説明

構造物の振動測定器

【課題】ケーブルを必要とすることなく、構造物に生じた振動の振動数を測定できる振動測定器を提供する。
【解決手段】本発明の構造物Sの振動測定器1は、振動体13、振幅表示部15および筐体14という三つの要素を備える。振動体13は複数あり、それぞれバネ11およびバネ11により吊り下げられる錘12を有し、固有振動数が互いに異なっている。振幅表示部15は、振動体13の振動による錘12の鉛直方向の変位に伴う振動体13の片振幅を振動体13毎に視覚的に表示するものである。筐体14は、振動体13および振幅表示部15を収容する空間を有し、バネ11および振幅表示部15を支持するとともに、構造物Sに設けられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に生じる振動の振動数を測定可能な振動測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物には、周辺の流体の動きや、地震等に起因して振動が生じうる。この振動の検出に用いることのできる静電容量型、ピエゾ抵抗式型、ガス温度分布型等の各種の加速度センサが知られている。また、機械的に振動を検出する装置として、容器内に重錘をバネで吊り下げ、地震時に、慣性により静止状態を維持しようとする重錘に対してカップが衝突することで振動検出スイッチが閉成し、容器の外部に設置した警報機を作動させる地震報知器が提案されている(特許文献1)。この地震報知器は、容器、カップ、重錘の大きさに応じて検出震度を設定できるので、例えば検出震度が3,4,5のように異なる3つの地震報知器を用いることにより、震度(加速度レベル)を把握できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−240476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
構造物に生じる振動解析の観点からは、従来の加速度センサや特許文献1の地震報知器で測定される加速度に加え、振動数が測定されることが望まれる。
また、加速度センサは、加速度を電気信号として検出するため、通常、センサから回路基板まで電気信号を取り出すケーブルを必要とする。特許文献1の地震報知器も、重錘とカップとが接触した際の振動検出信号を警報機まで送信するためのケーブルを必要とする。このケーブルが、センサを設ける場所の制約となる場合がある。例えば、密閉容器内に設置される構造物にセンサを設け、容器の外側までケーブルを引き出すのは、密閉状態を維持する構造および作業が必要となるので、コストが増加してしまう。このような密閉容器が備えている配管に沿ってケーブルを引き出すことも考えられるが、配管の数が少ないと、容器内に振動を検出したい箇所が多数ある場合に対応できない。
【0005】
そこで、本発明は、ケーブルを必要とすることなく、構造物に生じた振動の振動数を測定できる振動測定器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の構造物の振動測定器は、振動体、振幅表示部および筐体という三つの要素を備える。
振動体は複数あり、それぞれバネおよびバネにより吊り下げられる錘を有し、固有振動数が互いに異なる。
振幅表示部は、振動体の振動に伴って錘が変位した際の振動体の片振幅を振動体毎に視覚的に表示するものである。この振幅表示部は、片振幅を直接的または間接的に視認できるか、あるいは振幅表示部の状態の撮像等を通じて片振幅を把握できることを特徴とする。また、振幅表示部は、振動体の錘が直接的または間接的に作用することでその形状、位置等の状態変化を遂げることにより、片振幅を表示する。
筐体は、振動体および振幅表示部を収容する空間を有し、バネおよび振幅表示部を支持するとともに構造物に設けられるものである。
【0007】
本発明の振動測定器によれば、固有振動数が異なる複数の振動体と、各振動体の片振幅を視覚的に表示する振幅表示部とを備えるので、片振幅を複数の振動体間で比較し、片振幅が最大となる振動体の固有振動数に基づいて、構造物の振動数を特定することができる。
しかも、本発明によれば、表示された片振幅を所定の測定期間後に視認することで構造物の振動数を知ることができるので、測定値を電気的に取得する機器と違い、信号を送信するケーブルが不要となる。
【0008】
本発明の振動測定器は、振幅表示部として少なくとも2つの形態を包含する。
第1の形態は、振動体の振動に伴って変位した錘によって突き破られる膜体を有している。膜体は、錘から所定距離だけ離れた位置に設けられる。
第1の形態では、膜体が突き破られたことにより、振動体の片振幅が表示されることになる。なお、錘によって膜体が突き破られるのは、直接、間接を問わない。例えば、錘自体が膜体に衝突して膜体を突き破ってもよいし、錘に設けられた鋭利な針が膜体を突き破ってもよい。
【0009】
第1の形態において、膜体は、振動体の振動方向に間隔をおいて複数設けられていることが好ましい。
そうすることにより、膜体が1枚のみの場合よりも高い精度で構造物の振動数を測定できるのに加えて、構造物に生じた加速度をも測定できる。
【0010】
第2の形態は、レールと、表示スライダとを有している。
レールは、振動体の振動方向に沿って配置されるとともに、錘を直接または間接に案内する。
表示スライダは、錘のレールに沿った往復変位における往路または復路の一方にのみ追従して移動する。
第2の形態では、例えば往路において表示スライダが振動体の最大の片振幅まで移動したとすると、その後、復路に表示スライダが追従して移動することがないので、最大の片振幅まで移動した表示スライダはその位置に留まることにより、片振幅が表示されることになる。
第2の形態によれば、錘の変位に応じた距離だけ表示スライダが無段階に移動するので、連続的な片振幅が得られる。このため、測定分解能の向上に寄与できる利点を有する。
【0011】
本発明の振動測定器は、振動体の振動を減衰させる減衰手段を備えることが好ましい。
そうすることにより、振動体が周囲の筐体に衝突したり、バネに過大な応力が生じたりして、振動体が破損するのを回避できる。振動をどの程度減衰させるかは、構造物の変位に対する振動体の変位の倍率(変位応答の倍率)に基づいて、減衰定数を設定することで決めることができる。
減衰手段としては、公知の減衰手段を広く適用することができるが、振動体と共に筐体に収容される粘性抵抗を持つ流体が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の振動測定器によれば、ケーブルを必要とすることなく、構造物の振動数を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係る振動測定器の全体構成を示す図である。
【図2】振動測定器を構成する検出器を示す図である。
【図3】錘および膜体を示す模式図である。
【図4】振動数の測定原理を概念的に示す図である。
【図5】減衰定数をパラメータとして変位応答の倍率を示すグラフである。
【図6】振動体の片振幅を表示した膜体の状態を示す図である。
【図7】第1実施形態の変形例に係る減衰手段を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る検出器の主要部を示す図である。
【図9】第2実施形態の変形例に係る検出器の主要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1〜図6を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
図1に示す振動測定器1は、複数(例えば、本実施形態では5つ)の検出器10(10A〜10E)から構成されており、構造物Sに生じる振動の振動数を測定する。構造物Sとしては、密閉容器の内部の部材や、任意の場所に設置された配管、あるいは建造物躯体等が該当する。
外側筐体18に収容されている複数の検出器10は、ブラケット17を介して構造物Sに一体に設けられている。ブラケット17が、溶接、もしくはボルト接合により、十分な接合力で構造物Sに固定されることで、検出器10は構造物Sに生じた振動を感受する。
【0016】
検出器10はそれぞれ、図2に示すように、バネ(引張コイルバネ)11およびバネ11により吊り下げられた錘12を有する振動体13(振動体13A〜13E)と、振動体13の片振幅を表示する振幅表示部15と、振動体13および振幅表示部15を高粘性のオイル(流体)16と共に収容する筐体14と、を有しており、振動体13の片振幅を検出する。本実施形態の検出器10により検出される片振幅は、鉛直方向下向きの値である。
なお、本実施形態は、検出器10として5つの検出器10A〜10Eを備えているが、検出器10A〜10Eに共通する事項を説明する場合には検出器10と総称する。各々の検出器10A〜10Eが備える振動体13A〜13Eについても同様である。
【0017】
複数の検出器10A〜10Eのそれぞれの振動体13A〜13Eの固有振動数は、互いに異なっている。
【0018】
筐体14は、振動体13と、振幅表示部15と、オイル16とを収容する空間を有し、内部に塵埃や水滴等が侵入しないように作られており、外側筐体18に一体に設けられている。また、筐体14は、構造物Sの振動を受けても容易に変形しない程度の剛性を備えている。筐体14の上壁内部にバネ11の上端部11Aが固定されることで、振動体13は筐体14内で振動可能とされている。
筐体14は、振動体13が主に鉛直方向に沿って振動するように、外側筐体18、およびブラケット17を介して構造物Sに固定される。なお、本実施形態において、上・下は、鉛直方向における上・下を言うものとする。
検出器10が筐体14を備えることにより、設置環境による収容物の特性変化が抑制される。これにより、いずれも後述する振動体13A〜13Eの固有振動数、および錘12の針状部122と振幅表示部15の膜体F1〜Fnとの距離がそれぞれ正確に維持される。
また、検出器10A〜10Eはそれぞれ、筐体14を備えることで他の検出器とは独立して扱えるようにユニット化されている。これにより、振動特性(固有振動数等)の設定や、錘12の針状部122と膜体F1〜Fnとの距離の設定を振動体13A〜13E毎に行えるので、これら振動特性や距離を正確に設定し易い。
【0019】
振動体13を構成する錘12は、バネ11の下端部11Bに設けられた球状の錘本体121と、錘本体121の下端121Aから下方に向けて突出した鋭利な針状部122と、を有している。錘本体121は、球状に限らず、任意の形状とすることができる。
【0020】
振動体13の固有振動数fは、次の式(1)に示すように、バネ11のバネ定数k、バネ11の質量m、錘12の質量Mの値を規定することによって設定される。gは重力加速度である。
したがって、各振動体13A〜13Eを構成するバネ11、錘12を式(1)に基づいて調整することにより、それぞれの振動体13A〜13Eの固有振動数を相違させることができる。振動体13A〜13Eの各々の固有振動数は、この順に値が大きくなるように設定される。なお、バネ11としてここではコイルバネを用いているが、バネとして機能しうる弾性体を適用できる。
以下、振動体13A〜13Eの各々の固有振動数を次のように称する。
振動体13A:fA, 振動体13B:fB, 振動体13C:fC
振動体13D:fD, 振動体13E:fE
【0021】
【数1】

【0022】
次に、振幅表示部15は、図3に示すように、錘12の針状部122の先端122Aよりも下方に設けられており、複数の膜体F1〜Fnから構成される。これらの膜体F1〜Fnは、筐体14の水平方向の開口面積と同程度の表面積を有しており、その周縁部が筐体14に固定されることで、振動体13の主な振動方向と直交する水平方向に張られている。最も上に位置するものから順に、膜体F1,F2,F3…Fnが鉛直方向に間隔をおいて配置されている。これらの膜体F1〜Fnの間隔は、一定でも一定でなくてもよい。
【0023】
各膜体F1〜Fnには、例えば、金属(アルミニウム箔等)、ゴム、セラミック製のシートを用いることができる。膜体F1〜Fnの材質は、使用環境温度等に応じて適宜選択される。例えば、高温環境下では、耐熱性を有するゴムや、セラミックが好適となる。また、各膜体F1〜Fnの材質は、同じでも、互いに異なっていてもよい。
【0024】
膜体F1〜Fnの中心部には、針状部122の先端122Aが対向しており、振動体13が所定の片振幅以上に振動すると、針状部122の先端122Aが接触することで、膜体F1〜Fnが順に突き破られる。したがって、破れた膜体の枚数によって、振動体13の片振幅を知ることができる。この点を以下でより詳しく説明する。
【0025】
膜体F1〜Fnと、針状部122の先端122Aとのそれぞれの距離は、構造物Sと振動体13とが膜体F1〜Fn毎に決められた片振幅で振動した際に、針状部122により突き破られるように設定されている。このときの片振幅は、オイル16の粘性抵抗によって減衰されたものである。
その片振幅以上に振動体13が振動すると、針状部122とのそれぞれの距離が設定された各膜体F1〜Fnが上から順に突き破られるので、振幅表示部15は、膜体F1〜Fnの破れた枚数に基づいて、振動体13の片振幅を表示する。例えば、膜体F1〜F3が破れたとすると、膜体F3に対応する片振幅が、振動体13の最大の片振幅となる。ただし、振動体13が最下端の膜体Fnに対応する片振幅以上に振動して膜体Fnまでもが破れてしまうと、膜体F1〜Fnにより振動体13の最大の片振幅を表示することができなくなる。そのため、膜体F1〜Fnの枚数、および各膜体F1〜Fnの位置は、少なくとも最下端の膜体Fnが振動体13の共振時の最大振幅を超える位置に設けられるように設定されている。
【0026】
上述した複数の振動体13と、振幅表示部15とが、構造物Sに生じた振動の振動数を測定するための主な構成要素となる。
ここで、構造物Sに生じうる振動の振動数帯域は、例えば、構造物Sの模型を用いるか、またはコンピュータによるシミュレーションによって求めることができる。求められた振動数帯域に誤差分として例えば、その振動数帯域の±5%〜10%を加えることによって、振動測定器1が測定対象とする振動数帯域(測定振動数帯域)を設定することもできる。
【0027】
以下、図4に示すように、fminからfmaxまでの測定振動数帯域の振動数を5つの振動体13A〜13Eを用いて測定する例について説明する。
この図4は、構造物Sの振動に対して振動体13A〜13Eのいずれが応答して振動するかを示しており、横軸は、それぞれ所定の振動数帯域で振動する振動体13A〜13Eの振動数を示し、縦軸は、振動数に対応する片振幅を示している。
振動体13A〜13Eはいずれも、測定振動数帯域fmin〜fmaxに固有振動数(fA、fB,fC,fD,fE)を有しており、その固有振動数の前後の振動数帯域において構造物Sの振動に応答する。構造物Sの振動数が固有振動数fA〜fEのいずれかに一致または近似(以下、一致、と総称する)すると、その固有振動数を持つ振動体が共振するのでその片振幅が最大となる。したがって、振動体13A〜13Eの片振幅を比較することによって構造物Sの振動数を測定できる。
例えば、構造物Sの振動数がfCだとすると、振動体13A〜13Eを比較したときに最大の片振幅となるのは振動体13Cである。これを図6を用いて説明すると、検出器10Cの振動体13Cによって破られた膜体の枚数が最も多いことになる。したがって、この振動体13Cの固有振動数fCを構造物Sの振動数とみなすことができる。
【0028】
本実施形態では、振動体13A〜13Eのそれぞれが受け持つ振動数帯域が、隣接するもの同士で互いに一部重複している。このため、例えば固有振動数fCとfDとの間にある振動数fCD1で構造物Sが振動するとき、振動体13C,13Dのいずれも応答し、これら振動体13C,13Dによって一枚または複数枚の膜体F1〜Fnが破られる。この場合でも、振動体13A〜13Eのそれぞれに対応する膜体F1〜Fnが破れた枚数を比較すれば、振動数fCとfDとの間に、測定値としうる振動数が存在することがわかるので、曲線近似等により、振動数を測定できる。
【0029】
ところで、共振時には振動体13の振幅が理論的には無限大となる。実際には、振動体13周囲の物質の抵抗により、振幅が無限大となることはないが(図4に示した実線の振動特性を参照)、共振時の振幅が大き過ぎると。振動体13に過大な応力が生じて、振動体13(特にバネ11)が破損するおそれがあるため、共振時の振動を減衰させる減衰手段として、粘性抵抗を持つオイル16が筐体14の中に充填されている。
図5は、正弦波外力による変位共振曲線を示している。図5において、横軸は、構造物Sの振動周期をω、振動体13の振動周期をnとしたときの振動周期比ω/nである。一方、縦軸は、次の式(2)で求められる変位応答倍率Lであり、振動体13が構造物Sの変位δstの何倍の変位Dで応答するかを示す。hは減衰定数である。
【0030】
【数2】

【0031】
図5に示すように、変位応答倍率Lは、構造物Sの振動周期ωに振動体13の振動周期nが一致(ω/n=1.0)する共振時にピーク(最大値)を示す。このピークは、減衰定数hが小さい程高い値となって変位応答倍率Lの特性曲線が急峻となる。本実施形態では、構造物Sに対する共振が続いても振動体13、特にバネ11の破損を回避し、かつ、測定分解能を確保できるように、変位応答倍率Lが例えば5〜7倍とされる。このときの減衰定数hは、例えば0.06〜0.1程度となる。オイル16の選定に当たって、この減衰定数hが参照される。オイル16を筐体14内に充填することによって、少なくとも共振時の振動が減衰され、片振幅の最大値が減少する結果、振動体13A〜13Eの振動特性は、図4に示す破線のようにピークが低くなる。
なお、減衰手段としてのオイル16は好ましい要素であるが、本発明にとって必須の要素ではない。
また、振動数の測定に必要な分解能が確保できるように、振動を減衰させる程度を定めるのがよい。
【0032】
振動測定器1による構造物Sの振動数測定について、そのプロセスを追って以下説明する。
構造物Sに振動測定器1を取り付け、その後構造物Sが振動すると、筐体14が構造物Sと一体に振動し、構造物Sの振動は、ブラケット17、外側筐体18および筐体14を介して振動体13に伝えられる。しかし、錘12は慣性により静止状態を維持しようとするので、バネ11の伸縮に伴って錘12が若干変位するだけで、振動体13A〜13Eは構造物Sの振動に直ちには追従しない。振動体13A〜13Eのうち、構造物Sの振動によってその慣性が打破されたものは変位を開始する。変位を開始しても、オイル16の粘性抵抗によって、周期的に往復変位する振動には至らないことがある。しかし、その後の構造物Sの振動継続を受けて振動体が往復変位するに至り、構造物Sの振動数が振動体13A〜13Eのいずれかの固有振動数に一致すると、その振動体は共振する。
【0033】
検出器10A〜10Eのうち、所定の片振幅以上に振動体13A〜13Eが振動したものの振幅表示部15においては、錘12の針状部122により膜体F1〜Fnが突き破られる。針状部122は、鋭利なため膜体を容易に突き破ることができ、かつ、突き破られることで膜体に出来た孔を抵抗がないか、殆どない状態で出入りする。このため、振動体13の振動が妨げられることなく、振幅が増大すると膜体F1〜Fnが上から順に突き破られる。このとき、先行した振幅よりも振幅が増大すると、より下側に位置する膜体F1〜Fnが突き破られることで、最大の片振幅が更新される。こうして、構造物Sに生じた振動による振動体13A〜13Eの各々の最大の片振幅が、膜体F1〜Fnに表示される。
【0034】
所定の測定期間経過後、構造物Sから振動測定器1を取り外し、検出器10A〜10Eの筐体14を開けて、膜体F1〜Fnのうち突き破られている膜体の枚数、つまり破れの状態を確認する。この破れの状態は片振幅を示すものであるから、本実施形態によれば、振動体13A〜13Eの片振幅を目視によって把握できる。
膜体F1〜Fnの破れの状態に基づき、以下の例のようにして構造物Sの振動数を測定する。
図6に示す例では、振動数帯域が互いに隣接する振動体13B〜13Dを有する検出器10B〜10Dにおいて振幅表示部15の膜体が突き破られている。具体的には、検出器10Bの2枚の膜体F1およびF2、検出器10Cの4枚の膜体F1〜F4、検出器10Dの2枚の膜体F1およびF2が突き破られている。ここでは、破られた膜体の枚数は、検出器10Cで最も多く、かつ、検出器10Bと検出器10Dで同数なので、構造物Sの振動数が振動体13Cの固有振動数に一致し、共振が生じていたものと推定できる。この場合には、振動体13Cの固有振動数fCを構造物Sの振動数(測定値)として扱う。
【0035】
次に、例えば、検出器10B〜10Dの破れた膜体の枚数が順に1枚、2枚、2枚のように、破れた膜体の枚数が最大となる検出器(10C,10D)が複数ある場合には、それらの検出器に係る固有振動数の間の値(例えば、図4に示すfCとfDとの間にあるfCD1)が、構造物Sの振動数に相当するものと推定できる。
また、例えば、検出器10B〜10Dの破れた膜体の枚数が順に1枚、3枚、2枚のように、破れた膜体の枚数が最大となる検出器(10C)の両側の各検出器(10B,10D)において破れた膜体の数が異なる場合には、構造物Sの振動数は、固有振動数fCよりもfD側にシフトした値となる(例えば、図4のfCD2)。
以上のように振動数を特定する際に、検出器10A〜10Eの破れた膜体の枚数、および減衰定数hから、曲線近似等を用いて測定値を求めてもよい。この場合には、減衰定数hが既知でなくても、複数の検出器10A〜10Eのそれぞれにおける破れた膜体の枚数、および上記の式(2)から導かれる1自由度系の振動理論解に基づいて、測定値を求めることができる。これは、後述する加速度についても同様である。
【0036】
以上説明した振動測定器1によれば、振動体13A〜13E毎に設けられた膜体F1〜Fnの破れの状態を目視により確認し、その破れの状態が示す振動体13A〜13Eの片振幅に基づいて、振動数を測定できる。このため、振動測定器1は、検出値を回路基板に取り出すケーブルを必要としない。つまり、ケーブルに伴う前述したコストや設置箇所、設置数の問題を解決できる。
【0037】
上記実施形態の振動測定器1と同様の構成により、加速度を測定することもできる。
加速度を測定するには、各々の膜体F1〜Fnと、各々の膜体F1〜Fnに対応する加速度A1〜Anと、が対応付けられた校正データを用意しておく。この加速度A1〜Anには、各々の膜体F1〜Fnが破られるときに構造物Sに生じている加速度が当てられる。またこの校正データは、検出器10A〜10E毎に用意される。
そして例えば、図6に示すように、検出器10Cについて最も大きい番号の膜体F4が破れたとすると、校正データを参照することで、膜体F4に対応する加速度A1を構造物Sの振動時の最大加速度として扱える。
【0038】
上記実施形態の検出器10は複数の膜体F1〜Fnを備えていたが、本発明は、振動数を測定する上では、検出器10が1つの膜体のみを備えている構成を許容する。膜体が1つのみであっても、各検出器10の膜体の破れの有無を比較することで、振動数を測定できる場合がある。図4で、仮に、構造物Sに生じうる振動の振動数が、fA近傍,fE近傍のように、離散した帯域に限定される場合には、構造物Sの振動に応答して膜体が破れる検出器10が一つだけとなるので、膜体が1枚のみであっても、その唯一の検出器10の膜体の破れの有無に基づいて十分な精度で測定できる。
【0039】
なお、本発明における他の減衰手段として、制振ダンパを振動体13に設けることもできる。この制振ダンパは、例えば、図7に示すようなオイルダンパ19であってよい。特に共振時には、振動体13は構造物Sの変位の数倍の変位で応答するが(図5、および式(2))、ピストン192の動きがダンパオイル190の粘性により抑制されることで、シリンダー191と連結された錘12を含む振動体13の振動が減衰される。また、このオイルダンパ19によって、振動エネルギが熱エネルギに変換されることで、振動体13の振動が減衰される。
その他、制振ダンパとして、他のダンパ、例えば摩擦ダンパを用いることもできる。
なお、制振ダンパは、前述のオイル16と併用することもできる。オイル16やダンパオイル190等の流体を用いる場合、その流体の粘性抵抗によって振動体の振動が減衰される。粘性抵抗は減衰定数と所定の関係を有するので、減衰の度合に応じた粘性抵抗の流体を選択することにより、減衰の度合を容易に調整できる。
【0040】
〔第2実施形態〕
次に、振幅表示部の構成が第1実施形態とは異なる第2実施形態について図8を参照して説明する。なお、図8では、第1実施形態と同じ構成要素に図1と同じ符号を付している。
図8に示される本実施形態の検出器20は、振動体13の側方に鉛直方向に沿って配置されるレール26と、レール26に沿って摺動する往復スライダ27と、往復スライダ27よりも下方に配置され、レール26に沿って摺動する表示スライダ28と、を有する振幅表示部25を備えている。なお、図8には筐体14の一部のみが示されているが、振幅表示部25は振動体13と共に筐体14の内部に収容されている。また、表示スライダ28に関し、初期位置にある状態を実線で示し、摺動後の状態を一点鎖線で示す。
【0041】
レール26は、構造物Sに振動が生じても位置ずれを起こすことのないように、筐体14の内部に十分な接合力で固定されている。図8の例では、筐体14の側壁にレール26が支持されているが、筐体14の側壁から離してレール26が支持されていてもよい。
このレール26は、振動体13が共振して往復スライダ27および表示スライダ28が最大の変位で移動しても、レール26から往復スライダ27および表示スライダ28が脱落しないように長さが設定される。
レール26は、以下示す連結片271および往復スライダ27を介して錘12を案内する。
【0042】
往復スライダ27は、連結片271により錘12と機械的に連結されている。したがって、振動体13の振動に伴って錘12が鉛直方向に往復変位すると、その変位に連動して往復スライダ27はレール26に沿って往復動する。このとき、錘12と往復スライダ27は変位の大きさが一致する。なお、連結片271は、錘12に往復スライダ27が連動できる程度の剛性を備えている必要がある。
また、往復スライダ27は、レール26に摺動可能に保持されている。より詳しくは、錘12と連結されていない状態において、その自重により下向きに滑落しない程度にレール26との間に摩擦力が生じて保持されている必要がある。この摩擦力は、連結片271を介して連結された錘12が往復変位するのを極力妨げないことをも考慮して設定される。
【0043】
表示スライダ28は、往復スライダ27と同様に、所定の摩擦力によりレール26に摺動可能に保持されている。ただし、錘12に連結されていない点と、レール26上の位置(往復スライダ27よりも下方に配置される)の点で、表示スライダ28は往復スライダ27と相違する。この表示スライダ28は、往復スライダ27とは機械的な連結がなされていないので、往復スライダ27とは独立してレール26に沿って移動することができる。往復スライダ27よりも下方に位置する表示スライダ28は、往復スライダ27が下向きに変位する際に往復スライダ27に押されることで、往復スライダ27に連動して下向きに移動する。
【0044】
以上の構成を有する検出器20は、以下のように動作する。
構造物Sの振動を受けて振動体13が振動し、これに伴って錘12が鉛直方向に変位するものとする。錘12の下向きの変位に連動して往復スライダ27がレール26に沿って下向きに移動するとき、その移動方向前方に位置する表示スライダ28が往復スライダ27により押されるので、表示スライダ28は下向きに移動する。錘12の変位が上向きに転ずると、往復スライダ27は錘12の変位に連動して上向きに移動する。しかし、表示スライダ28は往復スライダ27と機械的な結合がなされていないので、上向きの変位に転ずる直前の位置(y1とする)に留まる。
以後、構造物Sの振動が継続しても振動体13の振幅がそれまでよりも大きくならなければ、この表示スライダ28の位置y1が、振動体13の片振幅を示す。
一方、構造物Sの振動が継続する間に、振動体13の振幅が大きくなると、表示スライダ28は往復スライダ27により下向きに押され、位置y1を超える位置y2まで移動する。そうすると、この表示スライダ28位置y2が、振動体13の片振幅を示す。
【0045】
以上の第2実施形態によれば、錘12の変位に応じた距離だけ表示スライダ28がレール26に沿って無段階に移動するので、連続的な片振幅が得られる。このため、片振幅が離散値となる第1実施形態よりも、複数の検出器20の中で片振幅が最大となる振動体13を精度良く抽出できるので、振動数の測定分解能の向上に寄与できる。
また、第2実施形態においても、構造物Sに生じうる加速度と、表示スライダ28により表示される片振幅との対応を示す校正データを用いることにより、加速度をも測定することができる。
さらに、第2実施形態では、レール26と往復スライダ27の間、および、レール26と表示スライダ28の間の一方または双方の摩擦力を高めることによって往復スライダ27および表示スライダ28の移動に負荷を与えれば、振動体13の振動を往復スライダ27および表示スライダ28の当該負荷により減衰させることができる。つまり、第2実施形態の振幅表示部25は減衰手段として機能させることができる。
【0046】
なお、本実施形態の振幅表示部25を次のように変形することもできる。錘12がレール26に沿って案内される構成を少ない部品点数で実現するため、例えば、往復スライダ27を排して連結片271をレール26に摺動可能に配置したり、連結片271および往復スライダ27の両方を排して錘12の一部をレール26に摺動する形状に変更してもよい。前者の場合、表示スライダ28が連結片271を介して錘12の下側への変位に追従し、後者の場合、錘12の下側への変位に表示スライダ28が直接追従する。すなわち、錘12を案内するレール26と、錘12の往復変位の一方向のみに追従する表示スライダとのみによって、振幅表示部を構成できる。
【0047】
また、第2実施形態の変形例として、振動体13が鉛直方向に加え水平方向にも振動するときに好適な構成を図9に示す。
振動体13が水平方向にも振動すると、錘12はバネ11の上端部11Aを支点に旋回しようとするので、連結片291や往復スライダ29には、水平方向の成分を持つ力が作用する。
往復スライダ29、および往復スライダ29を錘12に連結する連結片291は、水平方向に対する剛性が、図8の往復スライダ27および連結片271よりも向上されている。剛性を向上するには、よく知られているように、往復スライダ29、連結片291を剛性の高い材料で構成したり、断面径を太くすればよい。また、往復スライダ29に、連結片291の一端に連結された部分から上下両側にそれぞれ延びた延出部29A,29Bを設け、往復スライダ29および連結片291を合わせた全体形状をT字とすることにより、剛性を向上することもできる。
【0048】
このように連結片291および往復スライダ29の剛性が高いので、振動体13の振動時、錘12は水平方向には振れることがなく、連結片291および往復スライダ29と共にレール26に沿って鉛直方向に案内される。これにより、検出される振動体13の片振幅から水平方向の振動成分が排除されるので、本変形例によれば鉛直方向の振動数測定の精度が向上する。
【0049】
以上、本発明の振動測定器について具体例を挙げて説明したが、図4に示した振動体13A〜13Eの振動特性はあくまで一例であり、測定対象とする構造物Sに生じうる振動の振動数や振幅に応じて適宜設計されることは勿論である。したがって、例えば、本発明は、振動体13A〜13Eの最大片振幅が互いに異なること、また、振動体13A〜13Eの各々が受け持つ振動数帯域の幅が互いに異なること、を許容する。
また、以上の実施形態では、複数の筐体14が用意され、振動体13A〜13Eが各々の筐体14に収容されていたが、本発明は、1つの筐体の中に全ての振動体13A〜13Eを収容することを許容する。
さらに、上記各実施形態では、鉛直方向の下向きの片振幅を検出する例について説明したが、本発明は、鉛直方向の上向きの片振幅を検出する構成であってもよい。
以上で述べた以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 振動測定器
10,20 検出器
11 バネ
11A 上端部
11B 下端部
12 錘
13,13A〜13E 振動体
14 筐体
15,25 振幅表示部
16 オイル
17 ブラケット
18 外側筐体
19 制振ダンパ
26 レール
27,29 往復スライダ
28 表示スライダ
121 錘本体
122 針状部
122A 先端
271 連結片
S 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれがバネおよび前記バネにより吊り下げられる錘を有し、互いに異なる固有振動数とされる複数の振動体と、
前記振動体の振動に伴って前記錘が変位した際の前記振動体の片振幅を前記振動体毎に視覚的に表示する振幅表示部と、
前記振動体および前記振幅表示部を収容する空間を有し、前記バネおよび前記振幅表示部を支持するとともに構造物に設けられる筐体と、
を備える、ことを特徴とする構造物の振動測定器。
【請求項2】
前記振幅表示部は、
前記振動体の振動に伴って変位した前記錘によって突き破られる膜体を有する、
請求項1に記載の構造物の振動測定器。
【請求項3】
前記膜体は、前記振動体の振動方向に間隔をおいて複数設けられている、
請求項2に記載の構造物の振動測定器。
【請求項4】
前記振幅表示部は、
前記振動体の振動方向に沿って配置されるとともに、前記錘を直接または間接に案内するレールと、
前記錘の前記レールに沿った往復変位における往路または復路の一方にのみ追従して移動する表示スライダと、を有する、
請求項1に記載の構造物の振動測定器。
【請求項5】
前記筐体内に前記振動体の振動を減衰させる減衰手段を備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載の構造物の振動測定器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−104840(P2013−104840A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250697(P2011−250697)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】