説明

標的タンパク質の翻訳条件評価方法

【課題】標的タンパク質の翻訳条件を、単量体と凝集体との比率を指標とし、迅速に評価するための方法の提供。
【解決手段】a)一分子蛍光分析法を用いて、蛍光標識された標的タンパク質を含む溶液中の蛍光標識物質から、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、数量からなる群より選択される1以上を求める工程と、b)標準物質として標的タンパク質の標識に用いた蛍光物質又は該蛍光物質により標識されたタンパク質を含む溶液中の標準物質から、工程a)と同様に並進拡散時間等を求める工程と、c)工程b)により得られた解析値を基準とし、工程a)により解析された蛍光標識物質を、一分子の蛍光標的タンパク質の画分Aとその他の物質の画分Bの2成分に区分し、画分Aの割合及び/又は数量を算出することにより、標的タンパク質の翻訳条件を評価する工程とを有する遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を、蛍光解析法を用いて迅速かつ簡便に評価するための方法、及び、該方法により得られた評価に基づき、標的タンパク質の翻訳条件を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学や構造生物学の研究においては、タンパク質を用いた実験が通常行われている。例えば、あるタンパク質と他の分子との相互作用を解析するために、該タンパク質を固相化した後、ELISA法、免疫沈降法、表面プラズモン共鳴法等の手法を用いることが広く行われている。
【0003】
これらの実験等に用いられるタンパク質は、組織等から抽出して精製することにより得ることもできるが、組織等からの抽出及び精製は、非常に困難であり、精製の過程でタンパク質が失活する場合も多い。また、精製操作における損失や、元々組織中における発現量が少ない等により、充分な量のタンパク質が得られない場合もある。これに対して、遺伝子組換え技術を用いた発現系により目的のタンパク質(標的タンパク質)を過剰発現させた後、回収することにより、充分な精度及び量のタンパク質をより簡便に得ることができる。特に、大量のタンパク質を簡便かつ安価に得られるため、大腸菌の発現系を用いたタンパク質の発現が多く行われている。
【0004】
大腸菌の発現系を用いてタンパク質を発現させた場合には、タンパク質が正常にフォールディングされない場合が多いという問題がある。例えば大腸菌の細胞内において外来タンパク質が急速に大量発現すると、該外来タンパク質が凝集して多量体が形成されたり、該外来タンパク質の凝集体を含む顆粒が形成されたりする。このような顆粒は、封入体(Inclosion body)と呼ばれる。このため、大腸菌内に過剰発現させた標的タンパク質を回収するためには、まず、大腸菌を破砕し、遠心分離法を用いて標的タンパク質の凝集体や封入体を回収する。その後、変性剤を用いてこれらの凝集体や封入体を一度変性させて単量体にする。さらに、変性剤を取り除いて、変性させた単量体を巻き戻すことにより、正常なフォールディングを有する標的タンパク質を得ることができる。
【0005】
ここで、変性させた単量体を巻き戻す工程では、徐々に変性剤を除去することが肝要であり、通常、約48時間という長時間をかけて変性剤の除去が行われている。また、タンパク質の種類によっては、巻き戻しを行った際に、一部のタンパク質は巻き戻されずに凝集して沈澱することもある。このように、変性させたタンパク質の巻き戻しには、時間と手間がかかる。一方で、過剰発現させたタンパク質の凝集や封入体の形成は、翻訳条件に大きく依存している。そこで、翻訳条件を最適化し、過剰発現させたタンパク質による凝集体や封入体の形成を抑制することにより、変性させたタンパク質の巻き戻し工程を要することなく、迅速かつ簡便に、正常なフォールディングを有する標的タンパク質を得ることができる。
【0006】
翻訳条件を最適化するためには、ある翻訳条件において発現させたタンパク質が正常なフォールディングを有するタンパク質であるか、又は凝集体であるかを速やかに評価することが重要である。タンパク質の構造を溶液中で観測する方法として、例えば、円偏光2色性を計測し、ヘリックス構造やシート構造等の特定の二次構造を検出し、構造の確認を行う方法がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タンパク質の翻訳条件を検討するためには、それぞれの翻訳条件において得られるタンパク質の、正常なフォールディングを有していることが期待できる単量体と凝集体との比率を指標として考慮することが好ましい。しかしながら、円偏光2色性を計測する方法では、タンパク質が大方巻き戻った状態は計測することができるが、凝集体を観測することはできないため、単量体と凝集体の比率を計測することは困難である。
【0008】
その他、遠心分離法により凝集体を沈降させて回収した後、紫外吸収法、Bradford法、Lowry法等の公知のタンパク質定量方法を用いて定量することによっても、各翻訳条件における凝集体量を測定することができる。しかしながら、凝集体は非常に取り扱いが困難であり、凝集体のみを溶液から回収した後に定量する場合には、精度において信頼性が低く、このようにして得られた凝集体量に基づいて翻訳条件を検討することはやはり困難である。
【0009】
本発明は、遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を、単量体と凝集体との比率を指標として、迅速かつ簡便に評価するための方法、及び、該方法により得られた評価に基づき、標的タンパク質の翻訳条件を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、標的タンパク質と一分子当たり同等の分子量や蛍光強度を有する物質を標準物質とすることにより、一分子蛍光分析法及び蛍光解析法を用いて、各翻訳条件において発現された標的タンパク質のうち、単量体の割合及び量を解析することができるため、遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を迅速かつ簡便に評価することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を評価する方法であって、(a)一分子蛍光分析法を用いて、蛍光標識された標的タンパク質を含む標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める工程と、(b)一分子蛍光分析法を用いて、標準物質として、前記標的タンパク質の標識に用いた蛍光物質又は当該蛍光物質により標識されたタンパク質を含む標準物質溶液中の標準物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める工程と、(c)工程(b)により得られた解析値を基準とし、工程(a)により解析された蛍光標識物質を、一分子の蛍光標的タンパク質の画分(A)と、その他の物質の画分(B)の2成分に区分し、画分(A)の割合及び/又は数量を算出することにより、前記標的タンパク質の翻訳条件を評価する工程と、を有することを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件評価方法を提供するものである。
また、本発明は、前記蛍光解析法が、蛍光相関分光法(FCS)、蛍光強度分布解析法(FIDA)、蛍光偏光解析法(FIDA−PO)からなる群より選択される1以上であることを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件評価方法を提供するものである。
また、本発明は、さらに、前記蛍光物質と同一種類の蛍光物質により標識された生産量標準物質を用いて、(d)一分子蛍光分析法を用いて、前記生産量標準物質を含む生産量標準物質溶液中の蛍光標識物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、前記生産量標準物質溶液中の蛍光標識物質の数量を求める工程と、(e)前記工程(d)において求められた数量と、前記工程(c)において算出された画分(A)の数量とを比較することにより、前記標的タンパク質の翻訳条件を評価する工程と、を有することを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件評価方法を提供するものである。
また、本発明は、前記発現系が、無細胞発現系であることを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件評価方法を提供するものである。
また、本発明は、遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を、前記いずれか記載の標的タンパク質の翻訳条件評価方法により評価した後、前記工程(c)において得られた画分(A)の割合及び/又は数量を、調整前の翻訳条件における場合よりも増大させるように前記発現系の翻訳条件を調整することを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件改善方法を提供するものである。
また、本発明は、翻訳条件の調整が、発現用溶液中に界面活性剤、グルタチオン、分子シャペロンからなる群より選択される1以上を添加することを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件改善方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の標的タンパク質の翻訳条件評価方法を用いることにより、各翻訳条件において発現された標的タンパク質のうち、単量体の割合及び量を迅速かつ簡便に測定することができるため、遺伝子組換え技術を用いた発現系における標的タンパク質の翻訳条件を迅速かつ簡便に評価することができる。特に、FCS解析等の蛍光解析法では、一試料当たり1〜数10秒程度の非常に短い時間で溶液中の単量体の割合及び量を解析することが可能であり、翻訳条件の評価に要する時間を従来よりも飛躍的に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における遺伝子組換え技術を用いた発現系とは、生物が有する転写・翻訳機構を利用して標的タンパク質(発現させる目的のタンパク質)を発現させる系であって、転写時の鋳型として、遺伝子組換え技術を用いて調製した標的タンパク質をコードする遺伝子(塩基配列)を有するDNAを用いる発現系を意味する。このようなDNA(標的タンパク質発現用鋳型DNA)は、転写のための鋳型として機能し得るものであり、かつ転写産物であるmRNAが翻訳に供され得るものであれば、特に限定されるものではない。例えば、汎用されているタンパク質発現用ベクターに標的タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだものであってもよく、標的タンパク質をコードする遺伝子の5’末端にプロモーター配列と3’末端にターミネーター配列をそれぞれ有する直鎖状DNAであってもよい。該標的タンパク質発現用鋳型DNAは、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても作製することができる。なお、このようなタンパク質発現用ベクターや、プロモーター配列及びターミネーター配列は、標的タンパク質の発現に利用する生物の翻訳機構を考慮して、適宜決定することができる。例えば、標的タンパク質の発現に大腸菌を用いる場合には、T7プロモーターやT7ターミネーター等を用いることができる。
【0014】
本発明における発現系は、特に限定されるものではなく、タンパク質の過剰発現等に通常用いられている発現系のいずれを用いてもよい。例えば、大腸菌の転写・翻訳機構を利用した発現系であってもよく、哺乳細胞や昆虫細胞等の培養細胞の転写・翻訳機構を利用した発現系であってもよい。本発明における発現系としては、大腸菌を利用した発現系であることが好ましい。培養細胞を利用した発現系よりも操作が簡便であり、かつ、試薬等がより安価であり、経済的であるためである。また、通常、原核細胞である大腸菌を利用した発現系のほうが、真核細胞である培養細胞を利用した発現系よりも、発現させたタンパク質が凝集等を起こしやすく、翻訳条件の適正化が特に重要である。このため、大腸菌を利用した発現系により発現させた標的タンパク質に対して本発明の翻訳条件評価方法を用いることにより、迅速かつ簡便に翻訳条件を評価し得るという本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0015】
また、本発明における発現系は、生細胞内において標的タンパク質を発現させる系であってもよく、無細胞発現系であってもよい。ここで、生細胞内において発現させる系として、例えば、形質転換により標的タンパク質発現用鋳型DNAを導入された大腸菌やトランスフェクションにより標的タンパク質発現用鋳型DNAを導入された培養細胞を培養して、細胞内に標的タンパク質を過剰発現させた後、大腸菌や培養細胞から標的タンパク質を抽出する発現系等がある。一方、無細胞発現系とは、生細胞ではなく、リボゾームや酵素等の転写・翻訳に必要な全ての成分を含む細胞抽出液を利用して細胞外でタンパク質を発現させる系である。このような無細胞発現系として、大腸菌由来の細胞抽出液を利用する系、コムギ由来の細胞抽出液を利用する系等が広く用いられている。細胞抽出液に、標的タンパク質発現用鋳型DNA、メチオニン等のアミノ酸、発現用バッファー等を適宜添加した発現用溶液を、適当な温度及び時間インキュベートすることにより、タンパク質を発現させることができる。インキュベートの温度や時間は、利用する細胞抽出液中の酵素や標的タンパク質の種類等を考慮して、適宜決定することができる。
【0016】
細胞から発現させたタンパク質を抽出する操作が不要であること、封入体の形成がより抑えられること、生細胞に影響を与えるタンパク質であっても容易に発現させることができること等により、本発明における発現系は無細胞発現系であることが好ましく、大腸菌由来の細胞抽出液を利用する無細胞発現系であることがより好ましい。
【0017】
本発明の翻訳条件評価方法においては、まず、標的タンパク質を、蛍光物質を用いて標識し、蛍光標的タンパク質とする。該蛍光物質は、通常タンパク質の標識に用いられる蛍光物質であれば、特に限定されるものではない。該蛍光物質として、例えば、TAMRA、FITC(フルオレセインイソチオシアナート)、フルオレセイン、ローダミン、NBD、TMR(テトラメチルローダミン)、Alexa Fluor(登録商標)(インビトロジェン社製)、GFP(Green Fluorescent Protein)、YFP(Yellow Fluorescent Protein)等がある。標的タンパク質の活性や機能等を損なうおそれが小さいことから、TAMRA、FITC、フルオレセイン、ローダミン、NBD、TMR、Alexa Fluor等の比較的分子量の小さい蛍光物質であることが好ましい。
【0018】
蛍光物質による標識の態様は特に限定されるものではなく、標的タンパク質のN末端に標識してもよく、C末端に標識してもよく、標的タンパク質のタンパク質表面の任意の場所に標識してもよい。標的タンパク質のフォールディング等の影響を受けにくく、蛍光標識の強度が損なわれるおそれが小さいことから、標的タンパク質のN末端又はC末端に標識することが好ましい。また、標的タンパク質一分子当たりに標識する蛍光物質は一分子であってもよく、複数分子であってもよい。さらに、標的タンパク質毎に標識する蛍光物質の分子数が異なっていてもよい。但し、解析を後述するFIDA又はFIDA−POにより行う場合には、標的タンパク質一分子当たりの蛍光強度が等しい必要がある。このため、標的タンパク質一分子当たりに標識する蛍光物質量が一定であることが好ましく、標的タンパク質一分子当たり一分子の蛍光物質が標識されていることがより好ましい。
【0019】
標的タンパク質を蛍光物質により標識する方法は、特に限定されるものではなく、タンパク質を標識する場合に通常用いられる方法により標識することができる。例えば、タンパク質を発現させた後に化学的に標識してもよく、予め蛍光標識されたタンパク質を発現させてもよい。タンパク質を発現させた後に蛍光標識を行う工程を減らすことができ、操作工程が少なくて済むため、本発明の標的タンパク質は、予め蛍光標識されたタンパク質を発現させる方法により蛍光標識されることが好ましい。
【0020】
予め蛍光標識されたタンパク質を発現させる方法として、例えば、蛍光物質をコードする遺伝子を、標的タンパク質をコードする遺伝子に付加し、蛍光物質が付加された標的タンパク質を発現させる方法や、蛍光標識したアミノ酸を用いて翻訳する方法等がある。標的タンパク質一分子当たりに標識する蛍光物質量を容易に制御し得るため、蛍光物質をコードする遺伝子を付加した標的タンパク質発現用鋳型DNAを用いる方法や、標的タンパク質のある特定の部位にのみ蛍光標識されたアミノ酸を導入する方法が好ましい。
【0021】
特に、蛍光標識アミノ酸として、天然アミノ酸のコドン以外のアンバーコドンやcggg等の4塩基コドン等の非天然型コドンに対するアンチコドンを有する非天然型tRNAと蛍光物質との複合体を用いて、タンパク質の翻訳時に蛍光標識を行う方法が好ましい(例えば特開2007−97423号公報参照。)。標的タンパク質発現用鋳型DNAの適当な箇所に該非天然型コドンを挿入することにより、標的タンパク質の反応部位の保護や構造の安定性に配慮して蛍光標識することができる。特に標的タンパク質のN末端又はC末端に特異的に蛍光標識されるように、標的タンパク質発現用鋳型DNAに該非天然型コドンを挿入することが好ましい。また、非天然型コドンとして4塩基コドンを用いた場合に、4塩基の読み枠を3塩基で読んでしまった場合には次が終止コドンとなるようにすることにより、翻訳時の読み枠のずれによる標的タンパク質以外のタンパク質の発現を効果的に防止することができ、標的タンパク質の蛍光標識効率をほぼ100%とすることができる。
【0022】
翻訳後の精製を簡便にすることができるため、標的タンパク質には精製用のタグを付加しておくことが好ましい。標的タンパク質のタグとして、タンパク質の精製に通常用いられているタグを用いることができる。該タグとして、例えば、Hisタグ、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)タグ、HA(hem agglutinin)タグ、Mycタグ、Flagタグ等がある。また、標的タンパク質のタグとして、これらの汎用タグを1種類のみで用いてもよく、複数種類を組み合わせたものを用いてもよい。また、タグは標的タンパク質のN末端又はC末端に付加することが好ましい。これらの汎用タグをコードする塩基配列を、標的タンパク質をコードする遺伝子に付加することにより、タグ付標的タンパク質を発現させることができる。
【0023】
本発明の翻訳条件評価方法に供される標的タンパク質溶液は、精製された蛍光標的タンパク質の溶液であることが好ましい。蛍光標的タンパク質の精製は、カラムクロマトグラフィー法等のタンパク質の精製に通常用いられる方法により行うことができる。例えば、標的タンパク質がタグ付タンパク質である場合には、該タグと特異的に結合し得る物質を充填したアフィニティカラム等を用いて常法により精製することができる。
【0024】
本発明の標的タンパク質の翻訳条件評価方法は、遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を評価する方法であって、(a)一分子蛍光分析法を用いて、蛍光標識された標的タンパク質を含む標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める工程と、(b)分子蛍光分析法を用いて、標準物質として、前記標的タンパク質の標識に用いた蛍光物質又は当該蛍光物質により標識されたタンパク質を含む標準物質溶液中の標準物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める工程と、(c)工程(b)により得られた解析値を基準とし、工程(a)により解析された蛍光標識物質を、一分子の蛍光標的タンパク質の画分(A)と、その他の物質の画分(B)の2成分に区分し、画分(A)の割合及び/又は数量を算出することにより、前記標的タンパク質の翻訳条件を評価する工程と、を有することを特徴とする。以下、工程ごとに説明する。
【0025】
まず、一分子蛍光分析法を用いて、前記蛍光標的タンパク質を含む標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める。一分子蛍光分析法による検出であるため、適当な測定用バッファーを用いて希釈等することにより、標的タンパク質溶液の濃度を1〜100nMに調整しておくことが好ましい。標的タンパク質溶液の濃度は1〜20nMであることがより好ましく、1〜10nMであることが特に好ましい。測定用バッファーは、蛍光シグナルや標的タンパク質の活性やフォールディングに対する影響が少ないバッファーであれば、特に限定されるものではなく、通常タンパク質を用いたアッセイ系において用いられるバッファーを用いることができる。該バッファーとして、例えば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)等のリン酸バッファーやトリスバッファー等がある。濃度を調整した標的タンパク質溶液に、該標的タンパク質を標識している蛍光物質の分光特性に最適な波長の光を照射し、標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質からの蛍光シグナルを、高感度な検出装置を用いて検出し、該蛍光シグナルの揺らぎを計測する。蛍光シグナルの検出は、例えば、MF20(オリンパス社製)等の公知の一分子蛍光分析システム等を用いて行うことができる。
【0026】
本発明における溶液中の蛍光標識物質とは、一分子蛍光分析法により、一塊の物質として蛍光シグナルが検出される蛍光標識された物質を意味し、一分子からなる物質であってもよく、複数分子からなる凝集体であってもよい。該標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質としては、蛍光標的タンパク質のみであるため、標的タンパク質一分子当たりに標識される蛍光物質量が等しい場合には、理論上は、全ての蛍光標識物質から検出される蛍光シグナルはほぼ等しくなる。しかしながら、標的タンパク質の中には発現後フォールディングや巻き戻しが正常に行われない等により凝集体を形成するものがあり、このような凝集体と、正常なフォールディングを有する単量体の蛍光標的タンパク質では、一蛍光標識物質当たりの大きさや蛍光強度が大きく異なり、該標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質から検出される蛍光シグナルは多様となる。
【0027】
そこで、単量体の蛍光標的タンパク質とほぼ同等の蛍光シグナルを期待できる物質や、単量体の蛍光標的タンパク質から理論上検出される蛍光シグナルを概算するための基準となり得る物質を標準物質とし、該標準物質の蛍光シグナルから得られる解析値を基準とすることにより、標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質を、単量体の蛍光標的タンパク質であるか、又は凝集体等の単量体以外の蛍光標的タンパク質であるか、を区分することができる。つまり、それぞれの翻訳条件において、発現された標的タンパク質全体に対しての正常なフォールディングを有していることが期待できる単量体の割合や数量等を算出することができるため、各翻訳条件を評価することができる。
【0028】
なお、標準物質は、標的タンパク質の蛍光シグナル解析の基準とするため、標的タンパク質の標識に用いられる蛍光物質と同一種類の蛍光物質又は当該蛍光物質により標識された物質であることを要する。該標準物質の分子量や蛍光標識の方法等は、解析方法等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、標的タンパク質と同等の分子量を有しているタンパク質や、蛍光標的タンパク質と一分子当たり同等の蛍光強度を有している物質等が挙げられる。標準物質はタンパク質であってもよく、非タンパク質であってもよい。標準物質がタンパク質である場合には、蛍光標識の手法による相違を回避することができるため、標的タンパク質と同じ標識方法により蛍光標識されたタンパク質であることが好ましい。同様に、標的タンパク質と同じ発現系を用いて発現させたタンパク質であることも好ましい。
【0029】
凝集体の大きさや構成する分子数等は多種多様であり、凝集体に特有の蛍光シグナルを同定することは困難であるが、標準物質の蛍光シグナルを基準とした2成分解析を行うことにより、簡便に単量体と凝集体の割合を概算することが可能となる。つまり、標準物質の蛍光シグナルとほぼ同等の蛍光シグナルを有する蛍光標識物質を単量体として区分し、標準物質の蛍光シグナルとは異なる蛍光シグナルを有する蛍光標識物質を凝集体として区分することにより、単量体の割合や数量を算出することができる。
【0030】
具体的には、標的タンパク質と同様にして、一分子蛍光分析法を用いて、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める。その後、標準物質溶液の解析から求められた解析値を基準とし、標的タンパク質溶液中の解析された蛍光標識物質を、一分子の蛍光標的タンパク質の画分(A)と、その他の物質の画分(B)の2成分に区分し、画分(A)の割合及び/又は数量を算出することにより、前記標的タンパク質の翻訳条件を評価する。例えば、画分(A)の割合が低い場合には、翻訳条件が適当ではなく、正常なフォールディングを有する標的タンパク質よりも凝集体が多く得られており、翻訳条件の最適化が必要であると判断できる。一方で、画分(A)の割合が高い場合には、翻訳条件が適切であると判断できる。
【0031】
検出された蛍光シグナルは、蛍光解析法により解析される。具体的には、蛍光相関分光法(FCS)、蛍光強度分布解析法(FIDA)、蛍光偏光解析法(FIDA−PO)により解析することができる(例えば特開2005−83982号公報参照。)。これらの解析法を適宜組み合わせて解析してもよい。
【0032】
FCSは、蛍光分子の標識拡散する時間(並進拡散時間)を求めることができる解析法である。並進拡散時間は分子の大きさによって異なるため、分子の相互作用や分解、凝集等の大きさの変化をモニターするために主に用いられる解析法である。また、観測領域中に存在する蛍光分子の数を算出することができるため、試料溶液における蛍光分子の濃度を概算することが可能である。さらに、計測している系(試料溶液)中に2種類以上の大きさを持つ蛍光分子が存在している場合、それぞれの並進拡散時間を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。蛍光標的タンパク質が凝集している場合には、単量体の蛍光標的タンパク質よりも大きくなるため、並進拡散時間は長くなる。
【0033】
例えば、まず、標的タンパク質と同等の分子量を有しているタンパク質を標準物質とし、FCSにより、標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質の並進拡散時間及び数と、標準物質溶液中の標準物質の並進拡散時間を、それぞれ解析する。その後、解析された標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質を、標準物質溶液中の標準物質とほぼ同等の並進拡散時間を有する物質の画分(以下、画分(AFCS)という。)と、標準物質溶液中の標準物質よりも並進拡散時間が長い物質の画分(以下、画分(BFCS)という。)の2成分に区分し、画分(AFCS)の割合や数量を算出する。
【0034】
FCSによる解析を行う場合の標準物質は、標的タンパク質と同等の分子量を有しているタンパク質であることが好ましく、発現方法や蛍光標識の方法が標的タンパク質と異なるタンパク質であってもよい。また、標準タンパク質の一分子当たりの蛍光強度が、蛍光標的タンパク質と異なっていてもよい。
【0035】
その他、分子量が既知であれば、標的タンパク質とは異なる分子量を有しているタンパク質も、標準物質として用いることができる。体積と分子量を等価とし、タンパク質を球状とみなすと、並進拡散時間は球の半径がパラメータとなっているため、FCSにより、並進拡散時間からタンパク質の分子量を概算することができるためである。つまり、標準物質の並進拡散時間に、標準物質と標的タンパク質との分子量比の3乗根を掛けた値が、標的タンパク質の並進拡散時間の理論値となる。標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質の並進拡散時間が、該理論値よりも長い場合や、SD値が大きい場合には、標的タンパク質の凝集が疑われる。つまり、画分(AFCS)を、このようにして得られた理論値とほぼ同等の並進拡散時間を有する物質の画分とすることにより、標的タンパク質と同等の分子量を有しているタンパク質を標準物質とした場合と同様に、標的タンパク質の翻訳条件を評価することができる。例えば、標的タンパク質の標識に用いた蛍光物質の分子量が既知である場合には、該蛍光物質の単量体を標準物質とすることができる。
【0036】
FIDAは、蛍光分子の一分子当たりの蛍光強度を求めることができる解析法であり、計測している系(試料溶液)中に蛍光強度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光強度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。例えば、標的タンパク質が凝集している場合には、一蛍光標識物質当たりの蛍光強度が大きくなる。そこで、FIDAにより一分子当たりの蛍光強度を観測し、標準物質の蛍光強度と比較することにより、標的タンパク質の凝集の有無を検出することができる。
【0037】
例えば、まず、蛍光標的タンパク質と同等の蛍光強度を有している物質を標準物質とし、FIDAにより、標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質の蛍光強度及び数と、標準物質溶液中の標準物質の蛍光強度を、それぞれ解析する。その後、解析された標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質を、標準物質溶液中の標準物質とほぼ同等の蛍光強度を有する物質の画分(以下、画分(AFIDA)という。)と、標準物質溶液中の標準物質よりも蛍光強度が大きい物質の画分(以下、画分(BFIDA)という。)の2成分に区分し、画分(AFIDA)の割合や数量を算出する。
【0038】
FIDAによる解析を行う場合の標準物質は、標的タンパク質と同等の蛍光強度を有している物質であればよく、タンパク質であってもよく、非タンパク質であってもよい。例えば、標的タンパク質の標識に用いた蛍光物質であってもよい。標準物質がタンパク質である場合には、標的タンパク質と同じ発現系を用いて発現させたタンパク質であることが好ましい。
【0039】
FIDA−POは、FIDAと蛍光偏光解析を複合させた解析法であり、蛍光分子の蛍光偏光度と分子数を求めることができる。計測している系(試料溶液)中に蛍光偏光度が異なる2種類以上の蛍光分子が存在している場合、それぞれの蛍光偏光度を有する分子の数量及び割合を算出することもできる。例えば、標的タンパク質が凝集している場合には、一蛍光標識物質当たりの蛍光強度が大きくなり、回転運動もゆっくりとなるため、蛍光偏光度が大きくなる。そこで、FIDA−POにより一分子当たりの蛍光偏光度を観測し、標準物質の蛍光偏光度と比較することにより、標的タンパク質の凝集の有無を検出することができる。
【0040】
例えば、まず、蛍光標的タンパク質と一分子当たり同等の分子量と蛍光強度を有している物質を標準物質とし、FIDA−POにより、標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質の蛍光偏光度及び数と、標準物質溶液中の標準物質の蛍光偏光度を、それぞれ解析する。その後、解析された標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質を、標準物質溶液中の標準物質とほぼ同等の蛍光偏光度を有する物質の画分(以下、画分(AFIDA−PO)という。)と、標準物質溶液中の標準物質よりも蛍光偏光度が大きい物質の画分(以下、画分(BFIDA−PO)という。)の2成分に区分し、画分(AFIDA−PO)の割合や数量を算出する。
【0041】
FIDA−POによる解析を行う場合の標準物質は、蛍光標的タンパク質と同等の分子量と蛍光強度を有している物質であればよいが、標的タンパク質と同じ発現系及び蛍光標識法により得られた標準物質であることが好ましい。
【0042】
一分子蛍光分析法において検出される蛍光シグナルは、分子の大きさに依存するものであり、分子量が同じであっても、立体構造の相違等により大きさが異なる蛍光タンパク質同士は、検出される蛍光シグナルが異なる。このため、蛍光標的タンパク質と標準物質の分子量が同一である場合であっても、解析の結果得られる並進拡散時間等が一致しない場合も多い。特に、標準物質の分子量と標的タンパク質の分子量の比に基づいて、標準物質の並進拡散時間等から標的タンパク質の並進拡散時間等を推定する場合には、いずれのタンパク質も球状であると仮定して推定するため、通常、標準物質の解析値から推定された標的タンパク質の並進拡散時間等は、実測値と10〜20%程度の誤差が生じ得る。しかし、凝集体の並進拡散時間等は、通常単量体から大きくかけ離れているため、標準物質の解析値を基準とすることにより、凝集体と単量体を容易に区分することができる。
【0043】
本発明の翻訳条件評価方法の結果に基づき、翻訳条件の最適化を行うか否かを決定することができる。例えば、単量体の標的タンパク質、すなわち画分(A)の割合が低い場合には、翻訳条件の最適化を行うことが好ましい。翻訳条件の最適化を検討すべきか否かの判断基準となる画分(A)の割合は、標的タンパク質の種類や発現させた標的タンパク質を用いて行われるアッセイの種類等を考慮して適宜決定することができるが、画分(A)の割合が60%未満である場合には、翻訳条件の最適化を行うことが好ましい。
【0044】
翻訳条件の最適化は、タンパク質の正常なフォールディングや巻き戻しの促進、凝集の阻害等を目的として行われる公知のいずれの手法を用いて行ってもよい。例えば、発現用溶液中に、界面活性剤、還元剤、分子シャペロン等を添加することにより、翻訳条件を改善させ、画分(A)の割合を増大させることができる。その他、発現温度、すなわち、転写・翻訳時の温度を、常法よりも2〜10℃程度、好ましくは5℃程度低下させてもよい。
【0045】
発現用溶液に添加する界面活性剤、還元剤、分子シャペロン等の種類や濃度は、標的タンパク質の種類や、本発明の翻訳条件評価方法の結果等を考慮して、適宜決定することができる。界面活性剤と還元剤や分子シャペロン等を適宜組み合わせて用いてもよい。また、複数種類の界面活性剤を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
例えば、まず、Briji35等の非イオン性界面活性剤を0.1〜0.5%添加した条件で標的タンパク質を発現させ、本発明の翻訳条件評価方法により、翻訳条件を評価し、画分(A)の割合が60%未満である等、翻訳条件の改善が見られない場合や改善が不十分である場合には、他の種類の界面活性剤、例えば、ジギトニンを0.1〜0.5%添加する等の翻訳条件の改善を行う。
【0047】
標的タンパク質がS−S結合を有する場合には、翻訳条件の改善のために、発現用溶液にグルタチオンを添加することが好ましい。酸化型グルタチオンと還元型グルタチオンを1:0〜4:1の割合で添加することがより好ましい。添加量は、本発明の翻訳条件評価方法の結果を考慮して適宜決定することができるが、発現用溶液に対して最終濃度が10mM程度となるように添加することが好ましい。
【0048】
分子シャペロンとは、タンパク質の巻き戻りを助ける働きをする分子であり、このような機能を有することが公知の分子の中から、適宜選択して用いることができる。例えば、大腸菌の転写・翻訳系を利用した発現系の場合には、分子シャペロンとして、DnaK、DnaJ、GroEL等を用いることができる。
【0049】
また、本発明の翻訳条件評価方法においては、画分(A)の割合と試料溶液に含まれる蛍光標識物質の数より数量も求めることができる。そこで、標的タンパク質を発現させる発現系と同一の発現系において高発現し得るタンパク質を生産量標準物質として、該生産量標準物質の発現量を基準として、発現効率の点から標的タンパク質の翻訳条件を評価することもできる。なお、標準物質と同様に、該生産量標準物質は、標的タンパク質の標識に用いた蛍光物質と同一種類の蛍光物質により標識されているタンパク質であることを要する。また、該生産量標準物質は、標的タンパク質の発現に用いる発現系において高発現し得ることが確認されているタンパク質であればよく、標的タンパク質と分子量が異なるものや、異なる手法で蛍光標識されたものであってもよい。
【0050】
具体的には、まず、該生産量標準物質を、標的タンパク質と同じ発現系により発現させた後、一分子蛍光分析法を用いて、該生産量標準物質を含む生産量標準物質溶液中の蛍光標識物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、前記生産量標準物質溶液中の蛍光標識物質の数量を求める。該蛍光解析法は、FCSであってもよく、FIDAであってもよく、FIDA−POであってもよい。解析の結果求められた数量と、前述の方法により求めた画分(A)の数量とを比較することにより、標的タンパク質の翻訳条件を評価することができる。例えば、該生産量標準物質溶液中の蛍光標識物質の数量よりも、画分(A)の数量が低い場合には、翻訳条件の最適化により標的タンパク質の生産量の向上が期待できると判断できる。一方で、画分(A)の割合が高い場合には、翻訳条件が適切であると判断できる。
【0051】
標的タンパク質の生産量を向上させるための翻訳条件の最適化は、発現量の増大を目的として行われる公知のいずれの手法を用いて行ってもよい。具体的には、タンパク質の正常なフォールディングや巻き戻しの促進、凝集の阻害等を目的とする場合の翻訳条件の最適化において用いられる手法として挙げられたものを用いることができる。その他、発現時間を延長又は短縮させてもよい。
【0052】
標的タンパク質の発現から翻訳条件の評価、検討、及び確定までのフローチャートを図1に示す。具体的には、蛍光標的タンパク質と同等の分子量を有している物質を標準物質とし、標的タンパク質と生産量標準物質を無細胞発現系により予め蛍光標識されたHisタグ付タンパク質として発現させ、FCSにより解析した場合の一連の手順を示している。なお、本発明の翻訳条件評価方法は該一態様に限定されるものではない。
【0053】
まず、FCSにより標準物質の並進拡散時間(T)を計測する(ステップ1)。また、生産量標準物質を無細胞発現系により転写・翻訳した後(ステップ2)、精製する(ステップ3)。FCSにより、精製した生産量標準物質溶液中の各標準物質の数量(Nc)を計測する(ステップ4)。さらに、蛍光標的タンパク質を無細胞発現系により転写・翻訳した後(ステップ5)、精製する(ステップ6)。FCSにより、精製した蛍光標的タンパク質を希釈した標的タンパク質溶液中の各標準物質の並進拡散時間(T)を計測する(ステップ7)。標的タンパク質溶液中の各標準物質を、並進拡散時間がT≒Tである画分(AFCS)と、並進拡散時間がT>Tである画分(B)に区分し、各区分の割合を計測する(ステップ8)。その後、画分(AFCS)が60%以上であるかどうかを判断し(ステップ9)、画分(AFCS)が60%未満である場合には、翻訳条件の検討を行い(ステップ10)、検討後の翻訳条件により再度転写・翻訳し、同様に画分(AFCS)の割合を算出する。画分(AFCS)が60%以上である場合には、画分(AFCS)の数量(N)とNcを比較する(ステップ11)。画分(AFCS)の数量(N)が、標的タンパク質の使用目的に適した生産量であるか否かを判断し(ステップ12)、生産量が不足している場合には翻訳条件の検討を行い(ステップ13)、検討後の翻訳条件により再度転写・翻訳し、同様に画分(AFCS)の割合及び数量を算出する。生産量が充分である場合には、翻訳条件を確定する(ステップ14)。なお、標準物質の並進拡散時間(T)の計測(ステップ1)と、精製した蛍光標的タンパク質を希釈した標的タンパク質溶液中の各標準物質の並進拡散時間(T)の計測(ステップ7)は同時に行ってもよい。同様に、生産量標準物質の転写・翻訳(ステップ2)、精製(ステップ3)、各標準物質の数量(Nc)の計測(ステップ4)は、蛍光標的タンパク質(ステップ5〜8)と同時に行ってもよい。
【0054】
並進拡散時間に代えて、蛍光強度や蛍光偏光度を計測することにより、FIDAやFIDA−POによる解析を行う場合であっても、FCSと同様の手順により翻訳条件を評価し、最適化した後確定することができる。
【0055】
本発明の翻訳条件評価方法は、一分子蛍光分析法を用いるため、一試料当たり1〜数10秒程度の非常に短い時間で計測が可能であり、翻訳条件を従来に無く迅速かつ簡便に評価することができる。従来、大腸菌への発現用ベクターの導入、大腸菌の大量培養、封入体の調整、発現させたタンパク質の変性、巻き戻し、遠心分離による凝集体の確認、という一連の作業に、ほぼ3日間程度要していたが、例えば、無細胞発現系を用いて標的タンパク質発現させる場合、標的タンパク質の発現に約2時間、精製を含むFCS計測用試料の調製に約1時間、FCS計測に約15秒程度により、翻訳条件の評価を行うことができる。
【0056】
また、翻訳条件の評価以外にも、タンパク質の調製条件の検討にも応用することができる。例えば、ELISA法、免疫沈降法、表面プラズモン共鳴法等の手法を用いて、標的タンパク質と他の分子との相互作用解析を行う場合には、標的タンパク質を固相化することが広く行われているが、タンパク質の固相化のためのバッファー条件の検討や、固相化によるタンパク質の構造変化の評価等においても、本発明の翻訳条件評価方法を応用することができる。
【0057】
その他、標的タンパク質溶液に、標的タンパク質と反応する分子を添加した反応溶液を、公知の一分子蛍光分析システムを用いて蛍光解析を行うことにより、標的タンパク質と該分子との相互作用を確認することができる。例えば、標的タンパク質と該分子との反応の強さが妥当であれば、標的タンパク質の巻き戻しが上手くいっており、翻訳条件が適当であると判断することができる。
【実施例】
【0058】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
N末端に蛍光色素TAMRA、C末端にHisタグをそれぞれ付加した低分子量GTP結合タンパク質1(以下、タンパク質1という。)を、無細胞発現系を用いて発現させ、翻訳条件を評価し、最適化を行った。タンパク質1の分子量は約20kDaである。
In vitro Pin−point Fluorescence Labeling kit543(オリンパス社製)に添付の発現用ベクターに、低分子量GTP結合タンパク質1をコードする遺伝子と該遺伝子のC末端にHisタグをコードする遺伝子を組み込み、タンパク質1用発現ベクターを作成した。このタンパク質1用発現ベクターを鋳型として、大腸菌由来無細胞発現系キットのRTS100E.coli HY Kit(ロシュ社製)を用いて、30℃、2時間反応させることにより、蛍光タンパク質1を発現させた。具体的な発現用溶液の組成を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
発現させた蛍光タンパク質1を、Hisタグ精製レジン(His−spintrap column)を用いて精製した。洗浄用バッファーとして、60mMイミダゾール及び0.1%ポリエチレン(23)ラウリルエーテル含有PBSを、溶出用バッファーとして、500mMイミダゾール及び0.1%ポリエチレン(23)ラウリルエーテル含有PBSを、それぞれ用いた。
精製した蛍光タンパク質1を、PBSを用いて希釈してタンパク質1溶液を調製した後、一分子蛍光分析装置MF20(オリンパス社製)にて、タンパク質1溶液中の蛍光標識物質から得られる蛍光シグナルを計測した。計測条件は、543nmのレーザーを100μWのパワーで、1蛍光標識物質当たりの計測時間を15秒とし、5回計測した。検出された各蛍光シグナルをFCS解析することにより、それぞれの並進拡散時間を計測した。各回(1〜5)の計測の結果得られた並進拡散時間を図2に示す。
【0062】
一方、標準物質として、蛍光色素TAMRAの単量体を用いた。まず、蛍光タンパク質1と同様にして、蛍光色素TAMRAの単量体の並進拡散時間を測定したところ、約100μsであった。ここで、TAMRAの分子量は500であり、タンパク質1との分子量比は約40である。上述したように、FCS計測で得られる並進拡散時間は、分子の半径をパラメータとしているため、両者の体積比(分子量比)の3乗根を、TAMRAの並進拡散時間と掛け合わせることにより、蛍光タンパク質1の理論的な並進拡散時間を算出することができる。すなわち、約100μsに40の3乗根を掛け合わせた約350μsが、蛍光タンパク質1の並進拡散時間の理論値である。但し、実際にはタンパク質1の立体構造は球状からはずれていると考えられるため、理論値から10〜20%の誤差が見込まれる。したがって、測定ごとの誤差も考慮して、蛍光タンパク質1の並進拡散時間は300〜420μs程度と推察される。
【0063】
計測されたタンパク質1溶液中の蛍光標識物質を、蛍光色素TAMRAの解析値を基準として算出された300〜420μsの並進拡散時間の蛍光標識物質を画分(A)、それよりも並進拡散時間が長い蛍光標識物質を区分(B)とすると、いずれも420μsよりも長く、画分(B)に区分された。該区分の結果から、発現された蛍光タンパク質1は凝集しており、翻訳条件が適切ではないと評価することができた。
【0064】
そこで、表1記載の発現用溶液に界面活性剤Briji35を0.5%となるように添加して、翻訳条件の調整を行った。具体的な発現用溶液の組成を表2に示す。調整後の発現用溶液を、30℃、2時間反応させることにより、蛍光タンパク質1を発現させた。
【0065】
【表2】

【0066】
発現させた蛍光タンパク質1を、翻訳条件調整前と同様にしてFCS計測し、タンパク質1溶液中の蛍光標識物質を5回計測した。各回(1〜5)の計測の結果得られた並進拡散時間を図3に示す。この結果、5回全てにおいて並進拡散時間は約400μsとなり、いずれも画分(A)に区分された。また、同様の計測を繰り返したところ、再現性も得られた。該区分の結果から、発現された蛍光タンパク質1は単量体であり、翻訳条件が適切であると評価することができた。つまり、界面活性剤Briji35を適宜添加することにより、翻訳条件を改善することができた。
【0067】
[実施例2]
タンパク質1に代えて、抗体のように振舞う免疫性タンパク質2(以下、タンパク質2という。)を用いて、タンパク質2用発現ベクターを作成した。このタンパク質2用発現ベクターを鋳型として、大腸菌由来無細胞発現系キットのRTS100E.coli HY Kit(ロシュ社製)を用いて、30℃、2時間反応させることにより、蛍光タンパク質2を発現させた。発現用溶液には、タンパク質の凝集回避を目的として、Briji35を0.5%となるように添加した。さらに、タンパク質2はジスルフィド結合を有しているため、巻き戻り時のs−s結合を促進するため、酸化型グルタチオンGSSG(和光純薬社製)も添加した。具体的な発現用溶液の組成を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
発現させた蛍光タンパク質2を、Hisタグ精製レジン(His−spintrap column)を用いて精製した。具体的には、24℃10分間蛍光タンパク質2をHisタグ精製レジンと反応させた後、該レジンを洗浄用バッファー(20mMリン酸バッファー、0.5M塩化ナトリウム、60mMイミダゾール、0.1%Briji35、pH7.4)を用いて3回洗浄後、溶出用バッファー(20mMリン酸バッファー、0.5M塩化ナトリウム、500mMイミダゾール、0.1%Briji35、pH7.4)と24℃10分間反応させることにより、精製した。
精製した蛍光タンパク質2を、20mMリン酸バッファー(pH7.4)を用いて希釈してタンパク質2溶液を調製した後、一分子蛍光分析装置MF20(オリンパス社製)にて、タンパク質1溶液中の蛍光標識物質から得られる蛍光シグナルを計測した。計測条件は、543nmのレーザーを100μWのパワーで、1蛍光標識物質当たりの計測時間を15秒とし、10回計測した。検出された各蛍光シグナルをFIDA解析することにより、それぞれの蛍光強度を計測した。各回(1〜10)の計測の結果得られた蛍光強度を図4に示す。
【0070】
一方、標準物質として、蛍光色素TAMRAの単量体を用いた。まず、蛍光タンパク質2と同様にして、蛍光色素TAMRAの単量体の蛍光強度を測定したところ、約45kHzであった。そこで、40〜50kHz程度の蛍光強度の蛍光標識物質を画分(A)、それよりも蛍光強度が大きい蛍光標識物質を区分(B)として、計測されたタンパク質2溶液中の10蛍光標識物質を区分すると、2、3、9回目の蛍光標識物質が画分(A)、その他が画分(B)に区分された。なお、5回目の蛍光強度は、あまりに値が小さいため、信頼性が低いものとしていずれにも区分しなかった。つまり、画分(A)が全体の約30%であったため、該区分の結果から、発現された蛍光タンパク質2は凝集しており、翻訳条件が適切ではないと評価することができた。
【0071】
そこで、表3記載の発現用溶液のうち、Briji35をジギトニンに代えて、翻訳条件の調整を行った。なお、ジギトニンは膜タンパク質の可溶化にも用いられている界面活性剤である。調整後の発現用溶液を、30℃、2時間反応させることにより、蛍光タンパク質2を発現させた。発現させた蛍光タンパク質2を、翻訳条件調整前と同様にしてFIDA計測し、タンパク質2溶液中の蛍光標識物質を5回計測した。各回(1〜5)の計測の結果得られた蛍光強度を図5に示す。この結果、5回全てにおいて蛍光強度は40〜45kHzとなり、いずれも画分(A)に区分された。該区分の結果から、発現された蛍光タンパク質2は単量体であり、翻訳条件が適切であると評価することができた。つまり、界面活性剤Briji35をジギトニンに代えることにより、翻訳条件を改善することができた。
【0072】
[実施例3]
タンパク質の生産量の点から、実施例1において調整後の翻訳条件について評価した。
まず、実施例1の蛍光タンパク質1と同様にして、生産量標準物質を発現させた後、得られた発現用溶液の200倍希釈溶液を調製し、FCS解析により分子数を求めると平均して4分子であった。なお、生産量標準物質として、分子量約26kDaのCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)を用いた。
実施例1の調整後の翻訳条件、すなわち、表2記載の発現用溶液を30℃、2時間反応させることにより、蛍光タンパク質1を発現させた後、得られた発現用溶液の10倍希釈溶液を調製した。実施例1と同様にして、該10倍希釈溶液中の蛍光標識物質から得られる蛍光シグナルを5回計測した後、各蛍光シグナルをFCS解析し、並進拡散時間と分子数を求めた。その結果、得られた並進拡散時間はほぼ一定であり、発現させた蛍光タンパク質1は、凝集体ではなく単量体として存在していることが確認された。一方で、分子数は平均して7.1分子であった。つまり、実施例1の調整後の翻訳条件により蛍光タンパク質1を発現させると、凝集体の形成を抑制することはできるが、生産量が生産量標準物質である蛍光CATの10分の1程度しか得られなかった。各計測から求められた分子数の20分の1の分子数、つまり、200倍希釈液中に存在していたであろう分子数を、図6に示した。
そこで、生産量を向上させるべく、より翻訳条件を改善するために、界面活性剤と分子シャペロンを添加して、翻訳条件の調整を行った。具体的な発現用溶液の組成を表4に示す。調整後の発現用溶液を、30℃、2時間反応させることにより、蛍光タンパク質1を発現させた後、得られた発現用溶液の200倍希釈溶液を調製し、FCS解析により分子数を求めた。各計測から求められた分子数を、図6に示した。平均すると4分子であり、生産量標準物質である蛍光CATとほぼ同等の生産量となり、翻訳条件を改善することができた。
【0073】
【表4】

【0074】
このように、FCS計測から生産量を評価し、翻訳条件の検討を行い、改善することができた。また、実施例1と3の作業は、全て約3時間で計測が可能であり、検討は約1日で完了することができるため、従来になく迅速に翻訳条件を最適化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の標的タンパク質の翻訳条件評価方法により、遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を迅速かつ簡便に評価することができるため、主に、生化学や構造生物学の分野において利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の標的タンパク質の翻訳条件評価方法を用いて、翻訳条件を確定するまでの一連の手順のフローチャートを示したものである。図中のSは、ステップの意味である。
【図2】実施例1において、翻訳条件調整前に、5回のFCS計測の結果得られた並進拡散時間を示した図である。
【図3】実施例1において、翻訳条件調整後に、5回のFCS計測の結果得られた並進拡散時間を示した図である。
【図4】実施例2において、翻訳条件調整前に、10回のFIDA計測の結果得られた蛍光強度を示した図である。
【図5】実施例2において、翻訳条件調整後に、5回のFIDA計測の結果得られた蛍光強度を示した図である。
【図6】実施例3において、5回のFCS計測の結果算出された、蛍光タンパク質1の発現用溶液の200倍希釈溶液中の分子数を示した図である。各回の左カラムが翻訳条件調整前の発現用溶液中の分子数であり、右カラムが翻訳条件調整後の発現用溶液中の分子数である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を評価する方法であって、
(a)一分子蛍光分析法を用いて、蛍光標識された標的タンパク質を含む標的タンパク質溶液中の蛍光標識物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める工程と、
(b)一分子蛍光分析法を用いて、標準物質として、前記標的タンパク質の標識に用いた蛍光物質又は当該蛍光物質により標識されたタンパク質を含む標準物質溶液中の標準物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、並進拡散時間、蛍光強度、蛍光偏光度、及び数量からなる群より選択される1以上を求める工程と、
(c)工程(b)により得られた解析値を基準とし、工程(a)により解析された蛍光標識物質を、一分子の蛍光標的タンパク質の画分(A)と、その他の物質の画分(B)の2成分に区分し、画分(A)の割合及び/又は数量を算出することにより、前記標的タンパク質の翻訳条件を評価する工程と、
を有することを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件評価方法。
【請求項2】
前記蛍光解析法が、蛍光相関分光法(FCS)、蛍光強度分布解析法(FIDA)、蛍光偏光解析法(FIDA−PO)からなる群より選択される1以上であることを特徴とする、請求項1記載の標的タンパク質の翻訳条件評価方法。
【請求項3】
さらに、前記蛍光物質と同一種類の蛍光物質により標識された生産量標準物質を用いて、
(d)一分子蛍光分析法を用いて、前記生産量標準物質を含む生産量標準物質溶液中の蛍光標識物質から、蛍光シグナルを検出した後、蛍光解析法により、前記生産量標準物質溶液中の蛍光標識物質の数量を求める工程と、
(e)前記工程(d)において求められた数量と、前記工程(c)において算出された画分(A)の数量とを比較することにより、前記標的タンパク質の翻訳条件を評価する工程と、
を有することを特徴とする請求項1又は2記載の標的タンパク質の翻訳条件評価方法。
【請求項4】
前記発現系が、無細胞発現系であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の標的タンパク質の翻訳条件評価方法。
【請求項5】
遺伝子組換え技術を用いた発現系により発現させた標的タンパク質の翻訳条件を、請求項1〜7のいずれか記載の標的タンパク質の翻訳条件評価方法により評価した後、前記工程(c)において得られた画分(A)の割合及び/又は数量を、調整前の翻訳条件における場合よりも増大させるように前記発現系の翻訳条件を調整することを特徴とする標的タンパク質の翻訳条件改善方法。
【請求項6】
翻訳条件の調整が、発現用溶液中に界面活性剤、グルタチオン、分子シャペロンからなる群より選択される1以上を添加することを特徴とする請求項5記載の標的タンパク質の翻訳条件改善方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−178153(P2009−178153A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22862(P2008−22862)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】