の発生を指示して(S14)、S15の処理へ移行する。
【0076】
これにより、左右2チャンネルのそれぞれにおいて、波形信号が遅延されることなく音源回路7から発生する。よって、左右2チャンネルの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が零となる。一方、ライン出力回路10では、相対的な遅延時間が零である左右2チャンネルの波形信号が、それぞれ独立して出力用ジャック(図示せず)から出力される。
【0077】
ここで、上述したように、音源回路7に設定される遅延時間が、左右2チャンネルで共に零に設定された場合、各チャンネルの波形信号がそれぞれ独立してライン出力回路10若しくはヘッドフォン出力回路11より出力されると、それらの波形信号によって得られる楽音の臨場感が高い状態で、音源回路7は左右2チャンネルの波形信号を発生する。従って、ライン出力回路10がステレオ出力モードの場合には、臨場感の高い楽音が発音されるので、音質の良い楽音が出力される。
【0078】
一方、S7の処理の結果、鍵盤6のいずれ鍵も押鍵されていないと判断される場合には(S7:No)、S15の処理へ移行する。
【0079】
S15の処理では、操作ボタン5の状態や鍵盤6の押鍵状況に応じて、電子楽器1におけるその他の処理を実行する。そして、S15の処理の後、S2の処理へ回帰し、電子楽器1の電源がオンの間、S2からS15の処理が繰り返し実行される。
【0080】
以上、本実施の形態の電子楽器1によれば、鍵盤6によって楽音の発音指示がなされると、音源回路7によって、その発音指示された楽音に対応する波形信号が、左右2チャンネルに対してそれぞれ発生させる。そして、モノラル出力フラグ4aの設定により出力モードがステレオ出力モードに設定されている場合には、ライン出力回路10から左右2チャンネルの波形信号がそれぞれ独立して出力され、出力モードがモノラル出力モードに設定されている場合には、ミキシング回路10bにより左右2チャンネルの波形信号が混合されて出力される。
【0081】
ここで、出力モードがステレオ出力モードに設定されている場合には、音源回路7に対して、左右2チャンネルのそれぞれに発生させる波形信号に対して与えるべき遅延時間を零に設定するので、左右2チャンネルのそれぞれにおいて、波形信号が遅延されることなく音源回路7から発生する。よって、左右2チャンネルの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が零となり、ライン出力回路10からは、臨場感の高い楽音が発音される。
【0082】
一方、出力モードがモノラル出力モードに設定されている場合には、左右2チャンネルの波形信号に対して与えるべき遅延時間を、テーブル定義用テーブル3cおよび遅延時間テーブル3bを用いて決定し、音源回路7に対して、その遅延時間を設定するので、左右2チャンネルのそれぞれにおいて、その遅延時間経過後に音源回路7から波形信号が発生する。よって、左右2チャンネルの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間が生じる。これにより、ライン出力回路10から出力される混合された波形信号は、位相干渉による音質の劣化が抑制される。
【0083】
このように、本実施の形態によれば、ステレオ出力モードとモノラル出力モードとで、左右2チャンネルの波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を各々調整することができるので、いずれも音質の良い楽音を出力できる。
【0084】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0085】
例えば、上記実施の形態において、遅延時間テーブル3bには、左右2チャンネルの波形信号に与えるべき遅延時間を規定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左右2チャンネルの波形信号の間に生じさせるべき一方に対する他方の相対的な遅延時間を規定するようにしてもよい。この場合、遅延時間テーブル3bのテーブルとして、左チャンネルと右チャンネルとに発生する波形信号の組み合わせで1つ用意すればよい。また、テーブル定義用テーブル3cも左右2チャンネルのそれぞれに設ける代わりに、1つにまとめてもよい。
【0086】
また、この場合、CPU2がその相対的な遅延時間となるように、左右2チャンネルの波形信号に与えるべき遅延時間を算出して、音源回路7にその遅延時間を設定するようにしてもよいし、音源回路7に相対的な遅延時間を設定して、音源回路7の中で左右2チャンネルの波形信号に与えるべき遅延時間を算出するようにしてもよい。例えば、遅延時間テーブル3bにより規定される相対的な遅延時間が正の値である場合には、その遅延時間は右チャンネル(または左チャンネル)の波形信号に与えるべき遅延時間を規定し、左チャンネル(または右チャンネル)の波形信号には遅延時間として零を付与するようにしてもよい。また、相対的な遅延時間が負の値である場合には、その遅延時間は左チャンネル(または右チャンネル)の波形信号に与えるべき遅延時間を規定し、右チャンネル(または左チャンネル)の波形信号には遅延時間として零を付与するようにしてもよい。
【0087】
上記実施の形態において、遅延時間テーブル3bで規定される遅延時間は、波形信号のサンプリング周期を1単位とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、波形信号の再生周波数の逆数、即ち、波形信号の周期に対する割合(位相)として、遅延時間を規定してもよい。これにより、音高ごとに遅延時間を記憶しなくても、遅延時間(サンプル数)を演算によって求めることができる。例えば、ある波形信号に対する遅延時間として、周期の20%であることを規定すれば、その波形信号を440Hz(音高A4、ノートナンバ69)で発音する場合には、サンプリング周波数が44.1KHzであれば、その遅延時間(サンプル数)を次の(1)式から、20サンプルと求めることができる。
【0088】
1/440×0.2×44100=20.045 ・・・(1)
【0089】
上記実施の形態において、遅延時間テーブル3bは、楽音の音色と強度とによって定まる波形信号に対応したテーブル番号と、楽音の音高に対応したノートナンバ情報とに対応させて、遅延時間を規定する場合について説明が、必ずしもこれに限られるものではなく、テーブル番号を楽音の音色と音高とによって定まる波形信号に対応させて規定し、そのテーブル番号と楽音の強度に対応したベロシティ情報とに対応させて、遅延時間を規定してもよい。また、楽音の音色、音高、強度から音源回路7によって発生される波形信号を特定するテーブルを用意し、更にそのテーブルによって特定された波形信号によって遅延時間を決定するテーブルを用意することによって、遅延時間を規定してもよい。更に、電子楽器1が単一の音色のみを出力するものである場合には、ノートナンバ情報とベロシティ情報とに対応させて遅延時間を規定するようにしてもよいし、ノートナンバ情報のみやベロシティ情報のみに対応させて遅延時間を規定してもよい。
【0090】
上記実施の形態では、音源回路7において、波形メモリ7aから波形信号を読み出すタイミングを遅延させることによって、左右2チャンネルの波形信号を遅延させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、生成された左右2チャンネルの波形信号を音源回路7から出力する場合に、音源回路7内部でチャンネル毎に遅延時間分だけそれぞれウェイトさせてから、ライン出力回路10に対してそれらの波形信号を出力してもよい。また、DSP8によって各チャンネルの波形信号を遅延時間分だけそれぞれウェイトさせてから、ライン出力回路10に対してそれらの波形信号を出力してもよい。また、CPU2によってチャンネル毎に設定された遅延時間をそれぞれカウントし、遅延時間が経過したチャンネルについて、音源回路7に対し波形信号の発生を指示するようにしてもよい。
【0091】
上記実施の形態では、ライン出力回路10に設けられた出力用ジャックへのプラグ挿入状況に応じて、ライン出力回路10の出力モードが設定される場合について説明したが、操作ボタン5に出力モードを設定するスイッチを設け、そのスイッチによってライン出力回路10の出力モードを、ステレオ出力モードとモノラル出力モードとの間で切り替えるようにしてもよい。この場合、ミキシング回路10bのスイッチSWの切替信号には、出力モードを設定するスイッチによって生成される信号を入力するようにすればよい。また、この場合には、DSP8によって左右2チャンネルの波形信号を混合し、左右2チャンネルのそれぞれにモノラル出力するようにしてもよい。また、ミキシング回路10bのスイッチSWをCPU2からの指示に基づいて切り替えるようにしてもよい。
【0092】
上記実施の形態では、ミキシング回路10bのミキサが左右2チャンネルの波形信号を常に混合する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、CPU2からの混合の指示があった場合に、左右2チャンネルの波形信号を混合して出力し、そのまま出力する指示があった場合には、左右2チャンネルを混合せずに出力するようにしてもよい。
【0093】
上記実施の形態では、ステレオ出力モードとモノラル出力モードを備えた電子楽器1について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、複数チャンネルによって楽音を出力する出力モード(例えば、5.1チャンネル出力モード)と、その複数チャンネルよりも少ないチャンネルによって楽音を出力する出力モード(例えば、ステレオ出力モードやモノラル出力モード)とを備えた電子楽器に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一実施の形態における電子楽器の電気的構成を示したブロック図である。
【図2】(a)は、遅延時間テーブルの内容を模式的に示した模式図であり、(b)は、テーブル定義用テーブルの内容を模式的に示した模式図である。
【図3】ミキシング回路の回路構成を示した回路図である。
【図4】発音指示処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0095】
1 電子楽器(楽音出力装置)
2 CPU
4a モノラル出力フラグ(選択手段)
7 音源回路(波形信号発生手段)
10 ライン出力回路(出力手段)
10b1 ミキサ(混合手段)
S10〜S13 (時間調整手段、時間調整ステップ)
S14 (波形信号発生ステップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽音の発音指示を受けて、前記楽音に対応する第1の波形信号および第2の波形信号を発生させる波形信号発生手段と、
その波形信号発生手段により発生する前記第1および第2の波形信号を混合する混合手段と、
前記発音指示に応じて、前記楽音に対応する波形信号を出力する出力手段と、
その出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力するか、前記混合手段により混合された波形信号を出力するかを選択する選択手段と、
その選択手段の選択によって、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合とで、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせる時間調整手段とを備えていることを特徴とする楽音出力装置。
【請求項2】
前記時間調整手段は、前記選択手段の選択によって、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合とで、前記第1および第2の波形信号の発生タイミングを異ならせるように前記波形信号発生手段を制御することで、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせることを特徴とする請求項1に記載の楽音出力装置。
【請求項3】
前記時間調整手段は、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合には、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を零に設定し、前記出力手段より前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合には、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を零以外の値に設定することを特徴とする請求項1又は2記載の楽音出力装置。
【請求項4】
前記時間調整手段は、前記波形信号発生手段により発生する前記第1および第2の波形信号に応じて、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の楽音出力装置。
【請求項5】
前記発音指示は、発音すべき楽音の音色を指示する音色情報、発音すべき楽音の音高を指示する音高情報、および、発音すべき楽音の強度を指示するベロシティ情報の少なくとも1つを含み、
前記波形信号発生手段は、その発音指示に含まれる音色情報、音高情報およびベロシティ情報の少なくとも1つに対応して第1および第2の波形信号を発生するものであり、
前記時間調整手段は、前記楽音の音色情報、音高情報、およびベロシティ情報の少なくとも1つに応じて、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を設定することを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の楽音出力装置。
【請求項6】
楽音の発音指示に応じて、その楽音に対応する波形信号を出力する出力手段を備えた楽音出力装置により実行される楽音出力プログラムであって、
前記発音指示を受けて、前記楽音に対応する第1の波形信号および第2の波形信号を発生させる波形信号発生ステップと、
前記波形信号発生ステップにより発生する前記第1および第2の波形信号を混合する混合ステップと、
前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力するか、前記混合手段により混合された波形信号を出力するかを選択する選択ステップと、
その選択ステップの選択によって、前記出力手段より前記第1および第2の波形信号をそれぞれ独立して出力する場合と、前記混合手段により混合された波形信号を出力する場合とで、前記第1および第2の波形信号の一方に対する他方の相対的な遅延時間を異ならせる時間調整ステップとを備えていることを特徴とする楽音出力プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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