説明

標本観察条件演算装置およびこれを備える顕微鏡システム

【課題】使用者に演算の手間をかけることなく、標本のCARS観察に必要な観察条件を自動的に演算できる標本観察条件演算装置を提供する。
【解決手段】CARS顕微鏡により標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置10であって、標本の分子振動情報を含む標本情報を入力する入力部11と、標本からCARS光を発生させるための振動数の異なる第1パルスレーザ光または第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部12と、入力部11から入力された標本情報および記憶部12に記憶されている振動数または波長に関する情報に基づいて、CARS顕微鏡により標本を観察する際の観察条件を演算する演算部13と、演算部13で演算された観察条件を出力する出力部14と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により標本を観察するための観察条件を出力する標本観察条件演算装置、およびこれを備える顕微鏡システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質やDNA等の生体分子の機能解明等に利用可能な顕微鏡として、これらの分子を非染色で3次元的に観察可能な、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡(以下、適宜「CARS顕微鏡」と略称する)が知られている。
【0003】
このCARS顕微鏡は、3次の非線形光学過程の1つであるコヒーレントアンチストークスラマン散乱過程(以下、適宜「CARS散乱過程」と略称する)により発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光(以下、適宜「CARS光」と略称する)を計測するものである。
【0004】
図7は、CARS光の発生原理を説明するCARS散乱過程のエネルギーダイアグラムである。CARS散乱過程では、観察対象である標本に、振動数ωの第1パルスレーザ光と、振動数ωの第2パルスレーザ光とを照射すると、これら2つの入射光の振動数差(ω−ω)が、標本の分子振動数ωと一致したときに、基底状態にある分子が振動数ωで共鳴振動を起こして励起状態となる。これにより、振動数ωの第1パルスレーザ光の一部が、この分子振動数ωに相当するドップラー変調を受けて、振動数ωASのCARS光が発生する。このとき、上記の各振動数の間には、次の(1)式が成立する。
ωAS=ω+ω=2ω−ω ・・・(1)
【0005】
上記のように、CARS散乱過程では、標本の分子振動数ωに対応する振動数差を有する第1パルスレーザ光および第2パルスレーザ光の2つのコヒーレントアンチストークスラマン散乱励起光(以下、適宜「CARS励起光」と略称する)を用いる。このため、CARS顕微鏡を用いて標本の観察を行うには、予め標本の分子振動数ωを知る必要がある。この標本の分子振動数ωは、ラマン散乱顕微鏡を用いて取得することができる。
【0006】
図8は、標本の分子振動数ωを取得する際のラマン散乱過程のエネルギーダイアグラムである。ラマン散乱過程では、標本に振動数ωのラマン散乱励起光を照射すると、標本を構成する分子・原子とラマン散乱励起光との間で、エネルギーの授受が行われる。これにより、標本からは、当該標本の分子振動数ωを反映した、ラマン散乱励起光とは異なる振動数(ω−ω)を有するラマン散乱光が発生する。したがって、このラマン散乱光とラマン散乱励起光との振動数差を演算することにより、標本の分子振動数ωを取得することができる。
【0007】
ここで、標本には、通常、多くの原子、分子が含まれている。このため、図9に分子のエネルギーダイアグラムを示すように、例えば、電子の基底準位Sと第1電子励起準位Sとの間には、複数の分子振動準位Sが存在することになる。したがって、図8において、標本から発生するラマン散乱光を、分光器もしくは干渉計を用いて検出すると、例えば、図10に示すようなラマン散乱スペクトルが得られる。
【0008】
図10に示すラマン散乱スペクトルにおいて、ラマン散乱光強度のピークが得られる振動数は、標本の分子振動情報を反映していると考えられる。CARS分析では、このようにして得られたラマン散乱スペクトルの中から、観察対象の分子振動数ωを決定するようにしている。
【0009】
以上の原理に基づくCARS顕微鏡として、例えば、振動数(波長)の異なる2つのCARS励起光を空間的に同軸に合成してダイクロイックミラーで反射させた後、CARS顕微鏡対物レンズにより標本に集光し、その透過側に発生するCARS光を、集光レンズを経てフィルタにより抽出して検出器で検出し、反射側(落射側)に発生するCARS光を、CARS顕微鏡対物レンズを経てダイクロイックミラーを透過させて、接眼レンズまたはカメラに導くようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
【特許文献1】特表2002−520612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した構成を有するCARS顕微鏡を用いてCARS光を観察するには、2つのCARS励起光の振動数差が、観察する分子の振動数ωと一致するように、少なくとも一方のCARS励起光の振動数(波長)を調整する必要があり、また、必要に応じて、分子振動数ωのスペクトル強度に応じて少なくとも一方のCARS励起光のパルス幅を設定する必要がある。
【0012】
また、透過側に配置するCARS光を抽出するためのフィルタ、および、落射側に配置するCARS励起光とCARS光とを分離するダイクロイックミラーの波長選択素子についても、上記(1)式により算出される振動数ωASのCARS光を透過する分光特性を有するものをセットする必要がある。
【0013】
しかしながら、従来のCARS顕微鏡においては、観察対象の分子振動数に応じて、その都度、顕微鏡使用者において、CARS励起光の振動数を演算するようにして、CARS励起光の振動数を調整している。また、CARS光を抽出する波長選択素子についても、観察対象の分子振動数に応じて、その都度、顕微鏡使用者において算出したCARS光の振動数に応じた所要の分光特性を有するものを、手作業でセットするようにしている。
【0014】
このため、所望の分子振動数を有するCARS光を観察するに際して、CARS励起光の振動数、パルス幅、CARS光の振動数、波長選択素子の分光特性等、の観察条件の演算・設定に、使用者の手間がかかることが懸念される。また、観察条件が適切に設定されないと、標本のCARS光を観察できない場合もあり、このような場合には、観察できない原因が、観察条件の演算・設定に誤りがあるのか、それ以外にあるのかを検証するために、観察条件が適切であったかどうかを再度検証する必要があり、非常に手間がかかり、CARS観察を効率よく行うことができなくなる。
【0015】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の第1の目的は、使用者に演算の手間をかけることなく、標本のCARS観察に必要な観察条件を自動的に演算できる標本観察条件演算装置、およびこれを備える顕微鏡システムを提供することにある。
【0016】
さらに、本発明の第2の目的は、使用者に演算および設定の手間をかけることなく、標本のCARS観察を効率よく行うことができる標本観察条件演算装置を備える顕微鏡システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記第1の目的を達成する請求項1に係る発明は、コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置であって、
前記標本の分子振動情報を含む標本情報を入力する入力部と、
前記標本からコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるための振動数の異なる第1パルスレーザ光または第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、
を有することを特徴とするものである。
【0018】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の標本観察条件演算装置において、
前記演算部は、前記観察条件として、前記第2パルスレーザ光または前記第1パルスレーザ光の振動数または波長を演算することを特徴とするものである。
【0019】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の標本観察条件演算装置において、
前記演算部は、前記観察条件として、前記標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の振動数または波長を演算することを特徴とするものである。
【0020】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の標本観察条件演算装置において、
前記演算部は、前記観察条件として、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡に設けられるコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するための波長選択素子の分光特性を演算することを特徴とするものである。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の標本観察条件演算装置において、
前記演算部は、前記観察条件として、前記第1パルスレーザ光および/または前記第2パルスレーザ光のパルス幅を演算することを特徴とするものである。
【0022】
さらに、上記第1の目的を達成する請求項6に係る顕微鏡システムの発明は、
標本にラマン散乱励起光を照射して、該標本の分子振動情報を検出するラマン散乱顕微鏡と、
コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置と、を具備し、
前記標本観察条件演算装置は、
前記ラマン散乱顕微鏡で検出される前記分子振動情報を入力する入力部と、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡によりコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるための振動数の異なる第1パルスレーザ光または第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、
を有することを特徴とするものである。
【0023】
さらに、上記第2の目的を達成する請求項7に係る顕微鏡システムの発明は、
振動数の異なる第1パルスレーザ光および第2パルスレーザ光を標本に照射して、該標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡と、
該コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置と、を具備し、
前記標本観察条件演算装置は、
前記標本の分子振動情報を含む標本情報を入力する入力部と、
前記第1パルスレーザ光または前記第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、を有し、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡は、
前記標本観察条件演算装置から出力される前記観察条件に基づいて、前記標本を観察するための観察条件を自動的に設定する観察条件設定手段を有する、
ことを特徴とするものである。
【0024】
さらに、上記第2の目的を達成する請求項8に係る顕微鏡システムの発明は、
振動数の異なる第1パルスレーザ光および第2パルスレーザ光を前記標本に照射して、該標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部と、前記標本にラマン散乱励起光を照射して、該標本の分子振動情報を検出するラマン散乱顕微鏡部と、を有するコヒーレントアンチストークスラマン散乱・ラマン散乱顕微鏡と、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部により前記標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置と、を具備し、
前記標本観察条件演算装置は、
前記ラマン散乱顕微鏡部で検出される前記標本の分子振動情報を含む標本情報を入力する入力部と、
前記第1パルスレーザ光または前記第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、を有し、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部は、
前記標本観察条件演算装置から出力される前記観察条件に基づいて、前記標本を観察するための観察条件を自動的に設定する観察条件設定手段を有する、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、CARS顕微鏡で観察する標本について、その分子振動情報を含む標本情報を入力することにより、該標本情報と予め記憶した第1パルスレーザ光または第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報とに基づいて、CARS顕微鏡の観察条件を自動的に演算して出力するようにしたので、使用者に手間をかけることなく、標本のCARS観察に必要な観察条件を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明によれば、標本観察条件演算装置により標本のCARS観察に必要な観察条件を自動的に演算し、その演算結果に基づいてCARS顕微鏡の観察条件を自動的に設定するようにしたので、使用者に演算および設定の手間をかけることなく、標本のCARS観察を効率よく行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
【0028】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る標本観察条件演算装置の要部の構成を示すブロック図である。この標本観察条件演算装置10は、入力部11、記憶部12、演算部13および出力部14を有する。入力部11には、観察すべき標本について、予めラマン散乱顕微鏡で検出した分子振動情報を含む標本情報を、例えばキーボード等を介して入力する。また、記憶部12には、観察すべき標本からCARS光を発生させるために、CARS顕微鏡で使用する振動数の異なる第1パルスレーザ光または第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する。ここでは、説明の便宜上、記憶部12に第1パルスレーザ光の振動数ωを記憶するものとする。
【0029】
演算部13は、入力部11に入力された標本情報、および記憶部12に記憶されている第1パルスレーザ光の振動数ωに基づいて、観察すべき標本の観察条件を演算する。また、出力部14は、演算部13で演算された観察条件を出力するもので、例えば、表示装置やプリンタを有して構成する。
【0030】
本実施の形態の標本観察条件演算装置10は、図2に示す構成のCARS顕微鏡20により標本を観察する場合の観察条件を演算するものとする。図2に示すCARS顕微鏡20は、振動数ωの第1パルスレーザ光と、振動数ωの第2パルスレーザ光との2つのCARS励起光を、ハーフミラー21で空間的に同軸に合成してダイクロイックミラー22に入射させ、ここでCARS励起光を反射させた後、ガルバノスキャナ23およびレンズ24を経て観察すべき標本25に集光させるように構成されている。
【0031】
また、CARS励起光の照射によって標本25から透過側に発生するCARS光は、レンズ26およびバンドパスフィルタ27を経て検出器28で検出するように構成され、落射側に発生するCARS光は、レンズ24およびガルバノスキャナ23を経てダイクロイックミラー22に入射させ、ここでCARS光を透過させた後、さらに、バンドパスフィルタ29を経て検出器30で検出するように構成されている。
【0032】
なお、図2に示すCARS顕微鏡20は、図示しないが、振動数ωおよびωの2つのCARS励起光を、それぞれ独立したレーザ光源から得るか、あるいは、1つのレーザ光源からのレーザ光を2分割し、その一方を振動数ωの第1パルスレーザ光とし、他方を波長変換して振動数ωの第2パルスレーザ光として得るように構成されているとともに、何れの場合においても、振動数ωは調整可能となっている。また、ダイクロイックミラー22およびバンドパスフィルタ27,29は、それぞれ所望の特性のものを光路中に配置可能となっている。
【0033】
このため、本実施の形態の標本観察条件演算装置10では、観察すべき標本25の標本情報として、当該標本25について予めラマン散乱顕微鏡で検出した分子振動数ωを入力部11に入力することにより、その入力された分子振動数ωと、記憶部12に記憶されている第1パルスレーザ光の振動数ωとに基づいて、演算部13において、第2パルスレーザ光の振動数ω、ダイクロイックミラー22およびバンドパスフィルタ27,29の分光特性を演算し、その演算結果を出力部14に出力する。
【0034】
すなわち、演算部13では、上記(1)に基づいて、ωAS=ω+ω、により発生するCARS光の振動数ωASを演算するとともに、ω=ω−ω、により第2パルスレーザ光の振動数ωを演算する。また、演算した第2パルスレーザ光の振動数ωおよびCARS光の振動数ωASと、記憶部12に記憶されている第1パルスレーザ光の振動数ωとに基づいて、波長選択素子であるダイクロイックミラー22およびバンドパスフィルタ27,29の分光特性を演算する。
【0035】
ここで、ダイクロイックミラー22の分光特性としては、例えば、図3(a)に示すように、振動数ωの第1パルスレーザ光および振動数ωの第2パルスレーザ光は反射し、かつ、振動数ωASのCARS光は透過させる、反射下限波長および透過上限波長である境界波長を演算する。また、バンドパスフィルタ27,29の分光特性としては、例えば、図3(b)に示すように、振動数ωの第1パルスレーザ光および振動数ωの第2パルスレーザ光は反射または吸収し、かつ、振動数ωASのCARS光を含む所定波長範囲の光は透過させる透過波長帯域を演算する。このように演算部13で演算した第2パルスレーザ光の振動数ω、ダイクロイックミラー22およびバンドパスフィルタ27,29の分光特性は、出力部14に出力する。
【0036】
本実施の形態の標本観察条件演算装置10によれば、CARS顕微鏡20で観察する標本25について、予めラマン散乱顕微鏡で検出した分子振動数ωを入力部11に入力するだけで、分子振動数ωに対応する観察条件である、第2パルスレーザ光の振動数ω、ダイクロイックミラー22およびバンドパスフィルタ27,29の分光特性を、演算部13において自動的に演算して出力部14に出力することができる。
【0037】
したがって、CARS顕微鏡20の使用者による演算の手間を省くことができる。また、出力部14に出力される演算結果に基づいて、第2パルスレーザ光を適切な振動数ωに容易に調整できるとともに、ダイクロイックミラー22およびバンドパスフィルタ27,29として、適切な分光特性を有するものを容易にセットできるので、観察条件の設定の手間を省くことが可能となる。
【0038】
(第2実施の形態)
図4は、本発明の第2実施の形態に係る顕微鏡システムの要部の構成を示す図である。この顕微鏡システムは、標本にラマン散乱励起光を照射して、該標本の分子振動情報を検出するラマン散乱顕微鏡40と、図1に示した標本観察条件演算装置10と同様の構成からなる標本観察条件演算装置50とを具備する。
【0039】
ラマン散乱顕微鏡40は、図示しないレーザ光源から振動数ωのラマン散乱励起光をダイクロイックミラー41に入射させ、ここでラマン散乱励起光を反射させた後、レンズ42により観察すべき標本43に集光させるように構成する。また、ラマン散乱励起光の照射によって標本43から発生するラマン散乱光は、レンズ42を経てダイクロイックミラー41に入射させ、ここでラマン散乱光を透過させた後、さらに、バンドパスフィルタ44を経て分光検出器45で検出するように構成する。バンドパスフィルタ44は、回動可能なターンテーブル46の周縁に保持する。このターンテーブル46には、その周縁の同一円周上に、分光特性(透過波長帯域)の異なる複数のバンドパスフィルタ44を保持し、使用するラマン散乱励起光の振動数ωおよび検出するラマン散乱光の帯域に応じて、適切な分光特性を有するバンドパスフィルタ44を光路上に位置決めすることにより、分光検出器45において、図10に示したようなラマン散乱スペクトルを検出するように構成する。
【0040】
一方、標本観察条件演算装置50は、図1に示した標本観察条件演算装置10と同様に、入力部51、記憶部52、演算部53および出力部54を有して構成する。本実施の形態では、入力部51にラマン散乱顕微鏡40との通信インターフェースを設けて、ラマン散乱顕微鏡40の分光検出器45で検出した標本43のラマン散乱スペクトルの情報を、ラマン散乱顕微鏡40に設けた制御部47の制御により、入力部51に直接入力する。また、記憶部52には、第1実施の形態の場合と同様に、標本43のCARS光を観察する、図2に示したCARS顕微鏡20で使用する第1パルスレーザ光の振動数ωを記憶する。
【0041】
演算部53は、入力部51に入力されたラマン散乱スペクトルと、記憶部52に記憶されている図2に示したCARS顕微鏡20で使用する第1パルスレーザ光の振動数ωとに基づいて、所要の分子振動数に対して、第1実施の形態と同様に、図2に示したCARS顕微鏡20で使用する第2パルスレーザ光の振動数ω、ダイクロイックミラー22およびバンドパスフィルタ27,29の分光特性を演算し、その演算結果を出力部54に出力する。
【0042】
さらに、本実施の形態では、入力部51に、ラマン散乱顕微鏡40の分光検出器45で検出されたラマン散乱スペクトルの情報を入力するので、演算部53では、所要の分子振動数におけるスペクトル強度に基づいて、当該分子振動数における観察条件として、振動数ωの第1パルスレーザ光および/または振動数ωの第2パルスレーザ光のパルス幅を演算して、出力部54に出力する。ここで、パルス幅は、例えば、当該分子振動数におけるスペクトル強度の半値幅として演算する。
【0043】
このように、本実施の形態では、ラマン散乱顕微鏡40に標本観察条件演算装置50を結合し、ラマン散乱顕微鏡40で検出した標本43のラマン散乱スペクトルの情報を、ラマン散乱顕微鏡40から標本観察条件演算装置50の入力部51に直接入力するようにして、標本43をCARS顕微鏡20で観察する場合の観察条件を演算するようにしたので、第1実施の形態におけるよりも入力手間を省くことができるとともに、入力ミスの発生も防止することができる。また、本実施の形態では、ラマン散乱スペクトルに基づいて、CARS顕微鏡20で使用する第1パルスレーザ光および/または第2パルスレーザ光のパルス幅も演算して出力するようにしたので、CARS顕微鏡20のCARS励起光を、標本43に応じて、より適切に設定することができる。
【0044】
(第3実施の形態)
図5は、本発明の第3実施の形態に係る顕微鏡システムの要部の構成を示す図である。この顕微鏡システムは、CARS顕微鏡60と、図1に示した標本観察条件演算装置10と同様の構成からなる標本観察条件演算装置80とを具備する。
【0045】
CARS顕微鏡60は、図2に示したCARS顕微鏡20と同様に、振動数ωの第1パルスレーザ光と、振動数ωの第2パルスレーザ光との2つのCARS励起光を、ハーフミラー61で空間的に同軸に合成するように構成する。ハーフミラー61を経たCARS励起光は、ダイクロイックミラー62に入射させ、ここでCARS励起光を反射させた後、ガルバノスキャナ63およびレンズ64を経て観察すべき標本65に集光させるように構成する。
【0046】
また、CARS励起光の照射によって標本65から透過側に発生するCARS光は、レンズ66およびバンドパスフィルタ67を経て検出器68で検出するように構成し、落射側に発生するCARS光は、レンズ64およびガルバノスキャナ63を経てダイクロイックミラー62に入射させ、ここでCARS光を透過させた後、さらに、バンドパスフィルタ69を経て検出器70で検出するように構成する。
【0047】
本実施の形態では、ダイクロイックミラー62を、回動可能なターンテーブル71の周縁に保持する。このターンテーブル71には、その周縁の同一円周上に、分光特性の異なる複数のダイクロイックミラー62を保持し、設定部72によりターンテーブル71の回動を制御することにより、所望の分光特性、すなわちCARS励起光は反射させ、CARS光は透過させる分光特性を有するダイクロイックミラー62を光路上に位置決めするように構成する。
【0048】
また、バンドパスフィルタ67は、ダイクロイックミラー62と同様に、回動可能なターンテーブル73の周縁の同一円周上に、分光特性(透過波長帯域)の異なるものを複数個保持し、設定部72によりターンテーブル73の回動を制御することにより、所望の分光特性、すなわちCARS励起光は反射または吸収し、CARS光は透過させる分光特性を有するバンドパスフィルタ67を光路上に位置決めするように構成する。
【0049】
同様に、バンドパスフィルタ69についても、回動可能なターンテーブル74の周縁の同一円周上に、分光特性(透過波長帯域)の異なるものを複数個保持し、設定部72によりターンテーブル74の回動を制御することにより、所望の分光特性、すなわちCARS励起光は反射または吸収し、CARS光は透過させる分光特性を有するバンドパスフィルタ69を光路上に位置決めするように構成する。
【0050】
一方、標本観察条件演算装置80は、図1に示した標本観察条件演算装置10と同様に、入力部81、記憶部82、演算部83および出力部84を有して構成し、入力部81には、CARS顕微鏡60で観察する標本65について、予めラマン散乱顕微鏡で検出した分子振動情報を含む標本情報を入力し、記憶部82には、CARS顕微鏡60で使用する第1パルスレーザ光の振動数ωを記憶する。
【0051】
演算部83は、入力部81に入力された観察する標本65の分子振動情報を含む標本情報と、記憶部82に記憶されているCARS顕微鏡60で使用する第1パルスレーザ光の振動数ωとに基づいて、所要の分子振動数に対して、第1実施の形態と同様にして、CARS顕微鏡60で使用する第2パルスレーザ光の振動数ω、ダイクロイックミラー62およびバンドパスフィルタ67,69の分光特性を演算し、その結果を出力部84に出力する。本実施の形態では、出力部84にCARS顕微鏡60との通信インターフェースを設けて、演算部83での演算結果を、出力部84からCARS顕微鏡60に直接供給するようにする。
【0052】
本実施の形態の顕微鏡システムでは、CARS顕微鏡60による標本65の観察に先立って、標本観察条件演算装置80の入力部81に、予めラマン散乱顕微鏡で検出した標本65の分子振動情報を含む標本情報を入力して、CARS顕微鏡60による標本65の観察条件を演算する。その後、標本観察条件演算装置80での演算結果を、出力部84からCARS顕微鏡60の設定部72に直接供給して、設定部72により、所望の分光特性を有するダイクロイックミラー62が光路上に位置するように、ターンテーブル71の回動を制御するとともに、所望の分光特性を有するバンドパスフィルタ67,69がそれぞれ光路上に位置するように、ターンテーブル73,74の回動を制御する。また、図示しないが、第2パルスレーザ光の振動数ωが演算された振動数となるように、設定部72により制御する。
【0053】
以上の観察条件の設定が完了したら、CARS顕微鏡60による標本65の観察を開始する。したがって、本実施の形態では、ターンテーブル71,73,74および設定部72を含んで、観察条件設定手段を構成している。
【0054】
このように、本実施の形態では、CARS顕微鏡60に標本観察条件演算装置80を結合し、CARS顕微鏡60で観察する標本65について、予めラマン散乱顕微鏡で検出した分子振動情報を含む標本情報を標本観察条件演算装置80に入力することにより、CARS顕微鏡60による標本65の観察条件を演算し、その演算結果をCARS顕微鏡60に直接出力して、CARS顕微鏡60の観察条件設定手段を介して、第2パルスレーザ光の振動数ωを自動的に制御するとともに、所要の分光特性を有するダイクロイックミラー62およびバンドパスフィルタ67,69を自動的に選択して、観察条件を自動的に設定するようにしたので、使用者による観察条件の演算や設定の手間を省くことができるとともに、演算結果に基づいて観察条件を誤りなく設定することができる。
【0055】
(第4実施の形態)
図6は、本発明の第4実施の形態に係る顕微鏡システムの要部の構成を示す図である。本実施の形態の顕微鏡システムは、第2実施の形態と第3実施の形態とを組み合わせたもので、CARS顕微鏡部およびラマン散乱顕微鏡部を有するCARS・ラマン散乱顕微鏡90と、図1に示した標本観察条件演算装置10と同様の構成からなる標本観察条件演算装置110とを具備する。
【0056】
CARS・ラマン散乱顕微鏡90において、CARS顕微鏡部は、固定の振動数ωの第1パルスレーザ光と、可変の振動数ωの第2パルスレーザ光との2つのCARS励起光を空間的の同軸に合成して出射するCARS光源部91を有する。このCARS光源部91から出射されるCARS励起光は、ハーフミラー92を経てダイクロイックミラー93に入射させて、該ダイクロイックミラー93で反射させた後、ガルバノスキャナ94およびレンズ95を経て標本96に集光し、その透過側に発生するCARS光をレンズ97およびバンドパスフィルタ98を経てCARS光検出器99で検出するように構成する。
【0057】
また、ラマン散乱顕微鏡部は、振動数ωのラマン散乱励起光を出射するラマン散乱光源部101を有する。このラマン散乱光源部101から出射されるラマン散乱励起光は、反射ミラー102で反射させた後、ハーフミラー92で反射させて、CARS励起光と同じ光路を経てダイクロイックミラー93に入射させて反射させ、さらに、ガルバノスキャナ94およびレンズ95を経て標本96に集光させるように構成する。なお、この際、ラマン散乱励起光は、必ずしもガルバノスキャナ94で走査する必要はない。また、ラマン散乱励起光の照射により、標本96から落射側に発生するラマン散乱光は、レンズ95およびガルバノスキャナ94を経てダイクロイックミラー93に入射させて、該ダイクロイックミラー93を透過させた後、バンドパスフィルタ103を経て分光検出器104で受光して、図10に示したようなラマン散乱スペクトルを検出するように構成する。
【0058】
ここで、ダイクロイックミラー93は、回動可能なターンテーブル105の周縁に保持する。このターンテーブル105には、その周縁の同一円周上に、分光特性の異なる複数のダイクロイックミラー93を保持し、設定部106によりターンテーブル105の回動を制御することにより、所望の分光特性、すなわちCARS励起光やラマン散乱励起光は反射させ、ラマン散乱光は透過させる分光特性を有するダイクロイックミラー93を光路上に位置決めするように構成する。
【0059】
また、バンドパスフィルタ98は、ダイクロイックミラー93と同様に、回動可能なターンテーブル107の周縁の同一円周上に、分光特性(透過波長帯域)の異なるものを複数個保持し、設定部106によりターンテーブル107の回動を制御することにより、所望の分光特性、すなわちCARS励起光は反射または吸収し、CARS光は透過させる分光特性を有するバンドパスフィルタ98を光路上に位置決めするように構成する。
【0060】
同様に、バンドパスフィルタ103についても、回動可能なターンテーブル108の周縁の同一円周上に、分光特性(透過波長帯域)の異なるものを複数個保持し、設定部106によりターンテーブル108の回動を制御することにより、所望の分光特性、すなわちラマン散乱励起光は反射または吸収し、ラマン散乱光は透過させる分光特性を有するバンドパスフィルタ103を光路上に位置決めするように構成する。
【0061】
一方、標本観察条件演算装置110は、図1に示した標本観察条件演算装置10と同様に、入力部111、記憶部112、演算部113および出力部114を有して構成する。本実施の形態では、入力部111にCARS・ラマン散乱顕微鏡90との通信インターフェースを設けて、CARS・ラマン散乱顕微鏡90の分光検出器104で検出した標本96のラマン散乱スペクトルの情報を、CARS・ラマン散乱顕微鏡90に設けた制御部109の制御により、入力部111に直接入力する。また、記憶部112には、第1実施の形態の場合と同様に、標本96のCARS光を観察するCARS顕微鏡部を構成するCARS光源部91における第1パルスレーザ光の振動数ωを記憶する。
【0062】
演算部113は、入力部111に入力された標本96の分子振動情報を含む標本情報と、記憶部112に記憶されている第1パルスレーザ光の振動数ωとに基づいて、所要の分子振動数に対して、第1実施の形態と同様にして、CARS顕微鏡部における観察条件を演算し、その結果を出力部114に出力する。また、出力部114には、CARS・ラマン散乱顕微鏡90との通信インターフェースを設けて、演算部113での演算結果を、出力部114からCARS・ラマン散乱顕微鏡90に直接供給するようにする。
【0063】
本実施の形態に係る顕微鏡システムでは、先ず、CARS・ラマン散乱顕微鏡90のラマン散乱顕微鏡部により標本96のラマン散乱スペクトルを検出する。このラマン散乱スペクトルの検出においては、ラマン散乱光源部101からラマン散乱励起光を出射させ、そのラマン散乱励起光を反射ミラー102、ハーフミラー92、ダイクロイックミラー93、ガルバノスキャナ94およびレンズ95を経て標本96に集光させ、これにより標本96から落射側に発生するラマン散乱光を、レンズ95、ガルバノスキャナ94、ダイクロイックミラー93およびバンドパスフィルタ103を経て、分光検出器104で受光する。なお、ダイクロイックミラー93およびバンドパスフィルタ103は、ラマン散乱スペクトルの検出に先立って、設定部106によりターンテーブル105,108を回動させて、使用するラマン散乱励起光の振動数ωおよび検出するラマン散乱光の帯域に応じた適切な分光特性を有するものを光路上に位置決めする。
【0064】
以上により、分光検出器104において、標本96のラマン散乱スペクトルを検出したら、その検出したラマン散乱スペクトルの情報を、第2実施の形態の場合と同様に、制御部109の制御により、標本観察条件演算装置110の入力部111に直接入力して、標本96をCARS顕微鏡部で観察する場合の観察条件を演算する。
【0065】
すなわち、標本観察条件演算装置110では、演算部113において、入力部111に入力されたラマン散乱スペクトルと、記憶部112に記憶されているCARS光源部91から出射する第1パルスレーザ光の振動数ωとに基づいて、所要の分子振動数に対して、CARS光源部91から出射する第2パルスレーザ光の振動数ω、ダイクロイックミラー93およびバンドパスフィルタ98の分光特性を演算し、その演算結果を出力部114に出力する。また、演算部113では、所要の分子振動数におけるスペクトル強度に基づいて、当該分子振動数における観察条件として、振動数ωの第1パルスレーザ光および/または振動数ωの第2パルスレーザ光のパルス幅を演算して、出力部114に出力する。
【0066】
その後、CARS顕微鏡部による標本96の観察に先立って、第3実施の形態の場合と同様に、標本観察条件演算装置110での演算結果を、出力部114からCARS・ラマン散乱顕微鏡90の設定部106に直接供給して、設定部106により、所望の分光特性を有するダイクロイックミラー93が光路上に位置するように、ターンテーブル105の回動を制御するとともに、所望の分光特性を有するバンドパスフィルタ98が光路上に位置するように、ターンテーブル107の回動を制御する。また、図示しないが、第2パルスレーザ光の振動数ωが演算された振動数となり、かつ、第1パルスレーザ光および/または第2パルスレーザ光のパルス幅が演算されたパルス幅となるように、設定部106によりCARS光源部91を制御する。
【0067】
以上の観察条件の設定が完了したら、CARS光源部91から第1パルスレーザ光および第2パルスレーザ光を出射させて、CARS顕微鏡部による標本96の観察を開始する。したがって、本実施の形態では、CARS光源部91、ターンテーブル105,107、および設定部106を含んで、観察条件設定手段を構成している。
【0068】
このように、本実施の形態では、ラマン散乱顕微鏡部とCARS顕微鏡部とを一体化してCARS・ラマン散乱顕微鏡90を構成するとともに、このCARS・ラマン散乱顕微鏡90に標本観察条件演算装置110を結合して、ラマン散乱顕微鏡部で検出した標本96のラマン散乱スペクトルの情報を、標本観察条件演算装置110に直接入力するようにして、標本96をCARS顕微鏡部で観察する場合の観察条件を演算し、その演算結果をCARS・ラマン散乱顕微鏡90に直接供給して、観察条件設定手段を介して、CARS顕微鏡部の観察条件を自動的に設定するようにしたので、使用者による分子情報の入力手間や、観察条件の演算・設定手間を省くことができるとともに、演算結果に基づいて観察条件を誤りなく設定することができる。
【0069】
また、ラマン散乱顕微鏡部とCARS顕微鏡部とを一体化することにより、標本96を動かすことなく、ラマン散乱光の観察と、CARS光の観察とを切替えることができ、これにより、分子振動情報が未知の標本96の同一部分について、分子振動情報(ラマン散乱情報)を取得して、CARS光の観察を行うことができる。
【0070】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、CARS光観察の一つの観察条件として、一方のCARS励起光の振動数を演算するようにしたが、波長を演算するように構成することもできる。また、振動数ωおよび波長λは、λ=c/ω(ただし、cは光速)の関係があるので、振動数または波長を演算して、波長または振動数に換算するようにしてもよい。また、第1実施の形態においては、分子振動情報のスペクトル強度も入力して、第1および/または第2パルスレーザ光のパルス幅を演算することもできる。
【0071】
さらに、第1実施の形態および第2実施の形態においては、標本観察条件演算装置で演算する観察条件を、CARS励起光の振動数または波長、CARS光の振動数または波長、CARS光観察で使用するダイクロイックミラーやバンドパスフィルタの波長選択素子分光特性、第1パルスレーザ光および/または第2パルスレーザ光のパルス幅、の少なくとも一つ、あるいは任意の複数の組み合わせとすることもできる。
【0072】
同様に、第3実施の形態および第4実施の形態においては、標本観察条件演算装置で演算する観察条件を、観察条件設定手段で設定可能な、CARS励起光の振動数または波長、CARS光観察で使用するダイクロイックミラーやバンドパスフィルタの波長選択素子分光特性、第1パルスレーザ光および/または第2パルスレーザ光のパルス幅、の少なくとも一つ、あるいは任意の複数の組み合わせとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る標本観察条件演算装置の要部の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す標本観察条件演算装置で観察条件を演算するCARS顕微鏡の構成を示す図である。
【図3】図2に示すCARS顕微鏡で用いる波長選択素子の分光特性を示す図である。
【図4】本発明の第2実施の形態に係る顕微鏡システムの要部の構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施の形態に係る顕微鏡システムの要部の構成を示す図である。
【図6】本発明の第4実施の形態に係る顕微鏡システムの要部の構成を示す図である。
【図7】CARS光の発生原理を説明するCARS散乱過程のエネルギーダイアグラムである。
【図8】標本の分子振動数を取得する際のラマン散乱過程のエネルギーダイアグラムである。
【図9】標本の分子振動情報を説明するエネルギーダイアグラムである。
【図10】標本から発生するラマン散乱スペクトルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10 標本観察条件演算装置
11 入力部
12 記憶部
13 演算部
14 出力部
20 CARS顕微鏡
21 ハーフミラー
22 ダイクロイックミラー
23 ガルバノスキャナ
24,26 レンズ
25 標本
27,29 バンドパスフィルタ
28,30 検出器
40 ラマン散乱顕微鏡
41 ダイクロイックミラー
42 レンズ
43 標本
44 バンドパスフィルタ
45 分光検出器
46 ターンテーブル
47 制御部
50 標本観察条件演算装置
51 入力部
52 記憶部
53 演算部
54 出力部
60 CARS顕微鏡
61 ハーフミラー
62 ダイクロイックミラー
63 ガルバノスキャナ
64,66 レンズ
65 標本
67,69 バンドパスフィルタ
68,70 検出器
71,73,74 ターンテーブル
72 設定部
80 標本観察条件演算装置
81 入力部
82 記憶部
83 演算部
84 出力部
90 CARS・ラマン散乱顕微鏡
91 CARS光源部
92 ハーフミラー
93 ダイクロイックミラー
94 ガルバノスキャナ
95,97 レンズ
96 標本
98 バンドパスフィルタ
99 CARS光検出器
101 ラマン散乱光源部
102 反射ミラー
103 バンドパスフィルタ
104 分光検出器
105,107,108 ターンテーブル
106 設定部
109 制御部
110 標本観察条件演算装置
111 入力部
112 記憶部
113 演算部
114 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置であって、
前記標本の分子振動情報を含む標本情報を入力する入力部と、
前記標本からコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるための振動数の異なる第1パルスレーザ光または第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、
を有することを特徴とする標本観察条件演算装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記観察条件として、前記第2パルスレーザ光または前記第1パルスレーザ光の振動数または波長を演算することを特徴とする請求項1に記載の標本観察条件演算装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記観察条件として、前記標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光の振動数または波長を演算することを特徴とする請求項1または2に記載の標本観察条件演算装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記観察条件として、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡に設けられるコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するための波長選択素子の分光特性を演算することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の標本観察条件演算装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記観察条件として、前記第1パルスレーザ光および/または前記第2パルスレーザ光のパルス幅を演算することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の標本観察条件演算装置。
【請求項6】
標本にラマン散乱励起光を照射して、該標本の分子振動情報を検出するラマン散乱顕微鏡と、
コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置と、を具備し、
前記標本観察条件演算装置は、
前記ラマン散乱顕微鏡で検出される前記分子振動情報を入力する入力部と、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡によりコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を発生させるための振動数の異なる第1パルスレーザ光または第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、
を有することを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項7】
振動数の異なる第1パルスレーザ光および第2パルスレーザ光を標本に照射して、該標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡と、
該コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置と、を具備し、
前記標本観察条件演算装置は、
前記標本の分子振動情報を含む標本情報を入力する入力部と、
前記第1パルスレーザ光または前記第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、を有し、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡は、
前記標本観察条件演算装置から出力される前記観察条件に基づいて、前記標本を観察するための観察条件を自動的に設定する観察条件設定手段を有する、
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項8】
振動数の異なる第1パルスレーザ光および第2パルスレーザ光を前記標本に照射して、該標本から発生するコヒーレントアンチストークスラマン散乱光を検出するコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部と、前記標本にラマン散乱励起光を照射して、該標本の分子振動情報を検出するラマン散乱顕微鏡部と、を有するコヒーレントアンチストークスラマン散乱・ラマン散乱顕微鏡と、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部により前記標本を観察するための観察条件を演算する標本観察条件演算装置と、を具備し、
前記標本観察条件演算装置は、
前記ラマン散乱顕微鏡部で検出される前記標本の分子振動情報を含む標本情報を入力する入力部と、
前記第1パルスレーザ光または前記第2パルスレーザ光の振動数または波長に関する情報を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された前記標本情報および前記記憶部に記憶されている前記振動数または波長に関する情報に基づいて、前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部により前記標本を観察する際の観察条件を演算する演算部と、
該演算部で演算された前記観察条件を出力する出力部と、を有し、
前記コヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡部は、
前記標本観察条件演算装置から出力される前記観察条件に基づいて、前記標本を観察するための観察条件を自動的に設定する観察条件設定手段を有する、
ことを特徴とする顕微鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−58578(P2009−58578A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223613(P2007−223613)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】