説明

概日リズム制御遺伝子群、DNAチップ、DNAチップを用いた方法

【課題】
正常時における概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング・発現順序を提供すること。前記発現タイミング・発現順序を用いて、概日リズムの変調を検出すること。前記発現タイミング・発現順序を用いたスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】
正常時において、所定の発現タイミング・発現順序を持つ概日リズム制御遺伝子群(Bmal1遺伝子、Npas2遺伝子、Rev−erbα遺伝子、Dbp遺伝子、Per3遺伝子、Per2遺伝子、Per1遺伝子)を提供する。また、概日リズム制御遺伝子群が少なくとも配列されたDNAチップを提供する。さらに、前記DNAチップを用いた、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングの変調を予測する方法、概日リズムの変調を検出する方法、概日リズム調整剤の選択をする方法、概日リズム調整剤のスクリーニング方法、副作用として概日リズムの変調を伴う物質のスクリーニングを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概日リズム制御遺伝子群、該概日リズム制御遺伝子群が少なくとも配列されたDNAチップ、前記DNAチップを用いた概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングの変調を予測する方法、概日リズムの変調を検出する方法、概日リズム調整剤の選択方法、及び、スクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
概日リズム(サーカディアンリズム)は、約24時間を周期とする生物リズムであり、単細胞生物からヒトに至るまで、多くの生物に普遍的に見られる生体内現象である。各生物は、概日リズムの制御に関わる遺伝子(以下、「概日リズム制御遺伝子」とする。)を持ち、概日リズム制御遺伝子が、概日リズムの調整を行っている。
【0003】
哺乳類では、概日リズム制御遺伝子の発現量が脳視床下部の視交叉上核(SCN)で特に高く、個体レベルでの概日リズム調整の中枢を担っている。一方、生体内のその他の組織(概日リズム末梢組織)においても、概日リズム制御遺伝子は発現しており、概日リズム中枢と同様に、概日リズム制御遺伝子による細胞・組織ごとの概日リズム調整が行われている。その他、概日リズム中枢による個体レベルでの概日リズムが、概日リズム末梢組織の概日リズムを統合する機構が存在すると考えられている。
【0004】
哺乳類における概日リズム制御遺伝子としては、Per遺伝子(Per1、Per2、Per3)、Clock遺伝子、Bmal遺伝子(Bmal1、Bmal2、Bmal3)、Cry遺伝子、Npas2遺伝子、Dbp遺伝子、Rev−erb遺伝子(Rev−erbα、Rev−erbβ)などが知られている(以下、これらを総称して、「概日リズム制御遺伝子群」とする)。
【0005】
概日リズム制御遺伝子のコード領域中又はその上流配列中には、概日リズム制御遺伝子の転写制御領域(特有の塩基配列)が存在する。転写制御領域としては、RORE、DBP結合領域、E−BOXなどが明らかにされている。転写制御領域は、転写因子の結合領域であり、転写因子は、転写制御領域に結合して、概日リズム制御遺伝子の転写・発現を調節する。
【0006】
ROREは、Bmal1のコード領域中又はその上流配列中に存在する。転写因子であるRor転写因子ファミリー(REV−ERBなど)は、ROREに結合し、Bmal1遺伝子の発現を調節することが知られている。なお、REV−ERBは、Rev−erb遺伝子の転写産物(タンパク質)である。
【0007】
DBP結合領域は、Per1遺伝子などのコード領域中又はその上流配列中に存在する。転写因子であるDBP(Dbp遺伝子の転写産物)などは、DBP結合領域に結合し、Per1遺伝子の発現を促進する。
【0008】
E−BOXは、Per1遺伝子、Per2遺伝子などのコード領域中又はその上流配列中に存在する。転写因子であるCLK−BMAL複合体(Clock遺伝子の転写産物とBmal遺伝子の転写産物の複合体)は、E−BOXに結合し、Per1遺伝子、Per2遺伝子の発現を促進する。
【0009】
以上のように、各概日リズム制御遺伝子の発現は、概日リズム制御遺伝子の転写産物(タンパク質)により、調節されている。なお、非特許文献1には、上記した、概日リズム制御遺伝子、及び、転写制御領域(E−BOX、DBP結合領域、RORE)について、記載されている。
【非特許文献1】「時計遺伝子の分子生物学」、シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社、岡村均・深田吉孝編、2004年4月5日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
細胞単位の概日リズム形成は、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングにより制御されていると考えられるため、各概日リズム制御遺伝子の発現タイミング・発現順序を明らかにすることが重要となる。即ち、各概日リズム制御遺伝子の発現タイミング・発現順序を明らかにすることは、概日リズム調整機構の解明の一助となる。
【0011】
また、正常時における概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング・発現順序を明らかにすることにより、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング・発現順序のずれから、概日リズムの変調を容易に検出できる。
【0012】
さらに、正常時における概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング・発現順序を明らかにすることにより、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング・発現順序を前後に移動させる物質の探索が可能になる。
【0013】
そこで、本発明は、正常時における概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング・発現順序を提供すること、前記発現タイミング・発現順序を用いて、概日リズムの変調を検出すること、前記発現タイミング・発現順序を用いたスクリーニング方法を提供すること、を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、ほぼ全ての概日リズム末梢組織において、下記(1)から(7)の概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングが、概日変化を表すことを新規に見出した。また、それらの概日リズム制御遺伝子群の正常時における発現順序に規則性があることを新規に見出した。さらに、下記(1)から(7)の概日リズム制御遺伝子に関わる転写制御領域(RORE、DBP結合領域、E−BOX)の存在位置及び存在個数を新規に見出した。
【0015】
そこで、本発明では、概日時間16時(例えば、明条件開始時間を通常時間の8時にした場合、通常時間の午前0時)を基準として、下記(1)又は/及び(2)の遺伝子が発現した後、下記(3)から(7)の遺伝子が順に発現する遺伝子群であって、(1)から(7)の全ての遺伝子を含む概日リズム制御遺伝子群、若しくは、(1)から(7)から選択される複数の遺伝子を含む概日リズム制御遺伝子群を提供する。
(1)コード領域中又はその上流配列中にROREを持つBmal1遺伝子。
(2)コード領域の上流配列中にROREを持つNpas2遺伝子。
(3)コード領域中又はその上流配列中にRORE、DBP結合領域、及び、E−BOXを持つRev−erbα遺伝子。
(4)コード領域中又はその上流配列中にRORE及びE−BOXを持つDbp遺伝子。
(5)コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つPer3遺伝子。
(6)コード領域の上流配列中にDBP結合領域及びE−BOXを持つPer1遺伝子。
(7)コード領域の上流配列中にE−BOXを持つPer2遺伝子。
【0016】
上記の通り、概日リズム制御遺伝子群は、概日時間16時を基準として、
(a)コード領域中又はその上流配列中にROREを持つ遺伝子、
(b)コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つ遺伝子、
(c)コード領域中又はその上流配列中にE−BOXを持つ遺伝子、
の順で発現する。
【0017】
即ち、3つの転写制御領域(RORE、DBP結合領域、E−BOX)のうち、まず、ROREのみを持つBmal1及びNpas2が発現し、次に、ROREの他にDBP結合領域とE−BOXを持つRev−erbαが発現し、次に、ROREの他にE−BOXを持つDbpが発現する(a)。次に、DBP結合領域のみを持つPer3が発現し、次に、DBP結合領域の他にE−BOXも持つPer1が発現する(b)。次に、E−BOXのみを持つPer2が発現する(c)。
【0018】
なお、(1)から(7)の各遺伝子の塩基配列は、NCBI(米国立バイオテクノロジー情報センター)の公共データベースで公開されている。NCBIのデータベースにおける、各遺伝子の遺伝子番号は次の通りである。カッコ内は、遺伝子中のどの領域かを示す。(1)Bmal1:ヒトNT_009237(12054318〜12069318)、マウスNT_081129.1(107781〜122781)、ラットNW_047562.1(13774073〜13789073)。(2)Npas2:ヒトhCG27614(95632226〜65646226)、マウスmCG8437(35980102〜35994102)、ラットrCT22431(39204499〜39218499)。(3)Rev−erbα:ヒトhCG93862(34926094〜34912094)、マウスmCG15360(105438925〜105424925)、ラットrCG33292(82492796〜82478796)。(4)Dbp:ヒトNT_011109.15(c21417778〜21402778)、マウスNT_078442.1(59711〜74711)、ラットNW_047558.1(5120734〜5135734)。(5)Per3:ヒトNT_021937.16(1962822〜1977822)、マウスNT_039268.2(c4331528〜4316528)、ラットNW_047727.1(c801656〜8001956)。(6)Per1:ヒトNT_010718.14(c6905708〜6890708)、マウスNT_039515.2(65661216〜65676216)ラットrCG34390(52960430〜52974430)。(7)Per2:ヒトNT_005120.14(c5136562〜5121562)、マウスNT_039173.2(c5833757〜5818757)、ラットNW_047817.1(c6827703〜6812703)。
【0019】
また、概日リズム制御遺伝子の転写制御領域である、RORE、DBP結合領域、E−BOXの塩基配列を、配列表に示す(配列番号1から配列番号3)。
【0020】
なお、上記(1)から(7)の概日リズム制御遺伝子群の正常時における発現ピークは、それぞれ、
(1)又は/及び(2)の遺伝子が概日時間20時から24時、
(3)の遺伝子が概日時間4時から8時、
(4)の遺伝子が概日時間6時から10時、
(5)の遺伝子が概日時間8時から12時、
(6)の遺伝子が概日時間10時から14時、
(7)の遺伝子が概日時間12時から16時、
である。
【0021】
次に、本発明に係る概日リズム制御遺伝子群を少なくとも配列したDNAチップを提供する。前記DNAチップは、例えば、(A)概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングの変調を予測する方法、(B)概日リズムの変調を検出する方法、(C)概日リズム調整剤を選択する方法、(D)概日リズム調整剤のスクリーニング、(E)副作用として概日リズムの変調を伴う薬剤などのスクリーニング、などに用いることができる。以下、詳述する。
【0022】
<(A)概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングの変調を予測する方法>
上述の通り、本発明者らは、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングと転写因子の結合領域(RORE、DBP結合領域、E−BOX)との相関を明らかにした。従って、この相関を用いることにより、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングの変調を予測することができる。即ち、コード領域中又はその上流配列中に特定の転写因子結合領域を持つ概日リズム制御遺伝子における発現タイミングの変調を検出することにより、上記転写因子結合領域を持つ他の概日リズム制御遺伝子における発現タイミングの変調を検出することができる。
【0023】
例えば、コード領域中又はその上流配列中にROREを持つ遺伝子(例えばBmal1)の発現タイミングの変調を検出することにより、コード領域中又はその上流配列中にROREを持つ他の遺伝子(例えば、Npas2、Rev−erbα、Dbp)の発現タイミングの変調を予測することができる。同様に、コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つ遺伝子(例えば、Per3)の発現タイミングの変調を検出することにより、コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つ他の遺伝子(例えば、Per1、Rev−erbαなど)の発現タイミングの変調を予測することができ、コード領域中又はその上流配列中にE−BOXを持つ遺伝子(例えば、Per2)の発現タイミングの変調を検出することにより、コード領域中又はその上流配列中にE−BOXを持つ他の遺伝子(例えば、Per1、Rev−erbα、Dbp)の発現タイミングの変調を予測することができる。
【0024】
<(B)概日リズムの変調を検出する方法について>
例えば、採取した細胞などにおいて、上記概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング(発現ピークの時刻)が移動していた場合、特定の概日リズム制御遺伝子の発現が見られなかった場合、または、上記概日リズム制御遺伝子群の発現順序が正常時と異なっていた場合、概日リズムが変調している。従って、例えば、時刻ごとに採取した細胞などから抽出したDNAなどと、DNAチップ上のDNAなどを相互作用(ハイブリダイゼーションなど)させることにより、概日リズムの変調を簡易に検出することができる。
【0025】
なお、概日リズムの変調を伴う疾患としては、例えば、睡眠障害、覚醒障害、時差ぼけ、不眠症、自律神経失調症、うつ病、老人性痴呆、夜間勤務・交代勤務など生活リズムの不規則化による体調の悪化、自閉症などにおける生活リズムの不規則化による消耗、などがある。また、概日リズムの変調が誘因となる疾患として、例えば、夜間勤務による看護婦などの乳がん発生率上昇などがある。
【0026】
<(C)概日リズム調整剤を選択する方法>
概日リズムが変調している場合、本発明に係るDNAチップを用いることにより、概日リズムの変調が、概日リズム制御遺伝子群のうち、どの遺伝子の発現異常に基づくものであるかを、容易に検出できる。従って、例えば、Per3(配列中にDBP結合領域を持つ)の発現が見られない場合やPer3の発現タイミングの移動が検出された場合、Dbp結合領域に作用する概日リズム調整剤を選択することにより、概日リズムの変調を改善できる。同様に、例えば、Bmal1(プロモーター領域にROREを持つ)の発現が見られない場合やBmal1の発現タイミングの移動が検出された場合、ROREに作用する概日リズム調整剤を選択することにより、概日リズムの変調を改善できる。その他の概日リズム制御遺伝子の場合も同様である。
【0027】
<(D)概日リズム調整剤のスクリーニング>
本発明に係るDNAチップを用いることにより、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングを移動させる物質、即ち、概日リズム調整剤の候補物質を網羅的に探索できる。例えば、Per3遺伝子の発現タイミングが前方に移動した場合(発現タイミングが早くなった場合)、その物質は、Per3遺伝子の発現を促進する因子、又は、DBP結合領域に直接的又は間接的に作用する物質として、概日リズム調整剤の有力な候補になりうる。その他の概日リズム制御遺伝子の場合も同様である。
【0028】
<(E)副作用として概日リズムの変調を伴う物質などのスクリーニング>
薬剤などに利用される全ての物質に対して、本発明に係るDNAチップを用いて網羅的な探索を行うことにより、例えば、副作用として、概日リズムの変調を伴う物質を検出することができる。
【0029】
また、概日リズムの変調を伴う物質が検出された場合、該物質の投与タイミングを検出することもできる。例えば、スクリーニングの結果、その物質が、Per3遺伝子の発現タイミングを移動させる物質であった場合、Per3遺伝子の発現タイミングを移動させない投与タイミングを見つけ出すことにより、該物質の副作用を予防できる。その他の概日リズム制御遺伝子の場合も同様である。
【0030】
本発明では、各技術用語を、以下のように定義する。
【0031】
「概日リズム制御遺伝子群」は、生体内における概日リズムの制御機構に関連する遺伝子を総称したものである。「概日リズム制御遺伝子」は、概日リズムの制御機構に関連する遺伝子である。
【0032】
「概日時間(CT:Circadian Time)」は、明条件開始時を0時(CT0)とした時間である。それに対し、「通常時間」は、1日を午前0時から午後12時とした、通常の時間をいう。
【0033】
「コード領域」は、塩基配列上の遺伝子をコードする領域であり、転写開始地点から転写終了地点までの配列である。「上流配列」とは、コード領域の転写開始地点よりも上流の配列である。
【0034】
「概日リズム末梢組織」は、生体内の概日リズム中枢(脳視床下部の視交叉上核(SCN))以外の組織をいい、例えば、心臓、肺、肝臓、胃、脾臓、腎臓などを含む。
【0035】
「概日リズム調整剤」は、概日リズムの変調を改善する作用のある薬剤その他の物質・組成物を広く含む。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミング・発現順序やその異常が検出可能になる。
【実施例1】
【0037】
実施例1では、概日リズム末梢各組織における概日リズム制御遺伝子の時刻ごとの発現ピークを調べた。手順は以下のとおりである。
【0038】
まず、実験に用いたマウスの概日リズムを同調させた。即ち、マウスを、二週間、8時から20時まで明条件、20時から翌8時までを暗条件にした部屋で飼育して、マウスの概日リズムを同調させた。なお、実験には、SLC社から購入したICRマウス(オス、5週齢)を用いた。
【0039】
次に、マウスから概日リズム末梢組織として、心臓、肺、肝臓、胃、脾臓、精巣を所定の時刻に採取し、すぐに液体窒素で凍結した。なお、各臓器の採取時刻は、概日リズムの同調を行った直後の8時から、4時間ごとに設定した(8時、12時、16時、20時、24時、翌4時)。
【0040】
次に、採取した各臓器をホモジナイズ後、、Promega total SV RNA Isolation Kit(Promega社製)を用いて、各臓器からtotal RNAを抽出した。次に、定量的リアルタイムRT−PCR(定量的リアルタイム逆転写ポリメラーゼ反応)を行い、概日リズム制御遺伝子の発現量を測定した。
【0041】
測定した概日リズム制御遺伝子は、次の14種類である。Bal1、Npas2、Rev−erbα、Dbp、Rev−erbβ、Per3、Per1、Per2、Cry1、Cry2、Clock、Ck1δ、Ck1ε、Tim。
【0042】
なお、定量的リアルタイムRT−PCRは、ABI PRISM7000(Applied Biosystems社製)を用いた。PCRの際には、SYBR Green PCR Master Mix(ABI社)を用いて、50℃、2分/95℃、10分/(95℃、15秒/60℃、1分)×40サイクルを行った。用いたプライマーは、次の通りである。
Bal1(センスプライマー:配列番号4、アンチセンスプライマー:配列番号5)、Npas2(センスプライマー:配列番号6、アンチセンスプライマー:配列番号7)、Rev−erbα(センスプライマー:配列番号8、アンチセンスプライマー:配列番号9)、Dbp(センスプライマー:配列番号10、アンチセンスプライマー:配列番号11)、Rev−erbβ(センスプライマー:配列番号12、アンチセンスプライマー:配列番号13)、Per3(センスプライマー:配列番号14、アンチセンスプライマー:配列番号15)、Per1(センスプライマー:配列番号16、アンチセンスプライマー:配列番号17)、Per2(センスプライマー:配列番号18、アンチセンスプライマー:配列番号19)、Cry1(センスプライマー:配列番号20、アンチセンスプライマー:配列番21)、Cry2(センスプライマー:配列番号22、アンチセンスプライマー:配列番号23)、Clock(センスプライマー:配列番号24、アンチセンスプライマー:配列番号25)、Ck1δ(センスプライマー:配列番号26、アンチセンスプライマー:配列番号27)、Ck1ε(センスプライマー:配列番号28、アンチセンスプライマー:配列番号29)、Tim(センスプライマー:配列番号30、アンチセンスプライマー:配列番号31)。
【0043】
上記実験において、各遺伝子の発現レベルは、ハウスキーピング遺伝子の発現量を基準に算定した相対的な値である。まず、上記実験手順中、逆転写PCRを行う際に抽出したtotal RNAの中から、β−アクチン及びG3PDHの転写産物を同時に増幅させて、β−アクチン及びG3PDHのcDNAを合成した。β−アクチン及びG3PDHは、ハウスキーピング遺伝子であり、発現量がほぼ一定である。そこで、各遺伝子の発現量を、β−アクチン又はG3PDHの発現量と比較することにより、相対的な発現レベルを算定した。なお、発現レベルの算定に際して、二種類のハウスキーピング遺伝子(β−アクチン、G3PDH)を用いて各遺伝子の発現レベルを求め、β−アクチンを用いた場合とG3PDHを用いた場合の誤差を補正・調整することにより、各遺伝子の発現レベルの正確性を向上させた。
【0044】
結果を図1に示す。図1中、「heart」は心臓、「lung」は肺、「liver」は肝臓、「stomach」は胃、「spleen」は脾臓、「kidney」は腎臓、「testis」は精巣、である。各遺伝子の記載のうち、「m」は(例えば、「mBmal1」中の最初の「m」)、哺乳類(mamalian)を意味する。各グラフの横軸は概日時間(CT)を、縦軸は相対的な発現レベル(%)である。概日時間(CT)は、CT0〜CT12が明条件(主観的昼)、CT12〜CT24が暗条件(主観的夜)である。
【0045】
図1に示す通り、概日リズム制御遺伝子発現の概日変化は、14種類中8種類の遺伝子(Bmal1、Npas2、Rev−erbα、Dbp、Per3、Per1、Per2)で、精巣を除く各臓器において、みられた。
【0046】
図2に、各遺伝子の発現ピークを模式的に示す。図2の上部の囲み中、白抜き部分は明条件(CT0〜CT12)を、黒塗り部分は暗条件(CT12〜CT24)を示す。横軸は概日時間(CT)を示す。横軸の上には、転写因子結合領域である「DBPE」、「E−BOX」、「RORE」に対する、転写因子の結合タイミング予測時間を示している。
【0047】
図2に示すとおり、各遺伝子の発現ピークは、Bmal1とNpas2がCT20〜CT0、Rev−erbαがCT4〜CT8、DbpがCT6〜CT10、Per3がCT8〜CT12、Per1がCT10〜CT14、Per2がCT12〜CT16、であった。各臓器における各概日リズム制御遺伝子の発現ピークは、ほぼ同時刻であった。
【0048】
上述の結果は、まず、概日リズム制御遺伝子のうち、概日リズム末梢組織の概日リズム(分子生物時計)を制御する遺伝子は、主に、8種類の遺伝子(Bmal1、Npas2、Rev−erbα、Dbp、Per3、Per1、Per2)であることを示唆している。
【0049】
また、上述の結果は、概日リズム末梢各組織における概日リズム制御各遺伝子の発現順序に、規則性があることを示している。即ち、概日リズム制御遺伝子群は、正常時のCT0〜CT24の一日の中で、Rev−erbα、Dbp、Per3、Per1、Per2の順で、時系列的に発現し、次に、Bmal1、Npas2が同時刻に発現することを示している。
【0050】
さらに、上述の結果は、概日リズム末梢組織全体が、同様の機構で、概日リズムをリセットしている可能性を示唆する。即ち、概日リズム制御遺伝子の発現ピークが概日リズム末梢組織全体でほぼ同時刻であることは、概日リズム末梢各組織が、概日リズム中枢(SCN)の概日リズムに基づき、それぞれ同様の機構により、概日リズムをリセットしている可能性を示唆している。
【0051】
その他、図1中、精巣における結果は、Per1が、概日リズム形成以外の他の役割を果たしている可能性を示唆している。本実験において、精巣では、図1に示すように、四つの遺伝子(Bmal1、Npas2、Rev−erbα、Dbp)で弱い概日変化が見られたのみであった。一方、Per1遺伝子では、Per1遺伝子発現の概日変化は見られなかったが、発現量は他の概日リズム制御遺伝子と比較して高かった。従って、本実験結果は、精巣では、Per1が、概日リズム形成以外の他の役割、例えば、精子形成の際の発生制御など、を果たしている可能性を示唆している。
【実施例2】
【0052】
実施例2では、NCBIデータベース及びセレーラ・データベース・システムを用いて、8種類の概日時計制御遺伝子(Bmal1、Npas2、Rev−erbα、Dbp、Per3、Per1、Per2)中に存在する、概日時計制御遺伝子の転写制御領域(E−BOX、DBP結合領域、RORE)を探索した。
【0053】
探索の結果は、以下のとおりである(図3参照)。
(1)Bmal1遺伝子のプロモーター領域、及び、(2)Npas2遺伝子のプロモーター領域には、ROREが存在した。
(3)Rev−erbα遺伝子には、一つのRORE、一つのDBP結合領域、五つのE−BOXが存在した。
(4)Dbp遺伝子には、二つのRORE、二つのE−BOXが存在した。
(5)Per3遺伝子のプロモーター領域には、それ自身の遺伝子内にDBP結合領域が存在した。
(6)Per1遺伝子のプロモーター領域には、5つのE−BOX、DBP結合領域が存在した。
(7)Per2遺伝子のプロモーター領域には、E−BOXが存在した。Per2遺伝子におけるE−BOX(CACGTT)は、典型的なE−BOX(CACGTG)とは配列が異なっていた。
【0054】
これらの結果は、以下に示す、概日リズム調整機構の存在を示唆する。
【0055】
(1)Bmal1遺伝子及び(2)Npas2遺伝子の発現は、ROREに結合する転写因子(Rev−erbなど)に制御される。一方、Bmal1遺伝子は、BMAL1(タンパク質)を発現する。発現したBMAL1(タンパク質)は、CLK(タンパク質)と結合して、CLK−BMAL1複合体を形成する。CLK−BMAL1複合体は、プロモーター領域にE−BOXを持つ遺伝子(Rev−erbα遺伝子、Dbp遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子)の発現を促進する。なお、Npas2遺伝子は、NPAS2(タンパク質)を発現する。
【0056】
(3)Rev−erbα遺伝子の発現は、ROREに結合する転写因子(Rev−erbなど)、DBP結合領域に結合する転写因子(DBPなど)、E−BOXに結合する転写因子(CLK−BMAL1複合体)による調節を受けていると推定される。即ち、Rev−erbα遺伝子の発現は、フィードバック機構による、発現量の調節を受けていると推定される。一方、Rev−erbα遺伝子は、REV−ERBα(タンパク質)を発現する。REV−ERBα(タンパク質)は、転写因子として、ROREを持つ遺伝子(Bmal1遺伝子及びNpas2遺伝子)の発現を制御する。
【0057】
(4)Dbp遺伝子の発現は、ROREに結合する転写因子(Rev−erbなど)、E−BOXに結合する転写因子(CLK−BMAL1複合体)による調節を受けていると推定される。一方、Dbp遺伝子は、DBP(タンパク質)を発現する。DBPは、転写因子として、DBP結合領域に結合し、DBP結合領域を持つ遺伝子(Rev−erbα遺伝子、Per3遺伝子、Per1遺伝子)の発現を促進する。
【0058】
(5)Per3遺伝子の発現は、DBPなどDBP結合領域に結合する転写因子により、促進される。
【0059】
(6)Per1遺伝子の発現は、DBPなどDBP結合領域に結合する転写因子、及び、E−BOXに結合する転写因子(CLK−BMAL1複合体)による調節を受けている。
【0060】
(7)Per2遺伝子の発現は、E−BOXに結合する転写因子(CLK−BMAL1複合体)による調節を受けている。
【0061】
まとめると、図4に模式的に示すとおり、概日時計制御遺伝子が、Rev−erbα遺伝子、Bmal1遺伝子、Dbp遺伝子、Per遺伝子、の順で発現する可能性を示している。即ち、各遺伝子から発現したタンパク質が、その下流の遺伝子の発現を制御している可能性を示している。そして、前記した発現順序は、実施例1で示した概日発現タイミング(図2参照)と、おおよそ一致する。
【0062】
なお、図4において、概日時計制御遺伝子から発現したタンパク質による、Rev−erb遺伝子に対する作用を示す矢印は省略した。上記の実施例1(図2)において、Rev−erbα遺伝子の発現タイミングがBmal1・Npas2とDbpの間にあるのは、Rev−erbα遺伝子が、複数の転写因子(一つのRORE、一つのDBP結合領域、五つのE−BOX)を持つため、即ち、Rev−erbα遺伝子の発現が、複雑なフィードバック機構により、調節されているためと、推定される。また、図2中、CT4〜CT8で発現したRev−erbα遺伝子の転写産物(REV−ERBα)は、CT6〜CT10に発現するDbp遺伝子と、翌CT20〜CT24のBmal1遺伝子の発現タイミングを調節している可能性がある。
【0063】
その他、上記の実施例1(図2)における、Per3遺伝子、Per1遺伝子、Per2遺伝子の発現タイミングのずれは、転写因子結合領域の種類・個数・配列に違いがあるため、または、さらに複雑な調整機構が存在するため、であると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る概日リズム制御遺伝子群は、DNAチップなどに適用可能であるほか、例えば、上記概日リズム制御遺伝子群を少なくとも有する培養細胞などにも適用可能である。前記培養細胞は、例えば、上述した、副作用として概日リズムの変調を伴う物質などのスクリーニング方法にも適用できる可能性がある。以上より、本発明に係る概日リズム制御遺伝子群は、産業上有用である。
【0065】
本発明に係るDNAチップは、上記の通り、概日リズムの変調を検出する方法、概日リズム調整剤の選択をする方法、スクリーニングなどに利用でき、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】リアルタイムRT−PCRの結果を示す図。
【図2】概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングを模式的に示した図。
【図3】各概日リズム制御遺伝子における、転写制御領域の位置を示した図。
【図4】概日リズム制御遺伝子群の発現調節機構を模式的に示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
概日時間16時を基準として、次の(1)又は/及び(2)の遺伝子が発現した後、(3)から(7)の遺伝子が順に発現する遺伝子群であって、(1)から(7)の全ての遺伝子を含む概日リズム制御遺伝子群、若しくは、次の(1)から(7)から選択される複数の遺伝子を含む概日リズム制御遺伝子群。
(1)コード領域中又はその上流配列中にROREを持つBmal1遺伝子。
(2)コード領域の上流配列中にROREを持つNpas2遺伝子。
(3)コード領域中又はその上流配列中にRORE、DBP結合領域、及び、E−BOXを持つRev−erbα遺伝子。
(4)コード領域中又はその上流配列中にRORE及びE−BOXを持つDbp遺伝子。
(5)コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つPer3遺伝子。
(6)コード領域の上流配列中にDBP結合領域及びE−BOXを持つPer1遺伝子。
(7)コード領域の上流配列中にE−BOXを持つPer2遺伝子。
【請求項2】
前記概日リズム制御遺伝子群が、概日時間16時を基準として、
(a)コード領域中又はその上流配列中にROREを持つ遺伝子、
(b)コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つ遺伝子、
(c)コード領域中又はその上流配列中にE−BOXを持つ遺伝子、
の順で発現することを特徴とする請求項1記載の概日リズム制御遺伝子群。
【請求項3】
概日リズム末梢組織に発現することを特徴とする請求項1記載の概日リズム制御遺伝子群。
【請求項4】
前記(1)又は/及び(2)の遺伝子の正常時の発現ピークが概日時間20時から24時、
前記(3)の遺伝子の正常時の発現ピークが概日時間4時から8時、
前記(4)の遺伝子の正常時の発現ピークが概日時間6時から10時、
前記(5)の遺伝子の正常時の発現ピークが概日時間8時から12時、
前記(6)の遺伝子の正常時の発現ピークが概日時間10時から14時、
前記(7)の遺伝子の正常時の発現ピークが概日時間12時から16時、
であることを特徴とする請求項1記載の概日リズム制御遺伝子群。
【請求項5】
請求項1記載の概日リズム制御遺伝子群が少なくとも配列されたことを特徴とするDNAチップ。
【請求項6】
請求項5記載のDNAチップを用いた、概日リズム制御遺伝子群の発現タイミングの変調を予測する方法。
【請求項7】
コード領域中又はその上流配列中にROREを持つ遺伝子の発現タイミングの変調を検出することにより、コード領域中又はその上流配列中にROREを持つ他の遺伝子の発現タイミングの変調を予測することを特徴とする請求項6記載の予測方法。
【請求項8】
コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つ遺伝子の発現タイミングの変調を検出することにより、コード領域中又はその上流配列中にDBP結合領域を持つ他の遺伝子の発現タイミングの変調を予測することを特徴とする請求項6記載の予測方法。
【請求項9】
コード領域中又はその上流配列中にE−BOXを持つ遺伝子の発現タイミングの変調を検出することにより、コード領域中又はその上流配列中にE−BOXを持つ他の遺伝子の発現タイミングの変調を予測することを特徴とする請求項6記載の予測方法。
【請求項10】
請求項5記載のDNAチップを用いた、概日リズムの変調を検出する方法。
【請求項11】
睡眠障害を検出することを特徴とする、請求項10に記載した概日リズムの変調を検出する方法。
【請求項12】
不眠症を検出することを特徴とする、請求項10に記載した概日リズムの変調を検出する方法。
【請求項13】
時差ぼけを検出することを特徴とする、請求項10に記載した概日リズムの変調を検出する方法。
【請求項14】
請求項5記載のDNAチップを用いて、概日リズム調整剤を選択する方法。
【請求項15】
請求項5記載のDNAチップを用いた、RORE、DBP結合領域、E−BOXのいずれか又は複数に作用する物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
前記物質は、概日リズム調整剤である請求項15記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
前記物質は、概日リズムの変調を伴うものである請求項15記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−20524(P2006−20524A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199122(P2004−199122)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】