説明

構造物の補修・補強用シート及び該シートで補修・補強された構造物

【課題】 構造物を効率的かつ安価に補強することができる補修・補強性能に優れた補修・補強用シートの提供。
【解決手段】繊維シート内に補強体を挿入してなることを特徴とする補修・補強用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物や鋼構造物などを補修・補強するのに使用される補修・補強用シートおよびそのシートを用いた構造物の補修・補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋脚、地下鉄の中柱、建築物の柱などの柱状体、特に鉄筋コンクリート(RC)或いは鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)で建造されたコンクリート柱のような構造物を補修・補強する方法としては、コンクリート柱の回りに鉄筋コンクリートを巻き立てる方法、鋼板や繊維シートを貼り付ける方法および補修・補強用複合パネルを貼り付ける方法などがある。
【0003】
鉄筋コンクリート(RC)を巻き立てる方法は、重量が増加する、新たに断面の面積が増加する、養生期間が長いため工期も長くなるなどの問題がある。鋼板を貼り付ける方法は、鋼板を運搬し、貼り付けるのに重機を必要とする。また、貼り付けた鋼板を互に溶接するか或いはボルト等で締めて接合する作業が必要であり、安全性や作業性が悪いなどの問題がある。
この問題に対して、例えば非特許文献1や非特許文献2に記載されているように、コンクリート柱の周りに高機能繊維シートを巻き付ける補修・補強方法が検討され、実用化されている。しかしながら、高機能繊維は高価であるため、繊維シート工法の普及の妨げとなっている。
特許文献1には、繊維シートと鋼板とを熱硬化性樹脂で積層した補修・補強用複合パネルが記載されている。しかしながら、この複合パネルは、コンクリート構造物との接着力が弱いために、はがれ易く、十分な補修・補強効果を発現することが困難である。
【特許文献1】特表2004−513268号公報
【非特許文献1】コンクリート委員会編,コンクリートライブラリー101号「連続繊維シートを用いたコンクリート構造物の補修補強指針」,土木学会発行,平成12年,P.3〜53
【非特許文献2】建設省住宅局建築指導課監修,「連続繊維補強材を用いた既存鉄筋コンクリート造及び鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計・施工指針」,(財)日本建築防災協会発行,1999年,P.9〜38
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、構造物を効率的に補修・補強できる安価な補修・補強用シートを提供することを目的とし、また該補修・補強用シートで構造物を効率的に補修・補強する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、繊維シート内に補強体を挿入してなる補修・補強用シートを使用することにより、構造物を効率的に補修・補強できることを見出した。これにより、高機能繊維の使用量を大幅に減少させることができ、低価格の補修・補強工法を実現できることを見いだした。本発明者らは、上記した種々の知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1] 繊維シート内に補強体を挿入してなることを特徴とする構造物の補修・補強用シート、
[2] 繊維シートが織物であって、該織物が補強体を挿入できるヨコ糸とタテ糸との非交錯部を有していることを特徴とする前記[1]記載の補修・補強用シート、
[3] 繊維シートが補強体を挿入できる袋部を有していることを特徴とする前記[1]記載の補修・補強用シート、
[4] 補強体の構成材料が金属または繊維強化プラスチックである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の補修・補強用シート、
[5] 補強体の形状が厚さ0.5〜4.5mmおよび幅10〜70mmの板状長尺体である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の補修・補強用シート、
[6] 補強体の断面が円形断面で、その円形断面の直径が0.5〜10mmである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の補修・補強用シート、
[7] 前記[1]〜[6]のいずれかに記載の補修・補強用シートで補修・補強されてなる構造物、および
[8] 構造物の表面に前記[1]〜[6]のいずれかに記載の補修・補強用シートを、熱硬化性樹脂を用いて貼り付けた後、該熱硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする構造物の補強方法、
に関する。
なお、本発明において「補修・補強」とは、「補修または補強」を意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の補修・補強用シートは繊維シート内に補強体が挿入された構造をとっており、この構造は、樹脂を介在して構造物と強固に一体化でき、構造物を効率的に補修・補強でき、優れた補修・補強性能を発揮できる。また、本発明の補修・補強用シートを用いて補修・補強された構造物は、補強前に比べて優れた耐力を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の補修・補強用シートは、繊維シート内に補強体を挿入してなることを特徴とする。
上記補強体は、繊維シート内に挿入可能なものであって、構造物を補強できさえすれば特に限定されないが、引張強度や引張弾性率の高い補強体であるのが好ましい。補強体の構成材料としては、例えば、金属または繊維強化プラスチックなどが挙げられ、より具体的には、鉄や鋼等の金属、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の繊維材料を含む繊維強化プラスチック(以下、FRPともいう)などが挙げられる。上記補強体の形状としては、板状、棒状(例えば円柱状等)などが挙げられる。このような補強体の具体例としては、金属板(例えば鉄板や鋼板等)、FRP板、鉄棒、鋼棒などが挙げられる。
【0009】
また、本発明においては、上記補強体を単数または複数用いることができるが、上記補強体を複数用いるのが、上記補修・補強用シートがフレキシブルとなり、より優れた補修・補強性能を発揮し得るので好ましい。上記補強体を複数用いる場合には、補強体のそれぞれの形状、長さ、幅、厚さ等を適宜に設定することによって、複雑な形状を有する構造物にも補修・補強が容易となり得る。従って、上記補強体の形状、長さ、幅、厚さ等は、適宜に設定されるので、特に限定されない。
【0010】
しかしながら、あえて本発明における補強体の好ましい形状、長さ、幅、厚さ等を具体的に説明する。上記補強体の好ましい形状としては、例えば、棒状または板状の長尺体などが挙げられる。上記補強体の形状が板状の長尺体である場合には、その長尺体の断面が矩形であるのが好ましく、また、その長尺体の厚さが0.5〜4.5mmであるのが好ましい。幅は10〜70mmであるのが好ましい。
【0011】
また、上記補強体の形状が棒状の長尺体である場合には、その長尺体の断面が円形であるのが好ましく、また、その円形断面の直径が0.5〜10mmであるのが好ましい。
【0012】
上記繊維シートは、繊維シート内に上記補強体を挿入できるものであれば特に限定されない。繊維シートの形状は、長尺体であって、厚さに対して幅が広ければ特に限定されない。上記繊維シートの種類としては、例えば、織物、編物、不織布などが挙げられる。
【0013】
上記繊維シートの構成繊維は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、有機繊維であってもよいし、無機繊維であってもよい。上記繊維の種類としては、例えば、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾオキサゾール(PBO)繊維、超高分子量ポリエチレン繊維などが挙げられる。
【0014】
上記繊維シートは、通常、上記繊維から上記補強体が挿入可能な繊維シートに加工することにより製造される。加工手段は、上記繊維から上記補強体が挿入可能な繊維シートに加工できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよい。このような手段としては、例えば製織手段(織機を用いる手段)、製編手段(編機を用いる手段)、不織布の製造手段(不織布製造装置を用いる手段)、縫製手段等の公知の手段が挙げられる。
【0015】
本発明において好ましい上記繊維シートとしては、例えば、繊維シートが織物である場合には上記補強体を挿入できるタテ糸とヨコ糸との非交錯部を有している織物、上記補強体を挿入可能な袋部を有している織物および上記補強体を挿入できる二重織物等の多層織物などが挙げられ、繊維シートが編物である場合には補強体を挿入できる袋部を有している編物、繊維シートが不織布である場合には補強体を挿入できる空間部を有している不織布などが挙げられる。
【0016】
上記補強体を挿入できるヨコ糸とタテ糸との非交錯部を有している織物としては、例えば、図1、図2および図12に示す織物などが挙げられる。図1、図2および図12に示す繊維シートは、上記補強体を挿入できるヨコ糸とタテ糸との非交錯部5およびその他の交錯部がそれぞれ交互に設けられているシート状の織物である。
【0017】
上記補強体を挿入可能な袋部を有している織物としては、例えば、図3に示すような織物などが挙げられる。図3に示す補修・補強用シートには、上記補強体を挿入可能な袋部を有している織物が用いられており、前記織物では袋部が連結されている。また、上記補強体を挿入可能な袋部を有している織物は、袋部を有していれば特に限定されないため、袋部とその他の例えば平織部とを連結させたシート状の織物も包含する。
【0018】
上記補強体を挿入できる二重織物等の多層織物としては、例えば図4〜5に示す織物などが挙げられる。図4に示す繊維シートは、接合点が設けられた二重織物である。図5に示す繊維シート4は、いわゆる風通織物であり、ヨコ糸3が交替して接結されている。また、上記多層織物は、例えば平織物等を積層して、その積層物を縫合したものも包含する。
【0019】
また、上記した繊維シート内に上記補強体を挿入できる織物としては、例えば、図6に示す繊維シート4などが挙げられる。図6に示す繊維シート4は、平織部と袋部とが交互に連結されている織物である。
【0020】
上記した織物は、公知の手段を用いて製造され、例えば公知の織機(例えばジェット織機やスルザー織機等)を用いて製造され得る。
【0021】
上記補強体を挿入可能な袋部を有している編物としては、例えば、図7および図8に示す繊維シートなどが挙げられる。図7および図8に示す繊維シート4は、袋部6と平面状の編部とが交互に連結されてなる編物である。
上記した編物は、公知の手段を用いて製造され、例えば公知の編機(縦編機、横編機等)を用いて製造され得る。
【0022】
上記「補強体を挿入できる空間部を有している不織布」は、公知の手段を用いてウエブ形成時やウエブ接合時に補強体を挿入できる空間部を設ける以外は常法に従うことにより製造され得る。
【0023】
本発明の補修・補強用シートは、上記繊維シート内に上記補強体を挿入することにより製造される。このようにして上記補強体を挿入することで、上記補強体の全部または一部が上記繊維シートで被覆されることになる。本発明においては、上記補強体の形状が長尺体である場合、繊維シートの長手方向と、補強体の長手方向とが平行の関係となるようにして、上記繊維シート内に上記補強体を挿入することにより製造される。例えば、図6および図7に示すように、補強体1を繊維シート4に矢印の方向に向かって挿入することにより製造される。なお、上記繊維シートが織物であって、上記補強体が板状の長尺体である場合の本発明補修・補強用シートの態様を図1〜図5および図12に例示する。
また、本発明においては、繊維シート内に補強体を挿入した後、繊維シートと補強体とを固定させてもよい。固定手段としては、例えば、接着剤を用いたり縫製したりする公知の固定手段が挙げられる。
【0024】
上記のようにして製造された補修・補強用シートは、構造物の補修・補強に用いられる。構造物の補修・補強方法としては、構造物の表面に上記補修・補強用シートを、熱硬化性樹脂を用いて貼り付けた後、該熱硬化性樹脂を硬化させることにより構造物を補修・補強する方法などが挙げられる。
【0025】
上記構造物とは、コンクリート構造物、鋼構造物、木構造物等を指す。コンクリート構造物とは、例えばコンクリート、セメントモルタル、ポリマーセメントモルタル等のセメント系材料で構築された構造物を意味する。例えば、橋梁、床版、高層から低層の一般建築物の柱・梁・壁面、地下構造物(例えば杭など)、トンネル内面、等が挙げられる。
鋼構造物とは、鋼材で構築された構造物を意味する。例えば、橋脚、柱、橋梁、桟橋などが挙げられる。
木構造物とは、木材で構築された構造物を意味する。例えば、木製の柱、梁、床などが挙げられる。
【0026】
上記補修・補強用シートで構造物を補修・補強する好ましい例を示すと、次の通りである。
(a)構造物の表面を清掃する。また、必要に応じて研磨する。
(b)構造物の表面に熱硬化性のプライマーを塗布する。
(c)プライマーを塗布した構造物の表面に熱硬化性樹脂を下塗りする。
(d)補修・補強用シートを構造物に貼り付ける。
(e)熱硬化性樹脂を上塗りし、養生して硬化させる。
【0027】
上記補修・補強用シートを構造体に貼り付ける際に使用される樹脂としては、一般に常温で硬化する熱硬化性樹脂が用いられる。具体的にはエポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メチルメタクリレート樹脂等が適している。
【0028】
以下、図面を用いて本発明の補修・補強用シートを適用した好適な構造物の補修・補強方法をより具体的に説明する。
図9および図10は上記補修・補強用シートで補強されたコンクリート構造物の主要部を模式化した図であり、図9は補修・補強用シートが袋部を有する場合を示し、図10は補修・補強用シートが非交錯部を有する場合を示す。なお、図11は、図10における領域Aの模式的正面図である。
【0029】
図9および図10に示すように、コンクリート構造物(8)の表面には、繊維シート(4)内に補強体(1)が挿入されている補修・補強用シートが貼り付けられ、この補修・補強用シートが、熱硬化性樹脂により固定されている。
【0030】
次に、上記のコンクリート構造物(8)の表面に補修・補強用シートを固定する手順について説明する。
最初に、上記のコンクリート構造物(8)は、好ましくは予め表面処理が施される。
即ち、コンクリート構造物(8)の表面が清掃され、また、必要に応じてグラインダー等で研磨され、錆や微細な凹凸部、汚れなどが除去される。グラインダーとしては例えばバフ加工用のグラインダーなどが挙げられる。研磨処理はコンクリート構造物(8)表面の錆や汚れなど、表面上の弱い層を除去するものであり、サンドブラストなど他の研磨方法によって行ってもよい。なお、コンクリート構造物(8)の表面に脆弱層がない等の場合はこの研磨処理を省いてもよい。
【0031】
次に、上記のコンクリート構造物(8)の表面が乾燥されていることを確認したのち、例えば粘度の低い常温硬化型エポキシ樹脂のプライマーがローラー、刷毛等で塗布される。このとき、上記のコンクリート構造物(8)の表面に段差がある場合は、エポキシ系パテ等の不陸調整材を用いて平坦に仕上げるのが好ましい。上記のプライマー使用量は表面の状態にもよるが通常0.1〜0.3kg/mである。なお、プライマー処理における樹脂は前記の熱硬化性樹脂と同種類とするのが好ましい。また、上記のプライマーには、コンクリート構造物の防触を目的とした防錆材料など、任意の成分を必要に応じて添加してもよい。
【0032】
プライマーが塗布されたコンクリート構造物(8)の表面に熱硬化性樹脂を下塗りする。
次いで、補修・補強用シートを貼り付ける。その際、該補修・補強用シートは熱硬化性樹脂で予備含浸されたものを用いるのが好ましい。また、上記補強体(1)は、その長手方向がコンクリート構造物の補強を必要とする方向と平行になるように配置される。次いで、補修・補強用シートの上に更に熱硬化性樹脂を上塗りする。熱硬化性樹脂の標準使用量は補修・補強用シートの種類にもよるが、下塗りの場合0.2〜2kg/mであり、上塗りの場合は0.2〜1kg/mであり、予備含浸の場合は0.2〜1kg/mである(全体では0.4〜4.0kg/mの範囲となる)。
【0033】
なお、補修・補強用シートは、上記のコンクリート構造物(8)が円柱状である場合など、コンクリート構造物(8)の周囲に捲き付ける場合には、上記の補修・補強用シートをコンクリート構造物(8)の表面に捲きつけてもよい。
【0034】
上記の手順により、コンクリート構造物(8)の表面には、補修・補強用シートが貼り付けられる。また、上記の補修・補強用シートをコンクリート構造物(8)の表面に貼り付ける際には、脱泡ローラーやゴムへらを使用して空気溜まりが残らないようにしごきながら、コンクリート構造物(8)の表面に貼り付けるのが望ましい。
なお、上記の補修・補強用シートで補強されたコンクリート構造物(8)は、さらに樹脂系塗装材料等を表面に塗布することもできる。また、構造物がコンクリート構造物である場合を例に挙げて補修・補強方法を説明したが、本発明においては、構造物が鋼構造物や木構造物である場合にも同様にして補修・補強が施され得る。
【0035】
上記のようにして補修・補強された構造物は、補修・補強前に比べて耐力が改善され、耐用年数が増す。
【実施例】
【0036】
繊維シートの製造
タテ糸として東レ・デュポン(株)製のアラミド繊維ケブラー(R)49の7000デニール原糸72本とトータルデニールが7000のポリエステル繊維72本を交互に並べ、織物の幅が300mmとなるように、25mmに計12本の密度とした。ヨコ糸として1000デニールのポリエステル繊維を25mmあたりに12本打ち込んだ。80mmおきにヨコ糸をとばし、タテ糸との非交錯部を作り、当該部分に補強体を挿入できるように工夫した。補強体の挿入ピッチと補強体の幅または直径にあわせて、ヨコ糸をとばすピッチととばす間隔を決めた。このようにして製織することにより繊維シート(幅300mm、タテ糸のケブラー(R)目付140g/m)を製造した。
【0037】
(実施例1〜3)
コンクリート強度が85kN/mmの幅100mm、厚さ50mmおよび長さ800mmの無筋コンクリート板を製作した。この片面をグラインダーで研磨し、SRIハイブリッド(株)製のプライマーGB−30を150g/mの割合で塗布した。硬化後、SRIハイブリッド(株)製の含浸用樹脂GB−35を400g/mの割合で塗布した。上記で製造した繊維シートを幅100mm、長さ800mmに裁断し、これに幅20mm、厚さ1.2mm、長さ800mmの脱脂した鋼板を実施例1として1枚、実施例2として2枚、実施例3として3枚別々に挿入して、補修・補強用シートを製造した。このシートに上記含浸用樹脂を400g/mの割合で塗布・含浸させた。これを上記コンクリート板に貼り付けた。貼り付け後、この上に200g/mの含浸用樹脂を塗布し、繊維目付100g/mの二方向ビニロン繊維シートを巻き付け、補強面にストレインゲージを貼り付け、一週間養生硬化させた。
硬化後、3点曲げ方式で曲げ強さを測定した。測定条件は補強部を下面にして、スパン間距離600mm、加力点は中央、クロスヘッド速度は5mm/分であった。測定で注目した点は(1)無筋コンクリート板に初期クラックが入る時のひずみ(約0.03%)に対応する曲げ強力、(2)鋼板が塑性変形する時のひずみ(約0.2%)に対応する曲げ強力、(3)終局破壊時の曲げ強力(最大応力)である。測定結果を表1に示した。
【0038】
(実施例4〜6)
タテ糸として東レ・デュポン(株)製のアラミド繊維ケブラー(R)49の7000デニール原糸144本を用いたこと以外、上記繊維シートの製造と同様にして補強体が挿入可能な繊維シート(幅300mm、タテ糸のケブラー(R)目付280g/m)を製造した。この繊維シートを用いたこと以外は実施例1〜3とそれぞれ同様にして、試験体を製作し、測定した。測定結果を表1に示した。
【0039】
(比較例1)
補強体(鋼板)を使用しなかったこと以外、実施例1と同様にして、試験体を製作し、測定した。測定結果を表1に示した。
【0040】
(比較例2)
補強体(鋼板)を使用しなかったこと以外、実施例4と同様にして、試験体を製作し、測定した。測定結果を表1に示した。
【0041】
(比較例3)
タテ糸として東レ・デュポン(株)製のアラミド繊維ケブラー(R)49の7000デニール原糸216本を並べ、25mmに18本の密度とした。ヨコ糸として1000デニールのポリエステル繊維を25mmあたりに12本打ち込んだ。このような条件で平織物を製織した。得られた平織物に補強体を挿入しなかったこと、およびシートに含浸させるGB−35の量を600g/mとしたこと以外、実施例1と同様にして、試験体を製作し、測定した。測定結果を表1に示した。
【0042】
(比較例4)
タテ糸として東レ・デュポン(株)製のアラミド繊維ケブラー(R)49の7000デニール原糸を2本引き揃え、その引き揃え糸216本を並べ、25mmに18本の密度とした。ヨコ糸として1000デニールのポリエステル繊維を25mmあたりに12本打ち込んだ。このような条件で平織物を製織した。得られた平織物に補強体を挿入しなかったこと、およびシートに含浸させるGB−35の量を800g/mとしたこと以外、実施例1と同様にして、試験体を製作し、測定した。測定結果を表1に示した。
【0043】
(比較例5)
比較例4と同様の平織物を2枚積層し、積層物を繊維シートとして用いたこと以外、実施例1と同様にして、試験体を製作し、測定した。測定結果を表1に示した。
【0044】
(比較例6)
繊維シート(平織物、タテ糸:ケブラー(R)49、ヨコ糸:ポリエステル、幅100mm、長さ800mm)に鋼板(幅20mm、厚さ1.2mm、長さ800mm)を並列で3枚積層し、続いて含浸用樹脂GB−35を400g/mの割合で塗布した後養生し、硬化板(パネル)を製作した。実施例3と同様にして、コンクリート強度が85kN/mmの幅100mm、厚さ50mmおよび長さ800mmの無筋コンクリート板を製作した。この片面をグラインダーで研磨し、SRIハイブリッド(株)製のプライマーGB−30を150g/mの割合で塗布した。硬化後、SRIハイブリッド(株)製の含浸用樹脂GB−35を400g/mの割合で塗布し、硬化板(パネル)を貼り付け、繊維シート目付が100g/mの二方向性ビニロン繊維シートを巻き付け、補強面にストレインゲージを貼り付け、試験体を製作した。測定結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の補修・補強用シートは、構造物を効率的に補修・補強可能であり、構造物の耐力を向上することが可能である。また、本発明の補修・補強方法は、高機能繊維の量を大幅に減らすことができるので、結果的に安価に構造物を補修・補強できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の補修・補強用シートをその幅方向に切断したときの断面を模式化した図であり、繊維シートが織物であって、補強体が板状の長尺体である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【図2】本発明の補修・補強用シートをその幅方向に切断したときの断面を模式化した図であり、繊維シートが織物であって、補強体が板状の長尺体である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【図3】本発明の補修・補強用シートをその幅方向に切断したときの断面を模式化した図であり、繊維シートが織物であって、補強体が板状の長尺体である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【図4】本発明の補修・補強用シートをその幅方向に切断したときの断面を模式化した図であり、繊維シートが織物であって、補強体が板状の長尺体である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【図5】本発明の補修・補強用シートをその幅方向に切断したときの断面を模式化した図であり、繊維シートが織物であって、補強体が板状の長尺体である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【図6】本発明の補修・補強用シートをその長手方向に切断したときの断面を模式化した図であり、繊維シートが織物であって、補強体が板状の長尺体である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【図7】本発明の補修・補強用シートをその長手方向に切断したときの断面を模式化した図であり、繊維シートが編物であって、補強体が棒状である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【図8】本発明の補修・補強用シートに用いられる袋部を有する繊維シートを説明する図であり、(a)は、繊維シートの一面を模式化した図であり、(b)は、繊維シートをその長手方向に切断したときの断面を模式化した図である。
【図9】本発明の袋部を有する補修・補強用シートで補強されたコンクリート構造物の主要部を模式化した図である。
【図10】本発明の非交錯部を有する補修・補強用シートで補強されたコンクリート構造物の主要部を模式化した図である。
【図11】図10における領域Aの模式的正面図である。
【図12】本発明の補修・補強用シートの一部正面を模式化した図であり、繊維シートが織物であって、補強体が板状の長尺体である場合の本発明の補修・補強用シートの一態様を説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
1 補強体
2 タテ糸
3(3a、3b、3c) ヨコ糸
4 繊維シート
5 非交錯部
6 袋部
7 編み糸
8 コンクリート構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シート内に補強体を挿入してなることを特徴とする構造物の補修・補強用シート。
【請求項2】
繊維シートが織物であって、該織物が補強体を挿入できるヨコ糸とタテ糸との非交錯部を有していることを特徴とする請求項1記載の補修・補強用シート。
【請求項3】
繊維シートが補強体を挿入できる袋部を有していることを特徴とする請求項1記載の補修・補強用シート。
【請求項4】
補強体の構成材料が金属または繊維強化プラスチックである請求項1〜3のいずれかに記載の補修・補強用シート。
【請求項5】
補強体の形状が厚さ0.5〜4.5mmおよび幅10〜70mmの板状長尺体である請求項1〜4のいずれかに記載の補修・補強用シート。
【請求項6】
補強体の断面が円形断面で、その円形断面の直径が0.5〜10mmである請求項1〜4のいずれかに記載の補修・補強用シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の補修・補強用シートで補修・補強されてなる構造物。
【請求項8】
構造物の表面に請求項1〜6のいずれかに記載の補修・補強用シートを、熱硬化性樹脂を用いて貼り付けた後、該熱硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする構造物の補強方法。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−97273(P2006−97273A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282669(P2004−282669)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(500001459)株式会社佐伯建設 (3)
【出願人】(597177574)豊州パイル株式会社 (2)
【出願人】(597140110)サカイ産業株式会社 (7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】