説明

構造物中の電磁波の伝播速度推定方法、構造物内の物体探査方法、構造物中の電磁波伝播速度推定装置、構造物内の物体探査装置、コンピュータ・プログラム及び記録媒体

【課題】 コンクリート構造物等の構造物中の電磁波伝播速度推定方法、構造物内の物体探査方法を提供する。それに伴うコンピュータ・プログラム、記録媒体、構造物中の電磁波伝播速度推定装置、構造物内の物体探査装置を提供する。
【解決手段】 物体2が内在する構造物1の一主面上に送信器3と受信器4を配置し、送受信器3,4を一方向へ移動しながら送信器3から構造物1内にパルス状の電磁波を照射し物体2で反射した電磁波パルスを受信器4で受信する.電磁波パルスの観測波形から、各測定位置で電磁波パルスを受信するまでの伝播時間の観測値を求め、伝播時間の推定値を設定し、伝播時間の推定値は物体2の位置x、y(xは一方向の位置、yは深さ位置)と構造物1内の電磁波の伝播速度vの関数として表され、各測定位置の伝播時間の推定値と観測値との差分が最小となる推定値から、電磁波の伝播速度vと物体の位置x、y を同時に推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄筋、ケーブル、パイプ等の物体が内在するコンクリート構造物等の構造物内部の測定に必要な電磁波の伝播速度推定方法、及び構造物内の物体探査方法に関する。
本発明は、構造物中の電磁波伝播速度推定装置及び構造物内の物体探査装置に関する。
本発明は、構造物中の電磁波伝播速度を推定するための処理を、コンピュータ上で実行させるコンピュータ・プログラム、及び構造物内の物体を探査するための処理を、コンピュータ上で実行させるコンピュータ・プログラムに関する。
本発明は、上記コンピュータ・プログラムを記録した記録媒体に関する。
さらに、本発明は、上記プログラムを備えた構造物中の電磁波伝播速度推定装置及び構造物内の物体探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンクリート構造物の内部には、強度を保つために鉄筋が配置されている。最近ではコンクリート構造物の内部に各種ケーブル、パイプを施設することも多くなってきている。コンクリート構造物の改築や補修工事には、埋め込まれている鉄筋、ケーブル、パイプ等のいわゆる物体の配置を知る必要がある。コンクリート構造物内に施設されている鉄筋やケーブル等の物体を確認する装置として、電磁波、例えばマイクロ波を発信し物体からの反射波を利用したコンクリートレーダが知られている。
【0003】
従来のコンクリートレーダでは、鉄筋やケーブルの存在する場所はある程度特定できるが、コンクリート構造物の表面からの正確な深さを推定できていない。その理由は、コンクリート構造物内のマイクロ波の伝播速度が分からないからである。従来は、マイクロ波の伝播速度の推定のために、いくつかの伝播速度を仮定して合成開口処理を行い、得られた合成開口処理画像の鮮明さを判断基準として伝播速度を決定していた。
【0004】
しかし、従来の上述した方法は多くの合成開口処理の実行が必要となるため、推定時間が長くなる。また、得られた合成開口処理画像から伝播速度の判定をする作業は推定者が行うため、推定者による暖味さが残る。現在コンクリート構造物中のマイクロ波の伝播速度を直接推定する技術は提案されていない。
【0005】
一方、従来のコンクリートレーダでは、複数の鉄筋やケーブルが存在する場合に、コンクリート構造物の表面近くにある鉄筋やケーグルの存在はある程度確認できるが、より深い位置にある鉄筋やケーブルの存在を確認することは困難である。特に、鉄筋やケーブルが同じ位置で異なる深さに存在する場合は、深層部の鉄筋あるいはケーブルを確認することはできない。
【0006】
コンクリート構造物内を非破壊的検査に必要なコンクリートの比誘電率の推定法の例が非特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】2004年度 電子情報通信学会九州支部学生会講演会 予稿集 B−10 「マイクロ波を用いたコンクリートの電気定数の推定法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート構造物の改築、補修工事等においては、コンクリート構造物内に複数の鉄筋やケーブルが存在する場合でも、より深い位置にある鉄筋やケーブル、あるいは鉄筋やケーブルが同じ位置で異なる深さに存在する場合でも、鉄筋あるいはケーブルの正確な位置を確認できることが望まれている。そのためにも、コンクリート構造物中の電磁波の伝播速度を精度よく直接推定できることが望まれる。
【0008】
本発明は、上述の点に鑑み、コンクリート構造物等の構造物中の電磁波の伝播速度を精度良く推定できる電磁波伝播速度推定方法、この推定方法で得られた伝播速度を用いて構造物内の物体位置を精度よく探査できる物体探査方法を提供するものである。この電磁波伝播速度推定方法は、伝播速度と物体位置とを同時に推定できる方法も含むものである。
また、本発明は、構造物中の電磁波伝播速度推定装置、構造物内の物体探査装置を提供するものである。
さらに、本発明は、上記伝播速度の推定あるいは物体探査をコンピュータ上で実行させるためのコンピュータ・プログラム、及びこのプログラムを記録した記録媒体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る構造物中の電磁波伝播速度推定方法は、物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、この送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、各測定位置での電磁波パルスの観測波形から、各測定位置で電磁波パルスを受信するまでの伝播時間の観測値を求め、各測定位置での前記伝播時間の推定値を設定し、伝播時間の推定値を未知である物体の一方向及びこれと直交する方向の位置と構造物内の電磁波の伝播速度の関数として表し、各測定位置の伝播時間の推定値と観測値との差分による誤差が最小となる推定値から、電磁波の伝播速度と物体の位置を同時に推定することを特徴とする。
ここで、上記の測定位置は次の通りである。送受信器を同時に一方向へ移動する測定系での上記測定位置は、送信器の位置である。送信器を固定して受信器のみを一方向へ移動する測定系での上記測定位置は、受信器の位置である。以後の発明の測定位置も同様に定義する。
また、物体の一方向及びこれと直交する方向の位置としては、例えば送受信器を構造物の地面と水平の主面上に配置したときは、水平方向の位置と深さ(垂直)方向の位置となる。但し、構造物上の送受信器を配置する面は、地面に水平な面とは限らず、傾斜面、垂直面など状況に応じて適宜決められる。以後の発明の物体の位置(一方向及びこれと直交する方向の位置)についても同様である。
【0010】
本発明に係る構造物中の電磁波伝播速度推定方法は、物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、この送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、各測定位置での電磁波パルスの観測波形から、各測定位置で電磁波パルスを受信するまでの伝播時間の観測値を求め、各測定位置に関する、未知の伝播速度と物体の一方向及びこれと直交する方向の位置の関数である伝播時間と、伝播時間の観測値との差分を出力誤差とし、最小2乗線形テーラー法を用い、予め設定した各測定位置での伝播時間の推定値と観測値との差分による推定誤差と、出力誤差 の関係を求め、推定誤差 と出力誤差の関係式を用いて出力誤差の2乗和が最小となる伝播速度と物体の位置の値から、電磁波の伝播速度と物体の位置を同時に推定することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るコンピュータ・プログラムは、構造物中の電磁波伝播速度を推定するための手順をコンピュータに実行させるコンピュータ・プログラムであって、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、送信器からパルス状の電磁波を照射し物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
測定データから受信波形に混在する電磁波の構造物の一主面で反射した表面反射波及び送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
未知である電磁波の伝播速度と物体の一方向及びこれと直交する方向の位置の推定初期値の推定データを入力する第3手順と、
最小2乗線形テーラー法を用いて、測定データに基づく各測定位置での測定値と推定データに基づく電磁波の伝播速度と物体の位置の関数である伝播時間の推定値との誤差を評価する第4手順と、
誤差が最小に収束したか否かを判定する第5手順と、
誤差が最小に収束した判定に基いて電磁波の伝播速度と物体の位置を推定する第6手順と、
第5手順で誤差が最小に収束しない判定に基いて連立方程式により伝播速度と位置の補正項を求める第7手順と、
第7手順に基づき推定データの伝播速度と位置を更新して誤差を評価する第3手順に戻す第8手順とを有することを特徴とする。
ここで、測定位置と伝播時間の座標系についてみると、送受信器を同時に一方向へ移動する測定系の場合は、縦軸が伝播時間、横軸が送信器の位置となる。送信器を固定し受信器のみを一方向へ移動する測定系の場合は、縦軸が伝播時間、横軸が送信器と受信器の間隔となる。以後の発明の測定位置と伝播時間の座標系についても同様である。
【0012】
本発明に係る記録媒体は、コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、コンピュータに、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、送信器からパルス状の電磁波を照射し物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
測定データから受信波形に混在する電磁波の構造物の一主面で反射した表面反射波及び送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
未知数である電磁波の伝播速度と物体の一方向及びこれと直交する方向の位置の推定初期値の推定データを入力する第3手順と、
最小2乗線形テーラー法を用いて、測定データに基づく各測定位置での測定値と推定データに基づく電磁波の伝播速度と物体の位置の関数である時間の推定値との誤差を評価する第4手順と、
誤差が最小に収束したか否かを判定する第5手順と、
誤差が最小に収束した判定に基いて電磁波の伝播速度と物体の位置を推定する第6手順と、
第5手順で前記誤差が最小に収束しない判定に基いて連立方程式により伝播速度と位置の補正項を求める第7手順と、
第7手順に基づき前記推定データの伝播速度と位置を更新して前記誤差を評価する第3手順に戻す第8手順とを実行させるための、構造物中の電磁波伝播速度推定プログラムを少なくとも備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る他の構造物中の電磁波伝播速度推定方法は、物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、送受信器または受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、各測定位置での前記電磁波パルスの観測波形から、各測定位置で電磁波パルスを受信するまでの伝播時間の観測値を求め、この観測伝播時間が最小になった位置を物体の一方向の位置として決定し、各測定位置における伝播時間と伝播速度との積で求まる物体までの距離と、各測定位置との関係で得られる近似双曲線あるいは双曲線 (送信器を固定し受信器のみを移動させる場合は厳密に双曲線となる。送受信器間隔を一定に保ったまま送受信器を移動させる場合は厳密な意味での双曲線ではないが、この場合でも送受信器間隔を零と見なせる場合は厳密に双曲線となる。これ以降,送受信器間隔を一定に保ったまま送受信器を移動させる場合の曲線は近似双曲線と呼ぶことにする。)の式から、未知の伝播速度を、物体の一方向の位置と測定位置と前記最小伝播時間と測定位置での伝播時間との関数で表し、少なくとも受信器の任意の位置に対する前記伝播時間から未知の伝播速度を決定することを特徴とする。
【0014】
上記本発明に係る他の構造物中の電磁波伝播速度推定方法の好ましい形態は、さらに複数の測定位置に対する伝播時間を用いて平均化して未知の伝播速度を決定するようになす。
【0015】
本発明に係る他のコンピュータ・プログラムは、構造物中の電磁波伝播速度を推定するための手順をコンピュータに実行させるコンピュータ・プログラムであって、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器あるいは送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、送信器からパルス状の電磁波を照射し物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
測定データから受信波形に混在する電磁波の前記構造物の一主面で反射した表面反射波及び送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
観測最小伝播時間により物体の一方向の位置を決定する第3手順と、
各測定位置、送受信器間距離、各測定位置における伝播時間、最小伝播時間及び物体の一方向位置のデータを入力する第4手順と、
各測定位置における伝播時間と伝播速度との積で求まる物体までの距離と、各測定位置との関係で得られた近似双曲線あるいは双曲線の式から未知の伝播速度を、物体の一方向の位置と測定位置と前記最小伝播時間と測定位置での伝播時間との関数で表し、複数の測定位置に対する伝播速度を平均化する式を用いて、未知の伝播速度を演算する第5手順とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る他の記録媒体は、コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、コンピュータに、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器あるいは送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、送信器からパルス状の電磁波を照射し物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
測定データから受信波形に混在する電磁波の構造物の一主面で反射した表面反射波及び送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
観測最小伝播時間により物体の一方向の位置を決定する第3手順と、
各測定位置、送受信器間距離、各測定位置における伝播時間、最小伝播時間及び物体の一方向位置のデータを入力する第4手順と、
各測定位置における伝播時間と伝播速度との積で求まる物体までの距離と、各測定位置との関係で得られた近似双曲線あるいは双曲線の式から未知の伝播速度を、物体の水平方向の位置と測定位置と前記最小伝播時間と測定位置での伝播時間との関数で表し、複数の測定位置に対する伝播速度を平均化する式を用いて、未知の伝播速度を演算する第5手順とを実行させるための、構造物中の電磁波伝播速度推定プログラムを少なくとも備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る構造物内の物体探査方法は、物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、送受信器あるいは送受信器のうち受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、
各測定位置での伝播時間と、測定位置と伝播時間の座標系における受信した2次元の電界波形とを求め、電界波形の一部を増幅する時間フィルタを用いて所要時間幅内の電界波形を増幅し、増幅後に全域の電界波形に対する合成開口処理を行い、所要時間幅を時間軸に沿って移動して同様の前記増幅と合成開口処理を行い、複数の合成開口処理画像から未知の物体位置を探査することを特徴とする。
【0018】
本発明に係るさらに他のコンピュータ・プログラムは、構造物内の物体を探査するための手順をコンピュータに実行させるコンピュータ・プログラムであって、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器あるいは送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
測定データから受信波形に混在する電磁波の構造物の一主面で反射した表面反射波及び送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
構造物中の電磁波の伝播速度を入力する第3手順と、
2次元の電界波形の一部を増幅するための時間フィルタのフィルタ条件を設定する第4手順と、
測定データにおける電界波形の最大値と増幅すべき時間フィルタの所要時間幅内の測定データにおける電界波形の最大値とから、所要時間幅内の増幅度を決定する第5手順と、
所要時間幅内の電界波形を増幅し、増幅後に全電界波形に対する合成開口処理を行う第6手順と、
所要時間幅を時間軸に沿って移動して前記増幅と合成開口処理を繰り返す第7手順と、
複数の合成開口処理画像から未知の物体位置を探索する第8手順とを有することを特徴とする。
【0019】
上記本発明に係るさらに他のコンピュータ・プログラムの好ましい形態は、構造物中の電磁波の伝播速度を入力する第3手順が、前述した電磁波伝播速度を推定するためのいずれかのコンピュータ・プログラムによって行われるようになす。
【0020】
本発明に係るさらに他の記録媒体は、コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、コンピュータに、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器あるいは送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
測定データから受信波形に混在する電磁波の構造物の一主面で反射した表面反射波及び送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
構造物中の電磁波の伝播速度を入力する第3手順と、
2次元の電界波形の一部を増幅するための時間フィルタのフィルタ条件を設定する第4手順と、
測定データにおける電界波形の最大値と増幅すべき時間フィルタ幅内の測定データにおける電界波形の最大値とから、所要時間幅内の増幅度を決定する第5手順と、
所要時間幅内の電界波形を増幅し、増幅後に全電界波形に対する合成開口処理を行う第6手順と、
所要時間幅を時間軸に沿って移動して増幅と合成開口処理を繰り返す第7手順と、
複数の合成開口処理画像から未知の物体位置を探索する第8手順とを実行させるための構造物内の物体探査プログラムを少なくとも備えることを特徴とする。
【0021】
上記本発明に係るさらに他の記録媒体の好ましい形態は、コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、コンピュータに、構造物中の電磁波伝播速度を推定するための手順を実行させる前述したいずれかのコンピュータ・プログラムと、構造物内の物体を探査するための手順を実行させる前述したコンピュータ・プログラムとを少なくとも備えて成る。
【0022】
本発明に係る構造物中の電磁波伝播速度推定装置は、構造物上に送受信位置、または受信位置が移動可能となるように配置される送信器及び受信器と、コンピュータと画像表示部を有した装置本体とを具備し、コンピュータが前述した構造物中の電磁波伝播速度を推定するためのいずれかのコンピュータ・プログラムにより実行されて成ることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る構造物内の物体探査装置は、構造物上に送受信位置、または受信位置が移動可能となるように配置される送信器及び受信器と、コンピュータと画像表示部を有した装置本体とを具備し、コンピュータが前述した構造物内の物体を探査するためのいずれかのコンピュータ・プログラムにより実行されて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る構造物中の電磁波伝播速度推定方法によれば、送信器及び受信器からなる測定系を用いて、各測定位置での物体で反射する往復の電磁波パルスの観測波形から各測定位置での伝播時間を観測する。また各測定位置での往復の電磁波伝播時間の推定値を、未知である物体位置と構造物内の電磁波伝播速度の関数として表わす。そして、各測定位置の伝播時間の推定値と観測値との差分による誤差が最小となる推定値から、構造物中の伝播速度を推定することにより、精度よくしかも直接伝播速度を推定することができる。
特に、最小2乗線形テーラー法を用いることにより、物体が未知である場合の構造物中の電磁波伝播速度を精度よく推定することができる。
また、本発明の電磁波伝播速度推定方法は、伝播速度と物体の位置を同時に推定することができる。
【0025】
本発明に係る他の構造物中の電磁波伝播速度推定方法によれば、送信器及び受信器からなる測定系を用いて、各測定位置での物体で反射する往復の電磁波パルスの観測波形から各測定位置での伝播時間を観測し、物体で反射する往復の電磁波の伝播時間が最小になった位置を物体の水平方向の位置として求める。また、各測定位置における伝播時間と伝播速度との積で求まる物体までの距離と、各測定位置との関係で与えられる近似双曲線あるいは双曲線の式から、未知の伝播速度を、物体の水平方向の位置と、測定位置と、最小伝播時間と、測定位置での伝播時間との関数で表わす。そして、少なくとも受信点すなわち送受信器を一緒に移動させるときは送受信点、受信器のみを移動させるときは受信点、の任意の位置に対する伝播時間から未知の伝播速度を決定することにより、精度よくしかも直接伝播速度を推定することができる。
【0026】
本発明に係るコンピュータ・プログラムによれば、このプログラムの持つ電磁波伝播速度を推定させるための手順をコンピュータに実行させることにより、構造物中の未知の電磁波伝播速度を直ちに推定することができる。
【0027】
本発明に係る記録媒体によれば、上述の電磁波伝播速度を推定できるプログラムが記録されているので、構造物中の電磁波伝播速度推定装置、あるいは構造物内の物体探査装置に適用することができる。
【0028】
本発明に係る構造物内の物体探査方法によれば、時間フィルタ法を取り入れた合成開口処理により未知の物体探査を行うようにしているので、複数の物体、特に深い位置、あるいは他の物体の陰に位置する物体の探査を精度よく探査することができる。
【0029】
本発明に係るコンピュータ・プログラムによれば、このプログラムの持つ構造物内の物体を探査するための手順をコンピュータに実行させることにより、構造物内の未知の物体を直ちに探査することができる。
【0030】
本発明に係る記録媒体によれば、上述の構造物内の物体を探査できるプログラムが記録されているので、構造物内の物体探査装置に適用することができる。
【0031】
本発明に係る構造物中の電磁波伝播速度推定装置、構造物内の物体探査装置によれば、内蔵するコンピュータが前述した電磁波伝播速度を推定できるプログラム、物体探査できるプログラムにより実行されるように構成されるので、構造物中の電磁波伝播速度の推定、構造物内の物体探査を自動的に精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0033】
先ず、本発明に係る構造物中の電磁波の伝播速度を推定する電磁波伝播速度推定方法の第1実施の形態を説明する。本実施の形態は、構造物中の電磁波の伝播速度と構造物内に埋め込まれた物体の位置とを同時に推定できる方法である。例えばコンクリート構造物中のマイクロ波の伝播速度と、コンクリート構造物内に埋め込まれた鉄筋、ケーブルあるいはパイプなどの物体の位置の推定に適用される。
【0034】
第1実施の形態に係る構造物中の電磁波伝播速度推定方法は、物体の位置が分かっていない場合の伝播速度の推定法であり、最小2乗線形テーラー法を用いて精度よく伝播速度及び物体位置を同時に推定する。
図1に示すように、内部に探査すべき物体2が埋め込まれた例えばコンクリート等の構造物1の一主面すなわち表面1a上に送信器3及び受信器4が接触した状態で並置された構成を考える。この送信器3及び受信器4はこの位置関係を保って構造物1の表面1a上を矢印C方向に移動可能に配置される。物体2の位置(x,y)、送信器3の位置を(x,y)、受信器4の位置を(x+s,y)、送信器3から発信した電磁波すなわちマイクロ波のパルス5が物体2に当たり反射して受信器4で受信されるまでの往復の時間をtとする。送信器3と物体2との距離d1 、受信器4と物体2との距離d2 とすると、これらの間には数1が成り立つ。ただし、構造物1中の電磁波5の伝播速度をvとする。ここで、物体2の位置(x,y)および伝播速度vは、いずれも未知である。
【0035】
【数1】

【0036】
送受信器3、4を矢印C方向に移動させて各移動位置xmでの受信時間τmを読み取ると、図2に示す曲線6が得られる。この曲線6は数1におけるtのカーブに相当する。
【0037】
各送信点xmに関する出力誤差rmを数2で定義する。
【数2】

t(λ,xm,x,y):xm の位置での観測時間の推定値
τm :xm の位置での観測時間の測定値

上付き添え字Tは転置を表す。
【0038】

【数3】

【0039】

【数4】

となる。
【0040】

【0041】
【数5】

となる。したがって、
【数6】

の表記を用いれば、
【数7】

と表せる。
【0042】
数7の両辺からτmを引き、出力誤差rmと推定誤差emの関係を求めると、
【数8】

を得る。
【0043】
次に、この数8の関係式を用いて出力誤差rmの2乗和
【数9】


【数10】

【0044】
【数11】

同様に
【数12】

【0045】
これらをまとめると数13を得る。
【数13】

【0046】
これにより数14の連立方程式を得る。
【数14】

【0047】
ここで
【数15】

である。
【0048】
ここで
【数16】

とおくと、
【0049】
【数17】

とまとめることができる。
【0050】

【0051】

【0052】
図3に、第1実施の形態の電磁波伝播速度推定方法のフローチャートを示す。このフローチャートは、上記電磁波伝播速度推定方法を用いて伝播速度及び物体位置を同時に推定するための処理を、コンピュータ上で実行させるコンピュータ・プログラムでもある。
このプログラムは、コンピュータに、次のような手順を実行させるものである。先ず、開始の後のステップS1において、送信器3及び受信器4を一方向(図1のx方向)へ移動しながら送信器3からコンクリート構造物1内に照射され物体2で反射した電磁波5を受信器4で受信する測定系で得られた、各測定位置xmでの観測波形(すなわち、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形)の測定データを入力する。
【0053】
次に、ステップS2に進み、適当な処理,例えば,平均減算処理により、測定データから受信波形に混在している直達波、表面反射波を除去する。受信波形には、図4で示す送信器3から直接受信器4に伝播する直達波7と構造物1の表面で反射される表面反射波8が目標物体2からの反射波5′に混在する。この直達波7、表面反射波8の影響が大きいと目標物体2からの反射波5′が分かりにくくなるため、直達波7、表面反射波8を除去する。平均減算処理は、x軸方向にデータの平均をとり、その平均値を全てのラインから引き算して表示したものである。
【0054】
図5は、測定データ(観測データ)に基づく電界分布画像を示し、波形の山の部分が物体位置に対応する。表面の水平筋状部が直達波、表面反射波に対応する。図6が平均減算処理後の電界分布画像であり、測定データから直達波、表面反射波が取り除かれている。
【0055】
次に、ステップS3に進み、未知数である電磁波の伝播速度vと物体の位置(xT ,yT )の推定パラメータの初期値(推定データ)を入力する。
【0056】

【0057】
次に、ステップS5に進み、誤差Rの収束判定値εを入力する。
【0058】
次に、ステップS6に進み、先ず推定回数Nを0に設定する。
【0059】
次に、ステップS7に進み、ステップS6での推定回数Nの判定が行われる。すなわち、推定回数が最大推定回数Nmaxに達しているか否かを判定する。最大推定回数Nmax に達していなければ、ステップS9に進み、推定回数Nを更新する。即ち推定回数をN+1に変更する。
【0060】

【0061】

【0062】

【0063】
【数18】

【0064】
そして、ステップS13に進み、推定データである速度vと位置(x ,y )の更新(数19参照:これは数6に相当する)を行い、ステップS7に戻る。
【0065】
【数19】

【0066】
最大推定回数Nmaxの範囲内で、誤差Rが収束判定値εより小さくなるまで、ステップS7〜ステップS13の手順が返され、誤差Rが収束判定値εより小さくなった時点で電磁波の速度vと物体の位置(x,y )の推定が決定され、終了する。
【0067】
誤差Rが収束判定値εより小さくならずに、ステップS7において最大推定回数Nmaxと判定されたならば、ステップS8に進み、収束判定値εを変更し、すなわち収束判定値εを大きくしてステップS6に戻して上記推定の手順を繰り返し、最終的に電磁波の伝播速度vと物体の位置(x,y)の推定を決定し、終了する。
【0068】
図3のコンピュータ・プログラムを用いることにより、コンピュータに上記ステップ(手順)を実行させて、自動的に例えば、コンクリート構造物中の電磁波の伝播速度vと内在する鉄筋などの物体の位置(x,y)を同時にかつ直接推定することができる。
【0069】
本実施の形態は、図3に示すコンピュータを制御するためのプログラムを記録した記録媒体を構成することができる。
【0070】
上述の第1実施の形態においては、送受信器を一方向へ移動する測定系について説明したが、その他、送信器を固定し、受信器のみを一方向へ移動する測定系についても、同様手法を用いて構造物中の電磁波の伝播速度及び物体の位置を同時に推定することができる。
【0071】
次に、本発明に係るコンクリート構造物中の電磁波伝播速度推定方法の第2実施の形態を説明する。
本実施の形態は送受信器間隔を固定した状態で送受信器を移動させる場合である。図7、または図8に示すように、鉄筋等の物体2が埋設されているコンクリート構造物1の表面1a上に送信器3及び受信器4が配置された構成を考える。送受信器3、4は、この位置関係を保って構造物1の表面上を一方向(x方向)に移動可能に配置される。この構成において、送信器3から発信した電磁波すなわちマイクロ波のパルスが物体2で反射し、受信器4で受信された電界波形から電磁波パルスの伝播時間を計測する。
【0072】
送受信器3、4を移動させて各測定位置xmでの往復時間τmを測定すると、前述の図2に示す近似双曲線が得られる。送受信器間の中心が物体2の直上となる測定位置で観測した往復時間τは、送受信器3、4と物体2までの距離が最も短いので、最も短い時間τminとなる。このため、近似双曲線の頂点位置を検出することにより、物体2の水平方向(x方向)の位置は求まる。しかし、深さ方向(y方向)の位置はマイクロ波の構造物中の伝播速度vが決まらなければ、求まらない。
【0073】
第2実施の形態では、この伝播速度vを次のようにして推定する。今、物体2の位置を(x,y)とする。送信器(いわゆる送信アンテナ)3の位置を(x,y)とする。送信器3と受信器4間の距離をsとする、すなわち、受信器4の位置は(x+s,y)である。また、構造物(媒質)中のマイクロ波の伝播速度をvとする。
【0074】
未知数は、物体位置(x,y)および構造物中の伝播速度vである。これらのパラメータを送信器3から放射されたパルス波が物体2に当たって反射し受信器4に到達するまでの伝播時間から決定するようになす。
【0075】
送信器3と物体2間の距離は数20となる。
【数20】

送信器3から物体2までの伝播時間は数21となる。
【数21】

【0076】
受信器4と物体2間の距離は数22となる。
【数22】

物体2から受信器4までの伝播時間は数23となる。
【数23】

【0077】
送信器3から受信器4までの伝播時間は、数20乃至数23より、数24となる。
【数24】

【0078】
数24をxで微分する(τがxに依存することに注意する)と、数25が得られる。
【数25】

【0079】
τの極値は、数25の右辺を零と置くことにより、数26、数27を得る。
【数26】

【数27】

【0080】
数26における±の符号で+を取るとs=0となり、仮定s≠0に反するので、−符号のみを取った。
【0081】
数27は送受信器間の丁度中心点が物体の真上に来たとき、送受信器間の伝播時間τが極値を取ることを意味している。さらに、
【数28】

であるので、この極値は最小値であることが分かる。
観測電界波形の測定データから最小伝播時間τminを決定する.この最小伝播時間に対応する送信器位置をxminとすると,物体2の水平方向位置xTが数29のように与えられる.
【数29】

数24おいてx=xminとし,数29を用いると,
【数30】

を得る。
【0082】
数24を変形すると数31となる。
【数31】

【0083】
この数31の(y−y)に、数30から得られる[2(y−y)]=(vτmin−sを代入すると、
【数32】

を得る。
【0084】
数32を(vτ)に関して解くと
【数33】

を得る。
【0085】
数33の右辺の根号項を変形すると、
【数34】

【0086】
従って、数33は、
【数35】

となる。
【0087】
ゆえに、コンクリート媒質中の伝播速度vは
【数36】

で与えられる。正しい伝播速度は正符号のものであり、負符号は棄却する(s=0の場合、負符号に対して計算される伝播速度は零となる)。
【0088】
この数36により、送信点の任意の位置xに対する伝播時間τから伝播速度vが決定できる。測定データから決定するには、幾つかの送信点位置xm(m=1,2,・・・M)に対する伝播時間τmを用いて計算される伝播速度を数37のように平均すると精度が上がる。
【0089】
【数37】

【0090】
第2実施の形態の電磁波伝播速度推定方法によれば、コンクリート構造物1中の未知の電磁波伝播速度vを精度よく直接推定することができる。
【0091】
図9に、第2実施の形態の電磁波伝播速度推定方法のフローチャートを示す。このフローチャートは、前述と同様に上記電磁波伝播速度推定方法を用いて伝播速度を推定するための処理を、コンピュータ上で実行させるコンピュータ・プログラムでもある。
このプログラムは、コンピュータに、次のような手順を実行させるものである。先ず、開始後のステップS21において、送信器3及び受信器4を一方向へ移動しながら送信器3からコンクリート構造物1内に発信され物体2で反射した電磁波5を受信器4で受信する測定系で得られた、各測定位置での観測電界波形の測定データを入力する。
【0092】
次に、ステップS22に進み、適当な処理,例えば,平均減算処理により、送受信器間の直達波とコンクリート表面からの表面反射波を除去する。
【0093】
次にステップS23では観測時間の測定データから求まる最小伝播時間τminに対応する送信器位置xminから,物体の水平方向位置xTを決定する。xTは数38(数29に同じ)で与えられる。
【数38】

あるいは,合成開口処理により物体の水平方向位置xTを求めることも可能である.
【0094】
次に、ステップS24に進み、M個の送信点位置(xm :第m番目の送信点位置)、送受信器間隔s、電磁波の伝播時間のデータ(τm:第m番目の送信点位置に対応するパルスの伝播時間)、最短伝播時間τminおよび物体の水平方向位置xTを入力する。
【0095】
次に、ステップS25に進み、数39(数37と同じ)による速度vを計算する。このようにして、最終的にコンクリート構造物中の電磁波伝播速度の推定を決定し、終了する。
【0096】
【数39】

【0097】
図9のコンピュータ・プログラムを用いることにより、コンピュータに上記ステップ(手順)を実行させて、自動的にコンクリート構造物中の電磁波の伝播速度vを直接推定することができる。
【0098】
本実施の形態は、図9に示すコンピュータを制御するプログラムを記録した記録媒体を構成することができる。
【0099】
次に、本発明に係るコンクリート構造物中の電磁波伝播速度推定方法の第3実施の形態を説明する。
本実施の形態は、図10及び図11に示すように、送信器3の位置xを固定し、受信器4の位置を移動させた場合である。すなわちsを可変とする場合である。
前述と同様に、物体2の位置を(x,y)とする。送信器(いわゆる送信アンテナ)3の位置を(x,y)とし、受信器(いわゆる受信アンテナ)4の位置を(x+s,y)とする。すなわち、送信器3と受信器4間の距離をsとする。また、構造物(媒質)中のマイクロ波の伝播速度をvとする。
未知数は、物体位置(x,y)および構造物中の伝播速度vである。これらのパラメータを送信器3から照射されたパルス波が物体2に当たって反射し受信器4に到達するまでの伝播時間から決定するようになす。
【0100】
前述の数24において、τはsの関数となる。数24を変形すると、
【数40】

【0101】
数40は双曲線を表している。
【0102】
数24をsに関して微分すると(τがsの関数であることに注意して)、
【数41】

を得る。
【0103】
従って、
【数42】

のとき、τvは極値
【数43】

を取る(yT>yとする)。数42は受信点が丁度物体2の真上にある条件である。さらに、数41をsに関して微分すると、
【数44】

であるので、この極値は最小値であることが分かる。
【0104】
観測電界波形の測定データから最小伝播時間τminを決定する。この最小伝播時間に対応する送受信器間隔をsminとすると、物体2の水平方向位置xTが数45のように与えられる。
【数45】

【0105】
物体2の水平方向の位置xTが決定できたので、次は深さ方向の位置yTを求める。まず、数43より、
【数46】

を得る。
【0106】
前述の数31のy−yTに数46を代入して、y−yTを消去すると、
【数47】

となる。さらに数47を変形すると、
【数48】

数48より、
【数49】

を得る。
【0107】
まず、数49の右辺の正符号の場合を検討する。数49の右辺の正符号の場合を変形すると、
【数50】

を得る。数50より、
【数51】

を得る。
【0108】
伝播速度は正であるので、最後に根号を取る際、正符号のみを残す。数51の根号内は
【数52】

であるので、非負であることに注意する。
【0109】
次に、数49の右辺の負符号の場合を検討する。数49の右辺の負符号の場合を変形すると、
【数53】

を得る。数53より、
【数54】

を得る。
【0110】
伝播速度は正であるので、最後に根号を取る際、正符号のみを残す。
【数55】

【0111】
数55の右辺は、(xT−x)+(1−√2)s≧0のとき、すなわちs≦(xT−x)/√2−1のとき、非正になるので、数54の根号内が非正であり、正の伝播速度が得られないので、数54は不可(但し、x≦xTを仮定する)となる。
【0112】
数51により、送信点位置をxに固定し(但し、x≦xTとする)、受信点位置x+sに対する伝播時間τから伝播速度vが決定できる。測定データから決定するには、幾つかの受信点位置x+sm(m=1,2,・・M)に対する伝播時間τmを用いて計算される伝播速度vを、数56のように平均化する。数56のように平均すると精度が上がる。
【0113】
【数56】

【0114】
第3実施の形態の電磁波伝播速度推定方法においても、このようにしてコンクリート構造物1中の未知の電磁波の伝播速度vを精度よく直接推定することができる。
【0115】
図13に、第3実施の形態の電磁波伝播速度推定方法のフローチャートを示す。このフローチャートは、上記電磁波伝播速度推定方法を用いて伝播速度を推定するための処理を、コンピュータ上で実行させるコンピュータ・プログラムでもある。
このプログラムは、コンピュータに、次のような手順を実行させるものである。先ず、開始後のステップS31において、送信器3を固定した状態で受信器4を一方向へ移動しながら送信器3からコンクリート構造物1内に発信され物体2で反射した電磁波を受信器4で受信する測定系で得られた、各測定位置での観測電界波形の測定データを入力する。
【0116】
次に、ステップS32に進み、適当な処理、例えば平均減算処理により、送受信器間の直達波とコンクリート表面からの表面反射波を除去する。
【0117】
次に、ステップS33に進み、最小伝播時間τminに対応する送受信器間隔sminから、物体2の水平方向位置xTを決定する。xTは数57(数45に同じ)で与えられる。
【数57】

あるいは合成開口処理により物体の水平方向位置xTを求めることも可能である。
【0118】
次に、ステップS34に進み、送信器位置x,M個の送受信器間隔(sm:第m番目の送信点位置)、電磁波の伝播時間のデータ(τm:第m番目の受信点位置に対応するパルスの伝播時間)、最短伝播時間τminおよび物体の水平方向位置xTを入力する。
【0119】
次に、ステップS35に進み、数58(数56と同じ)による速度vを計算する。このようにして、最終的にコンクリート構造物中の電磁波の伝播速度の推定を決定し、終了する。
【0120】
【数58】

【0121】
なお、物体の深さ方向の位置(垂直位置,y方向位置)を求めるときは、図9の場合にはステップS25の後に、また図13の場合にはステップS35の後に、それぞれ物体の垂直位置を計算するステップを入れる。
物体の垂直位置は、図9の場合は、数30より、
【数59】

図13の場合は、数46より、
【数60】

で与えられる。
【0122】
図13のコンピュータ・プログラムを用いることにより、コンピュータに図13で示すステップ(手順)を実行させて、自動的にコンクリート構造物中の電磁波の伝播速度vを直接推定することができる。
【0123】
本実施の形態は、図13に示すコンピュータを制御するプログラムを記録した記録媒体を構成することができる。
【0124】
次に、上述の電磁波伝播速度推定法を用いて、本発明に係る構造物内の物体探査方法の実施の形態を、図21のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートは、本発明の物体探査方法を用いて物体の位置を探査するための処理を、コンピュータ上で実行させるコンピュータ・プログラムでもある。
【0125】
本実施の形態は、一例として、図14に示すように、コンクリート構造物1内に4つの鉄筋等の物体2〔2A,2B,2C,2D〕が埋設されている、特に表面側の2つの物体2A,2Bと、それぞれの物体2A,2Bの真下の深部に2つの物体2C,2Dが埋設されている場合の物体の探査について説明する。
【0126】
コンクリート構造物内の物体探索の説明に先立ち、合成開口処理と時間フィルタについて説明する。
先ず、合成開口処理による未知の物体の位置の推定について説明する。図15に合成開口処理の構成図を示す。探査すべき物体2が埋め込まれた構造物1上に送信器3及び受信器4が配置され、送信器3からパルス波を照射し、受信器4で反射波を受信するようになされる。構造物1の推定領域を複数の微小要素(体積要素)11に分割する。ある要素11a(x,y)に対してm番目の位置に移動した送信器3から要素11a迄の距離d1 (m,x,y)と、要素11aからm番目の受信器4までの距離d2 (m,x,y)を求める。次に、送信器3から図16に示すパルス波14を発信し受信器4で反射波を受信するまでの時間tを数61を用いて計算する。
【0127】
【数61】

【0128】
この操作を異なるM個の送信・受信器3、4の位置、つまり1番目の位置からM番目の位置で行う。ただし、t(m,x,y)は送信・受信器3、4までの往復時間であり、vは構造物(媒質)中での電磁波の伝播速度を表す。
【0129】
m番目の位置の送信・受信器3、4から、ある要素11a(斜線図示の要素)までの求めた往復時間に相当するデータの点を参照点として前後複数個のデータの和を取る。この操作を図15のx方向の全ての送信・受信器3、4の位置で行い、1つの要素11aに対する重みを得る。
【0130】
この重みについて更に説明する。図18に示すように、ある要素に物体が存在したときに、各x方向の送信・受信器の各位置におけるパルス波の往復時間をプロットすると、物体の真上に対応する位置を頂点とする近似双曲線が得られる。往復時間t(m,x,y)は、図16のパルス波の点p1が受信器4で受信されるまでの時間であるが、この場合、説明の理解を容易にするために最大振幅のパルス(点p2)が到達するまでの時間をプロットする。実際にも、この最大振幅パルス(p2)を用いる。一方、図17に示すように、例えば3つの要素11b,11c,11dに着目して、それぞれに物体が存在すると仮定すると、図18に示すような3つの推定の近似双曲線(細線)b、c、dが計算で得られる。そして、実際に要素11bに物体が存在したときには、実測の近似双曲線(太線)Tと推定の近似双曲線bとが合致する。このとき、近似双曲線b上の各点のパルス波形は全て同じ状態である。図16の合せ時間幅内の積分値(面積)に対応する各点のパルス波形の強さ(電圧の大きさ)を合計すると、強さは大きな値になる。次に、要素11cについて考える。要素11cに対応した推定の近似双曲線cは、実測の近似双曲線Tとずれている。推定の近似双曲線cと実測の近似双曲線Tと交点では、合せ時間幅L内の積分値は大きな値をとるが、交点からずれたところでは、その積分値は小さな値となる。このため、近似双曲線c上に対応した各点のパルス波形の強さを合計すると、近似双曲線bの場合と比較して強さは小さい値になる。さらに、要素11dに対応した推定の近似双曲線dは実測の近似双曲線Tから大きくずれているので、近似双曲線dの各点に対応した実測のパルス波形は0レベルであるので、近似双曲線d上に対応した各点のパルス波形の強さは0になる。従って、近似双曲線d上に対応した各点のパルス波形の合計の強さは0となる。この近似双曲線上の各点対応したパルス波形の強さの合計の値を「重み」という。
【0131】
そして、上述した操作を全ての要素11に対して行い、得られた重みの分布が数62に示すSARイメージI(x,y)となる。
【数62】

【0132】
ここで、E(m,q(m,x,y))は受信された電界を2次元配列の形で表したものである。q(m,x,y)はm番目の位置の送信・受信器3、4における電界パルス波形データの第q番目のサンプリング点を意味し(図16B参照)、数63のように表される。
【数63】

intはt(m,x,y)/Δtの値を整数にするための(少数以下を切り捨てる)記号である。ここで、Δtはサンプリング間隔である。
【0133】
Lは図16B(模式図で、図16Aの要部の拡大図)に示すように最大振幅のパルス(点p2)を中心とする狭い領域内のサンプリング点数である(数62に於けるl=0〜Lの総和はこの狭い領域内のパルス波形の積分に対応する)。また、h はパルスの受信開始点p1からサンプリング点の総和を取る領域の開始点までのサンプリング点数であり、波補正期間を表す。
前述の参照点とは図16のパルス波形の頂部p2、前後数個のデータとは図16の足し合せ時間幅内のサンプリングデータ点数Lを指す。
【0134】
合成開口処理は、この重みを全要素11について求めることにより、合成開口処理画像で見ると、物体の存在する部分が重みの大きい例えば黒色で表示され、それ以外の部分は重みの小さい例えば灰色、白色として表示される。
【0135】
次に、時間フィルタ法について説明する。時間フィルタ法とは、受信した電界の波形の一部を増幅させることである。すなわち、構造物を前述の送信・受信器3、4の測定系により得られた電界分布に対して、表面から時間軸(構造物の深さ方向に相当する)に沿って所定時間幅で区切った領域だけ電界を増幅し、他の領域の電界は増幅させないことを、時間フィルタ法という。
【0136】
さらに詳述する。前述の図14に示す4つの物体(例えば鉄筋)2A,2B,2C,2Dが内在された構造物(例えばコンクリート構造物)1内を送信・受信器3、4により測定して、図19に示すような電界分布(観測データ)が得られたとする。この観測データでは、表面に近い物体2A,2Bの波形を見ることができるが、表面の物体2A,2Bに隠れた深い位置の物体2C,2Dの波形は殆ど見えない。図19において、縦軸は時間(前述の往復時間に相当する)n、横軸は送信点の位置mを表す。
【0137】
時間フィルタの関係式は次の数64で表すことができる。
【数64】

ここで、受信した電界を2次元配列の形で表したものをE(m,n)とする。E(m,n)に時間フィルタを適用したものをE’(m,n)とする。F(m,n)を時間フィルタ関数(時間通過フィルタ)とする。
【0138】
時間フィルタ関数F(m,n)は次の数65で定義する(図20参照)。
【数65】

ただし、Nfdは時間フィルタ幅、nfsは時間フィルタ開始時間、kは増幅係数である。増幅係数kは、図19の増幅すべき範囲(時間フィルタ幅Nfd)内の生データでの最大値Efmaxが、全体の生データのうちの最大値Emaxと等しくなるように選ぶ。
【0139】
後述するように、構造物内の物体探査に際しては、時間フィルタを通過した後の全データ(時間フィルタで増幅した部分及び他の増幅しない部分の全データ)に対して合成開口処理を行う。この操作を、時間フィルタ幅Nfdを固定させ、時間フィルタ開始時間nfsを変化させて繰り返すことで、複数の合成開口処理画像を得る。
以上が、合成開口処理、時間フィルタ法である。
【0140】
次に、図21のフローチャートを用いて、本実施の形態の構造物内の物体探査方法を説明する。すなわち、本実施の形態は、時間フィルタを取り入れた合成開口処理による複数の物体探査方法である。
【0141】
図21のフローチャートは、未知の物体の探査処理を、コンピュータ上で自動的に実行させるコンピュータ・プログラムでもある。
このプログラムは、コンピュータに、次のような手順を実行させるものである。この例ではコンクリート構造物内の未知の鉄筋の位置を探査する場合に適用する。先ず、開始の後のステップS41において、送信器3及び受信器4を一方向(x方向)へ移動しながら送信器3から電磁波(振動するパルス波)をコンクリート構造物内に照射し、鉄筋で反射した電磁波パルスを受信器4で受信する測定系で得られた、各測定位置での電界波形の測定データを入力する。
【0142】
次に、ステップS42に進み、平均減算処理により、測定データから受信波形に混在している直達波、表面反射波を除去する。
【0143】
次に、ステップS43に進み、前述の第1実施の形態、第2実施の形態、あるいは第3実施の形態で述べた方法によって得られたコンクリート中の電磁波の伝播速度を入力する。
【0144】
次に、ステップS44に進み、前述の時間フィルタの条件を設定する。すなわち時間フィルタ開始時間nfs、時間フィルタ幅Nfd、フィルタ数の最大値(時間軸方向にフィルタ幅Nfdで移動する回数)を設定する。
【0145】
次に、ステップS45に進み、フィルタ数=1を選ぶ。すなわち初回のフィルタ部分を選ぶ。コンクリート構造物の厚さ全域にわたって時間フィルタをかけるときは、コンクリート構造物の一番上のフィルタ部分に対応する。
【0146】
次に、ステップS46に進み、測定データ(生データ)の全体のうちの最大値Emaxを検索する。
【0147】
次に、ステップS47に進み、増幅しようとする時間フィルタ内の測定データ(生データ)のうちの最大値Efmaxを検索して、増幅度kを決定する。
【0148】
次に、ステップS48に進み、データを時間フィルタに通す。すなわち、生データE(m,n)と時間フィルタ関数F(m,n)を単純に掛け算する。すなわち、E’(m,n)=F(m,n)×E(m,n)の演算を行う。
【0149】
次に、ステップS49に進み、時間フィルタ内のデータが増幅され、時間フィルタ以外の部分では増幅さない状態での全域の合成開口処理を行う。
【0150】
次に、ステップS50に進み、フィルタ数が最大値で有るか否かが判定され、フィルタ数が最大値に至らなければ、次のステップS51に進む。
【0151】
ステップS51では、フィルタ開始時間nfsが更新され、フィルタ数が次の回数に更新される。そして、更新された後、ステップS47に戻り、同じ手順が繰り返される。すなわち、フィルタ数が最大値に達するまで、ステップS47〜ステップS51が繰り返される。
【0152】
そして、ステップS50において、フィルタ数が最大値に達したことが判定されたならば、ステップS52に進み、フィルタ数に対応した枚数の合成開口処理画像の評価が行われる。この評価により、コンクリート構造物内の鉄筋の位置が探査される。ステップS52での合成開口処理画像の評価は、観測者が画像を見て判定する。また、コンピュータで自動的に判定することも可能である。合成開口処理画像の評価を行った後、鉄筋探査は終了する。
【0153】
図22〜図26に、本発明方法により鉄筋探査を行った合成開口処理画像の具体例を示す。図22は、前述の図14に対応したコンクリート構造物に4つの鉄筋2A,2B,2C,2Dが設置されている真値の断面図である。図23Aはこのコンクリート構造物の観測データ(原画像)であり、図23Bはこの観測データに基づく合成開口処理画像である。この図23Bの合成開口処理画像では表面側の2つの鉄筋2A,2Bの位置が確認されるが、奥の2つの鉄筋2C,2Dが確認されない。
【0154】
図24Aは時間4nsから5nsまでを増幅させたとき(すなわち、時間フィルタ時間:4ns,時間フィルタ幅:1ns)の時間フィルタ画像である。図24Bはこの画像を合成開口処理したときの合成開口処理画像である。この図24Bの合成開口処理画像ではノイズによって4つの鉄筋2A〜2Dの位置を確認することができない。
【0155】
図25Aは奥の2つの鉄筋からの反射が来ると思われる時間5nsから6nsまでを増幅させたとき(すなわち、時間フィルタ時間:5ns,時間フィルタ幅:1ns)の時間フィルタ画像である。図25Bはこの画像を合成開口処理したときの合成開口処理画像である。この図25Bの合成開口処理画像では4つの鉄筋2A〜2Dの位置が明確に確認される。
【0156】
図26Aは時間6nsから7nsまでを増幅させたとき(すなわち、時間フィルタ時間:6ns,時間フィルタ幅:1ns)の時間フィルタ画像である。図26Bはこの画像を合成開口処理したときの合成開口処理画像である。この図26Bの合成開口処理画像では、深い位置の2つの鉄筋2C,2Dの画像が小さいが、概ね4つの鉄筋2A〜2Dの位置を確認することができる。
【0157】
本実施の形態に係る構造物内の物体探査方法によれば、本発明方法で得られた電磁波伝播速度と、時間フィルタ法及び合成開口処理を用いることにより、例えばコンクリート構造物内の未知の複数の鉄筋などの物体を精度よく、しかも短時間で探査することができる。探査に用いる電磁波(マイクロ波)において、最大振幅のパルスを用いることにより、合成開口処理において、正確な物体探査ができる。
【0158】
また、図21のコンピュータ・プログラムを用いることにより、コンピュータに上記ステップ(手順)を実行させて、自動的に例えばコンクリート構造物内の未知の複数の鉄筋などの物体の探査をすることができる。
【0159】
図27に、コンクリート構造物内に存在する未知の鉄筋等の物体を探査するための本実施の形態に係る探査装置(いわゆる探査レーダ)の概略を示す。本実施の形態に係る探査レーダ31は、電磁波(パルス波)、例えばマイクロ波を送信する送信器(送信アンテナ)33と、送信器33から構造物32内へ送信された電磁波が物体で反射した反射波を受信する受信器(受信アンテナ)34と、前述した観測データ、予め設定するデータなどの入力に基づいて画像処理、演算等を行うコンピュータを備え、コンピュータの操作・制御部38、画像表示部36を有した装置本体37とを備えて成る。送受信器33、34及び装置本体37はケーブル38で接続されている。装置本体37内のコンピュータは、内蔵されている前述のプログラムによって実行され、あるいはこのプログラムを備えた媒体、例えばメモリーカード42の装着により実行されるように成されている。
【0160】
送受信器33、34は、例えば図示するように一体化され、その側壁にコンクリート構造物の上面を転接する車41が取付け部材42を介して取着される。これよって、送受信器33、34はコンクリート構造物32上を移動できるようになる。また、図示しないが、送信器33を固定し、受信器34のみを移動させる構成のときには、送信器33をコンクリート構造物32上に載置した状態で実質的に固定されるように、例えば重量のある構成とし、受信器34を上記の車41を取着して移動可能に構成する。装置本体37では、画像表示部36に送受信器33、34で得られた測定データに基づく波形画像、あるいは合成開口処理画像が表示されるように構成される。
【0161】
この探査レーダ31により、コンクリート構造物32中の電磁波の伝播速度が直ちに推定され、この伝播速度を用いて、短い時間でコンクリート構造物内の未知の鉄筋、ケーブル等の物体の探査を行うことができる。
【0162】
本発明は、上述の探査装置31と同様の構成で、コンピュータに前述の図3、図9、図13のプログラムを実行させれば、電磁波伝播速度推定装置として構成することができる。
この電磁波伝播速度推定装置によれば、構造物中の電磁波の伝播速度を自動的に、短時間でかつ精度よく推定することできる。この推定した伝播速度は、上述の本発明の構造物内の物体探査方法、装置は勿論のこと、従来のマイクロ波を用いた物体探査方法、装置にも適用することができる。
【0163】
上述した本発明に係る測定装置、測定データは、従来のものをそのまま適用することができる。すなわち、本発明の電磁波伝播推定方法は従来の測定装置に導入することができ、実用上大きな利点を有する
【0164】
本発明に係る構造物中の電磁波伝播速度推定方法は、コンクリート構造物に限らず、他の構造物中の電磁波伝播速度の推定にも適用できる。
本発明に係る構造物内の物体探査は、構造物と異なる鉄筋、ケーブル、パイプ以外に、誘電率が構造物と異なる空洞の探査にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明に係る電磁波伝播速度推定方法の第1実施の形態の説明に供する構成図である。
【図2】図1の構成において、送受信器を移動して各測定点での電磁波の往復時間をプロットして得られる近似双曲線を示す説明図である。
【図3】第1実施の形態の電磁波伝播速度推定方法のフローチャートである。
【図4】本発明の説明に供する電磁波の直達波、表面反射波の説明図である。
【図5】構造物内の物体に電磁波を発信し、その反射波を受信したときの観測データの画像を示す説明図である。
【図6】図5の観測データの画像から平均減算処理により直達波、表面反射波が除去された画像を示す説明図である。
【図7】本発明に係る電磁波伝播速度推定方法の第2実施の形態の一例の説明に供する構成図である。
【図8】本発明に係る電磁波伝播速度推定方法の第2実施の形態の他の例の説明に供する構成図である。
【図9】第2実施の形態の電磁波伝播速度推定方法のフローチャートである。
【図10】本発明に係る電磁波伝播速度推定方法の第3実施の形態の説明に供する構成図である。
【図11】第3実施の形態における受信器の移動を示す説明図である。
【図12】第3実施の形態の電磁波伝播速度推定方法の説明に供する双曲線を示す説明図である
【図13】第3実施の形態の電磁波伝播速度推定方法のフローチャートである。
【図14】本発明に係る構造物内の物体探査方法の説明に供する構造物の断面図である。
【図15】合成開口処理の説明に供する構成図である。
【図16】A,B 合成開口処理で用いる電磁波(マイクロ波)を示す波形図である。
【図17】時間フィルタ法の説明に供する説明図である。
【図18】時間フィルタ法における「重み」の「説明に供する説明図である。
【図19】時間フィルタをかけないときの、生データの電界分布の画像を示す説明図である。
【図20】時間フィルタをかけたときの、電界分布の画像を示す説明図である。
【図21】本発明に係る構造物内の物体探査方法のフローチャートである。
【図22】A,B 本発明の物体探査の具体例を示す、時間フィルタをかけないときの電界分布の画像、及びそのときの合成開口処理画像である。
【図23】A,B 本発明の物体探査の具体例を示す、時間フィルタをかけないときの電界分布の画像、及びそのときの合成開口処理画像である。
【図24】A,B 本発明の物体探査の具体例を示す、4nsから5nsの時間フィルタをかけないときの電界分布の画像、及びそのときの合成開口処理画像である。
【図25】A,B 本発明の物体探査の具体例を示す、5nsから6nsの時間フィルタをかけないときの電界分布の画像、及びそのときの合成開口処理画像である。
【図26】A,B 本発明の物体探査の具体例を示す、6nsから7nsの時間フィルタをかけないときの電界分布の画像、及びそのときの合成開口処理画像である。
【図27】本発明に係る構造物内の物体探査装置の実施の形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0166】
1・・構造物、2、2A〜2D・・物体、3・・送信器、4・・受信器、5・・電磁波、5′・・反射波、6・・近似双曲線、11・・微小要素、14・・電磁波、31・・構造物内の物体探査装置、32・・構造物、33・・送信器、34・・受信器、36・・表示部、37・・装置本体、38・・ケーブル、41・・車、42・・取り付け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、
各測定位置での前記電磁波パルスの観測波形から、各測定位置で電磁波パルスを受信するまでの伝播時間の観測値を求め、
各測定位置での伝播時間の推定値を設定し、
前記伝播時間の推定値は未知である物体の一方向及びこれと直交する方向の位置と構造物内の電磁波の伝播速度の関数として表され、
各測定位置の前記伝播時間の推定値と前記伝播時間の観測値との差分による誤差が最小となる推定値から、電磁波の伝播速度と物体の位置を同時に推定する
ことを特徴とする構造物中の電磁波伝播速度推定方法。
【請求項2】
物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、
各測定位置での前記電磁波パルスの観測波形から、各測定位置で電磁波パルスを受信するまでの伝播時間の観測値を求め、
各測定位置に関する、未知の伝播速度と物体の一方向及びこれと直交する方向の位置の関数である伝播時間と、伝播時間の前記観測値との差分を出力誤差とし、
最小2乗線形テーラー法を用い、
予め設定した各測定位置での伝播時間の推定値と前記観測値との差分による推定誤差と、前記出力誤差の関係を求め、
推定誤差と前記出力誤差の関係式を用いて出力誤差の2乗和が最小となる伝播速度と物体の位置の値から、電磁波の伝播速度と物体の位置を同時に推定する
ことを特徴とする構造物内の電磁波の伝播速度推定方法。
【請求項3】
構造物中の電磁波伝播速度を推定するための手順をコンピュータに実行させるコンピュータ・プログラムであって、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
前記測定データから受信波形に混在する前記電磁波の前記構造物の一主面で反射した表面反射波及び前記送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
未知である電磁波の伝播速度と物体の一方向及びこれと直交する方向の位置の推定初期値の推定データを入力する第3手順と、
最小2乗線形テーラー法を用いて、前記測定データに基づく各測定位置での測定値と前記推定データに基づく前記電磁波の伝播速度と物体の位置の関数である伝播時間の推定値との誤差を評価する第4手順と、
前記誤差が最小に収束したか否かを判定する第5手順と、
前記誤差が最小に収束した判定に基いて前記電磁波の伝播速度と物体の位置を推定する第6手順と、
前記第5手順で前記誤差が最小に収束しない判定に基いて連立方程式により伝播速度と位置の補正項を求める第7手順と、
前記第7手順に基づき前記推定データの伝播速度と位置を更新して前記誤差を評価する第3手順に戻す第8手順とを有する
ことを特徴とするコンピュータ・プロブラム。
【請求項4】
コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記コンピュータに、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
前記測定データから受信波形に混在する前記電磁波の前記構造物の一主面で反射した表面反射波及び前記送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
未知数である電磁波の伝播速度と物体の一方向及びこれと直交する方向の位置の推定初期値の推定データを入力する第3手順と、
最小2乗線形テーラー法を用いて、前記測定データに基づく各測定位置での測定値と前記推定データに基づく前記電磁波の伝播速度と物体の位置の関数である時間の推定値との誤差を評価する第4手順と、
前記誤差が最小に収束したか否かを判定する第5手順と、
前記誤差が最小に収束した判定に基いて前記電磁波の伝播速度と物体の位置を推定する第6手順と、
前記第5手順で前記誤差が最小に収束しない判定に基いて連立方程式により伝播速度と位置の補正項を求める第7手順と、
前記第7手順に基づき前記推定データの伝播速度と位置を更新して前記誤差を評価する第3手順に戻す第8手順とを実行させるための、
構造物中の電磁波伝播速度推定プログラムを少なくとも備える
ことを特徴とする記録媒体。
【請求項5】
物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、送受信器または受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、
各測定位置での前記電磁波パルスの観測波形から、各測定位置で電磁波パルスを受信するまでの伝播時間の観測値を求め、
前記観測伝播時間が最小になった位置を物体の一方向の位置として決定し、
各測定位置における伝播時間と伝播速度との積で求まる物体までの距離と、各測定位置との関係で得られる近似双曲線あるいは双曲線の式から、未知の伝播速度を、物体の一方向の位置と測定位置と前記最小伝播時間と測定位置での伝播時間との関数で表し、
少なくとも受信器の任意の位置に対する前記伝播時間から未知の伝播速度を決定する
ことを特徴とする電磁波伝播速度推定方法。
【請求項6】
複数の測定位置に対する伝播時間を用いて平均化された未知の伝播速度を決定する
ことを特徴とする請求項5記載の電磁波伝播速度推定方法。
【請求項7】
構造物中の電磁波伝播速度を推定するための手順をコンピュータに実行させるコンピュータ・プログラムであって、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
前記測定データから受信波形に混在する前記電磁波の前記構造物の一主面で反射した表面反射波及び前記送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
観測最小伝播時間により前記物体の一方向の位置を決定する第3手順と、
各測定位置、送受信器間距離、各測定位置における伝播時間、最小伝播時間及び物体の一方向位置のデータを入力する第4手順と、
各測定位置における伝播時間と伝播速度との積で求まる物体までの距離と、各測定位置との関係で得られた近似双曲線あるいは双曲線の式から未知の伝播速度を、物体の一方向の位置と測定位置と前記最小伝播時間と測定位置での伝播時間との関数で表し、複数の測定位置に対する伝播速度を平均化する式を用いて、未知の伝播速度を演算する第5手順とを有する
ことを特徴とするコンピュータ・プログラム。
【請求項8】
コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記コンピュータに、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
前記測定データから受信波形に混在する前記電磁波の前記構造物の一主面で反射した表面反射波及び前記送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
観測最小伝播時間により前記物体の一方向の位置を決定する第3手順と、
各測定位置、送受信器間距離、各測定位置における伝播時間、最小伝播時間及び物体の一方向位置のデータを入力する第4手順と、
各測定位置における伝播時間と伝播速度との積で求まる物体までの距離と、各測定位置との関係で得られた近似双曲線あるいは双曲線の式から未知の伝播速度を、物体の一方向の位置と測定位置と前記最小伝播時間と測定位置での伝播時間との関数で表し、複数の測定位置に対する伝播速度を平均化する式を用いて、未知の伝播速度を演算する第5手順とを実行させるための、
構造物中の電磁波伝播速度推定プログラムを少なくとも備える
ことを特徴とする記録媒体。
【請求項9】
物体が内在する構造物の一主面上に送信器と受信器を配置し、送受信器または受信器を一方向へ移動しながら送信器から構造物内にパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系を有し、
各測定位置と伝播時間の座標系における受信した2次元の電界波形を求め、
前記電界波形の一部を増幅する時間フィルタを用いて所要時間幅内の電界波形を増幅し、増幅後に全域の電界波形に対する合成開口処理を行い、
前記所要時間幅を時間軸に沿って移動して同様の前記増幅と合成開口処理を行い、
複数の合成開口処理画像から未知の物体位置を探査する
ことを特徴とする構造物内の物体探査方法。
【請求項10】
構造物内の物体を探査するための手順をコンピュータに実行させるコンピュータ・プログラムであって、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
前記測定データから受信波形に混在する前記電磁波の前記構造物の一主面で反射した表面反射波及び前記送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
構造物中の電磁波の伝播速度を入力する第3手順と、
前記2次元の電界波形の一部を増幅するための時間フィルタのフィルタ条件を設定する第4手順と、
測定データにおける電界波形の最大値と増幅すべき時間フィルタの所要時間幅内の測定データにおける電界波形の最大値とから、所要時間幅内の増幅度を決定する第5手順と、
前記所要時間幅内の電界波形を増幅し、増幅後に全電界波形に対する合成開口処理を行う第6手順と、
前記所要時間幅を時間軸に沿って移動して前記増幅と合成開口処理を繰り返す第7手順と、
複数の合成開口処理画像から未知の物体位置を探索する第8手順とを有する
ことを特徴とするコンピュータ・プログラム。
【請求項11】
前記構造物中の電磁波の伝播速度を入力する第3手順が、請求項3または請求項7に記載のコンピュータ・プログラムによって行われる
ことを特徴とする請求項10記載のコンピュータ・プログラム。
【請求項12】
コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
コンピュータに、
物体が内在する構造物の一主面上に配置した送受信器または送受信器のうち受信器を一方向へ移動させながら、前記送信器からパルス状の電磁波を照射し前記物体で反射した電磁波パルスを受信器で受信する測定系で得られた、測定位置と伝播時間の座標系における2次元の電界波形の測定データを入力する第1手順と、
前記測定データから受信波形に混在する前記電磁波の前記構造物の一主面で反射した表面反射波及び前記送信器から受信器への直達波を除去する第2手順と、
構造物中の電磁波の伝播速度を入力する第3手順と、
前記2次元の電界波形の一部を増幅するための時間フィルタのフィルタ条件を設定する第4手順と、
測定データにおける電界波形の最大値と増幅すべき時間フィルタ幅内の測定データにおける電界波形の最大値とから、所要時間幅内の増幅度を決定する第5手順と、
前記所要時間幅内の電界波形を増幅し、増幅後に全電界波形に対する合成開口処理を行う第6手順と、
前記所要時間幅を時間軸に沿って移動して前記増幅と合成開口処理を繰り返す第7手順と、
複数の合成開口処理画像から未知の物体位置を探索する第8手順とを実行させるための、
構造物内の物体探査プログラムを少なくとも備える
ことを特徴とする記録媒体。
【請求項13】
コンピュータを制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
コンピュータに、構造物中の電磁波伝播速度を推定するための手順を実行させる請求項3又は請求項7に記載のコンピュータ・プログラムと、構造物内の物体を探査するための手順を実行させる請求項10に記載のコンピュータ・プログラムとを少なくとも備える
ことを特徴とする記録媒体。
【請求項14】
構造物上に送受信位置、または受信位置が移動可能となるように配置される送信器及び受信器と、
コンピュータと画像表示部を有した装置本体とを具備し、
前記コンピュータが請求項3又は請求項7に記載のコンピュータ・プログラムにより実行されて成る
ことを特徴とする構造物中の電磁波伝播速度推定装置。
【請求項15】
構造物上に送受信位置、または受信位置が移動可能となるように配置される送信器及び受信器と、
コンピュータと画像表示部を有した装置本体とを具備し、
前記コンピュータが請求項10又は請求項11に記載のコンピュータ・プログラムにより実行されて成る
ことを特徴とする構造物内の物体探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図21】
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【図22】
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【図27】
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【図5】
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【図6】
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【図19】
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【図20】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2007−33145(P2007−33145A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−214648(P2005−214648)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月22日 国立大学法人長崎大学主催の「平成16年度 長崎大学大学院生産科学研究科電気情報工学専攻(電気電子工学系)修士論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】