説明

標的物質情報取得装置及び標的物質の情報取得方法

【課題】波長スペクトル特性による対象物質の検出手法において、センサ素子部および検出装置の双方の小型化を目指すものである。さらには、検出装置の構成の簡易化も同時に目指すものである。
【解決手段】検知素子に対して光照射するための光源と、検知素子からの光を受ける複数の受光素子とを同一基板に配置し、かつ分光手段によって各受光素子に入射する光の波長を異ならせることで吸収波長スペクトルを得る構成とすることで、装置構成の簡易化を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質の存在下での光透過率または光反射率の波長特性を検知して標的物質の情報を取得するための装置及びそれを用いた標的物質の情報取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康問題や環境問題、更には安全性の問題に対する意識の高まりと共に、これらの問題に関与する生物学的物質、化学的物質の微量検出手法が望まれるようになってきている。この検出手法として、検出対象物質を含む液状の検体と試薬あるいはセンサ素子の相互作用に起因する光学的な特性の変化を計測するものが数多く提案されている。これら検出対象物質の光学的な検出方法としては、
(1)酵素反応を含む化学的な反応により生じる反応生成物による吸光スペクトルの変化あるいは特定波長の吸光度の変化を検出する手法、及び
(2)検出対象物質と特異的に結合する捕捉体を固定化した微粒子を用い、検出対象物質を介して微粒子の凝集体を形成させ、この凝集体による吸光スペクトルあるいは、特定波長の吸光度の変化を検出する手法、
など、スペクトル変化を検出する手法が多く提案、開発されている。
【0003】
これらの手法は、分光機を用いたスペクトル検出によっているため、スペクトル検出のため、波長域のスキャンに時間を要するという課題がある。この課題は、波長をスキャンする必要のない、ポリクロメータとアレイ状の検出手法を用いた手法により改善が可能であるが、光源、検体検知部、ポリクロメータ、検出器の配置に制約があり装置の小型化が困難という課題は残されている。
【0004】
また、吸光スペクトルによらない検出手法により上記の小型化課題を解決している例として、特許文献1に記載されているような、表面プラズモン共鳴法によるセンサがある。特許文献1に記載の発明は、従来の表面プラズモン共鳴方式の問題点であった、共鳴角を検出するための機構を入射光の拡がりとフォトダイオードアレイによって解決している点に特徴を有する。このセンサの利点としては、発光、受光素子が同一面内に形成されているため、検出装置の構成簡易になる点を挙げることができる。ただし、検体が接触する部位に共鳴角に相当する長さが必要となるすなわち、1種類の検出対象物質の検出に必要なセンサ面のサイズが大きくなるため、複数の検出対象物質の同時検出には制約がある。
【0005】
プラズモン共鳴を用いた手法で、上記1種類の検出対象物質の検出のセンサ面積の問題解決手法として、特許文献2の金属微粒子を用いた局在プラズモン共鳴法によるセンサがある。この局在プラズモン共鳴によるセンサ素子は、金属微粒子を用いるため、検出部の面積が微小面積で済むという利点がある。しかしながら、透過あるいは反射スペクトルを検出する必要があるため、上述したスペクトル検出を用いる手法と同様の問題は残されている。
【特許文献1】特開平10−221245号公報
【特許文献2】特許第3452837号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑みて為されたものである。その目的は、波長スペクトル特性による対象物質の検出手法において、センサ素子部および検出装置の双方の小型化を目指すものである。さらには、検出装置の構成の簡易化も同時に目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、標的物質と接触することで光学的な物性が変化する物質を備えた検知素子をセンサ素子として用いる。このセンサ素子部に検出のための光を照射するための光源と、センサ素子を透過あるいは反射した光を受光するための複数の受光手段を同一の基板上に形成しておく。さらに光源から受光手段までの光路上に分光手段を設け、分光した光が波長帯域毎に複数の受光手段それぞれに入射するようにする。上記の構成により、センサ素子の分光透過特性あるいは分光反射特性を検出可能となる。
【0008】
すなわち、本発明にかかる標的物質の情報取得装置は、標的物質を固定し得る表面を有し、該表面への該標的物質の固定状態に応じて光の透過率または反射率の波長特性が変化する検知素子と、光源と、該光源からの光を前記検知素子に照射するための光照射手段と、該検知素子を透過または反射した光を受光するための受光手段と、を備え、前記標的物質に関する情報を取得する情報取得装置であって、
前記受光手段の複数と前記光源とを同一基板上に有し、前記光源から前記受光手段までの光路中に分光手段を設けることにより前記複数の受光手段それぞれの受光波長を異ならせることで、各受光手段が受光する波長ごとの前記検知素子での光の透過率及び反射率の少なくとも一方を求め、該光の透過率及び反射率の少なくとも一方の波長特性を得ることを特徴とする情報取得装置である。
【0009】
本発明にかかる標的物質の情報取得方法は、検体中の標的物質に関する情報を検知素子を用いて取得する情報取得方法において、
前記標的物質が固定された前記検知素子を用意する工程と、
光源から前記標的物質が固定された検知素子に光照射し、照射された光の透過光又は反射光を前記光源と同一基板上に設けられた複数の受光手段のそれぞれでの受光波長を前記光源から前記受光手段までの光路中に設けた分光手段によって異ならせ、各受光手段が受光する波長ごとの前記検知素子での光の透過率又は反射率を求めることで該光の透過率または反射率の波長特性を得る工程と、
該波長特性に基づいて前記検知素子に結合した標的物質の結合量を求める工程と、
を有することを特徴とする標的物質に関する情報の取得方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、波長スペクトル特性によって、検体内の検出対象物質量を分析する装置の小型化に寄与することがあげられる。さらに、波長スペクトルを取得する際に機械的な駆動の必要がないため、スペクトル取得に要する時間、すなわち、分析時間の短縮に寄与する。さらに、発光素子、受光素子の電気的な素子が単一基板上に存在するため、電気的なインターフェースが簡易となり、装置構成が簡便になり、メンテナンスを行う際の作業性についても向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するにあたり最良の形態を説明する。ここでは、本発明の検知素子部とそれ以外の光学的な構成部位に分けて説明する。
【0012】
[光学的構成]
光学的構成について、図1を用いて説明する。
(図1の構成)
101は、基板である。この基板は、プリント基板でもよいし、半導体基板でも構わない。102は基板上に構成された光源としての発光素子である。発光素子としては、対象とする波長域で十分な光量があれば特に制約はないが、発光ダイオード、半導体レーザが好適である。103は、受光手段としての受光素子の複数をアレイ状に配列した受光素子アレイである。ここでは、直線に構成されたセンサアレイであり、対象とする波長域で十分な感度があれば特に制約は無い。
【0013】
104は検知素子である。図1では、検知素子を102の発光素子と107の回折格子の間に構成しているが、図2のように分光手段と受光手段の間に構成しても構わない。検知素子の構成については、後述する。105は、発光素子からの光を絞るための遮光板である。106は、発光素子からの光を平行光にするためのコリメートレンズである。107は発光素子からの光を分光するための分光手段である回折格子である。図1では反射型の回折格子を用いているが、透過型で光学系を構成しても構わないが、回折効率により、ブレーズ型の反射回折格子を用い、1次回折光の自由スペクトル領域を用いて検出することが望ましい。また、分光手段として、回折格子ではなくプリズムを用いても構わない。また、図1では記載していないが、自由スペクトル外の波長の光による迷光を避けるために発光素子上に波長を制限するフィルタを構成するとなお好ましい。108は回折格子により分光された光を受光素子103上に導き合焦させ、各受光素子毎の検出波長範囲を狭め分光精度を向上させるための凹面鏡である。図1では、108が凹面鏡となっており、107が平面の回折格子となっているが、107を凹面回折格子、108を平面鏡としても構わない。
【0014】
分光手段によって複数の受光素子に入射する光の波長(波長域)をそれぞれ異ならせておき、これによって複数の光学素子での受光波長を異ならせて、各波長(または波長域)ごとの検知素子での光透過率又は光反射率を求めることができ、波長吸収スペクトルの形成に必要な所定の波長域を区分して得られた複数の波長(または波長域)のそれぞれを各受光素子に受け持たせることで、所定の波長域にわたる吸収スペクトルを得ることが可能となる。
なお、捕足であるが、101の基板を同一の半導体基板上に形成する場合、101の基板材料として、Si(シリコン)、GaAs(ガリウム砒素)基板が好適となる。また、102の発光素子であるが、Ga(ガリウム)、N(窒素)、In(インジウム)、Al(アルミニウム)、P(リン)の少なくとの一つを含む化合物によるLEDを形成することが望ましい。103の受光素子であるが、対象とする波長が可視光領域であれば、Siによるフォトダイオードが好ましく、可視光でも青色領域のみでよければ、GaAsPによるフォトダイオードが望ましい。また、赤外領域であれば、InGaAsによるフォトダイオードが望ましい。101の基板材料、102の発光素子、103の受光素子については、対象とする波長領域に応じて好適な組み合わせをとることが望ましい。ただし、101の基板については、Si基板を用いることが、基板のコストを考慮するとより望ましい。
【0015】
[検知素子部]
検知素子部の構成について図5〜図8を用いて説明する。図5に示しているのは、金属微粒子を用いた局在プラズモン共鳴法による検知素子の例である。図5(a)は平板の表面に金属微粒子を固定した例である。401は基板であり、402は401の基板上に固定された金属微粒子である。401の基板材料は、光学的に透明であることが望ましいが、反射計測を行う場合には、測定に十分な反射光が得られる表面を有するものであれば、必ずしも透明でなくても構わない。402の金属微粒子であるが、この微粒子を構成する金属元素としては、局在プラズモン共鳴現象が生じうる金属元素であれば如何なる金属元素でも良いが、その中でも金や銀が特に好ましい。
図5(b)および(c)は、検体としての液体試料を流すことのできる流路中に金属微粒子を固定した状態を示す。401および402は同様に基板および金属微粒子であり、上述した内容と同様であるが、401の基板に流路部403が設けられている。403は、形成された流路であり、検出対象物質を含んだ検体が流れる部位である。また、404は、流路の上面の蓋である。この404部は、光学的に透明であることが望ましい。ここ図示している例は、401の溝を形成した基板の溝の部位に金属微粒子を固定した例となっているが、
404の蓋の流路部に金属微粒子を固定しても構わない。
【0016】
図5(d)は、図5(a)、(b)及び(c)の微粒子近傍の拡大図であり、実際の検出対象物質を認識する部位の説明図である。402の金属微粒子に405に示す検出対象物質と特異的に結合する捕捉体を固定している。406は検出対象物質であり、図5(d)では、405の捕捉体に捕捉されている状態を図示している。405の捕捉体の好適な例については後述する。
【0017】
局在プラズモン共鳴による検出手法では、金属微粒子の局在プラズモン共鳴によって、特定の波長で吸収が大きくなることが知られている。この吸収ピーク波長は、金属微粒子近傍の屈折率によって変化するため、検出対象物質が捕捉体に捕捉された際に金属微粒子近傍の屈折率が変化するため、この吸収ピーク波長がシフトする。よってこのシフト量を検出することによって、検出対象物質の量を求めることができる。検出対象物質の固定状態、すなわち検出対象物質有無やその固定量を求めることができる。なお、検出対象物質と捕捉体を有する金属微粒子との反応は、流路に固定された捕捉体を有する金属微粒子に検出対象物質を含む液体試料を添加することにより行うことができる。
【0018】
図6に示しているのは、表面プラズモン共鳴を用いた検知素子の例である。501は基板である。この基板は、透過光での測定に十分な程度に光学的に透明な素材であることが望ましく、後に記載する503のプリズムと同一の素材もしくは、屈折率の近い素材を用いることが望ましい。502は、金属薄膜であり、この金属薄膜を構成する金属元素は、プラズモン共鳴をプラズモン共鳴現象が生じうる金属元素であれば如何なる金属元素でも良いが、その中でも金や銀が特に好ましい。505は、検出対象物質と特異的に結合する捕捉体であり、502の金属薄膜に固定されている。506が検出対象物質であり、505の捕捉体に捕捉されている状態を図示している。503は、プリズムであり、検出のための入射光507を全反射角で、金属薄膜に入射させ、金属薄膜面での反射光508を取り出すために存在している。このプリズムは、検知素子には含まれないが、説明の都合上図示している。また504はインデックスマッチングオイルである。検知素子を装置側構成要素である503のプリズム上にセットする際に接触面での反射を防ぐために用いている。表面プラズモン共鳴による検出手法では、金属薄膜の表面プラズモン共鳴によって、特定の波長で吸収が大きくなり反射光強度が低くなることが知られている。この吸収ピーク波長は、金属薄膜近傍の屈折率によって変化するため、検出対象物質が捕捉体に捕捉された際に金属薄膜近傍の屈折率が変化するため、この吸収ピーク波長がシフトする。よってこのシフト量を検出することによって、検出対象物質の量を求めることができる。
【0019】
図7に示しているのは、酵素標識を用いた検出手法である。601は基板である。基板は、透過光での測定に十分な程度に光学的に透明であれば特に制約はない。602は、検出対象物質と特異的に結合する捕捉体である。本例では、抗体を用いており、601の基板に固定されている。603は、検出対象物質である。604は、605の酵素で標識された検出対象物質と特異的に結合する捕捉体である。606は、605の酵素に対応した酵素基質であり、607は、酵素基質に酵素が作用することで生成した酵素反応生成物である。605の酵素であるが、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase)、βガラクトシダーゼ(β-galactosidase)が好適であるが、酵素反応の結果生成される607の酵素反応生成物が特定波長に吸収を持つ等の光学的な特徴を有すれば特に制約はない。基質としてはこれらの酵素との組合せで通常用いられているものが利用できる。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した標的物質に結合し得る抗体(標識化抗体)を用い、これを、標的物質に特異的な抗体からなる捕捉体を基板に定法により固定しておき、この捕捉体に標的物質を捕捉してから標識化抗体を結合させ、更に基質である1,2−フェニレンジアミンを添加することで、491nmに吸収波長を有する酵素反応生成物が得られる。
【0020】
このように、酵素反応生成物が特定波長に吸収を有する場合では、透過光の吸収スペクトルに酵素反応生成物に起因する吸収スペクトルを得ることができ、この吸収スペクトルから検出対象物質の検知素子表面での固定状態、すなわち、検知素子表面での検出対象物質の有無や、その固定量を求めることができる。
【0021】
図8に示しているのは、蛍光標識を用いた検出手法である。701は基板である。基板は、透過光を測定する場合には、透過光の測定に十分な透明性を有する基板であればよく、反射光を測定する場合は、反射光の測定に十分な反射面を有する基板であればよい。702は、検出対象物質と特異的に結合する捕捉体である。本例では抗体を用いており、701の基板に固定されている。703は、検出対象物質である。704は、705の蛍光色素で標識された検出対象物質と特異的に結合する捕捉体である。本例では、蛍光色素標識した抗体である。蛍光色素としては、FITC、Cy3、Cy5がよく用いられる。706は、705の蛍光色素に対応した励起光であり、707は、705の蛍光色素から発する蛍光である。検出対象物質の固定状態に応じて蛍光が生じることで、検知素子からの蛍光の発光スペクトル強度が変化し、これにより、検出対象物質の検知素子表面での固定状態、すなわち、検知素子表面での検出対象物質の有無や、その固定量を求めることができる。なお、励起光が受光素子側に影響を与える検出系を用いる場合は、励起光が受光素子側に到達しないように適当な位置に励起光をブロックする波長制限フィルターを設ける。
【0022】
(捕捉体)
金属微粒子の表面に固定された、標的物質捕捉体は、標的物質と特異的な結合対を形成するものであれば、特に制約はない。検出対象物質と特異的に結合する結合対の組合せには、抗原/抗体、相補的DNA、リセプター/リガンド、酵素/基質があげられる。
【0023】
検体中に含まれる標的物質は、非生体物質と生体物質に大別される。非生体物質として産業上利用価値の大きいものとしては、環境汚染物質としての塩素置換数/位置の異なるPCB類、同じく塩素置換数/位置の異なるダイオキシン類、いわゆる環境ホルモンと呼ばれる内分泌撹乱物質等が挙げられる。生体物質としては、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質及びそれらの複合体から選択される生体物質が含まれ、更に詳しくは、核酸、タンパク質、糖鎖、脂質から選択される生体分子を含んでなるものであり、具体的には、DNA、RNA、アプタマー、遺伝子、染色体、細胞膜、ウイルス、抗原、抗体、レクチン、ハプテン、ホルモン、レセプター、酵素、ペプチド、スフィンゴ糖、スフィンゴ脂質の何れかから選択された物質を含むものであれば、如何なる物質にも本発明を適用することができる。更には、前記の「生体物質」を産生する細菌や細胞そのものも、本発明が対象とする「生体物質」として標的物質となり得る。
【実施例】
【0024】
以下では、その他の実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明の範囲をなんら限定するものではない。
【0025】
(実施例1)
第1の実施形態を図1を用いて説明する。101の基板材料上に102の発光素子を設置する。ここで、101の基板は、プリント基板を用い、発光素子としては、白色の発光ダイオードをプリント基板上に表面実装している。103の受光素子としては、フォトダイオードアレイを用いている。104は検知素子部である、ここでは、図5に示している、局在プラズモン共鳴による検知素子を用いている。この検知素子は、光学的に透明なガラス製のフローセルを用いる。このフローセルの内面の検出領域をアミノシランカップリング処理し、アミノ基が出た内面を形成し、ここに、粒径が20〜40nm金微粒子水溶液(田中貴金属工業社製)を浸漬し、金微粒子を固定する。
【0026】
続いて、金微粒子上に捕捉体として、抗体を固定する。固定方法は、金微粒子を固定したフローセルの検出領域に金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液で金微粒子を表面修飾する。これにより、金微粒子表面にカルボキシル基が露出される。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide(同仁化学研究所社製)水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(同仁化学研究所社製)水溶液を検出領域に滴下する。これにより、金微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。続いて、固定化する抗体として、標的物質に特異的なウサギ抗マウスIgG抗体/リン酸緩衝液(pH8.0)をフローセルに入れる。金表面上に配置された前記スクシンイミド基とウサギ抗マウスIgG抗体のアミノ基を反応させることにより、ウサギ抗マウスIgG抗体を金表面上に固定化する。以上が検知素子の作成法である。
【0027】
105は、遮光板であり、102の発光ダイオードからの拡がり角を制限するのに用いている。この遮光板を通った光を106のコリメートレンズによって、平行光にしている。この平行光を107の回折格子に入射させる。107の回折格子によって、もっとも長波長の光線が111に回折し、短波長の光線が112に回折する。ここで分光した光を108の凹面鏡によって、103のフォトダイオードアレイ状に合焦させ、各受光素子毎の検出波長範囲を狭め分光精度を向上させる。このことによって、103のフォトダイオードアレイの各フォトダイオード上に各々異なる波長範囲の光が入射することになる。よって、103のフォトダイオードアレイの全画素の出力信号を検出することによって、104の検知部の局在プラズモン共鳴の吸収スペクトルを取得することが出来る。フォトダイオードからの信号処理方法について図10を用いて説明する。1011の各フォトダイオードの出力はすでに電流―電圧変換回路で電圧に変換されているものとする。ここで電流電圧変換回路は不図示であるが、オペアンプを用いた回路が一般に用いられる。この各フォトダイオードの出力を1010のホールド回路にて保持する。このホールド回路の役割としては、各フォトダイオードを同時サンプリングするし保持することである。ホールド回路により保持された出力を1009のマルチプレクサによって1008のADコンバータに入力する。ここではマルチプレクサを用いているが、シフトレジスタを用いても構わない。ADコンバータによりデジタルデータに変換した値を1001の中央演算装置にて処理し、スペクトルデータとして処理する。本実施例では、局在プラズモン共鳴を用いた検出を行っているため、図9に記載したようなスペクトルデータを取得することができる。この処理方法については、以下に記載する。
【0028】
ここで、104の検知部の変化について記載する。図5の402の金属微粒子表面に405の捕捉体が固定されている。本実施例では、この捕捉体に検出対象物質と特異的に結合する抗体を用いている。この抗体に検出対象物質406が捕捉されると金属微粒子402近傍の屈折率が変化する。このことによって図9に示すように、金属微粒子402での局在プラズモン共鳴による吸収ピーク波長がシフトする。吸収ピークのシフト量とあらかじめ既知の量の検出対象物質とから求めておいた検量線をもとに未知の検体中の検出対象物質量をもとめることができる。
【0029】
(実施例2)
図2を用いて第2の実施例を説明する。101の基板材料上に102の発光素子を設置する。ここで、101の基板は、プリント基板を用い、発光素子としては、白色の発光ダイオードをプリント基板上に表面実装している。103の受光素子としては、フォトダイオードアレイを用いている。105は、遮光板であり、102の発光ダイオードからの拡がり角を制限するのに用いている。この遮光板を通った光を106のコリメートレンズによって、平行光にしている。この平行光を107の回折格子に入射させる。107の回折格子によって、もっとも長波長の光線が111に回折し、短波長の光線が112に回折する。ここで分光した光を108の凹面鏡によって、103のフォトダイオードアレイ状に合焦させ、各受光素子毎の検出波長範囲を狭め分光精度を向上させる。このことによって、103のフォトダイオードアレイの各フォトダイオード上に各々異なる波長範囲の光が入射することになる。
【0030】
104は検知素子部である、ここでは、第1の実施例と同様に、図5に示している局在プラズモン共鳴による検知素子を用いている。11Xに示しているのが、検知素子内の検知部位である。この検知部位を通った分光後の光が103のフォトダイオードアレイによって検出することによって、局在プラズモンの吸収スペクトルを取得することができる。信号処理については実施例1と同様であるためここでは省く。ただし、図2に示すような、検知部位が103のフォトダイオードアレイより小さい場合、検知部位の全体のスペクトルをすべて取得することができない。そのため、104の検知素子をフォトダイオードの向きに移動させつつ、フォトダイオードの信号を取得することによって、11Xの検知部位の対象波長範囲全体のスペクトルを取得することができる。104の検知部の変化については、第1の実施例同様であるため、ここでは説明を省略する。
(実施例3)
図3を用いて、第3の実施例の説明を行う。101の基板材料上に102の発光素子を設置する。ここで、101の基板は、プリント基板を用い、発光素子としては、白色の発光ダイオードをプリント基板上に表面実装している。103の受光素子としては、フォトダイオードアレイを用いている。105は、遮光板であり、102の発光ダイオードからの拡がり角を制限するのに用いている。105を通った光を108の凹面鏡で反射させ、104の検知素子上で焦点を結ぶように配置する。ここで104の検知素子は、図7で示している酵素標識によるものを用いている。検知素子から反射した光が107の凹面の回折格子に入射する。107の回折格子で、もっとも長波長の光線が111に回折し、短波長の光線が112に回折する。ここで分光した光が107の回折格子の凹面のパワーで103のフォトダイオードアレイ上で、103のフォトダイオードアレイ上に合焦させ、各受光素子毎の検出波長範囲を狭め分光精度を向上させる。このことによって、103のフォトダイオードアレイの各フォトダイオード上に各々異なる波長範囲の光が入射することになる。フォトダイオードアレイの信号処理については実施例1と同様であるためここでは省く。
【0031】
104は検知素子部である、ここでは、図7の酵素による検知標識の素子を用いている。図7の601が検知素子の基板である。この基板上に602の検出対象物質と特異的に結合する捕捉体である抗体である。この抗体によって603の検出対象物質を捕捉している。捕捉されている検出対象物質に604で示している、酵素で標識している捕捉体である抗体が結合している。この状態で、606の酵素基質を導入させ607の酵素生成物を生成させる。ここで用いる酵素は、西洋ワサビペルオキシダーゼを用い、酵素基質として、1,2-フェニレンジアミンを用いる。この結果生成する酵素生成物は、491nmに吸収を持つ。491nmでの吸収を計測することにより検出対象物質量をもとめることができる。すなわち、103のフォトダイオードアレイの特定素子部の信号を検出すればよいことになる。フォトダイオードアレイの各検出信号処理について、実施例1と同様であるため説明は省略する。
また、104の検知素子であるが、酵素による標識の代わりに、図8のような蛍光を用いた検知素子を用いてもよい。
【0032】
(実施例4)
図4を用いて第4の実施例を説明する。101の基板材料上に102の発光素子を設置する。ここで、101の基板は、プリント基板を用い、発光素子としては、白色の発光ダイオードをプリント基板上に表面実装している。103の受光素子としては、フォトダイオードアレイを用いている。105は、遮光板であり、102の発光ダイオードからの拡がり角を制限するのに用いている。この遮光板を通った光を106のコリメートレンズによって、平行光にしている。この平行光を301のプリズムに入射させる。301のプリズムによって、104の検知素子に全反射角で302の金属薄膜に入射させる。この検知素子の詳細は、図6に記載されている。詳細は後述する。
【0033】
検知素子表面で反射した光は、再度プリズムを通り、107の凹面回折格子に入射する。回折格子に入射した光は、もっとも長波長の光線が111に回折し、短波長の光線が112に回折する。ここで分光した光を107の凹面回折格子のパワーによって、103のフォトダイオードアレイ状に合焦させ、各受光素子毎の検出波長範囲を狭め分光精度を向上させる。このことによって、103のフォトダイオードアレイの各フォトダイオード上に各々異なる波長範囲の光が入射することになる。フォトダイオードアレイの信号処理については実施例1と同様であるためここでは省く。
【0034】
ここで図6を用いて検知素子部の説明する。507の入射光は、503のプリズムによって、501の検知素子上に形成された金属薄膜に全反射角で導入される。この金属薄膜面で反射した光は再度プリズムを通って、508の出射光となる。ここで、検知素子基板501とプリズム503の間には、504のインデックスマッチングオイルを設け、界面での反射を防ぐようにしておく。502の金属薄膜上には、検出対象物質506を捕捉するための捕捉体である、505の抗体が固定されている。
【0035】
505の抗体に検出対象物質506が捕捉されると金属薄膜502近傍の屈折率が変化する。このことによって、金属薄膜502での表面プラズモン共鳴による反射光減衰のピーク波長がシフトする。減衰のピークのシフト量とあらかじめ既知の量の検出対象物質とから求めておいた検量線をもとに未知の検体中の検出対象物質量をもとめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1の実施形態の検知装置構成図である。
【図2】第2の実施形態の検知装置構成図である。
【図3】第3の実施形態の検知装置構成図である。
【図4】第4の実施形態の検知装置構成図である。
【図5】局在プラズモン共鳴の検知素子を示す図である。
【図6】表面プラズモン共鳴の検知素子を示す図である。
【図7】酵素標識の検知素子を示す図である。
【図8】蛍光標識の検知素子を示す図である。
【図9】局在プラズモン共鳴によるスペクトル変化を示す図である。
【図10】本発明の装置構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
101 基板
102 発光素子
103 受光素子アレイ
104 検知素子
105 遮光板
106 コリメートレンズ
107 回折格子
108 反射鏡
109 光路の中心線
110 光束の範囲を示す線
111 長波長側の回折光の光路を示す線
112 短波長側の回折光の光路を示す線
113 波長制限フィルタ
114 検知部位
301 プリズム
302 金属薄膜
401 検知素子基板
402 金属微粒子
403 流路
404 蓋材
405 捕捉体
406 検出対象物質
501 検知素子基板
502 金属薄膜
503 プリズム
504 インデックスマッチングオイル
505 捕捉体
506 検出対象物質
507 入射光
508 反射光
601 検知素子基板
602 捕捉体
603 検出対象物質
604 酵素標識捕捉体
605 酵素
606 酵素基質
607 酵素生成物
701 検知素子基板
702 捕捉体
703 検出対象物質
704 蛍光標識捕捉体
705 蛍光色素
706 励起光
707 蛍光
1001 中央演算装置
1002 メモリー
1003 固定ディスク
1004 表示装置
1005 キーボード
1006 LED点灯回路
1007 LED
1008 ADコンバータ
1009 マルチプレクサ
1010 ホールド回路
1011 フォトダイオードアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的物質を固定し得る表面を有し、該表面への該標的物質の固定状態に応じて光の透過率または反射率の波長特性が変化する検知素子と、光源と、該光源からの光を前記検知素子に照射するための光照射手段と、該検知素子を透過または反射した光を受光するための受光手段と、を備え、前記標的物質に関する情報を取得する情報取得装置であって、
前記受光手段の複数と前記光源とを同一基板上に有し、前記光源から前記受光手段までの光路中に分光手段を設けることにより前記複数の受光手段それぞれの受光波長を異ならせることで、各受光手段が受光する波長ごとの前記検知素子での光の透過率及び反射率の少なくとも一方を求め、該光の透過率及び反射率の少なくとも一方の波長特性を得ることを特徴とする情報取得装置。
【請求項2】
前記検知素子は、前記分光手段と前記光源の間の光路上に配置されている請求項1記載の情報取得装置。
【請求項3】
前記検知素子は、前記分光手段と前記複数の受光手段の間の光路上に配置されている請求項1記載の情報取得装置。
【請求項4】
前記光源から前記検知素子を介して前記受光手段へ光を導くための反射手段をさらに有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報取得装置。
【請求項5】
前記反射手段は凹面鏡を用いて構成され、該凹面鏡は、前記分光手段により分光された光を前記受光手段上に合焦させる請求項4記載の情報取得装置。
【請求項6】
前記光の透過率または反射率の変化が、プラズモン共鳴によるものである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の情報取得装置。
【請求項7】
前記検出素子の表面は、前記標的物質を捕捉し得る金属微粒子を固定し得る表面であり、前記プラズモン共鳴が該金属微粒子が該表面に固定された状態での局在プラズモンである請求項6記載の情報取得装置。
【請求項8】
前記光源及び前記受光手段が、同一半導体基板上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の情報取得装置。
【請求項9】
検体中の標的物質に関する情報を検知素子を用いて取得する情報取得方法において、
前記標的物質が固定された前記検知素子を用意する工程と、
光源から前記標的物質が固定された検知素子に光照射し、照射された光の透過光又は反射光を前記光源と同一基板上に設けられた複数の受光手段のそれぞれでの受光波長を前記光源から前記受光手段までの光路中に設けた分光手段によって異ならせ、各受光手段が受光する波長ごとの前記検知素子での光の透過率又は反射率を求めることで該光の透過率または反射率の波長特性を得る工程と、
該波長特性に基づいて前記検知素子に結合した標的物質の結合量を求める工程と、
を有することを特徴とする標的物質に関する情報の取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−84361(P2006−84361A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270574(P2004−270574)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】