説明

構造用光触媒混和モルタルおよびその製造方法、構造用光触媒混和コンクリートおよびその製造方法、並びに構造用光触媒混和コンクリートパネルの製造方法

【課題】橋梁高欄部や導水路側面などのコンクリート部材のセメントマトリクスに、光触
媒機能の1つである窒素酸化物浄化機能等を付与し、表層部の劣化が生じても機能保持が
可能となる高強度セメントモルタルを提供することにある。
【解決手段】一部を酸化チタン粉末で置換されたセメントモルタルと、細骨材とを混和さ
せてなる光触媒混和モルタルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、道路橋や導水路などのコンクリート構造物の劣化したコンクリート表面の補修・補強あるいは劣化予防等に好適な構造用光触媒混和モルタルおよびその製造方法、構造用光触媒混和コンクリートおよびその製造方法、並びに構造用光触媒混和コンクリートパネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン粉末は光触媒として広く用いられ、塗料やタイルをはじめ、ガラス製品、テント等の布製品など、様々な分野で実用化が進んでおり、一部は建材にも適用されてきている。光触媒は様々な物質の分解および親水性能を既存の材料に付与することが可能であり、その性能を利用して幅広い用途に用いられている。特に光触媒の大気浄化機能については、JIS R 1701-1で試験方法が標準化され、利用の拡大が期待されるものである。これに関し、社会基盤整備においては交通量の増大などに対して窒素酸化物浄化技術の向上が期待されており、また我が国においては2005年の京都議定書批准に伴って、温暖化ガスの削減に関する研究・開発も急務となっている。
【0003】
一方、セメントコンクリートは、社会基盤を構成する建設材料の主要素として性能の多様化が要求されており、この中で光触媒技術をコンクリートブロックに適用したNOx浄化機能を有する舗装材料に関する研究・開発、ポーラスコンクリートに人工ゼオライトなどと併用した吸音効果やNOx浄化機能を有する舗装材料に関する研究などが行われてきている。これらの研究・開発技術は既に応用が開始されており、セメントペーストを光触媒酸化チタンのバインダーとして使用することもある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これら舗装材料を主としたコンクリートへの光触媒の適用に加えて、社会基盤設備の環境負荷低減性能技術を発展させるためには、道路橋や導水路などのコンクリート構造物の部材に光触媒機能を付与することが考えられる。
【特許文献1】特開2005−53078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の光触媒機能をコンクリートに付与する方法としては、光触媒塗料のコンクリート表面への塗布や、コンクリート表層の薄層部を酸化チタン混和ペーストなどで被覆する方法などが知られているが、コンクリート部材は、風や砂、あるいは流砂や土砂などによる機械的な表面劣化、または酸性雨などによる化学的浸食、凍結融解作用などにより表層剥離が生じる環境下にさらされることが多くあることから、積雪寒冷地などの環境下ではコンクリート表層部の劣化が想定され、光触媒機能の低下が懸念される。
また、従来の研究・開発技術は、いずれも構造物としての性能を持つには至らず、基盤の表面に光触媒を接着させるためのものであり、コンクリート構造物としての物理的性質や力学的性質を明らかにする配合は無く、接着強度の改善も確認されていなかった。さらに、セメントモルタルに酸化チタンを混和して使用する場合には、セメントから析出する炭酸カルシウムが酸化チタンの表面を覆い、窒素酸化物除去性能が80%低下するという問題がある。また、表面に塗布などにより接着させる方法では、触媒被毒により同じく窒素酸化物除去性能の低下が見られるといった問題がある。
【0006】
さらに、導水路などの水利構造物の場合は、補修後の通水量確保のために補修材料は薄肉であることが望ましく、高い耐久性も必要となるが、従来の硬質塩化ビニルやFRP製または通常のコンクリート製のパネルを張付ける工法や、通常のポリマーセメントモルタルを吹付ける工法などでは、渇水期における短期集中施工や、通水下(湿潤条件下)での施工が困難であり、施工性および経済性の面から新たな材料と工法の開発が求められている。さらに、持続的な通水性能の確保には、劣化や摩耗に伴う粗度係数の上昇を防ぐことが必要であり、適切な耐摩耗性能が必要である。
【0007】
それゆえこの発明は、橋梁高欄部や導水路側面などのコンクリート部材のセメントマトリクスに、光触媒機能の1つである窒素酸化物浄化機能等を付与し、表層部の劣化が生じても機能保持が可能となる高強度セメントモルタルを提供することを目的としている。
【0008】
またこの発明は、コンクリート構造物への酸化チタン材料の適用形態の1つとして、酸化チタン材料を骨材の一部と置換したセメントモルタルひいてはコンクリートを提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を有利に解決したこの発明の構造用光触媒混和モルタルは、請求項1記載のものでは、一部を酸化チタンで置換されたセメントモルタルと、細骨材とを混和させたことを特徴としている。
ここで請求項2記載のように、前記酸化チタンはアナターゼ型酸化チタン粉末からなり、前記セメントモルタルへセメント重量置換として5%〜30%混和されていても良い。
また、この発明の構造用光触媒混和モルタルは、請求項3記載のものでは、酸化チタンをセメント重量置換により混和したセメントモルタルと、少なくとも一部を酸化チタンビーズで置換された細骨材とを混和させ、硬化状態でモルタル表面を削ってセメントマトリクス中の酸化チタン及び酸化チタンビーズを露出させたことを特徴としている。
ここで請求項4記載のように、前記酸化チタンビーズは、アナターゼ型酸化チタンの2次粒子または、多孔質チタンの表面にカーボンをドープして光触媒活性を付与したビーズであっても良い。
さらに請求項5記載のこの発明の構造用光触媒混和モルタルの製造方法は、請求項1記載の構造用光触媒混和モルタルにおいて、前記アナターゼ型酸化チタン粉末を、あらかじめ水中に分散させたゾルタイプとして、前記セメントモルタルへセメント重量置換として酸化チタンのみが重量の対象で5%〜30%混和することを特徴としている。
【0010】
また、請求項6記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートは、この発明の一部を酸化チタンで置換されたセメントモルタルと、細骨材と、粗骨材とを混和させたことを特徴としている。
さらに、請求項7記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートの製造方法は、請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて、練り混ぜ方式によりポーラスコンクリートを形成することを特徴としている。
【0011】
また、請求項8記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートパネルの製造方法は、請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを用いて、注型成形により高靭性コンクリートパネルを形成するか、または押出成形によりコンクリートパネルを形成することを特徴としている。
さらに、請求項9記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートパネルの製造方法は、請求項3または4記載の光触媒混和モルタルを型に流し込み、振動締め固めを行って酸化チタンビーズを下面に集めて、その下面をパネル表面とすることを特徴としている。
【0012】
さらに、請求項10記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートは、請求項1から4までの何れか記載の構造用光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて形成したポーラスコンクリートであって、セメントモルタルの構造体組織中にある微細孔で、酸化チタンが光触媒機能により一酸化窒素除去性能を発揮する際に発生する二酸化窒素を吸着することにより、原材料よりも高い窒素酸化物除去性能を発揮することを特徴としている。
また、請求項11記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートは、請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて形成したコンクリートであって、表層部の劣化に伴い常に新たな光触媒活性材料を露出させ,継続的に光触媒機能を保持することを特徴としている。
さらに、請求項12記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートは、請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて形成したコンクリートであって、酸化チタンが光触媒機能により窒素酸化物を分解除去する際に発生する亜硝酸イオンの一部をコンクリート内に吸収・残留させ、そのコンクリート内の鉄筋表面に不導体皮膜を形成することを特徴としている。
さらに、請求項13記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートは、請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルをコンクリート同士の打ち継ぎ部に用いて、その打ち継ぎ部の接着強度を高めたことを特徴としている。
そして、請求項14記載のこの発明の構造用光触媒混和コンクリートは、請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルにポリマーを混和したものを骨材のバインダーとして用いて形成したコンクリートであって、前記ポリマーの混和量を調整することにより光触媒活性をコントロールすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
すなわちこの発明では、例えば、
(1) 光触媒粉末としての酸化チタン粉末をコンクリートあるいはペーストに混和させる。
(2) 光触媒としての酸化チタンを主成分とするチタニアビーズをコンクリートに混和させ、そのコンクリート表面を平滑に削ってビーズ内部を露出させる。
(3) 上記(1)または(2)のコンクリートで、押し出し成形または型流し込みあるいは吹きつけにより表層パネルあるいは表層構造部を形成する。
(4) 上記(1)または(2)のコンクリートあるいはペーストをバインダーとして、ポーラスコンクリートを形成する。
(5) 上記(2)のコンクリートの型流し込みの場合には振動締め固めを行ってビーズを下面に集め、その下面をパネル表面とする。
【0014】
上記(1)および(2)のコンクリートによれば、コンクリート表面に露出した光触媒粉末や酸化チタンビーズ内部が、大気中の一酸化窒素を酸化させて二酸化窒素にし、それをコンクリートの細孔中に吸着して、雨水等の水で流すことができる。また、コンクリート中の酸化チタンによる光触媒反応により、NOは分解されNO2が発生する。NO2は、NO2−(亜硝酸イオン)としてコンクリート中のカルシウムと反応し亜硝酸カルシウムとなる。亜硝酸カルシウムは、Cl(塩化物イオン)による鉄などの腐食を防止する機能があり、塩害等による劣化に対して効果がある(2Fe2++2OH+2NO2−→Fe2O3+H2O+2NO)。
【0015】
従って、橋梁高欄部や導水路側面などのコンクリート部材に、光触媒機能の1つである窒素酸化物浄化機能等を付与することができ、しかもコンクリート表層部の劣化が生じても内部の光触媒粉末や酸化チタンビーズ内部が露出するので、機能保持が可能となる。さらに、コンクリート表面が滑らかなので、流路に用いた場合に流体抵抗を小さくすることができる。なお、酸化チタンビーズの内部を露出させるのは、酸化チタンビーズの表面は、その細孔がセメントモルタルで覆われて光触媒効果が低いからである。
【0016】
また、上記(1)のコンクリートによれば、摩耗しても表面の滑らかさを維持できるので粗度係数の上昇を防ぐことができ、上記(2)のコンクリートによれば、酸化チタンビーズの硬度が高いので摩耗自体を防止することができる。
【0017】
上記(3)の表層パネルあるいは表層構造部を形成した場合には、施工が容易になるので、水利構造物の、渇水期における短期集中施工や、通水下(湿潤条件下)での施工を行うことができる。
【0018】
上記(4)のポーラスコンクリートを使用したときには、有効面積が大きくなることにより、NOX浄化機能に加え、金属イオンの除去や有機物の分解による水質浄化機能等が向上する。
【0019】
上記(5)の振動締め固めを行ってビーズを下面に集め、その下面をパネル表面とする場合には、ビーズ混入量が少なくても十分な光触媒効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、本発明の実施例と比較例とを用いた光触媒混和モルタルのNOx除去性能試験の試験装置を示す断面図、図2〜図11はその試験結果を示すグラフである。
【0021】
1.使用材料
(1)セメント:早強ポルトランドセメント(密度3.13g/cm3
(2)細骨材:珪砂(ISO標準砂,密度:2.64g/cm3,吸水率:0.42%,最大粒径:1.6mm,F.M.:2.54)
(3)光触媒:酸化チタン(表1参照)
【0022】
【表1】

【0023】
a:粉末状のアナターゼ型酸化チタン(石原産業製ST-01)であり、密度3.90g/cm3,粒子径7 nm,比表面積300m2/gである。
b:粉末状のアナターゼ型酸化チタン(デグサ製P25)であり、密度3.90g/cm3,粒子径21 nm,比表面積50m2/gである。また、aと比較すると、粒子径約3倍,比表面積約1/6である。
c:酸化チタンである固形分40%を含んでいるスラリー状の水溶液タイプのアナターゼ型酸化チタン(石原産業製STS21)である。スラリー密度は2.16g/cm3,溶質である酸化チタン粒子の密度3.90g/cm3,粒径20 nm,比表面積50m2/gである。
d:ルチル型酸化チタンビーズ(富山セラミック製)であり、ルチル型酸化チタン77.7%からなり、密度4.0g/cm3,平均粒径1.4mm,ビッカーズ硬度11.2kN/mm2である。
e:ルチル型酸化チタンビーズdの表面部分をアセチレン焼成によりカーボンドープ加工(電力中央研究所:フレッシュグリーン加工)したものである。密度,粒度分布,平均粒径などの物性は全てdと同様である。
f:多孔質チタン粉末をカーボンドープ加工したものである。密度,平均粒径,粒度分布などはdおよびeと同様であるが、多孔質であり角張った形状となっている。
(4)混和剤
・SP:ポリカルボン酸系高性能AE減水剤。
・SBR:SBR系ポリマーエマルジョン(密度1.07 g/cm3,粘度230mPa・s,固形分10%,1250倍希釈液)。
・Ad:消泡剤(1250倍希釈)。
【0024】
2.供試体の種類と配合
(1) 光触媒原料(CT)の種類(表2参照)
【0025】
【表2】

(2)セメントモルタル(CM)およびポリマーセメントモルタル(PCM)の種類(表3参照)
【0026】
【表3】


(3)供試体の配合(表4参照)
【0027】
【表4】

ここに、上記a,b,cおよびfの酸化チタンを用いたモルタルがこの発明の実施例であり、上記dおよびeの酸化チタンを用いたモルタルは単独では比較例である。
【0028】
3.試験方法
・JIS R 1701-1:2004(ファインセラミックス−光触媒材料の空気浄化性能試験方法−第1部:窒素酸化物の除去性能)に準拠した。
・供試体寸法:50×100mm,紫外線強度:1mW/cm2,NOガス濃度:900ppb〜1000ppb。
・NOガス流量:3L/min,供試体上層空気層:5mm,試験時間:20min,20℃,50%R.H.。
【0029】
試験装置は、図1に示すように、透明カバーで覆った容器内に試料を入れ、容器内に一端部からNOガスを供給するとともに透明カバー上から紫外線を照射して他端からNOガスとNOガスとを排出させるものである。
【0030】
・測定は、光照射前、光照射中、光照射後の、NO量とNOの酸化に伴って発生するNO2量の掲示変化を測定した。
・NOx除去効果については、NOの減少量(ΔNO)とNO2の増加量(ΔNO2)の差(ΔNO−ΔNO2)をNOx除去量として評価した。
【0031】
4.試験結果
4.1 酸化チタン原料(-CT(コントロール)をつけたもの)のNOx除去効果
(1)粉末(a-CT,b-CT)およびゾル(c-CT)のNOx除去効果(図2参照)
・粉末およびゾルタイプの酸化チタンは、全ての種類において、紫外線照射とともにNOが350〜400ppb程度に減少し、紫外線照射中はほぼ一定のNO除去効果を維持する。
・紫外線照射中のNO2の生成量は、a-CTにおいては紫外線照射直後に300ppb,20min照射後には500ppb程度まで増加している。
・紫外線照射中のNO2生成量の平均値は、a-CTで約400ppb,b-CTは550ppb程度,c-CTは450ppb程度であった。
・NO2の生成量がそれぞれで異なるのは、NO除去効果の差異に加えて、酸化チタン粉末粒子径の差異によってCT供試体表面の比表面積が異なり、NO2の吸着などが影響したものと考えられる。
【0032】
(2)酸化チタンビーズ(d-CT,e-CTおよびf-CT)のNOx除去効果(図3参照)
・d-CT、e-CTは光触媒効果が認められない。
・f-CTは紫外線照射とともにNOが200ppb程度減少し、それに伴ってNO2は100ppb程度発生した。
・fは、角張っており、若干細孔を有する。したがって、NO2生成量が少ないのは吸着などの影響も考えられる。
・結論としては、d(ルチルタイプビーズ)およびe(フレッシュグリーン加工を行ったルチルタイプビーズ)は光触媒効果が全く認められなかった。
【0033】
(3)酸化チタン原料(-CT(コントロール)をつけたもの)のNOx除去効果の比較(図4参照)
・酸化チタン原料(粉末およびゾル)のNOX除去量(ΔNO−ΔNO2)は、a-CTが315.1ppb、b-CTが130.7ppb、c-CTが256.4ppbとなった。
・これらの結果には、酸化チタン粉末(ゾルタイプは混入粉末)の一次粒子粒径(a:7nm,b:30nm,c:20nm)による粒子の比表面積が影響しているものと考えられる。
・特に、NO2の発生量は、b-CTが最も高い結果を示しており、比表面積の差異による吸着の影響が考えられる。
・酸化チタンビーズ原料のNOx除去量は、d-CT:-0.7ppb、e-CT:-6.8ppb、f-CT:87.5ppbとなり、fのみが光触媒効果があることが明らかとなった。
・b-CTはNO除去効果は最も高いが、NO2生成量も最も高いため、NOx除去効果としては、a,b,cのうちで最も低い結果となった。
・d-CTおよびe-CTは効果が認められなかった。
・f-CTについてはa-CT〜c-CTの5割程度の効果があった。
・NO濃度およびNO濃度の比較だけではなく、NOの除去率およびNOの除去率つまり割合での比較を検討に加えて、NOx除去効果として以下では議論する。
・ルチルタイプ(d)は一般的に弱い光触媒効果があるといわれていたが、今回の試料は効果が認められない。
【0034】
4.2 光触媒(粉末およびゾル)混和セメントモルタルのNOx除去効果
(1) aシリーズ(図5参照)
・CM-Plainは光触媒効果は全くない。
・a-5についても効果が殆ど認められないが、100ppb程度の除去はあるはずである。
・全ての供試体で、20minの紫外線照射中、ほぼ一定のNO値、NO2値を示している。
・NO2はほとんど生成していない。これは吸着が原因と推定される。
(2) bシリーズ(図6参照)
・全体的にaシリーズよりNO除去効果がある。
・若干のNO2生成が認められる。
・混和率の増加に伴って、NO量は低下した。NO2量は殆ど変わらない。
(3) cシリーズ(図7参照)
・aシリーズ、bシリーズと同様に、光触媒効果が認められる。
・NO2生成は殆ど認められない。吸着が原因と推定される。
・紫外線照射10min程度から、NO値はほぼ一定である。
【0035】
(4)光触媒混和セメントモルタル(a,bおよびcシリーズ)の混和率とNOx除去量との関係
(i)NO除去量(図8参照)
・図中の実線は-CT供試体のデータである。
・NO除去量の平均値は、酸化チタン混和率の増加とともに、原料の5割程度の能力まで上昇した。
(ii)NO2生成量(図9参照)
・b-CTのNO2生成量は、a-CTおよびc-CTのNO2生成量の1.5倍程度であった。
・NO2生成量はa,b,cともに最大で30ppb程度であった。
・bシリーズのNO2生成量は、15%混和で最大値となる。これは、粉末粒子がペーストに混和される量が多くなるので、細孔分布が異なってきて吸着の影響が顕著になるからと推定される。
(iii) NOx除去量(図10参照)
・NOx除去量(NO-NO2)は、bシリーズが最も高い効果を示した。
・aおよびcシリーズのモルタル供試体のNOx除去効果は、a-CTおよびc-CTの能力の60〜70%程度まである。
・bシリーズについては、b-CTの効果を大幅に上回った。これは、b-CTのNO2生成量が多いためと考えられ、さらにモルタルとして使用することで、NO2の吸着が影響したと推定される。
・b30はa-CTとほぼ同程度のNOx除去効果であった(NO2生成量の差異が大きいため)。
・モルタルのNOx除去量の結果には、NO除去量が大きく影響することが判明した(NO2生成量が多くても30ppb程度であるため)。
(iv)洗浄(炭酸カルシウム)の影響(図11参照)
・光触媒粉末(ゾル)を混和したセメントモルタルは、水中養生中に析出した炭酸カルシウムの影響によって光触媒効果が損なわれることが明らかとなった。
・洗浄前では、洗浄後の1割程度のNOx除去量しか効果がなかった。
・酸化チタン粉末混和モルタルの表面に分布している酸化チタンの表面が炭酸カルシウムで覆われて、光が届きづらくなったことが要因であると考えられる。
【0036】
4.3 酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルのNOx除去効果
PCM-Plain,d,eおよびfシリーズ(図12参照)
・ビーズ系PCMの供試体表面を洗い出した結果である。
・原料のみで効果があったfを混和しても、そのままのモルタルでは効果が認められなかった。
・fは、骨材置換としているため、有効な比表面積が少ないことが影響しているものと考えられる。またfは、ビーズの表面の細孔がセメントモルタルで覆われて光触媒効果が低下しているものと考えられる。従って、モルタルから突出しているビーズ表面を研削等で削れば、ビーズ内部が露出して、光触媒効果が高まると推定される。
【0037】
4.4 酸化チタン粉末および酸化チタンビーズ混和モルタルのNOx除去効果
b+d(b15-d30)(図13参照)
・bシリーズの混和率15%とほぼ同様な結果である。
・骨材に使用したdは原料のみでは全く効果が認められないので、ペースト部のみの効果と考えられる。
【0038】
5.中間まとめ
・ペースト混和系セメントモルタルの中でaとcは、原料の60〜70%程度のNOx除去効果を有する。bは、モルタルにした方が効果が高い。これはNO2生成量が大きく影響しており、吸着の影響が考えられる。
・ビーズ系PCMでは、fのみが原料で効果が認められるので、fを光触媒機能を持った骨材として使って、ペーストにbを混和したものが効果があると推定される。
・fは、モルタルから突出しているビーズ表面を研削等で削れば、ビーズ内部が露出して、光触媒効果が高まると推定される。
【0039】
6.高靱性セメント系複合押出成形材料(Panel)
押出成形によって作製した高靱性セメント系複合押出成形材料について、酸化チタン粉末無混和のもの(PL-Plain)、酸化チタン粉末bシリーズを外割で10%混和したもの(PL-b-10)および12.5%混和したもの(PL-b-12.5)の窒素酸化物除去性能試験結果を図14(a),(b)に示す(酸化チタン粉末の種類は表4,示方配合は表5を参照のこと)。
【0040】
【表5】

【0041】
NO除去量は、PL-b-10で90ppb、PL-b-12.5で78ppb程度と、セメントモルタルにc-シリー
ズの粉末を5%混和したCM-C-5供試体と同程度の結果を示した。また、このときの窒素酸化
物除去量としては、それぞれ44ppb、24ppb程度となった。
【0042】
これは、PL-b-10,PL-b-12.5供試体のそれぞれにおけるNO2生成量が、CM-C-5供試体のときのNO2生成量に比べて多量であったことによる。酸化チタン粉末系混和セメントモルタルは注型成形であるが、このセメントモルタルは押出成形方式で製造しており、製造方法の差異がセメントモルタルの空隙構造に影響を与え、さらに混和剤として用いているメチルセルロース系増粘剤等が酸化チタン粉末周囲に被膜を構成し、窒素酸化物除去性能を低減したことも考えられる。しかし、製造方法の影響は受けるものの、高靱性セメント系押出成形複合材料へ酸化チタン粉末を混和した場合にも、窒素酸化物除去機能を有することが明らかとなった。
【0043】
7.窒素酸化物除去性能試験における窒素酸化物の吸着と溶出
前述したJIS R 1701-1試験では、試験前後の供試体表面部の溶出試験が定められている。この規定に基づいて各供試体の前処理および後処理を行い,亜硝酸イオン:NO2-および硝酸イオン:NO3-の溶出試験を行った結果を図15に示す。ここでは、窒素酸化物量の指標としてppb濃度を用いているため、図中のNO除去量,NO2生成量およびNOx除去量は、前述した窒素酸化物除去試験から、JIS R 1701-1に規定されている算出式に基づいて求めた窒素酸化物量(μmol)をppb換算したもので表記している。また、溶出試験結果についても同様である。
【0044】
CM-b-15供試体は、酸化チタン粉末bをセメントモルタルに15%内割混和したものであり、PL-b-12.5供試体は、押出成形パネルに12.5%外割混和したものである。それぞれ50ppbおよび40ppb程度の窒素酸化物除去性能があり、55ppbおよび75ppb程度の窒素酸化物イオンの溶出が認められた。また、それぞれに含まれる酸化チタンの影響によって除去された窒素酸化物は供試体表層部あるいは内部に吸着され、除去性能試験後の溶出試験によって洗い出されたものの、洗い出された窒素酸化物イオン溶出量は、CM-b-15では除去量(窒素酸化物除去量)とほぼ同程度となり、PL-b-12.5では窒素酸化物溶出量が窒素酸化物除去量の2倍程度となる結果を示した。酸化チタン粉末を混和していないCM-Plain供試体およびPL-Plain供試体では、窒素酸化物除去量は数ppb程度であるが、窒素酸化物溶出量は両者ともに40ppb程度を示した。
【0045】
PL-Plain供試体およびPL-b-12.5供試体の試験結果を比較したとき、ともに、亜硝酸イオン溶出量は硝酸イオン溶出量より多く析出されている。また、PL-b-12.5供試体の亜硝酸イオン+硝酸イオンの溶出総量(以下,イオン溶出総量という)は、PL-Plain供試体のイオン溶出総量に酸化チタン混和による窒素酸化物除去量を加えたものに相当する。このことから、PL供試体では、酸化チタンにより分解された窒素酸化物が硬化体組織内部に吸収されることなく表面部に吸着されるにとどまり、そのほとんどは溶出試験により洗い出されることが明らかとなった。これは、PL供試体の硬化体組織が緻密であり、イオン吸着が内部まで進行しないことを示している。
【0046】
CM-Plain供試体およびCM-b-15供試体の試験結果を比較したとき、硝酸イオン溶出量は酸化チタン混和により増加しているが、亜硝酸イオン溶出量は減少している。また、イオン溶出総量は増加しているが、PL供試体の場合ほど伸びていない。このことから、CM供試体では、硬化体組織内部まで亜硝酸イオンが吸収され、溶出試験による手法のみでは表面部を洗い出すにとどまっていると考えられる。これは、CM供試体の硬化体組織が微細な連続空隙を持つことにより、イオン吸収が内部まで進行し、酸化チタンが分解した窒素酸化物により生成した亜硝酸イオンの一部が残留していることを示している。残留している亜硝酸イオンは、RC構造に本技術を応用した場合の鉄筋の防錆に効果があると考えられる。
【0047】
PCM-f-30供試体の窒素酸化物除去量は8ppb程度、溶出量は14ppb程度となり、除去性能を有するものの他の供試体に比べ小さい値を示した。これは、ポリマーで酸化チタン表面に形成されるフィルムの影響により、酸化チタンによる窒素酸化物除去量やそのときの溶出量が低下したものと考えられる。
【0048】
以上の結果から、酸化チタン混和セメント系複合材料は、図16に示すように、モルタル表層部に配置された酸化チタン粒子自体の(酸化チタン粒子の比表面積が影響を与える)光触媒性能による窒素酸化物除去性能、およびモルタル自体の細孔による吸着の影響により、窒素酸化物除去性能を現すことが明らかとなった。
【0049】
8.中間まとめ
(1)酸化チタンコントロール供試体の窒素酸化物除去性能
・粉末およびゾルタイプの酸化チタンは、全ての種類において、紫外線照射とともに、NOが350〜400ppb程度に減少し、紫外線照射中はNO除去機能を維持している。
・紫外線照射中のNO2生成量の平均値は、a-CTで約400ppb、b-CTは550ppb程度、c-CTは450ppb程度であった。従って、酸化チタン粉末粒子径の差異によるCT供試体表面の比表面積の違いは、NO除去性能およびNO2の吸着性能に影響を及ぼしている。
(2)酸化チタン粉末または酸化チタンゾル混和セメントモルタルの窒素酸化物性能
・酸化チタン粉末を混和した高強度セメントモルタルの窒素酸化物除去性能を評価するため、1000ppbのNOガスを3L/min流入し、10W/m2の紫外線を20分間照射した結果、900〜680ppb程度までNO濃度が低下する。
・酸化チタン粉末混和セメントモルタルに関し、粉末混和率が5%のときに窒素酸化物除去率は12%程度、粉末混和率30%のときには30%程度の窒素酸化物除去率を示し、粉末混和率の増加とともに窒素酸化物除去性能が向上する。
・酸化チタン粉末及びゾル混和セメントモルタルの中でaとcは、コントロール供試体の60〜70%程度の窒素酸化物除去性能を有する。一方、bはコントロール供試体よりもモルタルに混和した方が窒素酸化物除去性能が高く、モルタル基盤のNO2吸着機能が影響している。
・酸化チタン粉末混和押出成形パネルの窒素酸化物除去性能は、bシリーズの酸化チタン粉末を10%混和すると45ppb程度の窒素酸化物除去性能を示した。NO除去は90ppb程度、NO2発生量が45ppb程度であり、NO除去量が注型モルタルの1/2程度と減少した。この結果には、成形方法の差異によるモルタル表面の空隙構造が影響している。
(3)酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルの窒素酸化物除去性能
・酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルの窒素酸化物除去性能試験結果から、カーボンドープチタンを使用したfのみが、コントロール供試体においても効果が認められる。また、ルチル型酸化チタンビーズであるdシリーズおよびカーボンドープ加工のみを行ったeシリーズは光触媒効果がほとんど認められず、粉末系混和ペーストとの併用が必要である。
・カーボンドープ多孔質酸化チタンであるfシリーズについては、モルタル表層部にビーズが露出するようなモルタルの製造方法を選択することによって、7ppb程度の窒素酸化物除去性能が得られた。ここで、ポリマーフィルムは、酸化チタンによる窒素酸化物除去機能に影響を及ぼす。
【0050】
(4)モルタル表層部における炭酸カルシウムの析出の影響
養生中にセメントモルタルに析出した炭酸カルシウムは、酸化チタン混和セメントモルタルの窒素酸化物除去性能を妨げる。炭酸カルシウムが析出した場合、酸化チタン粉末の種類に関係なく、また混和率を増加させても窒素酸化物除去量は20〜50ppb程度に留まり、前処理でモルタル表層部の炭酸カルシウムを除去した場合の性能に比較し、最大で20%程度まで低下する。
(5)セメントモルタル硬化体組織が持つ窒素酸化物イオンの吸着機能
JIS R 1701:2004における窒素酸化物イオン溶出試験結果により、モルタル基盤表層部にNO2-およびNO3-として窒素酸化物が吸着されている。このことから、モルタル表層部に露出した酸化チタンは窒素酸化物除去機能を持ち、NOからNO2への酸化過程が明らかである。また、残留している亜硝酸イオンは硬化体組織の性質に影響を及ぼし、微細な空隙を持つことによりイオン吸収が内部まで進行し、酸化チタンが分解した窒素酸化物により生成した亜硝酸イオンの一部が、内部に吸収され残留している。亜硝酸イオンには鉄筋表面に不導体皮膜を作るはたらきがあるため、近年、亜硝酸カルシウム塩害防触工法として実用化されてはじめており、塩害・中性化・アルカリ骨材反応による劣化対策に効果があることが確認されており、RC構造となった場合の鉄筋の防錆に効果を発揮する。
【0051】
(数1)
2Fe2++2OH-+2NO2-→Fe2O3+H20 + 2NO
【0052】
また,本研究における予備実験では、酸化チタン混和セメントモルタル、酸化チタン混和ポーラスコンクリートおよび酸化チタン混和高靱性セメント系複合押出成形材料の3種類においてメチレンブルー試験を行っており、有機物分解機能も確認している。したがって、本研究成果において開発した酸化チタン混和セメントモルタルは、窒素酸化物除去機能や有機物分解機能および耐摩耗性や凍結融解抵抗性などの耐久機能を保有しながら,窒素酸化物除去機能の副都産物として発生した亜硝酸イオンを利用しながら自らの耐久性を高めていくことができ、知能コンクリート(インテリジェンスコンクリート)として、環境調和型コンクリート構造物分野への適用が期待できる。
また、PL供試体では硬化体組織が緻密であることから,そのほとんどは溶出試験により洗い出されており、酸化チタンにより分解された窒素酸化物イオンが硬化体組織内部に吸収されることなく表面部に吸着されるにとどまる。
【0053】
(6)モルタル表層部の酸化チタン露出面積の影響
示方配合よりモルタル中の酸化チタン粉末および酸化チタンビーズの体積割合を算出し、面積比に換算したモルタル表層部での酸化チタン露出面積と、各供試体の窒素酸化物除去量との比較検討を行った。その結果、酸化チタン粉末混和セメントモルタルのNO除去性能は、酸化チタン粉末の投影面積の増加に伴い増加し、面積比率が大きく影響する。fシリーズビーズ系混和セメントモルタルについては、酸化チタン粉末混和セメントモルタルに比較して、酸化チタンビーズの占有面積比率が非常に小さいため、窒素酸化物除去性能に影響する。
以上の結果より、上記の対象とした酸化チタン粉末およびゾルを混和したモルタルは、従来の酸化チタン塗膜等を被覆した工法と同レベルの窒素酸化物除去性能を有することから、高強度構造部材への窒素酸化物除去機能の付与が大きく期待できるものと考えられる。また、構造体組織内部に残留する亜硝酸イオンは防触工法として応用できる可能性があり、環境調和機能を持つ高度なコンクリートへの展望が期待できる。
さらに,酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルについては、適切な材料と施工方法を選定することで、窒素酸化物除去機能と耐摩耗性機能を複合させて、コンクリート部材に付与できることが明らかになった。
【0054】
8.スラント試験
スラント試験を、W/B=39.0%での無混和(Plain)および粉末a,粉末b,ゾルcをそれぞれ15%混和した4配合で行った。スラント試験より得られた破壊強度と粘着力を図17に示す。
全供試体の破壊モードは、ベースコンクリートおよびオーバーレイモルタルにほぼ損傷は見られず、付着界面での破壊となった。CM-Plain,CM-a-15,CM-b-15およびCM-c-15の破壊強度は各々、3.4N/mm2,11.2N/mm2,12.7N/mm2および11.4N/mm2を示し、酸化チタンの種類による大きな差異は認められない。しかし、酸化チタンを混和することで破壊強度は無混和セメントモルタルの3.0〜3.6倍の値を示し、付着力が増加することが明らかとなった。
【0055】
破壊後のベースコンクリートの表面を観察したところ、酸化チタン混和セメントモルタルが付着しているのが確認できた。このことから、オーバーレイモルタルに混和した酸化チタンが、ベースコンクリートとの付着面での化学的な結合に影響を及ぼしている。付着強度が飛躍的に向上することが明らかになり、酸化チタン混和セメントモルタルをセメントコンクリートに打ち継ぐ場合、打ち継ぎ界面が平滑であっても、酸化チタン無混和セメントモルタルを凹凸のある粗面に打ち継ぐ場合と同程度の付着力を有し、凹凸のある粗面に酸化チタン混和セメントモルタルを打ち継いだ場合には、モルタルの圧縮強度の65%程度の高い破壊強度を示すことが期待できる。
【0056】
スラント試験による破壊強度の最大値はオーバーレイモルタルあるいはベースコンクリートの圧縮強度のうち低い強度に支配される。オーバーレイに用いた酸化チタン混和セメントモルタルの破壊強度は60〜70N/mm2であり、ベースコンクリートの圧縮強度は84.3N/mm2である。したがって、破壊強度の最大値はオーバーレイモルタルの圧縮強度に支配され、これがスラント試験における破壊強度の最大値となる。
以上の結果より、酸化チタン混和セメントモルタルをセメントコンクリートに打ち継ぐ場合、打ち継ぎ界面が平滑であっても、酸化チタン無混和セメントモルタルを凹凸のある粗面に打ち継ぐ場合と同程度の付着力を有し、凹凸のある粗面に酸化チタン混和セメントモルタルを打ち継いだ場合には、モルタルの圧縮強度の65%程度の高い破壊強度を示すことが期待できる。
【0057】
9.チタン混和セメントモルタルの硬化収縮特性
硬化収縮ひずみおよび応力の測定は、W/B=39.0%を一定とし、無混和に加え粉末a,粉末bおよびゾルcをそれぞれ15%混和した4配合で行った。酸化チタン混和セメントモルタルの硬化収縮ひずみおよび応力の経時変化を図18(a),(b)に示す。
酸化チタン粉末aまたは粉末bを15%混和した場合、打込みから72時間後で硬化収縮ひずみは800×10-6程度,硬化収縮応力は0.15N/mm2程度となった。しかしゾルcを混和したモルタルは、硬化収縮ひずみは250×10-6程度、硬化収縮応力は0.02N/mm2程度となり、無混和セメントモルタルとほぼ同様な結果を示した。以上より、練混ぜ時に酸化チタンゾル(ゾルタイプ酸化チタン)を選定することにより、収縮量を抑制できることが明らかとなった。
酸化チタン粉末およびゾル混和セメントモルタルは、混和剤の使用量を適切に選定することにより適切な施工性と空気量を得られ、酸化チタン粉末は、シリカフュームなどの混和材料を使用した場合と、構造部材の設計・施工上でほぼ同様な取り扱いができるものと考えられ、構造部材用材料の高強度コンクリートとしての適用が可能である。
【0058】
10.摩耗試験
表6に、酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルおよびセメントコンクリートの摩耗試験終了(1000回転)時の摩耗試験質量,摩耗体積および摩耗深さの測定結果を、比較のために実施した他材料の試験結果とともに示す。さらに、各材料の摩耗体積について、図19に示す。
本章で検討対象としている酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルの摩耗体積は、30%のビーズ混和率のときに圧縮強度80N/mm2のセメントコンクリート(C-80)とほぼ同程度の摩耗体積となる。一方で、比較のために摩耗試験を行った供試体である、PCM-e-30(カーボンドープ酸化チタンビーズ:eシリーズを30%混和したもの)、PCM-f-30(カーボンドープ多孔質酸化チタンビーズ:fシリーズを30%混和したもの)、およびCM-b15-d30(セメントモルタルにb酸化チタン粉末を15%混和,骨材容積置換でdシリーズの酸化チタンビーズを30%混和したもの)の3種類のモルタルについても、PCM-d-30と同等あるいはそれ以上の耐摩耗性能を有することが明らかとなった。特にPCM-f-30およびCM-b15-d30については、窒素酸化物除去性能を有することが明らかとなっており、高い耐摩耗性能と継続的な窒素酸化物除去機能の両者を必要とする環境条件での適用が大きく期待できる。
【0059】
11.振動締固め
酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルのビーズ混和率の差異が、各振動数において供試体中のビーズ分布に与える影響について、図20〜図23に示す。
ビーズ混和率5%(PCM-b5)においては、図20に示すように、振動条件を変化させてもビーズ分布に差異は生じない。しかし、ビーズ混和率を10%以上とすると、図21に示すように、振動数50Hzおよび振動数100Hzにおいて、底面から6mm層で20〜27%のビーズ占有率となり、振動締固めを行わない場合、あるいは振動数30Hzのときのビーズ占有率5%程度から大幅に増加した。
【0060】
一方、ビーズ混和率を20%に増加させると、図22に示すように、振動締固めを行わない場合、あるいは振動数30Hzの場合においても、底面から6mmの箇所で15〜20%までビーズ占有率が増加した。さらに振動数50Hzでは、35%、振動数100Hzでは42%程度まで占有率は増加し、底面部へのビーズ集積は顕著となっている。
また、混和率30%(TB-30)の場合には、図23に示すように、他の振動数のときと比較して、底面から供試体高さ方向中心部(50mm)までのビーズ占有率が全体的に増加しており、特に底面から36mm付近から底面方向にかけて、ビーズの集積が各振動数で顕著となることが明らかとなった。
【0061】
以上の結果から、ビーズ混和率の増加は供試体底面付近でのビーズの集積に有効に作用し、適切な振動数を選定することでビーズの集積(占有率)をコントロールすることが可能であるものと考えられる。前述のように、摩耗面に14%程度のビーズ占有率があれば圧縮強度80N/mm2程度の高強度コンクリートとほぼ同程度の耐摩耗性能を有することが明らかとなっている。酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルの摩耗面と想定される表層部には、振動締固めを行ってビーズを沈下させて集積させた供試体底面を反転させて対応することが可能であると考えられる。
【0062】
供試体底面部付近(底面から6mm)におけるビーズ占有率と、ビーズ混和率との関係を図24に示す。前述した酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルの高い耐摩耗性が確保可能なビーズ占有率の値である14%以上に相当する占有率は、振動締固めなしおよび振動数30Hzの振動締固めにおいては、ビーズ混和率が20%以上必要となる。しかし、振動数50Hz以上の振動締固めでは、混和率10%でビーズ占有率は20%以上となることが明らかとなった。したがって、道路壁面や水理構造物等において、本発明に係る酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタルを、劣化したコンクリートを補修するプレキャスト部材として用いる場合、例えば、酸化チタンビーズを10%混和し,振動数50Hz以上の振動締固めを60秒間行うことで、表層部にビーズが集積し、高い耐摩耗性能を期待できることが明らかとなった。
【0063】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は、これに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で、当業者であれば適宜変更し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
かくしてこの発明の構造用光触媒混和モルタルおよびその製造方法、構造用光触媒混和コンクリートおよびその製造方法、並びに構造用光触媒混和コンクリートパネルの製造方法によれば、橋梁高欄部や導水路側面などのコンクリート部材に、光触媒機能の1つである窒素酸化物浄化機能等を付与することができ、しかもコンクリート表層部の劣化が生じても内部の光触媒粉末や酸化チタンビーズ内部が露出するので、機能保持が可能となる。さらに、コンクリート表面が滑らかなので、流路に用いた場合に流体抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例と比較例とを用いた光触媒混和モルタルのNOx除去性能試験の試験装置を示す断面図である。
【図2】上記試験の結果の酸化チタン粉末のNOx除去効果を示すグラフである。
【図3】上記試験の結果の酸化チタンビーズのNOx除去効果を示すグラフである。
【図4】上記試験の結果の酸化チタン原料のNOx除去効果の比較を示すグラフである。
【図5】上記試験の結果の酸化チタン粉末混和セメントモルタルaシリーズのNOx除去効果を示すグラフである。
【図6】上記試験の結果の酸化チタン粉末混和セメントモルタルbシリーズのNOx除去効果を示すグラフである。
【図7】上記試験の結果の酸化チタン粉末(ゾル)混和セメントモルタルcシリーズのNOx除去効果を示すグラフである。
【図8】上記試験の結果の酸化チタン粉末混和セメントモルタルの混和率とNO除去量との関係を示すグラフである。
【図9】上記試験の結果の酸化チタン粉末混和セメントモルタルの混和率とNO生成量との関係を示すグラフである。
【図10】上記試験の結果の酸化チタン粉末混和セメントモルタルの混和率とNOx除去量との関係を示すグラフである。
【図11】上記試験の結果の酸化チタン粉末(ゾル)混和セメントモルタルの洗浄の影響を示すグラフである。
【図12】上記試験の結果の酸化チタンビーズ混和セメントモルタルのNOx除去効果を示すグラフである。
【図13】上記試験の結果の酸化チタン粉末および酸化チタンビーズ混和セメントモルタルのNOx除去効果を示すグラフである。
【図14】上記試験の結果の酸化チタン粉末混和セメント系押出成型材料の窒素酸化物除去効果を示すグラフである。
【図15】窒素酸化物除去性能試験における窒素酸化物除去量と供試体からの窒素酸化物溶出量を示すグラフである。
【図16】NO酸化とNO吸着の作用を示す概念図である。
【図17】スラント試験における破壊強度を示すグラフである。
【図18】(a)は、硬化収縮歪みの経時変化を示すグラフ、(b)は、硬化収縮応力の経時変化を示すグラフである。
【図19】酸化チタンビーズ混和ポリマーセメントモルタル、セメントコンクリート等の磨耗体積を比較したグラフである。
【図20】供試体(PCM-d5)中のビーズ分布を示すグラフである。
【図21】供試体(PCM-d10)中のビーズ分布を示すグラフである。
【図22】供試体(PCM-d20)中のビーズ分布を示すグラフである。
【図23】供試体(PCM-d30)中のビーズ分布を示すグラフである。
【図24】振動数と各供試体の底面付近のビーズ占有率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部を酸化チタンで置換されたセメントモルタルと、細骨材とを混和させてなる構造用光触媒混和モルタル。
【請求項2】
前記酸化チタンはアナターゼ型酸化チタン粉末からなり、前記セメントモルタルへセメント重量置換として5%〜30%混和されていることを特徴とする請求項1記載の構造用光触媒混和モルタル。
【請求項3】
酸化チタンをセメント重量置換により混和したセメントモルタルと、少なくとも一部を酸化チタンビーズで置換された細骨材とを混和させ、硬化状態でモルタル表面を削ってセメントマトリクス中の酸化チタン及び酸化チタンビーズを露出させてなる構造用光触媒混和モルタル。
【請求項4】
前記酸化チタンビーズは、アナターゼ型酸化チタンの2次粒子または、多孔質チタンの表面にカーボンをドープして光触媒活性を付与したビーズであることを特徴とする請求項1記載の構造用光触媒混和モルタル。
【請求項5】
前記アナターゼ型酸化チタン粉末を、あらかじめ水中に分散させたゾルタイプとして、前記セメントモルタルへセメント重量置換として酸化チタンのみが重量の対象で5%〜30%混和することを特徴とする請求項1記載の構造用光触媒混和モルタルの製造方法。
【請求項6】
一部を酸化チタンで置換されたセメントモルタルと、細骨材と、粗骨材とを混和させてなる構造用光触媒混和コンクリート。
【請求項7】
請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて、練り混ぜ方式によりポーラスコンクリートを形成することを特徴とする構造用光触媒混和コンクリートの製造方法。
【請求項8】
請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを用いて、注型成形により高靭性コンクリートパネルを形成するか、または押出成形によりコンクリートパネルを形成することを特徴とする構造用光触媒混和コンクリートパネルの製造方法。
【請求項9】
請求項3または4記載の光触媒混和モルタルを型に流し込み、振動締め固めを行って酸化チタンビーズを下面に集めて、その下面をパネル表面とすることを特徴とする構造用光触媒混和コンクリートパネルの製造方法。
【請求項10】
請求項1から4までの何れか記載の構造用光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて形成したポーラスコンクリートであって、
セメントモルタルの構造体組織中にある微細孔で、酸化チタンが光触媒機能により一酸化窒素除去性能を発揮する際に発生する二酸化窒素を吸着することにより、原材料よりも高い窒素酸化物除去性能を発揮することを特徴とする構造用光触媒混和コンクリート。
【請求項11】
請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて形成したコンクリートであって、
表層部の劣化に伴い常に新たな光触媒活性材料を露出させ,継続的に光触媒機能を保持することを特徴とする構造用光触媒混和コンクリート。
【請求項12】
請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルを骨材のバインダーとして用いて形成したコンクリートであって、
酸化チタンが光触媒機能により窒素酸化物を分解除去する際に発生する亜硝酸イオンの一部をコンクリート内に吸収・残留させ、そのコンクリート内の鉄筋表面に不導体皮膜を形成することを特徴とする構造用光触媒混和コンクリート。
【請求項13】
請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルをコンクリート同士の打ち継ぎ部に用いて、その打ち継ぎ部の接着強度を高めたことを特徴とする構造用光触媒混和コンクリート。
【請求項14】
請求項1から4までの何れか記載の光触媒混和モルタルにポリマーを混和したものを骨材のバインダーとして用いて形成したコンクリートであって、
前記ポリマーの混和量を調整することにより光触媒活性をコントロールすることを特徴とする構造用光触媒混和コンクリート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−94709(P2008−94709A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236038(P2007−236038)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月6日 国立大学秋田大学内公聴会で博士論文公表
【出願人】(591211917)川田建設株式会社 (18)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】